(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】回転工具、及び切削加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2021164671
(22)【出願日】2021-10-06
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-093374(JP,A)
【文献】特開2011-020248(JP,A)
【文献】特表2019-508270(JP,A)
【文献】特開2021-053794(JP,A)
【文献】特開2013-022657(JP,A)
【文献】特表2017-537807(JP,A)
【文献】米国特許第06234725(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第108044160(CN,A)
【文献】米国特許第5626444(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端から第2端に向かって回転軸に沿って延び、円柱形状の本体を備え、
前記本体は、
前記第1端に位置する端面と、
前記第1端から前記第2端に向かって前記回転軸周りに螺旋状に延び、正のねじり角を有した複数の順ねじれ溝と、
前記端面に接続され、前記第1端から前記第2端に向かって前記回転軸周りに螺旋状に延び、負のねじれ角を有した複数の逆ねじれ溝と、
前記複数の順ねじれ溝及び前記複数の逆ねじれ溝によって区画された複数の区画部と、
前記複数の区画部及び各区画部に対して前記回転軸の回転方向の前方に位置する前記順ねじれ溝の交わりに位置する第1切刃と、
前記複数の区画部及び各区画部に対して前記回転軸の回転方向の前方に位置する前記逆ねじれ溝の交わりに位置する第2切刃と、を有し、
前記複数の区画部は、
前記端面に繋がっている1又は複数の第1区画部と、
前記端面から離れている1又は複数の第2区画部と、を有し、
前記第1切刃は、前記第1区画部及び前記第2区画部に沿って延び、
前記第2切刃は、前記第2区画部に沿って延びるとともに、前記端面から離れている、回転工具。
【請求項2】
前記第2切刃は、前記第1区画部及び前記第2区画部に沿って延びている、請求項1に記
載の回転工具。
【請求項3】
前記第1区画部において、前記第1切刃は、前記端面に繋がっている、請求項1又は2に
記載の回転工具。
【請求項4】
前記第2切刃における前記回転軸からの径方向の距離は、前記第1切刃における前記回転
軸からの径方向の距離と同じであり、
前記複数の区画部及び各区画部に対して前記回転軸の回転方向の前方に位置する前記逆ね
じれ溝の交わりのうち、前記端面に繋がっているとともに前記第2切刃が存在しない部分
が非存在部であって、
前記非存在部における前記回転軸からの径方向の距離は、前記第1切刃における前記回転
軸からの径方向の距離よりも短い、請求項1から3のいずれか1項に記載の回転工具。
【請求項5】
前記非存在部における前記回転軸からの径方向の距離は、前記端面に向かって一定であ
る、請求項4に記載の回転工具。
【請求項6】
前記非存在部における前記回転軸からの径方向の距離は、前記端面に近づくに従って短く
なる、請求項4に記載の回転工具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の回転工具を回転させる工程と、
回転している前記回転工具を被削材に接触させる工程と、
前記回転工具を前記被削材から離す工程と、を備える、切削加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被削材の切削加工(転削加工)に用いられる回転工具、及び切削加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維を含む被削材の切削加工に適した回転工具として、例えば特許文献1に記載のエンドミルが知られている。特許文献1に記載のエンドミルは、先端から後端に向かって回転軸に沿って延びた円柱状の本体を備えている。本体は、先端から後端に向かって回転軸周りに螺旋状に延びかつ正のねじり角を有した複数の順ねじれ溝(特許文献1の主溝)と、先端から後端に向かって回転軸周りに螺旋状に延びかつ負のねじれ角を有した複数の逆ねじれ溝(特許文献1の副溝)とを有する。また、本体は、複数の順ねじれ溝と複数の逆ねじれ溝とによって区画された複数の区画部を有している。複数の区画部のうち、本体の先端側に位置する区画部は、順ねじれ溝に対して回転軸の回転方向の前方において隣り合う縁部に位置する第1切刃を有する。複数の区画部のうち、本体の後端側に位置する区画部は、逆ねじれ溝に対して回転軸の回転方向の前方において隣り合う縁部に位置する第2切刃を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転工具の良好な切削性能を発揮させるためには、複数の区画部が第1切刃と第2切刃をそれぞれ有することが必要である。一方、第2切刃が本体の先端面に繋がっていると、第2切刃が繊維を切断することなく、被削材の加工底面側に相対的に押し込むことによって、繊維の切れ残しが多くなる。また、回転工具の背分力が過大になって、ビビリ振動の増加を誘発し易くなる。そのため、繊維を含む被削材の切削加工を行う場合に、繊維の切り残しを少なくしつつ、被削材の加工面の表面粗さを向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る回転工具は、第1端から第2端に向かって回転軸に沿って延び、円柱形状の本体を備える。前記本体は、前記第1端に位置する端面と、前記第1端から前記第2端に向かって前記回転軸周りに螺旋状に延び、正のねじり角を有した複数の順ねじれ溝と、前記端面に接続され、前記第1端から前記第2端に向かって前記回転軸周りに螺旋状に延び、負のねじれ角を有した複数の逆ねじれ溝と、前記複数の順ねじれ溝及び前記複数の逆ねじれ溝によって区画された複数の区画部と、前記複数の区画部及び各区画部に対して前記回転軸の回転方向の前方に位置する前記順ねじれ溝の交わりに位置する第1切刃と、前記複数の区画部及び各区画部に対して前記回転軸の回転方向の前方に位置する前記逆ねじれ溝の交わりに位置する第2切刃と、を有する。前記複数の区画部は、前記端面に繋がっている1又は複数の第1区画部と、前記端面から離れている1又は複数の第2区画部と、を有する。前記第1切刃は、前記第1区画部及び前記第2区画部に沿って延び、前記第2切刃は、前記第2区画部に沿って延びるとともに、前記端面から離れている。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、繊維を含む被削材の切削加工を行う場合に、繊維の切り残しを少なくしつつ、被削材の加工面の表面粗さを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係るフライス工具の斜視図である。
【
図2】
図1に示すフライス工具の本体の先端側部分の拡大斜視図である。
【
図3】
図1に示すフライス工具を本体の先端から見た拡大図である。
【
図5】
図1に示すフライス工具の本体の先端側部分の拡大側面図である。
【
図6】
図5におけるI-I線に沿った模式的な拡大端面図であり、端面側の区画部を説明する図である。
【
図7】
図5におけるI-I線に沿った模式的な拡大端面図であり、端面側の区画部の他の態様を説明する図である。
【
図8】
図5に対応する図であり、端面側の区画部の他の態様を説明する図である。
【
図9】実施形態に係る切削加工物の製造方法を説明する模式図である。
【
図10】実施形態に係る切削加工物の製造方法を説明する模式図である。
【
図11】実施形態に係る切削加工物の製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態の回転工具の一例としてのフライス工具、及び切削加工物の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な構成要素のみを簡略化して示したものである。従って、回転工具の一例としてのフライス工具は、参照する各図に示されていない任意の構成要素を備え得る。また、各図中の構成要素の寸法は、実際の構成要素の寸法および各構成要素の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0009】
本開示において、回転軸とは、回転工具の回転軸(回転軸心)のことであり、周方向とは、回転軸周りの方向、換言すれば、本体の外周面の周方向のことをいう。径方向とは、回転軸及び周方向に対して直交する方向のことである。
図6及び
図7における「RD」は径方向を示している。
【0010】
図1から
図8を参照して、実施形態の回転工具の一例であるフライス工具10の構成について説明する。
図1は、実施形態に係るフライス工具の斜視図である。
図2は、
図1に示すフライス工具の本体の先端側部分の拡大斜視図である。
図3は、
図1に示すフライス工具を本体の先端から見た拡大図である。
図4は、
図1に示すフライス工具の側面図である。
図5は、
図1に示すフライス工具の本体の先端側部分の拡大側面図である。
図6及び
図7は、
図5におけるIII-III線に沿った模式的な拡大端面図であり、端面側の区画部を説明する図である。
図8は、
図5に対応する図であり、端面側の区画部の他の態様を説明する図である。
【0011】
図1から
図4に示すように、本実施形態の回転工具の一例であるフライス工具10は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)のような繊維(強化繊維)を含む被削材W(
図9参照)の切削加工(転削加工)に用いられる回転工具である。フライス工具10は、例えば超硬合金、サーメット、及びcBN等の硬質材料からなるソリッドタイプの回転工具である。フライス工具10は、円柱形状の本体12を備えており、本体12は、先端(第1端)から後端(第2端)に向かって回転軸Sに沿って延びている。本体12の先端面(第1端側の端面)12aは、回転軸Sに対して直交してもよい。本体12の後端面(第2端側の端面)12bは、回転軸Sに対して直交してもよく、回転軸Sに対して傾斜してもよい。本体12の外周面12pは、先端から後端に向かって回転軸Sに沿って延びている。
【0012】
本体12は、その先端側に、被削材Wに接触して切削加工を行う切削部14を有している。本体12は、その後端側に、工作機械の主軸にアーバを介して装着されるシャンク部16を有している。少なくとも切削部14が例えば超硬合金、サーメット、及びcBN等の硬質材料からなるものであれば、フライス工具10がソリッドタイプの回転工具でなくてもよい。
【0013】
図1から
図3に示すように、切削部14は、本体12の先端から後端に向かって回転軸S周りに螺旋状に延びた複数の順ねじれ溝18を有しており、複数の順ねじれ溝18は、周方向に間隔を置いて位置している。各順ねじれ溝18は、切削加工によって生じた切屑を排出するための排出溝としての機能を有してもよい。各順ねじれ溝18は、本体12の後端に近づくに従って回転方向Tの後方(回転方向Tの反対側)に向かうようにねじれている。換言すれば、各順ねじれ溝18は、正のねじれ角θ1(
図5参照)を有している。各順ねじれ溝18のねじれ角θ1は、本体12を側面視した場合における、回転軸Sに平行な方向に対する各順ねじれ溝18の傾斜角である。
【0014】
切削部14は、本体12の先端から後端に向かって回転軸S周りに螺旋状に延びた複数の逆ねじれ溝20を有しており、複数の逆ねじれ溝20は、周方向に間隔を置いて位置している。各逆ねじれ溝20は、切削加工によって生じた切屑を排出するための排出溝としての機能を有してもよい。各逆ねじれ溝20は、本体12の後端に近づく従って回転方向Tの前方(回転方向T側)に向かうようにねじれている。換言すれば、各逆ねじれ溝20は、負のねじれ角θ2(
図5参照)を有している。各逆ねじれ溝20のねじれ角θ2は、本体12を側面視した場合における、回転軸Sに平行な方向に対する各逆ねじれ溝20の傾斜角である。
【0015】
図1、
図2、
図4、及び
図5に示すように、切削部14は、複数の順ねじれ溝18と複数の逆ねじれ溝20によって区画された複数の区画部(ランド部)22を有している。具体的には、切削部14の外周面12pは、複数の順ねじれ溝18と複数の逆ねじれ溝20によって、複数の領域に分けられており、これら複数の領域が区画部22である。複数の区画部22は、1又は複数の第1区画部22A及び1又は複数の第2区画部22Bを有する。各々の第1区画部22Aは、本体12の先端面12aに繋がっている。各々の第2区画部22Bは、先端面12aから離れている。
【0016】
図2及び
図5に示すように、切削部14は、第1切刃24及び第2切刃26を有する。第1切刃24は、複数の区画部22及び各区画部22に対して回転軸Sの回転方向Tの前方に位置する順ねじれ溝18の交わりに位置する。具体的には、複数の順ねじれ溝18の一つを仮に第1順ねじれ溝とする。この第1順ねじれ溝に対して回転軸Sの回転方向Tの後方に位置する区画部22を特定する。この特定された区画部22と第1順ねじれ溝との交わりに、第1切刃24が位置する。第1切刃24における回転軸Sからの径方向の距離は、一定であってもよい。
【0017】
また、第2切刃26は、複数の区画部22及び各区画部22に対して回転軸Sの回転方向Tの前方に位置する逆ねじれ溝20の交わりに位置する。具体的には、複数の逆ねじれ溝20の一つを仮に第1逆ねじれ溝とする。この第1逆ねじれ溝に対して回転軸Sの回転方向Tの後方に位置する区画部22を特定する。この特定された区画部22と第1逆ねじれ溝との交わりに、第2切刃26が位置する。第2切刃26は、第1切刃24に繋がってもよい。第2切刃26における第2区画部22Bに沿った部分での回転軸Sからの径方向の距離は、一定であってもよい。第2切刃26における第2区画部22Bに沿った部分での回転軸Sからの径方向の距離は、第1切刃24における第1区画部22Aに沿った部分での回転軸Sからの径方向の距離と同じであってもよい。
【0018】
第2区画部22Bは、第1切刃24に対して回転軸Sの回転方向Tの後方において隣り合う第1逃げ面28を有している。また、第2区画部22Bは、第2切刃26に対して回転軸Sの回転方向Tの後方において隣り合う第2逃げ面30を有している。第2区画部22Bの第2逃げ面30は、第2区画部22Bの第1逃げ面28に繋がってもよい。
【0019】
第2区画部22Bは、第1逃げ面28又は第2逃げ面30よりも回転軸Sの回転方向Tの後方に位置する後方領域22Baを有している。第2区画部22Bの後方領域22Baにおける回転軸Sからの径方向の距離は、一定でなくてもよい。第2区画部22Bの後方領域22Baにおける回転軸Sからの径方向の距離は、第2区画部22Bの第1逃げ面28又は第2逃げ面30における回転軸Sからの径方向の距離よりも短くてもよい。
【0020】
図5に示すように、第1切刃24は、第1区画部22A及び第2区画部22Bのそれぞれに沿って位置する。第1切刃24における第1区画部22Aに沿った部分での回転軸Sからの径方向の距離は、第1切刃24における第2区画部22Bに沿った部分での回転軸Sからの径方向の距離と同じであってもよい。
【0021】
図5に示すように、第2切刃26は、第2区画部22Bに沿って延びるとともに、先端面12aから離れている。このとき、第2切刃26は、第2区画部22Bに加えて第1区画部22Aの一部に沿って延びてもよく、また、第2区画部22Bのみに沿って延びてもよい。第2切刃26が先端面12aから離れていることから、第1区画部22A及びこの第1区画部22Aに対して回転軸Sの回転方向Tの前方に位置する逆ねじれ溝20の交わりには、第2切刃26が存在しない非存在部32が形成される。非存在部32は、本体12の先端面12aに繋がっている。回転軸Sから非存在部32までの径方向の距離は、第1切刃24における第1区画部22Aに沿った部分での回転軸Sからの径方向の距離よりも短くてもよい。これらの距離の差は、0.05~0.5mm程度であってもよい。この場合には、切削加工時の一般的な送り量よりも小さいため、非存在部32が被削材に接触することが避けられ易い。非存在部32は、研削加工によって形成されてもよい。
【0022】
図5及び
図6に示すように、非存在部32における回転軸Sからの径方向の距離は、先端面12aに向かって一定であってもよい。また、
図5及び
図7に示すように、非存在部32における回転軸Sからの径方向の距離は、先端面12aに近づくに従って短くなってもよい。
【0023】
図5に示すように、第1区画部22Aは、第1切刃24に対して回転軸Sの回転方向Tの後方において隣り合う第1逃げ面28を有している。第1区画部22Aは、第1逃げ面28又は非存在部32よりも回転軸Sの回転方向Tの後方に位置する後方領域22Aaを有している。第1区画部22Aの後方領域22Aaにおける回転軸Sからの径方向の距離は、一定でなくてもよい。第1区画部22Aの後方領域22Aaにおける回転軸Sからの径方向の距離は、第1区画部22Aの第1逃げ面28における回転軸Sからの径方向の距離よりも短くてもよい。
【0024】
上記した通り、第2切刃26は、第1区画部22Aの一部に沿って延びてもよい。すなわち、
図8に示すように、第2切刃26は、第1区画部22A及び第2区画部22Bに沿って延びてもよい。第2切刃26は、非存在部32よりも本体12の後端側に位置している。第2切刃26における第1区画部22Aに位置する部分での回転軸Sからの径方向の距離は、一定であってもよい。第2切刃26における第1区画部22Aに位置する部分での回転軸Sからの径方向の距離は、第1切刃24における第1区画部22Aに位置する部分での回転軸Sからの径方向の距離と同じであってもよい。第2切刃26における第1区画部22Aに位置する部分での回転軸Sからの径方向の距離は、第2切刃26における第2区画部22Bに位置する部分での回転軸Sからの径方向の距離と同じであってもよい。第1区画部22Aは、第2切刃26に対して回転軸Sの回転方向Tの後方において隣り合う第2逃げ面30を有してもよい。
【0025】
第1区画部22Aにおける逆ねじれ溝20に対して回転軸Sの回転方向Tの前方において隣り合う縁部が本体12の先端面12aにまで達していない場合は、前記縁部全体に第2切刃26を形成してもよい。第1区画部22Aにおける逆ねじれ溝20に対して回転軸Sの回転方向Tの前方において隣り合う縁部が本体の先端面12aにまで達している場合は、前記縁部における先端面12a側に非存在部32を形成してもよい。
【0026】
図2に示すように、第1切刃24は、第1区画部22Aに沿って位置する部分を有している。第1区画部22Aの第1切刃24は、本体12の先端面12aに繋がってもよい。
【0027】
第1区画部22Aは、第1切刃24に対して回転軸Sの回転方向Tの後方において隣り合う第1逃げ面28を有してもよい。また、第1区画部22Aは、第1逃げ面28よりも回転軸Sの回転方向Tの後方に位置する後方領域22Aaを有してもよい。第1区画部22Aの後方領域22Aaにおける回転軸Sからの径方向の距離は、一定でなくてもよい。第1区画部22Aの後方領域22Aaにおける回転軸Sからの径方向の距離は、第1区画部22Aの第1逃げ面30における回転軸Sからの径方向の距離よりも短くてもよい。
【0028】
図2、
図5、及び
図8に示すように、複数の区画部22に沿って位置する第1切刃24は、複数の順ねじれ溝18における回転軸Sの回転方向Tに向かう側の壁面の外周端に位置する複数の順ねじれ刃としてみなすことができる。各順ねじれ刃は、各順ねじれ溝18に沿って回転軸S周りに螺旋状に延びており、各順ねじれ溝18に沿って分断された複数の領域(第1切刃24に相当する領域)を有している。各順ねじれ刃は、本体12の後端に近づく従って回転方向Tの後方に向かうようにねじれている。
【0029】
複数の区画部22に沿って位置する第2切刃26は、複数の逆ねじれ溝20における回転軸Sの回転方向Tに向かう側の壁面の外周端に位置する複数の逆ねじれ刃としてみなすことができる。各逆ねじれ刃は、各逆ねじれ溝20に沿って回転軸S周りに螺旋状に延びており、各逆ねじれ溝20に沿って分断された複数の領域(第2切刃26に相当する領域)を有している。各逆ねじれ刃は、本体12の後端に近づく従って回転方向Tの前方に向かうようにねじれている。
【0030】
切削部14は、本体12の先端側に位置する複数の底刃を有してもよく、複数の底刃は、周方向に間隔を置いて位置してもよい。
【0031】
本実施形態に係るフライス工具10の構成によれば、切削部14は、複数の順ねじれ溝18、複数の逆ねじれ溝20、複数の区画部22の第1切刃24、及び複数の区画部22の第2切刃26を有している。そのため、例えばCFRPのような繊維を含む被削材Wの切削加工を行う場合でも、フライス工具10の良好な切削性能が発揮される。
【0032】
前述のように、第2切刃26は、第2区画部22Bに沿って延びるとともに、先端面12aから離れている。言い換えれば、第1区画部22Aが第2切刃26の存在しない非存在部32を有しており、非存在部32が本体12の先端面12aに繋がっている。そのため、繊維を含む被削材Wの切削加工を行う場合に、繊維が被削材Wの加工底面Wf側に相対的に押し込まれ難くなり、被削材Wの加工底面Wf付近の繊維の切れ残しを少なくすることができる。また、繊維を含む被削材Wの切削加工を行う場合に、フライス工具10の背分力が過大になることを回避することができ、ビビリ振動を低減して加工面(加工底面Wfと加工側面Ws)の表面粗さを向上させることができる。
【0033】
つまり、本実施形態に係るフライス工具10によれば、繊維を含む被削材Wの切削加工を行う場合に、フライス工具10の良好な切削性能が発揮されて、被削材Wの加工底面Wfから加工側面Wsにかけて繊維の切り残しを少なくしつつ、加工面Wf,Wsの表面粗さを向上させることができる。
【0034】
第1区画部22Aに沿って第1切刃24が位置し、第1切刃24が本体12の先端面12aに繋がっている場合には、被削材Wの加工底面Wf付近での繊維の切れ残しをより少なくすることができる。
【0035】
非存在部32における回転軸Sからの径方向の距離が第1切刃24における回転軸Sからの径方向の距離よりも短い場合には、繊維の切れ残しが被削材Wの加工底面Wf側により相対的により押し込まれ難くなり、被削材Wの加工底面Wf付近の繊維の切れ残しをより少なくできる。
【0036】
非存在部32における回転軸Sからの径方向の距離が本体12の先端面12aに向かって一定である場合には、研磨加工によって第1区画部22Aに非存在部32を容易に形成することがでる。
【0037】
非存在部32における回転軸Sからの径方向の距離が本体12の先端面12aに近づくに従って短くなる場合には、第1区画部22Aにおける第1切刃24と非存在部32との境界にクラックが発生し難くなる。
【0038】
図9から
図11を参照して、実施形態に係る切削加工物の製造方法について
図9から
図11を参照して説明する。
図9から
図11は、実施形態に係る切削加工物の製造方法を説明する模式図である。
【0039】
図9から
図11に示すように、本実施形態に係る切削加工物の製造方法は、繊維を含む被削材Wの切削加工によって切削加工物を製造Mするための方法であって、第1工程と、第2工程と、第3工程とを備えている。第1工程とは、回転工具としてのフライス工具10を回転させる工程のことである。第2工程とは、回転しているフライス工具10を被削材Wに接触させる工程のことである。第3工程とは、フライス工具10を被削材Wから離す工程のことである。そして、本実施形態に係る切削加工物の製造方法の具体的な内容は、次の通りである。
【0040】
図9に示すように、フライス工具10を回転軸Sの回転方向Tに回転させつつ、矢印FD方向へ移動させて、被削材Wに近づける。次に、
図10に示すように、回転しているフライス工具10を被削材Wに接触させながら、矢印FD方向へ移動させる。これにより、被削材Wの切削加工(転削加工)が行われ、複数の第1切刃24及び複数の第2切刃26によって被削材Wに加工底面Wf及び加工側面Wsが形成される。
【0041】
その後、
図11に示すように、フライス工具10を矢印FD方向へ移動させて、被削材Wから離す。これにより、被削材Wの切削加工が終了し、切削加工済みの被削材Wである切削加工物Mを製造することができる。フライス工具10が前述した理由から優れた切削能力を備えているので、加工精度に優れた切削加工物Mを製造することができる。
【0042】
切削加工を継続する場合には、フライス工具10を回転させた状態で、被削材Wの異なる箇所へのフライス工具10の接触を繰り返せばよい。本実施形態では、フライス工具10を被削材Wに近づけているが、フライス工具10と被削材Wとが相対的に近づけばよいため、例えば被削材Wをフライス工具10に近づけてもよい。この点、フライス工具10を被削材Wから離す場合も同じように行う。
【0043】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は前述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0044】
10 フライス工具(回転工具)
12 本体
12a 先端面(第1端側の端面)
12b 後端面(第2端側の端面)
12p 外周面
14 切削部
16 シャンク部
18 順ねじれ溝
20 逆ねじれ溝
22 区画部
22A 第1区画部
22Aa 後方領域
22B 第2区画部
22Ba 後方領域
24 第1切刃
26 第2切刃
28 第1逃げ面
30 第2逃げ面
32 非存在部
S 回転軸
T 回転方向
W 被削材
Wf 加工底面
Ws 加工側面