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特許7550140球状酸化マグネシウム、その製造方法、熱伝導性フィラー及び樹脂組成物
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  • 特許-球状酸化マグネシウム、その製造方法、熱伝導性フィラー及び樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】球状酸化マグネシウム、その製造方法、熱伝導性フィラー及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/08 20060101AFI20240905BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240905BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20240905BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C01F5/08
C08K3/22
C08K7/18
C08L101/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021511961
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013879
(87)【国際公開番号】W WO2020203710
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019066925
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大崎 善久
(72)【発明者】
【氏名】近澤 智文
(72)【発明者】
【氏名】塘 啓祐
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131378(JP,A)
【文献】特開2016-088838(JP,A)
【文献】特開2011-020870(JP,A)
【文献】特開2007-091525(JP,A)
【文献】特開2011-073951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 5/02 - 5/12
C08K 3/22
C08K 7/18
C08L 101/00
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素300~2000ppm及び鉄100~1500ppmを含有し、リチウムの含有量がppm未満であって、レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が3~200μmの範囲で、SEM写真から読み取れる真球度が1.00~1.20であることを特徴とする球状酸化マグネシウム。
【請求項2】
累積50%粒子径(D50)が15~150μmである、請求項1記載の球状酸化マグネシウム。
【請求項3】
BET比表面積が0.01~1.00m/gである、請求項1または2記載の球状酸化マグネシウム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の球状酸化マグネシウムを含有する熱伝導性フィラー。
【請求項5】
請求項4記載の熱伝導性フィラーを含有する樹脂組成物。
【請求項6】
1)塩化マグネシウム水溶液とアルカリ水溶液とを反応させて水酸化マグネシウムスラリーを準備する工程と、
2)前記水酸化マグネシウムスラリーを乾燥後焼成し、酸化マグネシウム粒子を準備する工程と、
3)前記酸化マグネシウム粒子を分散液とし、湿式粉砕する工程と、
4)前記湿式粉砕した酸化マグネシウムを噴霧乾燥する工程と、
5)前記工程により造粒した酸化マグネシウムを焼成する工程と、
を含み、
前記1)~4)の少なくとも1つ以上の工程において、焼成後のホウ素含有量が300~2000ppmになるようにホウ素の量を調整し、及び
前記1)~4)の少なくとも1つ以上の工程において、焼成後の鉄含有量が100~1500ppmになるように鉄の量を調整し、及び
リチウム含有量がppm未満となるようにリチウムの量を制御することを特徴とする、球状酸化マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真球度が高く、耐湿性及び樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性に優れる球状酸化マグネシウム及びその製造方法並びに前記球状酸化マグネシウムを含有する熱伝導性フィラー及びそれを含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年各種の電子機器の高集積化、高電力化及び高速化等により、絶縁性の放熱性フィラーに要求される性能は一層向上している。従来、熱伝導性フィラーには、シリカ、アルミナ、窒化アルミなどが広く使用されている。しかし、シリカは安価であるが熱伝導性が低く、近年の発熱量の増大に対応する放熱が充分ではなく、半導体用に用いた場合その安定動作等に問題があった。他方、アルミナは、シリカより熱伝導性が高いことから放熱性は改善されるが、硬度が高く製造設備を磨耗させる欠点があった。また、窒化アルミ等の窒化物系フィラーは、熱伝導性に優れるが、高価であり、適用できる用途が限られていた。そこで、熱伝導率がシリカに比べて1桁高く、アルミナに比べて約2倍であり、また硬度がアルミナに比べて低くて各製造設備の磨耗を抑制でき、さらに絶縁性の高い熱伝導性フィラーとして酸化マグネシウムが検討されている。しかしながら、酸化マグネシウムはシリカ、アルミナより吸湿性が高く、大気中の水分と水和することでフィラーの体積膨張によるクラックが発生したり、熱伝導性が低下したりする等の問題が発生することから、長期間の使用でも耐湿性に優れる酸化マグネシウムが望まれている。また、酸化マグネシウムを熱伝導性フィラーとして使用する場合、より放熱性能を得るために、樹脂組成物への高い充填性も求められている。
【0003】
酸化マグネシウムを熱伝導性フィラーとして使用する場合、高い放熱性を得るために高い充填性が必要であり、これに対し、ホウ素化合物等を添加し、凝集状態や粒度分布をコントロールした酸化マグネシウムが提案されている(特許文献1)。しかし、当該文献の酸化マグネシウムは真球度が高くなく、充填性や粒子表面の平滑性、及び耐湿性が不十分であった。そのため、真球度を改善させるために、ホウ素化合物の代わりにリチウム化合物をリチウム含有量が15~500ppmとなるように添加した球状酸化マグネシウムが提案されるに至っている(特許文献2)。さらに、粒子表面の平滑性を向上し、また耐湿性を得るために、リチウムではなく、ホウ素と鉄を含む球状酸化マグネシウムが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-020870公報
【文献】特開2016-088838公報
【文献】特開2018-131378公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した方法により得られた球状酸化マグネシウムは、耐湿性、充填性は改善されたものの、樹脂に充填したとき、その樹脂組成物の混練時の流動性が十分ではなく、樹脂の成型性に問題があった。そこで、本発明は、ホウ素化合物を添加した球状酸化マグネシウムにおいて、真球度が高く、耐湿性及び樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性が優れる球状酸化マグネシウム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、球状酸化マグネシウム中の微量成分について着目し、種々検討を重ねた結果、リチウム元素が一定量以上含まれている場合、樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性が劣ることを見出した。そして、本発明者らは、ホウ素を含有する球状酸化マグネシウムにおいて、リチウム元素の含有量を極めて低く制御することで、真球度が高く、耐湿性に優れ、かつ樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性が優れる球状酸化マグネシウムとなることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、ホウ素300~2000ppmを含有し、かつリチウム含有量を15ppm未満とし、レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が3~200μmの範囲で、SEM写真から読み取れる真球度が1.00~1.20である、球状酸化マグネシウムにある。
【0008】
また、本発明は、上記球状酸化マグネシウム含有する熱伝導性フィラーにある。
【0009】
また、本発明は、上記球状酸化マグネシウム含有する樹脂組成物にある。
【0010】
また、本発明は、
1)塩化マグネシウム水溶液とアルカリ水溶液とを反応させて水酸化マグネシウムスラリーを準備する工程と、
2)前記水酸化マグネシウムスラリーを乾燥後焼成し、酸化マグネシウム粒子を準備する工程と、
3)前記酸化マグネシウム粒子を分散液とし、湿式粉砕する工程と、
4)前記湿式粉砕した酸化マグネシウムを噴霧乾燥する工程と、
5)前記工程により造粒した酸化マグネシウムを焼成する工程と、
を含み、
前記1)~4)の少なくとも1つ以上の工程において、焼成後のホウ素含有量が300~2000ppmになるようにホウ素の量を調整し、及び
リチウム含有量が15ppm未満となるようにリチウムの混入量を制御することを特徴とする、球状酸化マグネシウムの製造方法にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、真球度が高く、耐湿性に優れ、かつ樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性が優れる球状酸化マグネシウム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2の球状酸化マグネシウムのSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の球状酸化マグネシウムは、ホウ素300~2000ppmを含有し、かつリチウム含有量が15ppm未満であって、レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が3~200μmの範囲で、SEM写真から読み取れる真球度が1.00~1.20である。なお、明細書中ppmとは、特に断りのない限り、質量ppmを意味する。
【0014】
本発明では、ホウ素300~2000ppmを含有し、かつリチウムを15ppm未満に制御することにより、レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が3~200μmの範囲で、SEM写真から読み取れる真球度が1.00~1.20と真球度が高く、耐湿性及び樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性に優れる球状酸化マグネシウムが得られる。
【0015】
本発明では、レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が3~200μmという放熱性能を高めることができる比較的大きな粒子径の範囲で、SEM写真から読み取れる真球度が1.00~1.20と、真球度が高い球状酸化マグネシウムが得られる。レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)は、好ましくは15~150μm、より好ましくは25~130μmとすることができる。また、ここで、真球度はSEM写真から読み取れる真球度をいい、1.00~1.20、好ましくは1.00~1.15、より好ましくは1.00~1.10とするのがよい。とくに、本発明における酸化マグネシウムのリチウム含有量は15ppm未満であるため、後述する理由によって、真球度を1.00~1.10と高くすることが可能である。なお、本発明においては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した電子顕微鏡写真の100個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを計測し、長径/短径の比を求め、その平均値を真球度としている。
【0016】
本発明において、その酸化マグネシウムの真球度が高く、耐湿性及び樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性に優れる理由は、ホウ素を添加するとことと、さらに不純物リチウムの含有量を極めて低く制御するためである。ホウ素含有量は300~2000ppm、好ましくは400~1500ppm、より好ましくは500~1000ppmとするのがよい。ホウ素を添加することによって、SEM写真から読み取れる真球度を1.00~1.20、好ましくは1.00~1.15、より好ましくは1.00~1.10、とすることができ、耐湿性試験による168時間後の重量増加率を1重量%未満とすることができる。そして、リチウム含有量は15ppm未満、好ましくは10ppm未満、より好ましくは1ppm未満とするのがよい。このとき酸化マグネシウムのリチウム含有量が十分低く制御されていることで、樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性が向上する。ここで、酸化マグネシウムのリチウム含有量は、より低く制御されるほど、酸化マグネシウムの真球度をより向上させる傾向にある。
【0017】
本発明において、粒子の平滑性及び吸湿性に影響を与えるBET比表面積は、0.01~1.00m/g、好ましくは0.02~0.80m/g、より好ましくは0.02~0.50m/gとすることができる。
【0018】
本発明において、鉄の含有量は、特に制限されないが、真球度及び耐湿性の観点から、例えば、100~1500ppmが好ましく、200~1300ppmがより好ましく、300~1000ppmが特に好ましい。
【0019】
本発明の球状酸化マグネシウムの製造方法に特に制限はないが、例えば、以下のようにして製造することができる。
1)塩化マグネシウム水溶液とアルカリ水溶液とを反応させて水酸化マグネシウムスラリーを得、
次いで、
2)スラリーを濾過、水洗、乾燥させた後焼成し、酸化マグネシウム粒子を得、
3)前記酸化マグネシウム粒子を分散液とし、好ましくは有機溶媒を添加し、分散液とし、湿式粉砕を行った後、
4)噴霧乾燥を行い、
5)上記によって得られた酸化マグネシウムを焼成することで、目的の球状酸化マグネシウムを得る。このとき、最終焼成までに、最終焼成後の球状酸化マグネシウムのホウ素含有量が300~2000ppmになるようホウ素源を混合及び/又は添加等で調整する。また、最終焼成後の球状酸化マグネシウムのリチウム含有量が15ppm未満となるように、必要に応じてリチウム含有量を低減させる等してリチウムの混入量を制御する。
【0020】
ホウ素含有量の調整は、具体的には、例えば、a)塩化マグネシウム溶液中にホウ素源を添加する、b)生成した水酸化マグネシウムスラリーにホウ素源を添加する、c)酸化マグネシウム粒子にホウ素源を混合する、d)酸化マグネシウム粒子の湿式粉砕中にホウ素源を添加する等して最終的に得られる球状酸化マグネシウム中のホウ素含有量を調整する。
【0021】
ホウ素源としてはホウ素を含む化合物であれば特に限定されないが、例えば、ホウ酸、酸化ホウ素、水酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ酸アンモニウム等が使用できる。ただし、リチウムを構造中に含むホウ素系化合物または不純物としてリチウムを多量に含むホウ素源は、本発明に適さない。
【0022】
最終焼成後の球状酸化マグネシウムのホウ素含有量が300~2000ppmになるようホウ素源を調整する理由は、ホウ素含有量が300ppm未満の場合は、表面が平滑化せず、耐湿性が悪くなる。また、ホウ素含有量が2000ppmを超える場合は、球状の一部に凹みが形成されたり、ドーナツ状の酸化マグネシウムが形成されたりして、真球度が高い球状酸化マグネシウムが得られないからである。
【0023】
そして、最終焼成後の球状酸化マグネシウムのリチウム含有量を15ppm未満と極めて低く制御することで、樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性を向上させることができる。ここで、リチウム含有量は、より少ない方が好ましい。他方で、15ppm以上もしくは15ppmを超える場合、本発明の効果は得られなくなる。
【0024】
リチウム含有量を低減させる方法は、特に限定されないが、例えば、前駆体水酸化マグネシウムケーキの再スラリー化とろ過後水洗を繰り返すリパルプ洗浄、水酸化マグネシウムの水熱法による不純物吸着沈殿物の除去、アルカリ源との反応時における一次沈殿物の除去、塩化マグネシウム水溶液の吸着剤による前処理の実施、焼成時の昇温プロファイル調整によるリチウム除去の促進など、既知のプロセスを用いることができ、またはそれらを組み合わせて用いることができる。
【0025】
上記塩化マグネシウム水溶液は、例えば、塩化マグネシウム六水和物、塩化マグネシウム二水和物、塩化マグネシウム無水和物、苦汁(にがり)、かん水、及び海水等並びにこれらの組合せから選択して用いることができる。
【0026】
上記アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液及びアンモニア水等並びにこれらの組合せから選択して用いることができる。
【0027】
塩化マグネシウム水溶液とアルカリ水溶液とを反応させて得た水酸化マグネシウムスラリーは、例えば当該技術分野における一般的な方法によって、濾過、水洗、乾燥させた後焼成し、酸化マグネシウム粒子とする。そして、得られる酸化マグネシウム粒子は、溶媒に分散させて分散液(例えばスラリー)とし、これを湿式粉砕し噴霧乾燥することで、造粒する。このときの溶媒は特に限定されないが、例えば、水系、水-有機溶媒混合系、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル等のエーテル類、テトラヒドロフラン、トルエンなどの芳香族化合物溶媒など、公知に用いられている溶媒等を使用できる。
【0028】
噴霧乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、上記湿式粉砕後の酸化マグネシウム分散液(例えばスラリー)を回転ディスクやノズルから噴霧し、酸化マグネシウム粒子を得るスプレードライ法等を用いることが好ましい。操作条件は、スラリー粘度やスラリー中の粉体の粒度、目的とする粒子径等に応じて適宜調整する。また、スラリーには分散剤を適宜加えても良い。その操作条件は特に限定するものではないが、例えば、回転ディスクやノズルより、粘度を10~3000cpsに調整したスラリーを、流量を適宜調節して80℃~250℃の気流中に噴霧し、1~200μm程度の粒子を製造することができる。また、湿式粉砕及び噴霧時の分散液の濃度は、例えば、酸化マグネシウムが50~70wt%になるように調整するのが好ましい。ここで、噴霧条件を適切に設定することで、得られる球状酸化マグネシウムの累積50%粒子径(D50)及びBET比表面積を調整することができる。また、噴霧条件を適切に設定することで、得られる球状酸化マグネシウムの真球度を調整することができる。
【0029】
造粒した酸化マグネシウムの焼成条件は酸化マグネシウム粒子が焼結する範囲であれば特に限定されないが、温度を1000℃~1800℃とするのが好ましく、1100℃~1700℃とするのがより好ましく、1200℃~1600℃とするのが特に好ましい。焼成時間は焼成温度によるが、0.5~10時間であることが好ましい。焼成温度は1000℃に満たないと、十分に焼結せず、1800℃を超えると、粒子同士が焼結し粗大な凝集体を形成するから上記の範囲に調整する。ここで、焼成条件を適切に調整することで、得られる球状酸化マグネシウムのBET比表面積を調整することができる。
【0030】
本発明の球状酸化マグネシウムは、表面処理を行わずとも十分な耐湿性を有するのを特徴とするが、さらに耐湿性を改善する目的で公知の方法を用いて表面処理を施すこともできる。本発明の球状酸化マグネシウムに表面処理を施すにあたり、使用する表面処理剤は特に限定されないが、例えば、コロイダルシリカ、シラン系カップリング剤、チタニアゾル、チタネート系カップリング剤、リン化合物、アルミナゾル、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等を用いることができる。
【0031】
シラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリアルコキシシラン、グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。
【0032】
チタネート系カップリング剤としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、テトラステアリルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート等が挙げられる。
【0033】
リン化合物としては、例えば、酸化マグネシウムと反応してリン酸マグネシウム系化合物を形成し得る化合物であれば特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸塩、酸性リン酸エステルが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。酸性リン酸エステルとしては、イソプロピルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0034】
アルミネート系カップリング剤としては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロピレート等が挙げられる。
【0035】
ジルコニウム系カップリング剤としては、例えば、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート等が挙げられる。
【0036】
本発明の球状酸化マグネシウムは、真球度が高く、耐湿性及び樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性が優れ、樹脂への充填性も優れるため、好適に充填材として樹脂に配合することができ、熱伝導性フィラーとして優れる。本発明で使用可能な樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、又はシリコーン樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、エチレン-アクリル酸エチル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、又は液晶ポリマーが挙げられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物における球状酸化マグネシウムの配合量は、樹脂組成物に求められる特性に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。しかし、一例として樹脂100質量部に対し、球状酸化マグネシウム0.1~100質量部の範囲で使用すればよい。
【0038】
本発明の球状酸化マグネシウムを含む樹脂組成物は、その樹脂の特性に応じて種々の分野で利用することができる。しかし、本発明の球状酸化マグネシウムは熱伝導性に優れているので、特に放熱性が要求される用途で好適に使用することができる。また、本発明の樹脂組成物は、熱伝導性及び耐湿性に優れた半導体封止材料として利用することもできる。
【実施例
【0039】
下記の実施例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
【0040】
<測定方法・評価方法>
(1)元素含有量の測定方法
元素含有量の測定は、ICP発光分光分析により行った。測定試料を、12Nの塩酸(試薬特級)に加え加熱して完全に溶解させた後、ICP測定装置(PS3520 VDD、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて各元素の含有量を測定した。なお、下記表1では、リチウムの含有量が検出限界を下回る場合、痕跡量として<1ppmと表記した。
【0041】
(2)BET比表面積の測定方法
比表面積測定装置(Macsorb、Mountech Co.Ltd.製)を使用して、窒素ガスを用いたガス吸着法(BET法)によりBET比表面積を測定した。
【0042】
(3)体積基準の累積50%粒子径(D50)
測定試料0.1×10-3kgを精密に秤量し、40mLのメタノールで溶解し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(MT3300 日機装株式会社製)を用いて測定した。
【0043】
(4)SEM写真から読み取れる真球度及び表面の平滑性
走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM6510LA 日本電子株式会社製)を用いた。撮影した電子顕微鏡写真の100個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを計測し、長径/短径の比を求め、その平均値を真球度とした。また、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した電子顕微鏡写真の球状酸化マグネシウムの表面状態について、球状酸化マグネシウム表面に微細粒子がほとんど存在せず表面が平滑になっているものを○、球状酸化マグネシウム表面に微細粒子が複数存在するが、表面が平滑になっているもの又は表面に微細粒子がほとんど存在しないが表面が凸凹しており平滑でないものを△、球状酸化マグネシウム表面に微細粒子が複数存在し、表面が凸凹しており平滑でないものを×、として評価を行った。
【0044】
(5)恒温恒湿試験による耐湿性評価
球状酸化マグネシウムの耐湿性は、恒温恒湿試験による重量増加率によって評価した。恒温恒湿機はアドバンテック東洋株式会社製THN040FAを使用した。球状酸化マグネシウム10gを、恒温恒湿機を用いて85℃85%RHの環境下に168時間曝露した後の重量増加率を求めた。
【0045】
(6)メルトフローレート測定による樹脂流動性評価
まず、測定用試料となる樹脂組成物を以下の手順で調製した。EEA(エチレン・エチルアクリレート・コポリマー)(レクスパールTMEEA A1150、日本ポリエチレン株式会社製)100gを溶融後、ロール混練機を用いて、球状酸化マグネシウム 333gを少量ずつ、混練状態を見ながら約10分かけて添加し、さらに10分間仕上げ混練を行った。この時のロール間隔は0.5mmであった。混練終了後、コンパウンドを引き剥がし、回収したコンパウンドを5mm角程度に裁断、真空乾燥機で90℃×1時間乾燥し、メルトフローレート測定用試料とした。そして、この測定用試料(樹脂組成物)について、JIS-K7210に準拠し、測定温度230℃、荷重2.16Kgで測定した。
【0046】
(7)混練トルク測定による樹脂混練性評価
EEA(エチレン・エチルアクリレート・コポリマー)(レクスパールTMEEA A1150、日本ポリエチレン株式会社製)に、球状酸化マグネシウムを全体の45wt%となるように配合した混合物を、ラボプラストミル(東洋精機製作所製)を用いて、回転数50rpm、160℃で溶融混練した。混練開始から360秒後の時点において混練機の撹拌羽根を回転させるのに必要であった混練トルクを測定することで、樹脂混練性を評価した。混練トルクが低いほど樹脂混練性が良く、球状酸化マグネシウムを配合した樹脂の流動性すなわち成型性、加工性が良いと評価できる。
【0047】
<実施例1>
無水塩化マグネシウム(MgCl)をイオン交換水に溶解して、約3.5mol/Lの塩化マグネシウム水溶液を調製した。MgClの反応率が90モル%になるよう、MgCl溶液と25%NaOH溶液をそれぞれ定量ポンプでリアクターに送液して、連続反応を実施した。その後濾過、水洗、乾燥し、水酸化マグネシウムを得た。得られた水酸化マグネシウムに純水を加えてスラリー化し、1時間攪拌した後、乾燥水酸化マグネシウム重量に対して40倍量の純粋で水洗、ろ過、乾燥し、再度水酸化マグネシウムを得た。この洗浄操作を5度繰り返した。その後、再度純水を加えてスラリー化し、これに最終的に得られる球状酸化マグネシウム中のホウ素含有量が400ppmとなるようホウ酸(関東化学製、試薬特級)を添加し、鉄含有量が300ppmとなるよう酸化鉄(II)(林純薬工業株式会社製、化学用)を添加した。その後濾過、乾燥し、ホウ酸、鉄含有量を調整した水酸化マグネシウムを得た。得られた水酸化マグネシウムを900℃で1時間焼成し、酸化マグネシウム粒子を得た。前記酸化マグネシウム粒子に、有機溶媒を濃度が60wt%になるように添加した。その後ボールミルを用いて4時間、湿式粉砕を行った後、スプレードライ法(回転数12,000rpm)による噴霧乾燥を行った。得られた噴霧乾燥後の酸化マグネシウムを、電気炉を用いて1600℃、1時間焼成し、目的の球状酸化マグネシウムを得た。
【0048】
<実施例2>
スプレードライ法の条件を回転数6,000ppmとしたほかは、実施例1と同様の方法により、球状酸化マグネシウムを得た。
【0049】
<実施例3>
最終的に得られる球状酸化マグネシウム中のリチウム含有量が10ppmとなるよう炭酸リチウム(関東化学社製、鹿特級)を添加し、スプレードライ条件を回転数6,000ppmとしたほかは、実施例1と同様の方法により、球状酸化マグネシウムを得た。
【0050】
<比較例1>
最終的に得られる球状酸化マグネシウム中のリチウム含有量が18ppmとなるよう炭酸リチウム(関東化学社製、鹿特級)を添加し、鉄含有量が800ppmとなるよう酸化鉄(II)(林純薬工業株式会社製、化学用)を添加したほかは、実施例1と同様の方法により酸化マグネシウム粒子を得た。
【0051】
<比較例2>
最終的に得られる球状酸化マグネシウム中のリチウム含有量が25ppmとなるよう炭酸リチウム(関東化学社製、鹿特級)を添加し、鉄含有量が500ppmとなるよう酸化鉄(II)(林純薬工業株式会社製、化学用)を添加し、スプレードライ法の条件を回転数6,000rpmとしたほかは、実施例1と同様の方法により酸化マグネシウム粒子を得た。
【0052】
<結果>
実施例1~3および比較例1~2の球状酸化マグネシウムについて、上記の測定及びメルトフローレート測定による樹脂流動性評価を行った。結果を以下の表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から明らかなように、実施例1~3の球状酸化マグネシウムは、真球度が高く、耐湿性にも優れていた。また、メルトフローレート測定による樹脂流動性評価の結果、リチウム含有量を15ppm未満と極めて低く制御して製造した実施例1~3の球状酸化マグネシウムは、リチウムを15ppm以上含有するように製造した比較例1及び2の酸化マグネシウムと比較して、樹脂流動性が高かった。
【0055】
また、実施例1~3および比較例1~2の球状酸化マグネシウムについて、混練トルク測定による樹脂混練性評価を行った。結果を以下の表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2のとおり、実施例1の球状酸化マグネシウムを用いたときの混錬トルクは、19.0N・m未満の低い値であった一方、比較例1の球状酸化マグネシウムを用いたときの混錬トルクは、19.0N・m以上の高い値であった。また、上記のほか、実施例2および3の球状酸化マグネシウムについては、実施例1同様、混錬トルクは19.0N・m未満の低い値であり、比較例2の球状酸化マグネシウムついては、比較例1同様、混錬トルクは19.0N・m以上の高い値であった。このように、リチウム含有量を15ppm未満と極めて低く制御して製造した球状酸化マグネシウムは、リチウムを15ppm以上含有するように製造した球状酸化マグネシウムよりも、球状酸化マグネシウムを配合した樹脂の流動性に優れることが示された。
【0058】
これより、本発明の球状酸化マグネシウムは、真球度が高く、耐湿性に優れ、かつ樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性に優れることがわかった。よって、本発明の球状酸化マグネシウムは、優れた熱伝導性フィラーとして有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の球状酸化マグネシウムは、真球度が高く、耐湿性に優れ、かつ樹脂に充填したときの樹脂組成物の流動性に優れることから、優れた熱伝導性フィラーとして有用である。
図1