(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】粗化ニッケルめっき材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/16 20060101AFI20240905BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20240905BHJP
C25D 5/14 20060101ALI20240905BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20240905BHJP
C25D 5/36 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C25D5/16
B21B1/22 H
B21B1/22 L
C25D5/14
C25D5/26 A
C25D5/36
(21)【出願番号】P 2021535325
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2020028684
(87)【国際公開番号】W WO2021020338
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2019138340
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020008792
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 利文
(72)【発明者】
【氏名】小幡 駿季
(72)【発明者】
【氏名】河村 道雄
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
(72)【発明者】
【氏名】原田 直治
(72)【発明者】
【氏名】入江 毅
(72)【発明者】
【氏名】吉井 陽之輔
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104948(JP,A)
【文献】特開2019-104949(JP,A)
【文献】特開2016-003378(JP,A)
【文献】特公昭56-015795(JP,B1)
【文献】特開平9-195096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/16
B21B 1/22
C25D 5/14
C25D 5/26
C25D 5/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板である基材と、
前記基材の少なくとも片面上に形成された粗化ニッケルめっき層と、を含み、
前記粗化ニッケルめっき層の表面のSRzjisが2μm以上、且つ、
前記粗化ニッケルめっき層における最大高さをSRzとし、SRz×0.25の高さ位置において観察した任意の仮想平面領域A中における谷部領域Bが、次の(i)を満たすことを特徴とする、粗化ニッケルめっき材。
(i)前記谷部領域Bの前記基材の圧延方向又は通板方向における長さが、直線距離で40μm未満である。
【請求項2】
前記谷部領域Bの周囲長CLの最大値CLmaxが500μm未満である、請求項1に記載の粗化ニッケルめっき材。
【請求項3】
前記鋼板が圧延板又は圧延箔である、請求項1又は2に記載の粗化ニッケルめっき材。
【請求項4】
前記粗化ニッケルめっき層の表面の明度はL
*値で30~50である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の粗化ニッケルめっき材。
【請求項5】
前記粗化ニッケルめっき層の表面の光沢度は、85°光沢度において1.5~50である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の粗化ニッケルめっき材。
【請求項6】
前記基材と前記粗化ニッケルめっき層との間に、下地ニッケル層を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の粗化ニッケルめっき材。
【請求項7】
基材の表面におけるSRzjisを0.5μm以上1.7μm未満とする冷間圧延工程又は調質圧延工程と、
前記基材上に粗化ニッケルめっき層を形成する粗化ニッケルめっき工程と、
を有し、
鋼板である基材と、前記基材の少なくとも片面上に形成された粗化ニッケルめっき層と、を含み、前記粗化ニッケルめっき層の表面のSRzjisが2μm以上、且つ、前記粗化ニッケルめっき層における最大高さをSRzとし、SRz×0.25の高さ位置において観察した任意の仮想平面領域A中における谷部領域Bが次の(i)を満たす、粗化ニッケルめっき材の製造方法。
(i)前記谷部領域Bの前記基材の圧延方向又は通板方向における長さが、直線距離で40μm未満である。
【請求項8】
前記冷間圧延工程における圧下率5%以上の圧延を行う最終の圧延ロールの表面粗度が0.01μm以上0.5μm以下である、
請求項7に記載の粗化ニッケルめっき材の製造方法。
【請求項9】
前記調質圧延工程における圧下率0.1%以上5%未満の圧延を行う最終の圧延ロールの表面粗度が0.01μm以上0.5μm以下である、
請求項7に記載の粗化ニッケルめっき材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗化ニッケルめっき層を有するめっき材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属板や金属箔等の基材上にめっき層を形成させる技術において、当該めっき層を平滑に形成させるにとどまらず、めっき面に凹凸を形成させ、あるいは金属を粒状又は針状に基材上に付着させる、いわゆる粗化めっき層を形成させる技術が知られている。
【0003】
このうち、粗化ニッケルめっき層を形成させた粗化ニッケルめっき材は、例えば食缶、飲料缶、電池缶等の材料等として、それぞれの用途に適した機能を持たせるため、あるいは機能をより向上させるために使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5885345号公報
【文献】特開2019-104948号公報
【文献】特開2019-104949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、上記した用途によっては、これらの粗化ニッケルめっき材の粗化ニッケルめっき層上には、さらに樹脂等の層が形成されることがあり得る。
【0006】
一方で本発明者らが鋭意検討した結果、粗化ニッケルめっき材の製造条件によっては、粗化ニッケルめっき層内の高さ方向における成長が不均一となる場合があることを突き止めた。特に、粗化ニッケルめっき材の特定の方向において連続して粗化ニッケルめっきが析出するものの成長がしにくい部分が生じた場合、当該部分が溝状に形成される場合があることを突き止めた(前記成長しにくい部分によって形成される溝状の領域、すなわち、粗化部におけるニッケル粒子の集合体の一本一本の高さを比較したとき、周囲の粗化部に対しやや低めとなっている領域を以下、「溝」とも称する)。
【0007】
このような粗化ニッケルめっき層の不均一性や溝の存在により、特許文献に示されたような、特に粗化ニッケルめっき層上に別の層が被覆される場合には、元来目的とする機能が充分に発揮されない可能性がある。
【0008】
本発明者らがさらに鋭意検討を行った結果、粗化ニッケルめっき層の形成において、特定の方法を採用することにより、上記したような粗化ニッケルめっき層の不均一性や溝の発生を抑制し得ることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、上記したような課題を一例として解決することを鑑みてなされ、粗化ニッケルめっき層の不均一性や溝の発生(以下、「形成ムラ」とも称する)を抑制することができる粗化ニッケルめっき材の製造方法及びその粗化ニッケルめっき材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、(1)金属である基材と、前記基材の少なくとも片面上に形成された粗化ニッケルめっき層と、を含み、前記粗化ニッケルめっき層の表面のSRzjisが2μm以上、且つ、前記粗化ニッケルめっき層における最大高さをSRzとし、SRz×0.25の高さ位置において観察した任意の仮想平面領域A中における谷部領域Bが、次の(i)を満たすことを特徴とする。
(i)前記谷部領域Bの前記基材の圧延方向又は通板方向における長さが、直線距離で40μm未満である。
なお、上記(1)において、(2)前記谷部領域Bの周囲長CLの最大値が500μm未満であることが好ましい。
また、本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、(3)金属である基材と、前記基材の少なくとも片面上に形成された粗化ニッケルめっき層と、を含み、前記粗化ニッケルめっき層の表面の3次元表面性状パラメータにおけるStrが0.1以上であることをも特徴とする。
本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、上記(3)において、(4)前記粗化ニッケルめっき層の表面の3次元表面性状パラメータにおけるSkが1.0μm~4.0μmであることが好ましい。
また本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、上記(3)において、(5)前記粗化ニッケルめっき層の表面の3次元表面性状パラメータにおけるVvcが0.6μm3/μm2~3.0μm3/μm2であることが好ましい。
さらに本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、上記(3)において、(6)前記粗化ニッケルめっき層の表面の3次元表面性状パラメータにおけるVmcが0.45μm3/μm2~2.0μm3/μm2であることが好ましい。
本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、上記(1)~(6)のいずれかにおいて、(7)前記基材が鋼板であることが好ましい。
本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、上記(1)~(7)のいずれかにおいて、(8)前記基材粗化ニッケルめっき層の表面の明度がL*値で30~50であることが好ましい。
本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、上記(1)~(7)のいずれかにおいて、(9)前記基材粗化ニッケルめっき層の表面の光沢度が、85°光沢度において1.5~50であることが好ましい。
本実施形態における粗化ニッケルめっき材は、上記(1)~(9)のいずれかにおいて、(10)前記基材と前記粗化ニッケルめっき層との間に、下地ニッケル層を有することが好ましい。
【0011】
また本実施形態における粗化ニッケルめっき材の製造方法は、(11)基材の表面におけるSRzjisを0.5μm以上1.7μm未満とする基材表面処理工程と、前記基材上に粗化ニッケルめっき層を形成する粗化ニッケルめっき工程と、を有するものである。
また本実施形態における粗化ニッケルめっき材の製造方法は、(12)金属である基材上に表面のSkuが4.0以上の下地ニッケルめっき層を設ける工程と、前記下地ニッケルめっき層上に粗化ニッケルめっき層を形成する粗化ニッケルめっき工程と、を有するものである。
上記(12)において本実施形態における粗化ニッケルめっき材の製造方法はさらに(13)前記下地ニッケルめっき層の表面のVvcが0.45μm3/μm2以下であることが好ましい。
なお上記(11)において、(14)前記表面処理工程が冷間圧延工程又は調質圧延工程であることが好ましい。
また、上記(14)において(15)前記冷間圧延工程における圧下率5%以上の圧延を行う最終の圧延ロールの表面粗度が0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。あるいは、上記(14)において(16)前記調質圧延工程における圧下率0.1%以上5%未満の圧延を行う最終の圧延ロールの表面粗度が0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
さらに、上記(11)~(16)のいずれかにおいて、(17)前記基材が鋼板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粗化ニッケルめっき材の製造方法によれば、上記したような形成ムラを抑制した粗化ニッケルめっき材を提供可能である。本発明の粗化ニッケルめっき材はその優れた特性を利用して、例えば液体を内容物とする飲料缶やパウチ等の包装容器や、電池部材等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1(a)】本実施形態における粗化ニッケルめっき材1の断面を示す模式図である。
【
図1(b)】本実施形態における粗化ニッケルめっき材1の断面を示す模式図である。
【
図2(a)】本実施形態における粗化ニッケルめっき層12の仮想平面領域Aを示す模式図である。
【
図2(b)】本実施形態における粗化ニッケルめっき層12の仮想平面領域Aを示す模式図である。
【
図3(a)】本実施形態において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図3(b)】本実施形態において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図4】本実施形態において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図5】本実施形態において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図6(a)】本実施形態の比較例において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図6(b)】本実施形態の比較例において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図6(c)】本実施形態の比較例において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図6(d)】本実施形態の比較例において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【
図7】本実施形態の実施例、比較例、参考例において得られた粗化ニッケルめっき材の表面等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照しつつ、本発明を実施する一例としての実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の粗化ニッケルめっき材1を模式的に示す図である。
図1(a)に示すように、本実施形態の粗化ニッケルめっき材1は、基材11と、この基材11上の少なくとも片面に形成された粗化ニッケルめっき層12と、を含むことを特徴とする。
なお本実施形態においては、基材11の片面に粗化ニッケルめっき層12が形成された例を示したが、このような形態に限定されるものではなく、基材11の両面に粗化ニッケルめっき層12が形成されていてもよい。
【0015】
<基材11>
本実施形態における基材11としては、めっき基材として使用される公知の金属板や金属箔が適用可能である。
基材11の材料としては例えば、Fe、Cu、AlおよびNiから選択される一種の純金属からなる金属板もしくは金属箔、または、Fe、Cu、AlおよびNiから選択される一種を含む合金からなる金属板もしくは金属箔などが挙げられる。
具体的には、鋼板、鉄板、ステンレス鋼板、銅板、アルミニウム板、またはニッケル板(これらは、純金属、合金のいずれであってもよく、箔状であってもよい。)などが挙げられる。
【0016】
特に、鋼板として、低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.01重量%以下(好ましくは炭素量が0.003重量%以下)の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼、等が好適に用いられる。
【0017】
上記した基材11としての金属板又は金属箔は、圧延材や電解箔を適用可能である。特に大量生産における生産性、コストの面から圧延材が好ましく、公知の冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経たものであってもよい。
また、基材11としての金属板又は金属箔は、公知の表面処理を施したものであってもよい。公知の表面処理としては、例えば、ステンレス鋼板やニッケル板において粗化ニッケルめっきの直前に施されるストライクニッケルめっきや、鋼板に施されるニッケルまたはニッケル合金めっき、亜鉛または亜鉛合金めっき等の各種めっき、前記各種めっき後に施される熱処理があげられる。本実施形態における基材11としてはこのような公知の表面処理により前記各種めっきまたは熱処理に由来する金属層が形成されていてもよい。
【0018】
基材11の厚みとしては、好ましくは0.01~2.0mm、より好ましくは0.025~1.6mm、さらに好ましくは0.025~0.3mmである。
なお、本実施形態における「基材11の厚み」とは、基材11の断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真において任意の10点における基材11の厚みを計測して得られた値の平均値をいう。簡易的にはマイクロメーターでの厚み測定も適用可能である。
【0019】
本実施形態において、基材11の表面状態が特定の状態である場合、得られる粗化ニッケルめっき材が極めて好適なものとなる。以下詳細に説明する。
【0020】
本実施形態においては、基材11の表面に、電解めっき等の手段を用いて、粗化ニッケルめっき層を形成させることができる。この場合、粗化ニッケルめっき層はめっき浴中のニッケルイオンが基材11の表面に析出することにより成長するのであるが、基材11の表面状態、特に表面形状により、当該粗化ニッケルめっき層の成長度合い(成長速度)が部分的に異なることが、本発明者らの検討により導き出された。
【0021】
本実施形態では基材11として金属の圧延板や圧延箔を用いることができる。一般的にこれらの圧延板や圧延箔(以下、圧延板と圧延箔をまとめて「圧延材」と称する場合もある)は、圧延ロールで金属板を圧延して得ることができるが、圧延ロールのロール表面の形状(凹凸)が金属板の表面形状に大きく寄与することが知られており、一般的にロール表面の形状が転写されるといわれる。
【0022】
この際、圧延板や圧延箔に形成される表面形状は、圧延ロールのロール表面形状(ロール粗度)だけでなく、圧下率、圧延速度、金属(圧延対象材)の硬さ、圧延油の粘度等により変化することが知られている。連続金属帯における主な表面形状としては、くぼみのような凹部と、通板方向に沿った筋状の凹凸が挙げられる。特に、圧延材においては圧延ロールの凹凸がそのまま圧延材表面の形となるわけではなく、圧延で引き伸ばされることによって圧延ロールの凸部等により圧延材に筋状の凹部が形成されることがあり、圧延目、圧延筋、転写筋、等と称呼されて知られている。
【0023】
本発明者らは、基材11の表面状態、特に上記したような圧延筋の形状(凹凸の大小、高低差、幅、角度等)部分が、基材11上に形成される粗化ニッケルめっき層12において、部分的な成長速度が異なること、及び、粗化ニッケルめっき層12の不均一性や溝が発生することを見出した。すなわち、筋状の部分にも粗化ニッケルめっき層は析出し、各微粒子も一定の大きさまでの成長は進むので、面全体としての特性(例えば樹脂や他の部材との密着力)は問題ない。一方で、ごく微小面積で用いるような用途や、例えば電池の電極として活物質を接着させるような場合において、成長速度が遅い部分が含まれるごくミクロな領域においては密着性が担保できない場合があると考えられる。また、形成ムラが大きな溝状となっている場合、圧延方向の密着力と、圧延方向と直角の方向の密着力とに差が生じるなどの形成ムラが生じる場合があると考えられる。
【0024】
このような課題に対し、上記したような基材11の表面状態を制御することにより、粗化ニッケルめっき層12の不均一性や溝の発生を抑制するに至り、本発明を完成させたものである。
【0025】
なお本実施形態においては、基材11の表面状態を、以下のとおり、非接触及び3次元表面性状測定におけるパラメータに基づいて定義することとした。
具体的には、本明細書において、SRa、SRz、SRzjisは以下のように測定・算出される。
まず、JIS B 0601(2013)に基づいて、二次元のRa,Rz、Rzjisを測定する。
本実施形態においては、圧延方向又は通板方向と直角方向に測定する。また、測定範囲としては100μm以上が好ましく、100μm~150μmの範囲で行うことが好ましい。
また、Ra,Rz、Rzjisの測定としては、圧延方向または通板方向RDに測定開始点を移動しながら複数回の測定を繰り返すが、好ましくは100回以上の測定が好ましく、さらに好ましくは300回以上の測定が好ましい。なお、後述する本願の実施例では768回の測定を行ったものである。
得られた測定結果より、以下のように各パラメータを得ることができる。
【0026】
SRa=(Ra-1+Ra-2+・・・+Ra-n)/n
SRz=(R z-1+R z-2+・・・+R z-n) /n
SRzjis=(Rzjis-1+ Rzjis-2+・・・+Rzjis-n) /n
なお、nは測定回数である。
【0027】
本実施形態において、基材11の表面は、3次元算術平均高さSRaが、SRa=0.02μm~0.17μmであることが好ましい。さらに、上述したような形成ムラ抑制等の観点からは、0.03μm~0.15μmであることが好ましく、コスト的な観点からは0.08μm~0.15μmであることが好ましい。
【0028】
基材11の表面におけるSRaが0.02μm未満の場合、基材11の表面を当該値に調整する工程においてコストがかかりすぎるばかりでなく、基材11上に粗化ニッケルめっき層が形成されない可能性、または基材11上に形成される粗化ニッケルめっき層12の表面が平滑になりすぎ、元来必要とされる粗化ニッケルめっきの特性や機能を最大限発揮させることができない可能性があるため,好ましくない。
【0029】
一方で、基材11の表面におけるSRaが0.17μmを超える場合、粗化ニッケルめっき層12の成長が不均一となったり、得られた粗化ニッケルめっき層12に溝が発生する可能性があるため、好ましくない。
【0030】
本実施形態における基材11の表面はさらに、3次元十点平均粗さSRzjisにおいて、SRzjis=0.3μm以上1.7μm未満の範囲内であることが好ましい。さらに、上述したような形成ムラ抑制等の観点からは、0.4μm~1.6μmであることが好ましく、コスト的な観点からは0.8μm~1.5μmであることが好ましい。
【0031】
これは以下の理由によるものである。後述するように、本発明者らは圧延筋等、点の凹みではなく数十ミクロオーダーの長さや面積をもつ凹部分が基材にあり、その凹部分が深い場合や多い場合、またはある程度の深さで広い場合、粗化めっきの成長不良が生じやすいという課題を見出した。
【0032】
このような数十ミクロオーダーの長さや面積を有する凹部は、通常の二次元の粗さパラメータでは判別しづらい。そこで、圧延方向または通板方向RDと直角方向に測定した二次元十点平均粗さに基づいて算出される3次元十点平均粗さSRzjisに着目した。3次元十点平均粗さSRzjisはRDに対し直角方向に測定したRzjisに基づいて面全体の平均値として算出されるため、数十ミクロオーダーの長さや面積を有する凹部分が基材表面にある場合に、その合計数や長さが反映されやすいパラメータとなる。
【0033】
特に、後述のように圧延によって山部分は平たん化された圧延材においては、凹み部分のSRzjisの寄与がより大きくなる。よって、100μm×100~150μmの領域におけるSRzjisが大きいほど、基材上に粗化めっきの形成ムラの原因となる大きさの凹みが多い、または凹み面積が多いことを示す。
【0034】
本発明者らはさらに、基材11のSRzjisを1.7μm未満とすることによって、後述の粗化めっき後の粗化めっき層12における谷領域を顕著に抑制可能であることを見出した。なお、下限については、基材11の凹部を低減するという目的においては制限はないが、全く凹凸のない鏡面では、粗化めっき条件においては粗化めっき層を形成するためのめっき粒子が析出しにくいため、0.3μm以上が好ましい。
【0035】
<下地ニッケルめっき層>
本実施形態においては、基材11上に
図1(b)に示すような下地ニッケルめっき層13を形成すると共に、この下地ニッケルめっき層13の表面状態を、ISO-25178-2:2012(対応JIS B 0681-2:2018)に規定される3次元表面性状パラメータにより規定することも可能である。
なお下地ニッケルめっき層13としては上記した特許文献2及び特許文献3、さらには、特願2019-108779に開示された内容を適宜適用可能であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0036】
本実施形態においては、下地ニッケルめっき層13の表面において、上記した3次元表面性状パラメータのうち、高さの統計量を数値化したパラメータであるSku(クルトシス)を4.0以上とすることが好ましい。
【0037】
下地ニッケルめっき層13のSkuを4.0以上とする理由としては、以下のとおりである。すなわち基材11に下地ニッケルめっき層13を形成した場合、表面においては、基材11のマクロ的な凹凸は下地ニッケルめっき層13によりやや緩和されつつ、下地ニッケルめっき層13のめっき粒によるミクロな微細凹凸が形成される。しかしながら、例えば基材11の圧延筋が大きい場合には、下地ニッケルめっき層13を形成した後においても、筋状の谷・山は十分に緩和されない可能性がある。
【0038】
ここで、本発明者らは、ニッケルめっき後(下地ニッケルめっき層13の形成後)において、板の平面に対する圧延筋のように一定の深さが一方向に多く存在する場合、3次元表面粗度の高さ分布の鋭さを表すSkuは、その形状をよく反映し、4.0未満となることを見出した。つまり、粗化ニッケルめっき後に異方性を生じる原因となるような大きな溝部分を形成しないために、Skuを4.0以上に制御することが好適であることを見出した。
【0039】
なお、Skuは高さ分布の鋭さを表す数値であり、Skuが3.0であるとき高さ分布が正規分布であるのに対し、通常、Skuが3.0を超える場合は表面に鋭い山や谷が多いことを表し、Skuが3.0未満の場合には表面が平坦であることを表す。しかしながら、単純な凹凸の形状を表しているのではないことが分かった。
【0040】
上記のような知見に基づき、本発明者らは試行錯誤した結果、下地ニッケルめっき層13の表面のSkuを4.0以上とすることとした。
【0041】
さらに下地ニッケルめっき層13の表面における体積パラメータであるVvcを、0.45μm3/μm2以下とすることが好ましいことを見出した。なおこのVvcを0.45μm3/μm2以下とする理由としては以下のとおりである。
【0042】
すなわちVvcは、コア部と突出山部を分離する負荷面積率を10%とし、かつコア部と突出谷部を分離する負荷面積率を80%としたときの、コア部の空間の容積である。
つまり、下地ニッケルめっき層13表面の凹凸の中心部であるコア部において空間容積を少なくすることで、粗化ニッケルめっき層12形成後の異方性の原因となる溝部分を少なく制御することが可能となる。
【0043】
本発明者らは、下地ニッケルめっき層13表面のVvcを0.45μm3/μm2以下とすることにより、粗化めっき後の粗化ニッケルめっき材表面の異方性を抑制することが出来ることを見出したものである。
【0044】
<粗化ニッケルめっき層>
次に、本実施形態における粗化ニッケルめっき層12について説明する。
本実施形態における粗化ニッケルめっき層12は、
図1に示されるように、断面においてニッケル粒状物やその集合体が基材11上に析出されたような形状を有している。なお、この粗化ニッケルめっき層12の形状等については、上記した特許文献2又は特許文献3に開示される粗化ニッケルめっき層と同様の形状を有している。そのため、本願においては、本発明の特徴部分、すなわち、上記した特許文献2又は特許文献3との相違点を主に記載することとし、共通点については説明を省略するものとする。
【0045】
なお、本実施形態における粗化ニッケルめっき層12については、特願2019-108779号に記載される粗化ニッケルめっき層を適宜参照することが可能である。
【0046】
本実施形態における粗化ニッケルめっき層12は、その表面において、3次元十点平均粗さSRzjisが2μm以上であることが好ましい。その理由としては、樹脂などの他の部材との密着性向上のためである。上限は特にないが、めっき密着性、生産効率、生産コスト、等の観点から20μmである。
なお、SRzjisのより好ましい範囲としては以下のとおりである。すなわち、粗化ニッケルめっき層12の、他の部材に対する密着性をより向上させるという観点からは、SRzjisは、より好ましくは3μm以上であり、さらに好ましくは4μm以上であり、さらにより好ましくは5μm以上である。
また基材11に対する、粗化ニッケルめっき層12の密着性(めっき密着性)をより向上させるという観点からは、SRzjisは、より好ましくは16μm以下であり、さらに好ましくは14μm以下であり、さらにより好ましくは12μm以下である。
また、生産効率および生産コストを重視するという観点からは、SRzjisは3.0μm~7.0μmであることが好ましい。
【0047】
また、本実施形態における粗化ニッケルめっき層12のSRaは、SRa=0.1μm~3μmであることが好ましい。さらに、粗化ニッケルめっき層12の、他の部材に対する密着性をより向上させるという観点からは、SRaは、より好ましくは0.18μm以上であり、さらに好ましくは0.3μm以上である。
基材11に対する、粗化ニッケルめっき層12の密着性(めっき密着性)をより向上させるという観点からは、SRaは、より好ましくは1.8μm以下であり、さらに好ましくは1.6μm以下、さらにより好ましくは1.3μm以下である。
また、生産効率および生産コストを重視するという観点からは、SRaは0.18μm~0.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.18μm~0.49μmである。
【0048】
粗化ニッケルめっき層12表面の明度は、L*値で30~50であることが、めっき密着性、生産効率、生産コスト、等の観点から好ましい。明度L*の値が30未満の場合、めっき密着性の観点からは好ましくない。一方、明度L*の値が50を超える場合、粗化ニッケルめっき層12の上に形成される可能性がある他の部材(樹脂層等)との密着性の観点から好ましくない。
なお、上記した粗化ニッケルめっき層12の明度L*の測定は、JIS Z8722に準拠して、SCE方式(正反射光除去方式)にて、分光測色計を用いて行うことができる。
【0049】
粗化ニッケルめっき層12の光沢度について次に説明する。本実施形態において、粗化ニッケルめっき層12の光沢度は、85°光沢度において、1.5~50であることが、めっき密着性、生産効率、生産コスト、等の観点から好ましい。85°光沢度が1.5未満の場合、めっき密着性の観点から好ましくない。一方で、85°光沢度が50を超える場合、粗化ニッケルめっき層12の上に形成される可能性がある樹脂層等との密着性の観点から好ましくない。
なお、粗化ニッケルめっき層12表面の85°光沢度は、JIS Z8741に準拠して、光沢計を用いて、85°鏡面光沢を測定することにより求めることができる。
一方、本実施形態の粗化ニッケルめっき層12の60°光沢度は、通常、10以下となる。
【0050】
本実施形態において、粗化ニッケルめっき層12表面の色度a*、b*は特に限定されないが、めっき密着性や、粗化ニッケルめっき層12の上に形成される可能性がある樹脂層等との密着性の観点からは、色度a*は、好ましくは0.1~3.0であり、色度b*は、好ましくは1.0~8.0、である。
【0051】
本実施形態において、粗化ニッケルめっき層12の表面における算術平均高さSRaは、0.1μm~3μmであることが好ましい。これは、粗化ニッケルめっき層12の上に形成される可能性がある樹脂層等との密着性や、粗化ニッケルめっき層12と基材11との密着性(めっき密着性)、生産効率および生産コスト、等の観点によるものである。
【0052】
本実施形態において粗化ニッケルめっき層12の最大高さ粗さSRzは特に限定されないが、例えば2.5μm~25.0μmであることが好ましい。
なお、3次元表面粗度SRa、SRzjis、SRzはレーザ顕微鏡によって測定することが好ましい。
【0053】
本実施形態において、粗化ニッケルめっき層12のニッケル付着量は特に限定されないが、めっき密着性等の観点から、1.34g/m2~57.85g/m2である。このうち、粗化ニッケルめっき層の中の、下地ニッケルを含まない付着量としては好ましくは1.34~45.0g/m2である。また、粗化ニッケルめっき層12の密着性(めっき密着性)をより向上させるという観点からは、粗化ニッケル層12の付着量は、より好ましくは2.67g/m2以上であり、さらに好ましくは5g/m2以上である。粗化ニッケル層12の、他の部材に対する密着性をより向上させるという観点からは、粗化ニッケル層12の付着量は、より好ましくは38.0g/m2以下であり、さらに好ましくは32.0g/m2以下であり、さらにより好ましくは31g/m2以下である。
【0054】
また、下地ニッケルを含む場合の付着量としては5.0~50.00g/m2である。さらに、より好ましくは12.02m2~50.00g/m2、さらに好ましくは12.28m2~40.94g/m2、特に好ましくは12.28m2~32.49g/m2である。
また、生産効率および生産コストを重視するという観点からは、粗化ニッケル層12と下地金属めっき層13との合計の付着量は10.24m2~22.25g/m2であることが好ましい。さらに、高い耐食性が必要な場合、および特に高い金属基材11に対する、粗化ニッケルめっき層12の密着性、および他の部材に対する密着性が必要な場合においては、粗化ニッケル層12と下地金属めっき層13との合計の付着量は32.50g/m2~57.85g/m2であることが好ましい。
なお、粗化ニッケル層12と下地金属めっき層13との合計の付着量は、粗化ニッケルめっき板1について蛍光X線装置を用いて総ニッケル量を測定することで求めることができる。
【0055】
粗化ニッケルめっき層12の付着量は、粗化ニッケルめっき板1について蛍光X線装置を用いて総ニッケル量を測定することで求めることができるが、この方法に限られず、その他公知の測定方法を用いることも可能である。
【0056】
本実施形態における粗化ニッケルめっき層12は、前記粗化ニッケルめっき層における最大高さ粗さをSRzとし、SRz×0.25の高さ位置において観察した任意の仮想平面領域A中における谷部領域Bが、次の(i)を満たすことが好ましい。
(i)前記谷部領域Bの前記基材の圧延方向(通板方向)RDにおける長さが、直線距離で50μm未満である。
なお、谷部領域Bは次の(ii)を満たすことがさらに好ましい。
(ii)任意の80μmの直線長さ中で、前記谷部領域Bが前記基材の圧延方向RDにおいて10μm以上存在する部分の合計長さが50μm未満である。
以下に図を用いて説明する。
【0057】
図2は、本実施形態を説明するための上記仮想平面と、それに基づき得られた本実施形態の特徴について記載するための図である。
図2(a)は、本実施形態における粗化ニッケルめっき層12の最大高さ粗さSRzと、仮想平面領域Aを模式的に示す図である。
図2(b)は、粗化ニッケルめっき層12の仮想平面領域Aで切断した場合に、谷部領域Bとそれ以外とで二値化を行った場合の模式図である。
【0058】
図2(a)に示されるように、粗化ニッケルめっき層の表面を3次元的に観察した場合、複数の山と谷が存在する形状が観察される。観察領域における最も高い山の高さと最も深い谷深さとを足し合わせた大きさをSRzとし、高さ方向(
図2(a)におけるZ方向)の下から1/4(0.25)の位置で平面を取得した場合の模式図が、
図2(b)に示される仮想平面領域Aといえる。
図2(b)に示されるように、仮想平面領域Aには、谷部領域Bとそれ以外の部分(山や深さが当該平面に満たない谷)が存在する。換言すれば、斜線で示される谷部領域Bは、SRzの1/4の高さで主面と平行な基準面を取得した場合に当該基準面より下方に窪んだ凹部の領域であると言える。
【0059】
そして本実施形態において、谷部領域Bは、上述した(i)の条件を満たすことが好ましい。
すなわち、
図2(b)に示すように、(i)条件としては、仮想平面領域A内に存在する複数の谷部領域Bは、圧延方向RDにおける長さL
B1、L
B2、L
B3、・・・がいずれも直線距離で40μm未満であることが好ましい。
次に(ii)条件として、圧延方向RDと平行な任意の長さ80μmの直線L中に前記谷部領域Bが複数存在した場合、前記直線Lと前記谷部領域Bとが交差した部分であってその長さが10μm以上の部分D1、D2・・・を足し合わせた合計長さ(D1+D2+・・・)が50μm未満であることが好ましい。
【0060】
さらに、本実施形態における粗化ニッケルめっき層12の表面状態を、ISO-25178-2:2012(対応JIS B 0681-2:2018)に規定される3次元表面性状パラメータにより規定することも可能である。
例えば、テクスチャのアスペクト比(すなわち異方性)を表すパラメータであるStrを規定することにより、粗化ニッケルめっき層12の不均一性や溝の発生(形成ムラ)を抑制し得る。すなわち、Strを0.1以上とすることにより、得られた粗化ニッケルめっき材1について異方性を制御したものを形成することが可能となる。好ましくはStrが0.15以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.4以上である。Strの上限値は1であり、本実施形態においても1.0以下となる。
【0061】
このように、粗化ニッケルめっき材1について異方性を制御することにより以下の利点を得られる。一つ目は、異方性が顕著な場合、接合される樹脂等との密着強度や耐食性において一方向に脆弱性を有する恐れがあるのに対し、本実施形態の粗化ニッケルめっき材は異方性を低減したものであるため、極端な特性の異方性を嫌う用途にも好適に用いることができる。また、二つ目として、例えば、粗化ニッケルめっき材1を所定の大きさにカットして、カット材として食缶、飲料缶、電池缶等の材料として使用する際に、仮に粗化ニッケルめっき材1が目視では均一であってもミクロな範囲では異方性を有していた場合、材料性能を発揮させるためにはカット材の方向に拘束されて製造を行う必要が生じ、製造性が低下する可能性がある。
本実施形態ではカット材においても異方性を制御できるため、例えば製造の際にカット材の方向に拘束されずに製造を行うことができ、製造性が格段に向上するものである。
【0062】
なお、本実施形態の粗化ニッケルめっき層12の表面状態について、上述のStr以外のパラメータについて、好ましく規定されるパラメータとその数値範囲は以下のとおりである。なおパラメータについてはいずれもISO-25178-2:2012(対応JIS B 0681-2:2018)に開示されるものであるから、ここでは詳細な説明を省略する。
Sku :3.0以上
Sa(μm):0.2~1.3
Sk(μm):1.0~4.0
Vvc(μm3/μm2):0.6~3.0
Vmc(μm3/μm2):0.45~2.0
各々のパラメータを上記のとおり規定することにより、粗化ニッケルめっき材において形成ムラをより抑制することが可能となるため好ましい。なお、異方性の抑制、他の部材との密着性向上、めっき密着性などの観点から、下記の範囲に制御することがより好ましい。
Sku :3.32以上
Sa(μm):0.36~1.2
Sk(μm):1.3~4.0
Vvc(μm3/μm2):0.7~2.5
Vmc(μm3/μm2):0.5~1.5
なお、上述の3次元表面性状パラメータStr、Sku、Sa、Sk、Vvc、Vmc、等は、レーザー顕微鏡によって測定することが好ましい。
【0063】
本実施形態において、上記特定により、上述した粗化ニッケルめっき層の不均一性や溝の発生(以下、「形成ムラ」とも称する)を抑制し得る理由としては、以下のとおりである。
すなわち、粗化ニッケルめっき層が電解めっきにより成長する場合の特性としては、上述した特許文献2及び又は特許文献3にも記載されているように、ニッケルの一次粒子の核は、凸部(既に析出したニッケル粒子によって形成される凸部を含む)に優先的に析出し易いことが確認されている。
【0064】
それゆえ、より高粗度な粗化ニッケルめっき層を形成する場合には、基材11の凹凸が大きい方が望ましい。しかしながら、基材の凹凸が大きすぎると、粗化が部分的に形成される可能性がある。そこで、広範囲に均一な高さのめっきを形成するため、基材においてある程度の凸部(山)の粗さを残しつつも平坦化する手法として、本発明者らは圧延材における表面形状の制御に着目した。しかしながら、通常のニッケルめっきにおいては平坦な基材仕上げであり、めっき形成にばらつきがない粗さ範囲であっても、ニッケル粗化めっきにおいては新たな課題があることが分かった。
【0065】
すなわち、粗化めっき材全体を広範囲で見た場合には、
図7の低倍率像(×150)のように、全面的に粗化ニッケル層が形成されている。したがって、広範囲で求められる特性(例えば広範囲で樹脂等と密着する場合など)は問題ない。また、
図7の高倍率像(×10000)のようにごく微小範囲の観察においても、基材11の全面において粗化ニッケルの粒子集合体が形成されていることが確認できる。しかしながら、
図4~6のような中倍率でその高さを表面側から全面的に確認したところ、一つ一つの集合体の高低差とは別の、数十ミクロンオーダーの領域の溝状の領域(凹部)が形成されている場合があることが分かった。
【0066】
このような数十ミクロンオーダーの領域の溝は
図7の高倍率像のような部分的な断面像では、分かりにくい。本発明者らの検討によれば、このような数十ミクロンオーダーの領域の溝が形成される原因として、圧延によって平坦化をしたとしても、基材11の圧延筋等のようなある程度の面積を有する凹部においては、粗化ニッケルめっきを形成する粒子および集合体が成長しにくいことが原因であると推測される。さらに、凹部の周囲においては通常の高さまで成長、あるいはより高く成長しやすいことから、粗化ニッケル前の圧延筋の凹凸差より、粗化ニッケル後の凹凸差の方がより顕著にあらわれ、より大きな溝状となるものと推測される。
【0067】
そしてその結果、基材11の圧延筋による凹部上に形成された粗化ニッケルめっき層の高さは、圧延筋による凸部上に形成された粗化ニッケルめっき層の高さと比較して低くなることが推測される。そして、このような高さが低くなった部分及びその周辺を観察した際に、高さが低くなった部分が溝状に観察されることが、実際の表面観察画像より確認された。
【0068】
本発明者らが繰り返し実験を行った結果、基材11の表面状態(圧延筋による凹凸の状態、表面粗さ、等)を特定の状態にすることにより、上述したような圧延筋の凹部上に形成された粗化ニッケルめっき層の溝部分は消失し得ることが確認された。
さらに、粗化ニッケルめっき層12の表面状態の表現方法を鋭意検討した結果、上記(i)及び(ii)条件のように表現することにより、本発明者らが目的とする課題や効果を発揮し得ることを見出したものである。
【0069】
なお、本実施形態において、仮想平面領域A内における谷部領域Bは上述のように複数存在する(B1、B2、B3・・・)。そして、個々の谷部領域Bの周囲長CL(CL1、CL2、CL3・・・)の最大値CLmaxは、500μm未満であることが好ましい。言い換えれば、仮想平面領域A内における谷部領域Bの周囲長は所定の長さより短いことが好ましい。
すなわち、周囲長CLが所定の長さより長い場合、上述したように粗化ニッケルめっき層12に溝形状が形成されていると考えられるため、好ましくない。より好ましくはCLmaxは100μm未満である。
また、本実施形態において、個々の谷部領域Bの最大径において、その最大値は25μm以下が好ましい。すなわち、個々の谷部領域Bの最大径MD(MD1、MD2、MD3・・・)の最大値MDmaxは、25μm以下であることが好ましい。なお、谷部領域Bの最大径は、公知の測定装置により測定可能である。
【0070】
なお本実施形態において、粗化ニッケルめっき層12は、その内部に、下地ニッケル層又は被覆ニッケル層を含んでいてもよい。なお、下地ニッケル層及び被覆ニッケル層については、上記した特許文献2及び特許文献3、さらには、特願2019-108779に開示された内容を適宜適用可能であるため、本願では詳細な説明を省略する。
【0071】
<粗化ニッケルめっき材の製造方法>
次に、本実施形態における粗化ニッケルめっき材1の製造方法について説明する。
本実施形態における粗化ニッケルめっき材1の製造方法は、上述した特許文献2及び特許文献3、及び特願2019-108779号に記載される方法と概ね同じであるが、基材11又は下地ニッケルめっき層13の表面状態を所定の状態とする点に特徴を有するため、当該特徴部分を主に説明する。
【0072】
本実施形態の粗化ニッケルめっき材1の製造方法は、基材11の表面におけるSRzjisを0.5μm以上1.7μm未満とする基材表面処理工程と、前記基材11上に粗化ニッケルめっき層12を形成する粗化ニッケルめっき工程と、を有することを特徴とする。
【0073】
上記基材表面処理工程としては、具体的には、基材11の圧延工程であることが好ましく、さらに好ましくは、冷間圧延工程または調質圧延工程であることが好ましい。なお、この圧延工程で用いられる圧下率、圧延ロール表面の表面粗さ、等は、公知の範囲で適宜調整可能である。
【0074】
一方で、この基材表面処理工程により、基材11の表面におけるSRzjisを0.5μm以上1.7μm未満とすることが好ましい。
基材11の表面におけるSRzjisをこの値とすることにより、上述したような、粗化ニッケルめっき層12の不均一性や溝等の発生を抑制することが可能となる。
【0075】
なお、基材11の表面におけるSRzjisを0.5μm以上1.7μm未満とするため、最終仕上げを冷間圧延工程または調質圧延工程で行う場合には、基材11表面の最終仕上げを行うためのロール(最終ロール)の粗度が表面粗度が重要である。ロール粗度の好ましい範囲としては、Ra=0.01μm~0.5μmである。
【0076】
特に、基材11の最終仕上げを冷間圧延工程で行う場合(冷間圧延工程が基材表面の最終仕上げとなる場合)には、圧下率5%以上の圧延を行うロールの表面粗度が重要であり、このロールの表面粗度が上記範囲であることが好ましい。
なお、冷間圧延工程における圧下率(圧下率=(圧延前の板厚-圧延後の板厚)/圧延前の板厚×100)は10%以上が好ましい。
【0077】
また、基材11の最終仕上げが調質圧延工程で終わる場合には、当該調質圧延工程前の最終圧延ロールが上記範囲であることが好ましい。ちなみに、調質圧延工程の圧下率は一般的には0.1%以上5%未満である。
【0078】
あるいは、本実施形態の粗化ニッケルめっき材1の製造方法は、金属である基材11上に表面のSkuが4.0以上の下地ニッケルめっき層13を設ける工程と、前記下地ニッケルめっき層13上に粗化ニッケルめっき層12を形成する粗化ニッケルめっき工程と、を有することを特徴とする。
【0079】
さらに前記下地ニッケルめっき層の表面のVvcが0.45μm3/μm2以下であることが好ましい。
【0080】
なお、下地ニッケルめっき層13の表面上における上述したパラメータSku又はパラメータVvcを上記数値範囲に制御する方法としては、基材11の粗度を制御する方法、下地ニッケルめっき層13の研磨や調質圧延により粗度を制御する方法、下地ニッケルめっき層13形成の際におけるめっき条件により制御する方法、等が挙げられる。このうち、下地ニッケルめっき層13形成の際におけるめっき条件により制御する方法としては、下地ニッケルめっきの厚膜化や、下地ニッケルめっきの粒径を制御するといった方法が挙げられる。
【0081】
また、基材11の表面におけるSRzjisを0.5μm以上1.7μm未満とするために、表面の最終仕上げを研磨で行ってもよく、例えば機械研磨(バフ研磨)や化学研磨を施しても良い。
【0082】
なお、本実施形態において、基材11上又は下地ニッケルめっき層13上に粗化ニッケルめっき層12を形成する粗化ニッケルめっき工程としては、上述した特許文献2及び特許文献3、及び特願2019-108779号に記載される方法と概ね同じであるため、その詳細については説明を省略する。
本実施形態においては、基材11上又は下地ニッケルめっき層13上に、粗化ニッケルめっき浴によりニッケル粒状物を析出させてもよい。また、粗化ニッケルめっき層12上に被覆ニッケルめっき層を適宜析出させてもよい。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0084】
<実施例1>
まず、基材として低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ0.1mm)を準備した。この冷間圧延板は、表2に示す表面形状(SRa,SRzjis)となるように、常温で、表1に示す圧延条件(圧下率、圧延ロール)を用いて最終圧延することにより得た。次いで、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行うことにより、基材11を得た。そして当該基材11上に、下記の浴組成の下地ニッケルめっき浴を用いて、下記条件にて電解めっきを行い、下地ニッケル層を形成した。
【0085】
≪下地ニッケルめっき条件≫
浴組成:硫酸ニッケル六水和物 250g/L、塩化ニッケル六水和物 45g/L、ホウ酸30g/L
pH 4.2
浴温 60℃
電流密度 10A/dm2
めっき時間 30秒間
なお、得られた下地ニッケル層の各パラメータは表3に示すとおりであった。
【0086】
次いで、上記下地ニッケル層を形成した鋼板に対して、下記の浴組成の粗化ニッケルめっき浴を用いて、下記条件にて電解めっき(粗化ニッケルめっき)を行うことで、下地ニッケル層上に、ニッケル粒状物を析出させた。
【0087】
≪粗化ニッケルめっき条件≫
浴組成:硫酸ニッケル六水和物 20g/L、塩化ニッケル六水和物 20g/L、硫酸アンモニウム 20g/L
pH 6
浴温 30℃
電流密度 15A/dm2
めっき時間 26秒間
【0088】
次いで、上記粗化ニッケルめっき層を形成した鋼板に対して、下記の浴組成を用いて、下記条件にて電解めっき(被覆ニッケルめっき)を行うことで、基材11上に粗化ニッケルめっき層12を形成し、実施例1における粗化ニッケル材1を得た。
【0089】
≪被覆ニッケルめっき条件≫
浴組成:硫酸ニッケル六水和物 250g/L、塩化ニッケル六水和物 45g/L、ホウ酸30g/L
pH 4.2
浴温 60℃
電流密度 10A/dm2
めっき時間 30秒間
【0090】
そして、得られた粗化ニッケルめっき材に対して、各種測定、評価を行った。測定及び評価の詳細については下記に記載する。また、結果を表4及び表5に示す。
【0091】
≪3次元粗さ測定(1)≫
粗化ニッケルめっき層形成前の基材11、基材11上の下地ニッケルめっき層13が形成された面、及び、粗化ニッケルめっき板1の粗化ニッケルめっき層12が形成された面について、JIS B0601:2013に準拠して、レーザー顕微鏡(オリンパス社製、型番:OLS3500)を用いて、97μm×129μm(縦×横)(測定視野幅129μm、測定面積約12,500μm2(12,500±100))の視野を測定方向を圧延方向に直角な方向としてスキャンした後、解析ソフト(ソフト名:LEXT-OLS)を用いて解析モード:粗さ解析の条件にて解析することにより、SRp、SRv、SRz、SRc、SRa、SRq、SRzjis、の各種数値を測定した。なお、レーザー顕微鏡により測定する際におけるカットオフ値は、測定視野幅(129μm)の1/3の長さである43μm程度(表示上は43.2)の波長とした。
得られた各パラメータを表2~表4に示す。
【0092】
≪3次元粗さ測定(2)≫
粗化ニッケルめっき層形成前の基材11上の下地ニッケルめっき層13が形成された面、及び、粗化ニッケルめっき板1の粗化ニッケルめっき層12が形成された面について、ISO25178-2:2012に準拠してレーザー顕微鏡(オリンパス社製、3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS5000)を使用し,各3次元表面性状パラメータ(算術平均高さSa、クルトシスSku、テクスチャのアスペクト比Str、コア部のレベル差Sk、コア部空間体積Vvc、コア部実体体積Vmc)を測定した。
具体的には、まず対物レンズ100倍(レンズ名称:MPLAPON100XLEXT)の条件で25画像(5画像×5画像)のスキャンにて作成した、視野591μm×591μmの貼り合わせ画像を取得し、解析用画像を得た。次いで、得られた解析用画像について、解析アプリケーションを用い、自動補正処理であるノイズ除去および傾き補正を行った。
その後に、面粗さ計測のアイコンをクリックして解析を行い、各3次元表面性状パラメータを得た(算術平均高さSa、クルトシスSku、テクスチャのアスペクト比Str、コア部のレベル差Sk、コア部空間体積Vvc、コア部実体体積Vmc)。
なお,解析におけるフィルター条件(F演算、Sフィルター、Lフィルター)は、すべては設定せずに、無しの条件で解析を行った。
得られた各パラメータを表3及び表4に示す。
【0093】
≪ニッケル付着量測定≫
ニッケル付着量は蛍光X線装置を用いて測定し、得られた数値を表3及び表4に示した。下地ニッケル層、ニッケル粒状物およびニッケル被膜を形成したそれぞれの工程後において蛍光X線装置により測定することで、粗化ニッケルめっき層(下地ニッケル層、ニッケル粒状物およびニッケル被膜)におけるニッケル量をそれぞれ求めた。なお具体的な測定方法については、特願2019-108779号に記載される方法と同様であるため、ここでは詳細は説明を省略する。
【0094】
≪光沢度≫
粗化ニッケルめっき層表面の60°光沢度及び85°光沢度を、光沢計(製品名「VG 7000」、日本電色工業社製)を使用して、JIS Z8741に準拠して、測定した。結果を、表4に示す。
【0095】
≪谷部領域Bの長さ、周囲長、最大径測定≫
谷部領域Bの長さ、周囲長、最大径測定は、上記3次元粗さ測定と同様にレーザー顕微鏡(オリンパス社製、型番:OLS3500)を用いて測定範囲を97×129μmとしてスキャンした後、解析ソフトを用いて上述の方法により行った。
なお、圧延方向または通板方向RDの40μm以上の長さの形成ムラの有無については、上記測定範囲(97×129μm)を1視野として、任意の合計10視野で観察し、7視野以上の視野において40μm以上の長さの形成ムラが観察されない場合を、40μm未満、とした。
【0096】
≪引張強度試験≫
<樹脂の密着性(Tピール強度)>
実施例および比較例で得られた粗化ニッケルめっき板を切断して、幅15mm、長さ50mmの寸法の試験用原板を2つ作製し、これをTピール試験片とした。そして、2つのTピール試験片について、それぞれ長さ20mmの位置で角度90°となるように折り曲げた。
次いで、各Tピール試験片の粗化ニッケル層を有する面を向い合せ、幅15mm、長さ15mm、厚さ60μmのポリプロピレン樹脂フィルム(三菱ケミカル社製、商品名「モディック」/ポリプロピレン樹脂二層フィルム、評価対象となる接合面はポリプロピレン樹脂とTピール試験片の接合面、商品名「モディック」は試験を安定させるための接着剤層)を挟み込み、温度:190℃、押付時間:5秒、ヒートシール圧:2.0kgf/cm2の条件でヒートシールを行い、2つのTピール試験片をポリプロピレン樹脂フィルムを介して接合した。ポリプロピレン樹脂フィルムを挟み込む位置はTピール試験体の長さ方向の端部であり、ポリプロピレン樹脂フィルム全体が接合面となる。
このように作製したTピール試験体に対して、引張試験機(ORIENTEC製 万能材料試験機 テンシロンRTC-1350A)を用いた引張試験を行い、剥離荷重(Tピール強度)を測定した。測定条件は室温で引張速度10mm/min.とした。Tピール強度が高いほど、樹脂との密着性に優れると判断できる。実施例・比較例ともにいずれも8N/15mm幅以上であった。
【0097】
<強度の一致率>
粗化ニッケルめっき板1の粗化ニッケルめっき層12について、圧延方向と平行方向及び直行方向の2方向において上述のTピール強度の試験を行った。2方向のTピール強度の一致率(%)を表5に示した。なお、一致率(%)については下記式により得た。
一致率(%)=「方向1の強度」/「方向2の強度」×100
ここで、上記方向1と方向2は「方向1の強度<方向2の強度」のように定義される。すなわち、上記2方向でTピール強度の試験を行った結果、Tピール強度が大きい方を方向2とし、Tピール強度が小さい方を方向1とした。
【0098】
表5に示す結果により、本実施形態は80%以上の強度の一致率が得られたのに対し、比較例においては2方向における強度の差が大きいことが示された。この結果より、本実施形態においては2方向における異方性を抑制可能であることが示された。
【0099】
<実施例2~5>
表1及び表2に示す基材を用いた以外は、実施例1と同様に行った。結果を
表3~表5に示す。また、実施例3について得られた粗化ニッケルめっき材の外観写真、任意の断面における断面曲線、輝度像、二値化像を
図3(a)に、Str測定時の3次元表面性状写真を
図3(b)に各々示す。さらに、実施例5について得られた粗化ニッケルめっき材の外観写真、任意の断面における断面曲線、輝度像、二値化像を
図4に示す。
【0100】
<実施例6>
実施例1で使用した冷間圧延板に対して、表1に示す最終圧延ロール表面粗度を有する調質圧延ロールを用いて調質圧延を行った。調質圧延の際の圧下率は表1に示すとおりとした。それ以外は実施例1と同様に行った。結果を
表3~表5に示す。また、得られた粗化ニッケルめっき材の外観写真、任意の断面における断面曲線、輝度像、二値化像を
図5に示す。
【0101】
<比較例1~3>
表1及び表2に示す基材を用いた以外は、実施例1と同様に行った。結果を
表3~表5に示す。また、比較例1におけるStr測定時の3次元表面性状写真を
図6(a)に示す。比較例2におけるStr測定時の3次元表面性状写真を
図6(b)に示す。比較例3について得られた粗化ニッケルめっき材の外観写真、任意の断面における断面曲線、輝度像、二値化像を
図6(c)に、Str測定時の3次元表面性状写真を
図6(d)に示す。
【0102】
<参考例>
下地ニッケルめっきの厚さを5μmとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を
図7に示す。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
以上説明した本発明の実施形態および実施例によれば、粗化ニッケルめっき層の不均一性や溝の発生(形成ムラ)を抑制することができる粗化ニッケルめっき材を提供することができ、例えば美しい食缶、飲料缶、電池缶等や他の部材と接合させて用いられる用途、たとえば、樹脂、活物質などの様々な部材との密着性が求められる各種容器、電子機器部材(基板など)、電池部材(外槽、集電体、タブリード)の材料として好適に応用することができる。また、異方性を抑制した粗化ニッケルめっき材を提供することが可能となるため、基材の圧延方向に拘束されることなく上記用途の製造物に適用でき、製造性が向上する。
なお上記した実施形態と各実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加の変形や切削、加飾が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の粗化ニッケルめっき材は、例えば食缶、飲料缶、電池缶等の容器用材料や、電子機器部材(基板など)、電池部材(外槽、集電体、タブリード)といった、樹脂や活物質等の他の部材と接合して用いられる用途に用いられることで優れた機能性を示すことが可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 粗化ニッケルめっき材
11 基材
12 粗化ニッケルめっき層
13 下地ニッケルめっき層