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  • 特許-モータ用ステータの予熱方法 図1
  • 特許-モータ用ステータの予熱方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】モータ用ステータの予熱方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/12 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
H02K15/12 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021554073
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026923
(87)【国際公開番号】W WO2021084808
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019194920
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】藤原 謙二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】北条 善久
(72)【発明者】
【氏名】森永 圭一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 協司
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-006423(JP,A)
【文献】特開2019-103304(JP,A)
【文献】特開2019-140880(JP,A)
【文献】特開2003-304671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の環状の電磁鋼板を積層して形成されたコアと、このコアの内周部に所定間隔で形成された複数のスロットに巻回されたコイルとを備えるモータ用ステータに対して、少なくともコアとコイルとの間の隙間に絶縁性樹脂を注入して硬化させるモールド成形を行う前に、モータ用ステータを予熱するモータ用ステータの予熱方法であって、
コイルに交流電流を通電してコイルの発熱によりモータ用ステータを予熱するものにおいて、
長尺で筒状の胴部と、この胴部の長手方向一端から外方に延在する鍔部とを備えるモールド型の胴部が上向きとなるように、モータ用ステータのコアを筒状のフレームに内嵌させた状態で、コアにモールド型の胴部を内挿してフレームの長手方向一端を鍔部上に載置すると共にモールド型の中空部と連通する開孔が形成され、開孔の外側に位置する表面に、開孔の中心を通る放射方向の直線上に延びて対をなす複数対の断熱材が設けられ、各対の断熱材が、開孔の周方向に所定間隔で配置された環状のパレットの全対の断熱材の上にモールド型の鍔部を載置して、モールド型の鍔部を水平に配置し、次いで、断熱性を有する、下面が開放された箱体をフレーム及びモールド型の外側を囲うように上方から被せて、この箱体の内部でコイルに交流電流を通電し、コイルを発熱させて、コア、フレーム及びモールド型を加熱することを特徴とするモータ用ステータの予熱方法。
【請求項2】
前記コイルを第1所定温度に加熱した後、通電を切り、コイル、前記コア、前記フレーム及び前記モールド型の全てが、前記モールド成形に適した第2所定温度になるまで放置することを特徴とする請求項1記載のモータ用ステータの予熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の環状の電磁鋼板を積層して形成されたコアと、このコアの内周部に所定間隔で形成された複数のスロットに巻回されたコイルとを備えるモータ用ステータに対して、少なくともコアとコイルとの間の隙間に絶縁性樹脂を注入して硬化させるモールド成形を行う前に、モータ用ステータを予熱するモータ用ステータの予熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のモータ用ステータの予熱方法として、コイルに交流電流を通電し、コイルを発熱させてモータ用ステータを予熱するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、コイルの通電加熱によってコアの内周部から外周部までを所定温度に均一に加熱するのには時間がかかるという問題がある。この問題を解決するために、特許文献1記載のモータ用ステータの予熱方法では、予熱の際に使用する上型又は下型の少なくともいずれか一方で、コアの外周部を挟み込む部位にヒータを設け、このヒータによりコアの外周部を直接加熱して、予熱時間の短縮を図っている。
【0004】
然し、特許文献1記載のモータ用ステータの予熱方法は、予熱後のモールド成形に用いるモールド型は予熱対象に含まれていない。このため、モールド成形前又はモールド成形中にモールド型をモータ用ステータとは別に加熱する必要があるという問題がある。また、特許文献1記載のモータ用ステータの予熱方法は、モータ用ステータの均一な予熱のためにコイルの外周部を直接加熱するヒータを必要としているため、予熱設備の構造がやや複雑であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-154348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、モータ用ステータと共にモールド型を、簡略化された予熱設備により短時間で均一に予熱することができるモータ用ステータの予熱方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、複数枚の環状の電磁鋼板を積層して形成されたコアと、このコアの内周部に所定間隔で形成された複数のスロットに巻回されたコイルとを備えるモータ用ステータに対して、少なくともコアとコイルとの間の隙間に絶縁性樹脂を注入して硬化させるモールド成形を行う前に、モータ用ステータを予熱するモータ用ステータの予熱方法であって、コイルに交流電流を通電してコイルの発熱によりモータ用ステータを予熱するものにおいて、長尺で筒状の胴部と、この胴部の長手方向一端から外方に延在する鍔部とを備えるモールド型の胴部が上向きとなるように、モータ用ステータのコアを筒状のフレームに内嵌させた状態で、コアにモールド型の胴部を内挿してフレームの長手方向一端を鍔部上に載置すると共にモールド型の中空部と連通する開孔が形成され、開孔の外側に位置する表面に、開孔の中心を通る放射方向の直線上に延びて対をなす複数対の断熱材が設けられ、各対の断熱材が、開孔の周方向に所定間隔で配置された環状のパレットの全対の断熱材の上にモールド型の鍔部を載置して、モールド型の鍔部を水平に配置し、次いで、断熱性を有する、下面が開放された箱体をフレーム及びモールド型の外側を囲うように上方から被せて、この箱体の内部でコイルに交流電流を通電し、コイルを発熱させて、コア、フレーム及びモールド型を加熱することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、コイルの発熱による熱が、箱体の内部で、コアの内周部ばかりでなく、コアの外周部、フレーム及びモールド型に効率よく伝導し、モータ用ステータと共にモールド型を短時間で均一に予熱することができる。また、予熱に際し、上記箱体を用いるだけで済むため、予熱設備の簡略化を図ることができる。
【0009】
また、本発明においては、前記コイルを第1所定温度に加熱した後、通電を切り、コイル、前記コア、前記フレーム及び前記モールド型の全てが、前記モールド成形に適した第2所定温度になるまで放置することが望ましい。これによれば、コイルへの通電時間が短くて済み、予熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のモータ用ステータの予熱方法の一実施形態を概略的に示した断面図。
図2】予熱時のコイル、モールド型、コア及びフレームの温度を夫々示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、本実施形態のモータ用ステータの予熱方法を説明する。モータ用ステータ1は、複数枚の環状の電磁鋼板(図示省略)を積層して形成されたコア11と、コア11の内周部に所定間隔で形成された複数のスロット11aに巻回されたコイル12と、筒状のフレーム13とを備えている。コア11は、フレーム13に焼嵌め等により内嵌されている。
【0012】
モータ用ステータ1の予熱時には、少なくともコア11とコイル12との間の隙間(例えば、スロット11a内のコア11とコイル12との間の隙間、コイル12を形成する導体間の隙間等)に絶縁性樹脂を注入して硬化させるモールド成形を行う際に用いられるモールド型2も予熱する。モールド型2は、中空な金型であり、長尺で筒状の胴部21と、胴部21の長手方向一端から外方に延在する鍔部22とを備えている。モータ用ステータ1を予熱する際には、モールド型2は、胴部21が上向きとなるように鍔部22を水平に配置する。このような鍔部22の安定した水平配置を実現するために、本実施形態では環状のパレット3を用いている。
【0013】
パレット3には、モールド型2の中空部2aと連通する開孔3aが形成され、開孔3aの外側に位置する表面に、開孔3aの中心を通る放射方向の直線上に延びて対をなす複数対の断熱材4が設けられている。各対の断熱材4は、開孔3aの周方向に所定間隔で配置されている。モールド型2は、鍔部22が全対の断熱材4の上に載置されて水平に配置される。尚、モールド型2の中空部2a及びパレット3の開孔3aは共に、モールド成形後に空気等の冷媒を流通させてモールド型2と共にモータ用ステータ1を冷却するための部位であり、予熱には関与しない。
【0014】
また、モータ用ステータ1の予熱時には、コア11にモールド型2の胴部21を内挿してフレーム13の長手方向一端をモールド型2の鍔部22上に載置する。次いで、断熱性を有する、下面が開放された箱体5をフレーム13及びモールド型2の外側を囲うように上方から被せる。箱体5は、上壁部51及び側壁部52を備え、上壁部51及び側壁部52は共に断熱材から形成されている。断熱材の材質については特に制限はない。また、箱体5の下端部には、コイル12の下端部に設けられた通電用のコネクタ(図示省略)と接続可能なコネクタ53が設けられている。箱体5をフレーム13及びモールド型2の上方から被せる際には、両コネクタの接続を行う。コネクタ53は加熱用の交流電源6に接続され、交流電源6には、コイル12への通電を制御する制御装置7が接続されている。
【0015】
制御装置7を介して交流電源6から交流電流をコイル12に通電すると、箱体5の内部でコイル12が発熱し、その熱が、コア11、フレーム13及びモールド型2に伝導して、コア11、フレーム13及びモールド型2を加熱する。箱体5の下端が開放され、モールド型2に中空部2aが存し、且つパレット3に開孔3aが存しても、箱体5の空間部5aでは、コイル12の発熱に伴って空気は加熱されるが、循環することはない。また、モールド型2は、パレット3上に断熱材4を介して配置されるため、コイル12の発熱による熱はパレット3には伝導しない。
【0016】
図2を参照して、図1に示すモータ用ステータの予熱方法の一実施例を示す。本実施例では、図1に示す如く、コア11、コイル12、フレーム13及びモールド型2の夫々に温度センサ8を取り付け、各温度センサ8を交流電源6を介して制御装置7と接続して、コア11、コイル12、フレーム13及びモールド型2の夫々の温度を測定した。温度センサ8の取付部位は、コイル12では、コネクタ側の上端部とコネクタから半周離れた対向側の上端部とし、モールド型2では胴部21の上端部とした。また、図示省略しているが、フレーム13では下端部とした。
【0017】
制御装置7により交流電源6から周波数590Hz、電力1690Wの高周波電力を投入して、コイル12に23Aの交流電流を通電した。図2に示す如く、20分30秒後にコイル12の通電側の上端部の温度が第1所定温度としての150℃に到達したため、制御装置7によりコイル12への通電を切った。通電中は、熱伝導度の相違等に起因する温度分布が、コア11、コイル12、フレーム13及びモールド型2に現れたが、通電を切ってから約10分後には、コア11、コイル12、フレーム13及びモールド型2の温度が110℃に収束し、この温度の収束状態は、箱体5が被されている限り継続した。
【0018】
上記の如く、本実施形態のモータ用ステータ1の予熱方法によれば、コイル12の発熱による熱が、箱体5の内部で、コア11の内周部ばかりでなく、コア11の外周部、フレーム13及びモールド型2に効率よく伝導し、モータ用ステータ1と共にモールド型2を短時間で均一に予熱することができる。また、予熱に際し、箱体5を用いるだけで済むため、予熱設備の簡略化を図ることができる。
【0019】
また、本実施形態のモータ用ステータ1の予熱方法によれば、コイル12を第1所定温度に加熱した後、通電を切り、コイル12、コア11、フレーム13及びモールド型2の全てが、モールド成形に適した第2所定温度になるまで放置することで、コイル12への通電時間が短くて済み、予熱効率を向上させることができる。
【0020】
以上、本発明を一実施形態に関して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、パレット3の使用は任意であり、使用する場合のパレット3の構造については特に制限はない。また、パレット3は、予熱位置に定置したままにするばかりでなく、ローラコンベア等の搬送手段の上に乗せて移動自在として、予熱後にモールド成形工程へ自動搬送することもできる。更に、モールド型2の形状及び構造についても特に制限はない。
【符号の説明】
【0021】
1…モータ用ステータ、11…コア、11a…スロット、12…コイル、13…フレーム、2…モールド型、21…胴部、22…鍔部、5…箱体。
図1
図2