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特許7550176樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板および配線基板
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  • 特許-樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板および配線基板 図1
  • 特許-樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板および配線基板 図2
  • 特許-樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板および配線基板 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板および配線基板
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20240905BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240905BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20240905BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240905BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08F290/06
C08J5/24 CEZ
B32B5/28 Z
B32B15/08 105Z
H05K1/03 610S
H05K1/03 630H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021574648
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2021001492
(87)【国際公開番号】W WO2021153315
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020015290
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 一路
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-063230(JP,A)
【文献】特開2018-039950(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037083(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/203511(WO,A1)
【文献】特開2011-225880(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198607(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/198606(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00-290/14
C08L 71/00-71/14
C08J 5/24
B32B 5/28、15/00-15/20
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)主鎖の末端を炭素-炭素二重結合を有する官能基で変性された変性ポリフェニレンエーテルと、
(B)架橋剤と、
(C)架橋助剤と、
(D)有機過酸化物と、
を含有し、
前記(B)架橋剤が、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリアリルシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
前記(C)架橋助剤が下記一般式(I)又は一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする樹脂組成物であって、
(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量%としたとき、
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルの含有量は、40質量%以上75質量%以下であり、
前記(B)架橋剤の含有量は、5質量%以上40質量%以下あり、
前記(C)架橋助剤の含有量は、5質量%以上10質量%以下あり、
前記(D)有機過酸化物の含有量は、0.01質量%以上15質量%以下であり、
前記前記(B)架橋剤の含有量は、前記(C)架橋助剤の含有量を超えている、
樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xはそれぞれ独立に2-プロペニル基、又は2-メチル-2-プロペニル基であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数1以上6以下のアルコキシ基である。X及びRが複数存在する場合、複数のX及び複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。l、m、nは0又は1の整数であり、かつそれらの少なくとも一つは1である。)
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立にアルキレン基である。R~Rが複数存在する場合、複数のR~Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。kは0以上4以下の整数、pは0以上4以下の整数、qは0以上10以下の整数を示す。)
【請求項2】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルが、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【化3】

(式中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルケニル基、炭素数2以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルキニル基、または炭素数6以上10以下のアリール基であり、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、Yは、酸素原子、メチレン基またはジメチルメチレン基である。複数のR~Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。rは1以上100以下の整数、sは1以上100以下の整数、r+sが2以上200以下の整数である。)
【請求項3】
さらに(E)有機溶剤としてトルエン又はメチルエチルケトンのうち少なくとも1種を含み、前記(E)有機溶剤の含有量が、前記(A)変性ポリフェニレンエーテル、前記(B)架橋剤、前記(C)架橋助剤および前記(D)有機過酸化物の合計量を100質量%としたとき、外添で25質量%以上100質量%以下であることを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
基材と、
前記基材に塗布または含浸させてなる請求項3に記載の樹脂組成物の半硬化物と、
を有することを特徴とするプリプレグ。
【請求項5】
前記プリプレグ中に含まれる、前記(E)有機溶剤が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のプリプレグの硬化物と、
前記プリプレグの硬化物の表面に設けられた導電性金属箔と、
を有することを特徴とする金属張積層板。
【請求項7】
複数の絶縁層と該絶縁層間に配置された導体層とを有する配線基板であって、
前記絶縁層が、請求項4又は5に記載のプリプレグを完全に硬化させてなるものであることを特徴とする配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、該樹脂組成物を用いたプリプレグ、金属張積層板および配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高速化および高集積化、メモリーの大容量化などが進み、それに伴って各種電子部品の小型化、軽量化、薄型化などが急速に進んでいる。そのため、材料の面でもより優れた耐熱性、寸法安定性、電気特性などが要求されている。
【0003】
従来、プリント配線板には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられている。これらの樹脂は、各種の性能をバランスよく有しているものの、高周波領域での誘電特性が不十分である。新しいプリント配線板材料として、ポリフェニレンエーテルが注目を浴び、銅張積層板への応用が試みられている(特許文献1)。一方、前記電子部品は近年、あらゆる環境で用いられるようになり、過酷な環境で用いられる場合においても、電子部品の性能を維持することが求められている。そのような電子部品に用いられるプリント配線板には信頼性、特に耐リフロー性、絶縁信頼性、接続信頼性が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-226509号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の樹脂組成物は、(A)主鎖の末端を炭素-炭素二重結合を有する官能基で変性された変性ポリフェニレンエーテル(以下、(A)変性ポリフェニレンエーテルと略す)と、(B)架橋剤と、(C)架橋助剤と、(D)有機過酸化物と、を含有し、前記(C)架橋助剤が下記一般式(I)又は一般式(II)で表される化合物である。
【0006】
【化1】
【0007】
式中、Xはそれぞれ独立に2-プロペニル基、又は2-メチル-2-プロペニル基であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基又は低級アルコキシ基である。X及びRが複数存在する場合、複数のX及び複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。l、m、nは0又は1の整数であり、かつそれらの少なくとも一つは1である。
【0008】
【化2】
【0009】
式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立にアルキレン基である。R~Rが複数存在する場合、複数のR~Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。kは0以上4以下の整数、pは0以上4以下の整数、qは0以上10以下の整数を示す。
【0010】
本開示のプリプレグは、基材と、前記基材に塗布または含浸させてなる本開示の樹脂組成物の半硬化物と、を有する。
【0011】
本開示の金属張積層板は、本開示のプリプレグの硬化物と、前記プリプレグの硬化物の表面に設けられた導電性金属箔と、を有する。
【0012】
本開示の配線基板は、複数の絶縁層と該絶縁層間に配置された導体層とを有する配線基板であって、前記絶縁層が、本開示のプリプレグを完全に硬化させてなるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示のプリプレグの一実施形態の概略構成を示す断面図である。
図2】本開示の金属張積層板の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
図3】本開示の配線基板の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
プリント配線板には、さらなる高周波領域での誘電率および誘電正接の低下が要求されている。本開示の樹脂組成物を用いることによって、誘電率および誘電正接の低いプリプレグ、金属張積層板、ならびに優れた誘電特性、耐リフロー性、絶縁信頼性および接続信頼性を有する配線基板を得ることができる。さらに、本開示の配線基板は、金属箔との密着性および耐熱性に優れたものとすることもできる。
【0015】
以下、本開示について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート基」とは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を意味する。
【0016】
<樹脂組成物>
本実施形態で用いられる(A)変性ポリフェニレンエーテルは、主鎖の末端を炭素-炭素二重結合を有する官能基で変性されたポリフェニレンエーテルであり、(B)架橋剤および(C)架橋助剤と反応して重合体(架橋物)を形成する成分である。前記(A)変性ポリフェニレンエーテルにより、硬化物の誘電率及び誘電正接をより低く抑えることができる。
【0017】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルは、主鎖の末端が炭素-炭素二重結合を有する官能基で変性された変性ポリフェニレンエーテルであれば、特に限定されない。
【0018】
前記炭素-炭素二重結合を有する官能基としては、特に限定されない。前記官能基としては、例えば、下記一般式(1)で表される官能基等が挙げられる。
【0019】
【化3】
【0020】
一般式(1)中、tは0以上10以下の整数であり、0以上3以下の整数であってもよい。Qは、アリーレン基であり、R~Rは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。また、*は結合部分を示す。
なお、一般式(1)において、tが0である場合は、Qがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合しているものを示す。
【0021】
アリーレン基は、特に限定されず、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基および芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、前記アリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子がアルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。
【0022】
~Rのアルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1以上18以下のアルキル基であってもよく、炭素数1以上10以下のアルキル基であってもよい。前記アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。前記アルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基等が挙げられる。前記アルキル基は、メチル基であってもよく、エチル基であってもよい。
【0023】
前記官能基としては、より具体的には、p-エテニルベンジル基およびm-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、メタクリレート基等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)に示す官能基は、ビニルベンジル基を含む官能基であってもよい。前記官能基は、具体的には、下記式(a)又は式(b)から選択される少なくとも1つの官能基等が挙げられる。なお、下記式(a)および式(b)中、*は結合部分を示す。
【0025】
【化4】
【0026】
【化5】
【0027】
本実施形態で用いられる(A)変性ポリフェニレンエーテルにおいて末端変性される、炭素-炭素二重結合を有する他の官能基としては、(メタ)アクリレート基が挙げられ、例えば、下記一般式(2)で示される。
【0028】
【化6】
【0029】
一般式(2)中、Rは、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1以上18以下のアルキル基であってもよく、炭素数1以上10以下のアルキル基であってもよく、炭素数1以上8以下のアルキル基であってもよい。前記アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。前記アルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基等が挙げられる。前記アルキル基は、メチル基であってもよく、エチル基であってもよい。
なお、一般式(2)中、*は結合部分を示す。
【0030】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を分子中に有していてもよい。
【0031】
【化7】
【0032】
一般式(3)中、uは1以上100以下の整数であり、1以上50以下の整数であってもよく、1以上20以下の整数であってもよい。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基またはアリール基である。R~Rが複数存在する場合、複数のR、複数のR、複数のR及び複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。なお、一般式(3)中、*は結合部分を示す。
【0033】
~Rのアルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1以上18以下のアルキル基であってもよく、炭素数1以上10以下のアルキル基であってもよく、炭素数1以上8以下のアルキル基であってもよい。前記アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。前記アルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基等が挙げられる。前記アルキル基は、メチル基、エチル基、イソプロピル基であってもよい。
【0034】
~Rのアルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2以上18以下のアルケニル基であってもよく、炭素数2以上10以下のアルケニル基であってもよく、炭素数2以上8以下のアルケニル基であってもよい。前記アルケニル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。前記アルケニル基は、具体的には、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基等が挙げられる。
【0035】
~Rのアルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2以上18以下のアルキニル基であってもよく、炭素数2以上10以下のアルキニル基であってもよく、炭素数2以上8以下のアルキニル基であってもよい。前記アルキニル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。前記アルキニル基は、具体的には、エチニル基、プロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0036】
~Rのアルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2以上18以下のアルキルカルボニル基であってもよく、炭素数2以上10以下のアルキルカルボニル基であってもよい。前記アルキルカルボニル基は、具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、シクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0037】
~Rのアルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3以上18以下のアルケニルカルボニル基であってもよく、炭素数3以上10以下のアルケニルカルボニル基であってもよい。前記アルケニルカルボニル基は、具体的には、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基等が挙げられる。
【0038】
~Rのアルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3以上18以下のアルキニルカルボニル基であってもよく、炭素数3以上10以下のアルキニルカルボニル基であってもよい。前記アルキニルカルボニル基は、具体的には、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0039】
~Rのアリール基は、特に限定されないが、例えば、炭素数6以上10以下のアリール基であってもよい。前記アリール基は、具体的には、フェニル基等が挙げられる。
【0040】
また、R~Rのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基はさらに置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、カルボキシ基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0041】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルとしては、絶縁信頼性の観点から、下記一般式(III)で表される化合物であってもよい。
【0042】
【化8】
【0043】
一般式(III)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルケニル基、炭素数2以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルキニル基、または炭素数6以上10以下のアリール基である。R~Rのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基の具体例としては、前記R~Rで例示したものを挙げることができる。また、複数のR、複数のR、複数のR及び複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
中でも、絶縁信頼性の観点から、R及びRは、水素原子であってもよく、R及びRは、メチル基であってもよい。
【0044】
は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1以上8以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。Rのアルキル基の具体例としては、前記Rで例示したものを挙げることができる。また、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。中でも、絶縁信頼性の観点から、Rはメチル基であってもよい。
【0045】
Yは、酸素原子、メチレン基またはジメチルメチレン基である。中でも、絶縁信頼性の観点から、Yはジメチルメチレン基であってもよい。
【0046】
rは1以上100以下の整数であり、1以上50以下の整数であってもよく、1以上20以下の整数であってもよい。sは、1以上100以下の整数であり、1以上50以下の整数であってもよく、1以上20以下の整数であってもよい。また、r+sは2以上200以下の整数であり、2以上100以下の整数であってもよく、2以上40以下の整数であってもよい。
【0047】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)は、特に限定されない。前記数平均分子量は、具体的には、500以上8,000以下であってもよく、800以上6,000以下であってもよく、1,000以上4,000以下であってもよい。
なお、ここで、数平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0048】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルとしては、市販品を用いることができる。前記市販品としては、例えば、SA9000(サビックス社製、商品名;数平均分子量(Mn)2,000以上3,000以下)、OPE-2St(三菱瓦斯化学(株)製、商品名;数平均分子量(Mn)2,000以上6,000以下)等が挙げられる。
【0049】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルの含有量は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量%としたとき、40質量%以上95質量%以下であってもよく、50質量%以上75質量%以下であってもよい。(A)変性ポリフェニレンエーテルの含有量を前記範囲とすることで、硬化物の誘電率および誘電正接を低くすることができ、また、耐熱性を高めることができる。
【0050】
本実施形態で用いられる(B)架橋剤は、(A)変性ポリフェニレンエーテルおよび(C)架橋助剤と反応して重合体(架橋物)を形成する成分である。ここで、本明細書において、(B)架橋剤とは、(A)変性ポリフェニレンエーテルと、(B)架橋剤と、(D)有機過酸化物とを混合して、加熱することで重合(架橋)し、高い耐熱性の重合体(架橋物)を得られるものをいう。また、(C)架橋助剤とは、(A)変性ポリフェニレンエーテルと(B)架橋剤との架橋反応の進行を助ける役割を果たすものであり、(B)架橋剤を含まずに、(A)変性ポリフェニレンエーテルと、(C)架橋助剤と、(D)有機過酸化物とを混合して、加熱しても十分に重合(架橋)が進まず、高い耐熱性の重合体(架橋物)が得られないものをいう。
前記(B)架橋剤は、炭素-炭素二重結合を分子内に有するものであれば、特に限定されない。前記(B)架橋剤を用いることにより、優れた誘電特性および耐熱性を有する硬化物を得ることができる。そして、前記(B)架橋剤において、分子内の炭素-炭素二重結合と(A)変性ポリフェニレンエーテルの炭素-炭素二重結合が重合することで、硬化物の耐熱性が向上し、高い絶縁信頼性および接続信頼性が得られる。
【0051】
前記(B)架橋剤としては、例えば、分子中に炭素-炭素二重結合を2個以上有する化合物、アルケニルイソシアヌレート化合物、スチレン、スチレン誘導体、分子中にアリル基を少なくとも1個以上有するアリル化合物、分子中にマレイミド基を少なくとも1個以上有するマレイミド化合物、変性マレイミド化合物、及び分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物等が挙げられる。また、前記分子中に炭素-炭素二重結合を2個以上有する化合物としては、分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物等が挙げられる。前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等が挙げられる。前記多官能アクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジブチルベンゼン及びポリブタジエン等が挙げられる。
前記アルケニルイソシアヌレート化合物としては、イソシアヌレート構造及びアルケニル基を分子中に有する化合物であればよく、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。前記スチレン誘導体としては、ブロモスチレン等が挙げられる。前記アリル化合物としては、トリアリルシアヌレート(TAC)等が挙げられる。前記変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中の一部がアミン変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン変性及びシリコーン変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
前記(B)架橋剤として、これらを用いると、硬化反応により架橋が形成されると考えられ、本実施形態の樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる。前記(B)架橋剤は、例示した架橋剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
また、前記(B)架橋剤としては、炭素-炭素二重結合を分子中に2個以上有する化合物と、炭素-炭素二重結合を分子中に1個有する化合物とを併用してもよい。炭素-炭素二重結合を分子中に1個有する化合物としては、具体的には、分子中にビニル基を1個有する化合物(モノビニル化合物)等が挙げられる。
【0053】
前記(B)架橋剤としては、耐熱性の観点から、ジブチルベンゼン、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、トリアリルシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートより選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよく、トリアリルイソシアヌレートであってもよい。
【0054】
前記(B)架橋剤としては、市販品を用いることができる。トリアリルイソシアヌレートとしては、例えば、TAICROS(エボニック社製、商品名)等が挙げられる。トリアリルシアヌレートとしては、例えば、TAC(エボニック社製、商品名)等が挙げられる。ジビニルベンゼンとしては、例えば、DVB-960(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、商品名)等が挙げられる。トリシクロデカンジメタノールジアクリレートとしては、A-DCP(新中村化学工業(株)製、商品名)等が挙げられる。トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートとしては、DCP(新中村化学工業(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0055】
前記(B)架橋剤の含有量は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量%としたとき、5質量%以上60質量%以下であってもよく、10質量%以上40質量%以下であってもよい。(B)架橋剤の含有量を前記範囲とすることで、硬化物の誘電率および誘電正接を低くすることができる。
【0056】
本実施形態で用いられる(C)架橋助剤は、下記一般式(I)又は一般式(II)で表される化合物であり、(A)変性ポリフェニレンエーテルおよび(B)架橋剤と反応して重合体(架橋物)を形成する成分である。一般式(I)又は一般式(II)に存在する二重結合と、(A)変性ポリフェニレンエーテルおよび(B)架橋剤に存在する二重結合とが反応して重合し、硬化物となる。
【0057】
【化9】
【0058】
一般式(I)中、Xはそれぞれ独立に2-プロペニル基、又は2-メチル-2-プロペニル基である。Xは2-プロペニル基であってもよい。Rはそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基又は低級アルコキシ基である。Rは、水素原子であってもよい。
の低級アルキル基は、炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基であってもよい。前記低級アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
の低級アルコキシ基は、炭素数1以上6以下のアルコキシ基であってもよい。前記低級アルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等が挙げられる。
また、X及びRが複数存在する場合、複数のX及び複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0059】
l、m、nは0又は1の整数であり、かつそれらの少なくとも一つは1である。
【0060】
【化10】
【0061】
一般式(II)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基である。該炭化水素基としては、炭素数1以上10以下のアルキル基であってもよく、炭素数1以上6以下のアルキル基であってもよい。前記炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。前記炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基等が挙げられる。前記炭化水素基は、メチル基であってもよく、エチル基であってもよい。
はそれぞれ独立にアルキレン基である。該アルキレン基としては、炭素数1以上10以下のアルキレン基であってもよく、炭素数1以上6以下のアルキレン基であってもよい。前記アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。前記アルキレン基としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等が挙げられる。前記アルキレン基は、メチレン基であってもよく、エチレン基であってもよい。
~Rが複数存在する場合、複数のR、複数のR及び複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0062】
kは0以上4以下の整数であり、0以上2以下の整数であってもよく、0であってもよい。pは0以上4以下の整数であり、0以上2以下の整数であってもよく、1であってもよい。qは0以上10以下の整数であり、0以上4以下の整数であってもよく、0以上2以下の整数であってもよく、0であってもよい。
【0063】
前記(C)架橋助剤としては、硬化物の耐熱性の観点からは、一般式(I)で表される化合物であってもよく、配線基板の絶縁信頼性の観点からは、一般式(II)で表される化合物であってもよい。
【0064】
前記(C)架橋助剤の分子量は、耐熱性の観点から、400以上であってもよい。上限値としては、1,000であってもよい。
【0065】
前記(C)架橋助剤としては、市販品を用いることもできる。一般式(I)で表される化合物の市販品としては、TAC HT-P(エボニック社製、商品名)等が挙げられる。一般式(II)で表される化合物の市販品としては、OGSOL AL-001(大阪ガス(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0066】
前記(C)架橋助剤の含有量は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量%としたとき、1質量%以上35質量%以下であってもよく、3質量%以上20質量%以下であってもよい。(C)架橋助剤の含有量を前記範囲とすることで、硬化物の耐熱性を高めることができ、また、該硬化物の誘電率および誘電正接を低くすることができる。
【0067】
なお、本実施形態に係る樹脂組成物には、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤および(C)架橋助剤以外の熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の少なくとも1種が添加されていてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、GPPS(汎用ポリスチレン)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
本実施形態で用いられる(D)有機過酸化物は、ラジカル開始剤として作用する化合物であれば特に限定されない。(D)有機過酸化物は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤および(C)架橋助剤をラジカル反応により重合させて、これらの重合体(架橋物)を得るために、穏和な条件でラジカルを発生させ、重合反応を進める化合物である。
【0069】
前記(D)有機過酸化物としては、公知のラジカル開始剤として機能する有機過酸化物が挙げられる。前記(D)有機過酸化物は、硬化物の誘電率をより低くする観点から、分子量が30以上400以下であってもよく、30以上300以下であってもよく、30以上200以下であってもよい。
【0070】
前記(D)有機過酸化物の市販品としては、パーブチル(登録商標)D(日油(株)製、商品名;ジ-t-ブチルパーオキサイド、分子量:146)、パーブチル(登録商標)Z(日油(株)製、商品名;t-ブチルパーオキシベンゾエート、分子量:194)、パーヘキシン(登録商標)25B(日油(株)製、商品名;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキサイド)ヘキシン-3、分子量:286)、パーブチル(登録商標)P(日油(株)製、商品名;α,α’-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、分子量:338)等が挙げられる。
なお、前記(D)有機過酸化物は、ベンゼン環を有しない構造であってもよい。前記(D)有機過酸化物は、ベンゼン環を有しないことで、硬化物の誘電正接をより効率よく低下させることができる。前記(D)有機過酸化物は、耐熱性の観点から、パーブチルDであってもよい。
【0071】
前記(D)有機過酸化物の含有量は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量%としたとき、0.01質量%以上15質量%以下であってもよく、0.5質量%以上10質量%以下であってもよい。(D)有機過酸化物の含有量を前記範囲とすることで、樹脂組成物を金属張積層板などの形成に用いる場合に、金属箔との密着性を向上させることができる。
【0072】
本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに、(E)有機溶剤を含有してもよい。(E)有機溶剤は、樹脂成分、すなわち(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤および(D)有機過酸化物を溶解または分散させるための溶剤として用いられる。
前記(E)有機溶剤としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、クロロホルムなどの溶剤が挙げられる。前記(E)有機溶剤は、溶解性、貯蔵安定性の観点から、トルエン又はメチルエチルケトンのうち少なくとも1種を含んでもよい。また、前記(E)有機溶剤は、プリプレグの乾燥性の観点から、メチルエチルケトンであってもよい。
【0073】
前記(E)有機溶剤を用いる場合、その含有量は、プリプレグの塗布性、外観の観点から、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量%としたとき、外添で25質量%以上100質量%以下であってもよく、35質量%以上65質量%以下であってもよい。
【0074】
本実施形態に係る樹脂組成物は、本開示の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、シリカ、難燃剤、応力緩和剤などを含んでもよい。
シリカとしては、この種の組成物に配合されるものであればよく、例えば、粉砕シリカ、溶融シリカなどが挙げられる。シリカは、これらを単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。シリカとしては、より具体的には、メタクリルシランで表面処理した溶融シリカが挙げられ、例えば、SFP-30MHM(デンカ(株)製、商品名)、SFP-130MC(デンカ(株)製、商品名)、FUSELEX E-2、Adma FineSO-C5、PLV-3(いずれも(株)龍森製、商品名)などを用いることができる。
【0075】
シリカとしては、平均粒径が10μm以下のシリカ粒子を用いてもよく、0.1μm以上10μm以下のシリカ粒子を用いてもよい。このような大きさのシリカ粒子を用いることによって、樹脂組成物が、例えば金属張積層板などの形成に用いられる場合に、金属箔との密着性をより向上させることができる。
なお、前記シリカの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置等を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径(50%粒径D50)のことである。
【0076】
シリカを用いる場合その含有量は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量部としたときに、5質量部以上40質量部以下であってもよく、10質量部以上40質量部以下であってもよい。シリカの含有量を前記範囲とすることで、樹脂組成物の溶融流動性がより向上する。さらに、樹脂組成物が、例えば金属張積層板などに用いられる場合に、金属箔との密着性をより向上させることができ、スルーホール接続信頼性もより向上させることができる。
【0077】
難燃剤は、この種の樹脂組成物に配合されるものであればよく、特に限定されず、例えば、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレム、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、赤燐、芳香族リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、ホスフィンオキサイド、ホスファゼン、メラミンシアノレートなどが挙げられる。これらの難燃剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。誘電特性並びに耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性、耐薬品性、信頼性などの観点から、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸アンモニウムが用いられてもよい。
【0078】
難燃剤を用いる場合その含有量は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量部としたときに、15質量部以上45質量部以下であってもよい。難燃剤の含有量を前記範囲とすることで、誘電特性、密着性および耐湿性にほとんど影響を与えることなく、耐燃性および耐熱性をより向上させることができる。
【0079】
応力緩和剤は、この種の樹脂組成物に配合されるものであればよく、特に限定されず、例えば、コアシェル構造体のシリコーン樹脂粒子、コアシェル構造体以外のシリコーン樹脂粒子などが挙げられる。シリコーン樹脂粒子としては、例えば、シリコンゴム-シリコンレジン複合パウダー(信越化学工業(株)製、商品名:X-52-7030)、MSP-1500(日興リカ(株)製、商品名)、MSP-3000(日興リカ(株)製、商品名)などが挙げられる。これらの応力緩和剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
コアシェル構造体のシリコーン樹脂粒子(以下、単にコアシェル構造体ともいう)は、コア部およびシェル部の少なくともいずれか一方にシリコーン系重合体を有するものであり、樹脂組成物の硬化物に弾性を付与するために使用される成分である。コアシェル構造体において、コア部がシリコンゴムのように弾性を有するシリコーン系重合体で、シェル部がシリコンレジンのように耐溶剤性を有するシリコーン系重合体とすることで、十分に分散し、樹脂組成物の硬化物に弾性を付与することができる。
また、コア部にシリコーン系重合体を用いた場合、耐溶剤性が良好であり、シェル部にシリコーン系重合体を用いた場合、耐熱性が良好である。
【0081】
応力緩和剤としては、10μm以下の平均粒径を有するものを用いてもよい。このような平均粒径を有する応力緩和剤を用いることによって、樹脂組成物が、例えば金属張積層板などの形成に用いられる場合に、金属箔との密着性をより向上させることができる。
応力緩和剤を用いる場合その含有量は、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、および(D)有機過酸化物の合計量を100質量部としたときに、1質量部以上10質量部以下であってもよい。応力緩和剤の含有量を前記範囲とすることで、樹脂組成物が、例えば、金属張積層板などに用いられる場合に、金属箔との密着性および耐吸湿性をより向上させることができ、スルーホール接続信頼性もより向上させることができる。
【0082】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述の成分以外にも、その用途に応じてシリカ以外の充填剤、添加剤などが適宜添加されていてもよい。シリカ以外の充填剤としては、例えば、酸化チタン、チタン酸バリウム、ガラスビーズ、ガラス中空球などが挙げられる。添加剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤などが挙げられる。添加剤は、具体的には、R-42(堺化学(株)製)、IRGANOX1010(BASF社製)などが挙げられる。充填剤および添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上述の(A)~(D)の各成分および必要に応じて他の成分を混合して得られるが、混合方法は公知の方法により行えばよく、特に限定されない。混合方法としては、例えば、全成分を溶媒中に均一に溶解または分散させる溶液混合法、押出機などにより加熱して行う溶融ブレンド法などが挙げられる。
【0084】
本実施形態に係る樹脂組成物の固形分中における前記(A)~(D)成分の含有量は、シリカを含有する場合には、35質量%以上70質量%以下であってもよく、50質量%以上60質量%以下であってもよく、シリカを含有しない場合には、60質量%以上95質量%以下であってもよく、75質量%以上85質量%以下であってもよい。
【0085】
<プリプレグ>
図1は、本開示のプリプレグの一実施形態の概略構成を示す断面図である。
本実施形態に係るプリプレグ10は、基材1と、該基材1に塗布または含浸された本実施形態に係る樹脂組成物の半硬化物2と、を有して構成される。
例えば、プリプレグは、上記説明した樹脂組成物を、常法に従って、基材に塗布または含浸後、乾燥して半硬化させて得られる。基材としては、例えば、ガラス、ポリイミドなど繊維の織布および不織布、紙などが挙げられる。ガラスの材質は、通常のEガラスの他、Dガラス、Sガラス、クォーツガラスなどが挙げられる。
【0086】
プリプレグの中で基材の占める割合は、プリプレグ全体の20質量%以上80質量%以下であってもよい。基材がこのような割合であれば、プリプレグの硬化後の寸法安定性および強度がより発揮されやすい。さらに、より優れた誘電特性も得られる。このプリプレグには、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤などのカップリング剤を使用することができる。
【0087】
本実施形態に係るプリプレグを製造する方法は特に限定されず、例えば、本実施形態に係る樹脂組成物を、必要に応じて溶剤に均一に溶解または分散させて、基材に塗布または含浸後、乾燥する方法が挙げられる。また、樹脂組成物を溶融して、基材中に含浸させてもよい。
上記溶剤としては、例えば、トルエンのような芳香族系溶剤、メチルエチルケトンのようなケトン系溶剤などが挙げられる。
【0088】
塗布方法および含浸方法は特に限定されず、例えば、樹脂組成物の溶解液または分散液をスプレー、刷毛、バーコーターなどを用いて塗布する方法、樹脂組成物の溶解液または分散液に基材を浸漬する方法(ディッピング)などが挙げられる。塗布または含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。あるいは、樹脂濃度の異なる複数の溶解液または分散液を用いて、塗布または含浸を繰り返すことも可能である。
【0089】
前記プリプレグは、例えば加熱成形に供されて積層板に加工される。積層板は、例えば、所望の厚さに応じてプリプレグを複数枚重ね合わせ、加熱加圧成形することによって得られる。さらに、得られた積層板と別のプリプレグとを組み合わせて、より厚い積層板を得ることもできる。積層成形および硬化は、通常熱プレス機を用いて同時に行われるが、両者を分けて行ってもよい。すなわち、最初にプリプレグを積層成形して半硬化の積層板を得、次に熱処理機で処理して完全に硬化させてもよい。加熱加圧成形は、80℃以上300℃以下、0.1MPa以上50MPa以下の加圧下、1分間以上10時間以下で行ってもよく、150℃以上250℃以下、0.5MPa以上10MPa以下の加圧下、10分間以上5時間以下で行ってもよい。
【0090】
また、前記プリプレグは、本実施形態の樹脂組成物として(E)有機溶剤を含有する樹脂組成物を用いる場合、プリプレグ中における(E)有機溶剤が0.5質量%以下(但し、0質量%を除く)となるようにしてもよい。すなわち、プリプレグ中に(E)有機溶剤が0質量%を超えて残存していると、得られるプリプレグの流動性が改善され、硬化後のプリプレグの金属箔との密着性も向上する。一方、プリプレグ中に(E)有機溶剤が0.5質量%以下である場合、硬化後のプリプレグのガラス転移温度の低下を低減し、耐熱性を維持できる。プリプレグ中における(E)有機溶剤の残存量は、0.1質量%以上0.3質量%以下であってもよい。(E)有機溶剤の残存量は、例えばガスクロマトグラフを用いて測定されるが、この測定方法に限定されない。
【0091】
(E)有機溶剤のプリプレグ中における含有量は、下記の方法で求められる。例えば、有機溶剤にトルエンを使用した場合、プリプレグをエチルベンゼンに溶かし、この溶液をガスクロマトグラフに導入する。前記溶液中のトルエン量を測定し、プリプレグ全体中のトルエンの質量を算出することで含有量が得られる。
【0092】
<金属張積層板>
図2は、本開示の金属張積層板の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
本実施形態に係る金属張積層板20は、本実施形態に係るプリプレグ10の硬化物を含む絶縁層11の表面に導電性金属箔12を備えて構成される。導電性金属箔12は、絶縁層11の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。また、絶縁層11は、図2に示すように、複数枚重ね合わせた積層板としてもよい。
前記金属張積層板は、プリプレグと導電性金属箔とを重ね合わせ、加熱加圧成形して得ることができる。
【0093】
ここで、導電性金属箔は、公知の金属張積層板に用いられる導電性金属箔であればよく、特に限定されない。導電性金属箔としては、例えば、電解銅箔、圧延銅箔などの銅箔、アルミニウム箔、これらの金属箔を重ね合わせた複合箔などが挙げられる。導電性金属箔は、銅箔であってもよい。
【0094】
導電性金属箔の厚みは特に限定されず、5μm以上105μm以下であってもよい。本実施形態に係る金属張積層板は、本実施形態に係るプリプレグと導電性金属箔とをそれぞれ所望の枚数重ね合わせ、加熱加圧成形しても得られる。前記金属張積層板は、例えばプリント基板の製造などに用いられる。
【0095】
<配線基板>
図3は、本開示の配線基板の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
本実施形態に係る配線基板30は、複数の絶縁層21と該絶縁層間に配置された導体層22とを有する。前記絶縁層21は、基材と本実施形態に係る樹脂組成物の硬化物、すなわち、本実施形態のプリプレグの硬化物で形成されている。
前記導体層22は、例えば、本実施形態に係る金属張積層板の導電性金属箔を所定の配線パターンにエッチングして形成することができる。
【0096】
本実施形態に係る配線基板30は、例えば、本実施形態に係る金属張積層板に回路(導体層)22およびスルーホール23が形成された内層板とプリプレグとを重ね合わせ、プリプレグの表面に導電性金属箔を積層させた後、加熱加圧成形して得られる。さらに、表面の導電性金属箔に回路(導体層)22およびスルーホール23を形成して、多層プリント配線基板としてもよい。
【実施例
【0097】
次に実施例により、本開示を具体的に説明するが、本開示は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0098】
(実施例1~12、比較例1~6)
表1及び表2に示す割合となるように、(A)変性ポリフェニレンエーテル、(B)架橋剤、(C)架橋助剤、(D)有機過酸化物、およびシリカを混合した。これらを室温(25℃)で撹拌して樹脂組成物を得た。さらに、樹脂組成物を(E)有機溶剤に溶解させて、(E)有機溶剤を含む樹脂組成物(樹脂ワニス)を得た。
【0099】
得られた樹脂ワニスに100μmの厚みを有するガラス織布(旭化成(株)製、商品名:A3313/AS760MSW)を浸漬して、樹脂ワニスをガラス織布に含浸させた。その後、ガラス織布を130℃で7分間乾燥させ、130μmの厚みを有するプリプレグを得た。
【0100】
次に、得られたプリプレグを8枚重ね合わせ積層体を調製した。得られた積層体の両面に18μmの厚みを有する銅箔を積層した。3MPaの加圧下で、190℃で90分間加熱し、プリプレグ中の樹脂を硬化させて、0.9mmの厚みを有する銅張積層板を得た。
【0101】
なお、実施例および比較例で使用した表1及び表2に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0102】
[(A)変性ポリフェニレンエーテル]
・(A1)メタクリル変性ポリフェニレンエーテル SA9000(サビックス社製、商品名;数平均分子量(Mn):2,000以上3,000以下)
・(A2)ビニルスチレン変性ポリフェニレンエーテル OPE-2St(三菱瓦斯化学(株)製、商品名;数平均分子量(Mn):2,000以上6,000以下)
【0103】
[(A)成分以外の変性ポリフェニレンエーテル]
・(a1)無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル APPE-LM(旭化成(株)製、商品名;数平均分子量(Mn):20,000以上40,000以下)
【0104】
[(B)架橋剤]
・(B1)トリアリルイソシアヌレート(エボニック社製、商品名:TAICROS、分子量:300)
・(B2)トリアリルシアヌレート(エボニック社製、商品名:TAC、分子量:249)
・(B3)トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:A-DCP、分子量:304)
【0105】
[(C)架橋助剤]
・(C1)トリアジン骨格化合物 TAC HT-P(エボニック社製、商品名;一般式(I)中のR=水素原子、X=2-プロペニル基、l=1、m=1、n=1、分子量:477)
・(C2)フルオレン化合物 OGSOL AL-001(大阪ガス(株)製、商品名;一般式(II)中のR=メチル基、k=0、p=1、q=0、分子量:458)
【0106】
[(C)成分以外の架橋助剤]
・(c1)トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート FA-731A(日立化成(株)製、商品名;下記式(IV)で表される化合物、分子量:423)
【0107】
【化11】
【0108】
[(D)有機過酸化物]
・(D1)パーヘキシン(登録商標)25B(日油(株)製、商品名;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキサイド)ヘキシン-3、分子量:286)
・(D2)パーブチル(登録商標)P(日油(株)製、商品名;α,α’-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、分子量:338)
・(D3)パーブチル(登録商標)D(日油(株)製、商品名;ジ-t-ブチルパーオキサイド、分子量:146)
【0109】
[シリカ]
・溶融シリカ SFP-30MHM(デンカ(株)製、商品名;平均粒径:0.8μm)
【0110】
[(E)有機溶剤]
・トルエン(大伸化学(株)製)
・メチルエチルケトン(三協化学(株)製)
【0111】
(プリプレグ中の有機溶剤の含有量)
各実施例及び比較例で得られたプリプレグ中の(E)有機溶剤の含有量(残存量)を、ガスクロマトグラフを用いて測定した。結果を表1及び2に示す。
【0112】
[特性]
上記得られた銅張積層板について、以下のように特性を評価した。結果を表1及び2に示す。
(誘電率、誘電正接)
得られた銅張積層板の銅箔を剥離して、PNAネットワークアナライザー(キーサイト・テクノロジー社製、型番:N5227A)を用いて、JIS C2138:2007に準じて、10GHzにおける誘電率および誘電正接を円盤型空洞共振器法にて測定した。
なお、誘電率は3.6以下を合格とし、誘電正接は0.009以下を合格とする。
【0113】
(ガラス転移温度)
得られた銅張積層板の銅箔を剥離して、動的粘弾性測定法(DMA法)にて10Hzにおけるガラス転移温度(tanδのピーク温度)を測定した。
【0114】
(ピール強度)
ピール強度については、銅張積層板の銅箔に対して、90度剥離試験を行うことにより測定した(単位:kN/m)。90度剥離試験は、硬化した銅張積層板の一端を約10mm剥がした試料を、支持金具に取り付け、上記で剥がした銅箔の先端をつかみ、試料の表面に垂直な方向に50mm/minの速さで25mm以上剥がして行った。
【0115】
(耐リフロー性)
得られた銅張積層板にスルーホールを形成した後、回路(配線層)およびスルーホール導体を形成して内層板を得た。この内層板とプリプレグを重ね合わせて、190℃、4MPaで加熱加圧して厚さ3.0mmの配線板を得た。得られた配線板を温度260℃で15秒間Pbフリーリフロー炉に通す工程を1サイクルとするPbフリーリフロー試験を行い、該配線基板の断面を走査型電子顕微鏡で確認し、該配線基板の断面に膨れ又は剥がれが発生するまでのサイクル数を求めた。
なお、表1において、20サイクル後の配線基板の断面に膨れ及び剥がれが確認されなかった場合を10サイクル以上と表記した。
【0116】
(絶縁信頼性)
得られた銅張積層板にスルーホールを形成した後、回路(配線層)およびスルーホール導体を形成して内層板を得た。この内層板とプリプレグを重ね合わせて、190℃、4MPaで加熱加圧して厚さ3.0mmの配線板を得た。スルーホール間の絶縁性を、前処理:Pbフリーリフロー(260℃、15秒間)10サイクル、条件:65℃/85%/20VDCで試験し、絶縁抵抗が10Ω以上を維持されていた時間を測定した。
なお、2000時間以上を合格とする。
【0117】
(接続信頼性)
得られた銅張積層板にスルーホールを形成した後、回路(配線層)およびスルーホール導体を形成して内層板を得た。この内層板とプリプレグを重ね合わせて、190℃、4MPaで加熱加圧して厚さ3.0mmの配線板を得た。得られた配線板をPbフリーリフロー(260℃、15秒間)10サイクルで前処理した後、-65℃×30分間と125℃×30分間の条件での処理を1サイクルとする試験を行い、該配線基板の断面を走査型電子顕微鏡で確認し、該配線基板のスルーホールにクラックが発生するまでのサイクル数を求めた。
なお、配線基板断面の走査型電子顕微鏡による確認は、1,000サイクルまでは100サイクルごとに行い、1,000サイクル以降は500サイクルごとに行った。また、表1において、3,500サイクル後の配線基板のスルーホールにクラックが確認されなかった場合を3,000サイクル以上と表記した。
なお、2,000サイクル以上を合格とする。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
表1に示すように、実施例に示す(A)~(D)成分を含む樹脂組成物を用いて得られた銅張積層板は誘電正接が低く抑えられており、かつ、これを用いて得られる配線基板は耐リフロー性、絶縁信頼性、及び接続信頼性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0121】
1 基材
2 樹脂組成物の半硬化物
10 プリプレグ
20 金属張積層板
11 絶縁層
12 導電性金属箔
30 配線基板
21 絶縁層
22 導体層(回路)
23 スルーホール

図1
図2
図3