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特許7550179コーティングを含む鋸刃またはその他の切削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】コーティングを含む鋸刃またはその他の切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240905BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240905BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20240905BHJP
   B23D 61/02 20060101ALI20240905BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20240905BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 A
C23C14/14 B
B23D61/02 Z
B23C5/16
B23B51/00 J
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021578231
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 NL2020050461
(87)【国際公開番号】W WO2021006739
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】62/872,763
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】2023484
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】2023485
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】522001367
【氏名又は名称】ナイト アカジシャン ベー.ヴェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】シュレダー,ヴェルナー
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-152456(JP,A)
【文献】特開2006-299399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0269788(US,A1)
【文献】特開2003-071611(JP,A)
【文献】特開2011-115941(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0135898(US,A1)
【文献】特表2020-537048(JP,A)
【文献】国際公開第2019/128904(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061328(WO,A1)
【文献】特開2007-144595(JP,A)
【文献】特開2007-313582(JP,A)
【文献】特開2016-107397(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B27/00-29/34
B23B51/00
B23C 5/16
B23D61/02
C23C14/06
C23C14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(5)上にコーティング(10)を含む切削工具(1)であって、前記コーティング(10)が第1層要素(20)を含み、前記第1層要素(20)が金属またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素を含む組成を有し、前記金属またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素は、第1層要素(20)中の金属およびメタロイド元素の合計の少なくとも99原子%を占め、前記第1層要素(20)が数Nlayの第1層要素の層(21)を含み、ここでNlayは少なくとも2であり、前記第1層要素の層(21)の各々は、金属またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素の窒化物層であり、Nlayの第1層要素の層(21)は、少なくとも2種の異なるタイプの層(22、23)を含み、前記異なるタイプの層(22、23)は、少なくともケイ素含有量で異なり、層(22、23)の第1のタイプ(22)は、前記金属およびメタロイド元素の合計に対する原子%で表される最も高いケイ素含有量CSi,H 有し、および前記層(22、23)の第2のタイプ(23)は、前記金属およびメタロイド元素の合計に対する原子%で表される最も低いケイ素含有量CSi,L 有し、前記最も高いケイ素含有量CSi,Hに対する前記最も低いケイ素含有量CSi,Lの比が、0.25≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から選択され、前記第1層要素(20)の厚さ(25)が1~12μmの範囲から選択され、前記第1層要素(20)において、前記金属およびメタロイド元素の合計に対して
-アルミニウムは、72~77原子%の範囲であり、
-チタンは、5~11原子%の範囲であり、
-クロムは13~20原子%の範囲であり、および
-ケイ素は0.7~1.7原子%の範囲である
切削工具(1)。
【請求項2】
前記最も高いケイ素含有量CSi,Hに対する前記最も低いケイ素含有量CSi,Lの比が、0.4≦CSi,L/CSi,H≦0.6の範囲から選択される、請求項1に記載の切削工具(1)。
【請求項3】
Si,H≦1.7、且つCSi,L≦1である、請求項1または2に記載の切削工具(1)。
【請求項4】
前記第1要素の層(21)は、0.1~0.5μmの範囲内の第1層要素の層の厚さ(215)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項5】
前記第1層要素の層(21)の各々において、チタンとクロムの組み合わせが、前記金属とメタロイド元素の合計に対して21~27原子%の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項6】
複数の第1層要素の層(21)が、数subsの、前記第1層要素の層(21)の積層されたサブセット(200)を含み、subsは少なくとも2であり、サブセット(200)のそれぞれが、前記層(22、23)の第1のタイプ(22)と前記層(22、23)の第2のタイプ(23)を含み、前記サブセット(200)のそれぞれのサブセット厚さ(205)が1μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項7】
前記積層されたサブセット(200)のうちの少なくとも1個のサブセット(200)が、少なくとも3個の異なるタイプの第1層要素の層(21)を含む、請求項6に記載の切削工具(1)。
【請求項8】
前記第1層要素(20)の厚さ(25)が、2~7μmの範囲から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項9】
前記コーティング(10)が、(i)前記基材(5)と前記第1層要素(20)との間に配置されたベース層要素(30)および/または(ii)前記第1層要素(10)の上に配置されたトップ層要素(40)をさらに含み、前記ベース層要素(30)のベース層要素厚さ(35)が0.2~1.2μmの範囲から選択され、前記ベース層要素(30)は1個以上のベース層要素の層(31)を含み、前記ベース層要素の層(31)のいずれか1個は窒化クロムおよび/またはアルミニウム-クロム-窒化物を含む窒化物層を含み、前記トップ層要素(40)のトップ層要素厚さ(45)は0.2~1.2μmの範囲から選択され、前記トップ層要素(40)が1個以上のトップ層要素の層(41)を含み、前記トップ層要素の層(41)のいずれか1個が、(i)クロムおよび/またはアルミニウムを含む窒化物層、または(ii)クロムおよび/またはアルミニウムを含む炭窒化物層を含み、前記コーティング(10)の合計コーティング厚さ(15)が3~8μmの範囲から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項10】
前記ベース層要素(30)を含み、前記ベース層要素(30)が複数のベース層要素の層(31)を含み、前記第1層要素(20)の最も近くに構成された上側ベース層要素の層(319)のアルミニウム含有量が、前記基材(5)の最も近くに構成された下側ベース層要素の層(311)のアルミニウム含有量より高い、請求項9に記載の切削工具(1)。
【請求項11】
前記切削工具(1)が丸鋸刃、工具ビット、ルータービットまたはドリルである、請求項1~10のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項12】
第1層要素(20)を含む減摩コーティング(10)であって、
前記第1層要素(20)が金属またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素を含む組成を有し、
前記金属またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素は、第1層要素(20)中の金属およびメタロイド元素の合計の少なくとも99原子%を占め、
前記第1層要素(20)が数N lay の第1層要素の層(21)を含み、ここでN lay は少なくとも2であり、
前記第1層要素の層(21)の各々は、金属またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素の窒化物層であり、
lay の第1層要素の層(21)は、少なくとも2種の異なるタイプの層(22、23)を含み、前記異なるタイプの層(22、23)は、少なくともケイ素含有量で異なり、
層(22、23)の第1のタイプ(22)は、前記金属およびメタロイド元素の合計に対する原子%で表される最も高いケイ素含有量C Si,H を有し、および前記層(22、23)の第2のタイプ(23)は、前記金属およびメタロイド元素の合計に対する原子%で表される最も低いケイ素含有量C Si,L を有し、
前記最も高いケイ素含有量C Si,H に対する前記最も低いケイ素含有量C Si,L の比が、0.25≦C Si,L /C Si,H ≦0.9の範囲から選択され、
前記第1層要素(20)の厚さ(25)が1~12μmの範囲から選択され、
前記第1層要素(20)において、前記金属およびメタロイド元素の合計に対して、アルミニウムは、72~77原子%の範囲であり、チタンは、5~11原子%の範囲であり、クロムは13~20原子%の範囲であり、およびケイ素は0.7~1.7原子%の範囲である、
減摩コーティング(10)。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載のコーティング(10)を含む切削工具(1)を物理的気相成長法によって製造する方法であって、
-基材(5)を物理的気相成長オーブン(100)の真空チャンバ(150)に提供する工程であって、前記チャンバ(150)が数Catの金属カソード(110)を含み、Catは少なくとも3であり、数Catの金属カソード(110)の少なくともサブセットが共に前記金属またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素を含む、工程、ならびに
-物理的気相成長法により、基材(5)にコーティング(10)を堆積させる工程であって、基材(5)を回転させる間に、(i)気体流体を含む窒素および任意に(ii)気体流体(130)を含む炭素を真空チャンバ(150)内に供給し、前記コーティング(10)を層ごとに堆積させ、前記コーティング(10)を提供する工程を含む、製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法であって、(i)前記金属カソード(110)の少なくとも1個が、金属またはメタロイド元素のアルミニウム、チタンおよびケイ素を含み、且つ前記金属カソード(110)の少なくとも別の1個が、前記金属元素のアルミニウムおよびクロムを含むか、または(ii)前記金属カソード(110)の少なくとも1個が、前記金属元素のアルミニウム、クロムおよびケイ素を含み、且つ前記金属カソード(110)の少なくとも別の1個が、前記金属元素のアルミニウムおよびチタンを含み、前記堆積の間、金属カソード(110)に可変蒸発電流が供給される、製造方法。
【請求項15】
金属カソード(110)の少なくとも1個がケイ素を含み、且つケイ素を含む前記少なくとも1個の金属カソード(110)が前記金属カソード(110)の別の1個に隣接して配置されている、請求項13または14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、コーティングを有する物品、特に切削工具、物品にコーティングを提供する方法、および(減摩)コーティング自体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
耐摩耗性コーティングを含む切削工具は、当技術分野で知られている。EP3228726は、例えば、本体と、該本体上にPVDによって堆積されたコーティングと、を備える被覆された切削工具であって、前記本体が、超硬合金(cemented carbide)、サーメット、セラミックス、多結晶ダイヤモンド、多結晶立方晶窒化ホウ素系材料または高速度鋼を含み、前記コーティングが、(Ti1-xAl)N(ここで、0.3≦x≦0.7である)の第1の層、および(Til-p-qAlSi)N(ここで、0.15≦p≦0.45、および0.05≦q≦0.20である)の第2の層を含み、前記本体から見て、前記第2の層が前記第1の層の外側に堆積する、被覆された切削工具を記載する。
【0003】
US2002/0168552は、(Ti1-a-b-c-d,Al,Cr,Si,B)(C1-e)0.5≦a≦0.8、0.06≦b、0≦c≦0.1、0≦d≦0.1、0≦c+d≦0.1、a+b+c+d<1、0.5≦e≦1(ここで、a、b、cおよびdはそれぞれAl、Cr、SiおよびBの原子比を示し、eはNの原子比を示す。)で構成された切削工具用硬質皮膜が記載されている。
【0004】
JP2007313582は、(a)1~5μmの平均層厚を有し、組成式:(Ti1-x-y-zA1SiCr)N(ここで、原子比で、Xは0.30~0.70を示し、Yは0.01~0.10を示し、Zは0.01~0.10を示す)を満たす、Ti、Al、SiおよびCrの複合窒化物層からなる底部層と、(b)0.4~2μmの平均層厚を有する、窒化バナジウム層と酸化バナジウム層の交互積層構造からなる頂部層であって、それぞれの層間に平均層厚0.02~0.2μmの酸窒化バナジウム層を有し、且つ1~5μmの全体の平均層厚を有する頂部層と、を含む硬質コーティング層が、炭化タングステン系超硬合金または窒化チタン系サーメットからなる工具基材の表面に形成される、硬質コーティング層を有する表面コーティング切削工具を記載する。
【0005】
JP2007144595は、表面コーティングされた切削工具を記載する。以下の(a)~(c)を含む硬質コーティング層が、炭化タングステン系超高合金または炭窒化チタン系サーメットからなる工具基材の表面に形成される。(a)平均層厚が1~5μmである、Ti、Al、SiおよびCrの複合窒化物層からなる下側層であって、組成式(Ti1-x-y-zAlSiCr)N(ここで、原子比で、Xは0.30~0.70を示し、Yは0.01~0.10を示し、Zは0.01~0.15を示す)を満たし、(b)平均層厚0.1~1.5μmを有する、窒化バナジウム層からなる層間接着層である。(c)窒化バナジウム層と酸化バナジウム層の交互積層構造を有する上側層であって、0.1~1μmの1層あたりの平均層厚を有し、1~5μmの全体の平均層厚を有する、上側層である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】EP3228726
【文献】US2002/0168552
【文献】JP2007313582
【文献】JP2007144595
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
切削工具、穴あけ工具およびミリング工具は、しばしば保護コーティングを含む。コーティングは、機械的、熱的および化学的負荷に対して工具材料(基材または本体)を保護するために提供される。コーティングは、例えば、工具寿命を延長するため、および/または工具加工中の摩擦を最小化するために施され、これによっても工具寿命を延長することができ、同時に必要な切削力を減少させることができる。コーティングは、切削や(金属)成形のための工具の摩擦や摩耗などの摩擦特性を改善するために使用することができ、また機械要素、例えば滑り軸受、シール、バルブなどの特性を改善するために使用することができる。そのようなコーティング、特に、さらなる要素に相対的に移動される物品の特性を改善するコーティングは、「減摩コーティング(tribological coatings)」とも呼ばれることがある。減摩コーティングは、基材が摩擦および摩耗性能において役割を果たすことができるように、比較的薄くてよい(例えば、10μmもしくは20μmまで、あるいはそれ以下)。減摩コーティング(さらに「コーティング」とも呼ばれる)は、化学的気相成長法または物理的気相成長法によって基材に施すことができる。
【0008】
これらのコーティングは、堆積する材料がその気相から施されるので、ガス状コーティングとして分類される。コーティングの要求されるその特性は、工具速度、被加工材、温度、切削形状などの工具条件によって決定することができる。特に、被加工材、工具の速度、工具に対する被加工材の相対的な移動は、工具の摩耗や工具表面の温度に最も関連する要因であり得る。
【0009】
コーティングは、基材よりも摩耗率の低い硬質保護カバーを提供すること、基材の温度上昇を抑える熱障壁を提供すること、基材と切削金属間の成分交換を最小限に抑える化学障壁を提供すること、加工材との摩擦係数を下げて工具加工中の摩擦力を低下させ、その結果、発熱量が低下して摩耗率を下げることによって、この摩耗に対抗するように構成することができる。
【0010】
切削工具では、軟質で強靭な基材に薄くて硬いコーティングを施すことで、工具の寿命を10倍以上に延ばすことができる場合が多い。長年にわたり、さまざまなコーティング構造が開発されてきた。最も単純なコーティング構造は、特に単一の機能層を含み、モノリシック構造と呼ばれる。当技術分野では、多くの異なる組成と下部構造を有する多くの異なるコーティングが知られている。第一世代の窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)および窒化ジルコニウム(ZrN)、同様に後に開発された窒化チタンアルミニウム(TiAlN)、窒化アルミニウムクロム(AlCrN)コーティング層およびナノ構造層はすべてモノリシックコーティングと呼ばれている。
【0011】
多層コーティングもまた知られており、本質的に機能が異なるモノリシックコーティングの組み合わせからなる。すなわち、一の層のタイプは特に硬度を高める一方で、他の層は摩擦係数を下げることができる。これらの様々な層は、2個の層の接着を改善し、且つ基材の方向への亀裂の伝播を防止するために、一般に中間層によって共に結合されている。ナノコンポジット構造体は、1個の層に様々な成分の混合物含んでいてもよい。
【0012】
通常、基材はまず中間(またはベース)層で覆われ、基材上のコーティング構造の接着性を向上させる。トップ層は、しばしば構造体を仕上げる。トップ層は、工具の使用開始時に、より均等な摩耗が得られるようにするために、例えば、機能層よりも低い摩擦係数を有するように構成することができる。
【0013】
ここで、コーティングは、さらに、コーティングを含む(丸)鋸刃に基づいて説明することができる。しかしながら、コーティングは、例えば、摩耗を改善し、および/または摩擦を低下させるための機能的コーティングであってもよく、あらゆる種類の工具または機械部品に提供することができることに留意されたい。コーティングは、例えば、切削工具、穴あけ工具、またはミリング工具に提供されてもよい。したがって、そのようなコーティングを含む本発明の工具は、例えば、(丸)鋸刃、工具ビット、ルータービット、ドリルなどであってもよい。そのような工具は、少なくとも部分的にコーティングによって覆われていてもよい。
【0014】
上述したように、異なる種類の工具または機械部品に適用することができる異なるコーティングが知られている。
【0015】
以下の表では、切削工具のためのいくつかのコーティングの下部構造の組成物が、それらのそれぞれの特性と共に列挙されている。
【0016】
【表1】
【0017】
好ましくは、コーティングは高い硬度を持ち、摩擦係数が低く、非常に高い温度でも安定である。コーティングが硬ければ硬いほど、摩耗はより少なくなる。特に、高張力鋼を切断する場合、硬いコーティングが必要になることがある。特に切削時の温度上昇は、コーティングがその特性を維持できるかどうかを左右することがある。切削速度が速い場合、(直接または切削される材料を介した)不十分な冷却が、工具(の表面)の高温を結果としてもたらし得る。その場合、温度安定性が比較的低いコーティングは、その特性を維持できないかもしれない。低い摩擦係数は、潤滑剤として作用し、温度上昇をある程度抑制することで助けになり得る。
【0018】
数十年前から、研究はコーティング(の減摩特性)の改良に焦点を当てている。しかし、いまだに多くのコーティングが、高い摩擦および/または高い摩耗に悩まされているようである。コーティングを施した部品や工具は、一定期間使用すると、亀裂が入るか、あるいはコーティングの一部が剥がれたりすることがある。今日でもなお、工具部門はより高い生産性とより効率的な生産を求めている。したがって、より長い期間および/またはより高い速度で適用されることができ、その結果、ダウンタイムが減少し、および/または生産性を増大し得る、さらなる改良されたコーティングの必要性が依然として存在する。
【0019】
したがって、本発明の一態様は、コーティングを含む代替品、特に代替(切削)工具を提供することであり、この代替品は、好ましくはさらに、上述の欠点の1個以上を少なくとも部分的に取り除くものである。さらに、本発明の目的は、(減摩)コーティング、特に物品に含まれるコーティングであって、好ましくはさらに上記欠点の1個以上を少なくとも部分的に取り除くものを提供することである。本発明はさらに、(減摩)コーティング、特に本発明のコーティングであって、好ましくはさらに上記欠点の1個以上を少なくとも部分的に取り除くものを、基材に、特に切削工具の基材に提供する方法を提供する。
【0020】
本発明は、先行技術の欠点の少なくとも1つを克服または改善すること、あるいは有用な代替手段を提供することを目的とし得る。
【0021】
本発明のコーティングは、先行技術の解決策と比較して、使用後の摩耗がより少ないことを示し得る。コーティング(および物品)は、より長い(工具)寿命を有することができる。コーティングは、使用されるときにより低い摩擦を提供し得る。工具で加工される材料は、それゆえ、先行技術の解決策と比較して、より少ない程度で熱くなり得る。コーティングを含む成形品/工具は、先行技術の工具と比較して、交換を必要とする前に、より長い期間使用することができる。工具は、先行技術の工具と比較して、より高い速度での工具加工を可能にすることができる。したがって、物品および/または工具は、生産性および効率を向上させ、工具を交換するために要する時間を短縮することができる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
したがって、第1の態様において、本発明は、(基材上の)コーティングを含む物品、特に(切削)工具であって、前記コーティングが第1層要素を含み、第1層要素は、金属(および/またはメタロイド)元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む(実質的に金属(および/またはメタロイド)元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素からなる)全体組成を有するものを提供する。さらに、実施形態では、第1層要素は、1個以上の(積層された)、特に数Nlayの第1層要素の層を含む。さらに、特に、第1層要素の層の各々は、窒化物層を含む(または、窒化物層である)。具体的な実施形態では、Nlayは少なくとも2である。さらに、実施形態では、特に、第1層要素の層の各々は、金属およびメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む(の)窒化物層を含む(である)。特に、第1層要素の層の各々は、金属および/またはメタロイド元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素の(実質的にそれらのみの)窒化物層である。さらなる具体的な実施形態において、Nlayの(積層された)第1層要素の層は、少なくとも2種の異なるタイプの層を含み、異なるタイプの層は、少なくともケイ素含有量で異なり、特に(異なる)層の第1のタイプは、(その層の第1のタイプにおける)前記金属およびメタロイド元素の合計に対して最も高いケイ素含有量CSi,H(原子%)を有し、および(異なる)層の第2のタイプは、(その層の第2のタイプにおける)前記金属およびメタロイド元素の合計に対して最も低いケイ素含有量CSi,L(原子%)を有する。さらに、特に、最も高いケイ素含有量CSi,Hに対する最も低いケイ素含有量CSi,Lの比は、0.1≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から、特に0.25≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から選択される。
【0023】
特に、第1層要素において、アルミニウムは、前記金属とメタロイド元素の合計に対して、少なくとも68原子%で使用可能である。特に、(第1層要素において)ケイ素は、前記金属とメタロイド元素の合計に対して0.5~2原子%の範囲で使用可能である。コーティングは、特に減摩コーティングである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明による工具の一実施形態を模式的に示す図である。
図2】コーティングのいくつかの態様を模式的に示す図である。
図3】コーティングのいくつかの態様を模式的に示す図である。
図4】本発明のいくつかのさらなる態様を模式的に示す図である。
図5】本発明のいくつかのさらなる態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
さらなる態様において、本発明は、(基材上の)コーティングそれ自体を提供する。
【0026】
「基材」という用語は、特に、コーティングを含む物品および/または工具の本体に関するものであってよい。従って、基材は、(最終的な)物品のために構成された特性を含んでいてもよい。基材は、例えば、コーティングされていない(ローラ)ベアリングの(一部)またはコーティングされていないドリルビットを含んでいてもよい。基材は、コーティングされていない(丸)鋸刃のような(コーティングされていない)工具を含んでいてもよい。基材は、実施形態では、コ―ティングされる鋸刃の未コーティングの歯、チップまたはインサートを含んでいてもよい。コーティングは、実施形態において、マイクロメートルの範囲の厚さを含んでいてもよい。コーティングの総コーティング厚さは、実施形態では、例えば、1.5~12μmの範囲から、特に3~8μmの範囲から選択されてもよい(さらに下記参照)。
【0027】
したがって、特に基材の寸法は、実質的に(最終的な)物品/工具の寸法と同じである。さらに、基材は、炭化タングステン、炭化チタン、または炭化タンタルなどの超硬合金(を含む材料)を含んでいてもよい。さらなる実施形態では、基材は、高速度鋼を含んでもよい。基材の寸法および材料は、物品/工具を提供するために特に選択される。
【0028】
したがって、実施形態では、(物品または)工具は、鋸刃、工具ビット、ルータービットまたはドリルなどの切削工具である。特に、切削工具は、(丸)鋸刃である。切削工具は、さらなる実施形態では、鋸刃、特に丸鋸刃の歯、インサートまたはチップであってもよい。切削工具は、炭化タングステンの先端の切削工具であってもよい。
【0029】
それゆえ、実施形態では、第1層要素は、1個の第1要素層を含む(からなる)。具体的な実施形態では、第1層要素は、複数の第1層要素の層を含む。さらなる実施形態では、第1層要素の層は、数Nlayの第1層要素の層を含む。複数の第1層要素の層は、特に、互いの上に(接触して)構成され、すなわち、積層構成で、特に、それぞれの(連続する)層が少なくとも部分的に互いを覆っている。第1層要素が、例えばNlay個の第1層要素の層を含む場合、2番目の第1層要素の層は、1番目の第1層要素の層で(かつ接触して)構成されていてもよく、および特に少なくとも部分的に1番目の第1層要素の層を被覆していてもよく、(存在する場合には)3番目の第1層要素の層は、2番目の第1層要素の層で(かつ接触して)構成されていてもよく、および特に少なくとも部分的に2番目の第1層要素の層を被覆していてもよく、…、およびNlay番目の第1層要素の層はNlay-1番目の第1層要素の層で(かつ接触して)構成されていてもよく、および(特に)少なくとも部分的にNlay-1番目の第1層要素の層を被覆していてもよい。
【0030】
ここで、第1層要素の層という用語は、複数の(異なる)第1層要素の層に関するものであってもよい。また、用語「ベース層要素の層」、「トップ層要素の層」、「中間層要素の層」、および任意の他の層要素(の層)は、それぞれ複数の(異なる)ベース層要素の層、(異なる)トップ層要素の層、および(異なる)中間層要素の層、および任意の他の層要素(の層)に関するものであってもよい(さらに以下を参照のこと)。
【0031】
第1層要素は、アルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素の元素を含む全体組成を有し、ここではまた、それぞれ「Al」、「Cr」、「Ti」、および「Si」とも示す。特定の実施形態では(また)、第1層要素の層の各々は、金属元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む。
【0032】
ケイ素は、一般にメタロイドとして認識され得る。しかし、ケイ素(Si)は、金属元素として認識されることもある。ここでは、わかりやすくするために、Siを金属元素として示すことがある。したがって、「金属元素」という用語は、金属元素およびメタロイド元素を指すこともある。特に、「金属元素のAl、Cr、Ti、およびSi」という表現、およびそれに類する表現は、「金属元素のAl、Cr、およびTi、ならびにメタロイド元素Si」を指す場合もある。特に、ここで、「金属元素」という用語は、金属元素とメタロイド元素との組み合わせ(合計)を示す場合もある。
【0033】
したがって、第1層要素は、金属元素Al、Cr、Ti、およびSiを含む。Al、Cr、Ti、およびSiは、必ずしも第1層要素(または第1層要素の層)中の唯一の金属(および/またはメタロイド)元素であるとは限らない。第1層要素(の層)は、他の金属元素および/またはメタロイド元素を(少量)含有していてもよい。例えば、(第1層要素の層の)金属元素(およびメタロイド元素)の合計の最大10原子%、特に最大5原子%、更に特に最大1原子%、例えば最大0.5原子%、または最大0.1原子%(1000ppm)、などである。実施形態では、第1層要素(の層)は、他の金属元素(またはメタロイド元素)などの不純物を(金属)元素(およびメタロイド元素の合計の)1000ppmに対して数ppmまたは数ppbの範囲で含んでいてもよい。
【0034】
第1層要素(の層)において、金属は主に窒化物として存在してもよい。用語「窒化物」は、特に、窒化物アニオンと金属元素(またはメタロイド元素)のカチオンのうちの1種以上とを含む化合物に関する。アニオンとカチオンは、異なる錯体および/または結晶構造を形成してもよい。窒素/窒化物の含有量は、好ましくは化学量論に近いが、化学量論から約80%~110%の範囲で変動してもよい。しかし、窒素の少なくとも一部は、特に高い動作圧力において、金属元素に結合していない状態で存在してもよい。この結合していない窒素は、一般に、コーティングの特性に負の影響を及ぼすと想定される。好ましくは、コーティング中に存在する窒素の1原子%未満が金属元素に結合していない。
【0035】
前記層は、例えば、さらに炭素および/または酸素を、例えば、0および2原子%の間の濃度の炭素および/または酸素を含んでいてもよい。ここで、言及される前記層の「名称」は、化合物の組成に基づくものであってよい。したがって、窒化物層が実質的に金属元素の金属1(M1)、金属2(M2)、…、および金属n(Mn)からなる場合、その層を「金属1金属2…金属n窒化物」層または(M1M2…Mn)N層ということができる。したがって、Al、Ti、CrおよびSiの元素を含む窒化物層は、アルミニウムクロムチタンケイ素窒化物/(AlCrTiSi)N層ということができる。さらに、このような層を、AlCrTiSiを含む窒化物層ということ(もまた)可能である。同様に、アルミニウムチタン窒化物層とは、実質的にアルミニウムおよびチタンの金属元素のみを含む窒化物層をいう。このような層は、(AlTi)Nと表示されることもある。
【0036】
さらに、コーティングの層要素の一部、特にトップ層要素(後述する)は、炭窒化物層を含んでいてもよい。また炭窒化物は、金属元素(例えば、窒化物に相当する)と錯体を形成することができる。したがって、炭窒化物層が実質的に金属元素の金属1(M1)、金属2(M2)、…、および金属n(Mn)からなる場合、層は「金属1金属2…金属n炭窒化物」層または((M1M2…Mn)CNまたは)ということができる。
【0037】
第1層要素は、AlCrTiSiの窒化物層を含む。なお、異なる金属元素の互いに対する含有量は、次式AlCrTiSiおよび(AlCrTiSi)Nのように、さらに下付き文字で示すことができる。このような表記において、下付き文字は、金属元素(原子)の合計に対する特定の金属元素(原子)の割合または比率を示す。このような表記は、当業者には知られている。
【0038】
さらに、「第1層要素が、金属元素(および/またはメタロイド元素)アルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む全体組成を有する」という表現は、(AlCrTiSi)Nを含む第1層要素に関するものであってもよい。この表現は、特に、実質的に(例えば、少なくとも99原子%、特に少なくとも99.5原子%などの少なくとも95原子%)(AlCrTiSi)Nからなる第1層要素に関するものであってもよい。(第1層要素中で)アルミニウムが金属元素の合計に対して少なくとも68原子%で使用可能であり、ここで、(第1層要素中で)ケイ素が金属元素の合計に対して0.5~2原子%の範囲で使用可能である、のような表現は、それゆえ、(AlCrTiSi)N(ここで、a≧0.68、且つ0.005≦d≦0.02である)を含む(または実質的に(AlCrTiSi)N(ここで、a≧0.68、且つ0.005≦d≦0.02である)からなる)第1層要素として公式化することもまた可能である。
【0039】
したがって、特定の実施形態では、第1層要素は、(AlCrTiSi)Nを含み、ここで、a≧0.68である。さらなる実施形態では、第1層要素は、(AlCrTiSi)Nを含み、ここで、0.005≦d≦0.002である。
【0040】
さらに、(第1層要素において)追加の金属元素を排除しないため、(第1層要素中で)a+b+c+d≦1であり、特にa+b+c+dは少なくとも0.9であり、特に少なくとも0.95であり、さらに特に少なくとも0.99であり、例えば少なくとも0.995である。
【0041】
ここでは、用語「at.%」または原子%が使用される。(通常、)原子パーセントは、原子の総数に対する1種類の原子の百分率を示す。ここでは、原子%(at.%)は、特に金属元素(のみ)との関係で使用される。本明細書で使用される原子%は、特に、関係する各要素に含まれる金属元素の合計に対する各金属元素の原子の百分率をいう。例えば、関係する要素が第1層要素であり、「第1層要素が70原子%のアルミニウムを含む(または使用できる)」と記載されている場合、これは特に、第1層要素が、第1層要素中の(アルミニウムを含む)全ての金属(およびメタロイド)の原子100原子あたり、70原子の特定の金属元素を含むことを意味する。例えば、本明細書において、第1層要素の層が、(金属元素の)アルミニウム、チタン、クロムおよびケイ素を含む窒化物層を含むことが記載されており、ここで、(アルミニウム、チタン、クロムおよびケイ素ならびに任意にさらなる金属/メタロイド元素の)金属(およびメタロイド)元素の合計の少なくとも70原子%が(第1層要素の層中の窒素原子の数に関係なく)アルミニウム原子であるというより、第1層要素の層が(金属元素の合計(または金属およびメタロイド元素の合計)に対して)少なくとも70原子%のアルミニウムを含む(またはここでアルミニウムが少なくとも70原子%で使用可能である)。
【0042】
ここで、また、「含有量」という用語が使用される。その用語はまた、特に、原子、元素またはイオン等の総数に対する(それぞれの金属の)原子またはイオンの数(特に原子%を指す)を指していてもよく、したがって、層のサイズもしくは厚さ、または他の金属元素のいずれかの重量から独立したものである。含有量は、原子%で、特に金属元素の総数に対する原子%で表されてもよい。
【0043】
さらなる実施形態では、アルミニウムは、第1層要素(の層)において、(第1層要素の層中で使用できる金属元素の合計量に対して)少なくとも70原子%、例えば少なくとも72原子%、より特に少なくとも72.5原子%で使用可能である。特に、アルミニウムは、第1層要素(の層)において、(第1層要素の層中で使用できる金属元素の合計量に対して)80原子%以下、例えば少なくとも78原子%以下であり、より特に77原子%以下であり、例えば75原子%以下で使用可能である。実施形態では、アルミニウムは、第1層要素(の層)において、(第1層要素の層中で使用可能な金属元素およびメタロイド元素の合計量に対して)72.5~75原子%の範囲で使用可能である。
【0044】
したがって、さらなる実施形態において、第1層要素(の層)は、(AlCrTiSi)Nを含み、ここで、a≧0.70であり、例えば≧0.72であり、特に≧0.725であり、および特にc≦0.80であり、例えば≦0.78であり、特に≦0.77であり、例えば≦0.75である。
【0045】
したがって、特にアルミニウムは、第1層要素において、金属元素の合計に対して最大80原子%で使用可能である。
【0046】
チタンはさらに特に、第1層要素において、特に第1層要素の層において、金属元素の合計に対して少なくとも4原子%、例えば少なくとも5原子%で使用可能であってよい。したがって、実施形態では、第1層要素(の層)の(AlCrTiSi)Nにおいて、c≧0.04である。さらなる実施形態では、第1層要素(の層)の(AlCrTiSi)Nにおいて、c≧0.05であり、例えば≧0.07であり、特に≧0.08である。第1の層要素(の層)中のチタンの含有量は、(第1層要素の層中の金属元素の合計量に対して)特に15原子%以下、例えば13原子%以下、特に11原子%以下である。したがって、さらなる実施形態において、第1層要素(の層)は、(AlCrTiSi)Nを含み、ここで、c≦0.15であり、特に≦0.13であり、例えば≦0.11であり、例えば0.05≦c≦0.11、または0.08≦c≦0.11である。
【0047】
さらなる実施形態では、クロムは、第1層要素において、金属元素の合計に対して最大22原子%、特に最大20原子%、例えば18原子%以下で使用可能である。第1層要素(の層)は、少なくとも10原子%の、例えば少なくとも11原子%の、さらにより特に少なくとも12原子%、例えば少なくとも13原子%のクロムをさらに含んでいてもよい。それゆえ、クロムは、第1層要素(の層)において、10~22原子%の、特に12~21原子%の、さらに特に13~20原子%の、またはさらに13~18原子%の範囲から選択される原子パーセントで使用可能であってよい。
【0048】
したがって、さらなる実施形態において、第1の層要素(の層)は、(AlCrTiSi)Nを含み、ここで、b≦0.22、特に≦0.20、例えば≦0.18である。第1の層要素(の層)は、特に、(AlCrTiSi)Nを含んでいてもよく、ここでb≧0.10であり、特に≧0.11であり、例えば≧0.13であり、例えば0.10≦b≦0.22であり、特に0.11≦b≦0.21、更に特に0.13≦b≦0.2である。
【0049】
第1層要素(の層)のケイ素の存在は、コーティングの耐摩耗性の改善をもたらし得る。しかし、実験的には、ケイ素の最小含有量未満では、有意な効果が示されないことが観察された。さらに、特定の最大ケイ素含有量よりも高いケイ素含有量も、コーティングの摩耗特性に対して正の効果を有しないか、または実施形態において負の効果を有しさえするようであった。好ましくは、ケイ素は、第1層要素において(第1層要素中の金属元素の合計に対して)少なくとも0.5原子%で、例えば少なくとも0.6原子%で、特に少なくとも0.7原子%で使用可能である。さらに、特定の実施形態では、ケイ素は、第1層要素において(第層要素中の金属元素の合計に対して)最大2原子%、例えば最大1.9原子%、特に最大1.7原子%、またはさらに最大1.5原子%で使用可能である。ケイ素原子は、他の金属/メタロイド元素と結合せず、分離したケイ素(窒化物)領域を形成し得る。特に、2原子%以上のケイ素濃度で、コーティング特性を低下させる可能性がある。より高いSi量では、コーティングの構造が変化する可能性がある。さらに、非常に少量のケイ素しか必要ないとの仮説もある。ケイ素が豊富な領域は、コーティングの表面の摩耗の間に、最終的にコーティング内で移行する可能性がある。それゆえ、第1層要素は特に、少なくとも0.5原子%のSi、例えば少なくとも0.7原子%、例えば0.5~2原子%の範囲から、特に0.6~1.9原子%の範囲から、さらに特に0.7~1.7原子%の範囲、例えば0.7~1.5原子%の範囲から選ばれる。特に、また、第1層要素の層におけるケイ素の含有量(原子%)は、第1層要素との関係で(上述した)範囲内であってもよい。実施形態では、第1層要素(の層)中のケイ素含有量は、金属(およびメタロイド)元素の合計に対して約1原子%であってもよい。しかし、特定の実施形態では、第1層要素の層の少なくとも1個におけるケイ素含有量(原子%)は、第1層要素に関して説明した値より高くてもよい。さらなる実施形態では、第1層要素の層の少なくとも1個は、第1層要素に関して説明した値よりも低くてもよい(ただし、特に0原子%よりも大きく、例えば少なくとも0.25原子%である)。第1層要素における(全体の)ケイ素含有量は、特に0.5~2原子%の範囲、例えば0.7~1.7原子%の範囲、特に0.7~1.5原子%の範囲である。実施形態では、第1層要素における(全体の)ケイ素含有量は、1±0.25原子%である。
【0050】
したがって、さらなる実施形態では、第1層要素(の層)は、(AlCrTiSi)Nを含み、ここで、d≦0.02であり、特に≦0.019であり、例えば≦0.017である。第1層要素(の層)は、特に(AlCrTiSi)Nを含んでいてもよく、ここで、d≧0.005であり、特に≧0.006であり、例えば≧0.007であり、例えば0.005≦d≦0.02であり、特に0.006≦d≦0.019であり、さらに特に0.007≦d≦0.017であり、実施形態では、0.007≦d≦0.015である。
【0051】
異なるパーセンテージを示す上述の実施形態は、特に組み合わせてもよい。例えば、実施形態において、第1層要素(の層)は、(AlCrTiSi)Nを含み、ここで、0.72≦a≦0.77、0.13≦b≦0.2、0.05≦c≦11、および0.07≦d≦0.017である。特に、提供されたそのような組成物を用いて、耐久性のあるコーティングが製造されている。
【0052】
特定の実施形態では、第1層要素(の層)において、アルミニウムは72~77原子%の範囲で使用可能であり、チタンは5~11原子%の範囲で使用可能であり、クロムは13~20原子%の範囲で使用可能であり、およびケイ素は0.7~1.7原子%の範囲で、特に0.7~1.5原子%の範囲で使用可能である(ここで、全ての原子%は第1層要素(の層)中の金属およびメタロイド元素の合計に対して規定される)。したがって、そのような実施形態では、第1層要素(の層)中の金属原子Al、Cr、Ti、およびSi(さらに任意のさらなる金属原子)の72~77%がアルミニウム原子であると理解され得る。さらに、第1層要素の層において使用可能であるアルミニウム、クロム、チタンおよびケイ素の合計が100原子%以下であると理解されるだろう。実施形態では、金属元素のクロムおよびチタンの合計は、第1層要素の層において、約20~30原子%、特に21~27原子%、さらに特に22~26原子%の範囲で使用可能であってよい。第1層要素は、特に機能的な層要素であり、特にコーティングの耐久性の向上において機能的な層要素である。
【0053】
さらなる実施形態では、コーティングは、さらなる層要素を含んでいてもよい。コーティングは、例えば、基材と第1層要素との間に配置されたベース層要素を含んでいてもよく、第1層要素を基材に接着させるように構成されていてもよい。加えて、または代わりに、コーティングは、特に物品および/または(切削)工具の外側面で、第1層要素の上に、特に第1層要素を被覆するように配置されたトップ層要素を含んでいてもよい。トップ層要素は、特に物品(工具)と切削工具によって切削される材料などのその物品(工具)に接触する材料との間の摩擦を下げるように構成されていてもよい。トップ層要素は、特に、摩擦係数を低下させるために炭素を含んでいてもよい。さらなる実施形態において、トップ層要素は、物品/工具の再コーティングを可能にするため、および/または物品の耐薬品性を高めるために構成される。これらの異なる層要素は、(唯一の)1個のそれぞれの層要素の層を含んでいてもよい。しかし、これらの異なる層の少なくとも1個、特に両方の層要素は、実施形態において、複数の(積層された)それぞれの層要素の層を含んでいてもよい。それゆえ、実施形態において、トップ層要素の層の少なくとも1個は、炭窒化物層を含む。トップ層要素の層は、窒化物層をさらに含んでいてもよい。さらに、実施形態において、少なくとも、基材から最も離れて構成されたトップ層要素の層は、(再コーティングを可能にするために構成された)窒化物層を含んでもよい。
【0054】
基材と第1層要素との接着性をさらに向上させるために、ベース層要素の層の組成を基材から第1層要素の方向へと、ベース層要素中で(徐々に)(層ごとに)変化させてもよい。基材に接触するように構成されたベース層要素の層(の組成)は、基材との接着性が良好になるように選択されてもよい。第1層要素に接触するように構成されたベース層要素の層(の組成)は、第1層要素との接着性が良好となるように構成されていてもよい。ベース層要素において、特にアルミニウムの含有量(原子%で表される)は、ベース層要素の連続する層中で(基材から第1層要素の方向へと)増大させてもよい。
【0055】
したがって、さらなる実施形態において、第1層要素の最も近くに、特に接触するように、構成された上側ベース層要素の層のアルミニウム含有量は、基材の最も近くに、特に接触するように、構成された下側ベース層要素の層のアルミニウム含有量よりも高い。他の含有量と同様に、アルミニウム含有量は、特に(それぞれのベース層要素の層における金属元素の合計に対する)原子%で表される(上記も参照のこと)。
【0056】
それゆえ、実施形態において、コーティングは、(i)基材と第1層要素との間に配置されたベース層要素、および/または(ii)(物品/工具の外側面で)(被覆するように)第1層要素の上に配置されたトップ層要素をさらに備え、ベース層要素は1個以上のベース層要素の層を含み、特にベース層要素の層のいずれか1個は窒化クロムおよび/またはアルミニウム-クロム-窒化物を含む窒化物層を含み、およびトップ層要素は1個以上のトップ層要素の層を含み、特にトップ層要素の層のいずれか1個は(i)CrNおよび/または(AlCr)Nなどのクロムおよび/またはアルミニウムを含む窒化物層、または(ii)CrCNおよび/または(AlCr)CNなどのクロムおよび/またはアルミニウムを含む炭窒化物層を含む。
【0057】
ベース層要素は、0.2~1.2μmなどの0.1~2μmの範囲から選択される(ベース層要素の)ベース層要素厚さをさらに含んでいてもよい。トップ層要素は、0.2~1.2μmなどの0.1~1μmの範囲から選択される(トップ層要素の)トップ層要素厚さを含んでいてもよい。実施形態において、第1層要素の厚さは、1~12μmの範囲から、特に2~7μmの範囲から選択されてもよい。さらなる実施形態では、第1層要素の厚さは、1~5μmの範囲から選択される。さらなる実施形態では、第1層要素の厚さは、4~10μmである。
【0058】
さらなる実施形態において、コーティング(存在する場合、任意のベース層要素、トップ層要素、中間層要素、またはさらなる層要素を含む)の合計コーティング厚さは、1.5~12μm、例えば3~10μm、特に3~8μmの範囲から選択されてもよい。
【0059】
ここでまた、「機能層(要素)」という用語は、第1層要素(の層)との関係で使用されてもよい。しかし、実施形態において、コーティングは、少なくとも1個のさらなる機能層(要素)を含んでいてもよい。コーティングはまた、(任意の)さらなる層をさらに含んでいてもよいと理解されるだろう。さらなる(機能)層は、第1の層要素と基材との間に配置されてもよい。加えて、または代わりに、さらなる(機能)層は、第1層要素とトップ層要素との間など、第1層要素よりも基材からさらに離れた位置に配置されてもよい。さらなる(機能)層は、実質的に、第1層要素の層とは別の組成を有する。さらなる(機能)層は、例えば、Al、Ti、Cr、およびSiの群からの全ての金属元素を含まなくてもよく、または当該元素の含有量は、本明細書に記載の第1層要素の実施形態におけるこれらの元素の含有量と異なっていてもよい。さらなる(機能)層は、さらなる金属元素および/またはさらなる非金属元素を含んでいてもよい。
【0060】
さらにさらなる実施形態において、コーティングは、複数の第1層要素を含んでいてもよく、特に、ここで、(少なくとも2個の)連続する第1層要素の間に中間層要素が構成される。コーティングは、例えば、2、3、4、6または10個の第1層要素を含んでいてもよい。コーティングは、さらに多くの第1層要素を含んでいてもよい。複数の第1要素の少なくとも一部は、特に、中間層要素を挟むように構成されている。異なる第1層要素は、例えば、厚さおよび組成が互いに異なっていてもよい。それゆえ、第1層要素という用語は、複数の(異なる)第1層要素に関連していてもよい。
【0061】
したがって、中間層要素は(も)、さらなる(機能)層を含んでいてもよい。加えて、または代わりに、中間層要素は、本明細書に記載される金属元素の1種以上の窒化物層(すなわち「中間層要素の窒化物層」)を含む中間層要素の層を含む。中間層要素の層は、特に実質的にケイ素を含まなくてもよい。中間層要素の層は、例えば、中間層要素の層中の金属元素の合計に対して、0.01原子%未満の金属元素のケイ素を含んでいてもよい。しかし、実施形態において、中間層要素は、ケイ素を含んでいてもよい(特に、ここにおいて、中間層要素の層はさらなる(機能)層である)。
【0062】
中間層要素(の層)は、例えば、(AlTiCr)N、(AlTi)N、(AlCr)Nのうちの1種以上を含んでいてもよい。他の実施形態では、中間層要素(の層)は、(TiCr)Nを含んでいてもよい。中間層要素の層は、V、Co、Zr、W、Ta、Mo、Cuなどの他の金属元素をさらに含んでいてもよい。中間層は、実施形態では、炭窒化物層を含んでいてもよい。中間層要素は、むしろ薄くてもよい。中間層要素の厚さは、例えば、0.05~0.5μmの範囲から選択されてもよい。さらなる実施形態において、中間層要素(の層)は、第1層要素(の層)に関して記載されるような厚さを含んでいてもよい。さらに、第1層要素の層の厚さは、実施形態において、本明細書に記載される他のタイプの層/層要素(中間要素(層)、トップ要素(層)、ベース要素(層))に関して記載されるような値を有していてもよい。
【0063】
それゆえ、さらなる実施形態において、コーティングは1個以上の第1層要素を含み、中間層要素が少なくとも2個の第1層要素の間に配置され、中間層要素は中間層要素の層を含み、中間層要素の層はアルミニウム、チタン、およびクロムからなる群から選択される金属元素の1種以上を含む窒化物層を含み、特に窒化物層がアルミニウム-チタン-窒化物、窒化クロムおよびアルミニウム-クロム-窒化物の1種以上を含む。
【0064】
実験的に、異なる組成を有する複数の(積層された)第1層要素の層を有する第1層要素を含むコーティングが、(さらに)物品の、特に切削工具の寿命に正の影響を与え得ることがさらに見出された。しかし、異なる第1層要素の層の各々が、(なお)金属元素であるアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含んでいてもよい。(異なる第1層要素の層における)異なる金属元素の間の比率は、他の第1層要素の層と比較して、第1層要素の層の少なくとも1個において異なるように選択されてもよい。したがって、第1層要素の層は、少なくとも2個の異なるタイプの第1層要素の層を含んでもよく、ここで、異なるタイプの第1層要素の層は異なる組成を有する。第1層要素の層は、実施形態において例えば3個の異なるタイプの第1層要素の層を含んでいてもよく、ここで、異なるタイプの第1層要素の層は異なる組成を有している。さらなる実施形態において、積層されたサブセットのうちの少なくとも1個のサブセットは、少なくとも3個の異なるタイプの第1層要素の層を含む。
【0065】
異なるタイプの第1層要素の層は、特に、すべてが(AlCrTiSi)Nを含んでいてもよい。特に、(異なる金属元素の)分率a、b、c、およびd(下付き文字)の少なくとも一部は、(第1層要素の)層の異なるタイプの第1のタイプ中でその層の異なるタイプの第2のタイプのそれとは異なっていてもよい。特に、ケイ素の含有量(または上記所定の式中の下付き文字dの値)は第1層要素の層の異なるタイプによって異なるように選択されてもよい。実施形態において、各第1層要素の層は、他の第1層要素の層と組成が異なっていてもよい。したがって、Nlay個の第1層要素の層を含む第1層要素は、特に(2個の)最大Nlay個の異なる種類の第1層要素の層を含んでもよい。さらなる実施形態では、第1層要素の層は、2~15個、例えば2~10個、特に2~7個の異なる種類の第1層要素の層を含む。第1層要素は、実施形態において、少なくとも3個の第1層要素の層を含む。異なるタイプの第1層要素の層との関係において、用語「第1のタイプ」、「第2のタイプ」、または任意の「さらなるタイプ」等は、特に、異なるタイプの第1層要素の層の複数の第1のタイプおよび/または第2のタイプおよび/またはさらなるタイプ等に関するものであってよい。
【0066】
用語「工具寿命」および「寿命」は、特に、物品が摩耗する(そして交換しなければならない)前に(通常の条件下で)物品を使用することができる総時間に関する。
【0067】
さらなる実施形態では、2個以上の異なるタイプの第1層要素の層の配置またはセットが第1層要素に提供されてもよく、特にその配置は、第1層要素を提供するために積層されてもよい。実施形態において、第1層要素は、例えば、第1層要素の層の繰り返し(積層された)サブセット(または配置)を含んでいてもよい。
【0068】
それゆえ、さらなる実施形態において、第1層要素は、複数の第1層要素の層を備え、第1層要素の層のいずれか1個は、金属元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含み、および第1層要素の層は、少なくとも2種の異なるタイプの層を含み、異なるタイプの層は、少なくともケイ素含有量が異なる。(異なる)層の第1のタイプは、((前述の層における)金属元素の合計に対して)最も高いケイ素含有量CSi,H(原子%)を有していてもよく、および(異なる)層の第2のタイプは、((前述の層における)金属元素の合計に対して)最も低いケイ素含有量CSi,L(原子%)を有していてもよい。実施形態において、最も高いケイ素含有量CSi,Hに対する最も低いケイ素含有量CSi,Lの比は、例えば、0.1≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から、より特に0.25≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から選択されてもよい。さらなる実施形態では、比CSi,L/CSi,Hは、0.4~0.6であってもよい。ケイ素含有量(CSi,LおよびCSi,H)は、本明細書では特に原子%で表される(以下でさらに説明する)。例えば、実施形態において、CSi,Lは0.7原子%であり、CSi,Hは1.4原子%であり、比CSi,L/CSi,Hは0.5と等しい。
【0069】
さらなる実施形態では、複数の第1層要素の層は、第1層要素の層の(積層された)サブセットの数subsを含み、subsは少なくとも2であり、サブセットの少なくとも2個、特にそれぞれが第1のタイプの(異なる)層および第2のタイプの(異なる)層を含む。第1層要素は、実施形態において、互いに積層された第1層要素の層のサブセットのみから構成されてもよい。さらなる実施形態では、第1層要素は、1個以上の第1層要素の層と、第1層要素の層の多数積層されたサブセットとの組み合わせを含む。特に、一のサブセットの第1層要素の層は、(少なくとも2種の)異なるケイ素濃度を含む。実施形態では、異なるサブセットの第1のタイプの層および/または第2のタイプの層は、異なるCSi,Lおよび/またはCSi,Hを含んでもよい。用語「最も低いケイ素含有量」および「最も高いケイ素含有量」は、複数の(異なる)最も低いケイ素含有量および最も高いケイ素含有量に関係してもよい。実施形態において、第1層要素の層の一のサブセットにおける(そのサブセットにおける金属およびメタロイドの合計量に対する)平均ケイ素濃度は、約1原子%(特に0.8~1.2(原子%))である。
【0070】
サブセットの各々のサブセット厚さは、0.5μm以下でもよい。さらなる実施形態では、サブセットの各々のサブセット厚さは、1.5μm以下、例えば1μm以下、特に0.7μm以下でもよい。サブセット厚さは、特に、少なくとも0.1μm、例えば、0.3μm以上でもよい。実施形態では、サブセット厚さは、0.1~1μm、例えば0.1~0.7μm、または0.3~0.7μmの範囲内である。特に最後に説明した実施形態は、いくつかの切削工具に適用することによって有利になり得るように思われる。
【0071】
複数の(積層された)第1層要素の層を有する切削工具は、摩耗の影響を受けにくい(less sensitive)ことが見出された。さらに、積層された第1層要素が(多数の)異なる組成を含む場合、有益であり得る。異なる層は、異なる種類の衝撃(方向、温度、摩擦など)を吸収することができ、および切断される材料に対して接着するそれらの傾向が異なり得るので、一緒にすると摩耗の影響をうけにくくなるという仮説が立てられる。本明細書において、層に関して「異なる」という用語は、特に、異なる組成を有する層に関するものである。
【0072】
それゆえ、さらなる特定の実施形態において、本発明は、(基材上に)コーティングを含む物品または(切削)工具であって、コーティングが第1層要素を含み、第1層要素が金属元素のアルミニウムを含む全体組成を有し、第1層要素が(積層された)第1層要素の層の数Nlayを含み、Nlayは少なくとも2であり、第1層要素の層の少なくとも2個、特にそれぞれが金属元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む窒化物層を含み、特に第1層要素の層のそれぞれが金属元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含み、Nlayの(積層された)第1層要素の層が少なくとも2種の異なるタイプの層を含み、異なるタイプの層は少なくともケイ素含有量で異なり、特に第1のタイプの(異なる)層は金属元素の合計に対して最も高いケイ素含有量CSi,H(原子%)を有し、および第2のタイプの(異なる)層は金属元素の合計に対して最も低いケイ素含有量CSi,L(原子%)を有し、特に最も高いケイ素含有量CSi,Hに対する最も低いケイ素含有量CSi,Lの比が、0.1≦CSi,L/CSi,H≦0.9、特に0.25≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から選択される、物品または(切削)工具を提供する。
【0073】
さらなる態様では、本発明は、コーティング、特に本明細書に記載の(PVDによる)コーティングを含む(切削)工具の製造方法を提供する。本方法は、特に物理的気相成長法(「PVD」)(技術)、より特にカソードアーク蒸発法を適用することを含む。
【0074】
この方法は、特に、物理的気相成長(「PVD」)オーブンの真空チャンバに基材を提供することを含む。真空チャンバは、金属カソードの数Catを含んでいてもよい。かかる数は、1、2、3、4、10、16、20、40などの任意の数であってよい。数Catは少なくとも1、特に少なくとも2である。特に、(数Catの)金属カソードは、(共に)所望のコーティングの少なくとも一部を提供するために構成される。さらに、特に、カソードの(数Catの)少なくともサブセットは、第1層要素を提供するために構成されてもよい。したがって、実施形態では、金属カソードの数Catの少なくともサブセットは共に、特に本明細書に記載される第1要素層を提供するための濃度で、金属元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む。(金属カソードの数のうちの)他のカソードは、さらなる金属元素を含んでいてもよい。特定の実施形態では、数Catの金属カソード(を合わせた)(少なくともサブセット)中で、アルミニウムは金属元素の合計に対して少なくとも67原子%で使用可能であり、およびケイ素は金属元素の合計に対して0.5~2原子%の範囲で使用可能である。
【0075】
本方法は、さらに、基材にコーティングを(物理的気相成長によって、特に堆積工程における)堆積させることを含む。(堆積工程における)堆積の間、窒素および/または炭素含有ガス、特に窒素含有ガスを含むガス雰囲気が真空チャンバに供給される。さらに、(堆積の間)カソードへの蒸発電流、特に40~150Aの範囲のものが印加されて(カソードの一部を蒸発させ)、および特に(基材に正電荷の金属イオンを押し付けるために)堆積の間に30~300Vの範囲などのバイアス電圧が基材に印加されてもよい。これにより、基材にコーティングが施される。堆積工程では、基材が回転軸に沿って回転されてもよい。コーティングは、特に、層ごとに(またはナノ層ごとに(下記参照))堆積(または「成長」)される。
【0076】
それゆえ、本方法は特に、物理的気相成長法により(真空チャンバ内で)基材にコーティングを堆積させることを含む方法であって、真空チャンバ内で(i)気体流体を含む窒素および(ii)気体流体を含む炭素の1以上、特に少なくとも流体を含む窒素を供給する間に、および基材を回転させる間に、コーティングを施す方法であって、特に本明細書で規定された第1層要素を含む。用語「気体流体」は特にガスに関する。
【0077】
さらに、堆積工程において、真空チャンバ内に、10Paより低く、特に少なくとも1.0Pa、例えば1.5~8Paの範囲のような真空圧が生じる。実施形態において、真空圧は、少なくとも1.0Paである。さらなる実施形態では、真空圧は、8Pa以下、特に5Pa以下、例えば2.5Pa以下である。さらなる実施形態では、真空圧は、少なくとも1.5Pa、例えば少なくとも2.5Pa、特に少なくとも5Paであるように選択される。特に少なくとも2.5Paの真空を用いることによって良い結果が得られている。さらに、特に、真空チャンバ内の温度は、300~600℃の温度などで制御される。実施形態において、バイアス電圧は、50~100Vの範囲から選択される。
【0078】
蒸発電流は、金属カソードのそれぞれについて、他のカソードとは独立して選択されてもよい。例えば、第1のカソードには100A未満の電流が供給されてもよく、一方で、さらなる(または第2の)カソードには100A超の電流が供給されてもよい。さらに特に、第1の第1層要素の層を提供するために、第1のカソードには100A超の電流が、および第2またはさらなるものには100A未満の電流が供給されてもよく、および続いて、他の組成を有するさらなる第1層要素の層を提供するために、第1のカソードへの電流は100A未満に設定されてもよく、および特に、第2またはさらなるカソードへの電流は100A超に設定されてもよい。したがって、実施形態では、可変(蒸発)電流が金属カソードに供給される。それぞれのカソードへの蒸発電流は、特に、コーティングを堆積させる間に変更されてもよい。実施形態では、Siを含むカソードの蒸発電流は、異なるタイプの(異なるSi含有量を有する)第1層要素の層を提供するために、堆積の間に変更される。さらなる実施形態では(また)、Siを含まないカソードへの電流が(また)、異なるタイプの第1層要素の層を提供するために変更されてもよい。
【0079】
本方法は、特に、金属カソードおよび処理条件を選択して第1層要素を提供することを含む。「処理条件」という用語は知られており、例えば、(カソードへの)蒸発電流、バイアス電圧、(チャンバ内の)温度、(チャンバ内の)圧力、(基材の)回転速度、処理時間等を含む。
【0080】
それゆえ、堆積工程は、特に、物理的気相成長法により基材にコーティングを堆積させることを含み、(i)気体流体を含む窒素および(ii)気体流体を含む炭素(特に気体流体を含む少なくとも炭素)の1以上が堆積の間に真空チャンバ内に提供され、および特に基材が堆積の間に回転されてコーティングを施す。基材は、実施形態において、真空チャンバの中心軸の周りを回転させられてもよい。堆積工程は、(本明細書に記載の)ベース層要素、(本明細書に記載の)第1層要素、および(本明細書に記載の)トップ層要素の1個以上を連続的に堆積させることを含んでいてもよい。堆積工程はさらに、上述の層要素のいずれかの前または後に、さらなる(機能)層(要素)を堆積させることを含んでもよい。
【0081】
コーティングは、1個以上の(積層された)第1層要素の層を含む第1層要素を含むコーティングであって、第1層要素の層の各々が窒化物層を含み、第1層要素が金属元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む全体組成を有し、特にアルミニウムが金属元素の合計に対して少なくとも68原子%で使用可能であり、および特にケイ素が金属元素の合計に対して0.5~2原子%の範囲で使用可能であるコーティングが提供され得る。堆積の間、特に第1層要素の堆積の間、気体流体を含む窒素を提供してもよい(ここで、特に気体流体を含む炭素は真空チャンバ内に提供されない)。任意の他の層要素の堆積の間、特にトップ層要素の堆積の間、気体流体を含む炭素もまた真空チャンバに供給されてもよい。
【0082】
本方法は、堆積工程に先立ち、基材を(真空チャンバ内で)洗浄する工程をさらに含んでもよい。
【0083】
金属カソード、すなわち「対象」は、本発明のコーティングを提供するために選択され得る。このように、金属カソードの少なくともサブセットは、アルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素の群から選択される単一の金属元素を含んでもよい。加えて、または代わりに、カソードは、異なる金属元素の組合せを含んでいてもよい。本明細書に記載されたコーティングを提供するためのカソードを選択するための多くの異なる選択肢が可能である。PVDオーブンをどのように操作するかは、当業者にとって明らかであろう。
【0084】
金属カソードは、特に本明細書に記載されたコーティングを提供するために選択される。カソードは、必ずしも、最終的なコーティングが有し得るものと同じ組成を有する必要はない。蒸発されるアルミニウムは、例えば、他の蒸発される金属元素(チタンおよびクロム)に対してより大きな量で堆積されてもよい。特に、バイアス電圧を増加させると、TiおよびCrと比較してさらに豊富なAlを結果としてもたらし得る。したがって、第1層要素を提供するために使用されるカソードの(サブセット)の全体組成は、最終的に堆積した第1層要素が有し得るよりも低いアルミニウム含有量を有するように選択され得る。74原子%のAlを堆積させるために、例えば、74原子%未満、例えば72原子%、あるいは70原子%を含むカソードが実施形態において適用されてもよい。実施形態において、第1層のために適用されるカソードの組み合わせは、70原子%未満のAl(例えば65~70原子%)を含み、約74原子%を結果としてもたらす。
【0085】
金属カソードは、さらに、(同じ)金属カソードのセットを含んでもよい。例えば、第1のタイプのカソードの第1の組が真空チャンバの第1の側面に配置され、第2のタイプのカソードの第2の組が真空チャンバの別の側面に配置されてもよい。このような組が同じタイプのカソードを含む場合、これはまた1の(または単一の)カソードと呼ばれてもよい。したがって、本明細書では、カソードという用語は、複数の(同じ)カソードに関していてもよい。
【0086】
それゆえ、実施形態では、金属カソードの(数Catの(少なくともサブセットの))各々は、(i)金属元素のAl、Cr、Ti、およびSiの1以上、または(ii)金属Al、Cr、Ti、およびSiの組み合わせを含む。さらなる金属カソードはさらなる金属元素を含んでもよい。例えば、カソードのサブセットは、アルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素カソードを含んでいてもよく、またはそのサブセットは、AlCrカソード、AlSiカソード、およびAlTiカソードを含んでいてもよく、またはそのサブセットは、AlTiカソード、およびAlCrSiカソード等の1以上を含んでいてもよい。
【0087】
特定の実施形態では、金属カソードの少なくとも1個は、金属元素のアルミニウム、チタン、およびシリコンを含み、且つ金属カソードの少なくとも別の1個は、金属元素のアルミニウムおよびクロムを含む。したがって、実施形態では、カソードは、AlTiSiを含む第1のカソードと、AlCrを含む第2のカソードとを含む。さらなる実施形態では、カソードは、AlTiSiを含む1個の(第1の)カソードあたりAlCrを含む(少なくとも)2個の(第2の)カソードを含む。このような構成により、耐久性のあるコーティング、特に、第1層要素が異なる第1層要素の層を含むコーティングが提供されている。さらにさらなる実施形態では、カソードの少なくとも1個(さらなる、または第3の、または第4のカソード)は、クロム(のみ)を含む。さらなるカソードは、さらなる層またはさらなる層要素のいずれか1個に堆積され得るさらなる金属元素を含んでいてもよい。さらなる実施形態では、カソードは、AlCrSiを含む第1のカソードと、AlTiを含む第2のカソードとを含む。さらなる実施形態では、カソードは、AlCrSiを含む1個のカソードあたり、AlTiを含む少なくとも2個のカソードを含む。
【0088】
実施形態では、第1と第2のカソードは、真空チャンバの反対側に配置される。さらなる実施形態では、第1のカソードは、(2個の)第2のカソードの間に配置される。したがって、真空チャンバの中心軸に垂直な線は、中心軸の周りを回転する間に、第2のカソードの最初の1個、第1のカソード、および第2のカソードの他の1個に連続して接触し得る。2個の第2のカソードは、中心軸の反対側に、すなわち中心軸に対して180°の角度で配置されてもよく、および例えば、第1のカソードは90°の角度で配置されてもよい。驚くべきことに、実施形態において、第1のカソードと第2のカソードのうちの1個との間の(中心軸に対する)角度を最小化することが、より耐久性のあるコーティングをもたらし得ることが見出された。実施形態において、第1および第2のカソードは、互いに隣接して、特にオーブンの同じ壁など同じ平面内に配置されてもよい。
【0089】
それゆえ、さらなる実施形態では、第1のカソードは第2のカソードに隣接して配置され、例えば、第1のカソードと第2のカソードとの間のカソード間距離は、(第1および第2の)カソードの(一方の)寸法(特に幅または直径)の2倍未満である。カソード間距離は、特に、カソードの一方の寸法と同じかそれ以下であってよく、例えば、カソードの一方の寸法の0.1~1倍、特に0.1~0.7倍の範囲である。したがって、100mmの寸法を有する円形カソードの場合、このカソード間距離は100mm未満、例えば約50mm、または10~30mmであってよい。カソード間距離は特にゼロではない。「第1および第2のカソードは互いに隣接して配置されてもよい」といった表現における「隣接する」という用語は、特に、カソードが平面内に(互いに隣接して)配置されている構成に関する。この平面は、特に(カソードが構成される)オーブンの壁と平行である。カソードは、特に、同じ壁に構成される。
【0090】
さらなる実施形態では、金属カソードの少なくとも1個はケイ素を含み、ケイ素を含む少なくとも1個の金属カソードは、金属カソードの別の1個に隣接して配置される。特定の実施形態では、真空チャンバは、2個のAlCrカソード、1個のAlTiSiカソード、およびCrカソードを含む。特に、AlTiSiカソードと組み合わせた2個のAlCrカソードは、第1層要素の(層)を提供するために適用されてもよい。Crカソードは、さらに、ベース要素および/またはトップ要素を提供するために適用されてもよい。
【0091】
実施形態では、堆積工程は、複数の第1層要素の層を含む第1層要素を提供するように構成され、第1層要素の層の各々は、金属元素のAl、Cr、Ti、およびSiを含み、第1層要素の層は、少なくとも2個の異なるタイプの層を含み、異なるタイプの(異なる)層は、少なくともケイ素含有量で異なり、(異なるタイプの)層の第1のタイプは最も高いケイ素含有量CSi,Hを有し、(異なるタイプの)層の第2のタイプは、最も低いケイ素含有量CSi,Lを有し、最も高いケイ素含有量CSi,Hに対する最も低いケイ素含有量CSi,Lの比は、0.1≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から、特に0.25≦CSi,L/CSi,H≦0.9の範囲から、例えば0.4≦CSi,L/CSi,H≦0.6の範囲から選択される。このような実施形態において、特に、ケイ素を含むカソードへの電流は、異なるタイプの層におけるケイ素含有量の変化を提供するように構成(制御)されてもよい。また、ケイ素を含まないカソードへの電流は、異なる種類の層におけるケイ素含有量の変化を提供するように制御されてもよい。特に、ケイ素を含むカソードへの電流と、ケイ素を含まないカソードへの電流との比を、異なるタイプの層におけるケイ素含有量の変化に対して制御することができる。
【0092】
それゆえ、堆積(工程)は、少なくとも2種のタイプの(異なるタイプの)第1層要素の層を堆積することを含んでいてもよく、(異なるタイプの)層の第1のタイプの少なくとも1個は、(異なる)層の第1のタイプの少なくも1個の前に堆積され、および/または(異なるタイプの)層の第2のタイプの少なくとも1個の後に堆積される。
【0093】
さらなる実施形態では、堆積工程は、ベース層要素および/またはトップ層要素および/または任意のさらなる(機能)層を堆積させることをさらに含む。堆積工程は、特に、本明細書に記載されたコーティングを堆積させることを含む。それゆえ、堆積工程は、特に、本明細書に記載された第1層要素を堆積させることを含む。
【0094】
本発明はさらに、本発明の物品、特に本発明の(コーティング工具)を製造するためのシステム(「システム」)を提供する。このシステムは、真空チャンバを含む物理的気相成長オーブン(または物理的気相成長システム)を含んでいる。したがって、オーブンは、コーティングを提供するために構成された金属カソードを少なくとも含む。システムは、さらに、基材にコーティングを提供するために必要な処理条件を可能にするように構成される。システムは、処理条件を制御するための制御システムをさらに含んでもよい。制御システムは、プログラム可能なシステムであってもよい。加えて、または代わりに、制御システムは、手動で操作されてもよい。制御システムには、ソフトウェア、特にコンピュータプログラムが搭載されていてもよく、制御システム上で実行されると、コーティングシステムに真空チャンバ内に供給された基材にコーティングを提供させ、特に本明細書に記載の方法を実現させる。
【0095】
それゆえ、本発明は、ソフトウェア、特にコンピュータプログラムであって、該コンピュータプログラムが物理的気相成長オーブンに機能的に結合された(本発明のシステムの)コンピュータプログラム上で実行される時に本明細書に記載の方法を(特に本明細書に記載のシステムで)実行するように構成されたコンピュータプログラムをさらに提供する。
【0096】
コーティングの組成は、例えば、SEM EDX(またはEDS)またはX線回折を使用して決定することができる。さらに、コーティングを層ごとに除去する技術を使用して、異なる層の構造を詳細に分析することができる。
【0097】
図面の簡単な説明
次に、本発明の実施形態を、対応する参照符号が対応する部品を示す添付の模式図を参照して、例示的にのみ説明する。
【0098】
図1は、本発明による工具の一実施形態を模式的に示し、
図2および図3は、コーティングのいくつかの態様を模式的に示し、
図4~5は、本発明のいくつかのさらなる態様を模式的に示す。
模式図は、必ずしも縮尺通りではない。
【0099】
実施形態の詳細な説明
図1では、本発明の物品/切削工具1の一実施形態として、鋸刃が描かれている。工具1は、基材5上にコーティング10を、特に減摩コーティングを含む。コーティング10は、基材5を部分的にしか覆っていなくてもよい。他の実施形態では、コーティングは基材5の外側4の全体を覆っていてもよい。コーティング10は、金属元素のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素を含む全体組成を有する、第1層要素20を含む。図1の第1層要素20は、2個の積層された第1層要素の層21を含む。いずれの第1層要素の層21も、本明細書において(AlCrTiSi)Nとも示される窒化物層を含んでいてもよい。
【0100】
第1層要素20の実施形態では、全ては(第1層要素20における)金属元素の合計に対して、Alは特に少なくとも68原子%で、および特に最大80原子%で使用可能であり、Siは特に0.5~2原子%の範囲で使用可能であり、Tiは特に少なくとも4原子%で使用可能であり、およびCrは特に最大20原子%で使用可能である。本明細書において、これはまた、第1層要素20がAlCrTiSiであって、特に0.68≦a≦0.80であり、特にb≦0.2であり、特にc≧0.04であり、および特に0.005≦d≦0.02であるものを含むことにより示され得る。第1層要素20のさらなる実施形態では、0.72≦a≦0.77であり、0.13≦b≦0.2であり、0.05≦c≦0.11であり、および0.007≦d≦0.017である。
【0101】
コ―ティング10は、図1では、第1層要素20の厚さ25、ベース層要素厚さ35およびトップ層要素厚さ45によって規定されるコーティング厚さ15を含む。これらのそれぞれの層要素10、20、30、および40は、すべての実施形態において必ずしも存在するわけではないことに留意されたい。第1層要素20の厚さ25(または「第1層要素厚さ」25)は、特に1~12μm、例えば2~7μmの範囲であってよい。第1層要素厚さ25は、例えば、単層について1~4μmの範囲、例えば、1~2.5μmであってもよい。すなわち、第1層要素20が単一の第1層要素の層21または同一もしくは特に異なる組成を有する複数の第1層要素の層21を含む。第1層要素20の厚さ25は、さらなる実施形態では、例えば3~7μmの範囲内であってよい。
【0102】
さらに、コーティング厚さ15は、実施形態において、3~8μmであってもよい。さらなる実施形態では、コーティング厚さは、1~3μmの範囲であってもよい。トップ層要素厚さ45およびベース層要素厚さ35の両方は、特に0.05~1.5μm、例えば0.2~1.2μmの範囲であってよい。トップ層要素厚さ45は、実施形態では、ベース層要素厚さ35よりも小さく(または大きく)てもよい。実施形態では、トップ層要素厚さ45は、0.05~0.3μmの範囲である。さらなる実施形態では、ベース層要素厚さ35は、0.3~1μmの範囲である。
【0103】
ベース層要素30は、例えば、CrNまたはAlCrNなどを含む窒化物層からなる1個以上のベース層要素の層31を含んでいてもよい。トップ層要素40は(また)、1個以上のトップ層要素の層41を含んでいてもよく、特にこれらのトップ層要素の層41のいずれか1個が、AlN、CrN、AlCrN、AlCN、CrCN、またはAlCrCN層などの窒化物層または炭窒化物層を含む。
【0104】
コーティング10は、図2に示されるように、中間層要素の層51を含む中間層要素50をさらに含んでいてもよい。中間層要素50は、特に、2個の第1層要素20の間に配置される。中間層要素の層51は、特に、金属元素のアルミニウム、チタンおよびクロムの1種以上を、特にAlTiN、CrNまたはAlCrNを含む窒化物層を含む。また、中間層要素50を間に有することなく、2個の第1層要素20を積層してもよい。コーティング10は、コーティングの任意の位置でさらなる層(要素)をさらに含んでいてもよいことがさらに理解されるだろう。
【0105】
ここで、コーティング10に関連する用語「トップ(top)」、「上側(upper)」、「より高い(higher)」、「上(above)」、「超えて(over)」等は、特に、(他の場所との関係で)基材5から最も(またはさらに)離れた位置を指す場合がある。同様に、「ベース(base)」、「下側(lower)」、「下に(under)」等の用語は、基材5により近い、または最も近い場所に配置されてもよい。
【0106】
図3では、コーティング10の一実施形態がさらに詳細に描かれている。本実施形態は、複数のベース層要素の層31を含むベース層要素30を含む。複数のベース層要素の層31の配置は、特に、第1層要素20の基材5への接着性を向上させるように構成されている。そのために、(第1層要素20に接する)上側ベース層要素の層319のアルミニウム含有量は、(基材5に接する)下側ベース層要素の層311におけるアルミニウム含有量より高くてもよい。さらに切削工具の基材5から外側4に向かう方向に互いに積層された連続するベース層要素の層31のアルミニウム含有量は徐々に増加してもよい。
【0107】
図2と同様に)図3には、さらに、複数の第1層要素の層21を含む第1層要素20を描く。第1層要素の層21は、2種の異なるタイプの層22、23が示されている異なるタイプの層を含む。これらの異なるタイプの層22、23は、ケイ素含有量で異なり、およびそれゆえ、特に第1層要素の層21の各々に全て含まれる他の金属元素のAl、Cr、およびTiの少なくとも1種でもまた異なる。それゆえ、層22、23の第1のタイプ22は、最も高いケイ素含有量CSi,Hを有し、および層22、23の第2のタイプ23は、最も低いケイ素含有量CSi,Lを有する。
【0108】
最も高いケイ素含有量CSi,Hに対する最も低いケイ素含有量CSi,Lの比は、例えば、約0.5であってもよい。例えば、CSi,Hは約1.5原子%であってもよく、CSi,Lは約0.7原子%であってもよい。
【0109】
図3は、さらに切削工具1を示し、ここで、複数の第1層要素の層21が第1層要素の層21の数subsのサブセット200を含む。多数の異なる第1層要素の層21は、したがって、第1層要素の層21のサブセット200を規定し得る。描かれた実施形態は、6個の積層サブセット200(ここではsubsは6に等しい)を含み、すべてが層22、23の第1のタイプ22と層22、23の第2のタイプ23に加えて第3の(他の)第1層要素の層21を含む。それゆえ、サブセット200における第1層要素の層21の少なくとも2種は、異なるケイ素含有量を含んでもよい。描かれた実施形態では、(サブセット200の)第1の第1層要素の層21、23は、最も低いケイ素含有量、例えば0.7原子%を含んでもよく、(サブセット(200)の)第2の第1層要素の層21、22は、より高いケイ素含有量、例えば1.5原子%を含んでもよく、第3の第1の層要素の層21は、中間のケイ素含有量、例えば1原子%を含んでいてもよい。
【0110】
また、サブセット厚さ205が示されている。サブセット200の各々のサブセット厚さ205は、1.5μm以下、特に1μm以下、または0.5μm以下であってもよい。さらに、所定の実施形態では、第1層要素の層21の厚さ215は、0.5μm以下、特に0.4μm以下、例えば0.33μm以下、例えば0.2μm以下の範囲であってもよい。さらなる実施形態では、サブセット200の厚さ205は、0.6~1.2μmの範囲、特に0.7~1μmの範囲である。
【0111】
実施形態では、サブセット200の各々における第1層要素の層21の構成は、同一であってもよい。このように、第1層要素20は、第1層要素の層21の組成の繰り返しを有する構成を含み得る。図3の実施形態が下側の3個のサブセットのみを含むことになれば、このような繰り返しの構成が提供されることになったであろう。しかし、サブセット200の1個以上における構成は、下側の3個のサブセットの上にあるサブセット200’で描かれているように、他のサブセット200の構成とは異なっていてもよい。他の構成も、同様に本発明の一部である。例えば、さらに別の実施形態では、第1層要素20は、2個の(さらなる)(特にサブセット200における第1層要素の層21とは異なる)第1層要素の層21の間に構成された多くのサブセット200を含む。
【0112】
本発明のコーティング10は、物理的気相成長法(PVD)により製造することができる。PVDの間、基材5は回転され、および特に毎回の回転の間、非常に薄いフィルムまたはナノ層29が堆積されてもよい。そのため、図3にも描かれているように、全ての層が複数の積層されたナノ層29を含み得る。例えば、最も低い第1層要素の層21、本実施形態では層の第1のタイプ22は、このようなナノ層29の12個を含む。これらのナノ層29の合計が、特に第1層要素の層21を規定し得る。「ナノ層」という用語は、当業者に知られており、特に、原子が閉じた層構造を提供する層をいう。ナノ層は、例えばわずか数ナノメートルの範囲の、例えば最大で数十ナノメートルの、ごくわずかな(金属)原子の厚さ295を有していてもよい。ナノ層29は、実施形態において、10~100nm、特に20~80nm、例えば20~70nm、特に25~50nmの範囲の厚さ295を有していてもよい。回転、カソード110の構成(例えば図4~5参照)、および特に印加される(可変)電流に基づいて、各ナノ層29の組成は不均一であってもよいが、第1層要素の層21の各ナノ層29の全体組成は実質的に同じである(下記参照)。第1層要素の層21の厚さ215は、特に数百ナノメートル、例えば0.1~1μmの範囲、特に0.1~0.5μmの範囲であってよい。実施形態では、第1層要素の層の厚さ215は、100~500nmの範囲、例えば250~400nmの範囲であってもよい。
【0113】
図4は、4個の金属カソード110を含む真空チャンバ150を有する物理的気相成長オーブン100を非常に模式的に示す図である。各カソード110は、単一のカソード110であってよいことに留意されたい。しかし、各カソード110はまた、同じカソード110のセットまたは複数の同じカソード110を表してもよい。描かれた実施形態では、カソードCatの数は4個である。図ではまた、真空チャンバ150の中心軸160が描かれている。さらにまた、カソード11と112との間の角度αが描かれている。ここで、この角度αは、(中心軸160に対する)カソード間の角度αと表現されてもよい。
【0114】
第1層要素20を提供するために、Catカソード110の少なくともサブセット、例えばカソード111、カソード112、およびカソード113は、共に少なくともAl、Cr、Ti、およびSiを含む。他の金属元素を提供するために、カソード110の少なくとも1個、例えばカソード114は、他の元素を含んでもよい。
【0115】
図5では、PVDオーブン100のさらなる実施形態が描かれている。実施形態では、オーブンの各壁に、2個のカソード110が構成されてもよい。このようにして、2個の異なるカソード110、例えばカソード111およびカソード112は、90°よりもはるかに小さい角度αで、例えばわずか数度から40度未満、特に25度未満の範囲の角度αで、互いにはるかに接近して配置されてもよい。さらに、この方法では、2個のカソード110、例えばカソード111およびカソード112が、特に一の平面内で互いに隣接して配置されてもよい。カソード111とカソード112は、特にカソード間距離dccで配置され、この実施形態では、カソード112のカソード寸法(または直径)dcよりも小さい。このような構成は、実施形態において、参照符号111または112で示されるカソードの一方がケイ素を含む場合、堆積するコーティング10中のケイ素の分布を改善し得る。
【0116】
図4~5に描かれた全てのカソードが実際に存在するわけではないことに留意されたい。示されたカソード110は、カソード110のとり得る位置を描いている。さらなる実施形態では、加熱素子は、オーブン100の壁の一以上に構成されてもよく、例えば、位置113、114、117、および118は、(それぞれの壁が加熱素子を含むので)オーブンに存在しない。
【0117】
本方法において、基材5は、300~600℃の範囲の温度で、(ここでは、真空が形成される)真空チャンバ150内に供給される。堆積の間、基材5は矢印で示されるように、所与の実施形態では、チャンバ150の中心軸160の周りに、回転される。さらに、窒化物層を得るために、窒素ガスなどの、気体流体120を含む窒素が真空チャンバ150内に提供される。任意選択で、炭窒化物層を得るために、特にトップ層要素の堆積の間に、メタン、エタン、エチレン、またはアセチレンなどの、気体流体130を含む炭素もまた真空チャンバ150に提供される。さらに、カソード110に電流を供給することにより、金属カソード110からの金属およびメタロイド元素を蒸発させる。金属元素は、気体流体120、130と反応してもよく、および基材5に(基材5と真空チャンバ150にわたって)(負の)バイアス電圧を与えることにより基材5に引き付けられ、基材5上に堆積し、それによってコーティング10をナノ層29ごとに、層ごとに成長させる。
【0118】
したがって、コーティング10の組成は、とりわけ、カソード110の組成によって制御され得る。しかし、また、カソード110への電流、カソード110の位置、バイアス電圧、チャンバ150内の温度および圧力は、コーティング10の組成を制御するために構成されてもよい。カソード110を4(セット)使用することにより、例えば、各単一のカソード111、112、113、114は、それぞれ金属Al、Cr、Ti、Siのうちのただ1種または2種(以上)を含み得る。あるいは、すべてのカソード110は、金属のアルミニウム、クロム、チタン、およびケイ素の組み合わせを含んでもよい。異なるカソード110は、さらに、異なる比率で金属元素を有していてもよい。それでも、実施形態では、カソード110の1個、例えばカソード114は、任意に他のカソード111、112、113の1個以上との組み合わせで、ベース層要素30および/またはトップ層要素40、および/または中間層要素50を提供するために構成されてもよい。さらなる実施形態では、3個のカソード111、112、113が、第1要素層要素20を提供するために構成されてもよい。したがって、実施形態では、(いくつかの金属元素が他の金属元素よりもより好ましく堆積され得ることを考慮に入れた上で)特にコーティング10の組成、特に(本発明の)製造される第1層要素20の組成と一致する量で、3個のカソード110が共に元素Al、Ti、Cr、およびSiを含む。
【0119】
カソード110、111~118の8(セット)の使用により(図5参照)、自由度はさらに増加する。さらなる実施形態では、カソード111、112、113、または例えばカソード111~118の(少なくとも)1個が、AlTiSi(またはAlCrSi)カソードを含んでもよく(すなわち、カソード110は実質的に元素Al、Ti、(またはCr)およびSiのみを所定の比率で含む)(ここでは特に第1のカソードともまた示される)、およびカソード111、112、113の1個または2個の他のものが、(実質的にAlおよびCr(またはTi)のみを含む)AlCr(またはALTi)カソードを含んでもよい(ここでは特に第2のカソードともまた示される)。実施形態では、(AlCrSiなどの)Si含有カソードは、2個のAlTiカソードの間に配置されてもよい。例えば、カソード111、113は、AlTiカソードなどの第2のカソードであってもよく、およびそれから、他の2個の他の111、113の間に配置されたカソード112が、AlCrSiカソードなどの第1のカソードであってもよい。2個の他のカソード111、113の間に配置されたさらなるカソード114は、例えば、Crカソードを含んでいてもよい。しかし、他の構成も可能であり、例えば、カソード114および113または111は、第2のカソード(および第1のカソードのカソード112)を含む。さらに、図5を参照すると、例えば第1のカソードが位置112に配置されてもよく、第2のカソードが位置111に、および例えば位置114または位置116に配置されてもよい。第1のカソードは、さらなる実施形態では、第2のカソードのうちの1個に隣接して配置されてもよく、さらなる第2のカソードに対向して配置されてもよい。例えば、ケイ素を含むカソードが位置111に配置されてもよく、(ケイ素を含まない)第2の電極が位置112および116に配置されてもよい。実施形態では、AlCr(またはAlTi)第2カソード110およびAlTiSi(またはAlCrSi)第1カソード110を使用することで、第2カソードを第1カソード110に隣接させ、且つ第1カソードに対向させて配置したときに耐久性のあるコーティングが製造された。
【0120】
Al、Crおよび/またはTiを含むがSiを含まないカソード110を有する一方で、Siを含む他のカソード110を有することで、少なくとも2種の異なるタイプの層22、23を含む第1層要素の層21を堆積させることができ、ここで、第1のタイプ22は最も高いケイ素含有量CSi,Hを有し、第2のタイプ23は最も低いケイ素含有量CSi,Lを有する。これは、例えば、電流(値または持続時間)を制御して蒸発する金属元素の量を変更することにより達成され得る。カソード110への電流を変更することによってもまた、カソード110中の蒸発した他の金属およびメタロイド元素の量を変更することができる。これは、実施形態では、特にコーティング10中のチタンおよび/またはクロムの含有量に影響を与え得る。実施形態では、特に第1層要素の層21の各々において、チタンとクロムの組み合わせは、(それぞれの)第1層要素の層21の金属およびメタロイド元素の合計に対して21~27原子%の範囲、例えば22~27原子%の範囲で使用可能である。
【0121】
上述したように、カソード110の組成および位置に基づいて、および堆積の間の基材5の回転のために、ナノ層29が回転ごとに堆積され得る。このようなナノ層29は、したがって、実施形態では、不均質な組成を含み得る。それゆえ、第1要素の層21は、互いの上に積層された多数のこれらのナノ層29を含む繰り返し構造を含んでもよい(図3参照)。コーティング10の構造を変化させることにより、工具寿命が助長されると仮定される。さらに、第1層要素の層におけるこのような部分構造も、コーティングされた物品1の耐久性に正の影響を与え得ると仮定される。
【0122】
用語「複数」は、2以上のことをいう。さらに、用語「複数の」および「多数の」は、互換的に使用され得る。本明細書における用語「実質的に」または「本質的に」、および類似の用語は、当業者によって理解されるであろう。用語「実質的に」または「本質的に」は、「完全に(entirely)」、「完全に(completely)」、「全て」等を用いた実施形態も含み得る。したがって、実施形態では、形容詞の実質的にまたは本質的には、削除されてもよい。該当する場合、用語「実質的に」または用語「本質的に」は、100%を含み、90%以上、例えば95%以上、特に99%以上、さらに特に99.5%以上に関係し得る。さらに、用語「約(about)」および「約(approximately)」は、100%を含み、90%以上、例えば95%以上、特に99%以上、さらに特に99.5%以上に関係し得る。数値については、用語「実質的に」、「本質的に」、「約(about)」、および「約(approximately)」は、それが言及する値の90%~110%、例えば95%~105%、特に99%~101%の範囲にも関係し得ると理解される。
【0123】
用語「含む(comprise)」は、用語「含む」が「からなる(consists of)」を意味する実施形態も含む。
【0124】
用語「および/または」は、特に、「および/または」の前後に記載された一以上の項目に関する。例えば、「項目1および/または項目2」という語句および同様の語句は、項目1および項目2のうちの一以上に関係し得る。用語「含む」は、実施形態では「からなる」を示し得るが、別の実施形態ではまた「少なくともその規定された種および任意に一以上の他の種を含むこと」を示し得る。
【0125】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における第1、第2、第3などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも連続的または時系列的な順序を説明するために使用されているわけではない。このように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載された本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示される以外の順序で操作可能であると理解される。
【0126】
デバイス、装置、またはシステムは、本明細書では、とりわけ、操作の間に説明されてもよい。当業者には明らかなように、本発明は、操作方法、または操作中のデバイス、装置、またはシステムに限定されない。
【0127】
上述の実施形態は、本発明を限定するのではなく、例示するものであり、当業者は、添付の請求項の範囲から逸脱することなく、多くの代替実施形態を設計できるであろうことに留意すべきである。
【0128】
特許請求の範囲において、括弧の間に置かれた参照符号は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。
【0129】
動詞「含む」およびその活用形の使用は、請求項に記載されたもの以外の要素または工程の存在を排除するものではない。文脈上明らかに他に要求されない限り、本明細書および請求項全体を通して、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(including)」、「含む(contain)」、「含む(containing)」等の用語は、排他的または網羅的な意味とは反対に、包括的な意味で、即ち、「含むが、限定されない」の意味で解釈される。
【0130】
要素に先行する冠詞「a」または「an」は、そのような要素の複数個の存在を排除するものではない。
【0131】
本発明は、いくつかの別個の要素を含むハードウェアを用いて、および適切にプログラムされたコンピュータによって実施され得る。いくつかの手段を列挙したデバイスの請求項、または装置の請求項、またはシステムの請求項では、これらの手段のいくつかは、ハードウェアの一つの同一のアイテムによって具現化され得る。ある手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという事実だけでは、これらの手段の組合せが有利に使用できないことを示すものではない。
【0132】
本発明はまた、デバイス、装置、またはシステムを制御し得る、あるいは本明細書に記載された方法またはプロセスを実行し得る制御システムも提供する。さらに、本発明は、デバイス、装置、またはシステムに機能的に結合されているか、またはデバイス、装置、またはシステムに含まれるコンピュータ上で実行されると、かかるデバイス、装置、またはシステムの1以上の制御可能な素子を制御する、コンピュータプログラム製品もまた提供する。
【0133】
本発明は、さらに、本明細書に記載された、および/または添付図面に示された、1以上の特徴的な機能を含むデバイス、装置、またはシステムに適用される。本発明は、さらに、本明細書に記載された、および/または添付図面に示された1以上の特徴的な機能を含む方法またはプロセスに関する。さらに、方法または方法の実施形態がデバイス、装置、またはシステムにおいて実行されると記載されている場合、そのデバイス、装置、またはシステムは、それぞれその方法または方法の実施形態に適している、またはそれぞれその方法または方法の実施形態の(実行の)ために構成されていると理解されよう。
【0134】
本特許で議論された様々な態様は、さらなる利点を提供するために組み合わせることができる。さらに、当業者は、実施形態を組み合わせることができ、また、2つより多くの実施形態を組み合わせることができることを理解するであろう。さらに、特徴のいくつかは、1以上の分割出願の基礎を形成することができる。
【実施例
【0135】
実験
管切断のための工具寿命
異なるコーティングを有する鋸刃(HSS鋸刃とTCT鋸刃)を試験した。コーティングの組成はSEM-EDXで測定した。試験中、鋸刃は倍率500倍の光学顕微鏡で1.2平方メートルの定期的な間隔で検査した。試験は、ある程度の損傷が確認された時点で中止した。
【0136】
TCTコーティング刃(直径350mm、カーフ(kerf)2.7mm、歯数120)をRattunde ACS90切断機で、直径50mmおよび肉厚3mmのE355+N管の切断試験を実施した。切削速度は280m/minである一方、送りは管の入口と出口で0.05mm/歯、および管の中央部で0.14mm/歯の間で変化させた。鋸刃の冷却と潤滑のために、エマルションのいわゆるマイクロスプレーを使用した。
【0137】
以下の表には、TCTコーティングされた鋸刃のいくつかの関連する結果を示す。
【0138】
【表2】
【0139】
表中、構造「モノ」は、鋸刃が単一の機能層を含むコーティングを有することを示す。用語「2層」は、鋸刃が2個の異なる機能層(Siを含む)を有することを示す。用語「マルチ」は、異なる組成を有する2または3個の異なる第1層要素の相を含むことを示し、マルチ層中の層について異なる組成は、用語「マルチ」の下で括弧の間に(A、B、およびCで)示し、それぞれの層のケイ素含有量は欄「コーティング組成;Si」の括弧の間に示す(すなわち、1原子%のSiを含む層A、1.5原子%のSiを含む層Bおよび0.7下因子%のSiを含む層C)。さらに、比較可能なコーティング組成を「構造」の欄にも示す。コーティングはさらに、ベース層、トップ層、および任意に中間層を有する。実施例1~1e、2~3および5~6として示した実験では、4個のカソードを使用し、第1のカソードはアルミニウムおよびクロム(AlCr)からなり、第2のものもアルミニウムおよびクロム(AlCr)からなり、第3のカソードはアルミニウム、チタンおよびシリコン(AlTiSi)からなり、および第4はクロムからなる(特にベース層要素および/またはトップ層要素に適用される)。これらの実験では、第2のカソードと第3のカソードは、互いに隣り合わせて、および第1のカソード(第4カソードも同様)とは反対側に、すなわち、図5を参照すれば、例えば第2、第3(および第4)カソードのそれぞれについて112、111および116(および115)の位置に配置した。このように、すべての複合層を、AlCrTiSiNを提供するカソード2および3との組み合わせによって層ごとに構築し、および反対側に配置された第1カソードによって供給されたAlCrNにより積層した。実施例4(実験V49)についての、カソード2(AlCr)とカソード3(AlTiSi)を使用した。ただし、カソード2とカソード3は隣接する(およびCrカソードがカソード2の隣にある)のではなく、互いに180°で(互いに対向させて)構成した。再び図5を参照すると、例えば、カソード2を112の位置に、カソード3を116の位置に配置し、Crカソードは111の位置に配置した。
【0140】
これらの実験に基づき、次の結論が導き出される。先行技術のコーティング1~3はすべて1.2mで大きな損傷を示し、これは本発明のコーティングのすべてよりも悪い。
【0141】
異なる組成を有する2個の異なる第1層要素の層を有するが、当該第1層要素にケイ素を含まない、本明細書に記載のコーティングに似たコーティングを有する鋸刃(実施例0)は、1原子%のケイ素を含む本明細書に記載のコーティングを有する本発明の鋸刃(実施)例1~3と5)よりも工具寿命が短く、また異なる組成の2個の第1層要素の層を含み、ケイ素含有量が約1.5原子%である実施例4とほぼ同じ工具寿命であった。
【0142】
さらに、実施例4のようにケイ素を含むカソードをケイ素を含まないカソードからあまりに離して配置すると、耐久性の低い被膜が得られるようである。この実験では一つの構造を形成する、Al、Cr、TiおよびSiからなる必要な構造が形成されず、代わりにこのAlCrNとAlTiSiNの分離された構造が形成されると推測される。
【0143】
他の実験で用いたように、第2のAlCrカソードとAlTiSiカソードを互いに隣接して構成した組み合わせに対して反対側の第1のAlCrカソードの位置が、Si中心をAlCrTiNで囲んでなるAlCrTiSiN構造の閉じ込めをもたらす。この構造が大きくなりすぎると、中間のAlCrナノ層がない場合に発生する、コーティング構造全体を弱くする不安定な構造が形成されるようである。
【0144】
さらに、本発明による全ての鋸刃は、同じくケイ素を含み、しかしチタンを含まない先行技術の鋸刃(先行技術3)よりも長い工具寿命を有するようである。
【0145】
特に、マルチ層は管(管の材料)を切断する間の工具寿命に正の効果を有するようである。実施例5は最も長い工具寿命を有するようである。実施例5では、コーティングは3個の異なる層のタイプを含む約15の第1層要素の層を含む。
【0146】
Ti、CrおよびSi濃度の違いの直接的な結果として、個々の層は、硬度、熱間硬度、弾性率、切粉溶着傾向、および摩擦係数が異なることが予想される。個々の層は、工具の個々の部分について最も支配的な摩耗メカニズムに耐えることができ、最も耐性の高い層は動作中にそのメカニズムを生き残り、他の層はすぐに摩耗すると仮定する。単一の組成の層が複数の摩耗モードに耐えられることはない。したがって、おそらく3個の異なる層は、2個の異なる組成を含む層よりもより耐久性のあるコーティングを提供することができる。コーティングV50は、3個の異なる層が繰り返し積層された構造を有し、これが最も長い工具寿命をもたらすと思われる。これら3個の異なる層のうち1個または2個を有するコーティングについては、コーティングは早期に破壊され、工具寿命が限定されるようであった。これは、管のような高研磨材を断続的に切削する場合、工具の異なる部位で複数の摩耗メカニズムが同時に作用するため、特に重要かもしれない。
【0147】
固体の切削における工具寿命
固体材料については、他のメカニズムが支配的な役割を果たす可能性がある。さらなる実験を用いることで、固体の切削では、実施例1b、1c、3で使用したような単一層構造が良い結果を示し、特に厚い多層コーティングよりも良い場合があることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5