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特許7550199IgEクラスに特異的な免疫反応の抑制効果を介した乳児期のアレルギー素因獲得を阻止する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】IgEクラスに特異的な免疫反応の抑制効果を介した乳児期のアレルギー素因獲得を阻止する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240905BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P37/06
A61P37/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022174493
(22)【出願日】2022-10-31
(62)【分割の表示】P 2019552705の分割
【原出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2022189959
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2017214455
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501124337
【氏名又は名称】ヒュービットジェノミクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】320009222
【氏名又は名称】石坂 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 博久
(72)【発明者】
【氏名】松本 健治
(72)【発明者】
【氏名】森田 英明
(72)【発明者】
【氏名】一圓 剛
(72)【発明者】
【氏名】肥塚 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】石坂 公成
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/051076(WO,A1)
【文献】特表平06-500780(JP,A)
【文献】DUFOUR.C et al.,Successful management of severe infant bullous pemphigoid with omalizumab.,British Journal of Dermatology,2012年,Vol.166,No.5,pp.1140-1142.
【文献】NIGRO,G. et al.,Passive Immunization during Pregnancy for Congenital Cytomegalovirus Infection.,The New England Journal of Medicine,2005年,Vol.353,No.13,pp.1350-1362.
【文献】KUEHR,J. et al.,Efficacy of combination treatment with anti-IgE plus specific immunotherapy in polysensitized childr,J ALLERGY CLIN IMMUNOL,2002年,Vol.109,No.2,pp.274-280.
【文献】HAAK-FRENDSCHO,M. et al.,Administration on an anti-IgE antibody inhibits CD23 expression and IgE production in vivo.,Immunology,1994年,Vol.82,No.2,pp.306-313
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci.,Vol.87, pp.3363-3367
【文献】Clinical and Experimental Allergy,1994年,Vol.24, pp.771-777
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
子を妊娠している母に投与することを特徴とする、前記母から生まれる子の乳児期におけるアレルゲンへの暴露によるアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬であって、前記子を妊娠している母が妊娠3期(29~40週)にある前記医薬。
【請求項2】
子を妊娠している母から生まれる子の胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制する、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
子を妊娠している母から生まれる子の乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防する、請求項1又は2記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、根本的なアレルギー疾患発症予防対策として胎児期から乳児期のIgE(immunoglobulin E)クラスに特異的な免疫反応を抑制することにより、乳児期早期(本明細書においては、「出生後1ヶ月~4ヶ月」と定義する。)から始まる種々のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制する、すなわち、アレルギー素因の獲得を阻止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、今から50年前にはアレルギー疾患患者はほとんどいなかったが、現在では、国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っているといわれている。アレルギーは、工業化・文明化と密接な関係があると考えられており、日本のほか、欧米などの先進国で大きな問題となっている。以下に日本を中心としたアレルギー疾患別の罹患率と医療費についてまとめた。
【0003】
花粉症
日本で最も罹患率の高いアレルギー疾患は花粉症(季節性のアレルギー性鼻結膜炎)である。スギ花粉症の罹患率は、1980年から2000年にかけて2.6倍増加し、20%近い数値となった。また、2006年から2007年にかけての福井県における調査では、スギ花粉症の罹患率が36.7%であった(1)(非特許文献1)。2000年に発表された日本のスギ花粉症の年間医療費は、休業などの間接費601億円を含み合計2860億円と推計されている(2) (非特許文献2)。しかし、スギ花粉症の場合、病気のために損失した労働/勉強時間(absenteeism)に加え、疾患により生産性が低下した状態(presenteeism)の影響が大きいと考えられる。例えば、スギ花粉症の市販薬に多く使用されている抗ヒスタミン薬による労働生産性障害は月間1450億円と見積もられている(3) (非特許文献3)(花粉の飛散時期は、北海道を除き、4-6か月)。
【0004】
喘息
2011年の厚生労働省の調査において、医療機関を受診中の喘息患者は、104.5万人と推計されている(4) (非特許文献4)。世界共通の簡便な問診票 (International study of asthma and allergies in childhood: ISAAC) を用いた場合の日本全国の小児期(6-7歳)の喘息罹患率は、2008年の時点で19.9%となった(5) (非特許文献5)。なお、ISAAC問診票を用いた小児喘息罹患率は、英国、オーストラリアなどで20%を超えている。日本の喘息治療に係る医療の経済負担は1999年の厚生労働省調査によると、4517億円(医療機関を受診する喘息患者数119万6000人;患者1万人あたり37.8億円)と報告されている(6) (非特許文献6)。2007年の米国(人口3億人)の家庭へのアンケート調査では、喘息患者数が1300万人で、喘息治療に係る医療の経済負担は、休業、欠席、死亡等による損失額59億ドルを含み、年間560億ドル(約5兆6000億円)(医療の経済負担は501億ドルとなり、患者1万人あたり38.5億円で、日米でほぼ同額)と報告されている(7) (非特許文献7)。
【0005】
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎の罹患率は乳幼児期がピークで、日本の医師診断による調査において9.8 ~13.2%である。これらの数値は先進工業諸国と同様に高いレベルである(8) (非特許文献8)。
アトピー性皮膚炎の治療や労働生産性の障害による損失は、米国の調査で53億ドル(5300億円)(9) (非特許文献9)、ドイツ(人口8000万人)の調査では、年間15-35億ユーロ(約2000-4600億円)(10) (非特許文献10)と報告されている。アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、蕁麻疹など痒みを伴うアレルギー性皮膚疾患は、花粉症と同様に、疾患により生産性が低下した状態(presenteeism)の影響が大きいことが示されている(11) (非特許文献11)。
【0006】
食物アレルギー
食物アレルギーの罹患率に関しては調査方法で解離が大きいが、医師診断では先進工業諸国で2%台という報告が多く、21世紀になっても増加している(12) (非特許文献12)。
【0007】
以上、食物アレルギーを含めたアレルギー疾患全体の医療費とabsenteeismに関する労働生産性の障害を含めた治療による経済損失の合計は、日本では少なくとも年間1兆円を超えていると推定される。また、Presenteeismによる影響は、治療に係る損失と同等以上の損失である可能性が高い。
【0008】
アレルギー疾患治療薬
アレルギー疾患の症状を緩和するために、様々な抗アレルギー薬(ケミカルメディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、トロンボキサンA2受容体拮抗薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬など)が使用されているが、対症療法に過ぎず、根本的な治療に至っていない。
【0009】
ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体、Omalizumabは、元はアレルギー性喘息の治療薬として開発され、日本国内では成人の気管支喘息治療剤として2009年1月(150mg製剤)および2012年9月(75mg製剤)に、小児の気管支喘息治療剤として2013年8月に承認を取得している。2017年3月現在、世界90カ国以上でアレルギー性喘息の治療薬として、また、世界85カ国以上で慢性特発性蕁麻疹の治療薬として承認されている(13)(非特許文献13)。Omalizumabは、上記の抗アレルギー薬と比べて、アレルギー症状の緩和効果は高いが、生物学的製剤である抗体医薬品であることから価格が格段に高くなるため、他のアレルギー疾患への適応は認められていない。さらに、現時点では、アレルギー性喘息および慢性特発性蕁麻疹に対して、対症療法に過ぎず、根本的な治療に至っていない。
【0010】
日本のみならず、世界的にもアレルギー疾患患者が増加していることから、世界的にも医療費を含む経済損失は年々膨大なものとなっている。さらに、今後、生物学的製剤の普及や世界的な医療の均霑化に伴い、アレルギー疾患診療に関する医療費はさらに膨大なものになると予想されることから、根本的なアレルギー疾患対策につながる方法の確立が喫緊の課題となっている。
【0011】
アレルギー疾患発症予防
アレルギー疾患の大半は乳幼児期に発症する。さらに、成人期になると一度発症したアレルギー疾患が寛解することはほとんど期待できない、すなわち、一度獲得したアレルゲンに特異的なIgE抗体が陰性化することはほとんど期待できない。そのため、乳児期のアレルギー疾患の発症を予防することが重要である。特に、生後数ヶ月までの乳児期における湿疹・アトピー性皮膚炎の発症、および、それに引き続く様々なアレルゲンへの感作を予防することは、アレルギー・マーチ(アレルギー体質を有する個体は、乳児期に食物アレルギーやアトピー性皮膚炎が発症し、幼児期にダニアレルギー、喘息を発症し、学童期に花粉症、鼻炎を発症するという小児アレルギーの自然歴)の進展を抑制するためには、最も重要であると考えられている(14, 15)(非特許文献14、15)。そして、生後3-4ヶ月以前、特に生後1-2ヶ月に発症した湿疹・アトピー性皮膚炎は、3歳児の食物アレルギーの診断に強く相関(オッズ比6.6倍)するという報告(16)(非特許文献16)は、この考えを支持する。
【0012】
アレルギー疾患が急増していることから、早急に乳児のアレルギー疾患発症予防方法を確立しないと、今後数十年間、日本のみでも年間数兆円のアレルギー疾患対策医療費が必要となると予想されている。そのため、乳幼児に対して、スキンケアやより早期からのアレルゲンの経口摂取など、様々なアレルギー予防策が試されてきたが、一部抗原を除き満足できる成果が得られていないのが現状であることから、乳幼児を対象とした根本的なアレルギー疾患対策につながる方法を確立することが希求されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Yamada T, Saito H, Fujieda S. Present state of Japanese cedar pollinosis: the national affliction. J Allergy Clin Immunol 2014; 133: 632-639.
【文献】川口 毅、星山佳治、渡辺由美 スギ花粉症の費用について、アレルギーの臨床 2001; 21: 178-182.
【文献】大久保仁祐、小林慎 花粉症治療における労働生産性の意義 アレルギー・免疫 2007; 14: 218-226.
【文献】Ohta K, Ichinose M, Nagase H, Yamaguchi M, Sugiura H, Tohda Y, et al. Japanese Guideline for Adult Asthma 2014. Allergol Int 2014; 63: 293-333.
【文献】Hamasaki Y, Kohno Y, Ebisawa M, Kondo N, Nishima S, Nishimura T, et al. Japanese Guideline for Childhood Asthma 2014. Allergol Int 2014; 63: 335-356.
【文献】泉孝英 喘息の医療経済 アレルギー 2002; 51: 892.
【文献】Barnett SB, Nurmagambetov TA. Cost of asthma in the United State: 2002-2007. J Allergy Clin Immunol 2011; 127: 145-152.
【文献】Katayama I, Kohno Y, Akiyama K, Aihara M, Kondo N, Saeki H, et al. Japanese Guideline for Atopic Dermatitis 2014. Allergol Int 2014; 63: 377-398.
【文献】Drucker AM, Wang AR, Li WQ, Sevetson E, Block JK, Qureshi AA. The Burden of Atopic Dermatitis: Summary of a Report for the National Eczema Association. J Invest Dermatol 2017; 137: 26-30.
【文献】Wollenberg A, Sidhu MK, Odeyemi I, Dorsch B, Koehne-Volland R, Schaff M, et al. Economic evaluation of maintenance treatment with tacrolimus 0.1% ointment in adults with moderate to severe atopic dermatitis. Br J Dermatol 2008; 159: 1322-1330.
【文献】室田浩之 アトピー性皮膚炎が労働・勉学能率に与える影響. アレルギー 2010; 61: 445.
【文献】Devereux G, Matsui EC, Burney PJG. Epidemiology of Asthma and Allergic Airway Diseases. In: Adkinson NF Jr editor.Middleton’sAllergy: Principles and Practice. 8th Edition Vol 1. Philadelphia: Elsevier; 2014.p.754-789.
【文献】ノバルティスファーマ プレスリリース:https://www.novartis.co.jp/news/media-releases/prkk20170324
【文献】Reynolds LA, Finlay BB Early life factors that affect allergy development. Nat Rev Immunol. 2017; 17: 518-528.
【文献】Burbank AJ, Sood AK, Kesic MJ, Peden DB, Hernandez, ML Environmental determinants of allergy and asthma in early life. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 1-12.
【文献】Shoda T, Futamura M, Yang L, Yamamoto-Hanada K, Narita M, et al. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. J Dermatol Sci 2016; 84: 144-148.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、根本的なアレルギー疾患対策につながる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
課題を解決するための手段の概要
本発明者らは、以下に示すように、胎児期(本明細書においては、「受胎後第2期~第3期」と定義する。)あるいは新生児期(本明細書においては、「出生後~1ヶ月」と定義する。)から乳児期(本明細書においては、「出生後1ヶ月~12ヶ月」と定義する。)までの間のいずれかの時期に抗IgE抗体を投与することにより、乳児期における免疫応答をIgEクラスに特異的に抑制する方法を発見した。このことにより、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生に引き続いておこる種々のアレルギー疾患(食物アレルギー(鶏卵アレルギー、牛乳アレルギー、ピーナッツ・アレルギー、小麦アレルギー等)、花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息などが例として挙げられる)の発症が効率的に予防され、将来的に医療費が大幅に削減されることが期待できる。
【0016】
アレルギー疾患を有する個体の多くは、最初にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを発症し、その後、幼児期以降、喘息やアレルギー性鼻炎を発症するという経過をたどることが多い。最近の様々な研究成果によれば、乳児期にアトピー性皮膚炎(湿疹)が発症し、それが表皮ランゲルハンス細胞を活性化させ、IgE抗体感作を増強し、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症を引き起こすと考えられるようになってきた。しかし、湿疹が存在していても、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生(いわゆるアレルギー素因の獲得)や食物アレルギーの発症と強く相関するのは、生後数ヶ月(3-4ヶ月)までの湿疹の有無や生活環境であり、その後は、この相関が低下することもわかってきている。
【0017】
そこで、発明者らは、上述の課題を解決するために、「生後3-4ヶ月までのIgE抗体の産生を完全に制御することでアレルギー素因の獲得を阻止する」という戦略を立案した。本明細書における「アレルギー素因」とは、「アレルゲンに特異的なIgE抗体が陽性になること」と定義する。そして、その戦略の実現手段として、「妊婦に治療用抗IgE抗体を投与すれば、治療用抗IgE抗体が胎盤を通して胎児に移行し、胎児の体内で(ε鎖mRNAの発現抑制などを介して)IgE抗体の産生機構を抑制することにより、その妊婦から生まれてくる子の新生児期から乳児早期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を阻害することができる(「IgE(免疫グロブリン)クラスに特異的なトレランス」あるいは「IgEクラスに特異的な免疫寛容」を成立させることができる)」という仮説を立てた。ここで、「免疫寛容」とは、一般的には、「特定抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のこと」を指すが、本明細書における「IgEクラスに特異的な免疫寛容」とは、「全ての抗原に対してIgE(免疫グロブリン)クラスに特異的に抗体産生が欠如または抑制される状態のこと」と定義する。
【0018】
この仮説を検証するために、妊娠C57BL/6マウスに抗マウスIgE抗体(Omalizumabと同じIgG1κ抗体)あるいはControl抗体を2回(妊娠中期と妊娠後期に1回ずつ)投与し、生後0週、2週、4週、あるいは6週後から生まれてきた仔マウスをOVA(ovalbumin)で2回感作し、仔マウスのOVAに特異的なIgE抗体の産生能に対する効果を検討した。その結果、生後0、2、4および6週後のいずれの時期から感作した場合にも、Control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスをOVAで感作した場合には、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価の明らかな上昇が観察されたが、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスでは、OVAで感作してもOVAに特異的なIgE抗体の抗体価は全く上昇しなかった。興味深いことに、抗マウスIgE抗体の投与は、OVAに特異的なIgG1抗体の産生には影響を与えなかった。
【0019】
さらに、C57BL/6新生児マウスを用いた評価系により、抗マウスIgE抗体を新生児マウスに投与した場合にも、妊娠マウスに投与した場合と同様に、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を特異的に、少なくとも6週間、抑制することが可能であることを見出した。
【0020】
マウスおよびヒトのIgG抗体の半減期はそれぞれ、6-8日および22-23日であることから、マウスの6週齢は、IgGの半減期で換算すると、ヒトの場合の3-4ヶ月齢に相当することになるため、生後3-4ヶ月までのIgE抗体の産生を完全に制御するという目標を達成できる可能性が高いことが判明した。
【0021】
IgEクラスが特異的に欠損したマウスは、phenotypeも含めて異常が報告されていないことから、ヒト乳児において、生後3-4ヶ月間IgE抗体の産生を完全に抑制した場合にも、有害事象を引き起こさない可能性が高いと考えられる。
【0022】
ヒトの喘息等難治性アレルギー疾患に対して広く使用されている抗IgE抗体、Omalizumabは、血中の遊離IgE抗体を中和する機序によりアレルギー疾患症状を改善すること、ほとんど副作用がないこと、および、妊婦への投与も安全に実施されていることが知られている。また、試験管内においてinterleukin 4 (IL-4)とClusters of differentiation 40 ligand (CD40L) の刺激で強制発現された膜受容体としてIgEを発現している(mIgE+) B細胞は、Omalizumabに反応してanergyもしくはapoptosisの状態となることが報告されている。
【0023】
以上の知見を総合すれば、重症アレルギー疾患の妊婦(子どもはハイリスク)の妊娠後期に、あるいは、これらの妊婦から生まれた子の誕生後から乳児早期のいずれかの時期に、Omalizumabを投与することにより、生後3-4ヶ月間、乳児のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生が著しく抑制される可能性、すなわち、アレルギー素因の獲得を阻止できる可能性が高いことが明らかとなった。
上述の実施例をもって、発明を完成させた。
【0024】
課題を解決するための手段の詳細な説明
I.アレルギー発症に関する知見
食物アレルギーの新たな概念:二重抗原暴露仮説
経皮感作と食物アレルギー
食物アレルギー (food allergy) は、従来、腸管感作により発症すると考えられてきたが、近年、経皮感作の重要性が明らかになり、食物アレルギーの発症機序に関する概念が一新されつつある。
【0025】
食物アレルギーは乳児期に最も多く罹患し(約10%)、その多くがアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)を合併する(17, 18)。特に、アトピー性皮膚炎の発症が乳児期早期で、かつ、重症であるほど、食物アレルギーを合併しやすいことが以前から知られていたが、両者をつなぐ病態の解明は容易ではなかった。
【0026】
「食物アレルギーは経口摂取して発症する」との前提に立ち、米国小児科学会では2000年以降、アレルギー疾患を持つ両親から生まれたハイリスク児に対して、ピーナッツや鶏卵を含む数種類の食物を、妊娠・授乳中、および乳児期~幼児期にわたり除去するように推奨してきた。その予防効果を検証するために複数の疫学調査が行われたが、ことごとく否定的な結果であった。
【0027】
一方で、経皮感作という新たなリスクが注目されるようになった。
【0028】
2003年、英国の小児科医Lackらは、コホート研究を通して、英国では乳児の保湿として普及しているベビーオイル製品をもちいたスキンケアのうち、ピーナッツオイル含有製品を使ったスキンケアが、ピーナッツ・アレルギーのリスクになることを見出した(19)。
【0029】
2006年に、フィラグリン(filaggrin、FLG)機能喪失型遺伝子変異がアトピー性皮膚炎やアレルギー・マーチの発症に関与することが報告された(20)。このような皮膚バリアとアレルギー疾患の関係を支持するエビデンスの蓄積に基づき、2008年、Lackは、二重抗原暴露仮説(dual allergen exposure hypothesis)という斬新な仮説を提唱した(21)。すなわち、経口暴露は、本来あるべき免疫寛容を誘導するのであり、アレルギー感作は経皮暴露による影響が大きい、という仮説である。そして、この二重抗原暴露仮説は、以下の研究により、支持されている。
【0030】
ピーナッツ・アレルギーの研究では、離乳期のピーナッツ摂取制限を推奨した米国や英国よりも、制限せずに乳児期に摂取させていたフィリピンやイスラエルの方が、発症率は低かった(21)。さらに、患児自身のピーナッツ摂取量よりも、患児の周囲で家族がたくさんピーナッツを食べることの方がリスクになる、すなわち、食物抗原が環境抗原として感作され得ることが判明した(22)。
日本では、茶のしずく石鹸という小麦成分(加水分解小麦)を含有する石鹸の使用者に小麦アレルギーが発症し、社会問題になっていた(23)。この事例は、経皮暴露が食物アレルギーを誘発することを臨床的に初めて証明した事例である。
【0031】
さらに、加工処理された食物成分でなくても、表皮バリアの障害下に、食物抗原に繰り返し暴露される状況では、経皮感作による食物アレルギーが発症することが分かってきた(24)。すなわち、主婦や調理師のように手荒れした状態で食品を素手で調理する場合や、食物成分を含有したスキンケア製品で美容的な施術を有する場合に食物アレルギーが発症することがある(24-26)。
【0032】
このように、経皮感作による食物アレルギー発症に関するエビデンスが蓄積されつつある中、現在、スキンケアによる食物アレルギーの発症予防効果への期待が高まっている。
【0033】
経皮感作の作用機序
皮膚バリアの仕組み
身体の外表を覆う皮膚は、外界と生体の境界をなすバリアとしての機能を持つと同時に、バリアの障害や侵入外来物質に対して監視機構の役割も果たしている(27)。皮膚の構造は、外側から表皮、真皮、皮下組織の3層に分かれ、最外層の表皮は、さらに、表層から角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層に分けられる。表皮はその95%をケラチノサイト(表皮角化細胞)が占める。皮膚バリアは、主に角層と顆粒層のタイトジャンクション(tight junction)により構成される。
【0034】
角層のバリアは、空気環境と液性環境の間を隔てるバリアであり、物理的には乾燥や外力による障害から身体を守っている。
【0035】
顆粒層では、細胞と細胞の間にタイトジャンクションが存在し、表皮の細胞外液性環境をタイトジャンクションバリアの体表側と体内側の2つのコンパートメントに分割している。そして、タイトジャンクションの内側の有棘層で、表皮内樹状細胞(ランゲルハンス細胞)が表皮バリアの障害によって侵入する恐れのある抗原を監視している。
【0036】
先天性皮膚バリア障害とアレルギー
近年、アトピー性皮膚炎(様)の臨床像を呈する一部の患者に、皮膚バリア構成成分の遺伝子異常が同定されるようになった。SPINK5遺伝子にコードされたセリンプロテアーゼインヒビターLEKTIの不全によるNetherton症候群(28)や、KLK5の基質であるコルネオデスモシンが完全に欠損するpeeling skin症候群B型(29)は、生後早期にアトピー性皮膚炎様の皮疹が現れ、IgE上昇、食物アレルゲンに対する特異的IgE抗体上昇などの特徴がみられる。また、タイトジャンクションの接着分子であるclaudin-1遺伝子の一塩基多型とアトピー性皮膚炎の関係も報告された(30)が、最もアトピー性皮膚炎と強い相関が見いだされているのがフィラグリン(FLG)遺伝子変異である。
【0037】
Palmerらは、FLG遺伝子変異がアトピー性皮膚炎の発症に関連することを報告した(20)。FLG遺伝子変異は人種差があり、日本人のアトピー性皮膚炎患者では約27%に検出される(31)。FLG遺伝子変異を持つアトピー性皮膚炎患者は、乳児期早期にアトピー性皮膚炎を発症し、IgEが高値で、食物アレルギーを合併し、喘息の発症リスクも高いことが明らかとなった(31)。興味深いことに、FLG欠損マウスでは、SPF (specific pathogen free) の環境下では皮膚炎が生じないが、経皮感作によって初めてIgE上昇や皮膚炎が生じることが明らかになった(32)。生後3-4ヶ月以前、特に生後1-2ヶ月に発症した湿疹・アトピー性皮膚炎は、3歳児の食物アレルギーの診断に強く相関(オッズ比6.6倍)すること(16)、および、1歳で鶏卵抗原特異的IgE抗体が陽性となった児が3歳時点でダニ抗原特異的IgE抗体が陽性となるリスクは、そうでない児に比して27倍であること(33)が報告されている。これらのことは、ヒトにおいて最初の感作抗原となることが多い食物の経皮感作は、皮膚炎や食物アレルギーの発症のみならず、後の喘息や鼻炎の発症リスクとなり、アレルギー・マーチを誘導する重要な引き金となることを示唆する(34, 35)。
【0038】
皮膚バリア障害と経皮感作
皮膚バリア障害を介して食物抗原の経皮感作が起こる機序については、以下のように考えられている。健常な皮膚では、通常500 ダルトン以上の大きな分子を通すことができないが、角層のバリアが障害されると、数十キロダルトンもある食物抗原が皮内に取り込まれる。それは、単に壊れたバリアを抗原が通り抜けるわけではない。表皮の様々なシグナルを受けて活性化したケラチノサイトからIL-1(interleukin 1)やTNF-α(tumor necrosis factor α)、TSLP(thymic stromal lymphopoietin)などのサイトカインが産生され、その作用により活性化されたランゲルハンス細胞が抗原を能動的に取得するのである(27, 35)。
【0039】
ランゲルハンス細胞は、表皮内のタイトジャンクションの内側に存在するが、ひとたび活性化すると、タイトジャンクションバリアを越えて角層直下まで樹状突起の先端を延ばし、樹状突起の先端から抗原を取り込む(27, 36)。その後、抗原を取得したランゲルハンス細胞は、Th2(T helper 2)応答のマスタースイッチとされるTSLPなどの作用を受けて、所属リンパ節へ遊走し、Th2細胞の分化・増殖や、IL-4やIgE抗体の産生を誘導する。
【0040】
このように、Th2環境下に置かれた皮膚では、よりいっそう皮膚バリア成分の発現が低下し、バリア機能は損なわれていく。さらに、Th2アレルギーが強く誘導されると、その他の臓器のバリアもTh2環境下に置かれ、食物アレルギーや喘息、鼻炎が続発するようになると考えられている。食物アレルギーと深く関連する腸管粘膜では、IgE抗体やTh2サイトカインの濃度が上昇することによって、マスト細胞の増加とともに、脱顆粒によるタイトジャンクション障害が生じ腸管透過性が亢進するため、腸管粘膜でのアレルギー炎症や感作が助長されるものと考えられている(37)。
【0041】
経皮感作が惹起されるためには、アセトンによる脱脂や剃刀による剃毛などの外的な皮膚の障害レベルが角層であることが重要である(38)。さらに、石鹸(界面活性剤)の過度の使用や、エアコンによる低湿度環境、環境中のダニや花粉などに含まれるプロテアーゼの作用、掻破などの後天的なバリア障害が起きることが必要である。これらの知見は、皮膚の角層の障害および低湿度環境などの後天的なバリア障害を防げば、経皮感作の予防となること、および、スキンケアによる食物アレルギーの発症予防効果が期待される理由を示している。
【0042】
食物アレルギーを含むアレルギー発症に対する従来の予防戦略
経皮(経湿疹)感作予防
アレルギー疾患の中でもアトピー性皮膚炎は生後数か月以内に発症する。最近の研究により、乳児期のアトピー性皮膚炎の存在が食物アレルギーの発症リスクになることが分かった(16)。また、表皮に存在するが気道上皮には存在しないバリア機能タンパク質フィラグリンの遺伝子欠損はアトピー性皮膚炎、食物アレルギーのリスク要因であるのみならず花粉症や喘息についてもリスク要因である。つまり、アレルギー・マーチの主な原因は、乳児期のアトピー性皮膚炎の存在であるということができる(39)。
【0043】
二重抗原暴露仮説に基づけば、経皮感作を予防し、経口免疫寛容を適切に誘導できれば、食物アレルギーの発症は予防できるはずである。このような背景から、保湿剤塗布などを用いてアトピー性皮膚炎発症を予防することにより、皮膚感作、ひいては、他のアレルギー疾患発症を予防できるかどうか検討が行われている。
【0044】
日本(40)および英米のグループ(41)による保湿剤を用いたランダム化比較試験により、新生児からの保湿剤の塗布は有意にアトピー性皮膚炎発症を予防すること、および、アトピー性皮膚炎の発症が卵白抗原感作に関連することが判明した。より詳細には、2014年、国立成育医療研究センターでは、両親や兄弟にアトピー性皮膚炎の既往のあるハイリスク児に対して、生後1週間以内に保湿薬によるスキンケアを開始し、32週間継続した後、アトピー性皮膚炎の発症や抗原感作を評価した。保湿剤を毎日塗ることでアトピー性皮膚炎(湿疹)の発症は約32%低下したが、食物抗原の感作については有意な軽減はみられなかった。ただし、経過中アトピー性皮膚炎を発症しなかった群と、アトピー性皮膚炎を発症した群とを比較すると、前者は有意に食物抗原の感作が抑制されており、スキンケアによる間接的な効果が示唆された(40)。
【0045】
現時点では、以上のエビデンスを踏まえ、スキンケアによって皮膚バリアを補完、維持することがアトピー性皮膚炎発症の予防ならびに経皮感作の予防の一助になる可能性があることが示唆されている。
【0046】
抗原除去による感作予防
寝具等の家塵中のダニ抗原量は喘息発作頻度と相関する。ピーナッツ消費量の多い米国ではピーナッツ・アレルギーの頻度が高い。近年、日本でスギ花粉症が増加した大きな原因は、戦後植林したスギの樹木が花粉を多く飛散する樹齢になったことである(42)。このようにアレルギー疾患増加の原因として、アレルゲンの増加が寄与することは明らかである。
【0047】
アレルギー疾患の症状・症候の発現・増悪予防(三次予防)および基本治療方針は、アレルギー疾患を発症し、アレルギー疾患の原因アレルゲンが確定した場合は、その原因アレルゲンを除去することである。
【0048】
しかし、これまでの様々な介入試験の結果、乳児期以前からのアレルゲン除去による発症予防(一次予防、二次予防)効果は証明されていない。むしろ、環境中のピーナッツ抗原レベルの高い米国では乳児期のピーナッツ摂取制限により、ピーナッツ・アレルギーのリスクは増大することが報告されている(43)。
【0049】
現時点では、以上のエビデンスを踏まえ、遺伝的リスクが高いという理由で経口摂取の開始時期を遅らせないようにすることが大切であることが判明している。また、環境中に普遍的に存在するダニ、スギ花粉、食物抗原などによる感作を抗原除去による方法で予防することは非現実的であると考えられる。
【0050】
抗原導入による耐性(免疫寛容)誘導
同じアレルゲンであっても、侵入経路によってはIgE抗体の産生が抑制されることがある。アトピー性皮膚炎の炎症を起こしている皮膚や喘息患者の気道粘膜からアレルゲンが侵入すると、感作されたマスト細胞の活性化を誘導するとともに、上皮間葉系組織から遊離されるサイトカインの影響により、IgE抗体の産生も増強される。しかし、健康な舌下や腸管などは制御性T細胞が生成しやすい環境であるため、アレルゲンが侵入すると制御性T細胞が作られ、乳幼児期である等のためにアレルゲンに対してナイーブであった場合は、免疫寛容が成立し、また、既にアレルギー疾患を発症している場合でもアレルギー反応を起こさない無害なIgG抗体が産生されるため、寛容状態になると考えられている。
【0051】
そこで、食物アレルギー発症予防として臨床試験が実施されるようになった。
【0052】
2015年、Lackらはランダム化比較試験によって、ハイリスク児であってもピーナッツ摂取開始を遅らせるよりも、むしろなるべく早く摂取する方が有益であるとする、新たなエビデンスを発表した。生後4-11ヶ月のハイリスクの乳児にピーナッツの摂取を開始すると、除去した群に比べて、5歳までのピーナッツ・アレルギーが絶対値で11-25%、相対的には80%も減少した(43)。
多くの国で最も多いアレルギー原因食物である鶏卵に関しては、国立成育医療センターにおける臨床研究介入試験において、鶏卵を4カ月から摂取した児は、プラセボを摂取した児と比較し、1歳時点の鶏卵アレルギーの発症が80%減少したと報告された。この試験では、従来の方法と異なり、固ゆで卵を少量摂取から徐々に増量する介入方法とともに、一律に湿疹に対する早期治療を行ったことが特記されている(44)。
【0053】
以上のように、ピーナッツや鶏卵などのアレルギー原因物質の離乳早期からの経口摂取が食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症抑制に有効であることが示唆されつつある。
【0054】
衛生仮説
多くの疫学的調査結果から、環境中のエンドトキシン量が多い農村地域や非衛生的な地域で育った場合、その後の花粉症の発生率やアレルゲン特異的IgE抗体保有率が低くなることが報告されている(45)。
【0055】
免疫学的な背景としては、非衛生環境下で、Th2細胞に拮抗するTh1細胞が増加することが想定されている。すなわち、ダニ抗原などのアレルゲンが生後初めて侵入すると、抗原提示細胞に取り込まれ、所属リンパ節においてナイーブT細胞に対して抗原提示が行われる。この時に、抗原提示細胞に存在する、エンドトキシンなどの細菌やウイルス由来の分子を認識するToll様受容体(TLR)が同時に刺激されると、ナイーブT細胞は、Th2細胞には分化せず、Th1細胞が生成する。そして、アレルゲン特異的Th1細胞は、IgE抗体の産生を促進せず、病的反応も惹起しないということが免疫学的な説明となっている。
【0056】
最近、衛生仮説の理論的根拠として環境中のエンドトキシンが気道上皮細胞にA20タンパク質(Tnfaip3)を表出させて樹状細胞(ランゲルハンス細胞)の活性化を阻害することが報告されている(46)。これは、経皮感作によらない一部の喘息や花粉症の発症予防に対する重要な戦略となり得る。
【0057】
根本的な乳児アレルギー対策の提案
以上のエビデンスを踏まえ、乳児湿疹への早期介入とアレルギー原因物質の離乳早期からの経口摂取が食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症抑制に有効であることが示唆されつつある。
しかし、保湿剤による食物(鶏卵)抗原感作の抑制は認められなかったこと、および加熱鶏卵やピーナッツを離乳早期から摂取させることでこれらのアレルギーの発症を抑制できたものの、そのほかの抗原については、抑制効果は証明されていない。よって、将来的な医療費削減に十分な効果が期待できる喘息等を含めたアレルギー疾患発症予防方法を確立するためには、さらに安全で効率的な手段を確立することが必要である。
【0058】
本発明者らは、より安全で確実なアレルギー予防対策を立案するために、I型アレルギーの最も重要な原因分子であるIgE抗体に着目した。アレルギー疾患を有する個体の多くは、乳児期にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを発症し、その後、幼児期以降、喘息やアレルギー性鼻炎を発症するという経過をたどることが多い。最近の様々な研究成果によれば、最初にアトピー性皮膚炎(湿疹)が発症し、それが表皮ランゲルハンス細胞を活性化させ、IgE抗体感作を増強し、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の発症を引き起こすと考えられるようになってきた。しかし、湿疹が存在していても、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生(いわゆるアレルギー素因の獲得)や食物アレルギーの発症と強く相関するのは、生後数ヶ月(3-4ヶ月)までの湿疹の有無や生活環境であり、その後は、この相関が低下することにも着目した。
そして、上記の知見を総合して、発明者らは、「生後3-4ヶ月までのIgE抗体の産生を完全に制御することでアレルギー素因の獲得を阻止する」という戦略を立案した。本明細書における「アレルギー素因」とは、「アレルゲンに特異的なIgE抗体が陽性になること」と定義する。そして、その戦略の実現手段として、「妊婦に治療用抗IgE抗体を投与すれば、治療用抗IgE抗体が胎盤を通して胎児に移行し、胎児の体内で(ε鎖mRNAの発現抑制などを介して)IgE抗体の産生機構を抑制することにより、その妊婦から生まれてくる子の新生児期から乳児早期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を阻害することができる(「IgE(免疫グロブリン)クラスに特異的なトレランス」あるいは「IgEクラスに特異的な免疫寛容」を成立させることができる)」という仮説を立てた。ここで、「免疫寛容」とは、一般的には、「特定抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のこと」を指すが、本明細書における「IgEクラスに特異的な免疫寛容」とは、「全ての抗原に対してIgE(免疫グロブリン)クラスに特異的に抗体産生が欠如または抑制される状態のこと」と定義する。
【0059】
本発明者らは、抗マウスIgE抗体を妊娠マウスおよび新生児マウスに投与する実験によりこの仮説を検証した結果、抗IgE抗体を用いた、胎児期から乳児期にIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制する方法の開発に成功した。
ヒト化抗ヒトIgE抗体
1966年石坂らによりIgEが発見されて以来、それまで混とんとしていたアレルギーに関する研究は、免疫学の進歩とともに飛躍的に進展した(47)。
【0060】
IgEはIgGと同様に2本のheavy chain(H鎖)と2本のlight chain(L鎖)とからなるが、定常領域(C domain)はIgGが3領域に対して、4領域からなり、分子量はIgGの150 kDaに対してIgEは190 kDaである。また、IgE受容体との結合は、高親和性のFcεRIと低親和性のFcεRIIのいずれの場合にも、3番目のC domainであるCε3で起こる。
【0061】
そして、IgEは、マスト細胞の表面でFcεRIを介して存在し、該当する抗原と結合することにより、マスト細胞からの化学伝達物質およびサイトカインの産生遊離を惹起する(48)。
【0062】
米Genentech社で1991年に作製されたヒト化抗ヒトIgE抗体は、Omalizumab(オマリズマブ)と呼ばれる。これは、ヒトIgE分子のCε3に特異性をもつマウス単クローン抗体をベースとして、遺伝子組み換え技術によりヒトIgE Cε3に特異的な結合部位のみ残し、あとの95%はヒトのIgG1κの分子構造に置換したものである(49)。
【0063】
米Genentech社は、Omalizumabに関連した多数の特許を出願しているが、その中でも重要な特許が以下の2つの特許、米国特許6,685,939(Method of preventing the onset of allergic disorders)、および、日本特許3457962(特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン)、であり、それらの特許の発明の概要を以下に示す。
【0064】
Genentech社の特許発明の概要:
IgEをそのFCEL(低親和性IgEレセプター、FcεRII)およびFCEH(高親和性IgEレセプター、FcεRI)に結合させる上で重要な役割を果たすIgEドメインおよび特定の残基を同定し、その情報に基づき、これら2つのレセプターのうち一方のみに実質的に結合することができるが、これらレセプターのうち他方には実質的に結合することができないポリペプチドを設計した。これらポリペプチドは、識別結合ポリペプチドと称される。この発明の識別結合ポリペプチドは、IgEレセプターのための診断手順またはアレルギーなどのIgEに媒介された疾患の治療に有用である。該ポリペプチドはまた、レセプター結合に参画するIgEの領域に結合することのできる抗体を調製するのに有用である。この発明は、とりわけ、FCEL-結合IgEには結合することができるが、FCEH-結合IgEには実質的に結合することができない抗体に関する。この発明の態様において、アレルギーおよび他のIgEに媒介される疾患の診断または治療または予防に有用な変異体抗IgE抗体が提供される。
【0065】
FCEHおよびFCEL特異的ポリペプチドおよび抗IgE抗体(とりわけ、免疫原性の減少したもの)は、アレルギーの治療または予防のための療法に有用であるが、細胞毒性官能基を有するFCEH特異的ポリペプチドサブグループは、マスト細胞および好塩基球の脱顆粒を引き起こし得るので治療には適していないと考えられる。そうでなければ、一般に、好ましくは、急性のアレルギー応答に先立って、アレルゲンに感作したことがわかっている患者に該ペプチドを投与する。
【0066】
ヒト化抗ヒトIgE抗体、Omalizumabの臨床効果
Omalizumabは、IgEのCε3と結合することにより、IgEがマスト細胞や好塩基球の表面にあるFcεRIに結合することをブロックする。その結果、抗原暴露が起こっても、IgEを介したマスト細胞や好塩基球での一連の反応が阻止され、アレルギー反応による喘息などの症状の発現を抑制すると考えられている(50)。
【0067】
抗原誘発で惹起される喘息反応に対する抗IgE抗体療法の効果を検討したところ、即時型反応および遅発型反応が有意に抑制された(51)。Omalizumab療法は、難治性のアレルギー性喘息における新しい治療薬としてガイドラインで位置付けられた。また、小児喘息での検討や大規模な市販後調査から有効性と安全性が明らかにされ、小児気管支喘息でも認可された。さらに、特発性蕁麻疹の治療薬として承認されている(13)。今後、製剤の薬価を下げることが可能となれば、難治性のアレルギー性鼻炎や皮膚炎、さらには、抗原特異的な減感作療法との併用などへ適応拡大が期待できる。いずれにせよ、抗IgE抗体療法は、喘息をはじめとするアレルギー疾患の病態メカニズムの解明に基づいた根本的な治療法の1つであることから、今後さらに発展が期待できる。
【0068】
Omalizumabの安全性と忍容性について
Omalizumabは抗体依存性細胞傷害活性が低いので、すでにアレルゲンに特異的なIgE抗体やメモリーB細胞が存在する成人に投与しても、血清IgE抗体価が低下することはないが、in vitro試験において、B細胞上の膜結合型IgEと反応し、ε-chainのmRNAの発現の抑制を介し、B細胞によるIgE抗体産生量を低下させることが報告されている (52, 53)。
【0069】
Omalizumabは、既にマスト細胞や好塩基球にFcεRIを介して固着しているIgEと反応しないため、架橋によりアレルギー反応を惹起する心配がないと考えられている。さらに、受容体に未結合のフリーのIgEとの反応では、IgE-Omalizumab免疫複合体を産生するが、この免疫複合体は、少量で、しかも、可溶性であり、補体結合能がないことから、わずかに心血管障害や脳血管障害のリスクを上昇させるものの(54)、血清病を惹起する心配がないと考えられている。
【0070】
アナフィラキシー
Omalizumabは、完全ヒト抗体ではないため、残存したマウスのアミノ酸配列や抗原認識部位に対する抗体が生成することにより、ショック、アナフィラキシーが発現する可能性があるが、その発現頻度は、以下に示すように0.2%以下で、極めて低い。Omalizumab投与によるショック、アナフィラキシーは、日本国内の臨床試験では認められていないが、気管支喘息患者を対象とした海外成人臨床試験において、アナフィラキシー/アナフィラキシー様反応が、本剤投与軍群0.13%(7例/5367例)、プラセボを含む対照群0.03%(1例/3087例)に認められており、発生頻度は低いものの本剤投与群の方が高い傾向であった。また、気管支喘息患者を対象とした海外小児臨床試験では、本剤群0.2%(1例/624例)、プラセボ群0.3%(1例/302例)に認められている(55)。海外市販後の自発報告(56)においては、アナフィラキシーと報告された事象およびアナフィラキシーとは報告されていないがアナフィラキシーの可能性のある過敏症反応が、合計124名で認められており、本剤の推定処方患者数(約57300名)を基に算出した頻度は0.2%であった。ここで強調されるべきことは、Omalizumab投与に関連するアナフィラキシーの報告の頻度は、他の適用に使用されている他の生物製剤投与に関連するアナフィラキシーの報告の頻度に比べて、低いことである(57-61)。
【0071】
また、いずれの投与群においても、血清病あるいは血清病様症候群は副作用として観察されなかった。さらに、Omalizumab投与群において、抗Omalizumab抗体の生成が認められた患者は皆無であった。
【0072】
寄生虫感染
Omalizumabは、遊離IgEと複合体を形成して、遊離IgEを減少させる。IgEは寄生虫感染に対する宿主防御機能に関与する因子の1つと考えられていることから、理論的には、寄生虫感染に対する感受性が高まる、と考えられる。このようなリスクについて検討するために、腸の寄生虫感染のリスクが高い喘息あるいは鼻炎患者137名を対象として、omalizumabの52週、無作為化二重盲検、プラセボ対照の臨床試験が実施された(62)。この1年間の臨床試験の結果、Omalizumab群はコントロール群と比べて、寄生虫感染のリスクの有意な増加は認められず、また、抗寄生虫療法に対する反応性の差は認められなかった。
【0073】
血小板減少症
非臨床試験において、ヒトに対する最大投与量の3.7 - 20倍のOmalizumabをカニクイザルに投与したところ、血小板数の減少が観察された。そこで、臨床試験や市販後調査結果を解析したところ、Omalizumabの血小板に対する作用は観察されなかった。
【0074】
悪性腫瘍
35のOmalizumabの臨床試験のすべてのindicationについて、悪性腫瘍に関する解析が行われた。Omalizumabを投与された患者5015名のうち25名(0.50%)において、コントロール群では、2845名のうち5名(0.18%)において、悪性腫瘍が報告された。Omalizumab投与群の1名を除いて、すべての悪性腫瘍は固形腫瘍あった。NIH SEERデータベースで比較を行った場合、Omalizumab投与群の悪性腫瘍の出現率は、一般的な集団における悪性腫瘍の罹患率と同等であったことから、Omalizumabは、悪性腫瘍の発生率を有意に増加させないことが判明した(63)。さらに、Omalizumabの市販後前向き観察コホート試験(EXCELS)においても、Omalizumab療法は、腫瘍発症リスクを増加させないという結果が得られた。
【0075】
臨床検査値
ヘモグロビン値、白血球数、血小板数、腎機能および肝機能に関する臨床検査値から、Omalizumab投与は、これらに対して影響を与えないことが明らかになった。
【0076】
結論
いくつかの臨床試験は、中等から重度、あるいは重度の持続性のアレルギー性喘息患者に対して、Omalizumabの上乗せ療法は、臨床的に有用であることを示した。それらの臨床試験における安全性データおよびOmalizumab特異的な懸念事項に関する臨床試験の結果を考え合わせると、Omalizumabの上乗せ療法は、中等から重度、あるいは重度のアレルギー性喘息患者に対して、有効で、しかも、忍容性が高いことが判明した(57)。
【0077】
妊婦に対するOmalizumab投与の安全性について
妊娠判明時にOmalizumabの投与を中止した場合
妊娠時に配偶者がOmalizumab治療を受けていた場合も含めて、47名で、臨床試験中に妊娠が報告された。そのうち、27名がOmalizumab治療群で、18名がコントロール群、他の2名は配偶者がOmalizumab治療を受けていた。Omalizumab群(27名)では、妊娠判明時にOmalizumabの投与を中止した結果、17名が正常出産、4名が人工妊娠中絶、6名が自然流産であった。Omalizumab非投与群(18名)では、8名が正常出産、1名が人工妊娠中絶、6名が自然流産、3名が不明であった。また、妊娠時に配偶者がOmalizumab治療を受けていた2名は、正常出産であった。これらの結果は、妊娠判明時にOmalizumabの投与を中止した場合には、有害な結果にならないことを示す(57)。
【0078】
EXPECT:妊娠中のOmalizumab投与に関する安全性
The omalizumab pregnancy registry, EXPECTは、Omalizumab投与後の母親、妊娠経過、および先天性異常を含む幼児の転帰を調査するために、FDAが計画した市販後前向き観察試験である。EXPECTは、妊娠の8週間以内前、あるいは、妊娠期間中にOmalizumabを1回以上投与された妊婦を対象とした前向観察試験であり、登録時、妊娠第一期、二期、三期、出産時、および出産後6か月ごとに18か月までのデータが収集された。転帰が判明している169の妊娠例(妊娠中のOmalizumabの平均投与期間は8.8か月)の転帰は、156の生産で160名の幼児(4組の双子含む)が誕生し、胎児死亡が1例、11例の自然流産、1例の人工中絶であった。152名の単生児のうち、22名(14.5%)は早産であった。出生時体重が分かっている147名の単生児のうち、16名(10.9%)は胎内発育遅延児であった。125名の満月産の幼児の中では、4名(3.2%)が低体重出生であった。発育異常が認められた幼児の中の7名(4.4%)は重大な障害を有していたが、異常に一定のパターンは認められなかった。以上の結果より、EXPECTで観察された重大な発育異常の有病率は、喘息の一般的な集団において報告されている有病率より、高くはないこと、および、Omalizumabは、喘息の一般的な集団のデータに比べて、早産児および胎内発育遅延児のリスクを増加させないことが判明した(64)。
【0079】
母体から胎児へのOmalizumabの移行
母親から胎児へのIgGの移行には、Neonatal Fc receptor for IgG (FcRn)が重要な役割を果たすこと、および、ヒトではIgG1およびIgG4が最も移行しやすいことが知られている(65)。Omalizumabは、IgG1κ抗体である(49)ことから、Omalizumabを妊婦に投与すると、Omalizumabは胎児の体内へ移行すると考えられる。事実、カニクイザルを用いた動物実験では、Omalizumabの胎盤通過が認められたが、母体毒性や胎児毒性、催奇形性は認められなかった(55)。Correnらは、2009年の総説の中で、投与中に妊娠し、妊娠判明後に投与を中止した27例について、Omalizumabは悪影響を与えなかったと報告した(57)。また、EXPECT試験において、妊娠中にOmalizumabを投与された妊婦においては、喘息の一般的な集団のデータに比べて、重大な先天性障害の有病率、早産児および胎内発育遅延児のリスクを増加させないことが示された(64)。さらに、慢性特発性蕁麻疹を罹患している妊婦に対して、妊娠期間中Omalizumab治療を行った場合にも、正常出産で、身体的、精神心的な異常がなく、生育したことが報告されている(66)。
【0080】
授乳とOmalizumabの関係ではカニクイザルを用いた実験で、乳汁中への移行が報告されている。IgGは、FcRnの作用で血清から母乳へ移行し、乳児の腸管内で吸収される。また、抗原-IgG複合体もFcRnで輸送されることから、IgE-Omalizumab複合体も母乳へ移行すると考えられる。母乳中のOmalizumabの新生児への影響は明らかになっていないが、症例報告の結果を総合すると、母乳を与えた場合にも大きな影響を与えない可能性が示唆された。ただし、非常に例数が少ないことから、更なる研究が必要であることは言うまでもない。
【0081】
米国FDAは、Omalizumabを胎児危険度分類カテゴリーB(動物試験では胎児への危険性は否定されているが、ヒト妊婦での対照試験は実施されていないもの、あるいは、動物試験では有害な作用が証明されているが、ヒトでの対照のある研究ではリスクの存在が確認されていないもの)と分類している。上述の妊婦に関連する報告を総合すると、Omalizumabは妊娠中も安全に使用できる可能性が高いと考えられるが、いずれの国のガイドラインにおいても、Omalizumabの妊婦への投与は奨励されていないことから、妊婦に用いる場合は、リスク/ベネフィットを見極めた上で使用することが重要である(66)。
【0082】
II.本発明
日本では、今から50年前にはアレルギー疾患患者はほとんどいなかったが、現在では、国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っているといわれている。アレルギーは、工業化・文明化など環境の変化と密接な関係があると考えられており、日本のほか、欧米などの先進国で大きな問題となっている。アレルギー疾患の大半は乳幼児期に発症する。また、その元となるアレルギー素因の獲得、即ち、種々のアレルゲンに対する特異的なIgE抗体の産生は新生児期から乳児期早期に始まる。アレルギー疾患発症を予防するために現代文明を捨てることは理論的には考えうるが、乳児死亡率が近代化以前のように悪化する可能性が高く現実的な選択ではない。
【0083】
本発明者らは、以下に示すように、子を妊娠している母あるいは誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を投与することにより、乳児期における免疫応答をIgEクラスに特異的に抑制する方法を発見した。このことにより、種々のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生に引き続いておこる種々のアレルギー疾患の発症が効率的に予防され、将来的に医療費が大幅に削減されることが期待できる。
【0084】
本発明者らは、「抗IgE抗体を妊婦に投与することにより、その妊婦から生まれた子において生後3-4ヶ月までのIgE抗体の産生を完全に制御することにより、その後のアレルギー素因の獲得を阻止する。」という根本的なアレルギー疾患対策を発見し、発明を完成させた。そのコンセプトは、「妊婦に治療用抗IgE抗体を投与すれば、治療用抗IgE抗体が胎盤を通して胎児に移行し、胎児の体内で(ε鎖mRNAの発現抑制などを介して)IgE抗体の産生機構を抑制することにより、その妊婦から生まれてくる子の新生児期から乳児早期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を阻害することができる(「IgE(免疫グロブリン)クラスに特異的なトレランス」あるいは「IgEクラスに特異的な免疫寛容」を成立させることができる)」である。さらに、新生児に治療用抗IgE抗体を投与した場合にも同様の結果が得られることも見出した。
【0085】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬。
(2)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬。
(3)乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防する、(1)又は(2)記載の医薬。
(4)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬とその子に対するアレルゲンを用いた免疫療法との併用。
(5)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬とその子に対するアレルゲンを用いた免疫療法との併用。
(6)乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防する、(4)又は(5)記載の併用。
(7)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期およびそれ以降の疾患の発症を予防するための、治療用抗体を含有する医薬。
(8)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制する方法。
(9)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制する方法。
(10)乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防する、(8)又は(9)記載の方法。
(11)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制する方法であって、その子にさらにアレルゲンを用いた免疫療法を施すことを含む前記方法。
(12)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制する方法であって、その子にさらにアレルゲンを用いた免疫療法を施すことを含む前記方法。
(13)乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防する、(11)又は(12)記載の方法。
(14)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に治療用抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、乳児期およびそれ以降の疾患の発症を予防するための方法。
(15)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生の抑制に使用するための、抗IgE抗体。
(16)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応の抑制に使用するための、抗IgE抗体。
(17)乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防する、(15)又は(16)記載の抗IgE抗体。
(18)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生の抑制に使用するための、抗IgE抗体であって、その子に対するアレルゲンを用いた免疫療法と併用される前記抗IgE抗体。
(19)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応の抑制に使用するための、抗IgE抗体であって、その子に対するアレルゲンを用いた免疫療法と併用される前記抗IgE抗体。
(20)乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防する、(18)又は(19)記載の抗IgE抗体。
(21)子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期およびそれ以降の疾患の発症の予防に使用するための、治療用抗体。
【発明の効果】
【0086】
本発明により、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を著しく抑制すること、すなわち、アレルギー素因の獲得を阻止することができる。
【0087】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2017‐214455の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1】新生仔マウスにおけるOVA感作モデルの概要を示す。
図2】Adjuvantおよび投与経路の検討結果(血清中OVA特異的IgE抗体価)を示す。
図3】抗原量の検討結果(血清中OVA特異的IgE抗体価)を示す。
図4】抗原量の検討結果(OVA投与後の体温低下)を示す。
図5】解析時期の検討結果(血清中OVA特異的IgE抗体価)を示す。
図6】OVA感作モデルを用いた妊娠マウスに対する抗IgE抗体の評価スキームを示す。
図7】新生仔マウスにおける抗IgE抗体の効果(血清中OVA特異的IgE抗体価)を示す。
図8】血清中抗マウスIgE抗体(血清は10倍希釈)がELISA測定系に与える影響の検討(血清中OVA特異的IgE抗体価)を示す。
図9】妊娠マウスに対する抗IgE抗体投与の新生仔マウスにおける効果(OVA投与後の体温低下)を示す。
図10】妊娠マウスに対する抗IgE抗体投与の新生仔マウスにおける効果(血清中OVA特異的IgE抗体価)を示す。
図11】妊娠マウスに対する抗IgE抗体投与の新生仔マウスにおける効果(血清中OVA特異的IgG1抗体価)を示す。
図12】妊娠マウスに対する抗IgE抗体投与の新生仔マウスにおける効果(血清中KLH特異的IgE抗体価、血清中KLH特異的IgG1抗体価)を示す。
図13】妊娠マウスに対する抗IgE抗体投与による仔マウスにおけるIgE抗体産生抑制効果の持続時間の評価スキームを示す。
図14】C57BL/6妊娠マウスに対する抗IgE抗体投与による仔マウスにおけるIgE抗体産生抑制効果の持続時間に関する検討結果(A:血清中OVA特異的IgE抗体価、B:血清中OVA特異的IgG1抗体価)を示す。
図15】BALB/cマウスでの妊娠マウスに対する抗IgE抗体投与の仔マウスにおけるIgE抗体産生抑制効果に関する検討結果(A:血清中OVA特異的IgE抗体価、B:血清中OVA特異的IgG1抗体価)を示す。
図16】未処置C57BL/6およびBALB/cマウスにおけるOVA感作開始週齢時の血清中総IgE量に関する検討結果(血清中総IgE量)を示す。
図17】C57BL/6およびBALB/cマウスにおける食物アレルギーモデルに対する妊娠マウスへの抗IgE抗体投与の効果に関する検討結果(体温変化)を示す。
図18】仔マウスの脾臓細胞のサイトカイン産生パターンに関する検討結果(培養上清中のIL-4、IL-13、IL-17、IFN-γ量)を示す。
図19】抗IgE抗体を新生仔マウスに投与した場合のIgE抗体産生抑制効果の持続時間に関する検討結果(血清中OVA特異的IgE抗体価)を示す。
図20】抗IgE抗体の胎児あるいは新生児への投与による顕著なアレルゲンに特異的なIgE抗体産生の抑制効果に関する作用機序の説明
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0090】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬を提供する。
【0091】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬を提供する。
【0092】
本発明の医薬により、乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防することができる。
【0093】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬とその子に対するアレルゲンを用いた免疫療法との併用を提供する。
【0094】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制するための、抗IgE抗体を含有する医薬とその子に対するアレルゲンを用いた免疫療法との併用を提供する。
【0095】
本発明の併用により、乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防することができる。
【0096】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期およびそれ以降の疾患の発症を予防するための、治療用抗体を含有する医薬を提供する。
【0097】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制する方法を提供する。
【0098】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制する方法を提供する。
【0099】
本発明の方法により、乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防することができる。
【0100】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制する方法であって、その子にさらにアレルゲンを用いた免疫療法を施すことを含む前記方法を提供する。
【0101】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制する方法であって、その子にさらにアレルゲンを用いた免疫療法を施すことを含む前記方法を提供する。
【0102】
本発明の併用療法により、乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防することができる。
【0103】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に治療用抗体を医薬的に有効な量で投与することを含む、乳児期およびそれ以降の疾患の発症を予防するための方法を提供する。
【0104】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生の抑制に使用するための、抗IgE抗体を提供する。
【0105】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応の抑制に使用するための、抗IgE抗体を提供する。
【0106】
本発明の抗IgE抗体により、乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防することができる。
【0107】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生の抑制に使用するための、抗IgE抗体であって、その子に対するアレルゲンを用いた免疫療法と併用される前記抗IgE抗体を提供する。
【0108】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応の抑制に使用するための、抗IgE抗体であって、その子に対するアレルゲンを用いた免疫療法と併用される前記抗IgE抗体を提供する。
【0109】
本発明のアレルゲンを用いた免疫療法と併用される抗IgE抗体により、乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を予防することができる。
【0110】
本発明は、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与することを特徴とする、乳児期およびそれ以降の疾患の発症の予防に使用するための、治療用抗体を提供する。
【0111】
本発明において、子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に抗IgE抗体を投与することにより、その子の胎児期から乳児期においてIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制し、その結果として、アレルギー素因の獲得を阻止することができる。
【0112】
なお、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生の抑制は、血清中のアレルゲン特異的IgE抗体の測定、およびプリックテスト(アレルゲンエキス、もしくは食品そのものを用いたプリックテスト)により確認することができる。また、IgEクラスに特異的な免疫反応の抑制は、血清中のアレルゲン特異的IgE抗体の測定、プリックテスト(アレルゲンエキス、もしくは食品そのものを用いたプリックテスト)及び血清中アレルゲン特異的IgG抗体の測定により確認することができる。
【0113】
妊婦の食事を通して比較的大量の抗原が胎児に移行する食物アレルゲンに比較して、ダニやスギ花粉などの環境抗原に関しては自然感作成立が生後半年以降となる可能性もある。事実、鶏卵やピーナッツでは乳児期早期の摂取(導入)により大多数の児で耐性誘導がみられたと報告されているのに対し、乳児期にダニ抗原を舌下投与する試験においては、有意差は認められなかった。本発明において、自然感作成立が生後数ヶ月以降になった場合、抗IgE抗体の効果は減弱すると予想される。環境抗原に対する一次予防を成立させるためには、乳児に抗IgE抗体の追加接種を行う以外に、抗IgE抗体が比較的高濃度存在する乳児期早期に、ダニやスギ花粉などのアレルゲンとなりやすい抗原を舌下などの方法で投与することで、IgEクラスに特異的な免疫反応の抑制が誘導されることが、本発明結果から容易に類推することができる。なお、アレルゲンに特異的な免疫療法(鶏卵の経口免疫療法、牛乳の経口免疫療法、ダニの舌下免疫療法、スギの舌下免疫療法などが例として挙げられる。)にもちいられる抗原エキス等を感作が成立していない個体に投与すると、感作を促進することがしばしば観察されるが、本発明結果から、感作が成立していない個体に抗原を投与する場合においても、抗IgE抗体を同時に投与する、あるいは、別々に投与することで、IgEクラスに特異的な免疫反応の抑制が誘導されることが期待できる。ここでいう感作が成立していない個体とは一般的に生後数ヶ月以前の乳児が想定されるが、例えば、スギ花粉がほとんど飛散しない地域に居住している成人に対するスギ花粉抗原エキスとの抗IgE抗体の同時投与あるいは短期間内の別々な時期における投与なども該当するが、これらの例に限定されるものではない。本発明において、抗IgE抗体を含有する医薬と併用する場合、アレルゲンを用いた免疫療法は、アレルゲンに特異的な免疫療法などに使用される抗原エキス等を感作されていない個体に投与することが好ましい。
【0114】
現在、日欧米で承認されている治療用抗体を表1に示した。本発明において、乳児期およびそれ以降の疾患の発症の予防に使用するために、表1に示した治療用抗体を使用することができるが、それらの治療用抗体に限定されるものではない。
【0115】
【表1】
【0116】
本明細書において、抗体とは、Fab、F(ab)’2、ScFv、Diabody、VH、VL、Sc(Fv)2、Bispecific sc(Fv)2、Minibody、scFv-Fc monomer、scFv-Fc dimerなどの低分子化されたものも含む概念である。
【0117】
抗IgE抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体のいずれであってもよい。
【0118】
抗IgE抗体は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4の抗体であり、好ましくはIgG1またはIgG4の抗体であり、軽鎖はκまたはλのいずれであってもよい。また、ADCC(antibody-dependent cellular cytotoxicity)活性の増強を目的とした脱フコース体化など、糖鎖を修飾した抗体であってもよい。
【0119】
抗IgE抗体は、以下のような一般的な製造法で製造できるが、これらに限定されない。IgEポリペプチド又はそのエピトープを含む断片を動物に投与し、抗体を産生するB細胞を回収する。このB細胞とミエローマ細胞を融合したハイブリドーマを作製し、抗体候補を選別する。あるいは、ニワトリB細胞株やヒトB細胞株を用いる方法でもモノクローナル抗体を得ることができる。あるいは、ファージディスプレー法を用いて、抗体遺伝子のライブラリーからモノクローナル抗体を得ることもできる。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞の培養によって生産される。あるいは、選別された抗体遺伝子を挿入した抗体発現ベクターを宿主細胞に導入し、培養することによりモノクローナル抗体を産生する。宿主細胞としては、動物細胞、酵母、昆虫細胞、植物細胞、大腸菌等を用いることができる。宿主細胞によって生産された抗体は、培養上清あるいは宿主細胞の抽出液から、タンパク質の精製に用いられる通常の方法、例えば溶媒抽出、塩析法、脱塩法、沈殿法、イオン交換やProteinAをリガンドとするアフィニティクロマトグラフィーなどの各種モードのクロマトグラフィー、膜分離法などを単独あるいは組み合わせて用いて、精製することができる。
【0120】
抗IgE抗体をPBSなどの緩衝液、生理食塩水、滅菌水などに溶解し、必要に応じてフィルタ-などで濾過滅菌した後、注射により被験者に投与するとよい。また、この溶液には、添加剤(例えば、着色剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、溶解補助剤、安定化剤、保存剤、酸化防止剤、緩衝剤、等張化剤など)などを添加してもよい。
【0121】
抗IgE抗体の投与量および投与経路は、当該抗IgE抗体に付随する付帯的な機能性(例えば、細胞毒性、免疫グロブリンエフェクター機能など)、患者の状態(B細胞、マスト細胞、好塩基球の個体数を含む)、当該抗IgE抗体の半減期、当該抗IgE抗体のそのレセプターへの親和性および臨床家に公知の他のパラメーターに依存する。
【0122】
抗IgE抗体は、静脈内、腹腔内、皮下、経鼻、経肺、または他の適当な経路で投与するとよい。また、候補となる投与量は、in vitro細胞培養または動物モデルを用いて決定することができる。
【0123】
ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体(ゾレア(登録商標)(Xolair(登録商標)):Omalizumabの商品名)は、気管支喘息治療剤および慢性湿疹治療剤として販売されているので、これを用いてもよい。
【0124】
ゾレアを妊婦に投与する場合、基本的にはゾレア皮下注用の添付文書(67)に記載の用法および用量を参考に投与する。例えば、成人一人当たり1回 50 ~ 1500 mg、好ましくは、 75 ~ 600 mgを、妊娠3期(29~40週)に1回あるいは複数回(2又は4週間に1回)、皮下投与するとよい。
【0125】
ゾレアを新生児あるいは乳児に投与する場合は、投与量は、新生児あるいは乳児の状態により決定される。ゾレアを単独で投与する場合には、新生児期から乳児期にかけて、ゾレアを継続的に投与することが、乳児期(特に、乳児早期)のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生抑制に効果的であると考えられる。投与間隔は、気管支喘息治療と同様に4週間に1回程度投与すれば十分であると考えられる。また、アレルゲンに特異的な免疫療法と併用する場合には、同時あるいは短期間内の別々な時期における投与、例えば新生児期に1回と離乳開始早期の出生後4-6ヶ月に1回ゾレアを投与し、その後ただちに、鶏卵、ピーナッツ、牛乳、ダニ、花粉エキスなどを複数回(例えば、1ヶ月間連日)投与する方法は効果的かつ実践的であると予想されるが、投与スケジュール等は、これらの方法に限定されるものではない。
【0126】
本発明において、抗IgE抗体を投与する対象は、ヒトに限定されるわけではなく、アレルギー疾患を発症しうるいかなる動物であってもよい。
【実施例
【0127】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
新生仔マウスにおけるOVA感作モデルの確立
妊娠マウスに抗マウスIgE抗体を投与し、新生仔マウスのアレルギー反応に対する影響を調べる評価系を確立するための基本的なスキームを図1に示す(68)。C57BL/6Jマウス(日本SLCより購入)を用い、抗原としては、卵白アルブミン(ovalbumin, OVA)を選択した。基本的には、出生2日および9日後に、抗原(OVA)とアジュバントを同時に投与することで2度の感作を行い、その7日後あるいは14日後に採血して血清中のOVA特異的IgE抗体の抗体価を評価する系である。まずは、この評価系を確立するために、アジュバントの種類、感作経路、抗原量、および解析のための採血時期に関して検討を行った。
【0128】
まず、アジュバントの種類に関しては、アルミニウム塩を主とするアジュバントであるアラム(Alum, Al)と油性アジュバントである完全フロイントアジュバント(complete Freund’s adjuvant, CFA)との比較を行い、投与経路に関しては、腹腔内投与(i.p.)と皮下投与(s.c.)との比較を行った(図1)。
【0129】
感作終了2週間後に採血を行い、分離した血清を25倍あるいは1000倍に希釈して、Biotin化 Rat anti-mouse IgE抗体あるいはBiotin化 Rat anti-mouse IgG1抗体を用いたELISA法により、定法に従って、血清中のOVAに特異的なIgE抗体あるいはOVAに特異的なIgG1抗体の抗体価を測定した。簡単に記述すると、96穴プレート(Thermo Fisher Scientific)に10 μg/mLのOVAを添加し、4℃で一晩静置することで、プレートにOVAを固相化した。0.05% Tween 20(Promega)含有PBSで洗浄後、非特異的吸着を阻止するため10%FCS含有PBSでブロッキングを行なった。洗浄後、至適濃度に希釈した血清試料(IgEの場合は、1:25, IgG1の場合は1:1000の希釈)を添加し、室温で1時間incubateした。洗浄後、Biotin化 Rat anti-mouse IgE抗体(R35-118: BD Bioscience)あるいはBiotin化 Rat anti-mouse IgG1抗体(A85-1: BD Bioscience)を添加し、室温で1時間incubateした。洗浄後、HRB-conjugated streptavidin(Merck)を添加し、室温で1時間incubateした。酵素反応として、TMB(SeraCare Life Sciences Inc)を基質として用い、1 M H2SO4は反応停止液として用いた。プレートリーダー(FlexStation3, Molecular Devices)を用いて、450 nmの吸光度を測定した。血清中のOVAに特異的なIgE抗体のレベルは、OVA特異的モノクローナル抗体(TOS-2, 大鵬薬品からの贈呈)を標準抗体として使用することにより、定量した。
【0130】
その結果、図2に示すように、OVAとアルムを腹腔内投与した場合にのみ、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価の上昇が観察された。
【0131】
次いで、投与する抗原の量に関して検討を行ったところ、OVAの投与量依存的なOVAに特異的なIgE抗体の抗体価の上昇が観察された(図3)。さらに、最終の採血から5日後にOVAを腹腔内投与し、OVA投与後の体温低下について検討したところ、図4に示すように、両方の用量において、明らかな体温の低下が観察された。
【0132】
最後に、採血日に関して検討を実施したところ、感作終了1週間後ではOVA特異的IgE抗体の産生が不十分(検出感度以下)であるが、2週間後には検出可能な量のOVAに特異的なIgE抗体が産生されていることが判明した(図5)。
【0133】
妊娠マウスを用いた抗マウスIgE抗体のOVAに特異的なIgE抗体の産生抑制効果の検討
以上の結果より、妊娠マウスに抗マウスIgE抗体を投与することによる仔マウスのOVAに特異的なIgE抗体の産生の抑制効果を評価するためのスキームを図6のように構築し、C57BL/6Jマウスを用いて実験を行った。すなわち、ヒトの場合、妊娠第二期から胎児の循環血中に母親のIgGが増加してくることを考え合わせて、妊娠12.5日と18.5日にマウス1匹あたり100 μgの抗マウスIgE抗体もしくはIsotype-matched control抗体を妊娠マウスに投与した。投与する抗マウスIgE抗体は、Omalizumabと同一のisotype (IgG1κ)であり、マウス喘息モデルにおける有効性が、Omalizumabのアレルギー性喘息患者における有効性と平行していることが報告されている(69)、精製Rat anti-mouse IgE抗体(R35-92: BD Bioscience)を選択し、isotype-matched control抗体には、精製Rat IgG1κ 抗体(R3-34: BD Bioscience)を選択した。仔マウスに対するOVAの抗原感作は、OVA(Sigma-Aldrich)とアラム(Alum: Imuject, Thermo Fisher Scientific)を1:1の割合で乳化させたOVA乳化液をOVA 5 μg/体重(g)となるように出生2日後および9日後に腹腔内投与することで実施し、採血は出生後23日目、OVA投与による体温低下試験は出生後28日に実施した。
【0134】
その結果、図7に示すように、isotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスをOVAで感作した場合には、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価の明らかな上昇が観察されたが、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスでは、OVAで感作してもOVAに特異的なIgE抗体の抗体価は全く上昇しなかった。なお、血清中に含まれる抗マウスIgE抗体は、ELISA法による抗体価測定に影響を及ぼさないことを確認している(図8)。さらに、これらの仔マウスに対して、OVAの腹腔内投与による体温低下作用を検討したところ、isotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスでは明らかな体温低下が観察されたのに対し、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスでは、全く体温低下が起こらなかった(図9)。
【0135】
次いで、妊娠マウスに抗マウスIgE抗体を投与した場合の仔マウスにおける顕著なOVAに特異的なIgE抗体の産生抑制効果(図7)に関して、再現性を検討する実験を実施した。その結果、図10に示すように、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスでは、OVAの感作によるOVAに特異的なIgE抗体の抗体価の上昇が完全に抑制されていることが判明し、この作用は再現性が非常に高いことが明らかになった。
【0136】
アラムとOVAを同時に腹腔内投与すると、OVAに特異的なIgE抗体と同時に、OVAに特異的なIgG1抗体も産生されることが知られている(70)。そこで、血清中のOVAに特異的なIgG1抗体の抗体価に関しても、Biotin Rat anti-mouse IgG1抗体(A85-1: BD Bioscience)を用いたELISA法により検討を行った。その結果、図11に示すように、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスおよびisotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスをOVAで感作したところ、両マウスは、OVAに特異的なIgG1抗体を同程度産生していることが判明した。
【0137】
次いで、他のアレルゲンに対しても、同様の結果が得られるか否かを検討するために、OVA乳化液の代わりにKLH(Keyhole limpet hemocyanin; スカシガイ由来ヘモシアニン)を用いた。具体的には、KLHとアラムを1:1の割合で乳化させたKLH乳化液を0.25 μg/体重(g)となるように出生2日後および9日後に腹腔内投与することで感作し、同様の実験を行った(図12)。その結果、isotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスをKLHで感作した場合には、KLHに特異的なIgE抗体の抗体価の明らかな上昇が観察されたが、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスでは、KLHで感作してもKLHに特異的なIgE抗体の抗体価は全く上昇しなかった(図12)。一方、両仔マウスは、同程度のKLHに特異的なIgG1抗体を産生していた。KLHをアレルゲンとした場合も、OVAをアレルゲンとした場合と同様の結果が得られたことから、妊娠マウスに抗マウスIgE抗体を投与すると、その仔マウスでは、種々のアレルゲンに対して特異的なIgE抗体の産生が著しく抑制される可能性が示唆された。
【0138】
アレルゲンに特異的なIgE抗体とアレルゲンに特異的なIgG1抗体は、B細胞により産生されることから、抗IgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスにおけるアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生の完全な抑制は、B細胞の破壊によるものではなく、IgE抗体の産生経路の特異的な抑制によるものであることが示唆された。
【0139】
仔マウスにおけるOVAに特異的なIgE抗体の産生能抑制状態の持続期間の検討
次いで、仔マウスにおけるOVAに特異的なIgE抗体の産生能の完全な抑制状態の持続期間を明らかにするために、妊娠12.5日と18.5日にマウス1匹あたり100 μgの抗マウスIgE抗体もしくはIsotype-matched control抗体を妊娠マウスに投与し、仔マウスを4群に分けて異なる4つの時期(生後2日、16日、30日、44日後)に感作を開始する実験を行った(図13)。仔マウスにOVA 5 μg/体重(g)とアラムを腹腔内投与することによる感作は、Protocol Aでは生後0週(出生2日後および9日後)、Protocol Bでは生後2週(出生16日後および23日後)、Protocol Cでは生後4週(出生30日後および37日後)、Protocol Dでは生後6週(出生44日後および51日後)後から開始した(図13)。最終感作2週間後に、採血し、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価およびOVAに特異的なIgG1抗体の抗体価を測定した(図14A、B)。その結果、図14Aに示すように、生後0, 2, 4および6週後のいずれの時期から感作した場合にも、isotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスをOVAで感作した場合には、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価の明らかな上昇が観察されたが、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスでは、OVAで感作してもOVAに特異的なIgE抗体の産生は完全に抑制されていた。一方、図14Bに示すように、いずれのProtocolの場合にも、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスおよびisotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスをOVAで感作したところ、両仔マウスは、同程度のOVAに特異的なIgG1抗体を産生していた。
【0140】
マウスおよびヒトのIgG抗体の半減期はそれぞれ、6-8日および22-23日である(71)。マウスの6週齢は、IgGの半減期で換算すると、ヒトの場合は、3-4ヶ月齢に相当することを考え合わせると、上記の結果は、妊娠後期に抗IgE抗体を投与することにより、「新生児の生後3-4ヶ月までのIgE抗体の産生を完全に抑制する」という目標を達成できる可能性が高いと考えられる。
【0141】
上述の結果は、全て、C57BL/6マウスを用いた結果であることから、異なる系統のBALB/cマウスを用いて、図13に示した実験を行い、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価およびOVAに特異的なIgG1抗体の抗体価を測定した。その結果、BALB/cマウスを用いた場合においても、Protocol Aの場合は、妊娠マウスに抗マウスIgE抗体を投与するとその仔マウスのOVAに特異的なIgG1抗体の産生には影響を与えずに、OVAに特異的なIgE抗体の産生を完全に抑制した(図15A)。しかし、他のProtocolの場合には、OVAに特異的なIgE抗体の産生抑制作用が観察されなかったことから、IgE抗体の産生能の抑制状態の持続期間については系統差が認められた。一方、いずれのProtocolの場合にも、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスおよびisotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスをOVAで感作したところ、両仔マウスは、同程度のOVAに特異的なIgG1抗体を産生していた。(図15B)。
【0142】
この系統差の原因を探るために、C57BL/6およびBALB/cの両系統の未感作マウスを用いて、4種類のProtocolの感作開始時点における血清中の総IgE抗体の量を、以下の方法により測定した。簡単に記述すると、96穴プレートに2 μg/mLのrat IgG anti-mouse IgE(R35-72, BD Bioscience)を添加し、4℃で一晩静置することで、プレートにOVAを固相化した。0.05% Tween 20含有PBSで洗浄後、非特異的吸着を阻止するため10%FCS含有PBSでブロッキングを行なった。至適濃度に希釈した血清試料(25倍希釈)を添加し、室温で1時間incubateした。洗浄後、Biotin化 Rat anti-mouse IgE抗体(R35-118)を添加し、室温で1時間incubateした。洗浄後、HRB-conjugated streptavidinを添加し、室温で1時間incubateした。酵素反応として、TMBを基質として用い、1 M H2SO4は反応停止液として用いた。そして、プレートリーダーを用いて、450 nmの吸光度を測定した。血清中の総IgE抗体の量のレベルは、マウスIgEモノクローナル抗体(C38-2, BD Bioscience)を標準抗体として使用することにより、定量した。
【0143】
その結果、IgE低応答性のC57BL/6マウスの場合は、出生後30日までは血清中の総IgE抗体量は検出限界以下であった。一方、IgE高応答性のBALB/cマウスの場合には、出生30日以降には、500 ng/mL以上の総IgE抗体量が検出された(図16)。
【0144】
出生前後の血清中IgE抗体の量は、非常に低いレベルで維持されていることから、胎児の免疫システムにおいては、in vivoではほとんど検出することができないmembrane-bound IgE receptor 陽性(mIgE+)B細胞が抗IgE抗体の唯一の標的であると考えられる。この考えにより、総IgE抗体量のベースラインが低く維持されている乳児期のC57BL/6マウスにおいて、抗マウスIgE抗体が非常に顕著にIgE産生を抑制することができたことを説明することができる。また、BALB/cマウスは、C57BL/6マウスに比べて、抗原感作時の総IgE抗体量が明らかに高いために、抗IgE抗体がB細胞上のmIgEに結合する確率が低下していたことが、上記の両系統におけるアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生能の抑制状態の持続期間の違いの原因の1つであると考えられる。ここで、IgE高応答性の場合には、BALB/cマウスの結果のように、抗IgE抗体はIgE産生をうまく抑制できないのではないか、という疑問が生じるかもしれないが、ヒトの乳児期は総IgE抗体量のレベルが低く維持されていること(72)を考慮すると、ヒトの場合は、C57BL/6マウスの結果に近い結果になると考えられる。いずれにしても、ヒトでは、生後数ヶ月間血清IgE値は非常に低い値を保っているのに対し、Balb/cマウスでは生後数週間で成体へと成長するにつれ血清IgE値が急激に増加することは、前臨床試験である本発明結果の解釈に大きな問題があると考え、主にC57BL/6マウスの結果に関して考察することとした。
【0145】
さらに、妊娠マウスに対する抗マウスIgE抗体投与の食物アレルギーに対する効果を検討するために、採血5日後に、各マウスに10 μg/体重(g)のOVAを腹腔内投与し、投与0, 10, 20, 30, 40, 50, 60分後の直腸温を測定した。C57BL/6マウスの場合、Protocol Aでは、抗マウスIgE抗体を妊娠マウスに投与することにより、体温の低下を有意に抑制することができ、図9の結果の再現性が得られた。しかし、Protocol B, C, Dの場合は、抗IgE抗体の投与による体温低下の抑制効果は観察されなかった。一方、BALB/cマウスの場合は、Protocol Aでは、抗マウスIgE抗体を妊娠マウスに投与することにより、体温の低下を抑制する傾向が認められたが、Protocol Bの場合は、体温低下の抑制効果は観察されなかった(図17)。このように、両系統でProtocol Aの場合は、チャレンジしたアレルゲンに対する反応は緩和されたが、他のProtocolでは明らかな緩和が観察されなかった。この原因は、IgE仲介型のアレルギー反応ではなく、IgG仲介型のアレルギー反応が起こった結果であると考えられる(73)。ヒトとげっ歯類とでは、食物アレルギーモデルに対する反応が大きく異なっており、ヒトではIgE仲介型のアレルギー反応が主に起こることから、この結果はヒトには当てはまらない可能性が高いと考えられる。
【0146】
仔マウスにおけるT細胞の分化誘導状態に関する検討
さらに、図17に示した直腸温を測定したC57BL/6の仔マウスについて、直腸温測定3日後に脾臓細胞を調製し、OVA (200 μg/mL)添加あるいは非添加の条件で、96時間培養後の培養上清中のIL-4、IL-13、IL-17およびinterferon-γ(IFN-γ)を、ELISAにより定量した。簡単に記述すると、直腸温測定3日後に脾臓を取り出し、溶血緩衝液(BioLegend)を用いた溶血処理後、70-μm細胞ろ過機(Corning)を用いて脾臓細胞懸濁液を調製した。脾臓細胞懸濁液は、10% FCS(Biological Industries)、 100 U/mL penicillin、100 mg/mL streptomicin(Thermo Fisher Scientific)含有RPMI1640(Nacalai Tesque)を培地として、48穴プレートを用いて、2 x 106 cells/mLの密度で、200 μg/mLのOVAの存在下、あるいは非存在下で培養した。96時間培養後、培養上清を回収し、培養上清中のサイトカインのレベルをELISAキット(Thermo Fisher Scientific)を用いて測定した。
【0147】
その結果、図18に示すように、OVAで感作した仔マウスから調製した脾臓細胞をOVAを添加して培養する(OVAで刺激する)ことにより、非添加(非刺激)の場合に比べて、IL-4およびIL-13の産生が顕著に、かつ、有意に増加した。しかし、isotype-matched control抗体あるいは抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスを比較した場合、OVA刺激時のIL-4およびIL-13の産生量については、両マウス間で有意な差はなかった。IFN-γに関しても、脾臓細胞をOVAで刺激することにより、非刺激の場合に比べて、IFN-γの産生が顕著に、かつ、有意に増加したが、isotype-matched control抗体あるいは抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスを比較した場合、OVA刺激時のIFN-γの産生量については、両マウス間で有意な差はなかった。IL-17に関しては、OVAを添加して培養することにより、非添加の場合に比べて、IL-17の産生が増加する傾向が観察されたが、isotype-matched control抗体あるいは抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウス間では、有意な差はなかった。
【0148】
ナイーブT細胞がヘルパー細胞としての機能を獲得する過程を分化と呼び、分化の方向はナイーブT細胞が特殊なサイトカイン環境下で抗原刺激を受けることで規定されている。分化したヘルパーT細胞はサイトカイン産生パターンに基づき、Th1(IFN-γ)、Th2(IL-4、IL-13)、Th17(IL-17)、Tregなどに分類される(74)。図18に示したように、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスの脾臓細胞とisotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスの脾臓細胞をOVAで刺激した場合、IL-4、IL-13、IL-17、IFN-γの産生パターンに有意な差が認められなかった。以上のことから、抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスにおけるOVAに特異的なIgE抗体の産生抑制は、IgE抗体産生に重要な役割を果たすTh2細胞への分化を抑制した、及び/又はTh2細胞への分化を抑制するTh1細胞への分化を促進した結果ではなく、直接、B細胞のIgE抗体の産生系を抑制した結果であると推察される。
【0149】
新生児マウスに投与した場合のOVA特異的IgE抗体産生能抑制状態の持続期間の検討
次いで、抗IgE抗体を新生児に投与した場合の、OVAに特異的なIgE抗体の産生抑制効果およびその持続期間について、検討した。
C57BL/6 の新生児マウスに抗マウスIgE抗体(10 μg/mouse)あるいはisotype-matched control抗体を出生1日後に投与した。仔マウスにOVA 5 μg/体重(g)とアラムを腹腔内投与することによる感作は、G1 Groupでは生後0週(出生2日後および9日後)、G2 Groupでは生後2週(出生16日後および23日後)、あるいはG4 Groupでは生後6週(出生44日後および51日後)後から開始した。最終感作2週間後に、採血し、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価を測定した(図19A)。その結果、図19Bに示すように、生後0, 2および6週後のいずれの時期から感作した場合にも、新生児期にisotype-matched control抗体を投与したマウスをOVAで感作した場合には、OVAに特異的なIgE抗体の抗体価の明らかな上昇が観察されたが、新生児期に抗マウスIgE抗体を投与したマウスでは、OVAで感作してもOVAに特異的なIgE抗体の抗体価は全く上昇しなかった。そして、これらのOVAに特異的なIgE抗体の産生抑制作用とその持続期間は、妊娠マウスに投与した場合(図14A)と同様であることが判明した。
【0150】
考察
上述の結果により、妊娠C57BL/6マウスへ抗マウスIgE抗体(Omalizumabと同じIgG1κ抗体)を投与することにより、仔マウスにおいて、アレルゲンの刺激によるT細胞由来のサイトカイン(IL-4, IL-13, IL-17, IFNγ)の産生や感染症の予防等に重要な役割を果たすアレルゲンに特異的なIgG1抗体の産生には影響を与えることなく、アレルギー反応の発症・進展に重要な役割を果たすアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生がほぼ完全に抑制されることが明らかになった。さらに、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生のほぼ完全な抑制が、少なくとも6週間(ヒトの場合は3-4ヶ月に相当)継続することも判明した。一方、妊娠BALB/cマウスへ抗マウスIgE抗体を投与した場合には、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生の抑制の持続期間が非常に短かかったが、その原因の1つとして、BALB/cマウスは、C57BL/6マウスに比べて、アレルゲン感作時の総IgE抗体量が明らかに高く、抗IgE抗体がB細胞上のmIgEに結合する確率が低下していたことが考えられる。ヒトの乳児期は総IgE抗体量のレベルが低く維持されていること(72)を考え合わせると、ヒトの場合は、C57BL/6マウスの結果に近い結果になると考えられる。
【0151】
さらに、C57BL/6新生児マウスを用いた評価系により、抗マウスIgE抗体を新生児マウスに投与した場合にも、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を特異的に、少なくとも6週間、抑制することが可能であることも見出した。
【0152】
ここで、母親から胎児へのIgGの移行には、Neonatal Fc receptor for IgG (FcRn)が重要な役割を果たすことが知られている(65)。ラットおよびマウスの場合、出生前には、母親の血中IgGは、卵黄嚢に発現しているFcRnを介して胎児へ移行すること、出生後は、母乳中のIgGが仔マウスの腸管のFcRnを介して血中へ移行すること、が知られている(75, 76)。そして、マウスにおいて、新生児期にIgE抗体を投与することで比較的長期間、IgE抗体の産生量が低下し、その作用機序として、そのマウスの体内で抗IgE抗体が産生された結果であることが考えられるとする報告(77)を考え合わせると、今回得られた結果は、母親マウスに投与した抗マウスIgE抗体(IgG1κ)が胎児および仔マウスへ移行し、胎児マウスおよび仔マウスにおいてその効力を発揮することにより、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生系を抑制した結果であると推察される。
【0153】
ヒトの場合は、母親由来のIgGは、胎盤を通して胎児へ移行することが知られている(78)。そのため、ヒトでは胎盤にFcRnが発現する妊娠第3期以降に抗体医薬品を妊婦に投与するとその抗体医薬品が胎児に移行する可能性が高いと考えられている(79)。Omalizumabは、IgG1κ型の抗体であることから、これらの知見を総合すると、妊娠後期の妊婦に投与されたOmalizumabは、胎児へ移行すると考えられる。そして、この考えは、カニクイザルを用いた動物実験でOmalizumabが胎盤を通過することが報告されていること (55)により支持される。
【0154】
以上の知見を総合すると、実施例のC57BL/6マウスの結果は、ヒトの場合にも、妊娠した母親に安全性の高い治療用抗IgE抗体、Omalizumabを投与すると胎児に移行し、出生後、少なくとも3-4ヶ月間、感染防御に重要なアレルゲンに特異的なIgG1抗体の産生には影響を与えずに、アレルギー反応において重要な役割を果たすアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生のみを阻止し(IgEクラスに特異的な免疫反応を抑制でき)、その結果として、その後のアレルギー疾患、特に食物アレルギーの発症や普遍的なアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生(いわゆるアレルギー素因の獲得)を阻止できる可能性が高いことを示す結果であると考えられる。
【0155】
妊娠マウスに抗マウスIgE抗体を投与することにより、仔マウスのアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生をほぼ完全に抑制できることが判明したが、その作用機序に関して、以下のように考察している。
【0156】
一般的に抗IgE抗体の標的は、(1)遊離IgE、(2)B細胞上の膜型(membrane-anchoring)IgE(mIgE)、および(3)CD23に結合したIgEの3種類があるが、遊離IgEがほとんど存在しない胎児期~乳児期では、mIgE陽性(mIgE+)B細胞が抗IgE抗体のほとんど唯一の標的である。mIgE+ B細胞は出現頻度が希なため、生体内での機能や動態に不明な点が多いが、強制発現系などのin vitro試験結果によればmIgE+ B細胞は、mIgG+などの他の膜型免疫グロブリン陽性B細胞に比べて容易にapoptosisを起こす様々な機構が備わっていることから、IL-4とCD40Lの共刺激存在下を除き、抗IgE抗体等によるmIgEの膜近傍部位における架橋によっても、容易にapoptosisが誘導される(80)。なお、Omalizumabではapoptosisではなくanergyの機序が想定されているが、いずれにしてもIgE抗体の産生には抑制的に作用する(81)。これらの知見を考え合わせれば、実施例のC57BL/6マウスの結果(図14A)は、治療用抗IgE抗体が胎児へ移行し、(出生後の)感作・免疫誘導の際に出現したmIgE+ B細胞と膜近傍部位で架橋し、そのB細胞にapoptosisないしはanergyを誘導することにより、IgEの産生を完全に抑制した結果であると解釈することができる(図20、胎児期~乳児期)。抗マウスIgE抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスの脾臓細胞とisotype-matched control抗体を投与したマウスから生まれた仔マウスの脾臓細胞をOVAで刺激した場合、IL-4、IL-13、IL-17、IFN-γの産生パターンが同様であったという結果(図18)は、IgE抗体の産生に重要な役割を果たすTh2細胞への分化等の抑制、及び/又は、Th2細胞への分化を抑制するTh1細胞への分化の促進を介したIgE抗体の産生の抑制ではなく、B細胞のIgE抗体の産生系の直接的な抑制であるという上記の解釈を支持すると考えられる。そして、新生児マウスに抗マウスIgE抗体を投与した場合は、妊娠マウスに抗マウスIgE抗体を投与した場合と同程度の、OVAに特異的なIgE抗体の産生の抑制効果および抑制状態の持続期間が観察されたという結果(図14Aと図19)は、新生児のmIgE+ B細胞は胎児のmIgE+ B細胞と同様の性質を有することを示すと考えられる。
【0157】
一方、幼児期~成人では、OmalizumabはCD23に結合したIgEとは結合しない(82)ことが報告されているが、一般的に抗IgE抗体の標的は、(1)遊離IgE、(2)B細胞上のmIgE、および(3)CD23に結合したIgEの3種類となる。従って、幼児期~成人では、胎児期と異なり、遊離IgEが圧倒的に多いことから、抗IgE抗体を投与してもmIgE+ B細胞に到達することは稀である。そして、Omalizumabは、臨床的には、アレルギー患者のマスト細胞と遊離IgEの結合を阻害することにより、アレルギー疾患の増悪を予防するために使用されている(図20、幼児期~成人)。
【0158】
ここで、Genentech社の発明者らは、前述した2つの特許(US 6,685,939、JP3457962)において、治療、診断および製剤用途の項で、「FCEHおよびFCEL特異的ポリペプチドおよび抗IgE抗体(とりわけ、免疫原性の減少したもの)は、アレルギーの治療または予防のための療法に有用であるが、好ましくは、急性のアレルギー応答に先立って、アレルゲンに感作したことがわかっている患者に該ペプチドを投与する」と明記している。このことから、Genentech社の発明者らは、アレルゲンに既に感作している患者を投与の対象とし、急性のアレルギー応答が起こったときには、その症状を軽減するために抗IgE抗体等を治療剤として使用し、より好ましくは、急性のアレルギー反応が起こるのを防ぐために、その反応が起こる前に、抗IgE抗体等を予防的に使用すること(喘息などの症状増悪(exacerbation)の予防なので三次予防tertiary prvention(83))を想定していると考えられる。事実、Omalizumabは、臨床的には、アレルギー患者のマスト細胞と遊離IgEの結合を阻害することにより、アレルギー疾患の増悪を予防するために使用されている。さらに、米国において、ダニなどのaeroallergenに対して感作されているが喘息を発症していない2-3歳の幼児を対象として、Omalizumabの喘息発症予防(二次予防secondary prevention)に関する臨床試験が計画されている (84)。
【0159】
一方、我々は、「生後3-4ヶ月までのIgE抗体の産生を完全に制御することによりアレルギー素因の獲得を阻止する」という戦略に基づくことから、我々の発明は、普遍的に存在するアレルゲンに対して未だ感作されていない胎児、新生児および乳児を対象とした感作予防(一次予防primary prevention (83))を目的としている。以上のことから、Genentech社の特許発明と本発明は、標的とする対象者およびその目的が全く異なると考えられる。
【0160】
妊婦の食事を通して比較的大量の抗原が胎児に移行する食物アレルゲンに比較して、ダニやスギ花粉などの環境抗原に関しては自然感作成立が生後半年以降となる可能性もある。事実、「抗原導入による耐性(免疫寛容)誘導」で紹介したように、鶏卵やピーナッツでは乳児期早期の摂取(導入)により大多数の児で耐性誘導がみられたと報告されているのに対し、乳児期にダニ抗原を舌下投与する試験においては、有意差は認められなかった(85)。本発明において、自然感作成立が生後数ヶ月以降になった場合、妊婦あるいは新生児に投与した抗IgE抗体の効果は減弱すると予想される。環境抗原に対する感作、すなわち一次予防を成立させるためには、乳児に抗IgE抗体の追加接種を行う以外に、抗IgE抗体が比較的高濃度存在する乳児期早期に、ダニやスギ花粉などのアレルゲンとなりやすい抗原を舌下などの方法で投与することで、IgEクラスに特異的な免疫抑制が誘導されることが、本発明結果から容易に類推することができる。なお、舌下免疫療法等のアレルゲンに特異的な免疫療法にもちいられる抗原エキス等を感作が成立していない個体に投与すると、感作を促進することがしばしば観察される(86)が、本発明結果から、感作が成立していない個体に抗原を投与する場合においても、抗IgE抗体を同時に投与する、あるいは、別々に投与することで、IgEクラスに特異的な免疫反応の抑制が誘導されることが期待できる。ここでいう感作が成立していない個体とは一般的に生後数ヶ月以前の乳児が想定されるが、例えば、スギ花粉がほとんど飛散しない地域に居住している成人に対するスギ花粉抗原エキスとの抗IgE抗体の同時投与あるいは短期間内の別々な時期における投与なども該当するが、これらの例に限定されるものではない。
【0161】
上述のように、本発明者らは、新生児のIgE抗体の産生を少なくとも生後3-4ヶ月間、完全に、あるいはほぼ完全に、阻害する方法を見出した。ここで、IgE抗体の産生を長期間阻止した場合の影響に関しては、IgE抗体を特異的に欠損したマウスに関する情報が参考となると考えられる。IgE欠損SJA/9マウス(87)およびIgEノックアウトBALB/cマウス(88)は、通常の飼育条件下ではphenotypeも含めて明らかな異常は報告されていない。また、IgE抗体は、寄生虫感染防御において、重要な役割を果たすことから、Trichinella (旋毛虫)spiralis を両マウスに感染させたところ、IgE欠損状態において寄生虫感染が起こった場合にも、野生型と同様に感染防御が成立する(87)か、あるいは遅れるものの最終的に感染防御が成立する(88)ことが判明した。以上の結果から、IgE抗体の特異的な欠損は通常の生活においては、悪影響を及ぼさないと推察される。
【0162】
さらに、腸の寄生虫感染のリスクが高い喘息あるいは鼻炎患者137名を対象として、Omalizumabの52週、無作為化二重盲検、プラセボ対照の臨床試験おいて、Omalizumab群はコントロール群と比べて、寄生虫感染のリスクの有意な増加は認められず、また、抗寄生虫療法に対する反応性の差は認められなかったという報告(62)は、新生児における数ヶ月間のIgE抗体の産生の完全な抑制は、ほとんど悪影響を与えないとの考えを支持する。
【0163】
母体に薬剤を投与して胎児疾患の治療を行う例として、1) 母体抗SS-A 抗体による胎児の先天性房室ブロックに対して、母体に胎盤透過性のあるステロイド剤を投与する。2) 母体甲状腺機能亢進症(Basedow病)による胎児心不全に対して、母体に高用量の抗甲状腺薬を投与する。3) 胎児頻脈性不整脈に対して、母体に抗不整脈薬を投与する。(89-91)などが知られている。
【0164】
一方、本発明者らは、母体に治療用抗体医薬品を投与して、胎児のIgE産生を制御する方法を提案している。胎盤等に発現するFcRnを介して、IgG抗体を母体から胎児へ移行させる方法は、胎児の疾患治療に有用である可能性は示唆されている(78)。そして、β-グルクロニダーゼ(GUS)不全マウスモデルにおいて、IgG抗体ではないが、GUS-Fcヒュージョンタンパク質を妊娠マウスに注射すると、仔マウスは、過度のライソゾームの蓄積が抑制されることが報告されている(92)。また、XLHED (X-linked hypohidrotic ectodermal dysplasia)を持つ子供の親が妊娠した際に、ectodysplasin A (EDA)に免疫グロブリンのFcを結合させたFc-EDAをその妊婦に投与することにより、XLHEDの治療を試みた臨床例も報告されている(93)。しかし、本発明者らが知る限り、治療用抗体を母体を介して胎児に移行させることにより、生まれてくる子の疾患の発症の予防・治療を試みた例は報告されていないことから、本発明は、治療用抗体の新たな投与法を実践したという点においても、新規性が高い実施例を示すことができたと考えられる。
【0165】
結論
本発明者らは、「妊婦に抗ヒトIgE抗体活性をもつOmalizumabなどの治療用IgG抗体を投与することで、胎盤組織に強く発現するFcRnを介して胎児にこの治療用IgG抗体を移行させ、抗ヒトIgE抗体を胎児B細胞の膜結合型IgE と結合させることにより、最終的に胎児期から乳児早期のIgE抗体の産生を阻害する(胎児期から乳児早期のIgEクラスに特異的な免疫反応を抑制する)」という乳児期のアレルギー疾患対策を立案した。そして、妊娠マウスを用いた評価系により、抗マウスIgE抗体(Omalizumabと同じIgG1κ抗体)を妊娠マウスに投与すると新生仔マウスのアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を特異的に、少なくとも6週間(ヒトでは3-4ヶ月間)、抑制することが可能であることを見出すことにより、乳児期のアレルギー疾患対策の妥当性を証明した。FcRnを介した治療用IgG抗体の胎児への移行の作用機序を考え合わせると、今回得られたマウスの結果は、ヒトへ外挿が可能であると考えられる。
【0166】
さらに、新生児マウスを用いた評価系により、抗マウスIgE抗体(Omalizumabと同じIgG1κ抗体)を新生児マウスに投与した場合にも、アレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を特異的に、少なくとも6週間、抑制することが可能であることを見出した。
【0167】
治療用抗IgE抗体、Omalizumabは、ヒトの喘息や慢性湿疹などの難治性アレルギー疾患に対して広く使用され、血中の遊離IgE抗体を中和する機序によりアレルギー疾患症状を改善すること、ほとんど副作用がないこと、および、妊婦への投与も安全に実施されていることが知られている。
【0168】
以上のことから、Omalizumabのような安全性の高い抗ヒトIgE抗体を子を妊娠している母及び/又は誕生後から乳児期までの間のいずれかの時期にある子に投与すれば、乳児期のアレルゲンに特異的なIgE抗体の産生を抑制すること、すなわち、アレルギー素因の獲得を阻止することが十分に可能であると考えられる。

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本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明は、乳児期およびそれ以降のアレルギー疾患の発症を阻止することに利用できる。
図1
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