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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】房室心臓弁を修復するための器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/04 20060101AFI20240905BHJP
   A61F 2/24 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61B17/04
A61F2/24
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022504331
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2020057350
(87)【国際公開番号】W WO2020187944
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】00353/19
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】521435189
【氏名又は名称】コアメディック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】COREMEDIC GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ジロニ,トンマゾ
(72)【発明者】
【氏名】ロート,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シャフナー,シルビオ
(72)【発明者】
【氏名】グイドッティ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ザーバタニー,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】フローレス,ジーザス
(72)【発明者】
【氏名】シュホポウロス,ゲオルギオス
(72)【発明者】
【氏名】フィツェンティーニ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】アルデュイニ,マッティア
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-521225(JP,A)
【文献】特表2016-505299(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0214270(US,A1)
【文献】特表2009-505789(JP,A)
【文献】特開2010-179115(JP,A)
【文献】特開2007-029195(JP,A)
【文献】特表2008-536528(JP,A)
【文献】特表2011-500228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04-17/062
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
房室心臓弁を最小侵襲的に修復するための器具であって、前記器具は、
1つの軸および軸方向を画定する管状装置と、
本体と、ジョー部とを備える弁尖把持構造体とを備え、
前記ジョー部は、近位に面する第1の当接面を備え、かつ前記本体は、遠位に面する第2の当接面を備え、
前記器具は、さらに、針を備え、前記針は、内管を形成するカニューレ挿入針であって、かつ、前記本体に対して軸方向へ移動可能であり、
前記ジョー部が備える近位に面する前記第1の当接面と前記本体が備える遠位に面する前記第2の当接面により、前記弁尖把持構造体は、前記心臓弁の弁尖を前記第1および第2の当接面間でクランプすることができ、
かつ前記本体および前記ジョー部は、前記弁尖がクランプされている間に前記針が通り抜けることを可能にするように形成されるチャネルを有し、
前記チャネルは、少なくとも側壁の中にリセスまたはスリットを含む前記ジョー部によって、前記軸に対して半径方向である方向の側面へ開いている、器具。
【請求項2】
前記チャネルは、前記管状装置によって定義された前記軸に対して中心ではない位置を有する、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記ジョー部は、前記本体に対して軸方向へ移動可能である、請求項1または請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記器具は、さらに、前記内管内に配置されかつ該内管に対して軸方向へ移動可能であるアンカキャリアを備え、前記アンカキャリアは、人工索に固定される、または固定されることが可能な移植片の少なくとも一部を担持するように構成され、
前記器具は、遠位の移植片部および近位の移植片部が互いに並んで配置され、前記近位の移植片部が前記遠位の移植片部の近位に配置された状態であるように構成され、前記アンカキャリアは、アンカシートを形成し、前記移植片の前記近位の移植片部を担持するように構成され、
前記内管または前記内管内部のスリーブエレメントは、前記近位の移植片部が前記アンカシート内に受け入れられ、かつ、前記アンカキャリアが前記内管またはスリーブエレメント内にある限り、前記近位の移植片部が前記アンカキャリアから逸脱することを防止する、請求項1~3のいずれか1項に記載の器具。
【請求項5】
前記アンカキャリアの、および前記本体および/または前記ジョー部の位置を決定するために、前記アンカキャリアは、超音波検査法および/またはX線撮影法によって位置を決定するためのマーカを備え、かつ前記本体および/または前記ジョー部は、超音波検査法および/またはX線撮影法によって位置を決定するためのマーカを備える、請求項4に記載の器具。
【請求項6】
前記本体および前記ジョー部の前記チャネルは、本体のチャネルと、前記本体のチャネルと位置合わせされるジョー部のチャネルとを有し、前記ジョー部のチャネルは、その軸方向の全長に沿って前記軸に対して半径方向である方向の側面へ開いていて、
前記本体のチャネルの遠位部分も前記軸に対して半径方向である方向の側面へ開いている、請求項に記載の器具。
【請求項7】
前記本体および前記ジョー部の前記チャネルは、遠位のリセス部分とその近位における移植片解放部分とを有するリセスによって前記軸に対して半径方向である方向の側面へ開いていて、前記リセスの前記移植片解放部分は、前記本体内に延び、前記リセスの前記移植片解放部分は、前記遠位のリセス部分より広い、請求項に記載の器具。
【請求項8】
前記遠位のリセス部分は、前記ジョー部内に延びる第1のサブ部分と、前記移植片解放部分の遠位で前記本体内に延びる第2のサブ部分とを有する、請求項に記載の器具。
【請求項9】
前記本体のチャネルが前記軸に対して半径方向である方向の側面へ開いている、横方向リセス開き角度αは、少なくとも45゜である、請求項6~8のいずれか1項に記載の器具。
【請求項10】
記針を囲む管でありかつ前記本体および前記ジョー部の前記チャネルの内側に収容されている針案内をさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の器具。
【請求項11】
前記第1および第2の当接面における前記チャネルの口の周りの一位置にある前記第1および第2の当接面は、前記軸に対して90゜とは異なる角度である少なくとも1つの平面を画定する、請求項1~10のいずれか1項に記載の器具。
【請求項12】
前記針の遠位端は、前記軸に対して90゜とは異なる角度にある針遠位端平面を画定し、かつ前記針遠位端平面、および前記第1および第2の当接面により画定される前記平面は、異なる方向に傾斜される、請求項11に記載の器具。
【請求項13】
前記針は、先のとがった遠位端と、前記遠位端から近位におけるレーザカットセクションとを有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の器具。
【請求項14】
前記管状装置は、第1の管を備え、前記弁尖把持構造体は、前記第1の管の遠位部に配置され、かつ前記第1の管に隣接し、かつ前記針は、前記第1の管から解放可能であって、前記本体に対して軸方向に移動可能である、請求項1~13のいずれか1項に記載の器具。
【請求項15】
前記管状装置は、ガイドカテーテルとして構成されている外部カテーテルを備え、前記外部カテーテルは、前記弁尖把持構造体を前記外部カテーテルの内部内に収容するような寸法にされている、請求項1~14のいずれか1項に記載の器具。
【請求項16】
前記ジョー部および前記本体は、各々、超音波検査法および/またはX線撮影法によって前記ジョー部および前記本体の位置を決定するためのマーカを備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の器具。
【請求項17】
伸ばせるように、かつ伸ばされると、前記本体およびジョー部の外面により画定される円筒形容積部から半径方向の外向きに突き出すように装備される折り畳み構造体をさらに備え、
前記折り畳み構造体は、前記当接面の少なくとも一方の一領域を広げる折り畳みサポートである、請求項1~16のいずれか1項に記載の器具。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の器具を備える、かつさらに、近位の移植片部と、遠位の移植片部と、前記近位の移植片部と前記遠位の移植片部とを連接する、または連接するために装備される索と、を有する移植片を備えるセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓弁修復のための最小侵襲手術および介入心臓学用デバイスの分野に属する。本発明は、具体的には、房室心臓弁、僧帽心臓弁または三尖心臓弁をも最小侵襲的に修復するための器具、およびこれに準じる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
僧帽弁の弁尖が左心房内へ逸脱し、結果として弁機能不全が生じると、心臓の深刻な機能障害が引き起こされる可能性がある。こうした逸脱の1つの理由は、僧帽弁の弁尖を左心室経由で乳頭筋へ繋ぐ腱(腱索)の損傷にある。こうした損傷は、たとえば、心筋梗塞、組織変性または感染症の結果であり得る。
【0003】
このような逸脱を修復するには、1つまたは複数の弁尖を乳頭筋へ、たとえば、Gore-Tex(登録商標)ファイバなどの合成繊維によって繋ぎ直す必要がある。最新技術によるこうした手法は、移植片を乳頭筋へ縫合することを必要とする。このような修復プロセスの第1の欠点は、これが、心臓が不活性である間でのみ可能であり、よって、この外科的修復には、心肺バイパスを使用する間に心臓を停止させて血液を排出する必要があることにある。第2の欠点は、手術の成功が外科医の技量に大きく依存することにある。さらなる欠点として、弁尖に縫合される繊維は、長期的に、損傷を引き起こし得る。
【0004】
開発されてきたほとんどの腹腔鏡的かつ最小侵襲的な技術およびツールは、心拍動下僧帽弁修復の要件に対して使用不可である。弁形成リングを血管修復または心臓バイパス手術の一部として縫合することができる弁形成技術および器具の中には、心拍動下で使用され得るものもあるが、これらは、弁形成処置である。
【0005】
国際公開出願第2009/052528A2号パンフレットは、心拍動下で最小侵襲的弁尖修復を実行すべく、弁尖を把持しかつ解放するように適合化されたクランプ機構を実行するためのデバイスに言及している。したがって、該器具は、ニードルアッセンブリと、縫合カートリッジとを含む。使用される縫合糸は、手術開始前に、カートリッジアッセンブリの開口に通されなければならない。この器具により実行されるメカニズムは、弁尖に縫合糸を通して引き抜くことと、プロリーン縫合糸を用いて第1の縫合糸に張力をかけることを含む。続いて、各縫合糸は、心室に隣接する心外膜上へ、ノットおよびプレジェットを用いて固定されなければならない。メカニズムの完了には時間がかかり、誤りが起こりやすい。加えて、縫合糸に基づく方法には、最小侵襲的設定における縫合が困難であるという欠点があり、よって、十分に信頼できる安定性の達成は、困難であることが多い。
【0006】
国際公開第出願第2017/066890A2号パンフレットは、器具が弁尖把持機構を実装する、房室心臓弁を修復するための器具およびこれに準じる方法を開示している。この弁尖把持機構は、近位に面する当接面を有する第1のアームと、遠位に面する当接面を有する第2のアームとを備え、これらのアームは、弁尖を把持して第1の当接面と第2の当接面との間にクランプできるように、互いに対して移動可能である。この構造は、心エコー検査法を用いて器具を配向しかつ配置する間に問題を引き起こすことが分かっている。さらに、制御機構は、かなり複雑である。
【0007】
これらの発明は、心臓弁修復のための開心技術に対して著しい進歩を示すものであるが、これらの技術をさらに改善することが効果的であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の概要
本発明の1つの目的は、房室心臓弁、具体的には僧帽心臓弁または三尖心臓弁、を修復するための器具、およびこれに準じる方法を提供することにあり、該器具および方法は、従来技術によるデバイスおよび方法の欠点を克服し、かつ容易な移植を確実にし、経カテーテル処置にも適していて、信頼性が高く組織適合性のよい修復を提供する。経カテーテル処置は、拍動している心臓に対して最小侵襲的に実行され、手術中の弁尖は、静止状態に保たれなければならず、よって、器具および方法は、これに対するソリューションを提供すべきである。特に、心エコー検査法を用いる器具の配向および配置の確認は、容易に可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的は、特許請求の範囲が定義する本発明によって達成される。本発明の一態様によれば、弁尖把持機構を弁尖把持構造体によって実装する器具が提供される。弁尖把持機構は、近位に面する第1の当接面と、遠位に面する第2の当接面とを備え、これらの当接面は、弁尖を把持して第1の当接面と第2の当接面との間にクランプできるように、互いに対して移動可能である。この器具は、経カテーテル処置に適する。
【0010】
本発明は、房室心臓弁を最小侵襲的に修復するための器具に関し、該器具は、軸方向を画定する管軸を有する第1の管と、第1の管の遠位部に第1の管に隣接して配置されている弁尖把持構造体とを備える。弁尖把持構造体は、本体と、ジョー部とを備え得、これにより、弁尖把持構造体は、心臓弁の弁尖を第1の当接面と第2の当接面との間にクランプすることができる。これにより、ジョー部は、本体に対して移動可能であって、近位に面する第1の当接面を備える。本体は、遠位に面する第2の当接面を備える。器具は、針と、具体的には、内管を形成するカニューレ挿入針とをさらに備えてもよい。針は、第1の管から解放可能であり、かつ本体に対して軸方向へ移動可能である。本体およびジョー部は、弁尖がクランプされている間に針がそこを通って延びることを可能にするように形成されるチャネルを有する。チャネルは、管軸に対して中心ではない位置を有し得る。チャネルのこの位置は、針が弁尖を弁尖縁から比較的離れたところで穿刺することを可能にするように選択される。本発明による器具は、具体的には、経カテーテル処置に適する。
【0011】
ある実施形態は、ジョー部が軸方向へ真っ直ぐに移動可能である器具に関する。これにより、軸方向は、管軸によって画定される。これは、ジョー部と本体部とが、ジョー部の軸方向への移動(ジョー部が本体から離れて移動する、遠位移動)によって分離可能であることを意味する。当然ながら、ジョー部および本体は、ジョー部の軸方向への移動(本体へ向かう、近位移動)によって再び接合または合体もされ得る。これは、弁の弁尖を把持するために使用されることが可能である。
【0012】
器具の針は、カニューレを挿入されて針管(本明細書では「内管」と呼ぶ)を形成する。針内には、索およびたとえば移植片のパーツが配置されてもよい。索は、予め移植片パーツへ、一定の長さ、または調整可能な長さで取り付けられてもよい。調整可能な長さは、たとえば、摺動可能な結び目によって可能とされ得る。あるいは、索は、別の方法ステップにおいて、移植片パーツまたは移植片パーツのうちの1つへ取り付けられなければならないことがある。本発明は、器具のカニューレ挿入針が弁尖把持構造体の内部に配置され、かつ、その内部から解放されるために、弁尖把持構造体に対して軸方向へ移動可能である実施形態に関する。したがって、把持構造体は、チャネルを有し、カニューレ挿入針は、このチャネルの内部に配置されても、または、このチャネルの内部を通って前進されてもよい。前記チャネルは、少なくとも部分的に第1の管の内腔を続け、かつ本体ならびにジョー部を通って管軸と平行に延びてもよい。本体およびジョー部内のチャネルの一部同士は、互いに嵌合することができ、よって、弁尖把持構造体の閉位置において、内腔は、連続する。カニューレ挿入針は、弁尖把持構造体内の前記チャネルの内腔を通って前進され、弁尖が第1の当接面と第2の当接面との間にクランプされると、これを穿刺する。
【0013】
本発明による器具の本体は、さらに、第1の管から解放可能でありかつ本体に対して軸方向へ移動可能な対向部分を備え得、該対向部分は、遠位方向へ向かう力によって第1の当接面を押圧可能な遠位に面する第2の当接面を備える。ある実施形態は、カニューレ挿入針が、対向部分の内部に配置され、かつ対向部分の内部から解放されるために対向部分に対して軸方向へ移動可能であって、弁尖が第1の当接面と第2の当接面との間にクランプされるとこれを穿刺する、本発明による器具に関する。対向部分は、軸に対して真っ直ぐであり、かつ軸方向へ真っ直ぐに移動可能であってもよい。
【0014】
代替実施形態において、把持構造体は、本体の対向部分を有していないが、本体自体が、遠位に面する第2の当接面を有することにより、対向部分として形成されている。
【0015】
いずれの場合も、弁尖の把持は、ジョー部と、第2の当接面を有する部分(本体、別の対向部分)との相対運動によって行われ得る。概して、本体およびジョー部は、再び開閉されるように配置され得る。したがって、ジョー部は本体に対して軸方向へ、双方向(前後)または少なくとも(本体から離れる)一方向のいずれかで移動されることが可能である。加えて、対向部分が存在する場合、対向部分は、軸方向へ双方向(前後)または少なくとも(ジョー部へ向かう)一方向のいずれかで移動されることが可能である。あるいは、本体およびジョー部は、閉鎖されるためにのみ形成されてもよい。この場合、本体およびジョー部は、(一定の距離を隔てた)開放形態で患者に導入されるように構成され、かつジョー部または本体、あるいは対向部分などの本体の一部は、他の部分に向かって軸方向へ移動されることが可能である。
【0016】
第2の当接面は、第1の管および/または本体から解放可能でありかつ本体に対して軸方向へ移動可能な対向部分の遠位端面により形成される、プレスパッドによって構成されてもよい。対向部分または少なくともその遠位端部は、たとえば、略管形状(円筒形)であっても、弁尖がクランプされている間に針をそこから解放するためのスリットが付いた管の形状を有してもよい。対向部分は、長方形、五角形または六角形の断面積を有することもある。
【0017】
対向部分により、または本体自体により形成されるプレスパッドは、円形の外部輪郭を有することもあれば、角形(長方形または五角形または六角形、他)であることもある。プレスパッドは、具体的にはその遠位端に、組織が損傷状態になることを防ぐための緩衝物を備えてもよい。把持構造体内の針用チャネルは、本体(および、該当すればその対向部分)およびジョー部内に位置決めされてもよい。ジョー部および本体内に位置決めされるチャネルの寸法は、(弁尖把持位置において)ジョー部の遠位に面する当接面および近位に面する当接面が、対向部分内の内腔の軸方向の連なりがチャネル最奥部分に一致する間に略重なり合いを有し、よって、対向部分がジョー部に押し付けられる間の針の対向部分内部からの解放が妨げられないように、互いに適合化される。より具体的には、チャネル本体セクションの口とチャネルジョー部セクションの口とは、把持される弁尖の厚さの要因となる僅かな軸方向オフセットを除いて、把持構造体が閉位置にあるときに略一致する。
【0018】
より具体的には、器具のカニューレ挿入針は、本体の内部に配置されかつ本体(該当する場合、対向部分を含む)の内部から解放されるために本体に対して軸方向へ移動可能であって、弁尖が第1の当接面と第2の当接面との間にクランプされるとこれを穿刺し得る。器具、および具体的には弁尖把持構造体は、完全に伸長された位置における針が弁尖把持構造体の遠位端から、および具体的にはジョー部の遠位開口から突き出すようにして形成される。これは、移植片の適切な設定を可能にすること、具体的には、経大腿(逆行性)処置を介する移植片遠位部の心室内、たとえば乳頭筋内、への設定を可能にすること、において重要である。
【0019】
実施形態では、第1および/または第2の当接面が構造化される。構造体は、把持機構の把持を増大させるように選択されてもよい。したがって、構造体は、ノッチ、リップル、ピラミッドまたはピラミッド錐台を備えてもよい。これらの当接面は、双方の面上に相補的な構造体が生じるように構造化されることが特に適切である。したがって、第1および第2の当接面が、互いに嵌合し合ってもよい。
【0020】
実施形態において、(クランプされた位置における)第1および第2の当接面は、管軸に垂直な平面を画定する。これらの当接面は、管軸と共に20゜~90゜、好ましくは30゜~80゜の角度を形成する平面を画定するように形成されることもある。また、非平面の(湾曲した)当接面も可能である。
【0021】
実施形態において、第1および第2の当接面は、各セクションが対応する面の個々のセクションに一致する少なくとも2つの異なるセクションを包含する。これらのセクションは、表面の構造を異にし得、たとえば、1つのセクションのみがリッフルまたは角錐などの表面構造を有し、他のセクションは、滑らかな表面によって形成される。あるいは、またはこれに加えて、これらのセクションは、表面同士が互いに対して当接する際に、管軸と、表面の個々のセクションにより画定される平面とで形成される角度が異なってもよい。ある実施形態は、管軸と共に90゜またはほぼ90゜の角度を形成する平面を画定する2つのセクションと、これらの2つのセクションの間に配置される、管軸と共に30゜~75゜の角度を形成する平面を画定する第3のセクションと、を備えるように形成される第1および第2の当接面に関する。この実施形態は、弁尖把持用の大きい表面積を、最適化されたグリップと共に提供することによって、弁尖把持を容易にする。したがって、管軸に対して斜めの平面を画定する当接面は、把持されるべき弁尖の面積の増大に貢献する。当接面のこの3セクション構造、または、具体的には当接面が軸に対して垂直でない他の任意の構造は、把持されるべき部位の、弁尖縁部からの距離を増加させることに適する。
【0022】
本発明の別の実施形態は、把持構造体が、グラバを弁尖に対して正しい向きにもってくるプロセスを支援するため、かつ/または把持され得る弁尖面積を増大させるため、かつ/または把持後の弁尖を安定させるための、少なくとも1つの折り畳み構造体、たとえば、ワイヤループまたはワイヤサポートなどの折り畳みサポート、を備える器具に関する。このような折り畳み機能は、本体および/またはジョー部へ、当接面と同じ高さとなるように付着されてもよい。たとえば、ある折り畳み構造体は、ジョー部へ付着される、または本体へ付着される1つの折り畳みサポートであってもよい。あるいは、把持構造体は、2つの折り畳みサポートを備えることもできる。これらは、1つがジョー部へ固定されかつ1つが本体へ固定される、複数のワイヤループの形態であることも可能である。別の可能性として、双方が本体またはジョー部のいずれかに固定されて1つの支持構造体を形成する、2つの折り畳みサポートがある。2つ以上の折り畳みサポートが付着される場合、これらのワイヤサポートは全て、閉位置において第1および第2の当接面により形成される平面に対して平行に固定されることが好ましい。したがって、閉位置において、当接面および場合により1つまたは複数の折り畳みサポートは、同じ平面を画定することが好ましい。さらに、折り畳みサポートは、把持構造体に対して、たとえば把持構造体の溝内で少なくとも部分的に折り畳まれるように配置されることが可能であり、かつ把持構造体が開く前または開く間に、たとえば外管から解放された時点で、外側へ振れることが可能である。
【0023】
本発明による器具は、さらに、針の内管内に配置されて該内管に対して軸方向へ移動可能なアンカキャリアを備え得、該アンカキャリアは、人工索に固定される、または固定されることが可能な移植片の少なくとも一部を担持するように構成される。ある実施形態において、移植片は、遠位の移植片部と、近位の移植片部と、索とを備え、該索は、近位の移植片部と遠位の移植片部とを連接するように構成され、かつ、たとえば組み立てられた状態において、近位の移植片部と遠位の移植片部とを連接する。管状エレメント(カニューレ挿入針、またはカニューレ挿入針内部の移植片スリーブであり得る)において、遠位および近位の移植片部は、近位の移植片部がたとえば遠位の移植片部の近位に配置されて並んで配置され、よって、アンカキャリアが管状エレメント内にある限り、管状エレメントは、近位の移植片部がアンカキャリアから逸脱することを防止する。具体的には、アンカキャリアは、管状エレメント内で軸方向へ、近位移植片部の近位から少なくとも近位移植片部の遠位端まで延在してもよく、かつ、近位移植片部が管状エレメント内にある限り近位移植片部が遠位へ向かって滑り落ちることを防止する、遠位フット部分(停止機能)を有してもよい。たとえば、アンカキャリアは、遠位フット部分の近位にアンカ受容リセス(シート)を備えてもよい。
【0024】
この種の移植片は、国際公開出願第2017/066888号パンフレットに記載され、かつこの種のアンカキャリアを含むシステムは、国際公開出願第2017/066889号パンフレットに記載されている。実施形態において、本発明による器具またはセットは、国際公開出願第2017/066888号パンフレットに記載されかつ特許請求されている移植片、および/または、国際公開出願第2017/066889号パンフレットに記載されかつ特許請求されているアンカキャリアシステムを含み得る。
【0025】
本体およびジョー部を含む把持構造体は、金属、ステンレス鋼などの合金、または、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリマー材料で製造されることが可能である。把持構造体、具体的にはポリマー把持構造体、は、放射線不透過物質製である少なくとも1つのマーカを含むことが好ましい。この少なくとも1つのマーカは、X線を用いて把持構造体の位置を追跡または視覚化することに役立つ。あるいは、把持構造体は、放射線不透過性のポリマー材料を用いて作製されてもよい。ポリマー材料は、高密度原子を含有する分子(たとえば、ヨウ素含有分子)をポリマー骨格上へ結合することによって、放射線不透過性にされ得る。あるいは、ポリマー材料の高い放射線不透過性は、ポリマー樹脂と、特定の粒径で分布する均一形状の粒子を有する粉末状の放射線不透過剤(たとえば、高分子金属粉末または硫酸バリウム(BaSO4))とを組み合わせることによって達成されてもよい。
【0026】
マーカとしては、本体および/またはジョー部へ付着されるもの、かつX線を用いて把持構造体の開閉を追跡することに適するものもあり得る。マーカは、把持構造体内の、または把持構造体へ付着される、ストリップ、テープ、点またはパッチとして形成されてもよい。また、マーカは、小さいアンテナまたはワイヤループとして形成されて、把持構造体へ付着されることもある。これらのループまたはアンテナは、把持構造体から突き出して、超音波検査法を用いる視認性を高めることができる。特に、これらは、手術中の軸を中心とする配向(方位角位置)の決定を容易にし得るが、そうでなければ、こうした決定は、把持デバイスの全体形状が多くの場合必然的に回転円筒状(経カテーテル手法に起因する回転円筒状)であることに鑑みて、困難である。
【0027】
概して、マーカは、放射線不透過性ポリマー、白金-イリジウム合金またはタンタルなどの合金または金属で作製されることが可能である。
【0028】
把持構造体の一実施形態は、マーカを付着することができる陥凹部または溝を備える。マーカは、接着結合によって付着されてもよい。マーカ(または陥凹部)は、少なくとも1つが本体の側面に位置決めされ、かつ少なくとも1つがジョー部の側面に位置決めされることが好ましい。これらのマーカ(または、陥凹部)は、好ましくは、当接面の近くに、または当接面の縁に沿って、平行に位置決めされる。これにより、操作者(たとえば、外科医)は、把持構造体の配向を決定することができるようになる。X線を用いて、これらのマーカは、さらに、把持構造体が閉じているか開いているか、および開口の幅を示す。マーカ(または、陥凹部)の好ましい形態は、湾曲した、またはバナナ状のストリップである。
【0029】
実施形態において、把持構造体の表面、または把持構造体の表面の一部、は、たとえば凸状の微細構造体または線状部を備えるテクスチャ表面仕上げを有する。前記微細構造体は、球または円の外側のように外側へ湾曲され、または丸められている。本発明の別の実施形態は、把持構造体の表面の少なくとも一部が、1~40μm、好ましくは5~20μm、の粗さ平均Raを有する、把持構造体に関する。これにより、表面テクスチャの一成分としての表面粗さは、実際の表面の法線ベクトルの方向におけるその理想形状からのずれによって定量化される。算術上の平均粗さRaは、評価長さ内の中心線からの偏差から決定されるフィルタ処理された粗さプロファイルの算術平均値であって、最も広範に使用される粗さの一次元パラメータである。
【0030】
本発明は、さらに、器具、ならびに該器具により移植されることに適する移植片とを備え、よって、具体的には損傷(破裂)した索を置換することによって房室心臓弁を修復するキット(セット)に関する。この場合、移植片は、好ましくは本明細書で記述しているような設計である。さらなる実施形態では、少なくとも近位の移植片部、およびたとえば双方/全ての移植片部が、カニューレ挿入針および場合によりカニューレ挿入針内の追加のスリーブによって包囲され得るアンカキャリアによって担持されてもよい。したがって、あるキットは、下記のもの、すなわち器具、保護スリーブ付きまたは保護スリーブのないアンカキャリア、カテーテルおよび移植片(人工索付き、または人工作がない)、のうちの少なくとも2つを備え得る。キットは、これらのエレメントを個々に備えて、または予め組み立てられた、もしくは組立て式のエレメントを備えて提供されることが可能である。
【0031】
特に、近位の移植片部とアンカキャリアとの組立ては、近位の移植片部およびこれが取り付けられるアンカキャリア部分が管状エレメントの外側にくるとすぐに、たとえば、解放をもたらすいかなる能動的機構もなく、よって管状エレメントを外れて移動しただけで、近位の移植片部が逸脱できて、自動的に解放されるような方式で行われてもよい。
【0032】
たとえば、アンカキャリアは、管状エレメント内で軸方向に、近位移植片部の近位から、近位移植片部の少なくとも中心まで、かつたとえば、少なくともその遠位端まで、またはその遠位端よりさらに先まで延在してもよい。特に、アンカキャリアは、たとえば国際公開出願第2017/066889号パンフレットに略記載されているように、近位移植片部の全長(遠近長)に渡って延在してもよい。
【0033】
実施形態において、アンカキャリアは、近位移植片部用のシートを形成し得、近位移植片部は、管状エレメントから解放されると半径方向へ動かされてシートから脱することができ、すなわち、シートは、半径方向の一方へは開放されているが、第2の移植片部については、管状エレメントによってシート内に保持されている限り、軸方向に対してこれをブロックする。
【0034】
この目的に沿ったシートは、初期(非拡張)状態における近位移植片部の形状に適合した構造を有し得る。特に、アンカキャリアは、索用チャネルを備える遠位のフット部分と、近位における、近位移植片部を収容するために断面が縮小されているシート部分(本明細書では、シャフト部分とも称する)とを有してもよい。シート部分の近位において、アンカキャリアは、第2の移植片部がなおもシート内に位置決めされており、よってまだ解放されていない限り、アンカキャリアの押込み運動によって第2の移植片部も前方へ押されるように、シート部分より大きい断面を有するプッシャ部分を有してもよい。
【0035】
アンカキャリアが近位の移植片部に加えて遠位の移植片部をも担持する場合、アンカキャリアは、両移植片部が並んで配置されていて、近位移植片部が遠位移植片部の近位に配置されている類のものであってもよい。内管または内管内部のスリーブエレメントは、アンカキャリアが内側スリーブまたは管エレメント内にある限り、近位移植片部がアンカキャリアから逸脱することを防止し得る。
【0036】
把持構造体は、先に述べたように、カニューレ挿入針が、針の少なくとも一部が把持構造体から遠位に突き出すことを可能にすべく通り抜けて前進し得るように配置されるチャネルを備える。第1の当接面は、ジョー部の近位に面する表面のチャネルの最奥部分を囲む領域によって構成されてもよい。また、第2の当接面は、本体の遠位に面する表面のチャネルの最奥部分を囲む領域によって構成されてもよい。
【0037】
チャネルは、好ましくは、さらに、たとえば解放される遠位の移植片部(弁尖が把持されている間にジョー部の遠位で解放され、心室または心室組織内に移植される)と、近位の移植片部(弁尖の心房側に、たとえば弁尖上に位置するアンカとして解放される)との間に延在する索が、該チャネルを通って延在しかつ横方向(半径方向)の相対運動によって解放されることが可能であるように形成される。したがって、チャネルは、少なくとも部分的に側方へ開いていてもよい(別段の指摘のない限り、本明細書において「側方」または「横方向」は、管軸に対して半径方向である方向を示すために使用される)。したがって、チャネルは、把持構造体の横方向面まで延在してもよい。したがって、チャネルは、たとえばスリット形のリセスで横方向面へ連接されてもよい。したがって、把持構造体は、横方向面とチャネルとの間に、カニューレ挿入針を前進させるためのスリットを備えてもよい。したがって、本発明は、チャネルが単一の側面に開放されている器具に関する。
【0038】
チャネルの単一の側面への開口(リセス)またはチャネルのリセスは、ジョー部内にのみ位置決めされてもよい。この場合、リセスまたはスリットは、好ましくは、ジョー部の全長に沿って延びる。
【0039】
あるいは、これは、本体の一部を通って、本体からジョー部の遠位端まで延びてもよい。これにより、リセスは、ジョー部の全長および本体の遠位セクションに沿って延びる。これにより、弁尖が把持されている間に、移植片の一部を弁尖の遠位に解放でき、かつ他の部分を弁尖の近位に解放できることが可能にされる。リセスは、場合により、比較的狭くてもよいが、リセスは、弁尖がクランプされている間に近位の移植片部が解放される位置に、より広い移植片解放部分を有してもよい。リセスの、またはその移植片解放部分の幅は、0.4~0.8mmの間であっても、チャネルの全幅まで延在してもよく、かつチャネルの直径は、1.2~2mm、好ましくは1.4~1.8mmであってもよい。
【0040】
弁尖が穿刺される際に針を案内するために、特に側面へ比較的広いリセス(または、リセス移植片解放部分)が開放されている実施形態において、デバイスは、さらに、針を取り囲む、かつチャネル内を案内される針案内管をさらに備えてもよい。このような針案内管は、本体およびジョー部とは独立して、かつ少なくともある程度針とは独立して軸方向へ移動可能であって、近位移植片部の解放に際しては針から退縮されてもよい。
【0041】
したがって、本発明のある特有の実施形態は、房室心臓弁を最小侵襲的に修復するための器具に関し、該器具は、軸方向を画定する管軸を有する第1の管と、第1の管の遠位部に第1の管に隣接して配置される弁尖把持構造体とを備える。弁尖把持構造体は、本体とジョー部とを備え、該ジョー部は、本体に対して移動可能であり、かつ近位に面する第1の当接面を備え、該本体は、遠位に面する第2の当接面を備え、よって、弁尖把持構造体は、第1の当接面と第2の当接面との間に心臓弁の弁尖をクランプすることができる。器具は、針をさらに備え、該針は、カニューレ挿入され、内管を形成し、かつ第1の管から解放可能であって、本体に対して軸方向へ移動可能である。前記実施形態の本体およびジョー部は、横方向面まで延在するリセス付きのチャネルを有し、該リセスは、本体の遠位部分およびジョー部全体を通って延びる。
【0042】
器具の本体およびジョー部は、協働して把持デバイスを形成するように互いに機能し得る。したがって、ジョー部は、本体に対して移動可能である。この動きは、操作ロッドなどの操作構造体を介してオペレータにより生成されてもよい。実施形態において、この操作ロッドは、プッシュプルワイヤである。他の実施形態において、操作ロッドは、ねじロッドである。ある実施形態は、ジョー部の軸方向動作を操作し、かつ本体とジョー部との間の距離を調整することに適する操作ロッドを備える、本明細書に記述しているような器具に関する。あるいは、この動作は、たとえばニチノール製のケーブルによって促進され得、該ケーブルは、たとえばステンレス鋼製のねじ付きスリーブによって部分的に取り囲まれてもよい。ロッドまたはケーブルの遠位端には、停止エレメントが付着されてもよい。この停止エレメントは、ケーブルまたはロッドをジョー部へ付着して、ケーブルまたはロッドの動きにより促進されるジョー部の軸方向動作を可能にする。
【0043】
ジョー部が軸方向にのみ動かされることを確実にするために、器具は、少なくとも1つの案内ロッド(安定化ロッド)、具体的には少なくとも2つの安定化ロッドを備えてもよい。少なくとも1つの案内ロッドまたは少なくとも2つの案内ロッドは、ねじロッド(および管軸)と平行に延びるように配置されてもよい。案内ロッドは、案内される軸方向動作を確実にするためにジョー部および/または本体部分に対して変位可能であるが、操作構造体(たとえば、操作ロッド)とは対照的に、外側から(ハンドル部分から)操作されるように装備されていない。
【0044】
本発明による器具は、心臓弁の修復に使用される経カテーテル処置に適する。したがって、本発明による器具は、さらに、第1の管を囲む、かつ第1の管へ治療されるべき心臓弁に到達するための導管を提供する、ガイドカテーテルを備えてもよい。器具の追加的な別の管は、操縦可能なカテーテルであってもよい。操縦可能な、または偏向可能なカテーテルは、最小侵襲的手術の技術分野で知られている。また、内管を操縦可能にすることも可能であると思われる。したがって、本発明による器具は、ハンドルと、操縦可能な経中隔カテーテルとをさらに備えてもよく、またはこれらとのセットとして提供されてもよい。
【0045】
経カテーテル処置において使用する場合には、本発明による器具が、ガイドワイヤ用のチャネルを有し得ることが効果的である。したがって、本発明は、オーバー・ザ・ワイヤ式把持構造体を備える器具に関する。ガイドワイヤは、身体内の狭い空間、たとえば閉塞された弁またはチャネルへの進入、またはカテーテルの挿入、位置合わせおよび移動(セルジンガー法と呼ばれる)の補助に使用されるデバイスである。したがって、本発明は、本体およびジョー部が、ガイドワイヤを組み込むことに適するガイドワイヤチャネルをさらに備える実施形態に関する。このガイドワイヤチャネルは、たとえば、把持構造体内の中心に位置決めされる。あるいは、利用可能な空間に依存して、ガイドワイヤチャネルは、中心から外れて配置されてもよい。ガイドワイヤチャネルは、管軸に平行して(ガイドワイヤチャネルが管軸に一致して中心に配置されている場合)、本体の近位端からジョー部の遠位端まで延びる。
【0046】
本発明の一実施形態は、房室心臓弁を最小侵襲的に修復するための器具に関し、該器具は、軸方向を画定しかつ第1の管の遠位部に配置されて第1の管に隣接しする管軸を有する第1の管と、弁尖把持構造体とを備え、該弁尖把持構造体は、本体と、ジョー部とを備え、該ジョー部は、本体に対して移動可能であり、ジョー部は、近位に面する第1の当接面を備え、本体は、遠位に面する第2の当接面を備え、該器具は、さらに針を備え、該針は、カニューレが挿入されて内管を形成し、かつ該針は、第1の管から解放可能であって、本体に対して軸方向へ移動可能であり、これにより、弁尖把持構造体は、心臓弁の弁尖を第1および第2の当接面間でクランプすることができ、かつ把持構造体は、管軸に対して中心でなくかつ弁尖がクランプされている間に針が通り抜けることを可能にするように形成される位置を有するチャネルを有する。前記実施形態において、チャネルは、単一の側面に開放されている。この実施形態の器具は、さらに、ジョー部の軸方向動作を操作しかつ本体とジョー部との距離を調整することに適する操作ロッド、ならびに、操作ロッドと平行に延びるように配置される少なくとも1つの安定化ロッドを備える。この実施形態の本体およびジョー部は、さらに、ガイドワイヤを組み込むことに適するチャネルを備えてもよい。
【0047】
カニューレ挿入針は、ステンレス鋼などの金属製であってもよい。カニューレ挿入針は、弁尖および心室組織、たとえば乳頭筋または心室の自由壁、を穿刺することに適するように形成されてもよい。したがって、カニューレ挿入針は、先のとがった遠位端を有してもよい。さらに、カニューレ挿入針は、所定の可撓性を有することが効果的である。したがって、カニューレ挿入針は、先のとがった端に近位で隣接するレーザカットセクションを備えてもよい。したがって、カニューレ挿入針の遠位端は、管軸に対して斜めに切断されてもよい。実施形態において、カニューレ挿入針は、異なる勾配で2回切断される。切断部の遠位部は、管軸と共に25~35゜の角度を形成する平面を画定し、かつ近位部は、15~22゜の角度を形成する平面を画定する。前記レーザカットセクション内に、カニューレ挿入針は、半径方向のレーザカットを含むが、これらは、針の全周を覆わない(切断部は、開放リングを表す)。
【0048】
実施形態において、針は、先のとがった遠位端と、該遠位端の近位における(可撓性のための)レーザカットセクションとを有する。レーザカットセクションは、最大30cmの長さであってもよく、かつ針の遠位端の近位3~10cmから始まってもよい。レーザカットセクションの後に、器具のハンドルに達する長さを有するポリイミドチューブが追加されてもよい。
【0049】
外科医が器具を操作するハンドルは、針が展開されている距離を制御するための深さインジケータを備えてもよい。あるいは、またはこれに加えて、針は、貫通深さを示しかつ画像化方法により監督され得る少なくとも1つのマーキングを備えてもよい。
【0050】
記述したこの手法に起因して、器具は、外科医によるワイヤの押し引きおよび操縦可能なカテーテルの操縦を除いて、能動的動力源なしに拍動する心臓への移植を可能にする全受動的構造であってもよい。特に、移植片部などのパーツの積極的射出、またはこれに類することを行う必要がない。これにより、外科医による良好な操作制御が可能となる。
【0051】
実施形態において、器具、および具体的には、器具のカニューレ挿入針は、移植片部を予め組み立てられた構成で、または予め組立て可能な構成で備える。特に、移植片部は、筋組織などの心室組織内に固定されるべき遠位の移植片部と、弁尖へ固定されるべき、かつたとえば弁尖の近位に配置されるべき、弁尖の穿孔を通って遠位の移植片部まで延在する索を伴う近位の移植片部とを備えてもよい。
【0052】
実施形態において、近位の移植片部は、索が近位の移植片部から弁尖組織を通りかつ心室を通って遠位の移植片部まで延在する状態で、弁尖組織の表面上に平らに存在するように構成されてもよい。この目的に沿って、近位の移植片部は、たとえば、遠位に面するやや平らな当接面(移植された状態で遠位に面する、すなわち、索が延びる側に面する)を備えてもよい。特に、近位の移植片部は、近位の移植片部が弁尖内または弁尖を通って延びる締結機構を有することなく、単に弁尖上に存在し、かつこれにより弁尖に固定されるように構成されてもよい。
【0053】
近位の移植片部は、弁尖へ、追加的な締結機構(縫合糸など)または人工的締結手段なしに、単に移植片の設計のみによって、すなわち、特に弁尖組織および心室を通って遠位の移植片部まで延在する索により、おそらくは、シフト運動を防止すべく、組織を貫通することなく組織内へ突き出す、かつ/または組織に対して窪みをつけられた部分を備える当接面上の遠位に面する構造体により補助されて弁尖組織上に存在する、遠位に面する当接面を備える、といったその設計のみによってくっつき得る。近位の移植片部は、特に、移植後、弁尖の片側にのみ配置され、よってたとえば弁尖を通して延在しない。近位の移植片部が存在する弁尖組織の側面は、弁尖の心房に面する上側面である。
【0054】
弁尖把持構造体を閉位置から開位置へ、またはその逆に至らせるために、器具は、ケーブル引張り機構を備えてもよい。このような機構は、たとえば、第1の管および本体およびジョー部に沿って適切に案内されるワイヤを備えてもよく、該機構は、該機構を引っ張る、または押すためにワイヤと適切に連接される。
【0055】
当然ながら、他の変形形態も可能である。これには、1つまたは複数のばねが自動的に弁尖把持構造体を開位置へ至らせ、かつ、これを閉位置へ戻すためのケーブル引張り機構などの能動機構が設けられるという可能性が含まれる。
【0056】
また、ばね機構が、把持構造体を閉位置へ至らせ、かつこれをそこで保持するために使用される、という可能性もある。このようなばね機構は、デバイス内のどこにでも、たとえば操作者が保持するハンドピース内に存在することが可能であり、または、本体内に挿入される外管内にある場合もある。弁尖把持構造体を閉じるためのこのような任意選択のばね機構には、2つの可能な利点があり、第1に、これは、把持構造体を自動的に閉じ得る。第2に、これは、弁尖が保持されている間、弁尖に制御された一定の力を加える。
【0057】
実施形態において、器具は、弁尖把持構造体が弁尖を把持しているか否かを示すフィードバックインジケータを備える。そのようなインジケータは、たとえば、遠位端へ戻る光路を画定する光導体などの光学手段を備えてもよく、該光路は、弁尖が把持されているときに中断される。
【0058】
本明細書に記載の把持構造体は、超音波検査法において、従来技術のデバイスより優れた視認性を有することが分かっている。したがって、本発明は、超音波検査法を用いて配向を良好にする可能性のある器具を提供する。
【0059】
本発明は、本明細書に記載のデバイスを用いることにより、ヒトまたは動物の心臓の損傷した天然腱索を置換または補完する方法にも関する。器具に言及する本明細書本文に記述されている特徴もまた、該方法に属し得、逆もまた同様である。特に、本方法は、
-ある器具を提供するステップであって、該器具は、
o軸方向を画定する管軸を有する第1の管と、
o第1の管の遠位部に配置されかつ第1の管に隣接する、弁尖把持構造体とを備え、該弁尖把持構造体は、本体とジョー部とを備え、該ジョー部は、本体に対して移動可能であり、
o該ジョー部は、近位に面する第1の当接面を備え、かつ該本体は、遠位に面する第2の当接面を備え、
o該器具は、さらに針を備え、該針は、カニューレを挿入されて内管を形成し、かつ該針は、第1の管から解放可能でありかつ本体に対して軸方向に移動可能であり、
oこれにより、弁尖把持構造体は、心臓弁の弁尖を第1および第2の当接面間でクランプすることができ、
oかつ該把持構造体は、弁尖がクランプされている間に針がそこを通り抜けて延在できるように形成される、かつ管軸に対して中心でない位置を有し得るチャネルを有するステップと、
-該管を、心房側から心臓房室弁の弁尖に向かって前進させるステップと、
-該弁尖を第1および第2の当接面間にクランプするステップと、
-弁尖がクランプされている間に、カニューレ挿入針を用いて弁尖を穿刺するステップと、
-クランプされた弁尖へ人工索を固定するステップと、
-第1の管および弁尖把持構造体を取り外すステップと、を含み得る。
【0060】
人工索を固定する該ステップは、以下のステップ、すなわち、
-器具のカニューレ挿入針の内部に配置されるシステム、あるいは針内部の内管、を提供するステップであって、該システムは、
o外側の遠位端を有する管状エレメントと、
o該管状エレメント内に配置される遠位の移植片部と、
o該管状エレメント内に配置される、人工的または同種移植または異種移植の索である索と、
o該管状エレメント内に配置される近位の移植片部と、
o該管状エレメント内に配置されるアンカキャリアと、を備え、
o該遠位の移植片部および該近位の移植片部は、管状エレメント内に並んで配置され、
o該近位の移植片部は、アンカキャリアが管状エレメント内にある限り、近位の移植片部分がアンカキャリアから逸脱することを防ぐように、管状エレメント内でアンカキャリアと共に組み立てられるステップと、
-管状エレメントを伴うカニューレ挿入針を心房側から心房室弁の弁尖まで前進させ、弁尖を穿刺し、かつカニューレ挿入針を、穿刺された弁尖を通して、かつ乳頭筋などの心室内組織を通して前進させるステップと、
-針から管状エレメントを解放し、かつ管状エレメントから遠位移植片部を解放し、これにより、遠位移植片部を組織内に移植するステップと、
-管状エレメントを(針と共に)退縮し、かつ近位の移植片部を弁尖の近位で、その心房側に解放するステップと、
-管状エレメントを取り外すステップと、を含み、
-近位の移植片部および遠位の移植片部は、システム内の索によって連接されるか、該方法が、近位および遠位の移植片部を索によって連接する追加のステップを含むか、のいずれかである方法を指し得る。
【0061】
具体的には、本発明は、房室心臓弁の最小侵襲的処置または修復を提供することができる。該方法は、具体的には、経カテーテル弁修復方法を含む。これにより、本発明は、経心尖アプローチ、および具体的には経大腿アプローチも、などの、(拍動する)心臓への異なるアクセスポイントに適合しかつこれらに関する。通常、弁置換は、「胸骨切開術」を伴う開心術を必要とし、この場合、胸が外科的に開かれて処置される。経カテーテル処置は、全ての胸骨を所定位置においたままにする極く小さい開口を介して実行されることが可能である。したがって、経カテーテル処置は、標準的弁置換手術の中リスクまたは高リスク患者とされる人々に有益な処置選択肢を提供すると同時に、ほとんどの場合、より速い回復という付加的なボーナスも提供する。
【0062】
図面の簡単な説明
以下、図面を参照して、本発明の原理および実施形態を説明する。諸図面を通じて、同一の参照数字は、同一または類似のエレメントを指す。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】本体と、ジョー部と、対向部分とを備える把持構造体を有する器具の略図である。
図2】対向部分がジョー部へ向かって軸方向に移動されている、図1の器具の略図である。
図3】針がジョー部を通って軸方向に移動されている、図1の器具の略図である。
図4】本体とジョー部とを備える把持構造体を有する、本発明による器具の略図である。
図5】見方を変えた、図4による器具の略図である。
図6】閉形状での、図4による器具の略図である。
図7】針がジョー部を通って達する、図4による器具の略図である。
図8A】ある向きの、開形状における図4の器具の略斜視図である。
図8B】異なる向きの、開形状における図4の器具の略斜視図である。
図8C】異なる向きの、開形状における図4の器具の略斜視図である。
図9A】第1および第2の当接面が管軸に対して斜めの平面を画定する、本発明による器具の略図である。
図9B】第1および第2の当接面が管軸に対して斜めの平面を画定する、本発明による器具の略図である。
図9C】第1および第2の当接面が管軸に対して斜めの平面を画定する、本発明による器具の略図である。
図10A】支持ワイヤとマーカストライプを付着するための横溝とを備える把持構造体の一表示である。
図10B】支持ワイヤとマーカストライプを付着するための横溝とを備える把持構造体の一表示である。
図11】マーカ用の横溝を示す、本発明による器具の一部である本体の略図である。
図12】マーカ用の横溝を示す、本発明による器具の一部であるジョー部の略図である。
図13】閉形状における、アンテナを有する把持構造体。
図14】開形状における、アンテナを有する把持構造体。
図15】ある代替把持構造体の本体。
図16】ある状態における、該把持構造の本体。
図17】異なる状態における、該把持構造の本体。
図18】マーカが付いた、図15図17の把持構造体の変形例。
図19】マーカが付いた、図15図17の把持構造体の変形例。
図20】畳み込まれた形状における、ウイング状の折り畳み構造体を有する把持構造体。
図21】広げられた形状における、ウイング状の折り畳み構造体を有する把持構造体。
【発明を実施するための形態】
【0064】
好適な実施形態の説明
器具の実施形態に関する以下のより詳細な説明は、本技術の例示的な実施形態を表すものであり、全体を通して、類似のパーツを同じ数字で示す。本明細書では、標準的な医療基準平面および記述用語を用いる。具体的には、近位とは、体幹へ向かうこと、または無生物の場合、ユーザに向かうこと、を意味し、遠位とは、体幹から離れること、または無生物の場合、ユーザから離れること、を意味する。
【0065】
図1図3は、房室心臓弁を修復するための器具の一部である把持構造体の例示的な一実施形態を示す。図1は、開位置における、本体4とジョー部5とを備える把持構造体3を示す。把持構造体は、弾頭グラスパ(弾頭グラバ)として形成されてもよい。把持構造体は、0.75~1.2cmの長さを有し得る。ジョー部は、把持開口を作り出すために、2つの案内レール上を前進されることが可能な遠位のノーズコーン先端として形成されてもよい。図2に示すように、本体は、対向部分19の遠位端にプレスパッドにより形成される、図2に示すように本体から解放可能な第2の当接面7を備える。プレスパッドは、弁尖を把持しかつ保持するために、ジョー部へ向かって軸方向に移動可能である。図3で分かるように、内管9を形成するカニューレ挿入針8は、(図1図3には示されていない第1の管内の)把持構造体の近位端から、本体、対向部分およびジョー部内のチャネルを通って前進され、把持構造体から突き出ることができる。針は、前進されると、把持された弁尖を穿刺することができる。この針の内部において、1つの移植片は、該移植片の少なくとも一部(遠位の移植片部)が弁尖の遠位に植え込まれ得るように配置され得る。対向部分は、管形状である、または角張った断面を有して細長くされた基部と、カニューレ挿入針用チャネルとを有して形成されてもよい。対向部分の遠位端におけるプレスパッドは、案内レール上でスライス可能であるように少なくとも1つの切り欠きを有する円形であってもよい。
【0066】
図4図8および図8A図8Cは、本発明による器具1の例示的な一実施形態を示す。器具は、異なる斜視図で示されている。本体4の近位端は、第1の管2へ付着される。把持構造体3、針8および移植片は、第1の管を介して操作されることが可能である。この管は、移植片カテーテルであってもよい。心臓にアクセスするために、器具は、たとえば適切な静脈を通って右心房内へ、かつそこから左心房内へと前進されることが可能である、かつ第1の管2へ付着された本体がここからさらに左心房内へと展開されて、ジョー部と共に弁尖を把持する、さらなる外部カテーテル(たとえば、経中隔および案内カテーテル)を備えてもよい。この管は、遠位先端部に可撓セクションを、かつ近位端に操縦セクションを有する編組シースであってもよい。たとえば、これは、遠位の可撓セクションを含むPebax(登録商標)カテーテルであってもよく、適切なカラム強度および剛性を提供する。第1の管は、経中隔および案内カテーテルを介して、かつ該カテーテルによって深さ並進を提供し、僧帽弁などの心臓弁に軌道アラインメントを提供することができる。第1の管は、さらに、白金バンドなどの少なくとも1つのマーカバンドを備えてもよい。
【0067】
図1図3に示す構造体とは対照的に、図4図8図8A図8Cの実施形態およびこれ以後に述べる実施形態では、本体に対して前進されることが可能な別個の対向部分は存在せず、本体4自体が、遠位に面する第2の当接面7を備えることによって対向部分として機能する。
【0068】
本体4は、カニューレ挿入針8用のチャネル20と、ガイドワイヤ用の(中央)ガイドワイヤチャネル16とを備えることができる。ガイドワイヤチャネルは、ジョー部5内部で続く(図8および図8参照;ジョー部のガイドワイヤチャネル部分116は、本体のガイドワイヤチャネル部分16に位置合わせされる)。カニューレ挿入針用のチャネル20も、チャネルのジョー部分120によってジョー部内で続く。このチャネルは、カニューレ挿入針が本体およびジョー部を通って前進され、弁尖が第1および第2の当接面間に保持されるとこれを穿刺すること、および、心室組織内で移植片の一部を解放して移植できること、を可能にする(以下参照)。
【0069】
図4図8図8A図8Cの実施形態において、チャネル、より具体的にはチャネルのジョー部分120、は、スリット状の横方向開口13を有する。移植片の少なくとも遠位部の移植後、この開口は、カニューレ挿入針により担持される移植片部へ付着された人工索を解放できるようにする。針の引込み後、人工索は、横方向の動きによって把持構造体から解放されることが可能である。
【0070】
把持構造体は、ジョー部を本体に対して軸方向に移動させる機構を含む。機構は、操作ロッドなどの操作構造体を備え、かつさらに、1つまたは複数の案内ロッド15(案内レール)を備えてもよい。
【0071】
多くの実施形態において、操作構造体は、操作者による外部からの直接的な軸方向動作を受ける操作ロッドである(曲げ可能な大きさを有することができ、よって、操作ワイヤに見える場合もある)。あるいは、本明細書に示すように、該動作は、ねじロッド14によって容易にされてもよい。この代替機構において、操作者は、ねじロッドを回転させることによって軸方向動作を引き起こす。ねじロッドを有する実施形態には、監視によるフィードバックを必要とすることなく軸方向位置をより正確に決定できるようにする、という利点があるが、回転(ねじり)運動を、管材を介してたとえば最大1mもの比較的長い距離を伝達することは困難な場合がある、という欠点がある。
【0072】
概して、大部分の図は、例示を目的として、操作構造体をねじロッドの形態で示しているが、本発明の全ての実施形態に関しては、操作ロッド(操作ワイヤ)による直接的な軸方向動作、ならびにねじロッドの形態の操作構造体、または他の操作構造体が選択肢となる。
【0073】
開形状における把持構造体の長さは、25~40mmであってもよい。これにより、開口幅は、8~15mm、好ましくは12mm、であり、本体の長さは、10~20mmであり、ジョー部は、4~10mmの長さを有してもよい。把持構造体の直径は、4.5~8mmであってもよい。
【0074】
図6は、閉形状、またはほぼ閉じた形状の把持構造を示す。弁尖は、本体4の第2の当接面7とジョー部5の第1の当接面6との間にクランプされかつ保持されることが可能である。
【0075】
図7は、閉形状、またはほぼ閉じた形状で、カニューレ挿入針8が前進されてジョー部5から遠位に突き出した状態の把持構造体を示す。カニューレ挿入針は、先のとがった遠位端17を有する。
【0076】
第1の当接面6および第2の当接面7は、平面を画定する。図4図8図8A図8Cに示す実施形態では、この平面と管軸とが90゜の角度を形成する。代替実施形態において、該角度は、より小さい場合もあり、これについては、後述の実施形態も参照されたい。
【0077】
図8Aおよび図8Bならびに他の図から分かるように、第1の当接面6および/または第2の当接面7は、突起/陥凹部のパターンを形成する表面構造体106、107を有することによって構造化されてもよい。例示的に、正方形の底面を有する小さい角錐が、表面構造体106、107として示されている。表面構造体106、107は、相補的であるように形成されてもよい。これは、把持構造体が閉形状にある場合、これらの構造体が互いに嵌合することを意味する。したがって、これらの構造体は、グリップの増大を可能にするが、閉形状では、本体4とジョー部5との間に開放空間が残らないことから、弁尖以外の他の構造体が不要にクランプされる危険性はない。
【0078】
図9A図9Cは、本発明による器具1の一部である把持構造体3の別の実施形態を示す。
【0079】
前述の実施形態に対する図9A図9Cの実施形態の第1の違いは、互いに平行な当接面6、7が軸10に対して直角でなく、該軸に対して垂直でない少なくとも一部分を有することにある。特に、図9A図9Cの実施形態において、これらの当接面は、カニューレ挿入針8用のチャネルがこれらを通過する位置において、軸に対し垂直ではない。
【0080】
図示されている特有の実施形態では、第1の当接面および第2の当接面が各々3つの部分を備える。したがって、閉位置では(図9A)、これらの当接面の対応する部分が3つの平面を画定する。2つの平面は、管軸と共に、90゜またはほぼ90゜の角度を形成する。垂直部分を繋ぐ中間部分によって画定される平面は、管軸と共に、たとえば25~80゜、たとえば30゜~60゜、の角度βを形成する。カニューレ挿入針8は、管軸に対して斜めである平面を画定するこのセクション内で当接面を通り抜ける。
【0081】
当接面の形状は、垂直以外にも、局所的に湾曲した面を含む他の形状が可能である。
軸に対して垂直でない当接面を有する実施形態の特徴として可能な1つは、図9Bにも示されている。カニューレ挿入針用のチャネルの近傍における当接面により画定される平面206は、針8の遠位端17により画定される平面117に対して非平行である。これにより、針が、把持された弁尖を穿刺するとき、針の遠位端は、弁尖に対して平らにならず、たとえば、先端は、まず弁尖を穿刺する。
【0082】
特に、図示の実施形態に示すように、遠位端により画定される中間平面117は、軸に対して、チャネルの周りの当接面により画定される平面206の傾斜方向とは異なる方向に傾斜されてもよく(当接面におけるチャネルの口の中間平面となる)、かつたとえば、略反対方向に傾斜されてもよい。
【0083】
カニューレ挿入針8は、先のとがった遠位端の近位にレーザカットセクション18を備えてもよい。このようなセクションは、その他は円筒形である本体内に複数の切込みを備え、針の可撓性を高め、かつ心室壁または乳頭筋などの心室組織内に1つの移植片部を移植することを可能にする。レーザカットは、開リングの形で針の円周上を走る。したがって、切込みは、円弧の形を有し得る。円弧の形のレーザカットは、交互に配置されることが好ましく、よって、各円上の非切込み部分は、位置が変わる。
【0084】
カニューレ挿入針8は、カニューレ挿入針の遠位端がジョー部5の遠位端を越えて突き出す、前進された位置にあるように示されている。アンカキャリアまたは移植片キャリア11は、針内に位置決めされ、かつ任意選択の移植片スリーブ12によって、あるいは直に針によって囲まれる。移植片スリーブ12および移植片キャリアは、針から遠位へ突き出すように前進され得る。移植片キャリアは、移植片部を収容するように設計される。移植片スリーブが引き戻された後、移植片は、解放され得る。移植片キャリアは、少なくとも近位の移植片部のための横方向シート61を有してもよい。その遠位の部分は、近位の移植片部が移植片スリーブ12内にある限り(または、少なくともカニューレ挿入針8内に移植片スリーブ12がない場合)、近位の移植片部が移植片スリーブ12から滑り落ちることを防止するためのフット部分62として機能する。
【0085】
移植片スリーブおよび移植片キャリアは、ニチノールから作製されてもよく、かつカニューレ挿入針のレーザカットセクションと同じ方法で形成され得るレーザカットセクションも備えてもよい。
【0086】
図9A図9Cの実施形態のさらに他の特徴-これらの図を参照して述べている他の特徴とは独立して、任意の実施形態において実装され得る-は、マーキングを指す。本体4は、マーカストライプ用の溝21を備え、かつジョー部5は、別のマーカストライプ用の溝22を備える。これらの溝は、当接面の縁の近くに位置決めされてもよく、かつ湾曲されてもよい。これらの溝には、放射線不透過性材料または超音波検査法(ソノグラフィ)において良好なコントラストを生み出す材料のストライプを付着することができる。たとえば、これらの溝内には、白金-イリジウム合金のストライプをくっつけることができる。このようなストライプは、X放射線下で2つのフックのように見え、把持構造体の向き、ならびに把持構造体が開いているかどうか、およびどの程度開いているかの判定を可能にする。
【0087】
図10Aおよび図10Bは各々、本発明による器具の一部である把持構造体3の別の実施形態を表したものである。図10Aは、閉じた形の把持構造体を示し、かつ図10Bは、開位置での把持構造体を描いている。
【0088】
把持構造体は、これまでに述べた特徴に加えて、ワイヤサポート23などの折り畳みサポートをさらに備える。折り畳みサポートまたは他の折り畳み構造体は、本体およびジョー部の外面により画定される円筒形容積部から、かつたとえば外部カテーテル(経中隔案内カテーテルなど)から外側へ伸ばされて半径方向の外向きに突き出すように装備される。折り畳み構造体は、たとえば、こうした外部カテーテルから解放される時点、把持構造体が開かれる時点、および/または操作者に誘導されてトリガが動作する時点で自動的に伸ばされてもよい。
【0089】
折り畳みサポートは、弁尖と協働するための有効面積を拡大し、かつこれにより、弁尖の把持を容易にし得る。これは、ジョー部から伸ばされても、本体から伸ばされてもよい。また、これらの2つの選択肢を組み合わせることも可能である。特に、弁尖を支持することができるように、ワイヤは、少なくとも1つの当接面の面積を増加させ得る。
【0090】
図示の実施形態において、折り畳みサポートは、たとえば2本のワイヤから成るワイヤサポートである。開位置において、ワイヤは、把持された弁尖を支持し、よって弁尖の把持を促進する。ワイヤサポートは、1つのワイヤループより成る、または並列に付着される2つのワイヤループから成ることが可能である。このようなワイヤは、自由端で曲げられてもよい。2つのワイヤから成るワイヤサポートは、好ましくは、2つのワイヤ間に、針装置からの索解放を可能にすべくチャネル120のリセス13と位置合わせされる間隙を含むように配置される。
【0091】
ワイヤサポートは、閉位置では把持構造体へ密に付着されるが、開位置では突き出ることができるようにして配置されることが可能である。したがって、ジョー部へ付着されるワイヤの自由端は、本体内部のサポートリセス123内に位置決めされてもよい。ジョー部が本体から離れて移動する間、ワイヤは、引き出されて展開され、またはぱっと開く。ワイヤサポートは、ニチノールなどの形状記憶効果を有する材料製であってもよい。あるいは、ワイヤは、放射線不透過性である材料製であっても、放射線不透過性マーカを含んでもよい。
【0092】
図10Aおよび図10Bの実施形態、ならびに後述の実施形態のさらなる特徴-該さらなる特徴は、この実施形態の他の特徴とは独立して実装され得る-は、本体に対するジョー部の軸方向動作を引き起こすためのねじロッドがないことにある。代わりに、案内ロッドとして機能するロッド15の一方または双方が、プッシュプル操作機構(本質的にはプッシュプルワイヤ)へ連接され、かつこれにより、操作のためにも機能し得る。
【0093】
図11は、ガイドワイヤ用のチャネル16とカニューレ挿入針用のチャネル20とを備える、把持構造体の本体4を示す図である。当接面7の他に、本体は、溝21を備える。前記溝21内に、放射線不透過性マーカを接着することができる。本体の反対側には、類似の溝があってもよい。溝は、長さ3~8mm、深さ0.15~0.5mmであってもよく、1.5~4mmの幅を有する。
【0094】
図12は、把持構造体のジョー部5を示す図であり、該ジョー部は、図11に示すように本体と協働するように装備されている。ジョー部は、カニューレ挿入針用のチャネルを備え、該チャネルは、チャネルの上側が開くようにリセス13を有する。当接面の他に、ジョー部は、溝22を備える。前記溝21内に、放射線不透過性マーカを接着することができる。ジョー部の反対側には、類似の溝があってもよい。溝は、長さ3~8mm、深さ0.15~0.5mmであってもよく、1.5~4mmの幅を有する。
【0095】
図13および図14は、各々、把持構造体の閉状態および開状態における図9図12の実施形態の変形例を示す。これまでに述べた実施形態とは対照的に、該把持構造体は、少なくとも1つの折り畳みアンテナ形式の折り畳み構造体を備える。図13および図14の実施形態において、これは、双方が本体へ横方向に付着される2つの折り畳みアンテナを備える。これらのアンテナは、展開された状態において本体および/またはジョー部から離れて半径方向に突き出すことにより、超音波検査法が適用される際の視認性を高める。先に述べた類のワイヤサポートに似て、このようなアンテナは、閉位置では把持構造体へ密に付着されるが、開位置では突き出ることができるようにして配置されることが可能である。また、アンテナの自由端も、ジョー部内のアンテナリセス151などの対応するリセス内に位置づけられてもよい。把持構造体が外部カテーテルから展開されると、または、ジョー部が本体から離れて移動すると、アンテナは伸ばされる。アンテナもまた、ニチノールなどの形状記憶効果を有する材料製であってもよく、かつ/または、放射線不透過性の材料製であっても、放射線不透過性マーカを含んでもよい。
【0096】
先に述べた図4図14の実施形態において、カニューレ挿入針用のチャネルは、単一の横方向側面に向かって開いていて、これにより、ジョー部内にスリット状のリセスが形成されているのに対して、-近位の-本体は、こうした特徴を有していない。近位の移植片部を解放するために、近位の移植片部-たとえば、図9A図9Cに示すようにアンカキャリアによって担持される-は、本体から展開されなければならない。したがって、近位の移植片部が弁尖の近位に存在すべきものである場合、展開は、弁尖が把持構造体から解放された後に行われてもよい。
【0097】
以下で説明する図15図19の実施形態は、弁尖がなおも把持されている間に近位のアンカ解放が存在するというオプション用に装備される。これは、操作者による追加的制御を可能にし、すなわち、弁尖がなおも把持されている間の近位移植片部の解放、または弁尖解放後の近位移植片部の解放、の双方が可能である。
【0098】
この目的に沿って、ジョー部内のチャネル部分120だけでなく、本体のチャネル部分20もまた、本体4が、遠位端から延びるリセス24を有することにより、横方向の側面(すなわち、ジョー部のチャネル部分と同じ側)に開いている。図示の実施形態において、リセスは、狭い遠位のリセス部分25と、移植片解放部分として機能するより広い近位のリセス部分26とを有する。リセス、またはもしあればその移植片解放部分26、の長さ(軸方向の延設部)および幅は、近位の移植片部が通って解放されるに足るものである。特に、本体のリセス部分またはその移植片解放部分の開き角度αは、少なくとも45゜、または少なくとも60゜、または少なくとも80゜、またはそれ以上であってもよい。その長さは、近位移植片部分の長さより長く、よって、アンカキャリアシート61の長さより長い。
【0099】
図16および図17には、さらなる任意選択の特徴が示されている。すなわち、カニューレ挿入針8は、針案内管71によって包囲されている。針案内管は、弁尖がクランプされている間に弁尖を穿刺するための針の前方向(遠位へ向かう)動作の間に、針8をその略遠位端まで取り囲む。針案内管71は、この後、近位の移植片部を解放するために退縮される。針案内管71は、弁尖により前進動作/穿刺に対して機械的抵抗が生じるとしても、また近位のリセス部分が比較的大きく開いている場合であっても、針がジョー部のチャネル部分に向かって、さらにはこのチャネル部分内へと誘導されることを確実にする。
【0100】
図18および図19は、アンカキャリア11および移植片解放部分26の軸方向位置が、たとえ、デバイスの可撓性が高すぎて、操作者が、単にハンドルデバイス上のマーキングからは、近位アンカを展開するに足る精度でその相対位置を画定することができない場合でも、移植片解放に合わせて適正に調整されることを確実にするために使用され得るマーキングの可能な位置を示している。図8において、本体4は、周方向の(図示の実施形態では、280゜延びている)マーカ84を備え、周方向マーカ84の軸方向位置は、中央のアンカキャリアマーカ85の軸方向位置を画定する。第2の選択肢によれば、遠位のアンカキャリアマーカ86は、先に述べたマーカ溝21、22内に存在する本体4および/またはジョー部5のサイドマーカ81、82と位置合わせされてもよい。
【0101】
図20および図21の実施形態は、弁尖に対する把持構造体の配向を、特に超音波検査法および/またはX線撮影法で可視であることによって支援するために本体から伸ばされることが可能な翼状エレメント160によって構成される、折り畳み構造体を備える。その位置および構造に依存して、翼状エレメントは、図20および図21に示すものとは異なる実施形態において、弁尖を支持するための有効面積を拡大するようにも作用し得、かつこれにより、折り畳みサポートとしても機能し得る。翼状エレメント160は、中へ折り畳まれた状態(図20)では、本体およびジョー部の外面により画定される円筒形容積部から半径方向の外向きに突き出さないようにシート161内に収容されるのに対して、伸ばされた状態(図21)では、この円筒形容積部から半径方向の外向きに突き出す。伸ばされるプロセスは、把持構造体が把持構造体を内部で案内する外管から解放された時点で自動的に行われてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21