(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】フラックスコアードワイヤー用冷延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240905BHJP
C22C 38/08 20060101ALI20240905BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240905BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/08
C21D9/46 G
B23K35/30 A
(21)【出願番号】P 2022538237
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 KR2020018457
(87)【国際公開番号】W WO2021125792
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171743
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジ-イク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、 ジェ-チュン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0137300(KR,A)
【文献】特開昭61-253195(JP,A)
【文献】特開2009-248175(JP,A)
【文献】特開平07-009191(JP,A)
【文献】特開昭63-002592(JP,A)
【文献】特開2008-087043(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106425161(CN,A)
【文献】特表2019-534382(JP,A)
【文献】特表2020-525647(JP,A)
【文献】特開平01-294822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
B23K 35/00 - 35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C)0.0005~0.01、マンガン(Mn)0.05~0.25
%、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.0005~0.0
1%、硫黄(S)0.001~0.008%、アルミニウム(Al)0.0001~0.
010%、窒素(N)0.0005~0.003%、ニッケル(Ni)0.5~1.7、
ホウ素(B)0.0005~0.0030%、残りFeおよび不可避な不純物からなるフ
ラックスコアードワイヤー用冷延鋼板。
【請求項2】
下記式1で定義されるW、
fが2.0~15.0である、請求項1に記載のフラックス
コアードワイヤー用冷延鋼板。
[式1]
W、
f=(41×[C]+28×[Al]+3.4×[S])*(25×[Ni]×3
0×[B]) / (25×[N])
(式1で、[C]、[Al]、[S]、[Ni]、[B]および[N]は、それぞれC
、Al、S、Ni、BおよびNの含有量(重量%)を示す)
【請求項3】
前記冷延鋼板は、延伸率が40%以上である、請求項1または2に記載のフラックスコ
アードワイヤー用冷延鋼板。
【請求項4】
重量%で、炭素(C)0.0005~0.01、マンガン(Mn)0.05~0.25
%、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.0005~0.0
1%、硫黄(S)0.001~0.008%、アルミニウム(Al)0.0001~0.
010%、窒素(N)0.0005~0.003%、ニッケル(Ni)0.5~1.7、
ホウ素(B)0.0005~0.0030%、残りFeおよび不可避な不純物からなるス
ラブを製造する段階;
前記スラブを加熱する段階;
前記加熱されたスラブを仕上げ熱間圧延温度が890~950℃になるように熱間圧延
して熱延鋼板を得る段階;
前記熱延鋼板を550~700℃の温度範囲で巻き取る段階;
前記巻き取られた熱延鋼板を50~85%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階
;および
前記冷延鋼板を700~850℃の温度範囲で焼鈍する段階を含むフラックスコアード
ワイヤー用冷延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記スラブは、下記式1で定義されるW、
fが2.0~15.0である、請求項4に記
載のフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の製造方法。
[式1]
W、
f=(41×[C]+28×[Al]+3.4×[S])*(25×[Ni]×3
0×[B]) / (25×[N])
(式1で、[C]、[Al]、[S]、[Ni]、[B]および[N]は、それぞれC
、Al、S、Ni、BおよびNの含有量(重量%)を示す)
【請求項6】
前記冷延鋼板を得る段階で、前記圧下率は65~80%範囲である、請求項4または5
に記載のフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記焼鈍する段階は、730~845℃範囲で行われる、請求項4~6のいずれか一項
に記載のフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記冷延鋼板を焼鈍する段階の後、焼鈍された冷延鋼板を調質圧延する段階をさらに含
む、請求項4~7のいずれか一項に記載のフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の製造
方法。
【請求項9】
請求項1に記載の冷延鋼板からなる外皮;および
前記外皮内に充填されたフラックスを含むフラックスコアードワイヤー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フラックスコアードワイヤー用冷延鋼板およびその製造方法に関する。より具体的に、本実施例は、合金元素の含有量を最適化することによって、強度、低温靭性、溶接作業性および加工性の特性が顕著に向上したフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に溶接生産性が最も高く、多様な位置で溶接が容易な溶接方法としてフラックスコアード溶接(FCW、Flux Cored Welding)法がある。FCW溶接方法に使用される溶接材料は、フラックスコアードワイヤーであり、溶接棒用冷延鋼板を引き抜きしたストリップ(Strip)をU字形に加工した後、加工されたU字管にフラックスを添加して製造する。
【0003】
このようなフラックスコアードワイヤーの製造に使用されるフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板としては、通常炭素鋼ベースの冷延鋼板が使用されており、一部の特殊用途にはステンレス鋼が使用されている。
【0004】
炭素鋼ベースのフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板は、低合金鋼であるため、使用環境に応じたフラックスコアードワイヤーの特性を確保するためには、そのコア内部に充填する基本的なフラックス成分以外にも使用特性の確保のための多量の合金元素の添加が必要である。
【0005】
しかし、このように溶接棒の使用特性を確保するための合金元素の含有量が増加するようになると、フラックス成分などが制限されて安定した溶接特性を確保することが難しくなる問題点があった。また、これら合金元素は、大部分高純度の粉末形態で添加されることによって原価上昇の要因になるだけでなく、添加された合金元素の比重が高くて溶接時に溶融された添加成分が溶接部偏析を起こすなど、溶接不良の要因として作用する問題点があった。
【0006】
例えば、フラックスコアードワイヤー用鋼板を製造するための方法の一つとして、チタン(Ti)などを添加して衝撃靭性および強度に優れた溶接棒用鋼を製造する方法が提示された。しかし、これは高価の合金元素を多く添加することによって製造原価が上昇する問題点があるだけでなく、軟性が低くて引抜加工性を確保することが難しい問題点があった。
【0007】
また、フラックス原料にチタン(Ti)、マグネシウム(Mg)などを添加することによって溶融金属の脱酸反応を促進して溶接欠陥を低減する技術が提案された。しかし、溶融金属の脱酸効果を十分に得るためにはフラックス中に多くの合金元素を添加する必要があるが、このように多くの合金元素をフラックスに添加するようになると、溶接時に微細な粒子が周囲に飛び出すスパッタ(spatter)現象が多く発生するなど溶接作業性が低下する問題点があった。
【0008】
したがって、極低温用環境で強度および低温靭性に優れた溶接部を得ることができ、溶接作業性および引抜加工性に優れたフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板を活用した溶接鋼帯およびその製造方法に対する開発が要求されているのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本実施例では、ニッケル(Ni)およびホウ素(B)などを適正量添加することによって、強度、低温靭性、溶接作業性および加工性が顕著に向上したフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板およびその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施例によるフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板は、重量%で、炭素(C)0.0005~0.01、マンガン(Mn)0.05~0.25%、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.0005~0.01%、硫黄(S)0.001~0.008%、アルミニウム(Al)0.0001~0.010%、窒素(N)0.0005~0.003%、ニッケル(Ni)0.5~1.7、ホウ素(B)0.0005~0.0030%、残りFeおよび不可避な不純物を含むことができる。
【0011】
他の実施例によるフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C)0.0005~0.01、マンガン(Mn)0.05~0.25%、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.0005~0.01%、硫黄(S)0.001~0.008%、アルミニウム(Al)0.0001~0.010%、窒素(N)0.0005~0.003%、ニッケル(Ni)0.5~1.7、ホウ素(B)0.0005~0.0030%、残りFeおよび不可避な不純物を含むスラブを製造する段階、前記スラブを加熱する段階、前記加熱されたスラブを仕上げ熱間圧延温度が890~950℃になるように熱間圧延して熱延鋼板を得る段階、前記熱延鋼板を550~700℃の温度範囲で巻き取る段階、前記巻き取られた熱延鋼板を50~85%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階、および前記冷延鋼板を700~850℃の温度範囲で焼鈍する段階を含むことができる。
【発明の効果】
【0012】
一実施例によるフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板は、合金成分を適切に制御することによって加工性および生産性を顕著に向上させると同時に、フラックス成分の安定化により溶接作業性の確保も容易であるため、作業の効率性を画期的に改善することができる。
【0013】
また、一実施例によれば、造船産業、資材産業、建築産業などに使用されるフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板を安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためだけに使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及され得る。
【0015】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数の形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0016】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは直ちに他の部分の上にあるか、またはその間に他の部分が介され得る。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0017】
異なって定義しなかったが、ここで使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
【0018】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0019】
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量の分、残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0020】
以下、本発明の実施形態について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳細に説明する。しかし、本発明は多様な異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0021】
本発明の一実施例によるフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板は、重量%で、炭素(C)0.0005~0.01、マンガン(Mn)0.05~0.25%、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.0005~0.01%、硫黄(S)0.001~0.008%、アルミニウム(Al)0.0001~0.010%、窒素(N)0.0005~0.003%、ニッケル(Ni)0.5~1.7、ホウ素(B)0.0005~0.0030%、残りFeおよび不可避な不純物を含むことができる。
【0022】
以下、冷延鋼板の成分限定の理由を説明する。
【0023】
C:0.0005~0.01重量%
炭素(C)は、鋼の強度向上のために添加される元素であり、溶接熱影響部が母材と類似の特性を有するようにするために添加する元素である。C含有量が過度に少ない場合には前述した効果が不十分である。反面、C含有量が過度に多い場合には高い強度または加工硬化により引抜工程時に断線が起こるなどの問題が発生することがある。また溶接継手部の低温亀裂が発生したり衝撃靭性が低下したりするだけでなく、高い硬度により多数の熱処理を行ってこそ目的とする最終製品として加工が可能であるという短所がある。したがって、C含有量は、0.0005~0.01重量%であり得る。より具体的に例えば、前記炭素(C)の含有量は、0.0005~0.008重量%、0.0005~0.005重量%、または0.001~0.005重量%範囲であり得る。炭素含有量が前記範囲を満足する場合、溶接熱影響部の特性をより向上させることができる。
【0024】
Mn:0.05~0.25重量%
マンガン(Mn)の場合、固溶強化元素として鋼の強度を高め、熱間加工性を向上させる役割を果たす。ただし、過度な添加時には多量のマンガン-スルフィド(MnS)析出物を形成して鋼の軟性および加工性を阻害することがある。Mn含有量が過度に少ない場合には赤熱脆性(red shortness)の発生要因になり、オーステナイトの安定化に寄与し難いこともある。反面、Mn含有量が過度に多い場合には軟性が低下し、中心偏析発生の要因として作用して溶接棒製造工程での引抜作業時に断線を誘発することがある。したがって、Mn含有量は、0.05~0.25重量%であり得る。より具体的に例えば、Mnの含有量は0.07~0.20重量%であり得る。
【0025】
Si:0.03重量%以下
シリコン(Si)は、酸素などと結合して鋼板の表面に酸化層を形成して表面特性を悪くし、耐食性を落とす要因で作用するだけでなく、溶接金属内の硬質相変態を促進して低温衝撃特性を低下する要因で作用する。したがって、Si含有量を0.03重量%以下に限定する。より具体的に例えば、Siの含有量は、0.001~0.030重量%または0.001~0.0020重量%であり得る。
【0026】
P:0.0005~0.01重量%
リン(P)は、鋼中の固溶元素として存在しながら固溶強化を起こして強度および硬度を向上させる元素である。Pの含有量が過度に少なければ、一定水準の剛性を維持し難いこともある。P含有量が過度に多い場合には、鋳造時に中心偏析を起こして軟性が低下してワイヤー加工性が劣位にあることがある。したがって、P含有量は、0.0005~0.01重量%になり得る。より具体的に例えば、Pの含有量は0.001~0.008重量%になり得る。
【0027】
S:0.001~0.008重量%
硫黄(S)は、鋼中のマンガンと結合して非金属介在物を形成し、赤熱脆性(red shortness)の要因になるため、できる限りその含有量を低めることが好ましい。また、S含有量の高い場合、鋼板の母材靭性を低下させる問題点が発生することがある。したがって、S含有量は0.001~0.008重量%であり得る。より具体的に例えば、Sの含有量は0.0015~0.007重量%であり得る。
【0028】
Al:0.0001~0.010重量%
アルミニウム(Al)は、アルミニウムキルド鋼で脱酸剤および時効による材質劣化を防止する目的で添加される元素であり、軟性の確保に有利な元素であって、このような効果は極低温である時により顕著に現れる。Al含有量が過度に少ない場合には前述した効果が不十分である。反面、Al含有量が過度に多い場合にはアルミニウム-オキシド(Al2O3)のような表面介在物が急増して熱間圧延材の表面特性を悪化させ、加工性が低下するだけでなく、溶接熱影響部の結晶粒系に局部的にフェライトが形成されて機械的特性が低下することがある。また、溶接後に溶接ビード(bead)形状が悪くなる問題点が発生することがある。したがって、Al含有量は、0.0001~0.010重量%であり得る。より具体的に例えば、Alの含有量は、0.0005~0.0100重量%、0.001~0.007重量%または0.001~0.006重量%であり得る。
【0029】
N:0.0005~0.003重量%
窒素(N)は、鋼内部に固溶状態で存在しながら材質強化に有効な元素である。Nが過度に少なく含まれると、目標剛性を確保することが難しくなり得る。反面、N含有量が過度に多く含まれる場合には時効性が急激に悪くなるだけでなく、鋼製造段階で脱窒に応じた負担を増加させて製鋼作業性が悪化することがある。したがって、N含有量は、0.0005~0.003重量%であり得る。より具体的に例えば、Nの含有量は、0.001~0.0027重量%であり得る。
【0030】
Ni:0.5~1.7重量%
ニッケル(Ni)は、軟性を向上させて引抜加工性を向上させるのに効果的であるだけでなく、極低温でも安定した組織を形成して低温衝撃特性の改善のために必要な元素である。前記のような効果を得ると同時に、フラックス組成の安定した運営のためにNiは0.5重量%以上含まれ得る。ただし、Niの含有量が過度に多い場合には強度上昇により引抜加工性を悪くするだけでなく、表面欠陥を誘発することがある。また、根本的に高価なNiを多量添加する場合、製鋼費用が顕著に上昇することがある。したがって、Ni含有量は、0.5~1.7重量%であり得る。より具体的に例えば、Niの含有量は、0.5~1.6重量%、0.6~1.6重量%、または0.7~1.5重量%であり得る。
【0031】
B:0.0005~0.0030重量%
ホウ素(B)は、焼入性を高めて溶接継手部の強度確保の側面で有利な元素である。Bが過度に少なく含まれると強度確保が難しいこともある。反対に、Bが過度に多く含まれると再結晶温度を上昇させて焼鈍作業性が低下するだけでなく、加工性が顕著に落ちる問題が発生することがある。したがって、B含有量は、0.0005~0.0030重量%であり得る。より具体的に例えば、Bの含有量は、0.0002~0.004重量%、0.0005~0.0030重量%、0.0006~0.0027重量%または0.001~0.0027重量%であり得る。
【0032】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入され得るため、これを排除することはできない。これら不純物は通常の製造過程の技術者であれば誰でも理解できるため、その全ての内容を特に本明細書で言及しない。
【0033】
一方、本発明の冷延鋼板は、前述した合金組成を満足するだけでなく、下記式1で定義されるW、fが2.0~15.0であり得る。
【0034】
[式1]
W、f=(41×[C]+28×[Al]+3.4×[S])*(25×[Ni]×30×[B]) / (25×[N])
【0035】
前記式1で、[C]、[Al]、[S]、[Ni]、[B]および[N]は、それぞれC、Al、S、Ni、BおよびNの含有量(重量%)を示す。
【0036】
W、fは、溶接作業性および引抜加工性に及ぼす各元素の相関関係を考慮して設計したものである。W、fが過度に小さい場合、溶接部組織の硬化度が低くて加工性は良くなるが、溶接強度および低温靭性を確保することができず、フラックス内の合金元素量を増加させなければならない。そのために、溶接作業性が低下することがある。反面、W、fが過度に大きい場合には溶接部の硬度が急激に増加して造管および引抜作業時に溶接部材の破断が起きることがある。したがって、W、fは2.0~15.0の範囲を満足することが好ましい。より具体的に例えば、W、fは2.1~14.8範囲であり得る。
【0037】
本発明の一実施例による冷延鋼板は、延伸率に優れている。具体的に延伸率は40%以上であり得る。このような物性を満足することによってフラックスコアードワイヤー用素材として好適に適用され得る。
【0038】
具体的に、フラックスコアードは、冷延鋼板ストリップをロールの間に連続的に通過させて曲げ変形量を増加させた後、U字形折り曲げ部材で成形した後、内部にフラックスを供給して製造される。その後、フラックスが充填された素材を再びロールの間に連続的に通過させて内部にフラックスが充填された円筒形状に作り、再び長さ方向に引っ張って望む太さに引き抜きする形態で製造される。したがって、フラックスコアードワイヤー用素材として適用されるためには高い延伸率が要求される。
【0039】
延伸率が過度に低い場合には溶接ワイヤーの引抜加工時に断面減少率が低くなって造管加工性を悪くし、加工時に破れのような亀裂が発生する問題が発生することがある。より具体的に、一実施例による冷延鋼板の延伸率は40%~60%、44%~55%、または45%~55%であり得る。
【0040】
本発明の一実施例によるフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の製造方法は、スラブを製造する段階、前記スラブを加熱する段階、前記加熱されたスラブを圧延して熱延鋼板を得る段階、前記熱延鋼板を巻き取る段階、前記巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階、および前記冷延鋼板を焼鈍する段階を含むことができる。
【0041】
以下、各段階別に具体的に説明する。
【0042】
まず、スラブを製造する。製鋼段階でC、Mn、Si、P、S、Al、N、Ni、Bなどを適正の含有量に制御する。製鋼段階で成分が調整された溶鋼は連続鋳造を通じてスラブとして製造される。
【0043】
この時、製造された前記スラブは、重量%で、炭素(C)0.0005~0.01、マンガン(Mn)0.05~0.25%、シリコン(Si)0.03%以下(0%は除外)、リン(P)0.0005~0.01%、硫黄(S)0.001~0.008%、アルミニウム(Al)0.0001~0.010%、窒素(N)0.0005~0.003%、ニッケル(Ni)0.5~1.7、ホウ素(B)0.0005~0.0030%、残りFeおよび不可避な不純物を含むことができる。
【0044】
スラブの各組成については、前述したフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板で詳しく説明したため、重複する説明を省略する。前述した式1もスラブの合金成分内で同一に満足することができる。フラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の製造工程中で合金成分が実質的に変動されないため、スラブと最終製造されたフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の合金成分とが同一であり得る。
【0045】
次に、前記スラブを加熱する。これは後続する熱間圧延工程を円滑に行い、スラブを均質化処理するためである。前記スラブは、例えば、1100~1300℃で加熱することができる。スラブ加熱温度が過度に低ければ後続する熱間圧延時に荷重が急激に増加する問題がある。これに反し、スラブ加熱温度が過度に高ければエネルギー費用が増加するだけでなく、表面スケールの量が増加して材料の損失につながり得る。より具体的に、前記スラブ加熱温度は1150~1280℃範囲であり得る。
【0046】
次に、前記加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。この時、熱間圧延の仕上げ圧延温度は890~900℃範囲であり得る。仕上げ圧延温度が過度に低い場合には低温領域で熱間圧延が仕上げられることによって結晶粒の混粒化が急激に進行されて熱間圧延性および加工性の低下を招き得る。これに反し、仕上げ圧延温度が過度に高い場合には表面スケールの剥離性が落ち、厚さ全般にわたって均一な熱間圧延が行われず、結晶粒微細化が不十分になって結晶粒粗大化に起因した衝撃靭性の低下が現れ得る。より具体的に、熱間圧延の仕上げ圧延温度は895~940℃範囲であり得る。
【0047】
次に、前記熱延鋼板を巻き取る。この時、巻取温度は550~700℃範囲であり得る。熱間圧延後、巻取前熱延鋼板の冷却はランアウトテーブル(ROT、Run-out-table)で行うことができる。巻取温度が過度に低い場合、冷却および維持する間の幅方向温度の不均一により低温析出物の生成挙動に差を示して材質偏差を誘発することによって加工性に良くない影響を与える。これに反し、巻取温度が過度に高い場合には最終製品の組織が粗大化されることによって表面材質軟化および造管性を悪化させる問題点が発生する。より具体的に、前記熱延鋼板の巻取温度は580~690℃範囲であり得る。
【0048】
熱延鋼板を巻き取った後、巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延する前に巻き取られた熱延鋼板を酸洗する段階を追加的に含むことができる。
【0049】
次に、巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する。この時、圧下率は50~85%範囲であり得る。圧下率が過度に少ない場合、再結晶駆動力が低くて局部的な組織成長が発生するなど均一な材質を確保することが困難であるだけでなく、最終製品の厚さを考慮すれば熱延鋼板の厚さを低くして作業しなければならないため、熱間圧延の作業性を顕著に悪くする問題点がある。これに反し、圧下率が過度に高い場合には材質が硬化して引抜時に亀裂の原因になるだけでなく、圧延機の負荷で冷間圧延の作業性を低下させる問題点がある。したがって、圧下率は50~85%範囲であり得、より具体的に65~80%範囲であり得る。
【0050】
次に、冷延鋼板を焼鈍する。冷間圧延で導入した変形により強度が高まっている状態から、焼鈍を実施することによって目標とする強度および加工性を確保できる。この時、焼鈍温度は700~850℃であり得る。焼鈍温度が過度に低ければ、冷間圧延により形成された変形が十分に除去されないことによって加工性が顕著に落ちる問題点がある。これに反し、焼鈍温度が過度に高ければ、板破断のような焼鈍通板性に問題が発生することがある。より具体的に、前記焼鈍温度は730~845℃であり得る。焼鈍は冷延鋼板の巻取なしに連続して進行することができる。
【0051】
冷延鋼板を焼鈍する段階の後、焼鈍された冷延鋼板を調質圧延する段階をさらに含むことができる。調質圧延を通じて素材の形状を制御し、目標とする表面粗さを得ることができるが、調質圧下率が過度に高ければ材質は硬化するが加工性を低下する問題点があるため、調質圧延は圧下率3%以下に適用することができる。より好ましくは調質圧延の圧下率は0.3~2.0%であり得る。
【0052】
冷延鋼板を焼鈍した後、前記焼鈍板をフラックスコアードワイヤーの製造に利用することができる。つまり、他の実施例によれば、一実施例による冷延鋼板からなる外皮および前記外皮内に充填されたフラックスコアードワイヤーを提供することができる。
【0053】
本発明の一実施例によるフラックスコアードワイヤーの効果は、充填されたフラックス種類と関係なく、冷延鋼板により発現する効果である。したがって、フラックスは、フラックスコアードワイヤー分野で使用される一般的なフラックスを制限なしに使用することができる。フラックスについては広く知られているため、詳細な説明は省略する。
【0054】
次に、前記フラックスコアードワイヤーは、溶接部偏析指数に優れている。溶接部偏析指数は、溶接部の全体面積で添加元素による偏析部が占める面積の比率で表示される。具体的に溶接部偏析指数が0.15%以下であり得る。より具体的に例えば、前記冷延鋼板は、溶接部偏析指数が0.005~0.13%であり得る。
【0055】
また、前記フラックスコアードワイヤーは、-20℃での低温衝撃エネルギーに優れている。具体的に-20℃での低温衝撃エネルギーが50J(ジュール、Joule)以上であり得る。低温環境で溶接部などが低温ショックなどにより亀裂を起こす要因になって溶接構造物の安全性に問題を起こすことがある。したがって、低温領域で一定の衝撃エネルギーを確保することが必要である。より具体的に-20℃での低温衝撃エネルギーは、例えば、50J~130J、または55J~110Jであり得る。
【0056】
一方、また他の実施例によれば、一実施例によるフラックスコアードワイヤーを利用して溶接した溶接部材を提供することができる。前記溶接部材は、溶接部降伏強度に優れている。溶接部の降伏強度は、母材と関係なく適正な水準を維持することが必要であり、構造部材として適用時、溶接部の安定性確保の側面で440MPa以上の高強度特性が確保されなければならない。前記溶接部材の溶接部降伏強度は、より具体的に440MPa~600MPaまたは440MPa~550MPa範囲であり得る。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の具現例を詳しく説明する。ただし、これは例示として提示されるものであり、本発明はこれによって制限されず、本発明は後述する特許請求の範囲の範疇のみによって定義される。
【0058】
実施例および比較例
下記[表1]に整理された合金成分、残部のFeおよび不可避な不純物からなるスラブを製造した。次に、前記スラブを1230℃で加熱した後、下記[表2]に整理された製造条件で、熱間圧延、巻取、冷間圧延および焼鈍工程を行った。このように製造された焼鈍板に対して0.9%の調質圧下率を適用して調質圧下した。
【0059】
【0060】
【0061】
実験例
表2のような条件で製造された冷延鋼板に対して延伸率、通板性および引抜加工性を測定して下記[表3]に示した。
【0062】
(1)延伸率は、万能引張試験器を活用して標点距離(Gauge Length)50mmである試験片を1分当たり10mmで引張しながら試験片が破断する時までの変形量を測定して求めた。
【0063】
(2)通板性は、冷間および熱間圧延時に圧延負荷がなく、連続焼鈍時にヒートバックル(Heat buckle)のような欠陥が発生しない場合「○」と表示し、圧延負荷が発生したり連続焼鈍時に板破断のような欠陥が発生したりした場合「X」と表示した。
【0064】
(3)引抜加工性は、断面減少率61%でフラックスコアードワイヤーを引抜加工時、破れのような加工欠陥が発生する場合「不良」、加工欠陥が発生しない場合「良好」と表示した。
【0065】
(4)また、製造された冷延鋼板を活用して幅14mmのストリップで製造した後、このストリップをU字形に加工してフラックス成分を充填させ、その後、直径が3.1mmであるO字形の溶接材料を製造した。このように製造された溶接材料を引き抜きして1.2mmの直径を有するフラックスコアードワイヤーを製造し、これを利用して低温衝撃実験および引張実験を実施し、溶接部偏析指数を測定して、その結果を下記表3に示した。
【0066】
(5)そして、フラックスコアードワイヤーで溶接した溶接部材に対して溶接作業性を測定した後、その結果を下記表3に示した。この時、溶接部材は、直径1.2mmのワイヤーで引き抜きし、パイロット(Pilot)溶接機を活用して電圧29ボルト、電流150~180A、溶接速度は1分当り40cmの条件で製造された溶接部材を対象として試験を実施した結果である。溶接作業性の場合、これら溶接部材を製造するにあたり、スパッタ(Spatter)現象などの作業性低下現象が発生する場合「不良」、作業低下現象が発生しない場合には「良好」と示した。
【0067】
【0068】
前記[表1]~[表3]から分かるように、合金組成および製造工程の各条件を全て満足する発明例1~9は、通板性が良好であるだけでなく、目標とするフラックスコアードワイヤー溶接棒用冷延鋼板の材質基準である延伸率40%以上、溶接部材として製造されたワイヤーの偏析指数も0.15%以下であることを確認することができる。つまり、2次加工時、溶接部の破れや亀裂が発生せず、優れた加工性を確保できただけでなく、溶接作業性も良好な結果を得ることができた。
【0069】
同時に、-20℃での衝撃エネルギーも50J以上であり、溶接部材の降伏強度も440MPa以上に優れた強度および低温靭性を確保することができた。
【0070】
反面、比較例1~4は、本発明で提示する合金組成は満足したが、製造工程条件を満足しない場合であって、圧延通板性(比較例1~3)および焼鈍通板性(比較例4)が悪くなる問題点があった。また、延伸率が目標に比べて低いか、溶接部材降伏強度が440MPa未満であるか、-20℃での衝撃エネルギー値が50J以下であるか、または溶接部材引抜加工性が不良であることを確認することができ、全体的に目標とするフラックスコアードワイヤー用冷延鋼板の特性を確保することができなかった。
【0071】
比較例5~9は、本発明で提示した製造工程条件は満足したが、合金組成を満足しない場合であり、比較例10は、合金組成および製造工程条件を全て満足しない場合である。比較例5~10は、大部分本発明の目標延伸率、溶接部偏析指数、衝撃エネルギー、溶接部降伏強度および引抜加工性などを満足することができず、比較例10の場合、通板性も良好でなく、大部分の場合、溶接作業性も落ちる問題が発生した。
【0072】
本発明は、前記実施形態に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態に製造可能であり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に実施可能であることを理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施形態は、全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。