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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】パッケージ用の冷間圧延平鋼製品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240905BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20240905BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20240905BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/06
C22C38/54
C21D9/46 G
C21D9/46 H
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022551623
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2021053414
(87)【国際公開番号】W WO2021175562
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】102020106164.1
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カウプ,バークハード
(72)【発明者】
【氏名】ハイネ,ルイサ-マリエ
(72)【発明者】
【氏名】マシコット,ブレイス
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-534748(JP,A)
【文献】特開2001-107148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00- 8/10
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶用の平鋼製品であって、
0.5mm未満の厚さ(d)、および以下の組成:
C:0.03重量%超および0.1重量%未満、
Si:0.10重量%未満、
Mn:0.10~0.60重量%、
P:0.10重量%未満、
S:0.03重量%未満、
Al:0.05重量%未満、
N:0.014重量%超、
残部鉄及び不可避不純物、
から成る、冷間圧延された鋼板を含み、
前記炭素含有量(C)及び前記窒素含有量(N)の合計が少なくとも0.050重量%であり、前記平鋼製品が少なくとも600MPaの引張強度(Rm)を有し、エリクセン値が、前記鋼板の、前記厚さ(d,mm)、前記炭素含有量(C,重量%)、前記窒素含有量(N,重量%)及び前記引張強度(Rm,MPa)に依存し、
ET≧11.1・(C+N)+11.01・d-0.00864・Rm+7.524
であり、
式中、ETは前記エリクセン値(mm)である、
缶用の平鋼製品。
【請求項2】
缶用の平鋼製品であって、
0.5mm未満の厚さ(d)、および以下の組成:
C:0.04重量%超、及び0.1重量%未満、
Si:0.003重量%超、及び0.03重量%未満、
Mn:0.17重量%超、及び0.5重量%未満、
P:0.003重量%超、及び0.03重量%未満、
S:0.001重量%超、及び0.03重量%未満、
Al:0.002重量%超、及び0.018重量%未満、
N:0.014重量%超、及び0.07重量%未満、
任意選択でCr:0.1重量%未満、
任意選択でNi:0.1重量%未満、
任意選択でCu:0.1重量%未満、
任意選択でTi:0.01重量%未満、
任意選択でB:0.005重量%未満、
任意選択でNb:0.01重量%未満、
任意選択でMo:0.02重量%未満、
任意選択でSn:0.03重量%未満、
残部鉄及び不可避不純物、
から成る、冷間圧延された鋼板を含み、
前記炭素含有量(C)及び前記窒素含有量(N)の合計が少なくとも0.050重量%であり、前記平鋼製品が少なくとも600MPaの引張強度(Rm)を有し、エリクセン値が、前記鋼板の、前記厚さ(d,mm)、前記炭素含有量(C,重量%)、前記窒素含有量(N,重量%)及び前記引張強度(Rm,MPa)に依存し、
ET≧11.1・(C+N)+11.01・d-0.00864・Rm+7.524
であり、
式中、ETは前記エリクセン値(mm)である、
缶用の平鋼製品。
【請求項3】
前記鋼板の厚さが0.14mm超であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の平鋼製品。
【請求項4】
前記平鋼製品が、有機コーティングを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の平鋼製品。
【請求項5】
前記有機コーティングが、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)若しくはポリプロピレン(PP)又はそれらの混合物を含むポリマーコーティングであることを特徴とする、請求項4に記載の平鋼製品。
【請求項6】
前記有機コーティングが、BPA-NIラッカー又は水溶性ラッカーを含むことを特徴とする、請求項4に記載の平鋼製品。
【請求項7】
前記有機コーティングが5~100μmのコーティング厚さを有することを特徴とする、請求項4から6のいずれか1項に記載の平鋼製品。
【請求項8】
前記鋼板の厚さが0.25mm以下であり、且つ、前記鋼板の前記エリクセン値が、少なくとも4.3mmであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の平鋼製品。
【請求項9】
前記鋼板の厚さが0.26~0.49mmの範囲であり、且つ、前記鋼板の前記エリクセン値が、少なくとも5.3mmであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の平鋼製品。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の平鋼製品を製造する方法であって、
鋼スラブを少なくとも1200℃の予熱温度まで加熱し、前記鋼スラブを最高900℃の最終圧延温度まで熱間圧延して、熱間ストリップを製造することと、
670℃以下の巻取り温度で前記熱間ストリップを巻取ることと、
少なくとも80%の冷間圧延の程度で、前記熱間ストリップを冷間圧延して、冷間圧延された鋼板を製造することと、
焼鈍炉内で、前記冷間圧延された鋼板を、鋼の再結晶温度~700℃の焼鈍温度で焼鈍することと、
前記焼鈍炉内で0.014重量%超の窒素含有量まで、前記冷間圧延された鋼板を窒化することと、
7%~20%の再圧延の程度で、前記窒化及び焼鈍された鋼板を再圧延することと、
によって前記平鋼製品が得られることを特徴とする、方法。
【請求項11】
前記熱間ストリップが、少なくとも15K/sの冷却速度で最終圧延後に前記巻取り温度まで冷却される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記焼鈍が30秒~180秒の焼鈍期間中に行われる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記冷間圧延された鋼板が、2K/s~25K/sの冷却速度で焼鈍後に冷却される、請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記熱間ストリップが、冷間圧延前に酸洗され、及び/又は冷間圧延後に脱脂される、請求項10から13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さが0.5mm未満の冷間圧延鋼板から作製されるパッケージ用平鋼製品に関する。
【背景技術】
【0002】
資源効率及びコスト削減の理由から、パッケージ材料(以下、パッケージ用鋼とも呼ぶ)の製造において、平鋼製品(鋼板及び鋼ストリップ)の厚さを減少させる試みがなされている。冷間圧延パッケージ用鋼の通常の厚さは、極薄範囲、すなわち0.1~0.5mmである。しかし、厚さの減少は材料の剛性の低下をもたらすため、深絞り又はしごき加工等のパッケージ材料の製造の成形プロセスにおける冷間成形性要件に材料が耐えることができるように、パッケージ用鋼の強度を増加させなければならない。しかし、同時に、冷間成形中に鋼板の成形性も維持されなければならない。したがって、600MPaを超える引張強度を有する高強度鋼板であって、同時に、0.14~0.5mmの範囲の薄さ、特に0.20~0.35mmの薄さであっても、高い破断伸び及び/又は高いエリクセン値(DIN EN ISO 20482で規格化されたエリクセンカッピング試験に従って測定される、DIN 50101に準拠したエリクセンインデンテーション(エリクセン押し込み)とも呼ばれ、「エリクセンインデンテーション」及び「エリクセン指数」又は「エリクセン値」という用語は同義語とみなされる)等の成形性に関する良好な特性を有する、高強度鋼板が必要とされている。
【0003】
EP2835438B1から、缶の引裂き蓋用である容易に成形可能な鋼板が知られており、この鋼板は、0.020~0.040重量%の炭素含有量及び0.013~0.017重量%の窒素含有量並びに少なくとも520MPaの圧延方向の引張強度及び少なくとも5.0mmのエリクセン指数(エリクセン値)を有し、5~100μmの厚さを有する樹脂フィルムのコーティングを含有している。実施例では、最大591MPaの引張強度を有し、5mmを超えるエリクセン指数を有する、樹脂フィルムでコーティングされた鋼板が開示される。しかし、600MPa未満の引張強度は、非常に高い変形度を有する成形プロセスにおいて、安定なパッケージ材料を製造可能とするための、パッケージ用鋼、特に0.3mm未満の厚さを有する冷間圧延鋼板の多くの用途にとって十分ではない。特に、イージー・オープン・エンド(easy-open end:EOE)又はエアロゾル缶又はエアロゾル缶構成要素、例えばエアロゾル缶底の製造に関して、出発材料の成形性及び最終製品の安定性の要件を満たすために、引裂き蓋について600MPaを超える引張強度及び少なくとも4.3mmのエリクセン指数を有し、エアロゾル缶底について5mmを超えるエリクセン指数を有する、0.14~0.28mmの厚さ範囲(引裂き蓋について)及び0.22~0.49mmの厚さ範囲(例えば、エアロゾル缶底について)の鋼板を必要とする。
【0004】
ひずみ硬化、固溶強化(炭素、窒素、リン、マンガン及び/又はケイ素を添加することによる)、析出強化、多相鋼構造の設定による強度向上、又は結晶粒微細化による硬化等、鋼板の強度を高める数多くの可能性がある。しかし、鋼の強度を高めるためのこれらの処置の多くは、望ましくない副作用を有する。
【0005】
加工硬化が増すと、例えば、冷間圧延鋼板の製造における縦方向及び横方向の差、結果として異方性が増加し、同時に延性が不均衡に低下する。
【0006】
固溶強化では、外来原子(例えば、N、C、P、Mn、Si)が鋼のホスト格子に格子間に又は置換的に導入される。しかし、可能な合金元素の多くは負の副作用(例えば、Pは鋼有害物質であり、Mn及びSiは表面品質を低下させる)を有し、これが、これらの合金元素を添加することによって強度を高めることが好都合ではない理由である。
【0007】
炭素の添加は、炭素含有量が増加するにつれて鋼の強度を増加させるが、同時に、炭素が鋼のフェライト格子中の低い溶解度に起因してセメンタイトの形態で主に存在するため、鋼板の加工中にバンドの形態の顕著な異方性が生じる。更に、炭素含有量が増加すると、包晶点に近づくにつれて表面品質が低下し、スラブ亀裂のリスクが増加する。更に、炭素含有量が増加すると、鋼の成形挙動が悪化する。したがって、炭素含有量を最大0.1重量%に制限することが望ましい、なぜなら、これが、スラブ亀裂の形成及び結果として生じる点酸化(亀裂への酸素の拡散)並びにスラブ深さの過度の減少を効果的に防止する唯一の方法だからである。
【0008】
十分な量の炭素及び窒素が固溶強化のために鋼溶融物に添加されて、500MPaを超える強度を達成する、先行技術のパッケージ用の鋼板及びそれらの製造プロセスが知られている。例えば、US2011/0076177A1は、500MPaを超える引張強度を有する、0.02重量%~0.10重量%の炭素含有量及び0.012重量%~0.0250重量%の窒素含有量を有する、缶を作製するための高強度鋼板を示し、窒素の非結合重量割合、すなわち鋼中に格子間に取り込まれたのは、少なくとも0.0100重量%である。US2011/0076177A1の例では、時効処理後に、少なくとも10%の破断伸びで最大540MPaの引張強度を示す鋼板が列挙されている。非結合窒素は、特に、固溶強化及び時効硬化による鋼の強度の増加に寄与することが見出された。しかし、窒素の格子間取り込みによって達成可能な強度の増加は、一方では窒化物、特にAlNへの窒素の部分的結合によって制限され、他方では0.025重量%を超える窒素含有量では熱間圧延中のスラブ亀裂のリスクが大幅に増加するという事実によって制限される。
【0009】
例えばTi又はNbを添加することによる析出硬化の場合、1つの問題は、高温に起因して熱間圧延中に析出物が既に形成されることである。その結果、これらは、冷間圧延、焼鈍、及び必要に応じて再圧延又はスキンパス等の全ての後続の製造段階に関与し、特に析出が優先的に粒界で起こる場合、セメンタイトに匹敵する顕著な異方性をプロセスに発生させる。また、析出物Ti及びNbは、再結晶温度の上昇に寄与する。
【0010】
鋼中に多相構造を形成することによる強度の増加は、鋼の合金成分に関する規範的仕様のために、パッケージ用鋼の場合では最初から非常に制限される。したがって、例えば、マンガン及びケイ素等の多相微細構造を形成するために使用される合金成分は、パッケージ用鋼規格(DIN EN 10202)の規範的仕様により、パッケージ用鋼で、最大重量割合までしか使用できないため、自動車産業で使用されるような従来の多相鋼は、パッケージ用鋼に使用することができない。特別な冷却技術によって、パッケージ用鋼中に多相微細構造を達成することが可能である。しかし、結果として生じる微細構造状態は高い不安定性を特徴とし、強度の増加は通常、成形性の低下を伴う。多相微細構造が主に合金元素の炭素に基づく場合、セメンタイトの異方性が多相微細構造に伝わり、それによって更により顕著になるリスクもある。
【0011】
結晶粒微細化硬化では、成形性を維持しながら微細粒微細構造を調整することによって鋼の強度を高めることができ、それによって微細粒微細構造は、低い巻取り温度(熱間圧延後の巻取り温度)、高い冷間圧延速度によって、及び冷間圧延鋼板を連続焼鈍で焼鈍することによるプロセスで達成することができる。更に、微細粒微細構造の形成は、マイクロアロイング及び熱間ストリップ中の析出挙動に影響を及ぼすことによって達成することができる。しかし、必要な合金元素は高価であり、再結晶に必要な焼鈍温度を上昇させる。また、熱間ストリップの基本強度が向上するため、冷間圧延性が低下し、鋼板表面に欠陥が形成されやすくなる。
【0012】
したがって、成形性を維持しながら鋼板の強度を高めるための上述の可能性は、特に等方性に関して、すなわち材料特性の方向依存性に関して問題をもたらす。エアロゾル缶、飲料缶又は食品缶等のパッケージは、大部分が(回転)対称部品であるため、パッケージの製造に使用される鋼板は、深絞り及び張出し成形プロセスによって円筒缶本体又は円形缶底又は蓋に形成されるブランク(すなわち、平坦で円形の板材ブランク)の形態で入手可能であることが多い。したがって、最終製品の対称性のために、可能な限り等方性である材料特性が鋼板に必要とされ、すなわちパッケージ鋼板の特性は、鋼板平面の全ての方向において可能な限り均一であるべきである。製造プロセスに起因して鋼ストリップの形態である冷間圧延鋼板の場合、これは、熱間圧延及び冷間圧延中の圧延の方向が常に製造プロセスに起因する材料特性の方向依存性をもたらすため、非常に厳しい。したがって、冷間圧延鋼板は、製造プロセスに起因して常に顕著な異方性を示す。これは主に、非常に薄い板厚を達成するために必要な高度の冷間圧延によるものである。パッケージの製造における冷間圧延鋼板の加工は、基本的に圧延方向とは無関係であるため、例えば、強度及び成形性がブランクの周囲にわたって均一ではないため、成形プロセスにおいてしばしば困難が生じる。
【発明の概要】
【0013】
したがって、一方では600MPaを超える高い強度を特徴とし、他方では平鋼製品の板面内での、高い、好ましくは等方性の成形能力を特徴とする、冷間圧延平鋼製品の形態のパッケージ用鋼が必要とされている。平鋼製品の連続的な厚さ減少と必要な強度増加という観点において、これは達成が困難な相反する目的を表す。更に、平鋼製品の等方性特性に加えて、特に成形プロセス及びパッケージの形状の柔軟性、材料の無駄の低減、並びにこの目的に必要とされるパッケージの可能な限り均一で均質な特性の実現に関して、パッケージの製造においてパッケージ用鋼によって満たされるべき他の要件が存在する。
【0014】
したがって、本発明の1つの課題は、可能な限り高い等方性成形能力を有するパッケージを製造するための高強度平鋼製品を提供することであり、その平鋼製品から、優れた等方性特性を有し、多種多様な形状を有するパッケージを、様々な成形プロセスで、可能な限り低い材料の無駄で製造することができる。
【0015】
パッケージ用鋼は、時効された状態、すなわち、より長い貯蔵期間の後、及び場合によっては塗装及び乾燥の後に、完成したパッケージに加工されるため、材料の最適化は、より長い貯蔵期間の後及び/又はプラスチックフィルムの積層若しくはその後の乾燥を伴う塗装の後に生じる材料の時効の影響を考慮に入れなければならない。したがって、パッケージ用鋼の技術的パラメータは、材料の人工時効後に決定され、これは、DIN EN 10202規格に従って、例えば、サンプルを20分間200℃に加熱することによって行うことができる。鋼板の(自然又は人工)時効は、特に強度及び成形性に影響を及ぼすため、材料特性を最適化する際に時効効果を考慮に入れなければならない。
【0016】
強度及び成形性に関して冷間圧延鋼板の材料特性を改善することは、上記の理由により、材料特性の等方性を犠牲にして達成される。冷間圧延鋼板の製造において鋼板の等方性特性を達成するための様々な冶金学的及びプロセス工学的選択肢が存在する。冷間圧延鋼板の等方性を特に改善するための1つの選択肢は、ホウ素の添加である。しかし、ホウ素は、鋼及び最終製品(鋼板)の加工性に悪影響を及ぼす。例えば、ホウ素の添加は、冷間圧延後の鋼板の再結晶に必要な焼鈍温度を上昇させ、材料の溶接性を低下させ、時効可能性(すなわち、鋼板が時効した場合の強度の増加)を低下させる。
【0017】
したがって、本発明の更なる課題は、プロセス技術の観点から安価かつ簡単に製造することができ、一方では深絞り及びしごき加工のための十分に良好な成形性並びに3ピース缶の製造に必要な材料の溶接性を維持しながら可能な限り高い強度を示し、他方では材料の時効状態において強度及び成形性に関して材料特性の可能な限り高い等方性を示す、パッケージ用鋼及びそれらの製造プロセスを実証することである。
【0018】
上述の課題は、請求項1の特徴を有する平鋼製品を用いて本発明に従って解決される。これに関連して、平鋼製品は、極薄板の厚さ範囲、具体的には0.14mm~0.49mmの範囲の厚さを有する板状又はストリップ状の鋼板であると理解される。
【0019】
本発明は、鋼の格子間に取り込まれた合金成分による固溶強化が、強度、成形性及び等方性の同時改善を可能にするという知識、並びに炭素及び窒素の炭化物及び窒化物への結合が、プロセス技術によって少なくとも大部分抑制することができるとするならば、炭素及び窒素による固溶強化がこの点で特に効果的であることが判明しているという知識に基づいている。炭化物及び窒化物の形成は、異方性特性の形成を促進するであろう。
【0020】
本発明の基礎となる更なる発見は、パッケージ用鋼製造経路の終わりで、窒素供与体の存在下で焼鈍炉内で冷間圧延平鋼製品を窒化することによる窒素の導入が、窒素による効果的な固溶強化の実現と、パッケージの製造における平鋼製品の更なる加工に関連する材料特性の等方性、特に引張強度又は降伏強度、破断伸び及びエリクセン値(すなわち、エリクセン指数)の改善との両方に特に適していることである。実際、溶鋼中に窒素を導入することによって窒素含有量を増加させることとは異なり、焼鈍炉内での窒化は、窒素が窒化物にならずに、本質的に窒素の格子間への及び均質な取り込みをもたらすことが示されている。
【0021】
驚くべきことに、焼鈍炉内(特に、再結晶焼鈍前又は再結晶焼鈍中の連続焼鈍炉内)の窒化中に、冷間圧延平鋼製品の格子間に取り込まれた窒素は、材料特性の成形性及び等方性に好ましい効果を有し、比較的高い炭素含有量にもかかわらず、高いしごき深絞りを達成できることが見出された。鋼の(フェライト)格子中の窒素の均一な分布に起因して、窒素の格子間取り込みは、明らかに、平鋼製品の機械的特性の顕著な等方性を生じさせ、その結果、非コーティング鋼板の高いエリクセン値に反映される高い成形能力を生じさせる。特に、エリクセン値は、0.14~0.25mmの範囲の鋼板の厚さについて少なくとも4.3mmであり、0.26~0.49mmの範囲の鋼板の厚さについて少なくとも5.3mmである。更に、焼鈍炉内での窒化中に、遊離(すなわち、非結合)窒素の取り込みよって引き起こされる固溶強化に起因して、引張強度が増加し、平鋼製品中の窒素分布の均質性に起因して、エリクセン指数も増加する。
【0022】
更なる寄与因子は、窒素の格子間取り込みの場合、炭素と比較して、包晶点の位置がより高い合金含有量にシフトし、したがって、鋼格子の格子間サイトへの大量の窒素の取り込みは、表面品質及びスラブ亀裂のリスクに関して炭素よりもはるかに重大ではないことである。スラブ亀裂を回避するために、本発明による平鋼製品中の炭素の重量割合は、好ましくは0.10%に制限される。一方、窒素の取り込みに関しては、鋼のフェライト格子中の窒素の溶解限及び製造プロセスの経済性に関してのみ窒素含有量に制限があり、これは、フェライト格子中の窒素の溶解限が約0.1重量%であること、また、Al、Ti、Nb及び/又はB等の強力な窒化物形成剤の存在下で、窒素の一部が結合して窒化物になることを考慮すると、鋼中で最大0.120重量%である。本発明の窒化平鋼製品の窒素含有量は、プロセス技術の観点から、0.070重量%以下であることが好ましい、なぜなら、(連続)焼鈍炉内での、このレベルを超える冷間圧延平鋼製品の窒化は、非常に高い技術的費用でしか達成することができず、いずれの場合も現時点で経済的に実行可能ではないためである。したがって、プロセス技術及び経済的理由から、窒素の重量割合は0.050%以下であることが好ましい。
【0023】
特に圧延方向に沿った冷間圧延操作の結果として、窒化後に、圧延方向及び圧延方向に対して横断方向に異なる材料特性が形成されるのを防ぐために、製造プロセスにおいて可能な限り遅く平鋼製品に窒素を添加することが特に有利である。本発明による平鋼製品の窒化は、例えば、(一回目の)冷間圧延の後で、且つ連続焼鈍炉内での焼鈍前又は焼鈍中に行うことができる。
【0024】
窒化が(一回目の)冷間圧延後にのみ起こるという事実のために、窒化は、材料特性の大きな異方性を引き起こす熱間圧延及び(一回目の)冷間圧延の処理工程の一部ではない。再結晶焼鈍中又は再結晶焼鈍後の鉄格子(フェライト格子)への窒素の格子間取り込みは、本発明によるパッケージ用鋼の均質性を更に促進する。特に、再圧延中の材料特性の方向性(指向性)を高める窒化物析出のリスクが存在しない。
【0025】
格子間に取り込まれた窒素による固溶強化によって達成される鋼のより高い基本強度に起因して、二回目の冷間圧延中の再圧延の程度を低減することができ、したがってこれによって引き起こされる異方性も最小限に抑えることができる。したがって、二回目の冷間圧延中の再圧延の程度は、好ましくは20%以下、特に7%~16%に制限することができる。
【0026】
したがって、本発明の目的は、
0.5mm未満の厚さ(d)、及び以下の組成:
C:0.03重量%超、好ましくは0.04重量%超、
Si:0.10重量%未満、
Mn:0.10~0.60重量%、
P:0.10重量%未満、
S:0.03重量%未満、
Al:0.05重量%未満、好ましくは0.018重量%未満、
N:0.014重量%超、好ましくは0.015重量%超、
残部鉄及び不可避不純物、
を有する冷間圧延鋼板を含む、パッケージ用平鋼製品であって、
炭素含有量(C)及び窒素含有量(N)の合計が少なくとも0.050重量%であり、平鋼製品が少なくとも600MPaの引張強度(Rm)を有し、エリクセン値が、鋼板の、厚さ(d,mm)、炭素含有量(C,重量%)、窒素含有量(N,重量%)及び引張強度(Rm,MPa)に依存し、
ET≧11.1・(C+N)+11.01・d-0.00864・Rm+7.524(式1)
であり、
式中、ETはエリクセン値(mm)である、
パッケージ用平鋼製品を提供することである。
【0027】
エリクセン値(ET)は、鋼板の成形能力の尺度である。エリクセン値は、高薄化でのエリクセンカッピング試験で決定されるので、鋼板の厚さに依存する。板厚(d)が高いほど、フローに利用可能な材料が多くなり、エリクセンインデンテーションが高くなる。本発明によるコーティングされていない鋼板の場合、エリクセン値は、鋼板の厚さが0.14~0.25mmの範囲にある場合には少なくとも4.3mmであり、鋼板の厚さが0.26~0.49mmの範囲にある場合には少なくとも5.3mmである。少なくとも600MPaの高い引張強度を維持しながら少なくとも4.3mmのエリクセン値を得るためには、鋼板の厚さは好ましくは0.14mmを超える。例えば、イージー・オープン・エンド(EOE)の製造には、厚さ0.14mm~0.28mmの鋼板が使用される。
【0028】
冷間成形の増加により強度が増加し、成形能力の低下を引き起こすため、エリクセン値は、鋼板の強度(Rm)にも依存する。したがって、強度が高いほど、絞り深さが低くなる。更に、エリクセンインデンテーションは、鋼板の炭素含有量及び窒素含有量の合計(C+N)に依存する。窒素含有量が少なくとも0.014重量%である場合、炭素及び窒素によって提供される格子間原子は、転位のより局所的に均一な移動をもたらす。これらの転位は特定の位置に集中せず、したがって局所的な薄化の発生を遅らせ、それによって亀裂の発生を遅らせ、これが、エリクセンインデンテーションが炭素含有量及び窒素含有量の合計と共に直線的に増加する理由である。したがって、窒素及び炭素は、一方では強化効果を有し、他方では機械的特性の均等化を引き起こす。したがって、鋼板の炭素含有量(重量%)及び窒素含有量(重量%)の合計は、本発明による平鋼製品では少なくとも0.050重量%である。C及びN原子は、鋼の格子中に格子間原子として溶解した形態で可能な限り高い割合で存在する。
【0029】
したがって、本発明による平鋼製品は、圧延方向に記録された少なくとも600MPaの高い引張強度(Rm)、及び同時に良好で均質な成形特性を特徴とする。更に、本発明による平鋼製品は、圧延方向において好ましくは5%を超える良好な破断伸び(A)を有する。
【0030】
鋼板の厚さは、好ましくは0.14mmより大きく、特に0.18mm~0.49mmの範囲である。0.35mm未満の厚さが好ましい。これにより、可能な限り薄いが、使用される成形プロセスに対して十分に安定した鋼板からパッケージを製造することができる。
【0031】
耐食性を高めるために、平鋼製品は、金属コーティング、特に、電解によって適用されるスズ及び/又はクロム/酸化クロムを有してもよい。金属コーティングの代わりに、又は金属コーティングに加えて、鋼板は、有機コーティング、特に熱可塑性のポリマーコーティング又は塗料コーティングを有してもよい。特に、有機コーティングは、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)若しくはポリプロピレン(PP)、又はそれらの混合物等の熱可塑性物質で作製されたポリマーコーティング又はポリマーフィルムであってもよい。有機コーティングはまた、ワニス、特にBPA-NIワニス又は水溶性ワニスを含んでもよい。好ましくは、有機コーティングは、5~100μmのコーティング厚を有する。このような有機コーティングは、成形特性を損なうことなく、平鋼製品の耐食性を著しく改善する。有機コーティングは、鋼板の片面又は両面に適用することができる。片面のみに適用されるコーティングの場合、平鋼製品のそのコーティングされた面は、そのような平鋼製品から作製されるパッケージ容器(例えば缶)の内側として好都合に使用される。
【0032】
平鋼製品の片面又は両面の有機コーティングはまた、成形能力を改善し、したがってエリクセン値を増加させる。本発明による有機コーティングでコーティングされた平鋼製品のエリクセン値(ET)は、例えば、コーティングされていない鋼板のエリクセン値よりも少なくとも0.1mm大きい。
【0033】
本発明による平鋼製品は、以下の組成を有する鋼から以下のように製造することができる:
C:0.03重量%超、好ましくは0.04重量%超、及び0.10重量%未満、
Si:0.10重量%未満、
Mn:0.10~0.60重量%、
P:0.10重量%未満、
S:0.03重量%未満、
Al:0.05重量%未満、好ましくは0.018重量%未満、
N:0.014重量%未満、
残部鉄及び不可避不純物、
ここで、溶鋼から鋳造された鋼スラブが、少なくとも1200℃の予熱温度から最高900℃、特に800℃~900℃の最終圧延温度まで熱間圧延されて、熱間ストリップが製造され、熱間ストリップは、670℃以下、好ましくは590℃以下の巻取り温度でロール状(コイル状)に巻き取られ、室温への冷却後、好ましくは酸洗及び脱脂後、少なくとも80%の冷間圧延の程度で冷間圧延されて(一次)冷間圧延鋼板を製造し、その後、焼鈍炉、特に連続焼鈍炉内で、鋼の再結晶温度~700℃、好ましくは670℃未満、特に600℃~670℃の焼鈍温度で再結晶し、最後に7%~20%の再圧延の程度で再圧延し、ここで、窒素含有量を0.014重量%超、好ましくは0.015重量%超に増加さるために、鋼板は焼鈍炉内で窒化され、窒化は再結晶焼鈍の前、再結晶焼鈍中又は再結晶焼鈍の後に行うことができる。
【0034】
鋼板は、例えば、特に焼鈍炉内のアンモニア含有ガス雰囲気によって形成される窒素供与体の少なくとも一時的な存在によって、焼鈍炉内で窒化される。焼鈍炉内の高温では、窒素供与体として作用する原子状窒素が、触媒効果によって鋼板表面でアンモニアガスから形成され、鋼板表面から鋼板内に拡散することができ、それにより鋼板の窒素含有量が高くなる。
【0035】
完全な再結晶を確実にするために好ましくは630℃(平鋼製品の温度)を超える焼鈍温度で焼鈍炉内で焼鈍する間、窒素は冷間圧延平鋼製品内に拡散する。これにより、鋼の格子に拡散した窒素の均一な分布及び取り込みがもたらされる。格子間に取り込まれた窒素の均一な分布は、特に破断伸び、引張強度及び降伏強度並びにエリクセンインデンテーションに関して、窒化プロセスの影響を受けた窒化平鋼製品の機械的特性の高い等方性をもたらす。
【0036】
窒素供与体、例えばアンモニアガスが、焼鈍炉内に均一に分布しているだけでなく、例えばスプレーノズルを用いた噴霧によって鋼板の表面に向けられている場合、焼鈍炉内に導入された窒素を、鋼板の断面にわたって均一に分布させることができる。
【0037】
焼鈍炉内に貯蔵された窒素のできる限り均一な分布は、焼鈍炉内の平鋼製品のより長い滞留時間、特に再結晶焼鈍のためのより長い焼鈍時間に起因する。したがって、好ましくは、焼鈍炉内の平鋼製品の滞留時間は、10秒超、より好ましくは30秒超、特に30秒~250秒の範囲、例えば100~180秒の範囲である。これらの焼鈍条件は、窒化プロセス中に拡散するN原子及び鋼溶融物中に既に含まれているC原子の可能な限り高い割合が、鋼の格子の格子間サイトに堆積し、したがって鋼板中に存在する窒素が可能な限り高い程度の溶解形態で存在することを確実にする。
【0038】
滞留時間が400秒を超えると、一般的な長さの処理セクションでは、連続焼鈍炉内のストリップ状平鋼製品の処理速度を非常に低く設定しなければならず、プロセスの効率は経済的理由からもはや実現不可能であり、このため、400秒を超える焼鈍時間はバッチ型焼鈍プロセスで最適に設定することができる。
【0039】
焼鈍後、冷間圧延鋼板は、好ましくは2K/s~25K/s、特に好ましくは5K/s~20K/sの冷却速度で冷却される。より遅い冷却、すなわち2K/s未満の冷却速度では、窒化中に取り込まれた窒素の一部は、窒化物粒子への析出に起因して、機械的特性に対するその強度増加及び均質化効果を失う。25K/sを超える冷却速度のより速い冷却の場合、鋼に歪みが発生する可能性があり、これは鋼板の機械的特性の異方性及び不均一性を引き起こす。
【0040】
冷間圧延後の窒化によって本発明による平鋼製品で達成される、引張強度及び降伏強度並びに破断伸び及びエリクセンインデンテーション等の冷間成形に関連する材料特性の等方性は、(二回)冷間圧延によって回避することができない鋼粒子の結晶粒伸長にもかかわらず達成することができる。本発明による平鋼製品では、鋼構造の結晶粒は、好ましくは、3.0~6.0μmの平均弦長、及び例えば平鋼製品の長手方向断面において圧延方向(0゜)に少なくとも1.4であり、平鋼製品の平面断面において少なくとも1.1である方向依存性結晶粒伸長(S)を有する。したがって、製造プロセスに起因する結晶粒伸長にもかかわらず、本発明による平鋼製品では、板面内での、引張強度、降伏強度、破断伸び及びエリクセンインデンテーションに関して、均質な、好ましくは方向に依存しない特性を達成することができ、したがって、等方性成形特性が得られる。
【0041】
鋼構造の結晶粒の微細さは、熱間圧延後から巻き取りまでの冷却及び温度条件によって影響され得る。熱間ストリップを少なくとも15K/sの冷却速度で最終圧延温度から巻取り温度(コイル温度)まで冷却すると、特に微細な結晶粒を得ることができる。結果として生じる結晶粒微細化は、鋼構造の機械的特性の等方性を改善する。結果として生じる結晶粒微細化は、鋼板の機械的特性の板面内での等方性を改善する。巻取り温度が少なくとも500℃である場合、均一な粒径、すなわち、板面における鋼板の機械的特性の等方性の改善にも寄与する粒径分布の狭い半値幅を達成することができる。
【0042】
平鋼製品の窒化によって生成される固溶強化は、導入された窒素が鋼の格子間サイト(特にフェライト格子)に取り込まれる場合に最も効率的であるため、鋼の合金組成がAl、Ti、B、及び/又はNb等の強力な窒化物形成元素をできるだけ少なく含有して、窒素が窒化物の形態で結合するのを防ぐことが好都合である。したがって、鋼の合金組成は、好ましくは、これらの強力な窒化物形成合金成分の重量割合について以下の上限を有する:
Al:<0.05重量%、好ましくは0.018重量%未満、
Ti:<0.01重量%、好ましくは0.002重量%未満、
B:<0.005重量%、好ましくは0.001重量%未満、
Nb:<0.01重量%、好ましくは0.002重量%未満。
【0043】
好ましくは、窒化物形成剤の総重量割合は0.05%未満である。特に、これにより、0.01%を超える非結合窒素の重量割合を生成することが可能になる。
【0044】
本発明による平鋼製品の鋼板は、上で既に列挙された合金成分及び言及された最大量の窒化物形成剤に加えて、特にスクラップの添加によって、溶鋼の製造中に添加され得る以下の更なる元素を任意選択で含有してもよい:
Cr:0.1%未満、好ましくは0.01~0.05%、
Ni:0.1%未満、好ましくは0.01~0.05%、
Cu:0.1%未満、好ましくは0.002~0.05%、
Mo:0.02%未満、
Sn:0.03%未満。
【0045】
熱間ストリップ中の非結合窒素Nfree(熱間ストリップ)の重量割合は、上記の重量割合の範囲内で鋼中に存在する任意の窒化物形成剤Al、Ti、B、及びNbが窒素と完全に結合して窒化物を形成すると仮定すると、以下の式2によって説明することができる:
free(熱間ストリップ)=1/2(N-Ti/3.4-B/0.8-Nb/6.6-Al係数+|N-Ti/3.4-B/0.8-Nb/6.6-Al係数|)
(式2)
式中、Nは、鋼の溶融物中の窒素の重量割合であり、Al係数は、巻取り温度HT(熱間ストリップの巻取り温度)及びアルミニウム含有量Al(重量%)の関数として以下のように定義される:
HT<640℃の場合:Al係数=0、
750≧HT≧640℃の場合:Al係数=N-N×(-0.682HT+536)/100=N×(1-(-0.682HT+536)/100)、
そして、加数である
|N-Ti/3.4-B/0.8-Nb/6.6-Al係数|
は、差「N-Ti/3.4-B/0.8-Nb/6.6-Al係数」の量として定義される。式2において、この大きさの合計は、最大で熱間ストリップ中(すなわち、溶鋼中)に実際に存在する全窒素のみが、熱間ストリップ中(すなわち、溶鋼中)に存在する窒化物形成剤によって結合され得ることを考慮している。
【0046】
冷間圧延平鋼製品中の遊離窒素の総重量含有量は、熱間ストリップ中の遊離窒素含有量(上記式2によるNfree(熱間ストリップ))及び窒化プロセスによる連続焼鈍炉中の窒素含有量の合計である。
【0047】
添加窒素ΔN:
free=Nfree(熱間ストリップ)+ΔN (式3)
【0048】
窒化中に連続焼鈍炉内に導入される窒素含有量ΔNは、少なくとも本質的に格子間空間内に格子間で堆積されると仮定される。冷間圧延平鋼製品中の遊離窒素の重量割合の上限は、鋼のフェライト格子中への窒素の溶解限によって決定され、これは約0.1重量%である。
【0049】
冷間圧延平鋼製品中の遊離窒素の総重量割合(Nfree)は、好ましくは0.01%を超える。非結合形態の窒素の可能な限り高い割合を冷間圧延平鋼製品に導入するために、窒素の総重量割合の大部分は、好ましくは連続焼鈍炉内での窒化によって導入され、ΔNの重量割合は、好ましくは少なくとも0.002重量%であり、特に好ましくは0.008重量%を超える。
【0050】
平鋼製品は、再結晶焼鈍前、再結晶焼鈍中又は再結晶焼鈍後に、連続焼鈍炉内で窒化することができる。例えば、窒素供与体の存在下で再結晶温度より低い第1の温度で連続焼鈍炉の第1のゾーン内の連続焼鈍炉内で平鋼製品を窒化し、次いで再結晶温度より高い第2の温度で再結晶焼鈍のためにストリップ走行方向の下流にある連続焼鈍炉の第2のゾーン内で平鋼製品を加熱することが可能である。この一連の窒化および再結晶焼鈍は、逆にすることもできる。連続焼鈍炉の異なるゾーンにおいて、窒化と再結晶焼鈍を分離して行うことは、窒化の最適温度は再結晶焼鈍よりも低いため、それぞれのプロセスに最適温度を設定することができるという利点を有する。しかし、経済的な理由から、窒素供与体の存在下で、再結晶温度より高い温度で、連続焼鈍炉において、平鋼製品の窒化と焼鈍を同時に行うことが好ましい。
【0051】
冷間圧延平鋼製品中の全窒素含有量を最大化し、それによって冷間ストリップの窒化によって引き起こされる固溶強化を最大化するために、好ましくは、熱間ストリップは、0.001重量%~最大0.014重量%の範囲の初期窒素含有量Nを既に有している。スラブ鋳造及び熱間圧延中のスラブ亀裂の形成を防止し、一般的な冷間圧延装置でもはや冷間圧延できない程度まで熱間ストリップの強度を予め増加させることを回避するために、熱間ストリップの製造に使用される溶鋼中の窒素の重量割合は0.014%を超えるべきではない。初期窒素含有量Nと焼鈍炉内での窒化中に導入された窒素含有量ΔNの合計である本発明の平鋼製品の全窒素含有量は、焼鈍炉内の窒素供与体の存在によって冷間圧延平鋼製品の焼鈍中に調整され、窒素供与体の解離した原子状窒素が焼鈍温度で冷間圧延平鋼製品中に拡散し、それによって窒素含有量がΔNだけ増加する。好ましくは、焼鈍炉内での焼鈍中に導入される窒素割合ΔNは少なくとも0.002重量%であり、それにより、溶鋼中の初期窒素割合Nがこの値よりも低い場合、平鋼製品の全窒素割合を0.014重量%超に増加させる。特に好ましくは、連続焼鈍炉内の冷間圧延平鋼製品は、0.020重量%を超える窒素含有量まで窒化される。連続焼鈍炉内で窒化された平鋼製品の全窒素含有量は、(少なくとも理論的には)鋼の(フェライト)格子中の窒素の溶解限である約0.1重量%に達することができる。
【0052】
窒素供与体は、例えば、焼鈍炉内の窒素含有ガス雰囲気、特にアンモニア含有雰囲気、又は焼鈍炉内で加熱される前に冷間圧延平鋼製品の表面に適用される窒素含有液体であり得る。窒素供与体は、解離によって焼鈍炉内に原子状窒素を提供するように設計されるべきであり、これは平鋼製品中に拡散することができる。特に、窒素供与体はアンモニアガスであり得る。焼鈍炉内での解離により原子状窒素を形成するために、冷間圧延鋼平面製品を窒化する際に、400℃を超える炉内温度が焼鈍炉内に設定されることが好ましい。
【0053】
窒素供与体の存在下での(連続)焼鈍炉における焼鈍中の平鋼製品の窒化の結果としての固溶強化によってもたらされる強度の増加のために、本発明による平鋼製品は、加工硬化によって強度を更に増加させるための高い再圧延度での再圧延を必要としない。したがって、再圧延の程度は、好ましくは最大20%に制限することができ、それによって、再圧延の程度が大きい二回目の冷間圧延による、材料特性の等方性の低下を回避することができる。好ましくは、再圧延の程度は16%未満である。
【0054】
このようにして製造された平鋼製品の特性は、再圧延鋼ストリップの時効後に確立され、これは、200℃に20分間加熱することによって人工的にもたらされるか、又は平鋼製品の塗装及びその後の塗装乾燥によってもたらされ得る。
【0055】
二回目の冷間圧延(再圧延)の後、例えば、スズ層及び/若しくはクロム/酸化クロム層の電解析出によって、並びに/又は有機塗料の塗装によって、例えばポリエステル若しくはエポキシフェノール塗料の塗装によって、あるいは熱可塑性のポリマーフィルムの積層によって、特にPETのフィルム、PP、PVC若しくはPE又はそれらの混合物のフィルムの積層によって、コーティングを平鋼製品の表面の片面又は両面に適用して耐食性を改善することができる。コーティングの場合、好ましい厚さは、片面当たり2~15μmの範囲である。積層ポリマーフィルムの厚さは、便宜上、10~25μmの範囲内である。コーティング又は積層ポリマーフィルム等の有機オーバーレイは、成形性を高める。したがって、オーバーレイの層厚に応じて、本発明による、塗装された平鋼製品又はポリマーフィルムでコーティングされた平鋼製品のエリクセン値は、コーティングされていない鋼板のエリクセン値よりも約0.1mm以上高い。
【0056】
本発明による鋼板の優れた等方性の機械的特性は、引裂き蓋(「イージー・オープン・エンド」,EOE)又はエアロゾル缶及びそれらの構成要素の表面全体にわたって等方性を有する、缶の引裂き蓋又はエアロゾル缶若しくはエアロゾル缶の構成要素(例えば、エアロゾル缶の底又は蓋)の製造を可能にする。特に、円形又は楕円形の引裂き蓋及び円形エアロゾル缶の底部若しくは蓋の場合、本発明による鋼板の等方性特性が有利であることが判明している、なぜなら、ほぼ一定の機械的特性が各製品の全周にわたって存在するからである。本発明の鋼板の等方性の機械的特性はまた、例えば2ピース缶用の缶本体を製造するために円形板部(円形ブランク)が形成される深絞り用途において有利であることが判明している、なぜなら、ここでも、形成された板部品の円周方向において一貫した機械的特性を達成することができ、形成中に板厚が減少した薄くなった領域が生成されないためである。
【0057】
本発明による平鋼製品のこれら及び他の特性、特徴及び利点は、添付の図面及び表を参照して以下により詳細に説明する実施形態に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明による平鋼製品及び本発明ではない冷間圧延鋼板の比較サンプルで測定されたエリクセンインデンテーション(ET,mm)の値を、平鋼製品の厚さ(d,mm)に対してプロットした図である。ここで、点は、試験片で測定されたエリクセンインデンテーションの値を表し、点に接続線によって接続された線は、式(1)による計算によって計算されたエリクセンインデンテーションの値を表し、測定値と比較して、より高い計算値を特徴とする上方向偏差及びより低い計算値を特徴とする下方向偏差を表す。
図2】表1~3のそれぞれの実施例及び比較例の番号に対してプロットされた、エリクセンインデンテーション(ET)の測定値と式(1)から計算されたエリクセンインデンテーション(ETb)の値との差(ΔET)のプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明による平鋼製品の製造のために、スラブは、鋼溶融物から鋳造され、熱間ストリップに熱間圧延される。溶鋼の合金組成は、パッケージ用鋼規格(例えば、ASTM A623-11「錫ミル製品の規格仕様(Standard Specification for Tin Mill Products)」又は「欧州規格EN 10202」に定義されているように)で定められた制限値に基づくことが好適である。本発明による平鋼製品を作製することができる鋼の成分を以下に詳細に説明する。
【0060】
鋼の組成:
【0061】
・炭素,C:少なくとも0.03重量%で最大0.1重量%、好ましくは0.04重量%超及び/又は0.085重量%未満;
炭素は、硬度又は強度を高める効果を有する。したがって、鋼は少なくとも0.03重量%、好ましくは0.04重量%超の炭素を含有する。一回目の冷間圧延中及び必要に応じて二回目の冷間圧延工程(再圧延又はスキンパス)中の平鋼製品の圧延性を確保し、破断伸びを低下させないために、炭素含有量は高すぎてはならない。更に、炭素含有量が増加するにつれて、平鋼製品の製造及び加工中に潜伏という形態の顕著な異方性が生じる、なぜなら、炭素は、鋼のフェライト格子への溶解度が低いことに起因して、主にセメンタイトの形態で存在するからである。更に、炭素含有量が増加すると、包晶点に近づくため、表面品質が低下し、スラブ亀裂のリスクが増加する。更に、炭素含有量が増加すると、鋼の成形挙動が悪化する。したがって、炭素含有量を最大0.1重量%に制限する必要がある、なぜなら、これが、スラブ亀裂の形成および結果として生じる点酸化(亀裂への酸素の拡散)並びにエリクセン値の過度の低下を回避するための唯一の有効な方法だからである。特に好ましくは、炭素含有量は0.04~0.085重量%の範囲である。
【0062】
・マンガン,Mn:最小0.10%で最大0.60%;
マンガンも、硬度及び強度を増加させる。更に、マンガンは、鋼の溶接性及び耐摩耗性を改善する。更に、マンガンの添加は、硫黄をMnと結合させ害の少ないMnSを生成することによって、熱間圧延中の赤熱脆性の傾向を低減させる。更に、マンガンは結晶粒微細化をもたらし、マンガンは鉄格子中の窒素の溶解度を増加させ、スラブの表面への炭素の拡散を防止することができる。したがって、マンガン含有量は少なくとも0.10重量%であることが好ましい。高い強度を達成するために、0.2重量%を超えるマンガン含有量、特に0.30重量%以上が好ましい。しかし、マンガン含有量が高くなりすぎると、これは鋼の耐食性を損ない、食品適合性はもはや保証されない。更に、マンガン含有量が高すぎると、熱間ストリップの強度が高くなりすぎ、これは熱間ストリップをもはや冷間圧延することができないことを意味する。したがって、マンガン含有量の上限は0.60重量%である。
【0063】
・リン,P:0.10%未満;
リンは、鋼中の望ましくない副元素である。リン含有量が多いと、特に鋼の脆化がもたらされ、したがって平鋼製品の成形性が低下するため、リン含有量の上限は0.10重量%である。好ましくは、リン含有量は0.03重量%以下である。
【0064】
・硫黄,S:0.001%超で0.03%以下;
硫黄は、延性及び耐食性を低下させる望ましくない付随元素である。したがって、鋼中には0.03重量%以下の硫黄が存在すべきである。他方、鋼を脱硫するために複雑でコストの掛かる方法を取らなければならないため、0.001重量%未満の硫黄含有量は、もはや経済的観点から正当化されない。したがって、硫黄含有量は、好ましくは0.001重量%~0.03重量%、特に好ましくは0.005重量%~0.01重量%の範囲である。
【0065】
・アルミニウム,Al:0.002%超で0.05%未満;
アルミニウムは、鋼を脱酸するための脱酸剤として、鋼の製造で必要とされる。アルミニウムはまた、耐スケール性及び成形性を高める。このため、アルミニウム含有量は、0.002重量%を超えることが好ましい。しかし、アルミニウムは窒素と共に窒化アルミニウムを形成し、これは、遊離窒素の量を減少させるため、本発明の平鋼製品において不利である。更に、過度に高いアルミニウム濃度は、アルミニウムクラスタの形態の表面欠陥をもたらす可能性がある。このため、アルミニウムは、最大0.05重量%の濃度で使用される。好ましくは、アルミニウム含有量は、非結合の遊離窒素(Nfree)の可能な限り高い割合を確保するために、0.018重量%未満である。
【0066】
・ケイ素,Si:0.10%未満;
ケイ素は、鋼の耐スケール性を高め、固溶硬化剤である。鋼の製造では、Siは脱酸素剤として作用する。鋼に対するケイ素の別の好ましい効果は、引張強度及び降伏強度を増加させることである。したがって、ケイ素の含有量は0.003重量%以上が好ましい。しかし、ケイ素含有量が高くなりすぎると、特に0.10重量%を超えると、鋼の耐食性が悪化する可能性があり、特に電解コーティングによる表面処理がより困難になる可能性がある。好ましくは、ケイ素含有量は0.005重量%~0.03重量%である。
【0067】
・任意選択:窒素,N:0.014%未満で好ましくは0.001%超;
窒素は、溶鋼中の任意選択の成分であり、本発明による平鋼製品用の鋼はその溶鋼から製造される。実際、窒素は固溶強化剤として作用して、硬度及び強度を高める。しかし、0.014重量%超の鋼溶融物中の過度に高い窒素含有量は、鋼溶融物から製造された熱間ストリップを冷間圧延するのがより困難になることを意味する。更に、溶鋼中の高い窒素含有量は、熱間ストリップ中の欠陥のリスクを増加させる、なぜなら、0.014重量%以上の窒素濃度で熱間成形能力が低下するからである。本発明によれば、冷間圧延平鋼製品を焼鈍炉内で窒化することによって、後に、平鋼製品の窒素含有量を増加させることが想定される。したがって、溶鋼中への窒素の導入も完全に省くことができる。しかし、高い固溶強化を達成するために、鋼溶融物は、0.001重量%超、特に好ましくは0.010重量%以上の初期窒素含有量を既に含有することが好ましい。
【0068】
焼鈍炉内での窒化の前に平鋼製品に初期窒素含有量Nを導入するために、例えば窒素ガスを吹き込むことによって、及び/又はカルシウムシアナミド若しくは窒化マンガン等の固体窒素化合物を添加することによって、窒素を溶鋼に適切な量で添加することができる。
【0069】
・任意選択:窒化物形成剤、特にニオブ、チタン、ホウ素、モリブデン、クロム:
アルミニウム、チタン、ニオブ、ホウ素、モリブデン及びクロム等の窒化物形成元素は、本発明による平鋼製品の鋼において不利である、なぜなら、窒化物形成により遊離窒素の割合を減少させるからである。更に、これらの元素は高価であり、したがって製造コストを増加させる。一方、ニオブ、チタン、ホウ素の元素は、例えば、靭性を低下させることなく、マイクロアロイング成分として、結晶粒微細化による強度向上効果を有する。したがって、前述の窒化物形成剤は、有利には、鋼溶融物の合金成分として特定の範囲内で添加することができる。したがって、鋼は、(任意選択で)以下の窒化物形成合金成分を含有することができる:
・チタン,Ti:0.002重量%超であるが、コスト上の理由から0.01重量%未満が好ましく、
・ホウ素,B:0.001重量%超であるが、コスト上の理由から0.005重量%未満が好ましく、
・ニオブ,Nb:0.001重量%超であるが、コスト上の理由から0.01重量%未満が好ましく、
・クロム,Cr:溶鋼の製造におけるスクラップの使用を可能にし、スラブの表面上への炭素の拡散を妨げるために、0.01重量%超であるが、炭化物及び窒化物を回避するために0.1重量%以下が好ましく、及び/又は、
・モリブデン,Mo:再結晶温度の過度の上昇を避けるため0.02重量%未満。
【0070】
窒化物形成に起因する遊離の非結合窒素Nfreeの割合の減少を回避するために、溶鋼中の窒化物形成剤の総重量割合は、好ましくは0.05%未満である。
【0071】
その他の任意選択の成分:
残部鉄(Fe)及び不可避の不純物に加えて、溶鋼は、以下の任意選択の他の成分も含有する:
・任意選択の銅,Cu:溶鋼の製造におけるスクラップの使用を可能にするために0.002%超であるが、食品適合性を確保するために0.1%未満、
・任意選択のニッケル,Ni:溶鋼の製造におけるスクラップの使用を可能にし、靱性を改善するために0.01%超であるが、食品適合性を確保するために0.1%未満、好ましくは、ニッケル含有量は0.01~0.05重量%である、
・任意選択のスズ,Sn:好ましくは0.03%未満。
【0072】
平鋼製品の製造プロセス:
【0073】
記載された鋼組成は、最初に連続的に鋳造され、冷却後にスラブに切断される溶鋼を製造するために使用される。次いで、スラブを1100℃超、特に1200℃の予熱温度に再加熱し、熱間圧延して、1~4mmの範囲の厚さを有する熱間ストリップを製造する。
【0074】
熱間圧延中の最終圧延温度は、オーステナイトを維持するためにAr3温度を超えることが好ましく、900℃未満、特に800℃~900℃であることが好ましい。
【0075】
熱間ストリップは、所定の適切な一定の巻取り温度(コイル温度,HT)でコイルに巻き取られる。巻取り温度は、好ましくは、フェライト領域に留まるためにAr1未満、AlNの析出を回避するために、特に670℃未満、好ましくは630℃未満、特に好ましくは590℃未満、特に500℃~590℃の範囲である。経済的理由及び均一な結晶粒径を達成するために、巻取り温度は500℃より高くなければならない。熱間圧延の完了後、巻き取りするまで、15K/sを超えるより高い冷却速度で熱間ストリップを冷却することによって、熱間ストリップの表面上の鉄窒化物の形成を回避することができる。
【0076】
0.5mm未満の厚さ範囲(薄板の厚さ)、好ましくは0.14~0.35mmの範囲の厚さを有する薄い平鋼製品の形態のパッケージ用鋼を製造するために、熱間ストリップは、少なくとも80%、好ましくは85%~95%の範囲の厚さ減少(減少率又は冷間圧延率)で冷間圧延される。冷間圧延中に破壊された鋼の結晶構造を回復するために、次いで、冷間圧延鋼ストリップを焼鈍炉内で焼鈍して再結晶させる。これは、例えば、冷間圧延鋼ストリップの形態の平鋼製品を、鋼ストリップが鋼の再結晶温度より高い温度に加熱される連続焼鈍炉を通過させることによって行われる。再結晶焼鈍の前若しくは好ましくはそれと同時に、又は完全な再結晶の後に、冷間圧延平鋼製品は、窒素供与体の存在下で、焼鈍炉内で、平鋼製品を加熱することによって、又は適切な窒化温度を維持することによって窒化される。窒化は、窒素供与体を、特に窒素含有ガス、好ましくはアンモニア(NH)の形態である窒素供与体を焼鈍炉内に導入し、平鋼製品を鋼の再結晶温度より高い焼鈍温度まで加熱し、好ましくは30~180秒、好ましくは50~150秒の範囲の保持時間にわたって焼鈍温度で保持することによって、好ましくは、焼鈍炉内での再結晶焼鈍と同時に行われる。焼鈍温度は、好ましくは鋼の再結晶温度~700℃、好ましくは600℃超、特に630℃~670℃、例えば650℃~670℃の範囲である。窒素供与体は、焼鈍炉内の温度で、原子状窒素が窒素供与体の解離によって形成され、平鋼製品内に拡散することができるように選択される。アンモニアがこの目的に適していることが判明している。焼鈍中の平鋼製品の表面の酸化を防止するために、焼鈍炉内で不活性ガス雰囲気を使用することが好都合である。好ましくは、焼鈍炉内の雰囲気は、窒素供与体として作用する窒素含有ガスとHNx等の不活性ガスとの混合物からなり、不活性ガスの体積割合は好ましくは90%~99.5%であり、ガス雰囲気の残りの体積割合は窒素含有ガス、特にアンモニアガス(NHガス)によって形成されている。
【実施例
【0077】
以下、本発明の実施例及び比較例の形態について説明する。
【0078】
平鋼製品(鋼板)は、表1に列挙した合金組成を有する鋼溶融物から、熱間圧延、続いて冷間圧延によって製造され、N0は鋼溶融物中の窒素含有量を示す。
【0079】
次いで、冷間圧延鋼板を、連続焼鈍炉内で、焼鈍温度630℃~673℃、保持時間38~48秒、平鋼製品を保持することによって、再結晶焼鈍させた。本発明による平鋼製品の場合、連続焼鈍炉での焼鈍前又は焼鈍中に、HNx保護ガスとアンモニア平衡濃度が0.5~5.0体積%のアンモニアガスとからなる焼鈍炉内のアンモニア含有ガス雰囲気によって窒化を行った。
【0080】
窒素供与体として作用するアンモニアガスを、スプレーノズルによって鋼板の表面に更に向けた。本発明による窒化鋼板中の得られた窒素濃度をN(重量%)として表1に示す。必要に応じて、窒化プロセス中にいくつかのサンプルの表面に形成された表面の窒化鉄層を除去した後、規格DIN EN ISO 14284(特に項目4.4.1)に従って総窒素含有量Nを記録した。本発明による平鋼製品の場合、総窒素含有量(重量基準)は、鋼溶融物の初期窒素含有量(N0)及び連続焼鈍炉内での窒化プロセスによって導入された窒素含有量ΔN=N-N0(表1)で構成され、総窒素含有量のかなりの割合Nfreeが非結合形態であり、残りが結合形態で窒化物として存在し、式(2)を参照されたい。鋼中に存在する窒化物形成剤の重量割合から、遊離窒素Nfreeの重量割合は、式(2)によって推定することができる。
【0081】
比較目的で製造された本発明ではない平鋼製品の場合、連続焼鈍炉内に窒素を添加しなかった(すなわち、焼鈍中の連続焼鈍炉内では、100%HNx保護ガス雰囲気)。したがって、対照サンプルの窒素濃度Nは、溶鋼中の初期窒素濃度N0に相当する。
【0082】
連続焼鈍炉で熱処理した後、冷間圧延及び再結晶焼鈍平鋼製品を再圧延した。二回目の冷間圧延の再圧延の程度(NWG)を含む製造プロセスのプロセスパラメータを表2に列挙する。ここで、Tは熱間ストリップの最終圧延温度を示し、Tは巻取り温度(熱間ストリップの巻取り温度)を示し、Tは焼鈍炉内の焼鈍温度を示し、tは焼鈍炉内の鋼板の総焼鈍時間を示し、tは焼鈍温度で鋼板を保持した保持時間を示し、vは焼鈍炉内での焼鈍後の冷却速度を示し、NWGは二回目の冷間圧延における再圧延の程度を示す。最後に、再圧延後、サンプルを20分間200℃に加熱することにより、平鋼製品の人工時効を行った。
【0083】
圧延方向の引張強度(Rm(MPa)、DIN EN ISO 6892-1に従って測定)及びエリクセン値(ET(mm)、規格DIN EN ISO 20482(2003-12)に従ってエリクセンカッピング試験で測定)を決定するために、時効した試験片に対して引張試験を実施した。二回目の冷間圧延後の最終厚さ(d)を含む圧延後の鋼板の材料特性を表3に示す。
dは、鋼板の厚さ(mm)であり、
ETは、試験片で測定されたエリクセン値(mm)であり、
Rmは、圧延方向の引張強度(MPa)である。
【0084】
表3は、本発明による鋼板及び本発明ではない鋼板の試験片に対するカッピング試験によって測定されたエリクセン値(ET)に加えて、以下の式から得られた計算されたエリクセン値(ET)、
ET=11.1・(C+N)+11.01・d-0.00864・Rm+7.524(式1´)
及び測定されたエリクセン値と計算されたエリクセン値との差(ΔET=ET-ET)も示す。
【0085】
機械的特性、特に厚さd、引張強度Rm及びエリクセン値ETを測定した後、サンプルに、有機コーティング、すなわち、片側5μmのワニスフィルム厚を有するBPA非含有ポリエステルワニス又はフィルム厚12μmのPETフィルムを設けた。その後、再びカッピング試験にてエリクセン値を測定した。結果を表3の「デルタ塗装」及び「デルタフィルム」の欄に示し、これは、コーティングされていない鋼板のエリクセン値と、塗装又はフィルムコーティングされた鋼板のエリクセン値との間の差を示す。
【0086】
コーティングされていない平鋼製品(すなわち、塗料又はフィルムコーティングなし)で測定されたエリクセンインデンテーション(ET,mm)の値を、平鋼製品の厚さ(d,mm)に対して図1にプロットし、点は、個々の試験片で測定されたエリクセンインデンテーションの値を表し、接続線によって各点に接続された横棒は、式(1´)に従って計算されたエリクセンインデンテーションの値を表す。上方向偏差は、エリクセン値(ET)の測定値と比較して、より高い計算値(ET)を特徴とし、下方向偏差は、エリクセン値(ET)の測定値と比較して、より低い計算値を特徴とする。図1から、測定されたエリクセン値が黒丸でマークされている本発明による平鋼製品はそれぞれ、式(1´)に従って計算されたエリクセン値(ET)を上回る測定値を有し、すなわち、本発明によるサンプルは式(1)の条件を満たすことが分かる。対照的に、測定されたエリクセン値ETがいずれの場合も白丸でマークされている、本発明ではない対照試験片は、式(1´)による計算されたエリクセン値(ET)を下回る測定値を有し、すなわち、本発明ではない対照試験片は、式(1)の条件を満たさない。
【0087】
これは図2に示されており、それぞれの場合で、表1~表3のサンプルで測定されたエリクセン値(ET)と式(1´)による計算されたエリクセン値(ET)との差ΔET(mm単位)が示され、表1~表3のそれぞれの実施例および比較例の番号にわたってプロットされ、ここで、
ΔET=ET-ET
であり、ETは、測定されたエリクセン値(mm)であり、ETは、表3による試験片の特性から式(1´)に従って計算されたエリクセン値である。図2から分かるように、本発明による実施例6~14の全てのサンプルは式(1)の条件を満たすが、比較例5を除く全ての比較例はこの条件を満たさない。しかし、表3から、比較例5の試験片は、Rm<600MPaの引張強度を有し、これは低すぎるため、したがって本発明によるものとして特徴付けることができないことが分かる。
【0088】
したがって、本発明は、式(1)の関係、特にエリクセン値によって特徴付けられる成形性と、機械的特性、すなわち厚さ及び強度(特に圧延方向の引張強度)との間の関係を考慮して、平鋼製品を製造し、エアロゾル缶又はその部品等(例えば、引裂き蓋等)のパッケージの製造に対するそれらの適合性に関してそれらを特性決定するために使用することができる。式(1)を適用することにより、特定のパッケージ又はその部品の製造に対する平鋼製品の適合性を決定することができる。例えば、鋼板の所与の厚さ及び所与の引張強度に対して、この目的に適した成形プロセスで特定のパッケージ又はその一部を製造するのに十分に高い成形能力があるかどうかを決定することができる。
【0089】
【0090】
【0091】
図1
図2