(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】グルタミン酸-システインリガーゼ変異体及びそれを用いたグルタチオン生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/00 20060101AFI20240905BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/81 20060101ALI20240905BHJP
C12P 13/02 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N9/00
C12N1/19
C12N15/31 ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/81 Z
C12P13/02
(21)【出願番号】P 2022555103
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 KR2021003617
(87)【国際公開番号】W WO2021194243
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】10-2020-0036456
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12568P
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12659P
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ウン ビン
(72)【発明者】
【氏名】ハ, チョル ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨンス
(72)【発明者】
【氏名】イム, ヨン ウン
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115612(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0095829(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0118492(KR,A)
【文献】OHTAKE, Y et al.,Molecular Cloning of the γ-Glutamylcysteine Synthetase Gene of Saccharomyces cerevisiae,YEAST,Vol. 7,1991年,pp. 953-961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目の位置に対応するアミノ酸が
グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、リシン、アルギニンまたはヒスチジンで置換され
たグルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase)変異体
であって、
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上及び100%未満の配列同一性を有し、
前記グルタミン酸-システインリガーゼ変異体が、野生型のグルタミン酸-システインリガーゼと比較して増加したグルタチオン生産能を有する、グルタミン酸-システインリガーゼ変異体。
【請求項2】
前記変異体は、配列番号3~21から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列で構成される、請求項1に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体。
【請求項3】
請求項1~
2のいずれか一項に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項
3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項1~
2のいずれか一項に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体;前記変異体をコードするポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターのいずれか一つ以上を含む、グルタチオンを生産する微生物。
【請求項6】
前記微生物はサッカロマイセス属微生物である、請求項
5に記載のグルタチオンを生産する微生物。
【請求項7】
前記微生物は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項
5に記載のグルタチオンを生産する微生物。
【請求項8】
前記微生物は、受託番号KCCM12659Pで寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ菌株である、請求項
5に記載のグルタチオンを生産する微生物。
【請求項9】
請求項1~
2のいずれか一項に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体;前記変異体をコードするポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターのいずれか一つ以上を含む微生物を培地で培養する段階を含む、グルタチオン生産方法。
【請求項10】
前記方法は、前記培養された微生物、前記微生物の乾燥物、前記微生物の抽出物、前記微生物の培養物、及び前記微生物の破砕物から選択された一つ以上の物質からグルタチオンを回収する段階をさらに含む、請求項
9に記載のグルタチオン生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規なグルタミン酸-システインリガーゼ変異体及びそれを用いたグルタチオン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(Glutathione, GSH)は、細胞内で最も一般に存在する有機硫黄化合物であり、グリシン(glycine)、グルタミン酸(glutamate)、システイン(cysteine)の3つのアミノ酸が結合したトリペプチド(tripeptide)の形態である。
【0003】
グルタチオンは、体内では還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)の2つの形態で存在する。一般の状況で相対的に高い比率で存在する還元型グルタチオン(GSH)は、人体の肝臓と皮膚細胞に主に分布し、活性酸素を分解・除去する抗酸化機能、毒性物質のような外因性化合物の除去などの解毒作用、メラニン色素の生成を抑制する美白作用など、重要な役割をする。
【0004】
老化が進行するほどグルタチオン生成量は次第に減少するため、抗酸化、解毒作用に重要な役割をするグルタチオン生成量の減少は、老化の主犯である活性酸素の蓄積を促進させるため、外部からグルタチオンの供給が必要である(Sipes IG et al, The role of glutathione in the toxicity of xenobiotic compounds: metabolic activation of 1,2-dibromoethane by glutathione, Adv Exp Med Biol. 1986;197:457-67.)。
【0005】
このように多様な機能を有するグルタチオンは、製薬、健康機能食品、化粧品など多様な分野の素材として脚光を浴びており、味素材、食品及び飼料添加剤の製造に用いられることもある。グルタチオンは、原物の味上昇と豊富な味の持続性維持効果が大きく、単独で用いたり他の物質と配合してコク味香味増進剤として使用できることが知られている。通常、コク味の素材は、既存の核酸、MSGなどのうま味の素材より濃厚感を有し、タンパク質が分解熟成されて生成することが知られている。
【0006】
しかし、このように、多様な分野に用いられるグルタチオンに対する需要が増加しているにもかかわらず、高い生産単価により酵素合成工程はまだ商用化されておらず、微生物を培養して菌体から抽出する方法は、その収率が低く、グルタチオンの産業的生産に少なからぬ費用が必要であるため、市場が大きく活性化していないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sipes IG et al, The role of glutathione in the toxicity of xenobiotic compounds: metabolic activation of 1,2-dibromoethane by glutathione, Adv Exp Med Biol. 1986;197:457-67.
【文献】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【文献】Lee TH, et al.(J. Microbiol. Biotechnol. (2006), 16(6), 979-982)
【文献】Geitz, Nucleic Acid Research, 20(6), 1425
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を解決するために鋭意努力した結果、新規なグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を発掘し、これを導入する場合、菌株のグルタチオン生産能が大きく増加することを確認し、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を提供する。
【0010】
本出願は、上記変異体をコードするポリヌクレオチド、及びそれを含むベクターを提供する。
【0011】
本出願は、上記変異体;上記変異体をコードするポリヌクレオチド;及び上記ポリヌクレオチドを含むベクターのいずれか一つ以上を含むグルタチオンを生産する微生物を提供する。
【0012】
本出願は、上記微生物を培養する段階を含むグルタチオン生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本出願の新規なグルタミン酸-システインリガーゼ変異体は、グルタチオンの生産を大きく増加させるため、グルタチオンの高生産に有用に用いられるところ、このように、グルタチオンを高生産する酵母、その乾燥物、抽出物、培養物、破砕物及び生産されたグルタチオンは、抗酸化効果、解毒効果、免疫力増強効果を奏するものであるところ、化粧品用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、医薬品組成物及びその製造にも有用に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これを具体的に説明すると次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用され得る。即ち、本出願で開示された多様な要素の全ての組合わせが本出願の範疇に属する。また、下記記述された具体的な記述により本出願の範疇が制限されるとは見られない。
【0015】
また、当該技術分野の通常の知識を有する者は、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定様態に対する多数の等価物を認知したり確認することができる。また、このような等価物は、本出願に含まれるものと意図される。
【0016】
本出願の一つの態様は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を提供する。
【0017】
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列において一つ以上のアミノ酸置換を含み、上記置換は配列番号1のN末端から86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたことを含む、グルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase)変異体であってもよい。
【0018】
具体的には、前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列においてN末端から86番のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたタンパク質変異体であってもよい。
【0019】
本出願の「グルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase, GCL)」とは、「グルタミン酸-システイン連結酵素」または「ガンマ-グルタミルシステインシンテターゼ(gamma-glutamylcysteine synthetase, GCS)」とも称される酵素である。グルタミン酸-システインリガーゼは、次の反応を触媒することが知らされている:
【0020】
L-glutamate + L-cysteine + ATP ⇔ gamma-glutamyl cysteine + ADP + Pi
【0021】
また、上記グルタミン酸-システインリガーゼが触媒する反応は、グルタチオン合成の最初の段階であることが知られている。
【0022】
上記グルタミン酸-システインリガーゼは、酵母由来の配列であり、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよいが、これに制限されない。
【0023】
本出願において上記配列番号1のアミノ酸配列は、gsh1遺伝子によりコーディングされるアミノ酸配列であり、「GSH1タンパク質」または「グルタミン酸-システインリガーゼ」と称することができる。本出願のグルタミン酸-システインリガーゼを構成するアミノ酸配列は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankでその配列が得られる。一例として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来であってもよいが、これに制限されず、上記アミノ酸配列と同一の活性を有する配列は制限なく含まれてもよい。
【0024】
また、本出願においてグルタミン酸-システインリガーゼを配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であると定義したが、配列番号1のアミノ酸配列の前後での無意味な配列または自然に発生し得る突然変異、あるいはこの潜在性突然変異 (silent mutation)を除くものではなく、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質と互いに同一または対応する活性を有する場合であれば、本出願のグルタミン酸-システインリガーゼに該当することは当業者に自明である。
【0025】
具体的な例として、本出願のグルタミン酸-システインリガーゼは、配列番号1 のアミノ酸配列またはこれと80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。また、このような相同性または同一性を有し、上記タンパク質に対応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願の変異の対象になるタンパク質の範囲内に含まれることは自明である。
【0026】
即ち、本出願において「特定配列番号で記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチド」、「特定配列番号で記載されたアミノ酸配列を含むタンパク質またはポリペプチド」と記載されているとしても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一あるいは対応する活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願で用いられることは自明である。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチド」は、これと同一あるいは対応する活性を有する場合であれば、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」に属することは自明である。
【0027】
本出願において用語、「変異体(variant)」とは、一つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/又は変形(modification)において上記列挙された配列(the recited sequence)と相違するが、上記タンパク質の機能(functions)または特性 (properties)が維持されたタンパク質を指し、本出願の目的上、上記で説明したグルタミン酸-システインリガーゼのうち配列番号1のN末端から86番目の位置に対応するアミノ酸がシステイン以外のアミノ酸残基で置換された変異体であってもよい。変異体は、数個のアミノ酸の置換、欠失または付加により識別される配列(identified sequence) と相違する。このような変異体は、一般に、上記タンパク質のアミノ酸配列中の一つ以上のアミノ酸を変形し、上記変形されたタンパク質の特性を評価して識別され得る。即ち、変異体の能力は、本来タンパク質(native protein)に比べて増加され得る。また、一部の変異体はN末端リーダ配列または膜貫通ドメイン(transmembrane domain)のような一つ以上の部分が除去された変異体を含んでもよい。他の変異体は、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体を含んでもよい。上記用語「変異体」とは、変異型、変形、変異されたタンパク質、変異型ポリペプチド、変異などの用語(英語の表現では、modification, modified protein, modified polypeptide, mutant, mutein, divergent, variantなど)が用いられ、変異された意味として用いられる用語であれば、これに制限されない。本出願の目的上、上記変異体は天然の野生型または非変形タンパク質比変異されたタンパク質の活性が増加したものであってもよいが、これに制限されない。
【0028】
本出願において用語「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸を類似の構造的及び/又は化学的性質を有する、更に他のアミノ酸で置換させることを意味する。上記変異体は、一つ以上の生物学的活性を依然として保有しながら、例えば、一つ以上の保存的置換を有することができる。このようなアミノ酸の置換は、一般に、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。
【0029】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と2次構造に最小限の影響を有するアミノ酸の欠失または付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは翻訳と同時に(co-translationally)または翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(transfer)に関与するタンパク質N末端のシグナル(またはリーダ)配列とコンジュゲートすることができる。また、上記ポリペプチドは、ポリペプチドを確認、精製、または合成できるように他の配列またはリンカーとコンジュゲートされてもよい。
【0030】
本出願において、「他のアミノ酸で置換」は、置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸であれば、制限されない。即ち、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目のアミノ酸であるシステインが他のアミノ酸で置換されることは「86番目のアミノ酸がシステイン以外のアミノ酸で置換される」ものと表現できる。一方、本出願において「特定のアミノ酸が置換された」と表現する場合、他のアミノ酸で置換されたと特に表記しなくても置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸で置換されることは自明である。
【0031】
本出願の「グルタミン酸-システインリガーゼ変異体」は「グルタミン酸-システインリガーゼ活性を有する(変異型)ポリペプチド」、「GSH1変異体」と記載されてもよく、変異前のタンパク質、天然の野生型ポリペプチドまたは非変形ポリペプチドに比べてグルタチオン生産量を増加させるものであってもよいが、これに制限されない。
【0032】
上記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列において一つ以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたものであってもよい。具体的には、上記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列において86番目の位置に対応するアミノ酸がシステイン以外のアミノ酸で置換された変異を含んでもよい。上記他のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アスパルテート、リシン、アルギニン及びヒスチジンから選択されるものであってもよい。
【0033】
本出願において「配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目のアミノ酸が他のアミノ酸で置換された変異体」は、配列番号1のアミノ酸配列のNまたはC末端、または中間のアミノ酸が欠失/付加/挿入などにより86番ではない他の位置に記載される場合であるとしても、配列番号1のアミノ酸配列の86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された変異体を含むことは自明である。また、本出願においてグルタミン酸-システインリガーゼ変異体の一例として配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目のアミノ酸が他のアミノ酸で置換された変異体を記載したが、本出願のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体は配列番号1のアミノ酸配列の変異体に制限されず、その他にグルタミン酸-システインリガーゼ活性を有する任意のアミノ酸配列において「配列番号1のアミノ酸配列の86番目の位置に対応するアミノ酸」が他のアミノ酸で置換された変異体も本出願のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体の範囲に含まれることは自明である。
【0034】
任意のアミノ酸配列内において「配列番号1のアミノ酸配列の86番目の位置に対応するアミノ酸」は、当業界に公知となった多様な配列アライメント(alignment)方法を通じて確認することができる。
【0035】
本出願の配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された、グルタミン酸-システインリガーゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1の86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたタンパク質であってもよい。
【0036】
本出願の配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目のアミノ酸がシステイン以外のアミノ酸で置換された、グルタミン酸-システインリガーゼ変異体は、配列番号3~21のいずれか一つのアミノ酸配列を含むものであってもよい。具体的には、配列番号3~21のいずれか一つのアミノ酸配列で必須で構成される(consisting essentially of)ものであってもよく、より具体的には、配列番号3~21のいずれか一つのアミノ酸配列で構成されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0037】
また、上記変異体は、配列番号3~21のいずれか一つのアミノ酸配列を含むか、または上記アミノ酸配列において86番目のアミノ酸は固定され(即ち、変異体のアミノ酸配列において上記配列番号3~21の86番目の位置に対応するアミノ酸は、上記配列番号3~21の86番目の位置のアミノ酸と同一であり)、これと80%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0038】
具体的には、本出願の上記変異体は、配列番号3~21及び上記配列番号3~21のいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の相同性または同一性を有するポリペプチドを含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有し、上記変異体に対応する効能を示すアミノ酸配列であれば、86番目の位置以外に、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願の範囲に含まれることは自明である。
【0039】
本出願において用語「相同性(homology)」または「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列と関連した程度を意味し、百分率で表すことができる。用語、相同性及び同一性はしばしば相互交換的に用いられ得る。
【0040】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立したデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的に、相同性を有したり(homologous)または同一の(identical)配列は、一般に、配列の全体または全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%により中間または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)でハイブリッドすることができる。ハイブリッド化は、ポリヌクレオチドにおいてコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0041】
任意の両ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444でのようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムのような公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定されてもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)(バージョン5.0.0またはその後のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)が用いられて決定されてもよい。(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)), BLASTP, BLASTN, FASTA (Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994,及び[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定できる。
【0042】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、 Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482に公知となった通り、例えば、 Needleman et al. (1970), J Mol Biol.48 : 443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、両配列中のさらに短いものにおける記号の全体数であり、類似の配列された記号(即ち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を除した値と定義する。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)二進法比較マトリックス(同一性のために1そして非同一性のために0の値を含有する)及びSchwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)により開示された通り、Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745の加重比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップにおいて各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含んでもよい。
【0043】
また、任意の両ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、定義されたストリンジェントな条件下でサザンハイブリダイゼーション実験により配列を比較することにより確認することができ、定義される適切なハイブリダイゼーション条件は、当該技術の範囲内であり、当業者によく知られている方法(例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989; F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York)により決定されてもよい。
【0044】
本出願のもう一つの様態は、上記変異体をコードするポリヌクレオチドを提供できる。
【0045】
出願において用語、「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単位体(monomer)が共有結合により、長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)で一定の長さ以上のDNAまたはRNA鎖であり、より具体的には、上記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド断片であってもよい。
【0046】
本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、グルタチオン生産能を増加させるグルタミン酸-システインリガーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド配列であれば制限なく含まれてもよい。
【0047】
本出願のグルタミン酸-システインリガーゼをコードする遺伝子はgsh1遺伝子であってもよい。上記遺伝子は、酵母由来であってもよい。具体的にはサッカロマイセス(Saccharomyces)属、より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来であってもよい。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよく、より具体的には、配列番号2の塩基配列を含む配列であってもよいが、これに制限されない。
【0048】
本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドはコドンの縮退性(degeneracy)により、または上記ポリペプチドを発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮し、ポリペプチドのアミノ酸配列を変化させない範囲内でコーディング領域に多様な変形がなされてもよい。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列において86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド配列であれば、制限なく含み得る。例えば、本出願のポリヌクレオチドは、本出願のタンパク質変異体、具体的には上記配列番号3~21のいずれか一つのアミノ酸配列を含むタンパク質またはこれと相同性または同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であってもよいが、これに制限されない。上記相同性または同一性については前述した通りである。
【0049】
また、公知の遺伝子配列から調剤され得るプローブ、例えば、上記ポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件の下にハイブリッド化して配列番号1のアミノ酸配列において86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたタンパク質変異体をコードする配列であれば、制限なく含んでもよい。
【0050】
上記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、J. Sambrook et al., 同上)に具体的に記載されている。例えば、相同性が高い遺伝子同士、80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士ハイブリッド化し、それより相同性が低い遺伝子同士ハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1X SSC、0.1% SDS、具体的には60℃、0.1X SSC、0.1% SDS、より具体的には68℃、0.1X SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件を列挙できる。しかし、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。
【0051】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さにより塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することを要求する。用語、「相補的」は、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに用いられる。例えば、DNAについて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。従って、本出願は、また、実質的に類似のポリヌクレオチド配列だけでなく全体配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片を含んでもよい。
【0052】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーション段階を含むハイブリダイゼーション条件を用い、上述した条件を用いて探知できる。また、上記Tm値は60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。
【0053】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さは、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野によく知られている。
【0054】
本出願のもう一つの様態は、上記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供できる。
【0055】
本出願で用いられた用語「ベクター」とは、適した宿主内で目的タンパク質を発現させるように適した調節配列に作動可能に連結された上記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。上記調節配列は、転写を開始できるプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレータ配列、適したmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムと関係なく複製されたり機能することができ、ゲノムそのものに統合されてもよい。
【0056】
本出願で用いられるベクターは、特に限定されず、当業界に知られた任意のベクターを用いることができる。酵母発現ベクターは、組合わせ酵母プラスミド(YIp: integrative yeast plasmid)及び染色体外プラスミドベクター(extrachromosomal plasmid vector)がいずれも可能である。上記染色体外プラスミドベクターは、エピソーム酵母プラスミド(YEp: episomal yeast plasmid)、複製酵母プラスミド(YRp: replicative yeast plasmid)及び酵母セントロメアプラスミド(YCp: yeast centromer plasmid)を含んでもよい。また、人為的酵母染色体(YACs: artificial yeast chromosomes)も本出願のベクターとして利用が可能である。具体的な例として、利用可能なベクターは、pESCHIS、pESC-LEU、pESC-TRP、pESC-URA、Gateway pYES-DEST52、pAO815、pGAPZ A、pGAPZ B、pGAPZ C、pGAPα A、pGAPα B、pGAPα C、pPIC3.5K、pPIC6 A、pPIC6 B、pPIC6 C、pPIC6α A、pPIC6α B、pPIC6α C、pPIC9K、pYC2/CT、pYD1 Yeast Display Vector、pYES2、pYES2/CT、pYES2/NT A、pYES2/NT B、pYES2/NT C、pYES2/CT、pYES2.1、pYES-DEST52、pTEF1/Zeo、pFLD1、PichiaPinkTM、p427-TEF、p417-CYC、pGAL-MF、p427-TEF、p417-CYC、PTEF-MF、pBY011、pSGP47、pSGP46、pSGP36、pSGP40、ZM552、pAG303GAL-ccdB、pAG414GAL-ccdB、pAS404、pBridge、pGAD-GH、pGAD T7、pGBK T7、pHIS-2、pOBD2、pRS408、pRS410、pRS418、pRS420、pRS428、yeast micron A form、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pYJ403、pYJ404、pYJ405及びpYJ406を含むが、これに限定されるものではない。
【0057】
一例として、細胞内の染色体挿入用ベクターを通じて染色体内に目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異されたポリヌクレオチドで交換させることができる。上記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界に知られた任意の方法、例えば、相同組換えによってなされ得るが、これに限定されない。上記染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、即ち、目的核酸分子の挿入有無を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)が処理された環境では選別マーカーを発現する細胞のみが生存したり異なる表現形質を示すため、形質転換された細胞を選別できる。
【0058】
本出願において用語「形質転換」は、グルタミン酸-システインリガーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入して宿主細胞内で上記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにするものであってもよい。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現されさえすれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置したり染色体外に位置したりに関係なくこれらをいずれも含んでもよい。また、上記ポリヌクレオチドは、グルタミン酸-システインリガーゼ変異体をコードするDNA及びRNAを含んでもよい。上記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現され得るものであれば、いかなる形態で導入されても問題ない。例えば、上記ポリヌクレオチドは独自に発現されるのに必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。上記発現カセットは、通常、上記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結信号、リボソーム結合部位及び翻訳終結信号を含んでもよい。上記発現カセットは、自体複製が可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、上記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよく、これに限定されない。
【0059】
また、上記において用語「作動可能に連結」されたとは、本出願の目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介させるプロモーター配列と上記遺伝子配列が機能的に連結されていることを意味する。本出願のベクターを形質転換させる方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法も含まれ、宿主細胞により当分野において公知となった通り、適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)の沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)の沈殿、マイクロインジェクション法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオンリポソーム法、及び酢酸リチウム-DMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0060】
本出願は、上記変異体;上記変異体をコードするポリヌクレオチド;及び上記ポリヌクレオチドを含むベクターのいずれか一つ以上を含み、グルタチオンを生産する微生物を提供できる。
【0061】
上記微生物は、上記変異体を発現する微生物、または上記変異体が導入された微生物であってもよい。
【0062】
本出願において用語「変異体を含む微生物」、「変異体が導入された微生物」または「変異体を発現する微生物」とは、自然に弱いグルタチオン生産能を有している微生物またはグルタチオン生産能がない親菌株にグルタチオン生産能が付与された微生物であってもよい。具体的には、上記微生物は、配列番号1のアミノ酸配列内の一つ以上のアミノ酸変異を含むグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を発現する微生物であり、上記アミノ酸変異は、N末端から86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された変異を含むものであってもよい。また、上記微生物は、配列番号1のアミノ酸配列において86番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を発現する微生物であってもよい。例えば、前記微生物は、受託番号KCCM12659で寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ菌株であってもよいが、これに限定されない。
【0063】
上記グルタミン酸-システインリガーゼ及びその変異体については前述した通りである。
【0064】
本出願において用語、タンパク質が「発現されるように/される」とは、目的タンパク質が微生物内に導入されたり、微生物内で発現されるように変形された状態を意味する。上記目的タンパク質が微生物内に存在するタンパク質の場合、内在的または変形前に比べてその活性が強化された状態を意味してもよい。本出願の目的上、「目的タンパク質」とは、前述したグルタミン酸-システインリガーゼ変異体であってもよい。
【0065】
具体的には、「タンパク質の導入」とは、微生物が本来有していなかった特定のタンパク質の活性を示すこと、または当該タンパク質の内在的活性または変形前の活性に比べて向上した活性を示すことであってもよい。例えば、特定のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが微生物内の染色体に導入されたり、特定のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが微生物内に導入され、この活性が示されるものであってもよい。また、「活性の強化」とは、微生物が有する特定のタンパク質の内在的活性または変形前の活性に比べて活性が向上したことであってもよい。「内在的活性」とは、自然的、または人為的要因による遺伝的変異により微生物の形質が変化する場合、形質変化前の親菌株が本来有していた特定のタンパク質の活性を意味するものであってもよい。
【0066】
具体的には、本出願の活性の強化は、上記タンパク質変異体をコードする遺伝子の細胞内コピー数の増加、上記タンパク質変異体を暗号化する遺伝子の発現調節の配列に変異を導入、上記タンパク質変異体を暗号化する遺伝子発現調節の配列を活性が強力な配列で交替、染色体上の自然型タンパク質をコードする遺伝子を上記タンパク質変異体を暗号化する遺伝子に代替、上記タンパク質変異体の活性が強化するように上記タンパク質を暗号化する遺伝子に変異を追加で導入、及び微生物にタンパク質変異体を導入することからなる群から選択されるいずれか一つ以上の方法であってもよいが、これに制限されない。
【0067】
上記において遺伝子のコピー数の増加は、特にこれに制限されないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われたり、宿主細胞内の染色体内に挿入されることにより行われてもよい。具体的には、本出願のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主と無関係に複製されて機能できるベクターが宿主細胞内に導入されるものであってもよい。または、上記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に上記ポリヌクレオチドを挿入させるベクターが宿主細胞の染色体内に導入されるものであってもよい。上記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は当業界に知られた任意の方法、例えば、相同組換えにより行われてもよい。
【0068】
次に、ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列を変形することは、特にこれに制限されないが、上記発現調節配列の活性をさらに強化するように、核酸配列を欠失、挿入、非保全的または保全的置換またはこれらの組合わせで配列上の変異を誘導して行ったり、さらに強い活性を有する核酸配列で交換することにより行われてもよい。上記発現調節配列は、特にこれに制限されないが、プロモーター、オペレータ配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。
【0069】
上記ポリヌクレオチド発現単位の上部には、本来のプロモーターの代わりに強力なプロモーターが連結されてもよく、これに限定されるものではない。例えば、宿主細胞が酵母の場合、利用可能なプロモーターは、TEF1プロモーター、TEF2プロモーター、GAL10プロモーター、GAL1プロモーター、ADH1プロモーター、ADH2プロモーター、PHO5プロモーター、GAL1-10プロモーター、TDH3プロモーター(GPDプロモーター)、TDH2プロモーター、TDH1プロモーター、PGK1プロモーター、PYK2プロモーター、EN01プロモーター、ENO2プロモーター及びTPI1プロモーターを含むが、これに限定されるものではない。また、染色体上のポリヌクレオチド配列の変形は、特にこれに制限されないが、上記ポリヌクレオチド配列の活性をさらに強化するように核酸の配列を欠失、挿入、非保全的または保全的置換またはこれらの組合わせで発現調節配列上の変異を誘導して行ったり、さらに強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列で交換することにより行われてもよい。
【0070】
このようなタンパク質活性の導入及び強化は、対応するタンパク質の活性または濃度が野生型や非変形微生物菌株におけるタンパク質の活性または濃度を基準として一般に、少なくとも1%、10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%または500%、最大1000%または2000%まで増加するものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0071】
本出願において用語「非変形微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除くものではなく、天然型菌株自体であるか、上記タンパク質の変異体を含まない微生物、または上記タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換されない微生物であってもよい。
【0072】
本出願において上記グルタミン酸-システインリガーゼ変異体を含んだり、これをコードするポリヌクレオチドを含む微生物は、例えば、上記ポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換により製造される組換え微生物であってもよいが、これに制限されない。上記組換え微生物は酵母であってもよく、その例として、サッカロマイセス属の微生物であってもよく、具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であってもよいが、これに制限されない。
【0073】
本出願の「グルタチオン(glutathione)」とは、「グルタチオン」、「GSH」と相互交換的に用いられ、グルタミン酸(glutamate)、システイン(Cysteine)、グリシン(glycine)の3種類のアミノ酸で構成されたトリペプチドを意味する。グルタチオンは製薬、健康機能食品、味素材、食品、飼料添加剤、化粧品などの原料として用いられ得るが、これに制限されない。
【0074】
本出願において「グルタチオンを生産する微生物」とは、自然的または人為的に遺伝的変形が起こった微生物をいずれも含み、外部遺伝子が挿入されたり内在的遺伝子の活性が強化されたり不活性化されるなどの原因により特定機序が弱まったり強化された微生物であり、目的とするグルタチオン生産のための遺伝的変異が起きたり活性を強化させた微生物であってもよい。本出願の目的上、上記グルタチオンを生産する微生物は、グルタミン酸-システインリガーゼを含み、野生型や非変形微生物と比較して目的とするグルタチオンを過量に生産できる微生物を意味し得る。上記「グルタチオンを生産する微生物」は「グルタチオン生産微生物」、「グルタチオン生産能を有する微生物」、「グルタチオン生産菌株」、「グルタチオン生産能を有する菌株」などの用語と混用され得る。
【0075】
上記グルタチオン生産微生物は、組換え微生物であってもよい。上記組換え微生物は前述した通りである。
【0076】
上記グルタチオン生産微生物は、グルタチオン生産が可能であれば、その種類が特に制限されないが、サッカロマイセス属(the genus Saccharomyces)微生物であってもよく、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であってもよいが、これに制限されない。
【0077】
上記変異体を含むグルタチオン生産微生物の親菌株は、グルタチオン生産が可能であれば、特に制限されない。上記微生物は、追加でグルタチオン生産能の増加のための生合成経路の強化、フィードバック阻害の解除、分解経路あるいは生合成経路を弱化させる遺伝子不活性化などの変異を含むものであってもよく、このような変異は自然的なものを排除するものではない。しかし、これに制限されない。
【0078】
本出願のもう一つの様態は、上記微生物を培養する段階を含むグルタチオン製造方法を提供する。上記微生物、グルタチオンについては前述した通りである。菌株培養を通じてグルタチオンが菌体内に蓄積されてもよい。
【0079】
本出願の菌株の培養に用いられる培地及びその他の培養条件は、通常のサッカロマイセス属微生物の培養に用いられる培地であれば、特別な制限なく、いずれも用いられ、具体的には、本出願の菌株を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有した通常の培地内で好気性または嫌気性条件下で温度、pHなどを調節しながら培養できる。
【0080】
本出願において上記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトースなどのような炭水化物:マンニトール、ソルビトールなどのような糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などのような有機酸;グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのようなアミノ酸などが含まれ得るが、これに制限されない。また、澱粉加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米ぬか、キャッサバ、バガス及びトウモロコシ浸漬液のような天然の有機栄養源を用いることができ、グルコース及び殺菌された前処理糖蜜(即ち、還元糖に転換された糖蜜)などのような炭水化物が用いられ、それ以外の適正量の炭素源を制限なく多様に用いることができる。これら炭素源は、単独で用いられたり2種以上が組み合わせられて用いられてもよい。
【0081】
上記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのような無機窒素源;アミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類またはその分解生成物、脱脂大豆ケーキまたはその分解生成物などのような有機窒素源が用いられる。これら窒素源は単独で用いられたり2種以上が組み合わせられて用いられるが、これに制限されない。
【0082】
上記リン源としては、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、またはこれに対応するナトリウム含有塩などが含まれてもよい。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどが用いられる。
【0083】
それ以外に、上記培地にはアミノ酸、ビタミン及び/又は適切な前駆体などが含まれてもよい。具体的には、上記菌株の培養培地にはL-アミノ酸などが添加され得る。具体的には、グリシン(glycine)、グルタミン酸(glutamate)、及び/又はシステイン(cysteine)などが添加されてもよく、必要によっては、リシン(lysine)などのL-アミノ酸がさらに添加されてもよいが、必ずしもこれに制限されない。
【0084】
上記培地または前駆体は培養物に、回分式または連続式に添加されてもよく、これに制限されない。
【0085】
本出願において、菌株の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などのような化合物を培養物に適切な方式で添加し、培養物のpHを調整することができる。また、培養中には脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制できる。また、培養物の好気状態を維持するために、培地物内に酸素または酸素含有気体を注入したり嫌気及び微好気状態を維持するために気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入することができる。
【0086】
培養物の温度は25℃~40℃であってもよく、より具体的には28℃~37℃であってもよいが、これに制限されない。培養期間は所望の有用物質の生成量が得られるまで続けてもよく、具体的には1時間~100時間であってもよいが、これに制限されない。
【0087】
上記グルタチオン製造方法は、上記培養段階後に、追加の工程をさらに含んでもよい。上記追加工程は、グルタチオン用途に応じて適宜選択されてもよい。
【0088】
具体的には、上記グルタチオン製造方法は、上記培養段階以後、上記菌株、その乾燥物、抽出物、培養物、破砕物から選択された一つ以上の物質からグルタチオンを回収する段階を含んでもよい。
【0089】
上記方法は、上記回収段階以前、あるいは同時に菌株を溶菌させる段階をさらに含んでもよい。菌株の溶菌は、本出願が属する技術分野において通常用いられる方法、例えば、溶菌用緩衝溶液、ソニケーター、熱処理及びフレンチプレッサなどにより実施できる。また、上記溶菌段階は、細胞壁分解酵素、核酸分解酵素、核酸転移酵素、タンパク質分解酵素など、酵素反応を含んでもよいが、これに制限されない。
【0090】
本出願の目的上、上記グルタチオン製造方法を通じてグルタチオンが高含量で含まれた乾燥酵母(Dry yeast)、酵母抽出物(yeast extract)、酵母抽出物混合粉末(yeast extract mix powder)、純粋精製されたグルタチオン(pure glutathione)を製造できるが、これに制限されず、目的とする製品に応じて適宜製造され得る。
【0091】
本出願において乾燥酵母(dry yeast)は「菌株乾燥物」などの用語と交換的に用いられる。上記乾燥酵母はグルタチオンを蓄積した酵母菌体を乾燥させて製造することができ、具体的には、飼料用組成物、食品用組成物などに含まれてもよいが、これに制限されない。
【0092】
本出願において酵母抽出物(yeast extract)は「菌株抽出物」などの用語と相互交換的に用いられる。上記菌株抽出物は、上記菌株の菌体から細胞壁を分離して残った物質を意味してもよい。具体的には、菌体を溶菌させて得た成分から細胞壁を除いた残りの成分を意味してもよい。上記菌株抽出物はグルタチオンを含み、グルタチオン以外の成分としては、タンパク質、炭水化物、核酸、繊維質の一つ以上の成分が含まれてもよいが、これに制限されない。
【0093】
上記回収段階は、当該技術分野において公知となった適した方法を用い、目的物質であるグルタチオンを回収できる。
【0094】
上記回収段階は、精製工程を含んでもよい。上記精製工程は、菌株からグルタチオンのみを分離して純粋精製することであってもよい。上記精製工程を通じて、純粋精製されたグルタチオン(pure glutathione)が製造されてもよい。
【0095】
必要に応じて、上記グルタチオン製造方法は、上記培養段階後に得られた菌株、この乾燥物、抽出物、培養物、破砕物及びこれらから回収されたグルタチオンの中から選択された物質と賦形剤を混合する段階をさらに含んでもよい。上記混合段階を通じて酵母抽出物の混合粉末(yeast extract mix powder)が製造されてもよい。
【0096】
上記賦形剤は、目的とする用途や形態に応じて適宜選択して用いることができ、例えば、澱粉、グルコース、セルロース、ラクトース、グリコーゲン、D-マンニトール、ソルビトール、ラクチトール、マルトデキストリン、炭酸カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、リン酸一水素カルシウム、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、精製ラノリン、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、コロイド性シリカゲル、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、カゼイン、乳酸カルシウム、プリモゲル、アラビアガムから選択されるものであってもよく、具体的には、澱粉、グルコース、セルロース、ラクトース、デキストリン、グリコーゲン、D-マンニトール、マルトデキストリンから選択される一つ以上の成分であってもよいが、これに制限されない。
【0097】
上記賦形剤は、例えば、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤または等張化剤などを含み得るが、これに限定されるものではない。
【0098】
本出願のもう一つの態様は、前記グルタミン酸-システインリガーゼ変異体のグルタチオン生産用途を提供する。本出願のもう一つの態様は、前記微生物のグルタチオン生産用途を提供する。上記グルタミン酸-システインリガーゼ変異体及び微生物については前述の通りである。
【0099】
以下、本出願を実施例及び実験例を通じてより詳しく説明する。しかし、これら実施例及び実験例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれら実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0100】
実施例1:グルタチオン生産菌株の選別及びグルタチオン生産能の確認
多様な菌株を含有している麹から菌株を得、これを改良してグルタチオン生産能を有する菌株を選別した。
【0101】
具体的には、大韓民国京畿道の龍仁、利川、平沢、華城地域など計20地域から米、大麦、緑豆、オート麦など穀物試料を採取して粉砕した後、混練して布に包み、しっかりと押して形を作った後、わらで包んで10日間発酵させた後、ゆっくり乾燥させて麹を製造した。
【0102】
製造された麹から多様な菌株を分離するために、下記のように実験を行った。5gの麹に45mlの食塩水を添加して混合器で粉砕した。酵母菌株の純粋分離のためにserial dilutionしてYPD Agar(Yeast extract 10 g/L, Bacto peptone 20 g/L, Glucose 20 g/L 蒸溜水1リットルを基準)にspreadingして30℃で48時間培養した。そして、colonyの形態と顕微鏡検証を通じて酵母のcolonyをYPD agarにstreakingした。250mlの三角フラスコにYPD brothを25ml分注し、純粋分離された菌株を接種して48時間振盪培養(30℃、200rpm)してグルタチオンの生産量を確認して菌株スクリーニングを行った。
【0103】
一次的に分離された菌株の改良のために、分離された菌株に突然変異(random mutation)を誘導した。具体的には、上記麹から分離した酵母中、グルタチオン生産が確認された菌株を分離してCJ-37菌株と命名した。CJ-37菌株を固体培地に培養した後、brothに接種して培養液を得、UVランプを用いて菌体にUVを照射した。その後、UV照射された培養液を平板培地に塗抹してコロニーを形成した変異菌株のみを分離して得、これらのグルタチオン生産量を確認した。
【0104】
その結果、変異菌株中、最も優れたグルタチオン生産量を示す菌株をグルタチオン生産菌株として選別してCJ-5菌株と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms, KCCM)に2019年7月31日付で寄託して寄託番号KCCM12568Pの付与を受けた。
【0105】
実施例2:グルタチオン生産能の増加のための追加の改良実験
CJ-5菌株のグルタチオン生産能を追加で改善するために次のような方法で突然変異を誘導した。
【0106】
CJ-5菌株を固体培地に培養した後、brothに接種して培養液を得、UVランプを用いて菌体にUVを照射した。その後、UV照射された培養液を平板培地に塗抹してコロニーを形成した変異菌株のみを分離して得、グルタチオン生産能が最も多く向上した菌株を分離してCC02-2490菌株と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms, KCCM)に2020年1月17日付で寄託して受託番号KCCM12659Pの付与を受けた。上記菌株のグルタチオン生産能の増加と関連してグルタチオン生合成遺伝子gsh1の塩基配列を分析した結果、gsh1遺伝子がコードするGSH1タンパク質の86番目のアミノ酸であるシステインがアルギニンで置換されたことを確認した。
【0107】
実施例3:GSH1 C86残基変異実験
上記実施例2の結果からGSH1タンパク質の86番目の位置がグルタチオン生産に重要であると判断し、GSH1タンパク質の86番目のシステインアミノ酸が他のアミノ酸で置換された変異タンパク質を発現するようにサッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)CEN.PK2-1D及びサッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CJ-5菌株の変異菌株を製作してグルタチオン生産量増加有無を確認することにした。
【0108】
サッカロマイセス・セレビシエのGSH1タンパク質の86番目のシステインをアルギニンで置換した菌株を製作するために、Lee TH, et al.(J. Microbiol. Biotechnol. (2006), 16(6), 979-982)論文に開示された内容を参考としてpWAL100及びpWBR100プラスミドを用いた。具体的には、CJ-5菌株のgenomic DNAを鋳型(template)として次のようにPCRを行った。配列番号22と配列番号23のプライマーを用いたPCRを行ってN-terminal BamHI flanking配列、GSH1 ORFの開始コドン及びC86R変異の暗号化配列を含むGSH1 N-terminalの一部の配列を確保し、配列番号24と配列番号25のプライマーを用いてC-terminal XhoI flanking 配列、 GSH1 ORF終結コドン及びC86R変異の暗号化配列を含むGSH1 C-terminalの一部の配列を確保した。その後、この両配列を鋳型(template)として配列番号22と配列番号25を用いてoverlap PCRを行った結果、86番目のシステインがアルギニンで置換されたGSH1変異タンパク質暗号化配列、N-terminal BamHI、C-terminal XhoI制限酵素配列を含むGSH1 ORF切片を確保した。上記ORF切片は、BamHI及びXhoI処理後に同一の酵素で処理したpWAL100ベクターにクローニングしてpWAL100-GSH1(C86R)ベクターを製造した。
【0109】
また、CJ-5菌株のgenomic DNAをtemplateとして配列番号26と配列番号27のプライマーを用いたPCRを行ってN-terminal SpeI,C-terminal NcoI制限酵素配列を含むGSH1 ORF終結コドン以後、500bpを確保してSpeI,NcoI制限酵素を処理した。その後、同一の制限酵素を処理したpWBR100にクローニングしてpWBR100-GSH1ベクターを製造した。
【0110】
最終的に、酵母に導入するDNA切片を製作するために先に製作したpWAL100-GSH1(C86R)ベクターを鋳型(template)として配列番号22と配列番号28のプライマーを用いてアルギニン変異の暗号化配列とKIURA3の一部を含むPCR産物を獲得し、pWBR100-GSH1ベクターを鋳型(template)として配列番号29と配列番号27のプライマーを用いてKIURA3の一部とGSH1終結コドン以後、500bpを含むPCR産物を獲得した後、各PCR産物を同一のモル比率でS.cerevisiae CEN.PK2-1D及びS.cerevisiae CJ-5に形質転換した。PCRは、95℃で熱変性過程5分間、53℃で結合過程1分間、72℃で重合過程1kb当たり1分間の条件として行い、酵母の形質転換は、Geitzの論文(Nucleic Acid Research, 20(6), 1425)を変形したリチウムアセテート方法(Lithium acetate method)を用いた。具体的には、O.D.0.7~1.2の酵母細胞をリチウムアセテート/TE bufferで2回洗浄した後、上記PCR産物とsingle stranded DNA(Sigma D-7656)を共に混ぜてリチウムアセテート/TE/40% PEG bufferで30分間30℃、42℃で15分間静置培養した後、cellをウラシル(Uracil)が含まれていないSC(2% glucose)agar plateでコロニーが見られるまで培養してGSH1 C86R変異の暗号化配列とKIURA3遺伝子が導入された菌株を獲得した。その後、KIURA3を除去するために各菌株を2mlのYPDにovernight培養後、1/100希釈して0.1%の5-FOAが含まれたSC(2% glucose)agar plateに塗抹してウラシル(Uracil)マーカーが除去されたS.cerevisiae CEN.PK2-1D GSH1 C86R変異菌株及び S.cerevisiae CJ-5 GSH1 C86R変異菌株を製作した。アルギニン以外に残りの18種のアミノ酸で置換されたGSH1変異タンパク質を発現できる菌株も配列番号23及び配列番号24のプライマー配列上の86番目のアルギニンコーディング配列を他のアミノ酸をコードする配列で置換したプライマー対を用いた点を除いては同様の方式で製作した。
【0111】
【0112】
上記で製作された各菌株を26時間培養して生産したグルタチオン(GSH)濃度を測定した結果を表2及び表3に表示した。
【0113】
【0114】
【0115】
実験の結果、GSH1タンパク質の86番目のシステインを他のアミノ酸で置換する場合、野生型GSH1タンパク質を含む場合より最大27%以上グルタチオン生産能が増加することを確認することができた。
【0116】
これを通じてGSH1タンパク質の86番目のシステインを他のアミノ酸で置換したGSH1変異体がグルタチオン生産能を大きく増加させることが分かる。
【0117】
実施例4:他のCys残基がグルタチオン生産量に及ぼす影響の確認
比較例としてGSH1タンパク質の他のCys残基に変異を導入してグルタチオン生産能を確認し、その結果を表4に示した。
【0118】
【0119】
実験の結果、86番目のシステイン以外の他のシステイン残基は、グルタチオン生産量の増加効果がなく、むしろグルタチオン生産量が減少する様相を示した。
【0120】
これを通じてタンパク質内に存在するシステイン残基がいずれもグルタチオン生産量の増加効果を奏するものではないことが分かる。また、本出願で開発した新規なGSH1変異体がグルタチオン生産量の増加を示すことを確認することができる。
【0121】
グルタチオンを高生産する酵母、この乾燥物、抽出物、培養物、破砕物及び生産されたグルタチオンは、抗酸化効果、解毒効果、免疫力増強効果を奏するところ、化粧品用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、医薬品組成物及びその製造にも有用に用いられる。
【0122】
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【0123】
【0124】
【配列表】