(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ブラインからリチウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20240905BHJP
C01D 15/02 20060101ALI20240905BHJP
C22B 3/42 20060101ALI20240905BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240905BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20240905BHJP
B01J 39/02 20060101ALI20240905BHJP
B01J 39/10 20060101ALI20240905BHJP
B01J 47/10 20170101ALI20240905BHJP
B01J 49/53 20170101ALI20240905BHJP
B01J 49/60 20170101ALI20240905BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240905BHJP
B01F 23/50 20220101ALI20240905BHJP
B01F 33/40 20220101ALI20240905BHJP
【FI】
C22B26/12
C01D15/02
C22B3/42
C22B3/22
C02F1/42 B
B01J39/02
B01J39/10
B01J47/10
B01J49/53
B01J49/60
C02F1/44 D
B01F23/50
B01F33/40
(21)【出願番号】P 2022575325
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 CA2020000069
(87)【国際公開番号】W WO2021248221
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520232840
【氏名又は名称】スタンダード リチウム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クレイグ ジョンストン
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0193069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/12
C01D 15/02
C22B 3/42
C22B 3/22
C02F 1/42
B01J 39/02
B01J 39/10
B01J 47/10
B01J 49/53
B01J 49/60
C02F 1/44
B01F 23/50
B01F 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収する方法であって、
第1の反応器内で前記リチウム含有ブラインをリチウムイオンシーブと
1時間未満接触させて、前記リチウムイオンシーブを含むリチウムイオン錯体を形成する工程と、
固体/液体分離装置により、前記リチウムイオンシーブを含むリチウムイオン錯体をブラインから分離する工程と、
第2の反応器内で脱錯化する前に、前記リチウムイオンシーブを含むリチウムイオン錯体を水と接触させる工程と、
第2の反応器内で前記リチウムイオンシーブからリチウムイオンを脱錯化して、前記リチウムイオンシーブから分離された酸性リチウム塩溶出液を形成する工程と、
固体/液体分離装置により、前記酸性リチウム塩溶出液から前記リチウムイオンシーブを分離する工程と、
前記第2の反応器内での脱錯化後に前記リチウムイオンシーブを水と接触させて、再生リチウムイオンシーブおよび希釈酸水洗浄液を得る工程と
を含み、
前記リチウムイオンシーブが、チタンまたはニオブの酸化物を含み、
前記第1の反応器のpHが、アルカリを添加することにより一定値に維持されて
おり、
前記脱錯化が、酸を用いた溶離によって行われ、
前記リチウムイオンシーブを含む前記リチウムイオン錯体と前記酸との平均接触時間が1時間未満であり、
前記酸の濃度が前記酸を添加することにより一定の値に維持され、
前記酸の濃度が0.1M未満である、
方法。
【請求項2】
前記酸のpHが1を超え3未満である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸のpHが
2である、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記pHが4を超え9未満の一定値に維持される、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の反応器内のpHが6を超え8未満である、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記リチウムイオンシーブの90%超が40μm未満の平均粒子直径を有し、前記リチウムイオンシーブの90%超が0.4μmより大きい平均粒子直径を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リチウム含有ブラインを前記リチウムイオンシーブと接触させる前に、1μm未満の平均粒子直径を有するリチウムイオンシーブを除去する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リチウムイオンシーブの粒子の90体積%超が、直径100μm未満であり、かつ直径0.5μmを超える、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記リチウムイオンシーブの粒子の90体積%超が、直径0.5μm超である、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リチウムイオンシーブがメタチタン酸を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記再生リチウムイオンシーブを前記第1の反応器に添加する工程
をさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記希釈酸水洗浄液および追加の濃酸を前記第2の反応器に添加することをさらに含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の反応器内で前記リチウムイオンシーブから前記リチウムイオンを脱錯化する前に、前記リチウムイオンシーブを含む前記リチウムイオン錯体を、水分含有量が90重量%未満になるまで脱水する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記再生リチウムイオンシーブを前記第1反応器に添加する前に、前記再生リチウムイオンシーブを脱水する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記リチウムイオンシーブを水と接触させる工程が、前記再生されたリチウムイオンシーブを前記第1の反応器に添加する前に、前記リチウムイオンシーブから脱錯化された前記リチウムイオンの50%超がリチウムイオンシーブから洗浄されるように、前記リチウムイオンシーブを十分な水と接触させる工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記リチウムイオンシーブを水と接触させる工程が、前記再生されたリチウムイオンシーブを前記第1の反応器に添加する前に、前記リチウムイオンシーブから脱錯化された前記リチウムイオンの50%超がリチウムイオンシーブから洗浄されるように、前記リチウムイオンシーブを複数の向流段階で水と接触させる工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の反応器が限外濾過
膜または精密濾過膜を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の反応器の内容物を撹拌するために空気が使用される、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記限外濾過膜または前記精密濾過膜を通る流速が、30kPa未満の膜貫通圧で30LMHより大きい、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記リチウムイオンシーブの濃度が50g/L超である、
請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記アルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、無水アンモニア、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、または水酸化カルシウムを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記酸が塩酸または硫酸を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記リチウムイオンシーブの濃度が100g/L超である、
請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記アルカリが、無水アンモニアまたは水酸化アンモニウムを含む、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月13日に出願された同時係属出願第16/410,523号の一部継続出願であり、2018年12月18日に出願された同時係属出願第16/224,463号の一部継続出願であり、2017年12月27日に出願された米国仮出願第62/610,575号の利益を主張し、これらの全ては、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概してブラインからイオンを回収する方法に関し、より詳細には、ブラインからリチウムイオンを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、風力、太陽光、および潮力源などの再生可能エネルギーシステムに関連する電気自動車および定置型電力貯蔵用のリチウムイオン電池の使用が大いに注目されている結果、リチウムの需要は大幅に増加し、すぐに供給を上回る可能性がある。海水、ブライン、地熱流体、および大陸塩湖などの様々な供給源中に利用可能なリチウムが大量に供給される可能性がある。本明細書で使用される場合、「ブライン(brine)」および「ブライン(brines)」は、これらの様々なリチウム含有溶液を指す。しかしながら、今日まで、これらの資源中のリチウム濃度は通常は非常に低いため、蒸発による広範な濃縮なしにこれらの資源からリチウムを回収する実行可能な方法はほとんどなかった。さらに、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムなどの他の金属イオンの濃度がはるかに高いと、リチウムの回収が妨げられてしまう。
【0004】
イオン交換は、水溶液から低濃度の金属イオンを回収するための周知の技術である。しかしながら、スルホン酸官能基を有する強酸性陽イオン交換樹脂およびイミノジアセテートを有するキレート化樹脂などの従来のイオン交換樹脂は、存在し得るカルシウムおよびマグネシウムなどの多価イオンに対して、より高い選好性を有している。ナトリウムおよびカリウムなどの他の一価イオンに対するリチウムの選択性は同様であり得るが、通常はブライン中に非常に過剰に存在するこれらの競合的一価イオンの存在により、リチウムの回収が実現不可能となる。
【0005】
マンガン、チタン、または他の酸化物をベースとするイオンシーブ(イオンふるい)などの無機イオン交換媒体は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、およびカリウムなどの高濃度の競合イオンが存在するブラインからのリチウムの回収に有用である可能性があると特定されている。これらの材料は、リチウムイオンシーブ(リチウムイオンふるい;LIS)と呼ばれることがある。LISは、Li+(0.074nm)よりも大きいイオン半径を有するNa+(0.102nm)、K+(0.138nm)およびCa2+(0.100nm)が交換サイトに入ることができないほどLIS交換部位が狭いので、リチウムに対する高い選好性を示す。Mg2+(0.072nm)イオンのイオン半径はLi+のイオン半径と同様であるが、マグネシウムイオンを脱水して交換部位に入れるには多量のエネルギーが必要であり、Mg2+に対する選択性が維持される。
【0006】
しかしながら、LISにはいくつかの欠点がある。第1に、LISは本質的に弱酸性であり、そのため、より低いpHレベルで容量が低下する。第2に、LISは、成分の一部が酸に溶解するため、酸性溶液中で安定ではない。LISは、分解するにつれてリチウムを取り込む能力を失うので、LISを頻繁に交換しなければならない。LISを交換するには多大なコストを伴う。さらに、従来のカラムに取り付ける場合、劣化したLISを取り外し、交換することは困難であり、時間がかかる。最後に、LISは微粉として合成されるため、従来のイオン交換樹脂で行われるように、高い圧力降下のために固定床では使用できない。例えば、造粒、発泡、膜、繊維、および磁化によって形態を改善するための多くの試みがなされてきた。しかしながら、これらの粉末がより大きな幾何形状に凝集させると、結合剤によって細孔および活性交換部位が閉塞し、典型的には、より大きな粒径を有するより低い表面積対体積/質量比の結果として、反応速度が著しく損なわれる。
【0007】
例えば、参照文献、「Chitrakar et al.,‘‘Lithium Recovery from Salt Lake Brine by H2TiO3,’’Dalton Transactions,43(23),pages 8933-8939,June 21,2014」(以下、「Chitrakar」と呼ぶ)は、メタチタン酸系リチウム選択的吸着剤の合成、特性評価、および実験室評価に関する。しかしながら、Chitrakarは、工業的プロセスに言及しておらず、工業的規模での吸着剤からのブラインおよび溶離液の固液分離または洗浄に関する問題を論じていない。例えば、Chitrakarにおける吸着試験は、20g/Lの吸着剤固形分濃度でビーカー内で行われ、HClによる溶離試験は、10g/Lの吸着剤固形分濃度で行われた。Chitrakarは、連続的な工業規模で吸着剤をどのように使用するかを開示していない。具体的には、試験で使用される実験室濾過は、工業規模では適用できない。
【0008】
したがって、上記の欠点を克服するリチウムイオンシーブを使用してブラインからリチウムを回収する方法を改善する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【0009】
一態様では、本発明は、第1の混合反応器または撹拌反応器内でリチウム含有ブラインをリチウムイオンシーブと約1時間未満にわたって接触させて、リチウムイオンシーブとリチウムイオンとの錯体を形成し、第2の混合反応器または撹拌反応器内でリチウムイオンシーブからリチウムイオンを脱錯化して、リチウムイオンシーブおよび酸性リチウム塩溶出液を形成することによって、リチウム含有ブラインからのリチウムイオンを回収する方法を提供する。
【0010】
一実施形態では、リチウム含有ブラインからリチウムイオンを回収する方法は、リチウム含有ブラインを第1の混合反応器または撹拌反応器中で約1時間未満にわたってリチウムイオンシーブと接触させて、リチウムイオンシーブとリチウムイオンとの錯体を形成することを含む。次いで、方法は、第2の混合反応器または撹拌反応器内でリチウムイオンシーブからリチウムイオンを脱錯化して、リチウムイオンシーブから分離された酸性リチウム塩溶出液を形成することを含む。リチウムイオンシーブは、チタンまたはニオブの酸化物(例えば、メタチタン酸またはニオブ酸リチウム)を含み得る。
【0011】
脱錯化は、酸を使用する溶離により実施し得る。酸の濃度は、酸の添加によって一定の値に維持され得る。酸の濃度は、0.1M未満であり、pHは1を超え3未満であることが好ましく、最も好ましくはpHは約2であるべきである。リチウムイオンシーブを含むリチウムイオン錯体と酸との平均接触時間は、1時間未満であり得る。酸は、塩酸または硫酸であってもよい。
【0012】
第1の反応器のpHは、アルカリを添加することによって一定の値に維持され得る。pHは、4を超え9未満、または6を超え8未満の一定値に維持され得る。アルカリは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、または無水アンモニアであってもよい。例えば、アルカリは、8%w/w未満の濃度の水酸化ナトリウムであってもよい。
【0013】
リチウムイオンシーブの90%超は40μm未満の平均粒子直径を有し、リチウムイオンシーブの90%超は0.4μmより大きい平均粒子直径を有する。リチウムイオンシーブ粒子の90体積%超は、直径100μm未満であり、かつ直径0.5μmを超える。リチウムイオンシーブ粒子の90体積%超は、直径0.5μm超である。この方法は、リチウム含有ブラインをリチウムイオンシーブと接触させる前に、1μm未満の平均粒子直径を有するリチウムイオンシーブを除去する工程をさらに含み得る。
【0014】
この方法は、固体/液体分離装置により、リチウムイオンシーブを含むリチウムイオン錯体をブラインから分離する工程;および第2の反応器内で脱錯化する前に、リチウムイオンシーブを含むリチウムイオン錯体を水と接触させる工程をさらに含み得る。この方法は、また固体/液体分離装置により、酸性リチウム塩溶出液からリチウムイオンシーブを分離する工程;第2の反応器内での脱錯化後にリチウムイオンシーブを水と接触させて、再生リチウムイオンシーブ(再生されたリチウムイオンシーブ)および希釈酸水洗浄液を得る工程;および再生リチウムイオンシーブを第1の反応器に添加する工程をさらに含み得る。この方法は、第2の反応器内でリチウムイオンシーブからリチウムイオンを脱錯化する前に、リチウムイオンシーブを含むリチウムイオン錯体を水分含有量が90重量%未満になるまで脱水する工程をさらに含み得る。この方法は、再生リチウムイオンシーブを第1反応器に添加する前に、再生リチウムイオンシーブを脱水する工程をさらに含み得る。リチウムイオンシーブを水と接触させる工程は、再生リチウムイオンシーブを第1の反応器に添加する前に、リチウムイオンシーブから脱錯化されたリチウムイオンの50%超がリチウムイオンシーブから洗浄されるように、リチウムイオンシーブを十分な水と接触させる工程を含み得る。リチウムイオンシーブを水と接触させる工程はまた、再生リチウムイオンシーブを第1の反応器に添加する前に、リチウムイオンシーブから脱錯化されたリチウムイオンの50%超がリチウムイオンシーブから洗浄されるように、リチウムイオンシーブを複数の向流段階で水と接触させる工程を含み得る。この方法は、希釈酸水洗浄液および追加の濃酸を第2の反応器に添加することをさらに含み得る。
【0015】
第1の反応器は、限外濾過または精密濾過膜を備え得る。空気または他のガスを使用して、第1の反応器の内容物を撹拌し得る。限外濾過膜または精密濾過膜を通る流速は、30kPa未満の膜貫通圧で30LMHより大きくてもよい。
【0016】
リチウムイオンシーブの濃度は、50g/L超または100g/L超であり得る。
【0017】
本発明のさらなる適用範囲は、以下に与えられる詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内の様々な変更および修正がこの詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明および特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、単なる例示として与えられていることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明は、以下に与えられる詳細な説明、および例示としてのみ与えられ、したがって本発明を限定するものではない添付の図面からより完全に理解されるであろう。図面において、同様の参照番号は、様々な図における同様の特徴を示すために使用される。
【0019】
【
図1】本方法のための例示的なリチウム抽出システムの概略図である。
【0020】
【
図2】pHの関数としての金属イオン取り込み量を示すグラフである。
【0021】
【
図3】塩酸濃度の関数として抽出されたリチウムおよびチタンの量を示すグラフである。
【0022】
【
図4】スラリー中で数時間空気撹拌した後に採取したメタチタン酸リチウムイオンシーブのサンプルの例示的なLIS粒径分布を示すグラフである。
【0023】
【
図5】本方法のための代替的なリチウム抽出システムの概略図である。
【0024】
【
図6】例示的な抽出試行の時間の関数としてのリチウム濃度のグラフである。
【0025】
【
図7】pHの関数として抽出されたリチウムおよびチタンの量を示すグラフである。
【0026】
【
図8】接触時間がリチウム容量およびカルシウム分離に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述の欠点の結果として、リチウムイオンシーブは、今日まで工業規模でブラインからのリチウムの回収に広く適用されていなかった。本発明はこれらの欠点を克服し、ブラインからリチウムを選択的に回収するためのリチウムイオンシーブの使用をより商業的に実現可能にする。
【0028】
従来のイオン交換樹脂の平均粒径は、典型的には約400~1250マイクロメートルである。RECOFLO(登録商標)短床イオン交換プロセスは、大規模工業用途で使用される最も微細な粒子と通常考えられる粒子を利用する。これらの粒子は、典型的には、100~200マイクロメートルの平均粒径を有する。
【0029】
比較すると、本発明で利用されるリチウムイオンシーブは、好ましくは粉末形態である。粉末の平均粒径は、必ずしも限定される必要はない。しかし、平均粒径は、好ましくは約100μm未満であり、より好ましくは10~100μmであり、さらにより好ましくは20~100μmであり、さらにより好ましくは20~95μmである。さらに、平均粒径は、0.4~40μmであり得る。例えば、リチウムイオンシーブ粒子の90(体積)%超は、直径100μm未満であり、かつ0.5μmを超える。同一または異なる実施形態では、リチウムイオンシーブ粒子の90(体積)%超は、直径が0.5μmより大きくてもよい。これらの材料は粉末として合成されるので、造粒のコストが回避される。さらに、このような粉末によって提供されるより大きい表面積は、イオン交換プロセスの反応速度を大幅に改善する。言い換えれば、リチウムイオンシーブは、ポリマーまたは他の結合剤と一緒に結合された複合材料ではない。
【0030】
様々なリチウムイオンシーブはリチウムの回収に潜在的に有用である。例示的なLISとしては、マンガンおよびチタンの酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、例示的なLISは、チタンの酸化物、好ましくはメタチタン酸(MTA)を含み得る。しかしながら、本発明は、酸化マンガンおよびニオブ酸リチウム(すなわち、ニオブ酸)などの他の種類のリチウムイオンシーブ媒体にも同様に適用可能である。リチウムイオンシーブは、チタン、ニオブ、またはマンガンの酸化物に加えてドープ剤を含み得る。しかしながら、リチウムイオンシーブの含有物は、主にチタン、ニオブ、またはマンガンの酸化物である。
【0031】
本発明の一実施形態では、粉末リチウムイオンシーブ媒体が、撹拌タンク反応器(STRまたは反応器)内でリチウム含有ブラインと接触され得る。例えば、反応器は、処理される液体をリチウムイオンシーブと共に収容するタンクであり得る。リチウムイオンシーブは、ミキサーによって、またはリチウムイオンシーブとブラインとの間の密接な接触を提供する上昇する液体または気泡流による流動化によって、懸濁状態で維持され得る。反応器内のブラインのpHは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化マグネシウム、および水酸化カルシウムなどのアルカリを添加することによって一定レベルに維持され得る。例えば、反応器内のブラインのpHは、5を超え9未満に維持され得る。
【0032】
本発明で処理し得るブラインの多くは、かなりの濃度のマグネシウムを含有する。アルカリによるブラインの中和は、高濃度のマグネシウムを含有するブラインについていくつかの問題を呈することがある。水酸化マグネシウムは通常pH約8未満では沈殿(析出)しないが、アルカリを添加すると、アルカリがブラインと接触する点で局所的に高pH条件になり、水酸化マグネシウムが沈殿する。バルクのブラインのpHが理論沈殿pH未満であるという事実にもかかわらず、沈殿物は急速に溶解しない。水酸化マグネシウムの存在により、いくつかの問題が引き起こされる。例えば、水酸化マグネシウムはLISの表面に付着し、リチウムの取り込みを阻害し得る。膜が固液分離に利用される場合、水酸化マグネシウムは透過流束を減少させ、場合によっては膜を汚染(閉塞)させる可能性がある。
【0033】
水酸化ナトリウムが利用される場合、水酸化マグネシウム沈殿の問題は、特に深刻であり、より高いNaOH濃度でより顕著である。50%w/wのNaOHを利用すると、再溶解しない大量のMg(OH)2が生成される。より希薄なNaOH溶液を利用する場合、生成されるMg(OH)2の量はより少なく、Mg(OH)2はより迅速に再溶解する。4%w/wのNaOHを利用する場合、非常に少量のMg(OH)2が生成し、それはわずか数秒で再溶解する。したがって、水酸化ナトリウムが使用される場合、水酸化ナトリウムは、好ましくは8%w/w未満の濃度である。
【0034】
希薄NaOHを使用すると、不用の(barren)ブラインを希釈するという点で不利である。不用のブラインを地下に再注入しなければならない場所では、取り出されたよりも多くのブラインを地上に戻し得ないため、結果として生じるブラインの過剰量が問題となる場合がある。
【0035】
この問題は、中和のためにアンモニアを利用することによって回避し得る。アンモニアは、ブラインの過剰体積の量が無視できるように、無水アンモニアガスまたは液体水酸化アンモニウムの形態であり得る。無水アンモニアガスまたは30%水酸化アンモニウムを使用しても、注入点で少量のMg(OH)2沈殿するのみで、この沈殿物は迅速に再溶解し、プロセスに悪影響を及ぼさない。
【0036】
イオン交換反応が完了した後、リチウムが枯渇した(すなわち、不用)ブラインをリチウムイオンシーブから分離し、様々な手段によって反応器から除去し得る。例えば、ブライン/リチウムイオンシーブスラリー(すなわち、担持リチウムイオンシーブ)は、次の工程に進む前に、残留ブラインを除去するために、追加の撹拌反応器内で水と接触され得る。リチウムイオンシーブの粒径が約10ミクロンより大きい場合、重力沈降を使用できる。粒径が10ミクロン未満である場合、回転ドラム真空フィルタまたはベルトフィルタなどの濾過装置を使用できる。粒子サイズが1ミクロン未満である場合、膜濾過を使用できる。これらの固液分離装置の組み合わせを有利に使用できる。可能な固液分離装置の一例は、遠心分離機であり得る。
【0037】
不用のブラインを除去した後、反応器に含まれるリチウムイオンシーブを溶離液と接触させてもよい。この溶離液は、特に、塩酸(HCl)または硫酸(H2SO4)などの酸であり得る。例えば、酸は、0.1M未満のオーダーの濃度で、好ましくは1を超え3未満のpHで、最も好ましくは約2のpHで添加され得る。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図するものではないが、酸はLISからリチウムを溶離(脱錯化)し、それにより濃縮されたリチウム塩生成物溶液を生成し、LISを再生すると考えられる。本明細書で使用される場合、「錯体」は、結合して1つの大きなイオンまたは分子を生成する個々の原子団、イオンまたは分子の組み合わせである。本明細書で使用される場合、「脱錯化」は、個々の原子団、イオン、または分子をそのような大きなイオンまたは分子から分離する作用である。他の金属よりもリチウムに対するリチウムイオンシーブの選択性のために、他の金属に対するリチウムの比は、供給ブラインよりも生成物溶液中でかなり高くなることがある。
【0038】
リチウムイオンシーブが再生された後、リチウムイオンシーブを再利用して、より多くのブラインを処理し、より多くのリチウムを抽出し得る。
【0039】
本発明の一実施形態では、プロセスは連続的に実施され得る。このような連続的なプロセスでは、2つの反応器段階が必要とされ得る。ブラインは、リチウムイオンシーブが連続的に混合されたスラリーとしてブラインと接触する担持段階まで連続的に供給され得る。次いで、リチウムイオンは、リチウムイオンシーブによる取り込みを介してブラインから除去され、その結果、不用ブラインおよびリチウム担持LISが得られる。次いで、不用ブラインは、リチウム担持リチウムイオンシーブから分離され、反応器から除去され得る。ここで、ブラインから分離されたリチウム担持リチウムイオンシーブは、溶離段階に送られ得る。
【0040】
ブラインとリチウムイオンシーブと接触時間に関して、メタチタン酸リチウムイオンシーブの速度論的特性が非常に不十分であることが知られている。リチウムイオンは、狭い交換サイトを通って拡散するのに比較的長い時間を要する。したがって、ブライン中での接触時間が長くなるにつれて、LISによって取り込まれるリチウムの量が増加すると予想される。実際、Chitrakarの
図4(b)は、LISとブラインとの接触時間の効果を示す。このデータは、LISによって取り込まれるリチウムの量が時間とともに増加しており、任意のイオン交換吸着剤で通常予想されるものであることを明確に示している。しかしながら、経時的なリチウムの取り込みに対する接触時間の影響は、
図8に示すように反対の効果を有することが分かった。特に、リチウム容量は経時的に減少する。
図8に示すように、リチウム容量は、1時間後の15.5mg/gから2時間後では12.5mg/gに減少し、さらに71時間後に12mg/gに減少した。Ca分離係数も接触時間とともに低下する。接触時間が長くなるにつれて、より多くのカルシウムがLISに取り込まれ、リチウムの取り込み量は少なくなる。おそらく十分な時間が与えられると、より大きなカルシウムイオンは狭い交換部位にゆっくりと拡散し、リチウムを置換する。この現象は、Chitrakarのブラインが本発明で典型的に使用されるブラインよりもはるかに高いリチウム濃度および低いカルシウム濃度([Li]=1630mg/L、[Ca]=230mg/L)を有するため、Chitrakarでは観察されなかった可能性がある。
図8において、実験で使用したブラインは、リチウム濃度が219mg/Lであり、カルシウム濃度が34,500mg/Lであった。したがって、リチウム容量およびカルシウム分離を最大にするために、少なくとも比較的高いカルシウム濃度および低いリチウム濃度(例えば、アーカンソー州南部のスマックオーバー層から得られたブライン)を含有するブラインの場合、LISとブラインとの接触時間は約1時間未満とすべきである。
【0041】
溶離液は、溶離段階に連続的に供給されてもよく、担持段階から取り出されたリチウム担持リチウムイオンシーブは、連続的に混合されたスラリーとして溶離液と接触され得る。リチウムイオンシーブおよび液体が分離され、この分離された液体(すなわち、溶出液)がリチウム塩生成物溶液である。
【0042】
溶離段階を出るリチウムイオンシーブのリチウム含有量はかなり減少し、リチウムイオンシーブは再利用のために担持段階にリサイクルできる。このようにして、リチウムイオンシーブを複数回再利用し得、プロセスを連続的に操作し得る。
【0043】
一実施形態では、
図1に示すように、追加の段階を利用し得る。具体的には、供給されるブラインは、ライン2を通って担持段階の一部としてリチウムイオンシーブを含む第1の撹拌反応器4に流入する。リチウムイオンシーブは、ミキサー6によって懸濁状態に維持される。ライン8を介してNaOHを添加することによって、ブライン/リチウムイオンシーブスラリーは一定のpHに維持される。ブラインを担持したリチウムイオンシーブは、洗浄段階の一部として、ライン10を通って追加の撹拌反応器12に流入する。不用のブラインは、担持したリチウムイオンシーブから分離され、ライン14を通って流れる。ブラインを担持したリチウムイオンシーブは、ミキサー16によって懸濁状態に維持される。洗浄段階では、担持リチウムイオンシーブをライン18を介して水と接触させて、リチウムイオンシーブからブラインを洗浄するが、これは、供給ブライン中に存在する汚染イオンによるリチウム塩生成物の相互汚染を低減すると考えられる。洗浄および担持されたリチウムイオンシーブは、ライン20を通って、溶離段階の一部としての第2の撹拌反応器22に流入する。洗浄水は、洗浄および担持されたリチウムイオンシーブから分離され、ライン24を通って流れて第1の撹拌反応器4に戻る。洗浄および担持されたリチウムイオンシーブは、ミキサー26によって懸濁状態に維持される。溶離段階では、洗浄および担持されたリチウムイオンシーブは、ライン28を介してHClと接触し、リチウムイオンシーブからリチウムイオンを溶離させる。第2の撹拌反応器22内の酸の濃度は、ライン28を介したHClを添加することによって一定値に維持される。再生されたリチウムイオンシーブは、ライン30を通って、酸洗浄段階の一部としての別の撹拌反応器32に流入する。リチウムイオンは、LiCl生成物として、再生リチウムイオンシーブから分離され、ライン34を通って流れる。再生されたリチウムイオンシーブは、ミキサー36によって懸濁状態に維持される。酸洗浄段階では、ライン38を介して水を添加することによって残留酸がリチウムイオンシーブから洗浄され、その結果、リチウムイオンシーブが再循環され、回収されたリチウムが担持段階に再循環されないとき、供給ブラインは担持段階で酸性化されない。洗浄および再生されたリチウムイオンシーブは、ライン40を通って第1の撹拌反応器4に戻され、担持段階で再び使用される。希釈酸洗浄液は、洗浄および再生されたリチウムイオンシーブから分離され、ライン44を通って流れ、溶離段階で追加の濃縮酸と共に使用される。
【0044】
一実施形態では、いくつかの担持段階を直列に利用し、向流で動作させ得る。ブラインは、第1の担持段階で最初に処理され得る。依然としていくらかの残留リチウムを含有する第1の担持段階からの処理されたブラインは、リチウムイオンシーブとの接触がブラインのリチウム含有量をさらに減少させる第2の担持段階に送られ得る。いくらかのリチウムを含有するが、依然として利用可能なさらなるリチウム容量を有する第2の担持段階からのリチウムイオンシーブは、第1の担持段階に送られ得る。次いで、第1の担持段階からの担持リチウムイオンシーブを溶離段階に送られ得る。これにより、不用のブラインのリチウム含有量をより低減し得る。不用のブラインのリチウム含有量をさらに低減させるために、このようにして追加の担持段階を利用し得る。
【0045】
担持されたリチウムイオンシーブは、いくつかの溶離段階で同様に処理し得、それによって、リチウムイオンシーブは溶出液流に対して向流で通過する。これにより、リチウムイオンシーブのリチウム含有量をより低減し、溶出液(すなわち、リチウム生成物)中のリチウム濃度を高めることが可能となる。
【0046】
ブラインからリチウムイオンシーブへのリチウムイオンの取り込みの交換反応を式(1)に示す。
LIS.H+Li+→LIS.Li+H+ (1)
式中、LIS.Hは新たに再生された水素形態のリチウムイオンシーブを表し、LIS.Liは担持リチウム形態のリチウムイオンシーブを表す。
【0047】
反応が進行すると、水素イオンがブラインに放出され、ブラインのpHが低下する。リチウムイオンシーブの活性成分は、例えば、メタチタン酸(MTA)などのチタンの酸化物であり得る。MTAは弱酸であるため、水素イオンとの親和性が高い。その結果、水素イオンが利用可能な低pHでは、MTAは水素イオンをリチウムと容易に交換できない可能性がある。リチウムイオンシーブはまた、少量のドープ剤をさらに含んでもよい。
【0048】
図2は、pHの関数としての金属イオン取り込み量を示す。リチウムの取り込みは、pHが約6.5未満になるとかなり減少し、約4未満のpHではリチウムはほとんど取り込まれないことが分かる。リチウムの担持が進むにつれて、ブラインのpHは低下する。pHが約4に低下すると、リチウムのさらなる取り込みは起こり得ない。
【0049】
この現象は、従来の高分子弱酸カチオン交換樹脂で観察される現象と同様である。この問題に対処するための従来の手法は、イオン交換樹脂を水酸化ナトリウムで予め中和し、交換体をナトリウム形態に変換し、その結果、担持中に溶液のpHは一定に維持される。しかしながら、このアプローチはリチウムイオンシーブでは機能しない、なぜなら、ナトリウムイオンが大きすぎてリチウムイオンシーブに浸透できないためである。
【0050】
一実施形態では、処理の前に、ブラインに、NaOHまたは別の塩基、例えば炭酸ナトリウムもしくは水酸化アンモニウムを投与することによって、ブラインをLISと接触させる前にpHを調整し得る。そのような前処理により、最終pHがリチウム取り込みを妨げるほど低くならないように初期pHが上昇する。しかしながら、このアプローチの欠点は、
図2に示すように、pHレベルが上昇すると、リチウムイオンシーブによって取り込まれるナトリウムイオンの量が増加することである。さらに、pHを8より高くなると、水酸化マグネシウムが溶液から析出することがある。
【0051】
一実施形態では、ナトリウムの取り込みを最小限に抑えながらリチウムの取り込みを最大限にするようにpHを維持するために、担持反応器内のブライン/リチウムイオンシーブスラリーをNaOHなどのアルカリで中和してもよい。pHは、一般に、約5を超え約9未満であり、好ましくは6を超え8未満であり得る。リチウムイオンシーブがMTAである場合、pHは6~7であることが好ましい。
【0052】
式(2)によって示されるように、リチウムは、典型的には、塩酸などの酸でLISから溶離され、同時にリチウムイオンシーブを再生し、リチウム生成物を生成する。この反応により、リチウムイオンシーブは酸を効果的に中和する。
LIS.Li+H+→LIS.H+Li+ (2)
【0053】
図3に示すように、リチウムイオンシーブから溶離されるリチウム量は、HCl濃度が高いほど多くなる。最適な溶離効率のために、酸濃度は0.1M未満(
図3中のmol dm
-3として定義)の濃度に維持され得る。
図7に示すように、最適な溶離効率のために、酸濃度は、1を超え3未満のpH、好ましくは約2のpHに対応し得る。
【0054】
しかしながら、
図3にも示すように、0.1Mを超える酸濃度では、リチウムイオンシーブから抽出されるチタン量が増加し、それによってリチウムイオンシーブが分解され、その有効寿命が短くなる。酸濃度が約0.1Mを超えると、過剰量のチタンが抽出され、寿命が極端に短くなる。
【0055】
リチウムイオンシーブのこのような分解を最小限に抑える1つの方法は、LISと酸との間の接触時間を最小限に抑えることである。一実施形態では、リチウムイオンシーブは粉末形態であるため、イオン交換工程の反応速度は非常に速く、上記の式(2)の交換反応はほとんど1時間未満で完了する。一実施形態では、LISと溶離酸との間の接触時間は1時間未満である。したがって、リチウムイオンシーブの分解を最小限に抑えながら、リチウムイオンシーブからリチウムが本質的に完全に除去される。
【0056】
さらに、リチウムイオンシーブ粒子の粒径は、本明細書に記載のシステムの設計において役割を果たす。
図4は、スラリー中で数時間空気撹拌した後に採取したメタチタン酸リチウムイオンシーブのサンプルの典型的な粒径分布を示す。有効粒径(d
10)は約0.5μmであり、材料の90%(体積基準)は0.4~40μmの範囲内である。有効径は、重量または体積基準で、全粒子の10%がその有効径よりも小さく、全粒子の90%がその有効径よりも大きい粒子の直径である。この材料の有効径は約0.5μmである。より粗い材料は、重力によって1時間未満で水スラリーから沈降し得るが、より細かい粒子は、1日後でも容易に沈降しない。いかなる特定の理論にも拘束されることを意図するものではないが、より大きなリチウムイオンシーブ粒子は、合成工程中の焼結によって生成された微粒子の凝集体であると考えられる。結果として、大きな粒子は、プロセス液体との混合中に機械的摩耗を受けやすく、その結果、微粒子の割合が経時的に増加する。その結果、重力沈降によるプロセス液体からのリチウムイオンシーブの分離は理想的ではない。
【0057】
膜は、廃水処理のためのバイオリアクタでますます使用されている。典型的な膜バイオリアクタ(MBR)では、中空繊維、管状または平坦シート形態のいずれかの、0.1μm未満の孔径を有する精密濾過または限外濾過膜が、廃水およびバイオソリッドの懸濁液に浸漬される。濾過/処理された透明な廃水は、真空によって膜を通して引き出される。廃水/バイオソリッドのスラリーは、典型的には、エアスパージングによって撹拌される。空気撹拌は、バイオソリッドへの酸素移動を促進し、膜表面上のバイオソリッドの蓄積による膜汚染を防止する。
【0058】
膜バイオリアクタでは、懸濁固形物濃度は、典型的には30g/L未満、より典型的には10~15g/Lである。得られるより高い非ニュートン流体粘度のために酸素移動が妨げられるので、より高い懸濁濃度は使用されない。さらに、より高い懸濁固体濃度は、膜流速を低下させ、および/または膜貫通圧を増加させる。膜バイオリアクタ内の浸漬膜の典型的な流速は、1平方メートル当たり1時間当たり10~30リットルである(単位は通常「LMH」と略記される)。
【0059】
一実施形態では、浸漬限外濾過または精密濾過膜プロセスは、プロセス液体からリチウムイオンシーブを分離する手段として本発明で使用し得る。膜の孔径は、典型的には約1μm未満であり、最小のリチウムイオンシーブ粒子よりも小さいため、ほぼ100%の固体分離を達成し得る。本発明では、酸素移動は問題ではない。しかしながら、水中曝気(空気撹拌)は、スラリーの必要な混合を提供し得るが、上昇する気泡は膜表面を洗い流して膜汚染を低減し、機械的混合と比較してLIS粒子の摩耗および剪断を低減する。
【0060】
本明細書に記載の実施形態は、MBRなどの典型的な浸漬膜用途からの大きな逸脱である。リチウムイオンシーブ粒子は、かなり高い流速を達成しながら、はるかに高い懸濁固体濃度の処理を可能にする。従来のMBR用途で得られる流速は、典型的には、膜貫通圧10~30KPa、総懸濁固形物(TSS)レベル30g/L未満の場合、通常30LMH未満である。対照的に、本発明では、20KPaの膜貫通圧で300LMHもの高い流速が、100g/Lを超えるTSSレベルでリチウムイオンシーブを用いて得られた。
【0061】
本発明によれば、懸濁固体濃度は、約50g/L超であり、好ましくは100g/L超であり得る。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図するものではないが、反応器内のより高い固体濃度が有利であると考えられる、なぜなら、所与のリチウムイオンシーブ-液体接触時間を達成するために必要な反応器容積を減少させるからである。
【0062】
固定床イオン交換システムでは、酸溶離液は床を通過するにつれて酸濃度が低くなり、上記の式(2)によって提供される反応によって中和される。リチウムイオンシーブと接触している酸のpHを3未満に維持し、溶離効率を維持するために、床に入る酸のpHは1未満であり得る。その結果、固定床でリチウムイオンシーブを再生する場合、床の入口端に向かうリチウムイオンシーブは、より濃縮された酸によって激しく分解される。
【0063】
本発明によれば、リチウムイオンシーブは、リチウムイオンシーブが均一な濃度で酸と接触している反応容器内でスラリーとして再生され得る。酸濃度は、0.1M未満の濃度、好ましくは1を超え3未満のpHに対応する酸濃度、好ましくは約2のpHに対応する酸濃度に維持され得る。この濃度は、濃度を所望の範囲(例えば、pH=2で)に維持するために、適切な手段によって反応器内の液体の酸濃度を連続的に測定し、必要に応じて濃酸を添加することによって維持し得る。
【0064】
リチウムイオンシーブの酸溶離によって生成される最終的なリチウム塩生成物中のカルシウム、マグネシウム、カリウム、およびナトリウムなどの不純物を最小限に抑えるために、担持後で、かつ、酸溶離の前に、担持されたリチウムイオンシーブを水と混合し、次いで水を分離することによって、残留供給ブラインをリチウムイオンシーブから除去し得る。別の実施形態では、担持リチウムイオンシーブを適切なフィルタを通して直接ろ過することによって、残留供給ブラインを除去し得る。本発明によれば、リチウムイオンシーブの好ましい粒径は、0.4~40μmの範囲である。この範囲の固体粒子は、1μm未満の孔径を有する膜の代わりに10μmを超える開口部を有する織布フィルタクロスなどのフィルタ媒体を使用して、従来の固液分離装置を使用して濾過および脱水し得る。したがって、供給ブラインの大部分は、担持リチウムイオンシーブから分離される。次いで、脱水したリチウムイオンシーブをフィルタ上で直接洗浄して、水中でリチウムイオンシーブを再スラリー化する必要なく、残留ブラインをリチウムイオンシーブから除去し得る。例示的な種類のフィルタとしては、水平ベルト真空および圧力フィルタ、回転ドラム真空および回転ディスク真空および圧力フィルタ、圧力フィルタプレス、ならびに遠心分離機が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
上述のように、酸によってリチウムイオンシーブからリチウムを溶離すると、酸性リチウム塩溶液が得られる。リチウムイオンシーブは、好ましくは、回収されたリチウムが再生リチウムイオンシーブと共に担持反応器に戻るのを最小限に抑えるために、酸性リチウム塩溶出液から分離される。担持リチウムイオンシーブから供給ブライン分離するために使用されるのと同様の手法を利用し得る。したがって、再生リチウムイオンシーブを水と混合し、次いで水を分離し得る。あるいは、リチウムイオンシーブは、適切なフィルタ、好ましくは水洗能力を有するフィルタを通して濾過し得る。
【0066】
再生反応器に移送されるリチウムイオンシーブの水分含有量を最小限に抑えるように注意すべきである。過剰量の水がリチウムイオンシーブと共に再生反応器に入ると、回収されたリチウム塩溶出液は希釈されすぎる。同様に、リチウムは、再生反応器から取り出された担持リチウムイオンシーブに同伴する液体と共に回収されるべきである。
【0067】
以下の実施例1に示すように、メタチタン酸リチウムイオンシーブの作業能力は、リチウムイオンシーブ1グラム当たり約0.01gのリチウムであり得る。乾燥基準でのリチウムイオンシーブの流速は、100gのリチウムイオンシーブ/回収されたLiのgである。担持反応器内のスラリーが100g/L(すなわち、約90重量%の水分および約10%の固形分重量;100グラムのリチウムイオンシーブあたり1リットルの水)の懸濁固体濃度を含み、このスラリーを再生反応器に直接移送した場合、回収されたリチウム1グラム当たり(1gリチウムイオンシーブ/0.01gLi/100g/Lリチウムイオンシーブ)=1.0リットルの水が得られる。濃酸中の水を無視すると、溶出液中のリチウムの濃度は1g/lになる。
【0068】
再生反応器内の懸濁固体濃度も100g/Lに維持され、この濃度で取り出される場合、再生リチウムイオンシーブに同伴されるリチウムの量は、(1リットル/gLi×1g/L Li)=1gLi/回収されたLiのgである。すなわち、リチウムイオンシーブから溶離した全てのリチウムは、リチウムイオンシーブと共に取り出される。このリチウムイオンシーブを、次いで担持反応器に直接再循環させた場合、正味のリチウムは回収されない。
【0069】
再生リチウムイオンシーブスラリーは、リチウムイオンシーブを担持反応器にリサイクルする前に、リチウム値を回復させるために、洗浄反応器内で水と混合させてもよい。リチウムイオンシーブからリチウムの90%を分離するには、回収リチウム1グラム当たり9リットルの水を必要とする。次いで、洗浄反応器内の希釈された液体を、例えば重力または膜によって分離し得る。その場合、リチウムの濃度はわずか0.1g/lである。しかし、この濃度は低すぎて実用的ではない。したがって、リチウムイオンシーブは、水分含有量が90%未満になるまで脱水されるべきである。
【0070】
例えば、担持リチウムイオンシーブスラリーが水分50%(すなわち、水1リットル/リチウムイオンシーブ1000g)に脱水される場合、リチウムイオンシーブは、(1リットルの水/1000gのリチウムイオンシーブ)/(0.01gのLi/gリチウムイオンシーブ)=回収されたLi 1グラム当たり0.1リットルの水のみを運ぶ。濃酸中の水を無視すると、溶出液中のリチウムの濃度は10g/リットルになる。
【0071】
さらに、再生リチウムイオンシーブは、再生反応器から取り出されるときに脱水されるべきである。そうでなければ、回収されたリチウムの大部分は、リチウムイオンシーブと共に担持反応器に再循環される。再生リチウムイオンシーブを高度に脱水したとしても、リチウムイオンシーブに同伴した水分にリチウムが失われることが問題となる場合がある。例えば、再生リチウムイオンシーブが50重量%の含水量(すなわち、リチウムイオンシーブ1000gあたり1リットルの水)に脱水される場合、リチウムイオンシーブに同伴するリチウムの量は(1リットル/1000gリチウムイオンシーブ)/(0.01g Li/gリチウムイオンシーブ)×10g Li/1L)=1g Li/回収されたLiのグラムとなる。すなわち、リチウムイオンシーブから溶離した全てのリチウムは、リチウムイオンシーブと共に取り出される。このリチウムイオンシーブを次いで担持反応器に再循環した場合、正味のリチウムは回収されない。
【0072】
したがって、脱水されたリチウムイオンシーブに同伴した液体からのリチウムは回収されるべきである。例えば、再生リチウムイオンシーブを水で洗浄してもよい。次いで、リチウムは洗浄水中に回収される。洗浄水の量は、リチウムの大部分を回収するのに十分であるべきであるが、回収されたリチウム塩溶液を過度に希釈するほどではあるべきではない。これを達成するための1つの方法は、リチウムイオンシーブを水に再スラリー化し、次いでスラリーからリチウムイオンシーブを再濾過することである。リチウムイオンシーブから90%のリチウムを洗浄するには、リチウムイオンシーブ内の同伴液体1mL当たり約9mLの水が必要であり、これらの条件下で1g/Lのリチウムを含むリチウム塩溶液の回収が可能になる。
【0073】
2つ以上の向流洗浄を利用することによって、洗浄水の量を減少させることが可能で有り、リチウム濃度を同時に高め得る。したがって、第1の洗浄段階から回収された脱水リチウムイオンシーブは、第2の洗浄段階で水中で再スラリー化され、次いで再び脱水される。第2段階脱水装置から回収された洗浄水は、新鮮な水の代わりに第1の洗浄段階で利用される。2つの向流洗浄段階を用いると、90%リチウム回収に必要な水の量を、同伴液体1mL当たり約9mLの水から同伴液体1mL当たり約3mLの水に減らすことが可能であり、回収されるリチウムの濃度を1g/Lから約3g/Lに増加させ得る。
【0074】
さらなる実施形態では、スラリーは、水平真空ベルトフィルタなどの装置によって脱水されてもよい。次いで、脱水したリチウムイオンシーブケーキをフィルタ上で直接洗浄し得る。フィルタ上で1つ以上の向流洗浄段階を使用し得る。別の選択肢として、遠心分離機を使用してもよい。遠心分離機を使用する場合、固体を水中で再スラリー化し、次いで遠心分離機で脱水し得る。いくつかの洗浄段階を使用する場合、第1の遠心分離機から脱水された固体は、再び水で再スラリー化され、次いで第2の遠心分離機で脱水され得る。第2の遠心分離機からの濃縮物は、第1の遠心分離機に供給する固体をスラリー化するための水として使用し得る。このようにしてさらなる遠心分離を利用して、多段向流固体洗浄を効果的に達成し得る。
【0075】
リチウムイオンシーブの粒径が小さすぎると、このような脱水がより困難になる。実際、粒子の大部分が直径10マイクロメートルより大きい場合でも、直径10マイクロメートルよりはるかに小さい粒子が存在すると、脱水が困難になる。特に、イオンシーブの平均粒径が0.1μm以下であると、脱水が事実上不可能となる。
【0076】
本発明の別の実施形態では、1~10マイクロメートル未満の直径を有する微粒子を除去するために、乾燥リチウムイオンシーブは、空気分級機などの適切な装置によって分級され得、または湿式リチウムイオンシーブは、溶離によって分級され得る。これにより、被処理液からのリチウムイオンシーブの分離が容易になる。微粒子を除去することにより、濾過速度が著しく改善され、濾過媒体の目詰まりが回避され、水分含有量がより低い濾過ケーキが生成される。このようにして微粒子を除去することにより、水平ベルト真空および圧力フィルタ、回転ドラム真空および回転ディスク真空および圧力フィルタ、圧力フィルタプレス、遠心分離機等の従来の固液分離装置をより有効に利用し得る。
【0077】
回収されたリチウム塩生成物の純度を最大にするために、供給ブラインは、担持リチウムイオンシーブから効率的に分離されるべきである。例えば、電池グレードの炭酸リチウムの純度要件は非常に厳しい。担持リチウムイオンシーブに保持された残留供給ブラインは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの供給ブライン中の不純物で生成物を汚染する。ブライン中のこれらの不純物の濃度はリチウムよりもはるかに高いため、最小量のブラインのキャリーオーバーでさえ問題となる。実際、担持リチウムイオンシーブ上の同伴ブラインからの不純物の寄与は、ほとんどの場合、リチウムイオンシーブ上で実際に交換される不純物の量よりも潜在的に大きい。回収されたリチウム溶液を精製するために、石灰/ソーダおよびイオン交換軟化などの追加のプロセスを使用し得るが、これらの追加のプロセス工程は、追加の資本および運転費用を伴う。しかしながら、担持リチウムイオンシーブを再生反応器に通す前に担持リチウムイオンシーブを効率的に脱水および洗浄することにより、これらの高価なプロセスの必要性を最小限に抑え得る。上述のように、リチウムイオンシーブが直径1~10マイクロメートル未満のかなりの量の粒子を有しない限り、従来の固液分離装置で効率的な脱水を達成し得る。さらに、多段向流洗浄を使用することによって、洗浄水要件を低減し得る。
【0078】
本発明は、例示としてのみ理解されるように記載されており、本出願の範囲を限定することを意図するものではない例示的な実施形態を参照して以下に説明される。
【0079】
実施例
本発明の一実施形態による方法を実証するために試験ユニットを構築した。試験ユニットの概略図を
図5に示す。
【0080】
試験ユニットは、6つの反応器(R1~R6)からなり、それぞれが空気撹拌ディフューザを備え、6つの反応器のうちの5つが浸漬膜モジュールを備えていた。リチウムイオンシーブの酸再生に利用される反応器R4は、膜を備えていなかった。各反応器の作業体積は、反応器R4を除いて、約5リットルであり、反応器R4は約1.1リットルの作業体積を有していた。
【0081】
リチウムイオンシーブとして、チタン酸リチウム(LTO)を使用した。LTOは、水酸化リチウムと二酸化チタンとを約2.2:1のモル比で700℃の温度で4時間反応させることによって合成した。上述の
図4は、この例で使用されるLTOの粒径分布を示す。合成から生成した初期LTOを0.2N HCl中で16時間酸洗いし、次いで得られたHTOを水で洗浄することによって、メタチタン酸(HTO)に変換した。反応器R1および反応器R2に最初に100g/LのLISの水性スラリーを充填し、残りの反応器に最初に500g/LのLISのスラリーを充填した。リチウムイオンシーブは、蠕動ポンプによってスラリーとして反応器から反応器に運ばれた。リチウムイオンシーブスラリーの流速は、固形分移動速度が乾燥重量基準で約100g/hになるように調整した。
【0082】
膜モジュールは、有効膜面積0.1m2のSumitomo Electric Corporation製の実験室規模の浸漬型POREFLON(商標)ユニットであった。蠕動ポンプを使用して真空によって膜を通して液体を引き込んだ。真空を40kPa未満に維持した。
【0083】
リチウム含有ブラインは、アーカンソー州南部のスマックオーバー層から得られたブラインから構成されており、以下の表1に示す組成を有していた。プロセスに従ってブラインからリチウムを抽出した後、ブラインを塩化リチウムで再強化し、プロセスにリサイクルした。その結果、供給ブライン中のリチウム濃度は、受け取った初期ブラインよりも幾分高かった。ナトリウムおよびカリウム濃度は、公開されたブライン分析に基づいて推定した。
【0084】
担持反応器である反応器R1は、7.8のpHが維持されるように1N NaOHの添加を自動的に制御するpH制御器を備えていた。したがって、イオン交換反応により生じた酸は連続的に中和された。供給ブラインを反応器R1に導入し、HTOと接触させた。HTOを500g/Lスラリーとして反応器R6から反応器R1に供給した。反応器R6からの濃縮スラリーを供給ブラインと混合した結果、反応器R1内のリチウムイオンシーブの固形分濃度は約100g/Lであった。HTOがブラインからリチウムイオンを抽出すると、HTOは部分的にLTOに変換された。リチウムが枯渇した(すなわち、不用)ブラインをポンプによって膜に通した。
【0085】
担持リチウムイオンシーブ(すなわち、LTO)を反応器R1からブラインスラリーとして取り出し、ブライン洗浄反応器である反応器R2に送った。反応器R2に水を供給して、残留ブラインをLTOから洗浄した。洗浄水は、別の浸漬型膜モジュールを介して反応器R2から取り出した。
【0086】
担持/洗浄したLISを水スラリーとして反応器R2から取り出し、濃縮反応器である反応器R3に送った。水は、別の浸漬された膜モジュールを介して反応器R3から取り出され、したがって反応器R3内の固形物濃度を約500g/Lまで上昇させた。
【0087】
約500g/Lの固形分濃度の担持/洗浄されたLISの濃縮スラリーを反応器R3から取り出し、再生反応器である反応器R4に送った。反応器R4のリチウムイオンシーブを塩酸と約0.2Mの濃度で接触させた。反応器R4のリチウムイオンシーブ固形分濃度は約500g/Lであった。酸濃度をモニタリングし、150mS/cmの導電率設定点まで5M HClを添加することによって導電率コントローラーによって一定レベルに維持した。リチウムイオンシーブを酸と接触させることにより、リチウムイオンシーブをLTO形態からHTO形態に変換し、塩化リチウムと共に約0.2M塩酸のリチウムイオンシーブスラリーを得た。反応器R4は膜を備えておらず、HCl/塩化リチウムのリチウムイオンシーブスラリーを反応器R5に単にオーバーフローさせた。0.2Mの酸濃度は、LISからのチタンの過剰な溶解のために好ましくないことが認識されているが、この実施例は依然として本発明の方法を示すものである。
【0088】
反応器R5は、2つの向流動作酸洗浄反応器のうちの最初のものであった。HCl/塩化リチウムの大部分は反応器R5でリチウムイオンシーブから洗浄され、残留HCl/塩化リチウムの大部分は反応器R6でリチウムイオンシーブから洗浄された。約500g/Lの固形分濃度で反応器R5のリチウムイオンシーブを、反応器R6からの洗浄水と接触させた。酸洗浄水は、別の浸漬型膜モジュールを介して反応器R5から取り出された。反応器R5から取り出された酸洗浄水は、プロセスから回収された塩化リチウム生成物を構成した。約500g/Lの濃度のリチウムイオンシーブのスラリーを反応器R5から取り出し、反応器R6に送った。
【0089】
反応器R6に添加された新鮮な水は、リチウムイオンシーブからの残留HCl/塩化リチウムの大部分を洗浄した。洗浄水は、別の浸漬型膜モジュールを介して反応器R6から取り出され、反応器R5に送られた。これにより、反応器R6の洗浄水中の塩化リチウムの濃度は、反応器R4のリチウム濃度の10%未満に低下した。リチウムイオンシーブ/洗浄水スラリーを反応器R6から取り出し、反応器R1に戻し、供給ブラインからリチウムを抽出するために再使用した。
【0090】
連続12時間の試験運転を行った。不用のブラインおよび生成物のアリコートをサンプリングし、1時間ごとに分析した。運転の過程にわたる不用ブラインおよび生成物濃度を示すグラフを
図6に示す。表1にまとめた結果は、10時間の運転後に採取した1時間の複合サンプルからのものであった。リチウム濃度は244mg/Lから61mg/Lに低下し、75%の回収率であった。担持反応器内の液体滞留時間は約1時間であった。
【0091】
リチウム生成物には、4,300mg/Lの濃度のリチウムが含まれていた。ブラインから実際に抽出されたリチウム量(957mg/h)よりも、多くのリチウム(2,322mg/h)が生成物から除去された。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図するものではないが、差(1,365mg/h)は、HCl中での最初の酸洗中にLTOから完全に除去されなかったリチウムイオンシーブ上の残留リチウムである可能性が高いと考えられる。実際にブラインから抽出されたリチウムに基づいて、リチウムイオンシーブ容量は9.6mg/gであった。除去反応器内の液体滞留時間は2.2時間であった。担持および回収されたリチウムに基づいて、リチウム濃度係数は約10倍であった。
【0092】
供給ブラインには22,000mg/Lの濃度のカルシウムが含まれていたが、生成物にはわずか1,400mg/Lの濃度のカルシウムしか含まれていなかった。供給原料中のリチウムに対するカルシウムの比は90であった。生成物中のその比率は0.33であった。しかしながら、生成物中のリチウムの約半分のみが実際にブラインから抽出された。ブラインから抽出された生成物中のリチウムのみを考慮すると、生成物中のLiに対するCaの比は0.62であり、これは、濃縮係数が90/0.62=145であることを表す。
【0093】
供給ブラインには推定43,000mg/Lの濃度のナトリウムが含まれていたが、生成物にはわずか9,770mg/Lの濃度のナトリウムしか含まれていなかった。供給原料中のリチウムに対するナトリウムの比は176であった。生成物中のその比率は2.3であった。ブラインから抽出された生成物中のリチウムのみを考慮すると、生成物中のLiに対するNaの比は4.3であり、これは、濃縮係数が176/4.3=41であることを表す。
【0094】
供給ブラインには2,170mg/Lの濃度のマグネシウムが含まれていたが、生成物にはわずか76mg/Lの濃度のマグネシウムしか含まれていなかった。供給原料中のリチウムに対するマグネシウムの比は8.9であった。生成物中のその比率は0.018であった。ブラインから抽出された生成物中のリチウムのみを考慮すると、生成物中のLiに対するMgの比は0.034であり、これは、濃縮係数が8.9/.034=262であることを表す。
【0095】
したがって、本明細書に記載のシステムおよび方法は、高濃度のカルシウム、ナトリウム、およびマグネシウムを含有するブラインからリチウムを選択的に回収する能力を有する。
【0096】
この例では、1つのブライン洗浄反応器のみが使用されたので、一部のブラインは、担持リチウムイオンシーブ上で再生反応器を通過し、したがって、一部のカルシウム、ナトリウム、および/またはマグネシウムを担持リチウムイオンシーブ上で再生反応器に運ぶ。いかなる特定の理論にも拘束されることを意図するものではないが、第2のブライン洗浄反応器を含むことによって結果を改善し得ると考えられる。さらに、上述のように、担持pHを6~7に低下させることによって、リチウム容量を明らかに低下させることなく、リチウムイオンシーブ上に担持されるナトリウムの量を減少させることができた。
【0097】
比較例
Chitrakarの
図4aに示す、吸着剤からのリチウムおよびチタンの初期抽出に対するHCl濃度の影響を評価するために、Chitrakarでは重要な試験を行った。Chitrakarの
図4aは、HCl濃度の関数として抽出されたリチウムおよびチタンの量を示す。Chitrakarのデータでは、HCl濃度が0.2M以上であるべきことが示されている。実際、本発明が作用する好ましい酸濃度である0.1Mの酸濃度未満での吸着剤からのリチウム抽出についてのデータは、Chitrakarの
図4aには示されていない。本発明では、LTO吸着剤のリチウム成分およびチタン成分は、Chitrakarによって予測されるよりもはるかに低い酸濃度で抽出される。
【0098】
「垂直」、「水平」などの用語への本明細書における言及は、限定ではなく例として行われ、基準系を確立する。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明を説明するために、他の様々な基準系を使用し得ることが理解される。本発明の特徴は、必ずしも図面に縮尺通りに示されていないことも理解される。さらに、「から構成される(composed of)」、「含む(includes)」、「有している(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」という用語またはそれらの変形が詳細な説明または特許請求の範囲のいずれかで使用される限り、そのような用語は、「含む,備える(comprising)」という用語と同様に包括的かつ制限のないことが意図される。
【0099】
「約」、「および」、および「実質的に」などの近似の文言によって修飾された用語への本明細書における言及は、指定された厳密な値に限定されるものではない。近似の文言は、値を測定するために使用される機器の精度に対応することがあり、機器の精度に特に依存しない限り、記載された値の+/-10%を示し得る。
【0100】
別の特徴「接続」または「結合」された特徴は、他の特徴にまたは別の特徴と直接接続または結合されてもよく、あるいは代わりに、1つ以上の介在する特徴が存在してもよい。介在する特徴が存在しない場合、特徴は、別の特徴に「直接接続」または「直接結合」されてもよい。少なくとも1つの介在する特徴が存在する場合、特徴は、別の特徴に「間接的に接続」または「間接的に結合」されていてもよい。別の特徴「上に」または「接触する」特徴は、他の特徴上に直接または直接接触してもよく、あるいは代わりに、1つ以上の介在する特徴が存在してもよい。介在する特徴が存在しない場合、特徴は、別の特徴と「直接接触」または「直接接触」し得る。少なくとも1つの介在する特徴が存在する場合、特徴は別の特徴と「間接的に接する」または「間接的に接触」し得る。
【0101】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、単数形だけでなく複数形も含むことを意図している。本明細書で使用される場合、「含む」および/または「含んでいる」という用語は、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではないことがさらに理解されよう。
【0102】
本発明は様々な実施形態の説明によって例示されており、これらの実施形態はかなり詳細に説明されているが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に限定すること、または決して限定することは出願人の意図ではない。さらなる利点および修正は、当業者には容易に明らかになるであろう。したがって、本発明のより広い態様は、特定の詳細、代表的な装置および方法、ならびに図示および説明された例示的な例に限定されない。当業者が特許請求される発明を作成および使用することを十分に可能にするために、本出願人は、様々な詳細な実施形態の利点および欠点の両方に関する情報を提供している。当業者であれば、いくつかの用途において、上で詳述したような特定の実施形態の欠点は、完全に回避され得るか、または特許請求されるような本発明によって提供される全体的な利点によって上回ることができることを理解するであろう。したがって、本出願人の一般的な発明概念の精神または範囲から逸脱することなく、上記の詳細な教示から逸脱し得る。