(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】梱包体
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20240905BHJP
C07F 5/05 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C01B21/064 Z
C07F5/05 B
(21)【出願番号】P 2023140437
(22)【出願日】2023-08-30
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 剛
(72)【発明者】
【氏名】神山 卓也
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-055917(JP,A)
【文献】特開2013-233961(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052060(WO,A1)
【文献】特開2007-137865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
B65D 90/22
C07F 5/05
C09G 79/08
H01L 21/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体と、前記液体を収納する密閉容器と、前記密閉容器内の空間に充填された気体を備える梱包体であって、
前記液体は、ボラジン化合物を含むものであり、
前記気体は不活性ガスであり、
前記密閉容器は0.1MPa以上の耐圧性と遮光性を有し、
前記密閉容器は、液体収納部を有し、
前記液体収納部の内部表面の表面粗度(Ra)が
0.5μm以下であることを特徴とする梱包体。
【請求項2】
前記密閉容器は、前記液体収納部を備える容器本体と、少なくとも2個のバルブを有している請求項1に記載の梱包体。
【請求項3】
前記の2個のバルブのうち、第1バルブは、不活性ガスを前記容器本体内に注入するものであり、第2バルブは、前記液体を液体状または気体状で、前記容器本体内から外部へ吐出するものである請求項2に記載の梱包体。
【請求項4】
前記第1バルブ及び前記第2バルブは、いずれもダイヤフラムバルブである請求項3に記載の梱包体。
【請求項5】
前記液体収納部において表面粗度(Ra)が
0.5μm以下であ
る内部表面には電解研磨が施されている請求項1または2に記載の梱包体。
【請求項6】
前記液体に含まれるボラジン化合物の純度が99%以上である請求項1または2に記載の梱包体。
【請求項7】
前記ボラジン化合物が、式(I)の構造式で表される請求項1または2に記載の梱包体。
【化1】
[式(I)中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は同一であっても異なっていてもよく、水素原子またはアルキル基である。]
【請求項8】
前記密閉容器内の空間に充填された気体が、窒素ガスまたはアルゴンガスを含む不活性ガスである請求項1または2に記載の梱包体。
【請求項9】
前記密閉容器内の空間に充填された気体の露点が-70℃以下である請求項1または2に記載の梱包体。
【請求項10】
前記密閉容器は、更に前記第1バルブから伸びた注入パイプと、前記第2バルブから伸びた吐出パイプとを含み、
前記第1バルブにより注入される前記不活性ガスは、前記注入パイプの先へ導かれ、
前記第2バルブにより吐出される前記液体または気体は、前記吐出パイプの先から導かれる請求項3または4に記載の梱包体。
【請求項11】
前記容器本体は、下側に位置する前記液体収納部と、上側に位置する蓋部とを有し、
前記蓋部には、前記少なくとも2個のバルブの全てが取付けられており、
前記液体収納部と前記蓋部とは、パッキンを介して圧接されている請求項2または3に記載の梱包体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存または輸送するための液体と、液体を収納する密閉容器と、密閉容器内の空間に充填された気体とを備える梱包体に関し、特にボラジン化合物を含む液体を備える梱包体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の高速化及び高集積化に伴って、信号の遅延を防ぐため、層間絶縁膜の誘電率を下げることが求められている。低誘電率を示す材料として、例えば、特許文献1、2では、分子内にボラジン骨格を有するボラジン化合物が提案されている。
【0003】
従来、ボラジン化合物は実験室レベルで少量のみ合成され、試薬瓶等に保存されるのが通常であったが、今後、大量生産されることを考慮すれば、より大きな容器中で輸送または保存する必要が生じてくるが、特に半導体向け材料においては、成膜安定性や電気特性の観点から高純度が求められ、輸送または保存後にもボラジン化合物の純度が低下しないことが重要である。このような課題を解決する技術として、特許文献3にはボラジン化合物保存用容器の洗浄方法が開示されており、ボラジン化合物保存用容器を純水で洗浄後、窒素ガスでフローしたときの窒素ガスの露点が-30℃以下になるまで乾燥する段階を有することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-340689号公報
【文献】特開2003-119289号公報
【文献】特開2008-110940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボラジン化合物を輸送または保存するための容器は、洗浄するなどして繰り返し使用することがあるが、一度ボラジン化合物を収納した容器の内部表面には、ボラジン化合物の重合物や微量酸素による分解物などの固形の残存物が付着することがあり、この固形残存物は、一旦容器内に付着してしまうと、通常の溶媒などによる洗浄では完全に除去することが難しく、繰り返し容器を使用することで、内部表面に付着する固形残存物の量は増加する傾向にあった。
【0006】
本発明者らが検討したところ、この固形残存物は微量であっても、容器内にボラジン化合物を再度収納した場合に、ボラジン化合物の重合や分解を促進させる場合があり、繰り返し使用する度に、収納したボラジン化合物の純度低下が進行し、ボラジン化合物を安全に輸送または保存できないという問題があることが明らかとなった。
【0007】
そこで、本発明は、ボラジン化合物を繰り返し収納してもボラジン化合物を劣化させることなく安全に保存または輸送することができる容器とボラジン化合物を備える梱包体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
[1]液体と、前記液体を収納する密閉容器と、前記密閉容器内の空間に充填された気体を備える梱包体であって、
前記液体は、ボラジン化合物を含むものであり、
前記気体は不活性ガスであり、
前記密閉容器は0.1MPa以上の耐圧性と遮光性を有し、
前記密閉容器は、液体収納部を有し、
前記液体収納部の内部表面の表面粗度(Ra)が1.0μm以下であることを特徴とする梱包体。
[2]前記密閉容器は、前記液体収納部を備える容器本体と、少なくとも2個のバルブを有している[1]に記載の梱包体。
[3]前記の2個のバルブのうち、第1バルブは、不活性ガスを前記容器本体内に注入するものであり、第2バルブは、前記液体を液体状または気体状で、前記容器本体内から外部へ吐出するものである[2]に記載の梱包体。
[4]前記第1バルブ及び前記第2バルブは、いずれもダイヤフラムバルブである[3]に記載の梱包体。
[5]前記液体収納部において表面粗度(Ra)が1.0μm以下である内部表面には電解研磨が施されている[1]~[4]のいずれかに記載の梱包体。
[6]前記液体に含まれるボラジン化合物の純度が99%以上である[1]~[5]のいずれかに記載の梱包体。
[7]前記ボラジン化合物が、式(I)の構造式で表される[1]~[6]のいずれかに記載の梱包体。
【化1】
[式(I)中、R
11、R
12、R
13、R
21、R
22及びR
23は同一であっても異なっていてもよく、水素原子またはアルキル基である。]
[8]前記密閉容器内の空間に充填された気体が、窒素ガスまたはアルゴンガスを含む不活性ガスである[1]~[7]のいずれかに記載の梱包体。
[9]前記密閉容器内の空間に充填された気体の露点が-70℃以下である請求項[1]~[8]のいずれかに記載の梱包体。
[10]前記密閉容器は、更に前記第1バルブから伸びた注入パイプと、前記第2バルブから伸びた吐出パイプとを含み、
前記第1バルブにより注入される前記不活性ガスは、前記注入パイプの先へ導かれ、
前記第2バルブにより吐出される前記液体または気体は、前記吐出パイプの先から導かれる[3]~[9]のいずれかに記載の梱包体。
[11]前記容器本体は、下側に位置する前記液体収納部と、上側に位置する蓋部とを有し、
前記蓋部には、前記少なくとも2個のバルブの全てが取付けられており、
前記液体収納部と前記蓋部とは、パッキンを介して圧接されている[2]~[10]のいずれかに記載の梱包体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボラジン化合物の収納容器を繰り返し用いた場合であっても、ボラジン化合物を劣化させることなく安全に保存または輸送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る梱包体の一実施形態の外観を示す図である。
【
図4】本発明における第1バルブ部の一実施態様の断面図である。
【
図5】本発明における第2バルブ部の一実施態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、液体と、前記液体を収納する密閉容器と、前記密閉容器内の空間に充填された気体を備える梱包体であって、前記液体は、ボラジン化合物を含むものであり、前記気体は不活性ガスであり、前記密閉容器は0.1MPa以上の耐圧性と遮光性を有し、前記密閉容器は、液体収納部を有し、前記液体収納部の内部表面の表面粗度(Ra)が1.0μm以下である。本発明の梱包体によれば、液体収納部の内部表面にボラジン化合物の重合物や微量酸素による分解物などの固形の残存物が付着することを抑制することができ、密閉容器を繰り返し使用しても、保存または輸送すべきボラジン化合物を含む液体を、劣化させることがない。
【0012】
本発明においてボラジン化合物とは、ボラジン(B3H6N3)またはボラジンのホウ素原子または窒素原子に結合した少なくとも1つの水素原子が有機基で置換された化合物も含む意味で用いる。
【0013】
ボラジン化合物は、式(I)の構造式で表されるものであることが好ましい。
【0014】
【0015】
[式(I)中、R11、R12、R13、R21、R22及びR23は同一であっても異なっていてもよく、水素原子またはアルキル基である。]
【0016】
前記アルキル基は、炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0017】
式(I)中、R11、R12、R13、R21、R22及びR23の少なくとも1つは水素原子ではないことが好ましく、R21、R22及びR23が水素原子であり、かつR11、R12及びR13はアルキル基であることがより好ましい。R21、R22及びR23が水素原子である場合、R11、R12及びR13は炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基またはエチル基であることが更に好ましく、メチル基であること(すなわち、式(I)で表されるボラジン化合物がN,N’,N’’-トリメチルボラジンであること)が最も好ましい。
【0018】
ボラジン化合物の入手経路は特に制限されない。例えば、ボラジン化合物が商品として販売されている場合には購入したものを密閉容器に収納してもよいし、自ら調製したものを収納してもよい。ボラジン化合物の調製方法としては、公知の方法を採用すればよく、例えば上述した特許文献3の[0027]~[0034]の記載を参照して調製することができる。
【0019】
ボラジン化合物を含む液体は、通常、ボラジン化合物そのものであるが、ボラジン化合物以外の溶媒などの成分を含んでいてもよく、ボラジン化合物を合成する際に用いた溶媒(反応用溶媒)を含んでいてもよい。ボラジン化合物を含む液体中のボラジン化合物含有率は95体積%以上が好ましく、98体積%以上がより好ましく、100体積%以上が最も好ましい。前記溶媒は、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等のエーテル系溶媒;ヘキサン、トルエン、ヘプタン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等の含塩素系溶媒などが挙げられる。
【0020】
不活性ガスは、ボラジン化合物と反応しない性質を有する気体であり、窒素ガスの他、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスなどの希ガスを用いることができ、窒素ガス又はアルゴンガスが好ましく、特に窒素ガスが好ましい。
【0021】
ボラジン化合物は、水によって加水分解することがあるため、密閉容器内の空間に充填された気体、すなわち不活性ガスの露点が-30℃以下であることが好ましく、より好ましくは-40℃以下であり、更に好ましくは-50℃以下であり、特に好ましくは-70℃以下であり、下限は特に限定されないが-80℃であってもよい。
【0022】
以下では、図を参照しながら、実施の形態に係る梱包体について説明するが、本発明は下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能である。
【0023】
図1は、本発明に係る梱包体1の外観を示した図である。
図1に示すように、梱包体1は、ボラジン化合物を含む液体10と、当該液体10を収納する密閉容器20と、密閉容器20の空間に充填された不活性ガス30とを備える。
【0024】
密閉容器20は、容器本体と、少なくとも2個のバルブを有していることが好ましい。当該2個のバルブのうち、第1バルブは、不活性ガスを前記容器本体内に注入するものであり、第2バルブは、不活性ガスを前記容器本体内に導入したり、前記容器本体を外部から加熱するなどして前記液体を液体状または気体状で、前記容器本体内から外部へ吐出するものであることが好ましい。
【0025】
<密閉容器20の説明>
図2は、梱包体1の上面図である。なお
図2では、カバーの天板の部分を外して、中が見えるようにしている。
【0026】
【0027】
図2、
図3に示すように、密閉容器20は、ボラジン化合物を含む液体を収容する密閉性を有する容器であって、液体収納部110を有し、容器本体100、第1バルブ部200、及び第2バルブ部300を備えている。なお
図3では、容器本体100はほぼ中心からカットし、第1バルブ部200及び第2バルブ部300は導管の部分をほぼ中心からカットしている。
【0028】
容器本体100は、密閉容器20から、第1バルブ部200及び第2バルブ部300を除いた残りの部分である。
【0029】
第1バルブ部200は、不活性ガス30を容器本体100内に注入する際に用いる不活性ガス注入用のユニットであり、不活性ガス専用のバルブを備える。
【0030】
第2バルブ部300は、液体10を容器本体100内から液体状または気体状で外部へ吐出する際に用いる液体10吐出用のユニットであり、液体10専用のバルブを備える。
【0031】
密閉容器20は耐圧性を有する。具体的には、密閉容器20は0.1MPa以上の耐圧圧力を有することが好ましい。ここで容器の耐圧圧力は、JIS規格に準じた方法で測定すればよく、JIS B8265またはJIS B8266などの水圧試験で測定したものであることが好ましい。
【0032】
密閉容器20の耐圧性(耐圧圧力)は、好ましくは0.1MPa以上であり、より好ましくは0.2MPa以上である。一方、容器の耐圧圧力の上限値は特に制限されないが、容器の取扱い易さ等の点では、好ましくは5.0MPa以下であり、より好ましくは2.0MPa以下である。
【0033】
密閉容器20は、密閉性や耐圧性を有するだけでなく、さらに遮光性をも有するので、遮光性を有する材料により形成される。遮光性を有するとは、光の透過率が実質的にゼロであることを意味する。本実施の形態では、容器本体100の全体と、少なくとも第1バルブ部200、及び第2バルブ部300の遮光性に影響を与える部分とをステンレス鋼製にして、高い遮光性を実現している。遮光性を有する材料は、特に制限されるものではなく、ステンレス鋼のほかに、耐食合金(例えば、ハステロイ(登録商標)、MMCスーパーアロイ社製のMATシリーズ、MAシリーズ等)などの金属材料を用いることもできる。
【0034】
本発明の梱包体において、密閉容器20が液体収納部110を有し、液体収納部110の内部表面の表面粗度(Ra)が1.0μm以下であり、好ましくは0.8μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下であり、下限は例えば0.01μmであってもよいし、0.05μmであってもよい。これにより、液体収納部の内部表面の凹凸が低減し、固形残存物の容器内部表面への付着を抑制することができ、仮に付着したとしても通常の洗浄で容易かつ確実に取り除くことができ、その結果、劣化することなく安定してボラジン化合物を保存することが可能になる。
【0035】
なお本発明でいう「表面粗度(Ra)」とは、JIS B0601(’01)にて規定される算術平均粗さを意味する。
【0036】
表面粗度が前記範囲に調整された液体収納部の内部表面には電解研磨が施されていることが好ましい。電解研磨を施すことにより、容器内部表面の表面粗度(Ra)を容易に前記範囲に制御することができる。なお、電解研磨の方法は、特に制限されるものではなく、例えば公知の電解研磨処理法を採用すればよく、その処理条件についても、所望の表面粗度(Ra)を達成しうるように適宜設定すればよい。
【0037】
また、ボラジン化合物を含む液体は、密閉容器の液体収納部の総容量に対して40~80体積%充填されていることが好ましい。液体収納部の容積は、例えば1~10L程度である。
【0038】
また、密閉容器20は、不活性ガス専用のバルブ1個と、ボラジン化合物を含む液体専用のバルブ1個との少なくとも2個のバルブを最低限備えていればよいが、さらに他のバルブを追加して、バルブの数を2個よりも多くしてもよい。例えばバルブの数を2個よりも多くすると、異なる径のバルブや形状が違うバルブを用途に応じて使い分けたり、使うバルブの個数を使用量に応じて変更することができる。また、不活性ガス専用のバルブの接続部分と、液体10専用のバルブの接続部分とを互換性のない異なる形状にして、誤接続できないようにしてもよい。また、第1バルブ部200に、容器本体100内から外部へ不活性ガス30や液体10が漏れないように逆止弁を追加してもよい。また、第2バルブ部300に、液体10が逆流したり外部から容器本体100内へ外気が入らないように逆止弁を追加してもよい。
【0039】
さらに、密閉容器20には、2個以上のバルブの他に、容器本体100に1個以上のポートが開いた構成(図示せず)を有していてもよい。このポートを利用して簡易的に液体の充填や、容器の洗浄を行うことができる。ポートの口径は特に限定されないが、充填、洗浄の際の取扱い易さの点から5mm以上のサイズであることが好ましい。またポートは、キャップにより密閉性を保てるようになっていてもよい。キャップは特に限定されないが、耐圧性、気密性を確保するためにねじ式の閉鎖具がついていることが好ましい。
【0040】
<容器本体100の詳細な説明>
次に容器本体100の1つの態様を示す。
図3に示すように、容器本体100は、液体10を実質的に保持するカップ形状の液体収納部110、及びパッキンを介して液体収納部110と圧接される蓋部120を有する。容器本体100において、液体収納部110は下側に位置し、蓋部120は上側に位置する。ここで蓋部120には第1バルブ部200と第2バルブ部300が取り付けられている。なお、バルブを2個よりも多くする場合には、蓋部120に全てのバルブを取り付ける。
【0041】
容器本体100の1つの態様として液体収納部110と蓋部120がパッキンを介して圧接される場合、甲丸パッキン122を介して圧接されている。液体収納部110と蓋部120は、フランジのないシームレス容器のように一体となっていてもよい。またグローブボックス(図示せず)内を不活性ガスで充満させておいて、当該グローブボックス内において液体収納部110と蓋部120とを分離して、液体収納部110内への液体の充填や、液体収納部110内からの液体の排出を行うことができる。
【0042】
液体収納部110は、側面に位置する上鏡板111、底の部分に位置する下鏡板112、自立するための足となるスカート部113、上側の開口部分を形成するネック部114、及び蓋部120との接合面を有するリング形状の板であるリングフランジ115からなることが好ましく、ネック部114を有していなくてもよい。ここで液体収納部110は、鋳造やモールド成型により形成することができ、または別々に製造した部品を溶接又は接着することにより形成することもできる。例えば、上鏡板111と下鏡板112は絞り加工により一体成型し、スカート部113とネック部114は長方形の金属板の一方の短辺と他方の短辺とを溶接して成型し、リングフランジ115は金属板を打ち抜くか切断することにより成型することができる。
【0043】
なお上鏡板111には鏡面加工が施され、規定量収納時の液面の高さを示す規定ラインが刻まれている。ここで「規定量収納時の液面の高さ」とは、予め十分安全に使用出来る範囲内で液体10を収納可能な量の限度を規定し、この規定した量の液体10を収納したときの容器内の液面の高さをいう。本実施の形態では、規定ラインが容器本体100の1/2の高さに刻まれている。
【0044】
作業者は実際の液面の高さがこの規定ラインを越えないように注意を払いながら、液体10の充填を行う必要がある。例えば液体収納部110と蓋部120とを分離せずに第2バルブ部300から液体10の充填を行うこともできるが、この場合には実際の液面の高さを目視することができないので、全体の質量を測定しながら規定の重さになるまで充填を行う。また例えば不活性ガスを満たしたグローブボックス内で液体収納部110と蓋部120とを分離して、液体収納部110の上部に開いた穴から液体10の充填を行うこともでき、この場合には実際の液面の高さと規定ラインとを目視しながら充填を行うことができる。
【0045】
また、下鏡板112には傾斜がつけられており、中央部が最も低い位置にあり(
図3中のA)、中央部から遠ざかるに近づくに連れてだんだん位置が高くなっている。このように容器の底に傾斜をつけることにより、耐圧性を高めることができるとともに、最も低い場所の近辺から中身を取り出すようにすれば、中身が少なくなっても効率よく中身を取り出すことができる。
【0046】
蓋部120は、蓋フランジ121、甲丸パッキン122、蓋接合部材123、カバー124、蝶ボルト125、バルブサポート126、バルブサポート接合部材127、第1バルブ接合部材128、及び第2バルブ接合部材129からなる。蓋フランジ121は、リングフランジ115との接合面を有する円盤形状の板である。甲丸パッキン122は、リングフランジ115と蓋フランジ121との間に挟まれて接合時の密閉性を保つ。蓋接合部材123(ボルト、ナット、スプリングワッシャーのセットが6つ)は、甲丸パッキン122を挟んだ状態でリングフランジ115と蓋フランジ121とを圧接する。カバー124は、第1バルブ部200と第2バルブ部300とを保護する。蝶ボルト125(3個)は、工具を使わずにカバー124を蓋フランジ121に着脱可能に取り付けるための金具である。バルブサポート126は、第1バルブ部200と第2バルブ部300を蓋フランジ121に固定するための取り付け金具である。バルブサポート接合部材127(ボルト、平ワッシャーのセットが2つ)は、バルブサポート126を蓋フランジ121に固定する。第1バルブ接合部材128(ボルト、平ワッシャーのセットが2つ)は、第1バルブ部200をバルブサポート126に固定する。第2バルブ接合部材129(ボルト、平ワッシャーのセットが2つ)は、第2バルブ部300をバルブサポート126に固定する。
【0047】
ここで蓋部120は鋳造やモールド成型により形成することができる。例えば、蓋フランジ121は金属板を打ち抜くか切断することにより成型することができる。
【0048】
<第1バルブ部200の詳細な説明>
図4は、第1バルブ部200の断面図である
【0049】
図4に示すように、第1バルブ部200は、第1バルブ201、及び、注入パイプ202を含む。
【0050】
第1バルブ201は、不活性ガス専用のバルブであり、不活性ガス30を容器本体100内に注入する。なお、第1バルブ201はダイヤフラムバルブであることが望ましい。注入パイプ202は、容器本体100内の、容器本体の1/2の高さ(
図3中のB)よりも高いところまで伸びた導管であってもよい。ここで第1バルブ201により注入される不活性ガス30は、注入パイプ202の先へ導かれ、不活性ガス30が注入パイプ202の先(
図3中のC)の、容器本体の1/2の高さよりも高いところへ導かれる場合、第1バルブ201からはボラジン化合物を含む液体が排出され難い。
【0051】
<第2バルブ部300の詳細な説明>
図5は、第2バルブ部300の断面図である。
【0052】
図5に示すように、第2バルブ部300は、第2バルブ301、及び、吐出パイプ302を含む。
【0053】
第2バルブ301は、液体10専用のバルブであり、ボラジン化合物を含む液体を容器本体100内から外部へ吐出する。なお、第2バルブ301はダイヤフラムバルブであることが望ましい。
【0054】
吐出パイプ302は、容器本体100内の、容器本体の1/2の高さ(
図3中のB)よりも低いところまで伸びた導管であってもよい。ここで第2バルブ301により吐出されるボラジン化合物を含む液体は、吐出パイプ302の先に導かれ、吐出パイプ302(
図3中のD)の、容器本体の1/2の高さよりも低いところから導かれる場合、第2バルブ部300からは、ボラジン化合物を含む液体を排出し易い。さらに吐出パイプ302の先(
図3中のD)が底部分の最も低いところ(
図3中のA)の上方まで伸びていると、中身が残り少なくなるまでスムーズに排出することができる。
【0055】
なお、本発明における密閉容器の液体収納部にボラジン化合物を含む液体を充填し、保存または輸送に使用(例えば、温度は5~40℃程度、期間は10日~4ヶ月程度、液体の充填量は液体収納部の総容量の40~80体積%)した後、液体収納部に充填されたボラジン化合物を含む液体を一旦抜き出し、洗浄するという操作を繰り返し行うことができ、このように密閉容器を繰り返し使用した後に再度ボラジン化合物を含む液体を充填しても、ボラジン化合物を劣化させることなく安定して保存または輸送することができる。密閉容器の液体収納部は、液体収納部に洗浄液を充填して排出する方法、超音波洗浄法、シャワー洗浄法または漬け置き法などによって洗浄することができる。これら洗浄方法に用いる洗浄液としては、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤などの有機溶剤または水が挙げられる。炭化水素系溶剤としてはノルマルヘキサン、トルエン、キシレンが挙げられ、特にノルマルヘキサンが好ましく、アルコール系溶剤としてはエタノール、イソプロピルアルコールが挙げられ、特にイソプロピルアルコールが好ましい。洗浄に用いる水は、純水であることが好ましく、純水とは25℃での電気伝導度が1μS/cm以下である水を意味し、電気伝導度は0.5μS/cm以下が好ましく、0.1μS/cm以下がより好ましく、0.05μS/cm以下が更に好ましく、下限は0.01μS/cm程度であってもよい。純水は、通常の純水製造装置を用いて製造することができる。
【0056】
好ましい洗浄方法は、液体収納部に洗浄液を充填して排出する方法であり、より具体的には、液体収納部に充填されていたボラジン化合物を含む液体の0.8~1.2倍の体積の洗浄液を充填して1秒~30分程度保持した後排出する方法が好ましく、当該方法により炭化水素系溶剤を用いて1~3回洗浄した後、アルコール系溶剤を用いて1~3回洗浄し、更に水を用いて1~2回洗浄することがより好ましい。
【0057】
また、いずれの洗浄方法を採用した場合であっても、全ての洗浄工程を終えた後に、液体収納部を乾燥させることが好ましく、40~60℃で30~70時間程度乾燥させることが好ましい。
【0058】
本発明において、液体に含まれるボラジン化合物の純度(液体中のボラジン化合物の濃度)は、99%以上であることが好ましく、より好ましくは99.3%以上である。また、液体に含まれる粒径0.5μm以上のパーティクル含有量が100個/ml以下であることが好ましく、より好ましくは50個/ml以下であり、更に好ましくは20個/ml以下である。ボラジン化合物を収納した容器の内部には固形残存物(重合物や分解物など)が付着することがあり、そのような固形残存物が付着した容器にボラジン化合物を収納していると、該固形残存物が悪影響を及ぼし、ボラジン化合物が重合するなどして、パーティクルが生じてボラジン化合物の純度は低下する傾向があるが、本発明の密閉容器にボラジン化合物を含む液体を30日間保管して、上記の洗浄および乾燥を行うという操作を1回または2回以上繰り返し、その後の密閉容器にボラジン化合物を含む液体を3ヶ月保管した後の純度を所定以上(例えば、液体中のボラジン化合物の濃度が99%以上、好ましくは99.3%以上、または液体中のボラジン化合物の純度が初期の純度に対して97%以上)にできる。
【0059】
ボラジン化合物の純度は、例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて内部標準法により求めることができる。また、上記したパーティクル含有量は、例えば、公知のパーティクルカウンターを用いて測定することができ、例えば粒径0.5μm以上のパーティクルを測定すればよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0061】
<密閉容器の準備>
液体収納部の内部表面に電解研磨を施したステンレス鋼(SUS316)製の遮光性密閉容器(電解研磨実施容器A)と、内部表面に電解研磨を施していないステンレス鋼製の遮光性密閉容器(電解研磨未実施容器B)を用意した。容器A及び容器Bの液体収納部の容積は2Lであった。「電解研磨実施容器A」の表面粗度(Ra)をJIS B0601(’01)に準じて測定したところ、容器Aの表面粗度Raは0.1μmであり、容器Bの表面粗度Raは1.2μmであった。また、容器A及び容器Bの耐圧性はいずれも0.2MPaであった。
【0062】
実施例1
上記「電解研磨実施容器A」と「電解研磨未実施容器B」の各密閉容器に、それぞれ、容器の総容量の60体積%に相当する量のN,N’,N”-トリメチルボラジンを窒素ガス(露点:-75℃)と共に充填し、25℃で1か月間保管した。その後、充填した液体を一旦抜き出し、各容器とも、容器内を同量のノルマルヘキサンで2回洗浄した後、同量のイソプロピルアルコールを用いて2回洗浄し、続いて超純水(25℃での電気伝導度は0.05μS/cm。以下、超純水について同じ。)を用いて30分間洗浄した。洗浄後の各容器を50℃のオーブン中で2日間乾燥した後、再度、容器の総容量の60体積%に相当する量のN,N’,N”-トリメチルボラジンを窒素ガス(露点-75℃)と共に充填し、25℃で1か月間保管した。
【0063】
続いて保管後の充填液を抜き出し、各容器とも、容器内を同量のノルマルヘキサンで2回洗浄した後、同量のイソプロピルアルコールを用いて2回洗浄し、続いて超純水を用いて30分間洗浄した。洗浄後の各容器を50℃のオーブン中で2日間乾燥した後、再度容器の総容量の60体積%に相当する量のN,N’,N”-トリメチルボラジンを窒素ガス(露点-75℃)と共に充填し、25℃で3か月間保管した。
【0064】
3か月後、各容器内の液体をガスクロマトグラフィー(GC)で分析することにより純度(GC純度)を求め、下記の式よりN,N’,N”-トリメチルボラジン残存率(%)を算出し、結果を表1に示した。また、3か月後の各容器内の液体を、レーザー光散乱を利用したパーティクルカウンター(パーティクルメジャリング システムズ インコーポレイテッド社(PMS社)製; LIQUIL AZ-SO2-HF)を用いて0.5μm以上の粒径を有する粒子の含有量を測定し、充填前の液体中の対応する値からパーティクル増加数を算出して表1に併せて示した。なお、充填時のN,N’,N”-トリメチルボラジンの純度(初期純度)は99.8%であり、粒径0.5μm以上の粒子の含有量(初期パーティクル数)は12個/mlであった。
【0065】
N,N’,N”-トリメチルボラジン残存率(%)=(3か月後のGC純度/充填時のGC純度)×100
【0066】
なお、上記ガスクロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
装置:株式会社島津製作所製 GC-2014
カラム:フロンティア・ラボ社製 Ultra Alloy-1
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:3.0mL/分
試料注入温度:200℃
検出器温度:280℃
試料注入量:0.2μL
カラム温度:50℃(4分)、20℃/分の昇温速度で280℃まで昇温、280℃(15分)
【0067】
【0068】
容器内部の表面粗度の小さい電解研磨実施容器Aでは、トリメチルボラジン残存率はほぼ変化はなく、液中のパーティクル増加数も少なかった。一方、容器内部の表面粗度の大きい電解研磨未実施容器Bでは、トリメチルボラジン残存率は低下しており、また液中のパーティクル増加数も増加していた。以上より、電解研磨を施した表面粗度の小さい容器中では、充填と洗浄を繰り返し行った容器を使用した場合でも、安定的に高純度のボラジン化合物を長期間保管できることがわかった。
【符号の説明】
【0069】
1 梱包体
10 液体
20 密閉容器
30 不活性ガス
100 容器本体
110 液体収納部
111 上鏡板
112 下鏡板
113 スカート部
114 ネック部
115 リングフランジ
120 蓋部
121 蓋フランジ
122 甲丸パッキン
123 蓋接合部材
124 カバー
125 蝶ボルト
126 バルブサポート
127 バルブサポート接合部材
128 第1バルブ接合部材
129 第2バルブ接合部材
200 第1バルブ部
201 第1バルブ
202 注入パイプ
300 第2バルブ部
301 第2バルブ
302 吐出パイプ
【要約】
【課題】ボラジン化合物を繰り返し収納してもボラジン化合物を劣化させることなく安全に保存または輸送することができる容器とボラジン化合物を備える梱包体を提供することを目的とする。
【解決手段】液体と、前記液体を収納する密閉容器と、前記密閉容器内の空間に充填された気体を備える梱包体であって、前記液体は、ボラジン化合物を含むものであり、前記気体は不活性ガスであり、前記密閉容器は0.1MPa以上の耐圧性と遮光性を有し、前記密閉容器は、液体収納部を有し、前記液体収納部の内部表面の表面粗度(Ra)が1.0μm以下であることを特徴とする梱包体。
【選択図】
図3