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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】抗体含有製剤の調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240905BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240905BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/26
A61P7/04
A61P25/28
A61P27/02
A61P29/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023176016
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2023504043の分割
【原出願日】2022-12-01
(65)【公開番号】P2024009927
(43)【公開日】2024-01-23
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021195788
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】副田 康平
(72)【発明者】
【氏名】福田 正和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌也
(72)【発明者】
【氏名】今井 博貴
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智
(72)【発明者】
【氏名】デュブッフ,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ラブリ,キショール
(72)【発明者】
【氏名】ケプフ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ウエイ
(72)【発明者】
【氏名】オルトラ,ヌリア・サンチョ
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188356(WO,A1)
【文献】特開2010-215664(JP,A)
【文献】特表2019-511606(JP,A)
【文献】ヘムライブラ米国添付文書[オンライン],2017年,[検索日2022.12.19],インターネット:<URL: https://accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2017/761083s000lbl.pdf>
【文献】エンスプリング米国添付文書[オンライン],[検索日2023.12.8],2021年05月,インターネット:<URL:https://accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2021/761149s002lbl.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 9/08
A61K 47/10
A61K 47/26
A61P 7/04
A61P 25/28
A61P 27/02
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体、及び界面活性剤を含む水溶液を含んでなる医薬製剤であって、
界面活性剤は、0.5mg/mLの濃度の当該界面活性剤を含有する水溶液が5mN/m以下の表面張力を有し、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポロクサマー188又はポロクサマー237から選択される界面活性剤である、医薬製剤。
【請求項2】
界面活性剤が式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表されるポロクサマーである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
界面活性剤が、ポリソルベート20又はポリソルベート80から選択されるポリソルベートである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項4】
界面活性剤がポリソルベート80である、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
水溶液中に配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体を含む医薬製剤において、水溶液中での粒子の発生を低減させる方法、であって、
界面活性剤として、0.5mg/mLの濃度の界面活性剤水溶液において5mN/m以下の表面張力を有し、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポロクサマー188又はポロクサマー237から選択される界面活性剤を水溶液中に加えることを含む、方法。
【請求項6】
ポロクサマーの不飽和度が0.018mEq/g未満である、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項7】
bが22~33から選択される数である、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
bが25~30から選択される数である、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
bが35~40から選択される数である、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
ポロクサマーの数平均分子量が、7680~9510の範囲に含まれる、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
水溶液中の界面活性剤の濃度が0.001~100mg/mLである、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
水溶液中の抗体の濃度が10~300mg/mLである、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
水溶液が、糖、糖アルコール、緩衝剤、保存剤、担体、酸化防止剤、キレート剤、天然ポリマー、合成ポリマー、凍結保護剤、増量剤、および安定化剤から選択される、1以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
界面活性剤がポロクサマー188又はポロクサマー237である、請求項に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体を含有する安定な医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の抗体製剤が開発され実用に供されているが、抗体含有製剤においては、水溶液中での粒子の形成が問題となる。形成する粒子としては、抗体に由来する凝集体であり、一般的に目で見るのは困難とされる、1.5μm~50μm未満までの粒径の微粒子であるサブビジブル粒子(sub-visible particle、SVP)や、標準照度(2,000-3,000lx程度)で目視により検出可能な可視粒子(visible particle:VP、100μmより大きい)が知られている。なお、医薬製剤における可視粒子の目視による検出率は実施者による間差が大きいが、薬局方に規定されている標準照度(2,000-3,000lx程度)においては100μmの粒径の粒子の検出感度が40%程度、150μmの粒径の粒子の検出感度が70%程度、200μmの粒径の粒子の検出感度がほぼ100%となることが報告されている(非特許文献1)。また、医薬製剤を観察する照度を上げたり、観察時間を長くすることで、実際には最小40μm程度の更に小さな粒径の粒子まで目視で検出することも可能である。
【0003】
粒子の形成を低減するために界面活性剤を用いることが知られている。このような界面活性剤としては、ポロクサマー188(PX188)等のポロクサマー及びポリソルベート20、ポリソルベート80等のポリソルベートを含む非イオン性界面活性剤が挙げられる。しかし、粒子の形成を低減する能力は界面活性剤の種類及びグレードによって異なる(非特許文献2~4、特許文献1)。また、同種の界面活性剤であっても、含有される高分子の構造が不均一であることが知られている。ポロクサマー188は、ロット間でばらつきがあることが知られており、より均一なポロクサマー188を提供するための方法が研究されている(非特許文献2、特許文献2~5)。さらに、界面活性剤の不均一性の結果として生じる疎水度の違いが粒子の形成に影響する可能性があることが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2020-534260号公報
【文献】特表2017-523828号公報
【文献】特表2019-511606号公報
【文献】特表2009-508132号公報
【文献】特表2014-502656号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】James A. Melchore, AAPS PharmSciTech; 2011; 12(1): 215-221.
【文献】Chen et al., J. Chromatogr. A 1652 (2021) 462353.
【文献】Grapentin et al., J. Pharm. Sci. 109 (2020) 2393-2404.
【文献】Vaclaw et al., J. Pharm. Sci. 110 (2021) 746-759.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
凝固第VIII因子を代替する抗血液凝固第IXa/X因子抗体(二種特異性モノクローナル抗体)又はインターロイキン6の受容体との結合を阻害する抗IL-6受容体抗体において界面活性剤の疎水度がどの程度であれば粒子の形成が低減されるか知られていなかった。また、粒子の形成に対する界面活性剤を含む溶液の表面張力及び界面活性剤に含まれる不純物(例えば、不飽和結合を有する未反応の中間体化合物など)の影響は知られていなかった。粒子の発生を抑制するためのより良い界面活性剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリプロピレンオキシドブロックが長く疎水度の高い成分を含有するポロクサマーなどの界面活性剤の添加が、特定の抗体を含む医薬製剤において粒子の形成を低減するために有効であることを見出した。本明細書は以下の発明の開示を包含する。
【0008】
[1-1]配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を含む水溶液を含んでなる医薬製剤であって、
ポロクサマーは、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表され、
下記で定義する条件による高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が全ピーク面積に対して3%以上である、医薬製剤:
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
(1)カラム:マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラム(1000Å、5μm、50×2.1mm)
(2)移動相:
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
(3)溶出勾配プログラム
0分から16.0分まで:移動相B 58%から64%へ
16.0分から18.5分まで:移動相B 64%から90%へ
18.5分から21.5分まで:移動相B 90%で固定
21.5分から23.5分まで:移動相B 90%から100%へ
23.5分から30.0分まで:移動相B 100%で固定
30.0分から30.1分まで:移動相B 100%から58%へ
30.1分から40.0分まで:移動相B 58%で固定
(4)流速:0.2mL/分
(5)検出方法:蒸発光散乱検出(ドリフトチューブ温度:50±25℃、ネブライザー加熱パワーレベル:75%、ゲイン値:250、ガス圧:20psi)
(6)カラム温度:65±5℃
(7)ポロクサマー濃度(超純水中):0.5mg/mL。
【0009】
[1-2]bが22~33から選択される数である、[1-1]に記載の医薬製剤。
[1-3]bが25~30から選択される数である、[1-1]に記載の医薬製剤。
[1-4]bが35~40から選択される数である、[1-1]に記載の医薬製剤。
【0010】
[1-5]17分以後のピーク面積が6%以上、19%以上、33%以上、又は35%以上である、[1-1]~[1-4]のいずれかに記載の医薬製剤。
[1-6]配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を含む水溶液を含んでなる医薬製剤であって、
ポロクサマーは、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表され、
下記で定義する条件による高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が1.5分以後の全ピーク面積に対して3%以上である、医薬製剤:
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
(1)カラム:マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラム(1000Å、5μm、50×2.1mm)
(2)移動相:
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
(3)溶出勾配プログラム
0分から16.0分まで:移動相B 58%から64%へ
16.0分から18.5分まで:移動相B 64%から90%へ
18.5分から21.5分まで:移動相B 90%で固定
21.5分から23.5分まで:移動相B 90%から100%へ
23.5分から30.0分まで:移動相B 100%で固定
30.0分から30.1分まで:移動相B 100%から58%へ
30.1分から40.0分まで:移動相B 58%で固定
(4)流速:0.2mL/分
(5)検出方法:蒸発光散乱検出(ドリフトチューブ温度:50±25℃、ネブライザー加熱パワーレベル:75%、ゲイン値:250、ガス圧:20psi)
(6)カラム温度:65±5℃
(7)ポロクサマー濃度(超純水中):0.5mg/mL。
【0011】
[1-7]bが22~33から選択される数である、[1-6]に記載の医薬製剤。
[1-8]bが25~30から選択される数である、[1-6]に記載の医薬製剤。
[1-9]bが35~40から選択される数である、[1-6]に記載の医薬製剤。
【0012】
[1-10]17分以後のピーク面積が6%以上、20%以上、36%以上、又は46%以上である、[1-6]~[1-9]に記載の医薬製剤。
[1-11]マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラムがPLRP-Sカラムである[1-1]~[1-10]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0013】
[1-12]配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を含む水溶液を含んでなる医薬製剤であって、
ポロクサマーは、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表され、
ポロクサマーが、(CO)を分子内に34以上含むポロクサマー分子をポロクサマー全体に対して3%(w/w)以上の比率で含む、医薬製剤。
【0014】
[1-13]bが22~33から選択される数である、[1-12]に記載の医薬製剤。
[1-14]bが25~30から選択される数である、[1-12]に記載の医薬製剤。
【0015】
[1-15]bが35~40から選択される数である、[1-12]に記載の医薬製剤。
[1-16](CO)を分子内に34以上含むポロクサマー分子をポロクサマー全体に対して6%、20%、29%、または36%(w/w)以上の比率で含む、[1-12]~[1―15]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0016】
[1-17]ポロクサマーの数平均分子量が、7680~9510の範囲に含まれる、[1-1]~[1-16]のいずれかに記載の医薬製剤。
[1-18]水溶液中のポロクサマーの濃度が0.001~100mg/mL、0.01~10mg/mL、0.05~5mg/mL、又は0.1~1mg/mLである、[1-1]~[1-17]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0017】
[1-19]水溶液中の抗体の濃度が10~300mg/mL、20~200mg/mL、又は30~150mg/mLである、[1-1]~[1-18]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0018】
[1-20]水溶液が、糖、糖アルコール、緩衝剤、保存剤、担体、酸化防止剤、キレート剤、天然ポリマー、合成ポリマー、凍結保護剤、増量剤、および安定化剤から選択される、1以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、[1-1]~[1-19]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0019】
[1-21]ポロクサマーがポロクサマー188又はポロクサマー237である、[1-1]~[1-20]のいずれかに記載の医薬製剤。
[2-1]配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体、及び界面活性剤を含む水溶液を含んでなる医薬製剤であって、
界面活性剤は、0.5mg/mLの濃度の当該界面活性剤を含有する水溶液が52.3mN/m以下の表面張力を有する界面活性剤である、医薬製剤。
【0020】
[2-2]界面活性剤は、0.5mg/mLの濃度の当該界面活性剤を含有する水溶液が52mN/m以下、51mN/m以下、50.7mN/m以下、50.5mN/m以下、又は39mN/m以下の表面張力を有する界面活性剤である、[2-1]に記載の医薬製剤。
【0021】
[2-3]界面活性剤が、ポロクサマー、又は脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート)から選択される、[2-1]又は[2-2]に記載の医薬製剤。
[2-4]界面活性剤が[1-1]~[1-4]又は[1-21]のいずれかに記載の式Iで表されるポロクサマーである、[2-1]~[2-3]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0022】
[2-5]ポロクサマーがポロクサマー188又はポロクサマー237である、[2-3]に記載の医薬製剤。
[2-6]ポロクサマーの数平均分子量が、7680~9510の範囲に含まれる、[2-4]又は[2-5]に記載の医薬製剤。
【0023】
[2-7]界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、又はポリソルベート80から選択されるポリソルベートである、[2-1]~[2-6]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0024】
[2-8]界面活性剤が、ポリソルベート20又はポリソルベート80から選択されるソルベートである、[2-1]~[2-7]のいずれかに記載の医薬製剤。
[2-9]界面活性剤がポリソルベート80である、[2-1]~[2-8]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0025】
[2-10]水溶液中の界面活性剤の濃度が0.001~100mg/mL、0.01~10mg/mL、0.05~5mg/mL、又は0.1~1mg/mLである、[2-1]~[2-9]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0026】
[2-11]水溶液中の抗体の濃度が10~300mg/mL、20~200mg/mL、又は30~150mg/mLである、[2-1]~[2-10]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0027】
[2-12]水溶液が、糖、糖アルコール、緩衝剤、保存剤、担体、酸化防止剤、キレート剤、天然ポリマー、合成ポリマー、凍結保護剤、増量剤、および安定化剤から選択される1以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、[2-1]~[2-11]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0028】
[3-1]配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を含む水溶液を含んでなる医薬製剤であって、
ポロクサマーは、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表され、
ポロクサマーの不飽和度が0.018mEq/g未満である、医薬製剤。
【0029】
[3-2]bが22~33から選択される数である、[3-1]に記載の医薬製剤。
[3-3]bが25~30から選択される数である、[3-1]に記載の医薬製剤。
[3-4]bが35~40から選択される数である、[3-1]に記載の医薬製剤。
【0030】
[3-5]ポロクサマーの数平均分子量が、7680~9510の範囲に含まれる、[3-1]~[3-4]のいずれかに記載の医薬製剤。
[3-6]水溶液中のポロクサマーの濃度が0.001~100mg/mL、0.01~10mg/mL、0.05~5mg/mL、又は0.1~1mg/mLである、[3-1]~[3-5]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0031】
[3-7]水溶液中の抗体の濃度が10~300mg/mL、20~200mg/mL、又は30~150mg/mLである、[3-1]~[3-6]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0032】
[3-8]水溶液が、糖、糖アルコール、緩衝剤、保存剤、担体、酸化防止剤、キレート剤、天然ポリマー、合成ポリマー、凍結保護剤、増量剤、および安定化剤から選択される1以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、[3-1]~[3-7]のいずれかに記載の医薬製剤。
【0033】
[3-9]ポロクサマーがポロクサマー188又はポロクサマー237である、[3-1]~[3-8]のいずれかに記載の医薬製剤。
[4-1]水溶液中に配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体を含む医薬製剤において、水溶液中での粒子の発生を低減させる方法、であって、
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を水溶液中に加えることを含み、
ポロクサマーが、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表され、下記で定義する条件による高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が全ピーク面積に対して3%以上であるポロクサマーを水溶液中に加えることを含む、方法:
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
(1)カラム:マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラム(1000Å、5μm、50×2.1mm)
(2)移動相:
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
(3)溶出勾配プログラム
0分から16.0分まで:移動相B 58%から64%へ
16.0分から18.5分まで:移動相B 64%から90%へ
18.5分から21.5分まで:移動相B 90%で固定
21.5分から23.5分まで:移動相B 90%から100%へ
23.5分から30.0分まで:移動相B 100%で固定
30.0分から30.1分まで:移動相B 100%から58%へ
30.1分から40.0分まで:移動相B 58%で固定
(4)流速:0.2mL/分
(5)検出方法:蒸発光散乱検出(ドリフトチューブ温度:50±25℃、ネブライザー加熱パワーレベル:75%、ゲイン値:250、ガス圧:20psi)
(6)カラム温度:65±5℃
(7)ポロクサマー濃度(超純水中):0.5mg/mL。
【0034】
[4-2]水溶液中に配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体を含む医薬製剤において、水溶液中での粒子の発生を低減させる方法、であって、
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を水溶液中に加えることを含み、
ポロクサマーが、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表され、下記で定義する条件による高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が1.5分以後の全ピーク面積に対して3%以上であるポロクサマーを水溶液中に加えることを含む、方法:
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
(1)カラム:マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラム(1000Å、5μm、50×2.1mm)
(2)移動相:
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
(3)溶出勾配プログラム
0分から16.0分まで:移動相B 58%から64%へ
16.0分から18.5分まで:移動相B 64%から90%へ
18.5分から21.5分まで:移動相B 90%で固定
21.5分から23.5分まで:移動相B 90%から100%へ
23.5分から30.0分まで:移動相B 100%で固定
30.0分から30.1分まで:移動相B 100%から58%へ
30.1分から40.0分まで:移動相B 58%で固定
(4)流速:0.2mL/分
(5)検出方法:蒸発光散乱検出(ドリフトチューブ温度:50±25℃、ネブライザー加熱パワーレベル:75%、ゲイン値:250、ガス圧:20psi)
(6)カラム温度:65±5℃
(7)ポロクサマー濃度(超純水中):0.5mg/mL。
【0035】
[4-3]マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラムがPLRP-Sカラムである[4-1]又は[4-2]に記載の方法。
[4-4]水溶液中に配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体を含む医薬製剤において、水溶液中での粒子の発生を低減させる方法、であって、
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を水溶液中に加えることを含み、
ポロクサマーが、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表され、ポロクサマーが、(CO)を分子内に34以上含むポロクサマー分子をポロクサマー全体に対して3%(w/w)以上の比率で含む、方法。
【0036】
[4-5]bが22~33から選択される数である、[4-1]~[4-4]のいずれかに記載の方法。
[4-6]bが25~30から選択される数である、[4-1]~[4-4]のいずれかに記載の方法。
【0037】
[4-7]bが35~40から選択される数である、[4-1]~[4-4]のいずれかに記載の方法。
[4-8]ポロクサマーがポロクサマー188又はポロクサマー237である、[4-1]~[4-7]のいずれかに記載の方法。
【0038】
[4-9]水溶液中に配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体を含む医薬製剤において、水溶液中での粒子の発生を低減させる方法、であって、
界面活性剤として、0.5mg/mLの濃度の界面活性剤水溶液において52.3mN/m以下の表面張力を有する界面活性剤を水溶液中に加えることを含む、方法。
【0039】
[4-10]界面活性剤が、ポロクサマー、又は脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート)から選択される、[4-9]に記載の方法。
[4-11]界面活性剤が[1-1]~[1-4]又は[1―21]のいずれかに記載の式Iで表されるポロクサマーである、[4-9]又は[4-10]に記載の方法。
【0040】
[4-12]ポロクサマーの数平均分子量が、7680~9510の範囲に含まれる、[4-11]に記載の方法。
[4-13]界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、又はポリソルベート80から選択されるポリソルベートである、[4-9]~[4-12]のいずれかに記載の方法。
【0041】
[4-14]界面活性剤が、ポリソルベート20又はポリソルベート80から選択されるポリソルベートである、[4-9]~[4-13]のいずれかに記載の方法。
[4-15]界面活性剤がポリソルベート80である、[4-9]~[4-14]のいずれかに記載の方法。
【0042】
[4-16]界面活性剤が水溶液中で0.001~100mg/mL、0.01~10mg/mL、0.05~5mg/mL、又は0.1~1mg/mLの濃度となるように加えられる、[4-1]~[4-15]のいずれかに記載の方法。
【0043】
[4-17]水溶液中の抗体の濃度が10~300mg/mL、20~200mg/mL、又は30~150mg/mLである、[4-1]~[4-16]のいずれかに記載の方法。
【0044】
[4-18]水溶液が、糖、糖アルコール、緩衝剤、保存剤、担体、酸化防止剤、キレート剤、天然ポリマー、合成ポリマー、凍結保護剤、増量剤、および安定化剤から選択される1以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、[4-1]~[4-17]のいずれかに記載の方法。
【0045】
[4-19]前記粒子がタンパク質由来である、[4-1]~[4-18]のいずれかに記載の方法。
[4-20]前記粒子が40μm以上の粒径を有する、[4-1]~[4-19]のいずれかに記載の方法。
[5-1]配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を含む水溶液を含んでなる医薬製剤であって、
ポロクサマーの数平均分子量が、7680~9510の範囲に含まれる、医薬製剤。
[5-2][5-1]に記載の医薬製剤であって、
ポロクサマーは、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に60~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表される、医薬製剤。
[5-3]aおよびcは独立に60~68から選択される数である、[5-2]に記載の医薬製剤。
[5-4]bが22~33から選択される数である、[5-3]に記載の医薬製剤。
[5-5]bが25~30から選択される数である、[5-3]に記載の医薬製剤。
[5-6]bが35~40から選択される数である、[5-3]に記載の医薬製剤。
[5-7]aおよびcは独立に75~85から選択される数である、[5-2]に記載の医薬製剤。
[5-8]bが22~33から選択される数である、[5-7]に記載の医薬製剤。
[5-9]bが25~30から選択される数である、[5-7]に記載の医薬製剤。
[5-10]bが35~40から選択される数である、[5-7]に記載の医薬製剤。
[5-11]aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、bは25~30から選択される数である、[5-2]に記載の医薬製剤。
[5-12]aおよびcは独立に60~68から選択される数であり、bは35~40から選択される数である、[5-2]に記載の医薬製剤。
[5-13]
下記で定義する条件による高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が1.5分以後の全ピーク面積に対して3%以上である、[5-1]~[5-12]のいずれかに記載の医薬製剤:
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
(1)カラム:マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラム(1000Å、5μm、50×2.1mm)
(2)移動相:
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
(3)溶出勾配プログラム
0分から16.0分まで:移動相B 58%から64%へ
16.0分から18.5分まで:移動相B 64%から90%へ
18.5分から21.5分まで:移動相B 90%で固定
21.5分から23.5分まで:移動相B 90%から100%へ
23.5分から30.0分まで:移動相B 100%で固定
30.0分から30.1分まで:移動相B 100%から58%へ
30.1分から40.0分まで:移動相B 58%で固定
(4)流速:0.2mL/分
(5)検出医薬製剤:蒸発光散乱検出(ドリフトチューブ温度:50±25℃、ネブライザー加熱パワーレベル:75%、ゲイン値:250、ガス圧:20psi)
(6)カラム温度:65±5℃
(7)ポロクサマー濃度(超純水中):0.5mg/mL。
[5-14]高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が全ピーク面積に対して3%以上である、[5-13]に記載の医薬製剤。
[5-15]17分以後のピーク面積が6%以上、19%以上、20%以上、33%以上、35%以上、36%以上、又は46%以上である、[5-13]又は[5-14]に記載の医薬製剤。
[5-16]マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラムがPLRP-Sカラムである[5-13]~[5-15]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-17]ポロクサマーが、(CO)を分子内に34以上含むポロクサマー分子をポロクサマー全体に対して3%(w/w)以上の比率で含む、[5-1]~[5-16]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-18]ポロクサマーが、(CO)を分子内に34以上含むポロクサマー分子をポロクサマー全体に対して6%、20%、29%、または36%(w/w)以上の比率で含む、[5-1]~[5-17]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-19]ポロクサマーの不飽和度が0.018mEq/g未満である、[5-1]~[5-18]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-20]ポロクサマーの数平均分子量が、6840~8830の範囲に含まれる、[5-1]~[5-19]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-21]水溶液中のポロクサマーの濃度が0.001~100mg/mL、0.01~10mg/mL、0.05~5mg/mL、又は0.1~1mg/mLである、[5-1]~[5-20]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-22]水溶液中の抗体の濃度が10~300mg/mL、20~200mg/mL、又は30~150mg/mLである、[5-1]~[5-21]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-23]水溶液が、糖、糖アルコール、緩衝剤、保存剤、担体、酸化防止剤、キレート剤、天然ポリマー、合成ポリマー、凍結保護剤、増量剤、および安定化剤から選択される、1以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、[5-1]~[5-22]のいずれかに記載の医薬製剤。
[5-24]ポロクサマーがポロクサマー188又はポロクサマー237である、[5-1]~[5-23]のいずれかに記載の医薬製剤。
[6-1]水溶液中に配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体を含む医薬製剤において、水溶液中での粒子の発生を低減させる方法、であって、
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)を水溶液中に加えることを含み、
ポロクサマーの数平均分子量が、7680~9510の範囲に含まれる、方法。
[6-2][6-1]に記載の方法であって、
ポロクサマーは、式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
[式中、aおよびcは独立に60~85から選択される数であり、
bは22~40から選択される数であり、
a、bおよびcはポロクサマー全体における平均値である]
で表される、方法。
[6-3]aおよびcは独立に60~68から選択される数である、[6-2]に記載の方法。
[6-4]bが22~33から選択される数である、[6-3]に記載の方法。
[6-5]bが25~30から選択される数である、[6-3]に記載の方法。
[6-6]bが35~40から選択される数である、[6-3]に記載の方法。
[6-7]aおよびcは独立に75~85から選択される数である、[6-2]に記載の方法。
[6-8]bが22~33から選択される数である、[6-7]に記載の方法。
[6-9]bが25~30から選択される数である、[6-7]に記載の方法。
[6-10]bが35~40から選択される数である、[6-7]に記載の方法。
[6-11]aおよびcは独立に75~85から選択される数であり、bは25~30から選択される数である、[6-2]に記載の方法。
[6-12]aおよびcは独立に60~68から選択される数であり、bは35~40から選択される数である、[6-2]に記載の方法。
[6-13]下記で定義する条件による高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が1.5分以後の全ピーク面積に対して3%以上であるポロクサマーを水溶液中に加えることを含む、[6-1]~[6-12]のいずれかに記載の方法:
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
(1)カラム:マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラム(1000Å、5μm、50×2.1mm)
(2)移動相:
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
(3)溶出勾配プログラム
0分から16.0分まで:移動相B 58%から64%へ
16.0分から18.5分まで:移動相B 64%から90%へ
18.5分から21.5分まで:移動相B 90%で固定
21.5分から23.5分まで:移動相B 90%から100%へ
23.5分から30.0分まで:移動相B 100%で固定
30.0分から30.1分まで:移動相B 100%から58%へ
30.1分から40.0分まで:移動相B 58%で固定
(4)流速:0.2mL/分
(5)検出方法:蒸発光散乱検出(ドリフトチューブ温度:50±25℃、ネブライザー加熱パワーレベル:75%、ゲイン値:250、ガス圧:20psi)
(6)カラム温度:65±5℃
(7)ポロクサマー濃度(超純水中):0.5mg/mL。
[6-14]高速液体クロマトグラフィーにおいて溶出時間が17分以後のピーク面積が全ピーク面積に対して3%以上である、[6-13]に記載の方法。
[6-15]17分以後のピーク面積が6%以上、19%以上、20%以上、33%以上、35%以上、36%以上、又は46%以上である、[6-13]又は[6-14]に記載の方法。
[6-16]マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラムがPLRP-Sカラムである[6-13]~[6-15]のいずれかに記載の方法。
[6-17]ポロクサマーが、(CO)を分子内に34以上含むポロクサマー分子をポロクサマー全体に対して3%(w/w)以上の比率で含む、[6-1]~[6-16]のいずれかに記載の方法。
[6-18]ポロクサマーが、(CO)を分子内に34以上含むポロクサマー分子をポロクサマー全体に対して6%、20%、29%、または36%(w/w)以上の比率で含む、[6-1]~[6-17]のいずれかに記載の方法。
[6-19]ポロクサマーの不飽和度が0.018mEq/g未満である、[6-1]~[6-18]のいずれかに記載の方法。
[6-20]ポロクサマーの数平均分子量が、6840~8830の範囲に含まれる、[6-1]~[6-19]のいずれかに記載の方法。
[6-21]ポロクサマーがポロクサマー188又はポロクサマー237である、[6-1]~[6-20]のいずれかに記載の方法。
[6-22]水溶液中に配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する抗体、又は配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有する抗体から選択されるモノクローナル抗体を含む医薬製剤において、水溶液中での粒子の発生を低減させる方法、であって、
界面活性剤として、0.5mg/mLの濃度の界面活性剤水溶液において52.3mN/m以下の表面張力を有する界面活性剤を水溶液中に加えることを含む、方法。
[6-23]界面活性剤が、ポロクサマー、又は脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート)から選択される、[6-22]に記載の方法。
[6-24]界面活性剤が[6-2]~[6-12]、又は[6-21]のいずれかに記載の式Iで表されるポロクサマーである、[6-22]又は[6-23]に記載の方法。
[6-25]界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、又はポリソルベート80から選択されるポリソルベートである、[6-22]~[6-24]のいずれかに記載の方法。
[6-26]界面活性剤が、ポリソルベート20又はポリソルベート80から選択されるポリソルベートである、[6-22]~[6-25]のいずれかに記載の方法。
[6-27]界面活性剤がポリソルベート80である、[6-22]~[6-25]のいずれかに記載の方法。
[6-28]界面活性剤が水溶液中で0.001~100mg/mL、0.01~10mg/mL、0.05~5mg/mL、又は0.1~1mg/mLの濃度となるように加えられる、[6-1]~[6-27]のいずれかに記載の方法。
[6-29]水溶液中の抗体の濃度が10~300mg/mL、20~200mg/mL、又は30~150mg/mLである、[6-1]~[6-28]のいずれかに記載の方法。
[6-30]水溶液が、糖、糖アルコール、緩衝剤、保存剤、担体、酸化防止剤、キレート剤、天然ポリマー、合成ポリマー、凍結保護剤、増量剤、および安定化剤から選択される1以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、[6-1]~[6-29]のいずれかに記載の方法。
[6-31]前記粒子がタンパク質由来である、[6-1]~[6-30]のいずれかに記載の方法。
[6-32]前記粒子が40μm以上の粒径を有する、[6-1]~[6-31]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0046】
本発明の一つの側面によれば、粒子の形成が低減された、凝固第VIII因子を代替する抗血液凝固第IXa/X因子抗体(二種特異性モノクローナル抗体)又はインターロイキン6の受容体との結合を阻害する抗IL-6受容体抗体及び界面活性剤を含む水溶液を含んでなる医薬製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、逆相クロマトグラフィーによる7種類のPX188の成分の分析結果を示すクロマトグラムである。
図2図2は、7種類のPX188及び1種類のPS80の表面張力値の測定結果を示すグラフである。
図3図3は、PX188に含まれる成分における遅い溶出物の割合(%)と表面張力値の相関を示すグラフである。
図4図4は、メカニカルストレス(1セットあるいは4セットの振動ストレスを含む)の操作を示す。
図5図5は、メカニカルストレス付与の操作を示す。
図6図6は、代表的なタンパク質のみからなる粒子(Protein-only)及びタンパク質とポリジメチルシロキサン(PDMS)の複合体からなる粒子(Protein-PDMS)のラマンスペクトルを示す。
図7図7は、PX188の遅い溶出物の割合とmAb1の熱ストレス条件における粒子の発生率との相関を示すグラフである。
図8図8は、PX188の遅い溶出物の割合とmAb2の熱ストレス条件における目視により検出可能な粒子の発生率との相関を示すグラフである。
図9図9は、それぞれPX188の遅い溶出物の割合(%)、不飽和度(Unsaturation)、及び合成変数と、mAb1のメカニカルストレス条件における目視により検出可能な粒子の発生率との相関を示すグラフである。
図10図10は、それぞれPX188の遅い溶出物の割合、不飽和度(Unsaturation)、及び合成変数と、mAb2のメカニカルストレス条件における目視により検出可能な粒子の発生率との相関を示すグラフである。
図11図11は、PX188の界面吸着による抗体保護のイメージ図である。
図12図12は、PX188の表面張力値のグラフである。
図13図13は、PX237の逆相クロマトグラフィーによる成分分析の結果を示す。
図14図14は、PX237の表面張力値の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
1.抗体
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0049】
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0050】
本明細書でいう用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体のことをいう。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、生じ得る変異抗体(例えば、自然に生じる変異を含む変異抗体、またはモノクローナル抗体調製物の製造中に発生する変異抗体。そのような変異体は通常若干量存在している。)を除いて、同一でありおよび/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるものである、という抗体の特徴を示し、何らかの特定の方法による抗体の製造を求めるものと解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって用いられるモノクローナル抗体は、これらに限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含んだトランスジェニック動物を利用する方法を含む、様々な手法によって作成されてよく、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0051】
本明細書で用語「Fc領域」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。
【0052】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(HVR)を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindtet al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993);Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
【0053】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0054】
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。
【0055】
本発明の一つの側面において抗体は、(a)凝固第IX因子(FIX)および/または活性化血液凝固第IX因子(FIXa)ならびに(b)凝固第X因子(FX)および/または活性化血液凝固因子FX(FXa)と特異的に結合し、凝固第VIII因子(FVIII)の補因子機能を模倣する二重特異性抗体(例えば、エミシズマブ)、又はインターロイキン6の受容体との結合を阻害する抗IL-6受容体抗体(例えば、サトラリズマブ(SA237))である。
【0056】
エミシズマブは、配列番号1及び2のH鎖と配列番号3のL鎖を有する二重特異性抗体である。
本発明で使用される抗IL-6受容体抗体は、IL-6受容体と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。そのような抗IL-6受容体抗体の例としては、配列番号4のH鎖と配列番号5のL鎖を有するモノクローナル抗体(サトラリズマブ(SA237))が挙げられる。
【0057】
本発明の一つの側面において、抗体は、キメラ、ヒト化、またはヒト抗体を含む、モノクローナル抗体である。一態様において、抗体は、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、またはF(ab’)断片などの、抗体断片である。別の態様において、抗体は、例えば、完全IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4抗体や、本明細書で定義された他の抗体クラスまたはアイソタイプの、全長抗体である。
【0058】
本発明の一つの側面において、使用されるモノクローナル抗体としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、サル等の動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、バイスペシフィック抗体など人為的に改変した遺伝子組み換え型抗体も含まれる。さらに、血中滞留性や体内動態の改善を目的とした抗体分子の物性の改変(具体的には、等電点(p1)改変、Fc受容体の親和性改変等)を行うために抗体の定常領域等を人為的に改変した遺伝子組み換え型抗体も含まれる。
【0059】
本発明の一つの側面において、使用される抗体は、公知の方法により作製することができる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。
【0060】
また、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl, A. K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAを得たら、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0061】
本発明の一つの側面では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNA都連結し、これを発現ベクターに組見込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0062】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定量域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region; FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開第239400号、WO 96/02576 参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0063】
抗体の活性、物性、薬物動態、安全性等を改善するために抗体のアミノ酸を置換する技術としては、例えば以下に述べる技術も知られており、本発明の一つの側面において、使用される抗体には、このようなアミノ酸の置換(欠損や付加も含む)を施された抗体も含まれる。
【0064】
IgG抗体の可変領域にアミノ酸置換を施す技術は、ヒト化(Tsurushita N, Hinton PR、Kumar S. , Design of humanized antibodies: from anti-Tac to Zenapax., Methods.2005 May;36(1):69-83.)をはじめとして、結合活性を増強させるための相補性決定領域(CDR)のアミノ酸置換によるaffinity maturation(Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R. , A general method for greatly improving the affinity of antibodies by using combinatorial libraries., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jun 14;102(24):8466-71.)、フレームワーク(FR)のアミノ酸置換による物理化学的安定性の向上(Ewert S, Honegger A, Pluckthun A. , Stability improvement of antibodies for extracellular and intracellular applications: CDR grafting to stable frameworks and structure-based framework engineering. , Methods. 2004 Oct;34(2):184-99. Review)が報告されている。また、IgG抗体のFc領域のアミノ酸置換を施す技術として、抗体依存性細胞障害活性(ADCC)活性や補体依存性細胞障害活性(CDC)活性を増強させる技術が知られている(Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol Cells. 2005 Aug 31;20(1):17-29. Review.)。さらに、このようなエフェクター機能を増強させるだけではなく、抗体の血中半減期を向上させるFcのアミノ酸置換の技術が報告されている(Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N., An engineered human IgG1 antibody with longer serum half-life.、 J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56.,Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Increasing the serum persistence of an IgG fragment by random mutagenesis., Nat Biotechnol. 1997 Jul;15(7):637-40.)。さらには抗体の物性改善を目的とした定常領域の種々のアミノ酸置換技術も知られている(WO 09/41613)。
【0065】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公第平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO 93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602、WO 94/25585、WO 96/34096、WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047、WO 92/20791、WO 93/06213、WO 93/11236、WO 93/19172、WO 95/01438、WO 95/15388を参考にすることができる。本発明の一つの側面において、使用される抗体には、このようなヒト抗体も含まれる。
【0066】
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney)、HeLa、Vero、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3) 虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
【0067】
さらに、医薬製剤において使用される抗体には、抗体修飾物が含まれる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)や細胞障害性薬剤等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる(Farmaco. 1999 Aug 30;54(8): 497-516.、Cancer J. 2008 May-Jun;14(3):154-69)。このような抗体修飾物は、抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0068】
本発明の一つの側面では、本開示における抗体はキメラ抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えばUS Patent No. 4,816,567やMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984)に記載されている。キメラ抗体は非ヒト可変領域(例えば、サルのような非ヒト霊長類、又は、マウス、ラット、ハムスター、若しくはウサギ等に由来する可変領域)とヒトの定常領域を含んでもよい。
【0069】
本発明の一つの側面では、本開示における抗体はヒト化抗体であってよい。典型的には、非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を維持しつつ、ヒトでの免疫原性を減少させるためにヒト化される。典型的には、ヒト化抗体は一つ以上の可変領域を含み、その中にはHVR、例えば非ヒト抗体に由来するCDR(又はその一部)と、ヒト抗体配列に由来するFR(又はその一部)とが存在する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト定常領域の少なくとも一部を含むことができる。一実施態様において、ヒト化抗体内のFRのアミノ酸残基は、例えば、抗体の特異性や親和性を維持又は改善させるために、非ヒト抗体(例えばHVR残基の由来となった抗体)の対応するアミノ酸残基と置換されていてもよい。
【0070】
ヒト化抗体及びその作製方法は、例えば以下で総説されており(Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008))、更に例えば以下に記載されている:Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989); US Patent Nos. 5, 821,337, 7,527,791, 6,982,321, and 7,087,409; Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005) (describing specificity determining region (SDR) grafting); Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991) (describing "resurfacing"); Dall'Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005) (describing "FR shuffling"); and Osbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) and Klimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000) (describing the "guided selection" approach to FR shuffling)。
【0071】
本発明の一つの側面では、ヒト化に使われるであろうヒトフレームワークは、例えば、「ベストフィット」法(Sims et al. J. Immunol. 151:2296 (1993))を用いて選択されたフレームワーク、重鎖又は軽鎖の可変領域のある特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク(Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992) and Presta et al. J. Immunol., 151:2623 (1993))、FRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域を含んでいてもよい(Baca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997) とRosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618(1996))。
【0072】
本発明の一つの側面では、本開示における抗体はヒト抗体であってもよい。ヒト抗体は様々な技術で作製することができる。ヒト抗体は例えばvan Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-374 (2001) や Lonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008)に概説される。ヒト抗体は抗原へ応答して完全ヒト抗体又はヒト可変領域を伴う完全抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物へ免疫原を投与することにより調製されてもよい。そのような動物は、典型的にはヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部若しくは一部分を含み、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部若しくは一部分は、内因性の免疫グロブリン遺伝子座を置き換えるか、又は、染色体外に若しくは当該動物の染色体内にランダムに取り込まれた状態で存在する。そのようなトランスジェニックマウスにおいて、内因性の免疫グロブリン遺伝子座は、通常不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法の総説として、Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117-1125 (2005) を参照。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載したUS Patent No. 6,075,181、6,150,584号;HUMAB(登録商標)技術を記載したUS Patent No. 5,770,429;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載したUS Patent No. 7,041,870;並びに、VELOCIMOUSE(登録商標)技術を記載したUS2007/0061900を参照。このような動物によって生成される完全抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせるなどして、さらに修飾されてもよい。
【0073】
本発明の別の側面では、ヒト抗体はハイブリドーマに基づいた方法でも作製できる。ヒトモノクローナル抗体の産生のための、ヒトミエローマ細胞及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株は以下に記述される(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991))。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されるヒト抗体はLi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006) に記述される。その他の方法としては、例えばUS Patent No. 7,189,826(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の製造を記載)、及び、Ni, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)が挙げられてよい。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005) 及びVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載される。
【0074】
本発明の別の側面では、ヒト抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することでも生成できる。このような可変領域配列は、次に所望のヒト定常領域と組み合わせることができる。抗体ライブラリからヒト抗体を選択する手法は以下を参照。
【0075】
本発明の一つの側面では、本開示における抗体は、所望の1つ又は複数の活性を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって単離してもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリの作製方法や、所望の結合特性を有する抗体についてそのようなライブラリをスクリーニングする方法等が当該技術分野において知られている。そのような方法は、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001) で総説されており、さらに例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554;Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992);Marks and Bradbury, Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);Lee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004)に記載される。
【0076】
本発明の一つの側面における特定のファージディスプレイ法において、VHおよびVLのレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction:PCR) により別々にクローニングでき、無作為にファージライブラリ中で再結合され、当該ファージライブラリは、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)で記載されるようにして、抗原結合ファージについてスクリーニングされてよい。ファージは、例えばscFvやFabといった抗体断片を提示する。免疫化された供給源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築することを要さずに免疫原に対する高親和性抗体を提供できる。別の実施態様において、Griffiths et al., EMBO J, 12: 725-734 (1993)に記載されるように、免疫化することなしに、ナイーブレパートリーを(例えば、ヒトから)クローニングして、広範な非自己又は自己抗原への単一由来の抗体を提供することもできる。さらなる別の実施態様において、ナイーブライブラリは、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992) に記載されるように、幹細胞から再編成前のV-遺伝子セグメントをクローニングし、超可変領域CDR3をコードしかつin vitroで再構成を達成するための無作為配列を含んだPCRプライマーを用いることにより、合成的に作ることもできる。ヒト抗体ファージライブラリを記載した特許文献は、例えばUS Patent No. 5,750,373, US2005/0079574, US2005/0119455, US2005/0266000, US2007/0117126, US2007/0160598, US2007/0237764, US2007/0292936, US2009/0002360が挙げられる。
【0077】
ヒト抗体ライブラリから単離される抗体又は抗体断片は、本明細書においてヒト抗体又はヒト抗体断片とみなす。
本発明の一つの側面では、本開示における抗体は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合特異性を有する抗体(例えばモノクローナル抗体)である。一実施態様において、結合特異性の一つは抗原に対するものであり、他はそれ以外の抗原に対するものである。別の実施態様において、二重特異性抗体は、抗原の異なった2つのエピトープに結合してもよい。二重特異性抗体は、抗原を発現する細胞に細胞傷害剤を局在化するために使用されてもよい。二重特異性抗体は、全長抗体として又は抗体断片として調製されてよい。
【0078】
多重特異性抗体の作製手法としては、限定はされないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組換え共発現(例えばMilstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983)、WO93/08829、及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991))、及びknob-in-hole技術(例えばUS Patent No. 5,731,168)が挙げられる。多重特異性抗体は、Fcヘテロ二量体分子を作製するために静電ステアリング効果(electrostatic steering effects)を操作すること(例えばWO2009/089004A1);2つ以上の抗体又は抗体断片を架橋すること(例えばUS Patent No. 4,676,980及びBrennan et al., Science, 229: 81(1985));ロイシンジッパーを用いて2つの特異性を有する抗体を作成すること(例えばKostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992));「ダイアボディ」技術を用いて二重特異性抗体断片を作製すること(例えばHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993));scFvダイマーを用いること(例えばGruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994));三重特異性抗体を調製すること(例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991))によって作製してもよい。さらに、「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を有するように操作された抗体であってもよい(例えばUS2006/0025576)。
【0079】
本発明の一つの側面では、本開示における抗体又はそれの抗体断片は、抗原と別の異なる抗原とに結合する1つの抗原結合部位を含む、「デュアルアクティングFab」又は「DAF」であってもよい(例えばUS2008/0069820)。
【0080】
本発明の一つの側面では、本開示における抗体のアミノ酸配列の改変体(変異体)は、抗体の分子をコードする核酸に適当な修飾を導入したり、又は、ペプチドを合成することで調製し得る。このような修飾は、アミノ酸配列中への、任意のアミノ酸(残基)の任意の欠失、挿入、置換を一又は複数、適宜組み合わせて行ってよい。最終構築物が所望の特徴(例えば、抗原結合性)を有する限り、欠失、挿入、置換の任意の組合せが利用できる。
【0081】
本発明の一つの側面では、一又は複数のアミノ酸置換を行った抗体改変体(変異体)が提供される場合には、置換的変異導入の目的部位は、HVR及びFRを含み得る。
本発明の一つの側面において、水溶液中の抗体の濃度は、10~300mg/mL、20~200mg/mL、又は30~150mg/mLの範囲であってよい。
【0082】
2.界面活性剤
本発明の一つの側面において、医薬製剤は、界面活性剤として、ポロクサマー188等のポロクサマー、ポリソルベート20及びポリソルベート80等のポリソルベート、トリトン(登録商標)X-100及びトリトンX-114等のトリトンX、Brij(登録商標)-35及びBrij-58等のBrij、Nonidet(商標)P-40、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド等の非イオン性界面活性剤をさらに含むが、これらに限定されていない。
【0083】
本発明の一つの側面において、医薬製剤に添加する界面活性剤の添加量は、一般には0.001~100mg/mLであり、好ましくは0.01~10mg/mLであり、0.05~5mg/mL、さらに好ましくは0.1~1mg/mLである。
【0084】
(1)ポロクサマー
本明細書において、ポロクサマーはエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーである。本明細書において、「ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドコポリマー」、「PPC」、「PX」または「ポロクサマー」は、以下の式Ia:
HO(CHCHO)─[CH(CH)CHO]─(CHCHO)H (Ia)
により表され、ポリプロピレンオキシド(PPO)を中央ブロックとして有し、ポリエチレンオキシド(PEO)のブロックをその両側に有するポリプロピレンオキシド(PPO)の中央ブロックを含むブロックコポリマーを意味する。上記式中:a,bおよびcは平均の数であり、aおよびcは、同一または異なっていてもよい。aおよびcの各々は、(CO)によって表される親水性部分(すなわち、コポリマーのポリエチレンオキシド部分)がコポリマーの約60重量%~90重量%、例えばコポリマーの70重量%~90重量%を構成するような数であり;bは、(CO)によって表される疎水性物質(すなわち、コポリマーのポリプロピレンオキシド部分)がおよそ950~4,000ダルトン(Da)、例えば約1,200~3,500Da、例えば1,200~2,300Da、1,500~2,100Da、1,400~2,000Daまたは1,700~1,900Daの分子量を有するような数である。例えば、親水性部分の分子量は5,000~15,000Daであり得る。上記一般式を有する例示的ポロクサマーは、aまたはcが5~150の数であり、bが15~75の数であるポロクサマー、例えばaおよびcは約60~85の間の数、好ましくは75~85の間の数、例えば79であり、bは22~40の間の数、好ましくは22~33、25~30、又は35~40の間の数、最も好ましくは22~33の間の数である。化合物の平均全分子量はおよそ6,840~9,510Da、好ましくは6,840~8,830Da又は7,680~9,510Da、例えば概して8,400~8,800Da、例えば約8,400Daまたは8,400Daである。ポロクサマーとしては、ポロクサマー188(例えば、Pluronic(登録商標)F-68、Synperonic(商標)PE/F 68、Flocor(登録商標)、Kolliphor(登録商標)およびLutrol(登録商標)、Poloxamer 188 EMPROVE(登録商標)EXPERT、プロノン(登録商標)で販売されているもの)が挙げられる。市販グレードのポロクサマー188の品質は、供給業者によって異なる。また、ポロクサマー188は、同じ供給業者の同じグレードのものであっても、ロットによって品質が異なり得る。さらに、ポロクサマーとしてポロクサマー237(例えば、Pluronic(登録商標)F-87、Synperonic(商標)PE/F 87で販売されているもの)が挙げられる。
【0085】
ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドコポリマーの命名法はモノマー組成に関連する。ポロクサマー数の上2桁に100を掛けると、疎水性ポリプロピレンオキシドブロックのおよその分子量になる。下1桁に10を掛けると、親水性ポリエチレンオキシド含有量のおよその重量パーセントが得られる。例えば、ポロクサマー188は、親水性ポリエチレンオキシドブロック含有量が全分子量の約80%である、約1,800Daのポリプロピレンオキシド疎水性物質を含むポリマーを表す。また、ポロクサマー237は、親水性ポリエチレンオキシドブロック含有量が全分子量の約70%である、約2,300Daのポリプロピレンオキシド疎水性物質を含むポリマーを表す。ここで、ポリエチレンオキシドとはポリオキシエチレンとも呼ばれ、ポリプロピレンオキシドはポリオキシプロピレンとも呼ばれる。
【0086】
ポロクサマーは、2ステップで、まずポリプロピレンオキシドコアを構築し、次いでポリエチレンオキシドをポリプロピレンオキシドコアの末端に付加することによって合成することができる。両ステップ中の重合速度における変動のために、ポロクサマーは、様々な分子量の不均一ポリマー種を含む。ポリマー種の分布は、限定されるものではないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)をはじめとする標準的技術を用いて特性評価することができる。
【0087】
本発明の一つの態様として、各種のポロクサマーに含まれるポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドブロックの平均数並びに数平均分子量を表1において示す。
【0088】
【表1】
【0089】
本明細書においてポロクサマーを表す式I:
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
におけるa及びc、並びにbはそれぞれポロクサマー中の(CO)単位及び(CO)単位の平均の数である。ここで、(CO)は((CHO)を意味しエチレンオキシド(EO)単位とも呼ばれる。(CO)は(CH(CH)CHO)を意味しプロピレンオキシド(PO)単位とも呼ばれる。エチレンオキシド単位及びプロピレンオキシド単位の平均は、対象ポロクサマー画分のEO/PO比をNMRによって得、さらにその画分についてMALDI-FTICR-MSを行って得られた分子量を入力値として算出することができる。EO/PO比はNMRにおいてメチル基のピークをプロピレンオキシドの面積積分IPOとし、エチレンオキシド(水素、4個)とプロピレンオキシド(水素、3個)を合わせた面積積分をIEO+POとして、以下の式に基づいて算出される(非特許文献2)。
【0090】
EO/PO=(IEO+PO/IPO-1)×(3/4)
本発明の一つの態様において、ポロクサマー188(P-188、PX188またはP188とも呼ばれる)は、以下の式Ia:
HO(CHCHO)-[CH(CH)CHO]-(CHCHO)H (Ia)
を有するポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドコポリマーを指し、式中、a、bおよびcは平均の数であり、aおよびcは同一または異なり得、各々は、(CO)によって表される親水性部分(すなわち、コポリマーのポリエチレンオキシド部分)が約60%~90%、例えば約80%を構成し、およびbは、(CO)によって表される疎水性物質がおよそ1,300~2,300Da、例えば1,400~2,000Da、例えばおよそ1,750Daの分子量を有するような数である。例えば、aおよびcは約75~85の間の数、例えば79であり、bは25~30の間の数、又は好ましくは、22~33の間の数、例えば28である。化合物の平均全分子量はおよそ7,680~9,510Da、例えば概して8,400~8,800Da、例えば約8,400Daまたは8,400Daである。ポロクサマー188は、ポリマーの全体の鎖長が主に異なるが、不飽和を有する切断ポリマー鎖と、ある低分子量グリコールも含む不均質なポリマー種の分布を含み得る。低分子量(LMW)ポリマー種および高分子量(HMW)ポリマー種を表す主ピークと両側の「ショルダー」ピークとを含む種プロフィール(例えばGPCによって決定)を示すものも、ポロクサマー188に含まれる。本発明の一つの側面においてポロクサマーは、主成分以外の種を除去するかまたは減らすためにポロクサマー188を精製して得られるポロクサマーであってもよい。
【0091】
ポロクサマー188は、日本薬局方の規格において、「ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール」と呼称されることがある。
本明細書中で用いる場合、ポロクサマー188に関連した「主成分」または「主ピーク」は、約13,000Da未満でかつ約4,500Daを上回る分子量を有し、約7,680~9,510Da、例えば概して8,400~8,800Da、例えば約8,400Daまたは8,400Daの数平均分子量を有するコポリマー分子の種を指す。主ピーク種は、クロマトグラフィー条件に応じて14~15分でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって溶出するものを含む(米国特許第5,696,298号を参照)。
本発明の一つの態様において、ポロクサマー237(P-237、PX237またはP237とも呼ばれる)は、以下の式Ia:
HO(CHCHO)-[CH(CH)CHO]-(CHCHO)H (Ia)
を有するポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドコポリマーを指し、式中、a、bおよびcは平均の数であり、aおよびcは同一または異なり得、各々は、(CO)によって表される親水性部分(すなわち、コポリマーのポリエチレンオキシド部分)が約60%~80%、例えば約70%を構成し、およびbは、(CO)によって表される疎水性物質がおよそ1,800~2,800Da、例えば2,000~2,600Da、例えばおよそ2,300Daの分子量を有するような数である。例えば、aおよびcは約60~68の間の数、例えば64であり、bは35~40の間の数、又は好ましくは、32~43の間の数、例えば37である。化合物の平均全分子量はおよそ6,840~8,830Da、例えば概して7,500~8,000Da、例えば約7,800Daまたは7,800Daである。ポロクサマー237は、ポリマーの全体の鎖長が主に異なるが、不飽和を有する切断ポリマー鎖と、ある低分子量グリコールも含む不均質なポリマー種の分布を含み得る。低分子量(LMW)ポリマー種および高分子量(HMW)ポリマー種を表す主ピークと両側の「ショルダー」ピークとを含む種プロフィール(例えばGPCによって決定)を示すものも、ポロクサマー237に含まれる。本発明の一つの側面においてポロクサマーは、主成分以外の種を除去するかまたは減らすためにポロクサマー237を精製して得られるポロクサマーであってもよい。
【0092】
(2)ポリソルベート
ポリソルベートは、非イオン性界面活性剤及びタンパク質安定剤として有用な以下の化学式IIまたは式III:
【0093】
【化1】
【0094】
[式中、w+x+y+zが、15~25から選択される整数であり、
Rは独立に炭素数が11以上のアルキル又はアルケニルである]
を有する脂肪酸エステルである。ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、及びポリソルベート80は、医薬品、化粧品、及び食品業界で安定剤及び乳化剤として広く使用されている。ポリソルベート20は、主にポリオキシエチレン(20)ソルビタンのモノラウリン酸エステルを含む。ポリソルベート40は、主にポリオキシエチレン(20)ソルビタンのモノパルミチン酸エステルを含む。ポリソルベート60は、主にポリオキシエチレン(20)ソルビタンのモノステアリン酸エステルを含む。ポリソルベート80は、主にポリオキシエチレン(20)ソルビタンのモノオレイン酸エステルを含む。
【0095】
ポリソルベートは、多くの場合様々な化学物質の混合物であり、大部分がポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノエステルからなり、場合によってはイソソルビドエステル混入物質を含む。それらはまた、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、中間体構造、及び脂肪酸反応物質も含み得る。頭部基(この場合はポリオキシエチレン(20)ソルビタン)は、そのアルコール基のうちの3つが、3つのポリエチレンオキシド基とエーテル結合を形成するように置換されたソルビタン(1,4-アンヒドロソルビトール、1,5-アンヒドロソルビトール、及び1,4,3,6-ジアンヒドロソルビトールを含む。
【0096】
3.他の添加剤
本発明の一つの側面において、医薬製剤は、必要に応じて、適当な薬学的に許容される担体、媒体等と混和して調製し、溶液製剤とすることができる。溶液製剤の溶媒は、水又は薬学的に許容される有機溶媒である。そのような有機溶媒としては、例えば、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、エタノール、グリセロール、酢酸などが挙げられる。適当な薬学的に許容される担体、媒体としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定化剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、ヒスチジン、他の有機酸等)、防腐剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)等と併用してもよい。
【0097】
本発明の一つの側面において、溶液製剤において使用する緩衝剤は、溶液のpHを維持するための物質を使用して調製する。本発明の一つの側面において、高濃度抗体含有溶液製剤においては、溶液のpHが4.5~7.5であることが好ましく、5.0~7.0であることがより好ましく、5.5~6.5であることがさらに好ましい。本発明の一つの側面において、使用可能な緩衝剤は、この範囲のpHを調整でき、且つ医薬的に許容可能なものである。このような緩衝剤は溶液製剤の分野で当業者に公知であり、例えば、リン酸塩(ナトリウム又はカリウム)、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸塩(ナトリウム又はカリウム)、酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムなどの有機酸塩;又は、リン酸、炭酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、グルコン酸などの酸類を使用できる。さらに、Tris類及びMES、MOPS、HEPESのようなグッド緩衝剤、ヒスチジン(例えばヒスチジン塩酸塩)、グリシンなどを使用してもよい。
【0098】
緩衝剤の濃度は、一般には1~500mmol/Lであり、好ましくは5~100mmol/Lであり、さらに好ましくは10~20mmol/Lである。ヒスチジン緩衝剤を使用する場合、緩衝剤は好ましくは5~25mmol/Lのヒスチジン、さらに好ましくは10~20mmol/Lのヒスチジンを含有する。
【0099】
本発明の一つの側面において、高濃度抗体含有溶液製剤は、有効成分である抗体にとって適切な安定化剤を添加することによって、安定化されることが好ましい。本発明の一つの側面において、「安定な」高濃度抗体含有溶液製剤は、冷蔵温度(2~8℃)で少なくとも12ヶ月、好ましくは2年間、さらに好ましくは3年間;又は室温(22~28℃)で少なくとも3ヶ月、好ましくは6ヶ月、さらに好ましくは1年間、有意な変化が観察されない。例えば、5℃で2年間保存後の二量体量及び分解物量の合計が5.0%以下、好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下、あるいは25℃で6ヶ月保存後の二量体量及び分解物量の合計が5.0%以下、好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。
【0100】
また本発明の製剤には、必要に応じて、凍結保護剤、懸濁剤、溶解補助剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を適宜添加することができる。
【0101】
凍結保護剤として例えば、トレハロース、ショ糖、ソルビトール等の糖類を挙げることができる。
溶液補助剤として例えば、ポリエチレンオキシド硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリエチレンオキシドソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
【0102】
等張化剤として例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
保存剤として例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができる。
【0103】
吸着防止剤として例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0104】
含硫還元剤として例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
【0105】
酸化防止剤として例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
【0106】
4.粒子の発生を低減させる界面活性剤
(1)疎水度
本発明の一つの側面において、高疎水度の界面活性剤を使用することによって、抗体を含有する医薬製剤における粒子の発生を低減させることができる。
【0107】
ポロクサマーは疎水性のポリプロピレンオキシド(PPO)鎖1ブロック及び両側に配置された親水性のポリエチレンオキシド(PEO)鎖2ブロックからなる3ブロック両親媒性コポリマーであり、PPO鎖は平均22~40の間の数のプロピレンオキシド、好ましくは22~33、25~30、又は35~40の間の数、最も好ましくは22~33の間の数のプロピレンオキシド、からなり、PEO鎖はそれぞれ平均75~85単位のエチレンオキシドからなる。プロピレンオキシドは疎水性成分であり、エチレンオキシドは親水性成分である。ポロクサマーのうち、より多くの疎水性成分を含むものはより疎水度が高い。
【0108】
本発明の一つの側面において、ポロクサマーは、34単位以上のプロピレンオキシドからなるPPO鎖を含むポロクサマーをポロクサマー全体に対して3%、6%、20%、または29%(w/w)以上の比率で含む。
【0109】
本発明の一つの側面において、ポロクサマーの疎水度の違いは逆相クロマトグラフィーによって確認することができる。逆相クロマトグラフィーにおいて、PEOブロックが固定相と相互作用しないように設定することで、PPOブロックの長さの分布を特定することができる。また、この方法によって、ポロクサマーの疎水度の違いを分析することができる(非特許文献2)。本発明の一つの側面において、非特許文献2を参照して、ポロクサマーの逆相クロマトグラフィーの条件を以下のように設定する。逆相クロマトグラフィーでは、マクロポーラス型スチレンジビニルベンゼンを充填したHPLCカラム、例えばAgilent TechnologiesのPLRP-Sカラムを用いる。
【0110】
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
(1)カラム:PLRP-Sカラム(1000Å、5μm、50×2.1mm;Agilent Technologies)
(2)移動相:
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
(3)溶出勾配プログラム
0分から16.0分まで:移動相B 58%から64%へ
16.0分から18.5分まで:移動相B 64%から90%へ
18.5分から21.5分まで:移動相B 90%で固定
21.5分から23.5分まで:移動相B 90%から100%へ
23.5分から30.0分まで:移動相B 100%で固定
30.0分から30.1分まで:移動相B 100%から58%へ
30.1分から40.0分まで:移動相B 58%で固定
(4)流速:0.2mL/分
(5)検出方法:蒸発光散乱検出(ドリフトチューブ温度:50±25℃、ネブライザー加熱パワーレベル:75%、ゲイン値:250、ガス圧:20psi)
(6)カラム温度:65±5℃
(7)ポロクサマー濃度(超純水水中):0.5mg/mL。
【0111】
本発明の一つの側面において、上記条件でのポロクサマーのクロマトグラフィーにおいて、溶出時間が17分以後の溶出物は疎水度の高いポロクサマーに対応し、溶出時間が17分以後のピーク面積が全ピーク面積に対して3%以上、6%以上、19%以上、33%以上、又は35%以上である。
【0112】
また、本発明の一つの側面において、上記条件でのポロクサマーのクロマトグラフィーにおいて、溶出時間が17分以後のピーク面積が1.5分以後の全ピーク面積に対して3%以上、6%以上、20%以上、36%以上、又は46%以上である。
【0113】
(2)表面張力
本発明の一つの側面において、界面活性剤を含有する水溶液の表面張力を低くする界面活性剤を使用することによって、抗体を含有する医薬製剤の水溶液における粒子の発生を低減させることができる。本発明の一つの側面において、粒子の発生を低減させることができる界面活性剤としては、本発明の実施例において確認された、ポロクサマー188があり、さらにポロクサマー237、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、及びポリソルベート80がある。界面活性能の高い界面活性剤ほど界面活性剤を含有する水溶液の表面張力を低くする。ポロクサマーの疎水度の指標と表面張力値には相関がある。
【0114】
表面張力は、Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)、du Nouy法(リング法、輪環法)、懸滴法(ペンダント・ドロップ法)又は最大泡圧法等の一般的に知られた方法で測定することができるが、それに限定されない。
【0115】
本発明の一つの側面において、0.5mg/mLの濃度の界面活性剤を含有する水溶液は、52.3mN/m以下、52mN/m以下、51mN/m以下、50.7mN/m以下、50.5mN/m以下、又は39mN/m以下の表面張力を有する。
【0116】
(3)不飽和度
本発明の一つの側面において、不飽和度の低いポロクサマーを界面活性剤として使用することによって、特定の抗体を含有する医薬製剤における粒子の発生を低減させることができる。
【0117】
不飽和度は米国薬局方に規定された方法により酢酸水銀(II)溶液を用いて得ることができる。
酢酸水銀(II)溶液の調製方法:
酢酸水銀(II)50gを1000mLのメスフラスコに入れ、氷酢酸0.5mLを加えたメタノール約900mLに溶解させる。メタノールで容量まで希釈後、混合する。液が黄色ならば捨てる。濁っている場合はろ過する。それでも濁っている場合は廃棄する。溶液の調製を繰り返す必要がある場合は、新しい試薬を使用する。この液を暗所で褐色瓶に保存し、光から保護する。
【0118】
ポロクサマーの不飽和度算出の手順:
約15.0gのポロクサマーを250mLの三角フラスコに移す。酢酸水銀(II)溶液50mLをピペットでフラスコに量り入れ、マグネチックスターラーで完全に溶解するまで混合する。時々旋回させながら30分間放置する。
臭化ナトリウムの結晶10gを加え、マグネチックスターラーで約2分間撹拌する。遅滞なくフェノフタレイン試験液約1mLを加え、遊離した酢酸を0.1Nメタノール性水酸化カリウム滴定液で滴定する。同様の方法で対照試験を行う。初期の酸性度を測定する。メタノール性水酸化カリウムでフェノールフタレインの最終点まで中和されたメタノール75mL中にポロクサマー15.0gを溶解させる。次にフェノールフタレイン試験液約1mLを加え、窒素送入下、0.1Nメタノール性水酸化カリウム滴定液で滴定する。
【0119】
下記式に従って不飽和度(mEq/g)を計算する:
(V-V-V)N/15
ここで、V、V及びVは、それぞれ試験試料、ブランク及び初期酸性度の滴定に用いた0.1Nメタノール性水酸化カリウムの容量(mL)であり、Nは滴定液の規定度(normality)である。
【0120】
本発明の一つの側面において、界面活性剤として使用するポロクサマーの不飽和度は0.018mEq/g未満である。
5.粒子の発生の低減
(1)粒子の発生の低減
本発明の一つの側面において、「粒子の発生を低減させる」とは、所定の条件において目視により検出可能な粒子が発生する医薬製剤の水溶液において、目視により検出可能な粒子を発生しないようにする、又は発生する粒子数を減少させることを指す。目視により検出可能な粒子の発生が低減したことは、粒子数を計数することによって確認することができる。粒子のサイズや数は、光遮蔽粒子計数法、顕微鏡粒子計数法、フローサイト粒子画像解析法、目視検査、粒子を単離した後に顕微赤外分光(infrared spectroscopy;IR)測定や顕微ラマン分光測定することで測定可能であり、好ましくは目視検査と顕微赤外分光又は顕微ラマン分光測定の組み合わせで測定する。
【0121】
(2)目視により検出可能な粒子
本明細書において、目視により検出可能な粒子とは、高照度で目視により検出可能な粒子であり、40μm以上の粒径を有する。このうち、薬局方に規定されている標準照度(2,000-3,000lx程度)で目視により検出可能な粒子を「可視粒子」又は「不溶性可視性粒子」と呼ぶ。可視粒子は一般的に100μmより大きい粒径を有する(非特許文献1)。可視粒子よりも小さいサイズで、薬局方に規定されている標準照度(2,000-3,000lx程度)では目で見えないが照度を上げたり、観察時間を長くすることで目視により検出可能な粒子は「高照度でのみ目視により検出可能な粒子」であり、40μm~100μmの粒径を有する。可視粒子は、照明下、標準照度(2,000-3,000lx程度)において、黒色背景又は白色背景の前で容器を緩やかに旋回又は転倒させて5秒以上、肉眼で目視検査することにより確認される。高照度でのみ目視により検出可能な粒子は、照明下、高照度(6,000lx以上)において、黒色背景の前で容器を緩やかに旋回又は転倒させて30秒以上、肉眼で目視検査することにより確認される。高照度における検査では可視粒子も確認可能である。
【0122】
本明細書において「タンパク質由来粒子」とは、タンパク質のみからなる粒子並びにタンパク質とポリジメチルシロキサン(PDMS)の複合体からなる粒子を含む、タンパク質から生成された目視により検出可能な粒子を指す。粒子がタンパク質分子によるものであることは、顕微ラマン分光測定によって確認することができる。溶液中にタンパク質として含まれるのは医薬有効成分(API)のみであり、目視により検出可能な粒子はAPIから生じたものである。目視により検出可能な粒子の数は、光遮蔽粒子計数法、顕微鏡粒子計数法、フローサイト粒子画像解析法、目視検査、粒子を単離した後に顕微赤外分光(infrared spectroscopy;IR)測定や顕微ラマン分光測定することで測定可能であり、好ましくは目視検査と顕微赤外分光又は顕微ラマン分光測定の組み合わせにより測定される。
【0123】
本明細書において「凝集体」とは、変性したタンパク質が多数集まることにより生じた比較的高分子量のタンパク質種で、「高分子種」及び「HMWS」という用語と互換的に使用される。タンパク質凝集体は、概して以下の点で異なり得る:サイズ(小型(2量体)~大型(顕微鏡で確認可能な粒子またはさらに可視粒子)の集合体であり、直径はナノメートル~マイクロメートルの範囲)、形態(概ね球状~繊維状)、タンパク質構造(ナイーブ対非ネイティブ/変性)、分子間結合のタイプ(共有対非共有)、可逆性、及び可溶性。可溶性の凝集体はおよそ1~100nmのサイズ範囲を網羅し、タンパク質粒子は顕微鏡で確認可能な(約0.1~100μm)範囲及び可視(>100μm)範囲を網羅する。前述のタイプのタンパク質凝集体全てが、概して当該用語に包含される。したがって、「(タンパク質)凝集体」という用語は、2つ以上のタンパク質モノマーが物理的に会合したまたは化学的に結合したあらゆる種類の非ネイティブ種を指す。
【0124】
本発明の一つの側面において、医薬製剤は、容器内の溶液を凍結させずに-30℃~25℃、好ましくは溶液の凍結点~25℃、より好ましくは1℃~10℃、より好ましくは2℃~8℃、さらに好ましくは5℃で保存される。保存は1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、25時間、26時間、27時間、28時間、29時間、30時間、31時間、32時間、33時間、34時間、35時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間、96時間行われる。保存は、少なくとも24時間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも10日、少なくとも20日、少なくとも30日、少なくとも40日、少なくとも50日、少なくとも60日、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも7カ月、少なくとも8カ月、少なくとも9カ月、少なくとも10カ月、少なくとも11カ月、少なくとも12カ月行われる。
【0125】
5.容器
本発明の一つの側面において、医薬製剤は容器に充填されている。容器はプラスチック製又はガラス製のシリンジ、カートリッジ、またはバイアルである。
【0126】
本発明の一つの側面において、患者に投与するための医薬製剤がシリンジ、カートリッジ又はバイアル内に充填されている。ある態様において、医薬製剤は製造用充填施設においてシリンジ、カートリッジ又はバイアル内に入れられる。ある態様において、シリンジ、カートリッジ又はバイアルは、組成物を入れる前に滅菌される。ある態様において、医薬製剤が充填されたシリンジ、カートリッジ又はバイアルは、患者に対する医薬製剤の投与の前に、1日、又は少なくとも7日、又は少なくとも14日、又は少なくとも1ヶ月、又は少なくとも6ヶ月、又は少なくとも1年、又は少なくとも2年の保存期間を有する。ある態様において、シリンジ、カートリッジ又はバイアルは貯蔵及び/又は輸送の条件にさらされる。
【0127】
本発明の一つの態様において、シリンジ、カートリッジ又はバイアルはメカニカルストレスにさらされる。メカニカルストレスとしては、落下ストレス、及び振動ストレスが挙げられるが、これに限定されない。本発明の一つの態様において、シリンジ、カートリッジ又はバイアルは、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回、21回、22回、23回、24回、25回、25回以上、30回以上、又は40回以上の落下ストレスにさらされる。落下時にシリンジ、カートリッジ又はバイアルに加わるストレスは、落下回数以外に高さ、向きなどによって変化する。落下高さは、例えばAmerican Society for Testing and Materials(ASTM)D4169に記載されている38.1cmであるが、これに限定されない。
【0128】
シリンジは、PP(ポリプロピレン)やガラスであってもよい。シリンジの内周面は潤滑剤としてのシリコーンオイルが塗布されていてもよい。
本発明の一つの側面において、シリコーンオイルはポリジメチルシロキサンである。いくつかの例示的なポリジメチルシロキサンには、例えば、粘度が350センチストークであるDow Corning(登録商標) 360 Medical Fluid、粘度が1000センチストークであるDow Corning(登録商標) 360 Medical Fluid、粘度が12,500センチストークであるDow Corning(登録商標) 360 Medical Fluid、及びDow Corning(登録商標) MDX4-4159 fluid を非限定的に含む、Dow Corning(登録商標) 360 Medical Fluidが非限定的に含まれる。
【0129】
本発明の一つの側面において、シリンジの容量のサイズ(規格)は特に限定されない。具体的には、容量が0.5mL~5.0mL、好ましくは1mLまたは2.25mLである。
【0130】
本発明の一つの側面において、カートリッジ容量のサイズ(規格)は特に限定されない。具体的には、容量が0.5mL~20.0mLであってよく、例えば1.0mL、1.5mL、1.8mL、2.0mL、2.2mL、3.0mL、5.0mL、10.0mL、15.0mL、20.0mLであってよいが、これらの量に限定されない。
【0131】
本発明の一つの側面において、バイアルの容量のサイズ(規格)は特に限定されない。具体的には、3mL~100mLであってよく、3mL、5mL、10mL、15mL、20mL、30mL、50mL又は100mLであってよいが、これらの量に限定されない。
【0132】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0133】
[実施例1]ポロクサマー188(PX188)の逆相クロマトグラフィーによる成分分析
表2に示す異なるメーカー、グレード、ロットを含む7種類のPX188について、ポリプロピレンオキシド(PPO)ブロックの長さを評価するために逆相クロマトグラフィーによる分析を実施した。逆相クロマトグラフィーによるPPOブロック長の分析方法については先行論文を参考とした(非特許文献1)。
【0134】
【表2】
【0135】
HPLCシステムはAlliance e2695 liquid chromatograph(Waters)に2424 evaporative light scattering detector(ELSD)(Waters)を取り付けたものを使用し、データ取得と解析にはEmpower 3 software(Waters)を用いた。分離に使用するカラムにはPLRP-S column(1000Å、5μm、50×2.1mm;Agilent Technologies)を用い、65±5℃のカラム温度に設定した。流速は0.2mL/分で固定し、移動相としては超純水(Milli-Q水)を移動相A、アセトニトリルを移動相Bとして線形のグラジエントをかけた。グラジエントの詳細としては、58%Bから64%B(0-16.0分)、64%Bから90%B(16.0-18.5分)、90%Bで固定(18.5-21.5分)、90%Bから100%B(21.5-23.5分)、100%Bで固定(23.5-30.0分)、100%Bから58%B(30.0-30.1分)、58%Bで固定(30.1-40.0分)とした。ELSDのドリフトチューブの温度は50±25℃、ネブライザーの加熱パワーレベルは75%、ゲイン値は250、ガス圧は20psiとした。各PX188を超純水に0.5mg/mLになるように溶解し、そのPX188溶液20μLをHPLCシステムに注入した。開始から17分以後の溶出物を「遅い溶出物」と定義し、遅い溶出物の割合は、全ピーク面積に対する17分後以後のピーク面積の割合(%)とした上で、各PX188のクロマトグラム(図1)から遅い溶出物の割合を算出した。さらに、開始後1.5分までのピーク面積を除いた全ピーク面積に対する17分以後のピーク面積の割合を「(初期溶出物を除く)遅い溶出物」と定義し、各PX188のクロマトグラム(図1)から算出した。
【0136】
更に5種類のPX188について、遅い溶出物に相当する34個以上のPPOブロック長をもつ分子種の質量%を算出した。17分以降に最初に溶出したピークのPPOブロック長を34個とし、各溶出ピークのPPOブロック長を算出した。また、両端のPEOブロック長についてはそれぞれ80個として各溶出ピークに相当する分子種の分子量を算出した。続いてこれら分子量と溶出ピーク面積値を掛け合わせた値を出し、PPOブロック長が34個以上となるものについて足し合わせたものを分子にとり、全てのピークについて足し合わせたものを分母にとり100を乗じることで各PX188について34個以上のPPOブロック長をもつ分子種の質量%を算出した。34個以上のPPOブロック長をもつ分子種の全ポロクサマーに対する割合(質量%)の算出結果を表3に示す。
【0137】
【表3】
【0138】
[実施例2]PX188およびPS80の表面張力値の測定
表2に示す7種類のPX188、および1種類のPS80について、各界面活性剤を0.5mg/mLとなるよう超純水に溶解させた水溶液の表面張力値を測定した。表面張力計(Force Tensiometer K100C, Kruss)を用い、白金プレートを使用したWilhelmy法による測定を20-25度で実施した。K100Cの測定パラメータとしては検出速度を6mm/分、検出感度を0.005g、そして浸漬深度を2mmとし、測定開始から600秒までの表面張力値を60秒間隔で取得した(図2)。なお、白金プレートを浸漬させる界面活性剤溶液を入れたガラス容器については測定ごとにイソプロピルアルコール、次いで超純水で複数回洗浄を実施した。白金プレートについても測定ごとにイソプロピルアルコール、次いで超純水で洗浄した後にアルコールランプで赤熱洗浄をした。
【0139】
各種PX188水溶液の表面張力値は白金プレート浸漬後徐々に低下していき測定開始から600秒経過時点で平衡に達していた。そのため、各種界面活性剤溶液の表面張力値としては600秒経過時点での値を採用した。PS80水溶液の表面張力値は600秒経過後も減少を続けたが、PX188水溶液との比較のために、600秒経過時点での表面張力値を採用することとした。
【0140】
[実施例3]遅い溶出物の割合と表面張力値との相関
表2に示す7種類のPX188の遅い溶出物の割合と上記方法で測定した表面張力値との間の相関を分析した。その結果、それら2つの値には高い相関があることが示された(図3)。つまり、PX188においてはPPOブロックの長い成分の割合が界面活性能の指標となる表面張力値と相関すること、さらにはPPOブロックが長い成分を多く含む場合に表面張力値が減少することが示された。
【0141】
[実施例4]目視により検出可能な粒子評価用のサンプル調製
各種界面活性剤が目視により検出可能な粒子の発生に与える影響を調査するために、表2に示す7種類のPX188、および1種類のPS80を用いて2種類のmAb製剤中での粒子の発生を調査した。mAbは中外製薬で製造及び精製されたmAb1(エミシズマブ、IgG4、抗血液凝固第IXa/X因子ヒト化二重特異性モノクローナル抗体)とmAb2(サトラリズマブ、IgG2,pH依存的結合性ヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体)を用いた。mAb1のサンプルは、158mg/mLのmAb1、20mMのヒスチジン、150mMのアルギニン、アスパラギン酸(適量)、0.5mg/mLのPX188又はPS80を含有する水溶液をpH6.0に調製し、バイアル(3mL サルファー処理ガラスバイアル、村瀬硝子)に1mL充てんした。mAb2のサンプルは、123mg/mLのmAb1、20mMのヒスチジン、150mMのアルギニン、アスパラギン酸(適量)、0.5mg/mLのPX188又はPS80を含有する水溶液をpH6.0に調製し、シリンジ(1mL ClearJect、大成化工)に1mL充てんした。各mAbにつき、表2に示した8種類の界面活性剤を用いて8種類ずつサンプルを作製した。作製したサンプルについては目視検査を実施し、サンプル製造工程中で可視性の異物を含んだサンプルを排除した。
【0142】
目視検査後、可視性異物を含まないと判定したサンプルを25℃で静置、又は40℃で静置後に目視検査を実施するグループにmAb1及びmAb2をそれぞれ10本ずつ供した。また、5℃で静置し、定期的なメカニカルストレスを付加した後に目視検査を実施するグループにmAb1については20本、mAb2については40本を供した。
【0143】
定期的なメカニカルストレスの付与方法
定期的なメカニカルストレスを与えるサンプル群はメカニカルストレスを室温で付与する際を除いては5℃で静置保管した。容器の破損を防ぐために適切に梱包した状態でASTM D4169を参照し、以下の落下試験と振動試験を組み合わせたストレス(落下試験→振動試験→落下試験)を施した。落下ストレスは落下試験装置(PDT-56ED、Lansmont)を使用し、38.1cmの高さから各サンプルへ付与されるストレスが均一となるような4つの面について各面を下にした状態での落下を2回ずつ行い、これを1セットの落下試験とした。この落下試験を振動試験の前後に1セットずつ実施した。振動ストレスについては振動試験装置(D-5900、振研)を使用し4つの強度の振動ストレス(Truck Low Level 40分、Truck Medium Level 15分、Truck High Level 5分、Air Level I 120分)を付与し、これを1セットの振動試験とした。図4の通り、振動試験を1セットのみ与えた場合と、4セット連続で与えた場合があり、それらの付与タイミングを図6に示す。
【0144】
[実施例5]25℃で静置した場合の粒子の発生
25℃で6ヶ月静置保管した後のサンプルに対して目視検査を目視検査法1及び2の通りに実施した。目視検査で検出された粒子についてはラマン分光法による組成の同定をイメージング顕微ラマン装置(DXR2xi、Thermo scientific)を用いてラマン分光法による目視により検出可能な粒子の組成同定方法の通りに同定を実施した。
【0145】
目視検査法1(バイアル;mAb1)
バイアルの目視検査には目視検査台(EM-M102-06、日立産業制御ソリューションズ)を使用した。バイアルの外部を清浄にし、肉眼で黒色の背景および約20,000lxの照度において充填された薬液中に目視により検出可能な粒子を含むバイアルの数を計数した。
【0146】
目視検査法2(シリンジ;mAb2)
シリンジの目視検査には蛍光灯を使用した。シリンジの外部を清浄にし、肉眼で黒色の背景および約10,000lxの照度において充填された薬液中に目視により検出可能な粒子を含むシリンジの数を計数した。
【0147】
ラマン分光法による粒子の組成同定方法
ニッケル性の孔径3mmのフィルター(東京プロセスサービス)に粒子を捕集し、イメージング顕微ラマン装置(DXR2xi、Thermo scientific)を用いて532nmのレーザーを照射した際のラマンスペクトルを得ることで内因性のタンパク性の粒子であることの確認を実施した。倍率が10倍もしくは50倍のレンズを使用し、組成の判定が可能となるような適切なスペクトルが得られるようにレーザー強度(5.0-10.0mW)、露光時間(0.05-1.0秒)、積算回数(15-35回)の値を記載の範囲内で設定してスペクトルを取得した。代表的なタンパク性の粒子としてはタンパク質単体から成る粒子とタンパク質とポリジメチルシロキサン(PDMS)の複合体から成る粒子が存在していたため、それらのラマンスペクトル例を図6に示す。
【0148】
25℃で6ヶ月静置保管した後のサンプルに対して、タンパク性の粒子を含んでいた容器数を計数し、表4に示した。mAb1、mAb2共に製剤中に含まれる界面活性剤の種類によって粒子の発生率が異なることが示された。
【0149】
【表4】
【0150】
[実施例6]40℃で静置後の粒子の発生
40℃で6ヶ月静置保管した後のサンプルに対して目視検査を目視検査法1および2の通りに実施した。目視検査で検出された粒子についてはラマン分光法による組成の同定をイメージング顕微ラマン装置(DXR2xi、Thermo scientific)を用いてラマン分光法による粒子の組成同定方法の通りに同定を実施した。
【0151】
40℃で6ヶ月静置保管した後のサンプルに対して、タンパク性の粒子を含んでいた容器数を計数し、表5に示した。mAb1、mAb2共に製剤中に含まれる界面活性剤の種類によって粒子の発生率が大きく異なることが示された。
【0152】
【表5】
【0153】
[実施例7]5℃静置及び定期的なメカニカルストレス条件における粒子の発生
5℃静置保管及び定期的な落下および振動ストレスを付与したサンプル(mAb1については6ヶ月後、mAb2については3ヶ月後のサンプル)に対して目視検査を目視検査法1および2の通りに実施した。目視検査で検出された粒子についてはラマン分光法による組成の同定をイメージング顕微ラマン装置(DXR2xi、Thermo scientific)を用いてラマン分光法による粒子の組成同定方法の通りに同定を実施した。
【0154】
5℃静置保管及び定期的なメカニカルストレスを付与したサンプルに対して、タンパク性の粒子を含んでいた容器数を計数し、表6に示した。
【0155】
【表6】
【0156】
mAb2においては製剤中に含まれる界面活性剤の種類によって粒子の発生率が大きく異なることが示された。mAb1においては粒子の発生率が十分に高くはなかったため、その後の解析には使用しないこととした。
【0157】
[実施例8]PX188の遅い溶出物の割合および界面活性剤水溶液の表面張力値と粒子発生率との相関分析
表2に示す7種類のPX188の遅い溶出物の割合と粒子の発生率の相関を明らかとするため相関分析を実施した。粒子発生率(%)については各サンプルにおいて、粒子が発生した容器数を、試験に供した総容器数で除し、100を乗じることで算出した。また、25℃での静置保管条件と40℃での静置保管条件についてはいずれも昇温によるストレスであること、生成したタンパク性粒子の組成もタンパク質とポリジメチルシロキサンの複合体から成るものが大半を占めたことから、同等の粒子の形成経路に準じて生成したものと考え、熱ストレス条件として合算して粒子発生率(%)を算出した。5℃静置保管及び定期的なメカニカルストレスを付与したものについては、タンパク質単体から成る不溶性異物が大半を占め、熱ストレス条件とは異なる粒子形成経路に準じて生成したものと考えられたため、メカニカルストレス条件として別個に解析を実施することとした。
【0158】
その結果、mAb1において熱ストレス条件で遅い溶出物の割合と粒子の発生率に相関が見られた(図7)。また、mAb2においても熱ストレス条件、およびメカニカルストレス条件においても遅い溶出物の割合と粒子の発生率に相関が見られた(図8図10中の左図)。mAb1のメカニカルストレス条件においては弱い相関が見られた(図9中の左図)。
【0159】
この相関図より、遅い溶出物の割合の値が高い、つまりはPPOブロックが長いPX188種を使用するほどmAb1、mAb2製剤中における粒子の発生を低減することが可能であることが示された。また、実施例3で示した通り遅い溶出物の割合の値は表面張力の値とよく相関することから、より表面張力値を低くすることが可能な界面活性剤を使用することでmAb1、mAb2製剤中における粒子の発生を低減することが可能であると言い換えることができる。これは、PX188とは異なる界面活性剤種であるPS80においても、PS80水溶液の表面張力値が低く、なおかつ粒子の生成率が低いことから界面活性剤種には依らないことが実証されている。また、表面張力値50-53mN/mの範囲において顕著に粒子の発生率が異なる結果が得られたことから、この範囲にmAb1、mAb2製剤中における粒子の発生増減の閾値が存在すると考えられる。
【0160】
[実施例9]PX188の不飽和度と粒子発生率との相関分析
メカニカルストレス条件においては遅い溶出物の割合だけでなく、不飽和度(Unsaturation)と粒子の発生率の相関も解析した。その結果、不飽和度が低い、つまりは製品中のジブロック体(PEO-PPO体)が少ないほど粒子の発生率が低くなるような相関が一定程度見られた(図9中の中央図、図10中の中央図)。特に、PX188の不飽和度に関する現行USP規格の下限値(0.018mEq/g)を下回る不飽和度を示すPX(7)についてはmAb1、mAb2いずれに対してもタンパク性異物の発生を完全に抑制した。
【0161】
また、遅い溶出物の割合と不飽和度の2つのパラメータを用いた重回帰分析を実施したところ、相関係数の増加が見られ、その程度はmAb2で特に顕著であった。(図9中の右図、図10中の右図)
[実施例10]各製剤中で発生したHMWSの評価
界面活性剤種が製剤中での抗体に由来する凝集体(高分子量種、High Molecular Weight Species:HMWS)の発生に与える影響を評価するために、表2に示す7種類のPX188、および1種類のPS80を用いた製剤中でのHMWS発生量をサイズ排除クロマトグラフィーにより評価した。評価は5℃静置、25℃静置、40℃静置および5℃静置保管及び定期的なメカニカルストレスを付加した条件についてそれぞれ保管開始前、3ヵ月後、および6ヵ月後に実施した。ただし、mAb2の5℃静置保管及び定期的な落下振動を付与した条件については6ヵ月時点での目視評価は実施していないため、HMWS評価も実施しなかった。
【0162】
HPLCシステムはAlliance 2695 liquid chromatograph(Waters)に2489 UV/Visible detector(Waters)を取り付けたものを使用し、データ取得と解析にはEmpower 3 software(Waters)を用いた。分離に使用するカラムにはTSKgel G3000SWXL column (250Å、5μm、300×7.8mm;東ソー)を用い、25±5℃のカラム温度に設定した。流速は0.2mL/分で固定とし、移動相としては50mMのNaHPO/NaHPO、300mMのNaCl及び0.5mg/mLのNaN(pH7.0)を用い、流速は0.5mL/分で固定した。各抗体溶液は1mg/mLの抗体濃度になるように移動相用溶液で希釈し60μLをHPLCシステムに注入した。HMWS%の値はピーク面積積分対象範囲(10-24分)の全ピーク面積に対する14.5分近辺に現れるHMWSのピーク面積の割合として定義し、各サンプルのクロマトグラムから算出した。
【0163】
算出したHMWSの値を表7に示す。
【0164】
【表7】
【0165】
5℃静置条件および5℃静置保管及び定期的なメカニカルストレスを付与した条件についてはほぼ同等のHMWS量を示しHMWSの顕著な増加、およびサンプル間での違いは確認されなかった。また、25℃静置条件および40℃静置条件においては5℃静置条件と比較しHMWS量の増加が見られたが、サンプル間での顕著な違いは確認されなかった。熱ストレス条件ではPS80においてはややPX188サンプル群と比較し低い値を示したが、粒子の発生率においては表面張力値の比較的低いPX188(例えば、PX(1)やPX(4))と比較して顕著な差は見られなかったことから、mAb1、mAb2製剤中における粒子発生の低減には、HMWSの発生量は関与していないこと、さらには気液界面や容器表面、シリコーンオイル(PDMS)表面ストレスからの各種界面活性剤の保護能が粒子発生率に影響を与えていると考えられる(図11)。図11の左側が界面活性剤による界面の保護が十分である場合、図9の右側が保護が不十分である場合のイメージ図を示している。
【0166】
[実施例11]低濃度PX188の表面張力値の測定
表2に示す7種類のPX188のうち、PX(3)、PX(6)、PX(7)について各界面活性剤を0.01mg/mLとなるよう超純水に溶解させた水溶液の表面張力値を測定した。表面張力計(Force Tensiometer K100C, Kruss)を用い、白金プレートを使用したWilhelmy法による測定を20-25℃で実施した。K100Cの測定パラメータとしては検出速度を6mm/分、検出感度を0.005g、そして浸漬深度を2mmとし、測定開始から600秒までの表面張力値を10秒間隔で取得した(図12)。なお、白金プレートを浸漬させる界面活性剤溶液を入れたガラス容器については測定ごとにイソプロピルアルコール、次いで超純水で複数回洗浄を実施した。白金プレートについても測定ごとにイソプロピルアルコール、次いで超純水で洗浄した後にアルコールランプで赤熱洗浄をした。
【0167】
各種PX188水溶液の表面張力値は、PX188が0.5mg/mLとなるよう超純水に溶解させた水溶液の表面張力値を測定した際と同様の挙動を示したため、各種界面活性剤溶液の表面張力値としては600秒経過時点での値(PX(3)が55.7mN/m、PX(6)が56.4mN/m、PX(7)が55.3mN/m)を採用した。ここで測定をしたPX188の600秒経過時点での表面張力値の大小は実施例2と同様であり、PX188濃度が0.5mg/mLよりも低い場合であっても各PX188の表面活性能の違いを評価することができた。
【0168】
[実施例12]ポロクサマー237(PX237)の逆相クロマトグラフィーによる成分分析
ポロクサマー237(PX237)の逆相クロマトグラフィーによる成分分析を実施例1と同様の手順で実施した結果を以下の図13に示す。PX237においては開始後1.5分までのピーク面積を除くと全ピークが17分以後に現れることが示された。
【0169】
[実施例13]PX237の表面張力値の測定
PX237を0.05mg/mLとなるよう超純水(Milli-Q水)に溶解させた水溶液の表面張力値を測定した。表面張力計(Force Tensiometer K100C, Kruss)を用い、白金プレートを使用したWilhelmy法による測定を20-25℃で実施した。K100Cの測定パラメータとしては検出速度を6mm/分、検出感度を0.005g、そして浸漬深度を2mmとし、測定開始から600秒までの表面張力値を60秒間隔で取得した(図14)。なお、白金プレートを浸漬させる界面活性剤溶液を入れたガラス容器については測定ごとにイソプロピルアルコール、次いで超純水で複数回洗浄を実施した。白金プレートについても測定ごとにイソプロピルアルコール、次いで超純水で洗浄した後にアルコールランプで赤熱洗浄をした。
【0170】
0.5mg/mLのPX237水溶液の表面張力値はPX188が0.5mg/mLとなるよう超純水に溶解させた水溶液の表面張力値を測定した際と同様の挙動を示したため、PX237水溶液の表面張力値としては600秒経過時点での値(45.9mN/m)を採用した。0.5mg/mLのPX188水溶液の表面張力値と600秒経過時点での値を採用した。PX237水溶液の表面張力値は表2に記載のいずれのPX188水溶液の表面張力値よりも低く、PX237の表面活性能がPX188よりも高いことを評価することができた。
【0171】
[実施例14]目視により検出可能な粒子評価用のサンプル調製
PX237が目視により検出可能な粒子の発生に与える影響を調査するために、PX237およびコントロールとして表2に示すPX188の内PX(3)を用いて1種類のmAb製剤中での粒子の発生を調査した。mAbは中外製薬で製造及び精製されたmAb1(エミシズマブ、IgG4、抗血液凝固第IXa/X因子ヒト化二重特異性モノクローナル抗体)を用いた。mAb1のサンプルは、150mg/mLのmAb1、20mMのヒスチジン、150mMのアルギニン、アスパラギン酸(適量)、0.5mg/mLのPX188又はPX237を含有する水溶液をpH6.0に調製し、バイアル(3mL サルファー処理ガラスバイアル、村瀬硝子)に1mL充てんした。作製したサンプルについては目視検査を実施し、サンプル製造工程中で可視性の異物を含んだサンプルを排除した。
【0172】
目視検査後、可視性異物を含まないと判定したサンプルを25℃で静置後に目視検査を実施するグループにmAb1を各サンプル毎に60本ずつ供した。
【0173】
[実施例15]25℃で静置した場合の粒子の発生
25℃で6ヶ月静置保管した後のサンプルに対して目視検査を目視検査法1の通りに実施した。目視検査で検出された粒子についてはラマン分光法による組成の同定をイメージング顕微ラマン装置(DXR2xi、Thermo scientific)を用いてラマン分光法による目視により検出可能な粒子の組成同定方法の通りに同定を実施した。
【0174】
25℃で6ヶ月静置保管した後のサンプルに対して、タンパク性の粒子を含んでいた容器数を計数し、表8に示した。製剤中に含まれる界面活性剤がPX237である場合、PX(3)より粒子の発生率が低いことが示された。
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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