(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】レニウムタングステン線棒およびそれを用いた熱電対
(51)【国際特許分類】
C22C 27/04 20060101AFI20240905BHJP
C22F 1/18 20060101ALN20240905BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C22C27/04 101
C22F1/18 B
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/00 687
C22F1/00 682
C22F1/00 628
C22F1/00 651Z
(21)【出願番号】P 2023505479
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009116
(87)【国際公開番号】W WO2022191026
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2021037200
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 斉
(72)【発明者】
【氏名】馬場 英昭
(72)【発明者】
【氏名】友清 憲治
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-356732(JP,A)
【文献】特開昭58-104150(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102586663(CN,A)
【文献】国際公開第2010/100808(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウムを
1wt%以上30wt%未満含有
し、残部がタングステンと不可避不純物からなるタングステン合金からなる線棒であって、
棒線本体
の2か所の径方向断面において、それぞれ等間隔の4つ同心円と、直行する直径2本との交点16点と、中心の合計17点における
、単位面積が直径1μm
の測定エリアにおいて、レニウム含有量が、30wt%未満であ
り、前記レニウム含有量は、EPMAを用いた半定量分析において、変動係数が0.10以下である、レニウムタングステン線棒。
【請求項2】
レニウムを1wt%以上30wt%未満と、カリウム(K)を90wtppm以下含有し、残部がタングステンと不可避不純物からなるタングステン合金からなる線棒であって、
棒線本体の2か所の径方向断面において、それぞれ等間隔の4つ同心円と、直行する直径2本との交点16点と、中心の合計17点における、単位面積が直径1μmの測定エリアにおいて、レニウム含有量が、30wt%未満であり、前記レニウム含有量は、EPMAを用いた半定量分析において、変動係数が0.10以下である、レニウムタングステン線棒。
【請求項3】
前記レニウムの含有量が2wt%以上28wt%以下である、請求項1ないし2いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒。
【請求項4】
前記タングステン合金はカリウム(K)含有量が30wtppm以上90wtppm以下である、請求項
2に記載のレニウムタングステン線棒。
【請求項5】
前記線棒の直径が0.1mm以上5.0mm以下である、請求項1ないし
4いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒。
【請求項6】
前記線棒の引張強さの標準偏差が35N/mm
2以下である、請求項
5に記載のレニウムタングステン線棒。
【請求項7】
請求項1ないし
6いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒を用いる、熱電対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、レニウムタングステン線棒およびそれを用いた熱電対に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からTV用電子銃のカソードヒータ、自動車ランプや家電機器の照明用フィラメント材,高温構造部材,接点材,放電電極の構成材として、種々のタングステン(W)線が使用されている。この中でも、所定量のレニウム(Re)を含有するタングステン合金(Re-W)線は、W線の電気抵抗特性および耐摩耗性を向上させ、半導体検査用プローブピンに広く用いられている。また、W線の高温強度および再結晶後の延性を向上させ、電子管用ヒータ,耐振電球用フィラメント材、熱電対などに広く用いられている。また、Reの固溶強化により、常温での強度および剛性がステンレス線,W線より高いことから、医療用針にも用いられている。(特許文献2)
図1に、熱電対による温度計測の例を、略図で示す。熱電対は,2つの異種金属を組み合わせて、その熱起電力を利用する温度センサであり、構造が簡単なこと、素材の選択で低温度域から高温度域まで広い温度範囲で使用できる、などの特徴から、産業界では永年にわたり最も多く使用されている。
図2にJIS規格(JIS C1602参照)による熱電対の種類の一部を、例として示す。高温用として使用されるものには、白金・ロジウム合金系のB,S,R熱電対や、Re-W系のC熱電対がある。特に約1500℃ 以上の非酸化性雰囲気では,C熱電対が多く用いられている。
【0003】
例えば、焼結金属や焼結セラミックス等は、原料粉末とバインダーとしてのワックスとの混合物を成型品とした後、これを先ず1000℃以下の真空雰囲気で熱処理して脱ワックスする。続いて、1600~2000℃で熱処理して焼結するが、1600~2000℃の温度計測には、C熱電対が使用される。例えば、加圧焼結(HP)炉、熱間静水圧加圧成形(HIP)装置では、圧力容器中は、ガス加圧雰囲気で2000℃程度の高温度となる。放射温度計などの光学的温度計測では、炉室の放射光を直接観察するための開孔を設ける必要があり、圧力容器の強度低下をもたらす。また、容器内の開孔による熱損失も招く。このため、適用は非常に難しく、かつ装置が高価となる。従って、高圧ガス保安法の適用を受けるHP炉やHIP装置では、温度計測にC熱電対が使用される。
【0004】
近年、パワー半導体モジュール用やLED実装用の絶縁放熱基板や、風力発電機用や車載エンジン用のベアリングボールや、車載用部品や半導体製造装置等の産業用機器部品などへ、窒化ケイ素などの高特性を持つセラミックスの使用が、拡大している。これらのセラミックスは、前記の熱処理装置を使用し生産するが、高特性を維持し歩留良く生産するためには、熱処理の温度プロファイル管理が非常に重要である。このため、測温精度が、熱電対の製造ロット内や、ロット間で維持される事は、非常に重要となる。
【0005】
熱電対の使用にあたっては、熱電対が示す値と、実際の温度との関係を決定する、校正作業が必要となる。その校正方法は、大きく分けて定点法と比較法がある。定点法は、正確な温度値を温度定点で与えて校正を行う方法で、比較法は、任意に定めた恒温槽の温度を標準熱電対(基準線)で計測し、同時に計測した被校正熱電対との誤差を求めて校正を行う方法である。C熱電対に関しては、1500℃以上を測定するため、比較法が一般的である。
【0006】
高温で使用する熱電対は、それらを構成する素線のいずれの部分にも不均質度を生じない限り、温度と熱起電力の関係は変わらない、とされている。ここで、不均質度とは、「温度差1℃当たりの熱起電力に対する変化」を意味する(非特許文献1参照)。すなわち、この不均質度を有する部分(不均質部)が素線に存在し、その部分に温度勾配が生じると、検知される熱起電力は、不均質部を持たない素線の熱電対に対し、異なる値を示すことになる。例えば、前記の校正を行ったとしても、実際の装置内での熱勾配は再現できていない可能性が大きく、校正との温度ずれが生じる可能性がある。また素線の多くの部分に不均質部を有する場合、基準線との差が大きくなりすぎ、校正できない製品となる可能性も有る。
【0007】
一方、医療用針は、素線を所望の長さに切断し、プレス加工や曲げ加工を行うことで、その形状を形成する。プレス加工や曲げ加工の際、切断された素線に応力がかかるため、クラックが発生しにくく、折り曲げ部分に割れが発生しないことが求められる。また、医療用針は、手術の際の縫合用として使用される。縫合時に掛かる力で生じる針のたわみ等、針の挙動変動を抑えるために、引張強さが高く、ばらつきが少ないことが良い。針の加工の際のクラックや割れによる歩留まり低下を防ぎ、品質の安定した針を得るためには、切断された複数の素線が均質であることが必要であり、すなわち、使用される素線が均質であることが必要である。
【0008】
不均質度を生じる主要因としては、素線の材質のばらつきが挙げられる。例えば、Re-Wは、その製造方法として通常、W粉末とRe粉末とを混合し、これを成形し、焼結する、粉末冶金法が採用されている。Re-Wの焼結は固相拡散によって進むため、各粉末の粒度分布や、粉末の混合状態や、成型・焼結条件によっては、ReをWマトリックス中に拡散・均質化(固溶)させることが不可能となる。その結果、Re組成比が局部的に高い相領域(σ相の偏析相)が生成してしまうことがある。そして、σ相の偏析相が生成する事は、Re組成比率が、平均より低い部分も生じる事であり、このようなRe組成の変動がある焼結体を、棒材やワイヤ(線棒)へ加工した場合、加工方向(軸方向)断面や、軸方向垂直(径方向)断面で、Re量ばらつき(変動)による不均質を生じる。このσ相の偏析相に関しては、例えば、σ相の偏析相が一部に偏在していると、伸線加工時に断線が生じ易くなるため、σ相の偏析相を、最大粒径10μm以下とし、広範囲に分散したRe-W線がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特許第4256126号公報
【文献】日本国特許第5766833号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】門馬義雄、他5名「長時間クリープ試験に使用したPR熱電対の劣化原因とばらつき要因」、鉄と鋼1989年、第75年、第4号、p.665‐672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の方法は、σ相の偏析相を一部特定領域に偏在した状態ではなく、存在領域を所定の大きさ以下にまで微細化し広範囲に分散させることで、伸線で断線が無いレベルにまで抑えることが目的であり、微細なσ相の偏析相の存在を許容している。しかし、σ相の偏析相が均質に存在しても、一定の体積中における存在割合が変化している場合は、軸方向断面や、径方向断面で、Re量変動(材質の変化)が生じ、不均質部を生じている可能性がある。
【0012】
図3に、26%Re-W線でσ相の偏析相が存在した場合の、Wマトリックス中のRe量を、例として示す。EPMAによる半定量分析結果(加速電圧15.0kV、照射電流5.0×E
-8A、ビーム径1μm以下)からも、介在物がσ相であることが判る。σ相はマトリックスに比べて硬いために、このような介在物の形態で存在する。このσ相の近傍部位で、マトリックス中のRe量にばらつきが生じている。このように、σ相が存在することで、その周囲部は、Re量のばらつき(不均質)が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、実施形態にかかるレニウムタングステン線棒は、レニウムを1wt%以上30wt%未満含有し、残部がタングステンと不可避不純物からなるタングステン合金からなる線棒である。線棒本体の2か所の径方向断面において、それぞれ等間隔の4つ同心円と、直行する直径2本との交点16点と、中心の合計17点における、単位面積が直径1μmの測定エリアにおいて、レニウム含有量が、30wt%未満である。レニウム含有量は、EPMAを用いた半定量分析において、変動係数が0.10以下である。
また、実施形態によれば、レニウムを1wt%以上30wt%未満と、カリウム(K)を90wtppm以下含有し、残部がタングステンと不可避不純物からなるタングステン合金からなる線棒が提供される。棒線本体の2か所の径方向断面において、それぞれ等間隔の4つ同心円と、直行する直径2本との交点16点と、中心の合計17点における、単位面積が直径1μmの測定エリアにおいて、レニウム含有量が、30wt%未満である。レニウム含有量は、EPMAを用いた半定量分析において、変動係数が0.10以下である。
また、実施形態によれば、実施形態に係るレニウムタングステン線棒を用いる、熱電対が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】ReWマトリックスに存在する介在物(σ相)と半定量分析結果(従来材の例)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態のレニウムタングステン線棒について図面を参照して説明する。以後、レニウムタングステン線棒のことを、ReW線棒と示すこともある。なお、図面は模式的なものであり、例えば、各部の寸法の比率等は、図面に限定されるものではない。
【0016】
図4に、ReW線棒より採取したサンプルの、径方向断面の例を示す。径方向断面において、レニウムタングステン棒線本体をCで示す。また、
図4には、径方向断面のレニウムタングステン棒線外周部分のうちのAで示す部分の拡大図が示されている。
図4の拡大図に示す通り、レニウムタングステン棒線本体Cの外周部分に表面混合物層Bが形成されている。表面混合物層Bは、W、O及びCを構成元素として含む。線棒の直径は、各種の熱電対や、伸線加工用素線として使用できる様、0.1mm以上5.0mm以下が好ましい。例えば、熱電対用に使用する場合、線径が0.1mmを下回ると、高温使用時の蒸発消耗で、断線が発生し易く、短寿命である。線径が5.0mmを越えると、熱電対自体の熱容量により、対象物の温度を正確に測定できなくなる。より好ましい範囲は、0.2mm以上3.5mm以下である。ReW線棒は、鍛造(スエージング:SW)工程や、その後の伸線(ドローイング:DW)工程を経て、0.1mm以上5.0mm以下に加工される。SWやDW上がりの線棒には、表面に混合物層を有する。混合物は、W、O、Cを構成元素として含んでおり、製品化の際には、例えば電解工程を経て、除去される。この混合物を除く本体部分を、サンプルとする。サンプリングの位置は任意であるが、製品での歩留を考慮し、また、ばらつき評価を行うためには、線棒1本中で、離れた2か所以上の位置を、採取することが望ましい。ReW棒線一本の内、前後端末は、例えばDW装置の始動と停止で、条件が不安定となる部分がある。その部分はサンプリングに含めない。不安定部分の長さは、装置のレイアウト・大きさによって異なる。
【0017】
測定は、採取したサンプルの任意の断面で良いが、サンプル加工のし易さから、
図4の様な径方向断面が好ましい。サンプルを樹脂埋めし、必要に応じ研磨・エッチングすることで、観察が容易となる。得られた測定面に対し、例えば
図5に示すように、レニウムタングステン棒線本体Cの径方向断面において、等間隔の4つ同心円2~5とX軸,Y軸との交点(16点)と、中心点1の、合計17点について、EPMA(電子線マイクロアナライザー)を使用し、直径1μmの領域でのRe量を定量する。測定箇所は例示であり、どこを測定してもよいが、断面全体を偏りなく測定するには、この箇所が良い。また、測定対象の径方向断面は、線棒の任意の1箇所ではなく、離れた2か所以上の任意の位置のものを使用する。
【0018】
実施形態のReW線棒本体における、単位面積が直径1μmの任意の測定エリアにおいて、レニウム含有量が、30wt%未満である。30wt%以上のRe含有量は、平均添加量を超えている。焼結工程で、ReもしくはWの十分な拡散が行われておらず、軸断面方向や、径断面方向で、Re含有量にばらつきが有ることを示している。Re含有量のばらつきは、不均質度を生じる原因であり、ReW線棒で、位置による熱起電力のばらつきを生じる可能性が有る。
【0019】
次に、得られたRe量のデータについて、平均値(Ave)と、標準偏差(Sd)と、Sd/Aveで算出される変動係数(CV)と、を求める。CVは、平均に対するデータのばらつきの大きさの比率を示し、ReW線棒のRe比率が、多い少ないに関わらず、ばらつきを比較できる。
【0020】
実施形態のReW線棒のレニウム含有量のCVは、0.10以下であることが好ましい。さらには、0.05以下で有ることが好ましい。CVが0.10より大きい場合、例えば、σ相の偏析相が存在していなくても、軸断面方向や、径断面方向で、Re含有量にばらつきが有ることを示している。Re含有量のばらつきは、不均質度を生じる原因であり、ReW線棒で、位置による熱起電力のばらつきを生じる可能性が有る。
【0021】
実施形態のReW線棒に含まれるRe量は、1wt%以上30wt%未満、さらには2wt%以上28wt%以下が好ましい。Re量は、微量不純物の評価に適した誘導結合プラズマ‐質量分析法(Inductively Coupled Plasma‐Mass Spectrometry:ICP-MS)ではなく、構成元素の評価に適した誘導結合プラズマ‐発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma‐Optical Emission Spectrometry:ICP-OES)にて分析した値である。ReはWの高温での伸びを改善し、加工性を高める。また固溶強化により、強度を高める。しかし、含有量が1wt%未満の場合、その効果が不十分である。例えば、プローブピン用素材として使用した場合、完成したプロープピンは、使用頻度に伴って変形量が大きくなり、コンタクト不良が生じて半導体の検査精度が低下してしまう。Re含有量が28wt%程度より大きくなると、Wとの固溶限界を超えるため、σ相の偏析相が生じ、線棒に不均質部を生じ易くなる。不均質部を生じることで、熱起電力や、強度のばらつきを生じる。Re量を1wt%以上30wt%未満、2wt%以上28wt%以下とすることで、例えば、本実施形態を構成素材として、+側導体と,―側導体と、に使用した熱電対(+側導体とはプラス側導体,―側導体はマイナス側導体を示す)や、本実施形態を素材としたプローブピン用ReW線を、熱起電力特性(安定性)、機械的特性(強度・耐摩耗性)を確保しながら、歩留良く製作できる。
【0022】
実施形態のReW線棒は、ドープ材としてKを30wtppm以上90wtppm以下含有してもよい。Kを含有することで、ドープ効果により、高温での引張強度やクリープ強度を向上させる。K含有量が30wtppmより小さいと、ドープ効果が不十分となる。90wtppmを超えると、加工性が低下し歩留を大きく低下させる可能性がある。Kをドープ剤として30wtppm以上90wtppm以下含有することで、例えば、本実施形態を構成素材として、+側導体と,―側導体と、に使用した熱電対や、本実施形態を素材とした電子管ヒータ用ReW線を、高温特性(高温使用時の断線・変形防止)を確保しながら、歩留良く製作できる。
【0023】
実施形態のReW線棒は、引張強さの標準偏差は35N/mm2以下にすることができる。引張強さのばらつきを抑えられることにより、ReW線棒の加工安定性を改善することができるため、ReW線棒を使用した製品(例えば熱電対、プローブピン,医療用針)の歩留改善が期待できる。また、引張強さが安定することで医療用針の素材として使用した場合、医療用針の品質を向上させる。実施形態のReW線棒は、引張強さの標準偏差が35N/mm2以下で、かつ線棒の直径が0.1mm以上5.0mm以下であると、より優れた加工安定性を得ることができる。
引張強さは、万能引張圧縮試験機を使用し、測定される。線径により負荷が変わるため、万能引張圧縮試験機は、線径に合わせてロードセルを交換したり、装置を使い分けてもよい。例えば、島津製作所製AG-I 5kNや、ミネベア製LTS 500Nを使用してもよい。試験片は、滑り止め防止の紙やすりを介して、平板でチャックし、これらの両端末を装置に固定する。標点間距離は50mmとし、10mm/minの速度で、引張試験を行う。破断部分が標点間に無い場合は、再測定する。
【0024】
かかる実施形態により、材質のばらつき(不均質部)がなく、熱起電力の安定性向上に大きく寄与する、ReW線棒を実現でき、高温用熱電対用途に適用できる。また、プローブピン用ReW線用途にも適用できる。ReW線棒は、横断面が円形のものに限られず、横断面が円形以外の形状、例えば、楕円、多角形などを有するものであっても良い。
【0025】
次に、本実施形態に係るReW線棒の製造方法について説明する。製造方法は特に限定されるものではないが、例えば次のような方法が挙げられる。
【0026】
W粉末とRe粉末を、Re含有量が1wt%以上、30wt%未満となるように混合する。この混合方法については特に限定するものでは無いが、水もしくはアルコール系溶液を用い、粉末をスラリー状にして混合する方法は、分散性が良好な粉末が得られることから特に好ましい。また、粉末ロットの均質性を確保するため、前述スラリーを乾燥させたのち、同一粉末ロットを纏めて乾式での攪拌を行うことが、さらに好ましい。
【0027】
混合するRe粉末は、平均粒径が8μm未満のものが好ましい。粒度分布は、SD値が、11μm未満であることが好ましい。
図6に粒度分布の説明図を示す。横軸は粒経(μm)、左の縦軸は頻度(%)、右の縦軸は累積(%)である。SD値は、d(84%)を累積84%の粒径、d(16%)を累積16%の粒径としたとき、SD=(d(84%)-d(16%))/2により求める値で、測定した粒子径の分布幅の目安となるものである。なお粒度分布はレーザ回折法で計測するものとする。一回の測定に用いる粉末量は測定装置に推奨された量で行うものとする。一般的には、0.02gを推奨とする。また、測定サンプルは、計測前に十分攪拌してから計量するものとする。
【0028】
W粉末は、不可避不純物を除く純W粉末、もしくは、線材までの歩留を考慮したK量を含有する、ドープW粉末である。W粉末は、平均粒径が16μm未満のものが好ましい。粒度分布は、SD値が13μm未満であることが好ましい。Re粉末,W粉末それぞれの平均粒径、粒度分布が前記以上だと、均質となるための、Re原子、もしくはW原子の拡散距離が増え、σ相を生成しやすくなる。
【0029】
Re平均粒径/W平均粒径の比は、0.4以上2.0以下となることが好ましい。Re平均粒径/W平均粒径の比が、0.4より小さい場合、もしくは2.0より大きい場合、Re原子のW粒中心部までの拡散距離、もしくはW原子のRe粒中心部までの拡散距離が大きくなり、σ相を生じ易くなる可能性が有る。
【0030】
次に、混合粉末を、所定の金型に入れてプレス成形する。この時のプレス圧力は、150MPa以上が好ましい。成形体は、取り扱いを容易にするために、水素炉にて1200~1400℃で仮焼結処理してもよい。得られた成型体は、水素雰囲気下、もしくはアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、もしくは真空下にて焼結する。焼結温度は2500℃以上が好ましい。2500℃未満であると、焼結時にRe原子、W原子の拡散が十分に進まない。焼結温度の上限は、3400℃(Wの融点3422℃以下)である。
【0031】
焼結体の相対密度は、90%以上が好ましい。焼結後の相対密度は、真密度に対する相対密度(%)であり、真密度に対する相対密度(%)は、[焼結体密度/真密度]×100%で表される。また焼結体1本中で、例えば、通電焼結での下端末など、最も低い部位の密度と、同一焼結体の全体の平均密度の比率は0.98以上が好ましい。焼結体の相対密度を90%以上、最も低い部位の密度の、同一焼結体の全体の平均密度に対する比率を0.98以上とすることで、Re含有量の変動を抑えることができる。
【0032】
本焼結工程で得られた焼結体に対し、第1のSW加工を行う。第1のSW加工は、加熱温度1300~1600℃で実施することが好ましい。1回の加熱処理(1ヒート)で加工する、断面積の減少率(減面率)は5~15%が好ましい。
【0033】
第1のSW加工に変わり、圧延加工を実施してもよい。圧延加工は、加熱温度1200~1600℃で実施することが好ましい。1ヒートでの減面率は、40~75%が好ましい。圧延機としては、2方ローラ圧延機ないし4方ローラ圧延機や型ロール圧延機などが使用できる。圧延加工により、製造効率を大幅に高めることが可能となる。第1のSW加工と、圧延加工を組み合わせても良い。
【0034】
第1のSW加工か、圧延加工か、ないしは組合せによる加工を完了した焼結体(ReW棒材)に対し、第2のSW加工を実施する。第2のSW加工は、加熱温度1200~1500℃で実施することが好ましい。1回の加熱(1ヒート)での減面率は、5~20%程度が好ましい。
【0035】
第2のSW工程を終了したReW棒材に対して、次に再結晶化処理を実施する。再結晶化処理は、例えば、高周波加熱装置を用いて、水素雰囲気下、もしくはアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、もしくは真空下で、処理温度1800~2600℃の範囲で、実施することができる。
【0036】
再結晶化処理を完了したReW棒材は、第3のSW加工を行う。第3のSW加工は、加熱温度1200~1500℃で実施することが好ましい。1ヒートでの減面率は、10~30%程度が好ましい。第3のSW加工は、ReW棒材が伸線加工可能な直径(好ましくは直径2~4mm)になるまで、実施される。
【0037】
第3のSW加工を終了したReW棒材は、円滑な伸線(DW)加工を可能にするため、表面に潤滑剤を塗布する処理と、潤滑剤を乾燥し、加工可能な温度に加熱する処理と、引抜ダイスを用いて引き抜き加工する処理と、を繰り返す、DW加工を行う。潤滑剤は、耐熱性に優れたC系の潤滑剤を用いることが望ましい。加工温度は1100℃以下が好ましい。加工温度は、DWする線径に応じ、設定する。1ダイス毎の減面率は、10~35%が好ましい。DW工程の途中で、必要に応じ、アニール工程や表面研磨工程(例えば電解工程)を加えても良い。
【0038】
SW上がりの、もしくはDW上がりの、適正量のReW線棒に対し、熱処理・表面研磨など、必要な工程を追加し、熱電対用素材とする。この後、所定の組合せにて、熱電対を製作する。
(実施例)
実施例1~4は、前記加工条件により、焼結体を製造した。参考例5,比較例1は、Re粉末とW粉末サイズを従来条件とし、焼結体を製造した。参考例6と比較例2は、W粉末サイズを従来条件とし、焼結体を製造した。表1に、各例の分析結果を示す。Re,Kの分析は、誘導結合プラズマ‐質量分析法(Inductively Coupled Plasma‐Mass Spectrometry:ICP-MS)ではなく、誘導結合プラズマ‐発光分光分析法(ICP-OES)にて実施した。なお、Kの下限検出限界は5wtppmであり、添加せずに分析値が5wtppmを下廻った場合を「-」で記す。
【0039】
【0040】
各焼結体は、前記の加工工程にて、直径0.5mmまで加工した。実施例2,4と比較例2は、別に直径5.0mmまでと、直径0.1mmまでを、加工した。加工完了後、前記の方法にて、各線棒の両端部からサンプリングし、1サイズにつき17点×2サンプル=合計34点を、EPMA(日本電子(株)製JXA-8100、倍率1000倍,加速電圧15.0kV、照射電流5.0×E-8A)を使用し、直径1μmの領域でのRe含有量を分析した。次に、分析値からCVを算出した。表2に評価結果を示す。Re含有量は、「全測定点で30wt%未満」を「〇」、「1点以上が30wt%以上」を「×」、で表す。表中の斜線は、サンプル製作しなかったサイズを示す。またKは、添加せずに分析値が5wtppmを下廻った場合を「-」で記す。
【0041】
【0042】
次に、直径0.5mmに加工した線棒を使用し、表3に示す試作1~8の組合せで、所定の工程を経て、熱電対を試作した。試作2は、直径0.1mm(試作2-2)、直径5mm(試作2-3)、も試作した。素材は、両端末から2本ずつサンプリングした。位置の組合せが重ならない様にし(前-前、前-後、後-前、後-後)、各組合せ4本の熱電対を製作した。ここで、1本の線棒の一方の端部が前、同じ線棒の他方の端部が後である。例えば、前-前は、一方の線棒の前と、他方の線棒の前との組み合わせを示す。熱電対は試作毎に、校正済みの白金ロジウム熱電対とともに電気炉に投入し、白金ロジウム熱電対が1600℃を示す温度で、
図1に示すシステムにて熱起電力を測定し、温度を算出した(JISC1602)。
図1に示す温度計測システムは、熱電対のプラス「+」側導体及びマイナス「-」側導体と、測温接点と、基準接点と、計測器と、補償導線を備える。測温接点は、熱電対のプラス側導体の先端部と熱電対のマイナス側導体の先端部を溶接することにより形成される。熱電対のプラス側導体と熱電対のマイナス側導体は、それぞれ、基準接点に接続されている。基準接点と計測器は、補償導線によって接続されている。各試作を使って求めた温度の、最大最小の差(Max-Min)を、表3に示す。表から分かる通り、実施形態に係るReW線棒は、本体のReばらつきが抑制され、同一線棒を使用した熱電対の温度ばらつきが抑制された。それに対し、比較例のものはReばらつきが抑制されず、同一線棒を使用した熱電対の温度のばらつきが大きかった。このため、実施形態を熱電対とした場合の歩留は、大きく改善される。
【0043】
【0044】
また、直径0.5mmの実施例4と、直径0.5mmの比較例2で、引張強さを比較した。引張片は、全長から均等に20サンプルを採取した。試験は、万能引張圧縮試験機(島津製作所製AG-I 5kN)を使用した。試験片は、滑り止め防止の紙やすりを介して平板でチャックし、両端末を装置に固定した。標点間距離は50mmとし、10mm/minの速度で、引張試験した。結果を表4に示す。引張強さの平均値には差は無いが、ばらつきを示す標準偏差は、実施例4が、比較例2に比較し非常に小さい。このため、実施例を素材として加工する際の条件安定性が、大きく改善され、歩留改善に寄与する。また、他の実施例についても引張強さの標準偏差は35N/mm2以下であった。
実施例を素材として加工する際の条件安定性が、大きく改善され、歩留改善に寄与する。この線棒を複数切断して医療用針を製造した場合、引張強さの安定した針を得ることができる。
【0045】
【0046】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態はその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] レニウムを含有するタングステン合金からなる線棒であって、棒線本体における単位面積が直径1μmの任意の測定エリアにおいて、レニウム含有量が、30wt%未満である、レニウムタングステン線棒。
[2]前記レニウム含有量は、EPMAを用いた半定量分析において、変動係数が0.10以下である、[1]に記載のレニウムタングステン線棒。
[3]前記レニウムの含有量が1wt%以上30wt%未満である、[1]ないし[2]いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒。
[4]前記レニウムの含有量が2wt%以上28wt%以下である、[1]ないし[2]いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒。
[5]前記タングステン合金はカリウム(K)含有量が30wtppm以上90wtppm以下である、[1]ないし[4]いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒。
[6]前記線棒の直径が0.1mm以上5.0mm以下である、[1]ないし[5]いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒。
[7]前記線棒の引張強さの標準偏差が35N/mm
2
以下である、[6]に記載のレニウムタングステン線棒。
[8][1]ないし[7]いずれか1項に記載のレニウムタングステン線棒を用いる、熱電対。
【符号の説明】
【0047】
A…レニウムタングステン棒線外周部分
B…表面混合物層
C…レニウムタングステン棒線本体
1…径方向断面中心点
2,3,4,5…径方向断面同心円
X,Y…径方向断面のX軸,Y軸