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特許7550315変異型ATP依存性プロテアーゼ及びそれを用いたL-アミノ酸の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】変異型ATP依存性プロテアーゼ及びそれを用いたL-アミノ酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240905BHJP
   C07K 14/34 20060101ALI20240905BHJP
   C12P 13/06 20060101ALI20240905BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 9/52 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/57
C12N15/31
C07K14/34
C12P13/06 C
C12P13/08 D
C12N9/52
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023532433
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 KR2021008881
(87)【国際公開番号】W WO2022124511
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0173802
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  12755P
【微生物の受託番号】KCCM  12858P
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨン,ビョン ホン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヒェ
(72)【発明者】
【氏名】ペ,ジ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,スン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,キュンリム
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒュン ジュン
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0102669(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 1/38
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATP依存性プロテアーゼ活性が非改変微生物より弱化された改変コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)微生物であって、配列番号5で表される配列の配列番号において431番目~433番目の位置に相当するアミノ酸が欠失したポリペプチド、又は配列番号6で表される配列の配列番号において1,291番~1,299番目の位置に相当するヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチドを含む、改変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物。
【請求項2】
前記微生物は、分枝鎖アミノ酸生産能を有するものである、請求項1に記載の改変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物。
【請求項3】
前記分枝鎖アミノ酸は、L-バリン又はL-イソロイシンである、請求項2に記載の変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物。
【請求項4】
前記弱化は、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットの活性弱化である、請求項1に記載の改変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物。
【請求項5】
前記ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、コリネバクテリウム属由来のものである、請求項4に記載の改変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物。
【請求項6】
前記ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、配列番号5又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドを含む、請求項4に記載の改変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物。
【請求項7】
配列番号5で表されるアミノ酸配列において431番目~433番目の位置に相当するアミノ酸が欠失したClpC変異体。
【請求項8】
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドを含むものである、請求項に記載のClpC変異体。
【請求項9】
請求項に記載のClpC変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1に記載の改変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物を培地で培養するステップを含む分枝鎖アミノ酸生産方法。
【請求項11】
前記培養するステップの後に、培地又は微生物から分枝鎖アミノ酸を回収するステップをさらに含む、請求項10に記載の分枝鎖アミノ酸生産方法。
【請求項12】
請求項1に記載の改変コリネバクテリウム・グルタミカム微生物の分枝鎖アミノ酸生産への使用。
【請求項13】
配列番号5で表されるアミノ酸配列において431番目~433番目の位置に相当するアミノ酸が欠失したClpC変異体、又は前記ClpC変異体をコードするポリヌクレオチドの分枝鎖アミノ酸生産への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型ATP依存性プロテアーゼ(ATP-dependent protease)及びそれを用いたL-アミノ酸の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸は、タンパク質の基本構成単位であり、薬品原料や食品添加剤、動物飼料、栄養剤、殺虫剤、殺菌剤などの重要素材として用いられる。特に、分枝鎖アミノ酸(Branched Chain Amino Acids, BCAA)とは、必須アミノ酸であるL-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシンを総称するものであり、前記分枝鎖アミノ酸は、抗酸化効果及び筋肉細胞のタンパク質合成作用を直接促進する効果があることが知られている。
【0003】
一方、微生物を用いた分枝鎖アミノ酸の生産は、主にエシェリキア属微生物又はコリネバクテリウム属微生物により行われ、ピルビン酸から様々な段階を経てケトイソカプロン酸(2-ketoisocaproate)を前駆体として生合成されることが知られている(特許文献1,2,3)。しかし、前記微生物による分枝鎖アミノ酸の生産には、工業的な大量生産が容易でないという問題がある。
【0004】
よって、分枝鎖アミノ酸の需要の増加に伴い、効果的に分枝鎖アミノ酸の生産能を向上させるための研究が依然として求められている現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第9885093号明細書
【文献】米国特許第10351859号明細書
【文献】米国特許第8465962号明細書
【文献】韓国登録特許第10-1335789号公報
【文献】米国特許第9109242号明細書
【文献】国際公開第2008/033001号
【文献】米国特許第10662450号明細書
【文献】韓国登録特許第10-0057684号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Nakashima N et al., Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793
【文献】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【文献】Weintraub, H. et al., Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986
【文献】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【文献】Pearson et al(1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387(1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math(1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358(1979)
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【文献】"Manual of Methods for General Bacteriology" by the American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)
【文献】van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999
【文献】Biotechnology and Bioprocess Engineering, June 2014, Volume 19, Issue 3, pp 456-467
【文献】Appl. Microbiol. Biotechnol. 45, 612-620 (1996)
【文献】Appl. Enviro. Microbiol., Dec. 1996, p.4345-4351
【文献】Appl. Microbiol. Biothcenol.(1999, 52:541-545)
【文献】S. Morbach et al., Appl. Enviro. Microbiol., 62(12): 4345-4351, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、分枝鎖アミノ酸の生産能を向上させるために鋭意努力した結果、変異型ATP依存性プロテアーゼを用いて分枝鎖アミノ酸を高濃度で生産する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ATP依存性プロテアーゼ(ATP-dependent protease)の活性が非改変微生物より弱化された、好ましくは、分枝鎖アミノ酸生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、配列番号5で表されるアミノ酸配列において431番目~433番目の位置に相当するアミノ酸が欠失したClpC変異体を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、本出願のClpC変異体をコードするポリヌクレオチドを提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、本出願のコリネバクテリウム属微生物、又は本発明のClpC変異体、又は本発明のポリヌクレオチド、又はそれを含むベクターの少なくとも1つを含むコリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップを含む分枝鎖アミノ酸生産方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明による微生物は、分枝鎖アミノ酸を高効率で生産することができる。また、生産した分枝鎖アミノ酸は、薬品原料や食品添加剤、動物飼料、栄養剤、殺虫剤、殺菌剤などの様々な製品に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本明細書で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本明細書で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。さらに、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本明細書に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0014】
本発明の一態様は、ATP依存性プロテアーゼ(ATP-dependent protease)活性が非改変微生物より弱化されたコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0015】
本発明における「ATP依存性プロテアーゼ(ATP-dependent protease)(EC 3.4.21.92)」とは、ATP及びMg2+の存在下でタンパク質を小さなペプチドに加水分解する酵素を意味する。本発明のATP依存性プロテアーゼは、エンドペプチダーゼClp、ATP依存性Clpプロテアーゼ、ClpP、Clpプロテアーゼと混用される。
【0016】
本発明のATP依存性プロテアーゼの弱化は、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット(ATP-dependent Clp protease ATP-binding subunit)の活性弱化であってもよい。
【0017】
前記ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、AAAファミリーATPase(AAA family ATPase)又はClpCと混用される。本発明において、前記ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。具体的には、前記サブユニットは、clpCによりコードされるATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット活性を有するポリペプチドであるが、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明のATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、コリネバクテリウム属由来のものであってもよい。例えば、本出願のATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来のものであってもよい。
【0019】
本発明のATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、配列番号5又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドを含むものであってもよい。
【0020】
例えば、本発明の配列番号5のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、本発明の配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、96.26%以上、97%以上、97.5%以上、97.7%以上、97.8%以上、98%以上、98.5%以上、98.7%以上、98.8%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上、99.8%以上又はそれ以上、及び100%未満の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。また、このような相同性又は同一性を有して前記ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットに同一又は相当する活性を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、本発明の弱化対象となるタンパク質に含まれることは言うまでもない。
【0021】
さらに、本発明のATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットは、配列番号5のアミノ酸配列又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドを有するものであってもよく、前記ポリペプチドからなるものであってもよく、前記ポリペプチドから必須に構成される(consisting essentially of)ものであってもよい。本発明のATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニットには、配列番号5又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加(すなわち、アミノ酸配列N末端及び/又はC末端にタンパク質の機能を変更しない配列の付加)、自然に発生し得る突然変異、その非表現突然変異(silent mutation)又は保存的置換を有するものも含まれる。
【0022】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。通常、保存的置換は、タンパク質又はポリペプチドの活性にほとんど又は全く影響を及ぼさない。
【0023】
本発明の微生物は、配列番号5で表される配列の配列番号において431番目~433番目の位置に相当するアミノ酸が欠失したポリペプチドを含むものであってもよく、配列番号6で表される配列の配列番号において1,291番~1,299番目の位置に相当するヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
【0024】
本発明における「相当する(corresponding to)」とは、ポリペプチド又はポリヌクレオチドにおいて列挙される位置のアミノ酸残基もしくはヌクレオチド残基であるか、又はポリペプチドもしくはポリヌクレオチドにおいて列挙される残基に類似、同一もしくは相当するアミノ酸残基もしくはヌクレオチド残基であることを意味する。相当する位置のアミノ酸又はヌクレオチドを確認することは、特定配列を参照する配列の特定アミノ酸又はヌクレオチドを決定することになる。本発明における「相当領域」とは、一般に関連タンパク質又は比較(reference)タンパク質における類似又は対応する位置を意味する。
【0025】
例えば、任意のアミノ酸配列を配列番号5又は配列番号6とアラインメント(align)すると、それに基づいて、前記アミノ酸配列の各アミノ酸残基は、配列番号6のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基、又は配列番号6のヌクレオチド残基に相当するヌクレオチド残基の数、位置を参照してナンバリングすることができる。例えば、本発明における配列アラインメントアルゴリズムは、クエリー配列(「参照配列」ともいう)と比較すると、アミノ酸の位置、又は置換、挿入、欠失などの改変が生じる位置を確認することができる。
【0026】
このようなアラインメントには、例えばNeedleman-Wunschアルゴリズム(非特許文献1)、EMBOSSパッケージのNeedlemanプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献2)などを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の配列アラインメントプログラム、ペアワイズ配列(pairwise sequence)比較アルゴリズムなどを適宜用いることができる。
【0027】
本発明におけるポリペプチド活性の「弱化」は、内在性活性に比べて活性が低下することや、活性がなくなることが全て含まれる概念である。前記弱化は、不活性化(inactivation)、欠乏(deficiency)、下方調節(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)、減衰(attenuation)などと混用される。
【0028】
前記弱化には、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異などによりポリペプチド自体の活性が、本来微生物が有するポリペプチドの活性に比べて減少又は除去される場合が含まれ、それをコードするポリヌクレオチドの遺伝子の発現阻害やポリペプチドへの翻訳(translation)阻害などにより細胞内での全体的なポリペプチド活性の程度及び/又は濃度(発現量)が天然菌株に比べて低い場合が含まれ、前記ポリヌクレオチドの発現が全くない場合が含まれ、かつ/又はポリヌクレオチドが発現したとしてもポリペプチドの活性がない場合が含まれる。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株、野生型又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。ポリペプチドの活性が内在性活性に比べて「不活性化、欠乏、減少、下方調節、低下、減衰」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性に比べて低下することを意味する。
【0029】
このようなポリペプチドの活性の弱化は、これらに限定されるものではなく、当該分野で周知の様々な方法を適用することにより達成することができる(例えば、非特許文献3、4など)。
【0030】
具体的には、本発明のポリペプチド活性の弱化は、1)ポリペプチドをコードする遺伝子の全部又は一部を欠失させること、2)ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が減少するように発現調節領域(又は発現調節配列)を改変すること、3)ポリペプチドの活性が欠失又は弱化されるように前記ポリペプチドを構成するアミノ酸配列を改変すること(例えば、アミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸を欠失/置換/付加すること)、4)ポリペプチドの活性が欠失又は弱化されるように前記ポリペプチドをコードする遺伝子配列を改変すること(例えば、ポリペプチドの活性が欠失又は弱化されるように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子の核酸塩基配列の1つ以上の核酸塩基を欠失/置換/付加すること)、5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変すること、6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入すること、7)リボソーム(ribosome)の付着を不可能にする2次構造物が形成されるようにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加すること、8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加すること(Reverse transcription engineering, RTE)、又は9)前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせにより行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0031】
例えば、前記1)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の一部又は全部を欠失させることは、染色体内の内在性標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド全体を欠失させること、一部のヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行われてもよい。
【0032】
また、前記2)発現調節領域(又は発現調節配列)を改変することは、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節領域(又は発現調節配列)上の変異を発生させるか、より低い活性を有する配列に置換することにより行われてもよい。前記発現調節領域には、プロモーター、オペレータ配列、リボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
さらに、前記3)及び4)のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を改変することは、ポリペプチドの活性が弱化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列又は前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より低い活性を有するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列、又は活性がなくなるように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列に置換することにより行われるが、これらに限定されるものではない。例えば、ポリヌクレオチド配列に変異を導入して終止コドンを形成することにより、遺伝子の発現を阻害又は弱化させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
さらに、前記5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変することは、例えば、内在性開始コドンに比べてポリペプチドの発現率が低い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入することは、例えば、非特許文献5のように行われてもよい。
【0036】
前記7)リボソーム(ribosome)の付着を不可能にする2次構造物が形成されるようにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加することは、mRNA翻訳を不可能にするか、速度を弱化させることにより行われてもよい。
【0037】
前記8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加すること(Reverse transcription engineering, RTE)は、前記ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物に相補的なアンチセンスヌクレオチドを作成して活性を弱化させることにより行われてもよい。
【0038】
本発明の微生物は、分枝鎖アミノ酸生産能を有するものであってもよい。具体的には、本出願の分枝鎖アミノ酸は、L-バリン又はL-イソロイシンであってもよい。
【0039】
本発明における「微生物(又は菌株)」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物であって、目的とするポリペプチド、タンパク質又は産物の生産のために遺伝的改変(modification)が行われた微生物であってもよい。
【0040】
具体的には、本発明の菌株は、分枝鎖アミノ酸生産能のない親株に分枝鎖アミノ酸生産能が付与された微生物、又は分枝鎖アミノ酸生産能を有する微生物において、自然に存在するATP依存性プロテアーゼの代わりに、本発明の弱化されたATP依存性プロテアーゼ又はそれをコードするポリヌクレオチド(又は前記ポリヌクレオチドを含むベクター)が導入されたものであるか、本発明の弱化されたATP依存性プロテアーゼに改変されたものであるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本発明において、前記ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット変異体が発現して分枝鎖アミノ酸を生産する微生物は、前記本発明のポリヌクレオチドを含み、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット変異体が発現して分枝鎖アミノ酸生産能が向上したことを特徴とする微生物であってもよい。具体的には、本発明において、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット変異体が発現して分枝鎖アミノ酸を生産する微生物、又はATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット変異体発現能及び分枝鎖アミノ酸生産能を有する微生物は、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット活性が弱化され、分枝鎖アミノ酸生合成経路の遺伝子の一部が強化又は弱化された微生物であってもよく、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット活性が弱化され、分枝鎖アミノ酸分解経路の遺伝子の一部が強化又は弱化された微生物であってもよい。
【0042】
本発明のコリネバクテリウム属微生物は、さらにアセト乳酸シンターゼアイソザイム1サブユニット(Acetolactate synthase isozyme 1 small subunit)活性が強化された微生物、アスパルトキナーゼ(aspartokinase)活性が強化された微生物、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)活性が弱化された微生物、及び/又はL-トレオニンデヒドラターゼ生合成IlvA(L-threonine dehydratase biosynthetic IlvA)活性が強化された微生物である。
【0043】
本発明におけるポリペプチド活性の「強化」とは、ポリペプチドの活性を内在性活性に比べて向上させることを意味する。前記強化は、活性化(activation)、上方調節(up-regulation)、過剰発現(overexpression)、増加(increase)などと混用される。ここで活性化、強化、上方調節、過剰発現、増加には、本来なかった活性を示すようになることや、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することが全て含まれる。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。ポリペプチドの活性が内在性活性に比べて「強化」、「上方調節」、「過剰発現」又は「増加」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性及び/又は濃度(発現量)に比べて向上することを意味する。
【0044】
前記強化は、外来ポリペプチドの導入により達成してもよく、内在性ポリペプチドの活性及び/又は濃度(発現量)の強化により達成してもよい。前記ポリペプチドの活性が強化されたか否かは、当該ポリペプチドの活性の程度、発現量、又は当該ポリペプチドから生産される産物の量の増加により確認することができる。
【0045】
前記ポリペプチドの活性の強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的ポリペプチドの活性を改変前の微生物より強化できるものであれば、いかなるものでもよい。具体的には、分子生物学における通常の方法であり、当該技術分野における通常の知識を有する者に周知の遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を用いたものであるが、これらに限定されるものではない(例えば、非特許文献4、6など)。
【0046】
具体的には、本発明のポリペプチド活性の強化は、1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させること、2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節領域を活性が強力な配列に置換すること、3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変すること、4)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドのアミノ酸配列を改変すること、5)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を改変すること(例えば、ポリペプチド活性が強化されるように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列を改変すること)、6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチド又はそれをコードする外来ポリヌクレオチドを導入すること、7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化すること、8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾すること、又は9)前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせにより行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0047】
このようなポリペプチド活性の強化は、対応するポリペプチドの活性又は濃度、発現量が野生型や改変前の微生物菌株で発現するポリペプチドの活性又は濃度に比べて増加するか、当該ポリペプチドから生産される産物の量が増加することにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明の微生物において、ポリヌクレオチドの一部又は全部の改変は、(a)微生物中の染色体挿入用ベクターを用いた相同組換え、もしくは遺伝子はさみ(engineered nuclease, e.g., CRISPR-Cas9)を用いたゲノム編集、並びに/又は(b)紫外線や放射線などの光及び/もしくは化学物質処理により誘導することができるが、これらに限定されるものではない。前記遺伝子の一部又は全部の改変方法には、DNA組換え技術による方法が含まれる。例えば、標的遺伝子と相同性のあるヌクレオチド配列が含まれるヌクレオチド配列又はベクターを前記微生物に導入して相同組換え(homologous recombination)を起こすことにより遺伝子の一部又は全部の欠失が行われる。この導入されるヌクレオチド配列又はベクターには、優性選択マーカーが含まれてもよいが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明のコリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)又はコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよい。
【0050】
本発明の他の態様は、配列番号5で表されるアミノ酸配列において431番目~433番目の位置に相当するアミノ酸が欠失したClpC変異体を提供する。
【0051】
前記ClpC変異体は、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット変異体であってもよい。「ClpC」又は「ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット」については前述した通りである。
【0052】
例えば、本発明のClpC変異体は、配列番号1のアミノ酸配列又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドを含むものであってもよい。
【0053】
本発明のClpC変異体は、前述したように、配列番号1のアミノ酸配列又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドを有するものであってもよく、前記ポリペプチドからなるものであってもよく、前記ポリペプチドから必須に構成される(essentially consisting of)ものであってもよい。具体的には、本発明のClpC変異体は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%又は99.9%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。また、このような相同性又は同一性を有し、本発明のClpC変異体に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有する変異体も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0054】
本発明における「変異体(variant)」とは、少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により前記変異体の変異前のアミノ酸配列とは異なるが、機能(functions)又は特性(properties)が維持されるポリペプチドを意味する。このような変異体は、一般に前記ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、その改変したポリペプチドの特性を評価することにより同定(identify)することができる。すなわち、変異体の能力は、変異前のポリペプチドより向上するか、変わらないか又は弱化する。また、一部の変異体には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異体も含まれる。他の変異体には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体も含まれる。前記「変異体」には、変異型、改変、変異型ポリペプチド、変異したタンパク質、変異などの用語(英語表現では、modification、modified polypeptide、modified protein、mutant、mutein、divergentなど)が用いられるが、変異を意味する用語であればいかなるものでもよい。
【0055】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、変異体のN末端には、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(translocation)に関与するシグナル(又はリーダー)配列が結合されてもよい。また、前記変異体は、確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0056】
本発明における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が類似する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0057】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全部又は一部分とハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションには、ポリヌクレオチドにおいて一般のコドン又はコドン縮退を考慮したコドンを有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることは言うまでもない。
【0058】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献7のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献2)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献1)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献8)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献9、10及び11)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0059】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献12に開示されているように、非特許文献1などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献13に開示されているように、非特許文献14の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0060】
本発明の一例として、本発明の変異体は、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット活性を有するものであってもよい。また、本発明の変異体は、ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット活性を有する野生型ポリペプチドに比べて、分枝鎖アミノ酸生産を増加させる活性を有するものであってもよい。
【0061】
本発明のさらに他の態様は、本発明のClpC変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0062】
前記「ClpC変異体」及び「ATP依存性ClpプロテアーゼATP-バインディングサブユニット変異体」については前述した通りである。
【0063】
本発明における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味し、より具体的には前記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0064】
本発明のClpC変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1のアミノ酸配列又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードする核酸塩基配列を含むものであってもよい。本発明の一例として、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2又はそれと90%以上の同一性を有する核酸塩基配列で表されるポリヌクレオチドを有するものであってもよく、前記ポリヌクレオチドを含むものであってもよい。また、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2の核酸塩基配列で表されるポリヌクレオチドからなるものであってもよく、前記ポリヌクレオチドから必須に構成されるものであってもよい。
【0065】
本発明のポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は本発明の変異体を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、本発明の変異体のアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。
【0066】
また、本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば本発明のポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(非特許文献15、16参照)に具体的に記載されている。例えば、相同性もしくは同一性の高いポリヌクレオチド同士、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するポリヌクレオチド同士をハイブリダイズし、それより相同性もしくは同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0067】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデニンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願のポリヌクレオチドには、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0068】
具体的には、本発明のポリヌクレオチドと相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0069】
前記ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(例えば、非特許文献15)。
【0070】
本発明のさらに他の態様は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0071】
前記ベクターは、前記ポリヌクレオチドを宿主細胞において発現させるための発現ベクターであるが、これに限定されるものではない。
【0072】
本発明のベクターとは、好適な宿主内で標的遺伝子を導入できるように、好適な調節配列に作動可能に連結された標的ポリヌクレオチド配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、染色体内で標的ポリヌクレオチドを変異したポリヌクレオチドに置換することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0073】
本発明に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pDC、pDCM2、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0074】
例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に導入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0075】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0076】
本発明のベクターを形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
また、本発明における「作動可能に連結」されたものとは、本願の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0078】
本発明のさらに他の態様は、本発明の変異体、又は本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターの少なくとも1つを含むコリネバクテリウム属菌株を提供する。
【0079】
本発明の菌株は、本発明の変異体、本発明のポリヌクレオチド、及び本発明のポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む菌株であるか、本発明の変異体、又は本発明のポリヌクレオチドを発現するように改変された菌株であるか、本発明の変異体、又は本発明のポリヌクレオチドを発現する菌株(例えば、組換え菌株)であるか、又は本発明の変異体の活性を有する菌株(例えば、組換え菌株)であるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
例えば、本発明の菌株は、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のClpC変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換され、本発明のClpC変異体を発現する細胞又は微生物であり、本発明の目的上、本発明の菌株は、本発明のClpC変異体をはじめとする、分枝鎖アミノ酸を生産する微生物であればいかなるものでもよい。例えば、本発明の菌株は、分枝鎖アミノ酸を生産する微生物に本発明のClpC変異体をコードするポリヌクレオチドが導入されることによりClpC変異体が発現し、分枝鎖アミノ酸生産能が向上した組換え菌株であってもよい。前記分枝鎖アミノ酸生産能が向上した組換え菌株は、天然の野生型微生物、又はClpC非改変微生物(すなわち、野生型アルデヒドデヒドロゲナーゼ(配列番号5)を発現する微生物、又は変異型(配列番号1)タンパク質を発現しない微生物)に比べて、分枝鎖アミノ酸生産能が向上した微生物であるが、これらに限定されるものではない。例えば、前記分枝鎖アミノ酸生産能が向上したか否かを比較する対象菌株であるClpC非改変微生物は、CA08-0072菌株(KCCM11201P,特許文献3)又はKCJI-38(KCCM11248P,特許文献4)であるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明における「非改変微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、野生型菌株もしくは天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。例えば、前記非改変微生物とは、本明細書におけるClpC変異体が導入されていないか、導入される前の菌株を意味する。前記「非改変微生物」は、「改変前の菌株」、「改変前の微生物」、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0082】
本発明のさらに他の態様は、本発明のATP依存性プロテアーゼ活性が非改変微生物より弱化されたコリネバクテリウム属微生物、又は本発明のClpC変異体、本発明のClpC変異体をコードするポリヌクレオチド、もしくは本発明のベクターを含むコリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップを含む分枝鎖アミノ酸生産方法を提供する。
【0083】
本発明における「培養」とは、本発明のコリネバクテリウム属微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本発明の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び/又は流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明における「培地」とは、本発明のコリネバクテリウム属微生物を培養するために必要な栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質や発育因子などを供給する。具体的には、本発明のコリネバクテリウム属微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられる培地であればいかなるものでもよく、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本発明のコリネバクテリウム属微生物を培養することができる。
【0085】
具体的には、コリネバクテリウム属菌株に対する培養培地は、非特許文献17に開示されている。
【0086】
本発明における前記炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、具体的には、グルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができ、それ以外に、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。これらの構成成分又は前駆体は、培地に回分式又は連続式で添加することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0089】
また、本発明のコリネバクテリウム属微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加し、培地のpHを調整してもよい。さらに、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。さらに、培地の好気状態を維持するために、培地中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0090】
本発明の培養において、培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃に維持し、約10~160時間培養するが、これらに限定されるものではない。
【0091】
本発明の培養により生産された分枝鎖アミノ酸は、培地中に分泌されるか、細胞内に残留する。
【0092】
本発明の分枝鎖アミノ酸生産方法は、本発明のコリネバクテリウム属微生物を準備するステップ、前記微生物を培養するための培地を準備するステップ、又はそれらの組み合わせ(順序関係なし)を、例えば前記培養するステップの前にさらに含んでもよい。
【0093】
本発明の分枝鎖アミノ酸生産方法は、前記培養に用いた培地(培養が行われた培地)又は本発明のコリネバクテリウム属微生物から分枝鎖アミノ酸を回収するステップをさらに含んでもよい。前記回収するステップは、前記培養するステップの後にさらに含んでもよい。
【0094】
前記回収は、本発明の微生物の培養方法、例えば回分、連続、流加培養方法などに応じて、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて目的とする分枝鎖アミノ酸を回収(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLC又はそれらの組み合わせが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とする分枝鎖アミノ酸を回収することができる。
【0095】
また、本発明の分枝鎖アミノ酸生産方法は、精製ステップをさらに含んでもよい。前記精製は、当該技術分野で公知の好適な方法により行うことができる。例えば、本発明の分枝鎖アミノ酸生産方法が回収ステップと精製ステップの両方を含む場合、前記回収ステップと前記精製ステップは、順序に関係なく異時的(又は連続的)に行ってもよく、同時に又は1つのステップとして統合して行ってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0096】
本発明の方法における変異体、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物、分枝鎖アミノ酸などについては前述した通りである。
【0097】
本発明のさらに他の態様は、本発明の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクターもしくは本出願の微生物を含むか、本発明の微生物を培養した培地を含むか、又はそれらの2つ以上の組み合わせを含む分枝鎖アミノ酸生産用組成物を提供する。
【0098】
本発明の組成物は、分枝鎖アミノ酸生産用組成物に通常用いられる任意の好適な賦形剤をさらに含んでもよい。このような賦形剤としては、例えば保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
本発明の組成物における変異体、ポリヌクレオチド、ベクター、菌株、培地、分枝鎖アミノ酸などについては前述した通りである。
【0100】
本発明のさらに他の態様は、ATP依存性プロテアーゼ活性が非改変微生物より弱化されたコリネバクテリウム属微生物の分枝鎖アミノ酸生産への使用を提供する。
【0101】
本発明のさらに他の態様は、配列番号5で表されるアミノ酸配列において431番目~433番目の位置に相当するアミノ酸配列が欠失したClpC変異体、又は前記ClpC変異体をコードするポリヌクレオチドの分枝鎖アミノ酸生産への使用を提供する。
【実施例
【0102】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示する好ましい実施形態にすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、本明細書に記載されていない技術的な事項は、本発明の技術分野又は類似技術分野における熟練した技術者が十分に理解し、容易に実施することのできるものである。
(実施例1)
【0103】
人工変異法による、L-バリン生産能が向上した変異株の選択
1-1.UV照射による人工突然変異の誘発
L-バリン生産能が向上した変異株を選択するために、寒天を含む栄養培地にL-バリン生産NTG菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCA08-0072(KCCM11201P,特許文献3)を塗抹し、30℃で36時間培養した。
【0104】
このようにして得られた数百個のコロニーに室温でUVを照射し、菌株のゲノムにランダム突然変異を誘発した。
【0105】
前記栄養培地の組成は次の通りである。
<栄養培地(pH7.2)>
グルコース10g,肉汁5g,ポリペプトン10g,塩化ナトリウム2.5g,酵母エキス5g,寒天20g,尿素2g(蒸留水1リットル中)
【0106】
1-2.突然変異誘発菌株の発酵力価実験及び菌株の選択
実施例1-1で親株として用いたコリネバクテリウム・グルタミカムCA08-0072に比べてL-バリンの生産能が向上した変異株を選択するために、ランダム突然変異を誘発した菌株を対象に発酵力価実験を行った。
【0107】
具体的には、各コロニーを栄養培地で継代培養し、その後生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで72時間振盪培養した。前記栄養培地及び前記生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
<栄養培地(pH7.2)>
グルコース10g,肉汁5g,ポリペプトン10g,塩化ナトリウム2.5g,酵母エキス5g,寒天20g,尿素2g(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,硫酸アンモニウム40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,リン酸水素二カリウム1g,硫酸マグネシウム7水塩0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド3mg,炭酸カルシウム30g(蒸留水1リットル中)
【0108】
その後、HPLCを用いてL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、対照群であるCA08-0072菌株に比べてL-バリン生産量が最も大幅に増加したM4菌株を選択した。
(実施例2)
【0111】
遺伝子シーケンシングによる変異の確認
実施例1においてL-バリン生産能が向上したM4菌株の主要遺伝子をシーケンシングし、CA08-0072菌株及びコリネバクテリウム・グルタミカム野生型菌株ATCC14067と比較した。その結果、前記M4菌株は、ATP依存性プロテアーゼ(ATP-dependent protease)を構成する六量体ATPase活性シャペロン(hexameric ATPase-active chaperon)サブユニットの一つであるclpCのORF(Open Reading Frame)の特定位置に変異を含むことが確認された。具体的には、M4菌株は、配列番号6で表される配列において1,291番目~1,299番目のヌクレオチド(配列番号4)が欠失していることが確認された。配列番号6で表される配列は、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC14067、ATCC13032及びATCC13869)のclpCのORFに共通して含まれる配列である。
【0112】
以下の実施例においては、前記変異がコリネバクテリウム属微生物のアミノ酸の生産量に影響を及ぼすか否かについて確認する。
(実施例3)
【0113】
変異を導入した菌株の作製及びL-バリン生産能の確認
3-1.コリネバクテリウム・グルタミカムCA08-0072に変異を導入した菌株の作製及びL-バリン生産能の評価
配列番号6で表される配列において1,291番目~1,299番目のヌクレオチド(配列番号4)が欠失したヌクレオチド(配列番号2)をL-バリン生産NTG菌株コリネバクテリウム・グルタミカムCA08-0072に導入するためのベクターを作製した。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型であるATCC14067菌株のゲノムDNAをG-スピントータルDNA抽出ミニキット(Intron社, Cat. No 17045)を用いて、キットのプロトコルに従って抽出した。前記各ゲノムDNAを鋳型とし、配列番号7、8のプライマー及び配列番号9、10のプライマーを用いてPCRを行うことにより、DNA断片A、Bがそれぞれ得られた。ここで用いたプライマー配列を表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
前記2つの断片を鋳型とし、配列番号7、10のプライマーを用いてオーバーラップ(Overlapping)PCRを行うことにより、1,040bpのPCR産物(以下、「変異導入断片」という)が得られた。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で60秒間の重合を25サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。得られた変異導入断片を制限酵素XbaI(New England Biolabs, Beverly, MA)で処理し、その後同じ制限酵素で処理した、コリネバクテリウム・グルタミカム中で複製が不可能なpDZベクター(特許文献5及び6)とT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いてライゲーションした。前述したように作製した遺伝子を大腸菌DH5αに形質転換し、その後それを25mg/Lカナマイシン(kanamycin)含有LB培地から選択し、DNA-スピンプラスミドDNA精製キット(Intron社)でDNAを得ることにより、組換えプラスミドpDZ-clpC_M4を作製した。
【0116】
前述したように作製した組換えプラスミドpDZ-clpC_M4を染色体上での相同組換えにより、L-バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCA08-0072に形質転換した(非特許文献18)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有する培地から選択した。その後、2次組換え(cross-over)が完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号7、10のプライマーを用いたPCRにより、染色体上でclpCのORFに変異を導入した菌株を作製した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCA08-0072-clpC_M4と命名した。
【0117】
作製したL-バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCA08-0072とCA08-0072-clpC_M4のL-バリン生成能を比較するために、発酵力価評価を行った。
【0118】
具体的には、各菌株を栄養培地で継代培養し、その後生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで72時間振盪培養した。前記栄養培地及び前記生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
<栄養培地(pH7.2)>
グルコース10g,肉汁5g,ポリペプトン10g,塩化ナトリウム2.5g,酵母エキス5g,寒天20g,尿素2g(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,硫酸アンモニウム40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,リン酸水素二カリウム1g,硫酸マグネシウム7水塩0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1mg,パントテン酸カルシウム2mg,ニコチンアミド3mg,炭酸カルシウム30g(蒸留水1リットル中)
【0119】
その後、HPLCを用いてL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
表3の結果から、CA08-0072-clpC_M4菌株のL-バリン生産能は、対照群に対して14%増加することが確認された。その結果、clpCのORF変異によりL-バリンの生産能が向上することが確認された。
【0122】
前記CA08-0072-clpC_M4をCA08-1542と命名し、ブダペスト条約上の受託機関である韓国微生物保存センターに2020年7月2日付けで受託番号KCCM12755Pとして寄託した。
【0123】
3-2.コリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vに変異を導入した菌株の作製及びL-バリン生産能の評価
L-バリンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカム属菌株においても上記と同じ効果があるか否かを確認するために、野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067に1種の変異[ilvN(A42V);非特許文献19]を導入してL-バリン生産能が向上した菌株を作製した。
【0124】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型であるATCC14067菌株のゲノムDNAをG-スピントータルDNA抽出ミニキットを用いて抽出した。前記ゲノムDNAを鋳型とし、ilvN遺伝子にA42V変異を導入するベクターを作製するために、配列番号11、12のプライマー及び配列番号13、14のプライマーを用いてPCRを行うことにより、遺伝子断片A、Bがそれぞれ得られた。ここで用いたプライマー配列を表4に示す。
【0125】
【表4】
【0126】
前記2つの断片を鋳型とし、配列番号11、14のプライマーを用いてOverlapping PCRを行うことにより、1044bpのPCR産物(以下、「変異導入断片」という)が得られた。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で60秒間の重合を25サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、断片A、Bのどちらも537bpのポリヌクレオチドが得られた。得られた変異導入断片を制限酵素XbaIで処理し、その後同じ制限酵素で処理したpDZベクターとT4リガーゼを用いてライゲーションした。前述したように作製した遺伝子を大腸菌DH5αに形質転換し、その後それをカナマイシン25mg/L含有LB培地から選択し、DNA-スピンプラスミドDNA精製キットでDNAを得た。前記ilvN遺伝子へのA42V変異導入を目的とするベクターをpDZ-ilvN(A42V)と命名した。
【0127】
その後、前述したように作製した組換えプラスミドpDZ-ilvN(A42V)を染色体上での相同組換えにより、野生型のコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067に形質転換した。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有する培地から選択した。その後、2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号11、14のプライマーを用いたPCRにより遺伝子断片を増幅し、次いで遺伝子配列分析により変異導入菌株を確認した。その変異を導入した組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vと命名した。
【0128】
前記コリネバクテリウム・グルタミカムCJ7Vを対象に、実施例3-1と同様にpDZ-clpC_M4を形質転換させてclpCのORFに変異を導入した菌株を作製し、CJ7V-clpC_M4と命名した。
【0129】
作製した菌株のL-バリン生産能を比較するために、実施例3-1と同様に培養してL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表5に示す。
【0130】
【表5】
【0131】
表5の結果から、CJ7V-clpC_M4菌株のL-バリン生産能は、対照群に対して14%増加することが確認された。すなわち、コリネバクテリウム属微生物においてclpC遺伝子のORF変異によりL-バリンの生産能が向上することが再度確認された。
【0132】
3-3.コリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vに変異を導入した菌株の作製及びL-バリン生産能の評価
L-バリンを生産する他のコリネバクテリウム・グルタミカム属菌株においても上記と同じ効果があるか否かを確認するために、実施例3-2と同様に野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869に1種の変異[ilvN(A42V)]を導入してL-バリン生産能を有する変異株を作製し、その組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vと命名した。
【0133】
前記コリネバクテリウム・グルタミカムCJ8Vを対象に、clpC変異を導入した菌株を作製するために、実施例3-1で作製した組換えベクターpDZ-clpC_M4をCJ8Vに形質転換した。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有する培地から選択した。その後、2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号7、10のプライマーを用いて、clpC変異を導入した菌株を確認した。その確認した組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ8V-clpC_M4と命名した。
【0134】
作製した菌株のL-バリン生産能を比較するために、実施例3-1と同様に培養してL-バリンの濃度を分析した。分析したL-バリンの濃度を表6に示す。
【0135】
【表6】
【0136】
表6の結果から、CJ8V-clpC_M4菌株のL-バリン生産能は、対照群に対して12%増加することが確認された。すなわち、コリネバクテリウム属微生物においてclpC遺伝子のORF変異によりL-バリンの生産能が向上することが再度確認された。
(実施例4)
【0137】
イソロイシン生産菌株の作製及び生産能の評価
4-1.L-イソロイシン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11248P菌株にclpC ORF変異を導入した菌株の作製及び評価
実施例3と同様に、L-イソロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCJI-38(KCCM11248P,特許文献1)に実施例3-1で作製した組換えプラスミドpDZ-clpC_M4を染色体上での相同組換えにより導入した菌株を作製し、KCJI-38-clpC_M4と命名した。作製した菌株を次の方法で培養し、イソロイシン生産能を比較した。
【0138】
具体的には、種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで48時間振盪培養した。前記種培地及び前記生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO47H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース50g,(NH42SO4 12.5g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KH2PO4 1g,MgSO47H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0139】
培養終了後に、HPLCによりL-イソロイシンの生産能を測定した。実験を行った各菌株における培養液中のL-イソロイシン濃度を表7に示す。
【0140】
【表7】
【0141】
表7に示すように、L-イソロイシン生産菌株KCJI-38に比べて、clpC変異を導入したKCJI-38-clpC_M4においては、L-イソロイシンの濃度が約55%増加することが確認された。よって、clpC遺伝子の変異によりL-イソロイシンの生産能が向上することが確認された。これらの結果は、コリネバクテリウム属L-イソロイシン生産菌株においてclpC ORF変異の導入がL-イソロイシン生産に効果的であることを示すものである。
【0142】
前記KCJI-38-clpC_M4をCA10-3123と命名し、ブダペスト条約上の受託機関である韓国微生物保存センターに2020年12月1日付けで受託番号KCCM12858Pとして寄託した。
【0143】
4-2.コリネバクテリウム・グルタミカム野生株ATCC13032にclpC ORF変異を導入したL-イソロイシン菌株の作製及びL-イソロイシン生産能の評価
clpC-M4変異導入によるL-イソロイシン生産能に及ぼす効果を確認するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032(以下、WT)菌株をベースに公知のアスパルトキナーゼ(aspartokinase)変異体(lysC(L377K))(特許文献7)、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)変異体(hom(R407H))(非特許文献20)及びトレオニンデヒドラターゼ(L-threonine dehydratase)変異体(ilvA(V323A))(非特許文献21)を導入した菌株を作製し、L-イソロイシン生産能を比較した。
【0144】
具体的には、WTの染色体を鋳型とし、配列番号15及び16のプライマー、又は配列番号17及び18のプライマーを用いてPCRを行った。ここで用いたプライマー配列を表8に示す。
【0145】
【表8】
【0146】
PCRは、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、lysC遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の509bpのDNA断片と、3’末端下流の520bpのDNA断片がそれぞれ得られた。増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、配列番号15及び18のプライマーによりPCRを行った。95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行った。その結果、377番目のロイシンがリシンに置換されたアスパルトキナーゼ変異体をコードするlysC遺伝子の変異(L377K)を含む1011bpのDNA断片が増幅された。pDZベクターと増幅された1011bpのDNA断片を制限酵素XbaIで処理し、次いでDNAリガーゼを用いて連結し、その後クローニングすることによりプラスミドを得て、それをpDZ-lysC(L377K)と命名した。
【0147】
このようにして得たpDZ-lysC(L377K)ベクターをWT菌株に電気パルス法(非特許文献22)で導入し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地から形質転換菌株を得た。2次組換え過程を経て、染色体上に挿入されたDNA断片によりlysC遺伝子にヌクレオチド変異を導入した菌株WT::lysC(L377K)を得た。
【0148】
また、hom(R407H)を導入するベクターを作製するために、WTゲノムDNAを鋳型とし、配列番号19と20のプライマー、配列番号21と22のプライマーを用いてPCRを行った。ここで用いたプライマー配列を表9に示す。
【0149】
【表9】
【0150】
PCRは、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、hom遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の220bpのDNA断片と、3’末端下流の220bpのDNA断片が得られた。得られた2つのPCR産物を鋳型とし、配列番号19と22のプライマーを用いてPCRを行った。95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行った。その結果、hom遺伝子の変異を含む440bpのDNA断片が増幅された。前述したpDZベクターと増幅された440bpのDNA断片を制限酵素XbaIで処理し、次いでDNAリガーゼを用いて連結し、その後クローニングすることによりプラスミドを得て、それをpDZ-hom(R407H)と命名した。
【0151】
このようにして得たpDZ-hom(R407H)ベクターをWT::lysC(L377K)菌株に電気パルス法で導入し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地から形質転換菌株を得た。2次組換え過程を経て、染色体上に挿入されたDNA断片によりhom遺伝子にヌクレオチド変異を導入した菌株WT::lysC(L377K)-hom(R407H)を得た。
【0152】
前述した実施例と同様に、WT::lysC(L377K)-hom(R407H)菌株に実施例3-1で作製した組換えプラスミドpDZ-clpC_M4を染色体上での相同組換えにより導入した菌株を作製し、WT::lysC(L377K)-hom(R407H)-clpC_M4と命名した。
【0153】
一方、ilvA遺伝子を対象に、公知のilvA(V323A)変異(非特許文献23)を導入したベクターを作製するために、変異位置を中心に、5’末端上流を増幅するためのプライマー1対(配列番号23及び24)と3’末端下流を増幅するためのプライマー1対(配列番号25及び26)を設計した。配列番号23及び26のプライマーは、各末端にBamHI制限酵素部位(下線表示)を挿入し、配列番号24及び25のプライマーは、交差するように設計した部位にヌクレオチド置換変異(下線表示)が位置するようにした。ここで設計したプライマー配列を表10に示す。
【0154】
【表10】
【0155】
WTの染色体を鋳型とし、配列番号23及び配列番号24のプライマー、配列番号25及び配列番号26のプライマーを用いてPCRを行った。PCRは、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、ilvA遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の627bpのDNA断片と3’末端下流の608bpのDNA断片が得られた。増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、配列番号23及び配列番号26のプライマーによりPCRを行った。95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行った。その結果、323番目のL-バリンがアラニンに置換されたIlvA変異体をコードするilvA遺伝子の変異を含む1217bpのDNA断片が増幅された。pECCG117(特許文献8)ベクターと1217bpのDNA断片を制限酵素BamHIで処理し、DNAリガーゼを用いて連結し、その後クローニングすることによりプラスミドを得て、それをpECCG117-ilvA(V323A)と命名した。
【0156】
pECCG117-ilvA(V323A)ベクターを前述した実施例のATCC13032::hom(R407H)-lysC(L377K)-clpC_M4に導入したATCC13032::hom(R407H)-lysC(L377K)-clpC/pECCG117-ilvA(V323A)菌株を作製した。また、その対照群として、ATCC13032::-hom(R407H)-lysC(L377K)にilvA(V323A)変異のみ導入した菌株も作製した。
【0157】
前述したように作製した菌株を実施例4-1に示すフラスコ培養法と同様に培養し、培養液中のL-イソロイシン濃度を分析した。実験を行った各菌株における培養液中のL-イソロイシン濃度を表11に示す。
【0158】
【表11】
【0159】
表11に示すように、ATCC13032::-hom(R407H)-lysC(L377K)にilvA(V323A)変異のみ導入したATCC13032::-hom(R407H)-lysC(L377K)/pECCG117-ilvA(V323A)に比べて、clpC_M4変異をさらに導入したATCC13032::hom(R407H)-lysC(L377K)-clpC_M4/pECCG117-ilvA(V323A)においては、L-イソロイシンの濃度が約42%上昇することが確認された。これらの結果は、コリネバクテリウム属L-イソロイシン生産菌株においてclpC変異の導入がL-イソロイシン生産に効果的であることを示すものである。
【0160】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0161】
【0162】
【配列表】
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