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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物、および、成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20240905BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240905BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240905BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240905BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240905BHJP
   C08K 5/24 20060101ALI20240905BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20240905BHJP
   F16B 19/00 20060101ALI20240905BHJP
   F16B 5/12 20060101ALI20240905BHJP
   B60R 13/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08L59/00
C08L21/00
C08L51/04
C08L101/00
C08L83/04
C08K5/24
C08K5/21
F16B19/00 Z
F16B5/12 X
B60R13/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023552593
(86)(22)【出願日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2023020627
(87)【国際公開番号】W WO2023238790
(87)【国際公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022094010
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊久間 啓太
(72)【発明者】
【氏名】山元 裕太
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/002314(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/002315(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/002316(WO,A1)
【文献】特開2021-011563(JP,A)
【文献】特開2021-011562(JP,A)
【文献】特表2016-534171(JP,A)
【文献】特開2005-029713(JP,A)
【文献】特開平05-001712(JP,A)
【文献】特開2008-019430(JP,A)
【文献】特開2008-214490(JP,A)
【文献】国際公開第2023/238788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
F16B 1/00- 47/00
B60R 1/00- 99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂(A)74~94.7質量%とコアシェルエラストマー(B)5~25質量%とシリコーン(C)0.3~1質量%を、前記ポリアセタール樹脂(A)と前記コアシェルエラストマー(B)と前記シリコーン(C)の合計が100質量%を超えない範囲で含む樹脂組成物であって、
前記コアシェルエラストマー(B)が、ポリアセタール樹脂(A)中において、平均2次粒子径が10~250nmであり、
前記コアシェルエラストマー(B)の含有量が樹脂組成物中、5~25質量%であり、
前記シリコーン(C)の25℃における動粘度が400万~3000万cStであり、かつ、含有量が樹脂組成物中、0.3~1質量%である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記コアシェルエラストマー(B)の架橋指数が0.11~0.30の範囲であり、ここで、架橋指数とは、測定温度をX軸、T2緩和時間をY軸とした際に得られるプロットの近似直線の傾きZの逆数1/Zを指す、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェルエラストマー(B)において、コアがブタジエン含有ゴムを含み、シェルがアクリル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、ヒドラジド化合物および/または尿素化合物を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記コアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)の質量比率である(B)/(C)が8~40である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
トリムクリップ成形用である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記コアシェルエラストマー(B)の架橋指数が0.11~0.30の範囲であり、
前記コアシェルエラストマー(B)において、コアがブタジエン含有ゴムを含み、シェルがアクリル系樹脂を含み、
さらに、ヒドラジド化合物および/または尿素化合物を含み、
前記コアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)の質量比率である(B)/(C)が8~40であり、
トリムクリップ成形用であり、ここで、架橋指数とは、測定温度をX軸、T2緩和時間をY軸とした際に得られるプロットの近似直線の傾きZの逆数1/Zを指す、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1、2または7に記載の樹脂組成物のペレット。
【請求項9】
請求項1、2または7に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項10】
請求項8に記載のペレットから形成された成形品。
【請求項11】
トリムクリップである、請求項9に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、および、成形品に関する。特に、ポリアセタール樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的性質、電気的性質、および、耐薬品性などの化学的性質に優れたプラスチックとして、広範囲の用途で使用されている。
ここで、ポリアセタール樹脂に軟質性を持たせるために、エラストマーを配合することが検討されている。
例えば、特許文献1には、ポリアセタール樹脂と、コアシェルエラストマーを含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を4mm厚さの多目的試験片に成形し、ISO178に従って測定した曲げ弾性率が1700MPa以下であり、かつ、前記樹脂組成物を、ウエルド部を中央に有する1.6mm厚さの試験片に成形し、ASTM D638に従い10mm/分で引張った時のウエルド伸びが20%以上である、樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-011562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のポリアセタール樹脂とエラストマーを含む樹脂組成物から得られた成形品は優れた軟質性を有するものである。一方、近年のポリアセタール樹脂の用途拡大に伴い、軟質性がありながら、摺動性に優れた成形品が得られる樹脂組成物が求められている。
ここで、摺動性を高めるために、ポリアセタール樹脂にシリコーンを配合することが考えらえる。しかしながら、ポリアセタール樹脂にエラストマーやシリコーンを配合すると、得られる成形品のウエルド伸びが悪くなってしまう傾向にある。ウエルド伸びが悪くなると、成形品の強度が低下してしまう。
本発明は、上記課題を解決することを目的とするものであって、適度な軟質性に優れ、摺動性に優れ、かつ、ウエルド伸びに優れた成形品が得られる樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリアセタール樹脂に、ポリアセタール樹脂中で所定の平均2次粒子径となるコアシェルエラストマーと、所定の動粘度を有するシリコーンを所定量配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアセタール樹脂(A)とコアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)とを含む樹脂組成物であって、
前記コアシェルエラストマー(B)が、ポリアセタール樹脂(A)中において、平均2次粒子径が10~250nmであり、
前記コアシェルエラストマー(B)の含有量が樹脂組成物中、5~25質量%であり、
前記シリコーン(C)の25℃における動粘度が400万~3000万cStであり、かつ、含有量が樹脂組成物中、0.3~1質量%である、樹脂組成物。
<2>前記コアシェルエラストマー(B)の架橋指数が0.11~0.30の範囲である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記コアシェルエラストマー(B)において、コアがブタジエン含有ゴムを含み、シェルがアクリル系樹脂を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>さらに、ヒドラジド化合物および/または尿素化合物を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記コアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)の質量比率である(B)/(C)が、8~40である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>トリムクリップ成形用である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記コアシェルエラストマー(B)の架橋指数が0.11~0.30の範囲であり、前記コアシェルエラストマー(B)において、コアがブタジエン含有ゴムを含み、シェルがアクリル系樹脂を含み、さらに、ヒドラジド化合物および/または尿素化合物を含み、前記コアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)の質量比率である(B)/(C)が8~40であり、トリムクリップ成形用である、<1>に記載の樹脂組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
<9><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<10><8>に記載のペレットから形成された成形品。
<11>トリムクリップである、<9>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、適度な軟質性に優れ、摺動性に優れ、かつ、ウエルド伸びに優れた成形品が得られる樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)とコアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)とを含む樹脂組成物であって、前記コアシェルエラストマー(B)が、ポリアセタール樹脂(A)中において、平均2次粒子径が10~250nmであり、前記コアシェルエラストマー(B)の含有量が樹脂組成物中、5~25質量%であり、前記シリコーン(C)の25℃における動粘度が400万~3000万cStであり、かつ、含有量が樹脂組成物中、0.3~1質量%であることを特徴とする。このような樹脂組成物を採用することにより、軟質性に優れ、摺動性に優れ、かつ、ウエルド伸びに優れた成形品が得られる樹脂組成物が得られる。
ポリアセタール樹脂(A)にエラストマーを配合すると、得られる成形品の軟質性が向上する傾向にある。一方、シリコーンを配合すると、摺動性が向上する傾向にある。しかしながら、ポリアセタール樹脂(A)にエラストマーやシリコーンを配合すると、ウエルド伸びが劣ってしまう傾向にある。本発明においては、かかる課題を解決するために、エラストマーとして、ポリアセタール樹脂(A)中において、平均2次粒子径が10~250nmであるコアシェルエラストマー(B)を配合した。コアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径を所定の範囲とすることにより、コアシェルエラストマー(B)とポリアセタール樹脂(A)の間にかかる界面の力も小さくなり、ウエルド伸びを高くすることができると推測される。また、シリコーン(C)として所定の動粘度のものを所定量用いることにより、摺動性を維持しつつ、ウエルド伸びの低下を効果的に抑制できたと推測される。
【0009】
<ポリアセタール樹脂(A)>
本実施形態の樹脂組成物(A)は、ポリアセタール樹脂を含む。
ポリアセタール樹脂は特に限定されるものではなく、2価のオキシメチレン基のみを構成単位として含むホモポリマーであっても、2価のオキシメチレン基と、炭素数が2~6の2価のオキシアルキレン基とを構成単位として含むコポリマーであってもよい。
【0010】
炭素数が2~6のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、および、オキシブチレン基などが挙げられる。
【0011】
ポリアセタール樹脂においては、オキシメチレン基および炭素数2~6のオキシアルキレン基の総モル数に占める炭素数2~6のオキシアルキレン基の割合は特に限定されるものではなく、0.5~10モル%であればよい。
【0012】
上記ポリアセタール樹脂を製造するためには通常、主原料としてトリオキサンが用いられる。また、ポリアセタール樹脂中に炭素数2~6のオキシアルキレン基を導入するには、環状ホルマールや環状エーテルを用いることができる。環状ホルマールの具体例としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキセパン、1,3-ジオキソカン、1,3,5-トリオキセパン、1,3,6-トリオキソカンなどが挙げられ、環状エーテルの具体例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドなどが挙げられる。ポリアセタール樹脂中にオキシエチレン基を導入するには、主原料として、1,3-ジオキソランを用いればよく、オキシプロピレン基を導入するには、主原料として、1,3-ジオキサンを用いればよく、オキシブチレン基を導入するには、主原料として、1,3-ジオキセパンを用いればよい。なお、ポリアセタール樹脂においては、ヘミホルマール末端基量、ホルミル末端基量、熱や酸、塩基に対して不安定な末端基量が少ない方がよい。ここで、ヘミホルマール末端基とは、-OCHOHで表されるものであり、ホルミル末端基とは-CHOで表されるものである。
【0013】
ポリアセタール樹脂としては、上記の他、特開2015-074724号公報の段落0018~0043に記載のポリアセタール樹脂を用いることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0014】
本実施形態の樹脂組成物(A)は、樹脂組成物(A)中、ポリアセタール樹脂を70質量%以上含むことが好ましく、75質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、85質量%以上含むことがさらに好ましい。上限は、95質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
<コアシェルエラストマー(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、コアシェルエラストマー(B)を含む。エラストマーを用いることにより、得られる成形品に軟質性を付与することができる。また、エラストマーとして、コアシェルエラストマーを用いることにより、ウエルド伸びの低下を効果的に抑制できる。さらに、コアシェルエラストマー(B)が、ポリアセタール樹脂(A)中において、平均2次粒子径が10~250nmとなるように調整することにより、軟質性を高く維持したまま、ウエルド伸びの低下を効果的に抑制できる。
コアシェルエラストマーとは、コア部とその一部または全部を被覆するシェル層を有する多層構造のポリマーであり、カネカ社のカネエースシリーズや三菱ケミカル社のメタブレンシリーズが知られている。
【0016】
コアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径は、ポリアセタール樹脂(A)中において10~250nmである。コアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径を250nm以下とすることにより、ポリアセタール樹脂(A)中でコアシェルエラストマー(B)が分散しやすくなり、ウエルド伸びを高くすることができる。これは、コアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径が大きくなると、コアシェルエラストマー(B)が成形品中の破壊起点となってしまうためである。また、コアシェルエラストマー(B)とポリアセタール樹脂(A)の間にかかる界面の力も小さくなり、ウエルド伸びを高くできる。このようなポリアセタール樹脂(A)中のコアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径は、コアシェルエラストマー(B)の種類の選択、ポリアセタール樹脂の流動性、溶融混練の条件などを調整することによって達成される。
【0017】
コアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径は、240nm以下であることが好ましく、210nm以下であることがより好ましく、180nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下であることが一層好ましく、120nm以下であることがより一層好ましい。また、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、80nm以上であることが一層好ましく、100nm以上であることがより一層好ましい。
コアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0018】
本実施形態で用いるコアシェルエラストマー(B)は、架橋指数が0.11~0.30の範囲であることが好ましい。
コアシェルエラストマー(B)の架橋指数は、0.15以上がより好ましく、0.19以上がさらに好ましく、また、0.29以下が好ましく、0.28以下がより好ましく、0.27以下がさらに好ましい。架橋指数とは、コアシェルエラストマーのコア部における分子間架橋の度合いを意味する。すなわち架橋指数が大きいほどエラストマーとしては硬く、架橋指数が小さいほどエラストマーとしては柔らかくなる。架橋指数を前記下限値以上とすることにより、ウエルド伸びが高くなる。これは、エラストマーが硬い方が成形時にウエルド部にかかる力により変形せず、その球状の形状を保てるためと推測される。また、架橋指数を前記上限値以下とすることにより、エラストマーの役割である衝撃吸収ができず耐衝撃性がより効果的に発揮される傾向にある。
コアシェルエラストマー(B)の架橋指数は、例えば、コアシェルエラストマー生産時の重合条件によって調整することができる。
コアシェルエラストマー(B)の架橋指数は、後述する実施例に記載の方法によって、測定し、算出される。
【0019】
本実施形態で用いるコアシェルエラストマー(B)の種類は特に問わないが、コアは、ゴム系ポリマーが好ましい。ゴム系ポリマーとしては、ブタジエン含有ゴム、ブチルアクリレ-ト含有ゴム、2-エチルヘキシルアクリレ-ト含有ゴム、シリコ-ン系ゴムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ブタジエン含有ゴムを含むことがより好ましい。シェルは、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等の1種または2種以上の単量体の重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位が全体の50質量%以上を占める重合体(アクリル系樹脂)がより好ましい。
本実施形態で用いるコアシェルエラストマー(B)は、コアがゴム系ポリマーを含み、シェルがアクリル系樹脂を含むことが好ましい。このようなコアシェルエラストマーを用いると、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物は、コアシェルエラストマー(B)を5質量%以上含み、6質量%以上含むことが好ましく、7質量%以上含むことがより好ましく、8質量%以上含むことがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の軟質性が向上する傾向にある。前記コアシェルエラストマー(B)の含有量の上限は、25質量%以下であり、22質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることが一層好ましく、16質量%以下であることがより一層好ましく、14質量%以下であってもよい。上記上限値以下とすることにより、軟質性とウエルド伸びをバランスよく向上させることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、コアシェルエラストマー(B)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
<シリコーン(C)>
本実施形態の樹脂組成物は、シリコーン(C)を含む。シリコーン(C)を含むことにより、得られる成形品の摺動性を向上させることができる。
本実施形態で用いるシリコーン化合物(C)の25℃における動粘度は400万cSt以上であり、700万cSt以上であることが好ましく、1000万cSt以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、限界PV値がより向上する傾向にある。また、前記シリコーン化合物(C)の25℃における動粘度は、3000万cSt以下であり、2800万cSt以下であることが好ましく、2500万cSt以下であることがより好ましく、2000万cSt以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、シリコーン(C)のポリアセタール樹脂への分散性が向上し、ウエルド伸びがより向上する傾向にある。
【0022】
シリコーン化合物(C)は、具体的には特に定めるものではないが、ポリオルガノシロキサンが好ましい。ポリオルガノシロキサンが有していてもよい有機基としては、炭素数が2~20のアルキル基、フェニル基、ハロゲン化フェニル基、シリコーン含有基、エポキシ基、アミノ基、アルコール性水酸基、ポリエーテル基などが例示される。
本実施形態においては、シリコーン化合物(C)はシリコンガムが好ましい。
【0023】
本実施形態の樹脂組成物におけるシリコーン(C)の含有量は、樹脂組成物中、0.3質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、摺動性を向上させることができる。また、前記シリコーン(C)の含有量の上限値は、樹脂組成物中、1質量%以下であり、0.9質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.6質量%以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、ウエルド伸びを高く維持することができる。
本実施形態の樹脂組成物は、シリコーン(C)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)とコアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)の合計量が樹脂組成物の96質量%以上を占めることが好ましく、97質量%以上を占めることがより好ましく、98質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上を占めていてもよい。ただし、ポリアセタール樹脂(A)とコアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)の合計が100質量%を超えることはない。
また、本実施形態の樹脂組成物は、コアシェルエラストマー(B)とシリコーン(C)の質量比率である(B)/(C)が、8以上であることが好ましく、9以上であることがさらに好ましく、10以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ウエルド伸びがより向上する傾向にある。また、前記(B)/(C)は、40以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、32以下であることがさらに好ましく、30以下であることが一層好ましく、25以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、摺動性がより向上する傾向にある。
【0025】
<ホルムアルデヒド捕捉剤>
本実施形態の樹脂組成物は、ホルムアルデヒド捕捉剤を含んでいてもよい。ホルムアルデヒド捕捉剤を含むことにより、得られる成形品からのホルムアルデヒドの発生を効果的に抑制できる。
ホルムアルデヒド捕捉剤は、ヒドラジド化合物、ヒドラジン化合物のヒドラゾン体、グアナミン化合物、および、尿素化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ヒドラジド化合物および/または尿素化合物がより好ましい。
【0026】
これらのホルムアルデヒド捕捉剤の詳細は、特開2020-132662号公報の段落0021~0036の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物は、ホルムアルデヒド捕捉剤を、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、0.05質量部以上含むことが好ましく、0.10質量部含むことがより好ましい。また、ホルムアルデヒド捕捉剤は、また、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.5質量部以下含むことが好ましく、0.3質量部以下含むことがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ホルムアルデヒド捕捉剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となる。
【0028】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、従来公知の任意の添加剤や充填剤を含んでいてもよい。本実施形態に用いる添加剤や充填剤としては、例えば、ポリアセタール樹脂以外の熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、安定剤、帯電防止剤、炭素繊維、染料、カーボンブラックのような有機顔料、酸化チタンのような無機顔料、ガラス繊維、ガラスフレーク、チタン酸カリウムウイスカー等が挙げられる。これらの詳細は、特開2017-025257号公報の段落0113~0124の記載を参酌することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0029】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、ウエルド伸びに優れ、かつ降伏前破断を生じないことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物をASTM引張試験片(厚み1.6mm)に成形し、ASTM D638に準じて、引張試験を行ったときのウエルド伸びが14%以上であることが好ましく、17%以上であることがより好ましく、18%以上がさらに好ましく、20%以上が一層好ましい。また、前記ウエルド伸びの上限は、例えば、300%以下である。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物(A)は、前記樹脂組成物(A)を4mm厚さの多目的試験片(ISO試験片)に成形し、ISO178に従って測定した曲げ弾性率が1000MPa以上であることが好ましく、1500MPa以上であることがより好ましく、また、3000MPa以下であることが好ましく、2500MPa以下であることがより好ましい。
本実施形態では、上記範囲とすることにより、適度な軟質性を有する成形品とすることができる。
上記曲げ弾性率は、主に、コアエラストマーを配合することによって達成される。
【0031】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、上述した必須成分および必要に応じ上述した任意の成分を含有させてなる。そしてその製造方法は平均2次粒子径が前述の範囲になるように任意の方法が選定される。であり、従来公知の任意の、樹脂組成物の製造方法を使用し、これらの原料を混合・混練すればよい。
【0032】
平均2次粒子径を上記範囲とするための方法の1つとして、ポリアセタール樹脂とコアシェルエラストマーをタンブラーで混合した後、溶融混練機にて押出し、ストランド状とした後に切断してペレットとする方法が挙げられる。この際、溶融混練機としては単軸押出機では二次凝集が発生しやすいことから、二軸押出機を用いることが好ましい。中でもスクリューの長さL(mm)と同スクリューの直径D(mm)の比であるL/Dが、20以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、また、100以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましい。前記L/Dを20以上とすることにより、コアシェルエラストマーが微分散しやすくなり、コアシェルエラストマーの二次凝集を効果的に抑制することができる。また、前記L/Dを100以下とすることにより、熱劣化による樹脂組成物の変色を効果的に抑制できる傾向にある。
ダイノズルの形状も特に限定されないが、ペレット形状の点で、直径1mm以上の円形ノズルが好ましく、直径2mm以上の円形ノズルがより好ましく、また、直径10mm以下の円形ノズルが好ましく、直径7mm以下の円形ノズルがより好ましい。
【0033】
また、溶融混練時の樹脂組成物の溶融温度は170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、また、250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましい。溶融温度を170℃以上とすることにより、溶融が十分となり、生産量が向上する傾向にある。また、250℃以下とすることにより、熱劣化による樹脂組成物の変色を効果的に抑制できる傾向にある。
【0034】
2軸押出機のスクリュー構成は特に制限されるものでは無いが、好ましい実施形態の1つとして少なくとも2つの混練部を有することが挙げられる。混練部はニーディングディスクを有し、主に樹脂の溶融やエラストマーの分散に寄与する。
【0035】
溶融混練時のスクリュー回転数は、50rpm以上であることが好ましく、70rpm以上であることがより好ましく、また、500rpm以下であることが好ましく、350rpm以下であることがより好ましい。スクリュー回転数を50rpm以上とすることにより、コアシェルエラストマーが微分散しやすくなり、二次凝集の発生をより効果的に抑制できる傾向にある。また、500rpm以下とすることにより、溶融混練時の発熱を抑制でき、熱劣化による樹脂組成物の変色を効果的に抑制できる傾向にある。また、吐出量は、5kg/hr以上であることが好ましく、7kg/hr以上であることがより好ましく、1,000kg/hr以下であることが好ましく、800kg/hr以下であることがより好ましい。5kg/hr以上とすることにより、コアシェルエラストマーがより微分散しやすくなり、二次凝集の発生を効果的に抑制できる。また、1,000kg/hr以下とすることにより、溶融混練時の発熱を効果的に抑制でき、熱劣化による樹脂組成物の変色を効果的に抑制できる傾向にある。
【0036】
溶融混練時のスクリュー回転数(Ns)と吐出量(Q)の比(Q/Ns)は、押出機のスクリュー径やスクリュー構成にもよるが、例えば、0.5以上が好ましく、0.7以上がさらに好ましく、0.9以上が特に好ましく、また、1.5以下が好ましく、1.3以下がさらに好ましく、1.2以下が特に好ましい。上記Q/Nsは、スクリュー径が18~75mm(さらには、58mm)、スクリュー構成として混練部を2つ有する実施形態において特に好ましい。
【0037】
混練機は、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等が例示される。混合・混練の各種条件や装置についても、特に制限はなく、従来公知の任意の条件から適宜選択して決定すればよい。混練はポリアセタール樹脂が溶融する温度以上、具体的にはポリアセタール樹脂の融解温度以上(一般的には180℃以上)で行うことが好ましい。
【0038】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。また、本実施形態の樹脂組成物は、直接に、あるいは、ペレタイズして得られたペレットは、通常、射出成形して成形品とされる。
すなわち、本実施形態の成形品の好ましい一例は、射出成形品である。射出成形品とは、射出成形により、成形された成形品であり、通常、金型内で溶融樹脂が合流する部分に脆弱部分(ウエルド部)が形成されてしまう。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、キャップ状のもの等が挙げられる。本発明の成形品は、部品であっても、完成品であってもよい。
【0039】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物および樹脂組成物から形成される成形品は、例えば、トリムクリップやシートベルト部材、ヘッドレストガイドなどの自動車部品、建材部品、電気・電子部品、事務機器部品、日用雑貨部品の他、凍食品、飲料、などの容器、冷蔵庫のパッキン等の家電用品、ホースバンドやパッキン、結束バンドなどが例示される。
特に、本実施形態の樹脂組成物および成形品は、トリムクリップに適している。
【実施例
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
1.原料
以下の表1に示す原料を用いた。
【0041】
【表1】
【0042】
上記MVRは、ISO1133に従い、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定したメルトボリュームレートである。
上記シリコンオイルおよびシリコンガムの動粘度は、以下の方法により測定した値である。
(i)シリコンオイルまたはシリコンガムを1.0g量り取り、トルエン10mLに溶解させ、シリコンートルエン溶液の粘度を、コーン・プレート型粘度計TPE100を用いて測定した。
(ii)同様の方法により、動粘度が既知であるシリコンオイルの粘度を測定し、検量線を作製した。
(iii)検量線を用いた外挿法により、シリコンオイルまたはシリコンガムの動粘度を算出した。
【0043】
<コアシェルエラストマー架橋指数>
各実施例および比較例にて使用した各コアシェルエラストマーについて、Bruker製Minispec mq20を用いてT緩和時間の測定を行った。測定は-40℃、0℃、23℃、80℃で実施し、それぞれのT緩和時間を得た。測定温度をX軸、T緩和時間をY軸とした際に得られるプロットの近似直線について、傾きが大きいほど分子運動性が高い、すなわち分子の運動を制限する架橋構造が少なく、傾きが小さいほど分子運動性が低い、すなわち分子の運動を制限する架橋構造が多いと考え、前記近似直線の傾きの逆数を架橋指数とした。測定温度-40℃および0℃はSolid echo法で想定し、測定温度23℃および80℃はSpin echo法で測定した。
緩和時間は以下の条件で測定した。
観測周波数:25MHz
測定法:Solid echo法/Spin echo法
繰り返し時間:4sec/4sec
積算回数:16回/4回
測定温度:-40℃、0℃/23℃、80℃
【0044】
2.実施例1~14、比較例1~9、参考例1~3
<樹脂組成物(ペレット)の製造>
表2~表6に示す各成分を表2~表6に示す割合(質量部)で、川田製作所社製スーパーミキサーを用いて均一に混合した。得られた混合物をスクリュー径30mm、スクリュー長さ760、ダイノズル径3.5mmのベント付き二軸押出機(株式会社池貝製「PCM-30」)を用いて、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量10kg/時間で溶融せん断混合し、樹脂組成物のペレットを製造した。
【0045】
<コアシェルエラストマーの平均2次粒子径(nm)>
上記で得られたペレットを、温度80℃の熱風循環式乾燥機にて4時間熱処理を行った。
次に、上記乾燥後のペレットを、射出成形機を用い、シリンダー温度195℃に設定し、金型温度を90℃に設定して、ウエルド部を中央に有するASTM引張試験片(厚み3.2mm)を作製した。
このASTM引張試験片から、成形時の流動方向に並行で、かつ、ウエルド部を含むようにダイヤモンドナイフで走査型電子顕微鏡(SEM)観察用試験片を切り出した。
得られたSEM観察用試験片の観察面に四酸化オスミウムを蒸着させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてSEM画像を取得した。
得られたSEM画像から、エラストマー由来の島状部の最大長さの平均値を、エラストマーの平均2次粒子径とした。
射出成形機は、芝浦機械社製、EC-100Sを用いた。
四酸化オスミウムの蒸着は、メイワフォーシス社製「オスミウムコータ」を用いて8mA、60秒の条件で行った。走査型電子顕微鏡は日立ハイテクノロジーズ社製「走査型電子顕微鏡(SEM)S-4800」を用い、加速電圧:1kV、信号:LA100(U)、エミッション電流:6μA、プローブ電流:Normalの条件でSEM画像を取得した。
【0046】
<ウエルド伸び>
上記で得られたペレットを、温度80℃の熱風循環式乾燥機にて4時間熱処理を行った。
次に、上記乾燥後のペレットを、射出成形機を用い、シリンダー温度195℃に設定し、金型温度を90℃に設定して、ウエルド部を中央に有するASTM引張試験片(厚み1.6mm)を作製し、ASTM D638に準じて、引張試験を行って、ウエルド伸びを測定した。
射出成形機は、芝浦機械社製、EC-100Sを用いた。
単位は、%で示した。測定結果を以下の基準により評価した。
A:14%以上
B:10%以上、14%未満
C:10%未満
結果を下記表2~表6に示した。
【0047】
<動摩擦係数>
上記で得られたペレットを、温度80℃の熱風循環式乾燥機にて4時間熱処理を行った。
次に、上記乾燥後のペレットを、射出成形機を用い、シリンダー温度195℃に設定し、金型温度を80℃に設定して、円筒形スラスト試験片、接触面積2cmの試験片を作製した。この試験片について、鈴木式摩擦摩耗試験機を用いて、温度23℃、湿度50%雰囲気下で、荷重10kgf、線速度10cm/sにて同一材同士で測定し、動摩擦係数(μ)を求めた。測定結果を以下の基準により評価した。
A:0.32未満
B:0.32以上、0.34未満
C:0.34以上
結果を下記表2~表6に示した。
【0048】
<比摩耗量>
上記で得られたペレットを、温度80℃の熱風循環式乾燥機にて4時間熱処理を行った。
次に、上記乾燥後のペレットを、射出成形機を用い、シリンダー温度195℃に設定し、金型温度を80℃に設定して、円筒形スラスト試験片、接触面積2cmの試験片を作製した。この試験片について、鈴木式摩擦摩耗試験機を用いて、温度23℃、湿度50%雰囲気下で、荷重3kgf、線速度30cm/s、同一材同士にて走行時間20時間で行い、試験前後の円筒型スラスト試験片の質量を基に比摩耗量を算出した。比摩耗量は、摩耗試験に用いた試験片の両方の比摩耗量の合計である。
単位は、×10-2(mm/kgf・km)で示した。
また、測定結果を以下の基準により評価した。
A:20×10-2(mm/kgf・km)未満
B:20×10-2(mm/kgf・km)以上30×10-2(mm/kgf・km)未満
C:30×10-2(mm/kgf・km)以上
結果を下記表2~表6に示した。
【0049】
<曲げ弾性率>
上記で得られたペレットを、温度80℃の熱風循環式乾燥機にて4時間熱処理を行った。
次に、上記乾燥後のペレットを、射出成形機を用い、シリンダー温度195℃に設定し、金型温度を90℃に設定して、ISO9988-2規格に準拠して、射出成形した。射出成形機は、芝浦機械社製、EC-100Sを用いた。こうして、4mm厚さの多目的試験片(ISO試験片)を得た。
次に、この4mm厚さの多目的試験片(ISO試験片)について、曲げ試験機である全自動曲げ試験機を用いて、ISO178に記載の方法に従って、曲げ試験速度2mm/分で曲げ試験を行い、曲げ弾性率を測定した。全自動曲げ試験機は、島津製作所社製のものを用いた。単位はMPaで示した。評価基準は以下の通りである。
A:1500MPa以上、2400MPa未満
B:1300MPa以上、1500MPa未満または2400MPa以上、2450MPa未満
C:1300MPa未満、または2450MPa以上
結果を下記表2~表6に示した。
【0050】
<ホルムアルデヒド発生量>
上記で得られたペレットを、温度80℃の熱風循環式乾燥機にて4時間熱処理を行った。
次に、上記乾燥後のペレットを、射出成形機を用い、シリンダー温度210℃に設定し、金型温度を80℃に設定して、100mm×40mm×2mmの平板試験片を作製した。この試験片について、ドイツ自動車工業組合規格VDA275(自動車室内部品-改定フラスコ法によるホルムアルデヒド放出量の定量)に記載された方法に準拠して、下記の方法により、ポリアセタール樹脂1g中のホルムアルデヒド発生量を測定した。
(i)ポリエチレン容器内の蒸留水50mLを入れ、上記平板試験片を空中に吊るした状態で蓋を閉め、密閉状態で60℃にて3時間加熱した。
(ii)室温で60分間放置した後、平板試験片を取り出した。
(iii)ポリエチレン容器内の蒸留水中に吸収されたホルムアルデヒド量を、UVスペクトロメーターにより、アセチルアセトン比色法で測定し、このホルムアルデヒド量を平板試験片中のPOMの質量で除した値をホルムアルデヒド発生量とした。
単位は、ポリアセタール樹脂1g当たりのホルムアルデヒド発生量(μg)、すなわち、μg/g-POMで示した。測定結果を以下の基準により評価した。
A:5μg/g-POM未満
B:5μg/g-POM以上10μg/g-POM未満
C:10μg/g-POM以上
結果を下記表2~表6に示した。
【0051】
<総合評価>
上記ウエルド伸び、動摩擦係数、比摩耗量、曲げ弾性率、ホルムアルデヒド発生量の評価結果のうち、最も悪い結果を総合評価とした。
結果を表2~表6に示した。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
上記表2~6から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、摺動性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れていた(実施例1~14)。
これに対し、ポリアセタール樹脂(A)中のコアシェルエラストマー(B)の平均2次粒子径が大きい場合(比較例1、2)、ウエルド伸びが小さかったり、樹脂組成物(ペレット)が得られなかった。
また、コアシェルエラストマー(B)の含有量が少ない場合(比較例3)、弾性率が高く、また、多すぎる場合(比較例4)、弾性率が低すぎ、いずれの場合も、適度な軟質性を保てなかった。
また、シリコーン化合物(C)の含有量多すぎる場合(比較例5、7)、ウエルド伸びが低く、また、少なすぎる場合(比較例6)、動摩擦係数が劣っていた。
さらに、シリコーン化合物(C)の動粘度が低い場合(比較例8、9)、摺動性が劣っていた。
また、シリコーン化合物(C)以外の摺動性改良剤を用いた場合(参考例1~3)、摺動性が不十分であったり、ホルムアルデヒドが発生してしまったりした。