(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 3/0895 20230101AFI20240905BHJP
【FI】
G06N3/0895
(21)【出願番号】P 2024074372
(22)【出願日】2024-05-01
【審査請求日】2024-05-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 玲▲緒▼
【審査官】北川 純次
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-551023(JP,A)
【文献】特開2003-58582(JP,A)
【文献】米国特許第11004135(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第117836861(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
G16C 20/70
G16C 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の原材料が配合される複合材料における一部の前記原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない前記原材料の配合量に基づいて、またはマスクされていない前記原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、前記複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、前記重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各前記原材料の特徴量ベクトルを算出する第1演算部と、
前記第1演算部が算出した各前記原材料の特徴量ベクトルと、前記複合材料の配合量とを用いて、前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する第2演算部と、
を備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記第1演算部は、マスクされた前記原材料の配合量またはマスクされた前記原材料が配合されているか否かの情報に任意の大きさを持つ埋め込み行列を乗じ、所定の活性化関数を適用し、任意の大きさを持つ埋め込み復元行列を乗じ、所定の活性化関数を適用することで各前記原材料の特徴量ベクトルとして前記埋め込み行列を算出する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第2演算部が演算した前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて、前記配合の特徴量ベクトルに紐づく物性の関係を予測する予測部をさらに備える、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記第2演算部が演算した前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて、指定された配合と類似の配合を検索する検索部をさらに備える、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記検索部は、複数の前記配合の特徴量ベクトルの統計量を演算することで得られる、複数の配合の集合の特徴量ベクトルを用いて、指定された複数の配合の集合と類似の複数の配合の集合を検索する、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
プロセッサが、
複数の原材料が配合される複合材料における一部の前記原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない前記原材料の配合量に基づいて、またはマスクされていない前記原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、前記複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、前記重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各前記原材料の特徴量ベクトルを算出し、
算出した各前記原材料の特徴量ベクトルと、前記複合材料の配合量とを用いて、前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する
処理を実行する、情報処理方法。
【請求項7】
コンピュータに、
複数の原材料が配合される複合材料における一部の前記原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない前記原材料の配合量に基づいて、またはマスクされていない前記原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、前記複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、前記重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各前記原材料の特徴量ベクトルを算出し、
算出した各前記原材料の特徴量ベクトルと、前記複合材料の配合量とを用いて、前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する
処理を実行させる、情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の原材料や素材を配合して作成される、ゴムや樹脂複合材料といった複合材料の特性や性能を、機械学習を用いて予測する手法が用いられている。例えば特許文献1では、使用する原材料の配合量や、融点等の原材料単体での物性値、フィンガープリントなどの原材料の分子構造を数値化した値などを特徴量として用いて、複合材料の特性を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合材料の特性を予測する際に、予測対象の複合材料の原材料の範囲が広く多数存在する場合には、特徴量数の増大や欠損値の発生といった問題が生じる。
【0005】
複合材料に使用される原材料の配合量を特徴量として、複合材料の特性を予測する場合、予測対象にする原材料の種類だけ特徴量の数が増加する。また一般的に、一つの複合材料で使用する原材料の数には限りがあるのでデータの大半は0になり、配合量を特徴量にしたデータセットは表1のようなスパースなデータセットになる。特徴量数が増大することにより、予測精度の低下や計算時間の増大といった問題が発生する。
【0006】
【0007】
一方で、複合材に含まれる原材料単体での物性値の平均値や、部数で重みづけした平均値などを特徴量として、複合材料の特性を予測する場合も考えられる。この場合、予測対象にする原材料の範囲を広げても上記の特徴量数の増大という問題は発生しないが、原材料によっては、原材料単体での物性値が測定されていない場合、または物性値の測定が不可能な場合もある。その結果、物性値に多数の欠損が発生することで予測精度の低下をもたらす。
【0008】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたものであり、特徴量数の増大や欠損値の発生を回避することで複合材料の特性の予測精度や類似の配合の検索精度を向上させる情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1態様に係る情報処理装置は、複数の原材料が配合される複合材料における一部の前記原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない前記原材料の配合量に基づいて、またはマスクされていない前記原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、前記複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、前記重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各前記原材料の特徴量ベクトルを算出する第1演算部と、前記第1演算部が算出した各前記原材料の特徴量ベクトルと、前記複合材料の配合量とを用いて、前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する第2演算部と、を備える。
【0010】
本開示の第2態様に係る情報処理装置は、第1態様に係る情報処理装置であって、前記第1演算部は、マスクされた前記原材料の配合量またはマスクされた前記原材料が配合されているか否かの情報に任意の大きさを持つ埋め込み行列を乗じ、所定の活性化関数を適用し、任意の大きさを持つ埋め込み復元行列を乗じ、所定の活性化関数を適用することで各前記原材料の特徴量ベクトルとして前記埋め込み行列を算出する。
【0011】
本開示の第3態様に係る情報処理装置は、第1態様に係る情報処理装置であって、前記第2演算部が演算した前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて、前記配合の特徴量ベクトルに紐づく物性の関係を予測する予測部をさらに備える。
【0012】
本開示の第4態様に係る情報処理装置は、第1態様に係る情報処理装置であって、前記第2演算部が演算した前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて、指定された配合と類似の配合を検索する検索部をさらに備える。
【0013】
本開示の第5態様に係る情報処理装置は、第4態様に係る情報処理装置であって、前記検索部は、複数の前記配合の特徴量ベクトルの統計量を演算することで得られる、複数の配合の集合の特徴量ベクトルを用いて、指定された複数の配合の集合と類似の複数の配合の集合を検索する。
【0014】
本開示の第6態様に係る情報処理方法は、プロセッサが、複数の原材料が配合される複合材料における一部の前記原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない前記原材料の配合量に基づいて、またはマスクされていない前記原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、前記複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、前記重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各前記原材料の特徴量ベクトルを算出し、算出した各前記原材料の特徴量ベクトルと、前記複合材料の配合量とを用いて、前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する処理を実行する。
【0015】
本開示の第7態様に係る情報処理プログラムは、コンピュータに、複数の原材料が配合される複合材料における一部の前記原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない前記原材料の配合量に基づいて、またはマスクされていない前記原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、前記複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、前記重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各前記原材料の特徴量ベクトルを算出し、算出した各前記原材料の特徴量ベクトルと、前記複合材料の配合量とを用いて、前記複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、上記の点に鑑みてなされたものであり、特徴量数の増大や欠損値の発生を回避することで複合材料の特性の予測精度や類似の配合の検索精度を向上させる情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】開示の技術の実施形態に係る情報処理装置の概略構成を示す図である。
【
図2】情報処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】情報処理装置の機能構成の例を示すブロック図である。
【
図4】埋め込み次元数25の原材料の特徴量ベクトルに対して、t-sneを用いて次元圧縮を行い、2次元平面上にプロットした例を示す図である。
【
図5】埋め込み次元数25の原材料の特徴量ベクトルから配合の特徴量ベクトルを計算し、t-sneを用いて次元圧縮を行い、2次元平面上にプロットした例を示す図である。
【
図6】情報処理装置による情報処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
図1は、本実施形態に係る情報処理装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る情報処理装置10は、複合材料に使用される原材料の配合量のデータを用いて複合材料の配合の特徴量ベクトルを演算する装置である。そして本実施形態に係る情報処理装置10は、演算した複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて、配合の特徴量ベクトルに紐づく物性の関係を予測したり、類似の配合を検索したりする装置である。
【0020】
本実施形態に係る情報処理装置10は、複合材料に使用される原材料の配合量のデータを用いて複合材料の配合の特徴量ベクトルを演算することで特徴量数の増大や欠損値の発生を回避することができる。そして本実施形態に係る情報処理装置10は、複合材料に使用される原材料の配合量のデータを用いて複合材料の配合の特徴量ベクトルを演算することで、配合の特徴量ベクトルを用いた複合材料の特性の予測や類似の配合の検索を行うことができる。
【0021】
図2は、情報処理装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0022】
図2に示すように、情報理装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0023】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12またはストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12またはストレージ14に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12またはストレージ14には、複合材料の配合の特徴量ベクトルを演算する情報処理プログラムが格納されている。
【0024】
ROM12は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはフラッシュメモリ等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。
【0025】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0026】
表示部16は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能しても良い。
【0027】
通信インタフェース17は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0028】
上記の情報処理プログラムを実行する際に、情報処理装置10は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。情報処理装置10が実現する機能構成について説明する。
【0029】
図3は、情報処理装置10の機能構成の例を示すブロック図である。
【0030】
図3に示すように、情報処理装置10は、機能構成として、第1演算部101、第2演算部102、予測部103および検索部104を有する。各機能構成は、CPU11がROM12またはストレージ14に記憶された情報処理プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0031】
第1演算部101は、複数の原材料が配合される複合材料における一部の原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない原材料の配合量に基づいて、またはマスクされていない原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた原材料またはマスクされた原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた前記原材料またはマスクされた前記原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、前記重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各原材料の特徴量ベクトルを算出する処理を実行する。以下の説明では、マスクされていない原材料の配合量に基づいてマスクされた原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクについて説明するが、その他の組み合わせについても同様に実施可能である。
【0032】
第1演算部101が実行する処理について説明する。まず、過去に実際に作成し、物性が測定された配合のデータを収集し、各原材料種を列、配合を行として配合量を記した表2のような配合量データテーブルを用意する。配合量データテーブルは任意の場所に格納されてよい。例えば配合量データテーブルはストレージ14に格納されてよく、情報処理装置10とは異なる外部ストレージに格納されてよい。ここで、表2は行数が解析に用いる配合数、列数が予測対象にする原材料種数になる。
【0033】
【0034】
なお表2の配合量データテーブルで示した各配合は実際に作成可能な配合である必要はあるが、特徴量生成の段階では、物性が測定され、紐づけられている必要はない。
【0035】
第1演算部101は、作成された配合量データテーブルを、原材料ごとの配合量の最大値で除算することで、各列のデータを0~1の範囲に規格化して表3のようなデータテーブルに変換する。なお、第1演算部101は、配合量データテーブルに対して、標準化、二値化、非線形変換などの前処理を実施してもよい。
【0036】
【0037】
第1演算部101は、規格化した配合量データテーブルから1行分、すなわち1配合分のデータを抜き出す。1配合分のデータをベクトルXinとする。ここでは配合Bのデータを用いる。このときベクトルXinは数式(1)のように、大きさが予測対象とする原材料種の数のベクトルになる。
【0038】
【0039】
第1演算部101は、ベクトルXinのゼロでない要素、つまりベクトルXinの配合で使用された原材料の配合量のうちの一部をゼロに置換したベクトルを生成し、ベクトルX’inとする。例えば、第1演算部101は、ベクトルXinのゼロでない要素のうちの一つをゼロに置換したベクトルを生成し、数式(2)のようにベクトルX’inとする。
【0040】
【0041】
第1演算部101は、ベクトルX’inと同じ大きさのベクトルであって、ベクトルX’inに生成のためにゼロに置換した要素と同じインデックスの要素を1、それ以外をゼロにした。数式(3)のようなベクトルytrueを生成する。
【0042】
【0043】
第1演算部101は、ベクトルX’inに、数式(4)で示されるような(埋め込み次元数)×(原材料種数)の大きさを持つ埋め込み行列Weをかけて、数式(5)のような配合の埋め込みベクトルhを得る。ここで、埋め込み行列Weの初期値は、乱数で与えることで決定できる。埋め込み次元数は、大きいほど表現力が向上するが、過度に大きな値に設定すると計算コストの増大に繋がる。本実施形態では、埋め込み次元数を25または50とする。なお、埋め込み次元数は原材料種やデータ数などによって適切な値に変化してもよい。
【0044】
【0045】
【0046】
第1演算部101は、配合の埋め込みベクトルhに活性化関数を適用してベクトルh’を得る。本実施形態では、活性化関数としてReLU関数を用いるが、他にもLeaky Relu関数、tanh関数等の活性化関数を用いてもよい。第1演算部101は、ベクトルh’に埋め込み復元行列Wsをかけて、softmax関数を適用して数式(6)のようなベクトルypredを得る。ベクトルypredは、ベクトルytrueから計算される損失関数が十分に小さくなるようにすることで、入力されたベクトルX’inにおいて0に置換された原材料を予測した結果を確率で表すベクトルになっている。なお、本実施形態ではマスクした原材料が一つなのでsoftmax関数を適用したが、マスクした原材料が2つ以上の場合はsigmoid関数を適用することが望ましい。
【0047】
【0048】
第1演算部101は、ベクトルytrueとベクトルypredとの差から損失関数を計算し、損失関数を最小化するように埋め込み行列We、バイアスb、埋め込み復元行列Wsの値を更新する。本実施形態では、損失関数にはBinary Cross EntropyまたはCross Entropyを用いた。また本実施形態では、損失関数の最小化には確率的勾配降下法を用いた。
【0049】
第1演算部101は、規格化した配合量データテーブルの一部または全ての行に対して、ベクトルXinを生成する処理から埋め込み行列We、バイアスb、埋め込み復元行列Wsの値を更新する処理までを繰り返す。数式(7)は、第1演算部101が生成した埋め込み行列Weの例を示す。損失関数が十分に小さくなるように反復したあとの埋め込み行列Weの各行は原材料種ごとの分散表現となり、特徴量として利用できる。
【0050】
【0051】
第1演算部101が実行する一連の演算処理は、配合量データテーブルから、使用された原材料のうち1種をマスクして、マスクされた配合量をマスクされていない配合量から予測するタスクを解くことで、原材料の特徴量を得る処理である。第1演算部101が実行する一連の演算処理は、自然言語処理のCBOW(Continuous Bag of Words)のアルゴリズムに類似している。CBOWは、自然言語処理で使われる一種のモデルで、Word2Vecの中で提案された。CBOWは、特定の単語の前後にある「コンテキスト」(周囲の単語)からその単語を予測することを目的としている。これにより、単語の分散表現、つまり単語の意味を密度の高いベクトルで表現することが可能になる。CBOWは、単語の意味が使用されるコンテキストによって決定されるという考えに基づいている。
【0052】
また、第1演算部101が実行する一連の演算処理は、マスクされた一つの原材料を予測するタスクであったが、使用された1種類の原材料から、同時に使用された他の原材料を予測するタスクを解かせても、原材料の特徴量を得ることができる。この場合は自然言語処理のskip-gramのアルゴリズムに類似している。Skip-gramは、Word2Vecを構成するモデルの一つであり、CBOWがコンテキストからターゲットの単語を予測するのに対し、Skip-gramは逆に特定の単語からその周囲のコンテキスト単語を予測するアルゴリズムである。Skip-gramにより、単語の密なベクトル表現を生成し、単語間の意味的な関係を捉えることが可能になる。
【0053】
上述の説明では、第1演算部101が実行する一連の演算処理は、配合量データテーブルから、使用された原材料のうち1種をマスクして、マスクされた配合量をマスクされていない配合量から予測するタスクを解いていたが、第1演算部101は、同様に、配合量データテーブルから、使用された原材料のうち1種をマスクして、マスクされた原材料の使用の有無をマスクされていない配合量から予測してもよい。また、第1演算部101は、同様に、使用された原材料のうち1種をマスクして、マスクされた配合量をマスクされていない原材料の使用の有無から予測してもよい。また、第1演算部101は、同様に、使用された原材料のうち1種をマスクして、マスクされた原材料をマスクされていない原材料の使用の有無から予測してもよい。
【0054】
第1演算部101により数式(7)のように得られる各原材料の特徴量ベクトルの集合である埋め込み行列Weが、原材料の特徴を表現していることを示す。
図4は、埋め込み次元数25の原材料の特徴量ベクトルに対して、t-sne(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding)を用いて次元圧縮を行い2次元平面上にプロットした図である。t-sneは、高次元データの可視化に広く使用される機械学習アルゴリズムであり、特に多次元データセット内のパターンやクラスターを2次元または3次元空間にマッピングして視覚化するのに適している。
【0055】
図4に示したように、特徴量ベクトルの算出には原材料分類の情報は用いられていないが、同じ原材料分類では、t-sneで次元圧縮した空間上で近い位置に点がプロットされていることが分かる。これは、第1演算部101が求めた原材料の特徴量ベクトルが材料の特性を意味していることを示す。
【0056】
第2演算部102は、第1演算部101が算出した各原材料の特徴量ベクトル、すなわち埋め込み行列Weと、複合材料の配合量とを用いて、複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する。
【0057】
第2演算部102は、規格化した配合量データテーブルにおける1行分、すなわち1配合分のデータであるベクトルXinと、第1演算部101が算出した埋め込み行列Weとを乗算することで、数式(8)のように複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する。
【0058】
【0059】
配合の特徴量ベクトルにおける特徴量は、使用する原材料種が増えても、次元数は埋め込み次元数になるので、次元数が増えすぎず、また欠損値も発生しない。従って、第2演算部102が複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出することで、情報処理装置10は、特徴量数の増大や欠損値の発生を回避することができる。
【0060】
タイヤ用ゴム材料の配合量データに対して、第1演算部101及び第2演算部102による演算を実施した結果を例として示す。
【0061】
原材料の特徴量ベクトルから配合の特徴量ベクトルを計算し、t-sneを用いて次元圧縮を行い2次元平面上にプロットした例を示す。
図5は、埋め込み次元数25の原材料の特徴量ベクトルから配合の特徴量ベクトルを計算し、t-sneを用いて次元圧縮を行い、2次元平面上にプロットした例を示す図である。
図5の2次元平面では、ゴムが使用される部材ごとに分けて表示している。
図5の2次元平面で示されているように、同じ部材の組み合わせごとに点が集中していて、クラスターを形成していることが分かる。一般に同一部材には類似したゴム配合が使用されており、このことが配合の特徴量ベクトルにも表れていることが確認できる。
【0062】
第1演算部101及び第2演算部102の演算結果は任意の場所に格納されてよい。例えば、原材料の特徴量ベクトル及び配合の特徴量ベクトルはストレージ14に格納されてよく、情報処理装置10とは異なる外部のストレージに格納されてよい。
【0063】
予測部103は、予め第1演算部101及び第2演算部102により演算された複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて、配合量のデータから当該配合の物性を予測する。例えば、予測部103は、情報処理装置10のユーザによって情報処理装置10に入力された配合量のデータに対して第1演算部101及び第2演算部102により演算された配合の特徴量ベクトルと、予め第1演算部101及び第2演算部102により演算された配合の特徴量ベクトルとを用いて、情報処理装置10のユーザによって情報処理装置10に入力された配合量のデータの物性を予測する。
【0064】
検索部104は、予め第1演算部101及び第2演算部102により演算された複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて、情報処理装置10のユーザにより指定された配合量のデータに類似する配合量のデータを検索する。例えば、検索部104は、情報処理装置10のユーザによって情報処理装置10に入力された配合量のデータに対して第1演算部101及び第2演算部102により演算された配合の特徴量ベクトルと、予め第1演算部101及び第2演算部102により演算された配合の特徴量ベクトルとを用いて、情報処理装置10のユーザによって情報処理装置10に入力された配合量のデータに類似する配合量のデータを検索する。
【0065】
新規の配合を作成、試験する前に、類似した過去の配合のデータを確認することは、開発上とても重要である。しかし、従来の配合検索では、特定の原材料の配合量又は原材料グループの配合量をキーにデータを絞り込んでいた。特定の原材料の配合量をキーに絞り込む場合は、機能としては類似しているが、原材料名が違うものが検索から漏れてしまう可能性がある。一方、原材料グループの配合量をキーにする場合は、同じ原材料グループでも機能が違うものが検索結果に含まれてしまい、検索効率を下げてしまう。
【0066】
検索部104は、複合材料の配合の特徴量ベクトルを用いて類似する配合のデータを検索することが可能となる。これにより情報処理装置10は、ユーザが配合を入力したときに、配合ベクトル空間上で類似した過去配合を出力することが可能である。
【0067】
また配合開発では、新規配合の作成、試験時に、複数の配合をまとめて作成、試験する場合がある。一般的には、1つのまとまりには類似した配合が含まれており、1つのまとまりにおいては検討したい配合因子が変量されている。また、1つのまとまり内の各配合の作成、試験は同一タイミングで実施されるので、1つのまとまり内での試験結果には季節間差などがなく、取り扱いが容易である。検索部104は、上述した配合ベクトルの統計量を演算して得られるベクトルを用いることで、類似のまとまりを検索してもよい。配合ベクトルの統計量としては、算術平均、分散、標準偏差等がある。配合ベクトルの分散または標準偏差が指定された配合の集合に近いということは、配合の集合内にて変量されている配合因子が近いということに相当する。
【0068】
次に、情報処理装置10の作用について説明する。
【0069】
図6は、情報処理装置10による情報処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から情報処理プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、情報処理が行われる。
【0070】
CPU11は、ステップS101において、表2のように作成された配合量データテーブルを、原材料ごとの配合量の最大値で除算することで、各列のデータを0~1の範囲に規格化して表3のようなデータテーブルに変換する。
【0071】
ステップS101に続いて、CPU11は、ステップS102において、規格化した配合量データテーブルから1行分、すなわち1配合分のデータを抜き出す。1配合分のデータをベクトルXinとする。
【0072】
ステップS102に続いて、CPU11は、ステップS103において、ベクトルXinのゼロでない要素、つまりベクトルXinの配合で使用された原材料の配合量のうちの一部をゼロに置換したベクトルを生成し、ベクトルX’inとする。例えば、CPU11は、ベクトルXinのゼロでない要素のうちの一つをゼロに置換したベクトルを生成し、数式(2)のようにベクトルX’inとする。そしてCPU11は、ベクトルX’inと同じ大きさのベクトルであって、ベクトルX’inに生成のためにゼロに置換した要素と同じインデックスの要素を1、それ以外をゼロにした。数式(3)のようなベクトルytrueを生成する。
【0073】
ステップS103に続いて、CPU11は、ステップS104において、ベクトルX’inに、数式(4)で示されるような(埋め込み次元数)×(原材料種数)の大きさを持つ埋め込み行列Weをかけて、数式(5)のような配合の埋め込みベクトルhを得る。
【0074】
ステップS104に続いて、CPU11は、ステップS105において、配合の埋め込みベクトルhに活性化関数を適用してベクトルh’を得る。なお上述したように、本実施形態では、活性化関数としてReLU関数を用いるが、他にもLeaky Relu関数、tanh関数等の活性化関数を用いてもよい。CPU11は、ステップS106において、ベクトルh’に埋め込み復元行列Wsをかけて、softmax関数を適用して数式(6)のようなベクトルypredを得る。なお上述したように、本実施形態ではマスクした原材料が一つなのでsoftmax関数を適用したが、マスクした原材料が2つ以上の場合はsigmoid関数を適用することが望ましい。
【0075】
ステップS106に続いて、CPU11は、ステップS107において、ベクトルytrueとベクトルypredとの差から損失関数を計算し、損失関数を最小化するように埋め込み行列We、バイアスb、埋め込み復元行列Wsの値を更新する。本実施形態では、損失関数にはBinary Cross EntropyまたはCross Entropyを用いた。また本実施形態では、損失関数の最小化には確率的勾配降下法を用いた。
【0076】
ステップS107に続いて、CPU11は、ステップS108において、配合量データテーブルの全ての行について処理を終えたかどうか判断する。配合量データテーブルの全ての行について処理を終えていなければ(ステップS108;No)、CPU11は、ステップS102に戻り、次の行の処理を開始する。一方、配合量データテーブルの全ての行について処理を終えていれば(ステップS108;Yes)、CPU11は、ステップS109において、損失関数が十分に小さくなったかどうか判断する。損失関数が十分に小さくなったかどうかは、原材料の特徴量ベクトルが変化しなくなったかどうかで判断することができる。損失関数が十分に小さくなっていなければ(ステップS109;No)、CPU11はステップS102に戻り、再び配合量データテーブルに対する演算を開始する。一方、損失関数が十分に小さくなっていれば(ステップS109;Yes)、CPU11は一連の処理を終了する。
【0077】
情報処理装置10は、一連の処理を実行することで、材料の特性を意味する原材料の特徴量ベクトルを得ることができる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらの変更例または修正例についても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
また、上記実施形態において記載された効果は、説明的又は例示的なものであり、上記実施形態において記載されたものに限定されない。つまり、本開示に係る技術は、上記実施形態において記載された効果とともに、又は上記実施形態において記載された効果に代えて、上記実施形態における記載から、本開示の技術分野における通常の知識を有する者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0080】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した情報処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、情報処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0081】
また、上記各実施形態では、情報処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 情報処理装置
101 第1演算部
102 第2演算部
103 予測部
104 検索部
【要約】 (修正有)
【課題】特徴量数の増大や欠損値の発生を回避することで複合材料の特性の予測精度や類似の配合の検索精度を向上させる情報処理装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】方法は、複数の原材料が配合される複合材料における一部の原材料の配合量をマスクさせて、マスクされていない原材料の配合量に基づくかまたはマスクされていない原材料が配合されているか否かに基づいて、マスクされた原材料またはマスクされた原材料の配合量をニューラルネットワークにより予測するタスクを、複合材料の一部または全ての配合に対して繰り返し解き、マスクされた原材料またはマスクされた原材料の配合量を正しく予測できるように演算の重みベクトルを更新し、重みベクトルを有するニューラルネットワークにより、各原材料の特徴量ベクトルを算出し、算出した各原材料の特徴量ベクトルと、複合材料の配合量とを用いて、複合材料の配合の特徴量ベクトルを算出する。
【選択図】
図1