(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-04
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】圧入施工方法、圧入施工システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
E02D 7/20 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
E02D7/20
(21)【出願番号】P 2024541605
(86)(22)【出願日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2024013798
【審査請求日】2024-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2023062081
(32)【優先日】2023-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(72)【発明者】
【氏名】八尾 知哉
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3177691(JP,U)
【文献】特開2021-085768(JP,A)
【文献】特開2021-165502(JP,A)
【文献】国際公開第2022/209646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭を把持するチャックと、既設杭を保持して前記既設杭から反力を得る複数のクランプが取り付けられたサドルと、前記サドルに対して前後移動可能であって前記チャックを支持する旋回動作可能なマストと、を備える圧入機を用いた圧入施工方法であって、
前記チャックで杭を把持する把持工程と、
前記圧入機から離れて配置された計測管理装置によって、前記チャックが把持した前記杭の、客観座標系における位置を計測する位置計測工程と、
前記計測管理装置と前記圧入機とが通信を行う通信工程と、
前記位置計測工程によって計測された前記客観座標系における前記杭の第1位置情報と、前記サドルの進行方向を基準とする主観座標系における前記チャックの位置に関する第2位置情報と、を用いて、前記杭を目標位置に移動させるための前記圧入機の動作に関する指令を生成する指令生成工程と、
前記圧入機が、前記指令に基づいて動作し、前記チャックが把持した前記杭を前記目標位置に移動させる位置決め工程と、
前記位置決め工程後における前記杭の位置において、前記杭を地盤に圧入する圧入工程と、を有し、
前記通信工程では少なくとも前記第1位置情報の通信を行い、
前記主観座標系の原点は、前記マストが前記サドルに対して最も後方に位置したときの前記マストの旋回中心軸である、圧入施工方法。
【請求項2】
前記通信工程において、前記計測管理装置は、前記位置計測工程によって計測された前記第1位置情報を前記圧入機に送信し、
前記指令生成工程において、前記圧入機の制御部は、前記第1位置情報および前記第2位置情報を用いて前記指令を生成する、請求項1に記載の圧入施工方法。
【請求項3】
前記計測管理装置によって、前記チャックが把持した前記杭の管理角度に対する傾きを計測する傾き計測工程と、
前記傾き計測工程によって計測された前記杭の傾き情報を用いて、前記杭の傾きを補正する傾き補正工程と、を有する、請求項1に記載の圧入施工方法。
【請求項4】
前記計測管理装置によって、前記チャックが把持した前記杭の天端高さを計測する天端高さ計測工程を有し、
前記圧入工程において、前記天端高さ計測工程によって計測された前記天端高さ情報を用いて、前記杭を前記地盤の所定の深さまで圧入する、請求項1に記載の圧入施工方法。
【請求項5】
前記位置計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の下部の2点の位置を測定し、
前記傾き計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の下部の2点および上部の2点の位置を測定する、請求項3に記載の圧入施工方法。
【請求項6】
前記位置計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の下部の2点の位置を測定し、
前記天端高さ計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の上方に取り付けられたターゲットの位置を測定する、請求項4に記載の圧入施工方法。
【請求項7】
前記マストの、旋回動作における旋回オーバーラン量および直動動作における直動オーバーラン量を取得する、オーバーラン量取得工程をさらに有し、
前記位置決め工程では、前記第1位置情報および前記第2位置情報に基づいて算出される前記マストの旋回量から前記旋回オーバーラン量を差し引いた結果と、前記第1位置情報および前記第2位置情報に基づいて算出される前記マストの直動移動量から前記直動オーバーラン量を差し引いた結果と、を用いて、前記マストの旋回動作および直動動作を行う、請求項1または2に記載の圧入施工方法。
【請求項8】
前記複数のクランプには、最も前方にある第1クランプと、前記第1クランプに隣接する第2クランプと、前記第2クランプに隣接する第3クランプと、が含まれ、
前記圧入工程において前記杭が地盤に所定量圧入された後、前記杭に隣接する第1既設杭を前記圧入機が圧入した際に記憶した前記第1既設杭の位置情報に基づいて前記第1クランプを前記第1既設杭に向けて移動させ、前記第1クランプが前記第1既設杭に隣接する第2既設杭を保持した際に記憶した前記第1クランプの位置情報に基づいて前記第2クランプを前記第2既設杭に向けて移動させ、前記第2クランプが前記第2既設杭に隣接する第3既設杭を保持した際に記憶した前記第2クランプの位置情報に基づいて前記第3クランプを前記第3既設杭に向けて移動させる、請求項1に記載の圧入施工方法。
【請求項9】
圧入機と、
前記圧入機から離れて配置されて前記圧入機と通信を行う計測管理装置と、を備え、
前記圧入機は、
杭を把持するチャックと、
既設杭を保持して前記既設杭から反力を得る複数のクランプが取り付けられたサドルと、
前記サドルに対して前後移動可能であって前記チャックを支持する旋回動作可能なマストと、
前記チャックの位置を検出するセンサと、
前記チャック、前記マスト、および前記サドルの動作を制御する制御部と、を有し、
前記計測管理装置は、前記チャックが把持した前記杭の位置を計測することで、客観座標系における前記杭の第1位置情報を取得し、
前記センサは、前記チャックの位置を検出することで、前記サドルの進行方向を基準とする主観座標系における前記杭の第2位置情報を取得し、
前記制御部または前記計測管理装置は、前記第1位置情報および前記第2位置情報を用いて、前記杭を目標位置に移動させるための前記圧入機の動作に関する指令を生成し、
前記圧入機は、前記指令に基づいて動作し、前記チャックが把持した前記杭を前記目標位置に移動させ、前記杭を地盤に圧入し、
前記圧入機と前記計測管理装置とは、少なくとも前記第1位置情報の通信を行い、
前記主観座標系の原点は、前記サドルに対して前記マストが最も後方に位置したときの前記マストの旋回中心軸である、圧入施工システム。
【請求項10】
杭を把持するチャックと、既設杭を保持して前記既設杭から反力を得る複数のクランプが取り付けられたサドルと、前記サドルに対して前後移動可能であって前記チャックを支持する旋回動作可能なマストと、を有する圧入機および計測管理装置を備えた圧入施工システムに含まれるコンピュータに、
前記計測管理装置によって、前記チャックが把持した杭の、客観座標系における位置を計測する処理と、
前記計測管理装置と前記圧入機とが、少なくとも、前記客観座標系における前記杭の第1位置情報の通信を行う処理と、
前記第1位置情報と、前記サドルの進行方向を基準とし、前記マストが前記サドルに対して最も後方に位置したときの前記マストの旋回中心軸を原点とする主観座標系における前記チャックの位置に関する第2位置情報と、を用いて、前記杭を目標位置に移動させるための前記圧入機の動作に関する指令を生成する処理と、
前記圧入機を、前記指令に基づいて動作させ、前記チャックが把持した前記杭を前記目標位置に移動させる処理と、
移動後の前記杭の位置において、前記杭を地盤に圧入する処理と、を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧入施工方法、圧入施工システム、およびプログラムに関する。
本願は、2023年4月6日に日本に出願された特願2023-062081号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、杭を圧入施工する際の自動化が進められている。例えば特許文献1には、第1の杭の圧入が完了した後、次の第2の杭を圧入する際に、圧入機を自動的に移動(自走)させるための制御方法が開示されている。より具体的に、特許文献1の圧入機は、サドルと、サドルの下部に設けられて既設杭を保持する複数のクランプと、サドルに対して前後移動可能なスライドフレームと、スライドフレームに対して旋回可能なマストと、マストに取り付けられて杭を把持するチャックと、を備える。杭を把持したチャックが上下動することで、杭が地盤に圧入される。特許文献1の制御方法では、クランプやマストの移動量を自動的に算出し、当該移動量に基づいて制御を行うことで、自走を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
杭を圧入施工する際には、目標とする位置まで杭を移動させる必要がある。従来の技術では、目標とする位置まで杭を移動させることについての自動化が実現できていなかった。
【0005】
本開示はこのような事情を考慮してなされ、目標とする位置まで杭を移動させることの自動化を実現できる圧入施工方法、圧入施工システム、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の態様1に係る圧入施工方法は、杭を把持するチャックと、既設杭を保持して前記既設杭から反力を得る複数のクランプが取り付けられたサドルと、前記サドルに対して前後移動可能であって前記チャックを支持する旋回動作可能なマストと、を備える圧入機を用いた圧入施工方法であって、前記チャックで杭を把持する把持工程と、前記圧入機から離れて配置された計測管理装置によって、前記チャックが把持した前記杭の、客観座標系における位置を計測する位置計測工程と、前記計測管理装置と前記圧入機とが通信を行う通信工程と、前記位置計測工程によって計測された前記客観座標系における前記杭の第1位置情報と、前記サドルの進行方向を基準とする主観座標系における前記チャックの位置に関する第2位置情報と、を用いて、前記杭を目標位置に移動させるための前記圧入機の動作に関する指令を生成する指令生成工程と、前記圧入機が、前記指令に基づいて動作し、前記チャックが把持した前記杭を前記目標位置に移動させる位置決め工程と、前記位置決め工程後における前記杭の位置において、前記杭を地盤に圧入する圧入工程と、を有し、前記通信工程では少なくとも前記第1位置情報の通信を行い、前記主観座標系の原点は、前記マストが前記サドルに対して最も後方に位置したときの前記マストの旋回中心軸である。
【0007】
本開示の態様2は、態様1に係る圧入施工方法であって、前記通信工程において、前記計測管理装置は、前記位置計測工程によって計測された前記第1位置情報を前記圧入機に送信し、前記指令生成工程において、前記圧入機の制御部は、前記第1位置情報および前記第2位置情報を用いて前記指令を生成する。
【0008】
本開示の態様3は、態様1または2に係る圧入施工方法であって、前記計測管理装置によって、前記チャックが把持した前記杭の管理角度に対する傾きを計測する傾き計測工程と、前記傾き計測工程によって計測された前記杭の傾き情報を用いて、前記杭の傾きを補正する傾き補正工程と、を有する。
【0009】
本開示の態様4は、態様1から3のいずれかに係る圧入施工方法であって、前記計測管理装置によって、前記チャックが把持した前記杭の天端高さを計測する天端高さ計測工程を有し、前記圧入工程において、前記天端高さ計測工程によって計測された前記天端高さ情報を用いて、前記杭を前記地盤の所定の深さまで圧入する。
【0010】
本開示の態様5は、態様3に係る圧入施工方法であって、前記位置計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の下部の2点の位置を測定し、前記傾き計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の下部の2点および上部の2点の位置を測定する。
【0011】
本開示の態様6は、態様4に係る圧入施工方法であって、前記位置計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の下部の2点の位置を測定し、前記天端高さ計測工程において、前記計測管理装置は、前記杭の上方に取り付けられたターゲットの位置を測定する。
【0012】
本開示の態様7は、態様1から6のいずれかに係る圧入施工方法であって、前記マストの、旋回動作における旋回オーバーラン量および直動動作における直動オーバーラン量を取得する、オーバーラン量取得工程をさらに有し、前記位置決め工程では、前記第1位置情報および前記第2位置情報に基づいて算出される前記マストの旋回量から前記旋回オーバーラン量を差し引いた結果と、前記第1位置情報および前記第2位置情報に基づいて算出される前記マストの直動移動量から前記直動オーバーラン量を差し引いた結果と、を用いて、前記マストの旋回動作および直動動作を行う。
【0013】
本開示の態様8は、態様1から7のいずれかに係る圧入施工方法であって、前記複数のクランプには、最も前方にある第1クランプと、前記第1クランプに隣接する第2クランプと、前記第2クランプに隣接する第3クランプと、が含まれ、前記圧入工程において前記杭が地盤に所定量圧入された後、前記杭に隣接する第1既設杭を前記圧入機が圧入した際に記憶した前記第1既設杭の位置情報に基づいて前記第1クランプを前記第1既設杭に向けて移動させ、前記第1クランプが前記第1既設杭に隣接する第2既設杭を保持した際に記憶した前記第1クランプの位置情報に基づいて前記第2クランプを前記第2既設杭に向けて移動させ、前記第2クランプが前記第2既設杭に隣接する第3既設杭を保持した際に記憶した前記第2クランプの位置情報に基づいて前記第3クランプを前記第3既設杭に向けて移動させる。
【0014】
本開示の態様9に係る圧入施工システムは、圧入機と、前記圧入機から離れて配置されて前記圧入機と通信を行う計測管理装置と、を備え、前記圧入機は、杭を把持するチャックと、既設杭を保持して前記既設杭から反力を得る複数のクランプが取り付けられたサドルと、前記サドルに対して前後移動可能であって前記チャックを支持する旋回動作可能なマストと、前記チャックの位置を検出するセンサと、前記チャック、前記マスト、および前記サドルの動作を制御する制御部と、を有し、前記計測管理装置は、前記チャックが把持した前記杭の位置を計測することで、客観座標系における前記杭の第1位置情報を取得し、前記センサは、前記チャックの位置を検出することで、前記サドルの進行方向を基準とする主観座標系における前記杭の第2位置情報を取得し、前記制御部または前記計測管理装置は、前記第1位置情報および前記第2位置情報を用いて、前記杭を目標位置に移動させるための前記圧入機の動作に関する指令を生成し、前記圧入機は、前記指令に基づいて動作し、前記チャックが把持した前記杭を前記目標位置に移動させ、前記杭を地盤に圧入し、前記圧入機と前記計測管理装置とは、少なくとも前記第1位置情報の通信を行い、前記主観座標系の原点は、前記サドルに対して前記マストが最も後方に位置したときの前記マストの旋回中心軸である。
【0015】
本開示の態様10に係るプログラムは、杭を把持するチャックと、既設杭を保持して前記既設杭から反力を得る複数のクランプが取り付けられたサドルと、前記サドルに対して前後移動可能であって前記チャックを支持する旋回動作可能なマストと、を有する圧入機および計測管理装置を備えた圧入施工システムに含まれるコンピュータに、前記計測管理装置によって、前記チャックが把持した杭の、客観座標系における位置を計測する処理と、前記計測管理装置と前記圧入機とが、少なくとも、前記客観座標系における前記杭の第1位置情報の通信を行う処理と、前記第1位置情報と、前記サドルの進行方向を基準とし、前記マストが前記サドルに対して最も後方に位置したときの前記マストの旋回中心軸を原点とする主観座標系における前記チャックの位置に関する第2位置情報と、を用いて、前記杭を目標位置に移動させるための前記圧入機の動作に関する指令を生成する処理と、前記圧入機を、前記指令に基づいて動作させ、前記チャックが把持した前記杭を前記目標位置に移動させる処理と、移動後の前記杭の位置において、前記杭を地盤に圧入する処理と、を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の上記態様に係る圧入施工方法、圧入施工システム、およびプログラムによれば、目標とする位置まで杭を移動させることの自動化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る圧入施工システムの概略図である。
【
図2】本実施形態に係る圧入機の構成を説明する図である。
【
図3】杭に打ち下げ装置が取り付けられた状態を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る圧入施工方法を説明する図である。
【
図6】圧入機を上方から見た図であって、(a)は主観座標系を示し、(b)は客観座標系を示す。
【
図7】客観座標系の位置情報を主観座標系に変換するための圧入機の動作を説明する図である。
【
図8】本実施形態の圧入施工方法における位置決め工程を説明するフローチャートである。
【
図9】本実施形態の圧入施工方法における圧入工程を説明するフローチャートである。
【
図10】オーバーラン量について説明する図である。
【
図11】本実施形態の圧入施工方法におけるオーバーラン量取得工程を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態の圧入施工方法、圧入施工システム、およびプログラムについて図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の圧入施工システムSは、圧入機1(圧入引抜機)と、計測管理装置2と、を備える。圧入機1は、杭を地盤に圧入したり、杭を地盤から引き抜いたりすることが可能である。ただし、圧入機1は杭を地盤から引き抜く機能を有していなくてもよい。
【0019】
本実施形態では、内側から保持可能な杭を圧入施工する圧入機1を例として説明する。内側から保持可能な杭としては、例えば、鋼管杭、鋼管矢板、コンクリート杭などが挙げられる。
図1等では、杭の一例として、鋼管杭を表示している。ただし、圧入施工の対象となる杭の種類は、鋼管杭に限らず、特に限定されない。外側から保持可能な杭を、圧入施工の対象としてもよい。
【0020】
計測管理装置2は、計測部3と、管理部4と、を有する。計測部3は、例えばトータルステーションである。計測部3は、杭の位置を測定することが可能である。管理部4は、例えばノートパソコン等である。管理部4は、計測部3と通信を行う。また、計測管理装置2は、圧入機1と通信を行う。計測部3および管理部4のうち、一方が圧入機1と通信してもよいし、両方が圧入機1と通信してもよい。本明細書において、「通信」の具体的方法は特に限定されないが、無線通信(例えばBluetooth(登録商標))が好適である。本実施形態の「通信」が、有線通信によって行われてもよい。
【0021】
図2に示すように、圧入機1は、マスト20と、スライドフレーム12と、サドル10と、複数のクランプ11と、チャック25と、シリンダ30と、マスト前後センサ50と、マスト旋回センサ51と、チャック上下センサ52と、チャック回転センサ53と、第1クランプ前後センサ54Aと、第2クランプ前後センサ54Bと、第3クランプ前後センサ54Cと、第1クランプ左右センサ55Aと、第2クランプ左右センサ55Bと、第3クランプ左右センサ55Cと、制御部60と、を備えている。
【0022】
(方向定義)
本明細書における圧入機の「前方」とは、施工を進める方向を示す。
図1、
図2、
図4等では、右側が圧入機1の前方であり、左側が圧入機1の後方である。本実施形態の圧入機1において、マスト20が設けられている側を上側と称し、サドル10が設けられている側を下側と称する。前後方向および上下方向の双方に直交する方向を、左右方向と称する。なお、圧入機1の「前進」の方向は、左右方向(
図1の紙面に直交する方向)の成分を含んでいてもよい。また、本明細書において、「サドル10の進行方向」とは、圧入施工を進めるうえでの計画法線の方向を意味する。本実施形態における上下方向は、鉛直方向(重力方向)と平行であってもよいし、鉛直方向に対して傾いていてもよい。
【0023】
複数のクランプ11は、サドル10の下部に設けられている。圧入機1が備えるクランプ11の数は、2以上の任意の数とすることができる。複数のクランプ11は、前後方向に間隔を空けて配置されている。クランプ11は、既に地盤Gに圧入されている杭の上端部を保持することで、サドル10を杭(地盤G)に固定している。以下、既設の杭(既に地盤Gに圧入されている杭)を「既設杭」と称する場合がある。本実施形態のクランプ11は、既設杭の内側に挿入されて拡径し、既設杭の内面に押しつけられることで、既設杭を内側から保持する。ただし、クランプ11が既設杭を保持するための構造は特に限定されない。
【0024】
本明細書では、複数のクランプ11を、圧入機1の移動方向の前から後に(
図1において右から左に)、第1クランプ11A、第2クランプ11B、および第3クランプ11Cと称する場合がある。第1クランプ11Aは、複数のクランプ11のうち最も前方にあるクランプ11である。第2クランプ11Bは、第1クランプ11Aの後方に隣り合う。第3クランプ11Cは、第2クランプ11Bの後方に隣り合う。
図2は、3本の既設杭の上端部をクランプ11A~11Cで保持してサドル10を固定し、それら3本の既設杭の前方に、新たな1本の杭を圧入し終えた状態を示している。
【0025】
複数のクランプ11は、サドル10に対して、水平面に沿う任意の方向に移動可能である。例えば、クランプ11は、サドル10に対して前後方向に移動することもできるし、左右方向に移動することもできる。クランプ11は、前後方向と左右方向を組み合わせた方向に移動することもできる。本実施形態の圧入機1では、複数のクランプ11は互いに独立して動作(移動)できる。ただし、複数のクランプ11の一部のクランプが、サドル10に対して固定されていてもよい。
【0026】
スライドフレーム12は、サドル10の上部に、サドル10に対して相対的に前後方向にスライド移動自在に設けられている。そのため、サドル10は、スライドフレーム12およびマスト20に対して前後方向にスライド移動可能である。クランプ11が既設杭を把持し、かつ、サドル10に対するクランプ11の位置が固定されている状態で、サドル10をスライド移動させると、マスト20およびチャック25を既設杭に対して相対的に移動させることができる。このようにマスト20およびチャック25を移動させることを、以下では「直動」という。
【0027】
マスト20は、スライドフレーム12の上に設けられている。マスト20は、スライドフレーム12の中央部に設けられた回転軸22を中心として、スライドフレーム12に対して旋回することができる。マスト20の旋回動作は、例えば、マスト20の下方に設けられたモータなどの回転駆動源(図示せず)によって行われる。
【0028】
チャック25は、マスト20の前方に設けられている。チャック25は、シリンダ30の伸縮動作によって、マスト20に対して昇降可能である。チャック25は、チャックフレーム26と、チャック把持部27とを備える。チャックフレーム26はマスト20に対して昇降可能であり、チャック把持部27はチャックフレーム26に装着されている。本実施形態のチャック把持部27は、杭を外側から把持可能である。
【0029】
チャック把持部27は、チャックフレーム26に対して、回転自在に装着されている。チャック把持部27は、上下方向に延びる軸回りに回転可能である。これにより、チャック25は、マスト20に対して回転可能となる。チャック25が杭を把持して回転させながら、シリンダ30の動作によってチャック25を下降させることで、杭を地盤に回転圧入することができる。ただし、圧入機1は杭を回転させずに圧入するものであってもよい。
【0030】
マスト前後センサ50は、サドル10とスライドフレーム12との境界近傍に配置される。マスト前後センサ50は、サドル10とマスト20との相対的な位置関係を検出する。マスト前後センサ50は、スライドフレーム12でのスライドに応じて、マスト20の前後方向への移動量や移動方向を検出することができる。マスト旋回センサ51は、マスト20内に設けられ、回転軸22を中心とするマスト20の旋回角度を検出する。マスト前後センサ50やマスト旋回センサ51等は、チャック25の位置、あるいはチャック25によって把持された杭P(
図1参照)の位置を、間接的に検出することができる。これらのセンサによって検出される位置は、主観座標系(詳細は後述)における数値である。
【0031】
チャック上下センサ52は、マスト20の前部に配置される。チャック上下センサ52は、マスト20とチャック25の相対的な位置関係(上下位置関係)を検出する。チャック上下センサ52は、チャック25の上下方向への昇降量(移動量)や昇降方向を検出することができる。チャック回転センサ53は、チャックフレーム26近傍に配置され、チャック25の回転角度を検出する。
【0032】
第1クランプ前後センサ54Aは、サドル10と第1クランプ11Aとの境界近傍に配置される。第1クランプ前後センサ54Aは、第1クランプ11Aの前後方向位置を検出する。第1クランプ前後センサ54Aは、第1クランプ11Aの前後移動およびそれに伴う保持可能位置の検出を行う。第1クランプ左右センサ55Aは、サドル10と第1クランプ11Aとの境界近傍に配置され、第1クランプ11Aの左右方向位置を検出する。第1クランプ左右センサ55Aは、第1クランプ11Aの左右移動およびそれに伴う保持可能位置の検出を行う。
【0033】
第2クランプ前後センサ54Bは、サドル10と第2クランプ11Bとの境界近傍に配置される。第2クランプ前後センサ54Bは、第2クランプ11Bの前後方向位置を検出する。第2クランプ前後センサ54Bは、第2クランプ11Bの前後移動およびそれに伴う保持可能位置の検出を行う。第2クランプ左右センサ55Bは、サドル10と第2クランプ11Bとの境界近傍に配置され、第2クランプ11Bの左右方向位置を検出する。第2クランプ左右センサ55Bは、第2クランプ11Bの左右移動およびそれに伴う保持可能位置の検出を行う。
【0034】
第3クランプ前後センサ54Cは、サドル10と第3クランプ11Cとの境界近傍に配置される。第3クランプ前後センサ54Cは、第3クランプ11Cの前後方向位置を検出する。第3クランプ前後センサ54Cは、第3クランプ11Cの前後移動およびそれに伴う保持可能位置の検出を行う。第3クランプ左右センサ55Cは、サドル10と第3クランプ11Cとの境界近傍に配置され、第3クランプ11Cの左右方向位置を検出する。第3クランプ左右センサ55Cは、第3クランプ11Cの左右移動およびそれに伴う保持可能位置の検出を行う。
【0035】
マスト前後センサ50、マスト旋回センサ51、チャック上下センサ52、チャック回転センサ53、クランプ前後センサ54A~54C、クランプ左右センサ55A~55Cとしては、公知のセンサを使用できる。例えば、ストロークセンサ、近接スイッチ、リミットスイッチ、圧力センサ等を適宜選択して使用できる。
【0036】
制御部60は、マスト20内に設けられている。制御部60は、センサ50~53,54A~54C,55A~55Cに電気的に接続されている。制御部60は、計測管理装置2との通信結果、各センサ50~53,54A~54C,55A~55Cによる検出結果、等に基づいて演算を行う。その演算結果に基づき、制御部60は、圧入機1の各部の動作を制御する。
【0037】
図1に示すように、計測部3は、チャック25によって把持された杭Pについて、位置、傾き、および天端高さ(上端高さ)を計測することができる。ここで、計測部3によって計測される杭Pの位置は、客観座標系における位置である。客観座標系とは、圧入機1の外部から客観的に観察した場合の座標系である。客観座標系の具体例としては、例えば、公共座標(平面直角座標系)、ITRF(国際地球基準座標系)、日本測地系2011、あるいはこれらに準拠した座標系が挙げられる。これに対して、圧入機1から主観的に観察した場合の座標系を、主観座標系という。
【0038】
図3を用いて、計測部3による計測について説明する。計測部3が杭Pの位置を計測する場合、具体的には、杭Pの下部に位置する2つの測定点(下部測定点ML)の位置を取得する。下部測定点MLは、例えば、円筒状の杭Pの表面の位置である。計測部3は、2つの下部測定点MLの位置に関する情報を、管理部4に送信する。管理部4は、この情報に基づき、客観座標系における杭Pの中心位置を演算する。
【0039】
計測部3が杭Pの傾きを計測する場合、2つの下部測定点MLに加えて、杭Pの上部に位置する2つの測定点(上部測定点MU)の位置を取得する。つまり、傾きを計測する場合には、計測部3は合計で4点(2つの下部測定点ML,2つの上部測定点MU)の位置を取得する。上部測定点MUは、例えば、円筒状の杭Pの表面の位置である。計測部3は、これらの4点の位置に関する情報を、管理部4に送信する。管理部4は、2つの下部測定点MLに関する情報に基づき、杭Pの下部の中心位置を演算し、2つの上部測定点MUに関する情報に基づき、杭Pの上部の中心位置を演算する。言い換えれば、2つの下部測定点MLは、杭Pの下部の、水平方向における中心位置を演算可能な位置であり、2つの上部測定点MUは、杭Pの上部の、水平方向における中心位置を演算可能な位置である。そして管理部4は、杭Pの上部の中心位置および下部の中心位置に基づき、杭Pの傾きを演算する。なお、圧入施工の進行に伴って杭Pは地盤G内に進入する。このため、下部測定点MLの位置は、時間の経過とともに上方に移り変わる。実際の測定の一例として、下部測定点MLは、チャック25より下方かつ地面あるいは水面よりも上方の位置とされ、上部測定点MUはチャック25よりも上方の位置とされてもよい。
【0040】
図3に示すように、杭Pの上端には、打下装置5が取り付けられる場合がある。また、打下装置5には、測定用のプリズムなどのターゲットMTが取り付けられる場合がある。計測部3が杭Pの天端高さを計測する場合、ターゲットMTの位置を取得する。計測部3は、ターゲットMTの位置に関する情報を、管理部4に送信する。管理部4は、この情報に基づき演算を行い、天端高さ情報を生成する。例えば、杭Pの天端からターゲットMTまでの距離を、計測されたターゲットMTの高さ位置から差し引くことで、天端高さ情報が得られる。なお、ターゲットMTは、杭Pに直接取り付けられていてもよい。あるいは、打ち下げ装置ではない部材を介して、ターゲットMTが杭Pに間接的に取り付けられてもよい。つまり、ターゲットMTは、間接的又は直接的に杭Pの上方に取り付けられていれば、杭Pの天端高さを計測することができる。
【0041】
次に、
図4、
図5を用いて、本実施形態における圧入施工方法の概略について説明する。
まず、
図4(a)に示すように、杭Pの上端に、ターゲットMTを備えた打下装置5を取り付ける。
次に、
図4(b)に示すように、複数の既設杭をクランプ11によって保持した状態で、チャック25に杭Pを把持させる(把持工程)。具体例として、杭Pをクレーンなどで吊下げて、チャック25の上方から、チャック25の内側に向けて杭Pを下降させてもよい。なお、既設杭をクランプ11によって保持した状態にするまでの工程は、従来技術と同様であるため、説明を省略する。
図4(b)において、3つのクランプ11によって各々保持されている3つの既設杭の前方には、別の既設杭が1つ配置されている。
【0042】
次に、
図4(c)に示すように、マスト20を直動させたり旋回させたりすることで、チャック25によって把持された杭Pの位置を、目標位置O3(
図6、7参照)に移動させる(位置決め工程)。目標位置O3とは、圧入対象である杭Pの、工事計画上の設計座標である。詳細は後述するが、本実施形態では、この位置決め工程の自動化を実現する。
次に、
図4(d)に示すように、チャック25によって把持された杭Pを地盤に圧入する(圧入工程)。本実施形態では、杭Pを回転させながら圧入するが、回転させずに圧入してもよい。チャック25の位置が下限に到達した場合、いわゆる「掴みかえ」を行う。すなわち、チャック25による杭Pの把持を解除し、
図4(e)に示すようにチャック25を上方に移動させたあとで、再びチャック25によって杭Pを把持し、圧入を継続する。
【0043】
圧入の継続により、地盤による杭Pの支持力が増加する。圧入機1の自重を支持可能な杭Pの支持力が得られた後、
図5(a)に示すように、クランプ11による既設杭の保持を解除し、圧入機1を上昇させる。具体的には、チャック25によって杭Pを把持した状態で、マスト20に対してチャック25を下降させる。これにより、マスト20等が上昇し、クランプ11が既設杭から上方に離脱する。
【0044】
次いで、
図5(b)に示すように、サドル10を前進させた後、圧入機1を下降させる。このとき、各クランプ11は、
図4(e)において各自保持していた既設杭の前方に隣接した既設杭をそれぞれ保持する。本実施形態では、
図4(e)、
図5(a)、(b)に示す工程の自動化(すなわち圧入機1の自走)を実現している。
【0045】
ここで、圧入機1の自走について説明する。
図4(e)において、圧入中の杭Pに隣接する、圧入済みの杭を、第1既設杭P1と称する。また、第1クランプ11A~第3クランプ11Cによって保持される圧入済みの杭を、それぞれ第2既設杭P2、第3既設杭P3、第4既設杭P4と称する。第1既設杭P1は、
図4に示す工程の前に、圧入機1によって圧入された杭である。したがって、圧入機1は、第1既設杭P1の位置に関する情報を記憶している。また、圧入機1は、
図4(e)における第1クランプ11A、第2クランプ11B、および第3クランプ11Cの位置に関する情報も記憶している。これらの情報は、例えば、制御部60が備えるメモリ(記憶領域)に記憶される。なお、これらの情報は、圧入機1が備える各センサ50~53,54A~54C,55A~55Cによる検出結果に基づいて生成される。
【0046】
自走を行う際、第1クランプ11Aは、第2既設杭P2から第1既設杭P1へと移動する。このとき、圧入機1が記憶する、第1既設杭P1の位置に関する情報が用いられる。また、第2クランプ11Bは、第3既設杭P3から第2既設杭P2へと移動する。このとき、圧入機1が記憶する、第2既設杭P2を保持していた第1クランプ11Aの位置に関する情報が用いられる。同様に、第3クランプ11Cは、第4既設杭P4から第3既設杭P3へと移動する。このとき、圧入機1が記憶する、第3既設杭P3を保持していた第2クランプ11Bの位置に関する情報が用いられる。これにより、自走を行うことができる。
【0047】
次に、
図5(c)に示すように、チャック25による杭Pの圧入を再開する。杭Pを圧入している間、適宜、杭Pの天端高さを計測する工程(天端高さ計測工程)が行われる。天端高さ計測工程では、先述の通り計測部3がターゲットMTの位置を取得し、その結果に基づき、管理部4が天端高さを演算する。演算結果は、圧入機1に送信されてもよい。
【0048】
図5(d)に示すように、杭Pの天端高さが目標値に到達した場合、
図5(e)に示すように、打下装置5を撤去する。これにより、杭Pの圧入施工が完了する。その後、圧入が完了した杭Pを既設杭として用いてもよい。
図4、
図5の工程を繰り返すことで、順次、複数の杭が圧入施工される。
【0049】
次に、位置決め工程を自動化するための方法について説明する。まず、主観座標系および客観座標系の違いについて説明する。
図6は圧入機1および杭Pを上方から見た図であり、(a)は主観座標系を示し、(b)は客観座標系を示している。
図6(a)に示すように、主観座標系は、圧入機1が備える構造物を基準とした座標系である。本実施形態では、主観座標系をα-β軸によって表している。α軸はサドル10の長手方向(サドル10とマスト20とが相対移動する方向)に一致する。β軸は、平面視において、α軸に直交する。α軸とβ軸との交点(主観座標系の原点O1)は、マスト20を最もサドル10に対して後退させたときの、マスト20の旋回中心軸(センターピンの中心軸)の位置である。
【0050】
図6(b)に示すように、客観座標系は、主観座標系とは異なる座標系である。本実施形態では、客観座標系をX-Y軸によって表している。
図6(b)の例において、X軸は、1つ前に圧入した杭(第1既設杭P1)の中心位置O2と、次の杭Pを圧入する工事計画上の目標位置O3と、を結んだ軸である。Y軸は、平面視において、X軸に直交する。ここで、圧入機1を動作させるためには、主観座標系における指令値を生成する必要がある。その一方で、計測管理装置2が設定する目標位置O3は、客観座標系の値である。そこで、チャック25に把持された杭Pを、目標位置O3に適切に移動させるためには、目標位置O3を主観座標系の数値に変換する。この変換は幾何学上の演算によって行われる。本実施形態では、計測管理装置2が客観座標系における目標位置O3等を制御部60に入力し、制御部60が目標位置O3を主観座標系の数値に変換する演算を実行する。
【0051】
以下、杭Pを位置決めするための具体的な方法について説明する。
図7は、圧入機1を上方から見た図であり、位置決め工程における圧入機1の動作を示す概略図である。
図7において、点Aは位置決め工程の開始時における、チャック25によって把持された杭Pの中心位置である。圧入機1は、マスト20を前進させることで、杭Pの中心を点Aから点Bに移動させる。その後、圧入機1は、マスト20を移動(直動および旋回の一方または両方)させることで、杭Pの中心を点Bから目標位置O3へと移動させる。
【0052】
図8は、位置決め工程を説明するためのフローであり、
図7に対応している。
図8に示すように、位置決め工程では、まず、ステップS1において点Aにおける測定が行われる。ステップS1では、計測管理装置2が客観座標系における点Aの測定を行い、かつ、圧入機1が主観座標系における点Aの測定を行う。なお、主観座標系における測定は、マスト前後センサ50やマスト旋回センサ51等による検出結果に基づき、制御部60が行う。
【0053】
次に、ステップS2において、マスト20を前進させる。前進の距離は任意であり、例えば100mmである。なお、ステップS2において、マスト20を前進ではなく後退させてもよい。ステップS2により、杭Pの中心の位置は、点Aから点Bへと移動する。
【0054】
次に、ステップS3では、計測管理装置2が客観座標系における点Bの測定を行い、かつ、圧入機1が主観座標系における点Bの測定を行う。次に、ステップS4において、目標位置O3を、α-β座標系(主観座標系)の値に変換する演算を行う。この演算には、客観座標系での点A、Bの位置に関する情報と、主観座標系での点A、Bの位置に関する情報と、が用いられる。このように、目標位置O3とは異なる2つの点A,Bについての情報が、主観座標系および客観座標系の両方で取得されていれば、目標位置O3を客観座標系から主観座標系に変換することは幾何学的に可能である。
【0055】
次に、ステップS5において、主観座標系における目標位置O3に向けて、杭Pを移動させる。具体的には、圧入機1のマスト20を動作させるための指令を生成し、その指令に従ってマスト20を動作させる。マスト20の動作には、直動および旋回の一方または両方が含まれる。本実施形態では、マスト20を動作させるための指令を、制御部60が生成する。ただし、計測管理装置2が指令を生成し、制御部60に入力することで、圧入機1を動作させてもよい。
【0056】
次に、ステップS6において、チャック25によって把持された杭Pの位置を確認する。具体的には、計測管理装置2が杭Pの位置を計測し、目標位置O3と一致しているか否かを判定する。一致している場合、位置決め工程を終了し、
図9に示す圧入工程に進む。一致していない場合、位置決め工程を再度行ってもよい。
【0057】
次に、
図9を用いて、圧入工程について説明する。
まず、ステップS11において天端高さの計測が行われる。具体的には、計測管理装置2がターゲットMTの位置を計測し、その結果に基づいて杭Pの天端高さが演算される。
次に、ステップS12において圧入を開始する。具体的には、シリンダ30の伸縮動作によってチャック25を下降させる。圧入開始後、所定の間隔を空けて、ステップS13における杭の傾き計測工程が行われる。杭の傾きは、計測管理装置2が4つの点(2つの下部測定点ML,2つの上部測定点MU)を計測した結果に基づいて算出される。傾き計測工程の結果、杭Pが管理角度に対して所定量を超えて傾いている場合、杭Pの傾きを補正する傾き補正工程が行われる。なお、工事計画上、杭Pは鉛直方向に対して意図的に傾けた状態で圧入される場合がある。つまり、杭Pを圧入する際の管理角度は、鉛直方向に平行であってもよいし、鉛直方向に対して傾斜してもよい。
【0058】
ステップS13の後、ステップS14において、圧入を継続する。次いで、ステップS15において、天端高さの推測値が設定値に到達したか否かが判定される。天端高さの推測値は、ステップS11における計測結果である天端高さ情報から、杭Pの圧入量(下降量)を差し引くことで得られる。天端高さの推測値が設定値に到達していない場合(S15:NO)、ステップS16において、チャック25が下限に到達したか否かが判定される。チャック25が下限に到達していない場合(S16:NO)、ステップS14に戻る。チャック25が下限に到達している場合(S16:YES)、ステップS17において天端高さを計測し、ステップS18において杭の掴みかえを行う。ステップS15において、天端高さの推定値が設定値に到達した場合(S15:YES)、ステップS19において天端高さの計測を行い、圧入が完了する。
【0059】
次に、マスト20の動作の精度をより向上させる方法について説明する。先述の通り、マスト20は、回転軸22を中心として旋回可能である。また、スライドフレーム12がサドル10に対して移動することで、マスト20は直動することが可能である。
図10に、マスト20を動作させるための信号と、実際のマスト20の動作と、の関係を示す。
図10において、(a)が信号を示し(b)が動作を示す。
図10(b)の縦軸は移動量であり、横軸は時間である。ここでいう「動作」は、旋回であってもよいし、直動であってもよい。
【0060】
図10に示すように、時刻t1においてマスト20を動作させるための信号がOFFからONとなることで、マスト20の動作が開始される。時刻t2において、マスト20を動作させるための信号がONからOFFに切り替わっているが、マスト20が有する慣性などの影響で、時刻t3まで移動量が増加している。つまり、時刻t2からt3までの間の移動量は、本来は予定されていない「オーバーラン量」である。オーバーラン量は、例えばアクチュエータ(油圧、電動等)を駆動させる際に発生する。このオーバーラン量を加味してマスト20を動作させることで、動作の精度を向上させることができる。本実施形態では、杭Pの圧入施工を精度よく行うために、ミリ単位でオーバーラン量を制御する。
【0061】
そこで本実施形態では、
図11に示すフローにより、各種のオーバーラン量を把握する。
具体的には、ステップS21において、マスト20を前進させる。ステップS22において、マスト20に指示した前進量が、目標値に到達したか否かを判定する。到達していない場合はステップS21に戻る。到達した場合は、マスト前後センサ50によって計測された実際のマスト20の前進量と、マスト20に指示した前進量と、の差分を演算する。この差分を、「前進オーバーラン量」として、制御部60が備えるメモリに記憶された値を更新する。
【0062】
以降、マスト20の後退、左旋回、および右旋回の各動作についても、同様にオーバーラン量の更新を行う。すなわち、マスト20を後退させ(ステップS24)、マスト20に指示した後退量が目標値に到達した場合(ステップS25:YES)、マスト前後センサ50によって計測された実際のマスト20の後退量と、マスト20に指示した後退量と、の差分を「後退オーバーラン量」として、制御部60が備えるメモリに記憶された値を更新する。
【0063】
また、マスト20を左旋回させ(ステップS27)、マスト20に指示した左旋回量が目標値に到達した場合(ステップS28:YES)、マスト旋回センサ51によって計測された実際のマスト20の左旋回量と、マスト20に指示した左旋回量と、の差分を「左旋回オーバーラン量」として、制御部60が備えるメモリに記憶された値を更新する。
【0064】
また、マスト20を右旋回させ(ステップS30)、マスト20に指示した右旋回量が目標値に到達した場合(ステップS31:YES)、マスト旋回センサ51によって計測された実際のマスト20の右旋回量と、マスト20に指示した右旋回量と、の差分を「右旋回オーバーラン量」として、制御部60が備えるメモリに記憶された値を更新する。
【0065】
以上のようにして得られた各種のオーバーラン量を、次回のマスト20の動作において指示する移動量から差し引く。これにより、精度よくマスト20を動作させることが可能となる。
【0066】
なお、上記した制御部60および計測管理装置2の機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、制御部60等の機能のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め制御部60等のHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体(非一過性の記憶媒体)がドライブ装置に装着されることで、制御部60および計測管理装置2のHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の圧入施工方法は、圧入機1のチャック25で杭Pを把持する把持工程と、圧入機1から離れて配置された計測管理装置2によって、チャック25が把持した杭Pの、客観座標系における位置を計測する位置計測工程と、計測管理装置2と圧入機1とが通信を行う通信工程と、位置計測工程によって計測された客観座標系における杭Pの第1位置情報(点A,Bの位置情報)と、圧入機1のサドル10の進行方向を基準とする主観座標系におけるチャック25の位置に関する第2位置情報(点A,Bの位置情報)と、を用いて、杭Pを目標位置O3に移動させるための圧入機1の動作に関する指令を生成する指令生成工程と、圧入機1が、指令に基づいて動作し、チャック25が把持した杭Pを目標位置O3に移動させる位置決め工程と、位置決め工程後における杭Pの位置において、杭Pを地盤Gに圧入する圧入工程と、を有し、通信工程では少なくとも第1位置情報の通信を行い、主観座標系の原点は、チャック25を支持するマスト20がサドル10に対して最も後方に位置したときのマスト20の旋回中心軸である。
【0068】
また、本実施形態の圧入施工システムSは、圧入機1と、圧入機1から離れて配置されて圧入機1と通信を行う計測管理装置2と、を備え、圧入機1は、杭Pを把持するチャック25と、既設杭を保持して既設杭から反力を得る複数のクランプ11が取り付けられたサドル10と、サドル10に対して前後移動可能であってチャック25を支持する旋回動作可能なマスト20と、チャック25の位置を検出するセンサ(マスト前後センサ50、マスト旋回センサ51、等)と、チャック25、マスト20、およびサドル10の動作を制御する制御部60と、を有し、計測管理装置2は、チャック25が把持した杭Pの位置を計測することで、客観座標系における杭Pの第1位置情報を取得し、センサは、チャック25の位置を検出することで、サドル10の進行方向を基準とする主観座標系における杭Pの第2位置情報を取得し、制御部60または計測管理装置2は、第1位置情報および第2位置情報を用いて、杭Pを目標位置O3に移動させるための圧入機1の動作に関する指令を生成し、圧入機1は、指令に基づいて動作し、チャック25が把持した杭Pを目標位置O3に移動させ、杭Pを地盤Gに圧入し、圧入機1と計測管理装置2とは、少なくとも第1位置情報の通信を行い、主観座標系の原点は、サドル10に対してマスト20が最も後方に位置したときのマスト20の旋回中心軸である。
【0069】
また、本実施形態のプログラムは、圧入機1および計測管理装置2を備えた圧入施工システムSに含まれるコンピュータに、計測管理装置2によって、チャック25が把持した杭Pの客観座標系における位置を計測する処理と、計測管理装置2と圧入機1とが、少なくとも、客観座標系における杭Pの第1位置情報の通信を行う処理と、第1位置情報と、圧入機1のサドル10の進行方向を基準とし、チャック25を支持するマスト20がサドル10に対して最も後方に位置したときのマスト20の旋回中心軸を原点とする主観座標系におけるチャック25の位置に関する第2位置情報と、を用いて、杭Pを目標位置O3に移動させるための圧入機1の動作に関する指令を生成する処理と、圧入機1を、指令に基づいて動作させ、チャック25が把持した杭Pを目標位置O3に移動させる処理と、移動後の杭Pの位置において、杭Pを地盤Gに圧入する処理と、を実行させる。
【0070】
これらの圧入施工方法、圧入施工システム、およびプログラムによれば、目標とする位置まで杭Pを移動させて圧入することの自動化を実現できる。
【0071】
また、通信工程において、計測管理装置2は、位置計測工程によって計測された第1位置情報を圧入機1に送信し、指令生成工程において、圧入機1の制御部60は、第1位置情報および第2位置情報を用いて指令を生成してもよい。このように、圧入機1が主体となって指令を生成することで、圧入機1と計測管理装置2との間で通信される情報量が低減する。したがって、指令の生成処理を高速化することができる。
【0072】
また、本実施形態の圧入施工方法は、計測管理装置2によって、チャック25が把持した杭Pの管理角度に対する傾きを計測する傾き計測工程と、傾き計測工程によって計測された杭Pの傾き情報を用いて、杭Pの傾きを補正する傾き補正工程と、を有する。これにより、圧入される杭Pの傾きを抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態の圧入施工方法は、計測管理装置2によって、チャック25が把持した杭Pの天端高さを計測する天端高さ計測工程を有し、圧入工程において、天端高さ計測工程によって計測された天端高さ情報を用いて、杭Pを地盤の所定の深さまで圧入する。
【0074】
また、位置計測工程において、計測管理装置2は、杭Pの下部の2点MLの位置を測定し、傾き計測工程において、計測管理装置2は、杭Pの下部の2点MLおよび上部の2点MUの位置を測定し、天端高さ計測工程において、計測管理装置2は、杭Pの上方に取り付けられたターゲットMTの位置を測定する。このように、計測の目的に応じて測定箇所の数を変更することで、計測に要する時間を短縮することが可能となる。
【0075】
また、本実施形態の圧入施工方法は、チャック25を支持するマスト20の、旋回動作における旋回オーバーラン量(右旋回オーバーラン量および左旋回オーバーラン量のうち少なくとも一方)および直動動作における直動オーバーラン量(前進オーバーラン量および後退オーバーラン量のうち少なくとも一方)を取得する、オーバーラン量取得工程をさらに有し、位置決め工程では、第1位置情報および第2位置情報に基づいて算出されるマスト20の旋回量から旋回オーバーラン量を差し引いた結果と、第1位置情報および第2位置情報に基づいて算出されるマストの直動移動量から直動オーバーラン量を差し引いた結果と、を用いて、マスト20の旋回動作および直動動作を行う。このように、各種のオーバーラン量を考慮してマスト20を動作させることで、より精度よく杭Pの位置を決めることができる。
【0076】
また、圧入機1は、チャック25を支持して旋回動作が可能なマスト20と、マスト20に対して前後移動可能なサドル10と、サドル10に移動可能に取り付けられ、既設杭を内側から保持する複数のクランプ11と、有し、複数のクランプ11には、最も前方にある第1クランプ11Aと、第1クランプ11Aに隣接する第2クランプ11Bと、第2クランプ11Bに隣接する第3クランプ11Cと、が含まれ、圧入工程において杭Pが地盤Gに所定量圧入された後、杭Pに隣接する第1既設杭P1を圧入機1が圧入した際に記憶した第1既設杭P1の位置情報に基づいて第1クランプ11Aを第1既設杭P1に向けて移動させ、第1クランプ11Aが第1既設杭P1に隣接する第2既設杭P2を保持した際に記憶した第1クランプ11Aの位置情報に基づいて第2クランプ11Bを第2既設杭P2に向けて移動させ、第2クランプ11Bが第2既設杭P2に隣接する第3既設杭P3を保持した際に記憶した第2クランプ11Bの位置情報に基づいて第3クランプ11Cを第3既設杭P3に向けて移動させる。このような制御により、圧入機1の自走を実現することができる。なお、ここでいう「所定量」とは、圧入機1を自走させるため、すなわち圧入機1の自重などを支持可能とするために、杭Pが地盤Gから充分な支持反力を得られる圧入量である。
【0077】
なお、本開示の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0078】
例えば、前記実施形態の計測管理装置2は、独立した計測部3および管理部4を備えており、計測部3と管理部4とが通信を行った。しかしながら、計測部3と管理部4とが一体化されて一つの装置となっていてもよい。
【0079】
また、前記実施形態の圧入施工システムSでは、杭Pの位置決めおよび圧入機1の移動(自走)が自動化されていた。しかしながら、圧入機1を自走させず、杭Pの位置決めのみを自動化してもよい。
【0080】
前記実施形態では、計測管理装置2が、客観座標系における杭Pの第1位置情報を圧入機1に送信し、圧入機1の制御部60が、計測管理装置2から受信した第1位置情報と、センサ(マスト前後センサ50、マスト旋回センサ51、等)が取得した主観座標系における杭Pの第2位置情報とを用いて、杭Pを目標位置O3に移動させるための圧入機1の動作に関する指令を生成している。
一方、計測管理装置2が、杭Pを目標位置O3に移動させるための圧入機1の動作に関する指令を生成する場合は、例えば以下のようにして指令を生成してもよい。
まず、計測管理装置2が、客観座標系における杭Pの第1位置情報を圧入機1に送信する。この第1位置情報の送信により、圧入機1の制御部60は、杭Pの移動目標である目標位置O3を認識し、その後、制御部60は、センサが取得した主観座標系における杭Pの第2位置情報を計測管理装置2に送信する。計測管理装置2は、第1位置情報と、圧入機1から受信した第2位置情報とを用いて、杭Pを目標位置O3に移動させるための圧入機1の動作に関する指令を生成する。計測管理装置2は、生成した指令を圧入機1の制御部60に送信し、圧入機1は、受信した指令に基づいて、杭Pを目標位置O3に移動させる。
この場合、計測管理装置2が、杭Pを目標位置O3に移動させるための圧入機1の動作に関する指令を生成するので、例えば指令演算の量が多い場合、圧入機1の制御部60の演算に掛かる負担を軽減することができる。また、制御部60による圧入機1の動作に対する制御と、計測管理装置2における指令の演算とを並行して行うことができ、杭の圧入作業を効率よく進めることができる。
【0081】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…圧入機 2…計測管理装置 10…サドル 11…クランプ 11A…第1クランプ 11B…第2クランプ 11C…第3クランプ 20…マスト 25…チャック 50~53,54A~54C,55A~55C…センサ 60…制御部 G…地盤 O3…目標位置 P…杭 P1…第1既設杭 P2…第2既設杭 P3…第3既設杭 S…圧入施工システム
【要約】
圧入施工方法は、把持工程と、圧入機から離れて配置された計測管理装置によって、杭の客観座標系における位置を計測する位置計測工程と、前記位置計測工程によって計測された前記客観座標系における前記杭の第1位置情報と、前記圧入機のサドルの進行方向を基準とする主観座標系における前記チャックの位置に関する第2位置情報と、を用いて、前記杭を目標位置に移動させるための前記圧入機の動作に関する指令を生成する指令生成工程と、前記杭を前記目標位置に移動させる位置決め工程と、前記杭を地盤に圧入する圧入工程と、を有する。