(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240906BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C12M1/00 A
B41J2/14 301
B41J2/14 607
B41J2/14 605
B41J2/14 501
(21)【出願番号】P 2020089000
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】槇本 敦
(72)【発明者】
【氏名】深田 和岐
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-524568(JP,A)
【文献】特開2019-158700(JP,A)
【文献】特開2019-154339(JP,A)
【文献】特開2018-187590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体および微粒子が流れる第1流路部と、
前記第1流路部における上流端と下流端との間に接続され、前記流体が供給されるとともに、前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる第2流路部と、
前記第2流路部が前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させた場合に、前記第1流路部を流れる前記流体および前記微粒子を外部に吐出するノズルと、を備え、
前記第2流路部は、前記微粒子を含まない前記流体で満たされ、前記第2流路部の上端部には前記微粒子を含まない前記流体を供給する第2の配管が接続され、前記微粒子を含まない前記流体の圧力を変動させることにより前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる、インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第2流路部に供給された前記流体の圧力を変動させる変圧部をさらに備えている請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズルは、前記第1流路部における前記第2流路部が接続された部位と対向する位置に形成されている、請求項1また
は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第2流路部の下端部は、前記第1流路部から前記第2流路部に前記流体が流入することを抑制する流路抵抗部を有している、請求項1から3の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記流路抵抗部は、前記第1流路部に向かうにしたがって、流路断面積が小さくなるように形成されている、請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記ノズルの流路断面積は、前記第1流路部における前記流路抵抗部の開口面積より大きく設定されている、請求項4または5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記第2流路部は、前記第1流路部を流れる前記微粒子の位置に基づいて、前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる、請求項1から6の何れか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記第2流路部は、前記第1流路部を流れる前記微粒子の位置に基づいて、前記第1流路部を流れる前記微粒子を前記ノズルから吐出するように、前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる、請求項7に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記第2流路部は、前記第1流路部を流れる前記微粒子の位置に基づいて、前記微粒子を前記第2流路部に吸引した後、前記第2流路部に吸引した前記微粒子を前記ノズルから吐出するように前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる、請求項7に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記第1流路部の両端は第1の配管により接続され、前記流体および前記微粒子は、前記第1の配管及び前記第1流路部を循環する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記第1流路部及び前記第2流路部は、本体部に形成され、
前記本体部は前記第1流路部内の前記微粒子を認識可能な透明度を有する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記流体が前記第1流路部から前記第2流路部に向かって流れる第1方向における前記第2流路部の下端部における流路抵抗R
4-
と、前記流体が流れる前記第1流路部における前記第1方向と直交する第2方向の流路抵抗R
2
とが、R
2
<R
4-
を満たす、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
流体および微粒子が流れる第1流路部と、
前記第1流路部における上流端と下流端との間に接続され、前記流体が供給されるとともに、前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる第2流路部と、
前記第2流路部が前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させた場合に、前記第1流路部を流れる前記流体および前記微粒子を外部に吐出するノズルと、を備え、
前記第1流路部の両端は第1の配管により接続され、前記流体および前記微粒子は、前記第1の配管及び前記第1流路部を循環する、インクジェットヘッド。
【請求項14】
流体および微粒子が流れる第1流路部と、
前記第1流路部における上流端と下流端との間に接続され、前記流体が供給されるとともに、前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる第2流路部と、
前記第2流路部が前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させた場合に、前記第1流路部を流れる前記流体および前記微粒子を外部に吐出するノズルと、
を備え、
前記第2流路部は、前記第1流路部を流れる前記微粒子の位置に基づいて、前記微粒子を前記第2流路部に吸引した後、前記第2流路部に吸引した前記微粒子を前記ノズルから吐出するように前記第1流路部を流れる前記流体の圧力を変動させる、インクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の発展と共に、人工的に人体の臓器を生成する技術が注目されている。その中の一つにバイオ3Dプリンタが挙げられ、インクジェット技術が注目されている。バイオ3Dプリンタにおいてインクジェットヘッド内のインクを吐出する方式に、電圧を加えると変形するピエゾ素子等を用いる圧電加圧方式を用いる場合、加圧室に圧力を加えることでインクを吐出する。そのため、加圧室内に気泡が残存する場合、インクが吐出されないことが知られている。さらに、微粒子を含むインクを塗布する場合、流路内やノズルに微粒子が沈殿、堆積してしまうことも考えられる。これらの場合も、インクが吐出されない場合があることが知られている。
【0003】
これに対して、特許文献1には、液室底部にノズル穴の形成された膜状部材をもち、圧電素子により膜状部材を振動させることでノズル近傍の細胞溶液を安定吐出することができる液滴形成装置が開示されている。この装置では、液室を大気開放し、気泡の排出を可能とし、また、液室底部の膜状部材が振動することにより微粒子が沈殿・堆積することを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の液滴形成装置は吐出動作の際に膜状部材の振動により微粒子が液室底部に形成されたノズル近傍から遠ざかるため、微粒子の含まれないインクを吐出してしまうことが考えられる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するもので、微粒子を含むインクを安定して吐出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明におけるインクジェットヘッドは、流体および微粒子が流れる第1流路部と、第1流路部における上流端と下流端との間に接続され、流体が供給されるとともに、第1流路部を流れる流体の圧力を変動させる第2流路部と、第2流路部が第1流路部を流れる流体の圧力を変動させた場合に、第1流路部を流れる流体および微粒子を外部に吐出するノズルと、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインクジェットヘッドによれば、微粒子を含むインクを安定して吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態に関わるインクジェットヘッドの断面図である。
【
図2】
図1におけるノズル近傍の部分拡大図であり、流路抵抗を説明するための図である。
【
図3】
図1におけるノズル近傍の部分拡大図であり、加圧ユニットの駆動によって吐出される流体が通る第1流路部の第1の領域を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態の変形例1に関わるインクジェットヘッドの断面であり、認識装置が微粒子を検出可能な第2の領域を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態の変形例2に関わる第1の駆動電圧波形を示す図である。
【
図6A】
図5に示す第1の駆動電圧波形にて加圧ユニットが駆動した場合におけるインクジェットヘッドの動作を示す図である。
【
図6B】
図5に示す第1の駆動電圧波形にて加圧ユニットが駆動した場合におけるインクジェットヘッドの動作を示す図である。
【
図6C】
図5に示す第1の駆動電圧波形にて加圧ユニットが駆動した場合におけるインクジェットヘッドの動作を示す図である。
【
図7】第1の実施の形態の変形例2に関わる第2の駆動電圧波形を示す図である。
【
図8】
図7に示す第2の駆動電圧波形の第2駆動電圧にて加圧ユニットが駆動した場合におけるインクジェットヘッドの動作を示す図である。
【
図9】
図7に示す第2の駆動電圧波形の第1駆動電圧にて加圧ユニットが駆動した場合におけるインクジェットヘッドの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では、
図1における上側および下側をそれぞれインクジェットヘッド100の上方および下方とし、同じく左側および右側をそれぞれインクジェットヘッド100の左方および右方として説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
<インクジェットヘッド100の構造>
図1は第1の実施の形態に関わるインクジェットヘッド100の断面図である。インクジェットヘッド100は、第1の実施の形態においてバイオ3Dプリンタ(不図示)に用いられ、流体Lおよび微粒子Pを吐出するものである。
【0012】
流体Lおよび微粒子Pの種類は特に限定されず、バイオ3Dプリンタが製造する製造物に応じて適宜選択される。例えば、製造物が生体構造物である場合、流体Lは、浸透圧やphを調整するための緩衝液、培養液や血清である。また、この場合、微粒子Pは生体由来の細胞である。
【0013】
図1においてインクジェットヘッド100は、本体部101、第1流路部102、第2流路部103、ノズル104、および、加圧ユニット105を備えている。加圧ユニット105は、「変圧部」の一例である。
【0014】
本体部101は、直方体状に形成されている。本体部101には、第1流路部102および第2流路部103が形成されている。
【0015】
第1流路部102は、本体部101に断面U状に形成されている。第1流路部102は、微粒子Pを含む流体Lで満たされている。また、第1流路部102は、両端を連結する第1の配管(不図示)に接続され、微粒子Pを含む流体Lが流れ方向f1、f2、f3の方向に循環する。流れ方向f1は、上方から下方に向かう方向である。流れ方向f2は、左方から右方に向かう方向である。流れ方向f3は、下方から上方に向かう方向である。なお、第1の配管の少なくとも一部は、第1流路部102より上方に配置されている。
【0016】
このように、第1流路部102にて流れ方向f1、f2、f3に常に流体Lを循環させることで第1流路部102内の気泡を排出することが可能である。第1流路部102内の気泡は、具体的には、流体Lの流れによって第1流路部102の右端から排出され、浮力と流体の流れによって第1流路部102の上方に位置する第1の配管を経由し、配管の先につながるタンクやシリンジ等(不図示)の液面から装置外へ排出される。なお、第1流路部102内の気泡は、例えば、第1流路部102が空の状態から流体Lを供給するときに、第1流路部102内の空気が排出しきれなかった場合に発生する。また、第1流路部102内の気泡は、第1流路部102に供給される流体Lにはじめから混入している場合や、第1流路部102内の圧力バランスが崩れたために発生する負圧によって、空気がノズル104から第1流路部102に流入する場合にも発生する。
【0017】
第2流路部103は、本体部101に上下方向に沿って延びるように形成されている。第2流路部103の下端部は、第1流路部102における上流端と下流端との間に接続されている。第2流路部103の下端部は、第1流路部102における左右方向に延びる部位に接続されている。
【0018】
第2流路部103は、微粒子Pを含まない流体Lで満たされている。第2流路部103の上端部には、流体Lを供給する第2の配管(不図示)が接続されている。なお、第2の配管の少なくとも一部は、第2流路部103より上方に配置されている。これにより、第2流路部103内の気泡は、浮力によって上昇して、第2の配管から外部へ排出可能となる。
【0019】
第2流路部103の下端部には、流路抵抗部103aが形成されている。流路抵抗部103aは、流体Lの流れる方向によって異なる流路抵抗を有する。流路抵抗部103aにおいて、
図2に示すように、流体Lが第2流路部103から第1流路部102に向かって流れる方向を流れ方向f
4の正方向とし、流れ方向f
4の正方向における流路抵抗部103aの流路抵抗をR
4+とする。
【0020】
一方、流路抵抗部103aにおいて、流体Lが第1流路部102から第2流路部103へ向かって流れる方向を流れ方向f4の負方向とし、流れ方向f4の負方向における流路抵抗部103aの流路抵抗をR4-とする。流路抵抗部103aは、R4+<R4-となるように形成されている。
【0021】
さらに、第1流路部102において、流れ方向f4と直交する流れ方向f2の流路抵抗をR2とした場合、流路抵抗部103aは、R2<R4-となるように形成されている。これにより、第1流路部102を流れる流体Lおよび微粒子Pは、第2流路部103へ流入することが抑制される。
【0022】
流路抵抗部103aは、第2流路部103の上側から流れ方向f4の正方向に向かうにしたがって、流路断面積が小さくなるように形成されている。流路抵抗部103aの流路断面積は、具体的には、流路抵抗部103aにおいて流れ方向f4と直交する平面によって切断された流体Lが流れる部位の面積である。流路抵抗部103aは、内周面が円錐状や角錐状となるように形成されている。なお、流路抵抗部103aは、流れ方向f4の正方向への流体Lの流れが生じたときにのみ開く弁でもよい。
【0023】
ノズル104は、第1流路部102を流れる流体Lおよび微粒子Pを外部に吐出するものである。ノズル104は、第1流路部102の上流端と下流端との間の位置、具体的には、第1流路部102と第2流路部103との接続部の近傍に設けられた開口である。ノズル104は、直径を一定とする断面円状に形成されている。なお、ノズル104は、下方に向かうにしたがって直径が小さく、もしくは大きくなるテーパ形状や、断面矩形状に形成されてもよい。
【0024】
ノズル104は、より具体的には、流路抵抗部103aの中心軸とノズル104の中心軸とが平行となるように、かつ、両中心軸のずれがノズル104の直径の半分未満になるように、第2流路部103の下端部に対向する位置に設けられている。
【0025】
さらに、ノズル104の流路断面積をS1とし、第1流路部102における流路抵抗部103aの開口面積をS2とした場合、S1<S2となるように、ノズル104および流路抵抗部103aが形成されている。ノズル104の流路断面積であるS1は、具体的には、流体Lを吐出する方向と直交する平面によって切断された流体Lが流れる部位の面積である。さらに、ノズル104において流体Lを吐出する方向に直交する方向の長さ(すなわちノズル104の直径)は、微粒子Pの直径の2倍以上であることが望ましい。
【0026】
また、ノズル104における流体Lを吐出する方向の流路抵抗をR5とした場合、R5は、第1流路部102における流れ方向f2の流路抵抗をR2より大きくなるように形成されている(すなわちR5>R2)。これにより、第1流路部102を循環する流体Lがノズル104から吐出されることが抑制される。
【0027】
加圧ユニット105は、第2流路部103に供給された流体Lの圧力を変動させるものである。加圧ユニット105は、圧電素子を含んで構成されたアクチュエータである。加圧ユニット105は、電気信号が加えられることにより変形する。第2流路部103内の流体Lを加圧するように加圧ユニット105が変形することによって、第2流路部103内の流体Lの圧力が、第1流路部102を流れる流体Lの圧力より高くなる。これにより、第2流路部103内の流体Lが、流れ方向f4の正方向に流れて、第1流路部102に流出する。
【0028】
さらに、このとき、第1流路部102におけるノズル104の近傍の流体Lの圧力が高くなるため、第1流路部102におけるノズル104の近傍を流れる流体Lおよび微粒子Pがノズル104から吐出する。具体的には、第1流路部102における第2流路部103とノズル104との間の第1の領域R1(
図3)内にある微粒子Pを含む流体Lが、ノズル104から吐出される。第1の領域R1の大きさは、ノズル104の直径、第1流路部102の流れ方向f
2に直交する方向の長さ、加圧ユニット105の変形量や振動数などのパラメータ、流路抵抗部103aの形状や各流路抵抗であるR
2,R
4+,R
4-,R
5を変更することによって、調整することができる。
【0029】
なお、本体部101の材質としては特に限定はないが、加圧ユニット105によって生じた圧力の減衰が生じにくい材質が望ましい。また、微粒子Pを含む流体Lを循環させるため、微粒子Pが付着しにくい材質が望ましい。本体部101の材質には、例えば、金属材料やセラミック材料、ある程度硬さのある高分子材料を用いることができる。金属材料は、具体的には、ステンレス鋼、ニッケルおよびアルミニウム等である。セラミック材料は、具体的には、アルミナ、ジルコニアおよび二酸化ケイ素等である。
【0030】
また、本体部101の材質としては、微粒子Pとして細胞を扱う際には、細胞が付着しにくいことが望ましい。細胞膜を模したポリマーで本体部101をコーティングすることで、細胞を付着しにくくすることもできる。コーティング材は、例えば、細胞膜を模した合成リン脂質ポリマーである。
【0031】
また、加圧ユニット105を、第2流路部103の上端部以外に配置してもよい。例えば、第2流路部103に接続された第2の配管(不図示)に加圧ユニット105を配置してもよい。
【0032】
この場合、加圧ユニット105が変形することにより、第2の配管が変形し、第2の配管内の流体Lの圧力が変動する。さらに、加圧ユニット105によって発生した流体Lの圧力変動が第2の配管を経由して第2流路部103内に伝播し、第2流路部103内の流体Lの圧力が変動する。
【0033】
また、この場合における加圧ユニット105を構成する圧電素子としては、薄膜圧電素子または積層圧電素子を用いても良い。薄膜圧電素子は、積層圧電素子に比べて、低出力だが、入力に対する出力応答が速い。積層圧電素子は、例えば、ピエゾプレート上にチタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)のシートと導電膜とが複数積層されることによって構成される。
【0034】
なお、加圧ユニット105は、圧電素子を含んで構成されているが、圧電素子に代えて、昇温素子にしてもよい。昇温素子は、第2流路部103内の流体Lを局所的に加熱する。これにより、第2流路部103内の流体Lが沸騰して気泡が一時的に発生するため、第2流路部103内の流体Lの圧力が高くなり、上述したようにノズル104から流体Lおよび微粒子Pが吐出する。
【0035】
なお、この場合、本体部101に熱伝導性の低い材質を用いることにより、昇温素子から第1流路部102への熱の伝達を抑制する。また、第2流路部103は微粒子Pを含まない流体Lで満たされているため、微粒子Pが熱に比較的弱い場合でも、加圧ユニット105に昇温素子を採用することができる。
【0036】
<インクジェットヘッドの液滴形成過程>
次に、実施の形態1のインクジェットヘッド100の動作について説明する。
【0037】
はじめに、流体Lが第2の配管から第2流路部103に供給される。第2流路部103が流体Lで満たされると、第2流路部103への流体Lの供給が停止される。次に、微粒子Pを含む流体Lが、第1の配管から第1流路部102に供給され、第1流路部102を循環する。このとき、上述したように、第1流路部102から第2流路部103へ流体Lが流入すること、および、ノズル104から外部へ流体Lが吐出することが抑制されている。
【0038】
次に、加圧ユニット105に電気信号が加えられる。これにより、上述したように第2流路部103内の流体Lが加圧され、第1流路部102へ流出する。さらに、第1流路部102の第1の領域R1を流れる微粒子Pを含む流体Lがノズル104より外部に吐出される。外部に吐出された流体Lは、液滴化する。
【0039】
上述したように、第1流路部102における流体Lの循環によって、流体L内の気泡が排出されるため、気泡が原因となってノズル104から流体Lが吐出されないことが抑制される。また、この流体Lの循環によって、微粒子Pの沈殿や堆積によるノズル104の詰まりを抑制することができる。
【0040】
さらに、微粒子Pである細胞と親和性の高い流体Lが使用されている場合には、流体Lは、一般的なインクジェットヘッド100で用いられるインクに比べて沸点が低い。よって、ノズル104に生じるメニスカスが乾燥して、ノズル104を塞いでしまい、ノズル104から流体Lが吐出されないことが考えられる。これに対して、流体Lの流れがノズル104の近傍に生じるため、メニスカスの乾燥ひいてはノズル104から流体Lが吐出されないことが抑制される。
【0041】
(第1の実施の形態の変形例1)
次に、
図4を参照しながら第1の実施の形態の変形例1を説明する。第1の実施の形態の変形例1において
図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0042】
第1の実施の形態の変形例1では、インクジェットヘッド100を備える3Dプリンタが、認識装置200および吐出制御装置300を備えている。なお、インクジェットヘッド100が、認識装置200および吐出制御装置300の少なくとも一方を備えてもよい。
【0043】
認識装置200は、第1流路部102を流れる微粒子Pを検出するものである。認識装置200は、具体的には、第1流路部102を流れる微粒子Pの位置、微粒子Pの種類や大きさ、真円度や速度などを検出する。認識装置200は、例えば高速度カメラである。
【0044】
図4において、二点鎖線にて囲まれた第2の領域R2は認識装置200の視野を示している。認識装置200の視野の大きさは限定しないが、第1の領域R1より大きくすることが望ましい。認識装置200の検出結果は、吐出制御装置300に出力される。
【0045】
吐出制御装置300は、認識装置200の検出結果に基づいて、加圧ユニット105を制御するものである。吐出制御装置300は、特定の微粒子Pをノズル104から吐出するように加圧ユニット105を制御する。例えば特定の大きさの微粒子Pが第1の領域R1(
図3)内に位置するタイミングで、第1の領域R1内の流体Lがノズル104から吐出されるように、吐出制御装置300は、加圧ユニット105に電気信号を加える。これにより、特定の大きさの微粒子Pを含む流体Lがノズル104から吐出される。
【0046】
したがって、特定の大きさ以外の微粒子P、例えば凝集した微粒子Pや、想定を超える大きさの微粒子Pを吐出しようとすることによるノズル104の詰まりを防止することができる。さらに、特定の微粒子Pを吐出することができるため、吐出する微粒子Pの質を安定させることができる。
【0047】
なお、認識装置200には、上述したように高速度カメラが用いられているが、これに代えて、一般的なインクジェットヘッド100に用いられている吐出観察装置(不図示)を用いてもよい。吐出観察装置は、ノズル104から吐出された流体Lの大きさ、速度や角度などを検出するものである。この場合、本体部101に透明度が高い材料を用いることで、吐出された流体Lと第1流路部102内の微粒子Pを同時に認識することが可能である。
【0048】
さらに、認識装置200に吐出観察装置を用いる場合、第1流路部102を循環する流体Lの流量Qは第1流路部102内の微粒子Pの流速Vと第1流路部102の流路断面積Sを用いてQ=S×Vの関係より算出できる。よって、流体Lが循環する流量の安定性および吐出される流体Lの安定性を同時に常時監視することができるため、製造物の品質の安定化を図ることができる。
【0049】
なお、認識装置200は高速度カメラに限られず、第1流路部102内にフォトセンサ(不図示)を複数配置して、微粒子Pの速度を検出しても良い。フォトセンサは、例えば、透過型のフォトセンサである。フォトセンサを用いる場合、微粒子Pを検出する処理時間を短縮することができるため、微粒子Pを含む流体Lを比較的短時間で連続的に吐出することが可能となる。
【0050】
(第1の実施の形態の変形例2)
次に、
図5~
図9を参照しながら第1の実施の形態の変形例2を説明する。第1の実施の形態の変形例2において
図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。また、第1の実施の形態の変形例2においても、認識装置200および吐出制御装置300が構成されている。
【0051】
図5および
図7は、吐出制御装置300が加圧ユニット105に加える電気信号の波形である駆動電圧波形を示している。
図5に示す第1の駆動電圧波形においては、時刻t1から時刻t2の間、駆動電圧は、基準電圧から第1駆動電圧に上昇する。第1駆動電圧が加えられた加圧ユニット105は、第2流路部103内の流体Lを加圧するように作動する。
図5に示される駆動電圧波形が加圧ユニット105に印可された場合におけるインクジェットヘッド100の動作について
図6A~
図6Cを用いて説明する。
【0052】
第1流路部102に微粒子Pおよび流体Lが循環しているため、
図6Aに示すように、ノズル104の近傍においては、微粒子Pがノズル104の左方から右方に向けて移動する。続けて、微粒子Pが第1の領域R1に入るタイミングで第1の領域R1内の流体Lに圧力変動が生じるように、加圧ユニット105に第1駆動電圧が印加される(時刻t1~時刻t2)。これにより、
図6Bに示すように、微粒子Pがノズル104から流体Lとともに吐出される。さらに、
図6Cに示すように、ノズル104から吐出された微粒子Pを含む流体Lが液滴化する。
【0053】
図7に示す駆動電圧波形において、時刻t3から時刻t4の間、駆動電圧は、基準電圧から第2駆動電圧に降下する。第2駆動電圧が加えられた加圧ユニット105は、第2流路部103内を負圧にするように作動する。続けて、時刻t4から時刻t5の間、駆動電圧は、基準電圧を維持する。さらに、時刻t5から時刻t6の間、駆動電圧は、基準電圧から第1駆動電圧に上昇する。
図7に示される駆動電圧波形が加圧ユニット105に印可された場合におけるインクジェットヘッド100の動作について
図8および
図9を用いて説明する。
【0054】
微粒子Pが第1の領域R1に入るタイミングで第1の領域R1内の流体Lに圧力変動が生じるように、加圧ユニット105に第2駆動電圧が印加される(時刻t3~時刻t4)。これにより、第2流路部103内が負圧になるため、第1流路部102から第2流路部103への流体Lの流れが生じ、
図8に示すように、微粒子Pが第2流路部103に吸引される。
【0055】
駆動電圧が基準電圧に戻った場合、加圧ユニット105が作動しないため、第2流路部103の流体Lは圧力変動しない。よって、吸引された微粒子Pは、第2流路部103内に保持される(時刻t4~時刻t5)。その後、加圧ユニット105に第1駆動電圧が印加される(時刻t5~時刻t6)。これにより、
図9に示すように、第2流路部103にある微粒子Pがノズル104から流体Lとともに吐出される。
【0056】
このように、微粒子Pを第2流路部103に吸引した後にノズル104から吐出するため、第1流路部102を流れる微粒子Pが第1の領域R1内に位置するタイミングによらずに、微粒子Pをノズル104から吐出することができる。このことは、製造物が生体構造物の際に、希少な細胞を適切な位置へパタニングしなければならない際に、製造時間の短縮を可能とし、細胞へのダメージを抑制することができる。
【0057】
以上、好ましい形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0058】
例えば、認識装置200の検出結果と、本発明のインクジェットヘッド100を搭載した装置のステージ等のワークの搬送記録とを合わせることで、製造物のどこにどのような微粒子Pを吐出したかを記憶することも可能である。これにより、製造物のトレーサビリティを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、インクジェットヘッドに広く利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
100 インクジェットヘッド
101 本体部
102 第1流路部
103 第2流路部
103a 流路抵抗部
104 ノズル
105 加圧ユニット(変圧部)
200 認識装置
300 吐出制御装置
L 流体
P 微粒子