(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/067 20060101AFI20240906BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240906BHJP
G02B 6/34 20060101ALI20240906BHJP
G02B 6/32 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B23K26/067
G02B5/18
G02B6/34
G02B6/32
(21)【出願番号】P 2020194203
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 出
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533484(JP,A)
【文献】特開2019-193944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長のレーザ光が重畳された重畳レーザ光を出射するレーザ発振器と、
回折現象を利用して、前記重畳レーザ光を波長毎の複数のレーザ光に分散させ且つ偏向させる
回折格子からなる第1光学素子と、
回折現象を利用して、前記第1光学素子によって分散された前記複数のレーザ光の各々を、前記第1光学素子による偏向方向とは逆の方向に偏向させる
音響光学素子からなる第2光学素子と、
前記第2光学素子を通過した前記複数のレーザ光の回折光を集光するレンズと、
前記レンズにて集光した前記複数のレーザ光を導光するファイバと、
を有し、
前記第2光学素子における前記複数のレーザ光の各々の偏向角度が、前記第1光学素子における前記複数のレーザ光の各々の偏向角度と略等しくなるように設定され、
前記第2光学素子は、所望の波長以外の波長のレーザ光については、偏向角度が、前記第1光学素子における偏向角度と等しい値とならないように設定され、
前記第2光学素子を通過した前記複数のレーザ光の回折光を、
前記ファイバで所望の位置に導光してレーザ加工を行う、
レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイパワー出力を可能とするため、WBC(Wavelength Beam Combining)型DDL発振器のように、複数の波長のレーザ光を重畳させた重畳レーザ光を用いたレーザ加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8に、従来技術に係るレーザ加工装置の構成の一例として、本願の出願人の先願である特許文献1に記載されたレーザ加工装置の構成を示す。
【0004】
図8において、101は、複数の波長のレーザ光を重畳させた重畳レーザ光103を出射する光源部(例えば、WBC型のレーザ発振器)であり、121は、光源部から出射された重畳レーザ光103の遮断状態と通過状態とを制御するシャッタユニットとして機能する音響光学素子(以下、AOMとも称する)である。このレーザ加工装置では、AOM121をシャッタユニットとして利用することで、パルスレーザを生成したり、所望の領域を選択的に加工可能にしている。そして、このレーザ加工装置では、AOM121における回折現象を利用することで、重畳レーザ光103を0次光123と回折光124とに分離し、0次光123を選択的に取り出して加工に利用することで、重畳レーザ光103を、レンズなどで集光した際におけるスポットずれを抑制し、良好な加工を行うことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に、0次光は、AOM等の光学素子を動作させて回折させても10%ほどの光は回折できずに元の光路のまま漏れ出て来るため、0次光を用いたレーザ加工では、意図しない部分が加工されてしまうという問題がある。そのため、0次光の出射のオンオフを確実に制御するためには、特許文献1に記載のレーザ加工装置のように、AOMのシャッタ制御とレーザ発振器の出力制御との高度な協調制御を行う必要性が生じ、低コスト化や装置構成の簡易化の要請に反するおそれがある。
【0007】
又、重畳レーザ光を、回折現象を利用した光学素子(例えば、回折格子やAOM)に入射した際に、当該光学素子から出射される0次光は、波長選択がなされることなく取り出される光である。そのため、特許文献1に記載のレーザ加工装置では、本来意図しない波長の光(例えば、位相が不揃いな状態で出射される光)等も加工対象物に照射されてしまい、これが原因となって加工精度の悪化を招くおそれがある。
【0008】
本願の発明者らは、かかる観点から、重畳レーザ光を光学素子(例えば、回折格子やAOM)に入射した際に、当該光学素子から出射される回折光にてレーザ加工を実施するレーザ加工装置を検討した。しかしながら、WBC型DDL発振器のように、重畳レーザ光を用いたレーザ加工装置においては、光学素子(例えば、回折格子やAOM)から出射される回折光は、波長毎に異なる回折角で出射されたものであるため、レーザ光が広がってしまい、集光してもスポット形状が楕円になるといった問題が発生する。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、高精度なレーザ加工を実現可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
複数の波長のレーザ光が重畳された重畳レーザ光を出射するレーザ発振器と、
回折現象を利用して、前記重畳レーザ光を波長毎の複数のレーザ光に分散させ且つ偏向させる第1光学素子と、
回折現象を利用して、前記第1光学素子によって分散された前記複数のレーザ光の各々を、前記第1光学素子による偏向方向とは逆の方向に偏向させる第2光学素子と、を有し、
前記第2光学素子における前記複数のレーザ光の各々の偏向角度が、前記第1光学素子における前記複数のレーザ光の各々の偏向角度と略等しくなるように設定され、
前記第2光学素子を通過した前記複数のレーザ光の回折光を用いてレーザ加工を行う、
レーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るレーザ加工装置によれば、高精度なレーザ加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置の模式図
【
図2】本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置の模式図
【
図3】レーザ加工装置における集光方法を示す図(a)0次光の場合、(b)回折光の場合
【
図4】レーザ加工装置の集光スポットを示す図(a)0次光の場合、(b)回折光の場合
【
図6】本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置におけるファイバ入射の模式図
【
図7】レーザ加工装置におけるファイバ径と集光スポット径を示す図(a)0次光の場合、(b)回折光の場合
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置の模式図である。
【0015】
本実施形態において、レーザ加工装置は、波長ビームコンバイナ型のレーザ発振器(例えば、WBC型のレーザ発振器)である光源部1を有する。光源部1から出射される重畳レーザ光2は、少なくとも2つ以上の複数の波長(λ1,λ2、λ3・・・λi)が重畳されたレーザ光である。
【0016】
レーザ加工装置は、回折現象を利用して重畳レーザ光2を分散及び偏向させる第1光学素子である回折格子3を有する。回折格子3は、重畳レーザ光2を入射させることで波長に応じた偏向角に差異が生じ、分散が起こって重畳された重畳レーザ光2から、波長毎に分離された複数のレーザ光(以下、各波長のレーザ光を「ビーム」とも称する)が発生する。第1光学素子としては、回折格子に代えて、プリズムを用いることができる。又、第1光学素子として、AOMを用いてもよい。
【0017】
レーザ加工装置は、回折格子3によって分散及び偏向された複数のビームの各々を、回折現象を利用して分散及び偏向させる第2光学素子を有する。本実施形態では、第2光学素子としてAOM4を用いる。AOM4は、レーザ光の分散量及び偏向量を制御可能な光学素子である。尚、AOM4におけるレーザ光の分散量及び偏向量は、図示しないAOMドライバからの制御信号に基づいて、設定される。
【0018】
なお、本実施形態では、第2光学素子としてAOM4を用いているがこれに限られず、レーザ光を分散及び偏向させることができる他の光学素子(例えば、回折格子、プリズム)が用いられてもよい。
【0019】
なお、ここで、レーザ光を偏向させるとは、レーザ光の進行方向を変化させることを意味する。また、レーザ光を分散させるとは、波長によって異なる角度で偏向させることを意味する。
【0020】
AOM4は、分散された複数のビームの各々が、回折格子3による偏向方向とは逆方向に分散及び偏向するように配置され、分散された複数のビームの各々を回折する。このとき重畳レーザ光2に含まれる分散された複数のビームの各波長の光に対する偏向角度(即ち、回折角)が、回折格子3とAOM4においてほぼ等しい値になるようにそれぞれの素子のパラメータを設定することが好ましい。すなわち、回折格子3が重畳レーザ光2の進行方向に対してθα°の角度で重畳レーザ光2中のある波長のビームを偏向させ、AOM4が、この波長のビームの進行方向に対してθβ°の角度でこの波長のビームを偏向させる場合、θαとθβとがほぼ等しく、かつ逆方向への偏向であることが好ましい。なお、θαとθβとがほぼ等しいとは、例えば、θβの数値がθα±40μradの範囲内であることをいう。
【0021】
本実施形態に係るレーザ加工装置において、光源部1から出射される重畳レーザ光2は、まず、回折格子3に入って回折が起こり、回折格子3の出射側において、波長毎の複数のビーム(即ち、回折光)に分散すると共に、当該複数のビームは、波長毎に異なる偏向角度(即ち、回折角)で拡散する。ここで、回折格子3によって分散された複数のビームは、AOM4を動作させていないときには、AOM4による偏向と分散は起こらず、AOM4を透過する0次光5として、そのまま発散しながら伝搬していく。尚、本実施形態に係るレーザ加工装置では、0次光5を、レーザ加工に用いないため、0次光5は、ダンパーなどの遮蔽物(図示せず)によって伝搬しないようにブロックされてもよい。
【0022】
一方、回折格子3によって分散された複数のビームは、AOM4が動作している際は、AOM4による回折現象によって回折光6として、AOM4から出射される。このとき、AOM4は、回折格子3によって分散された複数のビームの各々が、回折格子3による偏向方向とは逆方向に偏向し、且つ、偏向角度が、回折格子3とAOM4においてほぼ等しい値になるように制御される。そのため、AOM4から出射される複数のビームの回折光6は、光源部1から出射した重畳レーザ光2と平行となり、拡散することなく伝搬する。そして、本実施形態に係るレーザ加工装置では、AOM4から出射される複数のビームの回折光6を、レンズ7(
図3を参照して後述)等で集光して、加工対象物に出射する。尚、このとき、AOM4から出射された0次光5は、AOM4で偏向されることなく、そのまま発散しながら伝搬していくため、回折光6とは分離されることになる。
【0023】
本実施形態に係るレーザ加工装置において、AOM4は、光源部1から出射される重畳レーザ光2に含まれる所望の波長(λ1,λ2、λ3・・・λi)以外の波長のレーザ光については、偏向角度が、回折格子3と等しい値とならない構成とするのが好ましい。これによって、所望の波長以外の波長の光が加工対象物に出射され、加工精度が悪化することを抑制することができる。
【0024】
図2は、本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置の光学ユニットの模式図である。
図2を参照して、本実施形態の光学ユニットの原理を説明する。なお、ここでは原理説明のため複数波長としてλ
1,λ
2の2波長のみを用いて説明するが、3種類以上の波長であっても同様である。
【0025】
重畳レーザ光2は、回折格子3によって回折させられるが、このとき波長λ1の光は偏向角度θ1になり、波長λ2の光は偏向角度θ2となる。偏向角度θ1と偏向角度θ2は異なる角度をもち、重畳レーザ光2は分散される。分散された重畳レーザ光2からのビームの各々が動作中のAOM4に入射されると更に回折による偏向が起こるようにAOM4は配置される。
【0026】
このときAOM4の回折による偏向量は、回折格子3とは逆方向にかつ同じ偏向角度となるように設定しているため、波長λ1の光は逆方向に偏向角度θ1をもち、波長λ2の光も逆方向に偏向角度θ2となる。その結果、AOM4から出射されてくる波長λ1のレーザ光61と波長λ2のレーザ光62は平行光となる。
【0027】
次に、
図3及び
図4を参照して、本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置における集光方法について、説明する。
【0028】
図3(a)及び
図4(a)は、0次光5をレンズ7によって集光した態様を示し、
図3(b)及び
図4(b)は、回折光6をレンズ7によって集光した態様を示している。
【0029】
図3(a)は、0次光5がレンズ7によって集光されている模式図である。このときの集光スポットの形状は、
図4(a)に示しているように波長λ
1の集光スポット81に対して、波長λ
2の集光スポット82は少しズレた位置に集光されている。波長λ
3の集光スポット83になると更にズレた位置になり、波長λ
4の集光スポット84は大きくズレることになる。その結果、複数のビームの集光スポットを包括した形状は楕円状になる。
【0030】
一方、
図3(b)は、回折光6が集光レンズ7によって集光されている模式図である。このときの集光スポットの形状は、
図4(b)に示すように波長λ
1の集光スポット81~波長λ
4の集光スポット84が同じ位置に集光することになり、複数のビームの集光スポットを包括した形状は、単一の波長の集光スポットとほぼ同じ形状となる。これは、波長λ
1~波長λ
4のビームをレンズ7に平行に入射させられるためである。
【0031】
ここで、
図5を参照して、レンズ7による集光について説明する。
【0032】
図5(a)は単一波長のレーザ光を、レンズ7を用いて集光させる場合を示す。この場合、レーザ光は1点に集光される。
図5(b)は、本実施形態のように平行に入射した複数のビームを、レンズ7を用いて集光させる場合を示す。
図5(b)の右図に示すように、複数のビームであっても、それぞれのビームが平行に入射した場合には、太いビームを集光する場合と同様となるため(
図5(b)の左図参照)、レンズ7は、この場合にも、複数のビームのすべてを1点に集光させることができる。
【0033】
一方、
図5(c)に示すように、複数のビームのそれぞれが平行にレンズ7に入射しないと、ビーム毎に集光点の位置がずれることになる。その結果、レンズ7は、複数のビームそれぞれを1点に集光させることができず、複数のビームそれぞれの向かう方向は、分岐してしまう。尚、
図5(c)では、レンズの外側にあるビームが中央側のビームから離れる方向に傾いていた態様を表している。
【0034】
図6は、本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置におけるファイバ入射の模式図である。
図6では、回折光6をレンズ7で集光してファイバ9に入射させている。
【0035】
図7(b)は、回折光6を集光した際の包括スポット形状とファイバ入射端との関係を示したものである。回折光6を集光した際の包括スポット形状からレーザ光がロスなく入射し、かつファイバ透過後の集光密度を高く保つために、ファイバクラッド92の内側のファイバコア91の径を適切に設定することができる。
【0036】
一方、
図7(a)は0次光5を集光させたものをファイバ9に入射させる際の模式図である。この場合、0次光5を集光させた際の包括スポット形状が楕円形状であることから、ファイバコア91の径を相対的に大きくする必要がある。その結果、ファイバ透過後の集光密度を高めることが難しくなり、加工効率及び加工精度が低下することになる。
【0037】
[効果]
以上のように、本実施形態に係るレーザ加工装置によれば、波長に対する偏向角度がほぼ同じ回折格子3とAOM4とを偏向方向が逆方向となるように配置することにより、AOM4から出射される0次光5と回折光6とを分離して、回折光6のみをレーザ加工に用いることが可能となる。加えて、本実施形態に係るレーザ加工装置によれば、回折光6に含まれる複数の波長のビームの分散を最小限に抑え、各波長のビームを、平行にして取り出すことが可能である。これによって、レーザ加工に用いる各波長のビームの伝搬距離を大きく取ることが可能となり、かつ集光スポット径を小さくすることも可能となる。
【0038】
なお、本実施の形態では、偏向と分散を起こす第1光学素子として回折格子3を用い、偏向と分散を起こす第2光学素子としてレーザ光の分散量及び偏向量を制御可能な光学素子であるAOM4を用いたがこれに限られない。第1光学素子及び第2光学素子のうちの少なくとも一方が、レーザ光の分散量及び偏向量を制御可能な光学素子であればよい。すなわち、第1光学素子としてレーザ光の分散量及び偏向量を制御可能な光学素子を用い、第2光学素子は回折格子等のレーザ光の分散量及び偏向量を制御可能光学素子以外の光学素子を用いてもよい。また、第1光学素子及び第2光学素子の両方がレーザ光の分散量及び偏向量を制御可能な光学素子であってもよい。本実施形態では、第1光学素子として回折格子を用い、第2光学素子としてAOMを用いたが、第1光学素子としてAOMを用い、第2光学素子として回折格子又はプリズムを用いてもよい。また、第1光学素子としてAOMを用い、第2光学素子としてもAOMを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本開示に係るレーザ加工装置によれば、高精度なレーザ加工を実現することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 光源部
2 レーザ光
3 回折格子(第1光学素子)
4 AOM(第2光学素子)
5 0次光
6 回折光
61 波長λ1のレーザ光
62 波長λ2のレーザ光
7 レンズ
81 波長λ1の集光スポット
82 波長λ2の集光スポット
83 波長λ3の集光スポット
84 波長λ4の集光スポット
9 光ファイバ
91 ファイバコア
92 ファイバクラッド
101 光源部
103 レーザ光
121 光学素子
123 0次光
124 回折光