(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/18 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
C23C18/18
(21)【出願番号】P 2024531153
(86)(22)【出願日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2023046970
【審査請求日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022212501
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】速水 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】島田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 あすか
(72)【発明者】
【氏名】坂田 俊彦
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154277(JP,A)
【文献】特開2006-233307(JP,A)
【文献】特開2002-057460(JP,A)
【文献】特開平03-097873(JP,A)
【文献】特開2002-235177(JP,A)
【文献】特開昭58-110427(JP,A)
【文献】特開昭61-186480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に
0.3M以上の濃度となるようにフッ化物を溶解した後にスズ化合物を溶解し
前記フッ化物によるフッ素イオン濃度が前記スズ化合物による2価のスズイオン濃度に対して0.8倍以上3倍以下となる濃縮液を調製する工程と、
前記濃縮液を
水で希釈して
前記フッ素イオン濃度が0.01M~2.5Mの安定な2価のスズ溶液である反応液を調製する工程と、
前記反応液中に被処理物を浸漬させ、前記被処理物の表面に
2nm以上60nm以下の酸化スズ層を形成する工程と、
触媒金属イオンを含有する触媒溶液に、表面に酸化スズ層が形成された前記被処理物を浸漬し、前記酸化スズ層上に触媒層を形成する工程を有する触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法。
【請求項2】
水以外の極性溶媒にスズ化合物を溶解し濃縮液を調製する工程と、
前記濃縮液をフッ化物溶液で希釈して前記フッ化物によるフッ素イオン濃度が0.01M~2.5Mの安定な2価のスズ溶液である反応液を調製する工程と、
前記反応液中に被処理物を浸漬させ、前記被処理物の表面に2nm以上60nm以下の酸化スズ層を形成する工程と、
触媒金属イオンを含有する触媒溶液に、表面に酸化スズ層が形成された前記被処理物を浸漬し、前記酸化スズ層上に触媒層を形成する工程を有する触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法。
【請求項3】
前記フッ化物は、フッ酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化アンモニウムの何れかである請求項1
または2に記載された触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板、シリコン基板等の絶縁基板上に酸化スズ膜若しくは酸化スズ膜上に金属膜を形成した積層膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来非導電体の被処理物への無電解メッキは被処理面にパラジウム(Pd)等の触媒を担持させ、金属膜を形成させていた。しかし、触媒となる元素は被処理面に乗っているだけなので、形成された金属膜の接着性は低かった。
【0003】
そこで、非導電体の被処理面に対して、酸化金属膜を形成するセンシタイザー処理(感受性化処理)と、酸化金属膜上に触媒を形成するアクチベーション処理(活性化処理)を施す無電解メッキの前処理と呼ばれる工程が行われた。
【0004】
酸化金属膜としては、酸化亜鉛が扱いやすく、よく利用されていたが、酸化亜鉛は化学薬品への耐性が非常に低いという問題があった。そのため酸化金属膜としては、スズが利用されるようになった。
【0005】
特許文献1には、基板を塩化第一スズ溶液へ浸漬させ、続いてフッ酸あるいはフッ化物塩の水溶液に浸漬することでセンシタイザー処理を行い、次にパラジウム(Pd)、銀(Ag)あるいは金(Au)の塩溶液に浸漬させることでアクチベーション処理を行うことが開示されている。
【0006】
また、センシタイザー処理では、フッ酸あるいはフッ化物溶液を塩化第一スズ溶液と混合しても同様の効果が得られる点の開示がある。
【0007】
また、特許文献2では、センシタイザー処理として、SnF2とHFの混合液を用いる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭59-074270号公報
【文献】特開平08-281957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらのセンシタイザー処理では、2価のスズ源に数分間被処理物を浸漬することで行われるため、酸化スズの層は非常に薄く、まばらと言える状態であった。その酸化スズの層にアクチベーション処理される触媒も密度は低い。このような状況の下地処理に無電解メッキで形成される金属膜についても、ムラが発生しやすく、また膜の付着力も低かった。
【0010】
また、触媒層のムラの原因として次のことも考えられた。まず、触媒金属は、酸化スズ膜中の2価のスズ化合物であるSnOによって還元されることで、酸化スズ膜上に担持される。ところが、2価のスズイオンを得るためのスズ化合物を水溶液中に溶解した際に、媒体となる水中の溶存酸素によって2価のスズイオンが4価のスズイオンに酸化されSnO2となる。4価のSnO2は、還元力を持たず、触媒金属は酸化スズ膜上に担持できない。このSnO2が酸化スズ膜中に取り込まれ、その後の触媒金属の還元による担持ができなくなると考えられた。
【0011】
また、2価のスズイオンが酸化されSnO2として水溶液中に析出し、析出塊として被処理面上に付着することで、触媒金属の担持の際に均一性を阻害するという点も触媒層のムラの原因として挙げられる。
【0012】
また、析出したSnO2が被処理面上に形成される酸化膜に取り込まれ、膜成長の核となり膜成長速度が急激に早くなり、酸化膜の膜厚制御が著しく困難になるという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
また、本発明に係る触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法は、
水に0.3M以上の濃度となるようにフッ化物を溶解した後にスズ化合物を溶解し前記フッ化物によるフッ素イオン濃度が前記スズ化合物による2価のスズイオン濃度に対して0.8倍以上3倍以下となる濃縮液を調製する工程と、
前記濃縮液を水で希釈して前記フッ素イオン濃度が0.01M~2.5Mの安定な2価のスズ溶液である反応液を調製する工程と、
前記反応液中に被処理物を浸漬させ、前記被処理物の表面に2nm以上60nm以下の酸化スズ層を形成する工程と、
触媒金属イオンを含有する触媒溶液に、表面に酸化スズ層が形成された前記被処理物を浸漬し、前記酸化スズ層上に触媒層を形成する工程を有する。
【0016】
また、本発明に係る触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法は、
水以外の極性溶媒にスズ化合物を溶解し濃縮液を調製する工程と、
前記濃縮液をフッ化物溶液で希釈して前記フッ化物によるフッ素イオン濃度が0.01M~2.5Mの安定な2価のスズ溶液である反応液を調製する工程と、
前記反応液中に被処理物を浸漬させ、前記被処理物の表面に2nm以上60nm以下の酸化スズ層を形成する工程と、
触媒金属イオンを含有する触媒溶液に、表面に酸化スズ層が形成された前記被処理物を浸漬し、前記酸化スズ層上に触媒層を形成する工程を有することを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る触媒層付酸化スズ積層膜は、膜厚が2nm以上60nmと厚く、そのため触媒の担持量も多い。そのため、ムラができにくく、また酸化スズ積層膜上に形成された無電解メッキ膜の被処理面との接着力も高い。
【0018】
また、本発明に係る触媒層付酸化スズ積層膜は、TEM(Transmission Electron Microscope)によって断面が確認できる厚さを有するうえで、展開面積比(Sdr)がゼロ以上1×10-4未満以下であるので、触媒層が広く均一に存在させることができる。
【0019】
また、本発明に係る形成方法では、安定な2価のスズ溶液を作るので、長時間の処理でも均一な厚い酸化スズ層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明は以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、以下の説明では、「上」は基準となる被処理面から離れる方向を言い、「下」は被処理面に近づく方向を言う。
【0022】
本発明の触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法は、
極性溶媒にスズ化合物を溶解した濃縮液を調製する工程と、
前記濃縮液を前記極性溶媒とフッ化物溶液で希釈して安定な2価のスズ溶液である反応液を調製する工程と、
前記反応液中に被処理物を浸漬させ、前記被処理物の表面に酸化スズ層を形成する工程と、
触媒金属イオンを含有する触媒溶液に、表面に酸化スズ層が形成された前記被処理物を浸漬し、前記酸化スズ層上に触媒層を形成する工程を有する。
【0023】
<被処理物>
被処理物としては、絶縁体や、表面に予め金属層が形成された絶縁体が挙げられる。具体的には樹脂、セラミックス、ガラス、シリコンといった素材に利用できる。
【0024】
樹脂としては、ポリイミド樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、ポリカーボネート樹脂、PFA、PTFE、ETFE等のフッ素系樹脂を原料としたものが好適に利用できる。また、樹脂は、機械強度向上のため、ガラス繊維を含んでも良い。
【0025】
セラミックスとしては、アルミナ、サファイア等の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、シリコンカーバイド、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、窒化チタン、チタン酸バリウム等を原料としたものが好適に利用できる。
【0026】
ガラスは、シリカネットワークからなる非晶質基板であり、アルミニウム、ホウ素、リン等のネットワークフォーマー(網目形成酸化物)、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マグネシウム等のネットワークモディファイヤー(網目修飾酸化物)を含んでも良い。
【0027】
シリコンは、単結晶シリコンまたは、多結晶シリコンが好適に利用できる。
【0028】
<被処理面>
被処理面は被処理物の表面であって、液状体が到達できれば、被処理物の表面に形成された凹みや穴、貫通孔の内壁であってもよい。被処理面は、金属膜を形成させたい部分であることは言うまでもない。
【0029】
<2価のスズ化合物>
フッ素を含まない2価のスズ化合物としては、塩化第一スズ、硫酸スズ、硝酸スズが好適に利用できる。なお、これらのスズ化合物が含まれていれば、フッ素やその他の元素を含んだスズ化合物が含まれていてもよい。なお、2価のスズ化合物は、0.01Mol~1.0Molの範囲で利用でき、より好適には0.025Mol~0.5Molで利用でき、最も好ましくは0.05Mol~0.25Molで利用できる。
【0030】
<フッ化物>
フッ化物としては、フッ酸(HF)、フッ化水素アンモニウム((NH4)HF2)または、フッ化アンモニウム(NH4F)が好適に利用できる。これら以外のフッ化物だけであると均一な表面状態の触媒層を得ることができない。フッ化物の濃度は、最終反応液の状態で、0.01Mol~2.5Molの範囲で利用でき、より好適には0.025Mol~2.0Molで利用でき、最も好ましくは0.05Mol~1.0Molで利用できる。なお、基本的には反応液全体で、2価のスズイオンを1mmol/L以上完全に溶解させるだけのフッ素を有すればよい。
【0031】
<溶媒>
溶媒としては、水または/および極性溶媒が好適に利用できる。また、水にキレート剤を含めたものでもよい。ここで極性溶媒は、エタノール等のアルコール、酢酸などのカルボン酸、アセトン等のケトン類等が好適に利用できる。
【0032】
<安定な2価のスズ溶液>
本発明では、安定な2価のスズ溶液を用いる。本発明では、被処理面上にセンシタイザー処理などで得られる酸化金属層よりはるかに厚い酸化スズ層を形成する。そのため処理液中に被処理物を長時間浸漬させる必要がある。したがって、その間スズを含む物質の析出が生じない反応液が必要となる。また、析出物がなくても、2価のスズが4価のスズに酸化してしまっては、触媒層の吸着による担持ができない。したがって、2価のスズが長時間安定に存在する反応液が必要である。これを安定な2価のスズ溶液と呼ぶ。
【0033】
まず、2価のスズ源を水に溶解した場合、水中の溶存酸素によって4価のスズに酸化され、第二酸化スズとして析出し、溶液を白濁させる場合がある。したがって、溶存酸素を含まない極性溶媒に2価のスズを溶解させることで、安定な2価のスズ溶液を得ることができる。ただし、この場合、2価のスズ塩で極性溶媒に溶解するものが必要である。
【0034】
なお、ここで「溶存酸素を含まない」とは、溶存酸素量が0.5mg/L以下であればよい。また、成膜中は、基板は溶液中に浸漬されているが、空気との接触を避けるために、液面も窒素パージなどの酸素忌避手段を講じておくのが好ましい。
【0035】
出願人が確認した範囲であれば、塩化第一スズは水、エタノール、メタノール、アセトンに溶解させることができる。また、酢酸スズはエタノールに溶解する。
【0036】
次に溶存酸素を有する水であってもフッ化物を予め添加し、その後2価のスズを添加することで、安定な2価のスズ溶液を得ることができる。塩化第一スズは、水に溶解させても、直後にフッ化物若しくはホウフッ化物を加えることで、安定な2価のスズ溶液を得ることができる。しかし、フッ化物を予め添加しておく方が後述する実施例より望ましい。2価のスズを水に会合させてから、フッ化物と反応するまでの時間が短い方が好ましいからである。
【0037】
また、後述する実施例より、塩化第一スズが最初に会合するフッ化物溶液はフッ素濃度が0.3M以上、より好ましくは0.5M以上であるのがよい。最初に高濃度のフッ化物溶液に会合していると、その後濃度を希釈しても、安定する時間は長くなり表面粗さを低くすることができる。言い換えると、後述する展開面積比を低くすることができる。一方、塩化第一スズが最初に会合するフッ化物溶液のフッ素濃度が低いと、形成されたスズ酸化物膜の表面が粗くなる。つまり、展開面積比が大きくなる。
【0038】
さらに、塩化第一スズが最初に会合するフッ化物溶液のフッ素濃度とスズ濃度は、スズ濃度に対してフッ素濃度が3倍以下、0.8倍以上であることが望ましい。スズ濃度がフッ素濃度より高くなる若しくは、フッ素濃度がスズ濃度より高すぎると、酸化物膜が形成されない若しくは形成されても表面粗さが悪化する(展開面積比が大きくなる。)。
【0039】
後に詳説する展開面積比Sdrはいわば触媒層のムラを表した評価方法であるといえる。触媒層のムラは酸化スズ層の表面性に影響され、酸化スズ層の表面性は溶存酸素で酸化される4価のスズが主たる原因であると考えれば、展開表面積比Sdrは、酸化膜を成膜している間に4価のスズの生成を抑制する程度であると考えられる。したがって、4時間の成膜(酸化スズの膜厚が40~60nm)で得られる酸化膜上の触媒層の展開面積比が1×10-4未満であるような反応液を「安定な2価のスズ溶液」といってもよい。
【0040】
<触媒金属>
触媒金属としては、パラジウム、プラチナ、金、銀といった貴金属が好適に利用することができる。触媒金属を溶液にしたものを触媒溶液と呼ぶ。触媒溶液の濃度は例えば、触媒をパラジウムとすると、好ましくは0.005g/L~1g/Lであり、より好ましくは0.05g/L~1.0g/Lであり、最も好ましくは0.1g/L~1.0g/Lで好適に利用することができる。なお、より詳しくは触媒金属がパラジウムの場合は、0.005g/L~1.0g/Lで無電解メッキが可能であるが、銀の場合は0.05g/L~1.0g/Lでなければ無電解メッキができなかった。
【0041】
<成膜条件>
本発明における酸化スズ層および触媒層の形成は、それぞれ30℃~50℃の間で行うのが好適である。また、酸化スズ層の形成時間(処理時間といってもよい。)は1~6時間と時間をかけ、酸化スズ層の厚みが2nm~60nmの厚みにするのがよい。層厚を厚くすることで、ムラがなくなり、また、膜中の2価のスズイオンによって、酸化スズ層の表面に多くの触媒原子が吸着し強固に担持される。なお、触媒層の形成は常温で2~4分程度でよい。
【0042】
<酸化スズ積層膜>
酸化スズ積層膜は被処理面上に形成された酸化スズ層と、酸化スズ層の上に形成された触媒層からなる。酸化スズ層の厚みは2nm~60nmの厚みである。酸化スズ層の断面はTEMで明確に観察することができる。つまり厚み2nmは、TEMによる認定限界の意味である。触媒層は、触媒元素の存在は質量分析などで検出できるが、断面観察では認められない。形成時間が少ないために、ほぼ完全な孤立島状態になっていると考えられる。しかし、本明細書では、被処理面上に順に形成されたものとして触媒部分も「層」と呼ぶ。
【0043】
<展開面積比>
酸化スズ積層膜の表面には触媒層が担持しているが、触媒層の膜厚は0.2~0.5nmほどで、ほとんど独立島状になっている。しかし、通常のスライドガラス(26mm×76mm)程度の大きさに酸化スズ層の上に触媒層を形成すると色がつくため、目視で均一性は見ることができる。そこで表面粗さの指標と、目視判断を合わせることで、展開面積比(Sdr)が均一性の判断として好適であることが分かった。
【0044】
展開面積比(Sdr)とは、定義領域の面積に対して、実際の表面積がどれだけ増大しているかを示す指標であり、ISO25178にも定義されている。直感的には、
図1に示す様に、断面が斜辺を底辺とする直角二等辺三角形を考える。奥行を1とし直角を形成する辺をa、底辺をcとする。すると斜面の面積S’は、一方の傾斜面の面積をsa(sa・1=2a)とすると、2saであり、底面の面積Sはc・1=(c)である。するとSdrは、(1)式で求められる。
【0045】
【0046】
これより、45度の傾斜面の場合、cに2の平方根、aに1を代入すると、Sdrは0.414となる。また、基準面(この場合は面積S)に対して傾斜面の部分に面積増加がなかった場合(S’=Sであった場合)は、Sdrはゼロとなる。より詳細には、Sdrは以下の(2)式で表される。
【0047】
【0048】
ここでx、yは試料の縦横を表し、zは厚み方向を示す。
【0049】
この指標で表した場合、好適と目視で判断できる状態は、Sdrは1×10-4未満であると判断できた。なお、上記の指標は成膜できているのが前提であり、成膜できているか否かは目視で判断する。成膜できていなければ、被処理面を測定するので、Sdrはゼロとなる。
【0050】
また、被処理面がセラミックのような多孔質である場合は、被処理面自体のSdrがゼロにはならず、Sdrでの評価は適用しない。Sdrでの評価は、被処理面が鏡面に形成された場合に用いられる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明に係る触媒層付酸化スズ積層膜の実施例を説明する。
【0052】
塩化第一スズとフッ酸を用いた反応液を調製し、ガラス基板上に酸化膜を形成させた。酸化膜上にPdを触媒層として形成させ、表面の展開面積(Sdr)を測定した。
【0053】
約80mlの高濃度フッ素溶液中に塩化第一スズを溶解させ100mlの濃縮液を調製した。次にこの濃縮液に水または/および55%HFを追添し、所定濃度の反応液40mlを調製した。高濃度状態でフッ素元素を2価のスズ元素を会合させることで、安定な2価のスズ溶液である反応液を得ることができた。
【0054】
この反応液を反応温度に調温(50℃~60℃)した後、ガラス基板を浸漬させ、層形成時間(4時間)だけ保持した。成膜された酸化スズ層の厚みは40nm程度であった。その後ガラス基板を引き上げ、触媒液に浸漬させることで触媒層を形成した。触媒層を形成させる触媒液は、パラジウム(Pd)の100ppm溶液を用いた。触媒層の形成時間は2分とした。
【0055】
触媒層の形成後乾燥させ、レーザー顕微鏡でSdrを測定した。レーザー顕微鏡はキーエンス社製VK-X1100シリーズを用い、触媒層形成後の表面を測定した。測定条件は倍率1200倍、測定領域を4分割し、それぞれのSdrを算出しその平均値を得た。同一サンプルについて2箇所Sdrを測定し、その平均値をサンプルの平均値Sdrとした。展開表面積比Sdrは触媒層のムラの目視評価との比較により1×10-4以上であれば、ムラがあると言え、1×10-4未満であれば、ムラはないと判断できるとした。
【0056】
以下に実施例および比較例の調製方法を説明する。また表1および表2に、これらの調製方法および成膜後測定したSdrの値を示した。また各材料は以下のものを用いた。フッ酸(HF)は55%濃度(密度1.2g/ml)のものを使った。塩化第一スズ(SnCl2)は2水和物(分子量226.65)純度97%のものを利用した。フッ化スズ(II)(SnF2:分子量156.71)は、純度90%のものを利用した。ホウフッ化スズ(Sn(BF4)2:分子量292.3)は、純度50%のものを利用した。フッ化水素アンモニウム(NH4HF2:分子量57.04)は、純度97%のものを利用した。
【0057】
実施例1:55%HFの1.53mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は0.62Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ11.6gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液1を得た。この濃縮液1はフッ素濃度が0.50Mで、スズ濃度も0.50Mである。
【0058】
次に5mlの濃縮液1に35mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は63.1mM、スズ濃度は62.3mMであった。
【0059】
実施例2:55%HFの0.77mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は0.31Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ5.8gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液2を得た。この濃縮液2はフッ素濃度が0.25Mで、スズ濃度は0.25Mである。
【0060】
次に4mlの濃縮液2に36mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は25.4mM、スズ濃度は24.9mMであった。
【0061】
実施例3:55%HFの6.05mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は2.32Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ46.5gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液3を得た。この濃縮液3はフッ素濃度が2.00Mで、スズ濃度は2.00Mである。
【0062】
次に4mlの濃縮液3に36mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は199.6mM、スズ濃度は199.9mMであった。
【0063】
実施例4:55%HFの12.1mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は4.33Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ45gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液4を得た。この濃縮液4はフッ素濃度が3.99Mで、スズ濃度は1.93Mである。
【0064】
次に6mlの濃縮液4に34mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は598.7mM、スズ濃度は2902.0mMであった。
【0065】
実施例5:55%HFの12.1mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は4.33Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ45gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液4を得た。この濃縮液4はフッ素濃度が3.99Mで、スズ濃度は1.93Mである。
【0066】
次に25mlの濃縮液4に15mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は2494.4mM(約2.5M)、スズ濃度は1209.0mM(約1.2M)であった。
【0067】
実施例6:55%HFの1.53mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は0.62Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ11.6gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液5を得た。この濃縮液5はフッ素濃度が0.50Mで、スズ濃度は0.50Mである。
【0068】
次に0.8mlの濃縮液5に39.2mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は10.1mM、スズ濃度は10.0mMであった。
【0069】
実施例7:55%HFの1.53mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は0.62Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ3.9gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液6を得た。この濃縮液6はフッ素濃度が0.50Mで、スズ濃度は0.17Mである。
【0070】
次に0.8mlの濃縮液6に39.2mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は10.1mM、スズ濃度は3.4mMであった。反応液のフッ素濃度はスズ濃度の3倍よりは少ない。
【0071】
実施例8:55%HFの9.06mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は3.36Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ24gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液7を得た。この濃縮液7はフッ素濃度が2.99Mで、スズ濃度は1.03Mである。
【0072】
次に1mlの濃縮液7に39.0mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は74.7mM、スズ濃度は25.8mMであった。反応液のフッ素濃度はスズ濃度の3倍よりは少ない。
【0073】
実施例9:55%HFの3.06mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は1.22Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズを28g投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液8を得た。この濃縮液8はフッ素濃度が1.01Mで、スズ濃度は1.20Mである。
【0074】
次に1mlの濃縮液8に39.0mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は25.2mM、スズ濃度は30.1mMであった。反応液のフッ素濃度はスズ濃度の0.8倍より大きい。
【0075】
実施例10:55%HFの2.51mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は1.00Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ29gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液9を得た。この濃縮液9はフッ素濃度が0.83Mで、スズ濃度は1.25Mである。
【0076】
次に1mlの濃縮液9にさらに55%HFを0.013mlと純水を加え全量で40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は31.4mM、スズ濃度は31.2mMであった。
【0077】
実施例11:塩化第一スズ23.2gをエタノール80mlに投入し溶解させた。そしてさらにエタノールを追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液10を得た。この濃縮液10はフッ素濃度が0Mで、スズ濃度は1.00Mである。
【0078】
次に1mlの濃縮液10にさらに55%HFを0.032mlと純水を加え全量で40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は26.4mM、スズ濃度は24.9mMであった。
【0079】
実施例12:塩化第一スズ23.2gをエタノール80mlに投入し溶解させた。そしてさらにエタノールを追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液10を得た。この濃縮液10はフッ素濃度が0Mで、スズ濃度は1.00Mである。
【0080】
次に1mlの濃縮液10にさらに55%HFを0.09mlと純水を加え全量で40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は74.2mM、スズ濃度は24.9mMであった。反応液のフッ素濃度はスズ濃度の3倍より少ない。
【0081】
実施例13:塩化第一スズ23.2gをエタノール80mlに投入し溶解させた。そしてさらにエタノールを追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液10を得た。この濃縮液10はフッ素濃度が0Mで、スズ濃度は1.00Mである。
【0082】
次に1mlの濃縮液10にさらに55%HFを0.025mlと純水を加え全量で40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は20.6mM、スズ濃度は24.9mMであった。反応液のフッ素濃度はスズ濃度の0.8倍より大きい。
【0083】
実施例14:55%HFの3.06mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は1.22Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ13.96gとSn(BF4)2を23.4g投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液11を得た。この濃縮液11はフッ素濃度が1.01Mで、スズ濃度は1.00Mである。
【0084】
次に5mlの濃縮液11に35.0mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は126.2mM、スズ濃度は50.0mMであった。
【0085】
実施例15:純度97%のNH4HF22.94gを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は1.25Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度(2.50M)となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ23.2g投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、濃縮液12を得た。この濃縮液12はフッ素濃度が1.00Mで、スズ濃度は1.00Mである。
【0086】
次に5mlの濃縮液12に35.0mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は125.0mM、スズ濃度は124.7mMであった。
【0087】
比較例1:55%HFの0.7mlgを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は0.29Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ5.3gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液1を得た。この比較例濃縮液1はフッ素濃度が0.23Mで、スズ濃度は0.23Mである。
【0088】
次に10.4mlの比較例濃縮液1に29.6mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は60.0mM、スズ濃度は59.2mMであった。
【0089】
比較例2:55%HFの0.7mlgを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は0.26Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ5.3gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液1を得た。この比較例濃縮液1はフッ素濃度が0.23Mで、スズ濃度は0.23Mである。
【0090】
次に1.8mlの比較例濃縮液1に38.2mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は10.4mM、スズ濃度は10.3mMであった。
【0091】
比較例3:55%HFの0.7mlgを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は0.29Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ5.3gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液1を得た。この比較例濃縮液1はフッ素濃度が0.23Mで、スズ濃度は0.23Mである。
【0092】
次に34.5mlの比較例濃縮液1に5.5mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は199.1mM、スズ濃度は196.5mMであった。
【0093】
比較例4:55%HFの1.53mlgを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は0.62Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ11.6gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液2を得た。この比較例濃縮液2はフッ素濃度が0.50Mで、スズ濃度は0.50Mである。
【0094】
次に0.64mlの比較例濃縮液2に39.36mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は8.2mM、スズ濃度は8.1mMであった。
【0095】
比較例5:ホウフッ化スズ(Sn(BF4)2)の58.5gを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のホウフッ素濃度はおよそ2.5Mである。このホウフッ化スズ溶液中のスズイオンは、およそ1.25Mである。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液3を得た。この比較例濃縮液3はホウフッ素濃度が1.60Mで、スズ濃度は1.00Mである。
【0096】
次に5mlの比較例濃縮液3に35.0mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は200.1mM、スズ濃度は125.1mMであった。
【0097】
比較例6:55%HFの12.1mlgを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は4.33Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ45gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液4を得た。この比較例濃縮液4はフッ素濃度が3.99Mで、スズ濃度は1.93Mである。
【0098】
次に28mlの比較例濃縮液4に12mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は2793.7mM、スズ濃度は1354.1mMであった。
【0099】
比較例7:80mlの純水に塩化第一スズ23.2gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液5を得た。この比較例濃縮液5はフッ素濃度が0Mで、スズ濃度は1.00Mである。すなわち、比較例7は、高濃度フッ化物溶液に会合することなく純水に溶解された。
【0100】
次に1mlの比較例濃縮液5に0.032mlの55%HFと純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は26.4mM、スズ濃度は24.9mMであった。
【0101】
比較例8:55%HFの9.06mlgを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は3.36Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ20gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液6を得た。この比較例濃縮液6はフッ素濃度が3.00Mで、スズ濃度は0.86Mである。フッ素濃度はスズ濃度の3倍以上であった。
【0102】
次に1mlの比較例濃縮液6に39.0mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は74.7mM、スズ濃度は21.5mMであった。
【0103】
比較例9:55%HFの2.9mlgを80mlの純水に投入し攪拌しフッ化物溶液を得た。フッ化物溶液のフッ素濃度は1.15Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ29gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液7を得た。この比較例濃縮液7はフッ素濃度が0.96Mで、スズ濃度は1.25Mである。
【0104】
次に1mlの比較例濃縮液7に39mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は23.9mM、スズ濃度は31.2mMであった。フッ素濃度はスズ濃度の0.8倍以下であった。
【0105】
比較例10:80mlの純水にフッ化スズ(II)(SnF2)17.4g(0.10mol相当)を投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液8を得た。この比較例濃縮液8のフッ素源はフッ化スズ(II)自体である。つまり、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度はおよそ2.50Mである。比較例濃縮液8のフッ素濃度は2.00Mであり、スズ濃度は1.00Mである。
【0106】
次に1.0mlの比較例濃縮液8に39mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は50.0mM、スズ濃度は24.9mMであった。
【0107】
比較例11:80mlの純水にフッ化スズ(II)(SnF2)17.4g(0.10mol相当)を投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液8を得た。この比較例濃縮液8のフッ素源はフッ化スズ(II)自体である。つまり、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度はおよそ2.50Mである。比較例濃縮液8のフッ素濃度は2.00Mであり、スズ濃度は1.00Mである。
【0108】
次に8.0mlの比較例濃縮液8に32mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は399.7mM、スズ濃度199.9mMであった。
【0109】
比較例12:80mlの純水にフッ化スズ(II)(SnF2)5.0g(0.03mol相当)を投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液9を得た。この比較例濃縮液9のフッ素源はフッ化スズ(II)自体である。つまり、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度はおよそ0.75Mである。比較例濃縮液9のフッ素濃度は0.57Mであり、スズ濃度は0.29Mである。
【0110】
次に5.0mlの比較例濃縮液9に0.039mlの55%HFと純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は103.9mM、スズ濃度35.9mMであった。
【0111】
比較例13:80mlの純水にフッ化スズ(II)(SnF2)5.0g(0.03mol相当)を投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液9を得た。この比較例濃縮液9のフッ素源はフッ化スズ(II)自体である。つまり、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度はおよそ0.75Mである。比較例濃縮液9のフッ素濃度は0.57Mであり、スズ濃度は0.29Mである。
【0112】
次に5.0mlの比較例濃縮液9に35mlの純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は71.8mM、スズ濃度35.9mMであった。
【0113】
比較例14:55%HFの3.06mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は1.22Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ23.2gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液10を得た。この比較例濃縮液10はフッ素濃度が1.01Mであり、スズ濃度は1.00Mである。
【0114】
次に1mlの比較例濃縮液10に35%HClを0.44mlおよび純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は25.2mM、スズ濃度は24.9mMであった。
【0115】
比較例15:55%HFの3.06mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は1.22Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ23.2gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液10を得た。この比較例濃縮液10はフッ素濃度が1.01Mであり、スズ濃度は1.00Mである。
【0116】
次に1mlの比較例濃縮液10に50g/Lに調製したKFを8.0mlおよび純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は25.2mM、スズ濃度は24.9mMであった。
【0117】
比較例16:55%HFの3.06mlを80mlの純水に投入し攪拌しフッ酸溶液を得た。フッ酸溶液の濃度は1.22Mである。この時のフッ素濃度が、スズイオンが最初に会合するフッ素濃度となる。このフッ酸溶液に塩化第一スズ23.2gを投入し溶解させた。そして純水を追加し、全量で100mlになるように調製し、比較例濃縮液10を得た。この比較例濃縮液10はフッ素濃度が1.01Mであり、スズ濃度は1.00Mである。
【0118】
次に1mlの比較例濃縮液10に50g/Lに調製したアスコルビン酸を2.0mlおよび純水を加え40mlの反応液を得た。反応液中のフッ素濃度は25.2mM、スズ濃度は24.9mMであった。
【0119】
以下表1には、実施例の濃縮液の主なデータ、表2には比較例の濃縮液の主なデータ、表3には実施例の反応液の主なデータ、表4には、比較例の反応液の主なデータを示す。なお、表3および表4には濃縮液スズイオンが最初に会合した際のフッ素濃度も示す。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
以後表3および表4を参照して説明する。実施例1から10で示されるように、スズイオンが最初に会合するフッ化物溶液のフッ素濃度が0.3M以上であれば、展開面積比Sdrは1×10-4未満で、ムラのない触媒層を形成で来ていると言える。また、この時最終溶液となる反応液のフッ素濃度は10mMから2.49Mの範囲で好適な触媒層を形成することができた。
【0125】
表4の比較例1は実施例1と反応液のフッ素濃度はほぼ同じ(60mM)であるが、展開面積比Sdrは1×10-4以上であった。同様に比較例2は実施例6と、比較例3は実施例3とほぼ同じ(それぞれ10mM、200mM)フッ素濃度であるが、比較例の展開面積比Sdrはともに1×10-4以上であった。また、比較例7は、濃縮液を調製する際にフッ素イオンが存在せず、反応液に調製する際に後添でフッ酸でフッ素イオンを添加したケースである。この場合も展開面積比Sdrは1×10-4以上であった。
【0126】
このように、スズイオンが最初に会合するフッ化物溶液の濃度が低いと、溶液中の溶存酸素により2価のスズが4価のスズに酸化され、微粒子として析出し、触媒層の生成に寄与せず、基板表面に堆積し、展開面積比Sdrを悪化(数値は高くなる)させると考えられる。言い換えると、4時間余りの成膜時間の間、その後成膜される触媒層のムラに影響しない程度に4価のスズの生成を抑制するには、最初に0.3M以上のフッ化物溶液に溶解させる必要がある。
【0127】
実施例11乃至13は溶媒としてエタノールを用いた例である。これらの場合溶存酸素の混入は後添で追加されるフッ酸に含まれる水だけであり、濃縮液中で、溶存酸素による酸化は生じない。したがって、展開面積比Sdrは安定して1×10-5程度の値となった。
【0128】
比較例4はスズイオンが最初に会合するフッ化物溶液のフッ素濃度が0.62Mであり、上記実施例の観点でいうと、展開面積比Sdrは1×10-4未満であると考えられたが、実際は1×10-4以上であった。このことより、スズイオンが最初に会合するフッ化物溶液のフッ素濃度が0.62Mであっても、反応液に調製した際の濃度が薄すぎる(10mM未満)と、4時間以上の成膜の間、触媒層のムラに影響がない程度に4価のスズの生成を抑制することができないと考えられる。
【0129】
一方、比較例6は、反応液のフッ素濃度を2.5M以上にした場合であるが、ガラス基板が溶解されてしまいそもそも成膜できなかった。実施例5がほぼ2.5Mで成膜できていること考慮すると、反応液のフッ素濃度は2.5Mが限界であると考えられる。
【0130】
実施例7は濃縮液を調製する際にスズイオンに対してフッ素イオンリッチにした場合であり、実施例9はスズイオンに対してフッ素イオンプアーにした場合である。一方、比較例8はスズイオンに対してフッ素イオン濃度を3倍以上にした場合であり、比較例9はスズイオンに対してフッ素イオン濃度を80%以下にした場合である。スズイオンに対してフッ素イオン濃度が濃すぎると、スズイオンが希薄となり却って触媒層のムラは目立つ結果(展開面積比Sdrが1×10-4以上)となった。また、スズイオンに対してフッ素イオン濃度が薄い(スズイオンの濃度が濃い)と濃縮液自体に粘着感があり、後に成膜する触媒層にはムラがあった(展開面積比Sdrが1×10-4以上)。
【0131】
実施例14はホウフッ化スズ(Sn(BF4)2)を用いた場合であり、比較例5はホウフッ化スズ(Sn(BF4)2)のみを用いた場合である。これらの対比より、ホウフッ化スズは本発明における液相成膜法のフッ素源には好適でないと言える。
【0132】
実施例15は、フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)を用いた場合であるが、展開面積比Sdrは1×10-4未満であり、フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)は本発明における液相成膜法のフッ素源として好適であると言える。
【0133】
比較例14はスズイオンが最初に会合するフッ化物溶液のフッ素濃度が0.3M以上であるが、反応液調製の際に塩酸を追添した場合である。展開面積比Sdrは1×10-4以上であり、後に成膜する触媒層のムラは目立つ結果となった。塩酸はフッ素を含む液相析出法(Liquid Phase Deposition;以下「LPD法」とも呼ぶ。)にはよく使用される材料であるが、本発明が要求するレベル(4時間の成膜)での表面粗さに対しては悪化させる原因となった。この結果本発明に係る展開面積比は従来行われているLPD法よりも表面粗さの低い(表面性の高い)状態を実現していると言える。
【0134】
比較例15は、および比較例16は、スズイオンが最初に会合するフッ化物溶液のフッ素濃度が0.3M以上であるが、反応液の調製の際にKF(比較例15)およびアスコルビン酸(比較例16)を追添したものである。いずれの場合も成膜することができなかった。これらの添加物は本発明の成膜方法には適していないと考えられる。
【0135】
以上のように、LPD法で酸化スズの膜を作製する際に、濃縮液から希釈して反応液を調製することで、安定な2価のスズ溶液(反応液)を得ることができ、酸化スズ膜上の触媒層(Pd)の表面粗さを展開面積比1×10-4未満にすることができた。つまり、ムラのない触媒層を形成することができた。より具体的には、濃縮液を調製する際に、塩化第一スズが最初に投入される際のフッ素濃度が0.3M以上になるように調製し、濃縮液を希釈することで反応液を調製することで、展開面積比を1×10-4未満にすることができた。その結果、成膜に長時間かけても表面粗さが悪化することなく成膜することができる。
【0136】
これは塩化第一スズが反応液中の溶存酸素によって加水分解されることを抑制する方法であると考えられる。したがって、塩化第一スズが最初に投入される際のフッ素濃度が0.3M未満であっても、溶媒として溶存酸素のないエタノールなどを用いれば、長時間の成膜であっても表面性は高い(展開面積比は低い)状態を維持することができる。
【0137】
なお、二価のスズとしては塩化第一スズが好適であり、フッ素源はフッ化水素が好適に利用できた。また、フッ素源としては、フッ酸に加え、フッ化水素アンモニウム、フッ化アンモニウムも用いることができた。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明に係る触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法は、均一でムラのない酸化スズ積層膜を得ることができる。
【要約】
無電解メッキ処理の前処理に使われる酸化スズ膜と触媒層の積層膜には、ムラが生じやすいという課題があった。
極性溶媒にスズ化合物を溶解した濃縮液を調製する工程と、前記濃縮液を前記極性溶媒とフッ化物溶液で希釈して安定な2価のスズ溶液である反応液を調製する工程と、前記反応液中に被処理物を浸漬させ、前記被処理物の表面に酸化スズ層を形成する工程と、触媒金属イオンを含有する触媒溶液に、表面に酸化スズ層が形成された前記被処理物を浸漬し、前記酸化スズ層上に触媒層を形成する工程を有する触媒層付酸化スズ積層膜の形成方法によれば、均一な触媒層を形成することができる。