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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】磁気吸着装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
H01F7/02 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023132056
(22)【出願日】2023-08-14
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】500337473
【氏名又は名称】株式会社ソフテム
(73)【特許権者】
【識別番号】514046840
【氏名又は名称】辰美産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 清美
(72)【発明者】
【氏名】伊川 辰茂
(72)【発明者】
【氏名】審良 善和
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277588(JP,A)
【文献】特開2001-250712(JP,A)
【文献】特開昭54-136695(JP,A)
【文献】特開2002-199980(JP,A)
【文献】特開2021-093491(JP,A)
【文献】特開平7-192915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 29/00-29/30
F16B 45/00-47/00
H01F 7/00- 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石と、前記永久磁石を抱持するヨークとを備えた磁気吸着装置であって、
前記ヨークが、前記永久磁石と吸着するバックヨーク部と、前記バックヨーク部と一体に形成されて前記永久磁石を取り囲む外周ヨーク部とを有し、
前記外周ヨーク部の吸着面が第1湾曲面を含み、
前記永久磁石がリング状であり、
前記永久磁石を貫通する内周ヨーク部が前記バックヨーク部に一体に形成され、
前記内周ヨーク部の吸着面が第2湾曲面を含む
ことを特徴とする磁気吸着装置。
【請求項2】
前記第1湾曲面が、中空球体の外周面あるいは内周面の一部をなす湾曲形状を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気吸着装置。
【請求項3】
前記第1湾曲面が、円筒の外周面あるいは内周面の一部をなす湾曲形状を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気吸着装置。
【請求項4】
前記第1湾曲面及び前記第2湾曲面が、互いに曲率半径が等しい同一湾曲形状を有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の磁気吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
N極及びS極を持つ磁石の一方の面にヨークを吸着させることにより、他方の面における磁束密度を増して吸着力を倍増させる技術が知られている。このような技術の適用例が、例えば下記特許文献1に開示されている。
この特許文献1に記載の磁気吸着装置では、ネオジム磁石からなる耐腐食磁石の一方の面をバックヨーク部に吸着させてかつその外周囲をヨークで覆っている。そして、耐腐食磁石の他方の面については、吸着対象に対面させた構成としている。この磁気吸着装置によれば、吸着対象に対する吸着力を倍増できるので、ネオジム磁石の高い磁力を有効に利用して極めて高い吸着力を発揮可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5090781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記磁気吸着装置は、その吸着性能の高さや使いやすさなどから、溶接等の従来の固定手段に代わる技術として高く評価されている。そして、その利便性を生かしてさらに活用範囲を拡げていくことが望まれているが、磁力を用いる関係上、一つの課題が生じる。
すなわち、例えば上記特許文献1に記載の吸着対象物のように、平たい吸着面が予め用意されている場合は、その平面を利用して磁気吸着装置の本来の吸着力を発揮できる。一方、例えば円管の外周面等の湾曲面を吸着面としたい場合には、平たい磁石と湾曲面との間にどうしても部分的な隙間が生じてしまい、本来の吸着力を十分に生かせなくなる。また、この問題は、吸着対象が凸状の湾曲面である場合のみならず、凹状の湾曲面である場合においても同様に生じる。したがって、吸着対象の表面形状に関わらず本来の吸着力を発揮でき、より様々な用途で利用できることが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、吸着対象物の表面形状が平面以外の場合でも本来の吸着力を発揮できる磁気吸着装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用している。(1)本発明の一態様は、永久磁石と、前記永久磁石を抱持するヨークとを備えた磁気吸着装置であって、前記ヨークが、前記永久磁石と吸着するバックヨーク部と、前記バックヨーク部と一体に形成されて前記永久磁石を取り囲む外周ヨーク部とを有し、前記外周ヨーク部の吸着面が第1湾曲面を含み、前記永久磁石がリング状であり、前記永久磁石を貫通する内周ヨーク部が前記バックヨーク部に一体に形成され、前記内周ヨーク部の吸着面が第2湾曲面を含む
上記(1)に記載の磁気吸着装置によれば、その吸着面が吸着対象物の表面形状に合わせた第1湾曲面を有するので、吸着面を吸着対象に対して隙間無く重ねることができる。その結果、隙間に伴う吸着力の低下を抑制できるので、永久磁石が持っている本来の吸着力を発揮できる。
また、吸着対象物の表面形状に合わせた第1湾曲面及び第2湾曲面の双方において、吸着対象に対して吸着面を隙間無く重ねることができる。その結果、内周ヨーク部の装備に伴う吸着力の向上を効果的に発揮できる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の磁気吸着装置において、前記第1湾曲面が、中空球体の外周面あるいは内周面の一部をなす湾曲形状を含んでもよい。言い換えると、前記吸着面を対向視して互いに直交する2本の交差軸の一方を含む断面及び他方を含む断面の双方において、前記第1湾曲面が、前記永久磁石に接近する方向または前記永久磁石から離間する方向に向かう凸状に湾曲している構成を採用してもよい。
上記(2)に記載の磁気吸着装置の場合、吸着対象物の表面形状が凸型の球状湾曲面または凹型の球状湾曲面の何れであっても、磁気吸着装置の吸着面を隙間無く重ねることができる。
【0008】
(3)上記(1)に記載の磁気吸着装置において、前記第1湾曲面が、円筒の外周面あるいは内周面の一部をなす湾曲形状を含んでもよい。言い換えると、前記吸着面を対向視して互いに直交する2本の交差軸の一方を含む断面においては、前記第1湾曲面が前記永久磁石に接近する方向または前記永久磁石から離間する方向に向かう凸状に湾曲し、前記2本の交差軸の他方を含む断面においては、前記第1湾曲面が直線状である構成を採用してもよい。
上記(3)に記載の磁気吸着装置の場合、吸着対象物の表面形状が凸型の円筒湾曲面または凹型の円筒湾曲面の何れであっても、磁気吸着装置の吸着面を隙間無く重ねることができる。
【0010】
)上記(~(3)の何れか1項に記載の磁気吸着装置において、前記第1湾曲面及び前記第2湾曲面が、互いに曲率半径が等しい同一湾曲形状を有してもよい。
上記()に記載の磁気吸着装置の場合、吸着対象物の表面形状に対する第1湾曲面及び第2湾曲面の隙間管理を容易かつ高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明上記態様によれば、外周ヨーク部の吸着面が第1湾曲面を含む構成としたことで、吸着対象物の表面形状が平面以外の場合でも永久磁石が持っている本来の吸着力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態を示す図であって、磁気吸着装置をその中心軸線を含む断面で見た縦断面図である。
図2】同磁気吸着装置の分解斜視図である。
図3】同磁気吸着装置を示す図であって、図1のA-A断面図である。
図4】外径の異なる複数種類の鋼管の外周面に対して従来の磁気吸着装置を吸着させる場合を説明する図であって、鋼管の管軸に垂直な断面での断面図である。
図5図4のB部の拡大図であり、鋼管の外周面に対して従来の磁気吸着装置を固定した場合に生じる隙間を示す断面図である。
図6】内径の異なる複数種類の鋼管の内周面に対して従来の磁気吸着装置を吸着させる場合を説明する図であって、鋼管の管軸に垂直な断面での断面図である。
図7図6のC部の拡大図であり、鋼管の内周面に対して従来の磁気吸着装置を固定した場合に生じる隙間を示す断面図である。
図8】同鋼管の外周面に対して第1実施形態の磁気吸着装置を固定した場合を示す図であって、鋼管の管軸に垂直な断面における断面図である。
図9】同第1実施形態の磁気吸着装置の変形例を示す図であって、同変形例に係る磁気吸着装置を鋼管の内周面に対して固定した場合を示す断面図である。
図10】本発明の第2実施形態を示す図であって、磁気吸着装置のヨークの吸着面の斜視図である。
図11】同第2実施形態の磁気吸着装置の変形例を示す図であって、磁気吸着装置のヨークの吸着面の斜視図である。
図12】本発明の第3実施形態を示す図であって、磁気吸着装置のヨークの側面図である。
図13】同磁気吸着装置を固定する際のヨークの動きを説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の磁気吸着装置の各実施形態を、図面に基づいて以下に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本第1実施形態を示す図であって、磁気吸着装置180をその中心軸線を含む断面で見た縦断面図である。図2は、同磁気吸着装置180の分解斜視図である。図3は、同磁気吸着装置180を示す図であって、図1のA-A断面図である。
本実施形態の磁気吸着装置180は、図1に示すように、吸着対象物1000に吸着する吸着面の形状が特に特徴的となっている。以下の説明では、先に、磁気吸着装置180の全体構成を主に図2及び図3に基づいて説明し、その後に、前記吸着面の特徴を続けて説明する。
【0015】
図2に示すように、本実施形態に係る磁気吸着装置180は、吸着装置本体180aと、吸着装置本体180aを設備機器等に固定するためのナット180bとを備えている。ボルト188は、吸着装置本体180aに螺合して使用され、磁気吸着装置180を吸着対象物に対して進退させることで吸着対象物に対する吸着力を調整する吸着力調整部材である。
【0016】
吸着装置本体180aは、図2及び図3に示すように、平面視リング状のNd-Fe-B系永久磁石(以下ネオジム磁石と称する。)111と、ネオジム磁石111を収容するキャップ状のヨーク181とを備えている。そして、ヨーク181の、ネオジム磁石111に対向する面とは反対側の面に、ねじ軸部186が形成されている。また、ヨーク181とネオジム磁石111との隙間には、防食部材142a、142bが設けられている。本実施形態において、ネオジム磁石111と、ネオジム磁石111に接触する防食部材142a、142bとが、耐腐食磁石176を構成している。
【0017】
耐腐食磁石176を構成する永久磁石としては、Nd-Fe-B系永久磁石に限らず、RE-Fe-M-B(REはNd、Y、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素、MはCo、Ti、Nb、Al、V、Mn、Sn、Ca、Mg、Pb、Sb、Zn、Si、Zr、Cr、Ni、Cu、Ga、Mo、W、Taからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素)で表記される鉄系の希土類永久磁石の他、Sm-Co磁石、フェライト磁石等も用いることができる。これらの永久磁石は、表面に樹脂膜やめっき膜が形成されていてもよい。
【0018】
防食部材142a、142bは、図3に示すように、いずれも平断面視でリング状に形成されており、ネオジム磁石111の外周面及び内周面をそれぞれ覆っている。本実施形態の防食部材142a、142bは、可撓性防食部材であり、本例では亜鉛粉末又は亜鉛合金粉末を樹脂材料等に混合してペースト状とした可撓性亜鉛陽極である。
【0019】
可撓性防食部材は、少なくとも塗布時に粘性を有するペースト状(パテ状)であればよい。つまり、塗布後の加熱処理や乾燥処理により固化するものであってもよい。さらには、塗布時には導電性を有しておらず、加熱処理や乾燥処理により導電性を発現するものであってもよい。
また、可撓性防食部材に含まれる金属粉末は、陽極電位、陽極効率、電解生成物の発生量、取り扱いの難易を考慮すると、亜鉛が最も適している。
【0020】
防食部材142a、142bは、50μm以上の厚さに形成することが好ましく、1mm以上の厚さとすることがより好ましい。防食部材142a、142bを1mm以上の厚さとすれば、極めて長期間にわたり防食作用を得られる。このような構成により、本実施形態の磁気吸着装置180は、水中や海中などの過酷な腐食環境でもネオジム磁石111に腐食を生じることなく使用できる。
【0021】
従来用いられているめっき膜の厚さ(5~20μm程度)では、大気中での使用にはほとんど問題がないが、水中や海中などの過酷な腐食環境では十分な防食作用を得られず、ネオジム磁石111が腐食するおそれがある。これに対して、上述した範囲の厚さの防食部材を備えていれば、十分な量の防食部材を備えた耐腐食磁石を構成することができ、長期間にわたり水中や海水中で使用しても腐食せず、吸着力を持続させることができる。
【0022】
ヨーク181は、ネオジム磁石111の背面側の磁石面に吸着する円盤状のバックヨーク部183と、ネオジム磁石111の外周面と対向する内周面を有する円筒状の外周ヨーク部184と、ネオジム磁石111の内周面と対向する外周面を有する内周ヨーク部185と、バックヨーク部183の、ネオジム磁石111に吸着する面とは反対側に設けられたねじ軸部186と、を一体に形成した構成を有する。そして、ヨーク181は、バックヨーク部183と外周ヨーク部184と内周ヨーク部185とにより形成された平面視リング状の溝部181b内に耐腐食磁石176を収容している。
【0023】
上記のようにリング状のネオジム磁石111の内周及び外周にそれぞれ内周ヨーク部185、外周ヨーク部184を設けていることで、本実施形態の磁気吸着装置180は、強力な吸着力を得られるようになっている。すなわち、このようなダブルヨーク構造を採用することで、ネオジム磁石111と内周ヨーク部185との間、及びネオジム磁石111と外周ヨーク部184との間のそれぞれに吸着部が形成され、ネオジム磁石111の磁力を効率よく吸着に利用することができるようになっている。
具体的には、上記構成のダブルヨーク構造の磁気吸着装置180は、内周ヨーク部185を設けないシングルヨーク構造の磁気吸着装置に比べて、約1.7倍もの高い吸着力が得られる。本実施形態では、このようにダブルヨーク構造を採用することで、寸法を大きくすることなく吸着力を大きく向上させており、重量の大きい設備機器であっても小型の磁気吸着装置で設置できるようになっている。
【0024】
また、ヨーク181の上記溝部181bは、図1に示すように、ネオジム磁石111の高さよりも大きい深さに形成されており、ヨーク181に耐腐食磁石176を収容した状態で、外周ヨーク部184及び内周ヨーク部185の開口側にある吸着面184a,185aが、ネオジム磁石111の表面よりも先端側(吸着対象物1000側)に突出している。
このようにネオジム磁石111よりもヨーク181を突出させておくことで、磁気吸着装置180を吸着対象物1000に吸着させたときの摩擦や衝撃からネオジム磁石111を保護することができ、ネオジム磁石111が摩耗したり割れたりするのを防止することができる。
【0025】
ねじ軸部186は、ヨーク181と一体に円筒状に形成されており、バックヨーク部183の外面の法線方向にねじ軸の延在方向が一致している。ねじ軸部186の外周面には、ナット180bを螺合するための雄ねじ部186aが形成されている。このねじ軸部186は、ナット180bとともに磁気吸着装置180を設備機器等に取り付ける部材として機能する。すなわち、設備機器等に設けられた支持金具(図1の符号S)のボルト穴Hにねじ軸部186を挿通してからナット180bにより締結することで、簡便に設備機器等に取り付けることができる。なお、図1の支持金具Sは紙面奥側に向かって延在し、そして設備機器に固定されている。よって、設備機器は、その支持金具Sにナット180bで固定された磁気吸着装置180が吸着対象物1000に磁気吸着することで、吸着対象物1000に対して固定される。
【0026】
ねじ軸部186には、ねじ軸部186を軸方向に貫通するねじ孔部181aが形成されている。ねじ孔部181aは、図1に示すように、ヨーク181のバックヨーク部183と内周ヨーク部185とを同軸に貫通している。すなわち、ねじ孔部181aは、吸着装置本体180aを高さ方向に貫通して形成されている。
【0027】
ねじ孔部181aの内側面には、ボルト188の雄ねじ部189と螺合する雌ねじ部が形成されている。ねじ孔部181aは、吸着装置本体180aを貫通しているので、ねじ孔部181aに十分な長さのボルト188を螺合させることで、ボルト188の先端部を内周ヨーク部185の先端から突出させることができる。また、ボルト188を軸回りに正回転または逆回転させることで、吸着面185aからのボルト188の突出長さを自在に調整することができる。
【0028】
ねじ軸部186の雄ねじ部186aに螺合されるナット180bは、緩み止めナットであり、本実施形態の場合、図2に示すように、ナット180bのねじ穴と同軸のフリクションリング187が設けられている。フリクションリング187は、ねじ穴の中心部側に突出する爪部を有しており、ナット180bをねじ軸部186に螺合することで前記爪部が雄ねじ部186aのねじ山に接して変形し、この変形により生じる反力によって雄ねじ部186aを押圧するようになっている。そして、フリクションリング187と雄ねじ部186aとの間に生じる摩擦力によってナット180bの自由回動が制限され、ナット180bが緩むのを防止するようになっている。
なお、ナット180bの緩み止め構造は特に限定されず、フリクションリングを用いたもののほか、スプリングワッシャを用いた構造や、ダブルナット構造、樹脂リングを用いた構造など、種々のものを用いることができる。
【0029】
バックヨーク部183には、バックヨーク部183を貫通してネオジム磁石111に達するねじ孔部(貫通孔)183aが複数形成されている。これらねじ孔部183aは、ヨーク181にネオジム磁石111を収容する際に使用するものであり、ねじ孔部183aにボルト(不図示)を挿通してヨーク181の内側にボルトの先端を突出させておくことで、ヨーク181の開口側に配置したネオジム磁石111がバックヨーク部183に吸着するのを規制する。これにより、ネオジム磁石111を配置する際にヨーク181の内部に引き込まれてバックヨーク部183に衝突し、その衝撃によってネオジム磁石111が割れたり、欠けたりするのを防止するようになっている。
【0030】
ネオジム磁石111をバックヨーク部183に吸着させた後のねじ孔部183aには、防食部材(不図示)が設けられる。上述したように、ねじ孔部183aは製造時の磁石の組み付け、あるいは解体時の磁石の取り外し以外にはほとんど使用されない。そこで、ねじ孔部183aにネオジム磁石111と接触するように防食部材を配することで、ネオジム磁石111の腐食を効果的に防止することができる。また、ねじ孔部183aを介した磁束の漏洩を低減できるので、磁力の利用効率を高めるとともに、他の部材に対して磁力が作用することも防止できる。なお、ネオジム磁石111に衝撃を加えることなくヨーク181の内部に収容できるのであれば、ねじ孔部183aを省略してもよい。その場合は、バックヨーク部183から貫通孔が無くなるので、貫通孔を埋める防食部材も不要となる。
【0031】
以上説明の構成を備えた磁気吸着装置180では、バックヨーク部183から突出して設けられたねじ軸部186に形成されたねじ孔部181aと、ねじ孔部181aに螺合されるボルト188とによって、強い磁力を有するネオジム磁石111による吸着力の高さを制御し、安全かつ確実に吸着対象物に吸着させることができるようになっている。
【0032】
すなわち、この磁気吸着装置180を図1に示すように吸着させる場合は、まず、吸着装置本体180aのねじ孔部181aに、ねじ軸部186の上端からボルト188を螺合し、ボルト188の先端を内周ヨーク部185の先端から突出させた状態とする。このとき、ボルト188の突出長さは、磁気吸着装置180の吸着力にもよるが、5mm~8mmを例示できる。
【0033】
そして、ボルト188の先端を突出させた状態の磁気吸着装置180を、吸着対象物1000に接近させる。すると、突出したボルト188の先端が吸着対象物1000の表面に突き当たって、磁気吸着装置180と吸着対象物1000との接触が妨げられ、磁気吸着装置180と吸着対象物1000とが、ギャップを介して離間された状態に保持される。このとき、磁気吸着装置180は、吸着対象物1001に対して弱い力で引き寄せられるか、あるいは全く引き寄せられない状態となる。
【0034】
その後、ボルト188の頭部を回動してボルト188を後退させると、磁気吸着装置180と吸着対象物1000とのギャップが徐々に小さくなり、それに伴って両者の引き合う力も大きくなる。そして、ボルト188を、その先端が内周ヨーク部185から突出しない位置まで後退させると、図1に示すように、外周ヨーク部184及び内周ヨーク部185の吸着面が吸着対象物1000に当接する。これにより、磁気吸着装置180がその吸着面において吸着対象物1000に吸着した状態となる。このようにして磁気吸着装置180を吸着対象物1000に吸着させる過程においては、図1の中心軸線CL回りにおける磁気吸着装置180の位置決めを自動的に行うことができる。その詳細については、図8の説明において後述する。
【0035】
一方、磁気吸着装置180を吸着対象物1001から取り外す場合には、図1に示す吸着状態において、ボルト188を軸回りに回転させてボルト188の先端部を吸着対象物1000側に進出させる。すると、磁気吸着装置180と吸着対象物1000との間にギャップを形成することができる。磁気吸着装置180に用いられているネオジム磁石111は、極めて強力な吸着力を有するため、人手では直接引き離すのは困難であるが、磁気吸着装置180の吸着力はヨーク181と吸着対象物1000とのギャップの2乗に反比例するため、数mmのギャップを形成するだけで人手でも容易に引き離せるようになる。
以上に説明のように、本実施形態の磁気吸着装置180は、吸着対象物1000への取り付け、取り外し、あるいは位置調整を、容易かつ安全に行うことが可能である。
【0036】
以上説明の全体構成に続いて、本実施形態の磁気吸着装置180の特徴点を続けて説明する。この磁気吸着装置180では、外周ヨーク部184及び内周ヨーク部185の先端形状、より具体的には吸着対象物1000に接する吸着面の形状が特に特徴的となっている。以下では、この特徴にも基づく作用効果を詳しく説明するために、従来構造の磁気吸着装置と対比しながら説明する。
【0037】
まず、現在市販されている磁石類は、全て、平滑な面に吸着させることを前提にして造られている。そのため、従来の磁気吸着装置のヨークにおいても、その吸着面としては必然的に平坦面が採用されてきた。このような平坦面を吸着面として持つ従来の磁気吸着装置を、円筒面または球面の曲率を有する吸着対象(取水管、送水管、ペンストック、鋼管矢板、鋼管杭、タンク等)に吸着させようとすると、この吸着対象と吸着面との間において部分的な隙間がどうしても生じてしまう。上述した通り、吸着力はヨークと吸着対象物とのギャップの2乗に反比例するため、部分的であるとはいえ、隙間が生じることは吸着力の観点から好ましくない。
【0038】
この問題点について、図4図7に示す従来の磁気吸着装置を用いて説明する。ここで、図4は、外径の異なる複数種類の鋼管の外周面に対して磁気吸着装置を吸着させる場合を説明する図であって、鋼管の管軸に垂直な断面での断面図である。図5は、図4のB部の拡大図であり、鋼管の外周面に対して従来の磁気吸着装置を固定した場合に生じる隙間を示す断面図である。図6は、内径の異なる複数種類の鋼管の内周面に対して従来の磁気吸着装置を吸着させた場合を説明する図であって、鋼管の管軸に垂直な断面での断面図である。図7は、図6のC部の拡大図であり、鋼管の外周面に対して従来の磁気吸着装置を固定した場合に生じる隙間を示す断面図である。
【0039】
ここで示している従来の磁気吸着装置は、本実施形態の磁気吸着装置180に一部類似した構成を有するものであるが、図4図7では、両者の相違点を明確にする目的で、前記吸着装置本体180aに対応する吸着装置本体180aCのみを図示している。この従来の吸着装置本体180aCは、図5に示すように、その吸着面184aC,185aCが共に平面をなしている。これら吸着面184aC,185aCは、互いに同軸をなすリング状の平面である。吸着面184aCは外周ヨーク部184Cの先端に形成されており、吸着面185aCは内周ヨーク部185Cの先端に形成されている。そして、これら吸着面184aC,185aCは、吸着装置本体180aCの中心軸線CLに垂直をなす同じ平面内に配置されている。したがって、もし被吸着面が平面であれば、これら吸着面184aC,185aCは隙間無く被吸着面に接して吸着することができる。
【0040】
一方、被吸着面が凸型の円の曲率を有する場合、すなわち図4に示すように被吸着面が鋼管1001の外周面である場合は、鋼管1001の外径に応じて、図5に示す隙間gが生じる。ここで、鋼管1001の外径が小さくなるほど平坦な状態から外れていくため、図4の場合においては、外径がφ2000mm、φ1000mm、φ600mmの順に隙間gが大きくなっていく。ここで、隙間gが具体的にどのような値になるかについての計算例を下記の表1に示す。隙間gの大きさをD(mm)、従来の磁気吸着装置の外周ヨーク部184Cの外形の半径をC(mm)、被吸着面の半径をr(mm)とした場合、隙間gの大きさD(mm)は下記の式1で示される。
【0041】
【表1】
【0042】
D=C/(2×r)・・・(式1)
【0043】
図5に示す通り、被吸着面が凸型の円筒面をなす曲率を有する場合は、中心軸線CLから遠ざかるに従って隙間gが大きくなり、実質的に内周ヨーク部185Cの吸着面185aCと、外周ヨーク部184Cの吸着面184aC上で被吸着面に接する2点のみにおいて吸着した状態となる。したがって、平坦な被吸着面に吸着させる場合に比べて、吸着力が大幅に低下している。
なお、凸型の球面の曲率を有する被吸着面に対して従来の磁気吸着装置を吸着させる場合には、吸着面184aC上で被吸着面に接していた上記2点の吸着箇所すらも失うことになるので、吸着力の低下はより顕著なものとなる。
【0044】
上記の問題は、被吸着面が凹型の円筒面をなす曲率を有する場合も同様に生じ、むしろより厳しくなる。すなわち、図6に示すように被吸着面が鋼管1001の内周面である場合は、鋼管1001の内径に応じて、図7に示す隙間gが生じる。ここで、鋼管1001の内径が小さくなるほど平坦な状態から外れていくため、図6の場合においては、内径がφ2000mm、φ1000mm、φ600mmの順に隙間gが大きくなっていく。
図7に示す通り、被吸着面が凹型の円筒面をなす曲率を有する場合は、中心軸線CLに近付くに従って隙間gが大きくなり、実質的に外周ヨーク部184の吸着面184aC上で被吸着面に接する2点のみにおいて接した状態となる。よって、内周ヨーク部185の吸着面185aCが被吸着面から完全に離れている上に、外周ヨーク部184においても被吸着面に接するのはわずか2点だけとなっている。したがって、この場合も、平坦な被吸着面に吸着させる場合に比べて、吸着力が大幅に低下することになる。
【0045】
なお、凹型の球面をなす曲率を有する被吸着面に対して従来の磁気吸着装置を吸着させる場合も、内周ヨーク部185Cの吸着面185aCが被吸着面から完全に離れてしまう点は同様であるため、やはり、十分な吸着力が得られにくい。因みに、図4図7では、従来の磁気吸着装置の吸着面184aC,185aCが共に円形である場合を例示しているが、たとえこれらを長方形等にした箱形のヨークに形状変更しても、吸着力低下の問題は解消できない。
以上説明の理由により、従来の磁気吸着装置の取付箇所は今まで平坦面に限定されていた。そのため、円筒面または球面をなす曲率を有する吸着対象へ取り付けることまでは今まで想定されておらず、磁気吸着装置の適用範囲を限定的なものとしていた。しかし、上記に例示したように、実際の現場では、吸着対象の被吸着面が円筒面または球面をなす曲率を有する場合も多い。そのため、従来の磁気吸着装置を適用するのであれば、曲率を有する被吸着面を予め研削して平坦面を形成しておくことが考えられるが、それには多大な手間を要するという別の問題を招くことになる。
【0046】
上記従来の磁気吸着装置に対し、本実施形態の磁気吸着装置180は、図8に示すように、その吸着装置本体180aが隙間無く吸着可能となっている。なお、図8は、鋼管1001の外周面に対して磁気吸着装置180を固定した場合を示す図であって、鋼管1001の管軸に垂直な断面における断面図である。図8において、鋼管1001の管軸方向は紙面に垂直な方向である。よって、鋼管1001の外周面は、図8の紙面に垂直な視線では凸側の湾曲面となっており、凸型の円筒面をなす曲率を有する被吸着面を形成している。なお、本図においても、説明のために磁気吸着装置180のうちの吸着装置本体180aのみを図示している。
【0047】
本実施形態の吸着装置本体180aは、図8に示すように、その吸着面184a,185aが共に凹型の湾曲面をなしている。吸着面184aは外周ヨーク部184の先端に形成されており、吸着面185aは内周ヨーク部185の先端に形成されている。これら吸着面(第1湾曲面)184a及び吸着面(第2湾曲面)185aは、これらを対向視した場合、互いに同軸をなすリング状の面をなしている。一方、これら吸着面184a,185aを側面視した場合(あるいは鋼管1001の管軸に垂直な断面で見た場合)は、凹型の湾曲面をなしている。吸着面184a,185aは、円筒の内周面に形成される同一の凹型湾曲面上に双方が含まれるように、その形状及び向きが定められている。よって、これら吸着面184a,185aは、互いに曲率半径が等しい同一湾曲形状を有している。
【0048】
ここで、図8に示す断面において、吸着面184a,185aの位置から見て、ネオジム磁石111に近付く方向を接近方向、ネオジム磁石111から遠ざかる方向を離間方向とする。この場合、吸着面184a,185aは中心軸線CLに近付くほど前記接近方向に向かい、その一方で中心軸線CLから離れるほど前記離間方向に向かう。
【0049】
よって、図8の紙面左側から紙面右側に沿って見た場合、吸着面184aにおいては、その左端位置において最も前記離間方向に離れており、紙面右側に向かって中心軸線CLに近付くにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置に接近し、そして中心軸線CLの位置で最も前記接近方向の位置に達する。続いて、この吸着面184aは、中心軸線CLの位置を過ぎて紙面右側に向かって中心軸線CLから遠ざかるにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置から離れていき、そして右端位置で最も前記離間方向に離れた位置に達する。吸着面184aの左端位置及び右端位置は、前記離間方向における位置が互いに同じである。
同様に、吸着面185aにおいても、その左端位置において最も前記離間方向に離れており、紙面右側に向かって中心軸線CLに近付くにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置に接近し、そして中心軸線CLの位置で最も前記接近方向の位置に達する。続いて、この吸着面185aは、中心軸線CLの位置を過ぎて紙面右側に向かって中心軸線CLから遠ざかるにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置から離れていき、そして右端位置で最も前記離間方向に離れた位置に達する。吸着面185aの左端位置及び右端位置は、前記離間方向における位置が互いに同じである。ただし、吸着面185aは吸着面184aよりも中心軸線CLに近い位置にあるため、図8の断面で見た場合、吸着面185aの左端位置及び右端位置は、吸着面184aの左端位置及び右端位置よりも前記接近方向にある。すなわち、吸着面185aは、吸着面184aよりも奥側に凹んだ位置に配置されている。
【0050】
一方、吸着装置本体180aを、鋼管1001の管軸を含んでかつ図8の紙面に垂直な断面で見た場合は、吸着面184a,185aが、共に、鋼管1001の管軸に平行な直線状となっている。
このように、吸着面184a,185aは、鋼管1001の管軸に垂直な断面で見た場合と、鋼管1001の管軸に平行な断面で見た場合との何れにおいても、鋼管1001の外周面に対して隙間無く密接している。そのため、隙間の2乗に伴って減衰する吸着力の減退が吸着装置本体180aの周方向の何れの位置でも生じない。したがって、ネオジム磁石111の磁力を無駄なく有効活用して磁気吸着装置180本来の強力な吸着力を発揮することができる。したがって、取水管、送水管、ペンストック、鋼管矢板、鋼管杭、タンク等、円の曲率を有する被吸着面に対して強固に吸着可能な磁気吸着装置180とすることが可能になる。
【0051】
また、この磁気吸着装置180によれば、上述したように、この磁気吸着装置180を鋼管1001に吸着させる過程において、図8の中心軸線CL回りにおける磁気吸着装置180の位置決めを自動的に行うことができる。
すなわち、図8に例示する鋼管1001は、紙面に垂直な中心軸線を持つ円筒形状を有するので、その被吸着面が図8の断面では円弧状をなしているが、紙面に垂直な断面では直線形状をなしている。よって、被吸着面上の一点に対して垂直な方向が磁気吸着装置180の中心軸線CLと合致するように設定した場合、この中心軸線CL回りの周方向各位置では、中心軸線CLを含む断面で見た場合の被吸着面の形状が互いに異なったものとなっている。
【0052】
同様に、磁気吸着装置180の吸着面184aも、図8の断面では鋼管1001の被吸着面と同じ曲率半径を有する円弧状をなしているが、その一方で紙面に垂直な断面では鋼管1001の被吸着面と同じく直線形状をなしている。よって、中心軸線CL回りの周方向各位置では、中心軸線CLを含む断面で見た場合の吸着面184aの形状が互いに異なったものとなっている。この点は吸着面185aも同様であり、図8の断面では鋼管1001の被吸着面と同じ曲率半径を有する円弧状をなしているが、紙面に垂直な断面では鋼管1001の被吸着面と同じく直線形状をなしている。よって、中心軸線CL回りの周方向各位置では、中心軸線CLを含む断面で見た場合の吸着面185aの形状が互いに異なったものとなっている。
【0053】
以上説明のように、鋼管1001の被吸着面及び吸着面184a,185aの双方とも、中心軸線CLの周方向各位置における断面形状が異なる。そのため、これら鋼管1001の被吸着面と吸着面184a,185aとは、互いに同じ曲率を持つ断面形状を有するものの、中心軸線CL回りの周方向に沿った回転位置が一致していないと、互いに密着しないことになる。しかし、本実施形態の磁気吸着装置180では、ネオジム磁石111の高い吸着力によって吸着面184a,185aを鋼管1001の被吸着面に対して強く押し付けるので、鋼管1001の被吸着面に対して吸着面184a,185aの中心軸線CL回りの位置が多少ずれていたとしても、吸着面184a,185aが鋼管1001の被吸着面の傾斜した表面に導かれながら自動的に回転し、そして最終的には吸着面184a,185aが鋼管1001の被吸着面に対して隙間無く合致する。このように、特別な工程を要することなく、磁気吸着装置180を隙間無く取り付けることができるので、ネオジム磁石111の吸着力を損なうことなく発揮させることが可能である。
【0054】
なお、図8では、鋼管1001の外周面に対して吸着させる構成を例示したが、この構成のみに限らず、図9の変形例に示すように、鋼管1001の内周面に吸着させる構成も採用可能である。
この変形例の吸着装置本体180aでは、図9に示すように、その吸着面184b,185bが共に凸型の湾曲面をなしている。吸着面184bは外周ヨーク部184の先端に形成されており、吸着面185bは内周ヨーク部185の先端に形成されている。これら吸着面(第1湾曲面)184b及び吸着面(第2湾曲面)185bは、これらを対向視した場合、互いに同軸をなすリング状の面をなしている。一方、これら吸着面184b,185bを側面視した場合(あるいは鋼管1001の管軸に垂直な断面で見た場合)は、凸型の湾曲面をなしている。吸着面184b,185bは、円筒の外周面に形成される同一の凸型湾曲面上に双方が含まれるように、その形状及び向きが定められている。よって、これら吸着面184b,185bは、互いに曲率半径が等しい同一湾曲形状を有している。
【0055】
ここで、図9に示す断面において、吸着面184b,185bの位置から見て、ネオジム磁石111に近付く方向を接近方向、ネオジム磁石111から遠ざかる方向を離間方向とする。この場合、吸着面184b,185bは、中心軸線CLに近付くほど前記離間方向に向かい、その一方で中心軸線CLから離れるほど前記接近方向に向かう。
【0056】
よって、図9の紙面左側から紙面右側に沿って見た場合、吸着面184bにおいては、その左端位置において最も前記接近方向に近付いており、紙面右側に向かって中心軸線CLに近付くにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置から離れていき、そして中心軸線CLの位置で最も前記離間方向の位置に達する。続いて、この吸着面184bは、中心軸線CLの位置を過ぎて紙面右側に向かって中心軸線CLから遠ざかるにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置に近付いていき、そして右端位置で最も前記接近方向に近付いた位置に達する。吸着面184bの左端位置及び右端位置は、前記接近方向における位置が互いに同じである。
同様に、吸着面185bにおいても、その左端位置において最も前記接近方向に近付いており、紙面右側に向かって中心軸線CLに近付くにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置から離れていき、そして中心軸線CLの位置で最も前記離間方向の位置に達する。続いて、この吸着面185bは、中心軸線CLの位置を過ぎて紙面右側に向かって中心軸線CLから遠ざかるにしたがって緩やかにネオジム磁石111の位置に近付いていき、そして右端位置で最も前記接近方向に近付いた位置に達する。吸着面185bの左端位置及び右端位置は、前記離間方向における位置が互いに同じである。ただし、吸着面185bは吸着面184bよりも中心軸線CLに近い位置にあるため、図9の断面で見た場合、吸着面185bの左端位置及び右端位置は、吸着面184bの左端位置及び右端位置よりも前記離間方向に突出している。すなわち、吸着面185bは、吸着面184bよりも外側に突出した位置に配置されている。
【0057】
一方、吸着装置本体180aを、鋼管1001の管軸を含んでかつ図9の紙面に垂直な断面で見た場合は、吸着面184b,185bが、共に、鋼管1001の管軸に平行な直線状となっている。
このように、吸着面184b,185bは、鋼管1001の管軸に垂直な断面で見た場合と、鋼管1001の管軸に平行な断面で見た場合との何れにおいても、鋼管1001の内周面に対して隙間無く密接している。そのため、隙間の2乗に伴って減衰する吸着力の減退が吸着装置本体180aの周方向の何れの位置でも生じない。したがって、この変形例においても、ネオジム磁石111の磁力を無駄なく有効活用して磁気吸着装置180本来の強力な吸着力を発揮することができる。
【0058】
また、この磁気吸着装置180によれば、上述したように、この磁気吸着装置180を鋼管1001に吸着させる過程において、図9の中心軸線CL回りにおける磁気吸着装置180の位置決めを自動的に行うことができる。そのメカニズムについては、図8の構成について説明した内容と同じである。
すなわち、本実施形態の磁気吸着装置180では、ネオジム磁石111の高い吸着力によって吸着面184b,185bを鋼管1001の被吸着面に対して強く押し付けるので、鋼管1001の被吸着面に対して吸着面184b,185bの中心軸線CL回りの位置が多少ずれていたとしても、吸着面184b,185bが鋼管1001の被吸着面の傾斜した表面に導かれながら自動的に回転する。すなわち、吸着面184b,185bに含まれる傾斜面と鋼管1001の被吸着面に含まれる傾斜面とが擦れ合いながら両社が合致するまで回転していく。その結果、吸着面184b,185bが鋼管1001の被吸着面に対して隙間無く合致する。このように、特別な工程を要することなく、磁気吸着装置180を隙間無く取り付けることができるので、ネオジム磁石111の吸着力を損なうことなく発揮させることが可能である。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の磁気吸着装置の第2実施形態を、図10を用いて以下に説明する。なお、図10は、本第2実施形態の磁気吸着装置180に備わるヨーク181の吸着面184c,185cの斜視図であり、説明のためにその他構成要素は図示を省略している。
上記第1実施形態では、固定後の前記吸着面184a,185aが、鋼管1001の管軸に垂直な断面で見た場合のみ湾曲して見える二次元的な湾曲面で構成されていた。これに対し、本実施形態の吸着面184c,185cは、三次元的な湾曲面で構成されている。すなわち、吸着面184c,185cは、中心軸線CLを含む全ての断面において、図8で示した吸着面184a,185aと同じ形をなす凹型の湾曲面となっている。したがって、図10において、吸着面184c,185cに沿った湾曲線S1及び中心軸線CLを含む断面で見た場合、及び、吸着面184c,185cに沿った湾曲線S2及び中心軸線CLを含む断面で見た場合、の何れにおいても、吸着面184c,185cは、図8に示した吸着面184a,185aの断面形状と同じになっている。吸着面184c,185cは、中空球体の内周面に形成される同一の凹型湾曲面上に双方が含まれるように、その形状及び向きが定められている。よって、これら吸着面184c,185cは、互いに曲率半径が等しい同一湾曲形状を有している。
【0060】
この吸着面184c,185cを有するヨーク181を磁気吸着装置180に採用することにより、吸着対象物の被吸着面が凸型の球面であっても、全面において隙間無く密接させることができる。そのため、上述した隙間の2乗に伴って減衰する吸着力の減退が、本実施形態では、吸着装置本体180aの周方向の何れの位置でも生じない。したがって、本実施形態においても、ネオジム磁石111の磁力を無駄なく有効活用して磁気吸着装置180本来の強力な吸着力を発揮することができる。
【0061】
なお、図10では、凸型の球面に対して吸着させるために、吸着面184c,185cの形状を凹型の球面の一部とする構成を例示したが、この構成のみに限らない。例えば、図11の変形例に示すように、凹型の球面に対して吸着させるために、吸着面184d,185dの形状を凸型の球面の一部とする構成を採用してもよい。本変形例の吸着面184d,185dは、三次元的に凸型の湾曲面で構成されている。すなわち、吸着面184d,185dは、中心軸線CLを含む全ての断面において、図9で示した吸着面184b,185bと同じ形をなす凸型の湾曲面となっている。したがって、図11において、吸着面184d,185dに沿った湾曲線S1及び中心軸線CLを含む断面で見た場合、及び、吸着面184d,185dに沿った湾曲線S2及び中心軸線CLを含む断面で見た場合、の何れにおいても、吸着面184d,185dは、図9に示した吸着面184b,185bの断面形状と同じになっている。吸着面184d,185dは、中空球体の外周面に形成される同一の凸型湾曲面上に双方が含まれるように、その形状及び向きが定められている。よって、これら吸着面184d,185dは、互いに曲率半径が等しい同一湾曲形状を有している。
【0062】
この吸着面184d,185dを有するヨーク181を磁気吸着装置180に採用することにより、吸着対象物の被吸着面が凹型の球面であっても、全面において隙間無く密接させることができる。そのため、上述した隙間の2乗に伴って減衰する吸着力の減退が、本実施形態では、吸着装置本体180aの周方向の何れの位置でも生じない。したがって、本変形例においても、ネオジム磁石111の磁力を無駄なく有効活用して磁気吸着装置180本来の強力な吸着力を発揮することができる。
【0063】
(第3実施形態)
本発明の磁気吸着装置の第3実施形態を、図12及び図13を用いて以下に説明する。なお、図12は、本実施形態の磁気吸着装置のヨークの側面図である。図13は、同磁気吸着装置を固定する際のヨークの動きを説明する側面図である。
上記第1実施形態及び上記第2実施形態では、磁気吸着装置の吸着面が凹型の湾曲面あるいは凸型の湾曲面の何れか一方のみを持つ場合を例示した。これに対し、本実施形態では、図12に示すように、吸着対象物の被吸着面に合わせて、凹型の湾曲面及び凸型の湾曲面の両方を併せ持つ構成としている。この構成によれば、図13に示すように、凹型の湾曲面及び凸型の湾曲面の両方を有する被吸着面を持つ吸着対象物1002に対して、隙間無く磁気吸着装置180の吸着面184e,185eを吸着させることができる。
【0064】
吸着対象物1002は、図13において紙面垂直方向に長い鋼材であり、長手方向に垂直な断面で見た場合の形状が、図13に示すように波形の外面を有している。このような波形の吸着面に対して平坦な吸着面を持つ従来の磁気吸着装置を吸着させた場合は隙間が生じる。これに対し、本実施形態の磁気吸着装置180は、波形の吸着面184eと凸型の吸着面185eとを有するので、被吸着面に対して隙間無く密着可能となっている。
【0065】
すなわち、吸着面184eは、外周ヨーク部184の先端に形成されており、波形の被吸着面と合致する波形の凹凸湾曲面を有する。一方、吸着面185eは、内周ヨーク部185の先端に形成されており、被吸着面のうちで凹型に湾曲した部分に合致するよう、凸型の湾曲面を有する。これら吸着面(第1湾曲面)184e及び吸着面(第2湾曲面)185eは、これらを対向視した場合、互いに同軸をなすリング状の面をなしている。その他構成については、上記第1実施形態で説明した構成と同じである。
本実施形態の磁気吸着装置180を被吸着面に吸着させた場合、図13に示すように、磁気による吸着力を利用して、磁気吸着装置180の凹凸湾曲面と被吸着面の凹凸湾曲面とが自然と互いに合致する調整作用を得ることが可能である。
【0066】
すなわち、ネオジム磁石111の高い吸着力によって吸着面184e,185eを吸着対象物1002の被吸着面に対して強く押し付けるので、波形の被吸着面に対して吸着面184e,185eの中心軸線CLの位置が多少ずれていたとしても、吸着面184e,185eが被吸着面の傾斜した表面に導かれながら自動的に移動し、そして最終的には吸着面184e,185eが被吸着面に対して隙間無く合致する。このように、特別な工程を要することなく、磁気吸着装置180を隙間無く取り付けることができるので、ネオジム磁石111の吸着力を損なうことなく発揮させることが可能である。
【0067】
以上説明の各実施形態の骨子を以下に纏める。
(1)図1に例示したように、本発明の一態様は、ネオジム磁石(永久磁石)111と、ネオジム磁石111を抱持するヨーク181とを備えた磁気吸着装置180であって、ヨーク181が、ネオジム磁石111と吸着するバックヨーク部183と、バックヨーク部183と一体に形成されてネオジム磁石111を取り囲む外周ヨーク部184とを有し、外周ヨーク部184の吸着面184aが第1湾曲面を含む。
上記(1)に記載の磁気吸着装置180によれば、その吸着面184aが鋼管(吸着対象物)1001の表面形状に合わせた第1湾曲面を有するので、吸着面184aを鋼管1001に対して隙間無く重ねることができる。その結果、隙間に伴う吸着力の低下を抑制できるので、ネオジム磁石111が持っている本来の吸着力を発揮できる。
【0068】
(2)図10及び図11に例示したように、上記(1)に記載の磁気吸着装置180において、第1湾曲面が、中空球体の外周面あるいは内周面の一部をなす湾曲形状を含んでもよい。言い換えると、吸着面184aを対向視して互いに直交する2本の交差軸(湾曲線S1,S2)の一方を含む断面及び他方を含む断面の双方において、第1湾曲面が、ネオジム磁石111に接近する方向またはネオジム磁石111から離間する方向に向かう凸状に湾曲している構成を採用してもよい。
上記(2)に記載の磁気吸着装置180の場合、吸着対象物の表面形状が凸型の球状湾曲面または凹型の球状湾曲面の何れであっても、磁気吸着装置180の吸着面184aを隙間無く重ねることができる。
【0069】
(3)図8及び図9に例示したように、上記(1)に記載の磁気吸着装置180において、第1湾曲面が、円筒の外周面あるいは内周面の一部をなす湾曲形状を含んでもよい。言い換えると、吸着面184aを対向視して互いに直交する2本の交差軸(湾曲線S1,S2)の一方を含む断面においては、第1湾曲面がネオジム磁石111に接近する方向またはネオジム磁石111から離間する方向に向かう凸状に湾曲し、前記2本の交差軸の他方を含む断面においては、吸着面(第1湾曲面)184aが直線状である構成を採用してもよい。
上記(3)に記載の磁気吸着装置180の場合、吸着対象物の表面形状が凸型の円筒湾曲面または凹型の円筒湾曲面の何れであっても、磁気吸着装置180の吸着面184aを隙間無く重ねることができる。
【0070】
(4)図8及び図9に例示したように、上記(1)~上記(3)の何れか1項に記載の磁気吸着装置180において、以下のように構成してもよい:ネオジム磁石111がリング状であり;ネオジム磁石111を貫通する内周ヨーク部185がバックヨーク部183に一体に形成され;内周ヨーク部185の吸着面185aが第2湾曲面を含む。
上記(4)に記載の磁気吸着装置180の場合、吸着対象物の表面形状に合わせた吸着面(第1湾曲面)184a及び吸着面(第2湾曲面)185aの双方を隙間無く重ねることができる。その結果、内周ヨーク部185の装備に伴う吸着力の向上を効果的に発揮できる。
【0071】
(5)図8及び図9に例示したように、上記(4)に記載の磁気吸着装置180において、吸着面(第1湾曲面)184a及び吸着面(第2湾曲面)185aが、互いに曲率半径が等しい同一の湾曲形状を有してもよい。
上記(5)に記載の磁気吸着装置180の場合、吸着対象物の表面形状に対する吸着面(第1湾曲面)184a及び吸着面(第2湾曲面)185aの隙間管理を容易かつ高精度に行うことができる。
【0072】
なお、上記各実施形態においては、吸着面184a~184eの全面が湾曲面(第1湾曲面)を構成し、そして吸着面185a~184eの全面が湾曲面(第2湾曲面)を構成している場合を例示した。しかし、この形態に限らず、吸着面184a~184eの一部分のみが湾曲面(第1湾曲面)を構成し、そして吸着面184a~184eの一部分のみが湾曲面(第2湾曲面)を構成してもよい。すなわち、吸着面184a~184e及び吸着面184a~184eは、少なくとも一部が湾曲面を有する前提の下、この湾曲面に連なる平坦面、凹型あるいは凸型の角部等による不連続部が、部分的に含まれる構成としてもよい。
【0073】
また、上記各実施形態においては、吸着面184a~184eの形状を、対向視でリング形状としたが、円形のみに限らず、矩形や楕円形等のその他の形状を採用してもよい。吸着面184a~184eの形状として例えば四角枠形状を採用した場合、この四角枠形状が正方形であっても良いし、あるいは長方形であってもよい。
【0074】
また、以上に説明した各実施形態の磁気吸着装置180は、陸上、海中を問わず、種々の用途に用いることができる。例えば、土木、建築用途では、鉄柱や鉄板などの鋼構造物の組み付けや、鋼構造物に対する付属品の取り付け等に好適に用いることができる。この用途では、従来、溶接、リベット、ボルト締結等の加工手段を用いて組み付けや取り付けを行っていたが、本発明の磁気吸着装置を採用すれば、これらを強力に吸着させて上記加工手段による施工と同等の強度を得られるので、工期の短縮や作業効率の向上といった効果が得られる。さらには、必要に応じて取り外すこともできるため、作業足場の設置等に用いれば、撤収作業をも迅速に行えるようになる。
【符号の説明】
【0075】
111…ネオジム磁石(永久磁石)
180…磁気吸着装置
181…ヨーク
183…バックヨーク部
184…外周ヨーク部
184a…吸着面、第1湾曲面
185a…吸着面、第2湾曲面
185…内周ヨーク部
【要約】
【課題】吸着対象物の表面形状が平面以外の場合でも本来の吸着力を発揮できる磁気吸着装置の提供を目的とする。
【解決手段】この磁気吸着装置180は、ネオジム磁石111と、ネオジム磁石111を抱持するヨーク181とを備え、ヨーク181が、ネオジム磁石111と吸着するバックヨーク部183と、バックヨーク部183と一体に形成されてネオジム磁石111を取り囲む外周ヨーク部184とを有し、外周ヨーク部184の吸着面184aが第1湾曲面を含む。
【選択図】図1
図1
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