(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】アクチュエータ用エラストマー組成物、アクチュエータ部材、およびアクチュエータ素子
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20240906BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F03G7/06 G
C08L23/08
(21)【出願番号】P 2021542012
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020838
(87)【国際公開番号】W WO2021038993
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019157196
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】知野 圭介
(72)【発明者】
【氏名】奥崎 秀典
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-201993(JP,A)
【文献】特開2009-269985(JP,A)
【文献】特開2013-127035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
F03G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギー量の変化のみで動作可能なアクチュエータ素子であって、
前記アクチュエータ素子が、アクチュエータ部材とヒーター層とを備えてなり、
前記アクチュエータ部材が、
エントロピー弾性係数が3.0kPa/K以上であり、かつ、
エチレン・プロピレンゴム、エチレン・ブテンゴム、エチレン・オクテンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、エチレン・ブテン・ジエンゴム、およびエチレン・オクテン・ジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種であるポリマーを含むアクチュエータ用エラストマー組成物から形成されてなる、アクチュエータ素子。
【請求項2】
前記ポリマーが、エチレン・プロピレン・ジエンゴムである、請求項1に記載のアクチュエータ素子。
【請求項3】
前記ポリマー中のエチレン含有量が45質量%以上である、請求項1または2に記載のアクチュエータ素子。
【請求項4】
前記ポリマー中のエチレン含有量が50質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項5】
前記ポリマー中のエチレン含有量が72質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項6】
前記ポリマーが、架橋剤を用いて架橋されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項7】
前記架橋剤が、過酸化物系架橋剤または硫黄系架橋剤である、請求項6に記載のアクチュエータ素子。
【請求項8】
前記アクチュエータ部材が、フィルム状、シート状、板状、または棒状である、請求項1~7のいずれか一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項9】
前記ヒーター層が、発熱体からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項10】
前記発熱体が、ジュール熱を用いた抵抗発熱体からなる、請求項
9に記載のアクチュエータ素子。
【請求項11】
前記アクチュエータ素子が、前記アクチュエータ部材と前記ヒーター層との間に、熱伝導層をさらに備える、請求項1~10のいずれか一項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項12】
前記熱伝導層が、放熱材からなる、請求項11に記載のアクチュエータ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ用エラストマー組成物に関し、より詳細には熱エネルギー量の変化のみで動作可能なアクチュエータに用いられるエラストマー組成物に関する。また、本発明は、該アクチュエータ用エラストマー組成物を用いたアクチュエータ部材、該アクチュエータ部材を備えるアクチュエータ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外部刺激によって動作するアクチュエータが知られている。例えば、高分子フィルムまたは繊維を、電気刺激による水分子の吸脱着によって、伸縮または屈曲させる方法が提案されている(特許文献1および2参照)。このような方法では、高分子フィルム自体の収縮率は、5%未満に過ぎなかった。また、収縮率を高めるためには、相対湿度を80%から100%の範囲内に調節する必要があった。そのため、高分子フィルムを設ける環境(雰囲気)条件によって、アクチュエータの動作が安定しないという問題があった。
【0003】
そのため、湿度等の環境条件に左右されず、外部刺激の条件によって、高い収縮率が得られ、良好なアクチュエータ性能(仕事密度)を発揮できることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2006/025399号
【文献】国際公開第2008/055041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、外部刺激として電気刺激ではなく、エントロピー弾性を用い熱エネルギー量の変化のみで動作可能なアクチュエータは知られていなかった。本発明者らは、鋭意検討を行った結果、エントロピー弾性係数が特定の値以上であり、かつ、少なくともエチレン由来の構成単位を含むポリマーを含むエラストマー組成物を用いることで、熱エネルギー量の変化のみで動作可能なアクチュエータが得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 熱エネルギー量の変化のみで動作可能なアクチュエータに用いられるエラストマー組成物であって、
エントロピー弾性係数が3.0kPa/K以上であり、かつ、
少なくともエチレン由来の構成単位を含むポリマーを含む、アクチュエータ用エラストマー組成物。
[2] 前記ポリマーが、少なくともエチレン由来の構成単位を含む合成ゴムである、[1]に記載のアクチュエータ用エラストマー組成物。
[3] 前記ポリマーが、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・ブテンゴム、エチレン・オクテンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、エチレン・ブテン・ジエンゴム、およびエチレン・オクテン・ジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種である、[2]に記載のアクチュエータ用エラストマー組成物。
[4] 前記ポリマー中のエチレン含有量が45質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のアクチュエータ用エラストマー組成物。
[5] 前記ポリマーが、架橋剤を用いて架橋されている、[1]~[4]のいずれかに記載のアクチュエータ用エラストマー組成物。
[6] 前記架橋剤が、過酸化物系架橋剤または硫黄系架橋剤である、[5]に記載のアクチュエータ用エラストマー組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のアクチュエータ用エラストマー組成物から形成されてなる、アクチュエータ部材。
[8] 前記アクチュエータ部材が、フィルム状、シート状、板状、または棒状である、[7]に記載のアクチュエータ部材。
[9] [7]または[8]に記載のアクチュエータ部材とヒーター層とを備えてなる、アクチュエータ素子。
[10] 前記ヒーター層が発熱体からなる、[9]に記載のアクチュエータ素子。
[11] 前記発熱体が、ジュール熱を用いた抵抗発熱体からなる、[10]に記載のアクチュエータ素子。
[12] 前記アクチュエータ素子が、前記アクチュエータ部材と前記ヒーター層との間に、熱伝導層をさらに備える、[9]~[11]のいずれかに記載のアクチュエータ素子。
[13] 前記熱伝導層が、放熱材からなる、[12]に記載のアクチュエータ素子。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱エネルギー量の変化のみで動作可能なアクチュエータ用エラストマー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、良好なアクチュエータ性能(仕事密度)を発揮できるアクチュエータ部材、および該アクチュエータ部材を備えるアクチュエータ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態のアクチュエータ素子(伸長時)を示した模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態のアクチュエータ素子(収縮時)を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[エラストマー組成物]
本発明のエラストマー組成物は、熱エネルギー量の変化のみで動作可能なアクチュエータに用いられるものである。このようなアクチュエータは、湿度等の環境条件に左右されず、熱エネルギー量の変化のみで安定的にアクチュエータを動作させることが可能となる。
【0010】
エラストマー組成物は、エントロピー弾性係数が3.0kPa/K以上であり、好ましくは3.2kPa/K以上であり、より好ましくは3.5kPa/K以上であり、さらに好ましくは4.0kPa/K以上である。エントロピー弾性係数は、下記のポリマーの種類や、架橋剤および架橋助剤等の添加剤の種類や添加量を変更することで、適宜、調節することができる。
【0011】
本発明におけるエラストマー組成物のエントロピー弾性係数は、以下の通り、測定することができる。
エラストマー組成物を伸長したときの張力Fはケルビンの関係式で表され、第一項は内部エネルギーに起因するエネルギー弾性(f
U)、第二項はエントロピーに起因するエントロピー弾性(f
S)を表している。すなわち、エントロピー弾性は温度(T)に依存し、その傾きである(∂F/∂T)はエントロピー弾性係数として重要なパラメータとなる。
【数1】
エラストマー組成物は延伸状態では昇温とともに応力が増大し、エントロピー弾性の発現が確認できる。このときの傾きがエントロピー弾性係数となる。
【0012】
(ポリマー)
エラストマー組成物は、少なくともエチレン由来の構成単位を含むポリマーを含むものである。ポリマーは、少なくともエチレン由来の構成単位を含む合成ゴムであることが好ましく、エチレン由来の構成単位以外にも、プロピレン、ブテン、オクテン、およびジエン系モノマー由来の構成単位の少なくとも1種を含んでもよい。このようなポリマーとしては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・ブテンゴム(EBM)、エチレン・オクテンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、エチレン・ブテン・ジエンゴム、およびエチレン・オクテン・ジエンゴム等が挙げられる。これらの中でも、エントロピー弾性係数を高めるために、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)を用いることが好ましい。
【0013】
ポリマー中のエチレン含有量は、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上である。ポリマー中のエチレン含有量が上記数値以上であれば、ポリマーの結晶性が高まり、熱エネルギー量の変化によって高い収縮率が得られ、良好なアクチュエータ性能(仕事密度)を発揮することができる。
【0014】
理論に束縛されるものではないが、ポリマーの構成単位として少なくともエチレン由来の構成単位を含むことで、物理的な架橋点となる。そのため、加熱により架橋点間の分子運動が活発になることで大きな収縮応力を発生し、結果としてエントロピー弾性係数を高くすることができる。特に、ポリマー中のエチレン含有量を50質量%以上とすることで、より大きな収縮応力を発生し、結果としてエントロピー弾性係数をより高くすることができる。
【0015】
本発明においては、エラストマー組成物は、エントロピー弾性係数が3.0kPa/K以上であり、かつ、上記のポリマーを含むことで、アクチュエータ性能(仕事密度)を向上させることができる。
【0016】
(架橋剤)
エラストマー組成物は、ポリマーを架橋するための架橋剤を用いて架橋されていることが好ましい。架橋剤としては、過酸化物系架橋剤または硫黄系架橋剤を用いることができる。過酸化物系架橋剤としては、例えば、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(PHC)等のパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(HXA)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキセン-3(HXY)等のジアルキルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド(BPO)等のジアシルパーオキサイド、およびt-ブチルペルオキシベンゾエート等のパーオキシエステル等が挙げられる。硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、沈降性硫黄、高分散性硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。
【0017】
架橋剤の添加量は、ポリマーの種類や架橋剤の種類に応じて適宜、設定することができ、エラストマー組成物のエントロピー弾性係数が3.0kPa/K以上となるようにポリマーを架橋させる量であればよい。例えば、過酸化物系架橋剤を用いる場合、過酸化物系架橋剤の添加量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは1~25質量部であり、より好ましくは3~20質量部である。また、硫黄系架橋剤を用いる場合、硫黄系架橋剤の添加量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.8~10質量部であり、より好ましくは1~5質量部である。
【0018】
(他の添加剤)
エラストマー組成物は、アクチュエータ性能を損なわない範囲で、上記ポリマーおよび架橋剤以外にも、加硫促進剤、加硫促進助剤、架橋助剤、老化防止剤、酸化防止剤、および着色剤等のその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)等のチウラム系、ヘキサメチレンテトラミン等のアルデヒド・アンモニア系、ジフェニルグアニジン(DPG)等のグアニジン系、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)等のチアゾール系、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアマイド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアマイド(BBS)等のスルフェンアミド系、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)等のジチオカルバミン酸塩系等が挙げられる。加硫促進剤の配合量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは1~5質量部である。
【0020】
加硫促進助剤としては、例えば、アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、ステアリン酸、アクリル酸、マレイン酸等の脂肪酸、アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛等の脂肪酸亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられる。加硫促進助剤の配合量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは1~5質量部である。
【0021】
架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、(m-,p-,o-)フェニレンビスマレイミド、キノンジオキシム、1,2-ポリブタジエン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチレンングリコールジメタクリレート等が挙げられる。架橋助剤の配合量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは1~10質量部である。
【0022】
老化防止剤としては、例えば、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。老化防止剤の配合量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.3~5質量部である。
【0023】
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。酸化防止剤の配合量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.3~5質量部である。
【0024】
着色剤としては、二酸化チタン、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。着色剤の配合量は、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.3~5質量部である。
【0025】
[アクチュエータ部材]
本発明のアクチュエータ部材は、上記のエラストマー組成物を成形して得られるものであり、熱エネルギー量の変化のみで長さ方向(縦方向)に伸縮するものである。特に、本発明のアクチュエータ部材は一定の荷重を掛けた状態で熱エネルギーを与えることで、収縮することができる。
【0026】
アクチュエータ部材の形状やサイズは特に限定されず、アクチュエータ素子の用途等に応じて、適宜、選択することができる。アクチュエータ部材の形状は、例えば、フィルム状、シート状、板状、または棒状であってもよい。アクチュエータ部材のサイズは、例えば、長さ1~1000mm、好ましくは10~500mm、幅1~1000mm、好ましくは5~500mm、厚み1μm~100mm、好ましくは10μm~10mmで用いることが好ましい。
【0027】
[アクチュエータ素子]
本発明のアクチュエータ素子は、上記のアクチュエータ部材と、ヒーター層とを備えるものである。アクチュエータ素子は、アクチュエータ部材とヒーター層との間に、熱伝導層をさらに備えてもよい。ヒーター層が上記のアクチュエータ部材に熱エネルギーを与えることにより、アクチュエータ部材が長さ方向(縦方向)に収縮することができる。
【0028】
本発明の一実施形態のアクチュエータ素子の模式図を
図1および2に示す。
図1および2に示すアクチュエータ素子10は、アクチュエータ部材11と、アクチュエータ部材11上にヒーター層12とを備えるものである。ヒーター層12は、アクチュエータ部材の伸縮に追従し易いように中央部分がメッシュ状に加工されている。
図1には、伸長時のアクチュエータ素子を示し、
図2には、収縮時のアクチュエータ素子を示す。
【0029】
本発明のアクチュエータ素子は、様々な用途に用いることができる。例えば、スマートウォッチ、時計、および万歩計等のベルト類、人工筋肉、ならびに内視鏡の駆動部分等が挙げられる。
【0030】
(ヒーター層)
ヒーター層は、アクチュエータ部材に熱エネルギーを与えることができるものであれば特に限定されないが、例えば、発熱体からなるものであり、好ましくはジュール熱を用いた抵抗発熱体からなるものである。抵抗発熱体としては、特に限定されずに従来公知の発熱体を用いることができ、例えば、銅、ニクロム(ニッケル・クロム合金)等の金属、カーボン、炭化ケイ素等の非金属、導電性高分子等が挙げられ、これらの中でも加工性や伸縮性の観点から、導電性高分子フィルムを用いることが好ましい。抵抗発熱体の形状は、特に限定されないが、アクチュエータ部材の伸縮に追従し易いように加工して用いることができる。ヒーター層は、アクチュエータ部材の全面に積層されてもよいし、一部のみに積層されてもよい。
【0031】
ヒーター層として用いる導電性高分子フィルムは、少なくとも導電性高分子を含むフィルムである。導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリフェニレン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリイソチアナフテン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリナフタレン、ポリアントラセン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリフルオレン、ポリピリジン、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリエチレンジオキシチオフェンおよびこれらの誘導体から選択された少なくとも1つが挙げられる。
【0032】
導電性高分子フィルムは、中性高分子や高分子電解質をさらに含んでもよい。中性高分子としては、セルロース、セロファン、ナイロン、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリオキシメチレン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルフェノール、ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体から選択される少なくとも1つが挙げられる。高分子電解質としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのポリカルボン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ナフィオンなどのポリスルホン酸、ポリアリルアミン、ポリジメチルプロピルアクリルアミドなどポリアミンとその四級化塩およびこれらの誘導体から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0033】
導電性高分子フィルムは、導電性高分子に、キャスト法、バーコート法、スピンコート法、スプレー法、電解重合法、化学的酸化重合法、溶融紡糸法、湿式紡糸法、固相押出法、エレクトロスピニング法から選択された少なくとも1つの手法を適用することで作製することができる。特に、高い電気伝導度が得られるポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の導電性高分子フィルムが好適である。導電性高分子フィルムには、さらに、中性高分子としてポリグリセリンを配合することが好適である。
【0034】
(熱伝導層)
熱伝導層は、ヒーター層の熱エネルギーをアクチュエータ部材に効率的に伝える為の層である。熱伝導層は、放熱材からなる層であることが好ましい。放熱材としては、例えば、放熱グリースを用いることができる。放熱グリースとは、鉱油または合成油を基油として、これに石けん類その他の増稠剤を添加し、さらにカーボンブラック等の導電性物質を添加されたものである。合成油としては、ジエステル油、ポリオールエステル油、ポリアルキレングリコール油等が挙げられる。放熱グリースを用いることで、アクチュエータ部材とヒーター層を摺動し易くすることもできる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<試験例1>
[実施例1]
以下の各成分を、100mLニーダー(東洋精機社製ラボプラストミル)を用いて混練し、エラストマー組成物を得た。実施した混練操作の詳細は以下の(i)~(ii)の通りである。
(i)ミキサー混練:120℃に加熱した密閉式加圧ニーダーへゴムを投入し、30rpmで1分間素練りを行った後、酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物の1/2量を測り取ったものを投入し、50rpmに回転数を上げて1分30秒間混練を行った。さらに残りの1/2量の前記酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物を加えて、混練を1分30秒間継続した。その後、ラム(フローティングウェイト)を上げて周りについた前記酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物の粉体を、はけを用いて混練物に投入し、さらに混練を1分間継続した。その後、再度ラムを上げて周りについた前記酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物の粉体を、はけを用いて混練物に投入し、さらに3分間混練して、放出した。
(ii)ロール混練(架橋系添加):放出して十分温度が下がった後、2本ロールで上述の混練物に架橋剤を加え、混練し、エラストマー組成物を得た。
その後、得られたエラストマー組成物を金型(50mm×50mm×130μm)に入れて、170℃20分間、加熱加圧して、厚さ130μmのアクチュエータ部材を得た。
・ゴム(EPDM、エチレン含有量:65質量%、ジエン含有量:4.6質量%、三井化学社製、商品名:3092PM) 100質量部
・過酸化物系架橋剤(ジクミルパーオキサイド(DCP)、日油社製)
7質量部
・酸化亜鉛(ハクスイテック社製、商品名:酸化亜鉛3種) 5質量部
・ステアリン酸(日本精化社製、商品名:ステアリン酸) 1質量部
・老化防止剤(大内新興化学社製、商品名:ノクラック224)
0.5質量部
【0037】
[実施例2]
過酸化物系架橋剤(DCP)を14質量部添加した以外は実施例1と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0038】
[実施例3]
過酸化物系架橋剤(DCP)の添加と同時に、架橋助剤(TAIC、三菱化学社製)を5質量部添加した以外は、実施例1と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0039】
[比較例1]
過酸化物系架橋剤(DCP)を2質量部添加した以外は実施例1と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0040】
[実施例4]
過酸化物系架橋剤の代わりに硫黄系架橋剤および架橋促進剤を下記の配合量で添加した以外は実施例1と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
・硫黄系架橋剤(油処理硫黄、細井化学社製、商品名:HK200-5)
1質量部
・架橋促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーTOTN)2質量部
・架橋促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーZTC)
0.5質量部
・架橋促進剤(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーCZ)1.5質量部
【0041】
[実施例5]
硫黄系架橋剤および各架橋促進剤の添加量をそれぞれ2倍量に変更した以外は、実施例4と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0042】
[比較例2]
硫黄系架橋剤および各架橋促進剤の添加量をそれぞれ1/2量に変更した以外は、実施例4と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0043】
[比較例3]
ゴム(EPDM)の代わりにゴム(SBR、日本ゼオン社製、商品名:1502)を100質量部添加し、かつ、老化防止剤(ノクラック224)の代わりに老化防止剤(ノクラック6C)を1質量部添加した以外は実施例1と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0044】
[物性評価]
実施例1~5および比較例1~3で得られたエラストマー組成物およびアクチュエータ部材の物性を下記の方法により評価した。
【0045】
[熱機械分析(TMA)]
エラストマー組成物の応力は以下の条件で熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番:TMA/SS6200)を用いて測定を行った。測定に使用するサンプルは、上記のアクチュエータ部材を長さ20mm、幅1mmになるようカッターの刃を切り口に押し当て、上からハンマーで叩き一気に切断して作成した。作成したサンプルを、チャック間距離が10mmになるようチャックに挟み、装置にセットした。サンプルの長さ、幅、チャック間距離は工具顕微鏡(ミツトヨ社製、型番:TM-500)を用いて測定した。
・昇温速度:2℃/min
・サンプリングタイム:1s
・温度範囲:20℃~110℃
・引っ張りひずみ:50%
【0046】
[エントロピー弾性係数]
エラストマー組成物のエントロピー弾性係数を以下の式により算出し、その結果を表1に示した。
エラストマー組成物を伸長したときの張力Fはケルビンの関係式で表され、第一項は内部エネルギーに起因するエネルギー弾性(f
U)、第二項はエントロピーに起因するエントロピー弾性(f
S)を表している。すなわち、エントロピー弾性は温度(T)に依存し、その傾きである(∂F/∂T)はエントロピー弾性係数として重要なパラメータとなる。
【数2】
エラストマー組成物は延伸状態では昇温とともに応力が増大し、エントロピー弾性の発現が確認できる。このときの傾きがエントロピー弾性係数となる。この傾きをExcelを用いて算出し、エントロピー弾性係数とした。
【0047】
[アクチュエータ素子の製造]
(PEDOT:PSS-PG(n=4)溶液の調整)
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)水分散液(pH=7、中和剤:アンモニア)とポリグリセリン(PG、n=4、分子量:310、阪本薬品工業株式会社)を4:6の割合で混合し、固形成分濃度が2質量%になるように調整した。その後、マグネチックスターラーで十分に撹拌した。
【0048】
(導電性高分子フィルムの作製)
52×76mmのスライドガラス表面をエタノールで洗浄後、調整したPEDOT:PSS-PG溶液を12.0g滴下した。これを、水分計(Moisture Balance MOC-120H、島津製作所製)を用いて空気中で160℃1時間加熱・乾燥させた。最後に、ピンセットを用いてガラス基板上から剥がすことにより、厚さ約50μmの導電性高分子フィルムを得た。
【0049】
(ETPアクチュエータ素子の製造)
まず、上記のアクチュエータ部材を5mm×20mmに切り出した。次に、上記で作製した厚さ約50μmの高分子フィルムを、3軸CO2レーザーマーカー(ML-Z 9550、KEYENCE)を用いて、5mm×20mm(上下5mmずつ残し、間の10mmはメッシュ状)に切り出して、ヒーター層用フィルムを得た。続いて、アクチュエータ部材上に、放熱材(G-775、熱伝導性グリース、信越化学工業株式会社製)を薄く塗布して熱伝導層を形成し、熱伝導層上に、ヒーター層として上記で作製した導電性高分子フィルムを積層して、アクチュエータ素子を得た。
【0050】
(アクチュエータ性能の測定)
得られたETPアクチュエータ素子(厚さ180μm×幅5mm×長さ20mm)を用いて、アクチュエータ部材の収縮率を以下の条件で測定した。アクチュエータ素子の上端および下端を金属クリップで挟み、一定荷重を吊り下げた。その結果、アクチュエータ部材は、100%伸長した。チャックに挟む際は、白金箔を間に挟み十分に接触させるようにした。アクチュエータ素子の両端に、直流電源(REGULATED DC POWER SUPPLY、MSAZ36-1P1M3、日本スタビライザー工業株式会社製)を用いて直流電圧を印加して、アクチュエータ部材に熱エネルギーを加えた。その際のアクチュエータ部材の収縮状態をカメラで撮影して、画像解析によって収縮量を測定し、収縮率を算出した。収縮率とは、アクチュエータ部材に一定の荷重を掛けて100%伸長した状態の長さ(伸長時長さ)に対する収縮量の割合(収縮量/伸長時長さ)である。収縮率の算出結果を表1に示した。
[測定条件]
・荷重:88~140g
・荷重による伸長:100%
・測定温度:25~50℃
・モニタリング項目:電圧(V)、電流(mA)
・サンプリングタイム:100ms
【0051】
アクチュエータ部材の仕事密度は以下の式で求めた。仕事密度の算出結果を表1に示した。なお、試験例1における仕事密度は180kJ/m
3以上であることが好ましく、190kJ/m
3以上であることがより好ましく、200kJ/m
3以上であることがさらに好ましいと言える。
【数3】
・W:仕事密度(J/m
3)
・m:荷重(kg)
・g:重力加速度(9.8m/s
2)
・h:収縮量(m)
・V
ETP:ETPアクチュエータ部材の体積(m
3)
【0052】
【0053】
過酸化物系架橋剤を用いた実施例1~3、比較例1を比較すると、エントロピー弾性係数が3.0kPa/K以上(4.9kPa/K、7.3kPa/K、7.6kPa/K)の実施例1~3は、エントロピー弾性係数が2.5の比較例1に比べて、アクチュエータ性能(仕事密度)が高かった。
硫黄系架橋剤を用いた実施例4、5、比較例2を比較すると、エントロピー弾性係数が3.0kPa/K以上(3.3kPa/K、5.9kPa/K)の実施例4、5は、エントロピー弾性係数が1.8の比較例2に比べて、アクチュエータ性能(仕事密度)が高かった。
ゴムの種類が異なる実施例1および比較例3を比較すると、エチレン由来の構成単位を含むゴム(EPDM)を用いた実施例1は、エチレン由来の構成単位を含まないゴム(SBR)を用いた比較例3に比べて、アクチュエータ性能(仕事密度)が高かった。
よって、本発明のアクチュエータ用エラストマー組成物を用いることで、アクチュエータ性能(仕事密度)を向上できることが判明した。
【0054】
<試験例2>
[実施例6]
以下の各成分を、100mLニーダー(東洋精機社製ラボプラストミル)を用いて混練し、エラストマー組成物を得た。実施した混練操作の詳細は以下の(i)~(ii)の通りである。
(i)ミキサー混練:120℃に加熱した密閉式加圧ニーダーへゴムを投入し、30rpmで1分間素練りを行った後、酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物の1/2量を測り取ったものを投入し、50rpmに回転数を上げて1分30秒間混練を行った。さらに残りの1/2量の前記酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物を加えて、混練を1分30秒間継続した。その後、ラム(フローティングウェイト)を上げて周りについた前記酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物の粉体を、はけを用いて混練物に投入し、さらに混練を1分間継続した。その後、再度ラムを上げて周りについた前記酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤の混合物の粉体を、はけを用いて混練物に投入し、さらに3分間混練して、放出した。
(ii)ロール混練(架橋系添加):放出して十分温度が下がった後、2本ロールで上述の混練物に架橋剤を加え、混練し、エラストマー組成物を得た。
その後、得られたエラストマー組成物を金型(50mm×50mm×130μm)に入れて、170℃20分間、加熱加圧して、厚さ130μmのアクチュエータ部材を得た。
・ゴム(EPDM、エチレン含有量:45質量%、ジエン含有量:7.6質量%、三井化学社製、商品名:4045M) 100質量部
・過酸化物系架橋剤(ジクミルパーオキサイド(DCP)、日油社製)
8質量部
・酸化亜鉛(ハクスイテック社製、商品名:酸化亜鉛3種) 5質量部
・ステアリン酸(日本精化社製、商品名:ステアリン酸) 1質量部
・老化防止剤(大内新興化学社製、商品名:ノクラック224)
0.5質量部
【0055】
[実施例7]
ゴム(EPDM)の代わりにゴム(EPDM、エチレン含有量:65質量%、ジエン含有量:4.6質量%、三井化学社製、商品名:3092PM)を100質量部添加した以外は実施例6と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0056】
[実施例8]
ゴム(EPDM)の代わりにゴム(EPDM、エチレン含有量:72質量%、ジエン含有量:3.6質量%、三井化学社製、商品名:X-3012P)を100質量部添加した以外は実施例6と同様にして、エラストマー組成物およびアクチュエータ部材を得た。
【0057】
[物性評価]
実施例6~8で得られたエラストマー組成物およびアクチュエータ部材の物性を下記の方法により評価した。
【0058】
[エントロピー弾性係数]
エラストマー組成物のエントロピー弾性係数を試験例1と同様の方法で算出した。
【0059】
(アクチュエータ性能の測定)
上記のアクチュエータ部材を5mm×40mmに切り出して、試験片(厚み130μm×幅5mm×長さ40mm)とした。得られた試験片を上下3mmづつダブルクリップで掴んだのち下側に82gの重りをぶら下げた。次に、試験片をドライヤーで25℃の温度に5秒間加温した後、室温(15℃)にて15秒間放冷する操作を繰り返した。この操作を4回繰り返し、4回目の放冷後の試験片長さ(基準長)を測定し、次いで5回目の25℃加温時の試験片長さ(収縮長)を測定した。得られた基準長と収縮長から、下式により収縮率を算出した。収縮率の算出結果を表2に示した。
収縮率(%)=(基準長-収縮長)/基準長×100
【0060】
続いて、アクチュエータ部材の仕事密度を試験例1と同様の方法で算出した。なお、試験例2における仕事密度は50kJ/m3以上であることが好ましく、100kJ/m3以上であることがより好ましく、180kJ/m3以上であることがさらに好ましく、200kJ/m3以上であることがさらにより好ましいと言える。
【0061】
【0062】
実施例6~8において、エチレン含有量が45質量%以上であるEPDMを用いたアクチュエータ部材は、熱エネルギー量の変化によって高い収縮率が得られた。特に、EPDM中のエチレン含有量を50質量%以上に調節することで、アクチュエータ部材は、熱エネルギー量の変化によって顕著に高い収縮率が得られ、アクチュエータ性能(仕事密度)が高かった。
【符号の説明】
【0063】
10 アクチュエータ素子
11 アクチュエータ部材
12 ヒーター層