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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】体外における哺乳動物胚を選別する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
C12Q1/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020082968
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2020184994
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019090768
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩道
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/170021(WO,A1)
【文献】特開2012-29686(JP,A)
【文献】特開2002-122568(JP,A)
【文献】竹内美紀 他,第109回日本繁殖生物学会大会講演要旨集 セッションID: P-16[オンライン],2016年,[検索日 2023.12.21], インターネット:<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrds/109/0/109_P-16/_article/-char/ja/>
【文献】Y. Itoh, et al.,Analytical Biochemistry,2000年,Vol.287, No.2,p.203-209
【文献】R.C.Manser, et al.,Biology of Reproduction,2004年,Vol.71, No.2,p.528-533
【文献】T.-H.Lee, et al.,Fertility and Sterility,2011年,Vol.96, No.3, Suppl 1,S245 Abs Number: P-470
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する方法であって、工程(a)の前に、哺乳動物胚を、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する工程(p)をさらに含むことを特徴とする、前記方法
(a)酸素検出用蛍光指示薬及びミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬から選択される1又は2の指示薬と、取得された哺乳動物胚とをインビトロで接触させる工程;
(b)哺乳動物胚における、酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及びミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬由来の蛍光量から選択される1又は2の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における、酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルから選択される1又は2の値を測定する工程;
(c)工程(b)において測定した値が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚;における値よりも低い場合、前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択する工程;
【請求項2】
工程(a)において、酸素検出用蛍光指示薬及びミトコンドリア膜電位レベル測定用蛍光指示薬と、取得された哺乳動物胚とを接触させ、
工程(b)において、酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及びミトコンドリア膜電位レベル測定用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルを測定し、
工程(c)において、哺乳動物胚における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルが、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚;における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルよりも低い場合、前記前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
取得された哺乳動物胚が、胚盤胞期の哺乳動物胚であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)において、イメージングサイトメーターを用いて1又は2以上の値を測定することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着床する可能性が高い哺乳動物胚を体外において選別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体外受精や顕微授精等の生殖補助技術は、不妊治療を目的とした医療分野のみならず、優良家畜の生産、家畜改良等を目的とした畜産分野においても欠かせない技術となっている。体外において、哺乳動物精子と哺乳動物卵子とを受精させた後、卵割により2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚と細胞増殖により割球が増加し、桑実胚を経て、胚盤胞期の哺乳動物胚へと発生する。哺乳動物胚を移植する場合、通常、着床前の状態である胚盤胞期の胚が使用されるが、受胎率が低いことが問題となっており、例えば、ウシの場合、40~50%であり、ヒトの場合、25~35%程度である。その原因として、体外培養環境と生体内環境との相違により、発生不良の胚が存在することが考えられている。このため、着床能力の高い哺乳動物胚を選別する方法が求められている。
【0003】
例えば、哺乳動物胚の生育状態を、Veeckによる分類法やGardnerによる分類法を用いて、評価する方法が知られている(非特許文献1)。また、最近では、哺乳動物胚の培養液中に含まれる可溶性CD146を指標にして、着床する可能性の高い哺乳動物胚を選別する方法が報告されている(特許文献1)。
【0004】
一方、本発明者らは、アルギニン及びロイシン添加群の哺乳動物胚の着床率が、無添加群の哺乳動物胚の着床率と比べ、増加することや、アルギニン添加群の哺乳動物胚の着床率が、無添加群の哺乳動物胚の着床率と比べ、減少することを報告している(非特許文献2)。かかる結果から、本発明者らは、哺乳動物胚において、アルギニンから一酸化窒素合成酵素(以下、「NOS」ということがある)により合成された一酸化窒素(以下、「NO」ということがある)が、哺乳動物胚の着床率に影響を及ぼしている可能性を考えた(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-513979号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Baczkowski, T. et al., Reprod, Biol. (2004) 4:5-22
【文献】第109回日本繁殖生物学会大会 P-16 抄録
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、着床能力の高い哺乳動物胚を、比較的簡便に選別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、前述のとおり、哺乳動物胚において、アルギニンからNOSにより合成されたNOが、哺乳動物胚の着床率に影響を及ぼしている可能性を考えた。そこで、哺乳動物胚におけるNOの濃度を、イメージングサイトメーターを用いて測定したところ、哺乳動物胚におけるNO濃度を指標として、着床する可能性が高い哺乳動物胚を選択できることを見いだした。また、産生されたNOは酸素(O)消費の制御にも関与することや、Oがミトコンドリアで消費されることに着目し、哺乳動物胚におけるO消費量やミトコンドリア膜電位レベルをイメージングサイトメーターを用いて測定したところ、哺乳動物胚におけるO消費量やミトコンドリア膜電位レベルを指標として、着床する可能性が高い哺乳動物胚を選択できることも確認した。本発明は、これらの知見に基づき、完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する方法。
(a)一酸化窒素検出用蛍光指示薬、酸素検出用蛍光指示薬、及びミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬から選択される1又は2以上の指示薬と、取得された哺乳動物胚とをインビトロで接触させる工程;
(b)哺乳動物胚における、一酸化窒素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量、酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量、及びミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬由来の蛍光量から選択される1又は2以上の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における、一酸化窒素の濃度、酸素消費量、及びミトコンドリア膜電位レベルから選択される1又は2以上の値を測定する工程;
(c)工程(b)において測定した値が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚;における値よりも低い場合、前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択する工程;
〔2〕工程(a)において、一酸化窒素検出用蛍光指示薬及び酸素検出用蛍光指示薬と、取得された哺乳動物胚とを接触させるか、あるいは、酸素検出用蛍光指示薬及びミトコンドリア膜電位レベル測定用蛍光指示薬と、取得された哺乳動物胚とを接触させ、
工程(b)において、一酸化窒素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及び酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度及び酸素消費量を測定するか、あるいは、酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及びミトコンドリア膜電位レベル測定用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルを測定し、
工程(c)において、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度及び酸素消費量が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚;における一酸化窒素の濃度及び酸素消費量よりも低い場合、前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択するか、あるいは、哺乳動物胚における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルが、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚;における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルよりも低い場合、前記前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択する
ことを特徴とする上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕取得された哺乳動物胚が、胚盤胞期の哺乳動物胚であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕工程(a)の前に、哺乳動物胚を、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する工程(p)をさらに含むことを特徴とする上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕工程(b)において、イメージングサイトメーターを用いて1又は2以上の値を測定することを特徴とする上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
【0010】
また本発明の実施の他の形態として、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するためのデータを収集する方法や、上記工程(a)及び(b)を含み、かつ、工程(b)の後に、工程(b)において測定した値が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚;における値よりも低い場合、前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択するためのデータを作成する工程(C);を含む、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別するためのデータを作成する方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、着床する可能性が高い哺乳動物胚を、比較的簡便に選別することができる。このため、本発明は、不妊治療を目的とした医療分野や、優良家畜(例えば、霜降り形質を示すウシ)の生産、家畜改良等を目的とした畜産分野などの生殖補助技術(例えば、体外受精、顕微授精)を必要とする分野に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において、無添加群(n=39)、Arg添加群(n=32)、及びArg+Leu添加群(n=32)の哺乳動物胚におけるNO濃度を測定した結果を示す図である。縦軸のNO濃度は、無添加群の哺乳動物胚におけるNO濃度の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の各点は、個々の哺乳動物胚に相当する。図中の「*」は、両群間で統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図2】実施例1において、無添加群(n=39)、Arg添加群(n=32)、及びArg+Leu添加群(n=32)の哺乳動物胚におけるO消費量を測定した結果を示す図である。縦軸のO消費量は、無添加群の哺乳動物胚におけるO消費量の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の各点は、個々の哺乳動物胚に相当する。図中の「*」は、両群間で統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図3】実施例2において、無添加群(n=31)、Arg添加群(n=30)、及びArg+Leu添加群(n=32)の哺乳動物胚におけるO消費量を測定した結果を示す図である。縦軸のO消費量は、無添加群の哺乳動物胚におけるO消費量の平均値を1としたときの相対値として示す。図中の各点は、個々の哺乳動物胚に相当する。図中の「*」は、両群間で統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
図4】実施例2において、無添加群(n=31)、Arg添加群(n=30)、及びArg+Leu添加群(n=32)の哺乳動物胚におけるミトコンドリア膜電位レベルを測定した結果を示す図である。縦軸のミトコンドリア膜電位レベルは、無添加群の哺乳動物胚におけるミトコンドリア膜電位レベルの平均値を1としたときの相対値として示す。図中の各点は、個々の哺乳動物胚に相当する。図中の「*」は、両群間で統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、一酸化窒素検出用蛍光指示薬、酸素検出用蛍光指示薬、及びミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬から選択される1又は2以上の指示薬(以下、これらを総称して「本件検出用蛍光指示薬」ということがある)と、取得された哺乳動物胚とをインビトロで接触させる工程(a);と、哺乳動物胚における、一酸化窒素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量(換言すると、蛍光輝度)、酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量、及びミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬由来の蛍光量から選択される1又は2以上の蛍光量(以下、これらを総称して「本件蛍光量」ということがある)を指標として、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度、酸素消費量、及びミトコンドリア膜電位レベルから選択される1又は2以上の値を測定する工程(b);と、工程(b)において測定した値が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照(哺乳動物)胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照(哺乳動物)胚;における値よりも低い場合、前記哺乳動物胚を、着床能力の高い(着床する可能性が高い)哺乳動物胚として選択する工程(c);とを順次含む、着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する方法(以下、「本件選別方法」ということがある)であり、本件選別方法には、体外において、ヒト胚の状態を診断し、女性の子宮に着床させるヒト胚を選別する工程;や、本件選別方法により選別されたヒト胚を、女性の子宮に着床させる工程;等のいわゆる医師による医療行為は含まれない。
【0014】
上記一酸化窒素検出用蛍光指示薬としては、哺乳動物胚に接触させたときに、当該胚における一酸化窒素の存在量と相関して発光強度・寿命が変化する蛍光プローブを含むものであればよく、例えば、ジアミノフルオレセイン-2ジアセテート(DAF-2DA)、ジアミノフルオレセイン-FM ジアセテート(DAF-FM DA)、ジアミノローダミン-4M アセトキシメチルエステル(DAR-4M AM、いずれも積水メディカル社製)を挙げることができる。これらはいずれも細胞膜透過性を有するため、哺乳動物胚内に移行し、哺乳動物胚内のエステラーゼにより加水分解され、哺乳動物胚の細胞膜を透過しにくい物質(それぞれ、DAF-2、DAF-FM、及びDAR-4M)が生成される。そして、かかる物質が一酸化窒素と反応すると、蛍光物質(それぞれ、励起波長495nm、蛍光波長515nmの緑色蛍光物質[DAF-2T]、励起波長500nm、蛍光波長515nmの緑色蛍光物質[DAF-FM T]、及び励起波長560nm、蛍光波長575nmのオレンジ色蛍光物質[DAR-4M T])が生成される。このため、これら蛍光物質の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度を測定することができる。
【0015】
上記酸素検出用蛍光指示薬としては、哺乳動物胚に接触させたときに、当該胚における酸素の存在量と相関して発光強度・寿命が変化する蛍光プローブを含むものであればよく、例えば、化合物C343-Pro4-BTP(特許第5500594号公報)、化合物C343-Pro4-BTQphen及びC343-Pro8-BTQphen(特開2015-101570号公報)、MitoXpress-Intra細胞内酸素アッセイキット(Agilent社製)、Intracellular Oxygen Concentration Assay(abcam社製)等を挙げることができる。
【0016】
上記ミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬としては、哺乳動物胚に接触させたときに、当該胚におけるミトコンドリア膜電位のレベルと相関して発光強度・寿命が変化する蛍光プローブを含むものであればよく、例えば、2-,4-ジメチルアミノスチリル-N-メチルピリジニウム(DASPMI)、テトラメチルローダミンエステル(例えば、テトラメチルローダミンメチルエステル、TMRM;テトラメチルローダミンエチルエステル、TMRE)、MitoTrackerプローブ(ThermoFisher Scientific社製)等を挙げることができる。
【0017】
本明細書において、「着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する」とは、哺乳動物の体外に存在する哺乳動物胚から、着床能力の高い哺乳動物胚を選択することを意味し、具体的には、体外受精、顕微授精等の方法により、哺乳動物精子と哺乳動物卵子とをインビトロで受精し、必要に応じて体外培養することにより得られた哺乳動物胚から、着床能力の高い哺乳動物胚を選択することを意味する。したがって、「着床能力の高い哺乳動物胚を体外において選別する」には、哺乳動物の生体内で哺乳動物精子を、排卵期の哺乳動物子宮内に注入する方法(人工授精[IUI])により、哺乳動物精子と哺乳動物卵子とをインビボで授精し、哺乳動物の生体内に存在する哺乳動物胚から、着床能力の高い哺乳動物胚を選択することは含まれない。
【0018】
上記哺乳動物としては、ヒトや、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の非ヒト霊長類などの非ヒト哺乳動物を例示することができ、中でも、マウス、ブタ、ヒトを好適に例示することができる。
【0019】
上記胚としては、受精直後の胚(すなわち、受精卵)~着床前の状態の胚(すなわち、胚盤胞期の胚)に含まれる発生段階の胚であればよく、具体的には、受精卵(接合子)、2細胞期の胚、4細胞期の胚、8細胞期の胚、桑実胚、胚盤胞期の胚を挙げることができ、胚盤胞期の胚を好適に例示することができる。また、上記胚には、精子と卵子とを体外受精、顕微授精等の方法により作製された胚の他、除核卵子(レシピエント卵子)又は除核受精胚(レシピエント胚)に、ドナー細胞の核を注入(マイクロインジェクション)することにより作製された受精核移植胚も含まれる。
【0020】
上記工程(a)において、本件検出用蛍光指示薬と、取得された哺乳動物胚とをインビトロで接触させる方法としては、哺乳動物胚の生存及び発生に悪影響を及ぼすことなく、本件検出用蛍光指示薬の特性を考慮して接触時間(インキュベート時間);接触時の温度、二酸化炭素(CO)濃度、及び酸素(O)濃度;接触に用いる溶媒;等の条件は適宜選択することができる。
【0021】
上記工程(a)における接触時間としては、一酸化窒素検出用蛍光指示薬やミトコンドリア膜電位検出用蛍光指示薬を用いる場合、例えば、1分~24時間の範囲内であり、好ましくは5分~12時間、より好ましくは10分~6時間、さらに好ましくは10分~3時間、さらにより好ましくは10分~1時間である。また、酸素検出用蛍光指示薬を用いる場合、例えば、1分~72時間の範囲内であり、好ましくは30分~60時間、より好ましくは1~48時間、さらに好ましくは6~36時間、さらにより好ましくは12~30時間である。
【0022】
上記工程(a)における接触時の温度としては、例えば、0~40℃の範囲内であり、好ましくは4~40℃、より好ましくは14~39℃、さらに好ましくは20~39℃、さらにより好ましくは30~38℃である。また、上記工程(a)における接触時のCO濃度としては、例えば、1~10%の範囲内であり、好ましくは2~8%、より好ましくは約5%(4~6%)である。また、上記工程(a)における接触時のO濃度は、正常酸素濃度(18~22%O)であっても、低酸素濃度(0~10%O)であってもよい。なお、本件検出用蛍光指示薬と接触させる前に、哺乳動物胚を体外培養している場合、体外培養時と同じ条件を選択することができる。
【0023】
上記接触に用いる溶媒としては、例えば、生理食塩水や、緩衝効果のある生理食塩水(例えば、PBS、トリス緩衝生理食塩水[Tris Buffered Saline;TBS]、HEPES緩衝生理食塩水)、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、5%グルコース水溶液、培養液等を挙げることができる。
【0024】
上記工程(a)において、哺乳動物胚を哺乳動物の生体外で培養するのに適した培養条件下となるように、培養液、培養時間、温度、二酸化炭素(CO)濃度、酸素(O)濃度等の条件は適宜選択することがきる。
【0025】
本発明において、哺乳動物胚は、哺乳動物の生体外で受精卵を作製できる公知の方法、例えば、哺乳動物精子を、顕微鏡下でガラスピペット(顕微授精用インジェクションピペット)等を用いて、採取された少なくとも1つの哺乳動物卵子内に注入する方法(すなわち、顕微授精);哺乳動物精子と、哺乳動物卵子とを、培養液中で自然に受精させる方法(すなわち、体外受精による媒精);により受精直後の胚を得た後、必要に応じて各発生段階まで体外培養することにより取得することができる。また、本件選別方法において、哺乳動物胚の数としては、1つでもよいし、複数(例えば、2以上、3以上、5以上、10以上、20以上、30以上、60以上、100以上)でもよい。
【0026】
本件選別方法としては、哺乳動物胚の着床率を高めるために、上記工程(a)の前に、哺乳動物胚を、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する工程(p)をさらに含むものが好ましい。哺乳動物胚を、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する場合、培養時間の下限としては、例えば、12時間、16時間、20時間、24時間、30時間、36時間、48時間等であり、培養時間の上限としては、例えば、60時間、48時間、36時間、30時間である。したがって、アルギニン及びロイシンを含む培養液中で体外培養する場合、培養時間としては、例えば、12~60時間、16~48時間、20~36時間、20~30時間等を挙げることができる。
【0027】
培養液中のアルギニンの濃度としては、例えば、0.001~10mMの範囲内であり、0.003~6mM、0.006~3mM、0.01~3mM、0.03~3mM、0.06~3mM、0.006~1mM、0.01~1mM、0.03~3mM、0.06~1mM等を挙げることができる。
【0028】
培養液中のロイシンの濃度としては、例えば、0.001~10mMの範囲内であり、0.003~6mM、0.006~3mM、0.01~3mM、0.03~3mM、0.06~3mM、0.006~1mM、0.01~1mM、0.03~3mM、0.06~1mM等を挙げることができる。
【0029】
本明細書において、培養液としては、哺乳動物細胞の培養に適した培養液であればよく、血清(例えば、0.1~30[v/v]%のFBS、CS等)を含む培養液であっても、無血清培養液であってもよいが、血清中に含まれるイオン化血清アルブミンによる影響を最小限にする観点から、無血清培養液が好ましい。かかる「無血清培養液」とは、無調整又は未精製の血清を含まない培養液を意味し、血清代替物を含む培養液は、無血清培養液に含まれる。かかる血清代替物としては、具体的には、市販のB27サプリメント(-インスリン)(Life Technologies社製)、N2サプリメント(Life Technologies社製)、B27サプリメント(Life Technologies社製)、Knockout Serum Replacement(Invitrogen社製)等を挙げることができる。上記培養液の具体例としては、例えば、ウシ胚を培養する場合、TCM-199培養液(文献「Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 1950; 73: 1-8」参照);mSOF培養液(特開2012-210199号公報参照);等を挙げることができ、ブタ胚を培養する場合、NCSU-23培養液(文献「Theriogenology 1992;37: 95-109」参照);PZM培養液(文献「Biol. Reprod. 2002; 66: 112-119」参照);等を挙げることができ、ヒツジ胚を培養する場合、Eagle’s MEM培養液(文献「J. Anim. Sci. 1976; 42: 912-917」参照)を挙げることができ、ウサギ胚を培養する場合、Ham’s F10培養液(文献「Exp. Cell Res. 1963; 29: 515-526」参照);Eagle’s MEM培養液(文献「J. Anim. Sci. 1976; 42: 912-917」参照);RPMI1640培養液(文献「J. Am. Med. Assoc. 1967; 199: 519-524」参照);等を挙げることができ、ラット胚を培養する場合、m-KRB培養液;HECM-1培養液(文献「Hum. Reprod. 1991; 6: 1445-1448」参照);等を挙げることができ、ハムスター胚を培養する場合、Eagle’s MEM培養液(文献「J. Anim. Sci. 1976; 42: 912-917」参照)を挙げることができ、マウス胚を培養する場合、TYH培養液(文献「Jpn.J. Anim. Reprod. 1971; 16: 147-157);CZB培養液(文献「J. Reprod. Fertil. 1989; 86: 679-688」参照);KSOM培養液(文献「Isaji et al., J. Reprod. Dev. 2015, 61: 503-510.」参照);等を挙げることができ、ヒト胚を培養する場合、modified HTF培養液(文献「J. Assist. Reprod. Genet. 1995; 12: 97-105」参照);10%の血漿タンパク質分画(血漿タンパク質分画[PPF;plasma protein fraction]、ヒトアルブミン[HAS;human albumin]、SSS;serum substitute supplement[Irvine Scientific社製]等)を含むクリベージメディウム(SAGE[登録商標]Cleavage Medium CooperSurgical,Inc.、コネチカット、米国);スパームウォッシングメディウム(IrvineScientific、カリフォルニア、米国);ファティリゼイション(HTF)メディウム(SAGE In-Vitro Fertilization、コネチカット、米国);Ferticult(登録商標)Sperm Washing Flushing Medium(FertiPro N.V.、ベールネム、ベルギー);Insemination Medium;NI fertilization Medium(NAKA ivf medium, ナカメディカル、日本) ;等を挙げることができる。
【0030】
上記培養液には、任意成分、例えば、還元剤(例えば、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール[dithiothreitol;DTT]等)、鉄源(例えば、トランスフェリン等)、ミネラル(例えば、亜セレン酸ナトリウム)、アミノ酸(例えば、グルタミン、アラニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン)、ビタミン類(例えば、塩化コリン、パントテン酸、葉酸、ニコチンアミド、塩酸ピリドキサル、リボフラビン、塩酸チアミン、アスコルビン酸、ビオチン、イノシトール等)、糖類(例えば、グルコース等)、有機アミン類(例えば、プトレシン等)、ステロイド(例えば、プロゲステロン、β-エストラジオール等)、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン等)、インターロイキン類(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6等)、接着因子(例えば、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン等)、有機酸(例えば、ピルビン酸、コハク酸、乳酸等)若しくはその塩、緩衝剤(例えば、HEPES等)などが含まれる。本明細書において「任意成分」とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分のことを意味する。
【0031】
本明細書において、哺乳動物胚の体外培養における温度は、通常約30~40℃の範囲内であり、好ましくは約37℃である。また、哺乳動物胚の体外培養時のCO濃度は、通常約1~10%の範囲内であり、好ましくは約5%である。また、哺乳動物胚の体外培養時のO濃度は、正常酸素濃度(18~22%O)であっても、低酸素濃度(0~10%O)であってもよい。
【0032】
上記工程(b)において、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルを測定する方法としては、哺乳動物胚中の本件蛍光量を、哺乳動物胚が生きた状態で測定できる方法(ライブイメージング法)であればよく、イメージングサイトメーターを用いて、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルを測定する方法を好適に例示することができる。ここで「イメージングサイトメーター(イメージサイトメーターともいう)」とは、顕微鏡による蛍光画像の取得と、取得された蛍光画像の解析とを自動的に行うことができる画像解析システムを意味する。上記工程(b)の測定方法の具体的な形態としては、1又は複数の哺乳動物胚について、各胚中で発せされる本件蛍光量を検出・定量し、蛍光画像として取得すること;かかる蛍光画像を基にして得られた、各哺乳動物胚中の全蛍光量や最大蛍光量などの蛍光量に関する値を、ヒストグラムやドットプロットなどで表示した解析データを取得すること;かかる解析データを基にして得られた、蛍光量に関する定量結果を取得すること;等を自動的に行う方法を挙げることができる。
【0033】
上記イメージングサイトメーターとしては、例えば、共焦点レーザー顕微鏡システム(A1R HD25、ニコン社製)、共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)、スピニングディスク型共焦点システム(SpinSR10、オリンパス社製)、マルチアングルライブイメージングシステム(Lightsheet Z.1、ZEISS社製)等を挙げることができる。
【0034】
本件選別方法において、哺乳動物胚における一酸化窒素濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルの値は、絶対値であっても、相対値であってもよい。一酸化窒素濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルの絶対値は、例えば、既知の一酸化窒素濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルを有する哺乳動物胚(標準)を用いて、本件蛍光量との関係を示す検量線を作成し、かかる検量線を基に算出することができる。また、一酸化窒素濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルの相対値は、例えば、比較対照として、上記工程(a)の前に、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した哺乳動物胚や、アルギニンを含む培養液中で体外培養した哺乳動物胚を用い、これら胚における蛍光量を基準にして算出することができる。
【0035】
本件選別方法としては、着床能力の高い哺乳動物胚の選別精度をより高めるために、工程(a)において、一酸化窒素検出用蛍光指示薬及び酸素検出用蛍光指示薬と、取得された哺乳動物胚とを接触させるか、あるいは、酸素検出用蛍光指示薬及びミトコンドリア膜電位レベル測定用蛍光指示薬と、取得された哺乳動物胚とを接触させ;工程(b)において、一酸化窒素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及び酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度及び酸素消費量を測定するか、あるいは、酸素検出用蛍光指示薬由来の蛍光量及びミトコンドリア膜電位レベル測定用蛍光指示薬由来の蛍光量を指標として、哺乳動物胚における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルを測定し;工程(c)において、哺乳動物胚における一酸化窒素の濃度及び酸素消費量が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚;及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚;における一酸化窒素の濃度及び酸素消費量よりも低い場合、前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択するか、あるいは、哺乳動物胚における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルが、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚、及び/又は、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚における酸素消費量及びミトコンドリア膜電位レベルよりも低い場合、前記前記哺乳動物胚を、着床能力の高い哺乳動物胚として選択する;ことが好ましい。
【0036】
本件選別方法において、対照胚における値としては、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚における一酸化窒素の濃度、酸素消費量、及びミトコンドリア膜電位レベルから選択される1又は2以上の値や、アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚における一酸化窒素の濃度、酸素消費量、及びミトコンドリア膜電位レベルから選択される1又は2以上の値であって、比較対象の一酸化窒素の濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルに対応する値であれば特に制限されない。対照胚における値としては、例えば、哺乳動物胚集団を、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中や、アルギニンを含む培養液中で体外培養したときの一酸化窒素の濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルを測定し、それらの値に基づき、統計解析ソフトウェアを用いたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線等を用いて算出された閾値(カットオフ値)を挙げることができる。対照胚における一酸化窒素の濃度、酸素消費量、又はミトコンドリア膜電位レベルは、本件選別方法を実施する際、その都度測定したものを用いてもよいし、予め測定した値を用いてもよい。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。以下の実施例において、精子の前培養、媒精、及び胚の培養は、インキュベーター内(5%CO/20%O、37℃条件下)で行った。なお、HTF培養液及びKSOM培養液は、定法に従って調製した。
【実施例
【0038】
実施例1.哺乳動物胚におけるNO濃度やO消費量を指標とした、着床能力の高い哺乳動物胚の選別
本発明者は、哺乳動物胚において、アルギニンからNOSにより合成されたNOが、哺乳動物胚の着床率に影響を及ぼしている可能性を考えた。そこで、哺乳動物胚をDAF-FM DA存在下で培養し、DAF-FM DAとNOから生成されたDAF-FM Tの蛍光量を指標として、哺乳動物胚におけるNOの濃度を測定した。また、産生されたNOはO消費の制御にも関与することに着目し、哺乳動物胚におけるO消費量についても測定した。
【0039】
1-1 方法
[媒精]
以下の手順〔1〕~〔7〕に従って、体外にて哺乳動物精子と卵子の媒精を行った。
〔1〕オスの5ヶ月齢ICRマウスを安楽死させた後、精巣上体の尾部を摘出し、回収した。
〔2〕400μLのHTF培養液を、精子前培養用ディッシュに滴下し、HTF培養液の滴(ドロップ)を調製した後、その上を、流動パラフィン(ナカライテスク社製)で覆った。
〔3〕回収した精巣上体の尾部を把持した状態でハサミにて精巣上体管に傷をつけ、得られた精子塊を1mLの26G針付きツベルクリン用シリンジ(テルモ社製)を用いてHTF培養液のドロップに移し、媒精前の精子の培養(前培養)を2時間行った。
〔4〕メスの5ヶ月齢ICRマウスに、妊馬血清性腺刺激ホルモン(PMSG;pregnantmare serum gonadotropin)を腹腔内投与し、PMSG投与48時間後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG;Human chorionic gonadotropin)を投与することにより過排卵を誘起し、hCG投与12~16時間後にマウスを安楽死させ、卵管を回収した。
〔5〕200μLのHTF培養液を、媒精用ディッシュに滴下し、HTF培養液のドロップを調製した後、その上を、流動パラフィンで覆った。
〔6〕回収した卵管を、媒精用ディッシュにおける流動パラフィン内に移し、ピンセットで把持した状態で1mLの26G針付きツベルクリン用シリンジにて膨大部の卵管壁を引き裂き、得られた卵子塊を、HTF培養液のドロップに移した。
〔7〕前培養した精子を、マイクロピペッター(ニチリョー社製)を用いて700精子/μLに調整し、媒精用ディッシュにおける、卵子塊を含むHTF培養液のドロップ内に移し、媒精を行った。
【0040】
[胚の体外培養]
以下の手順〔1〕及び〔2〕に従って、哺乳動物胚の体外培養を行った。
〔1〕媒精から4時間後、受精卵を回収し、HTF培養液に移し発生培養を行った。
〔2〕発生培養約90時間後に、胚盤胞期まで発生が進んだ胚を、無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群に分け、それぞれ、アルギニン及びロイシンのいずれも含まないKSOM培養液、0.2mMのアルギニンを含むKSOM培養液、及び0.2mMのアルギニンと、0.2mMのロイシンとを含むKSOM培養液中で24時間培養した。
【0041】
[胚におけるNO濃度の測定]
以下の手順〔1〕~〔3〕に従って、哺乳動物胚におけるNO濃度を測定した。
〔1〕3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)の培養液中に、それぞれ、5mMのDAF-FM DA(五稜化薬社製)を500倍希釈されるように添加し、30分間インキュベーター内でインキュベートした。
〔2〕胚を新しいKSOM培養液で洗浄した後、ガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業社製)に移した。
〔3〕共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)を用いて、495nmの励起波長で励起し、波長515nmの緑色蛍光画像(DAF-2T画像)を取得し、DAF-FM Tの蛍光輝度を定量することにより、胚におけるNO濃度(産生量)を測定した(図1参照)。
【0042】
[胚におけるO消費量の測定]
以下の手順〔1〕~〔3〕に従って、哺乳動物胚におけるO消費量を測定した。
〔1〕3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)の培養液中に、それぞれ、Intracellular Oxygen Concentration Assay(abcam社製)における蛍光プローブを添加し、18時間インキュベーター内でインキュベートした。
〔2〕胚を新しいKSOM培養液で洗浄した後、ガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業社製)に移した。
〔3〕共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)を用いて、405nmの励起波長で励起し、波長650nmの赤色蛍光画像を取得し、赤色蛍光輝度を定量することにより、胚におけるO消費量を測定した(図2参照)。
【0043】
1-2 結果
胚におけるNO濃度を測定した結果、Arg添加群の胚における中央値(1.20)及び第3四分位(1.38)が、無添加群の胚における中央値(0.95)及び第3四分位(1.26)と比べ、有意に増加したのに対して、Arg+Leu添加群の胚における中央値(0.87)及び第3四分位(1.06)が、Arg添加群の胚における中央値(1.20)及び第3四分位(1.38)と比べ、有意に減少していた(図1参照)。
【0044】
一方、Arg+Leu添加群の胚の着床率は、無添加群の胚の着床率と比べ、増加することや、Arg添加群の胚の着床率は、無添加群の胚の着床率と比べ、減少することが確認されている(非特許文献2)。
【0045】
以上のことを総合すると、Arg+Leu添加群の胚(すなわち、着床能力の高い胚)におけるNO濃度は、Arg添加群の胚(アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚)(すなわち、着床能力の低い胚)におけるNO濃度と比べ、有意に低いことを示している。すなわち、胚におけるNO濃度が、アルギニンを含む培養液中で培養した胚におけるNO濃度よりも減少していることを指標として、着床能力の高い選択できることを示している。
【0046】
また、胚におけるO消費量を測定した結果、Arg添加群の胚における中央値(0.40)及び第3四分位(0.48)が、無添加群の胚における中央値(0.98)及び第3四分位(1.20)と比べ、有意に減少し(図2参照)、さらに、Arg+Leu添加群の胚における中央値(0.29)及び第3四分位(0.36)が、Arg添加群の胚における中央値(0.40)及び第3四分位(0.48)と比べ、有意に減少していた(図2参照)。
【0047】
この結果は、Arg+Leu添加群の胚(すなわち、着床能力の高い胚)におけるO消費量は、無添加群の胚(アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚)やArg添加群の胚(アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚)(すなわち、着床能力の低い胚)におけるO消費量と比べ、有意に低いことを示している。すなわち、胚におけるO消費量が、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で培養した胚や、アルギニンを含む培養液中で培養した胚におけるO消費量よりも減少していることを指標として、着床能力の高い胚を選択できることを示している。
【0048】
実施例2.哺乳動物胚におけるミトコンドリア膜電位レベルを指標とした、着床能力の高い哺乳動物胚の選別
実施例1の結果により、胚におけるNO濃度及びO消費量と、胚の着床能力との関連性が示された。一方、Oは、胚におけるミトコンドリアで消費される。そこで、上記3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)の胚におけるミトコンドリア膜電位レベルを測定した。
【0049】
2-1 方法
実施例1と別に、新たに3種類の群(無添加群、Arg添加群、及びArg+Leu添加群)を用意し、実施例1の項目「胚におけるO消費量の測定」に記載の方法に従って、胚におけるO消費量を測定した(図3参照)。また、かかる3種類の群の胚を、MitoTracker Red CMXRos(ThermoFisher Scientific社製)におけるMitoTrackerプローブ存在下で、20分間インキュベーター内でインキュベートした後、各胚を新しいKSOM培養液で洗浄し、ガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業社製)に移した後、共焦点レーザー顕微鏡システム(TCS SP8、ライカ マイクロシステムズ社製)を用いて、579nmの励起波長で励起し、波長599nmの赤色蛍光画像を取得し、赤色蛍光輝度を定量することにより、胚におけるミトコンドリア膜電位レベルを測定した(図4参照)。なお、O消費量を示す蛍光シグナルも、ミトコンドリア膜電位レベルを示す蛍光シグナルと同様に、赤色であるが、両者の波長が異なるため、分けて検出することができる。
【0050】
2-2 結果
Arg添加群の胚におけるO消費量が、無添加群の胚におけるO消費量と比べ、有意に減少し、Arg+Leu添加群の胚におけるO消費量が、Arg添加群の胚におけるO消費量よりもさらに、有意に減少することが確認された(図3参照)。
【0051】
また、胚におけるミトコンドリア膜電位レベルの測定結果から明らかなとおり、Arg+Leu添加群の胚における中央値(0.76)及び第3四分位(0.84)が、無添加群の胚における中央値(0.96)及び第3四分位(1.15)や、Arg添加群の胚における中央値(0.88)及び第3四分位(1.24)と比べ、有意に減少していた(図4参照)。
【0052】
この結果は、Arg+Leu添加群の胚(すなわち、着床能力の高い胚)におけるミトコンドリア膜電位レベルは、無添加群の胚(アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で体外培養した対照胚)やArg添加群の胚(アルギニンを含む培養液中で培養した対照胚)(すなわち、着床能力の低い胚)におけるミトコンドリア膜電位レベルと比べ、有意に低いことを示している。すなわち、胚におけるミトコンドリア膜電位レベルが、アルギニン及びロイシンのいずれも含まない培養液中で培養した胚や、アルギニンを含む培養液中で培養した胚におけるミトコンドリア膜電位レベルよりも減少していることを指標として、着床能力の高い選択できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、不妊治療を目的とした医療分野や、優良家畜(例えば、霜降り形質を示すウシ)の生産、家畜改良等を目的とした畜産分野などの生殖補助技術(例えば、体外受精、顕微授精)を必要とする分野に資するものである。
図1
図2
図3
図4