IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デューク ユニバーシティの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ネオアジュバントがん治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240906BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20240906BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240906BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K35/768
A61K39/395 T
A61P35/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020554198
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 US2019025402
(87)【国際公開番号】W WO2019195302
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】62/823,277
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/651,470
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ビグナー ダレル
(72)【発明者】
【氏名】グロマイアー マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ナイール スミタ
(72)【発明者】
【氏名】フリードマン ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】デジャルダン アニック
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/066557(WO,A1)
【文献】特表2016-500108(JP,A)
【文献】国際公開第2017/205875(WO,A1)
【文献】Cancer,2014年,pp. 3277-3286,DOI: 10.1002/cncr.28862
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 35/768
A61K 39/395
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤及び治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物並びにii)治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤の、腫瘍を有する個体を治療するまたは腫瘍を有する個体における再発の可能性を低減する方法において使用するための医薬の製造における使用であって、前記方法は、
a)腫瘍の外科的切除の少なくとも1週間から1カ月前に、i)の治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤および治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を個体に投与するステップであって、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は腫瘍内に投与され、免疫チェックポイント阻害剤は静脈内に投与される、ステップ、
b)次いで、外科手術を行って腫瘍を切除するステップ、
c)腫瘍の切除後に、ii)の治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を個体の静脈内に投与するステップ
を含み、
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのSabinタイプI株を含み、免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-1抗体、抗PDL-1抗体、抗CTLA4抗体、抗LAG-3抗体、および抗TIM-3抗体からなる群から選択される、医薬の製造における使用。
【請求項2】
前記医薬が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
免疫チェックポイント阻害剤は、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
腫瘍は、脳腫瘍、腎細胞癌、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、胃腫瘍、膵腫瘍、結腸直腸腫瘍、肝臓腫瘍、胆嚢腫瘍、乳房腫瘍、肺腫瘍、頭頸部腫瘍、皮膚腫瘍、黒色腫、および肉腫からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
腫瘍はNECL5(ネクチン様タンパク質5)を発現する、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記方法が、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を個体に投与するステップの前に、個体の腫瘍を試験してNECL5の発現を確認するステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物が個体に投与され、その7日から30日後に、個体は免疫チェックポイント阻害剤を受ける、請求項1記載の使用。
【請求項8】
免疫チェックポイント阻害剤が個体に投与され、その7日から30日後に、個体は腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を受ける、請求項1記載の使用。
【請求項9】
前記方法が、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を投与するステップの6カ月から1週間前に、ポリオウイルス免疫付与ブースターを個体に投与するステップをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記方法が、腫瘍の切除または縮小の後に個体に免疫チェックポイント阻害剤の複数回用量を投与するステップをさらに含み、用量は約1週間から3週間毎に隔てられている、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物および免疫チェックポイント阻害剤を含む、個体における腫瘍を治療する方法において使用するためのキットであって、前記方法は、
a)腫瘍の外科的切除の少なくとも1週間から1カ月前に、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤および治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を個体に投与するステップであって、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は腫瘍内に投与され、免疫チェックポイント阻害剤は静脈内に投与される、ステップ、
b)次いで、外科手術を行って腫瘍を切除するステップ、
c)腫瘍の切除後に、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を個体の静脈内に投与するステップ
を含み、
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのSabinタイプI株を含み、免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-1抗体、抗PDL-1抗体、抗CTLA4抗体、抗LAG-3抗体、および抗TIM-3抗体からなる群から選択される、キット。
【請求項12】
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は第1の容器にあり、免疫チェックポイント阻害剤は第2の容器にある、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
腫瘍細胞試料でNECL5発現を決定する試薬をさらに含む、請求項11または12に記載のキット。
【請求項14】
試薬は、NECL-5に特異的な抗体またはNECL-5に特異的なPCRプライマーを含む、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2018年4月2日出願、米国仮特許出願第62/651,470号、および2019年3月25日出願、米国仮特許出願第62/823,277号の優先権の利益を主張するものであり、双方ともそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
連邦政府資金による研究開発の記載
本発明は、NCI/NIHによって授与された連邦助成金第R35-CA197264号および国防総省乳がん研究プログラムレベル3ブレイクスルーアワードによって授与された連邦助成金第BC151083号の下に、政府支援を受けてなされた。連邦政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
本発明の技術分野
本発明は、抗腫瘍療法の分野に関する。詳細には、本発明は、ネオアジュバント療法における腫瘍溶解性ウイルス抗腫瘍治療に関する。
【背景技術】
【0002】
PVSRIPOは、組換え腫瘍溶解性ポリオウイルスである。PVSRIPOは、ヒトライノウイルスタイプ2(HRV2)の外来性の配列内リボソーム進入部位(IRES)を含有する、減弱化生タイプ1(Sabin)PVワクチンからなる。Gromeier et al., PNAS 93: 2370-2375 (1996)および米国特許第6,264,940号を参照されたい。IRESは、ポリオウイルスゲノムの5’非翻訳領域に位置するシス作用性遺伝因子であり、ウイルス性の、m7G-キャップ非依存性翻訳を媒介する。PVSRIPOの抗腫瘍効果は、直接なウイルス媒介性の腫瘍細胞の死滅、および二次的な腫瘍に対する宿主媒介性免疫応答を含む。Brown et al., Sci Transl Med (: 4220 (2017)を参照されたい。本ウイルスは、ヒトにおいて劇的で予想外の効力を示してきた。それでもなお、1つまたは複数の治療効果の改善をヒトに対して、特に治療困難ながんの個体に対して、もたらす抗がん治療を特定し、開発する必要性が当技術分野において引き続き存在する。
【発明の概要】
【0003】
本発明の一態様によれば、ネオアジュバント療法によって個体の腫瘍を治療する方法が提供される。この方法では、上記個体は腫瘍量を縮小する治療を前もって受けていない(例えば、腫瘍量を縮小する外科的治療または放射線治療がない)。免疫チェックポイント阻害剤も、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物(の投与の前後に)に関連して同時にまたは逐次的にいずれかで個体に投与される。治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物および治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療の後、次いで、個体は腫瘍量を縮小する治療を受ける。一態様では、個体に投与される、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間のポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有するポリオウイルスのサビンタイプI株を含む。
【0004】
本発明の別の態様によれば、ネオアジュバント療法によって個体の腫瘍を治療する方法が提供される。この方法では、個体は腫瘍を治療する切除を前もって受けていない(例えば、腫瘍量を縮小する外科的治療はない)。免疫チェックポイント阻害剤が個体に投与される。腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物も個体に投与され、ここで、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのサビンタイプI株を含む(PVSRIPO)。免疫チェックポイント阻害剤および腫瘍溶解性キメラポリオウイルスを含むネオアジュバント療法の投与に続いて、個体は、腫瘍の外科的切除を含む腫瘍量を縮小する治療を受ける。このような腫瘍の切除は、免疫チェックポイント阻害剤および腫瘍溶解性キメラポリオウイルスの投与の後に1週間~1カ月の範囲の期間中に行うことができる。
【0005】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書に記載のネオアジュバント療法の方法のいずれかは、6カ月~1週間の間でポリオウイルス免疫付与ブースター(例えば、Sanofi-Pasteur製の3価不活化IPOL)を投与するステップ、その後に、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を投与するステップ、をさらに含むことができる。
本発明の別の態様によれば、本明細書に記載の方法のいずれかは、腫瘍切除の後のアジュバント療法をさらに含むことができ、ここで、そのような療法は、1種または複数の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物または免疫チェックポイント阻害剤を、腫瘍量が縮小された個体に、投与するステップを含む。例えば、腫瘍切除または腫瘍の放射線治療の後に、免疫チェックポイント阻害剤を、維持療法において必要に応じて個体に投与することができる。別の例では、切除または放射線の後に腫瘍が再発する場合、腫瘍溶解性キメラポリオウイルスを個体に投与することができる。
【0006】
本発明のさらなる態様によれば、個体における腫瘍のネオアジュバント療法が提供され、腫瘍のネオアジュバント療法における医薬としてのまたは組成物としての、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物の単独での使用、または免疫チェックポイント阻害剤との組合せでの使用が提供され、ここで、個体は腫瘍を治療する切除を前もって受けておらず、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのサビンタイプI株を含み、かつ、治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物で、または腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物と治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を含む組合せで、腫瘍を治療した後に、次いで、腫瘍量を縮小させる。ネオアジュバント療法は、腫瘍量の縮小に続いて、治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物、もしくは治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤、またはそれらの組合せを投与するステップを含む、1つまたは複数の治療をさらに含むことができる。
【0007】
がんのネオアジュバント免疫療法のための方法であって:a)腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物、または組合せ療法で逐次的に投与される腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物と免疫チェックポイント阻害剤、を含む、1種または複数の免疫療法剤を治療有効量で腫瘍を有する個体に投与するステップ、b)1種または複数の免疫療法剤を受けるステップに続いて、個体において腫瘍量(例えば、腫瘍の量)を縮小するのに有効である、外科手術、放射線療法、およびそれらの組合せからなる群から選択される抗がん療法で個体を治療するステップ(すなわち、1種または複数の免疫療法剤は抗がん療法の前に投与される)、を含む、方法も提供される。腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物もしくは免疫チェックポイント阻害剤、またはそれらの組合せは、薬学的に許容される担体の添加をさらに含むことができる。一態様では、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物はPVSRIPOである。
【0008】
免疫チェックポイント阻害剤および腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を、その腫瘍が切除または放射線治療による縮小を前もって受けていない個体に、それぞれ治療有効量で、投与するステップを含む、個体における腫瘍のネオアジュバント療法が提供され、ここで、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのサビンタイプI株を含み、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物および免疫チェックポイント阻害剤で腫瘍を治療した後に、次いで、腫瘍は腫瘍量を縮小する治療を受け、かつ本発明のネオアジュバント療法は、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物と免疫チェックポイント阻害剤の組合せを使用するアジュバント療法と比較して、治療効果の改善をもたらす。治療効果としては、次のうちの1つまたは複数を挙げることができる:腫瘍部位周辺の炎症の軽減(切除前および/または切除後);全生存率の改善;無病生存率の改善;再発の可能性の低下(原発性臓器および/または遠隔再発);転移性疾患の発症率の低下;および抗腫瘍免疫応答の上昇;または当業者であれば知っており、治療するがんのタイプに応じた適切な治療効果判定を使用した全体的な奏効率の改善(例えば、リンパ腫については、Cheson et al., 2014, J. Clin. Oncology32 (27):3059-3067;固形非リンパ系腫瘍については、固形がんの治療効果判定(RECIST)、を参照されたい))。炎症の軽減に関して、腫瘍、特に脳腫瘍を抱え、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物による治療を受け、最小限のまたは容易に制御可能な炎症を経験しているそういった個体は、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物による治療を受け、広範な炎症または扱いにくい炎症を経験している個体と比較して、より良好な(より効果的および/またはより持続性のある)抗腫瘍応答を示すことが発見された。
【0009】
本明細書を読むことにより当業者に明らかとなるこれらのおよび他の態様によって、当技術分野にがんを治療するための新たな治療レジメンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物PVSRIPOの遺伝子構造を示すダイアグラムである。ポリオウイルスの5’非翻訳領域(UTR)は、ポリオウイルスの5’末端のクローバーリーフとポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間に、天然ポリオウイルス配列の代わりに、ヒトライノウイルスBからの配列内リボソーム進入部位(IRES)を含有する。
図2】様々な用量のPVSRIPO(青線;「PVSRIPO」)で治療された個体と比較した、既存対照(historical control)(赤線)の全生存率のカプランマイヤー曲線の図であり、y軸は全生存率(「残存確率」)、x軸は月数である。
図3】乳がん(SUM149およびMDA-MB231)、黒色腫がん(DM6)、および前立腺がん(LNCaP)を代表する異なる4種の腫瘍細胞株を使用する結果を示す図である。樹状細胞(DC)をディッシュに播種した。腫瘍溶解産物からの上清をDC培養物に添加しインキュベートした。次いで、上清を除去し、DCを洗浄した。DNase Iで処理した末梢血単核細胞(PBMC)を37℃でインキュベートした。非付着細胞を回収し、CTL刺激培地中、IL-7の存在中で、応答細胞とスティミュレーターDCとの比を10:1で、ポリオウイルス誘導腫瘍溶解産物を担持させたDCで刺激した。12~14日目、T細胞を回収し、カウントし、ユウロピウム放出CTLアッセイにおいてエフェクターT細胞として使用した。関連する腫瘍抗原および無関係の腫瘍抗原をコードするmRNAをトランスフェクトした自己DCを対照標的として使用した。DC対照標的には、mRNAをエレクトロポレートした標的細胞を回収し、洗浄して培地を残らずに除去し、ユウロピウム(Eu)で標識した。あるいは、元の標的細胞(Sum149、MDAMB231、LNCaPまたはDM6)をEuで標識した。異なるE:T比でのユウロピウム標識標的(T)10,000個およびエフェクター細胞(E)の段階希釈物を96ウェルV字底プレートでインキュベートした。プレートを3分間遠心分離し、37℃でインキュベートした。上清50μlを回収し、96ウェル平底プレートの増強溶液150μlに添加し、VICTOR3 Multilabel Counter(Perkin-Elmer)を使用して、ユウロピウム放出を時間分解蛍光により測定した。式:特異的放出%=[(実験による放出-自発的放出)/(全放出-自発的放出)]×100を使用して特異的細胞傷害活性を決定した。標的細胞の自発的放出は、洗浄剤による全放出の25%未満であった。標的細胞の自発的放出は、T細胞を含まない培地で標的細胞をインキュベートすることにより決定した。アッセイはいずれも三重反復で実施したものであり、バーは平均溶解%を表し、誤差バーは平均の標準誤差を表す。
図4A-4D】本発明と類似のポリオウイルスとチェックポイント阻害剤との組合せ治療を含めて様々な治療を使用する、C57Bl6マウスのCT2A神経膠腫を使用したマウス腫瘍モデルでのin vivo試験の結果を示す図である。マウスおよびCT2A細胞はともにヒトポリオウイルス受容体CD155を発現する。以下の実験的治療による結果(経時的腫瘍体積)を上パネルに示す:図4A、群I:DMEM(ウイルスの対照へのビヒクル)+IgG(抗PD1の対照への);図4B、群II:PVSRIPOの単回腫瘍内注射+IgG;図4C、群III:DMEMの単回腫瘍内注射+抗PD1;図4D、群IV:PVSRIPO(「mRIPO」)の単回腫瘍内注射+抗PD1。抗PD1は腹腔内注射により3回分(3日目、6日目、9日目)で与えた。下の3つのパネルは、治療群II~IVの個々のマウス(各ラインは別のマウスである)の腫瘍応答(経時的腫瘍体積)を示している。
図5A-5B】乳がんのE0771同所性免疫適格性マウスモデルにおいて増殖を制限する抗PD1または抗PDL1チェックポイント阻害剤抗体と組み合わせたPVSRIPO(mRIPO)によるマウスの治療の結果を示す図である。E0771-CD155腫瘍細胞106個を含む乳腺脂肪パッドで、マウスを移植した。腫瘍がおよそ100mm3に達したとき、PBSまたはmRIPO(5×107pfu)を腫瘍に注射した。抗PD1(図5A)/抗PDL1(図5B)を、mRIPO注射の日に、次いで、2~3日毎に4回、腹腔内に注射した(PBS 200μL中250μg)。腫瘍の増殖を経時的にモニターした。図5Aに示すように、mRIPOと抗PD1抗体の両方が、PBSと比較して腫瘍体積を制御することができたが、mRIPOと抗PD1の組合せは、有意により良好であった。図5Bに示すように、同様の結果が、抗PDL-1を使用して得られ、この場合、mRIPOまたは抗PDL1のいずれか単独で、PBS対照よりも腫瘍増殖を良好に制御することができたが、mRIPOと抗PDL1の組合せは、腫瘍増殖の減少をもたらした。
図6A-6B】E0771-CD155細胞5x105個を同所的に移植されたC57BL/6-CD155トランスジェニックマウスの様々な治療の結果を示す図である。図6Aは、(i)ネオアジュバント療法(mRIPO、これに続いて外科手術を受けている(-★-)、(ii)PBSによる治療、これに続いて外科手術を受けている(-◆-)、(iii)外科手術を受けず、mRIPOによる治療を受けている(-■-)、および(iv)外科手術を受けず、PBSによる治療を受けている(-●-)、マウスの腫瘍移植後の日数にわたる腫瘍体積のグラフである。有意性は、p値:★、P≦0.05;★★、P≦0.01;★★★、P≦0.001、で表されている。図6Bは、PBSによる治療を受け、これに続いて外科手術を受けたマウス(-◆-)と比較した、mRIPOによる治療を受け、これに続いて外科手術を受けたマウス(-★-)の、腫瘍再チャレンジ後の日数にわたる腫瘍体積のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
がんのネオアジュバント化学療法は数年間適用されてきたが、がんのネオアジュバント免疫療法はまだ発展中の医学的適用である。本発明者らは、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物または腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物と免疫チェックポイント阻害剤を含む組合せ、を含む、1種または複数の免疫療法剤を腫瘍を有するヒトに投与する、ネオアジュバント免疫療法(本明細書ではネオアジュバント療法とも呼ばれる)を開発した。1種または複数の免疫療法剤の投与の後に、1種または複数の免疫療法剤によって治療した腫瘍を、次いで縮小させる(例えば、外科手術によって切除され、または放射線療法によってサイズおよび/または量が縮小される)。任意で、個体は、1種または複数の免疫療法剤を含む維持療法を次いで受けることができる。予期せぬことに、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,264,940号に記載のPVSRIPO)または腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物と免疫チェックポイント阻害剤の組合せ、を含むネオアジュバント免疫療法で治療した個体について、1つまたは複数の治療効果が観察される。これらの治療効果は、本発明の時点では明らかではなかった。例えば、本発明の時点では、ネオアジュバント療法の使用から観察された病理学的完全奏効率は、ネオアジュバント療法の後の一部の乳がん患者で観察されたように、いつも生存率の改善という形で現れるとは限らないことが知られていた。加えて、遺伝子変異量が低い腫瘍は、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物PVSRIPOによる治療に最も応答する。一方(対照的に)、免疫チェックポイント阻害剤での治療による免疫チェックポイント遮断に対する応答性は、主として遺伝子変異量が高い腫瘍によるものである。また、PVSRIPOはアジュバントセッティングの治験で使用されてきた。すなわち、この場合、PVSRIPOによる治療後に腫瘍は切除されない。アジュバントセッティングでは、腫瘍細胞をPVSRIPOによって感染させ、より感染性のウイルスを産生し、感染腫瘍細胞をウイルスによって溶解し、新たに産生された感染性ウイルスが放出され、これは、次いで、腫瘍のさらなる腫瘍細胞に感染することができ、このサイクルが繰り返される。新たに産生されたウイルスはまた、抗腫瘍免疫応答を誘導する上で樹状細胞をさらに刺激することもできる。PVSRIPOおよび免疫チェックポイント阻害剤の投与後に腫瘍量を縮小するので、腫瘍感染と溶解、および免疫応答のさらなる刺激であるこういった繰り返しサイクルは、ネオアジュバント療法では制限される。したがって、生存率の上昇によって観察されたようにまたは観察された他の治療効果のように、結果として生じる抗腫瘍応答の持続性は、本ネオアジュバント免疫療法では予期せぬことであろう。
【0012】
本発明の方法では、腫瘍溶解性キメラポリウイルス構築物を腫瘍に直接投与するための任意の技法を使用することができる。直接投与は、腫瘍にアクセスするのに血液血管系を利用しない。調製物は、腫瘍の表面に塗布されても、腫瘍内に注射されても、手術中に腫瘍部位内にまたは腫瘍部位に滴下注入されても、カテーテルを介して腫瘍内に輸注されても、等々でよい。使用が可能な、脳がん治療向けの特定の一技法は、対流強化送達(convection enhanced delivery)である。腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、天然ポリオウイルスIRESがヒトライノウイルス2などの他のピコルナウイルスのIRESと少なくとも部分的に交換されている、組換えまたは遺伝子操作ポリオウイルスである。ポリオウイルスは一般にはSabinポリオウイルスであり、適切にはポリオウイルスのSabinタイプI株である。したがって、本明細書に記載の操作された腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物の5’非翻訳領域(UTR)には、天然ポリオウイルスの5’クローバーリーフが含まれ、ポリオウイルスの天然IRESはヒトライノウイルス2からのIRESと少なくとも部分的に置き換えられており、天然型または野生型ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの残りの部分はそのまま保たれている。
【0013】
本発明に従って使用が可能な免疫チェックポイント阻害剤は、細胞傷害性T細胞と腫瘍細胞の阻害相互作用を妨害する任意の免疫チェックポイント阻害剤である。このような阻害剤としては、限定されないが、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA4抗体、抗LAG-3抗体および/または抗TIM-3抗体が挙げられる。米国で承認されているチェックポイント阻害剤としては、アテゾリズマブ、イピリムマブ(ipimilumab)、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、およびティスレリズマブが挙げられる。阻害剤は抗体である必要はないが、小分子または他のポリマーとすることができる。阻害剤が抗体である場合、これはポリクローナル、モノクローナル、断片、一本鎖またはその他の抗体変異体構築物とすることができる。阻害剤は、限定されないが、CTLA-4、PDL1、PDL2、PD1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK 1、CHK2、A2aR、およびリガンドのB-7ファミリーを含めて、当技術分野で知られている任意の免疫チェックポイントを標的とすることができる。単一の標的免疫チェックポイントに対する阻害剤の組合せまたは異なる免疫チェックポイントに対する様々な阻害剤の組合せを使用することができる。加えて、CSF-1R遮断薬を、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて、または免疫チェックポイント阻害剤の代替として使用して、遠隔転移および再発腫瘍を効率的に根絶する強力で持続的な免疫が生じることを、確実にすることができる。この目的には、限定されないがエマクツズマブ(imactuzumab)およびAMG820を含めて、CSF-1Rに特異的な抗体またはCSF-1Rを阻害もしくは遮断する薬物を使用することができる。
【0014】
ネオアジュバント療法の方法では、1種または複数の免疫療法剤(治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物、または治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤および腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物)が投与され、その後に、個体は個体の腫瘍の量を縮小する外科手術または放射線による治療を受ける。典型的には、ネオアジュバント療法が2種の免疫療法剤を含む場合、この2種の薬剤は、それぞれの数日以内に投与されることになる。例えば、免疫チェックポイント阻害剤が投与され、これに続いて、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物が、免疫チェックポイント阻害剤の投与の、30、28、21、14、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1日後に投与される。あるいは、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を投与し、その後に、免疫チェックポイント阻害剤を投与することが有利である場合もあり、この場合、免疫チェックポイント阻害剤が、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物の投与の後の数日または数週間以内に(例えば、30、28、21、14、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1日後に)個体に次いで投与される。腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物による細胞傷害性Tリンパ球応答のプライミングには、約5日~約14日を要する場合がある。免疫チェックポイント阻害剤の投与は、そのようなプライミング期間の前、その最中、またはその後に有益に開始することができる。例えば、一態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物の投与の14日後に投与され、免疫チェックポイント阻害剤の投与に続いて約1週間~約3週間後、個体は腫瘍量を縮小する治療を次いで受ける(例えば、外科手術または放射線療法によって)。典型的には、ネオアジュバント療法が腫瘍溶解性キメラポリオウイルスの投与を含む場合、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を受けてから約1週間~約3週間後に、個体は腫瘍量を縮小する治療を次いで受ける(例えば、外科手術または放射線療法によって)。任意で、腫瘍量の縮小に続いて、個体は、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤の定期的(例えば、約1週間~3週間ごと)投与を含んだ、免疫チェックポイント阻害剤による維持療法を受けることができ、および/または万一腫瘍が再発した場合は、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物と組み合わせて投与される場合もある。
【0015】
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物または免疫チェックポイント阻害剤を含む免疫療法剤の治療有効量とは、免疫療法剤を受けている個体に治療効果をもたらすのに有効な量である。そのような有効量は、健康状態、性別、サイズ(例えば、体重)、年齢、がんの種類、がんの病期、投与経路、療法に対する忍容性、毒性または副作用、および適切な治療投薬およびレジメンを確立する際に、熟練した医師が考慮に入れるはずであるその他要因を含めて、個体の特性に従って様々である。例えば、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物の治療有効量は、約1×108組織培養感染量(TCID)~約5×106TCIDの範囲とすることができる。免疫チェックポイント阻害剤の治療有効量は、約0.5mg/体重1kg~約5mg/体重1kg、約1mg/体重1kg~約5mg/体重1kg、約1mg/体重1kg~約3mg/体重1kg、約500mg~約1500mg、または医師によって決定された、より少ない量もしくはより多い量の範囲とすることができる。
【0016】
免疫チェックポイント阻害剤は、特定の阻害剤について当技術分野で知られている適切な任意の手段によって投与することができる。このような手段には、静脈内、経口、腹腔内、舌下、髄腔内、腔内、筋肉内、腫瘍内、および皮下が含まれる。任意で、免疫チェックポイント阻害剤を腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物と組み合わせて投与することができる。
【0017】
小児腫瘍も成人腫瘍も両方含めて、ネオアジュバント療法に関する本方法によって任意のヒト腫瘍を治療することができる。腫瘍は、任意の器官、例えば脳、前立腺、乳房、肺、結腸および皮膚のものとすることができる。例えば、膠芽腫、髄芽腫、癌腫、腺癌等を含めて、種々のタイプの腫瘍を治療することができる。腫瘍のその他の例としては、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、グレードI(未分化)星細胞腫、グレードII星細胞腫、グレードIII星細胞腫、グレードIV星細胞腫、中枢神経系の非定型奇形腫/ラブドイド腫瘍、基底細胞癌、膀胱がん、乳房肉腫、気管支がん、気管支肺胞癌、子宮頸がん、頭蓋咽頭腫、子宮内膜がん、子宮内膜の子宮がん、上衣芽細胞腫、上衣細胞腫、食道がん、感覚神経芽腫、ユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、線維性組織球腫、胆嚢がん、胃がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛性腫瘍、妊娠性絨毛性腫瘍、神経膠腫、頭頸部がん、肝細胞がん、肝門部胆管癌、下咽頭がん、眼球内黒色腫、膵島腫瘍、カポジ肉腫、ランゲルハンス細胞組織球症、大細胞性未分化肺癌、喉頭がん、口唇がん、肺腺癌、悪性線維性組織球腫、髄上皮腫、黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫、内分泌新生物、鼻腔がん、鼻咽腔がん、神経芽細胞腫、口腔がん、中咽頭がん、骨肉腫、卵巣明細胞癌、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞腫瘍、膵臓がん、乳頭腫、副鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん(pharyngeal cancer)、松果体実質腫瘍、松果体芽腫、下垂体腫瘍、胸膜肺芽腫、腎細胞がん、第15染色体の変化を伴う気道がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、小細胞肺がん、小腸がん、軟部肉腫、扁平上皮癌、扁平上皮非小細胞肺がん、扁平上皮頸部がん、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、精巣がん、咽頭がん(throat cancer)、胸腺癌、胸腺腫、甲状腺がん、腎盂がん、尿道がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、およびウィルムス腫瘍が、挙げられる。
【0018】
任意で、腫瘍を有する個体は、本明細書に記載の方法による治療の前に、個体の腫瘍によるNECL5(CD155、ポリオウイルス受容体)発現に基づいて治療のために層別化することができる。これは、例えば、プローブ、プライマーまたは抗体を使用して、RNAレベルまたはタンパク質レベルでアッセイすることができる。NECL5発現によって、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を用いて治療するか治療しないかの決定を導くことができる。NECL5発現はまた、治療の用量、頻度および持続期間を含めて、治療の積極性を導くのに、使用することができる。NECL5(CD155)に対する抗体は市販されており、それを使用することができる。NECL5 RNA発現はまた、当技術分野で知られている方法を使用してアッセイすることができる。
【0019】
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物および1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤を投与するステップ、これに続く、腫瘍の外科的除去または腫瘍の外科的縮小を含むネオアジュバント療法に加えて、個体の治療は、化学療法、生物学的療法、および放射線療法のうちの1つまたは複数を含むことができる。これらのモダリティは、ある特定のヒト腫瘍の治療のための現在の標準治療とすることができる。ネオアジュバント療法は、腫瘍を治療するための標準治療の前、その最中、またはその後に投与することができる。例えば、ネオアジュバント療法を構成するPVSRIPOと免疫チェックポイント阻害剤の組合せを、標準治療の失敗後に投与してもよい。免疫療法剤の組合せが指定されている場合、各薬剤を、単一の組合せレジメン内での別々2つの薬剤として時間的に別個に投与してもよい。あるいは、2(またはこれより多い)剤を混和物で投与してもよい。
キットに、仕切りのあるまたは仕切りのない単一の容器中に、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物、例えば、PVSRIPOと、免疫チェックポイント阻害剤とのどちらも含めることができる。この2剤は、別々の入れ物中に含まれても、混和物で単一の入れ物中に含まれてもよい。投与に関する指示書が含まれてもよい。任意で、キットの成分として、個体の腫瘍によるNECL5発現を検査するための抗体および試薬またはPCRプライマーが含まれる。
【0020】
出願者らは、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を産生するための方法、および遺伝的安定性および均一性を試験する方法を開発した。遺伝的安定性のための製造および試験に適した任意の方法を使用することができる。例えば、安定性を評価する方法には、39.5℃で増殖できないことを試験すること、突然変異の有無を判定するためのバルク配列決定を行うこと、霊長類の神経毒性について試験すること、が含まれる。
がん細胞の感染と溶解、抗原提示細胞の感染と活性化、およびがん細胞を標的とする免疫細胞の動員と活性化を含めて、抗腫瘍免疫応答を誘導する上で、複数のメカニズムが、腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物、すなわちPVSRIPO、の効力に関与している可能性がある。したがって、PVSRIPOによる腫瘍の治療は、ウイルスによる腫瘍の直接殺滅に加えて、免疫療法を含む。
本発明の説明において使用される用語は腫瘍学および医学の当業者によって十分に理解されると思われるが、本明細書で提供される場合、定義とは、本発明の説明を容易にし、当該用語の使用に関する例示的な例を提供するために、示すものである。
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、および「the」という用語は、単数が明らかに指示されない限り(例えば、単数が、例えば「単一の薬剤」の句で明確に指示される)、「1つまたは複数」を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、本明細書に記載の組成物または組合せの投与、送達、保管、安定性のうちのいずれか1つまたは複数において有用な任意の化合物または組成物または担体媒体を意味する。これらの担体は当技術分野で知られており、限定されないが、製薬分野で広く知られているように、希釈剤、水、生理食塩水、適切なビヒクル(例えば、リポソーム、マイクロ粒子、ナノ粒子、エマルジョン、カプセル)、バッファ、トラッキング剤、医療用非経口ビヒクル、賦形剤、水溶液、懸濁液、溶媒、乳剤、洗浄剤、キレート剤、可溶化剤、塩、着色剤、ポリマー、ヒドロゲル、界面活性剤、乳化剤、浸透剤、補助剤、増量剤、防腐剤、安定剤、油、バインダー、崩壊剤、吸収剤、香料等が含まれる。
がんを治療することまたは腫瘍を有する個体を治療することには、限定されないが、対象におけるがん細胞の数を低減することもしくは腫瘍のサイズを縮小すること、がんのより攻撃的な形態への進行を低減すること、がん細胞の増殖を低減することもしくは腫瘍増殖の速度を低減すること、がん細胞を殺滅すること、がん細胞の転移を低減すること、または対象におけるがんの再発の可能性を低減すること、が含まれる。本明細書で使用される場合、個体を治療することとは、対象の状態の改善(例えば、1つまたは複数の症状)、疾患の進行の遅延、症状の発生の遅延、症状の進行を遅らせる等を含めて、疾患に罹患している、または疾患を発症するリスクのある対象に効果を与えるあらゆる形式の治療を指す。
【0022】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」または有効量とは、腫瘍を治療するために対象に投与された場合に、(上で定義のように)治療を実施するのに十分である組成物の量を意味する。治療有効量は、製剤または組成物、腫瘍の種類およびその重症度、ならびに治療を受ける対象の年齢、体重、健康状態および応答性によって異なることになる。
「ネオアジュバント療法」とは、腫瘍を除去しまたは量を縮小する外科手術、または腫瘍の量を縮小する放射線療法などの、個体が腫瘍量の縮小を受ける前に腫瘍を有する個体に与えられる療法を指して、本明細書では使用される。外科手術は、腫瘍の全切除または部分切除を含むことができる。ネオアジュバント療法によって、続いて行う切除を容易にし得る腫瘍量の縮小をもたらすことができる。
「アジュバント療法」とは、切除腫瘍の外科手術後に与えられる療法を指して、本明細書では使用される。
「維持療法」とは、疾患の進行または再発の可能性を低減するのに与えられる治療レジメンを指して、本明細書では使用される。維持療法は、療法への応答を評価するための臨床パラメーターの評価に応じて、任意の時間にわたって施すことができる。
【0023】
「生存率」とは、治療後に命脈を保っている個体を指して本明細書では使用され、全生存率、および無病生存率を含む。生存率は通常、カプランマイヤー法によって測定される。無病生存率とは、がんの再発の証拠なしで命脈を保っている、治療を受けた個体を指す。全生存率とは、規定の期間命脈を保っている個体を指す。
上の開示は全体として本発明について記載するものである。以下の特定の実施例を参照することによって、より完全な理解を得ることができるが、これらの実施例は、単なる例示を目的として本明細書において提供するものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【実施例
【0024】
(実施例1)
PVSRIPOのみを使用して、腫瘍のある個体で第I相治験を実施した。腫瘍は再発性神経膠芽腫(GBM)であり、PVSRIPOを腫瘍切除後に投与した(アジュバント療法)。1×108組織培養感染量(TCID)、5×107TCID、および1×107TCIDを含めて、いくつかの投与量について試験した。PVSRIPO(「PVSRIPO DL 1~5」、図2、表1)を、腫瘍内に直接送達した。対流強化送達を使用して、PVSRIPOを腫瘍内に注入した。埋込みカテーテルを使用して、500μL/時間の送達速度でPVSRIPOを注入し、3mLを個体に送達した接種源の総量とした。第I相治験の結果を、表1および図2にまとめる(2018年3月20日まで経過観察した)、ここでは、PVSRIPOで治療した個体を既存対照と比較している。表1および図2に示すように、PVSRIPOPで治療した個体の全生存率が、既存対照と比較して、特に2年以上で有意に改善している。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例2)
免疫チェックポイント阻害剤のメカニズムは、細胞傷害性T細胞のエフェクター機能を遮断する腫瘍が引き起こす事象から同細胞の機能を開放することである。腫瘍は、細胞傷害性T細胞を制御する、天然に存在する「ブレーキ」のシステムを巻き込む。腫瘍にとって、このことは、変異タンパク質を発現し、したがって外部シグネチャーを提示する腫瘍を免疫系が攻撃する可能性を抑制するという利点を有する。免疫チェックポイント阻害剤はこの腫瘍のメカニズムを逆転し、免疫機能を開放する。PVSRIPOは、腫瘍を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導する免疫応答を誘発する。したがって、PVSRIPOとチェックポイント阻害剤との組合せによって治療効果が増強される。以下に示すように、PVSRIPOは実際、CTL応答を誘導することによって腫瘍を治療するように作用する。
【0027】
黒色腫細胞、乳房腫瘍細胞、脳腫瘍細胞、前立腺がん細胞を培養中にPVSRIPOに接触させ、感染させ、培養物に含まれる死細胞(dying cells)/死滅細胞(dead cells)から上清を収集した。感染腫瘍細胞由来の上清を使用して、ヒト対象から単離した樹状細胞(CTLとのコミュニケーションおよびCTL活性化の調和を担う免疫細胞の集団)を曝露した。その結果、樹状細胞に炎症誘発活性化の強い徴候がみられた(すなわち、腫瘍細胞のウイルス感染によって、樹状細胞のCTL活性化機能を促進する可溶性因子が産生された;感染腫瘍細胞から放出されたウイルスによって樹状細胞が活性化された)。次いで、活性化樹状細胞を、樹状細胞を提供した同じヒト対象由来のT細胞(CTLを含めて)と共培養した。次いで、共培養T細胞(CTLを含めて)を、感染段階に使用したのと同じ株由来の未感染腫瘍細胞と共培養した。図3に示すように、腫瘍細胞に対する活性化したCTLの細胞傷害性が高レベルであることが、観察された。
【0028】
この実験は、PVSRIPOでの治療を受ける腫瘍患者に起こると考えられること、つまり、ウイルス感染によって誘発される、腫瘍に対するCTL応答の発生を最終的には招く一連の事象、をin vitroで例示するものである。この一連の事象は、免疫チェックポイント阻害剤によって相乗的に増強することができる。T細胞機能に関する天然に存在する「ブレーキ」(免疫チェックポイント)の1つがPD1-PD-L1リンクである。腫瘍内の樹状細胞は、多くの場合、誘導されてPD-L1を発現するが、次いで、これがT細胞上のPD1と結合してT細胞の活性化を阻害する。PVSRIPO/PVSRIPO-腫瘍溶解物に曝露された樹状細胞はPD-L1発現を増大することが実証されている。系列的チェックポイント阻害剤であるPD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤は、この効果を防止し、PVSRIPOの腫瘍溶解作用によるCTL活性化を増大させる。
【0029】
この実験では、10cmディッシュのコンフルエントなSum149細胞、MDAMB231細胞、LNCaP細胞またはDM6細胞をAIMV培地中、モック(DMEM)またはPVSRIPO(MOI 0.1)に48時間感染させた。上清を収集し、遠心分離により細胞残屑を除去した。凍結PBMCを解凍し、PBSで洗浄し、T-150組織培養フラスコ中のAIM-V培地30mlに細胞2×108個で再懸濁させた。細胞を37℃で1時間インキュベートした。非付着細胞について、フラスコを左右に揺り動かすことによって回収して、これらを取り除いた。ヒトGM-CSF 800U/mlおよびヒトIL-4 500U/mlを添加したAIM-V 30mlで付着細胞に補給し、次いで37℃でインキュベートした。6日目、非付着細胞をすべて収集し、これに続いて冷PBSで洗浄することによりDCを回収した。なおも付着している細胞を細胞解離バッファで解離させた。DCをAIMV培地で洗浄し、カウントし、1ディッシュ当たり細胞1×106個で35mmディッシュに播種した。DC培養物に腫瘍溶解物の上清を添加し、24時間インキュベートした。次いで、上清を除去し、DCをAIMV培地で洗浄した。PBMCを解凍し、PBSに再懸濁させ、37℃で20分間、200U/mlでDNアーゼIによって処理した。DNアーゼIで処理したPBMCを37℃で1時間インキュベートした。非付着細胞を、回収し、IL-7 25ng/mlの存在中、応答細胞とスティミュレーターDCとの比が10:1で、ポリオウイルス誘導性腫瘍溶解物を担持させたDCで刺激した。刺激はいずれも、10%FCS、2mM L-グルタミン、20mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、0.1mM MEM非必須アミノ酸、100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび5×10-5M β-メルカプトエタノールを含むRPMI1640(CTL刺激培地)中で実施した。応答T細胞濃度は2×106細胞/mlとした。3日目におよび4~5日毎に12~14日間、IL-2を100U/mlで添加した。T細胞をCTL刺激培地中、1~2×106細胞/mlで維持した。T細胞を12~14日目に回収し、カウントし、ユウロピウム放出CTLアッセイにおいてエフェクターT細胞として使用した。腫瘍抗原をコードするmRNAをトランスフェクトした自己DCを対照としての標的として使用した。DC対照標的には、mRNAをエレクトロポレートした標的細胞(図2に指定する)を回収し、洗浄して培地を残らずに除去し、ユウロピウム(Eu)で標識した。あるいは、元の標的細胞(Sum149、MDAMB231、LNCaPまたはDM6)をEuで標識した。Eu標識バッファ(1標的当たり1ml)は、HEPESバッファ1ml(50mM HEPES、93mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl2、pH7.4)、Eu 10μl(0.01N HCl中10mM EuCl3・6H2O)、DTPA 5μl(HEPESバッファ中100mMジエチレントリアミン五酢酸)およびDS(1%デキストラン硫酸)4μlを含有した。標的細胞5×106個をユウロピウム標識バッファ1mlにごく穏やかに再懸濁し、氷上で20分間インキュベートした。次いで、CaCl2溶液(100mM)30μlを標識細胞に添加し、混合し、細胞を氷上でさらに5分間インキュベートした。細胞に修復バッファ(10mMグルコース、2mM CaCl2を含むHEPESバッファ)30mlを添加し、細胞を1000rpmで10分間遠心分離した。細胞をカウントし、細胞5×106個を修復バッファで4回洗浄した。最終洗浄の後、ペニシリン-ストレプトマイシンを含まないCTL刺激培地に、細胞を105細胞/mlで再懸濁した。異なるE:T比でのユウロピウム標識標的(T)10,000個およびエフェクター細胞(E)の段階希釈物を、96ウェルV字底プレートの、ペニシリン-ストレプトマイシンを含まないCTL刺激培地200μl中でインキュベートした。プレートを500×gで3分間遠心分離し、37℃で4時間インキュベートした。上清50μlを回収し、96ウェル平底プレートの増強溶液150μlに添加し、VICTOR3 Multilabel Counter(Perkin-Elmer)を使用して、ユウロピウム放出を時間分解蛍光により測定した。式:特異的放出%=[(実験による放出-自発的放出)/(全放出-自発的放出)]×100を使用して特異的細胞傷害活性を決定した。標的細胞の自発的放出は、洗浄剤による全放出の25%未満であった。標的細胞の自発的放出は、T細胞を含まない培地で標的細胞をインキュベートすることにより決定した。アッセイはいずれも三重反復で実施したものであり、バーは平均溶解%を表し、誤差バーはSEMを表す。
【0030】
(実施例3)
PVSRIPOの抗腫瘍効力は、感染腫瘍細胞においておよび感染抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、ミクログリア)において免疫原性の強いタイプ1インターフェロン(IFN)応答を誘発するというウイルスの能力によって補助されている可能性がある。しかし、タイプ1IFN応答は、免疫療法のメディエーターとして高度に望ましいものではあるが、この応答はまた、PVSRIPOによって誘発される抗新生物免疫応答を弱めることができる既知の免疫チェックポイント、例えばPD-L1を巻き込む。したがって、免疫チェックポイント遮断薬と組み合わせてPVSRIPO免疫療法を最大限にするための取組みについて検討することができる。
【0031】
この実験では、ポリオウイルス受容体CD155のトランスジェニックC57Bl6マウスに、CT2A神経膠腫を皮下移植した。腫瘍のイニシエーションに使用するCT2A細胞には、(ヒト細胞に類似したPVSRIPO感染が可能となるよう)CD155を前もって形質導入した。担腫瘍動物(n=10)からなる4つの群に以下の治療を実施した:群I:DMEM(ウイルスの対照へのビヒクル)+IgG(抗PD1の対照への)、群II:PVSRIPOの単回腫瘍内注射+IgG、群III:DMEMの単回腫瘍内注射+抗PD1、群IV:PVSRIPOの単回腫瘍内注射+抗PD1。抗PD1は腹腔内注射により3回分(3日目、6日目、9日目)で与えた。結果を図4A~4Dに示す。
PVSRIPOも抗PD1もともに個別に有意な抗腫瘍効果を示した(図4B図4C)。2剤を組み合わせると治療効果が増大し、機構的な相乗効果が示唆された(図4D)。重要なのは、組合せ治療のみで持続的な腫瘍寛解(腫瘍応答曲線が腫瘍体積の極めて小さい位置で平坦なラインになっていることからわかる)が達成されたことである。
【0032】
(実施例4)
この例では、腫瘍溶解性ウイルス、すなわち腫瘍溶解性キメラポリオウイルスPVSRIPOと、有意な抗腫瘍効果を媒介する免疫チェックポイント阻害剤との組合せの別の例示を提供する。これらの研究では、乳がんの標準的な実験モデルとして、E0771同所性乳房腫瘍モデルを使用した。このモデルは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を代表するものである。マウス腫瘍細胞株E0771に、ポリオウイルス受容体であるヒトCD155をトランスフェクトして、細胞(「E0771-CD155」)が腫瘍溶解性ポリオウイルスPVSRIPOによる感染を受けやすいようにした。マウス腫瘍細胞株での複製を確実にするために、PVSRIPOをマウス腫瘍細胞株で継代してマウスPVSRIPO(mRIPO)を作出した。すべての研究を、C57BL/6-CD155トランスジェニックマウスで実施した。E0771-CD155腫瘍細胞106個を含む乳腺脂肪パッドで、マウスを移植した。腫瘍が70~100mm3に達したとき、PBSまたはmRIPO(5×107pfu)を腫瘍に注射した。免疫チェックポイント阻害剤抗PDL1抗体または抗PD1抗体(PBS 200μL中250μg)を、mRIPO注射の日に、次いで、免疫チェックポイント阻害剤の合計4回の注射の間2~3日毎に、腹腔内に注射した。次いで、腫瘍の増殖を経時的にモニターした。
【0033】
mRIPOと組み合わせてPD1またはPDL1を標的とする抗体を使用してPD1/PDL1経路を遮断することが、単剤療法(mRIPO単独、抗PD1抗体単独、または抗PDL1抗体単独)としてのそれぞれと比較して、腫瘍増殖の制御に優れているかどうかを試験した。図5Aおよび5Bに示すように、腫瘍溶解性ポリオウイルス単独(mRIPO、■)、抗PD1抗体(抗PD1、図5A-◆)、または抗PDL1抗体単独(抗PDL1、図5B-◆)、およびmRIPOプラス抗PD1/PDL1の組合せ療法は、PBS対照と比較して、腫瘍増殖を有意に阻害した。研究全体を通して、mRIPOと抗PD1(図5A)単剤療法または抗PDL1(図5B)単剤療法との間で腫瘍増殖阻害に有意差はなかった。mRIPOと抗PD1または抗PDL1との組合せは、研究の終了に近づいて腫瘍の増殖を制御する上で、単剤療法単独それぞれよりも効果的であった(統計的に有意ではない)。この予備実験が指示するところは、PVSRIPOと抗PD1/PDL1療法を組み合わせると、マウス同所性免疫適格性乳がんモデルにおいて腫瘍増殖阻害が相乗的に改善される傾向にあったことである。
【0034】
(実施例5)
1種または複数の免疫療法剤を使用するネオアジュバント療法が提供される。この例では、C57BL/6-CD155トランスジェニックマウスにE0771-CD155細胞5x105個を同所的に移植した。腫瘍移植に続く15日、マウスをmRIPOまたはPBSのいずれかで治療し(腫瘍のサイズがおよそ50mm3に達したら、それぞれ腫瘍内に注射した)、これに続いて、腫瘍移植に続く22日目に外科手術を行う、または外科手術を行わないのいずれかとした。図6Aに示すように、ネオアジュバント療法(mRIPO、これに続いて外科手術を受けている、図6A、-★-)を受けている群では、PBSによる治療、これに続いて外科手術を受けている5匹/10匹のマウス(図6A、-◆-)と比較して、治療した9匹中9匹は腫瘍がなかった。対照的に、外科手術を受けていない群(PBSを受けているにしろmRIPOを受けているにしろ)のすべてのマウスは腫瘍を発症したが、この場合、mRIPOによる治療(図6A、-■-)はPBSによる治療(図6A、-●-)と比較して、腫瘍増殖制御の制御においてより効果的であった。PBSでの治療、これに続いて外科手術を受けた群の5匹のマウスおよびmRIPOでの治療、これに続いて外科手術を受けた5匹のマウスを腫瘍移植の後の80日目に親E0771細胞による再チャレンジを行った。図6Bに示すように、腫瘍移植の後の130日目に、ネオアジュバント療法を受けた5匹のマウスのうち3匹(mRIPOでの治療、これに続いて外科手術を受けたマウス;図6B;-★-)は、PBS治療群の5匹のマウスのうちの1匹と比較して(図6B、-◆-)、腫瘍はなかった。
【0035】
(実施例6)
腫瘍を有する個体を治療する方法であって、腫瘍の外科的切除の前に、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤および治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を個体に投与するステップ、外科手術を行って腫瘍を切除するステップを含み、腫瘍の切除後に、免疫チェックポイント阻害剤が個体に投与される、方法が提供される。ネオアジュバント療法に関する本発明の方法を例示すると、PVSRIPOの投与の概1週間前に、切除を施されてされていない腫瘍を有する個体は、市販のポリオウイルス免疫付与ブースターを受け、個体にPVSRIPOを投与することによって治療を開始する。例えば、PVSRIPOは腫瘍内に投与することができる。この例では、PVSRIPOによる治療の数日後(約7日~約14日)に、抗PD-1抗体を個体に次いで投与する。抗PD1抗体は静脈内投与することができる。抗PD1抗体の投与後1~3週間で、個体は腫瘍量を縮小する治療を受ける(例えば、腫瘍を外科的に切除する)。任意で、腫瘍量の縮小の後に、個体は、医学的に保証された免疫チェックポイント阻害剤を投与するステップを含む維持療法を受けることができ、抗PD-1抗体を2週間毎に4カ月間、次いで、4週間毎に最大2年間投与することができる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕腫瘍を有する個体を治療する方法であって、
a)腫瘍の外科的切除の前に、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤および治療有効量の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を個体に投与するステップ、
b)次いで、外科手術を行って腫瘍を切除するステップ、
c)腫瘍の切除後に、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を個体に投与するステップ
を含み、
腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのSabinタイプI株を含んでもよい、方法。
〔2〕がんのネオアジュバント免疫療法のための方法であって:
a)腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物または腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物および免疫チェックポイント阻害剤を含む、1種または複数の免疫療法剤を、治療有効量で腫瘍を有する個体に投与するステップ、
b)1種または複数の免疫療法剤を受けるステップに続いて、個体において腫瘍量を縮小するのに有効である抗がん療法で個体を治療するステップ
を含む、方法。
〔3〕抗がん療法は、外科手術、放射線療法、またはそれらの組合せからなる群から選択される、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのSabinタイプI株を含む、前記〔2〕または〔3〕に記載の方法。
〔5〕ただ1種の免疫療法剤が腫瘍を有する個体に投与され、その後に、個体は腫瘍量を縮小する抗がん療法を受け、
免疫療法剤は、ポリオウイルスのクローバーリーフと前記ポリオウイルスのオープンリーディングフレームの間の前記ポリオウイルスの5’非翻訳領域にヒトライノウイルス2(HRV2)配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する前記ポリオウイルスのSabinタイプI株を含む、前記〔2〕に記載の方法。
〔6〕腫瘍量を縮小する抗がん療法を受けるステップに続いて、個体は、1種または複数の腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物または免疫チェックポイント阻害剤を含む維持療法を受けるステップをさらに含む、前記〔2〕に記載の方法。
〔7〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は、薬学的に許容される担体をさらに含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕免疫チェックポイント阻害剤は、薬学的に許容される担体をさらに含む、前記〔1〕から〔7〕のいずれか1項に記載の方法。
〔9〕腫瘍は、脳腫瘍、腎細胞癌、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、胃腫瘍、膵腫瘍、結腸直腸腫瘍、肝臓腫瘍、胆嚢腫瘍、乳房腫瘍、肺腫瘍、頭頸部腫瘍、皮膚腫瘍、黒色腫、および肉腫からなる群から選択される、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の方法。
〔10〕腫瘍はNECL5(ネクチン様タンパク質5)を発現する、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔11〕腫瘍はNECL5(ネクチン様タンパク質5)を発現する、前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法。
〔12〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は腫瘍に直接投与される、前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を個体に投与するステップの前に、個体の腫瘍を試験してNECL5の発現を確認するステップを含む、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔14〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を個体に投与するステップの前に、個体の腫瘍を試験してNECL5の発現を確認するステップを含む、前記〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔15〕免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-1抗体、抗PDL-1抗体、抗CTLA4抗体、抗LAG-3抗体、および抗TIM-3抗体からなる群から選択される、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔16〕免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-1抗体、抗PDL-1抗体、抗CTLA4抗体、抗LAG-3抗体、および抗TIM-3抗体からなる群から選択される、前記〔1〕~〔14〕のいずれか1項に記載の方法。
〔17〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物および免疫チェックポイント阻害剤が、腫瘍を有する個体に投与される、前記〔2〕に記載の方法。
〔18〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物も免疫チェックポイント阻害剤も両方が、腫瘍を有する個体に投与される、前記〔2〕~〔16〕のいずれか1項に記載の方法。
〔19〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物が個体に投与され、その後に、個体は免疫チェックポイント阻害剤を受ける、前記〔1〕、〔17〕または〔18〕のいずれか1項に記載の方法。
〔20〕免疫チェックポイント阻害剤が個体に投与され、その後に、個体は腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を受ける、前記〔1〕、〔17〕または〔18〕のいずれか1項に記載の方法。
〔21〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を投与するステップの数日前に、ポリオウイルス免疫付与ブースターを個体に投与するステップをさらに含む、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔22〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物を投与するステップの数日前に、ポリオウイルス免疫付与ブースターを個体に投与するステップをさらに含む、前記〔1〕~〔20〕のいずれか1項に記載の方法。
〔23〕腫瘍の切除または縮小の後に個体に免疫チェックポイント阻害剤の複数回用量を投与するステップをさらに含み、用量は数日または数週間隔てられている、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔24〕腫瘍の切除または縮小の後に個体に免疫チェックポイント阻害剤の複数回用量を投与するステップをさらに含み、用量は数日または数週間隔てられている、前記〔1〕~〔22〕のいずれか1項に記載の方法。
〔25〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物および免疫チェックポイント阻害剤を含むキット。
〔26〕腫瘍溶解性キメラポリオウイルス構築物は第1の容器にあり、免疫チェックポイント阻害剤は第2の容器にある、前記〔25〕に記載のキット。
〔27〕腫瘍細胞試料でNECL5発現を休止させる試薬をさらに含む、前記〔25〕または〔26〕に記載のキット。
〔28〕試薬は、NECL-5に特異的な抗体またはNECL-5に特異的なPCRプライマーを含む、前記〔27〕に記載のキット。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B