(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20240906BHJP
F16K 31/53 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F16K31/04 B
F16K31/53
(21)【出願番号】P 2022065328
(22)【出願日】2022-04-11
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 秀
(72)【発明者】
【氏名】湊 祐介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 沙弥佳
(72)【発明者】
【氏名】新谷 勇斗
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-054979(JP,U)
【文献】特開2019-143704(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111623125(CN,A)
【文献】国際公開第2019/235149(WO,A1)
【文献】特表2022-515315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00-31/05
F16K 31/44-31/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座を備えた弁本体と、
モータの駆動力により軸線方向に移動する出力軸と、
弁体ユニットと、有し、
前記弁体ユニットは、前記出力軸に連結され軸線方向に移動する中間軸、軸線方向に移動することにより前記弁座に対して接近または離間する弁体、及び軸線方向に沿って前記中間軸と前記弁体との間に配設された弾性変形可能な弾性体、を有
し、
前記弁本体は、環状のストッパ部を有し、
前記弁体ユニットは、前記中間軸とともに移動する係止部材を有し、
前記弁体が前記弁座に着座したのちに、前記係止部材が前記ストッパ部に当接可能であり、
前記係止部材は、前記中間軸に連結され、前記弁体の外周に嵌合するスリーブ部材であり、
前記弾性体は、前記中間軸と前記弁体との間に形成される中間室に配置され、
前記スリーブ部材は、前記スリーブ部材と前記弁体との間の隙間を介して、前記中間室と前記弁本体内の弁室とを連通する連通孔を有する、
ことを特徴とする電動弁。
【請求項2】
弁座を備えた弁本体と、
モータの駆動力により軸線方向に移動する出力軸と、
弁体ユニットと、有し、
前記弁体ユニットは、前記出力軸に連結され軸線方向に移動する中間軸、軸線方向に移動することにより前記弁座に対して接近または離間する弁体、及び軸線方向に沿って前記中間軸と前記弁体との間に配設された弾性変形可能な弾性体、を有し、
前記弁本体は、環状のストッパ部を有し、
前記弁体ユニットは、前記中間軸とともに移動する係止部材を有し、
前記弁体が前記弁座に着座したのちに、前記係止部材が前記ストッパ部に当接可能であり、
前記係止部材は、前記中間軸に連結され、前記弁体の外周に嵌合するスリーブ部材であり、
前記弾性体は、前記中間軸と前記弁体との間に形成される中間室に配置され、
前記中間室は、前記スリーブ部材と前記弁体との間の隙間を介して、前記弁本体の弁口に連通する、
ことを特徴とする電動弁。
【請求項3】
弁座を備えた弁本体と、
モータの駆動力により軸線方向に移動する出力軸と、
弁体ユニットと、有し、
前記弁体ユニットは、前記出力軸に連結され軸線方向に移動する中間軸、軸線方向に移動することにより前記弁座に対して接近または離間する弁体、及び軸線方向に沿って前記中間軸と前記弁体との間に配設された弾性変形可能な弾性体、を有し、
前記弁本体は、環状のストッパ部を有し、
前記弁体ユニットは、前記中間軸とともに移動する係止部材を有し、
前記弁体が前記弁座に着座したのちに、前記係止部材が前記ストッパ部に当接可能であり、
前記弁座は、前記弁本体の環状凹部内に同軸に形成され、前記ストッパ部は、前記環状凹部の周縁に形成される、
ことを特徴とする電動弁。
【請求項4】
前記係止部材は、前記中間軸に連結され、前記弁体の外周に嵌合するスリーブ部材である、
ことを特徴とする請求項
3に記載の電動弁。
【請求項5】
前記弾性体は、前記中間軸と前記弁体との間に形成される中間室に配置され、
前記スリーブ部材は、前記スリーブ部材と前記弁体との間の隙間を介して、前記中間室と前記弁本体内の弁室とを連通する連通孔を有する、
ことを特徴とする請求項
4に記載の電動弁。
【請求項6】
前記弾性体は、前記中間軸と前記弁体との間に形成される中間室に配置され、
前記中間室は、前記スリーブ部材と前記弁体との間の隙間を介して、前記弁本体の弁口に連通する、
ことを特徴とする請求項
4に記載の電動弁。
【請求項7】
前記モータの駆動力が、ギヤ式の減速機構を介して前記出力軸に伝達される、
ことを特徴とする請求項1
~6のいずれかに記載の電動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動弁は、例えば流体の配管系統の途中に組み付けられて、流体の流路の開閉や流量制御を行うために使用されている(特許文献1参照)。このような電動弁においては、弁本体に装着されたステッピングモータにより弁体を開閉することで、精度良い流量制御と閉弁時の密封性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷凍サイクルの経路内を流れる流体(冷媒)中には、比較的硬度の高い異物(金属粉、削りカス、研磨材、スラッジ等)が含まれている。その異物の多くは経路内に設けたストレーナ等により捕獲されるが、微小な異物の一部は、流体とともに電動弁内に進入し開弁時に弁体と弁座の間を通過することとなる。
【0005】
このような異物が弁体と弁座の間を通過する際に閉弁動作が行われると、異物が弁体と弁座との間に挟み込まれ(異物噛み込みという)て弁座や弁体が変形し、それにより弁体が完全に閉弁位置にあるときでも流体漏れが生じるおそれがある。
【0006】
特に、高い減速比を持つギヤ式の減速機構を備えた電動弁では、ステッピングモータの回転数を減速して弁体の軸線方向移動に変換しているため、閉弁時における弁体と弁座との面圧が過大となる。したがって、弁体と弁座との間に異物が噛み込まれると、弁体または弁座に強く押し付けられ、それにより弁座や弁体の当接面に傷、打痕等の凹部が生じるため、流体漏れがさらに生じやすくなるという傾向がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、弁体と弁座との間で異物噛み込みが生じにくい電動弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電動弁は、
弁座を備えた弁本体と、
モータの駆動力により軸線方向に移動する出力軸と、
弁体ユニットと、有し、
前記弁体ユニットは、前記出力軸に連結され軸線方向に移動する中間軸、軸線方向に移動することにより前記弁座に対して接近または離間する弁体、及び軸線方向に沿って前記中間軸と前記弁体との間に配設された弾性変形可能な弾性体、を有し、
前記弁本体は、環状のストッパ部を有し、
前記弁体ユニットは、前記中間軸とともに移動する係止部材を有し、
前記弁体が前記弁座に着座したのちに、前記係止部材が前記ストッパ部に当接可能であり、
前記係止部材は、前記中間軸に連結され、前記弁体の外周に嵌合するスリーブ部材であり、
前記弾性体は、前記中間軸と前記弁体との間に形成される中間室に配置され、
前記スリーブ部材は、前記スリーブ部材と前記弁体との間の隙間を介して、前記中間室と前記弁本体内の弁室とを連通する連通孔を有する、ことを特徴とする。
本発明の電動弁は、
弁座を備えた弁本体と、
モータの駆動力により軸線方向に移動する出力軸と、
弁体ユニットと、有し、
前記弁体ユニットは、前記出力軸に連結され軸線方向に移動する中間軸、軸線方向に移動することにより前記弁座に対して接近または離間する弁体、及び軸線方向に沿って前記中間軸と前記弁体との間に配設された弾性変形可能な弾性体、を有し、
前記弁本体は、環状のストッパ部を有し、
前記弁体ユニットは、前記中間軸とともに移動する係止部材を有し、
前記弁体が前記弁座に着座したのちに、前記係止部材が前記ストッパ部に当接可能であり、
前記係止部材は、前記中間軸に連結され、前記弁体の外周に嵌合するスリーブ部材であり、
前記弾性体は、前記中間軸と前記弁体との間に形成される中間室に配置され、
前記中間室は、前記スリーブ部材と前記弁体との間の隙間を介して、前記弁本体の弁口に連通する、ことを特徴とする。
本発明の電動弁は、
弁座を備えた弁本体と、
モータの駆動力により軸線方向に移動する出力軸と、
弁体ユニットと、有し、
前記弁体ユニットは、前記出力軸に連結され軸線方向に移動する中間軸、軸線方向に移動することにより前記弁座に対して接近または離間する弁体、及び軸線方向に沿って前記中間軸と前記弁体との間に配設された弾性変形可能な弾性体、を有し、
前記弁本体は、環状のストッパ部を有し、
前記弁体ユニットは、前記中間軸とともに移動する係止部材を有し、
前記弁体が前記弁座に着座したのちに、前記係止部材が前記ストッパ部に当接可能であり、
前記弁座は、前記弁本体の環状凹部内に同軸に形成され、前記ストッパ部は、前記環状凹部の周縁に形成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、弁体と弁座との間で異物噛み込みが生じにくい電動弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る電動弁の縦断面図である。
【
図2】
図2は、弁体ユニットの下部を拡大して示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、弁体ユニットの下部を拡大して示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、変形例にかかる弁体ユニットの下部を拡大して示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態に係る電動弁の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る電動弁の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書では、ロータ側を上方として説明し、弁体側を下方として説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電動弁1の縦断面図である。本実施形態の電動弁1は、例えば冷凍サイクルにおいて冷媒流量を調整するために用いられる。電動弁1の軸線をLとする。
【0013】
本実施形態の電動弁1は、弁室VCの内部に形成された弁座15を有する弁本体10と、ベースプレート11を介して弁本体10に固着された有頂円筒形状のキャン3と、キャン3に外挿されるステータ55及びキャン3の内部に装備されるロータ57からなるステッピングモータ5と、ステータ55の周囲を覆うカバー9と、ロータ57の回転トルクを減速して伝達するギヤ式の減速機構6と、前記弁座15に接離して流体の通過量を制御する弁体4と、減速機構6の出力ギヤの回転移動をねじ送り機構27を介して直線移動に変換して弁体4を駆動するねじ駆動部材(出力軸)22と、から構成される。なお、キャンは電動弁の弁本体側に内部が密閉されるように取り付けられた筒状部を有する部材(キャン3は有底の筒状部を有する)をいうものとする。
【0014】
ステッピングモータ5は、ヨーク51、ボビン52、コイル53等からなるステータ55と、キャン3の内部にキャン3に対して回転自在に配置され、ロータ支持部材56がその上部内側に固着されたロータ57と、を有している。ステータ55は、キャン3の外側に嵌合固定され、樹脂製のカバー9により覆われている。
【0015】
有底筒状の弁本体10には、内部の弁室VCに連通する弁口16が下端に形成されるとともに、その弁口16側に第1配管T1がロウ付け等により接続され、また弁室VCの側面に形成された開口12に連通するように第2配管T2がロウ付け等により接続されている。第2配管T2の軸線をOとする。軸線Oは、軸線Lと直交する。ここでは、第2配管T2内の圧力は、第1配管T1内の圧力よりも高いものとする。
【0016】
また、弁本体10の弁室VCの上部には、中央下端側に雌ねじ部13aが形成されたねじ軸受部材13が嵌挿され、圧入等により弁本体10に固定されている。
【0017】
減速機構6は、ロータ57の内周側において、ロータ支持部材56に一体に形成された太陽歯車61と、弁本体10の上部に固着された薄肉筒状体66を介して固定された固定リング歯車62と、太陽歯車61と固定リング歯車62との間に配置されてそれぞれに歯合する遊星歯車63と、遊星歯車63を回転自在に支持するキャリア64と、遊星歯車63に歯合する歯を内周に備えた有底筒状の出力歯車部材65とを有し、これらにより不思議遊星歯車減速機構を構成する。固定リング歯車62の歯数は、出力歯車部材65の歯数とは異なるように設定されている。
【0018】
軸部材8は、ロータ支持部材56及び太陽歯車61を貫通して、これらを回転可能に保持しており、その軸部材8の上端は、キャン3の頂部内側に配置された支持部材81により支持されている。
【0019】
出力歯車部材65の底部中央には、ねじ駆動部材22の上部に形成された段付き円筒形状の出力軸部29の上部が圧入され、この出力軸部29の上部開口には、軸部材8の下端が圧入により嵌合している。
【0020】
ねじ軸受部材13の雌ねじ部13aには、ねじ駆動部材22の下部に形成された雄ねじ部22aが螺合されている。出力歯車部材65(すなわち、ロータ57)の回転移動は、雄ねじ部22aと雌ねじ部13aとからなるねじ送り機構(変換機構)27により、軸線Lに沿って直線移動に変換される。
【0021】
出力軸部29は、ねじ駆動部材22に一体回転可能に連結され、出力歯車部材65(ロータ57)が回転すれば、出力軸部29とねじ駆動部材22は一体となって回転するとともに、弁本体10に対して軸線Lに沿って相対的に直線移動する。
【0022】
ねじ駆動部材22の直線移動は、ボール23とボール受座24とからなるボール状継手25を介して弁体ユニット30に伝達される。
【0023】
図2,3は、弁体ユニット30の下部を拡大して示す縦断面図である。
図2は、後述する中間軸31の下降により弁体4が弁座15に着座した直後の状態を示し、
図3は、中間軸31がさらに下降してスリーブ部材33がストッパ部10bに当接した状態を示す。
図1~3を参照して、弁体ユニット30は、ボール状継手25に連結された中間軸31と、樹脂やゴム(NBR)等により形成された弾性変形可能な弾性筒状体(弾性体)32と、スリーブ部材(係止部材)33と、弁体4とからなる。弾性筒状体32は、例えば、NBR,H-NBR,EPDM,シリコンゴム,フッ素ゴム,ウレタンゴム等からなり、そのヤング率の範囲は0.1~10MPaであると好ましい。なお本実施形態の弾性筒状体32は、中実の円筒形状(すなわち円柱形状)である。
【0024】
円筒状の中間軸31は、中間基部31aと、中間基部31aの上端に連設された中間鍔部31bとからなる。中間鍔部31bの中央から中間基部31aにかけて、ボール受座24の下端が圧入により嵌合した中間凹部31cが形成されている。中間基部31aの下端外周には、縮径部31dが形成されている。
【0025】
図2,3を参照して、円管状のスリーブ部材33は、中間軸31の縮径部31dの段部に突き当てるようにして圧入された薄肉部33aと、厚肉部33bとを同軸に連設してなる。薄肉部33aと厚肉部33bの外径は等しく、環状凹部10aの外径より大きい。厚肉部33bの下端外周には、スリーブ円錐部33cが形成され、また厚肉部33bの下端近傍には、径方向に貫通する連通孔33dが形成されている。
【0026】
弁体4は、厚肉部33bの内周に摺動可能に嵌合した弁体基部4aと、弁体基部4aの上端に連設された弁体鍔部4bとからなる。弁体鍔部4bの中央には、弁体凹部4dが形成されている。弁体基部4aの下端に形成された弁体円錐部4cは、弁口16内に突出して配置される。
【0027】
弾性筒状体32は、弁体凹部4d内に収容載置され、その上面を中間軸31の下端平坦面に当接させており、すなわち弾性筒状体32は、上下方向に沿って中間軸31と弁体4との間に挟持配置される。スリーブ部材33の連通孔33dは、その内方端側において、弁体4の外周とスリーブ部材33の内周との間の隙間を介して、中間基部31aの下端平坦面と、弁体4の弁体鍔部4bとの間に画成される中間室MCに連通している。このため、電動弁1の閉弁時には、弁室VCの圧力は中間室MCの圧力に略等しくなる。弾性筒状体32は、中間室MC内に配置されている。
【0028】
弁本体10は、弁室VCの底面に、軸線Lと同軸に形成された環状凹部10aを有する。環状凹部10aの中央に弁口16が形成される。弁口16の上端に、弁座15が形成されている。環状凹部10aの上端(周縁)が、環状のストッパ部10bを構成する。弁座15の内径をAとし、ストッパ部10bの内径をBとする。また、
図2に示すように、中間軸31の下降により弁体4が弁座15に着座した直後の状態における、ストッパ部10bとスリーブ円錐部33cとの軸線L方向の距離をCとする。また、
図3に示すように、スリーブ部材33がストッパ部10bに当接した状態における弁体鍔部4bの下面と、スリーブ部材33の薄肉部33aと厚肉部33bとの段部との軸線L方向の距離をDとすると、C=Dである。
【0029】
図1において、弁体ユニット30の周囲に配置された筒状のばねケース19は、ケース拡径部19aと、ケース縮径部19bと、ケース拡径部19aの上端から径方向外側に延在する上端フランジ部19cとを連設してなる。上端フランジ部19cが弁本体10の内周段部に係合し、ねじ軸受部材13により固定保持されている。ケース縮径部19bは、スリーブ部材33の外周を摺動可能に保持している。
【0030】
圧縮コイルばね26が、ケース拡径部19aとケース縮径部19bの間の段部に下端を当接させ、中間軸31の中間鍔部31bに上端を係合させて、圧縮した状態で配置されており、それにより弁体4を常時開弁方向に付勢している。
【0031】
(電動弁の動作)
不図示の制御装置から所定パルス数の閉弁制御信号をステータ55に給電することにより、ステッピングモータ5のロータ57を一方向に回転駆動させたとき、太陽歯車61から減速機構6に回転数が入力され、さらに減速機構6により減速された回転数が出力軸部29を介して、ねじ駆動部材22に伝達される。ねじ駆動部材22が一方向に回転すると、雌ねじ部13aと雄ねじ部22aとが相対螺動し、その回転数に応じて、ねじ駆動部材22が軸線L方向下方に移動する。このねじ駆動部材22の推力により、ボール状継手25を介して中間軸31が下方に付勢され、中間軸31は圧縮コイルばね26の付勢力に抗して下降する。
【0032】
中間軸31の下降に伴い、スリーブ部材33がばねケース19により案内されつつ同時に下降し、また中間軸31の下端で押圧された弾性筒状体32を介して弁体4が下方に付勢される。スリーブ部材33により案内されつつ弁体4が下降すると、弁体円錐部4cが弁座15に着座して弁口16が閉じられる(
図2参照)。これにより弁室VCを挟んで配管T2、T1との間で、流体の流れが中断する。
【0033】
ここで、不図示の制御装置からステッピングモータ5に入力される閉弁制御信号は、駆動経路のガタなどを考慮して、弁体円錐部4cが弁座15に着座したのち、さらに一定角度でロータ57が回転させる分のパルス数を含む。このため、弁体円錐部4cが弁座15に着座したのちも、中間軸31は下降する方向に駆動力を受ける。
【0034】
仮に中間軸31と弁体4とが一体である場合、発生した駆動力に応じて弁体円錐部4cが弁座15に向かって付勢されるため、両者間に高い面圧が作用する。特に、電動弁1がギヤ式の減速機構6を有している場合、弁体円錐部4cと弁座15との面圧は過大となる。かかる状況で、弁体円錐部4cと弁座15との間に硬い異物が介在した場合、弁体円錐部4cと弁座15の少なくとも一方に圧痕やキズなど生じるため、これにより閉弁時に流体漏れが生じる恐れがある。
【0035】
本実施形態によれば、弁体円錐部4cが弁座15に着座したのちも、中間軸31は下降する方向に駆動力を受けるが、弁体4は静止しているため、弾性筒状体32が軸線L方向に圧縮されることとなる。したがって弾性筒状体32は、圧縮されることにより所定の弾性力を発揮し、その弾性力により弁体4を下方に付勢することとなるが、かかる弾性力は中間軸31が受ける駆動力よりも相当に小さい。このため、弁体円錐部4cと弁座15との面圧は比較的小さくなり、たとえ弁体円錐部4cと弁座15との間に硬い異物が介在した場合にも、圧痕やキズなどが生じることが抑制され、それにより閉弁時における流体漏れを抑制することができる。また、弾性筒状体32を介することで、中間軸31に対して弁体4が剛的に連結されてないため、弁体4の移動が制限されにくいという利点もある。
【0036】
弁体円錐部4cが弁座15に着座したのちに、さらにステッピングモータ5のロータ57が一方向に回転すると、中間軸31とともにスリーブ部材33が下降して、スリーブ円錐部33cがストッパ部10bに当接する(
図3参照)。この当接によりスリーブ部材33及び中間軸31が係止されるため、ロータ57の過回転による弁体ユニット30の損傷などを抑制できる。
【0037】
ここで、弁体円錐部4cが弁座15に着座したのち、スリーブ円錐部33cがストッパ部10bに当接するまでにロータ57が回転する角度は、軸線L方向の距離Cに相当する角度となる。したがって、不図示の制御装置は、予め設計値としての該角度に応じたパルス数を記憶し、それを含む制御信号を電動弁1に供給する。
【0038】
しかしながら、製造誤差などにより距離Cが設計値と大きく異なると、スリーブ円錐部33cがストッパ部10bに過度に当接するおそれがある。これを防ぐためには、距離Cを制度よく管理する必要があり、そのためには、
図2に示す弁座15の内径A、ストッパ部10bの内径B、及び弁座15とストッパ部10bとの軸線L方向の距離Eを精度よく加工する必要がある。
【0039】
本実施形態によれば、弁本体10の素材加工時に、上方から差し入れた回転切削工具(不図示)を用いて、環状凹部10aを加工し、加工形成された環状凹部10a内に弁口16を同軸に加工することができる。したがって、弁座15の内径及びストッパ部10bの内径を精度よく加工でき、精度の良い内径A,内径B,及び距離Eを得ることができる。
【0040】
一方、不図示の制御装置から開弁制御信号をステータ55に給電することにより、ステッピングモータ5のロータ57を他方向に回転駆動させると、減速機構6及びねじ送り機構27を介して、ねじ駆動部材22が軸線L方向上方に移動する。これにより、中間軸31は圧縮コイルばね26の付勢力に従って上昇する。
【0041】
中間軸31とともにスリーブ部材33が上昇すると、
図3に示すように、弁体鍔部4bの下面がスリーブ部材33の薄肉部33aと厚肉部33bとの内周段部に当接して上方に付勢され、弁体4が上昇する。弁体4が上昇すると、弁体円錐部4cが弁座15から離間し、弁口16が開放される。これにより第2配管T2から、流体が弁室VCを通って第1配管T1と流れる。
【0042】
ところで、上述した実施形態では、スリーブ部材33が連通孔33dを有しているため、連通孔33dにより弁体4の外周とスリーブ部材33の内周との間の隙間を介して連通することが許容され、中間室MCと弁室VCの圧力が略等しくなる。
【0043】
このため、電動弁1を、第1配管T1内の圧力が第2配管T2内の圧力より高い用途に用いた場合、閉弁時に、弁口16内及び環状凹部10a内の圧力が中間室MC内の圧力より高くなるため、弁体4を挟んだ差圧により弁体4が上昇する方向に付勢され、弁体円錐部4cが弁座15から離間して流体漏れが生じる恐れがある。これに対し、以下の変形例によれば、かかる不具合を解消もしくは緩和できる。
【0044】
(変形例)
図4は、変形例にかかる弁体ユニット30Aの下部を拡大して示す、
図2と同様な縦断面図である。上述した実施形態に対し、本変形例の弁体ユニット30Aにおいて、スリーブ部材33Aは連通孔を有していない。それ以外の構成は、上述した実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0045】
本変形例によれば、スリーブ部材33Aは連通孔を有していないため、中間室MCは、弁体4の外周とスリーブ部材33Aの内周との隙間を介して、環状凹部10a(及び弁口16)と連通している。このため、第1配管T1内の圧力が第2配管T2内の圧力より高い場合でも、閉弁時に、弁口16内及び環状凹部10a内の圧力が中間室MC内の圧力と略等しくなり、弁体4を挟んで差圧が生じず、弁体円錐部4cが弁座15から離間することが抑制される。このため、閉弁時に弁体円錐部4cと弁座15との間の隙間から、連続的に流体が漏れることが回避される。
【0046】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る電動弁1Bの縦断面図である。第1の実施形態に対し、本変形例の電動弁1は、弁体ユニット30Bの構成が異なる。弁体ユニット30Bは、ボール状継手25に連結された中間軸31と、樹脂やゴム(NBR)等により形成された弾性変形可能な弾性筒状体32と、スリーブ部材33Bと、弁体4Bとからなる。スリーブ部材33B及び弁体4B以外の構成は、上述した実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0047】
円管状のスリーブ部材33Bは、中間軸31の縮径部31dの段部に突き当てるようにして圧入された薄肉部33Baと、厚肉部33Bbと、大円筒部33Bdとを同軸に連設してなる。薄肉部33Baと厚肉部33Bbの外径は等しいが、大円筒部33Bdの外径はそれより大きい。大円筒部33Bdの下端外周には、ストッパ部10bに当接可能なスリーブ円錐部33Bcが形成されている。
【0048】
弁体4Bは、別部材である上部弁体41Bと下部弁体42Bとからなる。上部弁体41Bは、スリーブ部材33Bの厚肉部33Bbの内周に摺動可能に嵌合した弁体基部4Baと、弁体基部4Baの上端に連設された弁体鍔部4Bbとからなる。弁体鍔部4Bbの中央には、弁体凹部4Bdが形成されている。弁体基部4Baの下端には、袋穴状の円形開口4Beが形成されている。
【0049】
下部弁体42Bは、円形開口4Beに圧入により嵌合した弁軸4Bfと、弁軸4Bfの下端に連結された円盤部4Bgとからなる。円盤部4Bgの外径は、弁体基部4Baの外径よりも大きい。円盤部4Bgの下端外周には、弁体円錐部4Bcが形成されており、弁座15に着座可能である。
【0050】
本実施形態によれば、第1の実施形態に対して弁口16の内径を拡大することができるため、より多量の流体を流すことができる電動弁1を提供できる。
【符号の説明】
【0051】
1,1B 電動弁
10 弁本体
3 キャン
4,4B 弁体
5 ステッピングモータ
53 コイル
55 ステータ
57 ロータ
6 減速機構
8 軸部材
9 カバー
30,30A,30B 弁体ユニット
31 中間軸
32 弾性筒状体
MC 中間室
VC 弁室
T1 第1配管
T2 第2配管
L 軸線