(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】捕球具
(51)【国際特許分類】
A63B 71/14 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
A63B71/14 F
(21)【出願番号】P 2023205086
(22)【出願日】2023-12-05
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】592263012
【氏名又は名称】トライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 幹
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-200373(JP,U)
【文献】特開平7-213675(JP,A)
【文献】米国特許第6654959(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 71/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掌側外皮と掌側内皮、甲側外皮と甲側内皮、ベルト部、手指挿入部により構成された捕球具において、
少なくとも、手指挿入部が形成される領域において、掌側外皮の端部が内部へ折り返された第1折り返し部と、掌側内皮の端部が内部に折り返された第2折り返し部と、これら第1折り返し部と第2折り返し部が重ね合わせられた状態で結合されていることを特徴とする捕球具。
【請求項2】
前記第1折り返し部と前記第2折り返し部には、前記端部に交差する方向に多数の切込みが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の捕球具。
【請求項3】
前記第1折り返し部の前記端部方向に沿った長さは、前記第2折り返し部の前記端部方向に沿った長さよりも長くなるように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の捕球具。
【請求項4】
前記甲側外皮の親指部根元側の端部が内部に折り返された第3折り返し部を備え、前記第1折り返し部と前記第3折り返し部が重ね合わせられた状態で結合されていることを特徴とする請求項3に記載の捕球具。
【請求項5】
前記甲側外皮の小指部根元側の端部が内部に折り返された第4折り返し部を備え、前記第1折り返し部と前記第4折り返し部が重ね合わせられた状態で結合されていることを特徴とする請求項3に記載の捕球具。
【請求項6】
前記第1折り返し部と前記第2折り返し部は、それぞれ、折り返し状態を保持するために縫製による結合が行われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の捕球具。
【請求項7】
前記第1折り返し部と前記第2折り返し部は、紐により結合され、紐を通すために形成される穴の位置は、前記縫製による結合位置よりも内側に位置していることを特徴とする請求項6に記載の捕球具。
【請求項8】
前記第3折り返し部は、折り返し状態を保持するために縫製による結合が行われていることを特徴とする請求項4に記載の捕球具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掌側外皮と掌側内皮、甲側外皮と甲側内皮、ベルト部、手指挿入部により構成された捕球具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる捕球具の構成は、下記特許文献1に開示される野球用グローブ等で一般的である。手指挿入部が形成される領域において、掌側外皮と掌側内皮は、その端部の端面が露出しないように、端部に沿って線状のヘリ革を設けている。
図18に示すように、掌側外皮500の端面500aには、ヘリ革502が設けられ、ヘリ革502の一方の端部502aが縫製503により掌側外皮500と結合されている。ヘリ革502は、その箇所から折り返されるようにして掌側外皮500の裏側に回り、もう一方の端部502bが縫製506により掌側外皮500と結合されている。これにより、端面500aが露出しないようにしている。また、掌側内皮501についても、その端面501aが露出しないように、同じような方法でヘリ革504が、縫製505,507により結合されている。
【0003】
掌側外皮500の縫製506に近傍に穴500bが形成され、掌側内皮501の縫製507の近傍にも穴501bが形成されている。これら穴500b、501bに不図示の紐が通されて、掌側外皮500と掌側内皮501の結合が行われる。上記の場所に限らず、外観に端面が露出する箇所にはヘリ革が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヘリ革を設けることで、捕球具の使用開始時は、捕球具の開閉動作が固いため捕球動作が行いにくいという問題があった。
図18に示すように、端面500a、501aの部分は、掌側外皮500や掌側内皮501の厚みに加えて、ヘリ革の厚みが3層にもなっている。ヘリ革の箇所は、継続して使用しているうちに、なじんできて柔らかくなるが、時間がかかってしまう。また、ヘリ革を別に設けることで、そのコストが余分にかかるという問題もあった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、使用開始時でも使い勝手がよくコストメリットのある捕球具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係る捕球具は、
掌側外皮と掌側内皮、甲側外皮と甲側内皮、ベルト部、手指挿入部により構成された捕球具において、
少なくとも、手指挿入部が形成される領域において、掌側外皮の端部が内部へ折り返された第1折り返し部と、掌側内皮の端部が内部に折り返された第2折り返し部と、これら第1折り返し部と第2折り返し部が重ね合わせられた状態で結合されていることを特徴とするものである。
【0008】
かかる構成による捕球具の作用・効果を説明する。この構成によると、掌側外皮の端部が内部へ折り返された第1折り返し部と、掌側内皮の端部が内部に折り返された第2折り返し部とを備えている。かかる折り返し部を有することで、端部の端面が露出しないようにすることができる。そして、第1折り返し部と第2折り返し部が重ね合わせられた状態で結合されているので、ヘリ革を使用しないで端面が露出しない結合を行うことができる。その結果、使用開始時でも使い勝手がよくコストメリットのある捕球具を提供することができる。
【0009】
本発明において、前記第1折り返し部と前記第2折り返し部には、前記端部に交差する方向に多数の切込みが形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記第1折り返し部の前記端部方向に沿った長さは、前記第2折り返し部の前記端部方向に沿った長さよりも長くなるように設定されていることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記甲側外皮の親指部根元側の端部が内部に折り返された第3折り返し部を備え、前記第1折り返し部と前記第3折り返し部が重ね合わせられた状態で結合されていることが好ましい。
【0012】
本発明において、前記甲側外皮の小指部根元側の端部が内部に折り返された第4折り返し部を備え、前記第1折り返し部と前記第4折り返し部が重ね合わせられた状態で結合されていることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記第1折り返し部と前記第2折り返し部は、折り返し状態を保持するために縫製による結合が行われていることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記第1折り返し部と前記第2折り返し部は、紐により結合され、紐を通すために形成される穴の位置は、前記縫製による結合位置よりも内側に位置していることが好ましい。
【0015】
本発明に係る前記第3折り返し部は、折り返し状態を保持するために縫製による結合が行われていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図6】掌側内皮の第2折り返し部を掌側に折り返した状態を示す掌側から見た図
【
図7】掌側外皮の第1折り返し部を甲側に折り返した状態を示す甲側から見た図
【
図8】掌側内皮の第2折り返し部を掌側に折り返した状態を示す甲側から見た図
【
図9】第1折り返し部を折り返した状態を掌側から見た図
【
図11】各甲側外皮をハミダシにより結合した状態を示す図
【
図13】掌側内皮と甲側内皮を結合した状態を甲側から見た図
【
図14】甲側外皮と掌側外皮を結合したユニットと、甲側内皮と掌側内皮を結合したユニットを並べて示す図
【
図15】外皮ユニットの中に内皮ユニットを組み込んだ状態を示す図
【
図16】外皮ユニットの中に内皮ユニットを組み込んだ状態を示す図
【
図17】本発明における掌側外皮と掌側内皮の端部の構成を示す断面図
【
図18】従来技術における掌側外皮と掌側内皮の端部の構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る捕球具の好適な実施形態を図面を用いて説明する。
図1Aは、捕球具の一例である野球用グローブを掌側からみた外観斜視図である。
図1Bは、
図1Aに示すグローブを
甲側から見た外観斜視図である。
【0018】
グローブは、親指部1,人差し指部2,中指部、薬指部4,小指部5,ウェブ6を備えている。掌側の外観は掌側外皮10により形成されており、捕球面等を構成する。グローブは、大きく、掌側外皮10、掌側内皮20、甲側外皮、甲側内皮、ベルト部7を備えており、掌側外皮10と掌側内皮20が結合され、甲側外皮と甲側内皮が結合されている。手指挿入部8は、ベルト部7と掌側外皮(掌側内皮)の間に形成される。手指が挿入される空間は、掌側内皮と甲側内皮の間に形成される空間でもある。以上の構成は、一般的なグローブ(捕球具)の構成である。
【0019】
ベルト部7の端部には、ヘリ革71が設けられている。また、小指部5の根元の部分にもヘリ革72が設けられている。ベルト部7の手指挿入部8と反対側には開口部が形成されている。ヘリ革72は、小指部5の根元から開口部の周縁を一周するようにつながっている。
【0020】
図1Aに示すように、各皮部材を結合するために、紐90,91,92が設けられており、紐90,91,92は1本の紐により構成される。
【0021】
図2は、親指部1の根元部を示す部分拡大図である。縫製112は、掌側外皮10の第1折り返し部(後述)を結合するものである。縫製113は、第1親指部甲側外皮1aの第3折り返し部1c(後述)を結合するものである。縫製113のある箇所にはヘリ革71は設けられていない。縫製112のある箇所にもヘリ革は設けられない。
【0022】
図3は、小指部5の根元部を示す部分拡大図である。縫製114は、第2小指部甲側外皮5bの第4折り返し部5c(後述)を結合するものである。縫製114のある箇所にはヘリ革は設けられていない。
【0023】
図4は、掌側外皮10を掌側からみた平面図である。掌側外皮10は、親指部掌側外皮101,人差し指部掌側外皮102、中指部掌側外皮103,薬指部掌側外皮104,小指部掌側外皮105,折り返しハート9を備えている。掌側外皮10の手指挿入部8に対応する箇所には、第1折り返し部110が一体形成されている。第1折り返し部110には、端部に交差(例えば、直交)する方向に多数のスリット111が形成されている。また、第1折り返し部110の端部の形状に沿って多数の穴120が設けられている。この穴120は、紐91を通すための穴である。その他にも、紐を通すための穴が適宜の箇所に配置されている。スリット111の形成個数、長さ、端部と交差する角度は適宜設定することができる。
【0024】
図5は、掌側内皮20を甲側からみた平面図である。掌側内皮20は、親指部掌側内皮201,人差し指部掌側内皮202,中指部掌側内皮203,薬指部掌側内皮204,小指部掌側内皮205を備えている。掌側内皮20の手指挿入部8に対応する箇所には、第2折り返し部210が一体形成されている。第2折り返し部210には、端部に交差(例えば、直交)する方向に多数のスリット211が形成されている。また、第2折り返し部210の端部の形状に沿って多数の穴220が設けられている。この穴220は、紐91を通すための穴である。その他にも、紐を通すための穴等が適宜の箇所に配置されている。スリット211の形成個数、長さ、端部と交差する角度は適宜設定することができる。
【0025】
図6は、
図5に示す掌側内皮20の第2折り返し部210を掌側に折り返した状態を示す図であり、掌側から見た平面図である。スリット211を設けることで、折り返し作業を行いやすくしている。折り返し部に沿って多数の穴220が配置されている。
【0026】
図7は、
図4に示す掌側外皮10の第1折り返し部110を甲側に折り返した状態を示す図であり、甲側から見た平面図である。スリット111を設けることで、折り返し作業を行いやすくしている。折り返し部に沿って多数の穴120が配置されている。
【0027】
図8は、第2折り返し部210を折り返した状態を甲側から見た図である。折り返し状態を保持するために縫製221により結合される。縫製221の内側(端部とは反対側)に多数の穴220が配置される形態になる。
【0028】
図9は、第1折り返し部110を折り返した状態を掌側から見た図である。折り返し状態を保持するために縫製112により結合される。縫製112の内側(端部とは反対側)に多数の穴120が配置される形態になる。
【0029】
図10は、甲側外皮を構成する部材を示し、甲側から見た図である。親指部1を構成する第1親指部甲側外皮1a、第2親指部甲側外皮1b、人差し指部2を構成する第1人差し指部甲側外皮2a、第2人差し指部甲側外皮2b、中指部3を構成する第1中指部甲側外皮3a、第2中指部甲側外皮3b、薬指部4を構成する第1薬指部甲側外皮4a、第2薬指部甲側外皮4b、小指部5を構成する第1小指部甲側外皮5a、第2小指部甲側外皮5bを有する。
【0030】
第1親指部甲側外皮1aには、外側(図の右側)に第3折り返し部1cが形成されている。第2小指部甲側外皮5bには、外側(図の左側)に第4折り返し部5cが形成されている。
図11は、各甲側外皮をハミダシにより結合した状態を示す図である。
【0031】
第3折り返し部1cは、
図10の裏側(掌側)に折り返されて、第1折り返し部110と同様に縫製113により結合される。第4折り返し部5cも同様に裏側(掌側)に折り返されて、縫製114により結合される(
図2、
図3参照)。
【0032】
図12は、掌側内皮20と甲側内皮30を並べて示す図であり、甲側から見た図である。甲側内皮30は、親指部甲側内皮301,人差し指部甲側内皮302,中指部甲側内皮303,薬指部甲側内皮304,小指部甲側内皮305により構成されている。掌側内皮20には、周知の小指調節部材40が縫製により結合され、小指が挿入される空間の大きさを調節することができる。
図13は、掌側内皮20と甲側内皮30を結合した状態を甲側から見た図である。
【0033】
図14は、甲側外皮と掌側外皮を結合した外皮ユニットと、甲側内皮と掌側内皮を結合した内皮ユニットを並べて示す図である。
図15は、外皮ユニットの中に内皮ユニットを組み込んだ状態を示す図である。
【0034】
図15において、第1折り返し部110はすでに縫製112により結合され、第2折り返し部210は、縫製221により結合されている。第3折り返し部1cと第4折り返し部5cはまだ折り返し結合の処理は行われていない。
【0035】
図16は、外皮ユニットの中に内皮ユニットを組み込んだ状態を示す図である。第3折り返し部1cは折り返されて縫製113により結合される。第4折り返し部5cは折り返されて縫製114により結合される。
【0036】
図1Aに示すように、第1折り返し部110と第2折り返し部210は、紐91により結合される。第1折り返し部110と第3折り返し部1cは、紐92により結合される。第1折り返し部110と第4折り返し部5cは、紐92により結合される。ただし、紐90,91,92は、連続した1本の紐部材である。第1折り返し部110は、第3折り返し部1cと第4折り返し部5cとも結合されるので、第2折り返し部210よりも長さが長くなっている。
【0037】
第3折り返し部1cの端部からヘリ革71が設けられ、第4折り返し部5cの端部からヘリ革72が設けられる。これにより、端面が露出しないようにしている。
【0038】
図17は、掌側外皮と掌側内皮の端部の構成を示す断面図である。甲側外皮10の第1折り返し部110が内部に折り返されて縫製112により結合される。甲側内皮20の第2折り返し部210が内部に折り返されて縫製221により結合される。第1折り返し部110の近傍に穴120が形成され、第2折り返し部210の近傍に穴220が形成される。穴120,220には不図示の紐が通されて掌側外皮10と掌側内皮20が結合される。第1折り返し部110と第2折り返し部210が重ね合わせられている。
【0039】
図17を見ても分かるように端部における布は4層構造である。一方、
図18に示すように、ヘリ革を使用する従来の構造では布は8層構造になる。従って、柔軟性は本発明の方が優れており、使用して間もないうちに、なじむことができる。
【0040】
<別実施形態>
本実施形態では、捕球具の一例として野球用グローブを挙げたが、野球用ミットの場合にも本発明は応用できるものである。また、野球用ではなく、ソフトボール用その他の球技に使用する捕球具に対しても応用できるものである。
【0041】
本実施形態では、第3折り返し部1cを設けているが、これを無くしてヘリ革71の長さを伸ばすようにしてもよい。また、第4折り返し部5cを設けているが、これを無くしてヘリ革72の長さを伸ばすようにしてもよい。また、第3折り返し部1cや第4折り返し部5cを設ける場合、その長さ等は適宜変更することができる。
【0042】
本実施形態において、掌側外皮10と掌側内皮20は1枚の皮部材により構成され、甲側外皮と甲側内皮は複数枚の皮部材が結合されて構成される。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。何枚の布部材により結合するかは、適宜決めることができる。また、結合方法も縫製や紐など適宜の方法により行うことができる。
【符号の説明】
【0043】
1 親指部
1c 第3折り返し部
2 人差し指部
3 中指部
4 薬指部
5 小指部
5c 第4折り返し部
10 掌側外皮
110 第1折り返し部
111 スリット
112,113,114 縫製
120 穴
20 掌側内皮
210 第2折り返し部
211 スリット
220 穴
7 ベルト部
71,72 ヘリ革
8 手指挿入部
90,91,92 紐
【要約】 (修正有)
【課題】使用開始時でも使い勝手がよくコストメリットのある捕球具を提供する。
【解決手段】掌側外皮10と掌側内皮20、甲側外皮と甲側内皮、ベルト部7、手指挿入部8により構成された捕球具において、少なくとも、手指挿入部8が形成される領域において、掌側外皮10の端部が内部へ折り返された第1折り返し部110と、掌側内皮20の端部が内部に折り返された第2折り返し部210と、これら第1折り返し部110と第2折り返し部210が重ね合わせられた状態で結合されていることを特徴とする。
【選択図】
図17