(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】移植片を移送するための容器
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20240906BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020093823
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 勇
(72)【発明者】
【氏名】大山 賢二
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-285839(JP,A)
【文献】特開2013-215168(JP,A)
【文献】特開2019-017347(JP,A)
【文献】特開2016-140299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植片を移送するための容器であって、移植片を収容して液密に封止可能なバッグ体と、バッグ体を収容するための本体部とを含み、本体部はバッグ体を固定するための固定部を有し、バッグ体を固定部に固定した際にバッグ体が展張された状態になるように
、かつ固定部が、バッグ体を本体部内で浮かせた状態で固定できるように構成されている、前記容器。
【請求項2】
バッグ体を固定部に固定した際に、バッグ体が引っ張られて展張された状態になるように、固定部が位置決めされている、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
固定部が、凹部および/またはネジ孔を有し、凹部および/またはネジ孔にバッグ体を固定することにより、バッグ体を本体部内で浮かせた状態で固定できるように構成されている、請求項1または2に記載の容器。
【請求項4】
バッグ体が複数の孔を有し、該複数の孔を複数の固定部に固定できるように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の容器。
【請求項5】
固定部が、本体部の内側面から離間して設けられている、請求項
1~4のいずれか一項に記載の容器。
【請求項6】
バッグ体が展張されることにより、バッグ体が本体部と接触しない、請求項1~
5のいずれか一項に記載の容器。
【請求項7】
固定部が、本体部の内側面から離間した位置においてバッグ体を展張させた状態で固定できるように構成されている、請求項
6に記載の容器。
【請求項8】
バッグ体が、バッグ体内部の空気を排出するための排出ポートを有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の容器。
【請求項9】
本体部が、固定部を有する台座部と、台座部を覆うためのカバー部とを含み、台座部は、バッグ体を縦置きした状態で固定できるように構成されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載の容器。
【請求項10】
移植片がシート状細胞培養物である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の容器。
【請求項11】
シート状細胞培養物が、積層体である、請求項
10に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植片を移送するための容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の開発が進められている。その一例として、重症心筋梗塞等において組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いて作製したシート状細胞培養物を心臓表面に適用する手法などが試みられている。シート状細胞培養物を用いる手法は、大量の細胞を広範囲に安全に移植することが可能であり、例えば、心筋梗塞(心筋梗塞に伴う慢性心不全を含む)、拡張型心筋症、虚血性心筋症、収縮機能障害(例えば、左室収縮機能障害)を伴う心疾患(例えば、心不全、特に慢性心不全)などの治療にとくに有用である。
【0003】
このようなシート状細胞培養物を臨床応用するには、例えば、作製されたシート状細胞培養物を保存液と共に容器内に収容し、移植が行われる集中治療室などに移送する必要がある。しかしながら、シート状細胞培養物は絶対的な物理的強度が低く、容器を移送する際などに生じる振動で、皺、破れ、破損などが生じることから、この移送作業には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0004】
このようなニーズに応えるために、種々の方法や容器が開発されている。例えば、下記特許文献1に記載された膜状組織の保存輸送容器は、収容部内を気体層が形成されることがない程度に保存液で満たすことで、保存液が波打ったり流動したりせず、結果的に、膜状組織に振動が伝わらず、膜状組織の破損を防止できるようになっている。
【0005】
下記特許文献2には、シート状移植片を保持する容器が記載されている。かかる容器は、シート状移植片を液体とともに収容する、密封可能なバッグ本体を有し、バッグ本体には、移植片取出口と、シート状移植片を挿入するための開口部とが設けられており、移植片取出口が、剥離可能な弱シール部を介して蓋により封止できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-130311号公報
【文献】特開2013-215168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように細胞シートを安全に移送するための容器が開発されており、容器内を液密にして内部で気泡の移動が起こらないような工夫がなされている。
【0008】
しかしながら、上記のような容器内から完全に気泡を取り除いて液密状態を達成するには高度な技術が要求される。また、上記のような変形が起きやすいバッグを使用した場合は、移送中に落下させたり押圧力を加えたりすると、容易に変形して内部の細胞シートを破損させてしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、簡単な作業で効率よく液密状態を達成し、移植片を安定的に移送することができる容器を提供することを目的とする。
【0010】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]移植片を移送するための容器であって、移植片を収容して液密に封止可能なバッグ体と、バッグ体を収容するための本体部とを含み、本体部はバッグ体を固定するための固定部を有し、バッグ体を固定部に固定した際にバッグ体が展張された状態になるように構成されている、前記容器。
[2]固定部が、バッグ体を本体部内で浮かせた状態で固定できるように構成されている、[1]に記載の容器。
[3]固定部が、本体部の内側面から離間して設けられている、[1]または[2]に記載の容器。
[4」バッグ体が展張されることにより、バッグ体が本体部と接触しない、[1]~[3]のいずれか一つに記載の容器。
【0011】
[5]固定部が、本体部の内側面から離間した位置において、バッグ体を展張させた状態で固定できるように構成されている、[4]に記載の容器。
[6]バッグ体が、バッグ体内部の空気を排出するための排出ポートを有する、[1]~[5]のいずれか一つに記載の容器。
[7]本体部が、固定部を有する台座部と、台座部を覆うためのカバー部とを含み、台座部は、バッグ体を縦置きした状態で固定できるように構成されている、[1]~[6]のいずれか一つに記載の容器。
[8]移植片がシート状細胞培養物である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の容器。
[9]シート状細胞培養物が、積層体である、[8]に記載の容器。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバッグ体は、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、バッグ体内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)がバッグ体内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡がバッグ体内で動いて移植片を破損することがない。特に、移植片がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の移植片の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0013】
本発明の本体部は、バッグ体を収容し、内部に設けられた固定部によりバッグ体を確実に固定し、バッグ体を固定部に固定した際にバッグ体を展張した状態にすることができるため、バッグ体に変形が起らず、バッグ体内の移植片の形状を保つことができる。また、本体部は、その堅牢性によりバッグ体を外部からの衝撃から守ることができる上に、バッグ体を本体部内で浮かせた状態で固定できるため、バッグ体と固定部とで耐衝撃ダンパーを構成することができる。さらに、本体部の台座部は、バッグ体を縦置きした状態で固定できるため、バッグ体への移植片の収容作業、シール作業、液密化作業などを好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る本体部1の概念図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される本体部1に収容されるバッグ体2の概念図である。
【
図3】
図3は、本体部1内でバッグ体2を展張した状態の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、移植片とは、比較的に物理的強度が低い生体由来の脆弱物をいう。移植片は培養した細胞(例えば細胞培養物など)や採取された細胞を含む。移植片はさらに細胞が産生した産生物を含むことがある。移植片は細胞および/または細胞の産生物のほかに、生体の所定部(例えば患部等)を補填および/または支持するための材料(補填材料や支持材料)なども含むことができる。移植片はシート状、膜状、塊状、柱状等の種々の形状をとることができる。移植片は生体への移植などに用いられる。移植片の一例としては、3次元細胞組織(オルガノイド、スフェロイド等)、2次元細胞組織(シート状細胞培養物等)などが挙げられる。
【0016】
本発明において、シート状細胞培養物とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(多層体)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。シート状細胞培養物は、独立して形成された単一の(一枚の)シート状細胞培養物として存在してもよく、また独立した単一の(一枚の)シート状細胞培養物が二以上積層されて形成された積層体として存在してもよい。積層体は、例えばシート状細胞培養物が2層(2枚)、3層(3枚)、4層(4枚)、5層(5枚)、または6層(6枚)積層された積層体であってよい。
【0017】
本発明におけるシート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞の例としては、限定されずに、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成し得る細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。本明細書においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞または心筋細胞などが好ましく、とくに好ましくは骨格筋芽細胞またはiPS細胞由来の心筋細胞である。
【0018】
細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、とくに限定されないが、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、例えば骨格筋芽細胞の場合、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0019】
本発明におけるシート状細胞培養物は、スキャフォールド(細胞培養時の足場)に細胞を播種し、培養することによって得られるシート形状の培養組織などでもよいが、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
シート状細胞培養物は、任意の既知の手法によって製造されたものであってよい。
【0020】
本発明の一態様において、シート状細胞培養物は、シート状骨格筋芽細胞培養物である。これは、シート状骨格筋芽細胞培養物は、その一部をつかむと自重で破断するほど脆弱であるがゆえに、従来単体で移送することができないばかりか、一度折り重なると元の形状に戻すことが極めて困難なため、液中でシート形状を維持することに大きな意義があるからである。
【0021】
本発明において、バッグ体は、内部に移植片、液体などを収容でき、液体が漏出しないものであればとくに限定されず、市販の容器を含む任意のものを用いることができる。バッグ体を構成する材料としては、柔軟性、可撓性に優れた軟質の樹脂材料が好ましい。これにより、バッグ体の可撓性を確保するとともに、液体の注入や移植片の出し入れ操作を容易に行うことができる。このような樹脂材料としては、とくには限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル、軟質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの核種熱可塑性エラストマーあるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体など)が挙げられる。シール性、耐熱性、耐水性、柔軟性、加工性の観点により、ポリプロピレン系軟質樹脂がとくに好ましい。また、バッグ体内の液量の視認性、および移植片の位置確認の観点から、透明性を有する樹脂材料であることが好ましい。
【0022】
本発明において、容器内の液体は、少なくとも1種の成分から構成され、その成分としてはとくに限定されないが、例えば、水、水溶液、非水溶液、懸濁液、乳液などの液体から構成される。液体は、全体として流動性を有する流体であればよく、細胞足場などの固形物質や気泡などその他非液体成分を含んでもよい。
【0023】
容器内の液体を構成する成分は、移植片に与える影響が少ないものであればとくに限定されない。移植片が生体由来である場合、容器内の液体を構成する成分は、生物学的安定性や長期保存可能性の観点から、生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応などの望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいものが好ましく、例えば、水、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80-7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll-paque(登録商標)PLUS等)、海水、血清含有溶液、レノグラフィン(登録商標)溶液、メトリザミド溶液、メグルミン溶液、グリセリン、エチレングリコール、アンモニア、ベンゼン、トルエン、アセトン、エチルアルコール、ベンゾール、オイル、ミネラルオイル、動物脂、植物油、オリーブ油、コロイド溶液、流動パラフィン、テレピン油、アマニ油、ヒマシ油などが挙げられる。
【0024】
移植片がシート状細胞培養物である場合、容器内の液体を構成する成分は、細胞を安定して保存することができ、細胞生存に必要な最低限の酸素や栄養等を含み、細胞を浸透圧等により破壊しないものが好ましく、例えば、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80-7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll-paque PLUS(登録商標)等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明において、本体部は、内部にバッグ体を収容でき、堅牢性や耐衝撃性があるものであればとくに限定されず、市販の容器を含む任意のものを用いることができる。本体部の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコーン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。
【0026】
本発明において、バッグ体および本体部の形状は、バッグ体を本体部内に固定可能で、かかる固定によりバッグ体が展張された状態になる限り、特に限定されない。例えば、バッグ体が方形である場合は、本体部の形状を方形にすることが好ましい。また、バッグ体および/または本体部を光透過性の材料で構成することで、バッグに収容されている移植片の状態や、液体中の気泡の有無を確認できるようにしてもよい。
【0027】
〔第1実施形態〕
本発明の一側面は、移植片を移送するための容器であって、移植片を収容して液密に封止可能なバッグ体と、バッグ体を収容するための本体部とを含み、本体部はバッグ体を固定するための固定部を有し、バッグ体を固定部に固定した際にバッグ体が展張された状態になるように構成されている、前記容器に関する。
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る本体部1の概念図、
図2は、
図1に示される本体部1に収容されるバッグ体2の概念図である。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
【0029】
図1に示されるように、本体部1は、一態様において縦長で方形の立方体であり、その内部に縦長のバッグ体2を好適に収容できるように設計されている。そして、本体部1は、その内部に複数の固定部12を有し、複数の固定部12は柱状であり、本体部1の内側面から離間して設けられている。本体部1は、一態様において固定部12を有する台座部11と、台座部11を覆うためのカバー部14とを含むことができる。台座部11は、バッグ体2を縦置きした状態で固定できるように構成されている。
【0030】
すなわち、台座部11は、2つの板状部材が互いに垂直になるように接続し、1つの面を作業台上に安定的に設置し、かかる面に対して垂直に立設された別の面に固定部12を設けることで、バッグ体2を縦置きした状態で固定できるように構成されている。カバー部14は、縦長で方形の立方体であり、一側面に台座部11を受け入れるための開口部15を有し、バッグ体2を固定した台座部11を開口部15からスライドインさせることで、その内側にバッグ体2を収容し、上記の1つの面を蓋として利用してカバー部14を密閉することができる。
【0031】
図2に示されるように、バッグ体2は、一態様において縦長で方形の立方体であり、その内部に移植片Gを広げた状態で好適に収容できるように寸法決めされている。バッグ体2の周縁部には、固定部12に挿通することができる複数の孔21が設けられている。複数の孔21は、複数の固定部12と対応する数だけ設けられており、バッグ体2を固定部12に固定した際にバッグ体2が展張された状態、すなわちバッグ体2が左右方向および上下方向に向けて引っ張られるように位置決めされている。バッグ体2は、一側の端部に移植片Gを挿入するための開口部23を有し、他側の端部にバッグ体2内の空気を排出するための排出ポート22を有する。
【0032】
バッグ体2に移植片Gを収容する作業手順を簡単に説明する。かかる作業は、クリーンルーム内で行われるものとして説明する。バッグ体2に移植片Gを収容する際には、まずバッグ体2を開口部23が上になるように台座部11に縦置きに固定し、排出ポート22をシール位置Sにおいてヒートシールなどによりシールする(
図2a)。次に、移植片Gと液体をバッグ体2の開口部23から挿入する(
図2b)。バッグ体2は縦置きに固定されているため、液体をバッグ体2から漏れ出すことなく流し込むことができ、また、開口部23をシール位置Sにおいてヒートシールなどにより好適にシールすることができる(
図2c)。バッグ体2のシール位置Sにイージーピールを設けることで、シールの開閉を簡単に行えるようにすることもできる。
【0033】
そして、開口部23をシールした際に、バッグ体2内に空気が入ることがあるため、かかる空気を取り除く必要がある。したがって、この場合はバッグ体2を上下反転させ、空気を排出ポート22側に移動させる(
図2d)。このときにバッグ体2の排出ポート22がある他側をテーパー状に形成することで、浮力の掛かった空気がテーパー部に沿って排出ポート22側に好適に移動するように構成することもできる。そして、排出ポート22にシリンジなどを接続して内部の空気を吸引し、シール位置Sにおいてシールすることで、移植片Gをバッグ体2内に収容して液密に封止することができる。
【0034】
バッグ体2は、一態様において、その中央部に凹部13を有する柱状の固定部12を設けることができ、バッグ体2の孔21を凹部13に係合させることで、バッグ体2を本体部1内で浮かせた状態で固定することができる。すなわち、固定部12の長さおよび凹部13の位置は、バッグ体2を凹部13に固定した際に、バッグ体2の両面が本体部1の内側面と接触することがないように、十分な長さと位置に設計される。固定部12は、バッグ体2を取り囲む周縁部が本体部1の内側面と接触することがないように、本体部1の内側面から離間して設けられている。そして、収容する作業を行った台座部11からバッグ体2を取り外すことなく、台座部11をカバー部14にスライドインさせることで、バッグ体2を容器1内に密閉し、バッグ体2を堅牢性の高い容器1内において保護することができる。
【0035】
以上のように構成された容器1を移送することで、変形が起きやすいバッグ体2であっても、移送中に落下したり押圧力が加わったりした場合であっても、内部の移植片Gを破損させることがない。そして、移送先でバッグ体2取り出す際も、台座部11をカバー部14からスライドアウトさせることで、簡単に取り出すことができる。バッグ体2は、ヒートシールされている場合は、移送先でシール位置Sにおいてハサミで切断したり、またはイージーピールされている場合は、ピールすることで、収容されている移植片Gを簡単に取り出すことができる。バッグ体2は滅菌性が求められるため、例えば、バッグ体2を第2のバッグ体2’(図示せず)に入れた状態で移送してもよい。かかる第2のバッグ体2’の周縁部にも同様の複数の孔21’を設け、バッグ体2の孔21と、第2のバッグ体2’の孔21‘とを固定部12に挿通させることで、バッグ体2の滅菌性を担保した状態で移送することもできる。
【0036】
以上、本発明に係る容器1を第1実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、さらに種々の変形例を有することができる。
本発明において、固定部12は、
図3に示されるように、バッグ体2を本体部1の内側面から離間した位置においてバッグ体を展張させた状態で固定できるように、すなわち、バッグ体2が本体部1と接触しない位置で固定されるように構成される限り、特に限定されない。バッグ体2の一部が本体部1と少しは接触してもよく、バッグ体2の重量が本体部1にほとんど掛からない程度なら接触してよい。たとえば、バッグ体2からの本体部1への重力が、バッグ体2の水平方向の展張力より小さくなるように構成すればよい。
例えば、固定部は、その上面にネジ孔が設けられた柱状として構成し、バッグ体をネジ孔にネジ止めすることで、
図1の固定部12の凹部13と同様の位置にバッグ体を固定することもできる。この場合、複数の孔21はあってもなくても良い。また、例えば、固定部12は、上記のような柱状として構成する必要はなく、複数の孔21を引っ掛けることができるフック状とすることもできる。また、バッグ体2の本体部1への固定も、種々の方法で行うことができる。例えば、複数の孔21を省略して、固定部12をダブルクリップやゼムクリップのように構成して、バッグ体2の周縁部を挟み込むことで、バッグ体を展張した状態で固定することもできる。
本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【0037】
以上の様に、本発明のバッグ体は、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、バッグ体内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)がバッグ体内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡がバッグ体内で動いて移植片を破損することがない。特に、移植片がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の移植片の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0038】
本発明の本体部は、バッグ体を収容し、内部に設けられた固定部によりバッグ体を確実に固定し、バッグ体を固定部に固定した際にバッグ体を展張した状態にすることができるため、バッグ体に変形が起らず、バッグ体内の移植片の形状を保つことができる。また、本体部は、その堅牢性によりバッグ体を外部からの衝撃から守ることができる上に、バッグ体を本体部内で浮かせた状態で固定できるため、バッグ体と固定部とで耐衝撃ダンパーを構成することができる。さらに、本体部の台座部は、バッグ体を縦置きした状態で固定できるため、バッグ体への移植片の収容作業、シール作業、液密化作業などを好適に行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 本体部
11 台座部
12 固定部
13 凹部
14 カバー部
15 開口部
2 バッグ体
21 孔
22 排出ポート
23 開口部
G 移植片
S シール位置