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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】免震構造物の緩衝機構
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240906BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240906BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F7/00 B
F16F15/04 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020117922
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022015220
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田島 暢之
(72)【発明者】
【氏名】岡村 祥子
(72)【発明者】
【氏名】川野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】田仲 秀典
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-090999(JP,A)
【文献】特開2003-056189(JP,A)
【文献】特開平03-158579(JP,A)
【文献】特開2019-100143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 7/00
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体に設置された免震装置によって支持された上部構造体又は前記下部構造体の一方に設けられた当接部と、
前記下部構造体又は前記上部構造体の他方に設けられ、単位荷重当たりの圧縮量が異なる複数の弾性部材を有し、前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対移動すると単位荷重当たりの圧縮量が大きい前記弾性部材から順番に前記当接部に当たるように構成されている緩衝部と、
を備え
前記上部構造体又は前記下部構造体の他方には前記緩衝部が設置される設置部が設けられ、
前記設置部は、前記緩衝部を構成する単位荷重当たりの圧縮量が大きい前記弾性部材における前記当接部と反対側の端部が、単位荷重当たりの圧縮量が小さい前記弾性部材における前記当接部と反対側の端部よりも、前記当接部から離れた位置になるように階段状に構成されている、
免震構造物の緩衝機構。
【請求項2】
前記弾性部材は、ゴムを材料として構成され、
単位荷重当たりの圧縮量が最も小さい前記弾性部材と前記当接部とが当たった後、全ての前記弾性部材がハードニングを開始する、
請求項1に記載の免震構造物の緩衝機構。
【請求項3】
前記弾性部材は、一つの弾性片又は複数の前記弾性片が前記相対移動の方向に重ねられることで、前記相対移動の方向における前記弾性部材の全長を異ならせて、前記弾性部材の単位荷重当たりの圧縮量を変えている、
請求項1又は請求項2に記載の免震構造物の緩衝機構。
【請求項4】
下部構造体に設置された免震装置によって支持された上部構造体又は前記下部構造体の一方に設けられた当接部と、
前記下部構造体又は前記上部構造体の他方に設けられ、単位荷重当たりの圧縮量が異なる複数の弾性部材を有し、前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対移動すると単位荷重当たりの圧縮量が大きい前記弾性部材から順番に前記当接部に当たるように構成されている緩衝部と、
を備え、
前記弾性部材は、一つの弾性片又は複数の前記弾性片が前記相対移動の方向に重ねられることで、前記相対移動の方向における前記弾性部材の全長を異ならせて、前記弾性部材の単位荷重当たりの圧縮量を変えている、
免震構造物の緩衝機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物の緩衝機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建築構造物の大地震等の大震動から保護するための免振装置に関する技術が開示されている。この先行技術では、免振装置は、建築構造物と基礎との間に、該建築構造物を支持すると共に該建築構造物と基礎との水平相対変位を許容すべく弾性変形する弾性体を有している。また、免振装置は、弾性体の弾性変形時に建築構造物と基礎とに相互に係合して水平方向の振動エネルギーを吸収するダンパーを有している。更に免振装置は、水平方向に座屈されるハニカム状部材によって構成され弾性体の弾性変形で建築構造物と基礎とに相互に係合して水平方向の振動エネルギーを吸収しつつ水平変位を吸収するストッパーが設けられている。
【0003】
特許文献2には、基礎構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、免震建物構造の外周部立ち上がり壁と免震建物の上部構造躯体との間にクリアランスが形成されると共に基礎構造と上部構造との間にピットが形成されている。クリアランスの所要個所には、所要の遊間距離をもって設置されるエネルギー吸収部材と変形ストッパー部材とからなる変形制御装置が設けられている。そして、所要の遊間距離を免震装置の変形限界許容値の70~80%に合わせて変形ストッパー部材がエネルギー吸収部材に当接して弾性変形制御し始めるように設定し、エネルギー吸収部材が弾性変形して地震エネルギーを吸収し、免震装置の変形限界許容値を超えないようにしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平02-88835号公報号公報
【文献】特許第5948457号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
免震構造物では、想定を超える大地震が発生し、上部構造体の下部構造体に対する水平方向の相対移動量が大きくなると、例えば、上部構造体の側壁が下部構造体の擁壁に衝突する。そして、このような衝突時の衝撃力を低減させるために、ゴム等の弾性部材を当接部に当てる緩衝機構が知られている。
【0006】
しかし、衝撃力を更に低減させることが望まれており、この点において改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、免震構造物の緩衝機構の衝撃力の低減効果を向上させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、下部構造体に設置された免震装置によって支持された上部構造体又は前記下部構造体の一方に設けられた当接部と、前記下部構造体又は前記上部構造体の他方に設けられ、単位荷重当たりの圧縮量が異なる複数の弾性部材を有し、前記上部構造体が前記下部構造体に対して水平方向に相対移動すると単位荷重当たりの圧縮量が大きい前記弾性部材から順番に前記当接部に当たるように構成されている緩衝部と、を備えた免震構造物の緩衝機構である。
【0009】
第一態様の免震構造物の緩衝機構では、上部構造体が下部構造体に対して水平方向に相対移動すると、緩衝機構を構成する単位荷重当たりの圧縮量が大きい弾性部材から順番に当接部に当たる。よって、上部構造体の移動速度を低減するブレーキ力が段階的に作用するので、単位荷重当たりの圧縮量が同じ複数の弾性部材が同時に当接部に当たる場合と比較し、衝撃力が低減される。
【0010】
第二態様は、前記弾性部材は、ゴムを材料として構成され、単位荷重当たりの圧縮量が最も小さい前記弾性部材と前記当接部とが当たった後、全ての前記弾性部材がハードニングを開始する、第一態様に記載の免震構造物の緩衝機構である。
【0011】
第二態様の免震構造物の緩衝機構では、弾性部材は、ゴムを材料として構成され、単位荷重当たりの圧縮量が最も小さい弾性部材と当接部とが当たった後、全ての弾性部材がハードニングを開始する。よって、単位荷重当たりの圧縮量が最も小さい弾性部材と当接部とが当たる前に、ハードニングを開始する弾性部材がある場合と比較し、衝撃力が低減される。
【0012】
第三態様は、前記弾性部材は、一つの弾性片又は複数の前記弾性片が前記相対移動の方向に重ねられることで、前記相対移動の方向における前記弾性部材の全長を異ならせて、前記弾性部材の単位荷重当たりの圧縮量を変えている、第一態様又は第二態様に記載の免震構造物の緩衝機構である。
【0013】
第三態様の免震構造物の緩衝機構では、一つの弾性片又は複数の弾性片を相対移動の方向に重ねて弾性部材の全長を異ならせることで、弾性部材の単位荷重当たりの圧縮量を変えている。よって、弾性部材の単位荷重当たりの圧縮量を、弾性部材の物性を変えて単位荷重当たりの圧縮量を変える場合と比較し、容易に変えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、免震構造物の緩衝機構による衝撃力の低減効果が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は免震構造物を模式的に示す断面図であり、(B)は(A)の要部を拡大した拡大図である。
図2】免震構造物の平面図である。
図3】緩衝機構の平面図である。
図4】想定を超える地震時に緩衝機構の当接部に複数のゴム部材が順番に当たる様子を(A)から(C)に示す連続図である。
図5】想定を超える地震時に緩衝機構の当接部に複数のゴム部材が順番に当たった際の建物本体の相対移動量とブレーキ力との関係を示すグラフである。
図6】想定を超える地震時に緩衝機構の当接部に複数のゴム部材が順番に当たった際の建物本体の応答加速度の時刻歴を示すグラフである。
図7】第一変形例の緩衝機構の平面図である。
図8】第二変形例の緩衝機構の平面図である。
図9】第三変形例の緩衝機構の平面図である。
図10】(A)は他の例の免震構造物を模式的に示す立面図であり、(B)は(A)の要部を拡大した拡大図である。
図11】比較例の緩衝機構の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
本発明の一実施形態の免震構造物の緩衝機構について説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。また、X方向及びY方向に直交する鉛直方向をZ方向とし、矢印Zで示す。
【0017】
[構造]
まず、緩衝機構の構造について説明する。
【0018】
図1(A)、図1(B)及び図2に示すように、免震構造物10は、上部構造体の一例としての平面視矩形状の建物本体20と、下部構造体の一例としての平面視矩形状の基礎部50と、を有して構成され、建物本体20と基礎部50との間に免震層40(図1(A)及び図1(B)参照)が設けられた基礎免震構造の構造物である。
【0019】
図1(A)及び図1(B)に示すように、基礎部50は、平面視矩形状の底部52と、底部52の外周部から立ち上がる擁壁54と、を有して構成され、地盤Gに設けられている。基礎部50の底部52の上には、複数の免震装置42が設置されている。そして、この免震装置42に建物本体20が支持されている。
【0020】
なお、本実施形態の免震装置42は、積層ゴム支承で構成されているが、これに限定されるものではない。積層ゴム支承以外の免震支承、例えば、すべり支承や転がり支承であってもよい。また、免震層40には、ダンパーが設置されていてもよい。
【0021】
図1(A)、図1(B)及び図2に示すように、免震構造物10には、想定以上の地震が発生した際に、建物本体20が擁壁54に衝突した際の衝撃力を緩和させる緩衝機構100が設けられている。緩衝機構100は、建物本体20の下端部22の側壁24に設けられた緩衝部120と、側壁24に対向した擁壁54の壁面56の一部である当接部110と、を有して構成されている。
【0022】
図2に示すように、緩衝機構100は、平面視における矩形の各辺部に相当する部位に各二箇所設けられている。
【0023】
なお、水平方向における建物本体20の緩衝部120と対向する基礎部50の当接部110とが接近及び離間する方向が相対移動の方向である。別の観点から説明すると、対向配置されている建物本体20の側壁24及び擁壁54の壁面56(当接部110)の面外方向が相対移動の方向である。本実施形態では、Y方向に沿った側壁24及び壁面56に設けられた緩衝機構100の相対移動の方向はX方向であり、X方向に沿った側壁24及び壁面56に設けられた緩衝機構100の相対移動の方向はY方向である。
【0024】
図3に示すように、緩衝部120は、建物本体20の下端部22の側壁24に形成された階段状の設置部122と、複数の弾性部材の一例としてのゴム部材130A、130B、130Cと、を有して構成されている。なお、ゴム部材130A、130B、130Cを区別する必要がないときは、符号130の後のA、B、Cを省略し、ゴム部材130と記載する。また、図3では、Y方向に沿った側壁24及び壁面56に設けられた緩衝機構100を図示しているが、X方向に沿った側壁24及び壁面56に設けられた緩衝機構100においても方向が異なるだけで同様の構造である。
【0025】
本実施形態の緩衝部120のゴム部材130A、130B、130Cは、相対移動の方向に全長が異なっていると共に相対移動の方向と直交する水平方向に並んでいる。本実施形態では、中央のゴム部材130Aの先端部が擁壁54の当接部110側に最も突出している。中央のゴム部材130Aの両側のゴム部材130Bは中央のゴム部材130Aよりも突出量が小さく、更にその両側のゴム部材130Cは更に突出量が小さい。
【0026】
また、本実施形態では、複数のゴム部材130が設置される設置部122は階段状とされ、凹部122A、凹部122B、凹部122Cの順番で凹み量が大きくなっている。なお、凹部122Cは、側壁24と同一面内であってもよい。そして、ゴム部材130Aが凹部122Aに設置され、ゴム部材130Bが凹部122Bに設置され、ゴム部材130Cが凹部122Cに設置されている。別の観点から説明すると、複数のゴム部材130が設置される階段状の設置部122は、ゴム部材130の全長が長いほど凹んだ階段状になっている。
【0027】
本実施形態のゴム部材130は、弾性片の一例としてのゴムブロック138を相対移動の方向に重ねて構成されている。そして、ゴム部材130は、ゴムブロック138の相対移動の方向の重なる個数を変えることで、相対移動の方向の全長を異ならせている。具体的には、ゴム部材130Aはゴムブロック138を三つ重ねた構造とされ、ゴム部材130Bはゴムブロック138を二つ重ねた構造とされ、ゴム部材130Cはゴムブロック138が一つで構成されている。
【0028】
なお、本実施形態におけるゴム部材130の全長方向及びゴムブロック138を重ねる方向は、相対移動の方向である。
【0029】
緩衝部120を構成する複数のゴム部材130は、ゴムブロック138の個数、すなわち全長が異なっている以外は、同じである。よって、複数のゴム部材130は、全長が長いほど、単位荷重当たりの圧縮量が大きくなる。したがって、建物本体20が基礎部50の擁壁54に対して水平方向に相対移動すると、全長が長く単位荷重当たりの圧縮量が大きいゴム部材130から順番に当接部110に当たる。すなわち、ゴム部材130A、ゴム部材130B、ゴム部材130Cの順番に当接部110に当たり圧縮されていく。
【0030】
また、本実施形態では、全長が短く単位荷重当たりの圧縮量が最も小さいゴム部材130Cと当接部110とが当たった後で(図4(C)を参照)、全てのゴム部材130がハードニングを開始するように調整されている。
【0031】
ここで、「ハードニング」とは、ゴムが大変形を生じたときに、ゴムが急激に硬化する現象のことである。ゴムにおける履歴曲線(荷重一変位曲線)は、圧縮量が小さいときは弾性特性に近いが、圧縮力が大きくなると、硬化を開始、すなわちハードニングを開始し、非線形性が大きくなる曲線的なグラフとなる。
【0032】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0033】
免震構造物10では、建物本体20が基礎部50の擁壁54に対して水平方向に相対移動すると、緩衝機構100の緩衝部120を構成する単位荷重当たりの圧縮量が大きいゴム部材130から順番に擁壁54の当接部110に当たっていく(図4参照)。よって、建物本体20の移動速度を低減するブレーキ力が段階的に作用するので、単位荷重当たりの圧縮量が同じ複数のゴム部材が同時に擁壁54の当接部110に当たる場合と比較し、衝撃力が低減される(図5参照)。なお、このことの詳しい説明は後述する。
【0034】
また、緩衝機構100の緩衝部120は、複数のゴム部材130で構成され、単位荷重当たりの圧縮量が最も小さいゴム部材130Cと当接部110とが当たった後で(図4(C)参照)、全てのゴム部材130がハードニングを開始する。よって、単位荷重当たりの圧縮量が最も小さいゴム部材130Cが当接部110に当たる前に、ハードニングを開始するゴム部材130がある場合と比較し、衝撃力が効果的に低減される。
【0035】
また、緩衝部120のゴム部材130が設けられた建物本体20の設置部122は、ゴム部材130の全長が長いほど凹んだ階段状に形成されている(図3参照)。よって、ゴム部材130の全長を長くしつつ、ハードニングを開始する建物本体20の相対変位量を小さくすることができる。
【0036】
また、緩衝機構100の緩衝部120は、一つのゴムブロック138又は複数のゴムブロック138を重ねてゴム部材130の全長を異ならせて、ゴム部材130の単位荷重当たりの圧縮量を変えている。よって、ゴム部材130の単位荷重当たりの圧縮量を、ゴム部材130の物性を変えて単位荷重当たりの圧縮量を変える場合と比較し、容易に変えることができる。
【0037】
(ブレーキ力の段階的な作用)
建物本体20の移動速度を低減するブレーキ力が段階的に作用することについて詳しく説明する。なお、ブレーキ力とは、緩衝部120全体の剛性に圧縮量を乗じたものと同等である。
【0038】
ゴムブロック138の弾性係数をKとすると、各ゴム部材130の剛性(単位変位当りのブレーキ力)は下記となる。
【0039】
ゴム部材130A:K/3
ゴム部材130B:K/2×2基=K
ゴム部材130C:K×2基=2K
【0040】
図4に示す各段階の剛性(ブレーキ力)を計算すると下記となる。
【0041】
ゴム部材130Aのみが圧縮変形した第一段階(図4(A))の剛性は、1/3・K
ゴム部材130A及びゴム部材130Bが圧縮変形した第二段階(図4(B))の剛性は、K/3+K=4/3・K
ゴム部材130A、ゴム部材130B及びゴム部材130Cが圧縮変形した第三段階(図4(C))の剛性は、4/3・K+2K=10/3・K
【0042】
図5は、横軸が建物本体20の相対移動量とし、縦軸をブレーキ力とした場合のグラフである。このように建物本体20の移動速度を低減するブレーキ力が段階的に作用する。
【0043】
なお、第二段階(図4(B)参照)におけるゴム部材130Aとゴム部材130Bとの負担率は、
ゴム部材130A:ゴム部材130B=K/3:K=1:3
となる。
【0044】
また、第三段階におけるゴム部材130A、ゴム部材130B及びゴム部材130Cのそれぞれの負担率は、
ゴム部材130A:ゴム部材130B:ゴム部材130C=K/3:K:2K=1:3:6
である。
【0045】
また、図6は、本実施形態の緩衝機構100を設けた場合(太実線)と、図11に示す比較例の緩衝機構900(点線)を設けた場合と、緩衝機構100、900を設けないで建物本体20の側壁24が擁壁54の壁面56に衝突する場合(細実線)と、のそれぞれにおける建物本体20の応答加速度の時刻歴を、コンピューターを用いてシミュレーションしたグラフである。なお、横軸は時間(s)で、縦軸は応答加速度(gal)である。
【0046】
図11に示すように、比較例の緩衝機構900は、同じ長さのゴム部材930が設けられた構造である。
【0047】
図6に示すように、いずれの緩衝機構100、900も設けない場合(細実線)では建物本体20が擁壁54に衝突し、最大で1200gal近い応答加速度が発生する。これに対して、比較例の緩衝機構900の場合(点線)では最大で800gal程度に低減している。更に、本実施形態の緩衝機構100では、最大で200gal程度に低減している。
【0048】
このように、緩衝機構100の緩衝部120を構成する単位荷重当たりの圧縮量が大きいゴム部材130から順番に擁壁54の当接部110に当たり、ブレーキ力が段階的に作用することで、衝撃力が効果的に低減されることが判る。
【0049】
<変形例>
次に、緩衝機構の変形例について説明する。
【0050】
[第一変形例]
図7に示す第一変形例の緩衝機構101は、緩衝部121と当接部110とを有して構成されている。緩衝部121は、建物本体20の下端部22の側壁25にゴム部材130A、130B、130Cが設けられた構成である。なお、本変形例においても全長が短く単位荷重当たりの圧縮量が最も小さいゴム部材130Cと当接部110とが当たった後で、全てのゴム部材130がハードニングを開始するように調整されていることが望ましい。
【0051】
[第二変形例]
図8に示す第二変形例の緩衝機構102は、建物本体20の下端部22の側壁24に設けられた緩衝部123と、側壁24に対向した擁壁54の壁面56に設けられた当接部112と、を有して構成されている。
【0052】
緩衝部123は、建物本体20の下端部22の側壁24に形成された階段状の設置部124と、ゴム部材130A、130B、130Cと、を有して構成されている。
【0053】
設置部122は階段状とされ、凹部124A、凹部124B、凹部124Cの順番で凹み量が大きくなっている。なお、凹部124Cは、側壁24と同一面内であってもよい。ゴム部材130Aが凹部124Aに設置され、ゴム部材130Bが凹部124Bに設置され、ゴム部材130Cが凹部124Cに設置されている。すなわち、複数のゴム部材130が設置される階段状の設置部124は、ゴム部材130の全長が長いほど凹んだ階段状になっている。更に、設置部124は、ゴム部材130A、130B、130Cの先端部が、全長方向(図8ではX方向)に対して同位置又は略同位置になるように設定されている。
【0054】
当接部112は、ゴム部材130A、130B、130Cに対向する部位に凸部114A、114B、114Cが形成され、階段状になっている。そして、凸部114A、凸部114B及び凸部114Cの順番で突出量が大きくなっている。
【0055】
したがって、建物本体20が基礎部50の擁壁54に対して水平方向に相対移動すると、全長が長く単位荷重当たりの圧縮量が大きいゴム部材130から順番に当接部112に当たる。
【0056】
[第三変形例]
図9に示す第三変形例の緩衝機構103は、建物本体20の下端部22の側壁24に設けられた緩衝部127と、側壁24に対向した擁壁54の壁面56の一部である当接部110と、を有して構成されている。
【0057】
緩衝部127は、建物本体20の下端部22の側壁24に形成された階段状の設置部126と、ゴム部材140A、140B、140Cと、を有して構成されている。設置部126は、凸部128A、128B、128Cが形成された階段状になっている。そして、凸部128A、凸部128B及び凸部128Cの順番で突出量が大きくなっている。
【0058】
設置部126の凸部128Aにゴム部材140Aが設置され、凸部128Bにゴム部材140Bが設置され、凸部128Cにゴム部材140Cが設置されている。
【0059】
ゴム部材140A、140B、140Cは、大きさは同じであるが、弾性係数が異なっている。具体的には、ゴム部材140A、ゴム部材140B、ゴム部材140Cの順番で弾性係数が大きくなっている。よって、ゴム部材140C、ゴム部材140B、ゴム部材140Aの順番で単位荷重当たりの圧縮量が大きくなる。
【0060】
前述のように、ゴム部材140A、140B、140Cは、大きさが同じである。よって、建物本体20が擁壁54に対して水平方向に相対移動すると、ゴム部材140A、ゴム部材140B、ゴム部材140Cの順番で当接部110に当たる。つまり、弾性係数が小さく単位荷重当たりの圧縮量が大きいゴム部材130Aさ最初に当接部110に当たり、その後、ゴム部材140Bが当たり、最後にゴム部材140Cが当たる。
上部構造体21の下部23には下側に突出する突出部210が設けられている。
【0061】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されない。
【0062】
例えば、上記実施形態及び変形例の緩衝機構100、101、102、103では、緩衝部120、121、123、127は建物本体20側に設けられ、当接部110、112は擁壁54側に設けられていたが、これに限定されない。緩衝部120、121、123、127が擁壁54側に設けられ、当接部110、112が建物本体20側に設けられていてもよい。
【0063】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、緩衝機構100、101、102、103が設けられた免震構造物10は基礎免震構造であったが、これに限定されない。例えば。図10に示す中間免震構造の免震構造物11に緩衝機構100、101、102、103を設けてもよい。
【0064】
図10の中間免震構造の免震構造物11は、地盤Gに設けられた下部構造体51の上に設置された免震装置42に上部構造体21が支持されている。上部構造体21の下部23には下側に突出する突出部210が設けられている。また、下部構造体51の上部53には、突出部210の周囲を囲むようにストッパー220が設けられている。そして、突出部210とストッパー220との間に緩衝機構100、101、102、103が設けられている。
【0065】
なお、図1の基礎免震構造の免震構造物10において、建物本体20の下部に下側に突出する突出部210(図10参照)を設け、基礎部50の底部52に突出部210(図10参照)の周囲を囲むようにストッパー220を設け、突出部210とストッパー220との間に緩衝機構100、101、102、103を設けてもよい。
【0066】
また、例えば、緩衝機構は、上記実施形態及び変形例の緩衝機構100、101、102、103に限定されない。
【0067】
例えば、ゴム部材以外の弾性部材、例えばコイルばね、皿ばね及び板ばね等を用いてもよい。また、コイルばね、皿ばね及び板ばねを重ねて構成してもよい。また、弾性部材は、前述のゴム部材、コイルばね、皿ばね及び板ばね以外の応答加速度を低減させる効果がある部材であればよい。そして、単位荷重当たりの圧縮量が大きい弾性部材から順番に当接部に当たるように構成されていればよい。
【0068】
また、例えば、上記実施形態では、全長が短く単位荷重当たりの圧縮量が最も小さいゴム部材130Cと当接部110とが当たった後に、全てのゴム部材130がハードニングを開始するように調整されたが、一部のゴム部材がハードニングしてもよく、全てのゴム部材がハードニングしなくてもよい。
【0069】
また、例えば、上記実施形態では、ゴム部材130A、130B、130Cは、水平方向に並んだが、鉛直方向でもよく、水平方向に対して傾斜する傾斜方向に並んでもよい。
【0070】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 免震構造物
11 免震構造物
20 建物本体(上部構造体の一例)
21 上部構造体
42 免震装置
50 基礎部(下部構造体の一例)
51 下部構造体
100 緩衝機構
101 緩衝機構
102 緩衝機構
103 緩衝機構
110 当接部
112 当接部
120 緩衝部
121 緩衝部
123 緩衝部
127 緩衝部
130A ゴム部材(弾性部材の一例)
130B ゴム部材(弾性部材の一例)
130C ゴム部材(弾性部材の一例)
138 ゴムブロック(弾性片の一例)
140A ゴム部材(弾性部材の一例)
140B ゴム部材(弾性部材の一例)
140C ゴム部材(弾性部材の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11