(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】化合物半導体基板および化合物半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20240906BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20240906BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01L29/80 H
(21)【出願番号】P 2020121743
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【氏名又は名称】石川 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】大内 澄人
(72)【発明者】
【氏名】川村 啓介
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-207748(JP,A)
【文献】特開2018-174234(JP,A)
【文献】特開2018-082121(JP,A)
【文献】特開2019-102767(JP,A)
【文献】特開2015-019052(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0077242(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の窒化物半導体よりなる電子走行層と、
前記電子走行層上に形成され、前記第1の窒化物半導体のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2の窒化物半導体よりなる障壁層と、
前記障壁層と接触して前記障壁層上に形成された窒化物半導体よりなるキャップ層とを含み、
前記キャップ層は、5×10
17個/cm
3以上1×10
20個/cm
3以下のC濃度を有し、
前記キャップ層の上面における中心を含む領域であって5μmの辺を有する正方形の領域を規定した場合に、前記領域内の二乗平均平方根高さRqは0より大きく1.0nm以下であ
り、
前記障壁層は、Al
e
Ga
1-e
N(0.17≦e≦0.27)よりなり、
前記キャップ層は、Al
g
Ga
1-g
N(0≦g≦0.15)よりなる、化合物半導体基板。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成されたAlNを含むバッファー層と、
前記バッファー層上に形成された窒化物半導体層とをさらに備え、
前記電子走行層は、GaNよりなり、前記窒化物半導体層上に形成され、
前記障壁層は、Alを含む窒化物半導体よりなる、請求項
1に記載の化合物半導体基板。
【請求項3】
前記基板はSiよりなり、
前記基板と前記バッファー層との間に形成されたSiC層をさらに備え、
前記窒化物半導体層は、
前記バッファー層上に形成されたAl
aGa
1-aN(0<a≦1)で表される材料よりなるAl窒化物半導体層と、
前記Al窒化物半導体層上に形成された複合層とを含み、
前記複合層は、
積層された複数のGaN層と、
前記複数のGaN層の各々の間に形成された1層以上のAlN層とを含み、
前記複数のGaN層のうち最上部のGaN層は、前記電子走行層のC濃度よりも高いC濃度を有する、請求項
2に記載の化合物半導体基板。
【請求項4】
第1の窒化物半導体よりなる電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上に、前記第1の窒化物半導体のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2の窒化物半導体よりなる障壁層を形成する工程と、
前記障壁層と接触して前記障壁層上に、有機金属気相成長法を用いてキャップ層を形成する工程とを備え、
前記キャップ層は、5×10
17個/cm
3以上1×10
20個/cm
3以下のC濃度を有し、窒化物半導体よりなり、
前記キャップ層を形成する工程において、前記キャップ層を構成する窒化物半導体の原料ガスと、炭化水素ガスとを前記障壁層の上面に導入する、化合物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記電子走行層を形成する工程において、基板上に前記電子走行層を形成し、
前記障壁層を形成する工程における前記基板の温度は第1の温度であり、
前記キャップ層を形成する工程における前記基板の温度は第2の温度であり、
前記第1の温度よりも25℃低い温度を第3の温度とした場合、前記第2の温度は前記第3の温度よりも高い、請求項
4に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板および化合物半導体基板の製造方法に関し、より特定的には、電子走行層と障壁層とを備えた化合物半導体基板および化合物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)は、Si(ケイ素)に比べてバンドギャップが大きく、絶縁破壊電界強度が高いワイドバンドギャップ半導体材料として知られている。GaNは、他のワイドバンドギャップ半導体材料と比べても高い耐絶縁破壊性を有するので、次世代の低損失なパワーデバイスへの適用が期待されている。
【0003】
次世代の低損失なパワーデバイスの鍵となる技術として、GaNやAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)などの窒化物半導体よりなるHEMT(High Electron Mobility Transistor、高電子移動度トランジスタ)が注目されている。窒化物半導体よりなるHEMTの技術は、近年、急速に開発されている。
【0004】
窒化物半導体よりなるHEMTは、第1の窒化物半導体よりなる電子走行層と、電子走行層上に形成された第2の窒化物半導体よりなる障壁層とを含んでいる。第2の窒化物半導体は、第1の窒化物半導体のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有している。窒化物半導体よりなるHEMTでは、電子走行層における障壁層との界面付近に2次元電子ガスが形成される。この2次元電子ガスがHEMTの動作に用いられる。窒化物半導体よりなるHEMTは、GaAs系の半導体材料よりなる電界効果トランジスタと比較して、約10倍の2次元電子ガスを生み出すことができ、電流密度が大きい。したがって、窒化物半導体よりなるHEMTには、高出力および高効率での動作が期待されており、次世代の高出力増幅器として期待されている。また、GaAsの絶縁破壊電圧は0.4MV/cmであるのに対し、GaNの絶縁破壊電圧は3.0MV/cmである。GaNは、GaAsの絶縁破壊電圧の約7.5倍という高い絶縁破壊電圧を有している。この事実も、窒化物半導体よりなるHEMTが次世代の高出力増幅器として期待されることの要因となっている。
【0005】
図22は、従来の窒化物半導体よりなるHEMT1010の構成を模式的に示す断面図である。
【0006】
図22を参照して、従来のHEMT1010は、基板1001と、バッファー層1002と、電子走行層1003と、障壁層1004と、ソース電極1005と、ドレイン電極1006と、ゲート電極1007と、パッシベーション層1008とを備えている。基板1001上には、バッファー層1002、電子走行層1003、障壁層1004がこの順序で積層されている。障壁層1004上には、ソース電極1005、ドレイン電極1006、およびゲート電極1007の各々が互いに間隔をおいて設けられている。ゲート電極1007は、ソース電極1005とドレイン電極1006との間に設けられている。障壁層1004上におけるソース電極1005、ドレイン電極1006、およびゲート電極1007が形成されていない位置には、パッシベーション層1008が設けられている。ソース電極1005、ドレイン電極1006、ゲート電極1007、およびパッシベーション層1008は、障壁層1004と接触している。
【0007】
基板1001はたとえばSiC(炭化ケイ素)などよりなっている。バッファー層1002はたとえばAlGaNなどよりなっている。電子走行層1003はたとえばアンドープのGaNなどよりなっている。障壁層1004はたとえばn型AlGaNなどよりなっている。パッシベーション層1008はたとえばSiO2(酸化ケイ素)やSiN(窒化ケイ素)よりなっている。
【0008】
HEMT1010では、ソース電極1005とドレイン電極1006との間に電圧を印加することにより、2次元電子ガス1003aを経由してソース電極1005とドレイン電極1006との間を電子が移動する。ゲート電極1007に印加する電圧により2次元電子ガス1003aの濃度が変化する。このため、ゲート電極1007に印加する電圧により、ソース電極1005とドレイン電極1006との間に流れる電流のスイッチング動作を実現することができる。
【0009】
従来のHEMT1010を高電圧の下で使用した場合、障壁層1004の表面荒れ(障壁層1004の上面1004aの凹凸)に起因する問題が生じていた。具体的には、ゲートリークの問題(
図22中点線X1で囲んだ部分)があった。この問題は、上面1004aの凹凸の部分に電界が集中し、ゲート電極1007と、ソース電極1005またはドレイン電極1006との間にリーク電流が流れるという問題である。リーク電流は本来流れるはずのない電流である。また、電流コラプスが悪化するという問題(
図22中点線X2で囲んだ部分)があった。この問題は、HEMT1010内を走行する電子がHEMT1010内の結晶欠陥にトラップされ、HEMT1010のオン抵抗が増加するという問題である。さらに、信頼性が低いという問題があった。すなわち、HEMT1010に長期的に通電した場合に、HEMTが突然破壊することがあった。
【0010】
図23は、従来の窒化物半導体よりなるHEMT1020の構成を模式的に示す断面図である。
【0011】
図23を参照して、障壁層の表面荒れに起因する問題の解決策として、従来のHEMT1020では、障壁層1004上に、障壁層1004と接触するようにキャップ層1011が設けられている。キャップ層1011は、1nm~10nmの程度の厚さを有している。キャップ層1011の上面1011aの平坦性は、障壁層1004の上面1004aの平坦性よりも高い。このため、HEMT1020によれば、障壁層1004の表面荒れに起因する問題(特にゲートリークの問題)をある程度改善することができる。しかし、HEMT1020を高電圧の下で使用した場合、ゲートリークを一層抑止する必要があった。
【0012】
そこで、キャップ層中にC(炭素)を意図的にドープする技術が、たとえば下記特許文献1において提案されている。下記特許文献1には、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、有機金属気相成長法)にて電子供給層を形成する際に、電子供給層のうち表面側の領域(キャップ層)中にCを意図的にドープし、電子供給層のうち表面側の領域中におけるCの濃度を高める技術が開示されている。下記特許文献1では、AlGaNよりなる電子供給層のうち表面側の領域を形成する際の成長温度が、電子供給層のうち電子走行層側の領域を形成する際の成長温度よりも低くされている。下記特許文献1の技術によれば、Cのドープにより電子供給層の表面側の領域が高抵抗化されるため、ゲートリークを一層抑止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の技術では、キャップ層中に必要な量のCを取り込むためには、キャップ層の成長温度を低くする必要があった。具体的には、下層である障壁層(引用文献1の電子供給層)の成長温度や、Cを意図的にドープしない場合のキャップ層の成長温度よりも、キャップ層の成長温度を300℃程度低い成長温度に設定する必要があった。
【0015】
しかし、キャップ層の成膜を開始する際に成長温度を大きく低下させると、障壁層の表面荒れが生じていた。また、キャップ層の品質も低下していた。その結果、従来の技術では、キャップ層中にCを意図的にドープすると障壁層の表面荒れに起因する問題が再び生じていた。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、ゲートリークを抑止しつつ障壁層の表面荒れを抑止することのできる化合物半導体基板および化合物半導体基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一の局面に従う化合物半導体基板は、第1の窒化物半導体よりなる電子走行層と、電子走行層上に形成され、第1の窒化物半導体のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2の窒化物半導体よりなる障壁層と、障壁層と接触して障壁層上に形成された窒化物半導体よりなるキャップ層とを含み、キャップ層は、5×1017個/cm3以上1×1020個/cm3以下のC濃度を有し、キャップ層の上面における中心を含む領域であって5μmの辺を有する正方形の領域を規定した場合に、領域内の二乗平均平方根高さRqは0より大きく1.0nm以下であり、障壁層は、Al
e
Ga
1-e
N(0.17≦e≦0.27)よりなり、キャップ層は、Al
g
Ga
1-g
N(0≦g≦0.15)よりなる。
【0019】
上記化合物半導体基板において好ましくは、障壁層は、AleGa1-eN(0.19≦e≦0.22)よりなり、キャップ層は、AlgGa1-gN(0≦g≦0.08)よりなる。
【0020】
上記化合物半導体基板において好ましくは、キャップ層は、GaNよりなる。
【0021】
上記化合物半導体基板において好ましくは、基板と、基板上に形成されたAlN(窒化アルミニウム)を含むバッファー層と、バッファー層上に形成された窒化物半導体層とをさらに備え、電子走行層は、GaNよりなり、窒化物半導体層上に形成され、障壁層は、Alを含む窒化物半導体よりなる。
【0022】
上記化合物半導体基板において好ましくは、基板はSi(ケイ素)よりなり、基板とバッファー層との間に形成されたSiC層をさらに備え、窒化物半導体層は、バッファー層上に形成されたAlaGa1-aN(0<a≦1)で表される材料よりなるAl窒化物半導体層と、Al窒化物半導体層上に形成された複合層とを含み、複合層は、積層された複数のGaN層と、複数のGaN層の各々の間に形成された1層以上のAlN層とを含み、複数のGaN層のうち最上部のGaN層は、電子走行層のC濃度よりも高いC濃度を有する。
【0023】
本発明の他の局面に従う化合物半導体基板の製造方法は、第1の窒化物半導体よりなる電子走行層を形成する工程と、電子走行層上に、第1の窒化物半導体のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2の窒化物半導体よりなる障壁層を形成する工程と、障壁層と接触して障壁層上に、有機金属気相成長法を用いてキャップ層を形成する工程とを備え、キャップ層は、5×1017個/cm3以上1×1020個/cm3以下のC濃度を有し、窒化物半導体よりなり、キャップ層を形成する工程において、キャップ層を構成する窒化物半導体の原料ガスと、炭化水素ガスとを障壁層の上面に導入する。
【0024】
上記製造方法において好ましくは、電子走行層を形成する工程において、基板上に電子走行層を形成し、障壁層を形成する工程における基板の温度は第1の温度であり、キャップ層を形成する工程における基板の温度は第2の温度であり、第1の温度よりも25℃低い温度を第3の温度とした場合、第2の温度は第3の温度よりも高い。
【0025】
上記製造方法において好ましくは、第2の温度は第1の温度と等しい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ゲートリークを抑止しつつ障壁層の表面荒れを抑止することのできる化合物半導体基板および化合物半導体基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【
図3】GaN層を構成するGaNの二次元成長を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成を示す平面図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板CS2の構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の第1および第2の実施の形態の第1の変形例におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【
図7】本発明の第1および第2の実施の形態の第2の変形例におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【
図8】本発明の第1および第2の実施の形態の第3の変形例におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【
図9】本発明の第3の実施の形態における化合物半導体基板CS3の構成を示す断面図である。
【
図10】本発明の第4の実施の形態における化合物半導体基板CS4の構成を示す断面図である。
【
図11】本発明の第5の実施の形態における化合物半導体基板CS5の構成を示す断面図である。
【
図12】本発明の第6の実施の形態における半導体装置SDの一部の構成を示す断面図である。
【
図13】本発明の第1の実施例におけるゲートリーク電流Igの測定方法を示す図である。
【
図14】本発明の第1の実施例における試料1~3の各々の測定結果を示す表である。
【
図15】試料1および2の各々の領域RG内をAFMで撮影した画像を示す図である。
【
図16】本発明の第2の実施例における化合物半導体基板CS10の構成を示す断面図である。
【
図17】本発明の第2の実施例における縦耐電圧の計測方法を示す断面図である。
【
図18】本発明の第3の実施例における化合物半導体基板CS6の構成を示す断面図である。
【
図19】本発明の第3の実施例において算出された濃度誤差ΔCの値を示す図である。
【
図20】本発明の第3の実施例において算出された膜厚誤差ΔWの値を示す図である。
【
図21】本発明の第3の実施例において計測された欠陥密度の値を示す図である。
【
図22】従来の窒化物半導体よりなるHEMT1010の構成を模式的に示す断面図である。
【
図23】従来の窒化物半導体よりなるHEMT1020の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0029】
[第1の実施の形態]
【0030】
図1は、本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成を示す断面図である。
【0031】
図1を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板CS1(化合物半導体基板の一例)は、HEMTを含んでいる。化合物半導体基板CS1は、基板1(基板の一例)と、SiC層2(SiC層の一例)と、AlNバッファー層3(バッファー層の一例)と、窒化物半導体層6(窒化物半導体層の一例)と、電子走行層7(電子走行層の一例)と、障壁層8(障壁層の一例)と、キャップ層9(キャップ層の一例)とを備えている。
【0032】
基板1は、たとえばp+型のSiよりなっている。基板1の上面には(111)面が露出している。なお、基板1は、n型の導電型を有していてもよいし、半絶縁性であってもよい。基板1は、SiCやサファイヤなどのSi以外の材料よりなっていてもよい。基板1の表面には(100)面や(110)面が露出していてもよい。基板1は、たとえば6インチの直径を有しており、1000μmの厚さを有している。
【0033】
SiC層2は、基板1に接触しており、基板1上に形成されている。SiC層2は、3C-SiC、4H-SiC、または6H-SiCなどよりなっている。特に、SiC層2がSiよりなる基板1上にエピタキシャル成長されたものである場合、一般的に、SiC層2は3C-SiCよりなっている。
【0034】
SiC層2は、Siよりなる基板1の表面を炭化することで得られたSiCよりなる下地層上に、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、またはLPE(Liquid Phase Epitaxy)法などを用いて、SiCを成長させることによって形成されてもよい。SiC層2は、Siよりなる基板1の表面を炭化することのみによって形成されてもよい。さらに、SiC層2は、Siよりなる基板1の表面に(またはバッファー層を挟んで)ヘテロエピタキシャル成長させることによって形成されてもよい。SiC層2は、たとえばN(窒素)などがドープされており、n型の導電型を有している。SiC層2は、たとえば0.1μm以上3.5μm以下の厚さを有している。なお、SiC層2はp型の導電型を有していてもよいし、半絶縁性であってもよい。
【0035】
Siよりなる基板1上にSiC層2を形成した場合には、バルクのSiCよりなる基板1を用いる場合に比べて、大面積のSiC層2を容易に形成することができる。また、基板1を構成するSiと、SiC層2上に形成された層に含まれるGaとをSiC層2によって隔てることができる。これにより、基板1を構成するSiと、SiC層2上に形成された層に含まれるGa(ガリウム)とによるメルトバックエッチングを抑止することができる。SiCよりなる基板1を用いる場合には、SiC層2が省略されてもよい。
【0036】
AlNバッファー層3は、AlNを含む層である。AlNバッファー層3は、SiC層2に接触しており、SiC層2上に形成されている。AlNバッファー層3は、SiC層2とAl窒化物半導体層4との格子定数の差を緩和するバッファー層としての機能を果たす。AlNバッファー層3は、たとえばMOCVD法を用いて形成される。AlNバッファー層3の成長温度(成長温度は、その層の形成する際の基板の温度に相当する)は、たとえば1000℃以上1300℃以下とされる。このとき、Al(アルミニウム)源ガスとしては、たとえばTMA(Tri Methyl Aluminium)や、TEA(Tri Ethyl Aluminium)などが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3(アンモニア)が用いられる。AlNバッファー層3は、たとえば100nm以上1000nm以下の厚さを有している。
【0037】
窒化物半導体層6は、AlNバッファー層3に接触しており、AlNバッファー層3上に形成されている。窒化物半導体層6は、窒化物半導体よりなる層である。本実施の形態において、窒化物半導体層6は、Al窒化物半導体層4(Al窒化物半導体層の一例)と、複合層5(複合層の一例)とを含んでいる。
【0038】
Al窒化物半導体層4は、AlNバッファー層3に接触しており、AlNバッファー層3上に形成されている。Al窒化物半導体層4は、Alを含む窒化物半導体よりなっており、たとえばAlaGa1-aN(0<a≦1)で表される材料よりなっている。またAl窒化物半導体層4は、AlaInbGa1-a-bN(0<a≦1、0≦b<1、0≦a+b≦1)で表される材料よりなっていてもよい。Al窒化物半導体層4は、AlNバッファー層3と複合層5中のC-GaN層51aとの格子定数の差を緩和するバッファー層としての機能を果たす。Al窒化物半導体層4は、たとえば500nm以上2μm以下、好ましくは900nm以上2μm以下の厚さを有している。Al窒化物半導体層4は、たとえばMOCVD法を用いて形成される。
【0039】
複合層5は、Al窒化物半導体層4に接触しており、Al窒化物半導体層4上に形成されている。複合層5は、上下方向(基板1、SiC層2、AlNバッファー層3、およびAl窒化物半導体層4の積層方向と同じ方向、
図1中縦方向)に積層された複数のC-GaN層と、複数のC-GaN層の各々の間に形成されたAlN層とを含んでいる。言い換えれば、複合層5は、C-GaN層とAlN層とが1以上の回数だけ交互に積層された構成を有しており、複合層5の最上層および最下層は、いずれもC-GaN層である。C-GaN層とは、Cを含むGaN層(意図的にCがドープされたGaN層)である。CはGaN層の絶縁性を高める役割を果たす。
【0040】
複合層5を構成するC-GaN層の層数は2以上であればよく、複合層5を構成するAlN層の層数も任意である。本実施の形態の複合層5は、C-GaN層として、2層のC-GaN層51aおよび51bと、1層のAlN層52aとを含んでいる。C-GaN層51aは複合層5を構成する層のうち最下層となっており、Al窒化物半導体層4と接触している。C-GaN層51bは複合層5を構成する層のうち最上層となっており、電子走行層7と接触している。AlN層52aは、C-GaN層51aとC-GaN層51bとの間に形成されている。
【0041】
複合層5を構成する複数のC-GaN層(本実施の形態ではC-GaN層51aおよび51b)の各々において、中心PT1(
図4)における深さ方向の平均炭素濃度は、3×10
18個/cm
3以上5×10
20個/cm
3以下であり、好ましくは3×10
18個/cm
3以上2×10
19個/cm
3以下である。複合層5を構成する複数のGaN層の各々は、同一の平均炭素濃度を有していてもよいし、互いに異なる平均炭素濃度を有していてもよい。複数のC-GaN層のうち最上部のC-GaN層51bは、電子走行層7のC濃度よりも高いC濃度を有している。
【0042】
また、複合層5を構成する複数のC-GaN層の各々は、たとえば550nm以上3000nm以下の厚さを有しており、好ましくは800nm以上2500nm以下の厚さを有している。複合層5を構成する複数のC-GaN層の各々は、同一の厚さを有していてもよいし、互いに異なる厚さを有していてもよい。
【0043】
複合層5を構成するAlN層(本実施の形態ではAlN層52a)は、たとえば3nm以上50nm以下の厚さを有しており、好ましくは20nm以下の厚さを有している。複合層5を構成するAlN層が複数である場合、複合層5を構成するAlN層の各々は、同一の厚さを有していてもよいし、互いに異なる厚さを有していてもよい。
【0044】
複合層5を構成するC-GaN層51aおよび51bは、MOCVD法を用いて形成される。このとき、Ga源ガスとしては、たとえば、TMG(Tri Methyl Gallium)や、TEG(Tri Ethyl Gallium)などが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3などが用いられる。複合層5を構成するAlN層は、AlNバッファー層3と同様の方法で形成される。
【0045】
一般的に、C-GaN層を形成する際には、Cを取り込まない場合のGaN層の成長温度よりも、GaN層の成長温度が低く設定(具体的には、意図的にCをドープしないGaN層の成長温度より約300℃低い温度に設定)される。これにより、Ga源ガスに含まれるCがGaN層に取り込まれ、GaN層がC-GaN層となる。一方で、GaN層の成長温度が低くなると、C-GaN層の品質が低下し、C-GaN層のC濃度の面内均一性が低下する。
【0046】
そこで本願発明者らは、Si基板と、Si基板上に形成されたAlNを含むバッファー層と、バッファー層の上面側に形成されたAlを含む窒化物半導体層と、窒化物半導体層上に形成されたGaN層とを備えた構成において、GaN層(ここではC-GaN層51aおよび51bの各々)を形成する際に、反応チャンバー内にGa源ガスおよびN源ガスとともにC源ガス(Cプリカーサ)として炭化水素を導入する方法を見出した。この方法によれば、CのGaN層への取り込みが促進されるため、GaNの成長温度を高温に設定(具体的には、意図的にCをドープしないGaN層の成長温度より約200℃低い温度に設定)しつつ、C-GaN層を形成することができる。その結果、C-GaN層の品質が向上し、C-GaN層のC濃度の面内均一性が向上する。
【0047】
具体的に、C源ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、アセチレン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、またはオクチンなどの炭化水素が用いられる。特に二重結合や三重結合を含む炭化水素は、高い反応性を有するため好ましい。C源ガスとしては、1種類のみの炭化水素が用いられてもよいし、2種類以上の炭化水素が用いられてもよい。
【0048】
なお、Al窒化物半導体層4と複合層5との間には、アンドープのGaN層などの他の層が介在していてもよい。本明細書において「アンドープの層」とは、層の形成時に意図的には不純物をドープしていない層を意味しており、層の形成時に意図せず不純物が取り込まれた層を含むものである。
【0049】
電子走行層7は、窒化物半導体層6に接触しており、窒化物半導体層6上に形成されている。電子走行層7は、任意の窒化物半導体(第1の窒化物半導体)よりなっている。電子走行層7は、たとえばアンドープのGaN(第1の窒化物半導体の一例)よりなっており、半絶縁性である。電子走行層7は、たとえば100nm以上1000nm以下の厚さを有している。電子走行層7は、たとえばAlcGa1-cN(0<c≦1)で表される材料よりなっている。また電子走行層7は、AlcIndGa1-c-dN(0<c≦1、0≦d<1、0≦c+d≦1)で表される材料よりなっていてもよい。電子走行層7は、MOCVD法を用いて形成される。電子走行層7がGaNよりなる場合、Ga源ガスとしては、たとえばTMGやTEGなどが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3などが用いられる。
【0050】
障壁層8は、電子走行層7に接触しており、電子走行層7上に形成されている。障壁層8は、電子走行層7を構成する材料のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する窒化物半導体よりなっている。障壁層8は、たとえばAlを含む窒化物半導体(第2の窒化物半導体の一例)よりなっており、たとえばAleGa1-eN(0<e≦1)で表される材料よりなっている。また障壁層8は、AleInfGa1-e-fN(0<e≦1、0≦f<1、0≦e+f≦1)で表される材料よりなっていてもよい。障壁層8は、AleGa1-eN(0.17≦e≦0.27)よりなっていることが好ましく、AleGa1-eN(0.19≦e≦0.22)よりなっていることがより好ましい。障壁層8は、たとえば10nm以上50nm以下の厚さを有している。障壁層8は、たとえば25nm以上34nm以下の厚さを有していることが好ましい。障壁層8がAleGa1-eN(0<e≦1)で表される材料よりなる場合、障壁層8を形成する際の成長温度(基板表面温度)は、たとえば1000℃以上1100℃以下である。障壁層8がAleGa1-eN(0<e≦1)で表される材料よりなる場合、障壁層8は、Al窒化物半導体層4と同様の方法で形成されてもよい。
【0051】
なお、電子走行層7と障壁層8との間には、スペーサ層などが介在していてもよい。
【0052】
キャップ層9は、障壁層8に接触しており、障壁層8上に形成されている。キャップ層9は窒化物半導体よりなっている。キャップ層9は、たとえばAlgGa1-gN(0≦g≦1)で表される材料よりなっている。またキャップ層9は、AlgInhGa1-g-fN(0≦g≦1、0≦h<1、0≦g+h≦1)で表される材料よりなっていてもよい。キャップ層9は、AlgGa1-gN(0≦g≦0.15)よりなっていることが好ましく、AlgGa1-gN(0≦g≦0.08)よりなっていることがより好ましい。キャップ層9は、典型的にはGaNよりなっている。キャップ層9は、たとえば1nm以上5nm以下の厚さを有している。
【0053】
障壁層8がAleGa1-eN(0<e≦1)で表される材料よりなっており、キャップ層9がAlgGa1-gN(0≦g≦1)で表される材料よりなっている場合、障壁層8およびキャップ層9の各々のAl組成比は同一であってもよいが、キャップ層9のAl組成比が障壁層8の組成比よりも低いことが好ましい。
【0054】
キャップ層9にはCが意図的にドープされている。このため、キャップ層をアンドープとした場合と比較して高いCの濃度を有している。具体的には、キャップ層9は、5×1017個/cm3以上1×1020個/cm3以下のC濃度を有している。Cはキャップ層9の絶縁性を高める役割を果たす。
【0055】
障壁層8およびキャップ層9は、同一の材料(たとえばAlGaN)よりなっていてもよい。障壁層8およびキャップ層9が同一の材料よりなる場合、キャップ層9のC濃度が障壁層8のC濃度よりも高いことで、障壁層8およびキャップ層は互いに区別される。
【0056】
キャップ層9の上面9aにおける中心を含む領域であって5μmの辺を有する正方形の領域RG(
図4)を規定した場合に、領域RG内の二乗平均平方根高さRq(以降、表面粗さRqと記すことがある)は0より大きく1.0nm以下である。
【0057】
キャップ層9は、MOCVD法を用いて形成される。このとき、Al源ガスとしては、たとえばTMAやTEAなどが用いられる(キャップ層9がGaNよりなる場合(AlgGa1-gNにおいてg=1の場合)、Al源ガスは省略される)。Ga源ガスとしては、たとえば、TMGやTEGなどが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3などが用いられる。
【0058】
一般的に、層のC濃度を高くするためには、アンドープの層とする場合の成長温度よりも、層の成長温度を低く設定する必要がある。具体的には、キャップ層がAlgGa1-gN(0≦g≦1)で表される材料よりなる場合、一般的に、キャップ層のC濃度を高くするためには、Cをドープしない場合の成長温度よりも約300℃低い温度に設定する必要がある。これにより、Ga源ガスなどに含まれるCがキャップ層9に取り込まれ、キャップ層9のC濃度が高くなる。一方で、キャップ層の成長温度を低くした場合には、キャップ層の成膜を開始する際の基板温度の低下中に障壁層の表面荒れが生じる。また、キャップ層9の品質も低下する。
【0059】
そこで本願発明者らは、キャップ層9を形成する際に、反応チャンバー内における障壁層8の上面8aに、Ga源ガスおよびN源ガスなどのキャップ層9を構成する窒化物半導体の原料ガスとともに、C源ガス(Cプリカーサ)としての炭化水素を導入する方法を見出した。この方法によれば、キャップ層9の成長温度を低くしなくてもCのキャップ層9への取り込みが促進される。その結果、キャップ層9の成長温度を高く設定しつつキャップ層9のC濃度を高くすることができるため、障壁層8の表面荒れおよびキャップ層9の品質の低下を抑止することができる。
【0060】
障壁層8を形成する際の成長温度を温度T1(たとえば1030℃)とし、温度T1よりも25℃低い温度を温度T3(たとえば1005℃)とした場合、キャップ層9を形成する際の成長温度である温度T2は、温度T3よりも高いことが好ましい。温度T2は温度T1と等しいことがより好ましい。キャップ層9がAlgGa1-gN(0≦g≦1)で表される材料よりなる場合、温度T3は、たとえば1000℃以上1100℃以下である。
【0061】
具体的に、C源ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、アセチレン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、またはオクチンなどの炭化水素が用いられる。特に二重結合や三重結合を含む炭化水素は、高い反応性を有するため好ましい。C源ガスとしては、1種類のみの炭化水素が用いられてもよいし、2種類以上の炭化水素が用いられてもよい。
【0062】
複合層5、電子走行層7、障壁層8、およびキャップ層9の合計の厚さは、5μm以上7μm以下であることが好ましい。
【0063】
図2は、本発明の第1の実施の形態におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【0064】
図2を参照して、Al窒化物半導体層4の内部におけるAlの組成比は、下部から上部に向かうに従って減少している。Al窒化物半導体層4は、Al
0.75Ga
0.25N層41(Alの組成比が0.75であるAlGaN層)と、Al
0.5Ga
0.5N層42(Alの組成比が0.5であるAlGaN層)と、Al
0.25Ga
0.75N層43(Alの組成比が0.25であるAlGaN層)とを含んでいる。Al
0.75Ga
0.25N層41は、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。Al
0.5Ga
0.5N層42は、Al
0.75Ga
0.25N層41に接触してAl
0.75Ga
0.25N層41上に形成されている。Al
0.25Ga
0.75N層43は、Al
0.5Ga
0.5N層42に接触してAl
0.5Ga
0.5N層42上に形成されている。なお、上記のAl組成比は一例であり、Al組成比が、下部から上部に向かうに従って減少していれば、他の組成とすることもできる。
【0065】
本実施の形態によれば、複合層5において、C-GaN層51aとC-GaN層51bとの間にAlN層52aを形成することにより、基板1の反りの発生を抑止することができ、C-GaN層51bおよび電子走行層7へのクラックの発生を抑止することができる。これについて以下に説明する。
【0066】
AlN層52aを構成するAlNは、C-GaN層51aを構成するGaNの結晶に対して不整合な状態(滑りが生じた状態)で、C-GaN層51a上にエピタキシャル成長する。一方、C-GaN層51bおよび電子走行層7を構成するGaNは、下地であるAlN層52aを構成するAlNの結晶の影響を受ける。すなわち、C-GaN層51bおよび電子走行層7を構成するGaNは、AlN層52aを構成するAlNの結晶構造を引き継ぐように、AlN層52a上にエピタキシャル成長する。GaNの格子定数は、AlNの格子定数よりも大きいため、C-GaN層51bを構成するGaNの
図1中横方向の格子定数は、一般的な(圧縮歪みを含まない)GaNの格子定数よりも小さくなる。言い換えれば、C-GaN層51bおよび電子走行層7は、その内部に圧縮歪みを含んでいる。
【0067】
C-GaN層51bおよび電子走行層7形成後の降温時には、GaNとSiとの熱膨張係数の差に起因して、C-GaN層51bおよび電子走行層7はAlN層52aから応力を受ける。この応力が基板1の反りの発生の原因となり、C-GaN層51bおよび電子走行層7へのクラックの発生の原因となる。しかしこの応力は、C-GaN層51bおよび電子走行層7形成時にC-GaN層51bおよび電子走行層7内部に導入された圧縮歪みによって緩和される。その結果、基板1の反りの発生を抑止することができ、C-GaN層51bおよび電子走行層7へのクラックの発生を抑止することができる。
【0068】
また、化合物半導体基板CS1は、GaNの絶縁破壊電圧よりも高い絶縁破壊電圧を有するC-GaN層51aおよび51b、AlN層52a、ならびにAl窒化物半導体層4を含んでいる。その結果、化合物半導体基板の縦方向の耐電圧を向上することができる。
【0069】
また、本実施の形態によれば、化合物半導体基板CS1が、AlNバッファー層3と複合層5中のC-GaN層51aとの間にAl窒化物半導体層4を含んでいるので、Siの格子定数とGaNの格子定数との差を緩和することができる。Al窒化物半導体層4の格子定数は、Siの格子定数とGaNの格子定数との間の値を有しているためである。その結果、C-GaN層51aおよび51bの結晶品質を向上することができる。また、基板1の反りの発生を抑止することができ、C-GaN層51aおよび51bへのクラックの発生を抑止することができる。
【0070】
また、本実施の形態によれば、上述のように基板1の反りの発生、ならびにC-GaN層51bおよび電子走行層7へのクラックの発生が抑止されるので、電子走行層7を厚膜化することができる。
【0071】
さらに、化合物半導体基板CS1は、C-GaN層51aおよび51b、ならびに電子走行層7の下地層としてSiC層2を含んでいる。SiCの格子定数は、Siの格子定数と比較してGaNとの格子定数に近い。電子走行層7がGaNよりなる場合には、SiC層2上に、C-GaN層51aおよび51b、ならびに電子走行層7が形成されることにより、C-GaN層51aおよび51b、ならびに電子走行層7の結晶品質を向上することができる。
【0072】
上述のように本実施の形態によれば、Al窒化物半導体層4、複合層5、およびSiC層2の各々の機能を分けることで、基板1の反りの発生を抑止する効果、C-GaN層51bおよび電子走行層7へのクラックの発生を抑止する効果、化合物半導体基板CS1の耐電圧を向上する効果、ならびにC-GaN層51aおよび51b、ならびに電子走行層7の結晶品質を向上する効果の各々を増大させることができる。特に、本実施の形態では、SiC層2を下地層とすることで、電子走行層7の結晶品質を改善できる点の寄与が大きい。
【0073】
本実施の形態によれば、SiC層2があり、C-GaN層51aおよび51b、ならびに電子走行層7の結晶品質が向上することにより、複合層5中のAlN層の厚さを薄くすることができ、より効率的に反りの発生およびクラックの発生を抑えることができる。また、SiC層2があり、C-GaN層51aの結晶品質が向上することにより、C-GaN層51aおよび51b、ならびに電子走行層7を厚くすることができるため、より耐電圧を改善することができる。HEMTの性能も向上することができる。
【0074】
また、C-GaN層51aおよび51bの各々を形成する際に、C源ガスとして炭化水素を導入することにより、GaNの成長温度を高温に設定しつつ、C-GaN層51aおよび51bを形成することができる。GaNの成長温度が高温になるため、C-GaN層51aおよび51bの品質が向上する。
【0075】
図3は、GaN層を構成するGaNの二次元成長を模式的に示す図である。
図3(a)はGaNの成長温度が低温である場合の成長を示しており、
図3(b)はGaNの成長温度が高温である場合の成長を示している。
【0076】
図3(a)を参照して、GaNの成長温度が低温である場合には、GaN層の二次元成長(
図3中横方向)が遅いため、C-GaN層51aまたは51bの各々の下層に存在していたピットなどの欠陥DFがC-GaN層51aおよび51bによって覆われず、欠陥DFがC-GaN層51aおよび51bの各々の内部にも広がりやすい。
【0077】
図3(b)を参照して、本実施の形態ではGaNの成長温度が高温になるため、GaNの二次元成長が促進され、C-GaN層51aまたは51bの各々の下層に存在していたピットなどの欠陥DFがC-GaN層51aまたは51bによって覆われる。その結果、C-GaN層51aおよび51bの各々の欠陥密度を低減することができ、欠陥DFが化合物半導体基板を縦方向に貫通し、化合物半導体基板の耐圧が著しく低下する事態を回避することができる。
【0078】
図4は、本発明の第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成を示す平面図である。
図4(a)は化合物半導体基板CS1全体の構成を示す図である。
図4(b)は化合物半導体基板CS1の中心PT1付近を拡大した図である。
【0079】
図4(a)を参照して、化合物半導体基板CS1の平面形状は任意である。化合物半導体基板CS1が円の平面形状を有している場合、化合物半導体基板CS1の直径は6インチ以上である。平面的に見た場合に、化合物半導体基板CS1の中心を中心PT1とし、中心PT1から71.2mm離れた位置(直径6インチの基板における外周端部から5mm離れた位置に相当)をエッジPT2とする。
【0080】
C-GaN層51aおよび51bの品質が向上した結果、C-GaN層51aおよび51bの各々の膜厚の面内均一性が向上し、C-GaN層51aおよび51bの各々のC濃度の面内均一性が向上する。また、化合物半導体基板CS1の縦方向の真性破壊電圧値が向上し、C-GaN層51aおよび51bの各々の欠陥密度が減少する。その結果、縦方向の電流-電圧特性の面内均一性を向上することができる。
【0081】
具体的には、GaN層の中心PT1における深さ方向(
図1中縦方向)の中心位置における炭素濃度を濃度C1とし、GaN層のエッジPT2における深さ方向の中心位置における炭素濃度を濃度C2とした場合に、ΔC(%)=|C1-C2|×100/C1で表される濃度誤差ΔCは、0以上50%以下であり、好ましくは0以上33%以下である。
【0082】
また、GaN層における中心PT1の膜厚を膜厚W1とし、GaN層におけるエッジPT2の膜厚を膜厚W2とした場合に、ΔW(%)=|W1-W2|×100/W1で表される膜厚誤差ΔWは、0より大きく8%以下であり、好ましくは0より大きく4%以下である。
【0083】
また、化合物半導体基板CS1の縦方向の真性破壊電圧値は1200V以上1600V以下である。また、この真性破壊電圧値の80%以下の電圧値での絶縁破壊を引き起こすC-GaN層51aおよび51bの中心PT1の欠陥密度は、0より大きく100個/cm2以下であり、好ましくは0より大きく2個/cm2以下である。また、この真性破壊電圧値の80%以下の電圧値での絶縁破壊を引き起こすC-GaN層51aおよび51bのエッジPT2の欠陥密度は、0より大きく7個/cm2以下であり、好ましくは0より大きく2個/cm2以下である。
【0084】
さらに、キャップ層9を形成する際に、キャップ層9を構成する窒化物半導体の原料ガスと、炭化水素ガスとを障壁層8の上面8aに導入することにより、キャップ層9の成長温度を高温に設定しつつ、キャップ層9のC濃度を高めることができる。その結果、キャップ層9を高抵抗化することができ、ゲートリークを抑止することができる。また、障壁層8の表面荒れおよびキャップ層9の品質の低下を抑止することができる。
【0085】
図4(b)を参照して、障壁層8の表面荒れが抑止される結果、キャップ層9における領域RG内の表面粗さRqが0より大きく1.0nm以下となる。領域RGは、キャップ層9の上面9aにおける中心PT1を含む領域であって5μmの辺を有する正方形の領域に相当する。
【0086】
[第2の実施の形態]
【0087】
図5は、本発明の第2の実施の形態における化合物半導体基板CS2の構成を示す断面図である。
【0088】
図5を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板CS2は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1と比較して、複合層5の内部の構成が異なっている。具体的には、本実施の形態における複合層5は、C-GaN層として、3層のC-GaN層51a、51b、および51cと、2層のAlN層52aおよび52bとを含んでいる。C-GaN層51aは複合層5を構成する層のうち最下層となっており、Al窒化物半導体層4と接触している。AlN層52aはC-GaN層51aと接触してC-GaN層51a上に形成されている。C-GaN層51bはAlN層52aと接触してAlN層52a上に形成されている。AlN層52bはC-GaN層51bと接触してC-GaN層51b上に形成されている。C-GaN層51cはAlN層52bと接触してAlN層52b上に形成されている。C-GaN層51cは複合層5を構成する層のうち最上層となっており、電子走行層7と接触している。
【0089】
なお、上述以外の化合物半導体基板CS2の構成は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成と同様であるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0090】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。加えて、複合層5中に2層のAlN層52aおよび52bが存在しているので、上層のC-GaN層51bおよび51c、ならびに電子走行層7に対して圧縮歪みを与える効果が大きくなる。その結果、基板1の反りの発生を抑止することができ、C-GaN層51a、51b、および51c、ならびに電子走行層7へのクラックの発生を抑止することができる。
【0091】
また、複合層5中に2層のAlN層52aおよび52bが存在しているので、化合物半導体基板の縦方向の耐電圧を向上することができる。
【0092】
[第1および第2の実施の形態の変形例]
【0093】
本変形例では、化合物半導体基板CS1およびCS2の各々のAl窒化物半導体層4の変形例の構成について説明する。
【0094】
図6は、本発明の第1および第2の実施の形態の第1の変形例におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【0095】
図6を参照して、本変形例におけるAl窒化物半導体層4は、AlGaN層4aと、AlN中間層44と、AlGaN層4bとを含んでいる。
【0096】
AlGaN層4aは、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。AlGaN層4aは、Al0.75Ga0.25N層41(Alの組成比が0.75であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層4aの内部におけるAlの組成比は一定である。
【0097】
AlN中間層44は、AlGaN層4a上に形成されている。AlN中間層44の下面はAlGaN層4aの上面に接触しており、AlN中間層44の上面はAlGaN層4bの下面に接触している。
【0098】
AlGaN層4bは、AlN中間層44上に形成されている。AlGaN層4bの内部におけるAlの組成比は、下部から上部に向かうに従って減少している。AlGaN層4bは、Al0.5Ga0. 5N層42(Alの組成比が0.5であるAlGaN層)と、Al0.5Ga0.5N層42に接触してAl0.5Ga0.5N層42上に形成されたAl0.25Ga0.75N層43(Alの組成比が0.25であるAlGaN層)とにより構成されている。
【0099】
図7は、本発明の第1および第2の実施の形態の第2の変形例におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【0100】
図7を参照して、本変形例におけるAl窒化物半導体層4は、AlGaN層4aと、AlN中間層44と、AlGaN層4bとを含んでいる。
【0101】
AlGaN層4aは、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。AlGaN層4aの内部におけるAlの組成比は、下部から上部に向かうに従って減少している。AlGaN層4aは、Al0.75Ga0.25N層41(Alの組成比が0.75であるAlGaN層)と、Al0.75Ga0.25N層41に接触してAl0.75Ga0.25N層41上に形成されたAl0.5Ga0.5N層42(Alの組成比が0.5であるAlGaN層)とにより構成されている。
【0102】
AlN中間層44は、AlGaN層4a上に形成されている。AlN中間層44の下面はAlGaN層4aの上面に接触しており、AlN中間層44の上面はAlGaN層4bの下面に接触している。
【0103】
AlGaN層4bは、AlN中間層44上に形成されている。AlGaN層4bは、Al0.25Ga0.75N層43(Alの組成比が0.25であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層4bの内部におけるAlの組成比は一定である。
【0104】
図8は、本発明の第1および第2の実施の形態の第3の変形例におけるAl窒化物半導体層4内部のAl組成比の分布を示す図である。
【0105】
図8を参照して、本変形例におけるAl窒化物半導体層4は、AlGaN層4aと、AlN中間層44aと、AlGaN層4bと、AlN中間層44bと、AlGaN層4cとを含んでいる。本変形例におけるAl窒化物半導体層4では、複数のAlGaN層4a、4b、および4cがAlN中間層44aおよび44bを挟んで積層されている。
【0106】
AlGaN層4aは、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。AlGaN層4aは、Al0.75Ga0.25N層41(Alの組成比が0.75であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層4aの内部におけるAlの組成比は一定である。
【0107】
AlN中間層44aは、AlGaN層4a上に形成されている。AlN中間層44aの下面はAlGaN層4aの上面に接触しており、AlN中間層44aの上面はAlGaN層4bの下面に接触している。
【0108】
AlGaN層4bは、AlN中間層44a上に形成されている。AlGaN層4bは、Al0.5Ga0.5N層42(Alの組成比が0.5であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層4bの内部におけるAlの組成比は一定である。
【0109】
AlN中間層44bは、AlGaN層4b上に形成されている。AlN中間層44bの下面はAlGaN層4bの上面に接触しており、AlN中間層44bの上面はAlGaN層4cの下面に接触している。
【0110】
AlGaN層4cは、AlN中間層44b上に形成されている。AlGaN層4cは、Al0.25Ga0.75N層43(Alの組成比が0.25であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層4cの内部におけるAlの組成比は一定である。
【0111】
第3の変形例において、AlGaN層4bの厚さはAlGaN層4aの厚さよりも大きく、AlGaN層4cの厚さはAlGaN層4bの厚さよりも大きいことが好ましい。AlGaN層4a、4b、および4cの各々は、0.1μm以上0.5μm以下の厚さを有していることが好ましい。AlN中間層44aおよび44bの各々は、同一の厚さを有していることが好ましい。AlN中間層44aおよび44bの各々は、5nm以上15nm以下の厚さを有していることが好ましい。
【0112】
なお、第1、第2、および第3の変形例の化合物半導体基板の各々における上述以外の構成は、上述の実施の形態の場合の構成と同様であるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0113】
AlN中間層は、AlGaN層に圧縮歪みを生じさせる機能を果たす。第1、第2、および第3の変形例のように、AlN中間層を設けることで、反りやクラックをさらに抑制することができる。
【0114】
[第3の実施の形態]
【0115】
図9は、本発明の第3の実施の形態における化合物半導体基板CS3の構成を示す断面図である。
【0116】
図9を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板CS3は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1と比較して、主として窒化物半導体層6の内部の構成が異なっている。具体的には、本実施の形態における窒化物半導体層6は、AlGaN層61、62、および63を含んでいる。AlGaN層61は、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。AlGaN層62は、AlGaN層61に接触してAlGaN層61上に形成されている。AlGaN層63は、AlGaN層62に接触してAlGaN層62上に形成されている。
【0117】
AlGaN層61、62、および63の各々のAl組成比は互いに異なっている。AlGaN層61、62、および63の各々の内部のAl組成比は一定である。一例として、AlGaN層61は、Al0.75a0.25N層41(Alの組成比が0.75であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層62は、Al0.5a0.5N層42(Alの組成比が0.5であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層63は、Al0.25a0.75N層43(Alの組成比が0.25であるAlGaN層)よりなっている。AlGaN層62のAlの組成比は、AlGaN層61のAlの組成比よりも低い。AlGaN層63のAlの組成比は、AlGaN層62のAlの組成比よりも低い。
【0118】
基板1は、SiやSiCなどよりなっている。基板1上には、基板1と接触してAlNバッファー層3が形成されている。SiC層は形成されていない。第1の実施の形態と同様に、基板1がSiよりなる場合、基板1とAlNバッファー層3との間にSiC層2が形成されてもよい。
【0119】
なお、上述以外の化合物半導体基板CS3の構成は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成と同様であるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0120】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、キャップ層9を形成する際に、キャップ層9を構成する窒化物半導体の原料ガスと、炭化水素ガスとが障壁層8の上面8aに導入される。これにより、キャップ層9の成長温度を高温に設定しつつ、キャップ層9のC濃度を高めることができる。その結果、キャップ層9のC濃度を高めることでキャップ層9を高抵抗化することができ、ゲートリークを抑止することができる。また、キャップ層の成長温度を低くする必要が無いため、障壁層8の表面荒れおよびキャップ層9の品質の低下を抑止することができる。
【0121】
[第4の実施の形態]
【0122】
図10は、本発明の第4の実施の形態における化合物半導体基板CS4の構成を示す断面図である。
【0123】
図10を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板CS4は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1と比較して、主として窒化物半導体層6の内部の構成が異なっている。具体的には、本実施の形態における窒化物半導体層6は、AlGaN層64と、超格子層65とを含んでいる。
【0124】
AlGaN層64は、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。AlGaN層64は、任意のAl組成比を有している。
【0125】
超格子層65は、AlGaN層64に接触してAlGaN層64上に形成されている。超格子層65は、複数のGaN層65aと、複数のAlN層65bとを含んでいる。GaN層65aとAlN層65bとは交互に形成されている。複数のGaN層65aおよび複数のAlN層65bの総数は、100層以上である。複数のGaN層65aおよび複数のAlN層65bの各々は、超格子であり、1nm以上10nm以下の厚さを有している。
【0126】
基板1は、SiやSiCなどよりなっている。基板1上には、基板1と接触してAlNバッファー層3が形成されている。SiC層は形成されていない。第1の実施の形態と同様に、基板1がSiよりなる場合、基板1とAlNバッファー層3との間にSiC層2が形成されてもよい。
【0127】
なお、上述以外の化合物半導体基板CS4の構成は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS4の構成と同様であるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0128】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、キャップ層9を形成する際に、キャップ層9を構成する窒化物半導体の原料ガスと、炭化水素ガスとが障壁層8の上面8aに導入される。これにより、キャップ層9の成長温度を高温に設定しつつ、キャップ層9のC濃度を高めることができる。その結果、キャップ層9のC濃度を高めることでキャップ層9を高抵抗化することができ、ゲートリークを抑止することができる。また、キャップ層の成長温度を低くする必要が無いため、障壁層8の表面荒れおよびキャップ層9の品質の低下を抑止することができる。
【0129】
[第5の実施の形態]
【0130】
図11は、本発明の第5の実施の形態における化合物半導体基板CS5の構成を示す断面図である。
【0131】
図11を参照して、本実施の形態における化合物半導体基板CS5は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1と比較して、主として窒化物半導体層6の内部の構成が異なっている。具体的には、本実施の形態における窒化物半導体層6は、GaN層66a、66b、および66cと、AlN層67a、67b、および67cとを含んでいる。GaN層66a、66b、および66cの各々と、AlN層67a、67b、および67cの各々とは、たとえば3層であり、交互に形成されている。具体的には、GaN層66aは、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。AlN層67aは、GaN層66aに接触してGaN層66a上に形成されている。GaN層66bは、AlN層67aに接触してAlN層67a上に形成されている。AlN層67bは、GaN層66bに接触してGaN層66b上に形成されている。GaN層66cは、AlN層67bに接触してAlN層67b上に形成されている。AlN層67cは、GaN層66cに接触してGaN層66c上に形成されている。GaN層66a、66b、および66cの各々の厚さは同一である。AlN層67a、67b、および67cの各々の厚さは同一である。GaN層66a、66b、および66cの各々の厚さはAlN層67a、67b、および67cの各々の厚さよりも大きい。
【0132】
基板1は、SiやSiCなどよりなっている。基板1上には、基板1と接触してAlNバッファー層3が形成されている。SiC層は形成されていない。第1の実施の形態と同様に、基板1がSiよりなる場合、基板1とAlNバッファー層3との間にSiC層2が形成されてもよい。
【0133】
なお、上述以外の化合物半導体基板CS5の構成は、第1の実施の形態における化合物半導体基板CS1の構成と同様であるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0134】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、キャップ層9を形成する際に、キャップ層9を構成する窒化物半導体の原料ガスと、炭化水素ガスとが障壁層8の上面8aに導入される。これにより、キャップ層9の成長温度を高温に設定しつつ、キャップ層9のC濃度を高めることができる。その結果、キャップ層9のC濃度を高めることでキャップ層9を高抵抗化することができ、ゲートリークを抑止することができる。また、キャップ層の成長温度を低くする必要が無いため、障壁層8の表面荒れおよびキャップ層9の品質の低下を抑止することができる。
【0135】
[第6の実施の形態]
【0136】
第1~第5の実施の形態における化合物半導体基板CS1~CS5の各々を用いて、たとえば以下の構成を有する半導体装置SDが作製されてもよい。
【0137】
図12は、本発明の第6の実施の形態における半導体装置SDの一部の構成を示す断面図である。
【0138】
図12を参照して、本実施の形態における半導体装置SDは、第1~第5の実施の形態における化合物半導体基板CS1~CS5のうちいずれかを用いて作製されたものである。半導体装置SDは、化合物半導体基板CS1~CS5のいずれかの構成に加えて、ソース電極11と、ドレイン電極12と、ゲート電極13と、パッシベーション層14とを備えている。障壁層8上には、ソース電極11およびドレイン電極12の各々が互いに間隔をおいて設けられている。障壁層8上におけるソース電極11およびドレイン電極12が設けられる部分のキャップ層9は、除去されている。キャップ層9上におけるソース電極11とドレイン電極12との間には、ゲート電極13が設けられている。キャップ層9上におけるゲート電極13が形成されていない位置には、パッシベーション層14が設けられている。パッシベーション層14はたとえばSiO
2やSiNよりなっている。なお、キャップ層9が除去されず、ソース電極11およびドレイン電極12がキャップ層9上に設けられていてもよい。
【0139】
半導体装置SDでは、ソース電極11とドレイン電極12との間に電圧を印加することにより、2次元電子ガス7aを経由してソース電極11とドレイン電極12との間を電子が移動する。ゲート電極13に印加する電圧により2次元電子ガス7aの濃度が変化する。このため、ゲート電極13に印加する電圧により、ソース電極11とドレイン電極12との間に流れる電流のスイッチング動作を実現することができる。
【0140】
化合物半導体基板CS1~CS5においては、障壁層8の上面8aの荒れが抑止されている。これにより、半導体装置SDにおけるゲートリークの問題を抑止することができ、電流コラプスが悪化するという問題を抑止することができ、信頼性を向上することができる。さらに、化合物半導体基板CS1~CS5においては、キャップ層9が高抵抗化されているため、半導体装置SDにおけるゲートリークの問題を抑止することができる。
【0141】
[実施例]
【0142】
第1の実施例として、本願発明者らは、試料として以下に説明する構成を有する試料1~3の各々を製造した。
【0143】
試料1(本発明例):
図1に示す化合物半導体基板CS1と同様の構造を製造した。キャップ層9を形成する際には、C源ガスとして50sccmの流量の炭化水素ガスを導入することで、意図的にCをドープしたGaN層をキャップ層9として形成した。キャップ層9の成長温度を高温に設定した。キャップ層9の厚さを2.5nmとした。電子走行層7をGaNで形成し、障壁層8をAlGaNで形成した。障壁層8およびキャップ層9の成長温度を1030℃とした。
【0144】
試料2(比較例):
図1に示す化合物半導体基板CS1のキャップ層9に相当する層として、意図的にCをドープしないGaN層(u-GaN層)を形成した。このキャップ層を形成する際には、C源ガスとして炭化水素を導入せず、キャップ層の成長温度を高温に設定した。このキャップ層の厚さを2.5nmとした。電子走行層7をGaNで形成し、障壁層8をAlGaNで形成した。障壁層8およびキャップ層の成長温度を1030℃とした。これ以外は、
図1に示す化合物半導体基板CS1と同様の構造を製造した。
【0145】
試料3(比較例):
図1に示す化合物半導体基板CS1のキャップ層9に相当するキャップ層として、意図的にCをドープしたGaN層を形成した。このキャップ層を形成する際には、C源ガスとして炭化水素を導入せず、キャップ層の成長温度を低下させた。このキャップ層の厚さを2.5nmとした。電子走行層7をGaNで形成し、障壁層8をAlGaNで形成した。障壁層8の成長温度を1030℃とした。キャップ層のC濃度を高めるためにキャップ層の成長温度を800℃未満とした。これ以外は、
図1に示す化合物半導体基板CS1と同様の構造を製造した。
【0146】
本願発明者らは、得られた各試料について、キャップ層のC濃度の測定と、キャップ層の表面粗さRqの測定と、ゲートリーク電流Igの測定とを行った。
【0147】
キャップ層のC濃度の測定は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry、二次イオン質量分析法)を用いて行った。ここで、SIMSを用いた濃度測定を行うためには、原理上、測定対象となる層がある程度の厚さ(たとえば100nmより大きい厚さ)を有している必要がある。このため、キャップ層のC濃度の測定については、試料1~3の各々のキャップ層の厚さを250nmに変更した代替の試料1~3を作製し、代替の試料1~3の各々のキャップ層のC濃度を測定することで行われた。
【0148】
キャップ層の表面粗さRqは、次の方法で行われた。キャップ層の上面における中心を含む領域であって5μmの辺を有する正方形の領域RG(
図4(b))を規定した。領域RG内をAFM(Atomic Force Microscope、原子力顕微鏡)で撮影し、撮影した画像に基づいて領域RG内の二乗平均平方根高さRqを計測した。ISO25178において規定されている方法で、二乗平均平方根高さRqを計測した。
【0149】
図13は、本発明の第1の実施例におけるゲートリーク電流Igの測定方法を示す図である。なお
図13では、測定対象が化合物半導体基板CS1である場合が示されている。
【0150】
図13を参照して、ソース電極11、ドレイン電極12、およびゲート電極13の各々を、キャップ層9上に互いに間隔をおいて設けた。ソース電極11および基板1の裏面を接地した。次に、図示しない加熱プレート上に基板1を配置することで、基板1を150℃まで加熱した。次に、ソース電極11とドレイン電極12との間に650Vの電圧Vdsを印加し、ゲート電極13にマイナスの電圧Vgsを印加した状態で、ゲート電極13に流れる電流Igを電流計で測定した。
【0151】
この測定方法では、ゲート電極13がオフの状態となっているため、電流Igは理想的にはゼロとなる。ソース電極11を流れる電流を電流Is、ドレイン電極12を流れる電流を電流Id、ゲート電極13を流れる電流(つまりゲートリーク電流)を電流Ig、基板を流れる電流を電流Isubとした場合、電流Is、電流Id、電流Ig、および電流Isubは下記式(1)を満たす。
【0152】
Id=Is+Ig+Isub ・・・(1)
【0153】
図14は、本発明の第1の実施例における試料1~3の各々の測定結果を示す表である。
図15は、試料1および2の各々の領域RG内をAFMで撮影した画像を示す図である。
図15(a)は試料1の画像であり、
図15(b)は試料2の画像である。
【0154】
図14および
図15を参照して、試料1および試料3の各々のキャップ層のC濃度は、同程度であり、試料2のキャップ層のC濃度よりも大きい値であった。この結果から、炭化水素ガスを導入して形成したキャップ層9には、成長温度を低下させたキャップ層と同程度の濃度のCが含まれていることが分かる。
【0155】
また、試料1および試料2の各々の表面粗さRqは、同程度であり、試料3の表面粗さRqよりも小さい値であった。この結果から、炭化水素ガスを導入して形成したキャップ層9の表面粗さRqが、意図的にCをドープしないキャップ層の表面粗さRqと同程度にまで改善されることが分かる。また、試料1では、試料3と比較してキャップ層9の表面粗さRqが改善されている事実から、キャップ層9の下層である障壁層8の表面荒れさも改善されているものと推測される。
【0156】
さらに、試料1のゲートリーク電流Igは、試料2のゲートリーク電流Igよりも格段に小さい値であった。この結果から、炭化水素ガスを導入してキャップ層9を形成した場合には、ゲートリークが効果的に抑止されることが分かる。
【0157】
第2の実施例として、本願発明者らは、試料として以下に説明する構成を有する試料4~6の各々を製造した。
【0158】
試料4:
図1に示す化合物半導体基板CS1を製造した。C-GaN層51aおよび51bの各々の厚さを約2μmとし、AlN層52aの厚さを15nmとした。C-GaN層51aおよび51bの各々の平均炭素濃度を3×10
18個/cm
3以上1×10
20個/cm
3以下の範囲内の値とした。
【0159】
試料5:
図5に示す化合物半導体基板CS2を製造した。C-GaN層51a、51b、および51cの各々の厚さを約1μmとし、AlN層52aおよび52bの各々の厚さを15nmとした。C-GaN層51a、51b、および51cの各々の平均炭素濃度を3×10
18個/cm
3以上1×10
20個/cm
3以下の範囲内の値とした。
【0160】
試料6:
図16に示す化合物半導体基板CS10を製造した。化合物半導体基板CS10は、複合層5の代わりにC-GaN層105が形成されている点において、化合物半導体基板CS1(試料4)と異なっており、これ以外の構成は化合物半導体基板CS1(試料4)と同じである。C-GaN層105の平均炭素濃度を3×10
18個/cm
3以上1×10
20個/cm
3以下の範囲内の値とした。
【0161】
本願発明者らは、得られた各試料について、目視によるクラックの発生の有無の確認と、反り量の測定と、縦耐電圧(化合物半導体基板の厚さ方向の耐電圧)の測定とを行った。
【0162】
縦耐電圧として、試料6の縦耐電圧を基準(ゼロ)とした場合の値を測定した。また反り量として、化合物半導体基板におけるSi基板を下側にした場合に凸形となるように反りが発生した場合には「凸」、化合物半導体基板におけるSi基板を下側にした場合に凹形となるように反りが発生した場合には「凹」とした。
【0163】
その結果、試料6ではエッジPT2よりも外周側の領域にクラックの発生が見られたのに対して、試料4および5では全面にわたってクラックの発生は見られなかった。また試料4~6のいずれも、中心PT1からエッジPT2までの領域にはクラックの発生は見られなかった(クラックフリーであった)。また試料6では凹形に146μmという大きい反り量となっていたのに対して、試料4では凹形に43μmという小さい反り量となっていた。さらに試料5では凸形に27μmという反り量となっていた。なお、試料5の凸形の反りは、化合物半導体基板内のC-GaN層の圧縮歪みが大きいことに起因するものであり、クラックの発生を抑止する効果が大きいことを示している。これらの結果から、試料4および5では、試料6に比べてクラックの発生が抑止され、基板の反りが改善されていることが分かる。
【0164】
図17は、本発明の第2の実施例における縦耐電圧の計測方法を示す断面図である。
【0165】
図17を参照して、ガラス板21上に貼り付けられた銅板22上に、計測対象となる試料の化合物半導体基板CSを固定した。固定した化合物半導体基板CSのキャップ層9上に、キャップ層9に接触するようにAlよりなる電極23を設けた。カーブトレーサー24の一方の端子を銅板22に接続し、他方の端子を電極23に接続した。カーブトレーサー24を用いて銅板22と電極23との間に電圧を加え、銅板22と電極23との間を流れる電流(試料を縦方向に流れる電流)の密度を計測した。計測された電流の密度が1×10
-1A/mm
2に達した時に試料が絶縁破壊したものとみなし、この時の銅板22と電極23との間の電圧を耐電圧として計測した。
【0166】
測定の結果、試料4では試料6に比べて縦耐電圧が60Vだけ高くなった。試料5では試料6に比べて縦耐電圧が85Vだけ高くなった。これらの結果から、試料4および5では、試料6に比べて縦耐電圧が向上していることが分かる。
【0167】
第3の実施例として、本願発明者らは、6インチの直径を有する化合物半導体基板CS6を2通りの製造条件で製造し、試料7および試料8の各々を得た。
【0168】
図18は、本発明の第3の実施例における化合物半導体基板CS6の構成を示す断面図である。
【0169】
図18を参照して、化合物半導体基板CS6の構成は、Al窒化物半導体層4以外は
図5に示す化合物半導体基板CS2の構成と同じである。化合物半導体基板CS6のAl窒化物半導体層4は、Al
0.75Ga
0.25N層41と、Al
0.5Ga
0.5N層42と、Al
0.25Ga
0.75N層43と、AlN中間層44aおよび44bとを含んでいる。Al
0.75Ga
0.25N層41は、Al窒化物半導体層4の最下層であり、AlNバッファー層3に接触してAlNバッファー層3上に形成されている。AlN中間層44aは、Al
0.75Ga
0.25N層41に接触してAl
0.75Ga
0.25N層41上に形成されている。Al
0.5Ga
0.5N層42は、AlN中間層44aに接触してAlN中間層44a上に形成されている。AlN中間層44bは、Al
0.5Ga
0.5N層42に接触してAl
0.5Ga
0.5N層42上に形成されている。Al
0.25Ga
0.75N層43は、Al窒化物半導体層4の最上層であり、AlN中間層44bに接触してAlN中間層44b上に形成されている。
【0170】
化合物半導体基板CS6において、基板1の厚さを1000μmとし、SiC層2の厚さを1μmとし、AlNバッファー層3およびAl窒化物半導体層4の合計厚さを1μmとし、AlN層52aおよび52bの各々の厚さを15nmとし、電子走行層7の厚さを0.5μmとし、障壁層8の厚さを25nmとした。C-GaN層51a、51b、および51cの各々の厚さを約2μmに設定した。
【0171】
試料7:C-GaN層51a、51b、および51cの各々を形成する際に、成膜温度を高温(CをドープしないGaN層の成長温度より約200℃低い温度)に設定し、C源ガスとして炭化水素を導入した。
【0172】
試料8:C-GaN層51a、51b、および51cの各々を形成する際に、成膜温度を低温(CをドープしないGaN層の成長温度より約300℃低い温度)に設定し、C源ガスを導入しなかった。
【0173】
続いて本願発明者らは、化合物半導体基板CS6へのクラックの発生の有無を目視にて確認した。その結果、試料7および試料8のいずれにおいてもクラックは発生していなかった。
【0174】
続いて本願発明者らは、化合物半導体基板CS6の基板1へのメルトバックエッチング(SiとGaとの反応により結晶が変質する現象)の発生の有無を光学顕微鏡による観察にて確認した。その結果、試料7および試料8のいずれにおいてもメルトバックエッチングは発生していなかった(試料7および試料8のいずれも基板全面でメルトバックフリーを満たしていた)。
【0175】
次に本願発明者らは、化合物半導体基板CS6のC-GaN層51a、51b、および51cの各々について、中心PT1における深さ方向の炭素濃度分布と、エッジPT2における深さ方向の炭素濃度分布とを計測した。この計測にはSIMSを用いた。次に計測した炭素濃度分布に基づいて、中心PT1における深さ方向の中心位置における炭素濃度である濃度C1と、エッジPT2における深さ方向の中心位置における炭素濃度である濃度C2とを算出した。次に、算出した濃度C1およびC2に基づいて、ΔC(%)=|C1-C2|×100/C1で表される濃度誤差ΔCを算出した。
【0176】
図19は、本発明の第3の実施例において算出された濃度誤差ΔCの値を示す図である。
【0177】
図19を参照して、試料7において、C-GaN層51a、51b、および51cの各々の中心PT1における深さ方向の炭素濃度の範囲は、4×10
18個/cm
2以上8×10
18個/cm
2以下であり、エッジPT2における深さ方向の炭素濃度の範囲は、4.3×10
18個/cm
2以上7×10
18個/cm
2以下であった。試料7では、中心PT1の炭素濃度とエッジPT2の炭素濃度とがほぼ同じ値であり、C-GaN層51a、51b、および51cの各々の濃度誤差ΔCは、それぞれ33%、21%、および0%であった。本願発明者らは複数の試料7を製造し、得られた複数の試料7の各々の濃度誤差ΔCを上述の方法で計測した。その結果、いずれの試料7も濃度誤差ΔCは0以上50%以下の範囲内の値となった。
【0178】
一方、試料8において、C-GaN層51a、51b、および51cの各々の中心PT1における深さ方向の炭素濃度の範囲は、5×1018個/cm2以上1.5×1019個/cm2以下であり、エッジPT2における深さ方向の炭素濃度の範囲は、2.3×1019個/cm2以上4.2×1019個/cm2以下であった。試料8では、エッジPT2の炭素濃度が中心PT1の炭素濃度と比較して高く、C-GaN層51a、51b、および51cの各々の濃度誤差ΔCは、それぞれ448%、312%、および258%であった。
【0179】
以上の結果から、試料7では、試料8に比べてC-GaN層の炭素濃度の面内均一性が向上していることが分かる。
【0180】
次に本願発明者らは、化合物半導体基板CS6のC-GaN層51a、51b、および51cの各々について、中心PT1の膜厚である膜厚W1と、エッジPT2の膜厚である膜厚W2との各々を計測した。この計測は、TEM(Transmission Electron Microscope)を用いて化合物半導体基板CS6の断面を観察することにより行った。次に計測した膜厚W1およびW2に基づいて、ΔW(%)=|W1-W2|×100/W1で表される膜厚誤差ΔWを算出した。
【0181】
図20は、本発明の第3の実施例において算出された膜厚誤差ΔWの値を示す図である。
【0182】
図20を参照して、試料7において、C-GaN層51a、51b、および51cの各々の膜厚誤差ΔWはそれぞれ3.9%、1.8%、および1.2%であり、いずれも小さい値であった。本願発明者らは試料7として複数の試料を製造し、得られた複数の試料7の各々の膜厚誤差ΔWを上述の方法で計測した。その結果、いずれの試料7も膜厚誤差ΔWは0より大きく8%以下の範囲内の値となった。
【0183】
一方、試料8において、C-GaN層51a、51b、および51cの各々の膜厚誤差ΔWはそれぞれ9%、11%、および11%であり、いずれも大きい値であった。
【0184】
以上の結果から、試料7では、試料8に比べてC-GaN層の膜厚の面内均一性が向上していることが分かる。
【0185】
次に本願発明者らは、化合物半導体基板CS6の真性破壊電圧を計測した。真性破壊電圧の計測は、基本的に
図17に示す方法と同様の方法で行われた。電極23として十分に小さい面積を有する電極(具体的には直径0.1cmの電極)を用い、化合物半導体基板CS6におけるキャップ層9の表面の4つの異なる位置に電極23を順番に接触させ、それぞれの位置に電極23を接触させた場合の銅板22と電極23との間を流れる電流(試料を縦方向に流れる電流)の密度を計測した。計測された電流の密度が1×10
-1A/mm
2に達した時に試料が絶縁破壊したものとみなし、この時の銅板22と電極23との間の電圧を計測した。得られた4つの電圧のうち最も高い値と最も低い値とを除外し、残りの2つの値の平均値を真性破壊電圧とした。試料7として複数の試料を作製し、それぞれの試料についての真性破壊電圧を計測した。その結果、試料7の真性破壊電圧は、いずれも1200V以上1600V以下の値であった。
【0186】
さらに本願発明者らは、化合物半導体基板CS6のC-GaN層(C-GaN層51a、51b、および51cのうち任意のC-GaN層)の欠陥密度を次の方法による計測した。始めに、化合物半導体基板CS6におけるキャップ層9の表面の中心PT1付近の5つの異なる位置に電極23を順番に接触させ、それぞれの位置に電極23を接触させた場合の銅板22と電極23との間を流れる電流(試料を縦方向に流れる電流)の密度を計測した。計測された電流の密度が1×10-1A/mm2に達した時に試料が絶縁破壊したものとみなし、この時の銅板22と電極23との間の電圧を中心PT1の絶縁破壊電圧とした。次に、計測した絶縁破壊電圧が真性絶縁破壊電圧の80%以下である位置を欠陥が存在する位置と判断した。絶縁破壊電圧を計測した5つの位置に対する欠陥が存在する位置の個数の割合を、中心PT1の欠陥密度Dとして算出した。
【0187】
上述の中心PT1の欠陥密度Dの算出を、4種類の異なる面積S(0.283cm2、0.126cm2、0.031cm2、0.002cm2)の電極の各々を用いてそれぞれ行った。その結果、電極の面積Sと中心PT1の欠陥密度Dとの組が4組得られた。
【0188】
次に、歩留りYと、電極の面積Sと、欠陥密度Dとの関係を示す一般的なポアソン式である式(2)を用いて、4種類の異なる面積Sのそれぞれについての歩留りYを算出した。
【0189】
Y=exp(-S×D) ・・・(2)
【0190】
次に、算出した歩留りYが50%に最も近い面積Sの電極を、欠陥密度の算出に最適な電極と判断し、最適な電極の面積Sに対応する欠陥密度Dを、中心PT1の欠陥密度として採用した。
【0191】
また、電極23を接触させる位置をキャップ層9の表面のエッジPT2付近の5つの異なる位置に変更し、上述と同様の方法でエッジPT2の欠陥密度を計測した。
【0192】
図21は、本発明の第3の実施例において計測された欠陥密度の値を示す図である。
【0193】
図21を参照して、試料7の中心PT1の欠陥密度は1.8個/cm
2であり、試料7のエッジPT2の欠陥密度は1.8個/cm
2であった。本願発明者らは複数の試料7を製造し、得られた複数の試料7の各々の中心PT1およびエッジPT2の欠陥密度を上述の方法で計測した。その結果、いずれの試料7も欠陥密度は0より大きく7個/cm
2以下の範囲内の値となった。一方、試料8の中心PT1の欠陥密度は207個/cm
2であり、試料8のエッジPT2の欠陥密度は7.1個/cm
2であった。
【0194】
以上の結果から、試料7では、試料8に比べてGaN層の欠陥密度が低減されていることが分かる。
【0195】
[その他]
【0196】
上述の実施の形態、変形例、および実施例の構成および製造方法は、適宜組み合わせることが可能である。
【0197】
上述の実施の形態、変形例、および実施例の構成は、あくまでも一例である。本発明の化合物半導体基板は、第1の窒化物半導体よりなる電子走行層と、電子走行層上に形成され、第1の窒化物半導体のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2の窒化物半導体よりなる障壁層と、障壁層と接触して障壁層上に形成された窒化物半導体よりなるキャップ層とを備えたものであればよい。また、本発明の化合物半導体基板の製造方法は、第1の窒化物半導体よりなる電子走行層を形成する工程と、電子走行層上に、第1の窒化物半導体のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2の窒化物半導体よりなる障壁層を形成する工程と、障壁層と接触して障壁層上に、有機金属気相成長法を用いてキャップ層を形成する工程とを備えたものであればよい。
【0198】
上述の実施の形態、変形例、および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0199】
1,1001 基板(基板の一例)
2 SiC(炭化ケイ素)層(SiC層の一例)
3 AlN(窒化アルミニウム)バッファー層(バッファー層の一例)
4 Al(アルミニウム)窒化物半導体層(Al窒化物半導体層の一例)
4a,4b,4c,61,62,63,64 AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)層
5 複合層(複合層の一例)
6 窒化物半導体層(窒化物半導体層の一例)
7,1003 電子走行層(電子走行層の一例)
7a,1003a 2次元電子ガス
8,1004 障壁層(障壁層の一例)
8a,1004a 障壁層の上面
9,1011 キャップ層(キャップ層の一例)
9a,1011a キャップ層の上面
11,1005 ソース電極
12,1006 ドレイン電極
13,1007 ゲート電極
14,1008 パッシベーション層
21 ガラス板
22 銅板
23 電極
24 カーブトレーサー
41 Al0.75Ga0.25N層
42 Al0.5Ga0.5N層
43 Al0.25Ga0.75N層
44,44a,44b AlN中間層
51a,51b,51c,105 C-GaN層
52a,52b AlN層
65 超格子層
65a,66a,66b,66c GaN(窒化ガリウム)層
65b,67a,67b,67c AlN層
1002 バッファー層
1010,1020 HEMT(High Electron Mobility Transistor)
CS1,CS2,CS3,CS4,CS5,CS6,CS10 化合物半導体基板
PT1 中心
PT2 エッジ
RG 中心を含む領域
SB 半導体装置