(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240906BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240906BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240906BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240906BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240906BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240906BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020129552
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
(72)【発明者】
【氏名】須黒 雅博
(72)【発明者】
【氏名】野木 栄信
【審査官】岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153443(JP,A)
【文献】特開2018-203556(JP,A)
【文献】特開2017-017002(JP,A)
【文献】国際公開第2010/079565(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01M 10/058
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるリン酸エステル化合物と、
複素環式化合物と、
を含有
し、
前記複素環式化合物が、下記式(II)で表される環状含硫黄エステル化合物、及び下記式(III)で表される環状ホウ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、リチウム二次電池用非水電解液。
【化1】
〔式(I)中、R
1は、単結合、又は炭素数1~4のアルキレン基を表す。〕
【化2】
〔式(II)中、R
21
は、酸素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキレン基、又はビニレン基を表し、R
22
は、炭素数1~6のアルキル基、上記式(1)で表される基、又は上記式(2)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。上記式(2)中、R
23
は、炭素数1~6のアルキル基で表される基を表す。
式(III)中、Mは、アルカリ金属を表し、bは1~3の整数、mは1~4の整数、nは0~8の整数、qは0又は1を表す。R
31
は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、またqが1でmが2~4の場合にはm個のR
31
はそれぞれが結合していてもよい。)を表し、R
32
は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリール基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、また、nが2~8の場合はn個のR
32
はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。)を表し、Q
1
、及びQ
2
は、それぞれ独立に、酸素原子、又は炭素原子を表す。〕
【請求項2】
下記式(IV)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する、請求項
1に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【化3】
〔式(IV)中、R
41及びR
42は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。〕
【請求項3】
前記リン酸エステル化合物の含有量が、リチウム二次電池用非水電解液の全量に対し、0.01質量%以上5質量%以下である請求項1
又は請求項2に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項4】
前記複素環式化合物の含有量が、リチウム二次電池用非水電解液の全量に対し、0.01質量%以上5質量%以下である、請求項1~
請求項3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項5】
ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、請求項1~
請求項4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液である、リチウム二次電池前駆体。
【請求項6】
前記正極が、正極活物質として、下記式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む、
請求項5に記載のリチウム二次電池前駆体。
LiNiaCobMncO
2 … 式(C1)
〔式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99以上1.00以下である。〕
【請求項7】
請求項5又は
請求項6に記載のリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、
前記リチウム二次電池前駆体に対して、充電及び放電を施す工程と
を含む、リチウム二次電池の製造方法。
【請求項8】
ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液は、請求項1~
請求項4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液であり、
前記負極は、負極SEI膜を含み、
前記正極は、正極SEI膜を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム二次電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度の電池として、注目されている。
【0003】
特許文献1は、非水系電解液二次電池を開示している。特許文献1に開示の非水系電解液二次電池は、正極と、負極と、非水系電解液とを備える。負極は、リチウムまたはリチウムの吸蔵放出の可能な負極材料からなる。非水系電解液は、有機溶媒と溶質とからなる。有機溶媒は、モノフルオロ燐酸リチウム、ジフルオロ燐酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の添加剤を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の非水系電解液二次電池では、高温環境下で充電又は放電が施されると、電池抵抗が増加するとともに、ガスの発生による電池膨れが発生するおそれがあった。
【0006】
更に、特許文献1に開示の非水系電解液二次電池では、高温環境下において充電又は放電に長期間曝されると、電池抵抗が増加しやすいおそれがあった。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑み、高温環境下での電池抵抗の増加、及びガス発生による電池膨れを抑制することができるリチウム二次電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0009】
<1> 下記式(I)で表されるリン酸エステル化合物と、複素環式化合物と、を含有する、リチウム二次電池用非水電解液。
【0010】
【0011】
式(I)中、R1は、単結合、又は炭素数1~4のアルキレン基を表す。
【0012】
<2> 前記複素環式化合物が、下記式(II)で表される環状含硫黄エステル化合物、及び下記式(III)で表される環状ホウ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【0013】
【0014】
式(II)中、R21は、酸素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキレン基、又はビニレン基を表し、R22は、炭素数1~6のアルキル基、上記式(1)で表される基、又は上記式(2)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。上記式(2)中、R3は、炭素数1~6のアルキル基で表される基を表す。
式(III)中、Mは、アルカリ金属を表し、bは1~3の整数、mは1~4の整数、nは0~8の整数、qは0又は1を表す。R31は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、またqが1でmが2~4の場合にはm個のR31はそれぞれが結合していてもよい。)を表し、R32は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリール基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、また、nが2~8の場合はn個のR32はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。)を表し、Q1、及びQ2は、それぞれ独立に、酸素原子、又は炭素原子を表す。
【0015】
<3> 下記式(IV)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する、<1>又は<2>に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【0016】
【0017】
式(IV)中、R41及びR42は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。
【0018】
<4> 前記リン酸エステル化合物の含有量が、リチウム二次電池用非水電解液の全量に対し、0.01質量%以上5質量%以下である<1>~<3>のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【0019】
<5> 前記複素環式化合物の含有量が、リチウム二次電池用非水電解液の全量に対し、0.01質量%以上5質量%以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【0020】
<6> ケースと、前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、を備え、前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、前記電解液が、<1>~<5>のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液である、リチウム二次電池前駆体。
【0021】
<7> 前記正極が、正極活物質として、下記式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む、<6>に記載のリチウム二次電池前駆体。
LiNiaCobMncO2 … 式(C1)
〔式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99以上1.00以下である。〕
【0022】
<8> <6>又は<7>に記載のリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、前記リチウム二次電池前駆体に対して、充電及び放電を施す工程とを含む、リチウム二次電池の製造方法。
【0023】
<9> ケースと、前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、を備え、前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、前記電解液は、<1>~<5>のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液であり、前記負極は、負極SEI(Solid Electrolyte Interphase)膜を含み、前記正極は、正極SEI膜を含む、リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、高温環境下での電池抵抗の増加、及びガス発生による電池膨れを抑制することができるリチウム二次電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示の実施形態に係る金属部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本開示に係るリチウム二次電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池、及びリチウム二次電池の製造方法の実施形態について説明する。また、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0027】
〔リチウム二次電池用非水電解液〕
本実施形態に係るリチウム二次電池用非水電解液(以下、「非水電解液」という。)について説明する。
【0028】
非水電解液は、リチウム二次電池の電解液として用いられる。リチウム二次電池の詳細については、
図1を参照して後述する。
【0029】
非水電解液は、下記式(I)で表されるリン酸エステル化合物(以下、「リン酸エステル化合物(I)」という。)と、複素環式化合物と、を含有する。
【0030】
非水電解液は、リン酸エステル化合物(I)と、複素環式化合物とを含有するので、リチウム二次電池の高温環境下における電池抵抗の増加、及びガス発生による電池膨れは、抑制される。
【0031】
上記効果が奏される理由は、以下のように推測される。
【0032】
本実施形態に係る非水電解液を用いてリチウム二次電池を製造する場合、その製造過程(例えば、後述するエージング工程)において、リチウム二次電池の負極の表面近傍において、反応生成物が生成され、更に、反応生成物の分解物である成分が生成されると考えられる。反応生成物は、リン酸エステル化合物(I)と、複素環式化合物と、電解質から生じたLiFとの反応による生成物を示す。このような反応生成物等は、負極表面に付着してSEI(Solid Electrolyte Interphase)膜(以下、「負極SEI膜」という。)を形成する。この成分は、製造過程において、正極表面近傍に移動し、正極表面に付着して、SEI膜(以下、「正極SEI膜」という。)を形成すると考えられる。これにより、高温環境下でのリチウム二次電池の安定性が高められる。例えば、正極活物質中の金属元素の溶出が抑制される。その結果、リチウム二次電池の高温環境下での電池抵抗の増加、及びガス発生による電池膨れは、抑制されると考えられる。
【0033】
また、正極SEI膜の形成は、リチウム二次電池を保存する場合の保存期間中においてもなお進行すると考えられる。このため、リチウム二次電池を保存する場合における、リチウム二次電池の保存期間に対するリチウム二次電池の電池抵抗の上昇率は低減されると考えられる。
【0034】
以上の理由により、本実施形態に係る非水電解液によれば、リチウム二次電池の高温環境下での電池抵抗の増加、及びガス発生による電池膨れは、抑制される。
【0035】
以下、負極SEI膜と正極SEI膜とを区別しない場合、単に「SEI膜」という。
【0036】
非水電解液の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0037】
なお、実際にリチウム二次電池を解体して採取した非水電解液を分析した際、リン酸エステル化合物(I)及び複素環式化合物の量が、非水電解液への添加量と比較して減少している場合がある。この場合であっても、リチウム二次電池から取り出した非水電解液中に少量でもリン酸エステル化合物(I)及び複素環式化合物が検出されれば、そのリチウム二次電池の電解液は、本開示の非水電解液の範囲に含まれる。
【0038】
また、実際にリチウム二次電池を解体して採取した非水電解液を分析した際に、非水電解液からリン酸エステル化合物(I)及び複素環式化合物の少なくとも一方が検出できない場合がある。この場合であっても、非水電解液中、又はSEI膜中に、リン酸エステル化合物(I)の分解物由来の化合物、及び複素環式化合物の分解物由来の化合物が検出されれば、そのリチウム二次電池の電解液は、本開示の非水電解液の範囲に含まれるとみなされる。これらの取り扱いは、非水電解液に含有され得るリン酸エステル化合物(I)及び複素環式化合物以外の化合物についても同様である。
【0039】
<リン酸エステル化合物(I)>
次に、リン酸エステル化合物(I)について説明する。
【0040】
リン酸エステル化合物(I)は、下記式(I)で表される新規な化合物である。
【0041】
【0042】
式(I)中、R1は、単結合、又は炭素数1~4のアルキレン基を表す。
【0043】
式(I)中、R1で表される炭素数1~4のアルキレン基としては、例えば、炭素数1~4の無置換のアルキレン基、及び炭素数1~4のフッ素原子で置換されたアルキレン基などが挙げられる。
【0044】
また、式(I)中、R1で表される炭素数1~4のアルキレン基としては、直鎖状のアルキレン基であってもよいし、分岐状のアルキレン基であってもよい。
【0045】
式(I)中、R1で表される炭素数1~4のアルキレン基としては、例えば、直鎖状又は分岐状であって無置換のアルキレン基、フッ素原子で置換されたアルキレン基などが挙げられる。直鎖状又は分岐状であって無置換のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソプロピレン基などが挙げられる。フッ素原子で置換されたアルキレン基としては、例えば、ジフルオロメチレン基、テトラフルオロエチレン基、ヘキサフルオロプロピレン基などが挙げられる。
【0046】
式(I)中のR1は、好ましくは単結合、又は炭素数1~2のアルキレン基であり、より好ましくは単結合、又は炭素数1のアルキレン基であり、更に好ましくは単結合である。
【0047】
リン酸エステル化合物(I)の具体例としては、下記式(I-1)で表される化合物が挙げられる。以下、下記式(I-1)で表される化合物を「リン酸エステル化合物(I-1)」という。
【0048】
【0049】
リン酸エステル化合物(I)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。リン酸エステル化合物(I)の含有量の上限が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムカチオンの伝導度を損なうことなく、リチウム二次電池は動作し得る。さらに、SEI膜がリン酸構造を含むことに伴い、リチウム二次電池の電池特性は向上する。リン酸エステル化合物(I)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。リン酸エステル化合物(I)の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜はリン酸を主体とする化合物(I)由来の構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は、形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性及びリチウム二次電池の高温保存後特性は向上する。
【0050】
リン酸エステル化合物(I)がリン酸エステル化合物(I-1)を含む場合、リン酸エステル化合物(I-1)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。リン酸エステル化合物(I-1)の含有量の上限が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムカチオンの伝導度を損なうことなく、リチウム二次電池は動作し得る。さらに、SEI膜がリン酸を主体とする構造を含むことに伴い、リチウム二次電池の電池特性は、向上する。リン酸エステル化合物(I-1)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.20質量%以上である。リン酸エステル化合物(I-1)の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜は、リン酸を主体とする化合物(I-1)由来の構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は、形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性及びリチウム二次電池の高温保存後特性は、向上する。
【0051】
<複素環式化合物>
次に、複素環式化合物について説明する。
【0052】
複素環式化合物は、下記式(II)で表される環状含硫黄エステル化合物(以下、「環状含硫黄エステル化合物(II)」という。)、及び下記式(III)で表される環状ホウ素化合物(以下、「環状ホウ素化合物(III)」という。)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。特に複素環式化合物が環状ホウ素化合物(III)を含むことで、SEI膜は、その内部に、ホウ酸を主体とする環状ホウ素化合物(III)由来の結合を含み得る。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は、形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは、起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性、及びリチウム二次電池の電池特性は向上する。
【0053】
中でも、複素環式化合物は、アルカリ金属元素のカチオンを含む塩を含むことが好ましく、ホウ素―酸素結合を含む化合物を含むことが好ましい。複素環式化合物が、アルカリ金属元素のカチオンを含む塩を含めば、カチオン構造に由来するSEI膜の耐久性の低下は抑制され、かつSEI膜は、アニオン構造由来の結合を含み得る。また、複素環式化合物が、ホウ素―酸素結合を含む化合物を含めば、SEI膜がアニオン構造を含むことに伴うSEI膜の耐久性は、より向上する。複素環式化合物がホウ素―酸素結合を含む化合物を含むことで、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は、形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは、起こりにくくなる。
【0054】
複素環式化合物は、下記式(V)で表される環状ホウ素化合物(以下、「環状ホウ素化合物(V)」という。)、及び下記式(VI)で表される環状ホウ素化合物(以下、「環状ホウ素化合物(VI)」という。)からなら群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0055】
複素環式化合物の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。複素環式化合物の含有量の上限が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムカチオンの伝導度を損なうことなく、リチウム二次電池は動作し得る。さらにSEI膜がホウ酸構造を含むことに伴い、リチウム二次電池の電池特性は向上する。複素環式化合物の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。複素環式化合物の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜にホウ酸を主体とする構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性及びリチウム二次電池の高温保存後特性は、向上する。
【0056】
(環状含硫黄エステル化合物(II))
次に、環状含硫黄エステル化合物(II)について説明する。
【0057】
環状含硫黄エステル化合物(II)は、下記式(II)で表される化合物である。
【0058】
【0059】
式(II)中、R21は、酸素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキレン基、又はビニレン基を表し、R22は、炭素数1~6のアルキル基、上記式(1)で表される基、又は式(2)で表される基を表す。*は、結合位置を示す。上記式(2)中、R23は、炭素数1~6のアルキル基で表される基を表す。
【0060】
式(II)中、R21は、炭素数1~3のアルキレン基、ビニレン基、又は酸素原子であることが好ましく、トリメチレン基、ビニレン基、又は酸素原子であることがより好ましい。
【0061】
式(II)中、R22は、上記式(1)又はで表される基であることが好ましい。
【0062】
環状含硫黄エステル化合物(II)の具体例としては、下記式(II-1)~(II-6)で表される化合物が挙げられる。以下、式(II-3)で表される化合物を「環状含硫黄エステル化合物(II-3)」という場合がある。
【0063】
【0064】
非水電解液は、環状含硫黄エステル化合物(II)を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
【0065】
非水電解液が環状含硫黄エステル化合物(II)を含有する場合、環状含硫黄エステル化合物(II)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。環状含硫黄エステル化合物(II)の含有量の上限が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムイオンの伝導度を損なうことなく、リチウム二次電池は動作し得る。さらに、SEI膜が亜硫酸エステル、又は硫酸エステル構造を含むことに伴い、リチウム二次電池の電池特性は向上する。環状含硫黄エステル化合物(II)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。環状含硫黄エステル化合物(II)の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜は、十分量の亜硫酸エステル、又は硫酸エステル構造を含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性、及びリチウム二次電池の電池特性は向上する。
【0066】
非水電解液が環状含硫黄エステル化合物(II-3)を含有する場合、環状含硫黄エステル化合物(II-3)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。環状含硫黄エステル化合物(II-3)の含有量の上限が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムカチオンの伝導度を損なうことなく、リチウム二次電池は動作し得る。さらに、SEI膜が硫酸エステル構造を含むことに伴い、リチウム二次電池の電池特性は、向上する。環状含硫黄エステル化合物(II-3)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。環状含硫黄エステル化合物(II-3)の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜は、硫酸エステルを主体とする構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性、及びリチウム二次電池の高温保存後特性は、向上する。
【0067】
(環状ホウ素化合物(III))
次に、環状ホウ素化合物(III)について、説明する。
【0068】
環状ホウ素化合物(III)は、下記式(III)で表される化合物である。
【0069】
【0070】
式(III)中、Mは、アルカリ金属を表す。bは1~3の整数、mは1~4の整数、nは0~8の整数、qは0又は1を表す。R31は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、またqが1でmが2~4の場合にはm個のR31はそれぞれが結合していてもよい。)を表す。R32は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリール基(これらの基は、構造中に置換基、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、また、nが2~8の場合はn個のR32はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。)を表す。Q1、及びQ2は、それぞれ独立に、酸素原子、又は炭素原子を表す。
【0071】
式(III)中、Mで表されるアルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。中でも、Mは、リチウムであることが好ましい。bは、アニオンの価数、及びカチオンの個数を表す。bは1~3の整数である。bが3より大きいと、アニオン化合物の塩は、混合有機溶媒に溶解しにくくなる傾向がある。bは、1であることが好ましい。定数m、nは、配位子の数に関係する値である。m及びnの各々は、Mの種類に応じて適宜調整され得る。nは、0~4の整数であることが好ましい。定数qは、0又は1である。qが0の場合には、キレートリングが五員環となり、qが1の場合にはキレートリングが六員環となる。
【0072】
式(III)中、R31は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、又は炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基を表す。これらのアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基又はハロゲン化アリーレン基はその構造中に置換基、ヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、これらの基の水素原子の代わりに、置換基を含んでもよい。置換基としては、ハロゲン原子、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、又は水酸基が挙げられる。また、これらの基の炭素元素の代わりに、窒素原子、硫黄原子、又は酸素原子が導入された構造であってもよい。また、qが1でmが2~4である場合、m個のR31はそれぞれが結合していてもよい。そのような例としては、エチレンジアミン四酢酸のような配位子を挙げることができる。
【0073】
式(III)中、R32は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン化アリール基を表す。R32におけるこれらのアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基又はハロゲン化アリール基は、R31と同様に、その構造中に置換基、ヘテロ原子を含んでいてもよく、また、nが2~8のときにはn個のR32は、それぞれ結合して環を形成してもよい。R32としては、電子吸引性の基が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。
【0074】
Q1、及びQ2は、それぞれ独立に、O、又はSを表す。つまり、配位子はこれらヘテロ原子を介してYに結合することになる。
【0075】
環状ホウ素化合物(III)の具体例としては、下記式(III-1)~(III-2)で表される化合物が挙げられる。
【0076】
【0077】
非水電解液が環状ホウ素化合物(III)を含有する場合、環状ホウ素化合物(III)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。環状ホウ素化合物(III)の含有量の上限が上記範囲内であれば、SEI膜がリチウムカチオンの伝導度を損なうことなく、リチウム二次電池は動作し得る。さらにSEI膜がホウ酸構造を含むことに伴い、リチウム二次電池の電池特性は、向上する。環状ホウ素化合物(III)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。環状ホウ素化合物(III)の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜は、ホウ酸を主体とする構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性、及びリチウム二次電池の高温保存後特性は、向上する。
【0078】
(環状ホウ素化合物(V))
次に、環状ホウ素化合物(V)について説明する。
【0079】
環状ホウ素化合物(V)は、下記式(V)で表される化合物である。
【0080】
【0081】
式(V)中、R51~R53は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~6の炭化水素基、又は炭素数1~6のフッ化炭化水素基を表す。
【0082】
式(V)中、R51~R53で表される炭素数1~6の炭化水素基は、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有する炭化水素基であってもよい。
【0083】
R51~R53で表される炭素数1~6の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、フェニル基などが挙げられる。R51~R53のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、1-エチルプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-メチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基などが挙げられる。R51~R53のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、イソプロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基などが挙げられる。
【0084】
中でも、R51~R53で表される炭素数1~6の炭化水素基としては、フェニル基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~6のアルケニル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が更に好ましい。
【0085】
R51~R53で表される炭素数1~6の炭化水素基における炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3であり、更に好ましくは1又は2であり、特に好ましくは1である。
【0086】
式(V)中、R51~R53で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基は、直鎖のフッ化炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有するフッ化炭化水素基であってもよい。
【0087】
本開示において、フッ化炭化水素基は、少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭化水素基を意味する。
【0088】
R51~R53で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基としては、例えば、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロフェニル基などが挙げられる。R51~R53のフルオロアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソブチル基などが挙げられる。R51~R53のフルオロアルケニル基としては、2-フルオロエテニル基、2,2-ジフルオロエテニル基、2-フルオロ-2-プロペニル基、3,3-ジフルオロ-2-プロペニル基、2,3-ジフルオロ-2-プロペニル基、3,3-ジフルオロ-2-メチル-2-プロペニル基、3-フルオロ-2-ブテニル基、パーフルオロビニル基、パーフルオロプロペニル基、パーフルオロブテニル基などが挙げられる。R51~R53のフルオロフェニル基としては、例えば、モノフルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基、テトラフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基(即ち、パーフルオロフェニル基)などが挙げられる。
【0089】
中でも、R51~R53で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基としては、フルオロフェニル基、炭素数1~6のフルオロアルキル基、又は炭素数2~6のフルオロアルケニル基が好ましく、炭素数1~6のフルオロアルキル基又は炭素数2~6のフルオロアルケニル基がより好ましく、炭素数1~6のフルオロアルキル基が更に好ましい。
【0090】
R51~R53で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基における炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3であり、更に好ましくは1又は2であり、特に好ましくは1である。
【0091】
式(V)中、R51~R53としては、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0092】
以下、環状ホウ素化合物(V)の具体例として、下記式(V-1)~(V-3)で表される化合物が挙げられる。
【0093】
【0094】
非水電解液が環状ホウ素化合物(V)を含有する場合、環状ホウ素化合物(V)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。環状ホウ素化合物(V)の含有量の上限が上記範囲内であれば、上述した反応生成物の分解物の増加に伴う電池抵抗の増加に対し、SEI膜がホウ酸由来の構造を含むことに伴うSEI膜の耐久性の向上の効果は上回る。その結果、リチウム二次電池の電池性能は、向上する。環状ホウ素化合物(V)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。環状ホウ素化合物(V)の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜は、ホウ酸由来の構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は、形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性は向上する。
【0095】
(環状ホウ素化合物(VI))
次に、環状ホウ素化合物(VI)について説明する。
【0096】
環状ホウ素化合物(VI)は、下記式(VI)で表される化合物である。
【0097】
【0098】
式(VI)中、R61~R63は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~6の炭化水素基、又は炭素数1~6のフッ化炭化水素基を表す。
【0099】
式(VI)中、R61~R63で表される炭素数1~6の炭化水素基の具体例及び好ましい態様は、式(V)中のR51~R53で表される炭素数1~6の炭化水素基の具体例及び好ましい態様と同様である。
【0100】
式(VI)中、R61~R63で表される炭素数1~6のフッ化炭化水素基の具体例及び好ましい態様は、式(V)中のR51~R53で表されるフッ化炭素数1~6の炭化水素基の具体例及び好ましい態様と同様である。
【0101】
中でも、式(VI)中、R61~R63としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0102】
以下、環状ホウ素化合物(VI)の具体例として、下記式(VI-1)~(VI-2)で表される化合物が挙げられる。
【0103】
【0104】
非水電解液が環状ホウ素化合物(VI)を含有する場合、環状ホウ素化合物(VI)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。環状ホウ素化合物(VI)の含有量の上限が上記範囲内であれば、上述した反応生成物の分解物の増加に伴う電池抵抗の増加に対し、SEI膜がホウ酸由来の構造を含むことに伴うSEI膜の耐久性の向上の効果は上回る。その結果、リチウム二次電池の電池性能は、向上する。環状ホウ素化合物(VI)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。環状ホウ素化合物(VI)の含有量の下限が上記範囲内であれば、SEI膜は、ホウ酸由来の構造を十分量含む。これにより、熱的及び化学的に安定な無機塩又は高分子構造は形成されやすくなる。そのため、高温下において、SEI膜の耐久性を損なうSEI膜の成分の溶出、及びSEI膜の変質などは起こりにくくなる。その結果、SEI膜の耐久性は、向上する。
【0105】
(不飽和結合を有する環状炭酸エステル)
非水電解液は、下記式(IV)で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステル(以下、「環状炭酸エステル化合物(IV)」という。)を含有することが好ましい。これにより、非水電解液の化学的安定性はより向上する。
【0106】
一般的に、非水電解液が環状炭酸エステル化合物(IV)を含有する場合には、リチウム二次電池の内部抵抗が上昇しやすい傾向がある。
しかし、本実施形態に係る非水電解液は、リン酸エステル化合物(I)を含有する。そのため、更に、環状炭酸エステル化合物(IV)を含有する場合においても、リチウム二次電池の内部抵抗は低減し得る。
むしろ、本実施形態の非水電解液が環状炭酸エステル化合物(IV)を含有する場合、リン酸エステル化合物(I)の添加による内部抵抗低減の改善幅は広いという利点がある。
【0107】
【0108】
式(IV)中、R41及びR42は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基を示す。
【0109】
環状炭酸エステル化合物(IV)の具体例として、下記式(IV-1)~(IV-7)で表される化合物が挙げられる。中でも、化合物(IV-1)(以下、「ビニレンカーボネート(IV-1)」又は「VC」という場合がある。)が好ましい。
【0110】
【0111】
非水電解液が環状炭酸エステル(IV)を含有する場合、環状炭酸エステル(IV)の含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。環状炭酸エステル(IV)の含有量の上限が上記範囲内であれば、正極上又は負極上での非水溶媒の分解を抑制しつつ、SEI膜の膜厚の増加を抑制することができる。非水溶媒については、後述する。その結果、リチウム二次電池の高温保存後特性は向上する。環状炭酸エステル(IV)の含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上である。環状炭酸エステル(IV)の含有量の下限が上記範囲内であれば、非水電解液中の非水溶媒の分解を抑制できる膜厚のSEI膜が形成される。その結果、リチウム二次電池の高温保存後特性は向上する。
【0112】
非水電解液が上記式(IV-1)のビニレンカーボネートを含有する場合、ビニレンカーボネートの含有量の上限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量部以下、特に好ましくは2.0質量%以下である。ビニレンカーボネートの含有量の上限が上記範囲内であれば、正極上又は負極上での非水溶媒の分解を抑制しつつ、SEI膜の膜厚の増加を抑制することができる。その結果、リチウム二次電池の高温保存後特性は向上する。ビニレンカーボネートの含有量の下限は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上である。ビニレンカーボネートの含有量の下限が上記範囲内であれば、非水電解液中の非水溶媒の分解を抑制できる膜厚のSEI膜が形成される。その結果、リチウム二次電池の高温保存後特性は向上する。
【0113】
<非水溶媒>
非水電解液は、一般的に、非水溶媒を含有する。非水溶媒としては種々公知のものを適宜選択することができる。非水溶媒は1種のみであってもよく、2種以上であっても良い。
【0114】
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類、含フッ素鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類、ラクタム類、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸、などが挙げられる。
【0115】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、などが挙げられる。
【0116】
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、などが挙げられる。
【0117】
鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、などが挙げられる。
【0118】
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酪酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、トリメチル酪酸エチル、などが挙げられる。
【0119】
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、などが挙げられる。
【0120】
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、などが挙げられる。
【0121】
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、などが挙げられる。
【0122】
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、などが挙げられる。
【0123】
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、などが挙げられる。
【0124】
ラクタム類としては、例えば、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N'-ジメチルイミダゾリジノン、などが挙げられる。
【0125】
非水溶媒は、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上100質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0126】
非水溶媒は、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上100質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0127】
非水溶媒の含有量の上限は、非水電解液の総量に対して、好ましくは99質量%であり、好ましくは97質量%であり、更に好ましくは90質量%である。非水溶媒の含有量の下限は、非水電解液の総量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0128】
非水溶媒の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0129】
<電解質>
非水電解液は、一般的に、電解質を含有する。
【0130】
電解質は、フッ素を含むリチウム塩(以下、「含フッ素リチウム塩」という場合がある。)、及びフッ素を含まないリチウム塩の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0131】
含フッ素リチウム塩としては、例えば、無機酸陰イオン塩、有機酸陰イオン塩などが挙げられる。無機酸陰イオン塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF6)、などが挙げられる。有機酸陰イオン塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CF3SO2)2N)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(C2F5SO2)2N)などが挙げられる。中でも、含フッ素リチウム塩としては、LiPF6が特に好ましい。
【0132】
フッ素を含まないリチウム塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li2B10Cl10)などが挙げられる。
【0133】
電解質が含フッ素リチウム塩を含む場合、含フッ素リチウム塩の含有割合は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0134】
含フッ素リチウム塩が六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む場合、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)の含有割合は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0135】
非水電解液が電解質を含む場合、非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L以上3mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以上2mol/L以下である。
【0136】
非水電解液が六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む場合、非水電解液における六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)の濃度は、好ましくは0.1mol/L以上3mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以上2mol/L以下である。
【0137】
<その他の成分>
非水電解液は、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0138】
その他の成分としては、酸無水物などが挙げられる。
【0139】
〔リチウム二次電池前駆体〕
次に、本開示の実施形態に係るリチウム二次電池前駆体について、説明する。
【0140】
本実施形態に係るリチウム二次電池前駆体は、ケースと、正極と、負極と、セパレータと、電解液と、を備える。正極、負極、セパレータ、及び電解液は、ケースの収容されている。正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極である。負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極である。電解液は、本実施形態に係る非水電解液である。
【0141】
リチウム二次電池前駆体は、充電及び放電が施される前のリチウム二次電池を示す。つまり、リチウム二次電池前駆体において、負極は負極SEI膜を含まず、正極は正極SEI膜を含まない。
【0142】
<ケース>
ケースの形状などは、特に限定はなく、本実施形態に係るリチウム二次電池前駆体の用途などに応じて、適宜選択される。ケースとしては、ラミネートフィルムを含むケース、電池缶と電池缶蓋とからなるケース、などが挙げられる。
【0143】
<正極>
正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極である。正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0144】
本実施形態に係る正極は、正極集電体と、正極合材層とを備える。正極合材層は、正極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0145】
正極集電体の材質としては、例えば、金属又は合金が挙げられる。詳しくは、正極集電体の材質として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、銅などが挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、アルミニウムが好ましい。ここで、「アルミニウム」は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を意味する。正極集電体として、アルミニウム箔が好ましい。アルミニウム箔の材質は、特に限定されず、A1085材、A3003材、などが挙げられる。
【0146】
正極合材層は、正極活物質及びバインダーを含有する。
【0147】
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、リチウム二次電池前駆体の用途などに応じて、適宜調整され得る。
【0148】
正極活物質としては、例えば、第1酸化物、第2酸化物などが挙げられる。第1酸化物は、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする。第2酸化物は、Liと、Niと、Li及びNi以外の金属元素の少なくとも1種と、を構成金属元素として含む。Li及びNi以外の金属元素としては、例えば、遷移金属元素、典型金属元素などが挙げられる。第2酸化物は、Li及びNi以外の金属元素として、好ましくは、原子数換算で、Niと同程度、又は、Niよりも少ない割合で含むことが好ましい。Li及びNi以外の金属元素は、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群からなる群から選択される少なくとも1種であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0149】
正極活物質は、下記式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」という場合がある。)を含むことが好ましい。リチウム含有複合酸化物(C1)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0150】
LiNiaCobMncO2 … 式(C1)
【0151】
式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99以上1.00以下である。
【0152】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2などが挙げられる。
【0153】
正極活物質は、下記式(C2)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCA」という場合がある。)を含んでもよい。
【0154】
LitNi1-x-yCoxAlyO2 … 式(C2)
【0155】
式(C2)中、tは、0.95以上1.15以下であり、xは、0以上0.3以下であり、yは、0.1以上0.2以下であり、x及びyの合計は、0.5未満である。)
【0156】
NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2などが挙げられる。
【0157】
本実施形態に係るリチウム二次電池前駆体における正極が、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える場合、正極合材層中の正極活物質の含有量は、正極合材層の全量に対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。正極合材層中の正極活物質の含有量は、正極合材層の全量に対して、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。
【0158】
バインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、ゴム粒子などが挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子などが挙げられる。これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、フッ素樹脂が好ましい。バインダーは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0159】
正極合材層中におけるバインダーの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度、など)と電池性能との両立の観点から、正極合材層の全量に対し、好ましくは0.1質量%以上4質量%以下である。バインダーの含有量が0.1質量%以上であると、正極集電体に対する正極合材層の接着性、及び、正極活物質同士の結着性がより向上する。バインダーの含有量が4質量%以下であると、正極合材層中における正極活物質の量をより多くすることができるので、電池容量がより向上する。
【0160】
本実施形態に係る正極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
【0161】
導電助材の材質としては、公知の導電助剤を用いることができる。公知の導電助剤としては、導電性を有する炭素材料が好ましい。導電性を有する炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維、フラーレンなどが挙げられる。これらは、単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。導電性炭素繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバーなどが挙げられる。グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛としては、例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などが挙げられる。
【0162】
導電助材の材質は、市販品であってもよい。カーボンブラックの市販品としては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500など(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスLなど(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRAなど、Conductex SC ULTRA、Conductex 975ULTRAなど、PUER BLACK100、115、205など(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400Bなど(三菱ケミカル社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、LITX-50、LITX-200など(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、Super-P(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35(デンカ社製、アセチレンブラック)などが挙げられる。
【0163】
本実施形態に係る正極合材層は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0164】
<負極>
負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極である。負極は、好ましくは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を少なくとも1種含む。
【0165】
本実施形態に係る負極は、より好ましくは、負極集電体と、負極合材層と、を備える。負極合材層は、負極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0166】
負極集電体の材質としては、特に制限はなく公知の物を任意に用いることができ、例えば、金属又は合金が挙げられる。詳しくは、負極集電体の材質として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、ニッケルメッキ鋼材、銅などが挙げられる。中でも、負極集電体の材質として、加工性の観点から、銅が好ましい。負極集電体として、銅箔が好ましい。
【0167】
本実施形態に係る負極合材層は、負極活物質及びバインダーを含有する。
【0168】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はない。負極活物質は、例えば、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、及び、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、負極活物質は、リチウムイオンをドープ及び脱ドープすることが可能な炭素材料(以下、「炭素材料」という。)が好ましい。
【0169】
炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料、非晶質炭素材料、などが挙げられる。これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。炭素材料の形態は、特に限定されず、例えば、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状などが挙げられる。炭素材料の粒径は、特に限定されず、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは20μm以上30μm以下である。
【0170】
非晶質炭素材料として、例えば、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが挙げられる。
【0171】
黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが挙げられる。黒鉛材料は、ホウ素を含有してもよい。黒鉛材料は、金属又は非晶質炭素で被覆されていてもよい。黒鉛材料を被覆する金属の材質としては、金、白金、銀、銅、スズなどが挙げられる。黒鉛材料は、非晶質炭素と黒鉛との混合物であってもよい。
【0172】
本実施形態に係る負極合材層は、導電助材を含有することが好ましい。導電助剤としては、正極合材層に含まれ得る導電助材として例示した導電助剤と同様の導電助剤が挙げられる。
【0173】
本実施形態に係る負極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0174】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば、多孔質の樹脂平板が挙げられる。多孔質の樹脂平板の材質としては、樹脂、この樹脂を含む不織布などが挙げられる。樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミドなどが挙げられる。
【0175】
なかでも、セパレータは、単層又は多層構造の多孔性樹脂シートであることが好ましい。多孔性樹脂シートの材質は、一種又は二種以上のポリオレフィン樹脂を主体とする。セパレータの厚みは、好ましくは5μm以上30μm以下である。セパレータは、好ましくは、正極と負極との間に配置される。
【0176】
〔リチウム二次電池前駆体の一例〕
図1を参照して、本開示の実施形態に係るリチウム二次電池前駆体1の一例について具体的に説明する。
図1は、本開示の実施形態に係るリチウム二次電池前駆体1の断面図である。
【0177】
リチウム二次電池前駆体1は、積層型である。
図1に示すように、リチウム二次電池前駆体1では、電池素子10は、外装体30の内部に封入されている。外装体30は、ラミネートフィルムで形成されている。電池素子10には、正極リード21及び負極リード22の各々が取り付けられている。正極リード21及び負極リード22の各々は、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
【0178】
本実施形態に係る電池素子10は、
図1に示すように、正極11と、セパレータ13と、負極12と、が積層されてなる。正極11は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる。負極12は、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる。正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bとは、セパレータ13を介して向き合っている。
【0179】
リチウム二次電池前駆体1の外装体30の内部には、本実施形態に係る非水電解液が注入されている。本実施形態に係る非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに浸透している。リチウム二次電池前駆体1では、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。なお、正極及び負極は、各集電体の片面上に各活物質層が形成されているものであってもよい。
【0180】
なお、本実施形態では、リチウム二次電池前駆体1は、積層型であるが、本開示はこれに限定されず、例えば、捲回型であってもよい。捲回型は、正極、セパレータ、負極、及びセパレータをこの順の配置で重ねて層状に巻いてなる。捲回型は、円筒型、又は角形を含む。
【0181】
また、本実施形態では、
図1に示すように、正極リード及び負極リードの各々が外装体30の内部から外部に向けて突出する方向は、外装体30に対して反対方向であるが、本開示はこれに限定されない。例えば、正極リード及び負極リードの各々が外装体30の内部から外部に向けて突出する方法は、外装体30に対して同一方向であってもよい。
【0182】
以下で説明する本開示の実施形態に係るリチウム二次電池の一例としては、リチウム二次電池前駆体1における正極合材層11B及び負極合材層12Bの各々の表面に、リチウム二次電池前駆体1に対する充電及び放電によってSEI膜が形成されている態様のリチウム二次電池が挙げられる。
【0183】
〔リチウム二次電池〕
次に、本開示の実施形態に係るリチウム二次電池について説明する。
【0184】
本実施形態に係るリチウム二次電池は、ケースと、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備える。正極、負極、セパレータ、及び電解液は、ケースに収容されている。正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極である。負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極である。電解液は、本実施形態に係る非水電解液である。負極は、負極SEI膜を含む。正極は、正極SEIを含む。
【0185】
本実施形態に係るリチウム二次電池は、主として、負極が負極SEI膜を含む第1点、及び正極が正極SEI膜を含む第2点で、本実施形態に係るリチウム二次電池前駆体と異なる。つまり、本実施形態に係るリチウム二次電池は、第1点及び第2点の他は、本実施形態に係るリチウム二次電池前駆体と同様である。そのため、以下、本実施形態のリチウム二次電池について、第1点及び第2点以外の構成部材の説明は省略する。
【0186】
第1点について、「負極は、負極SEI膜を含む」とは、負極が負極集電体及び負極合材層を備える場合、第1負極形態及び第2負極形態を含む。第1負極形態は、負極合材層の表面の少なくとも一部に負極SEI膜が形成された形態を示す。第2負極形態は、負極合材層の構成材料である負極活物質の表面に負極SEI膜が形成される形態を示す。
【0187】
第2点について、「正極は、正極SEI膜を含む」とは、正極が正極集電体及び正極合材層を備える場合、第1正極形態及び第2正極形態を含む。第1正極形態は、正極合材層の表面の少なくとも一部に正極SEI膜が形成された形態を示す。第2正極形態は、正極合材層の構成材料である正極活物質の表面に正極SEI膜が形成される形態を示す。
【0188】
SEI膜は、例えば、リン酸エステル化合物(I)の分解物、複素環式化合物の分解物、リン酸エステル化合物(I)又は複素環式化合物と電解質との反応物、及び当該反応物の分解物からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0189】
負極SEI膜の成分と正極SEI膜の成分とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、負極SEI膜の膜厚と正極SEI膜の膜厚とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0190】
〔非水電解液の製造方法〕
次に、本開示の実施形態に係る非水電解液の製造方法について説明する。
【0191】
本実施形態に係る非水電解液の製造方法は、合成工程と、溶解工程と、混合工程とを含む。溶解工程、及び混合工程は、この順で実行される。合成工程は、混合工程の前に実行されればよい。
【0192】
合成工程では、リン酸エステル化合物(I)を合成する。
【0193】
リン酸エステル化合物(I)は、下記のようにして、合成される。すなわち、ジカルボン酸化合物と、リチウム塩化合物と、リン酸化合物とを、溶媒中で反応させ、生成した水を除去して、リン酸リチウム化合物を得る。次いで、得られるリン酸リチウム化合物に、フルオロリン酸化合物を溶媒中で反応させる。これにより、リン酸エステル化合物(I)が得られる。
【0194】
ジカルボン酸化合物としては、例えば、シュウ酸、炭素数1~4のアルキレン基を有するジカルボン酸などが挙げられる。中でも、ジカルボン酸化合物は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸が好ましく、中でも、シュウ酸、又はマロン酸がより好ましい。
【0195】
リチウム塩化合物としては、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム-t-ブトキシドなどが挙げられる。中でも、リチウム塩化合物は、炭酸リチウム、又は水酸化リチウムが好ましく、炭酸リチウムがより好ましい。
【0196】
リン酸化合物としては、例えば、リン酸、ピロリン酸、トリリン酸、ポリリン酸、五酸化二リン、リン酸モノリチウム、リン酸ジリチウム、リン酸トリリチウム、メタリン酸リチウム、ピロリン酸テトラリチウム、トリリン酸ペンタリチウム、テトラリン酸ヘキサリチウムなどが挙げられる。中でも、リン酸化合物は、リン酸、ピロリン酸、トリリン酸、五酸化二リン、又はリン酸モノリチウムが好ましく、中でもリン酸、ピロリン酸、又はリン酸モノリチウムがより好ましい。
【0197】
フルオロリン酸化合物としては、例えば、フッ化ホスホリル、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウムなどが挙げられる。中でも、フルオロリン酸化合物は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、又はヘキサフルオロリン酸カリウムが好ましく、中でもヘキサフルオロリン酸リチウムがより好ましい。
【0198】
溶媒としては、非水溶媒が挙げられる。非水溶媒としては、例えば、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン(別名:キュメン)、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、メシチレン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナンなどが挙げられる。キシレンは、オルトキシレン、メタキシレン、又はパラキシレンを含む。
【0199】
合成工程における上記の反応は、常圧下、減圧下のいずれでも行える。合成工程における反応は、リン酸エステル化合物(I)の生成を阻害する成分(例えば水分)の混入を防ぐ観点から、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。リン酸エステル化合物(I)の生成を阻害する成分としては、水などが挙げられる。不活性雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などが挙げられる。
【0200】
合成工程における反応温度は、好ましくは60℃以上150℃以下、より好ましくは70℃以上120℃以下、さらに好ましくは80℃以上110℃以下である。反応温度が60℃以上であると、リン酸エステル化合物(I)の生成が促進されやすい。反応温度が150℃以下であると、生成したリン酸エステル化合物(I)の分解が抑制され、生成率が向上しやすい。
【0201】
合成工程における反応時間は、ジカルボン酸化合物とリチウム塩化合物とホウ酸化合物との反応を効率よく進行させる観点から、好ましくは30分以上12時間以内、より好ましくは1時間以上8時間以内である。
【0202】
リン酸エステル化合物(I)は、リン酸リチウム化合物にフルオロリン酸化合物を反応させて得られる生成物から取り出される。リン酸エステル化合物(I)を生成物から取り出す方法は、特に制限されず、得られる生成物の状態に応じて、適宜調整され得る。リン酸エステル化合物(I)のみが得られる場合、特段の処理を施すことなく、リン酸エステル化合物(I)は取り出される。リン酸エステル化合物(I)が溶媒に分散されたスラリーが生成物である場合、スラリーから溶媒を分離し、乾燥させることにより、リン酸エステル化合物(I)は、取り出される。リン酸エステル化合物(I)が溶媒に溶解された溶液が生成物である場合には、加熱濃縮などによって溶液から溶媒を留去することによってリン酸エステル化合物(I)は、取り出される。また、リン酸エステル化合物(I)が溶媒に溶解された溶液が生成物である場合には、溶液に対し、リン酸エステル化合物(I)が溶解しない溶媒を加えることによってリン酸エステル化合物(I)を析出させ、次いで溶液から溶媒を分離し、乾燥させることにより、リン酸エステル化合物(I)は取り出される。
【0203】
生成物から取り出されるリン酸エステル化合物(I)は、乾燥処理が施されてもよい。乾燥処理としては、特に限定されず、例えば、棚段式乾燥機での静置乾燥法、コニカル乾燥機での流動乾燥法、ホットプレート、オーブンなどの装置を用いて乾燥させる方法、ドライヤーなどの乾燥機で温風又は熱風を供給する方法などが挙げられる。
【0204】
生成物から取り出されるリン酸エステル化合物(I)を乾燥する際の圧力は、常圧、減圧のいずれであってもよい。生成物から取り出されるリン酸エステル化合物(I)を乾燥する際の乾燥温度は、好ましくは20℃以上150℃以下、より好ましくは50℃以上140℃以下、さらに好ましくは80℃以上130℃以下である。乾燥温度が20℃以上であると乾燥効率に優れる。乾燥温度が150℃以下であると、生成したリン酸エステル化合物(I)の分解が抑制され、リン酸エステル化合物(I)を安定して取り出しやすい。
【0205】
生成物から取り出されるリン酸エステル化合物(I)は、そのまま用いてもよいし、例えば、溶媒中に分散又は溶解させて用いてもよいし、他の物質と混合して用いてもよい。
【0206】
溶解工程では、非水溶媒に電解質を溶解させて溶液を得る。リン酸エステル化合物(I)を添加する前の溶液の電気伝導度に対し、得られる非水電解液の電気伝導度は低減されていることが好ましい。
【0207】
混合工程では、リン酸エステル化合物(I)と、複素環式化合物と、必要に応じてその他の添加剤を、溶液に添加して、混合する。これにより、非水電解液が得られる。本実施形態に係る非水電解液の製造方法で得られる非水電解液は、リチウム二次電池において、電池の内部抵抗を低減させる効果をより効果的に発揮される。
【0208】
なお、本実施形態に係る非水電解液の製造方法は、合成工程と、溶解工程と、混合工程とを含むが、本開示はこれに限定されない。
【0209】
〔リチウム二次電池前駆体の製造方法〕
次に、本開示の実施形態に係るリチウム二次電池前駆体の製造方法について、説明する。
【0210】
本実施形態に係るリチウム二次電池前駆体の製造方法は、第1準備工程と、第2準備工程と、第3準備工程と、収容工程と、注入工程とを含む。収容工程、及び注入工程は、この順で実行される。第1準備工程、第2準備工程、及び第3準備工程の各々は、収容工程の前に実行される。
【0211】
第1準備工程では、正極を準備する。
【0212】
正極を準備する方法としては、例えば、正極合材スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させる方法などが挙げられる。正極合材スラリーは、正極活物質及びバインダーを含む。
【0213】
正極合材スラリーに含まれる溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが挙げられる。
【0214】
正極合剤スラリーの塗布方法は、特に限定されず、例えば、スロットダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、グラビアコーティングなどが挙げられる。正極合剤スラリーの乾燥方法は、特に限定されず、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;赤外線(例えば遠赤外線)照射による乾燥;などが挙げられる。乾燥時間は、特に限定されず、好ましくは1分以上30分以内である。乾燥温度は、特に限定されず、好ましくは40℃以上80℃以下である。
【0215】
正極集電体上に正極合剤スラリーを塗布し、乾燥させた乾燥物は、加圧処理が施されることが好ましい。これにより、正極活物質層の空隙率は低減する。加圧処理の方法としては、例えば、金型プレス、ロールプレスなどが挙げられる。
【0216】
第2準備工程では、負極を準備する。
【0217】
負極を準備する方法としては、例えば、負極合材スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させる方法などが挙げられる。負極合材スラリーは、負極活物質及びバインダーを含む。
【0218】
負極合材スラリーに含まれる溶媒としては、例えば、水、水と相溶する液状媒体などが挙げられる。負極合材スラリーに含まれる溶媒が水と相溶する液状媒体を含むと、負極集電体への塗工性向上させることができる。水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類などが挙げられる。
【0219】
負極合剤スラリーの塗布方法、乾燥方法、及び加圧処理は、正極合剤スラリーの塗布方法、乾燥方法、及び加圧処理として例示した方法と同様の方法が挙げられる。
【0220】
第3準備工程では、非水電解液を準備する。非水電解液を準備する方法は、上述した非水電解液の製造方法で説明した方法と同様である。
【0221】
収容工程では、ケースに、正極、負極、及びセパレータを収容する。
【0222】
例えば、収容工程では、正極、負極、及びセパレータで電池素子を作成する。次いで、正極の正極集電体と正極リードとを電気的に接続するとともに、負極の負極集電体と負極リードとを電気的に接続する。次いで、電池素子をケース内に収容して、固定する。
【0223】
正極集電体と正極リードとを電気的に接続する方法は、特に限定されず、例えば、超音波溶接、抵抗溶接などが挙げられる。負極集電体と負極リードとを電気的に接続する方法は、特に限定されず、例えば、超音波溶接や抵抗溶接などが挙げられる。
【0224】
以下、ケースに、正極、負極、及びセパレータが収容された状態を「組立体」という。
【0225】
注入工程では、本実施形態に係る非水電解液を組立体の内部に注入する。これにより、非水電解液を、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに浸透させる。その結果、リチウム二次電池前駆体が得られる。
【0226】
〔リチウム二次電池の製造方法〕
次に、本開示の実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法について説明する。
【0227】
本実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法は、第4準備工程と、エージング工程とを含む。第4準備工程、及びエージング工程は、この順で実行される。
【0228】
第4準備工程では、リチウム二次電池前駆体を準備する。リチウム二次電池前駆体を準備する方法は、リチウム二次電池前駆体の製造方法で説明した方法と同様である。
【0229】
エージング工程では、リチウム二次電池前駆体に対してエージング処理を施す。これにより、負極SEI膜及び正極SEI膜が形成される。つまり、リチウム二次電池が得られる。
【0230】
エージング処理は、リチウム二次電池前駆体に対し、25℃以上70℃以下の環境下で、充電及び放電を施すことを含む。詳しくは、エージング処理は、第1充電フェーズと、第1保持フェーズと、第2充電フェーズと、第2保持フェーズと、充放電フェーズとを含む。
【0231】
第1充電フェーズでは、リチウム二次電池前駆体を、25℃以上70℃以下の環境下で充電する。第1保持フェーズでは、第1充電フェーズ後のリチウム二次電池前駆体を、25℃以上70℃以下の環境下で保持する。第2充電フェーズでは、第1保持フェーズ後のリチウム二次電池前駆体を、25℃以上70℃以下の環境下で充電する。第2保持フェーズでは、第2充電フェーズ後のリチウム二次電池前駆体を、25℃以上70℃以下の環境下で保持する。充放電フェーズでは、第2保持フェーズ後のリチウム二次電池前駆体に対し、25℃以上70℃以下の環境下で、充電及び放電の組み合わせを1回以上施す。
【0232】
本実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法で得られるリチウム二次電池は、高温環境下において、電池容量の低下、電池抵抗の増加、及びガス発生による電池膨れを抑制する効果がより効果的に発揮される。
【実施例】
【0233】
以下、本開示に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0234】
〔実施例1〕
下記のようにして、非水電解液を得た。
【0235】
下記のようにして、リン酸エステル化合物(I-1)(化5参照)を合成した。
【0236】
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、排気ライン、及びディーンシュターク管を備えたフラスコ(容量:300mL)を準備した。ディーンシュターク管には、生成した水の除去用にトルエンを満たした。
【0237】
フラスコを乾燥窒素ガスでパージした。その後、フラスコに、濃度87.5%のリン酸33.6g(0.30mol)と、炭酸リチウム11.08g(0.15mol)と、水60gとを入れ、攪拌混合して均一溶液を得た。均一溶液を攪拌しながら、フラスコ無にシュウ酸27.0g(0.30mol)とトルエン100gを加えた。その30分後にフラスコの加熱を開始し、85~110℃の温度でトルエンが還流する状態とした。加熱、攪拌、及びトルエン還流を継続し、留出する水をディーンシュターク管内でトルエンと分液して除去し続けた。還流するトルエンに水の同伴留出が無くなった段階でフラスコの加熱を止め、反応液を室温(25℃)まで冷却した。上記によって得られた反応液は、第1固体が析出したスラリーであった。
【0238】
第1固体の一部を取出し、乾燥させた後、重ジメチルスルホキシド溶媒に溶解して、13C-NMR分析、及び31P-NMR分析を行った。各NMR分析によって第1固体のスペクトルのケミカルシフト〔ppm〕は、それぞれ以下の通りであった。
【0239】
<第1固体のスペクトルのケミカルシフト>
・13C-NMR:164.1ppm
・31P-NMR:0.1ppm
【0240】
第1固体は、13C-NMRのスペクトルパターンと31P-NMRのスペクトルパターンから、下記の反応スキームで示されるモノ(オキサラト)リン酸リチウム(「LiMOP」ともいう。)であることが確認された。
【0241】
この第1固体(LiMOP)を含むスラリーを濾過して、固形分を含むウェットケーキを取った。次いで、このウェットケーキを元のフラスコにジメチルカーボネート200gと共に入れ、攪拌混合して均質なスラリーを得た。攪拌をしながら、フラスコにヘキサフルオロリン酸リチウム22.79g(0.15mol)を入れ、その後90℃に加熱し、溶媒還流状態で2時間撹拌した(反応工程)。この反応工程によって得られた反応液は、第2固体が析出したスラリーであった。このスラリーを濾過して、第2固体を除いた濾液を、10kPa以下及び60℃の条件で乾燥させることにより、粘性液体の生成物33.26gを得た。
【0242】
粘性液体の生成物を重ジメチルスルホキシド溶媒に溶解し、13C-NMR分析、19F-NMR分析、及び31P-NMR分析を行った。各NMR分析によって、粘性液体の生成物のスペクトルのケミカルシフト〔ppm〕は、それぞれ以下の通りであった。
【0243】
<粘性液体の生成物のスペクトルのケミカルシフト>
・13C-NMR:161.0ppm(s)
・19F-NMR:-71.9ppm(d)
(-70.6ppm、-73.1ppm)
・31P-NMR:-6.8ppm(d)
(-4.6ppm、-9.0ppm)
【0244】
粘性液体の生成物は、13C-NMRのスペクトルパターンから、シュウ酸骨格を有することが確認された。更に、粘性液体の生成物は、19F-NMRと31P-NMRとのスペクトルパターンから、モノフルオロリン酸骨格を有することが確認された。
【0245】
以上のように、粘性液体の生成物は、リン酸エステル化合物(I-1)であることが確認された。従って、製造例1の結果により、下記反応スキームで、リン酸エステル化合物(I-1)が得られたことが示された。
【0246】
【0247】
エチレンカーボネート(以下、EC)と、ジメチルカーボネート(以下、DMC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)とを、EC:DMC:EMC=30:35:35(体積比)で混合した。これにより、非水溶媒としての混合溶媒を得た。
【0248】
電解質としてのLiPF6を、得られた混合溶媒に対し、最終的に得られる非水電解液中の濃度が1モル/リットルとなるように溶解させ、電解液を得た。
【0249】
以下、得られた電解液を「基本電解液」という。
【0250】
添加剤としてのリン酸エステル化合物(I-1)と、環状含硫黄エステル化合物(II-3)(化7参照)とを、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、表1に記載の含有量(質量%)となるように、基本電解液に添加した。これにより、非水電解液を得た。
【0251】
以下のようにして、リチウム二次電池前駆体としてのアルミラミネート型電池(以下、単に「電池」ともいう)を作製した。
【0252】
以下のようにして、正極を準備した。
【0253】
正極活物質としてLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3O2)94質量%、導電助剤としてカーボンブラック3質量%、および結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量%添加した混合物を、N-メチルピロリドン溶媒中に分散させ、正極合剤スラリーを得た。
【0254】
得られた正極合剤スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗布し、乾燥後プレス機で圧延し正極原反を得た。この正極原反は、正極の活物質合材層(以下、「正極合材層」という。)が形成された領域と、正極合材層が形成されていない領域(すなわち白となる未塗工部)とを含む。
【0255】
得られた正極原反をスリットし、幅29mm、長さ40mmの正極合材層と、幅5mm、長さ11mmのタブ接着用未塗工部とを有する形状の正極を得た。
【0256】
以下のようにして、負極を準備した。
【0257】
負極活物質としてグラファイト96質量%、導電助剤としてカーボンブラック1質量%、増粘剤として純水中で分散したカルボキシメチルセルロースナトリウムを固形分で1質量%、及び結着材として純水中で分散したスチレンーブタジエンゴムの(SBR)を固形分で2質量%加えて、混合し、負極合剤スラリーを得た。
【0258】
得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔上に塗布し、乾燥後プレス機で圧延し、負極原反を得た。この負極原反は、負極の活物質合材層(以下、「負極合材層」という。)が形成された領域と、負極合材層が形成されていない領域(すなわち余白となる未塗工部)を含む。
【0259】
得られた負極原反をスリットし、幅30mm、長さ41mmの負極合材層と、幅5mm、長さ11mmのタブ接着用未塗工部とを有する形状の負極を得た。
【0260】
上述した非水電解液の製造で得られた非水電解液を準備した。
【0261】
セパレータとして、多孔性ポリプロピレンフィルムを準備した。正極、負極、及びセパレ-タを、負極の塗工面がセパレータに接し、かつ正極の塗工面がセパレータに接する向きで重ねて積層体を得た。次いで、得られた積層体の正極の未塗工部にアルミニウム製の正極タブを超音波接合機で接合した。得られた積層体の負極の未塗工部にニッケル製の負極タブを超音波接合機で接合した。正極タブ及び負極タブが接合された積層体を、アルミニウムの両面を樹脂層で被覆した一対のラミネートフィルムで挟み込み、次いで三辺を加熱シールし、ラミネート体を得た。この際、ラミネート体におけるシールされた三辺のうち、シールされていない開口部に接する一辺から正極タブ及び負極タブがはみ出すようにした。その後、ラミネート体の開口部から、上述して得た非水電解液を0.3mL注入し、ラミネートの開口部を封止して、電池を密封した。
【0262】
〔実施例2、比較例1,2〕
上述した非水電解液の作製において、添加剤としてのリン酸エステル化合物(I-1)(化5参照)と、環状含硫黄エステル化合物(II-3)(化7参照)との含有量を表1に示す含有量に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウム二次電池前駆体を得た。
【0263】
〔実施例3〕
上述した非水電解液の作製において、添加剤として、リン酸エステル化合物(I-1)(化5参照)と、環状含硫黄エステル化合物(II-3)(化7参照)と、ビニレンカーボネート(IV-1)(化15参照)とを用い、非水電解液の各成分の含有量を表1に示す含有量に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウム二次電池前駆体を得た。
【0264】
〔評価試験〕
得られたリチウム二次電池前駆体に、下記のエージング処理を施し、第1電池を得た。得られた第1電池に、下記の初期充放電処理を施し、第2電池を得た。得られた第2電池に、下記の直流抵抗評価用処理を施し、第3電池を得た。得られた第3電池に、高温保存処理を施し、第4電池を得た。得られた第4電池に、下記の後期充放電処理を施し、第5電池を得た。得られた第1電池~第5電池を用いて、下記の測定方法により、高温保存後容量、高温保存後抵抗、抵抗増加率、及び高温保存ガス発生量の各々を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0265】
<エージング処理>
リチウム二次電池前駆体に、下記のエージング処理を施し、第1電池を得た。
【0266】
電池前駆体を、25~70℃の温度範囲下、終止電圧1.5V~3.5Vの範囲、で充電した後、5~50時間の範囲で休止させた。次に、25~70℃の温度範囲下、終止電圧3.5V~4.2Vの範囲で電池前駆体を充電し、5~50時間の範囲で保持した。次に、25~70℃の温度範囲下で電池前駆体を4.2Vまで充電し、その後2.5Vまで放電させた。
【0267】
第1電池内には、負極SEI膜及び正極SEI膜が形成されていることを確認した。負極合材層及び正極合材層の各々は、多孔質であった。負極SEI膜は、負極活物質の表面に付着していた。正極SEI膜は、正極活物質の表面に付着していた。負極SEI膜及び正極SEI膜の各々の成分を分析した。その結果、実施例1では、リン酸エステル化合物(I-1)に由来する成分及び環状含硫黄エステル化合物(II-3)に由来する成分を含有することがわかった。リン酸エステル化合物(I-1)に由来する成分は、リン酸エステル化合物(I-1)の分解物を含む。環状含硫黄エステル化合物(II-3)に由来する成分は、環状含硫黄エステル化合物(II-3)の分解物を含む。
【0268】
<初期充放電処理>
第1電池に、下記の初期充放電処理を施し、第2電池を得た。
【0269】
第1電池を、25℃の温度環境にて12時間保持した。次いで、第1電池を充電レート0.2Cにて4.2V(SOC(State Of Charge)100%)まで定電流定電圧充電(0.2C-CCCV)し、次いで30分間休止させ、次いで放電レート0.2Cにて2.5Vまで定電流放電(0.2C-CC)させた。これを3サイクル行って電池を安定させた。その後、充電レート0.2Cにて4.2Vまで定電流定電圧充電(0.5C-CCCV)し、次いで30分間休止させ、次いで放電レート1Cにて2.5Vまで定電流放電(1C-CC)させた。これにより、第2電池を得た。
【0270】
<直流抵抗評価用処理>
第2電池に、下記の直流抵抗評価用処理を施し、第3電池を得た。
【0271】
直流抵抗評価用処理は、25℃の温度環境で行った。第2電池を放電レート0.5Cにて2.5VまでCC放電させ、充電レート0.5Cにて3.7VまでCCCV充電した。「CCCV充電」とは、定電流定電圧(Constant Current Constant Voltage)で充電することを意味する。
【0272】
次いで、第2電池に対し、放電レート1CにてCC10s放電を施し、充電レート1CにてCC10s充電を施した。「CC10s放電」とは、定電流(Constant Current)にて10秒間放電することを意味する。「CC10s充電」とは、定電流(Constant Current)にて10秒間充電することを意味する。
【0273】
次いで、第2電池に対し、放電レート2CにてCC10s放電を施し、充電レート1CにてCC20s充電を施した。次いで、第2電池に対し、放電レート3CにてCC10s放電を施し、充電レート1CにてCC30s充電を施した。次いで、第2電池に対し、放電レート4CにてCC10s放電を行い、充電レート1CにてCC40s充電を施した。次いで、第2電池に対し、放電レート5CにてCC10s放電を施し、充電レート1CにてCC50s充電を施した。これにより、第3電池を得た。
【0274】
<高温保存処理>
第3電池に、下記の高温保存処理を施し、第4電池を得た。
【0275】
第3電池を、25℃の温度環境にて、充電レート0.2Cにて4.2Vまで定電流充電した。次いで、充電状態の電池を60℃の雰囲気下で28日間静置した。これにより、第4電池を得た。
【0276】
<後期充放電処理>
第4電池に、下記の後期充放電処理を施し、第5電池を得た。
【0277】
第4電池を25℃の温度環境で放熱し、第1放電をした後、第1充電をし、第2放電をした。第1放電は、放電レート1Cにて2.5Vまで定電流放電(1C-CC)したことを示す。第1充電は、充電レート0.2Cにて4.2Vまで定電流定電圧充電(0.2C-CCCV)したことを示す。第2放電は、放電レート1Cにて2.5Vまで定電流放電(1C-CC)したことを示す。これにより、第5電池を得た。
【0278】
<高温保存後容量の測定方法>
下記式(X1)に示すように、比較例1の第4電池の高温保存後容量に対する、各実施例の第4電池の高温保存後容量の相対値を、「高温保存後容量[%]」とした。高温保存後容量は、上述した後期充放電処理において、第2放電をした際に、得られた容量を示す。
【0279】
高温保存後容量[相対値;%]=(第4電池の高温保存後容量[mAh/g]/比較例1の第4電池の高温保存後容量[mAh/g])×100…(X1)
【0280】
<高温保存後抵抗の測定方法>
下記式(X2)に示すように、比較例1の第5電池の直流抵抗(DCIR:Direct current internal resistance)に対する第5電池の直流抵抗の相対値を、「高温保存後抵抗[%]」とした。
【0281】
高温保存後抵抗[相対値;%]=(第5電池の直流抵抗[Ω]/比較例1の第5電池の直流抵抗[Ω])×100…(X2)
【0282】
直流抵抗は、下記方法により測定した。第5電池に、上述した直流抵抗評価用処理と同様の直流抵抗評価用処理を施した。放電レート1C~5C各々における「CC10s放電」による各電圧低下量(=放電開始前の電圧-放電開始後10秒目の電圧)と、各電流値(即ち、放電レート1C~5Cに相当する各電流値)と、に基づき、第5電池の直流抵抗(Ω)を求めた。
【0283】
<抵抗増加率の測定方法>
下記式(X3)に示すように、比較例1の抵抗増加率に対する抵抗増加率の相対値を、「抵抗増加率[%]」とした。
【0284】
抵抗増加率[相対値;%]=(抵抗増加率/比較例1の抵抗増加率)×100…(X3)
【0285】
式(10)中、抵抗増加率は、第4電池の直流抵抗(Ω)を、第2電池の直流抵抗(Ω)で除したものである。第4電池の直流抵抗(Ω)、及び第2電池の直流抵抗(Ω)の各々は、上述した高温保存後抵抗の測定方法における第5電池の直流抵抗(Ω)の測定方法と同様である。
【0286】
高温保存試験後である第5電池の直流抵抗の上記相対値は、保存による直流抵抗の増加率(%)(以下、単に「抵抗増加率」ともいう)に相当する。ここでいう増加率は、増加せず減少もしない場合を100%と表現し、増加する場合を100%超と表現し、減少する場合を100%未満と表現する態様の増加率である。
【0287】
抵抗増加率に注目した理由は、電池性能において、抵抗値自体が低いことも重要な性能ではあるが、保存期間中の劣化などに起因する抵抗増加率が低減されることも極めて重要な性能であるためである。
【0288】
<高温保存ガス発生量の測定>
下記式(X4)に示すように、比較例1の高温保存後ガス発生量[cm3]に対する高温保存後ガス発生量[cm3]の相対値を「高温保存ガス発生量[%]」とした。つまり、第5電池のガス膨れの抑制効果を、第2電池の体積との体積差を比較することで、評価した。
【0289】
高温保存ガス発生量[%]=(高温保存後ガス発生量[cm3]/比較例1の高温保存後ガス発生量[cm3])×100 …(X4)
【0290】
式(X4)中、高温保存後ガス発生量[cm3]は、第5電池の電池体積[cm3]と、第2電池の電池体積[cm3]との差である。つまり、高温保存後ガス発生量[cm3]は、体積増分[cm3]を示す。
【0291】
第2電池又は第5電池の電池体積[cm3]は、アルキメデス法に基づく比重測定装置(「SGM-300P」、株式会社島津製作所製)により測定した値を示す。
【0292】
【0293】
表1中、「-」は、該当する成分を含有しないことを意味する。
【0294】
実施例1~実施例3の非水電解液は、リン酸エステル化合物(I)と、複素環式化合物とを含有したので、実施例1~実施例3のリチウム二次電池は、高温保存後抵抗が83%以上86%以下、抵抗増加率が68%以上72%以下、高温保存ガス発生量が51%以上57%以下であった。すなわち、実施例1~実施例3のリチウム二次電池は、高温環境下での電池抵抗の増加、及びガス発生による電池膨れが抑制されていることがわかった。
【0295】
一方で、比較例2の非水電解液は、リン酸エステル化合物(I)を含有したが、複素環式化合物を含有しなかった。そのため、比較例2のリチウム二次電池は、高温保存後抵抗が101%、抵抗増加率が83%、高温保存ガス発生量が81%であった。すなわち、比較例2のリチウム二次電池は、高温環境下での電池抵抗の増加が抑制されていないことがわかった。また、比較例2のリチウム二次電池の高温環境下での電池容量は比較例1に対して低下していた。
【符号の説明】
【0296】
1 リチウム二次電池前駆体
10 電池素子
11 正極
11A 正極集電体
11B 正極合材層
12 負極
12A 負極集電体
12B 負極合材層
13 セパレータ
14 単電池層
21 正極リード
22 負極リード
30 外装体