(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】放熱用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240906BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20240906BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240906BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240906BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/18
C08L1/02
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2020141743
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019168998
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】大和 恭平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154671(JP,A)
【文献】特開2016-172823(JP,A)
【文献】特開2016-079202(JP,A)
【文献】特開2018-104703(JP,A)
【文献】特開2010-265438(JP,A)
【文献】特開2006-322116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質セルロース及び樹脂を含有する放熱用樹脂組成物
であって、
放熱用樹脂組成物中の改質セルロースの含有量が0.2体積%以上、かつ樹脂の含有量が99.5体積%以下であり、
改質セルロースが、セルロースを構成するグルコースユニットのC6位の基が選択的にカルボキシ基に変換された酸化セルロースのカルボキシ基に修飾基が結合してなる改質セルロースである、
放熱用樹脂組成物。
【請求項2】
改質セルロースがセルロースI型結晶構造を有するものである、請求項1に記載の放熱用樹脂組成物。
【請求項3】
改質セルロースの平均繊維径が1nm以上300nm以下である、請求項1又は2に記載の放熱用樹脂組成物。
【請求項4】
修飾基がイオン結合及び/又は共有結合を介して
カルボキシ基に結合したものである、請求項
1~3のいずれか1項に記載の放熱用樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂の含有量が20体積%以上99.5体積%以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の放熱用樹脂組成物。
【請求項6】
更に無機粒子を含有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の放熱用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の放熱用樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
【請求項8】
パワーデバイス用、電磁波シールド用、放熱樹脂基板用又は封止材用である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の放熱用樹脂組成物。
【請求項9】
樹脂成形材料用、電気絶縁材料用、塗料用、インキ用、コーティング剤用、導電ペースト用、接着剤用、レンズ用、透明樹脂材料用、三次元造形材料用、クッション材用、補修材用、粘着剤用、シーリング材用、断熱材用、吸音材用、人工皮革材料用、電子材用、包装材料用、タイヤ用、自動車部品用、繊維複合材料用、中空糸用、又は透析膜用である、請求項
7に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放熱用樹脂組成物に関する。更に本発明は、パワーデバイス用の放熱用樹脂組成物、電磁波シールド用の放熱用樹脂組成物、放熱樹脂基板用の放熱用樹脂組成物、及び封止材用の放熱用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているデジタル家電製品のように、高速大容量の情報を取り扱う電子機器からの発熱は増大の一途をたどっている。かかる電子機器の小型化、軽量化、薄型化の進展の結果、電子機器を構成する部材は金属から樹脂成形体への置換が進み、樹脂成形体からの放熱を以下に効率良く行うかが、ますます重要となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱伝導性無機粒子とセルロースナノファイバーの複合材からなる放熱材であって、前記セルロースナノファイバーは、その表面をエステル化合物及び/又はエーテル化して修飾してある放熱材が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1には、アクリル系の樹脂等が25体積%を超えると放熱材としての熱伝導性が低下する恐れ(段落0029)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明は、放熱性に優れる樹脂成形体、即ち熱伝導率が高い樹脂成形体や、かかる樹脂成形体を成形することができる放熱用樹脂組成物に関する。更に本発明は、優れた放熱性を発揮する、パワーデバイス用樹脂組成物、電磁波シールド用樹脂組成物、放熱樹脂基板用樹脂組成物及び封止材用樹脂組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記〔1〕~〔5〕に関する。
〔1〕 改質セルロース及び樹脂を含有する放熱用樹脂組成物。
〔2〕 更に無機粒子を含有する、前記〔1〕に記載の放熱用樹脂組成物。
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の放熱用樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
〔4〕 パワーデバイス用、電磁波シールド用、放熱樹脂基板用又は封止材用である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の放熱用樹脂組成物。
〔5〕 樹脂成形材料用、電気絶縁材料用、塗料用、インキ用、コーティング剤用、導電ペースト用、接着剤用、レンズ用、透明樹脂材料用、三次元造形材料用、クッション材用、補修材用、粘着剤用、シーリング材用、断熱材用、吸音材用、人工皮革材料用、電子材用、包装材料用、タイヤ用、自動車部品用、繊維複合材料用、中空糸用、又は透析膜用である、前記〔3〕に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体は放熱性に優れるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施例及び比較例において製造された樹脂成形体における改質セルロースの含有量と樹脂成形体の熱伝導率との関係を示すグラフである。グラフの横軸は、改質セルロースにおけるセルロースの含有量(体積%)であり、縦軸は熱伝導率(W/m・K)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らが放熱性に優れる樹脂成形体の組成について検討した結果、セルロース成分として特定の改質セルロースを使用することにより、樹脂の割合が多い組成物(成形体)であっても優れた放熱性を発揮することを見出し、本発明を完成させた。本発明の効果が発揮されるメカニズムは定かではないが、結晶性の高いセルロース中は熱が伝わりやすいからであると推定される。
【0011】
<放熱用樹脂組成物>
本発明の放熱用樹脂組成物は改質セルロース及び樹脂を含有する。
【0012】
〔改質セルロース〕
本発明における改質セルロースとしては、アニオン変性セルロースのアニオン性基に修飾基が結合してなる改質セルロースが好ましい。
【0013】
(アニオン変性セルロース)
アニオン変性セルロースとは、アニオン性基、例えばカルボキシ基、リン酸基及びスルホン酸基からなる群より選択される1種以上の基を分子内に有するセルロースである。セルロースへのアニオン性基の導入は後述の方法により達成できる。入手容易性及び効果の観点から、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロースが好ましく、セルロースを構成するグルコースユニットのC6位の基(-CH2OH)が選択的にカルボキシ基に変換されたアニオン変性セルロース(「酸化セルロース」と称する。)がより好ましい。なお、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、好ましくはプロトンである。
【0014】
アニオン変性セルロースにおけるアニオン性基含有量としては、安定な修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、更に好ましくは0.6mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下、更に好ましくは1.5mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロースを構成するグルコース中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0015】
アニオン変性セルロースの平均繊維径、平均繊維長の好適範囲は、製造工程の順序にもよるが、原料のセルロースのものと同等である。
【0016】
アニオン変性セルロースのアニオン性基に修飾基が結合するとは、アニオン変性セルロースが有するアニオン性基、好ましくはカルボキシ基に修飾基が結合することを意味する。修飾基とアニオン性基との結合様式としては、イオン結合及び/又は共有結合が挙げられる。共有結合としては、例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合が挙げられ、好ましくはアミド結合である。
【0017】
(修飾基)
修飾基としては、炭化水素基、重合部または共重合部を伴う炭化水素基、及びシリコーン基が挙げられる。これらの修飾基は1種類が単独で又は2種以上が組み合わさって、セルロースに結合(導入)されてもよい。
【0018】
(1)炭化水素基
炭化水素基としては、例えば、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0019】
鎖式飽和炭化水素基としては、炭素数1以上30以下のものが好ましく、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
【0020】
鎖式不飽和炭化水素基としては、炭素数2以上30以下のものが好ましく、具体例としては、例えば、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。
【0021】
環式飽和炭化水素基としては、炭素数3以上20以下のものが好ましく、具体例としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0022】
芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基及びアラルキル基等が挙げられる。アリール基及びアラルキル基としては、芳香族環そのものが置換されたものでも非置換のものであってもよい。
【0023】
アリール基の総炭素数は、好ましくは6以上、24以下であり、アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が置換基で置換された基が挙げられる。
【0024】
アラルキル基の総炭素数は、好ましくは7以上、24以下であり、アラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基の芳香族基が置換基で置換された基などが挙げられる。
【0025】
(2)重合部または共重合部を伴う炭化水素基
重合部とは、エチレンオキサイド(EO)またはプロピレンオキサイド(PO)が直鎖状に重合した構造である。本明細書において、かかる構造をEO重合部またはPO重合部と称する。また、共重合部とは、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)がランダム又はブロック状に重合した構造である。本明細書において、かかる構造を(EO/PO)共重合部と称する。
【0026】
EO重合部、PO重合部またはEO/PO共重合部を伴う炭化水素基としては、例えば、下記式:
【0027】
【0028】
(式中、R1は水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、又は-CH2CH(CH3)NH2基を示す。EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す0又は正の数、bはPOの平均付加モル数を示す0又は正の数である。ただし、aとbは同時に0とはならない。)で示される基が挙げられる。
【0029】
前記式におけるaは、放熱性に優れる樹脂成形体を得る観点から、好ましくは0以上、より好ましくは1以上、より好ましくは5以上、より好ましくは11以上、より好ましくは15以上であり、同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。
【0030】
前記式におけるbは、放熱性に優れる樹脂成形体を得る観点から、好ましくは0以上、好ましくは1以上、より好ましくは3以上であり、同様の観点から、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。
【0031】
前記式におけるa+bはEOとPOの合計の平均付加モル数を示し、放熱性に優れる樹脂成形体を得る観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、より好ましくは8以上であり、同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。
【0032】
EO/PO共重合部中のPOの含有率(モル%)は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上であり、一方、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。
【0033】
EO重合部、PO重合部またはEO/PO共重合部の分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上であり、一方、好ましくは10,000以下、より好ましくは7,000以下である。EO/PO共重合部中のPOの含有率や、EO/PO共重合部の分子量は、後述のEO/PO共重合部を伴う炭化水素基を有するアミン化合物を製造する際の平均付加モル数から計算して求めることができる。
【0034】
前述のEO重合部、PO重合部またはEO/PO共重合部を伴う炭化水素基における式におけるR1としては、放熱性に優れる樹脂成形体を得る観点から、水素原子が好ましい。炭素数1以上6以下の炭化水素基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、イソ又はノルマルのプロピル基である。
【0035】
(3)シリコーン基
シリコーン基とはシロキサン結合を主鎖とする一価の基であり、アルキレン基が伴っていてもよい。
【0036】
(4)更なる置換基
なお、修飾基はさらに置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1~6のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1~6のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1~6のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数が1~6のジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0037】
〔改質セルロースの製造方法〕
改質セルロースは、例えば、原料のセルロースにアニオン性基を導入してアニオン変性セルロースを製造し(工程1)、次いで、アニオン変性セルロースのアニオン性基に修飾基を結合させること(工程2)によって、製造することができる。
【0038】
(工程1)
原料のセルロース
アニオン変性セルロースの原料であるセルロースとしては、環境面から天然セルロースが好ましく、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
原料のセルロースの平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。原料のセルロースの平均繊維径は後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0040】
また、原料のセルロースの平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは25μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下、より好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロースの平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0041】
処理方法
(1)セルロースにアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合
セルロースにカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロースのヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロースのヒドロキシ基に、カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0042】
セルロースのヒドロキシ基を酸化処理する方法としては、例えば、特開2015-143336号公報又は特開2015-143337号公報に記載の、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を原料のセルロースと反応させる方法が挙げられる。TEMPOを触媒としてセルロースの酸化を行うことにより、セルロース構成単位のグルコースのC6位の基が選択的にカルボキシ基に変換され、前述の酸化セルロースを得ることができる。
【0043】
セルロースへのカルボキシ基の導入に使用するための、カルボキシ基を有する化合物は特に限定されないが、具体的にはハロゲン化酢酸が挙げられる。ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸等が挙げられる。
セルロースへのカルボキシ基の導入に使用するための、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体は特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸及び無水アジピン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物やカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。これらの化合物は疎水基で置換されていてもよい。
【0044】
(2)セルロースにアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合
セルロースへスルホン酸基を導入する方法としては、セルロースに硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロースへリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロースに、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロースの分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0045】
(工程2)
アニオン変性セルロースのアニオン性基への修飾基の導入は、アニオン性基に修飾基を導入するための化合物(「修飾用化合物」と称する。)とアニオン変性セルロースとを反応させることで達成される。修飾基を導入する方法としては、(1)イオン結合を介して導入する場合は特開2015-143336号公報を参考にすることができ、(2)アミド結合を介して導入する場合は特開2015-143337号公報を参考にすることができる。
工程2の終了後、未反応の化合物等を除去するために、後処理を適宜行ってもよい。後処理の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0046】
(1)イオン結合を介して導入する態様
アニオン変性セルロースとして酸化セルロースを使用し、修飾用化合物としてアミノ基を有する化合物(例えば、炭化水素基を有するアミン化合物、共重合部を伴う炭化水素基を有するアミン化合物及びシリコーン基を有するアミン化合物)を使用する場合、下式に示されるように、イオン結合を介してセルロースに修飾基R0、R1、R2及びR3を導入することができる。R0、R1、R2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子であってもよい(ただし、R0、R1、R2及びR3の全てが水素原子である場合を除く。)。
【0047】
【0048】
イオン結合を介して修飾基を導入する場合は、酸化セルロースと修飾用化合物を混合すればよく、これにより、酸化セルロースに含有されるカルボキシ基と、修飾用化合物のアミノ基との間でイオン結合が形成される。
【0049】
修飾用化合物
本態様で用いられる修飾用化合物としては、所望の修飾基を導入可能なものであればよく、好ましくは、前述の炭化水素基、共重合部を伴う炭化水素基、又はシリコーン基を有するアミン化合物やホスホニウム化合物が挙げられる。
【0050】
アミン化合物
アミン化合物は、例えば、修飾基として前述の炭化水素基、前述の共重合部を伴う炭化水素基、又は前述のシリコーン基を有するアミン化合物であり、かかる炭化水素基等がイオン結合を介してアニオン変性セルロースに導入されて、改質セルロースにおける修飾基となる。
【0051】
アミン化合物としては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム化合物のいずれでもよい。第4級アンモニウム化合物の陰イオン成分としては、反応性の観点から、好ましくは、塩素イオンや臭素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェイトイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヒドロキシイオンが挙げられる。
【0052】
炭化水素基を有するアミン化合物
炭化水素基を有するアミン化合物の具体例としては、第1~3級アミンとしては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、オレイルアミン、アニリン、オクタデシルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ベンジルアミンが挙げられる。第4級アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラブチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0053】
炭化水素基を有するアミン化合物は、市販品を用いるか、公知の方法に従って調製することができる。
【0054】
重合部または共重合部を伴う炭化水素基を有するアミン化合物
EO重合部、PO重合部またはEO/PO共重合部とアミン化合物の窒素原子とは、直接に又は連結基を介して結合していることが好ましい。連結基としては炭化水素基が好ましく、炭素数が好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上3以下のアルキレン基が挙げられる。例えば、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
【0055】
EO重合部、PO重合部またはEO/PO共重合部を伴う炭化水素基を有するアミンとしては、例えば、下記式(i):
【0056】
【0057】
で示される化合物が挙げられる。式(i)中のR1、a及びbは、前述のEO重合部、PO重合部またはEO/PO共重合部を伴う炭化水素基における式中のR1、a及びbと同じである。
【0058】
式(i)で表されるEO重合部、PO重合部またはEO/PO共重合部を伴う炭化水素基を有するアミン化合物は、公知の方法に従って調製することができる。例えば、プロピレングリコールアルキルエーテルにエチレンオキシド、プロピレンオキシドを所望量付加させた後、ヒドロキシ基末端をアミノ化すればよい。必要により、アルキルエーテルを酸で開裂することで末端を水素原子とすることができる。これらの製造方法は、特開平3-181448号を参照することができ、かかるアミン化合物の詳細は、例えば特許第6105139号に記載されている。
【0059】
前記EO重合部またはPO重合部を伴う炭化水素基を有するアミンは、例えば、市販品を好適に用いることができ、具体例としては、日油株式会社製のSUNBRIGHT MEPA-10H、SUNBRIGHT MEPA-20H、SUNBRIGHT MEPA-50H、SUNBRIGHT MEPA-10T、SUNBRIGHT MEPA-12T、SUNBRIGHT MEPA-20T、SUNBRIGHT MEPA-30T、SUNBRIGHT MEPA-40T等が挙げられる。前記EO/PO共重合部を伴う炭化水素基を有するアミンは、例えば、市販品を好適に用いることができ、具体例としては、HUNTSMAN社製のJeffamine M-2070、Jeffamine M-2005、Jeffamine M-2095、Jeffamine M-1000、Jeffamine M-600、Surfoamine B200、Surfoamine L100、Surfoamine L200、Surfoamine L207、Surfoamine L300、Surfoamine B-100、XTJ-501、XTJ-506、XTJ-507、XTJ-508、M3000、Jeffamine ED-600、Jeffamine ED-900、Jeffamine ED-2003、Jeffamine D-230、Jeffamine D-400、Jeffamine D-2000、Jeffamine D-4000、XTJ-510、Jeffamine T-3000、Jeffamine T-5000、XTJ-502、XTJ-509、XTJ-510等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0060】
シリコーン基を有するアミン化合物
かかるアミン化合物は、例えば、シリコーン基の骨格に、アミノ基がアルキレン基等を介して結合した構造を有するものが挙げられる。本明細書において、かかるアミン化合物を「アミノ変性シリコーン化合物」と称する場合がある。アミノ変性シリコーン化合物は、市販品を用いるか、公知の方法に従って調製することができる。アミノ変性シリコーン化合物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0061】
アミノ変性シリコーン化合物としては、性能の点から、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSF4703(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、TSF4708(動粘度:1000、アミノ当量:2800)、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のSS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、SF8457C(動粘度:1200、アミノ当量:1800)、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、BY16-892(動粘度:1500、アミノ当量:2000)、BY16-898(動粘度:2000、アミノ当量:2900)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、信越化学工業(株)製のKF8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、KF867(動粘度:1300、アミノ当量:1700)、KF-864(動粘度:1700、アミノ当量:3800)、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、BY16-853U(動粘度:14、アミノ当量:450)が好ましい。( )内において、動粘度は25℃での測定値(単位:mm2/s)を示し、アミノ当量の単位はg/molである。
【0062】
反応条件等
修飾用化合物の使用量は、反応性の観点から、酸化セルロースが有するカルボキシ基1molに対して、修飾用化合物におけるアミノ基が、好ましくは0.01mol以上となる量、より好ましくは0.1mol以上となる量、更に好ましくは0.5mol以上となる量、更に好ましくは0.7mol以上となる量、更に好ましくは1mol以上となる量であり、製品純度の観点から、好ましくは50mol以下となる量、より好ましくは20mol以下となる量、更に好ましくは10mol以下となる量である。修飾用化合物がアミノ基を複数個有する場合、アミノ基のモル数の合計が、上記モル数となるように使用する。
【0063】
混合に際しては溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、用いる化合物が溶解する溶媒を選択することが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン(THF)、、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸、水等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
混合時の温度は、化合物の反応性の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。また、改質セルロースの着色抑制の観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは30℃以下である。混合時間は、用いる化合物及び溶媒の種類に応じて適宜設定することができるが、化合物の反応性の観点から、好ましくは0.01時間以上、より好ましくは0.1時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。
【0065】
(2)アミド結合を介して導入する態様
アニオン変性セルロースとして酸化セルロースを使用し、修飾用化合物としてアミノ基を有する化合物(例えば、炭化水素基を有するアミン化合物、共重合部を伴う炭化水素基を有するアミン化合物及びシリコーン基を有するアミン化合物)を使用する場合、下式に示されるように、アミド結合を介してセルロースに修飾基R1及びR2を導入することができる。下式において、R1及びR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、いずれか一つが水素原子であってもよい。
【0066】
【0067】
アミド結合を介して修飾基を導入する場合は、公知の縮合剤の存在下で、アニオン変性セルロースと修飾用化合物の混合を行えばよく、これにより、酸化セルロースに含有されるカルボキシ基と、修飾用化合物のアミノ基とを縮合反応させてアミド結合を形成する。
【0068】
修飾用化合物
本態様で用いられる修飾用化合物としては、所望の修飾基を導入可能なものであればよく、好ましくは、前述の炭化水素基、共重合部を伴う炭化水素基、又はシリコーン基を有するアミン化合物が挙げられる。
【0069】
アミン化合物
アミン化合物は、例えば、修飾基として前述の炭化水素基、前述の共重合部を伴う炭化水素基、又は前述のシリコーン基を有するアミン化合物であり、かかる炭化水素基等がアミド結合を介してアニオン変性セルロースに導入されて、改質セルロースにおける修飾基となる。
【0070】
アミン化合物としては、第1級アミン及び第2級アミンが挙げられる。アミン化合物の具体例としては、前述の「(1)イオン結合を介して導入する態様」に例示された、炭化水素基を有するアミン化合物、共重合部を伴う炭化水素基を有するアミン化合物及びシリコーン基を有するアミン化合物のうちの第1級アミン及び第2級アミンが挙げられる。
【0071】
反応条件
修飾用化合物の使用量は、反応性の観点から、酸化セルロースが有するカルボキシ基1molに対して、修飾用化合物におけるアミノ基が、好ましくは0.1mol以上となる量、より好ましくは0.5mol以上となる量であり、製品純度の観点から、好ましくは50mol以下となる量、より好ましくは20mol以下となる量、更に好ましくは10mol以下となる量である。修飾用化合物がアミノ基を複数個有する場合、アミノ基のモル数の合計が、上記モル数となるように使用する。
【0072】
縮合剤としては、特には限定されないが、合成化学シリーズ ペプチド合成(丸善社)P116記載、又はTetrahedron, 57, 1551 (2001)記載の縮合剤などが挙げられ、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(以下、「DMT-MM」と称する場合がある。)等が挙げられる。
【0073】
アミド化反応においては溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、用いる化合物が溶解する溶媒を選択することが好ましく、溶媒の具体例としては、前述の「(1)イオン結合を介して導入する態様」で例示した溶媒が挙げられる。
【0074】
アミド化反応における反応時間及び反応温度は、用いる化合物及び溶媒の種類等に応じて適宜選択することができるが、反応率の観点から、好ましくは1~24時間、より好ましくは10~20時間である。また、反応温度は、反応性の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。また、着色等の製品品質の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは30℃以下である。
【0075】
(微細化工程)
改質セルロースの製造方法のいずれかの段階(例えば、工程1の前、工程2の前及び工程2の後)においてセルロースを微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロースをナノメータースケールに微細化することができる。平均繊維径をナノメートルサイズにまで小さくすることによって、樹脂中での分散性が向上するため、好ましい。
【0076】
微細化処理は公知の微細化処理方法を採用することができる。例えば、平均繊維径がナノメートルサイズの改質セルロースを得る場合は、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理方法や、媒体中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理方法を実施すればよい。
【0077】
媒体としては、例えば水、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数2~4のケトン;炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。媒体の使用量は、改質セルロースを分散できる有効量であればよく、改質セルロースに対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは2質量倍以上、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下使用することがより好ましい。
【0078】
微細化処理で使用する装置としては、高圧ホモジナイザー以外にも、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における改質セルロースの固形分含有量は50質量%以下が好ましい。
【0079】
〔改質セルロースの性質〕
本発明における改質セルロースの主な性質は以下の通りである。
【0080】
(平均繊維径)
改質セルロースの平均繊維径としては、修飾基の種類に関係なく、好ましくは5μm以上である。取扱い性、入手性、及びコストの観点から、より好ましくは7μm以上、更に好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。また、上限は特に設定されないが、取扱い性の観点から、好ましくは10,000μm以下、より好ましくは5,000μm以下、更に好ましくは1,000μm以下、更に好ましくは500μm以下、更に好ましくは100μm以下である。改質セルロースの平均繊維径は後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0081】
改質セルロースは、ナノメートルサイズになるように微細化処理を受けたものであってもよい。この場合の改質セルロースの平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、取扱い性及び溶媒分散性の観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。微細化処理を受けた改質セルロースの平均繊維径は後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0082】
(修飾基の結合量及び導入率)
改質セルロースにおける修飾基の結合量は、分散性の観点から、好ましくは0.01mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に改質セルロースに導入されている場合、修飾基の結合量は、前記範囲内であることが好ましい。
【0083】
改質セルロースにおける修飾基の導入率は、分散性の観点から、好ましくは10mol%以上であり、高ければ高いほど好ましく、好ましくは100mol%である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100mol%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
【0084】
修飾基の結合量及び導入率は、修飾用化合物の種類や添加量、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。修飾基の結合量(mmol/g)及び導入率(mol%)とは、改質セルロースにおいて、アニオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合のことである。改質セルロースにおける修飾基の結合量及び導入率は、例えば、アニオン性基がカルボキシ基の場合には、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0085】
(結晶構造)
改質セルロースはセルロースI型結晶構造を有することが好ましく、改質セルロースの結晶化度は、樹脂組成物の成形体の強度発現の観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0086】
〔樹脂〕
本発明における樹脂としては硬化性樹脂が好ましく、硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂が挙げられ、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0087】
硬化性樹脂がウレタン樹脂の場合、硬化性モノマーとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系やヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族系等のイソシアネートや、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルジオール、ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパン、ジメチロールプロピオン酸、イソホロンジアミン等のポリオールが挙げられる。イソシアネートとポリオールの反応物がウレタン樹脂となるが、この限りではない。列記したポリオールのオリゴマーや、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオールを硬化性プレポリマーとして用いても良い。
【0088】
硬化性樹脂が(メタ)アクリル樹脂の場合、硬化性モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸n-へキシル、メタクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、ノナンジオールジアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ビスフェノールA-アルキレンオキサイド付加体の(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなど)、ポリエステル(メタ)アクリレート(例えば、脂肪族ポリエステル型(メタ)アクリレート、芳香族ポリエステル型(メタ)アクリレートなど)、ウレタン(メタ)アクリレート(ポリエステル型ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル型ウレタン(メタ)アクリレートなど)、シリコーン(メタ)アクリレート、シアノアクリレート等のモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。列記したモノ(メタ)アクリレートのオリゴマーを硬化性プレポリマーとして用いても良い。
【0089】
硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化性モノマーとしては、例えばビスフェノールA型、フェノールノボラック型、グリシジルエーテル型、脂環型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型などのモノマーが挙げられる。列記したモノマーのオリゴマーを硬化性プレポリマーとして用いても良い。
【0090】
硬化性樹脂がユリア樹脂の場合、硬化性モノマーとして尿素とホルムアルデヒドが挙げられる。硬化性樹脂がメラミン樹脂の場合、硬化性モノマーとしてメラミンとホルムアルデヒドが挙げられる。硬化性樹脂がフェノール樹脂の場合、硬化性モノマーとしてフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノールとホルムアルデヒドが挙げられる。
【0091】
〔硬化剤及び硬化促進剤〕
樹脂が熱硬化性樹脂を含む場合、本発明の放熱用樹脂組成物は、硬化剤及び/又は硬化促進剤を含んでいてもよい。
【0092】
硬化剤としては、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、潜在性硬化剤(三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジドなど)などが挙げられる。硬化剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、硬化剤は、硬化促進剤として作用する場合もある。
【0093】
硬化剤の割合は、硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、樹脂100質量部に対して好ましくは0.1~300質量部である。
【0094】
硬化促進剤も、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化促進剤としては、例えば、ホスフィン類、アミン類などが挙げられる。硬化促進剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0095】
硬化促進剤の割合は、硬化剤の種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、樹脂100質量部に対して好ましくは0.01~100質量部である。
【0096】
〔無機粒子〕
本発明の組成物は、無機粒子を更に含有することが好ましい。無機粒子を含有することで、熱伝導率をさらに高める効果が期待できる。
無機粒子としては熱伝導性を有するものが好ましく挙げられる。具体的には、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、二酸化ケイ素が挙げられる。無機粒子は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0097】
無機粒子の平均粒子径は、放熱効果の観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、一方、同様の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。無機粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0098】
〔溶媒又は分散媒〕
放熱用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で溶媒又は分散媒を含むことができる。本発明におけるかかる溶媒等は有機溶剤や反応性の官能基を含む有機性媒体が挙げられ、塗料分野で使用されるものであれば特に限定されるものではない。
【0099】
本発明に用いられる溶媒等は、平滑性及び耐熱性の観点から、25℃における誘電率は好ましくは75以下であり、より好ましくは55以下であり、更に好ましくは45以下であり、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上である。なお、溶剤の誘電率は、液体用誘電率計Model871(日本ルフト社製)を用い25℃にて測定することができる。
【0100】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、1-ペンタノール、オクチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;酢酸等のカルボン酸類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、流動パラフィン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアニリド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸メチル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル類;ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリエーテル類;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、エステル油、サラダ油、大豆油、ヒマシ油等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0101】
反応性の官能基を含む有機性媒体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸n-へキシル、メタクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、フェニルグリシジルエーテルアクリレート等のアクリレート類;ヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタンプレポリマー類;n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ステアリン酸グリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;クロロスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0102】
溶媒又は分散媒を使用する場合、本発明の組成物中の溶媒又は分散媒の含有量は、平滑性及び耐熱性の観点から、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。一方、同様の観点から、好ましくは98質量%以下であり、より好ましくは97質量%以下であり、更に好ましくは96質量%以下である。なお、必要に応じて、本発明の組成物から溶媒又は分散媒の一部又は全部を除去しても構わない。従って、本発明の組成物は、溶液又は分散液の状態であり得、あるいは、乾燥した粉末状の状態でもあり得る。
【0103】
〔その他の成分〕
放熱用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等が含まれていても構わない。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の高分子材料や他の組成物を添加することも可能である。
【0104】
〔放熱用樹脂組成物の組成〕
本発明の組成物における改質セルロースの量は、配合量で換算して、(修飾基等を含まない)セルロース換算で、放熱性に優れる樹脂成形体を得る観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。また、本発明の組成物における改質セルロースの量は、好ましくは0.2体積%以上、より好ましくは0.4体積%以上、更に好ましくは0.8体積%以上であり、一方、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下、更に好ましくは30体積%以下、更に好ましくは10体積%以下である。放熱用樹脂組成物における各成分の体積%は、配合時の各成分の体積比から求める。
【0105】
本発明の組成物における樹脂の含有量は、配合量で換算して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、一方、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下、更に好ましくは97質量%以下である。また、本発明の組成物における樹脂の量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、更に好ましくは30体積%以上であり、一方、好ましくは99.5体積%以下、より好ましくは99体積%以下、更に好ましくは98体積%以下、更に好ましくは97体積%以下である。
【0106】
無機粒子を含有する場合、本発明の組成物における無機粒子の含有量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上であり、一方、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。
【0107】
〔放熱用樹脂組成物の製造方法〕
本発明の放熱用樹脂組成物は、例えば、前記改質セルロースと前記樹脂、必要に応じて更に溶媒等を混合することにより製造することができる。
例えば、前述の各成分を、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、ロールミル、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練することにより、あるいは、溶媒キャスト法により、あるいは、高せん断加工機といったせん断装置でせん断することによって実施することができる。
【0108】
混合時の改質セルロースの配合量は、樹脂組成物の成形体に機械物性を発現する観点から、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.06質量部以上であり、より好ましくは0.12質量部以上であり、更に好ましくは0.36質量部以上であり、更に好ましくは0.6質量部以上であり、更に好ましくは1質量部以上である。一方、製造コストの観点から、好ましくは120質量部以下であり、より好ましくは100質量部以下であり、更に好ましくは60質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0109】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、前述の本発明の放熱用樹脂組成物を成形してなるものである。樹脂成形体は、本発明の組成物を塗工成形、押出成形、射出成形、プレス成形、注型成形又は溶媒キャスト法等の公知の成形方法を適宜用いることによって製造することができる。これらの公知の成形方法の中で、生産性の観点から、塗工成形が好ましい。
【0110】
樹脂成形体における改質セルロースの量は、配合量で換算して、(修飾基等を含まない)セルロース換算で、放熱性に優れる樹脂成形体を得る観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、一方、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。また、樹脂成形体における改質セルロースの量は、好ましくは0.2体積%以上、より好ましくは0.4体積%以上、更に好ましくは0.8体積%以上であり、一方、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下、更に好ましくは30体積%以下、更に好ましくは10体積%以下である。樹脂成形体における各成分の体積%は、配合時の各成分の体積比から求める。
【0111】
樹脂成形体における樹脂の量は、配合量で換算して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、一方、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下、更に好ましくは97質量%以下である。また、樹脂成形体における樹脂の量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、更に好ましくは30体積%以上であり、一方、好ましくは99.5体積%以下、より好ましくは99体積%以下、更に好ましくは98体積%以下、更に好ましくは97体積%以下である。
【0112】
樹脂成形体が無機粒子を含有する場合、樹脂成形体における無機粒子は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上であり、一方、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。
【0113】
かくして得られた樹脂成形体は、優れた放熱性、即ち高い熱伝導率を有するので、放熱材として好適に用いることができる。樹脂成形体の放熱性の評価は、後述の実施例に記載された熱伝導率を測定することにより実施できる。
【0114】
本発明の樹脂成形体の具体的な用途の例としては、家電部品、エレクトロニクス、航空宇宙、土木建築、自動車、車載向け、光学材料、医療用材料用途等の分野において、樹脂成形材料、電気絶縁材料、塗料、インキ、コーティング剤、導電ペースト、接着剤、レンズ、透明樹脂材料、三次元造形材料、クッション材、補修材、粘着剤、シーリング材、断熱材、吸音材、人工皮革材料、電子材、包装材料、タイヤ、自動車部品、繊維複合材料、中空糸、透析膜等が挙げられる。本発明の樹脂成形体の形状は、シート状や塗膜のようなフィルム状、繊維状であってもよい。
【0115】
本発明の放熱用樹脂組成物は、電子部品、特に半導体を光、熱、湿気、ほこり、物理的衝撃などから保護するための封止材として用いることが好ましい。
また、本発明の放熱用樹脂組成物は、パワーデバイス、電磁波シールド、又は放熱樹脂基板に用いることが好ましい。
【0116】
本発明の樹脂組成物又は樹脂成形体は、下記の分野に好適に用いることができる。半導体用途、具体的には、フォトレジスト、バッファコート膜、再配線材料、バックグラインドテープ、ダイシングテープ、ダイボンドフィルム、エポキシ封止剤、フィルム状封止剤、アンダーフィル、モールドアンダーフィル、CMPスラリー、CMPパッド、高純度フッ化水素の製造等。ディスプレイ用途、具体的には、偏光子保護フィルム、表面処理フィルム、バックライト用フィルム、QDシート、プロテクトフィルム、透明導電性フィルム、カバーシート、背面板、フォルダブル用カバーシート、円偏光板用位相差フィルム、OLED用基板、OLED用封止剤、OLED用バンク材等。車載用途、具体的には、ミリ波レーダー対応加飾材料、LiDAR用光源、LiDAR用干渉フィルター、車載用レンズ材料、車載用OCA・OCR、HUD用光源、HUD用凹面鏡・平面鏡、中間膜、コネクター用端子、モーター用絶縁シート等。受動部品用途、具体的には、アルミ電解コンデンザー、フィルムコンデンサー、積層セラミックコンデンサー、インダクター、バリスタ等。電磁波材料用途、具体的には、電磁波シールド、ノイズ抑制シールド等。光材料用途、具体的には、調光ガラス・フィルム用途、プロジェクタースクリーン用フィルム用途、グラファイトシート用途、LED蛍光体材料用途。放熱材料用途、具体的には、放熱メタル基板、放熱樹脂基板用途、放熱シート、フェイズチェンジシート用途、放熱グリース用途、放熱ギャップフィラー用途、放熱性接着剤用途。
【実施例】
【0117】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0118】
〔各種セルロースの平均繊維径〕
(1)測定対象のセルロースの平均繊維径が数ナノメートル~数百ナノメートルであると見込まれる場合、次のようにしてセルロースの平均繊維径を求める。
測定対象のセルロース、またはセルロース分散体に適切な溶媒を加えて、その含有量が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製、Nanoscope III Tapping mode AFM、プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロースの繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定する。適切な溶媒とは、測定対象のセルロースが膨潤する溶媒であればよく、セルロースの場合は水やエタノールが好ましく、改質セルロース又は微細改質セルロースの場合はDMFやMEK、トルエンなどが好ましい。その際、該セルロースが確認できる顕微鏡画像において、セルロースを100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。一般に、高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6×6の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析される高さを繊維の幅とみなすことができる。
【0119】
(2)測定対象のセルロースの平均繊維径が数百ナノメートル~数千マイクロメートルであると見込まれる場合、次のようにしてセルロースの平均繊維径を求める。
測定対象のセルロースに媒体を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロースを100本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。
【0120】
〔各種セルロースのアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-701」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
【0121】
アニオン性基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)
【0122】
〔セルロースの結晶構造の確認〕
セルロース原料、アニオン変性セルロースや改質セルロース等の各種セルロースの結晶構造は、回折計(リガク社製、商品名:MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロースに圧力を印加することで、面積320mm2×厚さ1mmの平滑なペレットを調製する。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kv、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングする。
【0123】
各種セルロースの結晶構造は、上述の回折計を用いて、上述の条件で測定することにより確認する。
セルロースI型結晶構造の結晶化度は上述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0124】
〔改質セルロースにおける修飾基の結合量及び導入率〕
修飾基の結合量を次のIR測定方法によって求め、下記式によりその結合量及び導入率を算出する。IR測定は、具体的には、乾燥させたアニオン変性セルロース又は改質セルロースを赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、下記式A及びBにより、修飾基の結合量及び導入率を算出する。
<式A>
修飾基の結合量(mmol/g)=a×(b-c)÷d
a:酸化セルロースのカルボキシ基含有量(mmol/g)
b:酸化セルロースの1720cm-1のピーク強度
c:改質セルロースの1720cm-1のピーク強度
d:酸化セルロースの1720cm-1のピーク強度
1720cm-1のピーク強度:カルボン酸のカルボニル基に由来するピーク強度
<式B>
修飾基の導入率(mol%)=100×e/f
e:修飾基の結合量(mmol/g)
f:酸化セルロースのカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0125】
〔改質セルロースにおけるセルロース量(換算量)〕
改質セルロースにおけるセルロース量(換算量)とは、改質セルロース中の、修飾基を除いたセルロースの量である。本発明における改質セルロースは、修飾基の式量が相当程度(例えばグルコースの分子量よりも)大きい場合があるので、本明細書において、修飾基の式量の違いを排除して説明した方が妥当である場合、改質セルロースの量ではなく、改質セルロースを構成するセルロースの量(換算量)で表示する。
【0126】
セルロース量(換算量)は、以下の方法によって測定する。
(a)添加される「修飾用化合物」が1種類の場合
セルロース量(換算量)を下記式Eによって算出する。
<式E>:セルロース量(換算量)(g)=改質セルロースの質量(g)/〔1+修飾用化合物の分子量(g/mol)×修飾基の結合量(mmol/g)×0.001〕
(b)添加される「修飾用化合物」が2種類以上の場合
各化合物のモル比率(即ち、添加される修飾用化合物の合計モル量を1とした時のモル比率)を考慮して、セルロース量(換算量)を算出する。
【0127】
〔アニオン変性セルロースの製造〕
製造例1
針葉樹の漂白クラフトパルプ(ウエストフレザー社製、商品名:ヒントン)を天然セルロースとして用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製、10.5質量%水溶液)を用いた。臭化ナトリウムとしては市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0128】
まず、前記漂白クラフトパルプ10gを990gのイオン交換水で十分に撹拌した後、該パルプ10gに対し、TEMPO 0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液27gをこの順で添加した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT-701)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持した。撹拌速度200rpmにて反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、アニオン性基がカルボキシ基であるアニオン変性セルロースを得た。
【0129】
得られたアニオン変性セルロースの中和処理を0.01Mの塩酸で行った後、イオン交換水を用いてコンパクト電気伝導率計(堀場製作所製、LAQUAtwin EC-33B)によるろ液の電導度測定において200μs/cm以下になるまで前記アニオン変性セルロースを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。得られたアニオン変性セルロースのカルボキシ基含有量は1.3mmol/gであった。
【0130】
〔放熱用樹脂組成物の製造〕
製造例2
製造例1で最終的に得られたアニオン変性セルロースの所定量(即ち、セルロース換算で10g)、アセトン470g、ジェファーミンM2070 6.5gを混合し、25℃で1時間撹拌した。その後、エポキシ樹脂であるjER828(三菱化学社製)を470g添加し、25℃でさらに1時間撹拌した。得られた混合液を、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150MPaで5パス、分散処理に供した。得られた分散液から溶媒を除去して、改質セルロース及び樹脂を含有する放熱用樹脂組成物を得た。得られた改質セルロースの修飾基の結合量は0.34mmol/g、修飾基の導入率は26mol%、セルロースI型結晶化度は65%であった。
【0131】
製造例3
製造例2で得られた放熱用樹脂組成物50gとjER828 50gを混合後、60℃で30分間撹拌し、改質セルロース及び樹脂を含有する放熱用樹脂組成物を得た。
【0132】
製造例4
製造例2で得られた放熱用樹脂組成物25gとjER828 75gを混合後、60℃で30分間撹拌し、改質セルロース及び樹脂を含有する放熱用樹脂組成物を得た。
【0133】
上記製造例における改質セルロースの性質や放熱用樹脂組成物の組成(各成分の質量%及び体積%)を表1にまとめた。表1中、括弧内の数値が改質セルロース及び樹脂のそれぞれの体積%である。
【0134】
【0135】
〔樹脂成形体の製造〕
実施例1
製造例2で得られた放熱用樹脂組成物80gに硬化剤として2-エチル-4メチル-イミダゾール2.32gを加え、自動公転式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて常温下、撹拌2分、脱泡2分行った。その後、得られた混合物を注型鋳型に注入し、熱風循環オーブン中で60℃で4時間加熱した後、更に150℃4時間加熱して熱硬化させて、樹脂成形体を製造した。ここで用いた注型鋳型は、縦200mm、横200mmのアルミ板(3mm厚)2枚を、φ3mmシリコーンゴムをスペーサーとして重ねてクリップで固定したものである。
【0136】
実施例2
製造例3で得られた放熱用樹脂組成物を用い、2-エチル-4-メチル-イミダゾールを2.36gに変更したこと以外は実施例1と同様の処理を行って、樹脂成形体を製造した。
【0137】
実施例3
製造例4で得られた放熱用樹脂組成物を用い、2-エチル-4-メチル-イミダゾールを2.38gに変更したこと以外は実施例1と同様の処理を行って、樹脂成形体を製造した。
【0138】
比較例1
製造例2で得られた放熱用樹脂組成物の代わりにjER828を用い、2-エチル-4-メチル-イミダゾールを2.40gに変更したこと以外は実施例1と同様の処理を行って、樹脂成形体を製造した。
【0139】
試験例1(樹脂成形体の放熱性の評価:樹脂成形体の熱伝導率の測定)
実施例及び比較例のそれぞれで得られた樹脂成形体を10mm×80mmに切削加工して、試験に供した。
樹脂成形体の放熱性評価として、得られた樹脂成形体の熱伝導率を測定した。樹脂成形体の熱伝導率は、23℃においてホットディスク法熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製、TPS2500)を用いて測定した。樹脂成形体1枚あたり3点測定し、その平均値を用いた。結果を表2及び
図1に示す。
【0140】
【0141】
表2及び表2のデータをまとめた
図1から、組成物中の改質セルロースの量を増やすことにより、樹脂成形体の熱伝導率が高まる、即ち高い放熱性が発現されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の放熱用樹脂組成物を成形して得られた樹脂成形体は、家電部品、エレクトロニクス、航空宇宙、土木建築、自動車、車載向け、受動部品、電磁波材料用途等の分野に好適に用いることができる。