(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】眼科装置及びその作動方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20240906BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A61B3/10
A61B3/113
(21)【出願番号】P 2020161936
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2020053922
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】大木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 貴朗
(72)【発明者】
【氏名】青木 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】小野 佑介
【審査官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-248376(JP,A)
【文献】特開2014-113385(JP,A)
【文献】特開平07-116118(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0085252(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0313468(US,A1)
【文献】特開平07-213486(JP,A)
【文献】特開平11-276436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の顔を支持する顔支持部と、
前記顔支持部により前記顔が支持されている前記被検者の被検眼の前眼部像を繰り返し取得する前眼部像取得部と、
前記前眼部像取得部が前記前眼部像を取得するごとに、前記前眼部像に含まれる前記被検眼の瞳孔に対応する瞳孔像に基づき、前記被検眼の位置及び回旋角度を検出する変位検出部と、
前記変位検出部の検出結果に基づき、前記顔支持部により前記顔が適正に支持されているか否かを判定する判定部と、
を備える眼科装置。
【請求項2】
前記判定部が、前記変位検出部の検出結果に基づき、前記顔の動き量が予め定められた閾値内となる第1条件、及び前記被検眼の回旋角度が前記被検眼の固視微動に応じた範囲内に収まる第2条件の両方が満たされる場合には、前記顔支持部により前記顔が適正に支持されていると判定し、前記第1条件及び前記第2条件の少なくとも一方が満たされない場合には前記顔支持部により前記顔が適正に支持されていないと判定する請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記前眼部像取得部が、前記被検眼を互いに異なる方向から撮影する複数のカメラの少なくともいずれか1つから前記前眼部像を繰り返し取得する請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記前眼部像取得部が、対物レンズを通して前記被検眼の撮影を行う前眼部観察系から前記前眼部像を繰り返し取得する請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記変位検出部が、前記前眼部像内の前記瞳孔像の位置及び形状に基づき、前記被検眼の位置及び回旋角度を検出する請求項1から4のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記前眼部像取得部が、前記被検眼を互いに異なる方向から撮影する複数のカメラから前記前眼部像を繰り返し取得し、
前記変位検出部が、前記前眼部像取得部が取得した前記カメラごとの前記前眼部像内の前記瞳孔像に基づき前記瞳孔の3次元位置及び3次元形状を検出し、前記瞳孔の3次元位置及び3次元形状の検出結果に基づき、前記被検眼の位置及び回旋角度を検出する請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項7】
被検眼の眼特性の取得又は手術に用いられる眼科装置本体と、
前記被検眼に対して前記眼科装置本体を相対移動させる相対移動機構と、
前記前眼部像取得部が取得した前記前眼部像に基づき、前記眼科装置本体に対する前記被検眼の相対位置を検出する相対位置検出部と、
前記相対位置検出部の検出結果に基づき、前記相対移動機構を駆動して、前記被検眼に対して前記眼科装置本体のアライメントを実行するアライメント制御部と、
を備える請求項1から6のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記判定部が前記顔支持部により前記顔が適正に支持されていないと判定した場合に、前記判定部の判定結果を報知する報知部を備える請求項1から7のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記報知部が、前記顔支持部により前記顔が適正に支持されていないことを示す警告情報を外部出力する請求項8に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記顔支持部による前記顔の支持位置を変更する支持位置変更機構を有し、
前記報知部が、前記支持位置変更機構を駆動して前記支持位置を変更させる請求項8に記載の眼科装置。
【請求項11】
前記顔支持部による前記顔の支持位置を変更可能な支持位置変更機構と、
前記顔支持部により前記顔が適正に支持されていないと前記判定部が判定した場合に、前記支持位置変更機構を駆動して、前記顔の支持位置を変更する支持位置変更制御部と、
前記支持位置変更機構により前記顔の支持位置が変更された場合に、前記前眼部像取得部、前記変位検出部、及び前記判定部を繰り返し作動させる再判定制御部と、
を備える請求項1から7のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項12】
前記顔支持部による前記顔の支持位置を変更可能な支持位置変更機構と、
前記顔支持部により前記顔が適正に支持されていないと前記判定部が判定した場合に、前記支持位置変更機構を駆動して、前記顔の支持位置を変更する支持位置変更制御部と、
前記支持位置変更機構により前記顔の支持位置が変更される間、前記前眼部像取得部による前記前眼部像の取得を繰り返し実行させる画像取得制御部と、
前記前眼部像取得部が繰り返し取得した前記前眼部像に基づき、前記支持位置変更機構により前記顔の支持位置が変更される間の前記被検眼の移動量を検出する被検眼移動量検出部と、
前記被検眼移動量検出部の検出結果が、前記支持位置変更機構による前記顔の支持位置の変更量に一致しているか否かに基づき、前記顔支持部により前記顔が適正に支持されているか否かを再判定する再判定部と、
を備える請求項1から7のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項13】
前記支持位置変更機構により前記顔の支持位置が変更される間、前記前眼部像取得部が繰り返し取得した前記前眼部像を表示部に動画表示させる表示制御部と、
前記前眼部像取得部が取得した前記前眼部像から、前記被検眼の特定部位の像を検出する特定部位検出部と、
前記支持位置変更機構による前記顔の支持位置の変更開始時の前記特定部位検出部の検出結果と、予め定められた前記顔の支持位置の変更量とに基づき、前記顔の支持位置の変更後の前記前眼部像内での前記特定部位の適正位置を決定する位置決定部と、
を備え、
前記表示制御部が、前記表示部に表示される前眼部像に対して、前記位置決定部が決定した前記適正位置を示す指標を重畳表示させる請求項12に記載の眼科装置。
【請求項14】
前記表示制御部が、前記表示部に表示される前眼部像に対して、さらに前記被検眼の実際の移動量を判別可能にする目盛りを重畳表示させる請求項13に記載の眼科装置。
【請求項15】
対物レンズを通して前記被検眼に固視標の固視光を投射する固視光学系と、
前記変位検出部による前記被検眼の位置及び回旋角度の検出結果に基づき、前記瞳孔の位置の変動が、前記被検眼の眼球回旋点を中心とする前記瞳孔の回旋運動であるか否かを判定する回旋運動判定部と、
を備える請求項1から14のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項16】
前記回旋運動判定部により前記瞳孔の位置の変動が前記瞳孔の回旋運動であると判定された場合に、前記回旋運動判定部の判定結果の報知を行う固視報知部を備える請求項15に記載の眼科装置。
【請求項17】
顔支持部により顔が支持されている被検者の被検眼の前眼部像を繰り返し取得する前眼部像取得ステップと、
前記前眼部像取得ステップで前記前眼部像を取得するごとに、前記前眼部像に含まれる前記被検眼の瞳孔に対応する瞳孔像に基づき、前記被検眼の位置及び回旋角度を検出する変位検出ステップと、
前記変位検出ステップの検出結果に基づき、前記顔支持部により前記顔が適正に支持されているか否かを判定する判定ステップと、
を有する眼科装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の顔を支持する顔支持部を備える眼科装置及びその作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科では、被検眼の眼底撮影像、眼底断層像、眼屈折力、眼圧、角膜内皮細胞の数、及び角膜形状などの各種の眼特性の取得(測定、撮影、及び観察等)を眼科装置により行う。この場合には、取得する眼特性の精度、確度及び画質等の観点から、被検眼に対する眼科装置の測定ヘッド(光学系)の位置合わせ、すなわちアライメントが極めて重要となる。このため、眼科装置では、被検者の顔を顎受け等の顔支持部により支持している状態で測定ヘッドに対する被検眼の相対位置を検出し、この検出結果に基づき被検眼に対して光学系を相対移動させることにより、アライメントを自動で行う所謂フルオートアライメント(以下、単にオートアライメントという)を行うことが通常である。
【0003】
例えば特許文献1及び特許文献2には、顔支持部により支持された顔に対向する位置に配置されたステレオカメラを備え且つこのステレオカメラにより被検眼の前眼部を互いに異なる方向から同時撮影する眼科装置が開示されている。この眼科装置では、ステレオカメラの撮影画像を解析して検出した被検眼の3次元位置に基づき、被検眼に対する測定ヘッドのオートアライメントを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-248376号公報
【文献】特開2014-200678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、顎受け等の顔支持部により被検者の顔が適正に支持されていない場合、例えば顎受けから被検者の顔が浮いている場合には、被検眼の眼特性の取得中に顔(被検眼)が動いてしまうことがある。その結果、取得する眼特性の精度が低くなったり或いは眼特性の取得に失敗したりするおそれがある。例えば被検眼の眼底撮影中に顔が動くと、眼底撮影像にボケ及びフレアが発生したり、或いは眼底撮影に失敗したりしてしまう。このような問題は、オートアライメントの精度をどれだけ高くしたとしても解決することができない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、顔支持部により被検者の顔を適正に支持することができる眼科装置及びその作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための眼科装置は、被検者の顔を支持する顔支持部と、顔支持部により顔が支持されている被検者の被検眼の前眼部像を繰り返し取得する前眼部像取得部と、前眼部像取得部が前眼部像を取得するごとに、前眼部像に含まれる被検眼の瞳孔に対応する瞳孔像に基づき、被検眼の位置及び回旋角度を検出する変位検出部と、変位検出部の検出結果に基づき、顔支持部により顔が適正に支持されているか否かを判定する判定部と、を備える。
【0008】
この眼科装置によれば、顔支持部により被検者の顔が適正に支持されているか否かを判定することができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、判定部が、変位検出部の検出結果に基づき、顔の動き量が予め定められた閾値内となる第1条件、及び被検眼の回旋角度が被検眼の固視微動に応じた範囲内に収まる第2条件の両方が満たされる場合には、顔支持部により顔が適正に支持されていると判定し、第1条件及び第2条件の少なくとも一方が満たされない場合には顔支持部により顔が適正に支持されていないと判定する。これにより、顔支持部により被検者の顔が適正に支持されているか否かを判定することができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、前眼部像取得部が、被検眼を互いに異なる方向から撮影する複数のカメラの少なくともいずれか1つから前眼部像を繰り返し取得する。眼科装置の既存のカメラを利用することで、眼科装置のソフトウェアを改修するだけで顔支持部により被検者の顔が適正に支持されているか否かを判定することができる。
【0011】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、前眼部像取得部が、対物レンズを通して被検眼の撮影を行う前眼部観察系から前眼部像を繰り返し取得する。眼科装置の既存の前眼部観察系を利用することで、眼科装置のソフトウェアを改修するだけで顔支持部により被検者の顔が適正に支持されているか否かを判定することができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、前眼部像内の瞳孔像の位置及び形状に基づき、被検眼の位置及び回旋角度を検出する。これにより、顔支持部により被検者の顔が適正に支持されているか否かを判定することができる。
【0013】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、前眼部像取得部が、被検眼を互いに異なる方向から撮影する複数のカメラから前眼部像を繰り返し取得し、変位検出部が、前眼部像取得部が取得したカメラごとの前眼部像内の瞳孔像に基づき瞳孔の3次元位置及び3次元形状を検出し、瞳孔の3次元位置及び3次元形状の検出結果に基づき、被検眼の位置及び回旋角度を検出する。眼科装置の既存のカメラを利用することで、眼科装置のソフトウェアを改修するだけで顔支持部により被検者の顔が適正に支持されているか否かを判定することができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、被検眼の眼特性の取得又は手術に用いられる眼科装置本体と、被検眼に対して眼科装置本体を相対移動させる相対移動機構と、前眼部像取得部が取得した前眼部像に基づき、眼科装置本体に対する被検眼の相対位置を検出する相対位置検出部と、相対位置検出部の検出結果に基づき、相対移動機構を駆動して、被検眼に対して眼科装置本体のアライメントを実行するアライメント制御部と、を備える。これにより、顔支持部により顔が適正に支持されているか否かの判定の処理と、オートアライメントの処理とを並行して行うことができる。
【0015】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、判定部が顔支持部により顔が適正に支持されていないと判定した場合に、判定部の判定結果を報知する報知部を備える。これにより、顔支持部により顔が適正に支持されていないことを検者に報知することができる。
【0016】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、報知部が、顔支持部により顔が適正に支持されていないことを示す警告情報を外部出力する。これにより、顔支持部により顔が適正に支持されていないことを検者に報知することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、顔支持部による顔の支持位置を変更する支持位置変更機構を有し、報知部が、支持位置変更機構を駆動して支持位置を変更させる。これにより、顔支持部により顔が適正に支持されていないことを被検者にも報知すること
ができる。
【0018】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、顔支持部による顔の支持位置を変更可能な支持位置変更機構と、顔支持部により顔が適正に支持されていないと判定部が判定した場合に、支持位置変更機構を駆動して、顔の支持位置を変更する支持位置変更制御部と、支持位置変更機構により顔の支持位置が変更された場合に、前眼部像取得部、変位検出部、及び判定部を繰り返し作動させる再判定制御部と、を備える。これにより、検者が何らの操作或いは注意喚起を行うことなく顔支持部により顔を適正に支持させることができるので、検者の手間を減らすことができる。
【0019】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、顔支持部による顔の支持位置を変更可能な支持位置変更機構と、顔支持部により顔が適正に支持されていないと判定部が判定した場合に、支持位置変更機構を駆動して、顔の支持位置を変更する支持位置変更制御部と、支持位置変更機構により顔の支持位置が変更される間、前眼部像取得部による前眼部像の取得を繰り返し実行させる画像取得制御部と、前眼部像取得部が繰り返し取得した前眼部像に基づき、支持位置変更機構により顔の支持位置が変更される間の被検眼の移動量を検出する被検眼移動量検出部と、被検眼移動量検出部の検出結果が、支持位置変更機構による顔の支持位置の変更量に一致しているか否かに基づき、顔支持部により顔が適正に支持されているか否かを再判定する再判定部と、を備える。これにより、検者が何らの操作或いは注意喚起を行うことなく、顔の支持位置の変更と再判定とを自動的に行うことで顔支持部により顔を適正に支持させられる。その結果、検者の手間を減らすことができる。
【0020】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、支持位置変更機構により顔の支持位置が変更される間、前眼部像取得部が繰り返し取得した前眼部像を表示部に動画表示させる表示制御部と、前眼部像取得部が取得した前眼部像から、被検眼の特定部位の像を検出する特定部位検出部と、支持位置変更機構による顔の支持位置の変更開始時の特定部位検出部の検出結果と、予め定められた顔の支持位置の変更量とに基づき、顔の支持位置の変更後の前眼部像内での特定部位の適正位置を決定する位置決定部と、を備え、表示制御部が、表示部に表示される前眼部像に対して、位置決定部が決定した適正位置を示す指標を重畳表示させる。これにより、被検者の顔が顔支持部により適正に支持されているか否かを確認することができる。
【0021】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、表示制御部が、表示部に表示される前眼部像に対して、さらに被検眼の実際の移動量を判別可能にする目盛りを重畳表示させる。
【0022】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、対物レンズを通して被検眼に固視標の固視光を投射する固視光学系と、変位検出部による被検眼の位置及び回旋角度の検出結果に基づき、瞳孔の位置の変動が、被検眼の眼球回旋点を中心とする瞳孔の回旋運動であるか否かを判定する回旋運動判定部と、を備える。これにより、瞳孔の位置の変動が、眼球回旋点を中心とする瞳孔の回旋運動と、眼球回旋点の移動或いは固視微動に応じた変動と、のいずれであるかを判別(解析分離)することができる。
【0023】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、回旋運動判定部により瞳孔の位置の変動が瞳孔の回旋運動であると判定された場合に、固視標に対する被検眼の固視を促す報知を行う固視報知部と、を備える。これにより、被検者に固視標の固視を促すことができる。
【0024】
本発明の目的を達成するための眼科装置の作動方法は、顔支持部により顔が支持されている被検者の被検眼の前眼部像を繰り返し取得する前眼部像取得ステップと、前眼部像取得ステップで前眼部像を取得するごとに、前眼部像に含まれる被検眼の瞳孔に対応する瞳孔像に基づき、被検眼の位置及び回旋角度を検出する変位検出ステップと、変位検出ステップの検出結果に基づき、顔支持部により顔が適正に支持されているか否かを判定する判定ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、顔支持部により被検者の顔を適正に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】被検者側から見た第1実施形態の眼科装置の正面斜視図である。
【
図2】検者側から見た眼科装置の背面斜視図である。
【
図3】眼科装置の測定ヘッドの構成の一例を示す概略図である。
【
図4】第1実施形態の眼科装置の演算制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図5】第1検出部による瞳孔像の検出処理を説明するための説明図である。
【
図6】第1解析部による被検眼の位置及び回旋角度の検出方法の一例を説明するための説明図である。
【
図7】モニタによる警告情報の表示(報知)の一例を示した説明図である。
【
図8】顔支持部により被検者の顔が適正に支持されていないことを被検者に対して報知する例を示した説明図である。
【
図9】第1実施形態の眼科装置による被検眼の眼特性の取得処理、特に顔支持判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態の眼科装置の演算制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図11】第2解析部による被検眼の位置及び回旋角度の検出方法の一例を説明するための説明図である。
【
図12】第2実施形態の眼科装置による被検眼の眼特性の取得処理、特に顔支持判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】第3実施形態の眼科装置の演算制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図14】第3実施形態の眼科装置による被検眼の眼特性の取得処理、特に顔支持判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】第4実施形態の眼科装置の演算制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図16】顔支持部により顔の支持位置が変更される間に表示制御部がモニタに表示せる観察画面の一例を示した説明図である。
【
図17】被検眼移動量検出部による被検眼Eの移動量の検出を説明するための説明図である。
【
図18】再判定部による再判定を説明するための説明図である。
【
図19】第4実施形態の眼科装置による被検眼の眼特性の取得処理、特に被検者の顔が顔支持部により適正に支持されているか否かの再判定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態の眼科装置の全体構成]
図1は、被検者側から見た第1実施形態の眼科装置10の正面斜視図である。
図2は、検者側から見た眼科装置10の背面斜視図である。なお、図中のX方向は被検者を基準とした左右方向(
図3に示す被検眼Eの眼幅方向)であり、Y方向は上下方向であり、Z方向は被検者に近づく前方向と被検者から遠ざかる後方向とに平行な前後方向(作動距離方向ともいう)である。
【0028】
図1及び
図2に示すように、眼科装置10は、眼底カメラと、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:OCT)を用いて断層像であるOCT画像を得る光干渉断層計と、を組み合わせた複合機である。眼科装置10は、被検眼E(
図3参照)の眼特性として、眼底Ef(
図3参照)の眼底撮影像及びOCT画像を取得(測定、撮影、及び観察等)する。この眼科装置10は、ベース11と、顔支持部12と、架台13と、測定ヘッド14と、を備える。
【0029】
ベース11には、顔支持部12及び架台13が設けられている。
【0030】
顔支持部12は、測定ヘッド14のZ方向の前方向側の位置において、ベース11と一体に設けられている。この顔支持部12は、Y方向(上下方向)に位置調整可能な顎受け12a及び額当て12bを有しており、被検者の顔を測定ヘッド14(後述の対物レンズ43)等の眼科装置本体に対向する位置に支持する。
【0031】
また、顔支持部12には、本発明の支持位置変更機構に相当する電動昇降機構12cが設けられている。電動昇降機構12cは、モータ駆動機構等の公知のアクチュエータであり、後述の演算制御ユニット22(
図3参照)の制御の下、顎受け12a及び額当て12bをY方向に移動させる。これにより、被検者の顔の支持位置が変更可能になる。
【0032】
さらに、顔支持部12には外部固視灯15が設けられている。外部固視灯15は、固視光を出射する光源を有し、この光源の位置及び固視光の出射方向を任意に調整することができる。この外部固視灯15は外部固視に用いられる。外部固視は、外部固視灯15の光源の位置を調整することで被検眼E(
図3参照)を任意の方向に回旋させたり、或いは内部固視時よりも大きく回旋させたり、或いは内部固視が行えない場合に被検眼E又は僚眼の視線を誘導することで被検眼Eの向きを調整したりする固視方式である。
【0033】
架台13は、ベース11に対してX方向及びZ方向(前後左右方向)に移動可能に設けられている。この架台13上には操作部16が設けられている。また、架台13上には測定ヘッド14がY方向に移動可能に設けられている。
【0034】
また、架台13には、本発明の相対移動機構に相当する電動駆動機構17(
図3参照)が設けられている。電動駆動機構17は、モータ駆動機構等の公知のアクチュエータであり、後述の演算制御ユニット22(
図3参照)の制御の下、架台13をXZ方向に移動させると共に測定ヘッド14をY方向に移動させる。これにより、被検眼Eに対して測定ヘッド14がXYZ方向に相対移動される。
【0035】
操作部16は、架台13上で且つ測定ヘッド14のZ方向の後方向側(検者側)の位置に設けられている。操作部16には、眼科装置10の各種操作を行うための操作ボタンの他、操作レバー16aが設けられている。
【0036】
操作レバー16aは、測定ヘッド14をXYZの各方向に手動で移動させるための操作部材である。例えば、操作レバー16aがZ方向(前後方向)又はX方向(左右方向)に傾倒操作されると、上述の電動駆動機構17(
図3参照)により測定ヘッド14がZ方向又はX方向に移動される。また、操作レバー16aがその長手軸周りに回転操作されると、その回転操作方向に応じて、電動駆動機構17により測定ヘッド14がY方向(上下方向)に移動される。
【0037】
測定ヘッド14は、本発明の眼科装置本体を構成する。この測定ヘッド14には、後述の
図3に示す眼底カメラユニット14a及びOCTユニット14bが内蔵されている。また、測定ヘッド14のZ方向の後方向側(検者側)の背面にはモニタ18が設けられている。また、測定ヘッド14のZ方向の前方向側(被検者側)の正面にはレンズ収容部19が設けられている。
【0038】
モニタ18は、例えばタッチパネル式の液晶表示装置が用いられる。このモニタ18は、被検眼E(
図3参照)の各種の撮影データの画面、及び各種の設定操作のための入力画面などを表示する。なお、モニタ18は、入力画面を表示する場合には上述の操作部16として機能する。
【0039】
レンズ収容部19は、眼底カメラユニット14a(
図3参照)の一部を構成し且つZ方向に平行な光軸OA(
図3参照)を有する対物レンズ43を収容している。
【0040】
また、レンズ収容部19には、図示は省略するが、対物レンズ43を囲むようにその周方向に沿って等間隔で配置された複数の固視孔(固視灯ともいう)が設けられている。各固視孔は、周辺固視及び被検眼E(
図3参照)の隅角(虹彩の端)の撮影等に用いられるものであり、操作部16での操作に応じて選択的に固視光をZ方向に出射する。なお、周辺固視は、各固視孔を選択的に点灯させることで所望の方向に被検眼Eを大きく回旋させる固視方式である。
【0041】
さらに、測定ヘッド14の正面であって且つレンズ収容部19の近傍位置には、本発明の複数のカメラに相当するステレオカメラ20が設けられている。ステレオカメラ20は、第1カメラ20a及び第2カメラ20bを有する。第1カメラ20a及び第2カメラ20bは、測定ヘッド14のZ方向の前方向側の面[被検眼E(
図3参照)に対向する面]において、対物レンズ43をその左右から挟み込むように配置されている。
【0042】
[測定ヘッド]
図3は、眼科装置10の測定ヘッド14の構成の一例を示す概略図である。
図3に示すように、測定ヘッド14は、眼底カメラユニット14a、OCTユニット14b、及びステレオカメラ20を備えると共に、演算制御ユニット22に接続している。
【0043】
眼底カメラユニット14aは、従来の眼底カメラとほぼ同様の光学系を有しており、対物レンズ43を通して、被検眼Eの前眼部Ea等の各種観察像を取得(撮影)すると共に被検眼Eの眼特性として眼底Efの眼底撮影像を取得する。このため、眼底カメラユニット14aは、本発明の前眼部観察系として機能すると共に、被検眼Eの眼特性(眼底撮影像)を取得する眼特性取得部として機能する。
【0044】
OCTユニット14bは、対物レンズ43及び眼底カメラユニット14aの一部の光学系を通して、被検眼Eの眼特性として眼底EfのOCT画像を取得する。このため、OCTユニット14bについても、被検眼Eの眼特性(OCT画像)を取得する眼特性取得部として機能する。
【0045】
演算制御ユニット22は、例えばベース11内或いは測定ヘッド14内に収容されており、各種の演算処理及び制御処理等を実行するパーソナルコンピュータ等の演算処理装置である。
【0046】
<眼底カメラユニット>
眼底カメラユニット14aは、前眼部Ea等の観察像、及び眼底Efの表面形態を表す2次元画像である眼底撮影像を取得するための光学系として、照明光学系30及び撮像光学系50を備える。
【0047】
照明光学系30は、眼底Efに対して照明光を照射する。撮像光学系50は、眼底Efで反射された照明光の眼底反射光を、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型又はCCD(Charge Coupled Device)型の撮像素子57,60に導く。また、撮像光学系50は、OCT光学系80(OCTユニット14b)から出力された信号光を眼底Efに導くと共に、眼底Efを経由した信号光をOCT光学系80に導く。
【0048】
照明光学系30は、観察光源31、反射ミラー32、集光レンズ33、可視カットフィルタ34、撮影光源35、ミラー36、リレーレンズ37,38、絞り39、リレーレンズ40、孔開きミラー41、ダイクロイックミラー42、及び対物レンズ43等を備える。
【0049】
撮像光学系50は、既述の対物レンズ43、ダイクロイックミラー42、及び孔開きミラー41の他に、合焦レンズ51、ミラー52、ハーフミラー53、視標表示部54、ダイクロイックミラー55、集光レンズ56、撮像素子57、ミラー58、集光レンズ59、及び撮像素子60等を備える。
【0050】
観察光源31は、例えばハロゲンランプ又はLED(light emitting diode)等が用いられ、観察照明光を出射する。観察光源31から出射された観察照明光は、反射ミラー32により反射され、集光レンズ33を経由して可視カットフィルタ34を透過することにより近赤外光となる。可視カットフィルタ34を透過した観察照明光は、撮影光源35の近傍にて一旦集束し、ミラー36により反射され、リレーレンズ37,38、絞り39、及びリレーレンズ40を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー41の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射された後、ダイクロイックミラー42を透過し、さらに対物レンズ43により屈折されて眼底Efを照明する。
【0051】
観察照明光の眼底反射光は、対物レンズ43により屈折され、ダイクロイックミラー42、孔開きミラー41の中心領域に形成された孔部、及び合焦レンズ51を経由した後、ミラー52により反射される。さらに、この眼底反射光は、ハーフミラー53を透過した後、ダイクロイックミラー55により反射されることで、集光レンズ56により撮像素子57の受光面に結像される。撮像素子57は、眼底反射光を撮像(受光)して撮像信号を後述の演算制御ユニット22へ出力する。演算制御ユニット22は、撮像素子57から出力された撮像信号に基づく各種観察像をモニタ18に表示させる。なお、撮像光学系50のピントが被検眼Eの前眼部Eaに調整されている場合には前眼部Eaの観察像がモニタ18に表示され、撮像光学系50のピントが眼底Efに調整されている場合には眼底Efの観察像がモニタ18に表示される。
【0052】
撮影光源35は、例えばキセノンランプ又はLED光源等が用いられ、撮影照明光を出射する。撮影光源35から出射された撮影照明光は、既述の観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。撮影照明光の眼底反射光は、観察照明光の眼底反射光と同様の経路を通ってダイクロイックミラー55まで導かれ、このダイクロイックミラー55を透過した後、ミラー58により反射されることで、集光レンズ59により撮像素子60の受光面に結像される。
【0053】
撮像素子60は、眼底反射光を撮像(受光)して撮像信号を後述の演算制御ユニット22へ出力する。演算制御ユニット22は、撮像素子60から出力された撮像信号に基づく眼底撮影像をモニタ18に表示させる。なお、各種観察像を表示するモニタ18と眼底撮影像を表示するモニタ18とは、同一のものであってもよいし、互いに異なるものであってもよい。
【0054】
視標表示部54は、他の光学系と共に本発明の固視光学系を構成する。この視標表示部54は、対物レンズ43を通して被検眼Eに固視標(輝点像)の固視光を投射する内部固視に用いられるものであり、例えばドットマトリクス液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)及びマトリクス発光ダイオード(LED)などが用いられる。この視標表示部54は固視標を表示する。また、視標表示部54は、固視標の表示態様(形状等)及び表示位置を任意に設定可能である。
【0055】
視標表示部54に表示された固視標の固視光は、その一部がハーフミラー53にて反射された後、ミラー52、合焦レンズ51、ダイクロイックミラー55、孔開きミラー41の孔部、ダイクロイックミラー42、及び対物レンズ43を経て被検眼Eに投射される。これにより、対物レンズ43を通して、被検眼Eに対して固視標及び視力測定用視標などが提示される。
【0056】
眼底カメラユニット14aは、フォーカス光学系70を備える。フォーカス光学系70は、眼底Efに対してフォーカス(ピント)を合わせるためのスプリット指標を生成する。フォーカス光学系70は、既述の対物レンズ43、ダイクロイックミラー42、及び孔開きミラー41の他に、LED71、リレーレンズ72、スプリット指標板73、二孔絞り74、ミラー75、集光レンズ76、及び反射棒77を備える。
【0057】
反射棒77の反射面は、フォーカス光学系70によるフォーカス調整が行われる場合に照明光学系30の光路上にセットされる。LED71から出射されたフォーカス光は、リレーレンズ72を通過し、スプリット指標板73により2つの光束に分離された後、二孔絞り74、ミラー75、及び集光レンズ76を経て反射棒77の反射面に一旦結像され、この反射面にてリレーレンズ40に向けて反射される。さらにフォーカス光は、リレーレンズ40、孔開きミラー41、ダイクロイックミラー42、及び対物レンズ43を経て眼底Efに投射される。
【0058】
フォーカス光の眼底反射光は、対物レンズ43、ダイクロイックミラー42、及び孔開きミラー41の孔部を経由し、その一部がダイクロイックミラー55を透過した後、合焦レンズ51、ミラー52、ハーフミラー53、ダイクロイックミラー55、及び集光レンズ56を経て撮像素子57により撮像される。撮像素子57は、フォーカス光の眼底反射光を撮像して撮像信号を出力する。これにより、モニタ18に観察画像と共にスプリット指標が表示される。後述の演算制御ユニット22は、従来と同様に、スプリット指標の位置を解析して合焦レンズ51等を移動させてピント合わせを自動で行う。また、モニタ18に表示されるスプリット指標に基づき検者が手動でピント合わせを行ってもよい。
【0059】
ダイクロイックミラー42は、眼底撮影用の光路からOCT光学系80の光路を分岐させている。ダイクロイックミラー42は、OCT計測に用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。このOCT光学系80の光路には、OCTユニット14b側から順に、コリメータレンズユニット81と、光路長変更部82と、ガルバノスキャナ83と、合焦レンズ84と、ミラー85と、リレーレンズ86と、が設けられている。
【0060】
光路長変更部82は、例えばコーナーキューブと、これを移動する機構と、を含む。光路長変更部82は、図中に示す矢印の方向に移動可能とされ、OCT光学系80の光路長を変更する。この光路長の変更は、被検眼Eの眼軸長に応じた光路長の補正、及び干渉状態の調整などに利用される。
【0061】
ガルバノスキャナ83は、OCT光学系80の光路を通過する信号光の進行方向を変更する。これにより、眼底Efを信号光で走査することができる。ガルバノスキャナ83は、たとえば、信号光をX方向に走査するガルバノミラーと、Y方向に走査するガルバノミラーと、これらを独立に駆動する機構とを含む。これにより、信号光をXY平面上の任意の方向に走査することができる。
【0062】
<OCTユニット>
OCTユニット14bは、眼底EfのOCT画像の取得に用いられる干渉光学系を備える。このOCTユニット14bは、公知のOCT装置と同様に、低コヒーレンス光を参照光と信号光に分割し、眼底Efを経由した信号光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル成分を検出する。OCTユニット14bによる検出結果(検出信号)は、演算制御ユニット22へ出力される。なお、OCTユニット14bの具体的な構成については公知技術(例えば上記特許文献1参照)であるので、ここでは具体的な説明は省略する。
【0063】
<ステレオカメラ>
ステレオカメラ20を構成する第1カメラ20a及び第2カメラ20bは、前眼部Eaを互いに異なる方向、本実施形態では左右方向から同時(略同時を含む)且つ連続的に撮影(動画撮影)する。なお、図中の符号OBは、第1カメラ20a及び第2カメラ20bの光軸である。
【0064】
第1カメラ20aは、左右方向の一方向側から前眼部Eaを連続撮影し、この前眼部Eaの観察像である前眼部像D1(
図4参照)を演算制御ユニット22に出力する。第2カメラ20bは、左右方向の他方向側から前眼部Eaを連続撮影し、この前眼部Eaの観察像である前眼部像D2(
図4参照)を演算制御ユニット22に出力する。なお、第1カメラ20a及び第2カメラ20bの配置が逆でもよく、その配置については特に限定はされない。
【0065】
前眼部像D1,D2(
図4参照)は、被検眼Eに対する測定ヘッド14のオートアライメントに用いられる。また、前眼部像D1,D2の少なくとも一方は、被検者の顔が顔支持部12により適正(適切)に支持されているか否かを判定する顔支持判定(顎受け判定ともいう)に用いられる。
【0066】
[演算制御ユニット]
図4は、第1実施形態の眼科装置10の演算制御ユニット22の機能ブロック図である。
図4に示すように、演算制御ユニット22は、統括制御部90、記憶部92、画像形成部94、及びデータ処理部96等を備える。また、演算制御ユニット22には、既述の電動昇降機構12c、眼底カメラユニット14a、OCTユニット14b、操作部16、電動駆動機構17、モニタ18、及びステレオカメラ20等が接続されている。
【0067】
記憶部92は、統括制御部90が実行する制御プログラムの他、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、及び被検眼情報(被検者情報を含む)などを記憶する。また、記憶部92には、後述の第1解析部102bによる被検眼Eの位置及び回旋角度の検出に用いられる対応情報98が格納されている。
【0068】
画像形成部94は、OCTユニット14bと共に被検眼Eの眼特性(OCT画像)の取得に用いられるものであり、OCTユニット14bから入力される検出信号を解析して眼底EfのOCT画像を形成する。なお、OCT画像の具体的な形成方法は、従来のOCT装置と同様であるのでここでは説明は省略する。データ処理部96は、画像形成部94により形成されたOCT画像、眼底カメラユニット14aにより取得された眼底撮影像及び各種観察像、及びステレオカメラ20により取得された前眼部像D1,D2等に対して画像処理等を施す。
【0069】
統括制御部90は、眼科装置10の各部の動作を統括制御する。この統括制御部90は、ステレオカメラ20から入力される前眼部像D1,D2のいずれか一方に基づき顔支持判定を実行し、顔が顔支持部12により適正に支持されていると判定した場合には前眼部像D1,D2に基づきオートアライメントを実行する。そして、統括制御部90は、オートアライメント後に眼底カメラユニット14a及びOCTユニット14bを制御して、眼底Efの眼底撮影像及びOCT画像等の取得を実行する。
【0070】
なお、
図4では、顔支持判定、オートアライメント、及び被検眼Eの眼特性(眼底撮影像及びOCT画像)の取得に係る機能のみを図示し、他の機能については公知技術であるので具体的な図示は省略している。
【0071】
統括制御部90の機能は、各種のプロセッサ(Processor)を用いて実現される。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、統括制御部90の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0072】
統括制御部90は、被検眼Eの眼特性(眼底撮影像及びOCT画像)の取得時に、前眼部像取得部100、変位検出部102、判定部104、報知制御部106、相対位置検出部108、アライメント制御部110、及び眼特性取得制御部112として機能する。なお、演算制御ユニット22の「~部」として説明するものは「~回路」、「~装置」、又は「~機器」であってもよい。すなわち、「~部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、及びハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで構成されていてもよい。
【0073】
[顔支持判定]
前眼部像取得部100は、顔支持判定及びオートアライメントの双方に用いられるものであり、第1カメラ20a及び第2カメラ20bにそれぞれ有線接続又は無線接続された画像入力インターフェースとして機能する。この前眼部像取得部100は、前眼部Eaを連続撮影する第1カメラ20a及び第2カメラ20bからそれぞれ前眼部像D1,D2を繰り返し取得する。また、前眼部像取得部100は、取得した前眼部像D1,D2のうちの前眼部像D1(前眼部像D2でも可)を変位検出部102へ繰り返し出力すると共に、前眼部像D1,D2を相対位置検出部108へ繰り返し出力する。
【0074】
変位検出部102は、後述の判定部104と共に顔支持判定に用いられるものであり、前眼部像取得部100から繰り返し入力される前眼部像D1に基づき、被検眼Eの位置及び回旋角度(回旋量)を検出する。この変位検出部102は、第1検出部102a及び第1解析部102bとして機能する。
【0075】
図5は、第1検出部102aによる瞳孔像116の検出処理を説明するための説明図である。
図5及び既述の
図4に示すように、第1検出部102aは、前眼部像取得部100から前眼部像D1が繰り返し入力されるごとに、前眼部像D1から被検眼Eの瞳孔Epの像である瞳孔像116を検出、より具体的には前眼部像D1内での瞳孔像116の位置及び形状を検出する検出処理を繰り返し実行する。
【0076】
ここで、瞳孔像116の位置とは、例えば眼科装置10の所定のXYZ座標系(3次元座標系)のうちのXY座標系を基準とする瞳孔像116の中心位置座標(XY座標)である。また、瞳孔像116の形状とは、例えば瞳孔像116の輪郭形状である。具体的には、瞳孔像116の外縁部(外周部)を瞳孔リングとした場合に、上述の2次元座標系を基準とする瞳孔リングの複数点の位置座標である。
【0077】
第1検出部102aは、例えばフルサイズの前眼部像D1に対して公知の二値化処理、ラベリング処理、及び円形度によるフィルタ処理を施す。ラベリング処理は二値化された前眼部像D1の各画素の中で連続した白画素又は黒画素を同じラベルにする(同じ番号を割り振る)処理である。円形度によるフィルタ処理は、ラベリング処理後の前眼部像D1から円形度が予め定められた所定値以上となる領域を検出する処理である。なお、前眼部像D1からの瞳孔像116の位置及び形状の検出方法は、上述の方法(二値化処理、ラベリング処理、及びフィルタ処理)に限定されるものではなく、公知の方法を用いてもよく、特に簡易的な検出可能な方法が好ましい。
【0078】
そして、第1検出部102aは、前眼部像取得部100から繰り返し入力される前眼部像D1から瞳孔像116の位置及び形状を検出するごとに、その検出結果を第1解析部102bへ出力する。
【0079】
第1解析部102bは、第1検出部102aが前眼部像D1から瞳孔像116を検出するごとに、新たな瞳孔像116の検出結果に基づき被検眼Eの位置及び回旋角度を検出する。
【0080】
図6は、第1解析部102bによる被検眼Eの位置及び回旋角度の検出方法の一例を説明するための説明図である。なお、
図6では図面の煩雑化を防止するために、眼科装置10の既述のXY座標系の原点O1を前眼部像D1の中心に一致させている。
【0081】
図6に示すように、第1解析部102bは、第1検出部102aによる前眼部像D1内からの瞳孔像116(瞳孔リング)の検出結果に基づき、瞳孔像116の位置及び形状を検出する。具体的には第1解析部102bは、瞳孔像116の中心位置C0(XY座標)と、瞳孔像116の長軸LA及び短軸LBの長さ(以下、軸長さと略す)と、X軸及びY軸の少なくとも一方に対する長軸LA及び短軸LBの傾き角度(以下、軸角度と略す)と、を検出する。
【0082】
次いで、第1解析部102bは、記憶部92に記憶されている対応情報98(
図4参照)を参照する。この対応情報98は、瞳孔像116の中心位置C0、軸長さ、及び軸角度と、被検眼Eの位置[中心位置(眼球回旋点)等:XYZ座標]及び回旋角度(視線方向Q)との対応関係を示すデータテーブル或いは演算式であり、シミュレーション及び実験等により予め定められている。これにより、第1解析部102bは、瞳孔像116の中心位置C0、軸長さ、及び軸角度の検出結果に基づき、対応情報98を参照することで、前眼部像D1の撮影時における被検眼Eの位置及び回旋角度(回旋方向を含む)を検出することができる。
【0083】
以下、第1解析部102bは、第1検出部102aが前眼部像D1から瞳孔像116を検出するごとに、瞳孔像116の中心位置C0、軸長さ、及び軸角度の検出と、対応情報98の参照と、被検眼Eの位置及び回旋角度の検出と、を繰り返し行う。これにより、前眼部像D1ごとの被検眼Eの位置及び回旋角度が検出される。また、前眼部像D1ごとの被検眼Eの位置の変化に基づき、被検者の顔の動きを検出することができる。
【0084】
図4に戻って、判定部104は、第1解析部102bによる前眼部像D1ごとの被検者の被検眼Eの位置及び回旋角度の検出結果に基づき、顔支持判定を行う。ここで、顔支持部12により被検者の顔が適正に支持されている場合には、被検者の顔の動き(被検眼Eの位置の変化)もほぼ抑えられ、且つ被検眼Eの回旋角度も被検眼Eの固視微動に応じた範囲内に抑えられる。また逆に、被検者の顔が顎受け12aから浮いている等の顔支持部12により顔が適正に支持されていない場合には、被検者の顔の動きが発生したり、被検眼Eの回旋角度が固視微動に応じた範囲を超えたりする。
【0085】
そこで判定部104は、第1解析部102bによる被検眼Eの位置及び回旋角度の検出結果に基づき、予め定めた一定時間の間、被検眼Eの位置が示す被検者の顔の動き量が予め定められた閾値内となる第1条件、及び被検眼Eの回旋角度が固視微動に応じた範囲内に収まる第2条件が満たされる否かに基づき、顔支持判定を行う。具体的には判定部104は、第1条件及び第2条件の両方が満たされる場合には、顔支持部12により顔が適正に支持されていると判定する。
【0086】
また逆に、判定部104は、第1解析部102bによる被検眼Eの位置及び回旋角度の検出結果に基づき、上述の一定時間内において、第1条件及び第2条件の少なくとも一方が満たされない場合には、顔支持部12により顔が適正に支持されていないと判定する。なお、上述の顔の動き量(被検眼Eの位置の変化量)の閾値、被検眼Eの回旋角度の範囲、及び一定時間については、予め実験及びシミュレーション等を行うことで適宜定められる。
【0087】
判定部104は、顔支持部12により顔が適正に支持されていると判定した場合には、その判定結果を相対位置検出部108及びアライメント制御部110へ出力する。また、判定部104は、顔支持部12により顔が適正に支持されていないと判定した場合には、その判定結果を報知制御部106へ出力する。
【0088】
図7は、モニタ18による警告情報124の表示(報知)の一例を示した説明図である。
図7に示すように、報知制御部106は、判定部104から判定結果が入力された場合に、顔支持部12により顔が適正に支持されていないことを示す警告情報124の外部出力を実行する。具体的には報知制御部106は、警告情報124をモニタ18に表示させる。これにより、警告情報124が検者に対して報知される。従って、この場合には、報知制御部106及びモニタ18が本発明の報知部として機能する。なお、モニタ18による警告情報124の表示に代えて或いはこの警告情報124の表示と共に、警告情報124をスピーカ(不図示)から音声出力させてもよい。
【0089】
図8は、顔支持部12により被検者の顔が適正に支持されていないことを被検者に対して報知する例を示した説明図である。
図8に示すように、報知制御部106は、判定部104から判定結果が入力された場合に、電動昇降機構12cを駆動して、例えば顎受け12a及び額当て12bをY方向に上下動させることにより、顎受け12a等による顔の支持位置を変更させる。これにより、顔支持部12により顔が適正に支持されていないことを被検者に対して報知することができる。従って、この場合には、報知制御部106及び顔支持部12が本発明の報知部として機能する。
【0090】
[オートアライメント]
図4に戻って、相対位置検出部108及びアライメント制御部110は、オートアライメントに用いられるものであり、判定部104からの判定結果の入力を受けて作動する。
【0091】
相対位置検出部108は、前眼部像取得部100から入力された前眼部像D1,D2に基づき、前眼部像D1,D2からそれぞれ瞳孔像116を検出して、瞳孔中心又は角膜頂点に相当する各瞳孔像116の特徴位置を特定する。次いで、相対位置検出部108は、第1カメラ20a及び第2カメラ20bの位置及び撮影倍率と、前眼部像D1,D2ごとの特徴位置とに基づき、公知の手法(上記特許文献1参照)で測定ヘッド14に対する被検眼Eの相対位置(三次元位置)を演算する。そして、相対位置検出部108は、この演算結果を被検眼Eの相対位置の検出結果としてアライメント制御部110へ出力する。
【0092】
アライメント制御部110は、相対位置検出部108による被検眼Eの相対位置の検出結果に基づき、電動駆動機構17を駆動して、被検眼Eに対する測定ヘッド14のオートアライメントを実行する。
【0093】
[眼特性の取得]
眼特性取得制御部112は、オートアライメントの完了後に作動して、被検眼Eの眼特性(眼底Efの眼底撮影像及びOCT画像)の取得を実行する。具体的には眼特性取得制御部112は、眼底カメラユニット14aを駆動して眼底Efの眼底撮影像を取得する。また、眼特性取得制御部112は、OCT光学系80、OCTユニット14b、及び画像形成部94等を駆動して眼底EfのOCT画像を取得する。
【0094】
[第1実施形態の眼科装置の作用]
図9は、第1実施形態の眼科装置10による被検眼Eの眼特性の取得処理、特に本発明の眼科装置10の作動方法に係る顔支持判定処理の流れを示すフローチャートである。
図9に示すように、検者により眼科装置10の電源がオンされると、或いは操作部16にて測定開始操作(キャプチャー操作)が実行されると、被検眼Eの眼特性の取得が開始される(ステップS1)。
【0095】
統括制御部90は、第1カメラ20a及び第2カメラ20bによる被検眼Eの前眼部Eaの連続撮影を開始させる。これにより、前眼部像取得部100が、第1カメラ20a及び第2カメラ20bからそれぞれ前眼部像D1,D2を取得する(ステップS2、本発明の前眼部像取得ステップに相当)。そして、前眼部像取得部100は、前眼部像D1,D2の一方(例えば前眼部像D1)を変位検出部102へ出力すると共に、前眼部像D1,D2を相対位置検出部108へ出力する。
【0096】
前眼部像D1が変位検出部102に入力されると、既述の
図5に示したように第1検出部102aが、前眼部像D1に対して二値化処理、ラベリング処理、及びフィルタ処理を施すことで、前眼部像D1から瞳孔像116の位置及び形状を検出し、その検出結果を第1解析部102bへ出力する(ステップS3)。
【0097】
次いで、第1解析部102bが、既述の
図6に示したように、瞳孔像116の位置及び形状の検出結果に基づき、被検眼Eの位置及び回旋角度を検出する(ステップS4)。なお、ステップS3及びステップS4が本発明の変位検出ステップに相当する。
【0098】
そして、判定部104が、第1解析部102bによる被検眼Eの位置及び回旋角度の検出結果に基づき、被検者の顔の動き量が予め定められた閾値内となる第1条件(ステップS5)、及び被検眼Eの回旋角度が被検眼Eの固視微動に応じた範囲内に収まる第2条件(ステップS6)が満たされるか否かを判定する。判定部104は、これら第1条件及び第2条件の両方が満たされる場合(ステップS5,S6でYES)、一定時間が経過するまで待機する。これにより、ステップS2からステップS7までの処理が繰り返し実行される(ステップS7でNO)。
【0099】
判定部104は、一定時間が経過するまでの間、第1条件及び第2条件の両方が満たされる状態が継続した場合には、顔支持部12により顔が適正に支持されている、すなわち顔の支持が適性と判定する(ステップS8、本発明の判定ステップに相当)。この場合に判定部104は、顔支持部12により顔が適正に支持されているとの判定結果を相対位置検出部108及びアライメント制御部110へ出力する。これにより、顔支持判定に続いてオートアライメントが自動的に開始される。
【0100】
相対位置検出部108は、前眼部像取得部100から入力された前眼部像D1,D2に基づき、測定ヘッド14に対する被検眼Eの相対位置を検出し、その検出結果をアライメント制御部110へ出力する(ステップS9)。これにより、アライメント制御部110が、被検眼Eの相対位置の検出結果に基づき、電動駆動機構17を駆動して、被検眼Eに対する測定ヘッド14のオートアライメントを実行する(ステップS10)。
【0101】
オートアライメントが完了すると、眼特性取得制御部112は、眼底カメラユニット14aを駆動して眼底Efの眼底撮影像を取得したり、OCT光学系80、OCTユニット14b、及び画像形成部94等を駆動して眼底EfのOCT画像を取得したりする。これにより、被検眼Eの眼特性の取得が完了する(ステップS11)。
【0102】
一方、判定部104は、一定時間内のいずれかのタイミングにおいて、第1条件及び第2条件の少なくとも一方が満たされなかった場合(ステップS5,S6でNO)、顔支持部12により顔が適正に支持されていない、すなわち顔の支持が不適性と判定する(ステップS12、本発明の判定ステップに相当)。この場合に判定部104は、顔支持部12により顔が適正に支持されていないとの判定結果を報知制御部106へ出力する。
【0103】
報知制御部106は、判定部104からの判定結果の入力を受けて、既述の
図7及び
図8に示したように、警告情報124をモニタ18に表示させたり或いは電動昇降機構12cを駆動して顎受け12a等をY方向に上下動させたりする。これにより、顔支持部12により被検者の顔が適正に支持されていないことが検者及び被検者に対して報知される(ステップS13)。そして、検者は、被検者の顔が顔支持部12に適正に支持されるように被検者に注意喚起したり或いは顎受け12a等の位置を調整したりする。以下、ステップS2以降の処理が繰り返し実行される。
【0104】
[第1実施形態の効果]
以上のように第1実施形態では、ステレオカメラ20により撮影された前眼部像D1,D2の一方から検出した瞳孔像116の位置及び形状に基づき、被検眼Eの位置及び回旋角度を検出することで、顔支持部12により被検者の顔が適正に支持されているか否かを判定することができる。その結果、被検者の顔を顔支持部12に適正に支持させることができる。
【0105】
また、第1実施形態では、顔支持部12により被検者の顔が適正に支持されている状態で被検眼Eの眼特性の取得を実行することができる。これにより、被検眼Eの眼特性の取得中に顔が動くことが防止されるため、取得する眼特性の精度が低くなったり或いは眼特性の取得に失敗したりすることが防止される。また、既存のステレオカメラ20を用いることができるので、ソフトウェアを改修するだけで顔支持判定が可能となる。その結果、被検眼Eの眼特性の取得を精度良く且つ確実に行うことができる。
【0106】
また、ステレオカメラ20により撮影された前眼部像D1,D2を用いて顔支持判定とオートアライメントを行うことができるので、顔支持判定の処理と、オートアライメントの処理(被検眼Eの相対位置の検出)とを並行して行うことができる。
【0107】
[第2実施形態]
図10は、第2実施形態の眼科装置10の演算制御ユニット22の機能ブロック図である。上記第1実施形態の眼科装置10では、ステレオカメラ20により撮影された前眼部像D1,D2の一方から検出した瞳孔像116に基づき、被検眼Eの位置及び回旋角度を検出している。これに対して第2実施形態の眼科装置10では、ステレオカメラ20により撮影された前眼部像D1,D2内の瞳孔像116に基づき、被検眼Eの位置及び回旋角度を検出する。
【0108】
図10に示すように、第2実施形態の眼科装置10は、演算制御ユニット22の統括制御部90が変位検出部102の代わりに変位検出部103として機能し、且つ記憶部92内に対応情報98の代わりに対応情報99が格納されている点を除けば上記第1実施形態の眼科装置10と基本的に同じ構成である。このため、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0109】
変位検出部103は、既述の判定部104と共に顔支持判定に用いられるものであり、前眼部像取得部100から繰り返し入力される前眼部像D1,D2に基づき、被検眼Eの位置及び回旋角度を検出する。この変位検出部103は、第2検出部103a及び第2解析部103bとして機能する。
【0110】
第2検出部103aは、前眼部像取得部100から繰り返し入力される前眼部像D1,D2ごとに、前眼部像D1,D2内の瞳孔像116に基づき瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状の検出を実行する。ここでいう瞳孔Epの3次元位置とは、例えば眼科装置10の所定のXYZ座標系(3次元座標系)を基準とするXYZ座標である。また、瞳孔Epの3次元形状とは、例えば瞳孔Ep(瞳孔リング)の輪郭形状であり、上述のXYZ座標系を基準とする瞳孔Epの瞳孔リングの複数点の位置座標である。
【0111】
最初に第2検出部103aは、第1実施形態と同様の検出方法を用いて、前眼部像D1,D2の両方からそれぞれ瞳孔像116を検出する検出処理を繰り返し実行する。
【0112】
次いで、第2検出部103aは、前眼部像D1,D2からそれぞれ検出した瞳孔像116に基づき、瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状を演算する。なお、ステレオカメラ20(第1カメラ20a及び第2カメラ20b)の位置座標は公知であり且つステレオカメラ20で撮影された撮影画像に基づき被写体の3次元形状を演算する方法も公知である。従って、瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状の具体的な演算方法については説明を省略する。
【0113】
そして、第2検出部103aは、前眼部像取得部100から繰り返し入力される前眼部像D1,D2から瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状を検出するごとに、その検出結果を第2解析部103bへ出力する。
【0114】
第2解析部103bは、第2検出部103aが前眼部像D1,D2から瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状を検出するごとに、瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状の検出結果に基づき被検眼Eの位置及び回旋角度を検出する。
【0115】
図11は、第2解析部103bによる被検眼Eの位置及び回旋角度の検出方法の一例を説明するための説明図である。なお、
図11に示す眼科装置10のXYZ座標系の原点O2の位置は例示でありその位置については特に限定はされない。
【0116】
図11に示すように、第2解析部103bは、第2検出部103aによる瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状の検出結果に基づき、瞳孔Epの位置形状の解析を行う。具体的には第2解析部103bは、瞳孔Epの中心位置C1(XYZ座標)と、瞳孔Epの長軸LA1及び短軸LB1の長さ(以下、瞳孔軸長さと略す)と、XYZ軸の各々に対する長軸LA1及び短軸LB1の傾き角度(以下、瞳孔軸角度と略す)と、を検出する。
【0117】
次いで、第2解析部103bは、記憶部92内の対応情報99(
図10参照)を参照する。この対応情報99は、瞳孔Epの中心位置C1、瞳孔軸長さ、及び瞳孔軸角度と、被検眼Eの位置及び回旋角度との対応関係を示すデータテーブル或いは演算式であり、シミュレーション及び実験等により予め定められている。これにより、第2解析部103bは、瞳孔Epの中心位置C1、瞳孔軸長さ、及び瞳孔軸角度の検出結果に基づき、対応情報99を参照することで、前眼部像D1,D2の撮影時における被検眼Eの位置及び回旋角度を検出することができる。
【0118】
以下、第2解析部103bは、第2検出部103aが新たな前眼部像D1,D2から瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状を検出するごとに、瞳孔Epの中心位置C1、瞳孔軸長さ、及び瞳孔軸角度の検出と、対応情報99の参照と、被検眼Eの位置及び回旋角度の検出と、を繰り返し行う。これにより、前眼部像D1、D2ごとの被検眼Eの位置及び回旋角度が検出される。
【0119】
第2実施形態の判定部104は、第2解析部103bによる前眼部像D1,D2ごとの被検眼Eの位置及び回旋角度の検出結果に基づき、上記第1実施形態と同様に顔支持判定を行う。これにより、顔支持部12により顔が適正に支持されていないと判定部104が判定した場合には、報知制御部106による警告情報124の報知が実行される。
【0120】
また、第2実施形態の判定部104(本発明の回旋運動判定部に相当)は、第2解析部103bによる前眼部像D1,D2ごとの被検眼Eの位置(眼球回旋点)及び回旋角度の検出結果に基づき、瞳孔Epの中心位置C1の変動が、眼球回旋点を中心とする瞳孔Epの回旋運動であるか否かを判定する。なお、この場合の回旋運動とは、被検眼E(瞳孔Ep)固視微動に応じた変動を超えるものである。すなわち、判定部104は、瞳孔Epの中心位置C1の変動が、眼球回旋点を中心とする瞳孔Epの回旋運動と、眼球回旋点の移動(被検眼Eの位置の変化)或いは固視微動に応じた変動と、のいずれであるかを判別(解析分離)する。
【0121】
例えば判定部104は上記第1条件が満たされない場合には「瞳孔Epの中心位置C1の変動」が眼球回旋点の移動(被検眼Eの位置の変化)により発生したと判定する。そして、判定部104は上記第1条件が満たされる場合において、上記第2条件が満たされるか否かに応じて、「瞳孔Epの中心位置C1の変動」が固視微動に応じた変動であるか眼球回旋点を中心とする回旋運動により生じたものであるかを判定する。これにより、眼球回旋点を中心とする瞳孔Epの回旋運動が発生している場合には、被検眼Eが固視標を注視していないことを判別することができる。
【0122】
そして、第2実施形態の報知制御部106(本発明の固視報知部に相当)は、判定部104にて瞳孔Epの回旋運動が発生しているとの判定がなされた場合には、この判定部104の判定結果の報知を行う。例えば、報知制御部106は、被検眼Eが固視標を注視していないことを示す警告情報124Aをモニタ18(スピーカ)に出力したり、或いは視標表示部54による固視標の表示パターンを変更させたりする。これにより、被検者に対して固視標の固視を促すことができる。
【0123】
なお、上記第1実施形態においても、第2実施形態と同様に瞳孔Epの中心位置C1の変動が眼球回旋点を中心とする瞳孔Epの回旋運動であるか否かの判定と、固視標に対する被検眼Eの固視を促す報知とを実行してもよい。
【0124】
[第2実施形態の眼科装置の作用]
図12は、上記構成の第2実施形態の眼科装置10による被検眼Eの眼特性の取得処理、特に本発明の眼科装置10の作動方法に係る顔支持判定処理の流れを示すフローチャートである。
図12に示すように、ステップS1までの処理は、上記第1実施形態(
図9参照)と基本的に同じであるので、ここでは具体的な説明は省略する。
【0125】
第1カメラ20a及び第2カメラ20bによる被検眼Eの前眼部Eaの連続撮影が開始されると、前眼部像取得部100が、第1カメラ20a及び第2カメラ20bから取得した前眼部像D1,D2を変位検出部103へ出力すると共に、前眼部像D1,D2を相対位置検出部108へ出力する(ステップS2)。
【0126】
前眼部像D1,D2が変位検出部103に入力されると、最初に第2検出部103aが、前眼部像D1,D2に基づき瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状を検出し、その検出結果を第2解析部103bへ出力する(ステップS3A)。
【0127】
次いで、第2解析部103bが、既述の
図11に示したように、第1検出部102aによる瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状の検出結果に基づき、被検眼Eの位置及び回旋角度を検出する(ステップS4A)。なお、ステップS3A及びステップS4Aも本発明の変位検出ステップに相当する。
【0128】
以下、前眼部像取得部100が前眼部像D1,D2を取得するごとに、第2検出部103aによる瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状の検出と、第2解析部103bによる被検眼Eの位置及び回旋角度の検出と、が繰り返し実行される。そして、
図9に示した上記第1実施形態と同様に判定部104によるステップS5,S6の判定処理が実行される。
【0129】
この際に、判定部104は、第2解析部103bによる前眼部像D1,D2ごとの被検眼Eの位置(眼球回旋点)及び回旋角度の検出結果に基づき、瞳孔Epの中心位置C1の変動が、眼球回旋点を中心とする瞳孔Epの回旋運動と、眼球回旋点の移動及び固視微動等と、のいずれであるかを判別(解析分離)する。これにより、眼球回旋点を中心とする瞳孔Epの回旋運動が発生している場合には、被検眼Eが固視標を注視していないことを判別することができる。
【0130】
そして、判定部104が瞳孔Epの回旋運動が発生していると判定した場合、報知制御部106は、その判定結果の報知を実行、例えば警告情報124Aをモニタ18及びスピーカ等に出力したり、或いは視標表示部54による固視標の表示パターンを変更させたりする。これにより、被検者に対して固視標の固視を促すことができる。
【0131】
なお、ステップS7以降の処理は、
図9に示した上記第1実施形態と基本的に同じであるので、ここでは具体的な説明は省略する。
【0132】
以上のように第2実施形態においても、ステレオカメラ20により撮影された前眼部像D1,D2に基づき被検眼Eの位置及び回旋角度を検出することで、顔支持判定が可能となる。その結果、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0133】
また、第2実施形態では、前眼部像D1,D2に基づき瞳孔Epの3次元位置及び3次元形状を検出し、その検出結果に基づき被検眼Eの位置及び回旋角度を検出することで、上記第1実施形態よりも被検眼Eの位置及び回旋角度の検出精度を高めることができる。その結果、上記第1実施形態よりも顔支持判定の精度を高めることができる。
【0134】
[第3実施形態]
図13は、第3実施形態の眼科装置10の演算制御ユニット22の機能ブロック図である。上記各実施形態では被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていないと判定部104が判定した場合に、報知制御部106によりその判定結果の報知を実行している。これに対して、第3実施形態の眼科装置10では、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていないと判定部104が判定した場合に、顎受け12a等による顔の支持位置を変更させた後、顔支持判定処理を再度実行する。
【0135】
図13に示すように、第3実施形態の眼科装置10は、統括制御部90が報知制御部106の代わりに支持位置変更制御部130及び再判定制御部132として機能する点を除けば、上記各実施形態の眼科装置10と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0136】
図14は、第3実施形態の眼科装置10による被検眼Eの眼特性の取得処理、特に顔支持判定処理の流れを示すフローチャートである。なお、ステップS1からステップS12までの処理は、既述の
図9及び
図12に示した上記各実施形態と基本的に同じであるので具体的な説明は省略する。
【0137】
図13及び
図14に示すように、被検者の顔が適正に支持されていないと判定部104が判定すると(ステップS12)、支持位置変更制御部130が作動する。この支持位置変更制御部130は、電動昇降機構12cを駆動して顔支持部12による被検者の顔の支持位置を変更、例えば顔の支持位置をY方向の上方側に変更する(ステップS13A)。
【0138】
この場合に支持位置変更制御部130は、電動昇降機構12cを駆動して顔支持部12による顔の支持位置を5mm程度上げる。或いは支持位置変更制御部130は、前眼部像取得部100が取得した前眼部像D1,D2の少なくとも一方内での瞳孔像116の位置を監視(検出)し、この瞳孔像116の位置が変化するまで、電動昇降機構12cを駆動して顔支持部12による顔の支持位置をY方向の上方側へ低速度で変更させる。なお、顔の支持位置をY方向の上方側に変更する代わりに下方側に変更してもよい。
【0139】
このように顔支持部12による被検者の顔の支持位置を変更、特にY方向の上方側に変更することで、顔支持部12による被検者の顔の支持を不適正な状態から適正な状態に変えたり、或いは顔支持部12により顔が適正に支持されていないことを被検者に注意喚起したりすることができる。
【0140】
再判定制御部132は、顔支持部12による顔の支持位置が変更された場合に、前眼部像取得部100、変位検出部102,103、及び判定部104を繰り返し作動させることにより、既述のステップS2からステップS7までの処理を繰り返し実行させる。これにより、上記各実施形態で説明した顔支持判定処理が繰り返し実行される。
【0141】
以下、顔支持部12により顔が適正に支持されていると判定部104が判定するまで、ステップS2からステップS7の処理と、ステップS12,S13Aの処理とが繰り返し実行される。
【0142】
このように第3実施形態では、被検者の顔が顔支持部12に適正に支持されていない場合に、顔支持部12による顔の支持位置を変更した上で顔支持判定処理を繰り返し実行することで、検者が何らの操作を行うことなく眼科装置10を次以降の処理(ステップS9~S11)に自動的に移行させることができる。これにより、検者の手間を減らすことができる。
【0143】
[第4実施形態]
図15は、第4実施形態の眼科装置10の演算制御ユニット22の機能ブロック図である。上記第3実施形態の眼科装置10では、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていないと判定部104が判定した場合に、顎受け12a等による顔の支持位置を変更させた後で顔支持判定処理を再度実行している。これに対して第4実施形態では、顎受け12a等による顔の支持位置を変更させた後で上記各実施形態とは異なる方法を用いて、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されているか否かを再判定する。
【0144】
図15に示すように、第4実施形態の眼科装置10は、演算制御ユニット22に顎受け撮影カメラ21が接続され、且つ統括制御部90が再判定制御部132の代わりに画像取得制御部150、特定部位検出部152、位置決定部154、表示制御部156、被検眼移動量検出部158、及び再判定部160として機能する点を除けば、上記第3実施形態の眼科装置10と基本的に同じ構成である。このため、上記第3実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0145】
顎受け撮影カメラ21は、顎受け12a及びこの顎受け12aに顎を載せた被検者の顔を撮影可能な位置に設けられている。この顎受け撮影カメラ21は、顎受け12a及び被検者の顔を撮影して、顎受け12a等の顎受け撮影画像D3を演算制御ユニット22に出力する。
【0146】
第4実施形態の支持位置変更制御部130は、上記第3実施形態と同様に、被検者の顔が適正に支持されていないと判定部104が判定した場合に、電動昇降機構12cを駆動して顔支持部12による被検者の顔の支持位置を変更、例えば顔の支持位置をY方向の上方側或いは下方側に予め定められた変更量ΔH1(
図18参照)だけ変更する。これにより、上記第3実施形態と同様に、顔支持部12による被検者の顔の支持を不適正な状態から適正な状態に変えたり、或いは顔支持部12により顔が適正に支持されていないことを被検者に注意喚起したりすることができる。
【0147】
画像取得制御部150は、支持位置変更制御部130が顔支持部12を制御して顔の支持位置を変更している間、前眼部像取得部100を繰り返し作動させることで、前眼部像取得部100によるステレオカメラ20からの前眼部像D1,D2の一方の取得、例えば前眼部像D1(前眼部像D2でも可)の取得を繰り返し実行させる。前眼部像取得部100は、ステレオカメラ20から前眼部像D1を取得するごとに、前眼部像D1を特定部位検出部152及び表示制御部156に繰り返し出力する。
【0148】
また、画像取得制御部150は、顔支持部12により顔の支持位置が変更されている間、顎受け撮影カメラ21から顎受け撮影画像D3を繰り返し取得すると共に、取得した顎受け撮影画像D3を表示制御部156へ繰り返し出力する。
【0149】
特定部位検出部152は、前眼部像取得部100から前眼部像D1が繰り返し入力されるごとに、既述の第1検出部102aと同様に前眼部像D1からの被検眼Eの特定部位である瞳孔Epの瞳孔像116の検出を行う。そして、特定部位検出部152は、新たな前眼部像D1から瞳孔像116を検出するごとに、前眼部像D1内での既述の「瞳孔像116の位置」を示す位置情報を位置決定部154及び被検眼移動量検出部158へ出力する。
【0150】
位置決定部154は、顔支持部12による顔の支持位置の変更開始時に作動する。この位置決定部154は、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていると仮定した場合において、顔支持部12による顔の支持位置の変更後に前眼部像取得部100にて取得される前眼部像D1内での瞳孔像116のあるべき位置を示す適正位置を決定する。
【0151】
例えば、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されている場合には、後述の
図18に示すように、顔支持部12による顔の支持位置の変更量ΔH1と、顔の支持位置の変更に伴う被検眼E(瞳孔Ep)の移動量ΔH3とが一致する。このため、顔の支持位置の変更前後における前眼部像D1内での瞳孔像116の移動量ΔH2についても、顔の支持位置の変更量ΔH1に基づき一意に決定可能である。
【0152】
従って、位置決定部154は、顔支持部12による顔の支持位置の変更開始時に特定部位検出部152が検出した瞳孔像116の位置情報と、既知の顔の支持位置の変更量ΔH1(
図18参照)と、ステレオカメラ20の撮影倍率と、に基づき、顔の支持位置の変更後の前眼部像D1内での瞳孔像116の適正位置を決定する。そして、位置決定部154は、瞳孔像116の適正位置の決定結果を表示制御部156へ出力する。
【0153】
図16は、顔支持部12により顔の支持位置が変更される間に表示制御部156がモニタ18(本発明の表示部に相当)に表示せる観察画面162の一例を示した説明図である。
【0154】
図16及び既述の
図15に示すように、表示制御部156は、顔支持部12により顔の支持位置が変更される間、前眼部像取得部100から繰り返し入力される前眼部像D1と、画像取得制御部150から繰り返し入力される顎受け撮影画像D3とに基づき、観察画面162を生成してモニタ18に表示させる。具体的には表示制御部156は、観察画面162内で前眼部像D1及び顎受け撮影画像D3をそれぞれ動画表示させる。これにより、検者は、前眼部像D1内での瞳孔像116の位置と、顎受け12a等の状態とをリアルタイムに観察することができる。
【0155】
また、表示制御部156は、観察画面162内に動画表示される前眼部像D1に対して、指標200及び目盛り202を重畳表示させる。
【0156】
指標200は、第1指標200aと第2指標200bと第3指標200cとを含む。第1指標200aは、顔支持部12による顔の支持位置の変更開始時の前眼部像D1内での瞳孔像116の位置を示す。表示制御部156は、顔の支持位置の変更開始時の特定部位検出部152の検出結果に基づき、観察画面162内の前眼部像D1に対して第1指標200aを重畳表示させる。
【0157】
第2指標200bは、顔支持部12による顔の支持位置の変更後の前眼部像D1内での瞳孔像116の適正位置を示す。表示制御部156は、位置決定部154による瞳孔像116の適正位置の決定結果に基づき、観察画面162内の前眼部像D1に対して第2指標200bを重畳表示させる。
【0158】
第3指標200cは、顔支持部12による顔の支持位置の変更量ΔH1(
図18参照)を示す。表示制御部156は、既知の顔の支持位置の変更量ΔH1に基づき、観察画面162内の前眼部像D1に対して第3指標200cを重畳表示させる。
【0159】
目盛り202は、顔の支持位置の変更に伴う前眼部像D1内での被検眼E(瞳孔像116)の移動量ΔH2(
図17参照)から、実際の被検眼E(瞳孔Ep)の移動量ΔH3(
図17参照)を判別可能にするものである。目盛り202の1目盛が示す実際の被検眼Eの移動量ΔH3は、ステレオカメラ20の撮影倍率に応じて変化する。
【0160】
図17は、被検眼移動量検出部158による被検眼Eの移動量ΔH3の検出を説明するための説明図である。
図17及び既述の
図15に示すように、被検眼移動量検出部158は、顔の支持位置が変更されている間に特定部位検出部152から繰り返し入力される前眼部像D1内の瞳孔像116の位置検出結果に基づき、顔の支持位置が変更されている間の被検眼E(瞳孔Ep)の実際の移動量ΔH3を検出する。
【0161】
例えば被検眼移動量検出部158は、少なくとも、顔の支持位置の変更開始時(符号XVIIA参照)の特定部位検出部152の検出結果と、顔の支持位置の変更終了時(符号XVIIB参照)の特定部位検出部152の検出結果とに基づき、顔の支持位置が変更されている間の前眼部像D1内での瞳孔像116の移動量ΔH2を演算する。そして、被検眼移動量検出部158は、移動量ΔH2の演算結果と、ステレオカメラ20の撮影倍率とに基づき、顔の支持位置が変更されている間の被検眼E(瞳孔Ep)の実際の移動量ΔH3を検出する。そして、被検眼移動量検出部158は、移動量ΔH3の検出結果を再判定部160に出力する。
【0162】
図18は、再判定部160による再判定を説明するための説明図である。
図18及び既述の
図15に示すように、再判定部160は、既知の顔支持部12による顔の支持位置の変更量ΔH1と、被検眼移動量検出部158から入力された被検眼E(瞳孔Ep)の実際の移動量ΔH3と、を比較して、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されているか否かを再判定する。
【0163】
既述の通り、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されている場合には、顔支持部12による顔の支持位置の変更量ΔH1と、顔の支持位置の変更に伴う被検眼Eの移動量ΔH3とが一致(略一致を含む)する。このため、再判定部160は、被検眼Eの移動量ΔH3が顔の支持位置の変更量ΔH1に一致している否かに基づき、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されているか否かを再判定する。
【0164】
なお、被検眼Eの移動量ΔH3と顔の支持位置の変更量ΔH1とが一致することには、被検眼Eの単位時間当たりの移動量ΔH3である移動速度と、顔の支持位置の単位時間当たりの変更量ΔH1である変更速度と、が一致することも含まれる。従って、再判定部160は、被検眼Eの移動速度が顔の支持位置の変更速度に一致(略一致を含む)している否かに基づき、上述の再判定を行ってもよい。
【0165】
被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていると再判定部160が判定した場合には、上記各実施形態と同様にオートアライメントが実行される。また、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていないと再判定部160が判定した場合には、上記第1実施形態と同様に警告情報124の報知或いは顎受け12aの上下動などが実行される。また、上述の顔支持部12による被検者の顔の支持位置の変更以降の処理を繰り返し実行してもよい。
【0166】
図19は、第4実施形態の眼科装置10による被検眼Eの眼特性の取得処理、特に被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されているか否かの再判定処理の流れを示すフローチャートである。なお、ステップS1からステップS12までの処理は、既述の
図9及び
図12に示した上記各実施形態と基本的に同じであるので具体的な説明は省略する。
【0167】
図19に示すように、被検者の顔が適正に支持されていないと判定部104が判定すると(ステップS12)、支持位置変更制御部130は、電動昇降機構12cを駆動して顔支持部12による被検者の顔の支持位置の変更を開始する(ステップS13A)。これにより、顔支持部12による被検者の顔の支持を適正な状態に変えたり、或いは被検者に注意喚起したりすることができる。
【0168】
また、画像取得制御部150の制御の下、前眼部像取得部100がステレオカメラ20から前眼部像D1を取得してこの前眼部像D1を特定部位検出部152及び表示制御部156に出力する(ステップS13B)。さらに、画像取得制御部150が、顎受け撮影カメラ21から顎受け撮影画像D3を取得して表示制御部156へ出力する。
【0169】
そして、特定部位検出部152が、前眼部像取得部100から入力された前眼部像D1から瞳孔像116を検出して、前眼部像D1内での瞳孔像116の位置を示す位置情報を位置決定部154及び被検眼移動量検出部158へ出力する(ステップS13C)。
【0170】
次いで、位置決定部154が、特定部位検出部152から入力された瞳孔像116の位置情報と、既知の顔の支持位置の変更量ΔH1と、ステレオカメラ20の撮影倍率と、に基づき、顔の支持位置の変更後の前眼部像D1内での瞳孔像116の適正位置を決定し、その決定結果を表示制御部156へ出力する(ステップS13D)。
【0171】
表示制御部156は、既述の
図16に示したように、前眼部像取得部100から入力された前眼部像D1と、画像取得制御部150から入力された顎受け撮影画像D3とに基づき、観察画面162を生成してモニタ18に表示させる。またこの際に、表示制御部156は、顔の支持位置の変更開始時の特定部位検出部152の検出結果と、位置決定部154による瞳孔像116の適正位置の決定結果と、既知の顔の支持位置の変更量ΔH1とに基づき、観察画面162内の前眼部像D1に対して指標200及び目盛り202を重畳表示させる(ステップS13E)。
【0172】
以下、被検者の顔の支持位置の変更が終了するまで、前眼部像D1及び顎受け撮影画像D3の取得(ステップS13F)と、観察画面162内の前眼部像D1及び顎受け撮影画像D3の更新[動画表示]及び指標200等の重畳表示(ステップS13E)と、が繰り返し実行される(ステップS13GでNO)。観察画面162内で動画表示される前眼部像D1に対して指標200を重畳表示させることで、検者は、顔の支持位置の変更終了後の前眼部像D1内の瞳孔像116の位置が第2指標200bに一致(略一致を含む)しているか否かに基づき、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されているか否かを確認することができる。
【0173】
被検者の顔の支持位置の変更が終了すると、被検眼移動量検出部158が、既述の
図17に示したように、特定部位検出部152から繰り返し入力された瞳孔像116の位置検出結果に基づき、被検眼E(瞳孔Ep)の移動量ΔH3を検出する(ステップS13GでYES、ステップS13H)。そして、被検眼移動量検出部158は、被検眼Eの移動量ΔH3の検出結果を再判定部160へ出力する。
【0174】
次いで、再判定部160が、既述の
図18に示したように、既知の顔支持部12による顔の支持位置の変更量ΔH1と、被検眼移動量検出部158から入力された被検眼E(瞳孔Ep)の実際の移動量ΔH3と、を比較して、被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されているか否かを再判定する(ステップS13I)。
【0175】
そして、再判定部160は、移動量ΔH3が変更量ΔH1に一致している場合には、検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていると判定する(ステップS13IでYES、ステップS13J)。この場合には、上記各実施形態と同様にオートアライメントが実行される。
【0176】
一方、再判定部160は、移動量ΔH3が変更量ΔH1に一致していない場合には、検者の顔が顔支持部12により適正に支持されていないと判定する(ステップS13IでNO、ステップS13K)。この場合には、上記第1実施形態と同様に警告情報124の報知或いは顎受け12aの上下動などが実行されたり(ステップS13L)、或いは上述のステップS13A以降の処理が繰り返し実行されたりする。
【0177】
以上のように第4実施形態では、被検者の顔が顔支持部12に適正に支持されていない場合に、顔支持部12による顔の支持位置を変更させると共に、この変更後に被検者の顔が顔支持部12により適正に支持されているか否かを再判定することができる。その結果、上記第3実施形態と同様に検者が何らの操作を行うことなく眼科装置10を次以降の処理に自動的に移行させることができるので、検者の手間を減らすことができる。
【0178】
なお、上記第4実施形態では、前眼部像D1に基づき既述の
図19に示したステップS13CからステップS13Kまでの各処理を実行しているが、前眼部像D2或いは前眼部像D1,D2の両方に基づき上述の各処理を実行してもよい。
【0179】
また、上記第4実施形態では、特定部位検出部152が、前眼部像D1から被検眼Eの特定部位の像として瞳孔Epの瞳孔像116を検出しているが、他の特定部位(例えば虹彩等)の像の検出を行ってもよい。
【0180】
[その他]
上記各実施形態では、ステレオカメラ20(第1カメラ20a及び第2カメラ20b)を例に挙げて説明したが、3以上の複数のカメラで被検眼Eの撮影を行ってもよい。この場合にも、前眼部像取得部100が、複数のカメラの中の1つのカメラにより撮影された前眼部像D1、或いは2以上のカメラにより撮影された前眼部像D1~DN(Nは2以上の自然数)を取得する。その結果、上記各実施形態と同様に、被検眼Eの位置及び回旋角度の検出と、顔支持判定とを行うことができる。
【0181】
上記第1実施形態(第3実施形態も同様)では、前眼部像取得部100がステレオカメラ20により撮影された前眼部像D1,D2の一方を取得しているが、眼底カメラユニット14aが対物レンズ43を通して前眼部Eaを連続撮影可能な撮像光学系50から前眼部像を取得してもよい。この場合にも、上記第1実施形態と同様の手法で顔支持判定を行うことができる。さらに、上記第4実施形態において、眼底カメラユニット14aが取得した前眼部像に基づき、観察画面162内で前眼部像を動画表示すると共に、前眼部像に基づき指標200の重畳表示と、被検眼移動量検出部158による移動量ΔH3の検出と、再判定部160による再判定と、を実行してもよい。
【0182】
上記各実施形態では、眼科装置10内に前眼部像取得部100、変位検出部102,103、判定部104、及び報知制御部106の機能が設けられているが、これらの機能を有する制御装置が測定ヘッド14の外部(遠隔地を含む)に配置されていてもよい。この場合にはこの制御装置が本発明の眼科装置に相当する。これにより、遠隔診療(診断)に用いられる各種眼科装置(眼科システム)にも本発明を適用することができる。
【0183】
上記各実施形態では、眼科装置10として眼底カメラ及び光干渉断層計の複合機を例に挙げて説明を行ったが、被検眼Eの観察、撮影、各種眼特性の取得、及びレーザ手術等の各種手術などに用いられる眼科装置本体を有する各種眼科装置10であって、且つ顔支持部12を有する各種眼科装置10(手術装置を含む)に本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0184】
10 眼科装置
11 ベース
12 顔支持部
12a 顎受け
12b 額当て
12c 電動昇降機構
13 架台
14 測定ヘッド
14a 眼底カメラユニット
14b OCTユニット
15 外部固視灯
16 操作部
16a 操作レバー
17 電動駆動機構
18 モニタ
19 レンズ収容部
20 ステレオカメラ
20a 第1カメラ
20b 第2カメラ
22 演算制御ユニット
30 照明光学系
31 観察光源
32 反射ミラー
33 集光レンズ
34 可視カットフィルタ
35 撮影光源
36 ミラー
37 リレーレンズ
38 リレーレンズ
39 絞り
40 リレーレンズ
41 孔開きミラー
42 ダイクロイックミラー
43 対物レンズ
50 撮像光学系
51 合焦レンズ
52 ミラー
53 ハーフミラー
54 視標表示部
55 ダイクロイックミラー
56 集光レンズ
57 撮像素子
58 ミラー
59 集光レンズ
60 撮像素子
70 フォーカス光学系
71 LED
72 リレーレンズ
73 スプリット指標板
74 二孔絞り
75 ミラー
76 集光レンズ
77 反射棒
80 OCT光学系
81 コリメータレンズユニット
82 光路長変更部
83 ガルバノスキャナ
84 合焦レンズ
85 ミラー
86 リレーレンズ
90 統括制御部
92 記憶部
94 画像形成部
96 データ処理部
98 対応情報
99 対応情報
100 前眼部像取得部
102 変位検出部
102a 第1検出部
102b 第1解析部
103 変位検出部
103a 第2検出部
103b 第2解析部
104 判定部
106 報知制御部
108 相対位置検出部
110 アライメント制御部
112 眼特性取得制御部
116 瞳孔像
124 警告情報
130 支持位置変更制御部
132 再判定制御部
150 画像取得制御部
152 特定部位検出部
154 位置決定部
156 表示制御部
158 被検眼移動量検出部
160 再判定部
162 観察画面
200 指標
200a 第1指標
200b 第2指標
200c 第3指標
202 目盛り
C0,C1 中心位置
D1,D2 前眼部像
D3 顎受け撮影画像
E 被検眼
Ea 前眼部
Ef 眼底
Ep 瞳孔
LA,LA1 長軸
LB,LB1 短軸
OA 光軸
Q 視線方向
ΔH1 変更量
ΔH2,ΔH3 移動量