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特許7550597三次元造形装置、三次元造形物の製造方法、三次元造形装置の制御方法および制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】三次元造形装置、三次元造形物の製造方法、三次元造形装置の制御方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/36 20210101AFI20240906BHJP
   B22F 10/85 20210101ALI20240906BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240906BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20240906BHJP
   B29C 64/295 20170101ALI20240906BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20240906BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240906BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240906BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240906BHJP
【FI】
B22F10/36
B22F10/85
B29C64/153
B29C64/268
B29C64/295
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020170627
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062542
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】今井 智也
(72)【発明者】
【氏名】巽 裕章
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓祐
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007065(JP,A)
【文献】国際公開第2018/109943(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,3/16,10/20,10/30,10/36,
10/85,12/10,12/30,12/41
B29C 64/153,64/268,64/295,64/393,
67/00
B33Y 10/00,30/00,50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料に電子ビームを照射し、前記粉末材料を溶融および凝固させて三次元造形物を造形する三次元造形装置であって、
前記電子ビームを出射する電子ビーム出射部と、
前記粉末材料によって造形される三次元の造形物を支持し、上下方向に移動可能なプレートと、
前記プレート上に前記粉末材料を供給する粉末材料供給部と、
前記電子ビームの照射領域に前記粉末材料を供給する材料準備処理と、前記照射領域の前記粉末材料に対し前記電子ビームを照射して前記粉末材料の加熱を行う加熱処理と、前記粉末材料に前記電子ビームを照射して前記粉末材料を溶融凝固させる溶融凝固処理と、を含む処理群を繰り返し実行するように前記電子ビーム出射部、前記プレートおよび前記粉末材料供給部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、繰り返しの単位となる前記処理群中の各処理に要する時間に基づいて、前記処理群の期間に投入する熱量を算出し、前記投入する熱量から前記各処理における前記電子ビームの照射条件を算出し、前記照射条件にしたがって前記電子ビーム出射部を制御することによって前記投入する熱量を制御することを特徴とする三次元造形装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記材料準備処理、前記加熱処理および前記溶融凝固処理のそれぞれでの温度勾配と、前記材料準備処理、前記加熱処理および前記溶融凝固処理のそれぞれに要する時間と、を用いて、前記投入する熱量を算出することを特徴とする請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記処理群の期間で保持される前記粉末材料の温度の影響を考慮した値で計算される前記材料準備処理、前記加熱処理および前記溶融凝固処理のそれぞれでの前記温度勾配を用いて、前記投入する熱量を算出することを特徴とする請求項2に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記処理群の処理の実行中に前記照射条件を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の三次元造形装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記処理群に含まれる処理のうち、前記材料準備処理の直前の処理における前記照射条件を調整することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の三次元造形装置。
【請求項6】
前記加熱処理は、前記材料準備処理の後に前記粉末材料を予備加熱する予備加熱処理と、前記溶融凝固処理の後に前記照射領域の前記粉末材料を追加加熱する追加加熱処理と、を含み、
前記制御部は、前記追加加熱処理における前記照射条件を調整することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の三次元造形装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記溶融凝固処理に要する時間に基づいて、前記加熱処理での前記電子ビームの前記照射条件を調整することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の三次元造形装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記三次元造形物の造形処理を開始する前に、前記三次元造形物を層状に造形する際の各層における各処理の前記照射条件を算出することを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の三次元造形装置。
【請求項9】
電子ビームの照射領域に粉末材料を供給する材料準備処理と、前記照射領域の前記粉末材料に対し前記電子ビームを照射して前記粉末材料の加熱を行う加熱処理と、前記粉末材料に前記電子ビームを照射して前記粉末材料を溶融凝固させる溶融凝固処理と、を含む処理群を繰り返し実行して、三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法であって、
繰り返しの単位となる前記処理群中の各処理に要する時間に基づいて、前記処理群の期間に投入する熱量を算出し、前記投入する熱量から前記各処理における前記電子ビームの照射条件を算出する工程と、
前記照射条件にしたがって前記電子ビームを制御することによって前記投入する熱量を制御する工程と、
を含むことを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項10】
電子ビームを出射する電子ビーム出射部と、
粉末材料によって造形される三次元の造形物を支持し、上下方向に移動可能なプレートと、
前記プレート上に前記粉末材料を供給する粉末材料供給部と、
前記電子ビーム出射部の動作を制御する制御部と、
を備える三次元造形装置の制御方法であって、
前記制御部が、前記電子ビームの照射領域に粉末材料を供給する材料準備処理と、前記照射領域の前記粉末材料に対し前記電子ビームを照射して前記粉末材料の加熱を行う加熱処理と、前記粉末材料に前記電子ビームを照射して前記粉末材料を溶融凝固させる溶融凝固処理と、を含む処理群を繰り返し実行するように前記電子ビーム出射部、前記プレートおよび前記粉末材料供給部の動作を制御する制御工程と、
前記制御部が、繰り返しの単位となる前記処理群中の各処理に要する時間に基づいて、前記処理群の期間に投入する熱量を算出し、前記投入する熱量から前記各処理における前記電子ビームの照射条件を算出する算出工程と、
を含み、
前記制御工程では、前記算出工程で算出された前記照射条件にしたがって前記電子ビーム出射部を制御することによって前記投入する熱量を制御することを特徴とする三次元造形装置の制御方法。
【請求項11】
コンピュータに、
電子ビームの照射領域に粉末材料を供給する材料準備処理と、前記照射領域の前記粉末材料に対し前記電子ビームを照射して前記粉末材料の加熱を行う予備加熱処理と、前記粉末材料に前記電子ビームを照射して前記粉末材料を溶融凝固させる溶融凝固処理と、を含む処理群を繰り返し実行するように前記電子ビームの出射を制御する制御手順と、
繰り返しの単位となる前記処理群中の各処理に要する時間に基づいて、前記処理群の期間に投入する熱量を算出し、前記投入する熱量から前記各処理における前記電子ビームの照射条件を算出する算出手順と、
を実行させ、
前記制御手順では、前記算出手順で算出された前記照射条件にしたがって前記電子ビームを制御することによって前記投入する熱量を制御することを特徴とする制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粉末材料を選択的に固化させる処理を繰り返すことによって三次元造形物を造形する三次元造形装置、三次元造形物の製造方法、三次元造形装置の制御方法および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを照射することにより溶融凝固させることができる金属粉末材料を使用した層を複数層重ね合わせることによって三次元造形物を造形する三次元造形装置が知られている。三次元造形装置では、三次元造形物を造形する領域である造形領域に金属粉末材料を供給する供給工程と、供給した金属粉末材料に局所的に電子ビームを照射して金属粉末材料を溶融凝固させて造形を行う造形工程と、を複数回繰り返して実施することができる手段を含む。通常、金属粉末材料に対して電子ビームを照射した場合に、帯電した金属粉末材料同士のクーロン力による反発によって金属粉末材料が飛散してしまうスモーク現象が生じてしまう。このため、金属粉末材料に対して電子ビームを照射する前に、予め金属粉末材料の帯電を抑制する処置が実行される。
【0003】
金属粉末材料の過度な帯電による飛散現象を抑制するための方法として、電子ビームを照射することで造形領域を予め加熱し、加熱により高温となった造形領域に新規に金属粉末材料を供給する方法が知られている。これによって、敷き詰められた金属粉末材料は、高温の下面によって加熱され、仮焼結と呼ばれる状態となる。仮焼結状態となった金属粉末材料は粉末同士の電気的接触効果が増強され、過度な帯電が抑制される。したがって、三次元造形装置では、三次元造形物を造形する間、造形領域に敷き詰められた金属粉末材料が仮焼結状態へと進行するように、造形領域の温度を高温に維持することが重要となる。特許文献1には、造形領域に金属粉末材料を敷き詰める前の予備加熱工程において投入する熱量を、造形領域の熱容量に基づいて計算することで、造形領域の温度を所望の温度に維持することができる三次元造形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-7065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の三次元造形装置では、金属粉末材料を予備加熱する工程における投入熱量は、造形領域の熱容量に基づいて計算される。この熱容量は、リアルタイムで逐次、温度測定器によって測定された計測値に基づいて算出される。予備加熱工程で金属粉末材料の過度な帯電を抑制するために必要な温度は、ある金属材料では700℃以上となる場合がある。また、電子ビームを所定の位置に照射するためには、ある一定以上の真空度に維持することも必要である。所望の層数の造形を繰り返す処理においてこのような真空中での高温の状態を維持する場合には、金属粉末材料を起因とする蒸着物が真空チャンバ内に付着してしまう。これらの蒸着物は、温度測定のために真空チャンバに設けられた観察窓にも付着するため、観察窓の外側に設けられる温度測定器による温度測定結果に影響を与える可能性がある。また、温度測定器を真空チャンバ内へ設置した場合にも、同様に温度測定器への蒸着物の付着が温度測定に影響を与えてしまう。したがって、造形中にリアルタイムで測定した温度測定結果に基づいて投入する熱量を計算する方法では、造形中の蒸着物による温度測定結果への対処が必要となる。このような状況から、造形中の温度測定に依存しないで、繰り返し行われる各処理に投入するべき熱量を制御する手法が要望されている。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、複数の処理を含み、繰り返し行われる処理群中における各処理での投入熱量を、造形中の温度測定に依存せずに制御することができる三次元造形装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る三次元造形装置は、粉末材料に電子ビームを照射し、粉末材料を溶融および凝固させて三次元造形物を造形する。三次元造形装置は、電子ビームを出射する電子ビーム出射部と、粉末材料によって造形される三次元の造形物を支持し、上下方向に移動可能なプレートと、プレート上に粉末材料を供給する粉末材料供給部と、制御部と、を備える。制御部は、電子ビームの照射領域に粉末材料を供給する材料準備処理と、照射領域の粉末材料に対し電子ビームを照射して粉末材料の加熱を行う加熱処理と、粉末材料に電子ビームを照射して粉末材料を溶融凝固させる溶融凝固処理と、を含む処理群を繰り返し実行するように電子ビーム出射部、プレートおよび粉末材料供給部の動作を制御する。また、制御部は、繰り返しの単位となる処理群中の各処理に要する時間に基づいて、処理群の期間に投入する熱量を算出し、投入する熱量から各処理における電子ビームの照射条件を算出し、照射条件にしたがって電子ビーム出射部を制御することによって投入する熱量を制御する
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、複数の処理を含み、繰り返し行われる処理群中における各処理での投入熱量を、造形中の温度測定に依存せずに制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す図
図2】実施の形態1による三次元造形装置の造形部の構成の一例を模式的に示す上面図
図3】プレート上に敷き均された粉末材料の近似された入熱モデルの一例を模式的に示す図
図4】第n層目における粉末材料の表面温度の推移の一例を模式的に示す図
図5】予備実験の結果得られる層数と表面温度と各処理における電子ビームの照射時間との間の関係の一例を示す図
図6】実施の形態1による三次元造形物の製造方法の手順の一例を示すフローチャート
図7】実施の形態1による三次元造形装置の制御部による投入熱量の制御方法の手順の一例を示すフローチャート
図8】実施の形態1による三次元造形物の製造方法における粉末材料の表面温度と造形層数との関係および造形時の各処理に要した時間と造形層数との関係の一例を示す図
図9】ある異なる表面温度で粉末材料の表面を維持しているときの一層を造形している間の表面温度の変化の一例を模式的に示す図
図10】実施の形態3による三次元造形装置の制御部による投入熱量の制御方法の手順の一例を示すフローチャート
図11】実施の形態4による三次元造形装置の制御部による造形開始前の造形データの作成方法の手順の一例を示すフローチャート
図12】実施の形態1から4にかかる三次元造形装置の制御部のハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態に係る三次元造形装置、三次元造形物の製造方法、三次元造形装置の制御方法および制御プログラムを図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
三次元造形装置は、粉末材料に電子ビームを照射し、粉末材料を溶融凝固させて三次元造形物を造形する装置である。図1は、実施の形態1による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。三次元造形装置1は、電子ビーム出射部2と、造形部3と、制御部4と、を備える。
【0012】
電子ビーム出射部2は、電子銃部21と、収束コイル22と、偏向コイル23と、を備える。電子銃部21、収束コイル22および偏向コイル23は、例えば筒状を呈するコラム24内に設置される。電子銃部21、収束コイル22および偏向コイル23は、制御部4と電気的に接続されている。
【0013】
電子銃部21は、電子ビームBを出射する。電子銃部21は、例えば、下方に向けて電子ビームBを出射する。電子銃部21は、制御部4からの制御信号を受けて作動される。
【0014】
収束コイル22は、電子銃部21から出射された電子ビームBを収束させる。収束コイル22は、制御部4からの制御信号を受けて作動される。収束コイル22は、例えば物体を造形する場合と、予備的な加熱が行われる場合と、で電子ビームBの収束径を変更する。
【0015】
偏向コイル23は、電磁的なビーム偏向を行う。したがって、偏向コイル23は、機械的なビーム偏向と比べて、電子ビームBの照射時における走査速度を高速なものとすることができる。偏向コイル23は、制御部4からの制御信号を受けて作動される。偏向コイル23は、制御信号に応じて電子ビームBの照射位置を調整する。
【0016】
電子ビーム出射部2は、造形部3の粉末材料Aおよび造形部3の後述するプレート34に対して電子ビームBを出射する。電子ビーム出射部2は、三次元造形物を造形する場合には、電子ビームBの出射によって、粉末材料Aを溶融させる。また、電子ビーム出射部2は、三次元造形物の造形を行う前に、粉末材料Aに対して電子ビームBを照射して、粉末材料Aの予備的な加熱を行う。粉末材料Aの予備的な加熱は、例えば、電子ビームBの焦点を電子銃部21側へずらし、粉末材料Aを溶融させる場合に比べ、集光径が大きい電子ビームBを出射させることによって行われる。一例では、粉末材料Aの予備的な加熱では、粉末材料Aを溶融させない温度となるように、電子ビームBが照射される。また、粉末材料Aの予備的な加熱は、後述する照射領域Rbに対して電子ビームBが出射されることにより行われる。
【0017】
造形部3は、所望の三次元造形物を造形する部位である。造形部3は、チャンバ30を有する。チャンバ30は、内部を真空にすることができるように、密閉された構造を有する。チャンバ30には、排気装置である図示しない真空ポンプが接続され、チャンバ30内を排気することで予め定められた圧力にすることができる。チャンバ30内は、造形処理中は、予め定められた圧力以下の真空または真空に近い状態にされる。
【0018】
造形部3は、チャンバ30内に、造形タンク31と、昇降ステージ32と、昇降機33と、プレート34と、ホッパ35と、スキージ36と、を備える。
【0019】
造形タンク31は、チャンバ30内の下方に配置され、三次元造形物を造形する空間を形成する。図1の例では、造形タンク31は、チャンバ30の内部の下方に嵌り込むように配置され、水平方向の中央部に、三次元造形物を造形する空間となる開口31aが設けられている。図2は、実施の形態1による三次元造形装置の造形部の構成の一例を模式的に示す上面図である。図2に示されるように、水平面内において、造形タンク31は矩形状であり、造形タンク31の開口31aは角筒状である。なお、これは一例であり、造形タンク31は円形状であり、造形タンク31の開口31aは円筒状であってもよい。
【0020】
図1に戻り、昇降ステージ32は、直接的にまたは間接的にプレート34を支持し、造形タンク31の開口31a内で、上下方向に移動可能である。水平面内において、昇降ステージ32は、造形タンク31の開口31aに嵌り込む構成を有する。
【0021】
昇降機33は、昇降ステージ32を造形タンク31の開口31a内で上下方向に移動させる。すなわち、昇降機33は、昇降ステージ32を昇降させる。昇降機33は、制御部4と電気的に接続されている。昇降機33は、制御部4からの制御信号を受けて作動される。例えば、昇降機33は、三次元造形物である物体Oの造形の初期においては、昇降ステージ32と共にプレート34を上部へ移動させる。昇降機33は、プレート34上において粉末材料Aの溶融および凝固によって粉末材料Aが積層されるごとに、昇降ステージ32と共にプレート34を降下させる。昇降機33は、プレート34および昇降ステージ32を昇降できる構造のものであれば、その構造に特に制限はない。
【0022】
プレート34は、昇降ステージ32上に直接的にまたは間接的に配置され、粉末材料Aおよび造形される物体Oを支持する。水平面内において、プレート34は、造形タンク31の開口31aよりも小さくされる。プレート34上で、三次元造形物となる物体Oが造形される。プレート34は、例えば矩形状の板状体である。あるいは、プレート34は、円形状の板状体である。プレート34は、電子ビームBの出射方向の延長線上に配置されている。プレート34は、物体Oを支持する面が、例えば水平方向となるように設けられる。プレート34は、下方に設置される昇降ステージ32との間に配された、粉末材料Aの上に設置されてもよいし、昇降ステージ32上に直接支持されていてもよい。
【0023】
図2に示されるように、一例では、昇降ステージ32の水平面内における形状は、造形タンク31の開口31aの内側の形状に対応している。つまり、造形タンク31の内側形状が水平断面で矩形の場合には、昇降ステージ32の外形も矩形である。また、造形タンク31の内側形状が水平断面で円形の場合には、昇降ステージ32の外形も円形である。これによって、造形タンク31に供給される粉末材料Aは、昇降ステージ32の下方へ漏れ落ちにくくなる。また、粉末材料Aが昇降ステージ32の下方へ漏れ落ちることを抑制するために、昇降ステージ32の外縁部にシール材を設けてもよい。
【0024】
また、図2に示されるように、一例では、造形タンク31の開口31aの水平面内における断面は、プレート34と相似な形状を有している。一例では、造形タンク31の開口31aが矩形状である場合には、プレート34は、矩形の板状であり、造形タンク31の開口31aが円形状である場合には、プレート34は、円形の板状である。
【0025】
昇降ステージ32上にプレート34が支持され、プレート34上および昇降ステージ32上に粉末材料Aが配置される。粉末材料Aは、多数の粉末体により構成される。粉末材料Aとしては、例えば金属製の粉末が用いられる。また、粉末材料Aとしては、電子ビームBの照射により溶融および凝固できるものであれば、粉末より粒径の大きい粉体を用いてもよい。なお、この明細書においては、粉末材料Aには、粉末および紛体が含まれるものとする。電子ビームBが照射される照射領域Rbは、例えば、プレート34の上方から見てプレート34の領域内となるように設定される。
【0026】
図1に戻り、ホッパ35は、粉末材料Aを収容する。図1には、ホッパ35は、片側のみ図示したが、両側にホッパ35が設けられていてもよい。ホッパ35の下部には、粉末材料Aを排出する排出口35aが設けられている。排出口35aから排出された粉末材料Aは、プレート34上へ流入する。
【0027】
スキージ36は、プレート34の上方に配される粉末材料Aを敷き均す。例えば、スキージ36は、棒状または板状の部材が用いられる。ほかにも、スキージ36は櫛状を呈していてもよいし、複数個の部材が重なった構造となっていてもよい。スキージ36は、これらの部材を水平方向に移動させることにより、粉末材料Aの表面を均す。つまり、ホッパ35の排出口35aから排出された粉末材料Aは、スキージ36によってプレート34上へ供給される。スキージ36は、図示しないアクチュエータおよび機構により移動させられる。なお、粉末材料Aを敷き均す機構としては、スキージ36以外の機構を用いてもよい。なお、ホッパ35およびスキージ36は、粉末材料供給部に対応する。
【0028】
制御部4は、三次元造形装置1の装置全体の制御を行う電子制御ユニットである。制御部4は、例えばCPU(Central Processing Unit),ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)を含むコンピュータである。制御部4は、プレート34の昇降制御、スキージ36の作動制御、電子ビームBの出射制御、偏向コイル23の作動制御および電子ビームBの投入熱量の制御を実行する。
【0029】
制御部4は、プレート34の昇降制御として、昇降機33に制御信号を出力することによって、昇降機33を作動させる。この作動によって、プレート34の上下位置が調整される。
【0030】
制御部4は、スキージ36の作動制御として、電子ビームBの出射前にスキージ36を作動させる。この作動によって、プレート34上の粉末材料Aが敷き均される。
【0031】
制御部4は、電子ビームBの出射制御として、電子銃部21に制御信号を出力する。この制御信号に基づいて、電子銃部21から電子ビームBが出射される。
【0032】
制御部4は、偏向コイル23の作動制御として、偏向コイル23に制御信号を出力する。この制御信号に基づいて、電子ビームBの照射位置が制御される。例えば、制御部4には造形すべき三次元造形物の構造を示すデータである三次元CAD(Computer-Aided Design)データが入力される。制御部4は、この三次元CADデータに基づいて二次元のスライスデータを生成する。スライスデータは、例えば、造形すべき三次元造形物の水平断面のデータである。スライスデータは、上下方向における位置に応じた多数のデータの集合体である。制御部4は、このスライスデータに基づいて、図2に示されるように、粉末材料Aに対して電子ビームBを照射する造形領域Mを決定する。つまり、造形領域Mは、物体Oを造形するために、各層で粉末材料Aを溶融、凝固させる領域である。そして、制御部4は、決定された造形領域Mに応じて偏向コイル23に制御信号を出力する。
【0033】
制御部4は、電子ビームBの投入熱量の制御として、後述する計算式に基づいて電子ビームBによって粉末材料Aに投入する熱量を計算し、投入する熱量となるように電子ビームBの照射条件を計算する。制御部4は、計算された電子ビームBの照射条件にしたがって、電子銃部21に制御信号を出力する。
【0034】
以下に、制御部4によって実行される電子ビームBの投入熱量の制御方法について説明する。
【0035】
一般に、物体に熱量が与えられた場合における温度変化は、次式(1)によって表される。ただし、物体に与えられる正味の熱量はΔQとされ、物体の熱容量はCとされ、物体の温度変化量はΔTとされる。
【0036】
ΔT=ΔQ/C ・・・(1)
【0037】
三次元造形装置1によって造形される過程において、照射領域Rb内の最上面にある粉末材料Aの温度について考える。以下では、照射領域Rb内の最上面の粉末材料Aの温度は、表面温度と称され、照射領域Rb内の粉末材料Aの最上面は、粉末材料Aの表面と称される。図3は、プレート上に敷き均された粉末材料の近似された入熱モデルの一例を模式的に示す図である。ここで、QEBは電子ビームBによって投入される熱量であり、Q1は粉末材料Aの表面からチャンバ30内への熱輻射であり、Q2はチャンバ30内から粉末材料Aの表面への熱輻射であり、Q3は粉末材料Aの表面から下層の粉末材料Aへの熱伝導によって伝わる熱量を表す。ここで、粉末材料Aの表面に与えられる正味の熱量ΔQは次式(2)で与えられる。
【0038】
ΔQ=QEB+Q1+Q2+Q3 ・・・(2)
【0039】
また、熱容量Cは、物体を構成する材料の比熱Cpと物体の質量とにより決定されるため、粉末材料Aがプレート34上に供給される量が一定である限り照射領域Rb内の最上面にある粉末材料Aの表面の熱容量Cは一定と近似することができる。このため、粉末材料Aの表面温度Tsurfは、次式(3)に示されるように、(2)式によって決まる正味の熱量に比例するといえる。
【0040】
ΔTsurf∝ΔQ ・・・(3)
【0041】
三次元造形装置1における造形の基本的な動作は、以下の4つの処理に大きく分類することができる。以下の4つの処理を含む処理群が1回実行されることによって、1層分の物体Oが造形されることになる。三次元造形装置1では、処理群が繰り返し実行される。
材料準備処理:プレート34が下降し、プレート34上に粉末材料Aが敷き均される処理。
予備加熱処理:粉末材料Aの照射領域Rbの全体に電子ビームBを高速で照射し、粉末材料Aの温度を上昇させる処理。
溶融凝固処理:三次元造形物のCADデータに基づいた指定位置に電子ビームBを照射し粉末材料Aを溶融、凝固させる処理。
追加加熱処理:粉末材料Aの照射領域Rbの全体に電子ビームBを高速で照射し、粉末材料Aの温度を再度上昇させる処理。
【0042】
造形中の第n層目における粉末材料Aへの正味の熱量ΔQnは、次式(4)に示されるように、上記した材料準備処理、予備加熱処理、溶融凝固処理および追加加熱処理の各処理における正味の熱量の和で与えられる。ただし、材料準備処理、予備加熱処理、溶融凝固処理および追加加熱処理の正味の熱量は、それぞれΔQSZ,ΔQPH,ΔQHCおよびΔQAHであるとする。
【0043】
ΔQn=ΔQSZ+ΔQPH+ΔQHC+ΔQAH ・・・(4)
【0044】
各処理の正味の熱量を(2)式を用いて計算することで、第n層目の正味の熱量を算出することができるが、Q1,Q2,Q3の熱量を毎回計算するのは実用的でない。このため、実施の形態1では、表面温度Tsurfと熱量Qとの比例関係から、表面温度Tsurfの温度変化を予測することで投入する熱量を計算することとする。
【0045】
図4は、第n層目における粉末材料の表面温度の推移の一例を模式的に示す図である。図4において、横軸は時間を示し、縦軸は粉末材料Aの表面温度Tsurfを示している。また、SZは材料準備処理を示し、PHは予備加熱処理を示し、HCは溶融凝固処理を示し、AHは追加加熱処理を示している。
【0046】
各処理間の表面温度Tsurfと時間との関係は曲線Gに示されるように非線形になることが多いが、図4に示される表面温度Tsurfの温度推移は、各処理間を直線Lで近似している。ここでは、各処理の開始時および終了時の表面温度Tsurfの温度差と、各処理に要する時間と、から算出される温度勾配である係数a,b,c,dを用いて、各処理間を線形に近似している。
【0047】
第n+1層目の表面温度Tsurf,n+1は、次式(5)で表される。
【0048】
surf,n+1=a*tSZ+b*tPH+c*tHC+d*tAH+Tsurf,n ・・・(5)
【0049】
また、層数に関係なく表面温度Tsurfを一定に維持するためには、すなわちTsurf,n=Tsurf,n+1とするためには、(5)式から、次式(6)の関係が成立すればよい。
【0050】
a*tSZ+b*tPH+c*tHC+d*tAH=0 ・・・(6)
【0051】
三次元造形物の造形の一例においては、材料準備処理および溶融凝固処理に要する時間は、予め定められている。このため、造形中に投入する熱量の制御は、照射領域Rbの粉末材料Aに対し電子ビームBを照射して粉末材料Aを加熱する加熱処理で行われる。この例での加熱処理は、予備加熱処理と追加加熱処理とを含むが、造形中に投入する熱量の制御は、一般に、材料準備処理の直前の処理で行われることが望ましい。この例では造形中に投入する熱量の制御は、追加加熱処理で調整される。また、電子ビームBによる熱量の制御は、出力または照射時間を変化させることで行われる。出力は、一般的には電流値である。ここでは、実用的に用いられている、照射時間を変化させることで熱量の制御を行うこととする。そこで、(6)式から、次式(7)に示されるように追加加熱処理の電子ビームBの照射時間tAHを表す式に変形する。
【0052】
【数1】
【0053】
(7)式によって追加加熱処理の電子ビームBの照射時間tAHを制御することで、処理群の期間の最初における粉末材料Aの表面温度Tsurfを一定に維持することができる。
【0054】
ここで、係数a,b,c,dは、事前の予備実験により測定可能な値である。図5は、予備実験の結果得られる層数と表面温度と各処理における電子ビームの照射時間との間の関係の一例を示す図である。図5において、横軸は造形層数を示し、左側の縦軸は粉末材料Aの表面温度Tsurf[℃]を示し、右側の縦軸は各処理に要する時間[s]を示している。図5に示した実際の造形時の測定データから、各処理に要する時間を一定にした場合、すなわち各処理の正味の熱量を一定にした場合には、粉末材料Aの表面温度Tsurfは一定に保たれることがわかる。これは、(4)式で、ΔQn=0が成立していること、言い換えると、(6)式の関係が成立していることが示されている。
【0055】
このようにして得られる係数a,b,c,dは、用いる粉末材料Aの種類、プレート34の大きさ、または電子ビームBの出力などによって異なる値となるが、例えば、図5に示されるような予備実験を事前に行うことによって容易に得ることができる。
【0056】
ここでは、追加加熱処理における照射時間を求める場合を説明した。しかし、実施の形態1では、制御部4が制御するものが追加加熱処理の照射時間に限定されるものではない。制御部4は、繰り返しの単位となる処理群中の各処理に要する時間に基づいて、処理群の期間における粉末材料Aの表面に与えられる正味の熱量の変化が0となるように処理群の期間に投入する熱量を算出し、投入する熱量から電子ビームBの照射条件を算出し、照射条件にしたがって電子ビーム出射部2を制御するものであればよい。つまり、材料準備処理、予備加熱処理または溶融凝固処理に要する時間を調整してもよい。また、制御の対象は、電子ビームBの照射時間ではなく電子ビームBの出力であってもよい。
【0057】
次に、実施の形態1による三次元造形装置1を用いた三次元造形物の製造方法と、三次元造形装置1の制御方法、具体的には制御部4による投入熱量制御方法と、について説明する。
【0058】
図6は、実施の形態1による三次元造形物の製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。図6に示される三次元造形物の製造方法の一連の処理は、例えば三次元造形装置1の制御部4による指示によって行われる。ここで、実施の形態1による三次元造形装置1によって製造される三次元造形物とは、例えば、ラティス構造体のような周期的な構造を持つものである。また、以下では、三次元造形装置1で三次元造形物を造形中のものは、物体Oとも称される。
【0059】
まず、制御部4は、プレート34の予備加熱を行う(ステップS11)。ステップS11では、制御部4は、第1層目の粉末材料Aがプレート34上に供給される前に、予めプレート34を加熱する。制御部4が電子ビーム出射部2に制御信号を出力することによって、電子銃部21からの電子ビームBの出射と、偏向コイル23による電子ビームBの照射位置の制御と、が行われる。このとき、プレート34に電子ビームBが照射されるので、プレート34が加熱される。通常、プレート34内の照射領域Rbの全面に電子ビームBが照射される。例えば、プレート34が予め指定された温度である指定温度に到達するまで電子ビームBが照射される。また、プレート34が指定温度に到達後、所望の時間、プレート34の温度を指定温度に維持してもよい。
【0060】
ついで、制御部4は、プレート34の上下方向の位置を設定し、粉末材料Aをプレート34上へ供給する材料準備処理を実行する(ステップS12)。物体Oの造形の初期段階においては、プレート34の位置は、造形タンク31内において上方に位置している。例えば、造形の初期段階において、プレート34は、プレート34の上面が造形タンク31の最も電子銃部21側の面と一致する位置にある。そして、物体Oの造形が進行すると、プレート34の位置は、徐々に下方へ移動する。図1において、制御部4が昇降機33に制御信号を出力することで、昇降機33が作動される。昇降機33の作動によって、昇降ステージ32およびプレート34が昇降する。この結果、プレート34の上下方向の位置が設定される。
【0061】
プレート34の位置が設定されると、粉末材料Aの供給が行われる。粉末材料Aの供給処理では、電子ビームBの照射領域Rbに粉末材料Aが供給される。なお、ステップS12では、粉末材料Aの供給に加えて、プレート34上に供給された粉末材料Aの表面を敷き均す処理を含んでいてもよい。例えば、図1において、ホッパ35の排出口35aから粉末材料Aが排出された後、制御部4が、図示しないアクチュエータに制御信号を出力することにより、スキージ36を作動させる。スキージ36の作動は、スキージ36の水平方向への移動と、プレート34上への粉末材料Aの供給と、粉末材料Aを敷き均す処理と、を含んでいてもよい。
【0062】
また、第1層目においては、ステップS11が処理される前の準備の段階においてプレート34の位置が設定される場合があるため、ステップS12のプレート34の位置の設定処理がスキップされてもよい。また、プレート34の位置の設定処理については、後述するステップS14とステップS15との間、またはステップS15の処理中に行われてもよい。
【0063】
その後、制御部4は、粉末材料Aの予備加熱を行う予備加熱処理を実行する(ステップS13)。ステップS13の予備加熱処理は、物体Oの造形を行う前に予め粉末材料Aを加熱するものである。制御部4が電子ビーム出射部2に制御信号を出力することにより、電子銃部21からの電子ビームBの出射と、偏向コイル23による電子ビームBの照射位置の制御と、が行われる。プレート34上の粉末材料Aに電子ビームBが照射されるので、粉末材料Aが加熱される。一例では、予備加熱処理では、粉末材料Aが溶融しない温度で粉末材料Aが加熱される。予備加熱のための電子ビームBの照射は、照射領域Rbの全面に対し、1回のスキャンのみによって行われてもよいし、複数回のスキャンを繰り返すことによって行われてもよい。
【0064】
ついで、制御部4は、プレート34上の粉末材料Aに電子ビームBを照射して物体Oを造形する溶融凝固処理を実行する(ステップS14)。例えば、制御部4は、造形すべき物体Oの三次元CADデータを利用して、二次元のスライスデータの集合体を生成する。そして、制御部4は、このスライスデータに基づいて、粉末材料Aに対し電子ビームBを照射する造形領域Mを決定する。制御部4は、造形領域Mに応じて電子ビーム出射部2から電子ビームBを照射させる。電子ビームBが照射された造形領域Mの粉末材料Aは、溶融凝固され、電子ビームBが照射されなかった粉末材料Aとは異なり、物体Oを構成する一部の層となる。
【0065】
その後、制御部4は、溶融凝固処理を行った物体Oを追加加熱する追加加熱処理を実行する(ステップS15)。追加加熱処理では、物体Oの造形後に照射領域Rbが加熱される。制御部4が電子ビーム出射部2に制御信号を出力することにより、電子銃部21からの電子ビームBの出射と、偏向コイル23による電子ビームBの照射位置の制御と、が行われる。プレート34上の照射領域Rbに電子ビームBが照射されるので、物体Oおよび粉末材料Aが加熱される。一例では、追加加熱処理は、粉末材料Aが溶融しない温度で粉末材料Aが加熱される。追加加熱のための電子ビームBの照射は、照射領域Rbの全面に対し、1回のみ行われてもよいし、複数回繰り返して行われてもよい。
【0066】
ついで、制御部4は、制御処理の終了条件が成立したかを判定する(ステップS16)。制御処理の終了条件が成立した場合とは、例えば、所望の三次元の物体Oの造形が終了した場合である。つまり、ステップS12からステップS15までの制御処理を含む処理群を繰り返し行った結果、物体O、すなわち三次元造形物の造形が完了した場合である。物体Oの造形が完了したことは、作成された物体Oの全てのスライスデータについて、ステップS12からステップS15までの制御処理を含む処理群が行われたかどうかによって、確認される。一方、制御処理の終了条件が成立していない場合とは、例えば、所望の三次元の物体Oの造形が完了していない場合であり、作成された物体Oの全てのスライスデータが制御処理に使用されていない場合である。制御処理の終了条件が成立していないと判定された場合(ステップS16でNoの場合)には、ステップS12に処理が移行する。一方、制御処理の終了条件が成立したと判定された場合(ステップS16でYesの場合)には、三次元造形物の製造方法が終了する。
【0067】
次に、制御部4の動作のうち、投入熱量を制御する手順について説明する。図7は、実施の形態1による三次元造形装置の制御部による投入熱量の制御方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0068】
まず、制御部4は、前層における追加加熱処理が終了したことを示す信号を抽出する(ステップS31)。前層における追加加熱処理は、図6のステップS15の工程である。制御部4は、抽出した追加加熱処理が終了したことを示す信号を基準に時間のカウントを開始する(ステップS32)。図6に示したように、制御部4の他の動作制御手順によれば、前層におけるステップS15の追加加熱処理が終了すると、前層における材料準備処理、予備加熱処理、溶融凝固処理および追加加熱処理を含む処理群が終了し、次層の処理群におけるステップS12の材料準備処理が開始される。
【0069】
ついで、制御部4は、次層における材料準備処理が終了したことを示す信号を抽出し(ステップS33)、抽出した材料準備処理が終了したことを示す信号を基準に時間のカウントを開始する(ステップS34)。図6に示したように、制御部4の他の動作制御手順によれば、ステップS12の材料準備処理の後には、次層におけるステップS13の予備加熱処理が開始される。
【0070】
その後、制御部4は、ステップS32で開始した時間のカウントに基づいて、ステップS33で抽出した信号までの材料準備処理に要した時間tSZを記録する(ステップS35)。記録した時間tSZは、制御部4に格納される。
【0071】
ついで、制御部4は、次層の予備加熱処理が終了したことを示す信号を抽出する(ステップS36)。制御部4は、抽出した予備加熱処理が終了したことを示す信号を基準に時間のカウントを開始する(ステップS37)。図6に示したように、制御部4の他の動作制御手順によれば、ステップS13の予備加熱処理の後には、次層のステップS14の溶融凝固処理が開始される。
【0072】
その後、制御部4は、ステップS34で開始した時間のカウントに基づいて、ステップS36で抽出した信号までの予備加熱処理に要した時間tPHを記録する(ステップS38)。記録した時間tPHは、制御部4に格納される。
【0073】
ついで、制御部4は、次層の溶融凝固処理が終了したことを示す信号を抽出する(ステップS39)。その後、制御部4は、ステップS37で開始した時間のカウントに基づいて、ステップS39で抽出した信号までの溶融凝固処理に要した時間tHCを記録する(ステップS40)。記録した時間tHCは、制御部4に格納される。
【0074】
ついで、制御部4は、ステップS35,S38,S40で記録された時間tSZ,tPH,tHCを用いて、(7)式によって追加加熱処理における電子ビームBの照射時間tAHを算出する(ステップS41)。追加加熱処理における電子ビームBの照射時間tAHは、追加加熱処理に要する時間に対応する。このとき、予め実験によって求められた係数a,b,c,dも用いられる。制御部4は、算出された時間tAHを基に、図6のステップS15の追加加熱処理を行う。以上によって、三次元造形装置1の制御部4による投入熱量の制御方法が終了する。
【0075】
図6および図7に示される処理が繰り返し行われることによって、粉末材料Aの表面温度を一定に維持した状態で物体Oが層状に徐々に形成されていく。そして、最終的に所望の三次元造形物が造形される。図6に示されるフローチャートは、制御部4による制御工程に対応し、図7に示されるフローチャートは、追加加熱処理における電子ビームBの照射時間を算出する算出工程に対応する。ここでは、処理が複雑になるため、2つのフローチャートに分けて記載したが、図6のステップS12からS14の処理と並行して、図7の処理が実行され、図7のステップS41で得られた結果を用いて、図6のステップS15の処理が実行される。なお、図7では、算出工程は、追加加熱処理における電子ビームBの照射時間を算出する場合を示しているが、算出工程で算出するものがこれに限定されるものではない。繰り返しの単位となる処理群中の各処理に要する時間に基づいて、一例では、処理群の期間における粉末材料Aの表面に与えられる正味の熱量の変化が0となるように、処理群の期間に投入するべき熱量を算出し、投入する熱量から電子ビームBの照射条件を算出するものであればよい。
【0076】
これまでに述べた、三次元造形装置1の構成と動作、および制御部4による投入熱量の制御方法によって造形された測定データを基に、実施の形態1の有効性について説明する。
【0077】
図8は、実施の形態1による三次元造形物の製造方法における粉末材料の表面温度と造形層数との関係および造形時の各処理に要した時間と造形層数との関係の一例を示す図である。図8において、横軸は造形層数を示し、左側の縦軸は粉末材料Aの表面温度Tsurf[℃]を示し、右側の縦軸は各処理に要する時間[s]を示している。図8に示した粉末材料Aの表面温度Tsurfとは、各層の予備加熱処理が開始される直前に測定した粉末材料Aの温度である。図8から、全造形層数のうちの初期を除いて、粉末材料Aの表面温度Tsurfは一定に保たれていることがわかる。この結果は、例えば、溶融凝固処理の時間が単調に減少するような物体Oを造形する場合において、追加加熱処理の時間を(7)式によって制御することで、粉末材料Aの表面温度Tsurfを一定に保つことが可能であることを示している。
【0078】
このように、実施の形態1による三次元造形装置1では、粉末材料Aの表面温度は正味の熱量に比例することを前提として、繰り返し行われる処理群中の各処理に要する時間に基づいて投入する熱量を制御する。具体的には、三次元造形装置1の制御部4は、処理群中の粉末材料Aを加熱する加熱処理、より具体的には材料準備処理の直前に行われる処理である追加加熱処理に投入する熱量を制御する。これによって、造形中の温度測定結果を用いずに、粉末材料Aの表面温度を制御し、維持することができる。このため、温度計測機で造形中の物体Oの表面温度を計測することが不要となり、これによって、制御部4と造形中の物体Oの表面温度を計測する温度測定器との間のデータの送受信が不要となる。この結果、投入する熱量を算出する算出工程を短縮化および簡素化することができる。また、温度測定器を用いて造形中の物体Oの表面温度を計測しないので、温度測定結果のバラつきの影響を受けることがない。以上より、複数の処理を含み、繰り返し行われる処理群中における各処理での投入熱量を、造形中の温度測定に依存せずに制御することができるという効果を有する。
【0079】
また、制御部4は、処理群の処理の実行中に追加加熱処理に要する時間を含む照射条件を算出するようにした。このように、各処理に要する時間を造形中にリアルタイムで記録し、投入する熱量を計算するので、制御部4とその他構成要素との信号のやり取りによって生じる遅延時間も熱量の計算に反映することができ、粉末材料Aの表面温度をより正確に制御し、維持することができる。
【0080】
さらに、制御部4は、処理群に含まれる処理のうち、材料準備処理の直前の処理、具体的には追加加熱処理、における照射条件を調整するようにした。このように、各層に投入する熱量を制御する処理を次層の粉末材料Aが敷き均される直前の電子ビームBが照射される処理とすることで、最もスモーク現象が発生する危険の高い、粉末材料Aが敷き均された直後に電子ビームBを照射するときの温度をより正確に制御、維持することができる。
【0081】
実施の形態2.
実施の形態2による三次元造形装置1の構成は、実施の形態1の図1に示したものと同様である。ただし、制御部4での投入熱量の計算方法が実施の形態1とは異なる。以下では、実施の形態1と異なる部分について説明する。実施の形態2による三次元造形装置1では、投入する熱量を計算する(7)式の係数a,b,c,dが、粉末材料Aの表面で保持される温度の影響も考慮した係数a′,b′,c′,d′となるように設定されている。すなわち、係数a′,b′,c′,d′は、粉末材料Aの表面温度Tsurfの値によって変化する場合について説明する。
【0082】
ここで、実施の形態2による三次元造形装置1の制御部4によって実行される電子ビームBの投入熱量の制御方法における(7)式の係数a′,b′,c′,d′の決定方法について説明する。(5)式および(6)式の係数a,b,c,dは、粉末材料Aの表面で保持される温度によって変化する値である。このため、より正確に(7)式によって表面温度Tsurfを維持するためには、保持する温度に応じた係数a,b,c,dを設定する必要がある。しかしながら、粉末材料Aの各表面温度Tsurfで係数a,b,c,dを事前に測定することは実用上、問題となり得る。そこで、実施の形態2による三次元造形装置1では、制御部4が、各処理の時間が表面温度Tsurfの変化に与える正味の温度係数a′,b′,c′,d′を求め、これらの温度係数a′,b′,c′,d′を用いた(7)式によって投入する熱量を制御する。
【0083】
以下に、温度係数a′,b′,c′,d′の導出方法について説明する。図9は、ある異なる表面温度で粉末材料の表面を維持しているときの一層を造形している間の表面温度の変化の一例を模式的に示す図である。図9において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示している。表面温度TsurfがT1で保持されているときの(5)式の係数をa1,b1,c1,d1とすると、(5)式は次式(8)のように表される。
【0084】
1=a1*tSZ+b1*tPH+c1*tHC+d1*tAH+T1 ・・・(8)
【0085】
ここで、例えば追加加熱処理に要する時間tAHのみがt’AHに変化することで、保持温度がT2に変化したとする。このとき、保持温度の変化に応じて(8)式の係数はa2,b2,c2,d2に変化し、次式(9)のように表される。
【0086】
2=a2*tSZ+b2*tPH+c2*tHC+d2*t’AH+T2 ・・・(9)
【0087】
このとき、追加加熱処理に要する時間の変化量ΔtAHと、温度変化ΔT(=T2-T1)と、を用いて次式(10)で表される追加加熱処理の正味の温度係数d′は、保持する温度が変化したことによる係数の変化も考慮した値と考えることができる。
【0088】
【数2】
【0089】
同様にして、材料準備処理、予備加熱処理および溶融凝固処理についての正味の温度係数a′,b′,c′が求められる。このようにして、粉末材料Aの表面で保持される温度の影響が考慮された各処理の温度勾配である温度係数a′,b′,c′,d′が求められる。以上のようにして求められた温度係数a′,b′,c′,d′を用いると、追加加熱処理の電子ビームBの照射時間、すなわち追加加熱処理に要する時間tAHは、次式(11)によって示される。
【0090】
【数3】
【0091】
(11)式は、粉末材料Aの表面で保持される表面温度によって各処理の温度係数が変化することを考慮した係数を用いて、追加加熱処理の照射時間tAHを求めたものである。なお、制御部4でのその他の処理については、実施の形態1で説明したものと同様であるので、説明を省略する。
【0092】
以上より、実施の形態2による三次元造形装置1では、制御部4によって投入する熱量を計算する式において、保持する表面温度の影響も考慮した各処理の温度係数が設定される。つまり、材料準備処理、加熱処理および溶融凝固処理のそれぞれでの温度勾配は、処理群の期間の最初に粉末材料Aの表面で保持される温度の影響を考慮した値で計算される。これによって、実施の形態1に比してより精度よく表面温度を制御し、維持することができる。
【0093】
実施の形態3.
実施の形態3による三次元造形装置1の構成は、実施の形態1の図1に示したものと同様である。ただし、制御部4での投入熱量の計算方法が実施の形態1,2とは異なる。以下では、実施の形態1,2と異なる部分について説明する。実施の形態3による三次元造形装置1では、実施の形態1,2において、繰り返し行われる各処理群における材料準備処理および予備加熱処理での熱量の変化は一定であると考え、溶融凝固処理の時間に基づいて投入するべき熱量を計算し、電子ビームBの照射条件を制御する。
【0094】
各層を造形する際の各処理に要する時間は可変な値であるが、実用的には、特に材料準備処理および予備加熱処理に要する時間は一定とされる場合がある。このような場合に、制御部4によって毎層、材料準備処理に要する時間tSZと、予備加熱処理に要する時間tPHと、を計測し、(7)式で示した計算式に基づいて制御することは、無駄な工程を含み、簡素ではない。そこで、実施の形態3では、制御部4で毎層計測する対象を溶融凝固処理の時間のみとし、投入する熱量を計算する。
【0095】
(7)式において、材料準備処理に要する時間tSZおよび予備加熱処理に要する時間tPHが一定であるとすると、追加加熱処理における電子ビームBの照射時間tAHは、次式(12)のように表される。ただし、Aは定数であり、次式(13)で表される。
【0096】
【数4】
【0097】
【数5】
【0098】
(12)式は非常に単純な一次方程式である。実施の形態3では、このような単純な(12)式を用いることで、投入する熱量を計算し、表面温度Tsurfを制御し、維持することができる。
【0099】
実施の形態3による三次元造形装置1において、制御部4の動作のうち、投入熱量を制御する手順について説明する。図10は、実施の形態3による三次元造形装置の制御部による投入熱量の制御方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0100】
まず、制御部4は、予め設定された材料準備処理および予備加熱処理に要する時間tSZ,tPHで決定される定数Aを読み込む(ステップS51)。ここでは、各層のフローチャート上で定数Aが読み込まれるステップを設けたが、各層のフローチャート上で定数Aが読み込まれるのではなく、当該造形処理が開始された際に定数Aが読み込まれ、後述するステップS56の処理で読み込まれた定数Aが使用されるようにしてもよい。
【0101】
ついで、制御部4は、図6のステップS13の予備加熱処理が終了したことを示す信号を抽出する(ステップS52)。そして、制御部4は、抽出した予備加熱処理が終了したことを示す信号を基準に時間のカウントを開始する(ステップS53)。図6に示したように、制御部4の他の動作制御手順によれば、ステップS13の予備加熱処理の後には、ステップS14の溶融凝固処理が開始する。ここで、ステップS52,S53の処理は、図7のステップS36,S37の処理に相当する手順でもある。
【0102】
その後、制御部4は、図6のステップS14の溶融凝固処理が終了したことを示す信号を抽出する(ステップS54)。ここで、ステップS54の処理は、図7のステップS39に相当する手順でもある。
【0103】
ついで、制御部4は、ステップS53で開始した時間のカウントに基づいて、ステップS54で抽出した信号までの溶融凝固処理に要した時間tHCを記録する(ステップS55)。記録した時間tHCは制御部4に格納される。ここで、ステップS55の処理は、図7のステップS40に相当する手順でもある。
【0104】
その後、制御部4は、ステップS51で読み込んだ定数Aと、ステップS55で記録された時間tHCと、を用いて、(12)式によって追加加熱処理における電子ビームBの照射時間tAHを算出する(ステップS56)。計算された時間tAHを基に、図6のステップS15の処理が行われる。ここで、ステップS56の処理は、図7のステップS41に相当する手順である。
【0105】
図6および図10に示される処理が繰り返し行われることによって、粉末材料Aの表面温度を一定に維持した状態で物体Oが層状に徐々に形成されていく。そして、最終的に所望の三次元造形物が造形される。図10に示されるフローチャートは、追加加熱処理における電子ビームBの照射時間を算出する算出工程に対応する。なお、図10では、算出工程は、追加加熱処理における電子ビームBの照射時間を算出する場合を示しているが、算出工程で算出するものがこれに限定されるものではない。繰り返しの単位となる処理群中の各処理に要する時間に基づいて、一例では、処理群の期間における粉末材料Aの表面に与えられる正味の熱量の変化が0となるように、処理群の期間に投入するべき熱量を算出し、投入する熱量から電子ビームBの照射条件を算出するものであればよい。また、制御部4でのその他の処理については、実施の形態1で説明したものと同様であるので、説明を省略する。
【0106】
以上より、実施の形態3による三次元造形装置1では、材料準備処理および予備加熱処理に要する時間は一定であると考え、溶融凝固処理に要する時間に基づいて制御部4が加熱処理での電子ビームBの照射条件を調整する。したがって、実施の形態1の場合に比して、制御部4の投入する熱量を計算する工程をより短縮化し、簡素化することができる。また、粉末材料Aの表面温度を、予め定められた温度となるように制御し、予め定められた温度に維持することができる。
【0107】
なお、上記した説明では、実施の形態1の場合で、材料準備処理および予備加熱処理に要する時間を一定と考える場合を示したが、実施の形態2の場合で、材料準備処理および予備加熱処理に要する時間を一定と考えるようにしてもよい。これによっても、同様の効果を得ることができる。
【0108】
実施の形態4.
実施の形態4による三次元造形装置1の構成は、実施の形態1の図1に示したものと同様である。ただし、制御部4での計算方法が実施の形態1,2,3とは異なる。以下では、実施の形態1,2,3とは異なる部分について説明する。実施の形態4による三次元造形装置1では、実施の形態1,2,3の制御部4が、設定された各処理に要する時間に基づいて予め各層に投入する熱量を計算し、各層の各処理に要する時間を含む造形データを作成する。
【0109】
図11は、実施の形態4による三次元造形装置の制御部による造形開始前の造形データの作成方法の手順の一例を示すフローチャートである。まず、制御部4は、造形する三次元造形物のCADデータを読み込む(ステップS71)。ついで、制御部4は、電子ビームBを照射する際の情報である電子ビーム照射情報を読み込む(ステップS72)。電子ビーム照射情報は、電子ビームBの条件および走査計画を含む。例えば、電子ビーム照射情報は、電子ビームBの出力、電子ビームBの走査速度、電子ビームBのスキャン方向および順番などである。
【0110】
その後、制御部4は、電子ビーム照射情報に基づいて、各層の溶融凝固処理に要する時間tHCを計算する(ステップS73)。ついで、制御部4は、各層に設定された材料準備処理に要する時間tSZおよび予備加熱処理に要する時間tPHを読み込む(ステップS74)。
【0111】
その後、制御部4は、ステップS73,S74で計算され、読み込まれた各層における各処理に要する時間tHC,tSZ,tPHに基づいて、(7)式、(11)式または(12)式によって、各層における追加加熱処理での電子ビームBの照射時間tAHを算出する(ステップS75)。
【0112】
ついで、制御部4は、ステップS71からS75のデータ等を含めた、造形データを作成する(ステップS76)。以上で、造形開始前の造形データの作成方法が終了する。この後に、制御部4は、作成した造形データにしたがって、図6に示される三次元造形物の製造方法の手順を実行する。つまり、制御部4が、造形開始前に各層に投入する熱量を計算し、その後に三次元造形物の製造方法が実行される。なお、図11に示されるフローチャートは、追加加熱処理における電子ビームBの照射時間を算出する算出工程に対応する。また、図11では、算出工程は、追加加熱処理における電子ビームBの照射時間を算出する場合を示しているが、算出工程で算出するものがこれに限定されるものではない。繰り返しの単位となる処理群中の各処理に要する時間に基づいて、一例では、処理群の期間における粉末材料Aの表面に与えられる正味の熱量の変化が0となるように、処理群の期間に投入するべき熱量を算出し、投入する熱量から電子ビームBの照射条件を算出するものであればよい。また、制御部4でのその他の処理については、実施の形態1で説明したものと同様であるので、説明を省略する。
【0113】
ここで、上述した制御部4の手順は一例であり、図11に示した手順は、例えば、三次元造形装置1から独立したパーソナルコンピュータなどの情報処理装置によって実施されてもよいし、三次元造形装置1に組み込まれたコンピュータによって実施されてもよい。
【0114】
以上に示されるように、実施の形態4による三次元造形装置1では、三次元造形物の造形処理を開始する前に、三次元造形物を層状に造形する際の各層における各処理の照射条件を算出する。つまり、三次元造形装置1は、スライスデータと電子ビーム照射情報とに基づいて予め各層に投入する熱量を計算するので、造形中にリアルタイムで各処理に要する時間を計測する必要がない。このため、造形中の各層に投入する熱量を算出する工程、すなわち造形中に各層の各処理における電子ビームBの照射条件を算出する算出工程を省略することができる。この結果、造形時間のさらなる短縮化と、作成された造形データを用いた図6に示される造形を制御する制御工程をより簡素化することが可能となる。
【0115】
ここで、三次元造形装置1の制御部4のハードウェア構成について説明する。図12は、実施の形態1から4にかかる三次元造形装置の制御部のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0116】
制御部4は、図12に示される制御回路300、すなわちプロセッサ301およびメモリ302により実現することができる。プロセッサ301の例は、CPU(中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ302の例は、RAMまたはROMである。
【0117】
制御部4は、プロセッサ301が、メモリ302で記憶されている、制御部4での処理を実行するためのプログラムである制御プログラムを読み出して実行することにより実現される。また、この制御プログラムは、制御部4における三次元造形装置1の制御方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。制御部4で実行される制御プログラムは、プレート34の昇降制御、スキージ36の作動制御、偏向コイル23の作動制御、電子ビームBの出射制御および電子ビームBの投入熱量の制御をモジュール化したモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。
【0118】
メモリ302は、スライスデータを記憶する。また、メモリ302は、実施の形態3の場合には、定数Aを記憶し、実施の形態4の場合には、電子ビーム照射情報および造形データを記憶する。メモリ302は、プロセッサ301が各種処理を実行する際の一時メモリにも使用される。
【0119】
プロセッサ301が実行する制御プログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルで、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されてもよい。また、プロセッサ301が実行する制御プログラムは、インターネットなどのネットワーク経由で三次元造形装置1の制御部4に提供されてもよい。
【0120】
また、制御部4を専用のハードウェアで実現してもよい。また、制御部4の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0121】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 三次元造形装置、2 電子ビーム出射部、3 造形部、4 制御部、21 電子銃部、22 収束コイル、23 偏向コイル、24 コラム、30 チャンバ、31 造形タンク、31a 開口、32 昇降ステージ、33 昇降機、34 プレート、35 ホッパ、35a 排出口、36 スキージ、300 制御回路、301 プロセッサ、302 メモリ、A 粉末材料、B 電子ビーム、M 造形領域、O 物体、Rb 照射領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12