(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02K 33/02 20060101AFI20240906BHJP
B06B 1/04 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H02K33/02 A
B06B1/04 S
(21)【出願番号】P 2020174578
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 正明
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-137346(JP,A)
【文献】特開2019-038934(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066688(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 33/02
B06B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体および可動体と、
前記支持体および前記可動体に接続される接続体と、
磁石およびコイルを備え、前記可動体を前記支持体に対して相対移動させる磁気駆動機構と、を有し、
前記接続体は、粘弾性体であり、
動的粘弾性測定により測定した前記粘弾性体の損失正接をTanδとすると、
前記粘弾性体のTanδは、温度上昇に伴って低下
し、
前記可動体が共振周波数で振動するとき、
前記コイルを流れる電流の低下に起因する前記可動体の加速度のピーク値の低下は、前記粘弾性体のTanδの低下に起因する前記ピーク値の上昇により相殺されることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記粘弾性体は、シリコーンゲルであることを特徴とする請求項
1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記接続体は、前記支持体と前記可動体が第1方向で対向する位置に配置され、
前記可動体は前記第1方向に対して交差する第2方向に振動することを特徴とする請求項1
または2に記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動体を支持体に対して相対移動させるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータとして、支持体および可動体と、支持体に対して可動体を振動させる磁気駆動機構を備えるとともに、可動体と支持体とを弾性および粘弾性を備えた接続体によって接続したものがある。特許文献1には、直方体状のカバーの内部に可動体を配置し、可動体をカバーの長手方向に振動させるアクチュエータが開示される。特許文献1のアクチュエータでは、接続体は、シート状ゲルを矩形に切断したゲル状部材である。可動体は、磁石が固定されたヨークを備えており、接続体(ゲル状部材)は、厚さ方向の一方の面がヨークに接着され、他方の面がカバー部材に接着される。磁気駆動機構は、可動体と支持体の一方に配置されるコイルと、可動体と支持体の他方に配置されるコイルを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気駆動機構を用いるアクチュエータでは、通電時の発熱等によりコイルの温度が変化すると、コイルの抵抗が上昇して電流が低下する。その結果、共振周波数における加速度のピーク値が低下し、駆動力が低下する。そのため、アクチュエータは、コイルの温度上昇により振動が弱くなるという温度特性を持ち、温度変化があるときは一定の振動を出力できないという問題がある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、支持体に対して可動体が振動するアクチュエータの温度変化による振動の変化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るアクチュエータは、支持体および可動体と、前記支持体および前記可動体に接続される接続体と、磁石およびコイルを備え、前記可動体を前記支持体に対して相対移動させる磁気駆動機構と、を有し、前記接続体は、粘弾性体であり、動的粘弾性測定により測定した前記粘弾性体の損失正接をTanδとすると、前記粘弾性体のTanδは、温度上昇に伴って低下することを特徴とする。
【0007】
本発明では、可動体と支持体とを接続する接続体は、動的粘弾性測定により測定した損失正接(Tanδ)が温度上昇に伴って低下する。Tanδが低下することは、粘性の寄与よりも弾性の寄与が増大することを意味する。接続体がこのような温度特性を持つと、温度上昇によりコイルを流れる電流が低下し加速度のピーク値が低下する一方で、接続体の温度特性(温度上昇に伴うTanδの低下)により加速度のピーク値が上昇するので、可動体の加速度の低下が抑制される。従って、温度変化による可動体の加速度の変化を抑制できるので、温度変化による可動体の振動の変化を抑制できる。
【0008】
本発明において、前記可動体が共振周波数で振動するとき、前記コイルを流れる電流の低下に起因する前記可動体の加速度のピーク値の低下は、前記粘弾性体のTanδの低下に起因する前記ピーク値の上昇により相殺されることが好ましい。このようにすると、温度変化があるときでも可動体の加速度が変化しないので、温度変化があるときでも可動体
に一定の振動を行わせることができる。
【0009】
本発明において、前記粘弾性体は、シリコーンゲルである。シリコーンゲルは、動的粘弾性測定により測定した損失正接(Tanδ)が温度上昇に伴って低下するという温度特性を有する。従って、シリコーンゲルを用いることにより、温度変化による可動体の振動の変化を抑制できる。
【0010】
本発明において、前記接続体は、前記支持体と前記可動体が第1方向で対向する位置に配置され、前記可動体は前記第1方向に対して交差する第2方向に振動することが好ましい。このように、粘弾性体がせん断方向に変形する構成では、粘弾性体は、非線形の成分よりも線形の成分が大きい変形特性を持つ。従って、リニアリティが良好な振動特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可動体と支持体とを接続する接続体は、動的粘弾性測定により測定した損失正接(Tanδ)が温度上昇に伴って低下する。Tanδが低下することは、粘性の寄与よりも弾性の寄与が増大することを意味する。接続体がこのような温度特性を持つと、温度上昇によりコイルを流れる電流が低下し加速度のピーク値が低下する一方で、接続体の温度特性(温度上昇に伴うTanδの低下)により加速度のピーク値が上昇するので、可動体の加速度の低下が抑制される。従って、温度変化による可動体の加速度の変化を抑制できるので、温度変化による可動体の振動の変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るアクチュエータの斜視図である。
【
図2】
図1に示すアクチュエータの分解斜視図である。
【
図3】
図1に示すアクチュエータの断面図(
図1のA-A断面図)である。
【
図4】
図1に示すアクチュエータを
図3と直交する方向で切断した断面図(
図1のB-B断面図)である。
【
図6】接続体の温度特性による可動体の加速度-周波数特性の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態では、支持体2が筒状のケース20を備えており、可動体3がケース20の内側に配置されて支持体2に対して軸線方向に振動する態様であるが、本発明を適用したアクチュエータは、支持体が直方体状であり、可動体が支持体の長手方向もしくは長手方向と直交する方向に振動する態様を採用してもよい。
【0014】
また、以下に説明する実施形態では、可動体3を支持体2に対して振動させる磁気駆動機構6は、可動体3に配置される磁石61と、支持体2に配置されるコイル62とを備えているが、本発明では、磁石61とコイル62の配置を逆にした構成を採用してもよい。すなわち、磁気駆動機構6は、可動体3に配置されるコイル62と、支持体2に配置される磁石61とを備えている態様であってもよい。
【0015】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るアクチュエータ1の斜視図である。
図2は、
図1に示すアクチュエータ1の分解斜視図である。
図3、
図4は、
図1に示すアクチュエータ1の断面図である。
図3は、
図1のA-A位置で切断した断面図である。
図4は、
図1のB-B位置で切断した断面図であり、
図3と直交する方向で切断した断面図である。以下の説
明において、可動体3の中心軸線Lが延在する方向を軸線方向とし、軸線方向の一方側をL1とし、軸線方向の他方側をL2とする。
【0016】
図1~
図4に示すように、アクチュエータ1は、支持体2と、可動体3と、支持体2および可動体3に接続された接続体10と、可動体3を支持体2に対して相対移動させる磁気駆動機構6とを備える。接続体10は、弾性および粘弾性のうちの少なくとも一方を備える。磁気駆動機構6は、可動体3に配置される磁石61と、支持体2に配置されるコイル62とを備えており、支持体2に対して可動体3を軸線方向に相対移動させる。
図3、
図4に示すように、可動体3は、軸線方向の一方側L1の端部、および軸線方向の他方側L2の端部の各位置において、接続体10を介して支持体2と接続される。
【0017】
(支持体)
図2~
図4に示すように、支持体2は、筒状のケース20と、ケース20の軸線方向の一方側L1の開口を塞ぐ第1蓋部材21と、ケース20の軸線方向の他方側L2の開口を塞ぐ第2蓋部材22と、ケース20の内周側で第1蓋部材21と第2蓋部材22との間に配置されるコイルホルダ4を有する。本形態では、ケース20、第1蓋部材21、第2蓋部材22、およびコイルホルダ4は樹脂製である。また、支持体2は、コイルホルダ4の内周側に嵌まる第1外枠部材51と、第1外枠部材51に対して軸線方向の他方側L2に離間した位置でケース20の内周側に嵌まる第2外枠部材52を有する。
【0018】
(接続体)
接続体10は、第1外枠部材51の内周面に接合された環状の第1接続体11と、第2外枠部材52の内周面に接合された環状の第2接続体12を備える。後述するように、本形態では、第1接続体11および第2接続体12はゲル材料を成形したゲル状部材であり、ゲル状部材自身の粘着性によって、第1外枠部材51および第2外枠部材52に接合される。
【0019】
(コイルホルダ)
図2に示すように、コイルホルダ4は、環状の第1外枠部材固定部41と、第1外枠部材固定部41から軸線方向の他方側L2へ突出する胴部42とを備えており、胴部42の周りにコイル62が配置される。コイル62から引き出されたコイル線63の端部は、コイルホルダ4の第1外枠部材固定部41から径方向外側へ突出する2本の端子ピン64に絡げられている。
図1に示すように、端子ピン64はケース20の外部へ突出しており、配線基板7に接続される。
【0020】
図4に示すように、コイルホルダ4は、第1外枠部材51を軸線方向に位置決めする第1段部44を備える。第1外枠部材固定部41は第1外枠部材51の外周側を囲んでいる。第1外枠部材固定部41の内周面には、軸線方向の他方側L2に凹む第1凹部43が設けられ、第1外枠部材51は、第1凹部43に圧入される。第1段部44は、第1凹部43の軸線方向の他方側L2の端部に設けられている。本形態では、第1外枠部材51の外周面に形成された環状段部511が第1段部44に対して軸線方向に当接する。
【0021】
(ケース)
ケース20は、円筒状のケース本体24と、ケース本体24の内周側に配置される第2外枠部材固定部25を備える。第2外枠部材固定部25は、コイルホルダ4に対して軸線方向の他方側L2に離間した位置に配置される。
図2、
図4に示すように、第2外枠部材固定部25は、ケース本体24の内周面から内周側に突出しており、ケース本体24と一体に成形される。
【0022】
ケース20は、第2外枠部材52を軸線方向に位置決めする第2段部45を備える。図
3、
図4に示すように、第2外枠部材固定部25の内周面には、軸線方向の一方側L1に凹む第2凹部46が設けられ、第2外枠部材52は、第2凹部46に圧入される。第2段部45は、第2凹部46の軸線方向の一方側L1の端部に設けられている。本形態では、第2外枠部材52の外周面に形成された環状段部521が第2段部45に対して軸線方向に当接する。
【0023】
また、ケース20は、コイルホルダ4を軸線方向に位置決めする第3段部47を備える。
図4に示すように、第3段部47は、ケース本体24の内周面に形成される。
図1、
図4に示すように、コイルホルダ4が嵌まるケース本体24の内周面には、軸線方向に延びる複数の溝部29が形成され、各溝部29の軸線方向の他方側L2の端部に第3段部47が形成されている。
図2に示すように、コイルホルダ4は、第1外枠部材固定部41の外周面から突出する複数の凸部49を備える。支持体2を組み立てる際、コイルホルダ4の各凸部49は、ケース本体24の各溝部29に軸線方向の一方側L1から嵌め込まれ、第3段部47に対して軸線方向に当接する。これにより、コイルホルダ4がケース本体24に圧入されて固定されるとともに、コイルホルダ4が軸線方向に位置決めされる。
【0024】
(蓋部材)
図3、
図4に示すように、第1蓋部材21は、コイルホルダ4に設けられた第1外枠部材固定部41の軸線方向の一方側L1からケース本体24に固定される。また、第2蓋部材22は、第2外枠部材固定部25の軸線方向の他方側L2からケース本体24に固定される。
図2に示すように、第1蓋部材21および第2蓋部材22は、それぞれ、軸線方向から見て円形の蓋部26と、蓋部26の外周縁に周方向で等間隔で配置された複数の係止部27を備える。本形態では、第1蓋部材21および第2蓋部材22は、それぞれ、3個所の係止部27を備える。係止部27は、蓋部26から外周側へ拡がる方向に傾斜して延びる爪部である。
【0025】
係止部27は、径方向に弾性変形して蓋部26と共にケース本体24の内周側に押し込まれる。ケース20は、係止部27がケース20の内側から外れることを規制する規制部28を備える。規制部28は、ケース本体24の端部から内周側に突出する凸部である。
図1、
図2に示すように、規制部28は、ケース本体24の軸線方向の一方側L1および他方側L2の端部に、それぞれ、3個所ずつ等間隔で配置される。規制部28は、係止部27の先端に対して軸線方向に当接する。第1蓋部材21および第2蓋部材22は、係止部27および規制部28による係止構造と、接着剤による固定と併用してケース20に固定される。
【0026】
図2に示すように、コイルホルダ4の第1外枠部材固定部41は、ケース本体24に設けられた3個所の規制部28と軸線方向で重なる部分を内周側に切り欠いた溝部48を備える。従って、コイルホルダ4をケース本体24の内部に挿入する際に、第1外枠部材固定部41と規制部28とが干渉することが回避される。
【0027】
(配線引き出し部)
図1、
図3に示すように、支持体2は、磁気駆動機構6のコイル62から引き出したコイル線63を絡げた端子ピン64を外部に引き出すための配線引き出し部60を備える。配線引き出し部60は、ケース20の軸線方向の一方側L1の縁を軸線方向の他方側L2に切り欠いた切欠き部65(
図2参照)と、第1蓋部材21の外周縁の周方向の一部から軸線方向の他方側L2に延びるカバー66との間に設けられた隙間である。
【0028】
ケース20は、切欠き部65の他方側L2に形成された基板固定部69を備える。配線基板7は、基板固定部69の軸線方向の一方側L1の端部に設けられた爪部691、および、基板固定部69の軸線方向の他方側L2の端部に設けられた係止溝692による係止
構造と、接着剤による固定とを併用して基板固定部69に固定される。配線基板7には、コイル62に対する給電用のリード線8が接続される。基板固定部69には、配線基板7に対して周方向に隣接する位置でリード線8を保持するリード線保持部80が設けられている。
【0029】
切欠き部65の内周側には、コイルホルダ4の第1外枠部材固定部41が配置される。第1外枠部材固定部41から外周側に延びる2本の端子ピン64の根本には、コイル62から引き出されたコイル線63が絡げられている。端子ピン64は、基板固定部69に固定される配線基板7に設けられた2箇所の穴71(
図2参照)に通され、穴71の縁に設けられたランドと電気的に接続される。
【0030】
(可動体)
図2~
図4に示すように、可動体3は、支持体2の径方向の中心において軸線方向に延びる支軸30を有する。支軸30には、筒状の第1内枠部材36、および筒状の第2内枠部材37によって、磁石61およびヨーク35が固定される。支軸30は金属製の丸棒である。第1内枠部材36および第2内枠部材37は、金属製の円筒体であり、円形の貫通穴が設けられている。
【0031】
図3、
図4に示すように、第1内枠部材36の内周面には、軸線方向の他方側L2の端部に径方向内側に突出した環状突部361が形成されている。従って、第1内枠部材36を支軸30に圧入した際、支軸30は環状突部361に圧入される。また、第2内枠部材37の内周面には、軸線方向の一方側L1の端部に径方向内側に突出した環状突部371が形成されている。従って、第2内枠部材37を支軸30に圧入した際、支軸30は環状突部371に圧入される。
【0032】
磁石61は、支軸30が貫通する軸穴610が設けられており、支軸30の軸線方向の略中央に固定される。ヨーク35は、磁石61に軸線方向の一方側L1で重なる第1ヨーク31と、磁石61に軸線方向の他方側L2で重なる第2ヨーク32を備える。第1ヨーク31は、支軸30が貫通する軸穴310が設けられた円板状である。第2ヨーク32は、カップ状の第1磁性部材33と、円板状の第2磁性部材34の2つの部材からなる。第1磁性部材33は、支軸30が貫通する軸穴330が設けられた円形の端板部331と、端板部331の外縁から軸線方向の一方側L1に延びる円筒部332とを有する。本形態では、第1磁性部材33の端板部331が磁石61の軸線方向の他方側L2の端面に固定される。第2磁性部材34は、支軸30が貫通する軸穴340を備えており、第1磁性部材33の端板部331に対して磁石61とは反対側から固定される。
【0033】
可動体3は、磁石61およびヨーク35を構成する各部材の軸穴310、610、330、340に支軸30を貫通させた状態で、磁石61およびヨーク35の軸線方向の両側で第1内枠部材36および第2内枠部材37を支軸30に固定する。その結果、第1内枠部材36が軸線方向の一方側L1から磁石61およびヨーク35を支持し、第2内枠部材37が軸線方向の他方側L2から磁石61およびヨーク35を支持する結果、磁石61およびヨーク35は、支軸30に固定される。
【0034】
第2ヨーク32は、第1磁性部材33の円筒部332の内径が、磁石61および第1ヨーク31の外径より大きい。従って、磁石61および第1ヨーク31を円筒部332の底部である円形の端板部331に重ねると、円筒部332は、磁石61の外周面および第1ヨーク31の外周面から径方向外側に離間した位置で磁石61の外周面および第1ヨーク31の外周面に対向する。本形態では、円筒部332と磁石61の外周面との間にコイル62の一部が配置される。また、円筒部332と第1ヨーク31の外周面との間にコイル62の一部が配置される。
【0035】
(接続体の製造方法)
第1接続体11および第2接続体12は粘弾性体からなる。例えば、第1接続体11および第2接続体12として、シリコーンゲル等からなるゲル状部材、天然ゴム、ジエン系ゴム(例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等)、非ジエン系ゴム(例えば、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等)、熱可塑性エラストマー等の各種ゴム材料及びそれらの変性材料を用いることができる。本形態では、第1接続体11および第2接続体12は、針入度が90度から110度のシリコーンゲルからなる。
【0036】
第1接続体11および第2接続体12は、ゲル材料を型に充填して硬化させる方法(注型)により製造される。第1接続体11を成形するときは、治具によって第1外枠部材51および第1内枠部材36を同軸に位置決めして第1外枠部材51と第1内枠部材36との間に環状の隙間を形成し、この隙間にゲル材料を充填して熱硬化させる。これにより、ゲル状部材自身の粘着性によって、第1接続体11が第1外枠部材51の内周面、および、第1内枠部材36の外周面に接合される。なお、ゲル材料を充填する前に、第1外枠部材51の内周面、および第1内枠部材36の外周面にプライマー等の接合促進剤を塗布することによって接合強度を高めることができる。第2接続体12についても、同様に、第2外枠部材52と第2内枠部材37との間に環状の隙間を形成し、この隙間にゲル材料を充填して熱硬化させることにより成形される。従って、アクチュエータ1を組み立てる際には、ゲル状部材を接着する工程を行わずに、支持体2と可動体3とを接続することができる。
【0037】
第1接続体11および第2接続体12は、2種類の原料(第1材料と第2材料)を所定の配合比で混合した2液性のゲル材料から製造されるゲル状部材である。第1材料は主剤であり、ベースオイルおよび触媒を含む。なお、主剤は、ベースオイルおよび触媒以外の材料を含んでいてもよい。第2材料は硬化剤であり、ベースオイルおよび架橋剤を含む。なお、硬化剤は、ベースオイルおよび架橋剤以外の材料を含んでいてもよい。第1接続体11および第2接続体12は、第1材料と第2材料の配合比、および、その体積(すなわち、ゲル材料の充填量)によってばね定数が変化する。従って、アクチュエータ1の振動特性(共振周波数および加速度のピーク値)が目標値と一致するように、第1材料と第2材料の配合比、および、ゲル材料の充填量が決定されている。
【0038】
第1接続体11および第2接続体12(ゲル状部材)の製造工程においては、決定した配合比に基づき、第1材料と第2材料を計量し、ミキサーにて第1材料と第2材料を撹拌して混合させる。そして、撹拌後のゲル材料をシリンジへ入れて脱泡し、シリンジをディスペンサーにセットして一定量ずつ吐出する。これにより、第1内枠部材36と第1外枠部材51との隙間、および、第2内枠部材37と第2外枠部材52との隙間に、一定量ずつゲル材料を吐出して充填する。
【0039】
(接続体の温度特性)
図5は、接続体10の温度特性を示すグラフであり、動的粘弾性測定により測定したゲル状部材の損失正接(Tanδ)の温度による変化を示すグラフである。
図5に示すように、本形態の第1接続体11および第2接続体12として使用されるゲル状部材(シリコーンゲル)は、温度上昇に伴ってTanδが低下する。粘弾性体は、Tanδが0に近いほど弾性体に近く、Tanδが大きいほど粘性体に近くなる。本形態のアクチュエータ1では、温度上昇に伴って第1接続体11および第2接続体12のTanδが低下し、粘性の寄与よりも弾性の寄与が増大する。その結果、可動体3の振動の減衰が弱まるので、可動体3の加速度は増大する。
【0040】
図6は、接続体10の温度特性による可動体3の加速度-周波数特性の違いを示すグラフである。
図6において、「ゲル使用」は、本形態のアクチュエータ1における加速度-周波数特性のデータであり、温度上昇に伴ってTanδが低下する接続体10を用いた場合のデータである。また、「ゲル非使用」は、比較例のアクチュエータにおける加速度-周波数特性のデータであり、温度が変化したときにTanδが変化しない接続体を用いたアクチュエータのデータである。比較例において、「15℃」「30℃」はそれぞれ、コイルおよび接続体の温度条件である。
【0041】
図6に示すように、比較例のアクチュエータでは、温度条件によってコイルを流れる電流が変化するため、温度条件が異なると共振周波数における加速度(すなわち,加速度のピーク値)が変化する。具体的には、温度が上昇するとコイルを流れる電流が低下するため、温度条件が30℃の場合には、15℃の場合よりも加速度のピーク値が低い。
【0042】
本形態のアクチュエータ1では、接続体10が以下のような温度特性を持つように、接続体10として用いるゲル状部材が選定されている。すなわち、本形態のアクチュエータ1では、コイル62を流れる電流の低下に起因する可動体3の加速度のピーク値の低下が、接続体10(ゲル状部材)のTanδの低下に起因する加速度のピーク値の上昇により相殺されている。従って、
図6に示すように、本形態のアクチュエータ1では、温度変化により可動体3の加速度のピーク値は下がらない。よって、温度変化があっても一定の振動を出力できる。
【0043】
(アクチュエータの動作)
アクチュエータ1は、コイル62に通電することにより、磁気駆動機構6が、可動体3を軸線方向に駆動する駆動力を発生させる。コイル62への通電を切ると、可動体3は、接続体10の復帰力によって原点位置へ戻る。従って、コイル62への通電を断続的に行うことにより、可動体3は、軸線方向で振動する。また、コイル62に印加する交流波形を調整することで、可動体3が軸線方向の一方側L1に移動する加速度と、可動体3が軸線方向の他方側L2に移動する加速度を異なるものとすることができる。それ故、アクチュエータ1を触覚デバイスとして取り付けた機器を手にした者は、軸線方向において方向性を有する振動を体感することができる。また、アクチュエータ1を利用してスピーカを構成することもできる。
【0044】
本形態では、接続体10は、支持体2と可動体3が第1方向(径方向)で対向する位置に配置され、可動体3は第1方向(径方向)に対して交差する第2方向(軸線方向)に振動する。可動体3が支持体2に対して第2方向(軸線方向)に振動する際、第1接続体11および第2接続体12は、可動体3の振動に追従してせん断方向に変形する。シリコーンゲル等のゲル状部材は、その伸縮方向によって、線形あるいは非線形の伸縮特性を備える。ゲル状部材がせん断方向に変形する際は、非線形の成分よりも線形の成分が大きい変形特性を持つ。従って、可動体3が支持体2に対して軸線方向に振動する際、第1接続体11および第2接続体12は、線形性が高い範囲で変形するので、リニアリティが良好な振動特性を得ることができる。
【0045】
なお、可動体3が径方向に移動する場合には、第1接続体11および第2接続体12が潰れる方向に変形する。ここで、ゲル状部材が潰れる方向に変形する場合のバネ定数は、ゲル状部材がせん断方向に変形する場合のバネ定数の3倍程度である。このため、可動体3が振動方向(軸線方向)とは異なる方向に移動することを抑制でき、可動体3と支持体2との衝突を抑制できる。
【0046】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のアクチュエータ1は、支持体2および可動体3と、支持体2および可動体3に接続される接続体10と、磁石61およびコイル62を備え、可動体3を支持体2に対して相対移動させる磁気駆動機構6を有する。接続体10は、粘弾性体である。動的粘弾性測定により測定した粘弾性体の損失正接をTanδとすると、接続体10(粘弾性体)は、温度上昇に伴ってTanδが低下するという温度特性を備える。
【0047】
本形態では、可動体3と支持体2とを接続する接続体10として、温度上昇に伴って損失正接(Tanδ)が低下するという温度特性を持つ粘弾性体を用いている。従って、コイル62の温度上昇によりコイル62を流れる電流が低下して共振周波数での加速度のピーク値が低下する一方で、接続体10の温度特性(温度上昇に伴うTanδの低下)により加速度のピーク値の低下が抑制される。従って、温度変化による可動体3の加速度の変化を抑制できるので、温度変化による可動体3の振動の変化を抑制できる。
【0048】
本形態では、可動体3が共振周波数で振動するとき、コイル62を流れる電流の低下に起因する可動体3の加速度のピーク値の低下が、接続体10(粘弾性体)のTanδの低下に起因する加速度のピーク値の上昇により相殺されるように、接続体10として使用する粘弾性体を選定している。従って、温度変化があるときでも可動体3の加速度が変化することがなく、可動体3の振動は変化しない。
【0049】
本形態では、接続体10として使用する粘弾性体としてシリコーンゲルを選択する。シリコーンゲルは、動的粘弾性測定により測定した損失正接(Tanδ)が温度上昇に伴って低下するという温度特性を有する。従って、
図6に示すように、コイル62を流れる電流の低下に起因する可動体3の加速度の低下を、接続体10のTanδの低下に起因する可動体3の加速度の上昇によって相殺するように構成することが可能である。よって、温度変化によって可動体3の振動が変化しないアクチュエータ1を提供することができる。
【0050】
(変形例)
上記形態では、接続体10はシリコーンゲルなどのゲル状部材であったが、接続体10として用いることが可能な粘弾性体は、シリコーンゲルに限定されるものではない。すなわち、温度上昇に伴ってTanδが低下する粘弾性体であればよい。また、接続体10として用いる粘弾性体は、1種類の素材からなるものに限定されるものではなく、ゲル状部材、ゴム、あるいはその変性材料と、バネなどの弾性体とを組み合わせた複合部材であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…アクチュエータ、2…支持体、3…可動体、4…コイルホルダ、6…磁気駆動機構、7…配線基板、8…リード線、10…接続体、11…第1接続体、12…第2接続体、20…ケース、21…第1蓋部材、22…第2蓋部材、24…ケース本体、25…第2外枠部材固定部、26…蓋部、27…係止部、28…規制部、29…溝部、30…支軸、31…第1ヨーク、32…第2ヨーク、33…第1磁性部材、34…第2磁性部材、35…ヨーク、36…第1内枠部材、37…第2内枠部材、41…第1外枠部材固定部、42…胴部、43…第1凹部、44…第1段部、45…第2段部、46…第2凹部、47…第3段部、48…溝部、49…凸部、51…第1外枠部材、52…第2外枠部材、60…配線引き出し部、61…磁石、62…コイル、63…コイル線、64…端子ピン、65…切欠き部、66…カバー、69…基板固定部、71…穴、80…リード線保持部、310、330、340、610…軸穴、331…端板部、332…円筒部、361…環状突部、371…環状突部、511…環状段部、521…環状段部、691…爪部、692…係止溝、L…中心軸線、L1…軸線方向の一方側、L2…軸線方向の他方側