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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】三次元造形装置および造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 12/30 20210101AFI20240906BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240906BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240906BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20240906BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240906BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240906BHJP
【FI】
B22F12/30
B22F10/28
B29C64/153
B29C64/268
B33Y10/00
B33Y30/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020201577
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2021155845
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020056359
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591041369
【氏名又は名称】多田電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】丸小 恭諒
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】竹下 勝
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151566(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110899700(CN,A)
【文献】特開2021-127519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 12/30
B22F 10/28
B29C 64/153
B29C 64/268
B33Y 10/00
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に設けられ、高さ方向に移動可能なステージと、
前記ステージ上に配置され、三次元状に積層される造形物を造形する土台となるベースプレートと、
粉末を前記ベースプレート上に敷き詰めて粉末床を形成する粉末床形成部と、
電子ビームを生成し、前記ベースプレートまたは前記粉末床に前記電子ビームを照射する電子銃と、
前記ステージと前記ベースプレートとの間に配置され、前記ベースプレートから前記ステージに向かう熱の移動を抑制する熱損失抑制部材と、
を備え
前記熱損失抑制部材は、前記ベースプレートを前記ステージ上で支持する複数の支柱であり、
前記支柱は、本体部と、前記ベースプレートと接触する接触部と、を有し、
前記接触部は、前記ベースプレートよりも熱伝導率の小さい材料で構成されることを特徴とする三次元造形装置。
【請求項2】
記接触部が前記ベースプレートと接触する部分の面積は、前記本体部の高さ方向に垂直な断面積よりも小さいことを特徴とする請求項に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記接触部は、ジルコニウムで構成されることを特徴とする請求項またはに記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記支柱は、前記高さ方向に高さを調整可能な高さ調整部をさらに有することを特徴とする請求項からのいずれか1つに記載の三次元造形装置。
【請求項5】
チャンバ内に設けられ、高さ方向に移動可能なステージと、
前記ステージ上に配置され、三次元状に積層される造形物を造形する土台となるベースプレートと、
粉末を前記ベースプレート上に敷き詰めて粉末床を形成する粉末床形成部と、
電子ビームを生成し、前記ベースプレートまたは前記粉末床に前記電子ビームを照射する電子銃と、
前記ステージと前記ベースプレートとの間に配置され、前記ベースプレートから前記ステージに向かう熱の移動を抑制する熱損失抑制部材と、
を備え、
前記熱損失抑制部材は、前記ベースプレートと前記ステージとの間に空間を形成するように設けられる前記ステージに対向する面が開口した直方体状である輻射シールドであり、
前記輻射シールドの開口部を構成する側面部が配置される前記ステージの上面の位置に溝が設けられていることを特徴とする三次元造形装置。
【請求項6】
チャンバ内に設けられ、高さ方向に移動可能なステージと、
前記ステージ上に配置され、三次元状に積層される造形物を造形する土台となるベースプレートと、
粉末を前記ベースプレート上に敷き詰めて粉末床を形成する粉末床形成部と、
電子ビームを生成し、前記ベースプレートまたは前記粉末床に前記電子ビームを照射する電子銃と、
前記ステージと前記ベースプレートとの間に配置され、前記ベースプレートから前記ステージに向かう熱の移動を抑制する熱損失抑制部材と、
を備え、
前記熱損失抑制部材は、前記ベースプレートと前記ステージとの間に、前記高さ方向に複数の空間が形成されるように設けられる複数の輻射シールドであることを特徴とする三次元造形装置。
【請求項7】
前記輻射シールドは、前記ステージに対向する面が開口した直方体状であることを特徴とする請求項に記載の三次元造形装置。
【請求項8】
チャンバ内に設けられ、高さ方向に移動可能なステージと、
前記ステージ上に配置され、三次元状に積層される造形物を造形する土台となるベースプレートと、
粉末を前記ベースプレート上に敷き詰めて粉末床を形成する粉末床形成部と、
電子ビームを生成し、前記ベースプレートまたは前記粉末床に前記電子ビームを照射する電子銃と、
前記ステージと前記ベースプレートとの間に配置され、前記ベースプレートから前記ステージに向かう熱の移動を抑制する熱損失抑制部材と、
を備え、
前記熱損失抑制部材は、前記ベースプレートと前記ステージとの間に設けられ、粉末を充填した耐熱性の容器であることを特徴とする三次元造形装置。
【請求項9】
三次元状に積層される造形物を造形する土台となるベースプレート上に敷き詰められた粉末に電子ビームを照射し、前記粉末を溶融および凝固させて前記造形物を造形する造形物の製造方法であって、
前記粉末が敷き詰められ、高さ方向に移動可能なステージ上に、前記ベースプレートから前記ステージに向かう熱の移動を抑制する熱損失抑制部材を介して前記ベースプレートを載置する工程と、
前記ベースプレートに前記電子ビームを照射して、前記ベースプレートを予熱する工程と、
前記ベースプレート上に、前記粉末を敷き詰めて粉末床を形成する工程と、
前記ベースプレート上の前記粉末床に前記粉末を溶融しないように前記電子ビームを照射する工程と、
前記造形物を形成するためのパターンに沿って、前記粉末が溶融するように前記電子ビームを前記粉末床に照射する工程と、
を含むことを特徴とする造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粉末材料を選択的に固化させる工程を繰り返すことによって三次元形状の造形物を製造する三次元造形装置および造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを照射することによって溶融固化させることができる金属粉末を使用した層を複数積層させて三次元形状の造形物を製造する三次元造形装置が知られている。三次元造形装置を用いて三次元形状の造形物を製造する場合には、造形物を形成する領域に金属粉末を供給し、供給した金属粉末に選択的に電子ビームを照射して金属粉末を溶融凝固させるという工程が複数回繰り返し行われる。
【0003】
このような三次元造形装置においては、電子ビームを金属粉末に照射する時点で、照射した電子ビームによって金属粉末に供給される電荷量が、互いに帯電した粉末がクーロン力により反発する電荷量の許容量を超えない条件を満たすことが重要である。この条件を満たしていない状態で電子ビームを金属粉末に照射した場合には、金属粉末同士の反発によって造形領域に供給した金属粉末が飛散してしまい、その後の造形を継続することが不可能となってしまう。
【0004】
そのため、金属粉末に対して電子ビームを照射する際には、予め金属粉末の帯電を抑制する処置が必要不可欠となっている。特許文献1には、電子ビームを金属粉末に照射したときの金属粉末の帯電を抑制する三次元造形装置が開示されている。特許文献1に記載の三次元造形装置では、三次元形状の造形物を形成する真空チャンバ内にガスが導入され、導入されたガスに電子ビームが照射されることによって陽イオンが生成される。そして、生成される陽イオンによって負に帯電した金属粉末が電気的に中和されるので、クーロン力による金属粉末同士の反発が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-526694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、三次元造形装置においては、金属粉末の温度を数百度程度まで予熱するため、金属粉末の表面からの輻射熱放出による投入エネルギの損失が発生する。また、造形物の土台となるベースプレートも同時に加熱されていくため、ベースプレートからの輻射および周囲の金属粉末への損失熱が大きくなる。しかしながら、上記従来の技術によれば、ベースプレートから下部に存在する金属粉末への熱の損失を抑制する機構が備わっていないので、損失分を考慮して、ベースプレート上に敷き詰める粉末を予熱するための電子ビームを余計に照射しなければならない。そのため、金属粉末を所望の温度に保持するためには、膨大なエネルギを要するという問題があった。つまり、電子ビームを用いた三次元造形装置においては、造形対象の金属粉末および造形土台であるベースプレートを含む領域を予め定められた温度に容易に維持することができる技術が望まれていた。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、造形対象の金属粉末および造形物の土台となるベースプレートを含む領域を従来に比して予め定められた温度に維持することができる三次元造形装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る三次元造形装置は、ステージと、ベースプレートと、粉末床形成部と、電子銃と、熱損失抑制部材と、を備える。ステージは、チャンバ内に設けられ、高さ方向に移動可能である。ベースプレートは、ステージ上に配置され、三次元状に積層される造形物を造形する土台となる。粉末床形成部は、粉末をベースプレート上に敷き詰めて粉末床を形成する。電子銃は、電子ビームを生成し、ベースプレートまたは粉末床に電子ビームを照射する。熱損失抑制部材は、ステージとベースプレートとの間に配置され、ベースプレートからステージに向かう熱の移動を抑制する。熱損失抑制部材は、ベースプレートをステージ上で支持する複数の支柱であり、支柱は、本体部と、ベースプレートと接触する接触部と、を有する。接触部は、ベースプレートよりも熱伝導率の小さい材料で構成される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、造形対象の金属粉末および造形物の土台となるベースプレートを含む領域を従来に比して予め定められた温度に維持することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図
図2】実施の形態2による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図
図3】実施の形態3による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図
図4】実施の形態3による三次元造形装置の熱損失抑制部材の構成の一例を示す断面図
図5】実施の形態4による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図
図6】実施の形態4による三次元造形装置の熱損失抑制部材の構成の一例を示す断面図
図7】実施の形態5による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施の形態に係る三次元造形装置および造形物の製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。三次元造形装置1は、チャンバ10を備える。チャンバ10は、内部を真空にすることができるように、密閉された構造を有する。チャンバ10には、排気装置である真空ポンプ16が接続され、チャンバ10内を排気することで予め定められた圧力にすることができる。
【0013】
三次元造形装置1は、チャンバ10の上部に設けられる電子銃室20内に、電子銃21を備える。電子銃21は、チャンバ10内の任意の位置に電子ビームEBを照射する。電子銃21は、電子を放出する機構と、放出した電子の照射位置を定め、収束させる機構と、を有する。
【0014】
三次元造形装置1は、チャンバ10の内部に、ステージ11と、ステージ側壁部12と、ベースプレート13と、粉末ボックス14と、粉末床形成部15と、をさらに備える。ステージ11は、三次元状に積層された造形物110を構築するために高さ方向の位置を任意に調節可能である。ステージ側壁部12は、ステージ11の外周に接触し、高さ方向に延在する筒状の構成を有する。ステージ側壁部12は、ステージ11が高さ方向に移動するときのガイドとしての役割を有するとともに、ステージ11上に敷設される粉末100がステージ11よりも水平方向の外部へ移動することを抑制する役割を有する。ベースプレート13は、造形物110を造形するための土台であり、形成された造形物110を支持する。ベースプレート13は、ステージ11上に敷き詰められた粉末100の上に設置される。ベースプレート13は、電子銃21からの電子ビームEBの照射に対して高い耐熱性を有する材料で構成される。一例では、ベースプレート13は、ステンレス鋼、炭素鋼、銅、チタン、アルミニウムから構成される。
【0015】
粉末ボックス14は、造形物110の原料となる粉末100を貯蔵する。粉末100の一例は、金属粉末である。金属粉末はチタン(Ti)、各種鋼、銅(Cu)など、用途に応じた金属粉末が使用される。金属粉末の平均粒径の一例は、20μm以上200μm以下であり、用途に応じた平均粒径の金属粉末が使用される。粉末床形成部15は、ベースプレート13上を移動することによって、粉末ボックス14から供給された粉末100をベースプレート13上に敷き詰めて粉末床を形成する。
【0016】
三次元造形装置1は、ベースプレート13とステージ11との間に熱損失抑制部材をさらに備える。実施の形態1における熱損失抑制部材は、ステージ11上でベースプレート13を支持する支柱31である。ベースプレート13が矩形状である場合には、ベースプレート13の四隅に対応する位置に、支柱31が設けられる。なお、支柱31の数は、これに限定されるものではなく、ステージ11上でベースプレート13を支持することができれば、何本でもよい。支柱31の下端部は、ステージ11に接触し、上端部は、ベースプレート13と接触している。支柱31は、本体部311と、ベースプレート13と接触する接触部312と、を有する。接触部312は、図1の例では、支柱31の上端部分である。接触部312がベースプレート13と接触する面積は、本体部311の延在方向、すなわち高さ方向に垂直な断面積に比して小さくなっている。図1の例では、接触部312は、本体部311との接続部からベースプレート13に向かって先細り形状となっているが、接触部312の形状は、本体部311の断面積よりも小さければ、どのような形状であってもよい。これによって、支柱31とベースプレート13との接触面積が小さくなり、ベースプレート13から支柱31への熱移動を抑制している。
【0017】
支柱31は、一例では、ベースプレート13よりも小さい熱伝導率を有する材料によって構成されることが望ましい。また、接触部312は、本体部311と同じ材料で構成されてもよいし、本体部311と異なる材料によって構成されていてもよい。一例では、接触部312は、ベースプレート13よりも小さい熱伝導率を有する材料によって構成されることが望ましい。接触部312は、一例では、ジルコニウム(Zr)によって構成される。
【0018】
なお、ステージ側壁部12で囲まれるステージ11上には、粉末100が充填されている。そのため、造形処理中においては、ステージ11とベースプレート13との間にも、粉末100が充填された状態となっている。
【0019】
つぎに、三次元造形装置1での動作について説明する。まず、粉末ボックス14に予め定められた量の粉末100が充填される。また、ステージ側壁部12で囲まれたステージ11上には、予め粉末100が敷き詰められている。ついで、ステージ11上の支柱31に支持されるようにベースプレート13が載置される。その後、チャンバ10内が予め定められた真空度となるように、チャンバ10内を真空ポンプ16によって真空引きする。ついで、ベースプレート13には電子銃21からの電子ビームEBが照射され、ベースプレート13は予熱される。この予熱は、第1層目の造形の前に行われる。また、ベースプレート13の予熱では、ベースプレート13が溶融しないように照射条件、すなわち出力を調整した電子ビームEBが照射される。
【0020】
出力を調整した電子ビームEBの照射によってベースプレート13が予め定められた温度に予熱された後、ステージ11を粉末床1層分の高さだけ下げる。その後、粉末ボックス14より供給された粉末100を有する粉末床形成部15が、ベースプレート13上を一回または複数回通過することによって、ベースプレート13上に1層分の粉末床が敷設される。形成された粉末床は予熱されたベースプレート13からの熱伝導によって予熱される。その結果、粉末100の電気抵抗が低下し、後の工程で電子ビームEBが照射されても、粉末100はクーロン力により反発しない状態となる。
【0021】
粉末床を敷設してから、予め定められた時間が経過するまで、そのままの状態とする。すなわち、この期間中に、ベースプレート13からの熱伝導によって、敷設された粉末床が予熱される。その後、電子ビームEBの予め設定されている照射パターンに従って、粉末100を溶融しないように条件調整した電子ビームEBが粉末床全体に照射され、粉末床が加熱される。電子ビームEBの照射によって、粉末床の全体が加熱された後、造形用に条件が設定された電子ビームEBが、予め定められた造形物110を形成するためのパターンである造形パターンに沿って照射される。この照射によって、必要部分の粉末100が溶融凝固される。これによって、1層目の造形物110が形成される。
【0022】
造形パターンに沿った電子ビームEBの照射後、温度が低下した粉末床を再予熱するために、粉末100が溶融しないように条件調整された電子ビームEBが、予め設定されている照射パターンに従って、粉末床に照射される。
【0023】
その後、ステージ11を粉末床1層分の高さだけ下げて、粉末床を形成する処理から、電子ビームEBによる粉末床の予熱処理、造形パターンに従った電子ビームEBの照射処理、および電子ビームEBによる粉末床の再予熱処理までが繰り返し実施される。これによって、前層の上に次層の粉末床が形成される処理が繰り返され、その結果、三次元状に積層された造形物110が完成する。
【0024】
上記の粉末床の予熱時および再予熱時において、ベースプレート13は、接触部312を有する支柱31を介してステージ11に支持されているので、予熱されたベースプレート13と低温のステージ11との接触面積を最低限に抑えられる。また、上記した手順で造形が進行していくと、ベースプレート13周辺の粉末100の焼結が進行し、ベースプレート13の周辺の粉末100が仮焼結した金属のブロック状の物体であるブロック体が形成される。このブロック体は粉末100よりも熱伝導率が高いため、より多くの熱がベースプレート13からブロック体を介して周囲に逃げていく。しかし、支柱31が存在する場所ではブロック体が形成されない。そのため、ブロック体がベースプレート13と接触する面積が、支柱31が存在しない場合に比して小さくなる。その結果、ベースプレート13からステージ11への熱伝導による熱損失が従来に比して抑制される。また、支柱31の接触部312がベースプレート13と接触する部分の面積は、支柱31の本体部311の延在方向に垂直な断面積よりも小さい面積であるので、ベースプレート13から支柱31を介したステージ11への熱伝導をさらに抑制することができる。さらに、接触部312を、例えばベースプレート13よりも熱伝導率の小さいジルコニウムのような材料で構成することで、熱伝導による熱損失がさらに抑制される。そのため、粉末床の予熱時および再予熱時において、電子ビームEBを照射するために投入するエネルギを従来に比して小さくすることができる。
【0025】
実施の形態1では、三次元造形装置1において、ベースプレート13をステージ11上に支柱31によって支持する構成とした。また、支柱31の接触部312がベースプレート13と接触する部分の面積は、支柱31の本体部311の延在方向に垂直な断面積よりも小さくした。これによって、ベースプレート13のステージ11上への設置作業を簡便化しつつ、粉末床の予熱時において、予熱されたベースプレート13から低温の外部構造であるステージ11へと熱伝導によって熱が流れることが抑制される。すなわち、ベースプレート13からの熱伝導による熱損失が抑制される。その結果、造形対象の粉末100および造形土台を含む領域を従来に比して、少ないエネルギで予め定められた温度に維持することができるという効果を有する。
【0026】
実施の形態2.
図2は、実施の形態2による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。なお、三次元造形装置1の全体的な構成は、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略し、異なる部分について説明する。実施の形態2では、支柱31が高さの調節が可能な構成を有する。一例では、支柱31の本体部311に高さ調整部313を備える。具体的には、高さ調整部313は、接触部312と接触する本体部311の上端に設けられるレベル調整ネジである。これによって、支柱31のそれぞれは独立して高さ方向、すなわち上下に調節可能となる。その結果、造形前の段取りであるベースプレート13の設置時の平行度を調整する平行度調整作業が容易に実施可能となる。
【0027】
従来では、造形領域に敷き詰められた粉末100の上に載せられたベースプレート13を上から少しずつ衝撃を加えることでベースプレート13の表面の平行度が調整されていた。しかし、この方法では、作業者の熟練度によってベースプレート13の設置時の平行度が変化する可能性がある。しかし、実施の形態2では、それぞれの支柱31に高さ調整部313を設けた。支柱31が高さ調整部313によってそれぞれ独立して高さ方向に高さを変えることが可能であるため、作業者の熟練度にかかわらず容易にベースプレート13の平行度調整作業を実施することが可能となる。
【0028】
実施の形態3.
図3は、実施の形態3による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。なお、三次元造形装置1の全体的な構成は、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略し、異なる部分について説明する。実施の形態3の三次元造形装置1では、支柱31ではなく、ベースプレート13とステージ11との間に粉末100が配置されない空間32が設けられる。この場合、高温に熱したベースプレート13からの輻射熱による熱損失が大きくなるため、ベースプレート13の保温のために輻射熱を抑制する必要がある。そこで、実施の形態3による三次元造形装置1は、ベースプレート13の下部からの輻射熱を抑制するために、ベースプレート13の下方の位置に輻射シールド33を備える。輻射シールド33は、空間32を形成するために、ベースプレート13とステージ11との間に設けられる。一般的に、三次元造形装置1の動作中は、チャンバ10内が真空にされるので、輻射シールド33によって形成された空間32も真空となる。理論上、真空での輻射熱損失はないため、輻射シールド33および空間32によって、ベースプレート13からの熱が逃げてしまうことが抑制される。つまり、輻射シールド33で形成された真空の空間32がベースプレート13とステージ11との間に設けられることによって、空間32での輻射熱損失が生じないので、ベースプレート13から接触による熱伝導によって逃げていく熱が抑制される。図3では、輻射シールド33の水平方向の面積は、ベースプレート13よりも小さくなっているが、ベースプレート13よりも大きくしてもよい。
【0029】
図4は、実施の形態3による三次元造形装置の熱損失抑制部材の構成の一例を示す断面図である。輻射シールド33の形状は、一例では、1面だけが開いた直方体状である。ステージ11の移動方向である上下方向に垂直な面のうち下方の面が開いた状態となっている。ステージ11の上面には、直方体状の輻射シールド33を設置する位置に対応して、溝111が設けられている。輻射シールド33の開口部がステージ11の上面と対向するように、そして、開口部を構成する輻射シールド33の側面部331が溝111と一致するように、ステージ11上に輻射シールド33が配置される。これによって、周りに粉末100が充填されている箇所であっても、粉末100が側面部331から輻射シールド33の内部に入り込むことを防止した構造となっている。なお、実施の形態3に、実施の形態1,2を組み合わせることも可能である。
【0030】
実施の形態3では、ステージ11とベースプレート13との間に空間32を形成するための輻射シールド33を設けた。理論上、真空での輻射熱損失がないため、高温に熱されたベースプレート13からの熱の逃げが抑制される。そのため、ベースプレート13の温度が下がりにくくなり、従来に比して少ないエネルギの投入量で、ベースプレート13を予め定められた温度で保温することができるという効果を有する。
【0031】
実施の形態4.
図5は、実施の形態4による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。なお、三次元造形装置1の全体的な構成は、実施の形態1,3と同様であるので、その説明を省略し、異なる部分について説明する。実施の形態4における熱損失抑制部材は、複数層の空間32,32b,32cと、複数の輻射シールド33,33b,33cと、が積層された構造を有する。図5の例では、3層の輻射シールド33,33b,33cが積層された場合が示されている。
【0032】
図6は、実施の形態4による三次元造形装置の熱損失抑制部材の構成の一例を示す断面図である。図6に示されるように、実施の形態3で説明した輻射シールド33の上部を囲むように、輻射シールド33よりも大きな水平方向の面積を有する輻射シールド33bが配置される。また、輻射シールド33bの上部を囲むように、輻射シールド33bよりも大きな水平方向の面積を有する輻射シールド33cが配置される。輻射シールド33の上面と輻射シールド33bの上面との間の距離、および輻射シールド33bの上面と輻射シールド33cの上面との間の距離が、予め定められた距離となるように、輻射シールド33b,33cは配置される。輻射シールド33,33bの上面間および輻射シールド33b,33cの上面間の距離を予め定められた距離とするには、一例では、輻射シールド33b,33cの内部に、予め定められた距離と等しい長さの図示しない1以上の支持部材が設けられる。これによって、輻射シールド33の内部と、輻射シールド33bの内部と、輻射シールド33cの内部と、に、それぞれ空間32,32b,32cが形成される。
【0033】
輻射シールド33b,33cの形状は、1面だけが開いた直方体状である。高さ方向に垂直な面のうち下方の面が開いた状態となっている。また、複数の輻射シールド33,33b,33cを積層した場合でも、それぞれの輻射シールド33,33b,33cは、内側に粉末100が入り込まないような構造を有している。一例では、内側にある輻射シールド33,33bの側面部331,331bを外側にある輻射シールド33b,33cの側面部331b,331cの一部が覆い被さるように外側の輻射シールド33b,33cが設置される。これによって、輻射シールド33,33b間に設けられる空間32b内、および輻射シールド33b,33c間に設けられる空間32c内に、輻射シールド33,33b,33cの周囲に充填されている粉末100が入り込むことが抑制される。なお、実施の形態4に、実施の形態1,2を組み合わせることも可能である。
【0034】
実施の形態4では、ベースプレート13とステージ11との間に複数の輻射シールド33,33b,33cを重ねて配置し、複数層の空間32,32b,32cが配置されるようにした。これによって、実施の形態3の場合に比して、高温に熱されたベースプレート13からの輻射による熱の空間32,32b,32cへの輻射をさらに抑えることができる。その結果、実施の形態3の場合に比して、ベースプレート13を予め定められた温度に保温する際に投入するエネルギ量を減少させることができるという効果を有する。
【0035】
実施の形態5.
図7は、実施の形態5による三次元造形装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。なお、三次元造形装置1の全体的な構成は、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略し、異なる部分について説明する。また、図7では、実施の形態2に実施の形態5の構成を適用した場合を示している。実施の形態5による三次元造形装置1は、ステージ11とベースプレート13との間に、粉末210を充填した熱損失抑制部材である耐熱性の容器200をさらに備える。一例では、容器200は、+字形状である。容器200内に充填される粉末210は、造形に使用される粉末100と同じものでもよいし、他の種類の粉末でもよい。
【0036】
実施の形態1,2に示されるように、ステージ11とベースプレート13との間に粉末100が存在する三次元造形装置1では、造形が進むにつれ、ベースプレート13からの熱を受けたステージ11とベースプレート13との間の粉末100の焼結が進行し、仮焼結状態となる。粉末100が仮焼結状態になると粉末100の場合に比して熱伝導率が高くなるため、熱損失が大きくなり保温性が低下してしまう。しかし、実施の形態5の三次元造形装置1は、ステージ11とベースプレート13との間に粉末210を充填させた耐熱性の容器200を備える。これによって、容器200は、耐熱性を有するので、ベースプレート13からの熱を受けた場合でも、容器200内に熱が伝わりにくくなり、容器200内で熱伝導による粉末210の焼結の進行を遅らせることができる。その結果、容器200を備えない場合に比して長時間にわたって粉末状態を維持することが可能となる。このように、熱抵抗の大きな状態である粉末状態を維持することにより、結果として造形領域全体の保温性を向上させることが可能である。
【0037】
また、ステージ11上に容器200を配置した後にベースプレート13を支柱31上に配置するので、ベースプレート13の設置作業を簡便化することができる。つまり、造形を行うための前段取り作業に要する時間を従来に比して短縮することができる。
【0038】
なお、上記した説明では、実施の形態2の構成に粉末210を充填した容器200を設ける場合を示したが、実施の形態1の構成に粉末210を充填した容器200を設けてもよい。
【0039】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 三次元造形装置、10 チャンバ、11 ステージ、12 ステージ側壁部、13 ベースプレート、14 粉末ボックス、15 粉末床形成部、16 真空ポンプ、20 電子銃室、21 電子銃、31 支柱、32,32b,32c 空間、33,33b,33c 輻射シールド、100,210 粉末、110 造形物、111 溝、200 容器、311 本体部、312 接触部、313 高さ調整部、331,331b,331c 側面部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7