(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
H01F 27/255 20060101AFI20240906BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240906BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20240906BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240906BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240906BHJP
B22F 3/00 20210101ALN20240906BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F41/02 D
H01F1/22
H01F1/147 166
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
(21)【出願番号】P 2020201683
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 和浩
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 愛実
(72)【発明者】
【氏名】品川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】淺井 健太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065337(JP,A)
【文献】特開2014-207288(JP,A)
【文献】特開2009-252961(JP,A)
【文献】特開2020-077845(JP,A)
【文献】特開2019-169688(JP,A)
【文献】特開2020-095988(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195842(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0143967(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0059263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/255
H01F 41/02
H01F 1/22
H01F 1/147
B22F 1/00
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有の複数の磁性粒子と、ガラスと、を含んでなる圧粉磁心であって、
断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野の中に、(a)300μm
2以上20000μm
2以下の面積を有する特定磁性粒子と、(b)厚さが0.5μm以上3μm以下の磁性層と、が観察されるとともに、
前記視野の中に次の特定構造が3箇所以上観察される、圧粉磁心。
前記特定構造:3つ以上の前記特定磁性粒子によって囲まれた領域内に、前記磁性層が複数存在し、かつ隣接する前記磁性層の間に前記ガラスが存在している構造。
【請求項2】
前記視野の中で、前記特定磁性粒子が占有する面積割合が60%以上95%以下である、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記視野の中で、次の(1)(2)により選択可能である少なくとも3箇所の前記特定構造を含む、請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心。
(1)各前記特定構造毎に、前記特定構造に属する複数の前記磁性層の各延び方向を求める。
(2)各前記特定構造毎に、複数の前記延び方向の中から、一の特定方向を選択する。この選択の際、選択される前記特定方向は、各前記特定構造相互間において互いに相違するようにする。
【請求項4】
前記視野の中で、面積の大きい順に抽出した10個の前記特定磁性粒子の平均アスペクト比が1.2以上である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軟磁性組成物の粉末を含む圧粉磁心が開示されている。軟磁性組成物の粉末は、偏平度が1.0以上1.2以下である球状の粉末と、偏平度が3.0以上6.0以下である楕円体状の粉末と、を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧粉磁心は、電子部品に組み込まれて使用される際に、熱衝撃を受ける。これにより、圧粉磁心は、粉末間の絶縁粒界相にクラックが進展するおそれがある。そこで、熱衝撃に対する耐久性の向上が望まれている。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、熱衝撃に対する耐久性を向上させることを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕鉄含有の複数の磁性粒子と、ガラスと、を含んでなる圧粉磁心であって、
断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野の中に、(a)300μm2以上20000μm2以下の面積を有する特定磁性粒子と、(b)厚さが0.5μm以上3μm以下の磁性層と、が観察されるとともに、
前記視野の中に次の特定構造が3箇所以上観察される、圧粉磁心。
前記特定構造:3つ以上の前記特定磁性粒子によって囲まれた領域内に、前記磁性層が複数存在し、かつ隣接する前記磁性層の間に前記ガラスが存在している構造。
【0006】
〔2〕前記視野の中で、前記特定磁性粒子が占有する面積割合が60%以上95%以下である、〔1〕に記載の圧粉磁心。
【0007】
〔3〕前記視野の中で、次の(1)(2)により選択可能である少なくとも3箇所の前記特定構造を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の圧粉磁心。
(1)各前記特定構造毎に、前記特定構造に属する複数の前記磁性層の各延び方向を求める。
(2)各前記特定構造毎に、複数の前記延び方向の中から、一の特定方向を選択する。この選択の際、選択される前記特定方向は、各前記特定構造相互間において互いに相違するようにする。
【0008】
〔4〕前記視野の中で、面積の大きい順に抽出した10個の前記特定磁性粒子の平均アスペクト比が1.2以上である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の圧粉磁心。
【0009】
〔5〕前記磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の圧粉磁心。
【発明の効果】
【0010】
本開示の圧粉磁心は、熱衝撃に対する耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】圧粉磁心の断面構造を500μm×500μmの正方形の視野で観察した際のSEM像を示す。
【
図3】
図2の視野における粒界多重点付近を拡大して示すSEM像である。
【
図4】
図3の破線状の円に囲まれた部分を拡大して示すSEM像である。
【
図5】磁性層の厚さの測定方法を説明するための説明図である。
【
図6】磁性層の屈曲状態を説明するための説明図である。
【
図7】磁性層の延び方向に関する要件を説明するために、
図2の視野における粒界多重点付近の磁性層を模式的に示す説明図である。
【
図8】磁性層の延び方向に関する要件を満たさない構成において、粒界多重点付近の磁性層を模式的に示す説明図である。
【
図9】特定磁性粒子のアスペクト比の測定方法を説明するための説明図である。
【
図10】圧粉磁心の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
1.圧粉磁心1の構成
圧粉磁心1は、
図2のSEM像に示すように、鉄含有の複数の磁性粒子2と、ガラス(
図2の黒い部分)と、を含んでいる。
図2のSEM像は、
図1に示す圧粉磁心1の断面において一点鎖線で囲まれた領域を見ている。
【0014】
図1では、トロイダル形状の圧粉磁心1を例として挙げる。なお、圧粉磁心1の形状は、特に限定されない。
図1は、圧粉磁心1を、その軸方向に沿って切断した断面を示している。
【0015】
磁性粒子2は、Feを70%以上含有していることが好ましく、例えばFe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である。
【0016】
図3に示すように、圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(以下、観察視野ともいう)の中に、300μm
2以上20000μm
2以下の面積を有する特定磁性粒子4と、厚さが0.5μm以上3μm以下の磁性層5と、が観察される。特定磁性粒子4は、磁性粒子2に属する。磁性粒子2の一部が観察視野からはみ出している場合には、はみ出している部分の面積も含めて磁性粒子2全体の面積とし、300μm
2以上20000μm
2以下の面積を有する場合に特定磁性粒子4とする。特定磁性粒子4は、20000μm
2以下の面積とすることで、特定磁性粒子4内部での渦電流損を低減することができ、鉄損も低減することができる。
【0017】
ガラスは、例えばZn-Si-B系、Bi2O3-SiO2-B2O3系のガラスである。
【0018】
2.特定構造に関する要件
本開示の圧粉磁心1は、次に示す特定構造に関する要件を満たしている。
圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(以下、観察視野ともいう)の中に、次の特定構造が3箇所以上観察される。特定構造とは、3つ以上の特定磁性粒子4によって囲まれた領域(粒界多重点ともいう)内に、磁性層5が複数存在し、かつ隣接する磁性層5の間にガラスが存在している構造である。粒界多重点は、3つの特定磁性粒子4によって囲まれた粒界三重点や、4つの特定磁性粒子4によって囲まれた粒界四重点等が含まれる。
【0019】
図3~
図6を参照して、特定構造に関する要件について具体的に説明する。
図3は、
図2に示す観察視野における中央付近に観察される粒界多重点付近を拡大して示している。
図4は、
図3の粒界多重点付近をさらに拡大した図である。
図4の観察視野には、4つの特定磁性粒子4によって囲まれた領域(粒界四重点)が含まれている様子が一例として示されている。
図4(
図3の破線円内)には、以下に示すように、複数の磁性層5である磁性層M1~M5が含まれている。
【0020】
磁性層5(厚さが0.5μm以上3μm以下である磁性粒子2)の特定は、以下のようにして行われる。
図4に示す観察視野内の磁性層M4の厚さの測定について説明するが、その他の磁性層の厚さも同様に測定する。まず、
図5に示すように、観察視野の断面の磁性層M4内において、5μm間隔で離れ、直線L1上に並ぶ任意の3つの点P1~P3を選ぶ。3つの点P1~P3を通り、直線L1に直交する3つの直線L2を引く。それぞれの直線L2が磁性層M4と重なる部分の長さを測定し、これら3つの長さの平均値を磁性層M4の厚さとする。例えば、点P1を通る直線L2の長さは、Tである。このようにして測定された磁性層M4の厚さは、
図2の観察視野において例えば2.5μmである。同様にして測定される
図4に示す5つの磁性層5(M1~M5)の厚さは、0.5μm以上3μm以下である。換言すれば、このような方法で測定した場合に平均厚さが0.5μm以上3μm以下となる点P1~P3を含む磁性粒子2は磁性層5に相当する。なお、磁性層5のうち、平均厚さが0.5μm以上3μm以下である部分が磁性層の全長の3分の1以上であることが好ましく、2分の1以上であることがさらに好ましく、3分の2以上であることがさらに好ましく、磁性層の全体における平均厚さが0.5μm以上3μm以下であることがより一層好ましい。
【0021】
次に、磁性層5が屈曲している場合もあるため、その場合を
図6を参照しつつ説明する。屈曲している磁性層は、屈曲状態によって層の数を決定する。例えば、屈曲点で傾く2つの構成部分の延び方向の角度が90°より大きく180°以下である場合に、2つの構成部分をそれぞれ異なる磁性層としてみる。屈曲点で傾く2つの構成部分の延び方向がなす角度が0°より大きく90°以下である場合に、2つの構成部分をまとめて一つの磁性層としてみる。例えば、
図4に示す磁性層5Aは、屈曲している。
図6は、磁性層5Aのみを図示する模式図である。
図6に示すように、磁性層5Aは、屈曲点B1,B2で屈曲している。磁性層5Aは、屈曲点B1,B2を境にして、第1構成部15Aと、第2構成部15Bと、第3構成部15Cと、に分かれている。第1構成部15Aは、第2構成部15Bに対して傾いている。第1構成部15Aの延び方向は、例えば観察視野の断面において、屈曲点B1を通り第1構成部15A内に収まるように引くことが可能な最大長さ(長軸径)の線分(長軸)L3の方向とする。同様に、第2構成部15Bの延び方向は、例えば観察視野の断面において、屈曲点B1を通り第2構成部15B内に収まるように引くことが可能な最大長さ(長軸径)の線分(長軸)L4の方向とする。線分L3が線分L4に対して傾く角度θ1が180°に近いため、磁性層5Aが屈曲点B1で2つの磁性層に分けられる。同様にして、屈曲点B2に関し、第1構成部15Aの延び方向(線分(長軸)L5の方向)に対して第3構成部15Cの延び方向(線分(長軸)L6の方向)が傾く角度θ2が45°程度であるため、磁性層5Aが屈曲点B2で2つの磁性層に分けられない。したがって、磁性層5Aは、
図4に示すように、2つの磁性層M2,M3によって構成されているとする。
【0022】
図4に示す粒界多重点内には、少なくとも5つの磁性層5(M1~M5)が存在している。これら隣接する5つの磁性層5(M1~M5)の間には、ガラス(黒い部分)が存在している。このような粒界多重点を含む構造が特定構造10である。
図2に示すように、このような特定構造10が、
図4に示す特定構造10の他に少なくとも2つ存在している。
【0023】
圧粉磁心1の断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中で、特定構造10が3箇所以上観察される。圧粉磁心1の断面における観察視野の中で、特定構造10が4箇所以上観察されることが好ましい。圧粉磁心1の断面における観察視野の中で、特定構造10が5箇所以上観察されることがさらに好ましい。
【0024】
圧粉磁心1は、特定構造10において、扁平な磁性層5とガラスとが繰り返し積層される構成となっているため、熱応力の集中を緩和することができる。そのため、圧粉磁心1は、熱衝撃に対する耐久性を向上させることができる。
【0025】
3.磁性層の延び方向に関する要件
本開示の圧粉磁心1は、次に示す磁性層の延び方向に関する要件を満たしている。
圧粉磁心1は、
図7に示すように、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中に、次の(1)(2)により選択可能である少なくとも3箇所の特定構造10を含む。
(1)各特定構造10毎に、特定構造10に属する複数の磁性層5の各延び方向を求める。
(2)各特定構造10毎に、複数の磁性層5の各延び方向の中から、一の特定方向を選択する。この選択の際、選択される特定方向は、各特定構造10相互間において互いに相違するようにする。
【0026】
図7を参照して、磁性層5の延び方向に関する要件について模式的に説明する。まず、
図7に示す特定構造10Aに属する磁性層5の各延び方向を求める(上記(1))。
図7に示す特定構造10A~10Cは、
図2に示す3つの特定構造10にそれぞれ対応している。磁性層5の延び方向は、例えば観察視野において磁性層5内に収まるように引くことが可能な最大長さ(長軸径)の線分(長軸)の方向である。
図7に示す線分L7~L11は、
図4に示す磁性層M1~M5の延び方向を示す線分である。特定構造10B,10Cについても、磁性層5の各延び方向を求める。例えば特定構造10B,10Cには、それぞれ線分L12,L13の方向に延びる磁性層5が含まれている。
【0027】
続いて、各特定構造10A~10C毎に、複数の磁性層5の各延び方向の中から、一の特定方向を選択する。例えば、特定構造10Aでは線分L7の方向を特定方向として選択する。特定構造10Bでは線分L12の方向を特定方向として選択する。特定構造10Cでは線分L13の方向を特定方向として選択する。選択される各特定方向は、各特定構造10A~10C相互間において互いに相違している(平行ではない)。
【0028】
上記(1)(2)により選択可能である特定構造10を、選択特定構造という。選択特定構造は、少なくとも3箇所選択可能である。選択特定構造は、少なくとも4箇所選択可能であることが好ましい。選択特定構造は、少なくとも5箇所選択可能であることがさらに好ましい。
【0029】
圧粉磁心1は、少なくとも3箇所の特定構造10相互間において、選択された磁性層の延び方向が異なっていることで、熱衝撃を受けることで生じるクラックの進展をより一層阻害したり、クラックの進展経路をより一層長くすることができる。そのため、圧粉磁心1は、熱衝撃に対する耐久性をより一層向上させることができる。例えば、
図8は、磁性層の延び方向に関する要件を満たさない典型的な構成である。
図8に示す線分は、特定構造210A~210Cの各磁性層の延び方向を示す線分である。
図8に示す各線分の方向は同じ(平行)である。
図8のような構成に比べて、
図7に示す圧粉磁心1の構成は、クラックの進展を阻害し易く、クラックの進展経路を長くすることができる。
【0030】
4.特定磁性粒子の面積に関する要件
本開示の圧粉磁心1は、次に示す特定磁性粒子の面積に関する要件を満たしている。
圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中で、特定磁性粒子4が占有する面積割合が60%以上95%以下である。特定磁性粒子4の一部が観察視野からはみ出している場合には、はみ出している部分の面積は特定磁性粒子4の占有面積に含めない。
【0031】
圧粉磁心1は、観察視野の中で特定磁性粒子4が占有する面積割合を60%以上とすることで、強度の低いガラスの割合が小さくなるため、クラックが生じ難くなり、熱衝撃に対する耐久性が向上する。一方で、圧粉磁心1は、観察視野の中で特定磁性粒子4が占有する面積割合を95%以下とすることで、磁性粒子2同士の電気的な絶縁が保たれ易く、電子部品に組み込まれて使用される際に渦電流損失を小さくできる。
【0032】
5.特定磁性粒子のアスペクト比に関する要件
本開示の圧粉磁心1は、次に示す特定磁性粒子4のアスペクト比に関する要件を満たしている。
圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中で、面積の大きい順に抽出した10個の特定磁性粒子4の平均アスペクト比が1.2以上である。なお、特定磁性粒子4の一部が観察視野からはみ出している場合には、その特定磁性粒子4を抽出しない。平均アスペクト比が1.2以上である特定磁性粒子は、特定磁性粒子4が球形であってアスペクト比が1である場合に比較して、クラックの進展距離が長くなるため、電子部品に組み込まれて使用される際に熱衝撃に対する耐久性が向上する。
【0033】
図9を参照して、特定磁性粒子4のアスペクト比に関する要件について具体的に説明する。例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)の倍率300倍の反射電子像を画像解析する。任意の方向での最大長さ(観察視野において特定磁性粒子4内に収まるように引くことが可能な線分(長軸)の長さ)を長軸径とする。特定磁性粒子4の長軸に直交する方向での最大長さ(短軸の長さ)を短軸径とする。長軸径を短軸径で除した値をアスペクト比とする。平均アスペクト比は、観察視野の中で面積の大きい順に抽出した10個の特定磁性粒子4のアスペクト比の平均値である。
【0034】
例えば、
図2に示す特定磁性粒子4Aに対して、
図9に示すように長軸および短軸を引くことができる。
図9に示すXが長軸径であり、Yが短軸径である。特定磁性粒子4Aのアスペクト比は、X/Yで表される。
【0035】
6.特定磁性粒子の特定方法
上述した要件において、特定磁性粒子4の特定方法(観察視野からはみ出している特定磁性粒子の取り扱い方)が異なっている。そこで、特定磁性粒子4の特定方法について詳述する。以下に示す(SP1)~(SP5)の方法で特定磁性粒子4を特定する。
(SP1)観察視野(500μm×500μm)よりも大きい領域(例えば、800μm×800μm(以下「撮像視野」)ともいう)を撮像する。
(SP2)撮像視野(800μm×800μm)の中から観察視野(500μm×500μm)を特定する。
(SP3)観察視野において特定磁性粒子4を特定する際に、観察視野からはみ出している部分がある粒子については、撮像視野も考慮して粒子の面積を求める。300μm2以上20000μm2以下の面積であれば、その「観察視野からはみ出している部分がある粒子」を「特定磁性粒子4」として特定する。
(SP4)観察視野の中における特定磁性粒子4が占有する面積割合を求めるときは、「観察視野からはみ出している部分がある粒子」のうち、観察視野に入っている部分の面積のみを「観察視野における特定磁性粒子の面積」としてカウントする。
(SP5)特定磁性粒子4の平均アスペクト比を求める場合には、「観察視野の中に粒子の輪郭が全て入っている粒子」を、その面積が大きい順に10個抽出することとする。
【0036】
7.圧粉磁心1の製造方法
圧粉磁心1の製造方法は、特に限定されない。
図10に、圧粉磁心1の製造方法の一例を示し、この製造方法について以下に説明する。
(1)磁性金属粉末およびガラス粉末の準備
まず、原料としての磁性金属粉末およびガラス粉末を用意する(ステップS1)。磁性金属粉末は、例えばFe(鉄)粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上が含まれている。ガラス粉末は、例えばZn-Si-B系のガラス粉末である。
(2)混合
次に、磁性金属粉末およびガラス粉末を混合する(ステップS2)。磁性金属粉末およびガラス粉末を、ジルコニアボールとともに樹脂製のポットに入れ、ポットミル混合する。ジルコニアボールの衝突による機械的エネルギーによって、Fe粒子の表面にガラス粒子を付着させる。このとき、Fe粒子自体も押しつぶされて変形し、アスペクト比が大きくなる。粒径の比較的小さな一部の粒子は、鱗片状の扁平粒子となる。
(3)成形(プレス成形)
圧粉磁心1の形状を作るためには、通常、プレス成形(例えば金型一軸成形)が用いられる(ステップS3)。プレス成形の際の成形圧は1.0GPa~1.7GPaが好ましく、高密度の成形体を得るためには高圧でプレスした方がよい。
(4)熱処理
得られた成形体について、プレス成形の際に加えられた歪みを開放するため、熱処理(焼鈍)する(ステップS4)。熱処理条件として、例えば、熱処理温度:600℃~900℃、非酸化雰囲気(N
2雰囲気)の条件が好適に採用される。これにより、磁性金属粉末の歪み除去とともに、ガラスを融解させてFe粒子間に絶縁性粒界層を形成し、圧粉磁心1を得る。
熱処理の条件は、使用する磁性金属粉末の種類によって適宜変更される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、実験例1~13は実施例であり、実験例14,15は比較例である。
表において、実験例を「no.」を用いて示す。また、表において「14*」のように、「*」が付されている場合には、比較例であることを示している。
【0038】
1.圧粉磁心の作製
(1)実験例1~14(no.1~14)
磁性粒子には、表1に記載の粒度を有する各種粒子を用いた。なお、表1中、「Fe-Si」の記載は、Fe-3.5質量%Si粒子を意味している。「Fe-Si-Cr」の記載は、Fe-3.5質量%Si粒子-1.5質量%Cr粒子を意味している。「Fe-Ni」の記載は、Fe-78質量%Ni粒子を意味している。表1中、「磁性金属粉末の粒度」は、50μm未満、50μm以上100μm未満、100μm以上の各粒度の範囲を占める割合(分布)を示している。各粒度の範囲は、ふるいで分級される。「磁性金属粉末の粒度」の種類(分布の程度)は、A~Lの記号によって区別される。ガラス粉末として、Zn-Si-B系のガラス粉末を使用した。ガラス粉末の平均粒子径は、1μmである。
【0039】
次に、磁性金属粉末およびガラス粉末を機械的方法により混合した。磁性金属粉末が85体積%、ガラス粉末が15体積%となるように、各粉末を秤量した。磁性金属粉末およびガラス粉末を、ジルコニアボールとともに樹脂製のポットに入れ、ポットミル混合した。ジルコニアボールのサイズや量、回転速度、ミル時間などのポットミル条件は、Fe粒子の表面にガラス粒子を付着させるために適切に選択した。
【0040】
次に、ガラス被覆された磁性金属粉末を金型に入れ、1.0~1.7GPaの成形圧でプレス成形して成形体(直径10mmのプレス成形体)とした。この成形体を熱処理温度:600~900℃、非酸化雰囲気(N2雰囲気)の条件で熱処理した。以上のようにして、実験例1~14に係る圧粉磁心を得た。
【0041】
(2)実験例15(no.15)
磁性金属粉末には、表1に記載の粒度分布を有する粒子を用いた。ガラス粉末の平均粒子径は、1μmである。まず、磁性金属粉末およびガラス粉末をバインダー添加法により混合した。磁性金属粉末に対して0.35体積%の有機バインダー(エチレンオキサイド系ポリマー)を、エタノール溶液とともに加えて撹拌混合した。これにより、Fe粒子の表面に薄いバインダー膜が付着する。その後、ガラス粉末を加えて撹拌混合し、エタノールを乾燥除去した。これにより、ガラス被覆された磁性金属粉末を得た。
【0042】
次に、ガラス被覆された磁性金属粉末を金型に入れ、1.0~1.7GPaの成形圧でプレス成形して成形体(直径10mmのプレス成形体)とした。この成形体を熱処理温度:600~900℃、非酸化雰囲気(N2雰囲気)の条件で熱処理した。以上のようにして、実験例15に係る圧粉磁心を得た。
【0043】
【0044】
2.特定構造の評価方法
圧粉磁心の任意の断面を鏡面研磨し、SEMを用いて、倍率300倍または倍率1000倍の反射電子像を画像解析することにより、磁性粒子の面積を算出した。300μm2以上20000μm2以下の面積を有する磁性粒子を、特定磁性粒子とした。特定磁性粒子に該当するか否かを判断する場合には、磁性粒子の一部が観察視野からはみ出しているときに、はみ出している部分の面積も含めて磁性粒子の面積とした。なお、磁性粒子の組成は、EPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて、WDS(波長分散型X線分光法)による点分析を行うことによって調べることができる。
【0045】
磁性粒子の厚みは、以下のようにして算出した。圧粉磁心の断面の磁性層内において、5μm間隔で離れ、第1直線上に並ぶ任意の3つの点を選ぶ。3つの点をそれぞれ通り、第1直線に直交する3つの第2直線を引いた。それぞれの第2直線が磁性層と重なる部分の長さを測定し、これら3つの長さの平均値を磁性層の厚さとした。厚さが0.5μm以上3μm以下の磁性粒子を、磁性層とした。
【0046】
屈曲している磁性層は、屈曲状態によって層の数を決定した。例えば、屈曲点で傾く2つの構成部分の延び方向の角度が90°より大きく180°以下である場合に、2つの構成部分をそれぞれ異なる磁性層としてみた。屈曲点で傾く2つの構成部分の延び方向の角度が0°より大きく90°以下場合に、2つの構成部分をまとめて一つの磁性層としてみた。
【0047】
圧粉磁心の断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中に、次の特定構造がいくつあるか調べた。特定構造は、3つ以上の特定磁性粒子によって囲まれた領域(粒界多重点)内に、磁性層が複数存在し、かつ隣接する磁性層の間にガラスが存在している構造である。
【0048】
3.特定磁性粒子の面積の評価方法
圧粉磁心の断面における特定磁性粒子の面積を評価した。上記特定構造の評価方法と同様に、圧粉磁心の断面の観察視野を画像解析し、特定磁性粒子(300μm2以上20000μm2以下の面積を有する磁性粒子)が占有する面積割合を調べた。特定磁性粒子の一部が観察視野からはみ出している場合には、はみ出している部分の面積は特定磁性粒子の占有面積に含めていない。
【0049】
4.鉄損の評価方法
得られた圧粉磁心を加工してリング形状とし、B-Hアナライザを用いて鉄損を測定した。圧粉磁心を、周波数10kHz、磁束密度10mTの条件で励磁した場合の鉄損値を測定した。評価は以下のようにした。
「A」…鉄損値が500W/kg以下
「B」…鉄損値が500W/kgより大きい
【0050】
5.磁性層の延び方向の評価方法
上記特定構造の評価方法と同様に、圧粉磁心の断面の観察視野を画像解析し、磁性層の延び方向を評価した。圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中に、次の(1)(2)により選択可能である特定構造の数を評価した。
(1)各特定構造毎に、特定構造に属する複数の磁性層の各延び方向を求める。
(2)各特定構造毎に、複数の磁性層の各延び方向の中から、一の特定方向を選択する。この選択の際、選択される特定方向は、各特定構造相互間において互いに相違するようにする。
磁性層の延び方向は、例えば観察視野の断面において磁性層内に収まるように引くことが可能な最大長さの線分の方向とした。以下、(1)(2)により選択可能である特定構造のことを、選択特定構造という。
【0051】
6.特定磁性粒子のアスペクト比の評価方法
SEMの倍率300倍の反射電子像を画像解析する。任意の方向での最大長さ(観察視野において特定磁性粒子内に収まるように引くことが可能な線分(長軸)の長さ)を長軸径とする。特定磁性粒子の長軸に直交する方向での最大長さ(短軸の長さ)を短軸径とする。長軸径を短軸径で除した値をアスペクト比とする。平均アスペクト比は、観察視野の中で面積の大きい順に抽出した10個の特定磁性粒子のアスペクト比の平均値である。なお、特定磁性粒子の一部が観察視野からはみ出している場合には、その特定磁性粒子のアスペクト比を採用しない。
【0052】
7.飽和磁束密度の評価方法
飽和磁束密度は、得られた圧粉磁心をサンプルとして、VSM(振動試料型磁力計)を用いて測定した。評価は以下のようにした。
「A」…飽和磁束密度が1.0T以上
「B」…飽和磁束密度が1.0Tより小さい
【0053】
8.熱衝撃に対する耐久性の評価方法
圧粉磁心の熱衝撃に対する耐久性は、冷熱試験機を用いて評価した。室温と300℃との間でのサイクル試験を300サイクル行った。サイクル試験後の3点曲げ強度を10段階で相対評価した。数値が大きいほど熱衝撃に対する耐久性が高い。
【0054】
9.評価結果
評価結果を表1に示す。
実施例である実験例1~8は、下記要件(a)~(e)を満たしている。
・要件(a):観察視野の中に観察される特定構造の数が3つ以上である。
・要件(b):観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が60%以上95%以下である。
・要件(c):観察視野の中に観察される上記選択特定構造が3つ以上である。
・要件(d):観察視野の中に観察される特定磁性粒子のアスペクト比が1.2以上である。
・要件(e):磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である。
【0055】
これに対して、実験例9~15は以下の要件を満たしていない。
実験例9,10では、要件(b)を満たしてない。
実験例11では、要件(c)を満たしてない。
実験例12では、要件(d)を満たしてない。
実験例13では、要件(e)を満たしてない。
実験例14、15では、要件(a)を満たしてない。
【0056】
実施例である実験例1~13は、比較例である実験例14,15と比較して、要件(a)を満たすことで、熱衝撃に対する耐久性が高かった。実験例1~13は、特定構造10において扁平な磁性層とガラスとが繰り返し積層される構成となっているため、熱衝撃を受けることで生じるクラックの進展を阻害したり、クラックの進展経路を長くすることができるためと考えられる。一方で、比較例14,15は、バインダー添加法を用いており、Fe粒子自体の変形が起こらなかったためと考えられる。
実施例である実験例1~8,11~13は、実施例である実験例9と比較して、要件(b)における、観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が95%以下である要件を満たすことで、鉄損値が低かった。これは、観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が95%以下となることで、Fe粒子間の絶縁性が十分に保たれ、渦電流損が増大し、鉄損も増大したことによると考えられる。また、実施例である実験例1~9は、実施例である実験例10と比較して、要件(b)における、観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が60%以上である要件を満たすことで、熱衝撃に対する耐久性が高かった。
実施例である実験例7,8は、実施例である実験例11と比較して、要件(c)を満たすことで、熱衝撃に対する耐久性が高かった。これは、少なくとも3箇所の特定構造相互間において、選択された磁性層の延び方向が異なっていることで、熱衝撃を受けることで生じるクラックの進展をより一層阻害したり、クラックの進展経路をより一層長くすることができるためと考えられる。
実施例である実験例7,8は、実施例である実験例12と比較して、要件(d)を満たすことで、熱衝撃に対する耐久性が高かった。これは、アスペクト比が大きいほどクラックの進展距離が長くなるためであると考えられる。
実施例である実験例1~12、比較例である実験例14,15は、実施例である実験例13と比較して、要件(e)を満たすことで、飽和磁束密度が大きかった。これは、磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上であるためと考えられる。
【0057】
10.実施例の効果
本実施例の圧粉磁心は、熱衝撃に対する耐久性を向上できた。
【0058】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の圧粉磁心は、モーターコア、トランス、チョークコイル、ノイズ吸収体等の用途に特に好適に使用される。
【符号の説明】
【0060】
1…圧粉磁心
2…磁性粒子
4,4A…特定磁性粒子
5,5A,M1~M5…磁性層
10,10A~10C…特定構造