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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20240906BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240906BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20240906BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240906BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240906BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20240906BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F41/02 D
H01F1/22
H01F1/147 166
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020201687
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089353
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 和浩
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 愛実
(72)【発明者】
【氏名】品川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】淺井 健太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065337(JP,A)
【文献】特開2014-207288(JP,A)
【文献】特開2013-098384(JP,A)
【文献】特開2020-077845(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195842(WO,A1)
【文献】特開2019-169688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0143967(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0059263(US,A1)
【文献】特開2009-252961(JP,A)
【文献】特開2020-095988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/255
H01F 41/02
H01F 1/22
H01F 1/147
B22F 1/00
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有の複数の磁性粒子と、ガラスと、を含んでなる圧粉磁心であって、
断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野に、300μm以上20000μm以下の面積を有し前記磁性粒子に属する複数の特定磁性粒子が観察されるとともに、
前記視野の中では、次の特定積層構造を含む長辺長さ30μm、短辺長さ5μmの長方形領域が3箇所以上重ならずに規定される、圧粉磁心。
前記特定積層構造は、
(a)複数の前記特定磁性粒子のうちの第1の特定磁性粒子、
(b)ガラス層と、鉄含有の磁性層と、が順に並ぶ単位が2以上繰り返した積層部分、
(c)ガラス層、
(d)複数の前記特定磁性粒子のうちの前記第1の特定磁性粒子とは異なる第2の特定磁性粒子、
が前記長方形領域の略長手方向にこの順に並んだ構造である。
【請求項2】
前記視野の中で、前記特定磁性粒子が占有する面積割合が60%以上95%以下である、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記視野の中で、前記複数の特定磁性粒子のうち、面積の大きい順に抽出した10個の前記特定磁性粒子の平均アスペクト比が1.2以上である、請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軟磁性組成物の粉末を含む圧粉磁心が開示されている。軟磁性組成物の粉末は、偏平度が1.0以上1.2以下である球状の粉末と、偏平度が3.0以上6.0以下である楕円体状の粉末と、を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-77845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧粉磁心は、電子部品に組み込まれて使用される際に、熱衝撃を受ける。これにより、圧粉磁心は、粉末間の絶縁粒界相にクラックが進展するおそれがある。そこで、熱衝撃に対する耐久性の向上が望まれている。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、熱衝撃に対する耐久性を向上させることを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕鉄含有の複数の磁性粒子と、ガラスと、を含んでなる圧粉磁心であって、
断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野に、300μm以上20000μm以下の面積を有し前記磁性粒子に属する複数の特定磁性粒子が観察されるとともに、
前記視野の中では、次の特定積層構造を含む長辺長さ30μm、短辺長さ5μmの長方形領域が3箇所以上重ならずに規定される、圧粉磁心。
前記特定積層構造は、
(a)複数の前記特定磁性粒子のうちの第1の特定磁性粒子、
(b)ガラス層と、鉄含有の磁性層と、が順に並ぶ単位が2以上繰り返した積層部分、
(c)ガラス層、
(d)複数の前記特定磁性粒子のうちの前記第1の特定磁性粒子とは異なる第2の特定磁性粒子、
が前記長方形領域の略長手方向にこの順に並んだ構造である。
【0006】
〔2〕前記視野の中で、前記特定磁性粒子が占有する面積割合が60%以上95%以下である、〔1〕に記載の圧粉磁心。
【0007】
〔3〕前記視野の中で、面積の大きい順に抽出した10個の前記特定磁性粒子の平均アスペクト比が1.2以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の圧粉磁心。
【0008】
〔4〕前記磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の圧粉磁心。
【発明の効果】
【0009】
本開示の圧粉磁心は、熱衝撃に対する耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】圧粉磁心を示す模式図である。
図2】圧粉磁心の断面構造を500μm×500μmの正方形の視野で観察した際のSEM像を示す。
図3図2の視野における中央部分付近を拡大して示す拡大図である。
図4図3に示す1つの長方形領域付近を拡大して示す拡大図である。
図5】特定磁性粒子のアスペクト比の測定方法を説明するための説明図である。
図6】圧粉磁心の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0012】
1.圧粉磁心1の構成
圧粉磁心1は、図2のSEM像に示すように、鉄含有の複数の磁性粒子2と、ガラス(図2の黒い部分)と、を含んでいる。図2のSEM像は、図1に示す圧粉磁心1の断面において一点鎖線で囲まれた領域を見ている。
【0013】
図1では、トロイダル形状の圧粉磁心1を例として挙げる。なお、圧粉磁心1の形状は、特に限定されない。図1は、圧粉磁心1を、その軸方向に沿って切断した断面を示している。
【0014】
磁性粒子2は、例えばFe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である。
【0015】
図3に示すように、圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(以下、観察視野ともいう)の中に、300μm以上20000μm以下の面積を有する特定磁性粒子4と、磁性層5と、ガラス(黒い部分)と、が観察される。特定磁性粒子4は、磁性粒子2に属する。磁性粒子2の一部が観察視野からはみ出している場合には、はみ出している部分の面積も含めて磁性粒子2全体の面積とし、300μm以上20000μm以下の面積を有する場合に特定磁性粒子4とする。特定磁性粒子4は、20000μm以下の面積とすることで、特定磁性粒子4内部での渦電流損を低減することができ、鉄損も低減することができる。
【0016】
ガラスは、例えばZn-Si-B系、Bi-SiO-B系のガラスである。
【0017】
2.特定積層構造に関する要件
本開示の圧粉磁心1は、次に示す特定積層構造に関する要件を満たしている。
圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(以下、観察視野ともいう)の中では、次の特定積層構造を含む長辺長さ30μm、短辺長さ5μmの長方形領域が3箇所以上重ならずに規定される。特定積層構造とは、
(a)複数の特定磁性粒子4のうちの第1の特定磁性粒子、
(b)ガラス層と、鉄含有の磁性層5と、が順に並ぶ単位が2以上繰り返した積層部分、
(c)ガラス層、
(d)複数の特定磁性粒子4のうちの第1の特定磁性粒子とは異なる第2の特定磁性粒子、
が長方形領域の略長手方向にこの順に並んだ構造である。
【0018】
図3図4を参照して、特定積層構造に関する要件について具体的に説明する。図3は、図2に示す観察視野における中央付近の領域を拡大して示している。図4は、図3の中の一つの長方形領域AR付近をさらに拡大した図である。例えば、図4に示すように、長辺長さ30μm、短辺長さ5μmの長方形領域ARを設定した場合に、長方形領域ARに特定積層構造が含まれている。長方形領域ARの略長手方向の一端には、第1の特定磁性粒子4A(上記(a))が存在している。第1の特定磁性粒子4Aは、特定磁性粒子4に属し、300μm以上20000μm以下の面積を有する磁性粒子2である。第1の特定磁性粒子4Aに対して、長方形領域ARの略長手方向の他端側に、ガラス層(黒い部分)が隣接している。このガラス層に対して、長方形領域ARの略長手方向の他端側に、磁性層M1が存在している。これらガラス層と磁性層M1とが並ぶ単位を、積層部分という。磁性層M1に対して、長方形領域ARの略長手方向の他端側に、さらに4つの積層部分(磁性層M2とガラス層との積層部分、磁性層M3とガラス層との積層部分、磁性層M4とガラス層との積層部分、磁性層M5とガラス層との積層部分)が順に並んでいる。すなわち、長方形領域ARの略長手方向に、積層部分が5つ並んでいる(上記(b))。磁性層M5に対して、長方形領域ARの略長手方向の他端側に、ガラス層(上記(c))が存在している。このガラス層に対して、長方形領域ARの略長手方向の他端側に、第2の特定磁性粒子4B(上記(d))が存在している。第2の特定磁性粒子4Bは、特定磁性粒子4に属し、300μm以上20000μm以下の面積を有する磁性粒子2である。以上のように、図4に示す長方形領域AR内の領域は、長方形領域ARの略長手方向に(a)~(d)の順に並んだ特定積層構造となっている。
【0019】
磁性層5の厚さは、例えば、磁性層5の延び方向に直交する方向に沿う幅である。図4に示す長方形領域AR内において、磁性層5の厚さは、0μmより大きく5μm以下であることが好ましい。ガラス層の厚さは、例えば、ガラス層の延び方向に直交する方向に沿う幅である。図4に示す長方形領域AR内において、ガラス層の厚さは、0μmより大きく5μm以下であることが好ましい。
【0020】
次に、磁性層5が屈曲している場合もあるため、その場合を説明する。磁性層5が屈曲している場合でも、長方形領域AR内において、略長手方向でガラス層を挟んでいる場合にはそれぞれ異なる磁性層としてみる。例えば、図4に示す磁性層M2,M3は、屈曲する磁性層5の一部であるが、長方形領域AR内において略長手方向でガラス層(黒い部分)を挟んでいるため、長方形領域AR内でそれぞれ異なる磁性層としてみる。
【0021】
以上の説明により、図4に示す長方形領域AR内には、特定積層構造(上記(a)~(d)が長方形領域ARの略長手方向にこの順に並んだ構造)が含まれている。図2に示すように、このような特定積層構造を含む長方形領域ARが少なくとも4箇所重ならずに規定される。
【0022】
圧粉磁心1の断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中で、特定積層構造を含む長方形領域ARが少なくとも4箇所重ならずに規定されることが好ましい。圧粉磁心1の断面における観察視野の中で、特定積層構造を含む長方形領域ARが少なくとも5箇所重ならずに規定されることがさらに好ましい。
【0023】
圧粉磁心1は、特定構造10において、扁平な磁性層5とガラス層とが繰り返し積層される構成となっているため、熱衝撃を受けることで生じるクラックの進展を阻害したり、クラックの進展経路を長くすることができる。そのため、圧粉磁心1は、熱衝撃に対する耐久性を向上させることができる。
【0024】
3.特定磁性粒子の面積に関する要件
本開示の圧粉磁心1は、次に示す特定磁性粒子の面積に関する要件を満たしている。
圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中で、特定磁性粒子4が占有する面積割合が60%以上95%以下である。特定磁性粒子4の一部が観察視野からはみ出している場合には、はみ出している部分の面積は特定磁性粒子4の占有面積に含めない。
【0025】
圧粉磁心1は、観察視野の中で特定磁性粒子4が占有する面積割合を60%以上とすることで、強度の低いガラスの割合が小さくなるため、クラックが生じ難くなり、熱衝撃に対する耐久性が向上する。一方で、圧粉磁心1は、観察視野の中で特定磁性粒子4が占有する面積割合を95%以下とすることで、磁性粒子2同士の電気的な絶縁が保たれ易く、電子部品に組み込まれて使用される際に渦電流損失を小さくできる。
【0026】
4.特定磁性粒子のアスペクト比に関する要件
本開示の圧粉磁心1は、次に示す特定磁性粒子4のアスペクト比に関する要件を満たしている。
圧粉磁心1は、断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中で、面積の大きい順に抽出した10個の特定磁性粒子4の平均アスペクト比が1.2以上である。なお、特定磁性粒子4の一部が観察視野からはみ出している場合には、その特定磁性粒子4を抽出しない。平均アスペクト比が1.2以上である特定磁性粒子は、特定磁性粒子4が球形であってアスペクト比が1である場合に比較して、クラックの進展距離が長くなるため、電子部品に組み込まれて使用される際に熱衝撃に対する耐久性が向上する。
【0027】
図5を参照して、特定磁性粒子4のアスペクト比に関する要件について具体的に説明する。例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)の倍率300倍の反射電子像を画像解析する。任意の方向での最大長さ(観察視野において特定磁性粒子4内に収まるように引くことが可能な線分(長軸)の長さ)を長軸径とする。特定磁性粒子4の長軸に直交する方向での最大長さ(短軸の長さ)を短軸径とする。長軸径を短軸径で除した値をアスペクト比とする。平均アスペクト比は、観察視野の中で面積の大きい順に抽出した10個の特定磁性粒子4のアスペクト比の平均値である。
【0028】
例えば、図2に示す特定磁性粒子4Cに対して、図5に示すように長軸および短軸を引くことができる。図5に示すXが長軸径であり、Yが短軸径である。特定磁性粒子4Cのアスペクト比は、X/Yで表される。
【0029】
5.圧粉磁心1の製造方法
圧粉磁心1の製造方法は、特に限定されない。図6に、圧粉磁心1の製造方法の一例を示し、この製造方法について以下に説明する。
(1)磁性金属粉末およびガラス粉末の準備
まず、原料としての磁性金属粉末およびガラス粉末を用意する(ステップS1)。磁性金属粉末は、例えばFe(鉄)粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上が含まれている。ガラス粉末は、例えばZn-Si-B系のガラス粉末である。
(2)混合
次に、磁性金属粉末およびガラス粉末を混合する(ステップS2)。磁性金属粉末およびガラス粉末を、ジルコニアボールとともに樹脂製のポットに入れ、ポットミル混合する。ジルコニアボールの衝突による機械的エネルギーによって、Fe粒子の表面にガラス粒子を付着させる。このとき、Fe粒子自体も押しつぶされて変形し、アスペクト比が大きくなる。粒径の比較的小さな一部の粒子は、鱗片状の扁平粒子となる。
(3)成形(プレス成形)
圧粉磁心1の形状を作るためには、通常、プレス成形(例えば金型一軸成形)が用いられる(ステップS3)。プレス成形の際の成形圧は1.0GPa~1.7GPaが好ましく、高密度の成形体を得るためには高圧でプレスした方がよい。
(4)熱処理
得られた成形体について、プレス成形の際に加えられた歪みを開放するため、熱処理(焼鈍)する(ステップS4)。熱処理条件として、例えば、熱処理温度:600℃~900℃、非酸化雰囲気(N雰囲気)の条件が好適に採用される。これにより、磁性金属粉末の歪み除去とともに、ガラスを融解させてFe粒子間に絶縁性粒界層を形成し、圧粉磁心1を得る。
熱処理の条件は、使用する磁性金属粉末の種類によって適宜変更される。
【実施例
【0030】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、実験例1~13は実施例であり、実験例14,15は比較例である。
表において、実験例を「no.」を用いて示す。また、表において「14*」のように、「*」が付されている場合には、比較例であることを示している。
【0031】
1.圧粉磁心の作製
(1)実験例1~14(no.1~14)
磁性粒子には、表1に記載の粒度を有する各種粒子を用いた。なお、表1中、「Fe-Si」の記載は、Fe-3.5質量%Si粒子を意味している。「Fe-Si-Cr」の記載は、Fe-3.5質量%Si粒子-1.5質量%Cr粒子を意味している。「Fe-Ni」の記載は、Fe-78質量%Ni粒子を意味している。表1中、「磁性金属粉末の粒度」は、50μm未満、50μm以上100μm未満、100μm以上の各粒度の範囲を占める割合(分布)を示している。各粒度の範囲は、ふるいで分級される。「磁性金属粉末の粒度」の種類(分布の程度)は、A~Lの記号によって区別される。ガラス粉末として、Zn-Si-B系のガラス粉末を使用した。ガラス粉末の平均粒子径は、1μmである。
【0032】
次に、磁性金属粉末およびガラス粉末を機械的方法により混合した。磁性金属粉末が85体積%、ガラス粉末が15体積%となるように、各粉末を秤量した。磁性金属粉末およびガラス粉末を、ジルコニアボールとともに樹脂製のポットに入れ、ポットミル混合した。ジルコニアボールのサイズや量、回転速度、ミル時間などのポットミル条件は、Fe粒子の表面にガラス粒子を付着させるために適切に選択した。
【0033】
次に、ガラス被覆された磁性金属粉末を金型に入れ、1.0~1.7GPaの成形圧でプレス成形して成形体(直径10mmのプレス成形体)とした。この成形体を熱処理温度:600~900℃、非酸化雰囲気(N雰囲気)の条件で熱処理した。以上のようにして、実験例1~14に係る圧粉磁心を得た。
【0034】
(2)実験例15(no.15)
磁性金属粉末には、表1に記載の粒度分布を有する粒子を用いた。ガラス粉末の平均粒子径は、1μmである。まず、磁性金属粉末およびガラス粉末をバインダー添加法により混合した。磁性金属粉末に対して0.35体積%の有機バインダー(エチレンオキサイド系ポリマー)を、エタノール溶液とともに加えて撹拌混合した。これにより、Fe粒子の表面に薄いバインダー膜が付着する。その後、ガラス粉末を加えて撹拌混合し、エタノールを乾燥除去した。これにより、ガラス被覆された磁性金属粉末を得た。
【0035】
次に、ガラス被覆された磁性金属粉末を金型に入れ、1.0~1.7GPaの成形圧でプレス成形して成形体(直径10mmのプレス成形体)とした。この成形体を熱処理温度:600~900℃、非酸化雰囲気(N雰囲気)の条件で熱処理した。以上のようにして、実験例15に係る圧粉磁心を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
2.特定積層構造の評価方法
圧粉磁心の任意の断面を鏡面研磨し、SEMを用いて、倍率300倍または倍率1000倍の反射電子像を画像解析することにより、磁性粒子の面積を算出した。300μm以上20000μm以下の面積を有する磁性粒子を、特定磁性粒子とした。磁性粒子の一部が観察視野からはみ出している場合には、はみ出している部分の面積も含めて磁性粒子の面積とした。なお、磁性粒子の組成は、EPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて、WDS(波長分散型X線分光法)による点分析を行うことによって調べることができる。
【0038】
圧粉磁心の断面における500μm×500μmの正方形の少なくとも1つの視野(観察視野)の中に、次の特定積層構造を含む長辺長さ30μm、短辺長さ5μmの長方形領域が重ならずにいくつ規定されるか調べた。特定積層構造とは、
(a)複数の特定磁性粒子のうちの第1の特定磁性粒子、
(b)ガラス層と、鉄含有の磁性層と、が順に並ぶ単位が2以上繰り返した積層部分、
(c)ガラス層、
(d)複数の特定磁性粒子のうちの第1の特定磁性粒子とは異なる第2の特定磁性粒子、
が長方形領域の略長手方向にこの順に並んだ構造である。
【0039】
磁性層が屈曲している場合には、長方形領域内において、略長手方向でガラス層を挟んでいるときにそれぞれ異なる磁性層としてみた。
【0040】
3.特定磁性粒子の面積の評価方法
圧粉磁心の断面における特定磁性粒子の面積を評価した。上記特定構造の評価方法と同様に、圧粉磁心の断面の観察視野を画像解析し、特定磁性粒子(300μm以上20000μm以下の面積を有する磁性粒子)が占有する面積割合を調べた。特定磁性粒子の一部が観察視野からはみ出している場合には、はみ出している部分の面積は特定磁性粒子の占有面積に含めていない。
【0041】
4.鉄損の評価方法
得られた圧粉磁心を加工してリング形状とし、B-Hアナライザを用いて鉄損を測定した。圧粉磁心を、周波数10kHz、磁束密度10mTの条件で励磁した場合の鉄損値を測定した。評価は以下のようにした。
「A」…鉄損値が500W/kg以下
「B」…鉄損値が500W/kgより大きい
【0042】
5.特定磁性粒子のアスペクト比の評価方法
SEMの倍率300倍の反射電子像を画像解析する。任意の方向での最大長さ(観察視野において特定磁性粒子内に収まるように引くことが可能な線分(長軸)の長さ)を長軸径とする。特定磁性粒子の長軸に直交する方向での最大長さ(短軸の長さ)を短軸径とする。長軸径を短軸径で除した値をアスペクト比とする。平均アスペクト比は、観察視野の中で面積の大きい順に抽出した10個の特定磁性粒子のアスペクト比の平均値である。なお、特定磁性粒子の一部が観察視野からはみ出している場合には、その特定磁性粒子のアスペクト比を採用しない。
【0043】
6.飽和磁束密度の評価方法
飽和磁束密度は、得られた圧粉磁心をサンプルとして、VSM(振動試料型磁力計)を用いて測定した。評価は以下のようにした。
「A」…飽和磁束密度が1.0T以上
「B」…飽和磁束密度が1.0Tより小さい
【0044】
7.熱衝撃に対する耐久性の評価方法
圧粉磁心の熱衝撃に対する耐久性は、冷熱試験機を用いて評価した。室温と300℃との間でのサイクル試験を300サイクル行った。サイクル試験後の3点曲げ強度を10段階で相対評価した。数値が大きいほど熱衝撃に対する耐久性が高い。
【0045】
8.評価結果
評価結果を表1に示す。
実施例である実験例1~8は、下記要件(1)~(4)を満たしている。
・要件(1):観察視野の中で規定される長方形領域の数が3つ以上である。
・要件(2):観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が60%以上95%以下である。
・要件(3):観察視野の中に観察される特定磁性粒子のアスペクト比が1.2以上である。
・要件(4):磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上である。
【0046】
これに対して、実験例9~15は以下の要件を満たしていない。
実験例9,10では、要件(2)を満たしてない。
実験例12では、要件(3)を満たしてない。
実験例13では、要件(4)を満たしてない。
実験例14、15では、要件(1)を満たしてない。
【0047】
実施例である実験例1~13は、比較例である実験例14,15と比較して、要件(1)を満たすことで、熱衝撃に対する耐久性が高かった。実験例1~13は、特定構造10において扁平な磁性層とガラス層とが繰り返し積層される構成となっているため、熱衝撃を受けることで生じるクラックの進展を阻害したり、クラックの進展経路を長くすることができるためと考えられる。一方で、比較例14,15は、バインダー添加法を用いており、Fe粒子自体の変形が起こらなかったためと考えられる。
実施例である実験例1~8,11~13は、実施例である実験例9と比較して、要件(2)における、観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が95%以下である要件を満たすことで、鉄損値が低かった。これは、観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が95%以下となることで、Fe粒子間の絶縁性が十分に保たれ、渦電流損が増大し、鉄損も増大したことによると考えられる。また、実施例である実験例1~9は、実施例である実験例10と比較して、要件(2)における、観察視野の中に観察される特定磁性粒子の占有する面積割合が60%以上である要件を満たすことで、熱衝撃に対する耐久性が高かった。
実施例である実験例7,8は、実施例である実験例12と比較して、要件(3)を満たすことで、熱衝撃に対する耐久性が高かった。これは、アスペクト比が大きいほどクラックの進展距離が長くなるためであると考えられる。
実施例である実験例1~12、比較例である実験例14,15は、実施例である実験例13と比較して、要件(4)を満たすことで、飽和磁束密度が大きかった。これは、磁性粒子が、Fe粒子、Fe-Si粒子、及びFe-Si-Cr粒子からなる群より選択される1種以上であるためと考えられる。
【0048】
9.実施例の効果
本実施例の圧粉磁心は、熱衝撃に対する耐久性を向上できた。
【0049】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の圧粉磁心は、モーターコア、トランス、チョークコイル、ノイズ吸収体等の用途に特に好適に使用される。
【符号の説明】
【0051】
1…圧粉磁心
2…磁性粒子
4,4A~4C…特定磁性粒子
5,M1~M5…磁性層
AR…長方形領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6