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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】造粒粉末の製造方法及び造粒粉末
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/08 20060101AFI20240906BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240906BHJP
   A23C 21/06 20060101ALI20240906BHJP
   A23L 33/19 20160101ALN20240906BHJP
【FI】
A23J3/08
A23L5/00 M
A23L5/00 D
A23C21/06
A23L33/19
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020563231
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050250
(87)【国際公開番号】W WO2020137932
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018246472
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭介
(72)【発明者】
【氏名】矢野 誠恭
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336230(JP,A)
【文献】特開2018-191557(JP,A)
【文献】国際公開第2004/080475(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0255798(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J、A23L、A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質濃縮物にバインダー液を噴霧して造粒し、造粒粉末を得る工程を含み、
前記バインダー液が、ホエイ由来の脂質を含み、かつホエイの精密ろ過膜リテンテートを含む、造粒粉末の製造方法。
【請求項2】
前記精密ろ過膜リテンテートが、ホエイタンパク質単離物の製造時に生成したものである、請求項1に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項3】
前記バインダー液が、添加剤を含まない、請求項1又は2に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項4】
ホエイタンパク質濃縮物の粉末が造粒された造粒粉末であって、
ホエイタンパク質と脂質とを含み、かつホエイの精密ろ過膜リテンテートを含む、造粒粉末。
【請求項5】
前記脂質の含量が、前記造粒粉末の総質量に対し、0.5質量%以上、10質量%未満であり、
体積基準累積50%径が60μm以上である、請求項4に記載の造粒粉末。
【請求項6】
前記ホエイタンパク質の含量が、前記造粒粉末の総質量に対し、50~95質量%である、請求項4又は5に記載の造粒粉末。
【請求項7】
添加剤を含まない、請求項4~6のいずれか一項に記載の造粒粉末。
【請求項8】
雪崩角度が40~60°である、請求項4~7のいずれか一項に記載の造粒粉末。
【請求項9】
雪崩エネルギーが10~50mJ/kgである、請求項4~8のいずれか一項に記載の造粒粉末。
【請求項10】
泡立ちの評価における容積の増加率が3倍以下である、請求項4~9のいずれか一項に記載の造粒粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒粉末の製造方法及び造粒粉末に関する。
本願は、2018年12月28日に、日本に出願された特願2018-246472号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質含有粉末は、栄養補助食品等に用いられている。タンパク質含有粉末は、例えば、シェイカー等で水と混合、溶解して飲用に供される。
タンパク質含有粉末のタンパク源としてはホエイ(乳清)タンパク質が用いられることが多い。
ホエイタンパク質を含有する原料としては、ホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate)(以下、「WPC」とも記す。)が知られている。WPCは、ホエイを限外ろ過膜処理して得られるリテンテート(ホエイタンパク質の濃縮画分)を粉末化して製造される。
WPCをそのまま水と混合して溶解すると、過度の泡立ちが発生する。過度の泡立ちは、飲用時に好ましくない。
【0003】
泡立ちを抑制する技術としては、食品用のシリコーン系消泡剤を用いる方法が広く用いられている。また、レシチン等の乳化剤を消泡剤として利用することも報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第4827987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコーン系消泡剤はホエイに本来含まれない成分である。このような成分を用いることは、健康志向の消費者に配慮して出来る限り添加物を使用しないで食品を製造するという観点では望ましくない。また、レシチンは、高粘度であるため作業性が良くない、風味上好ましくない、といった問題がある。
【0006】
本発明の一態様は、ホエイに本来含まれない成分を含まずとも、水との混合時に泡立ちにくい造粒粉末及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]ホエイタンパク質濃縮物にバインダー液を噴霧して造粒し、造粒粉末を得る工程を含み、
前記バインダー液が、ホエイ由来の脂質を含む、造粒粉末の製造方法。
[2]前記ホエイ由来の脂質が、チーズホエイ由来の脂質である、[1]の造粒粉末の製造方法。
[3]前記バインダー液が、ホエイの精密ろ過膜リテンテート又は限外ろ過膜リテンテートを含む、[1]又は[2]の造粒粉末の製造方法。
[4]前記バインダー液が、ホエイの精密ろ過膜リテンテートを含む、[1]~[3]のいずれかの造粒粉末の製造方法。
[5]前記精密ろ過膜リテンテートが、ホエイタンパク質単離物の製造時に生成したものである、[4]の造粒粉末の製造方法。
[6]前記バインダー液が、添加剤を含まない、[1]~[5]のいずれかの造粒粉末の製造方法。
[7]ホエイタンパク質濃縮物の造粒粉末であって、
ホエイタンパク質と脂質とを含み、
前記脂質の含量が、前記造粒粉末の総質量に対し、0.5質量%以上、10質量%未満であり、
体積基準累積50%径が60μm以上である、造粒粉末。
[8]前記ホエイタンパク質の含量が、前記造粒粉末の総質量に対し、50~95質量%である、[7]の造粒粉末。
[9]添加剤を含まない、[7]又は[8]の造粒粉末。
[10]雪崩角度が40~60°である、[7]~[9]のいずれかの造粒粉末。
[11]雪崩エネルギーが10~50mJ/kgである、[7]~[10]のいずれかの造粒粉末。
[12]泡立ちの評価における容積の増加率が3倍以下である、[7]~[11]のいずれかの造粒粉末。
【発明の効果】
【0008】
本発明の造粒粉末の製造方法によれば、乳やWPCに本来含まれない成分を含まずとも、水との混合時に泡立ちにくい造粒粉末を製造できる。
本発明の造粒粉末は、乳やWPCに本来含まれない成分を含まずとも、水との混合時に泡立ちにくい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
添加剤は、ホエイ(乳清)に本来含まれない成分である。
脂質の含量は、レーゼ・ゴッドリーブ法により測定した値である。
ホエイタンパク質の含量は、燃焼法により測定した窒素分を表す数値に係数6.38を乗じた値である。
固形分は、「固形分(質量%)=100-水分(質量%)」で算出した値である。水分は、常圧加熱乾燥法により測定した値である。具体的には、試料を99℃の恒温器にて4時間乾燥したときの減量分((乾燥前の試料の質量(g)-乾燥後の試料の質量(g))/乾燥前の試料の質量(g)×100)を水分(質量%)とする。
チーズホエイは、チーズ製造過程で得られたホエイである。
体積基準累積50%径(以下、「D50」とも記す。)は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置で粒子径を測定して得られる累積体積分布曲線において累積体積が50%となる点の粒子径である。
体積基準累積90%径(以下、「D90」とも記す。)は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置で粒子径を測定して得られる累積体積分布曲線において累積体積が90%となる点の粒子径である。
体積基準累積10%径(以下、「D10」とも記す。)は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置で粒子径を測定して得られる累積体積分布曲線において累積体積が10%となる点の粒子径である。
ザウター平均粒径(以下、「D[3,2]」とも記す。)は、表面積で重み付けられた平均粒子径(表面積モーメント平均)を指す。D[3,2]は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定される。
De Brouckere平均粒径(以下、「D[4,3]」とも記す。)は、体積で重み付けられた平均粒子径(体積モーメント平均)を指す。D[4,3]は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定される。
安息角は、一定の高さから粉を落とした際に、崩れず安定している時の斜面と水平のなす角である。詳しい測定手順は後述する実施例に記載のとおりである。
崩潰角は、安息角に一定の衝撃を与えて崩れたときの角度である。詳しい測定手順は後述する実施例に記載のとおりである。
差角は、安息角から崩潰角を減じた値である。
雪崩エネルギー(Avalanche energy)、雪崩角度(Avalanche angle)及び表面フラクタルは、回転ドラム・画像解析方式粉体流動性測定装置を用いて測定した値である。詳しい測定手順は後述する実施例に記載のとおりである。
【0010】
<造粒粉末の製造方法>
本発明の造粒粉末の製造方法は、WPCにバインダー液を噴霧して造粒し、造粒粉末を得る工程(造粒工程)を含む。
【0011】
(バインダー液)
バインダー液は、ホエイ由来の脂質を含む。
バインダー液における「ホエイ由来の脂質」は、ホエイの脂質と同じものである。「ホエイ」とは、乳を原料として、チーズ、カゼイン、カゼインナトリウム、ヨーグルト等を製造する過程において、凝固させた固形分(カゼイン等)を取り除いて残る透明な液体部分を言う。ホエイには、ホエイタンパク質、脂質、乳糖、ミネラル(灰分)、水分等が含まれる。
バインダー液の脂質源のホエイとしては、チーズホエイ、酸ホエイ等が挙げられる。ホエイの原料乳としては、ウシ、ヒツジ、ヤギ等の哺乳動物の乳が好ましく、ウシの乳が特に好ましい。これらのホエイはいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ホエイとしては、風味や製造適性の点で、チーズホエイが好ましい。すなわち、ホエイ由来の脂質としては、チーズホエイ由来の脂質が好ましい。チーズ製造過程では、例えば、原料乳を乳酸発酵させ、凝乳酵素(レンネット)を加えてカードを形成し、カードを取り出すことが行われる。カードを取り出した後に残る液体部分がチーズホエイである。
【0012】
ホエイ由来の脂質は、典型的には、リン脂質及び中性脂肪を含む。さらに微量の糖脂質を含む。
リン脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、スフィンゴミエリン(SM)等が挙げられる。
【0013】
ホエイ由来の脂質の総質量に対するリン脂質の割合は、例えば10~40質量%、さらには10~25質量%である。ホエイ由来の脂質の総質量に対する中性脂肪の割合は、例えば50~85質量%である。ここで、リン脂質の割合及び中性脂肪の割合の和は、ホエイ由来の脂質の総質量に対して100質量%を超えない。
ホエイ由来の脂質におけるリン脂質の組成は、例えば、リン脂質の総質量に対し、PCが20~35質量%、PEが20~35質量%、PIが3~8質量%、PSが5~15質量%、PGが0~5質量%、PAが0~5質量%、LPCが0~5質量%、LPEが0~5質量%、SMが20~30質量%である。ここで、PC、PE、PI、PS、PG、PA、LPC、LPE及びSMの和は、リン脂質の総質量に対して100質量%を超えない。
【0014】
バインダー液におけるホエイ由来の脂質の含量は、バインダー液の固形分の総質量に対し、6質量%以上が好ましく、9質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましい。ホエイ由来の脂質の含量が前記下限値以上であれば、泡立ちの抑制効果がより優れる。
バインダー液におけるホエイ由来の脂質の含量は、バインダー液の固形分の総質量に対し、60質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。ホエイ由来の脂質の含量が前記上限値以下であれば、バインダー液への分散性や作業適性が良好である。
バインダー液におけるホエイ由来の脂質の含量は、例えば、バインダー液の固形分の総質量に対し、6~60質量%であってよく、9~30質量%であってよく、12~20質量%であってよく、12~15質量%であってよい。
【0015】
バインダー液は、典型的には、水を含む。
水の含量は、バインダー液の所望の固形分濃度に応じて選定される。
水の含量は、バインダー液の総質量に対し、70~99.5質量%が好ましく、75~99.5質量%がより好ましい。
【0016】
バインダー液の固形分濃度は、バインダー液の総質量に対し、0.5~30質量%が好ましく、0.5~25質量%がより好ましい。バインダー液の固形分濃度が前記範囲の下限値以上であれば、造粒工程で添加できるバインダー液由来の固形分が限られている場合には、所定量の固形分を添加するために使用できるバインダー液の量を減らすことができる。結果、工程時間や水分を乾燥させるための時間やエネルギーの短縮が可能である。バインダー液の固形分濃度が前記範囲の上限値以下であれば、バインダー液の粘度が低下し、殺菌等の作業適性が優れる。また、造粒工程で添加できるバインダー液由来の固形分が限られている場合には、所定量の固形分を添加するために使用できるバインダー液の量が増える。結果、得られる造粒粉末の溶解性が良好となる。
【0017】
バインダー液は、ホエイタンパク質、乳糖、ミネラル、その他の乳由来成分等をさらに含んでいてもよい。
ホエイタンパク質、乳糖、ミネラル及びその他の乳由来成分の合計の含量は、例えば、バインダー液の固形分の総質量に対し、40~94質量%であってよく、70~91質量%であってよく、80~88質量%であってよく、85~88質量%であってよい。ここで、ホエイ由来の脂質、ホエイタンパク質、乳糖、ミネラル、その他の乳由来成分の和は、バインダー液の固形分の総質量に対して100質量%を超えない。
【0018】
バインダー液は、健康志向の消費者への配慮から、添加剤を含まないことが好ましい。
添加剤の例としては、消泡効果を持つ乳化剤が挙げられる。かかる乳化剤の例としては、シリコーン系消泡剤、ホエイに由来しないレシチン、グリセリンエステルが挙げられる。
【0019】
バインダー液は、典型的には、ホエイ由来の脂質を含む原料を含む。粉末の原料を水に溶解してバインダー液とすることもできる。
ホエイ由来の脂質を含む原料としては、例えば、ホエイの精密ろ過膜リテンテート、ホエイの限外ろ過膜リテンテート、造粒するWPCよりも脂質含量の多いWPC、ホエイクリーム等が挙げられる。
以下、精密ろ過膜をMF、限外ろ過膜をUFとも記す。
【0020】
ホエイ由来の脂質を含む原料としては、脂質の含量が比較的多い点から、ホエイのMFリテンテート又はUFリテンテートが好ましい。
ホエイには、ホエイタンパク質、脂質(脂肪球)、乳糖、ミネラル(カルシウム、ナトリウム等)、水分等が含まれる。MFは一般に、脂質を透過せず、ホエイタンパク質、乳糖、ミネラル、水分を透過するので、ホエイをMF処理すると、脂質が濃縮されたリテンテートが得られる。UFは一般に、ホエイタンパク質及び脂質を透過せず、乳糖、ミネラル、水分を透過するので、ホエイをUF処理すると、ホエイタンパク質及び脂質が濃縮されたリテンテートが得られる。
【0021】
ホエイのMFリテンテート、UFリテンテートはそれぞれ、典型的には、以下の組成を有する。各成分の比率は、固形分の総質量に対する比率である。
ホエイのMFリテンテート:脂質6~30質量%(リン脂質2~15質量%)、ホエイタンパク質10~80質量%。
ホエイのUFリテンテート:脂質1~20質量%(リン脂質0.25~8質量%)、ホエイタンパク質10~80質量%。
ホエイのMFリテンテートの固形分濃度は、典型的には、MFリテンテートの総質量に対し、2~30質量%である。ホエイのUFリテンテートの固形分濃度は、典型的には、UFリテンテートの総質量に対し、2~30質量%である。
【0022】
ホエイのMFリテンテート又はUFリテンテートは、ホエイをMF又はUFで処理することにより調製できる。
MFの孔径は、例えば0.01μm~1μm、好ましくは0.02μm~0.6μm、より好ましくは0.05μm~0.2μm、さらに好ましくは0.1μm~0.2μmである。
UFの孔径は、例えば100nm以下であり、好ましくは1~100nmであり、より好ましくは1~10nmである。
ホエイをMF又はUFで処理する前に、ホエイを殺菌してもよい。殺菌方法としては、常法による加熱処理方法を用いることができる。加熱処理時の加熱温度と保持時間は、充分に殺菌できる条件を適宜設定すればよい。例えば、ホエイを70~140℃で2秒間~30分間加熱処理することにより殺菌できる。加熱殺菌の方式は、バッチ式、連続式いずれも可能であり、連続式においてもプレート熱交換方式、インフュージョン方式、インジェクション方式等、いずれの方式も用いることができる。
ホエイのMFリテンテート又はUFリテンテートは、そのまま、又は必要に応じて水で希釈若しくは濃縮して、バインダー液とすることができる。
バインダー液は、ホエイのMFリテンテート、その希釈液及び濃縮液、並びにホエイのUFリテンテート、その希釈液及び濃縮液のいずれか1以上からなるものであってよい。このバインダー液の好ましい固形分濃度は前記と同様である。
【0023】
ホエイ由来の脂質を含む原料としては、ホエイタンパク質単離物(Whey Protein Isolate)(以下、「WPI」とも記す。)の製造時に生成した精密ろ過膜リテンテートが好ましい。
WPIは、ホエイをMF処理し、そのパーミエイト(透過液)をUF処理し、そのリテンテートを乾燥して製造される。従来、WPIの製造時に生成したホエイのMFリテンテートは、一部は家畜への飼料用途とされているが、廃棄されることが多い。このMFリテンテートをバインダー液に用いることで、廃棄による環境への負荷低減に貢献できる。
【0024】
なお、WPC、WPIはそれぞれ、典型的には、以下の組成を有する。各成分の含量(質量%)は、WPC、WPIそれぞれの総質量に対する比率である。
WPC:脂質3~8質量%(リン脂質1.2~3.2質量%)、タンパク質34~88質量%。
WPI:脂質0.1~1質量%(リン脂質0.03~0.3質量%)、タンパク質88~95質量%。
【0025】
(WPC)
WPCとしては、市販品を用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
WPCは、例えば、ホエイのUFリテンテートを乾燥することにより製造できる。
ホエイのUFリテンテートとしては、前記したものと同様のものが挙げられる。
乾燥方法としては、噴霧乾燥法等の公知の乾燥法を適宜採用できる。乾燥温度は、例えば150~200℃である。
【0026】
WPCのD50は、例えば30~55μmである。
WPCのD90は、例えば70~105μmである。
WPCのD10は、例えば10~20μmである。
【0027】
(造粒工程)
造粒工程では、WPCにバインダー液を噴霧して造粒する。
造粒方法としては、流動層造粒法、撹拌造粒、転動造粒等の公知の造粒方法を利用でき、水への溶解性がより良好である造粒粉末が得られる点では、流動層造粒法が好ましい。
流動層造粒法は、公知の流動層造粒装置を用いて実施できる。
流動層造粒装置は、装置の下部から空気等の流体を吹き上げ、固体粒子(WPC)を浮遊(流動)状態とし、これにバインダー液を噴霧して造粒、乾燥を行う装置である。流動層造粒装置としては、市販の流動層造粒機を用いることができる。一般的には、噴霧乾燥装置に連結させ、連続的に造粒を実施する連続式流動層造粒装置や、その都度粉を入れ替えて造粒を実施するバッチ式流動層造粒装置が良く知られている。
【0028】
バインダー液の噴霧量は、バインダー液の固形分濃度、バインダー液中のホエイ由来の脂質の含量、製造する造粒粉体の所望の特性(脂質の含量、D50、水への溶解性等)等を考慮して設定すればよい。
【0029】
例えば、バインダー液の固形分濃度が、バインダー液の総質量に対し0.5~30質量%、ホエイ由来の脂質の含量が、バインダー液の固形分の総質量に対し6~60質量%である場合、バインダー液の噴霧量は、WPCの質量あたりのバインダー液の体積として、0.1~2L/kgが好ましく、0.2~1L/kgがより好ましい。バインダー液の噴霧量が前記下限値以上であれば、粒子の造粒性が高まり、流動性や水への溶解性に優れた粉末を得ることができる。バインダー液の噴霧量が前記上限値以下であれば、製造時間の短縮、及び乾燥にかかる熱量等エネルギーコストの低減が期待できる。
【0030】
乾燥条件としては、60~95℃にて1~60分が好ましい。
【0031】
造粒工程で得られる造粒粉体の特性は、例えば、後述する本発明の造粒粉体の特性と同様であってよい。
WPCのD50(μm)に対する造粒粉体のD50(μm)の割合は、150~650%が好ましく、150~500%がより好ましい。WPCのD50に対する造粒粉体のD50の割合が前記下限値以上であれば、泡立ち抑制効果がより優れ、また、充分に造粒され良好な溶解性や流動性を持つと期待できる。WPCのD50に対する造粒粉体のD50の割合が前記範囲の上限値以下であれば、粉体がかさばらず、包装性及び運搬性がより優れる。この割合は、バインダー液の噴霧量、噴霧スピード、熱風温度、熱風量等によって調整できる。
【0032】
WPCの脂質含量(質量%)に対する造粒粉末の脂質含量(質量%)の割合は、100.5~130質量%が好ましく、103~110質量%がより好ましい。造粒粉末の脂質は、WPCの脂質とバインダー液の脂質とからなる。WPCの脂質含量に対する造粒粉末の脂質含量の割合が前記範囲の下限値以上であれば、泡立ちの抑制効果がより優れる。WPCの脂質含量に対する造粒粉末の脂質含量の割合が前記範囲の上限値以下であれば、高タンパク含量を維持でき栄養食品としての適性がより優れる。この割合は、バインダー液の噴霧量によって調整できる。
【0033】
造粒工程の後、必要に応じて、冷却工程、分級工程等を行ってもよい。
【0034】
<造粒粉末>
本発明の造粒粉末(以下、「本造粒粉末」とも記す。)は、WPCの造粒粉末である。
本造粒粉末は、WPCの造粒粉末であるので、ホエイタンパク質と脂質とを含む。
【0035】
本造粒粉末のホエイタンパク質の含量は、本造粒粉末の総質量に対し、50~95質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。ホエイタンパク質の含量が前記範囲の下限値以上であれば、本造粒粉末の栄養補助食品等としての有用性が高い。ホエイタンパク質の含量が前記範囲の上限値以下であれば、脂質を充分に含有でき、水との混合、溶解時に泡立ちが生じにくい。
【0036】
本造粒粉末の脂質の含量は、本造粒粉末の総質量に対し、0.5質量%以上、10質量%未満であり、3~8質量%が好ましく、4.5~7質量%がより好ましい。脂質の含量が前記範囲の下限値以上であれば、水との混合、溶解時に泡立ちが生じにくい。脂質の含量が前記範囲の上限値以下であれば、ホエイタンパク質を充分に含有でき、本造粒粉末の栄養補助食品としての有用性が高い。
【0037】
本造粒粉末の総質量に対するホエイタンパク質と脂質との合計質量の割合は、例えば50~97質量%である。
【0038】
本造粒粉末は、ホエイタンパク質及び脂質以外に、ミネラル、乳糖、水分、その他乳由来の微量成分等をさらに含んでいてもよい。
水分含量は、本造粒粉末の総質量に対し、例えば1~10質量%である。ミネラル、乳糖、その他乳由来の微量成分の合計の含量は、本造粒粉末の総質量に対し、例えば2~49質量%である。ここで、ホエイタンパク質、脂質、水分、ミネラル、乳糖、その他乳由来の微量成分の和は、本造粒粉末の総質量に対して100質量%を超えない。
【0039】
本造粒粉末は、健康志向の消費者への配慮から、添加剤を含まないことが好ましい。
添加剤の例としては、前記したものが挙げられる。
【0040】
本造粒粉末のD50は、60μm以上であり、62μm以上がより好ましい。D50が前記下限値以上であれば、造粒粉末の粒子がより形成されており水への溶解性が優れる。
本造粒粉体のD50は、250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、160μm以下がさらに好ましく、120μm以下が特に好ましい。D50が前記上限値以下であれば、本造粒粉末の水への溶解速度、包装性や運搬性がより優れる。
本造粒粉体のD50は、例えば、60~250μmであってよく、60~200μmであってよく、60~160μmであってよく、60~120μmであってよく、62~120μmであってよい。
【0041】
本造粒粉末のD90は、110~400μmが好ましく、150~350μmがより好ましい。
本造粒粉末のD10は、20~50μmが好ましく、20~45μmがより好ましい。
D90又はD10が前記範囲の下限値以上であれば、充分に造粒されており、流動性や水への溶解性に優れ、前記範囲の上限値以下であれば、嵩高くならず、包装性や運搬性に優れる。
【0042】
本造粒粉末のD[3,2]は、30~90μmが好ましく、45~80μmがより好ましい。
本造粒粉末のD[4,3]は、60~200μmが好ましく、65~180μmがより好ましい。
【0043】
本造粒粉末の安息角は、35~55°が好ましく、40~50°がより好ましい。
本造粒粉末の崩潰角は、25~50°が好ましく、30~45°がより好ましい。
安息角又は崩潰角が、前記範囲の上限値以下の場合は、流動性に優れ、充分に造粒されていると考えられる。
本造粒粉末の差角は、5~15°が好ましく、10~15°がより好ましい。
【0044】
本造粒粉末の雪崩エネルギーは、10~50mJ/kgが好ましく、15~50mJ/kgがより好ましい。
本造粒粉末の雪崩角度は、40~60°が好ましく、45~55°がより好ましい。
本造粒粉末の表面フラクタルは、1~7が好ましく、1.5~6がより好ましい。
雪崩エネルギー、雪崩角度又は表面フラクタルが前記範囲の上限値以下の場合は、粉体の流動性がより優れる。
本造粒粉末の1つの側面として、本造粒粉末のD50は60μm以上であり、雪崩角度は40~60°である。
本造粒粉末の他の1つの側面として、本造粒粉末のD50は60μm以上であり、雪崩エネルギーは10~50mJ/kgであり、雪崩角度は40~60°である。
【0045】
本造粒粉末は、泡立ちの評価における容積の増加率が、3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましく、1.75倍以下であることがさらに好ましく、1.55倍以下であることが特に好ましく、1.5倍以下であってもよい。泡立ちの評価における容量の増加率の下限値は特に制限されないが、1.0倍以上であってもよく、1.1倍以上であってもよい。
泡立ちの評価における容積の増加率は、1.0~3倍であってよく、1.0~2倍であってよく、1.2~1.75倍であってよく、1.2~1.55倍であってよい。
ここで、泡立ちの評価における容積の増加率は、後述する実施例に記載のとおり、25℃の条件下で、造粒粉末20gと水180gを容量500mLのシェイカーに投入し、20回シェイクした後、前記シェイカーの内容液を500mLメスシリンダーに投入し、その容量V(mL)を計測し、式:増加率(倍)=[V]÷[泡立ち試験前の溶液の容量]により算出される。Vは、泡立ち試験後の泡を含めた溶液の容量である。[泡立ち試験前の溶液の容量]は、造粒粉末20gを水180gで溶解した溶液の質量(g)をその溶液の比重(mL/g)で割ることで算出した値である。造粒粉末20gを水180gで溶解した溶液の比重は、溶液の比重(実測値)1.008から、試験前の容量は、198mL(=200(g)÷1.008(mL/g))となる。溶液の比重は、常温(25℃)における値である。溶液の比重は、公知の比重計を用いて常法により測定した値が好ましい。
【0046】
本造粒粉末は、例えば、前記した本発明の造粒粉末の製造方法により製造できる。
本発明の造粒粉末の製造方法において、得られる造粒粉末の粉体特性(D50、D90、D10、D[3,2]、D[4,3]、安息角、崩潰角、差角、雪崩エネルギー、表面フラクタル、雪崩角度)は、造粒工程の条件により調整できる。例えば、バインダーの量を増加させたり熱風温度を低下させたりすると、D50は大きくなり、表面フラクタルや雪崩角度は小さくなる傾向がある。
【実施例
【0047】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において百分率は、特に断りのない限り、質量による表示である。
【0048】
<測定方法>
(ホエイタンパク質の含量)
ホエイタンパク質の含量は、燃焼法により得られた窒素量を表す数値に係数6.38をかけることにより測定した。
【0049】
(脂質の含量)
脂質の含量は、レーゼ・ゴットリーブ法により測定した。
【0050】
(リン脂質の組成)
リン脂質の組成は、薄層クロマトグラフィー測定法、又は核磁気共鳴(NMR)測定法により測定した。
【0051】
(灰分の含量)
灰分の含量は、直接灰化法により測定した。
【0052】
(炭水化物の含量)
炭水化物の含量は、「100-水分値-タンパク質含量-脂質含量-灰分含量」により算出した。
【0053】
(固形分)
固形分は、「固形分(%)=100-水分(%)」により算出した。
水分(%)は、常圧加熱乾燥法により測定した。具体的には、99℃の恒温器にて4時間乾燥後の減量分を水分値とした。
【0054】
(D50、D90、D10、D[3,2]、D[4,3])
D50、D90、D10、D[3,2]、D[4,3]は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置(マルバーン社製「マスターサイザー3000」)を用い、25℃、相対湿度40~55%の条件で測定した。
【0055】
(安息角、崩潰角、差角)
安息角及び崩潰角は、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製、型式:PT-X)を用い、25℃、相対湿度40~55%の条件で、以下の手順で測定した。
試料用ホッパーを振動幅1mmの設定で振動させ、目開き1.7mmの網、排出ロート、ノズル(内径7mm)を通し、10.5cmの高さから粉体を安息角試料台の円板上に落下させ粉体の山を作る。この条件により形成された粉体の山の角度が、パウダーテスターPT-Xによる画像解析の結果、測定値としてあらわされる。また、崩潰角はパウダーテスターPT-Xのプログラムに従い、109.7gの錘を160mmの高さから自然落下させて衝撃を加えた際の粉体の山の角度を画像解析し、測定値を算出する。
差角は、「差角=安息角-崩潰角」で算出した。
【0056】
(雪崩エネルギー、雪崩角度、表面フラクタル)
雪崩エネルギー、雪崩角度及び表面フラクタルは、回転ドラム・画像解析方式粉体流動性測定装置(マーキュリー・サイエンティフィック社製「レボリューションパウダーアナライザー」)を用い、25℃、相対湿度40~55%の条件で、以下の手順で測定した。
100mLのサンプルを計量し、付属のドラムに入れた後、当該ドラムを装置にセットし、0.3rpmのスピードで緩やかに回転させ、その間の粉体挙動を装置に付属するCCDカメラで撮影しながら雪崩が生じた前後の画像を記録、解析し、そのデータを基に各種パラメーターを算出する。雪崩エネルギーは雪崩前後の位置エネルギーの変化量を、雪崩角度は雪崩が生じる際の角度を、表面フラクタルは雪崩後の粉面の粗さを表す指標として用いる。
【0057】
<原料>
WPC:Milei GmbH社製Milei 80。その組成を表1に示す。
ホエイのMFリテンテート:チーズホエイを孔径0.2μmの精密ろ過膜で処理して得たMFリテンテートを噴霧乾燥により粉末化したもの。その組成を表1に示す。
表1中、原料組成は、原料の総質量に対する各成分の質量割合を示し、リン脂質組成は、リン脂質の総質量に対する各リン脂質の質量割合を示す。
精製ヒマワリレシチン:カーギル社製Emurpur SF。
レシチン:カーギル社製ヒマワリ由来レシチン Topcithin SF。
【0058】
【表1】
【0059】
<バインダー液の調製>
表2に示す原料を、表2に示す濃度になるように水に溶解してバインダー液1~4を調製した。各バインダー液中の脂質、タンパク質、灰分、炭水化物の含量を表2に示す。ただし、バインダー液3~4については、アセトン不溶物の値から算出した計算値(予想値)を示した。各バインダー液の残部は水である。
【0060】
【表2】
【0061】
<実施例1、比較例1、参考例A~B>
前記バインダー液の種類毎にWPCを以下の手順で造粒し、前記バインダー液1~4を用いて造粒した造粒粉末を、それぞれ比較例1、実施例1、参考例A、及び参考例Bとした。WPC600gを流動層造粒機(株式会社大川原製作所製)に投入し、表3に示すバインダー液を用い、バインダー液の噴霧速度40g/分、吹き込み熱風60℃にて、数回の中間乾燥を入れながら造粒したのち、吹き込み熱風85℃15分間の条件で乾燥し、造粒粉末を得た。噴霧するバインダー量は、バインダー由来の脂質量が凡そ同じになるように設定した。すなわち、実施例1及び比較例1の噴霧量は500g、参考例A及びBの噴霧量は120gとした。
得られた造粒粉末におけるタンパク質及び脂質の含量、リン脂質組成を表3に示す。表3中、タンパク質及び脂質の含量は、原料の総質量に対する各成分の質量割合を示し、リン脂質組成は、脂質の総質量に対する各リン脂質の質量割合を示す。
各例の造粒粉末の粉体特性を表4に示す。
各例の造粒粉末について、以下の評価を行った。結果を表4に示す。
【0062】
(溶解性の評価)
25℃の条件下で、造粒粉末20gと水180gを容量500mLのシェイカーに投入し、20回シェイクした。その後、造粒粉末の溶け残りの有無を目視で確認し、以下の基準で溶解性を評価した。
A:造粒粉末の溶け残りはなかった。
B:造粒粉末の溶け残りがあった。
【0063】
(泡立ちの評価)
前記溶解性の評価で、20回シェイクした直後に、シェイカーの内容液を500mLメスシリンダーに投入し、その容量V(mL)を計測した。[V]÷[試験前の溶液の容量]により増加率を算出した。増加率が小さいほど泡立ちが抑制されている。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
実施例1の造粒粉末は、未造粒のWPCや比較例1の造粒粉末に比べて、水と混合した時の泡立ちが抑制されていた。水への溶解性も良好であった。