(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】標本箱および標本の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 1/00 20060101AFI20240906BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20240906BHJP
G09B 23/36 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A01N1/00
G02B5/08
G09B23/36
(21)【出願番号】P 2021005196
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2021-01-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】320005501
【氏名又は名称】株式会社電通
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】日比 昭道
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】松元 麻紀子
【審判官】齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】[前編]いいね!『MOTコレクション 第2期 ただいま/はじめまして』,アートの定理[online],2019年,http://theory-of-art.blog.jp/archives/29884153.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,G09B,A47F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本箱と、観察対象の虫と、を備え、
前記標本箱は、
鏡面になっている底面と、
前記底面の上方に配置され、反射抑制フィルムを用いて構成される載置面と、を備え、
前記反射抑制フィルムは、透明な基材と、その上面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起と、を有し、
前記載置面に前記観察対象の虫が載置される、標本。
【請求項2】
前記載置面の上方に配置され、反射抑制フィルムを用いて構成される上面を備える、請求項1に記載の標本。
【請求項3】
前記載置面は、前記透明な基材の下面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起を有する、請求項
1または2に記載の標本。
【請求項4】
前記載置面には小径が設けられ、
透明な側面と、
一部が前記側面に固定され、他の一部が前記載置面を保持するように前記小径に通された糸と、を備える請求項1乃至
3のいずれかに記載の標本。
【請求項5】
前記観察対象が前記載置面に載置されると、前記観察対象の前記底面側の部分が前記底面に映って見える、請求項1乃至
4のいずれかに記載の標本。
【請求項6】
前記載置面が、透明な基材と、その上面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起と、を有することにより、前記載置面の透過率は96%以上である、請求項1乃至5のいずれかに記載の標本。
【請求項7】
鏡面になっている底面と、前記底面の上方に配置され、反射抑制フィルムを用いて構成される載置面と、を備える標本箱における前記載置面に、観察対象としての虫を針で刺すことなく載置する工程を含
み、
前記反射抑制フィルムは、透明な基材と、その上面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起と、を有する、標本の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本箱および標本の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3には、種々の標本箱が開示されている。しかし、これらの標本箱では、必ずしも観察対象の下部をクリアに観察できないことがあるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭64-22701号公報
【文献】特開2010-48902号公報
【文献】実開昭61-33069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
観察対象の下部もクリアに観察可能な標本箱およびそのような標本の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、鏡面になっている底面と、前記底面の上方に配置され、反射抑制フィルムを用いて構成される載置面と、を備え、前記載置面に観察対象が載置される、標本箱が提供される。
【0006】
前記載置の上方に配置され、反射抑制フィルムを用いて構成される上面を備えてもよい。
【0007】
前記載置面は、透明な基材と、その上面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起と、を有してもよい。
【0008】
前記載置面は、前記透明な基材の下面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起を有してもよい。
【0009】
前記載置面には小径が設けられ、透明な側面と、一部が前記側面に固定され、他の一部が前記載置面を保持するように前記小径に通された糸と、を備えてもよい。
【0010】
前記観察対象が前記載置面に載置されると、前記観察対象の前記底面側の部分が前記底面に映って見えるのが望ましい。
【0011】
前記載置面が、透明な基材と、その上面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起と、を有することにより、前記載置面の透過率は96%以上であるのが望ましい。
【0012】
前記載置面が、前記透明な基材の下面に設けられた反射を抑制するための複数の微細な突起を有することにより、前記載置面の透過率は99%以上であるのがより望ましい。
【0013】
本発明の別の態様によれば、上記の標本箱における前記載置面に、前記観察対象としての虫を針で刺すことなく載置する工程を含む、標本の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】載置面12を底面11の上方に固定する手法の一例を説明する図。
【
図4】
図1の標本箱1に観察対象としての昆虫2を載置した標本を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0016】
図1は、一実施形態に係る標本箱1の概略斜視図である。標本箱1は、底面11と、載置面12と、上面13と、側面14とを備えている。
【0017】
底面11は、例えば長辺が9cm、短辺が約6cm概略長方形であり、その上面が鏡面になっている。
【0018】
載置面12は、底面11とほぼ同一形状であり、その上方に配置される。底面11と載置面12との間隔H1は、例えば約3cmである。載置面12上に昆虫などの観察対象が載置される。本実施形態の特徴の1つとして、載置面12は反射抑制フィルムを用いて構成され、載置面12の透過率(透明度)が極めて高い。以下、反射抑制フィルムを用いた載置面12について説明する。
【0019】
図2は、載置面12の概略断面図である。載置面12を構成する反射抑制フィルムは、蛾の目(モスアイ)の反射率が低いことに着目した生物模倣材料であり、基材121と、多数の微細な突起122a,122bとを有している。
【0020】
基材121は、例えばPET(PolyEthylene Terephthalate)あるいはTAC(TriAcetylCellulose)といった樹脂製の透明なフィルムである。
【0021】
突起122aは、例えば2P(PhotoPolimer)といった光硬化樹脂製であり、蛾の目を模した構造で基材121の上面から上向きに突出している。各突起122aの高さh1は、例えば約200nmである。各突起122aの基材121の上面からの高さh2は、例えば約数μmである。突起122aどうしの間隔dは可視光以下であり、例えば約100nmである。
【0022】
突起122aは基材121に近いほど水平方向断面が大きな概略円錐形状である。よって、基材121から上方に離れるにつれて屈折率が徐々に小さくなる。これにより、載置面12の上方からの光に対する載置面12の反射率を小さくでき、結果として(突起121を設けない場合に比べて)透過率を高くできる。
【0023】
また、突起122aと同様の突起122bが基材121の下面から下向きに突出している。これにより載置面12の反射率をさらに小さくすることができ、結果として(突起121bを設けない場合に比べて)透過率をさらに高くできる。
【0024】
このような載置面12として、例えば三菱ケミカル社製のモスアイ型高機能フィルム「モスマイト」(登録商標)を用いることができる。「モスマイト」を用いることで、基材121の上面にのみ突起122aが設けられた構成における載置面12の透過率を96%以上とすることができる。また、基材121の上面および下面にそれぞれ突起122a,122bが設けられた構成における載置面12の透過率を99%以上とすることができる。
【0025】
なお、載置面12は、アクリルなどの透明板を基材とし、その上面および/または下面に反射抑制フィルムを貼り付けて構成してもよい。
【0026】
図1に戻り、上面13は、載置面12とほぼ同一形状であり、その上方に配置される。載置面12と上面13との間隔H2は、例えば約3cmである。上面13も反射抑制フィルムから構成されるのが望ましい。
【0027】
側面14は、底面11、載置面12および上面13のそれぞれの縁と接しており、これらの周囲を覆っている。側面14はガラスやアクリル製の透明なケースである。
【0028】
なお、載置面12は適宜の手法で底面11の上方に固定されればよく、その一例を
図3に示す。同図では、載置面12と、その1つの縁に接する側面14の一部のみを描いている。載置面12には、側面14の近傍に小径123が形成されている。そして、標本箱1は固定部材としての糸15を備える。糸15は例えば極細で透明な釣り糸である。糸15の一部は、例えば不図示の透明テープなどによって側面14に固定される。糸15の他の一部は、載置面12を保持するよう、小径123を通って結ばれている。
【0029】
このような糸15を載置面12の対向する2つの縁近傍あるいは4つの縁の近傍に設けることで、載置面12を底面11の上方に固定できる。その他、透明テープによって載置面12と側面14とを直接貼り付けることによって載置面12を固定してもよい。あるいは、側面14に凹部やスリットを設け、そこに載置面12を差し込んで固定してもよい。
【0030】
図4は、
図1の標本箱1に観察対象としての昆虫2を載置した標本を模式的に示す図である。このような標本は昆虫2を単に載置面12上に載置することによって作られる。その際、昆虫を針で刺す必要はない。よって、本標本は昆虫を傷つけずに保管できる(優れた保管性)。また、針を刺す行為が不要なので、道徳的および教育的も良い(優れた教育性)。
【0031】
また、図示のように、載置面12の透過率が極めて高いことから、あたかも昆虫2が浮いているように見え、観察者は臨場感・リアル感を味わうことができる(優れた臨場性)。
【0032】
さらに、底面11が鏡面になっていること、底面11の上方に配置される載置面12上に昆虫2が載置されること、載置面12および上面13の透過率が極めて高いことから、底面11には昆虫2の腹部が映って見える。すなわち、本標本は昆虫の背中側(上面13側)のみならず腹部側(底面11側)もクリアに観察できる(優れた観察性)。
【0033】
なお、本標本箱1に載置する観察対象は、昆虫などの虫の他、フィギュアや指輪等の装飾品であってもよく、特に制限はない。
【0034】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0035】
1 標本箱
11 底面
12 載置面
121 基材
122a,122b 突起
123 小径
13 上面
14 側面
2 昆虫