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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021044215
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143607
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】小澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】下川 弘宣
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-208725(JP,A)
【文献】特開2015-178988(JP,A)
【文献】特開2002-071626(JP,A)
【文献】特開2019-020232(JP,A)
【文献】国際公開第2005/008233(WO,A1)
【文献】特開2000-121599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも固体電解質材料を用いて構成されたセンサ素子(2)と、
前記センサ素子が挿通された挿通孔(420)を有する、セラミックス材料によって構成された補助材(42)と、
前記補助材が配置されたハウジング孔(50)を有する、金属材料によって構成されたハウジング(5A,5B)と、
前記ハウジング孔の残部に充填され、セラミックス、ガラス、結晶化ガラスのうちの少なくとも一種の粒子状材料(410)が結合された粒状物結合体(411)によって構成された充填材(41)と
前記センサ素子の先端検知部(21)を覆う先端側カバー(45A,45B)と、を備え、
前記ハウジングは、前記ハウジング孔が形成されたインナーハウジング(5A)と、前記インナーハウジングの外周側に装着され、前記インナーハウジングとの間に前記先端側カバーを挟み込み、かつ外周に配管取り付けのためのおねじ部(541)が形成されたアウターハウジング(5B)とを有しており、
前記インナーハウジングから前記充填材には、前記充填材の線膨張係数と前記ハウジングの線膨張係数との差に基づく熱収縮量の差によって、前記センサ素子の軸線方向(L)に直交する横方向(W)への残留応力(P)が加わっている状態にあり、
前記残留応力は、前記ハウジング及び前記充填材が、前記充填材が溶融する温度よりも低い800℃に加熱された状態においても維持される、ガスセンサ(1)。
【請求項2】
前記センサ素子は、貴金属材料を含有する電極(311,312)が設けられるとともに固体電解質材料からなる固体電解質体(31)と、導電性材料からなる発熱体(34)が埋設されるとともに金属酸化物からなる絶縁体(33A,33B)との積層体によって構成されており、
前記センサ素子と前記充填材とにおける、線膨張係数の差は±30%以下である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記充填材を構成する前記粒状物結合体は、結晶構造を有する結晶化ガラスによって構成されており、かつ、結晶格子(K)における前記横方向の格子面間隔(K2)が結晶格子における前記軸線方向の格子面間隔よりも小さい、請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記ハウジングは、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼又はニッケル合金によって構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記ハウジング孔における、前記充填材と接触する孔部位の表面粗さRaは、6.4μm未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
少なくとも固体電解質材料を用いて構成されたセンサ素子(2)と、
前記センサ素子が挿通された挿通孔(420)を有する、セラミックス材料によって構成された補助材(42)と、
前記補助材が配置されたハウジング孔(50)を有する、金属材料によって構成されたハウジング(5A,5B)と、
前記ハウジング孔の残部に充填され、セラミックス、ガラス、結晶化ガラスのうちの少なくとも一種の粒子状材料(410)が結合された粒状物結合体(411)によって構成された充填材(41)と、
前記センサ素子の先端検知部(21)を覆う先端側カバー(45A,45B)と、を備え、
前記ハウジングは、前記ハウジング孔が形成されたインナーハウジング(5A)と、前記インナーハウジングの外周側に装着され、前記インナーハウジングとの間に前記先端側カバーを挟み込み、かつ外周に配管取り付けのためのおねじ部(541)が形成されたアウターハウジング(5B)とを有しており、
前記インナーハウジングから前記充填材には、前記センサ素子の軸線方向(L)に直交する横方向(W)への残留応力(P)が加わっている、ガスセンサ(1)。
【請求項7】
前記インナーハウジングは、14質量%以上のCrを含有するフェライト系ステンレス鋼によって構成されている、請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記インナーハウジングにおける、前記充填材に前記横方向から対向する部位の厚みは、1mm以上である、請求項6又は7に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、内燃機関の排気管に排気される排ガス等を検出対象ガスとし、検出対象ガスにおける酸素の濃度、特定ガスの濃度、空燃比等を検出するために用いられる。ガスセンサは、センサ素子、センサ素子が挿通された挿通孔を有する碍子(補助材)、碍子が配置されたハウジング孔を有するハウジング等を備える。また、板形状の固体電解質体を有する積層タイプのセンサ素子は、ガラス粒子、セラミック粒子等の粒子状材料が結合された充填材によって、碍子を介して又は直接、ハウジングに保持されている。
【0003】
充填材は、ハウジングへのセンサ素子の保持機能を有する他に、センサ素子の検知部に接触する排ガスが、ガスセンサ内へ漏洩することを阻止するための封止機能を有する。充填材に封止機能を持たせるために、種々の工夫がなされている。例えば、特許文献1のガスセンサにおいては、素子体がシール材を介してハウジングに保持されており、シール材は無機粉末及びガラス体によって構成されている。また、ガラス体は、径方向の外側に向かって熱膨張係数が段階的に大きくなる複数のガラス層によって構成されている。この構成により、高温環境下におけるシール材の気密性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-99184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスセンサは、排気管を流れる排ガスによって、最大で800℃近くの高温に加熱される。このとき、特許文献1のガスセンサにおいては、ハウジングと、ハウジングに隣接するガラス層との間の線膨張係数の差を小さくして、シール材による気密性を確保している。しかし、ガスセンサにおける充填材による気密性を、より適切に確保するためには、更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、ガスセンサの使用時において、充填材によるガスセンサの気密性を、より適切に確保することができるガスセンサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
少なくとも固体電解質材料を用いて構成されたセンサ素子(2)と、
前記センサ素子が挿通された挿通孔(420)を有する、セラミックス材料によって構成された補助材(42)と、
前記補助材が配置されたハウジング孔(50)を有する、金属材料によって構成されたハウジング(5A,5B)と、
前記ハウジング孔の残部に充填され、セラミックス、ガラス、結晶化ガラスのうちの少なくとも一種の粒子状材料(410)が結合された粒状物結合体(411)によって構成された充填材(41)と
前記センサ素子の先端検知部(21)を覆う先端側カバー(45A,45B)と、を備え、
前記ハウジングは、前記ハウジング孔が形成されたインナーハウジング(5A)と、前記インナーハウジングの外周側に装着され、前記インナーハウジングとの間に前記先端側カバーを挟み込み、かつ外周に配管取り付けのためのおねじ部(541)が形成されたアウターハウジング(5B)とを有しており、
前記インナーハウジングから前記充填材には、前記充填材の線膨張係数と前記ハウジングの線膨張係数との差に基づく熱収縮量の差によって、前記センサ素子の軸線方向(L)に直交する横方向(W)への残留応力(P)が加わっている状態にあり、
前記残留応力は、前記ハウジング及び前記充填材が、前記充填材が溶融する温度よりも低い800℃に加熱された状態においても維持される、ガスセンサ(1)にある。
また、本発明の他の態様は、
少なくとも固体電解質材料を用いて構成されたセンサ素子(2)と、
前記センサ素子が挿通された挿通孔(420)を有する、セラミックス材料によって構成された補助材(42)と、
前記補助材が配置されたハウジング孔(50)を有する、金属材料によって構成されたハウジング(5A,5B)と、
前記ハウジング孔の残部に充填され、セラミックス、ガラス、結晶化ガラスのうちの少なくとも一種の粒子状材料(410)が結合された粒状物結合体(411)によって構成された充填材(41)と、
前記センサ素子の先端検知部(21)を覆う先端側カバー(45A,45B)と、を備え、
前記ハウジングは、前記ハウジング孔が形成されたインナーハウジング(5A)と、前記インナーハウジングの外周側に装着され、前記インナーハウジングとの間に前記先端側カバーを挟み込み、かつ外周に配管取り付けのためのおねじ部(541)が形成されたアウターハウジング(5B)とを有しており、
前記インナーハウジングから前記充填材には、前記センサ素子の軸線方向(L)に直交する横方向(W)への残留応力(P)が加わっている、ガスセンサ(1)にある。
【0008】
本発明の参考態様は、
少なくとも固体電解質材料を用いて構成されたセンサ素子(2)と、
前記センサ素子が挿通された挿通孔(420)を有する、セラミックス材料によって構成された補助材(42)と、
前記補助材が配置されたハウジング孔(50)を有する、金属材料によって構成されたハウジング(5A,5B)と、
前記ハウジング孔の残部に充填され、セラミックス、ガラス、結晶化ガラスのうちの少なくとも一種の粒子状材料(410)が結合された粒状物結合体(411)によって構成された充填材(41)と、を備えるガスセンサ(1)の製造方法であって、
前記センサ素子、前記補助材、前記ハウジング及び前記粒子状材料が一体化された中間体(11)を加熱し、前記中間体における、前記粒子状材料を溶融させて前記粒状物結合体とする加熱工程と、
前記中間体を冷却し、前記ハウジングが加熱された状態から冷却されるときに、前記ハウジングの熱収縮量が前記粒状物結合体の熱収縮量よりも大きいことによって、前記ハウジングから前記粒状物結合体に、前記センサ素子の軸線方向(L)に直交する横方向(W)への残留応力(P)を生じさせる冷却工程と、を含み、
前記加熱工程においては、前記中間体を、前記粒子状材料が溶融する温度よりも低い所定の温度に加熱する第1段階目の加熱と、前記中間体が配置された環境下の酸素の濃度を低下させるとともに、前記中間体を、前記粒子状材料が溶融する温度以上に加熱する第2段階目の加熱とを行う、ガスセンサの製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
(一態様のガスセンサ)
前記一態様のガスセンサにおいては、充填材及びハウジングの用い方に工夫をしている。具体的には、ハウジングから充填材には、センサ素子の軸線方向に直交する横方向への残留応力が加わっている。換言すれば、充填材を構成する粒状物結合体は、ハウジングから加わる残留応力によって圧縮された状態にある。そして、ガスセンサの使用時において、この残留応力が粒状物結合体に加わる状態が維持されることにより、充填材によるガスセンサの気密性を、より適切に確保することができる。また、ガスセンサの使用時において、センサ素子は、残留応力を受けた充填材を介してハウジングに保持される。
【0010】
前記一態様のガスセンサによれば、ガスセンサの使用時において、充填材によるガスセンサの気密性を、より適切に確保することができる。
【0011】
参考態様のガスセンサの製造方法)
前記ガスセンサの製造方法においては、加熱工程及び冷却工程を行うことによって、ハウジングから粒子状材料に、センサ素子の軸線方向に直交する横方向への残留応力を生じさせる。具体的には、加熱工程においては、中間体におけるハウジングが加熱によって膨張しており、このハウジングのハウジング孔の残部に粒子状材料が配置されることにより、より多くの粒子状材料がハウジング孔の残部に配置される。そして、粒子状材料が加熱されて溶融する。
【0012】
次いで、冷却工程においては、粒子状材料がハウジング孔の残部に配置された中間体が冷却される。このとき、ハウジングの収縮量が粒子状材料の収縮量よりも大きいことによって、ハウジングから粒子状材料に、センサ素子の軸線方向に直交する横方向への残留応力が生じる。これにより、粒子状材料が粒状物結合体となって、ガスセンサが製造される。その後、ガスセンサの使用時において、残留応力が粒状物結合体に加わる状態が維持されることにより、充填材によるガスセンサの気密性を、より適切に確保することができる。
【0013】
前記参考態様のガスセンサの製造方法によれば、使用時において充填材による気密性を、より適切に確保することができるガスセンサが得られる。
【0014】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態にかかる、ガスセンサの断面を示す説明図である。
図2図2は、実施形態にかかる、ガスセンサの中間体を拡大して示す説明図である。
図3図3は、実施形態にかかる、図2のIII-III断面を示す説明図である。
図4図4は、実施形態にかかる、センサ素子の断面を示す説明図である。
図5図5は、実施形態にかかる、図4のV-V断面を示す説明図である。
図6図6は、実施形態にかかる、図4のVI-VI断面を示す説明図である。
図7図7は、実施形態にかかる、フェライト系ステンレス鋼が、Crを14質量%含有する場合とCrを19質量%含有する場合とについて、応力と歪との関係を示すグラフである。
図8図8は、実施形態にかかる、フェライト系ステンレス鋼が、Crを10質量%、14質量%、19質量%、20質量%含有する場合について、温度と耐力との関係を示すグラフである。
図9図9は、実施形態にかかる、インナーハウジングがCrを12質量%含有する場合について、インナーハウジングの表面を撮影した写真である。
図10図10は、実施形態にかかる、インナーハウジングがCrを12質量%含有する場合について、インナーハウジングが充填材と接触する部位の断面を撮影した写真である。
図11図11は、実施形態にかかる、インナーハウジングがCrを16質量%含有する場合について、インナーハウジングの表面を撮影した写真である。
図12図12は、実施形態にかかる、インナーハウジングがCrを16質量%含有する場合について、インナーハウジングが充填材と接触する部位の断面を撮影した写真である。
図13図13は、実施形態にかかる、インナーハウジングのCr含有量と、充填材におけるガスリーク量との関係を示すグラフである。
図14図14は、実施形態にかかる、インナーハウジングのハウジング孔の十点平均粗さと、充填材におけるガスリーク量との関係を示すグラフである。
図15図15は、実施形態にかかる、インナーハウジングの厚みと、充填材におけるガスリーク量との関係を示すグラフである。
図16図16は、実施形態にかかる、充填材を構成する粒状物結合体の断面を模式的に示す説明図である。
図17図17は、実施形態にかかる、インナーハウジングと充填材の熱収縮量の差と、充填材におけるガスリーク量との関係を示すグラフである。
図18図18は、実施形態にかかる、センサ素子と充填材の熱収縮量の差と、充填材におけるガスリーク量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前述したガスセンサにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態>
本形態のガスセンサ1は、図1に示すように、センサ素子2、補助材42、ハウジング5A,5B及び充填材41を備える。センサ素子2は、少なくとも固体電解質材料を用いて構成されている。補助材42は、セラミックス材料によって構成されており、センサ素子2が挿通された挿通孔420を有する。ハウジング5A,5Bは、金属材料によって構成されており、補助材42が配置されたハウジング孔50を有する。充填材41は、セラミックス、ガラス、結晶化ガラスのうちの少なくとも一種の粒子状材料410が結合された粒状物結合体411によって構成されており、ハウジング孔50の残部に充填されている。図2及び図3に示すように、インナーハウジング5Aから充填材41には、センサ素子2の軸線方向Lに直交する横方向Wへの残留応力Pが加わっている。
【0017】
以下に、本形態のガスセンサ1について詳説する。
(ガスセンサ1)
図1に示すように、ガスセンサ1は、車両の内燃機関(エンジン)の排気管7の取付口71に配置され、排気管7を流れる排ガスGを検出対象ガスとして、検出対象ガスにおける酸素濃度、特定ガス濃度等を検出するために用いられる。ガスセンサ1は、排ガスGにおける酸素濃度、未燃ガス濃度等に基づいて、内燃機関における空燃比を求める空燃比センサ(A/Fセンサ)として用いることができる。空燃比センサは、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が多い燃料リッチの状態から、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が少ない燃料リーンの状態まで定量的に連続して空燃比を検出することができるものである。
【0018】
排気管7には、排ガスG中の有害物質を浄化するための触媒が配置されており、ガスセンサ1は、排気管7における排ガスGの流れ方向において、触媒の上流側又は下流側のいずれに配置してもよい。また、ガスセンサ1は、排ガスGを利用して内燃機関が吸入する空気の密度を高める過給機の吸入側の配管に配置してもよい。また、ガスセンサ1を配置する配管は、内燃機関から排気管7に排気される排ガスGの一部を、内燃機関の吸気管に再循環させる排気再循環機構における配管としてもよい。
【0019】
(センサ素子2)
図4図6に示すように、センサ素子2は、貴金属材料を含有する電極311,312が設けられるとともに固体電解質材料からなる固体電解質体31と、導電性材料からなる発熱体34が埋設されるとともに金属酸化物からなる絶縁体33A,33Bとの積層体によって構成されている。本形態のセンサ素子2は、長尺の長方形状に形成されており、固体電解質体31、排気電極311及び大気電極312、第1絶縁体33A、第2絶縁体33B、ガス室35、大気ダクト36及び発熱体34を備える。センサ素子2は、固体電解質体31に、各絶縁体33A,33B及び発熱体34が積層された積層タイプのものである。
【0020】
本形態において、センサ素子2の軸線方向Lとは、センサ素子2が長尺形状に延びる方向のことをいう。また、センサ素子2の横方向Wとは、軸線方向Lに直交する方向であって、ハウジング5A,5Bの中心軸線を中心として広がる径方向Wのことをいう。横方向Wにおける、固体電解質体31と各絶縁体33A,33Bとが積層された方向を、積層方向Dという。また、センサ素子2の軸線方向Lにおいて、排ガスGに晒される側を先端側L1といい、先端側L1の反対側を基端側L2という。ガスセンサ1においても、センサ素子2の軸線方向Lと同じ方向のことを軸線方向Lという。
【0021】
(固体電解質体31、排気電極311及び大気電極312)
図4図6に示すように、固体電解質体31は、所定の活性温度において、酸素イオン(O2-)の伝導性を有するものである。固体電解質体31の第1表面301には、排ガスGに晒される排気電極311が設けられており、固体電解質体31の第2表面302には、大気Aに晒される大気電極312が設けられている。排気電極311と大気電極312とは、センサ素子2の軸線方向Lの、排ガスGに晒される先端側L1の部位において、固体電解質体31を介して積層方向Dに重なる位置に配置されている。センサ素子2の軸線方向Lの先端側L1の部位には、排気電極311及び大気電極312と、これらの電極311,312の間に挟まれた固体電解質体31の部分とによる先端検知部21が形成されている。第1絶縁体33Aは、固体電解質体31の第1表面301に積層されており、第2絶縁体33Bは、固体電解質体31の第2表面302に積層されている。
【0022】
固体電解質体31は、ジルコニア系酸化物からなり、ジルコニアを主成分とし(50質量%以上含有し)、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素によってジルコニアの一部を置換させた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアからなる。固体電解質体31を構成するジルコニアの一部は、イットリア、スカンジア又はカルシアによって置換される。
【0023】
排気電極311及び大気電極312は、酸素に対する触媒活性を示す貴金属としての白金、及び固体電解質体31との共材としてのジルコニア系酸化物を含有している。図4に示すように、排気電極311及び大気電極312には、これらの電極311,312をガスセンサ1の外部と電気接続するための電極リード部313が接続されている。電極リード部313は、センサ素子2の軸線方向Lの基端側L2の部位まで引き出されている。電極リード部313の軸線方向Lの基端側L2の端部には、端子接続部22が形成されている。
【0024】
(ガス室35)
図4及び図6に示すように、固体電解質体31の第1表面301には、第1絶縁体33Aと固体電解質体31とに囲まれたガス室35が隣接して形成されている。ガス室35は、第1絶縁体33Aの軸線方向Lの先端側L1の部位において、排気電極311を収容する位置に形成されている。ガス室35は、第1絶縁体33Aと拡散抵抗部32と固体電解質体31とによって閉じられた空間部として形成されている。排気管7内を流れる排ガスGは、拡散抵抗部32を通過してガス室35内に導入される。
【0025】
(拡散抵抗部32)
図4に示すように、本形態の拡散抵抗部(ガス導入部)32は、ガス室35の軸線方向Lの先端側L1に隣接して設けられている。拡散抵抗部32は、第1絶縁体33Aにおいて、ガス室35の軸線方向Lの先端側L1に隣接して開口された導入口内に、酸化アルミニウム等の金属酸化物の多孔質体を配置することによって形成されている。ガス室35に導入される排ガスGの拡散速度(流量)は、排ガスGが拡散抵抗部32における多孔質体の気孔を通過する速度が制限されることによって決定される。
【0026】
(大気ダクト36)
図4図6に示すように、固体電解質体31の第2表面302には、第2絶縁体33Bと固体電解質体31とに囲まれ、大気Aが導入される大気ダクト36が隣接して形成されている。大気ダクト36は、第2絶縁体33Bにおける、大気電極312を収容する軸線方向Lの部位から、センサ素子2の軸線方向Lにおける基端位置まで形成されている。
【0027】
(各絶縁体33A,33B)
図4図6に示すように、第1絶縁体33Aは、ガス室35を形成するものであり、第2絶縁体33Bは、大気ダクト36を形成するとともに発熱体34を埋設するものである。第1絶縁体33A及び第2絶縁体33Bは、アルミナ(酸化アルミニウム)等の金属酸化物によって形成されている。各絶縁体33A,33Bは、排ガスG又は大気Aである気体が透過することができない緻密体として形成されている。
【0028】
(発熱体34)
図4及び図5に示すように、発熱体34は、大気ダクト36を形成する第2絶縁体33B内に埋設されており、通電によって発熱する発熱部341と、発熱部341の、軸線方向Lの基端側L2に繋がる発熱体リード部342とを有する。発熱部341は、固体電解質体31と各絶縁体33A,33Bとの積層方向Dにおいて、少なくとも一部が排気電極311及び大気電極312に重なる位置に配置されている。発熱体34は、導電性を有する金属材料によって構成されている。発熱体リード部342の軸線方向Lの基端側L2の端部には、端子接続部22が形成されている。
【0029】
(表面保護層37)
図1に示すように、センサ素子2の軸線方向Lの先端側L1の部位には、先端検知部21を覆う表面保護層37が形成されている。表面保護層37は、排ガスGが通過可能な気孔を有するセラミックス材料としての、互いに結合された複数のセラミックス粒子によって構成されている。
【0030】
(センサ素子2の他の構成)
図示は省略するが、センサ素子2は、1つの固体電解質体31を有するものに限られず、2つ以上の固体電解質体31を有するものとしてもよい。固体電解質体31に設けられる電極311,312は、排気電極311及び大気電極312の一対のものだけに限られず、複数組の電極としてもよい。1つ又は複数の固体電解質体31に複数組の電極が設けられている場合には、発熱体34の発熱部341は、複数組の電極に積層方向Dから対向する位置に設けることができる。
【0031】
ガスセンサ1は、センサ素子2、補助材42、ハウジング5A,5B及び充填材41の他に、先端側カバー45A,45B、基端側カバー46A,46B、接触部材432、接点端子44、ブッシュ47、リード線48等を備える。
【0032】
(ハウジング5A,5B)
図1に示すように、ハウジング5A,5Bは、ガスセンサ1を排気管7の取付口71に締め付けるために用いられる。本形態のハウジング5A,5Bは、ハウジング孔50が形成されたインナーハウジング5Aと、インナーハウジング5Aの外周側に装着されたアウターハウジング5Bとの2部品によって構成されている。インナーハウジング5A及びアウターハウジング5Bは、いずれも筒形状に形成されており、いずれも金属としてのステンレス鋼によって構成されている。
【0033】
本形態のインナーハウジング5A及びアウターハウジング5Bは、フェライト系ステンレス鋼によって構成されている。この構成により、ハウジング5A,5Bの耐久性を確保するとともに、インナーハウジング5Aから充填材41への圧縮応力Pを適切に作用させることができる。インナーハウジング5A及びアウターハウジング5Bは、オーステナイト系ステンレス鋼又はニッケル合金によって構成してもよい。ニッケル合金には、ニッケルと他の金属との合金としてのインコネル(登録商標)等がある。
【0034】
本形態のインナーハウジング5Aは、SUS430(JIS)等として表される、14質量%以上のCr(クロム)を含有するフェライト系ステンレス鋼によって構成されている。この構成により、インナーハウジング5Aが塑性変形しにくくなり、かつインナーハウジング5Aに酸化膜が形成されにくくすることができる。
【0035】
インナーハウジング5Aを構成するフェライト系ステンレス鋼は、Cr以外にも、C(炭素)、Mn(マンガン)、P(リン)、S(硫黄)、Si(ケイ素)等を含有する。インナーハウジング5AにおけるCrの含有量は24質量%以下である。Crの含有量が24質量%超過の場合には、インナーハウジング5Aを成形する冷間鍛造等の鍛造性が悪化するおそれがある。また、インナーハウジング5Aを構成するフェライト系ステンレス鋼は、Nb(ニオブ)、N(窒素)等を含有していてもよい。
【0036】
図7には、フェライト系ステンレス鋼が、Crを14質量%含有する場合とCrを19質量%含有する場合とについて、応力[MPa]と歪[%]との関係を示す。図7の応力-歪曲線においては、歪が小さい範囲に弾性変形領域R1が生じ、弾性変形領域R1よりも歪が大きい範囲に塑性変形領域R2が生じる。Crを14質量%含有する場合に比べて、Crを19質量%含有する場合には、弾性変形領域R1が拡大する。弾性変形領域R1が拡大すると、ガスセンサ1の製造時に、インナーハウジング5Aから粒子状材料410に加わる圧縮応力Pを、より適切に作用させることができる。
【0037】
インナーハウジング5A及び粒子状材料410が熱収縮するときには、インナーハウジング5Aから粒子状材料410に圧縮応力Pが加わるとともに、粒子状材料410からインナーハウジング5Aには引張応力が加わる。そのため、インナーハウジング5Aの耐力を高めるためには、インナーハウジング5Aが塑性変形に至るまでの弾性変形量を多く確保することが有効である。そのために、インナーハウジング5AにおけるCrの含有量を増加させることにより、インナーハウジング5Aの弾性変形領域R1を拡大させ、インナーハウジング5Aが塑性変形しにくくすることができる。
【0038】
図8には、フェライト系ステンレス鋼が、Crを10質量%、14質量%、19質量%、20質量%含有する場合について、温度[℃]と耐力[MPa]との関係を示す。フェライト系ステンレス鋼の全般において、Crの含有量に拘わらず、温度が高くなるほど耐力が低下する関係がある。また、フェライト系ステンレス鋼の全般において、Crの含有量が多くなるほど耐力が上昇する関係がある。そのため、特に、インナーハウジング5Aを構成するフライト系ステンレス鋼のCrの含有量を14質量%以上にすることにより、インナーハウジング5Aの耐力が上昇し、インナーハウジング5Aが塑性変形しにくくすることができる。
【0039】
インナーハウジング5Aから充填材41(粒状物結合体411)に作用する残留応力(圧縮応力)Pは、インナーハウジング5A及び粒子状材料410を加熱した後に冷却する過程において生じさせる。インナーハウジング5Aが1000℃程度に加熱されるときには、インナーハウジング5Aの表面に酸化膜(酸化スケール)が形成される。酸化膜は、表面に凹凸を生じさせる状態で形成され、インナーハウジング5Aの表面粗さを粗くする。
【0040】
図9には、インナーハウジング5AがCrを12質量%含有する場合について、インナーハウジング5Aの表面を撮影した写真を示す。図10には、インナーハウジング5AがCrを12質量%含有する場合について、インナーハウジング5Aが充填材41と接触する部位の断面を撮影した写真を示す。図9及び図10において、Crの含有量が12質量%である場合には、インナーハウジング5Aのハウジング孔50の表面に形成された酸化膜Mの表面粗さが大きい(粗い)ことが分かる。
【0041】
図11には、インナーハウジング5AがCrを16質量%含有する場合について、インナーハウジング5Aの表面を撮影した写真を示す。図12には、インナーハウジング5AがCrを16質量%含有する場合について、インナーハウジング5Aが充填材41と接触する部位の断面を撮影した写真を示す。図11及び図12において、Crの含有量が16質量%である場合には、インナーハウジング5Aのハウジング孔50の表面に形成された酸化膜Mの表面粗さが、Crの含有量が14質量%の場合に比べて小さい(細かい)ことが分かる。
【0042】
ハウジング孔50の表面に形成された酸化膜の表面粗さが粗い場合には、酸化膜の形成部位が、充填材41による排ガスGの封止効果を低減させるための、排ガスGのリーク経路を形成する。この場合には、インナーハウジング5Aから充填材41に加わる圧縮応力Pによる、排ガスGの封止効果が得られにくくなる。そのため、充填材41による排ガスGの封止効果を得るためにも、インナーハウジング5AにおけるCrの含有量は14質量%以上であることが好ましい。
【0043】
図13には、インナーハウジング5AのCr含有量[質量%]と、充填材41におけるガスリーク量[cc/min]との関係を示す。ガスリーク量は、900℃であって0.4MPaの疑似排ガスとしての気体がセンサ素子2に接触する際に、先端側カバー45A,45B内から基端側カバー46A,46B内へリークする可能性がある排ガスGの量を測定した結果を示す。充填材41の温度は約700℃になることを想定している。
【0044】
図13において、Cr含有量が14質量%未満になると、ガスリーク量が増加することが分かる。Cr含有量が14質量%未満である場合には、ハウジング孔50に形成された酸化膜の表面が粗く、ハウジング孔50と充填材41との間にリーク経路が形成されるためであると考える。
【0045】
インナーハウジング5Aのハウジング孔50における、充填材41と接触する孔部位の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、6.4μm未満である。この孔部位の表面粗さRaが6.4μm以上に粗いと、充填材41を構成する粒状物結合体411に局所的に大きな残留応力Pが作用し、粒状物結合体411が損傷するおそれがある。
【0046】
図14には、インナーハウジング5Aのハウジング孔50の十点平均粗さRa[μm]と、充填材41におけるガスリーク量[cc/min]との関係を示す。ガスリーク量は、900℃であって0.4MPaの疑似排ガスとしての気体がセンサ素子2に接触する際に、先端側カバー45A,45B内から基端側カバー46A,46B内へリークする可能性がある排ガスGの量を測定した結果を示す。
【0047】
図14において、ガスリーク量は、ハウジング孔50の十点平均粗さが6.4μm以上になると、十点平均粗さが大きくなるほどガスリーク量が急激に増加する。ガスリーク量を2.5cc/min以下にするためには、十点平均粗さを6.4μm未満にすることが有効であることが分かった。
【0048】
図2に示すように、インナーハウジング5Aは、径方向Wの厚みが最も大きいインナー本体部51と、インナー本体部51の軸線方向Lの先端側L1において、インナー本体部51よりも外径が縮径して形成されたインナー先端部52と、インナー本体部51の軸線方向Lの基端側L2において、インナー本体部51よりも内径が拡径して形成されたインナー基端部53とを有する。図1に示すように、インナー先端部52の外周には、先端側カバー45A,45Bが装着され、インナー基端部53の内周側には、端子保持材43が配置される。インナー先端部52の径方向Wの厚みは、インナーハウジング5Aにおいて最も小さい。ハウジング孔50は、インナー本体部51及びインナー先端部52の内周側に形成されている。
【0049】
充填材41は、インナー本体部51の内周側に配置されている。インナー本体部51から充填材41に圧縮応力Pを適切に作用させるために、インナーハウジング5Aにおける、充填材41に横方向Wから対向する部位の厚みは、1mm以上である。換言すれば、インナー本体部51の径方向Wの厚みは1mm以上である。インナー本体部51の径方向Wの厚みが1mm未満になると、ガスセンサ1の製造時にインナー本体部51を十分に熱収縮させることができず、充填材41に十分な圧縮応力Pを作用させることができないおそれがある。
【0050】
本形態のインナー本体部51の径方向Wの厚みは4mmである。インナー本体部51の径方向Wの厚みは、ガスセンサ1の大型化を避けるために8mm以下とすればよい。インナー本体部51の径方向Wの厚みが1mm未満である場合には、ガスセンサ1の製造時において、インナーハウジング5A及び粒子状材料410が冷却されるときに、粒子状材料410から加わる応力によってインナーハウジング5Aが塑性変形するおそれがある。
【0051】
図15には、インナー本体部51の径方向Wの厚みと、充填材41におけるガスリーク量[cc/min]との関係を示す。ガスリーク量は、900℃であって0.4MPaの疑似排ガスとしての気体がセンサ素子2に接触する際に、先端側カバー45A,45B内から基端側カバー46A,46B内へリークする可能性がある排ガスGの量を測定した結果を示す。
【0052】
図15において、インナー本体部51の径方向Wの厚みが1mm未満になると、ガスリーク量が増加することが分かる。インナー本体部51の径方向Wの厚みが1mm未満である場合には、充填材41から加わる応力によってインナー本体部51が塑性変形して、ハウジング孔50と充填材41との間にリーク経路が形成されるためであると考える。
【0053】
図1に示すように、アウターハウジング5Bは、インナーハウジング5Aとの間に先端側カバー45A,45Bを挟み込むよう構成されている。アウターハウジング5Bは、軸線方向Lの先端側L1に形成されたアウター先端側部54と、アウター先端側部54の軸線方向Lの基端側L2に繋がり、アウター先端側部54よりも内径及び外径が拡径したアウター基端側部55と、アウター基端側部55における軸線方向Lの基端から基端側L2へ突出するアウター突出部56とを有する。アウター先端側部54の外周には、ガスセンサ1を配管としての排気管7に取り付けるためのおねじ部541が形成されている。アウター基端側部55には、六角形等の平面形状を有するフランジ部551が形成されている。
【0054】
先端側カバー45A,45Bは、インナー先端部52の外周とアウター先端側部54の内周との間に配置される。また、先端側カバー45A,45Bの基端部は、インナー本体部51の軸線方向Lの先端面とアウター先端側部54の軸線方向Lの基端面との間に挟み込まれる。インナー本体部51の外周にアウター基端側部55の内周が重ねて配置される。基端側カバー46Aの軸線方向Lの先端部は、アウター突出部56の外周に装着される。基端側カバー46A、アウター突出部56及びインナー基端部53は、レーザー溶接等によって互いに接合されている。
【0055】
(先端側カバー45A,45B)
図1に示すように、先端側カバー45A,45Bは、ハウジング5A,5Bの軸線方向Lの先端側L1の端面から先端側L1へ突出する、センサ素子2の先端検知部21を覆うものである。先端側カバー45A,45Bは、インナーハウジング5Aとアウターハウジング5Bとの間に挟持されている。本形態の先端側カバー45A,45Bは、第1先端側カバー45Aと、第1先端側カバー45Aを覆う第2先端側カバー45Bとの二重構造を有している。第1先端側カバー45A及び第2先端側カバー45Bには、排ガスGが流通可能なガス流通孔451が形成されている。先端側カバー45A,45Bは、金属としてのステンレス鋼によって構成されている。
【0056】
センサ素子2の先端検知部21及び先端側カバー45A,45Bは、内燃機関の排気管7内に配置される。排気管7内を流れる排ガスGの一部は、先端側カバー45A,45Bのガス流通孔451から先端側カバー45A,45B内に流入する。そして、先端側カバー45A,45B内の排ガスGは、センサ素子2の表面保護層37及び拡散抵抗部32を通過して排気電極311へと導かれる。なお、先端側カバー45A,45Bは、ガス流通孔451が形成された一重構造のものとしてもよい。
【0057】
(基端側カバー46A,46B)
図1に示すように、基端側カバー46A,46Bは、ガスセンサ1の軸線方向Lの基端側L2に位置する配線部を覆って、この配線部を大気A中の水等から保護するためのものである。配線部は、センサ素子2に電気的に繋がる部分としての、接点端子44、接点端子44とリード線48との接続部分(接続金具441)等によって構成される。基端側カバー46A,46Bは、金属としてのステンレス鋼によって構成されている。
【0058】
基端側カバー46A,46Bは、大気A中の水がガスセンサ1内に浸入することを防止する撥水フィルタ462を挟持するために、2部品に分かれて形成されている。具体的には、本形態の基端側カバー46A,46Bは、アウターハウジング5Bのアウター突出部56の外周に装着された第1基端側カバー46Aと、第1基端側カバー46Aの軸線方向Lの基端側L2の位置の外周に装着された第2基端側カバー46Bとを有する。第2基端側カバー46Bの軸線方向Lの先端側L1の部分は、第1基端側カバー46Aの軸線方向Lの基端側L2の部分の外周に装着されている。
【0059】
第2基端側カバー46Bの軸線方向Lの基端側L2の部分の内周側には、複数のリード線48を保持するブッシュ47が保持されている。撥水フィルタ462は、第1基端側カバー46Aと第2基端側カバー46Bとの間、及び第2基端側カバー46Bとブッシュ47との間に挟持されている。
【0060】
第2基端側カバー46Bには、ガスセンサ1の外部から大気Aを導入するための大気導入孔461が形成されている。撥水フィルタ462は、第2基端側カバー46Bの内周側から大気導入孔461を覆う状態で配置されている。センサ素子2における、大気ダクト36の基端位置は、基端側カバー46A,46B内の空間に開放されている。第2基端側カバー46Bの大気導入孔461の周辺に存在する大気Aは、基端側カバー46A,46B内が減圧状態になったときに、撥水フィルタ462を経由して基端側カバー46A,46B内に取り込まれる。そして、撥水フィルタ462を通過した大気Aは、センサ素子2の大気ダクト36の基端位置から大気ダクト36内に流れ、大気ダクト36内の大気電極312へと導かれる。
【0061】
(補助材42)
図1図3に示すように、補助材42は、インナーハウジング5Aの中心部を軸線方向Lに貫通するハウジング孔50内に配置されている。補助材42は、第1碍子とも呼ばれ、絶縁性のセラミックス材料によって構成されている。補助材42は、アルミナ(酸化アルミニウム)等の金属酸化物によって構成されている。本形態においては、補助材42の材質とセンサ素子2の絶縁体の材質とを同じにしている。
【0062】
補助材42の中心部には、センサ素子2を挿通させるために、軸線方向Lに貫通する挿通孔420が形成されている。本形態の補助材42は、インナーハウジング5Aのハウジング孔50の内周に配置される円板形状部421と、円板形状部421から軸線方向Lの先端側L1に突出する先端側突出部422とによって形成されている。挿通孔420は、円板形状部421に形成されている。補助材42は、ガスセンサ1の製造時において、センサ素子2を軸線方向Lに平行な状態でインナーハウジング5Aの内周側に保持するためのものである。ガスセンサ1の製造時において、センサ素子2は、補助材42の挿通孔420に設けられた、接着剤としてのセラミックス材料を介して補助材42に保持される。
【0063】
(端子保持材43)
図1に示すように、端子保持材43は、補助材42の軸線方向Lの基端側L2に配置され、接点端子44を保持するものである。端子保持材43は、第2碍子とも呼ばれ、絶縁性のセラミックス材料によって構成されている。補助材42は、アルミナ(酸化アルミニウム)等の金属酸化物によって構成されている。端子保持材43の中心部には、センサ素子2が挿通される端子保持孔430が軸線方向Lに貫通して形成されている。端子保持材43における、端子保持孔430に連通する位置には、接点端子44を配置するための溝部431が形成されている。端子保持材43は、第1基端側カバー46Aの径方向Wの内周側に配置されている。
【0064】
(接触部材432)
図1及び図2に示すように、端子保持材43と第1基端側カバー46Aとの間には、第1基端側カバー46Aによって端子保持材43をインナーハウジング5Aに押さえ付けるための接触部材432が配置されている。端子保持材43は、第1基端側カバー46Aによって接触部材432を介してインナーハウジング5Aに押圧されている。接触部材432は、軸線方向Lに弾性変形可能な板バネによって構成されている。板バネは、中心部に穴が形成された中空円板形状に形成されている。接触部材432は、第1基端側カバー46Aにおける、先端側L1の部分に対して縮径する基端側L2の部分による径変化部に係止される。
【0065】
(接点端子44)
図1に示すように、接点端子(端子バネ)44は、センサ素子2における、端子接続部22としての電極リード部313の基端部、及び端子接続部22としての発熱体リード部342の基端部に接触し、電極リード部313及び発熱体リード部342をリード線48に電気的に接続するものである。本形態の接点端子44は、2つの電極リード部313の基端部とリード線48とを接続するものと、2つの発熱体リード部342の基端部とリード線48とを接続するものとの4つがある。
【0066】
接点端子44は、端子保持材43の溝部431に配置されている。接点端子44は、接続金具441を介してリード線48に接続されている。接点端子44は、弾性変形の復元力を作用させて、センサ素子2における、電極リード部313の基端部及び発熱体リード部342の基端部に接触している。
【0067】
(ブッシュ47及びリード線48)
図1に示すように、ブッシュ(封止部材)47は、第2基端側カバー46Bの内周側に配置されて、複数のリード線48を、シールを行って保持するものである。ブッシュ47は、シール材としての機能を有するために、弾性変形可能なゴム材料によって構成されている。ブッシュ47には、リード線48が挿通された貫通孔が形成されている。ブッシュ47に第2基端側カバー46Bがかしめられることにより、各リード線48と各貫通孔471との間、及びブッシュ47と第2基端側カバー46Bとの間の各隙間がシールされる。リード線48は、各接点端子44を、ガスセンサ1の外部のセンサ制御装置6に接続するためのものである。リード線48は、内部の導体が被覆層によって被覆されたものである。
【0068】
(センサ制御装置6)
図1に示すように、ガスセンサ1におけるリード線48は、ガスセンサ1におけるガス検出の制御を行うセンサ制御装置6に電気接続される。センサ制御装置6は、エンジンにおける燃焼運転を制御するエンジン制御装置と連携してガスセンサ1における電気制御を行うものである。センサ制御装置6には、図4に示すように、排気電極311と大気電極312との間に流れる電流を測定する電流測定回路61、排気電極311と大気電極312との間に電圧を印加する電圧印加回路62、発熱体34に通電を行うための通電回路等が形成されている。なお、センサ制御装置6は、エンジン制御装置内に構築してもよい。
【0069】
(他のガスセンサ1)
ガスセンサ1は、NOx(窒素酸化物)等の特定ガス成分の濃度を検出するものとしてもよい。NOxセンサにおいては、固体電解質体31における、排気電極311に接触する排ガスGの流れの上流側に、電圧の印加によって大気電極312へ酸素をポンピングするポンプ電極が配置される。大気電極312は、ポンプ電極に対して固体電解質体31を介して積層方向Dに重なる位置にも形成される。
【0070】
(充填材41)
図2及び図3に示すように、充填材41は、センサ素子2を軸線方向Lに平行な状態でインナーハウジング5Aの内周側に保持するためのものである。本形態の充填材41を構成する粒状物結合体411は、結晶構造を有する結晶化ガラスによって構成されている。結晶化ガラスは、ガラス材料が熱処理されることによってガラス材料の内部にほぼ均一に結晶部分が析出したものである。結晶化ガラスにおいては、粒子状のガラス成分と、ガラス成分同士を境界部において結合する結晶成分とが混在する。
【0071】
結晶化ガラスは、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Al(アルミニウム)、Zn(亜鉛)等を含有するガラス材料によって構成される。充填材41を構成する粒子状材料410の粒状物の粒径は、例えば、1~10μmとすればよい。また、粒子状材料410の粒状物の平均粒径は、3~7μmとすればよい。
【0072】
本形態においては、インナーハウジング5Aによる熱収縮を利用して、インナーハウジング5Aから充填材41には、センサ素子2の軸線方向Lに直交する横方向Wへの残留応力Pが加わっている。ガスセンサ1における充填材41を構成する粒状物結合体411には、インナーハウジング5Aが熱収縮した後に作用する圧縮応力Pが作用している。粒状物結合体411における粒状物の横方向Wに作用する圧縮応力Pは、粒状物結合体411における粒状物の縦方向(軸線方向)Lに作用する圧縮応力Pに比べて大きい。
【0073】
図16には、粒状物結合体411における各粒状物の断面を模式的に示す。粒状物結合体411における各粒状物のことを単に粒状物結合体411ということがある。粒状物結合体411における各粒状物は、横方向Wの幅が縦方向Lの幅よりも小さくなるように潰されている。なお、ガスセンサ1における縦方向Lは、センサ素子2における軸線方向Lと同じである。
【0074】
また、ガスセンサ1において、充填材41を構成する粒状物結合体411の各粒状物の結晶格子(単位格子)Kにおける横方向Wの格子面間隔K2は、この結晶格子Kにおける縦方向Lの格子面間隔K2よりも小さい。インナーハウジング5Aから粒状物結合体411に横方向Wへの圧縮応力Pが作用していることにより、結晶格子Kにおける縦方向Lの格子面間隔K2が大きくなっている。
【0075】
粒状物結合体411における単位格子の状態は、格子定数を用いて表現することができる。格子定数とは、単位格子の大きさ及び形状を示す、単位格子の各稜間の3つの角度、及び3つの軸の長さを表す定数のことをいう。また、格子定数は、単位格子における隣り合う2つの格子面K1間の中心から中心までの距離として表すこともできる。
【0076】
粒状物結合体411の格子面間隔K2及び格子定数は、X線回析法(XRD)によって測定することができる。X線回析法は、一定波長のX線を分析試料に照射したときに、分析試料から散乱するX線の状態を観察するものである。X線回析法によれば、物質の原子又は分子の配列状態によって、物質特有の回折パターンが取得され、この回析パターンから物質を構成している成分の格子面間隔K2、格子定数等が求められる。
【0077】
充填材41(粒状物結合体411)に作用する残留応力Pは、X線回析法を利用したX線残留応力測定法によって測定することができる。X線残留応力測定法は、ミクロなひずみゲージを用いて分析試料を構成する結晶における歪量を測定し、歪量と、分析試料の材料に特有の弾性定数とを用いて残留応力Pを求めるものである。材料に応力が負荷されると、材料中の結晶の格子面間隔K2が伸縮する。格子面間隔K2の変化は、X線回折ピークの回折角のシフト量から読み取られる。
【0078】
インナーハウジング5Aから充填材41に加わる残留応力Pは、インナーハウジング5Aの横方向Wの厚み、インナーハウジング5Aを加熱する温度等を調整することによって調整することができる。インナーハウジング5Aを構成するステンレス鋼の線膨張係数は、充填材41を構成する結晶化ガラスの線膨張係数に比べて大きい。そして、インナーハウジング5Aが加熱された状態から冷却されるときに熱収縮する量は、充填材41が加熱された状態から冷却されるときに熱収縮する量に比べて大きい。一方、ガスセンサ1の使用時においては、インナーハウジング5Aが加熱されるときに熱膨張する量は、充填材41が加熱されるときに熱膨張する量に比べて大きい。
【0079】
本形態のガスセンサ1においては、インナーハウジング5Aから充填材41に加わる残留応力Pは、インナーハウジング5A及び充填材41が800℃に加熱された状態においても維持されるよう構成されている。この構成により、ガスセンサ1の使用時において、充填材41によるガスセンサ1の気密性を適切に確保することができる。より具体的には、インナーハウジング5Aが800℃を超える温度として、例えば900~1100℃に加熱された状態において、インナーハウジング5Aのハウジング孔50の残部に、粒子状材料410(粒状物)が溶融状態で配置される。
【0080】
そして、図2及び図3に示すように、インナーハウジング5A及び粒子状材料410を含む中間体11が900~1100℃の温度に加熱されて粒子状材料410が溶融した後に、この中間体11が常温(25℃±5°)まで冷却される。このとき、インナーハウジング5Aから粒子状材料410による充填材41に圧縮応力Pが作用する。これにより、ハウジング孔50の残部には、900~1100℃の温度に加熱されたインナーハウジング5Aに対して粒子状材料410が充填されており、インナーハウジング5A及び充填材41が800℃以下に加熱される状態においては、インナーハウジング5Aから充填材41に加わる残留応力Pが維持される。
【0081】
図17には、インナーハウジング5A及び充填材41(粒状物結合体411)の温度が1000℃から20℃に低下したときの、インナーハウジング5Aと充填材41の熱収縮量の差[%]と、充填材41におけるガスリーク量[cc/min]との関係を示す。ガスリーク量は、900℃であって0.4MPaの疑似排ガスとしての気体がセンサ素子2に接触する際に、先端側カバー45A,45B内から基端側カバー46A,46B内へリークする可能性がある排ガスGの量を測定した結果を示す。熱収縮量の差は、プラス側にあるときにインナーハウジング5Aから充填材41に圧縮応力Pが作用し、マイナス側にあるときにはインナーハウジング5Aから充填材41に圧縮応力Pが作用しないことを示す。
【0082】
図17において、ガスリーク量は、熱収縮量の差が0%よりも小さい場合には、熱収縮量の差が小さくなるほどガスリーク量が増加する。ガスリーク量を0cc/minにするためには、インナーハウジング5Aと充填材41の熱収縮量の差を0%超過にすることが有効である。
【0083】
本形態においては、センサ素子2を構成する材料の線膨張係数と、充填材41を構成する材料の線膨張係数との差は、±30%以下である。センサ素子2を構成する材料の線膨張係数と、充填材41を構成する材料の線膨張係数とは、できる限り近い方がよい。本形態においては、センサ素子2を構成するセラミックス材料としての金属酸化物の線膨張係数は、充填材41を構成する結晶化ガラスの線膨張係数よりも小さい。センサ素子2を構成する酸化アルミニウムの線膨張係数は、8×10-6/℃である。充填材41を構成する結晶化ガラスは、CaO、Al23、SiO2、BaO、ZnO、MgO、B23等の金属酸化物を含有していてもよい。
【0084】
本形態においては、種々の金属酸化物を組み合わせて充填材41を構成する結晶化ガラスを構成することにより、充填材41を構成する結晶化ガラスの線膨張係数と酸化アルミニウムの線膨張係数との差が±30%以下になるようにする。この線膨張係数の差は、センサ素子2の線膨張係数をα1、充填材41の線膨張係数をα2としたとき、(α1-α2)/α1×100[%]によって表される。
【0085】
また、センサ素子2と充填材41とにおける、温度が1000℃から20℃に下がるときの熱収縮量の差は、±20%以下になるようにすることが好ましい。熱収縮量は、物体の厚みと線膨張係数と温度変化量との積に基づいて求められる。温度が1000℃から20℃に下がるときのセンサ素子2の熱収縮量X1は、センサ素子2の元の寸法をA1、線膨張係数をα1、温度変化量をΔTとしたとき、X1=A1・α1・ΔT/A1×100[%]として表される。また、温度が1000℃から20℃に下がるときの充填材41の熱収縮量X2は、充填材41の元の寸法をA2、線膨張係数をα2、温度変化量をΔTとしたとき、X2=A2・α2・ΔT/A2×100[%]として表される。そして、熱収縮量の差は、X1-X2によって表される。
【0086】
本形態においては、センサ素子2を構成するセラミックス材料としての金属酸化物の線膨張係数は、充填材41を構成する結晶化ガラスの線膨張係数よりも小さい。種々の金属酸化物を組み合わせて充填材41を構成する結晶化ガラスを構成することにより、充填材41を構成する結晶化ガラスの熱収縮量X2と、センサ素子2を構成する酸化アルミニウムの熱収縮量X1との差が±20%以下になるようにする。
【0087】
図18には、センサ素子2及び充填材41(粒状物結合体411)の温度が1000℃から20℃に低下したときの、センサ素子2と充填材41の熱収縮量の差[%]と、充填材41におけるガスリーク量[cc/min]との関係を示す。ガスリーク量は、900℃であって0.4MPaの疑似排ガスとしての気体がセンサ素子2に接触する際に、先端側カバー45A,45B内から基端側カバー46A,46B内へリークする可能性がある排ガスGの量を測定した結果を示す。
【0088】
図18において、ガスリーク量は、熱収縮量の差が20%よりも大きくなると、熱収縮量の差が大きくなるほどガスリーク量が急激に増加する。ガスリーク量を2.5cc/min以下にするためには、センサ素子2と充填材41の熱収縮量の差を20%以下にすることが有効である。
【0089】
(ガスセンサ1の製造方法)
本形態のガスセンサ1の製造方法においては、第1加熱工程、第2加熱工程及び冷却工程を行ってガスセンサ1を製造する。第1加熱工程の前においては、焼成が行われたセンサ素子2の軸線方向Lの先端部に表面保護層37が設けられる。第1加熱工程においては、図2及び図3に示すように、センサ素子2、補助材42、粒子状材料410及びインナーハウジング5Aが一体化された中間体11を形成する。このとき、補助材42の挿通孔420に接着剤を介してセンサ素子2を挿通して配置する。また、インナーハウジング5Aのハウジング孔50の一部に、センサ素子2が一体化された補助材42を配置する。さらに、インナーハウジング5Aのハウジング孔50の残部に粒子状材料410を配置する。
【0090】
そして、第1加熱工程においては、中間体11を、粒子状材料410が溶融する温度よりも低い所定の温度に加熱する第1段階目の加熱を行う。具体的には、第1段階目の加熱として、中間体11を600℃±20℃に所定の時間加熱し、センサ素子2の表面保護層37におけるバインダーを揮発させる。このとき、中間体11が配置された環境下は大気Aと同様にし、この環境下における酸素の濃度は、21体積%とする。
【0091】
次いで、中間体11が配置された環境下の酸素の濃度を低下させるとともに、中間体11を、粒子状材料410が溶融する温度以上に加熱する第2段階目の加熱を行う。具体的には、第2段階目の加熱として、中間体11を1000℃±20℃に所定の時間加熱する。また、中間体11が配置された環境下における酸素の濃度を低下させ、この環境下における酸素の濃度を1体積%以下にする。本形態においては、中間体11が配置された環境下における酸素の濃度を0.1体積%以下にする。
【0092】
第2段階目の加熱を行うとき、ハウジング孔50の残部に配置された粒子状材料410が加熱されて溶融する。粒子状材料410が溶融するときには、粒状物同士の間の隙間が減少し、粒状物同士が密着する状態が形成される。また、中間体11が配置された環境下における酸素の濃度を1体積%以下にしたことにより、インナーハウジング5Aのハウジング孔50に酸化スケール(酸化膜)が形成されにくくすることができる。
【0093】
その後、冷却工程として、中間体11の加熱を停止し、自然放熱等によって中間体11を冷却する。そして、中間体11における、センサ素子2、補助材42、インナーハウジング5A及び溶融した粒子状材料410が冷却される。このとき、中間体11を構成する各部材2,42,5A,410には、各部材2,42,5A,410の線膨張係数に応じて各部材2,42,5A,410が熱収縮する。粒子状材料410が冷却されて熱収縮するときには、粒状物がガラス転移温度よりも低くなり、粒状物には、ガラス成分と結晶成分とが生じる。そして、粒子状材料410は粒状物結合体411として一体化される。
【0094】
インナーハウジング5Aを構成するステンレス鋼の線膨張係数は、粒状物結合体411を構成する結晶化ガラスの線膨張係数よりも大きく、インナーハウジング5Aの熱収縮量は、粒状物結合体411の熱収縮量よりも大きくなる。そして、インナーハウジング5Aが加熱された状態から冷却されるときに、インナーハウジング5Aの熱収縮量が粒状物結合体411の熱収縮量よりも大きいことによって、インナーハウジング5Aから粒状物結合体411に、センサ素子2の軸線方向Lに直交する横方向Wへの残留応力(圧縮応力)Pが生じる。こうして、中間体11がアウターハウジング5Bに配置され、種々の構成部品が組み付けられて、センサ素子2とインナーハウジング5Aとの間が、粒状物結合体411による充填材41によって封止されたガスセンサ1が製造される。
【0095】
(作用効果)
本形態のガスセンサ1においては、充填材41及びインナーハウジング5Aの用い方に工夫をしている。具体的には、インナーハウジング5Aから充填材41には、センサ素子2の軸線方向Lに直交する横方向Wへの残留応力Pが加わっている。換言すれば、充填材41を構成する粒状物結合体411は、インナーハウジング5Aから加わる残留応力Pによって圧縮された状態にある。また、粒状物結合体411の結晶格子Kにおける横方向Wの格子面間隔K2は、結晶格子Kにおける縦方向Lの格子面間隔K2よりも小さい。
【0096】
そして、ガスセンサ1の使用時において、この残留応力Pが粒状物結合体411に加わる状態が維持されることにより、充填材41によるガスセンサ1の気密性を、より適切に確保することができる。換言すれば、ガスセンサ1の使用時において、センサ素子2に接触する排ガスGが、基端側カバー46A,46B内の大気Aに混入することが防止される。また、ガスセンサ1の使用時において、センサ素子2は、残留応力Pを受けた充填材41を介してインナーハウジング5Aに保持される。
【0097】
それ故、本形態のガスセンサ1によれば、ガスセンサ1の使用時において、充填材41によるガスセンサ1の気密性を、より適切に確保することができる。
【0098】
本発明は、実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
1 ガスセンサ
11 中間体
2 センサ素子
41 充填材
410 粒子状材料
411 粒状物結合体
42 補助材
5A,5B ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16
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図18