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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】ガス検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
G01N27/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021046006
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144828
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】傳寳 暁士
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-275201(JP,A)
【文献】特開平10-078404(JP,A)
【文献】特開2011-227069(JP,A)
【文献】特開2014-153135(JP,A)
【文献】特開平05-340908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象ガス中のタバコ臭を検知するガス検知装置であって、
所定の駆動温度に加熱された際に電気的特性が変化するガス検知部と、
前記ガス検知部を加熱するヒータ部と、
前記ヒータ部の加熱動作を制御する加熱制御部と、
前記電気的特性の時間変化により前記タバコ臭を検知する臭い検知部とを備え、
前記加熱制御部は、第1測定温度への加熱と停止とを所定の周期で繰り返すパルス加熱を行い、
前記臭い検知部は、前記第1測定温度への加熱を開始した後の所定の検知期間における前記電気的特性の時間変化により、前記タバコ臭を検知し、
前記臭い検知部は、前記検知期間における前記電気的特性の時間変化に2つの変曲点がある場合に前記タバコ臭が有ると判断するガス検知装置。
【請求項2】
前記検知期間は、前記第1測定温度への加熱を開始してからの経過時間が50ms以下の期間である請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記第1測定温度は、370℃以上450℃以下である請求項1または2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記パルス加熱は、前記第1測定温度への加熱と停止との後に行われる第2測定温度への加熱と停止とを含み、
前記検査対象ガスが空気である場合に、前記第2測定温度への加熱を開始した後の所定の加熱時間が経過した時点における抵抗値が基準抵抗値としてあらかじめ測定されており、
前記臭い検知部は、前記第2測定温度への加熱を開始した後の前記加熱時間が経過した時点における抵抗値と前記基準抵抗値との比から、前記検査対象ガス中に含まれる前記タバコ臭の原因ガスの濃度を検知する請求項1からのいずれか一項に記載のガス検知装置。
【請求項5】
前記第2測定温度は、100℃以上350℃以下である請求項に記載のガス検知装置。
【請求項6】
前記加熱時間は200msである請求項またはに記載のガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タバコ臭を検知するガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
喫煙、受動喫煙による健康被害が問題視されている。2020年4月には健康増進法が改正され原則屋内禁煙の義務化や各都道府県の条例にて分煙施策が広がっている。また、三次喫煙(喫煙後に体内や部屋に残る残留成分)に対応することも望まれ、職場などにおける喫煙後のタバコの臭いや成分を検知する必要性が向上している。
【0003】
例えば、医療機関で用いられるCO測定機器により、呼気中のタバコ臭を検知することが可能である。
【0004】
また、特許文献1に開示されたガス検知装置(匂い検知器)により、タバコの臭いを判別することができる。このガス検知装置は、選択的にガス成分を吸着する複数のガスセンサを備え、吸着量に応じてタバコの臭いを判別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-161072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、三次喫煙等に対応するために、より簡単な構成で、容易にタバコ臭を検知することが望まれている。
【0007】
本発明は、より簡単な構成で、容易にタバコ臭を検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るガス検知装置の特徴構成は、検査対象ガス中のタバコ臭を検知するガス検知装置であって、所定の駆動温度に加熱された際に電気的特性が変化するガス検知部と、前記ガス検知部を加熱するヒータ部と、前記ヒータ部の加熱動作を制御する加熱制御部と、前記電気的特性の時間変化により前記タバコ臭を検知する臭い検知部とを備え、前記加熱制御部は、第1測定温度への加熱と停止とを所定の周期で繰り返すパルス加熱を行い、前記臭い検知部は、前記第1測定温度への加熱を開始した後の所定の検知期間における前記電気的特性の時間変化に2つの変曲点がある場合に前記タバコ臭が有ると判断する点にある。
【0009】
このような構成により、パルス加熱を行った際の電気的特性の時間変化に2つの変曲点があるか否かという検証するのみの簡単な構成で、容易にタバコ臭が有ると判断することができる。
【0012】
また、前記検知期間は、前記第1測定温度への加熱を開始してからの経過時間が50ms以下の期間であることが好ましい。
【0013】
タバコ臭を有する場合の電気的特性の時間変化における特徴は、加熱を開始してからの経過時間が50ms以下の期間に生じやすい。そのため、上記構成によると、適切な期間においてタバコ臭の検知を行うことができるため、容易かつ精度良く、タバコ臭を検知することができる。
【0014】
また、前記第1測定温度は、370℃以上450℃以下であることが好ましい。
【0015】
パルス加熱を370℃以上450℃以下で行うことにより、タバコ臭を有する場合の電気的特性の時間変化における特徴が顕著に表れやすい。そのため、上記構成によると、容易にかつ精度良く、タバコ臭を検知することができる。
【0016】
また、前記パルス加熱は、前記第1測定温度への加熱と停止との後に行われる第2測定温度への加熱と停止とを含み、前記検査対象ガスが空気である場合に、前記第2測定温度への加熱を開始した後の所定の加熱時間が経過した時点における抵抗値が基準抵抗値としてあらかじめ測定されており、前記臭い検知部は、前記第2測定温度への加熱を開始した後の前記加熱時間が経過した時点における抵抗値と前記基準抵抗値との比から、前記検査対象ガス中に含まれる前記タバコ臭の原因ガスの濃度を検知しても良い。
【0017】
このような構成により、パルス加熱を行った際の電気的特性の時間変化を検証するのみの簡単な構成で、検査対象ガス中に含まれるタバコ臭の原因ガスの濃度を容易に検知することができる。
【0018】
また、前記第2測定温度は、100℃以上350℃以下であることが好ましい。
【0019】
タバコ臭の原因ガスを含む検査対象ガスの場合、パルス加熱を100℃以上350℃以下で行うことにより、電気的特性の時間変化の感度が良くなる。そのため、上記構成によると、容易にかつ精度良く、検査対象ガス中に含まれるタバコ臭の原因ガスの濃度を検知することができる。
【0020】
また、前記加熱時間は200msであることが好ましい。
【0021】
パルス加熱を開始してから200msが経過した時点において、電気的特性の時間変化の感度が良い傾向がある。そのため、上記構成によると、容易にかつ精度良く、検査対象ガス中に含まれるタバコ臭の原因ガスの濃度を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ガス検知装置の概要を示す概略図である。
図2】異なる駆動温度における電気的特性の時間変化を示す図である。
図3】駆動温度毎の感度を示す図である。
図4】パルス加熱を例示する図である。
図5】タバコ臭の検知を行う処理フローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態に係るガス検知装置100を図1に基づいて説明する。ガス検知装置100は、センサ素子20と、加熱制御部12と、ガス検出部13(「臭い検知部」の一例)とを有する。センサ素子20は、ガス検知層10(「ガス検知部」の一例)と、触媒層11と、ヒータ層6(「ヒータ部」の一例)とを少なくとも有している。
【0024】
ガス検知装置100は、所定の駆動条件で測定したガス検知層10の電気的特性(電気抵抗値、電圧値など)に基づいて、検査対象ガス中にタバコ臭が含まれるか否かを検知する。駆動条件は、例えば、加熱制御部12がヒータ層6への通電を行うことにより、タバコ臭を検知するのに適切な温度にガス検知層10を加熱する。また、ガス検知装置100は、検査対象ガス中に含まれるタバコ臭の原因ガスの濃度を検知する構成とすることもできる。まず、具体的なセンサ素子20の構成が説明される。
【0025】
〔センサ素子〕
センサ素子20は、シリコン基板1に支持されてダイアフラムを構成する。センサ素子20は、支持層5と、絶縁層7と、ガス検知層10と、触媒層11を有する。支持層5はシリコン基板1上に形成され、支持層5上にヒータ層6が形成される。絶縁層7は、ヒータ層6の全体を覆って支持層5上に形成される。絶縁層7の上に一対の接合層8が形成され、接合層8の上に電極層9が形成される。絶縁層7の上の、一対の電極層9の間に、ガス検知層10が形成される。絶縁層7の上に、ガス検知層10を覆う形態にて、触媒層11が形成される。なお、センサ素子20はブリッジ構造をとっても良く、ヒータ層6は電極として兼用されても良い。
【0026】
支持層5は、例えば、熱酸化膜2と、Si膜3と、SiO膜4とが順に積層されて形成される。ヒータ層6は通電により発熱して、ガス検知層10および触媒層11を加熱する。
【0027】
ガス検知層10は、金属酸化物を主成分とする半導体の層である。例えば、ガス検知層10は、酸化スズ(SnO)を主成分とする混合物である。ガス検知層10は、検査対象ガス(タバコ臭の原因ガス)との接触により電気抵抗値が変化する。このような酸化物半導体とすることで、ガス検知層10は昇温が早くなり、検査対象ガスに対する応答性が向上し、検査対象ガスの検知が容易かつ正確になる。
【0028】
ガス検知層10は、厚さが30~10000nm、望ましくは100~1000nm程度の薄膜としても良い。ガス検知層10の厚さが触媒層11に比べて薄い薄膜型のセンサ素子20の場合、ヒータ層6で加熱された際に、ガス検知層10と触媒層11との間で昇温時間にタイムラグが生じる。そのため、加熱初期においては、ガス検知層10と検査対象ガス(タバコ臭の原因ガス)との反応性に応じた検出感度を得ることができ、加熱時間が経過するにしたがって、触媒層11にて非検査対象ガスが燃焼することによって感度が変化していくという、検査対象ガスに応じた時間応答特性を示す。その結果、ガス検知層10の厚さを触媒層11に比べて薄くすることにより、時間応答特性による検査対象ガスの検出が、容易かつ正確になる。なお、このように、時間応答特性によって検出精度を向上させるために、ガス検知層10の膜厚は、触媒層11の膜厚に対して、1/3以下程度にされる。さらに、ガス検知層10の膜厚は、触媒層11の膜厚に対して、1/1000以上1/3以下であることが好ましく、1/200以上1/10以下であることがより好ましい。
【0029】
触媒層11は、金属酸化物を主成分とする担体に、触媒金属を担持させて構成される。具体的には、触媒層11は、触媒金属を担持した金属酸化物を、バインダーを介して互いに結合させて形成される。
【0030】
触媒金属を担持する担体としては、遷移金属酸化物等が用いられ、例えば、アルミナ(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)、酸化セリウム(CeO)、酸化ランタン(La)、酸化チタン(TiO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化ニオブ(Nb)、または酸化タンタル(Ta)が用いられる。
【0031】
担体を結合させるバインダーとしては、金属酸化物の微粉末、例えば酸化ジルコニウム、シリカ微粉末、シリカゾル、マグネシア等が用いられる。バインダーとしての微量の使用であれば、触媒層11の機能を阻害しない範囲で、アルミナ微粉末またはアルミナゾルを用いることも可能である。また、上述した触媒金属、担体としての金属酸化物、バインダーはいずれも、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0032】
触媒層11に含有される触媒金属の量(合計含有率)は、触媒金属と担体の合計質量に対して0.3~9質量%とするのが好適であり、さらに望ましくは触媒金属と担体の合計質量に対して0.5質量%~6質量%とするのが良い。
【0033】
〔加熱制御部等〕
加熱制御部12は、駆動条件の1つとして、ヒータ層6に対する通電制御を行う。加熱制御部12は、例えば、ヒータ層6に通電してガス検知層10を加熱する加熱動作と、ヒータ層6に通電しない非加熱動作(ガス検知層10の加熱を停止する非加熱動作)とを行う。また加熱制御部12は、ヒータ層6に対する通電電圧または通電電流を制御することにより、設定された任意の温度にヒータ層6を加熱することができる。
【0034】
具体的には加熱制御部12は、図示しない電池等の電源から電源供給を受け、センサ素子20のヒータ層6に通電して、センサ素子20を加熱する。加熱する温度、すなわちガス検知層10および触媒層11の到達温度は、例えばヒータ層6に印加する電圧を変更することにより制御される。
【0035】
ガス検出部13は、所定の駆動条件にて測定されたガス検知層10の電気的特性の時間変化からタバコ臭の有無および検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度を検知する。例えば、ガス検出部13は、一対の電極層9の間の電気抵抗値(電気的特性)を測定することにより、ガス検知層10の電気抵抗値(以下、単に「抵抗値」と称す)を測定して、抵抗値の時間変化からタバコ臭の有無と検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度とを検知する。
【0036】
電気的特性の時間変化は、所定の加熱制御(駆動制御)が開始されてからの電気的特性(抵抗値)の時間変化である。加熱制御は、例えばパルス加熱が行われる。パルス加熱は、1または複数の駆動温度(測定温度)への加熱を、加熱の停止を含んで行われる。
【0037】
また、パルス加熱は、例えば、一つの駆動温度への加熱と加熱停止とを繰り返し行うようにしても良いし、複数の駆動温度として2つ以上の駆動温度を設定して当該駆動温度への加熱と加熱停止とを繰り返すようにしても良い。つまり、所定の期間を隔て、または連続した、駆動温度の異なる2つのパルス加熱が周期的に行われても良い。例えば、タバコ臭の有無の検知を行う駆動温度へのパルス加熱と、タバコ臭の原因ガスの濃度を検知するための駆動温度へのパルス加熱が繰り返される。
【0038】
なお、加熱制御において、それぞれの動作の時間は適宜設定・変更が可能であり、例えば、駆動停止期間は省略することも可能である。
【0039】
駆動条件は種々の条件を設定することができるが、例えば、加熱制御部12を駆動する条件である。この際、駆動条件は、加熱制御部12が制御するヒータ層6に対する通電電圧または通電電流、さらには通電時間により規定される。なお、加熱制御による駆動条件は、加熱制御部12が制御する通電電圧または通電電流に応じて決まる、駆動温度と対応させて制御することもできる。
【0040】
〔検知条件〕
ここで、図1を参照しながら、図2図3を用いて、タバコ臭の有無と、検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度とを検知する条件について説明する。
【0041】
発明者が鋭意に検討・実験を行った結果、検査対象ガスがタバコ臭を有するか否かは、パルス加熱における駆動温度である臭い測定温度Ts(「第1測定温度」に相当 図4参照)を370℃以上450℃以下、より好ましくは380℃以上450℃以下とし、加熱開始からの検知期間Psとして、加熱開始から50msの期間、つまり、加熱開始からの経過時間が50msの検知期間Psにおける抵抗値の時間変化から検知できることが分かった。
【0042】
一例として、図2に、臭い測定温度Tsを300℃,330℃,360℃,400℃とした場合の電気的特性(抵抗値)の時間変化の実験結果を示す。実験では、タバコ1本分の呼気である10Lの呼気を用意し、1.7Lのチャンバーに空気と20mL~60mLの呼気を注入した検査対象ガスに対して、上記駆動条件で加熱した場合の電気的特性(抵抗値)の時間変化が観察された。
【0043】
図2に示すように、臭い測定温度Tsが300℃,330℃,360℃の場合は、特徴的な電気的特性(抵抗値)の時間変化は見受けられないが、臭い測定温度Tsが400℃の場合、電気的特性(抵抗値)の時間変化において、2つの変曲点が表れるという特徴があることが分かる。鋭意検討した結果、このような特徴は、加熱開始からの経過時間が50msの期間において表れることが分かった。なお、図2では抵抗値の時間変化は、抵抗値を対数としているが、変曲点が明らかである場合は抵抗値を線形で示しても良い。また、この2つの変曲点は、後述の図3の400℃に加熱した際の、加熱開始からの経過時間が50msの期間においても、矢印に示すように現れる。
【0044】
また、発明者が鋭意に検討・実験を行った結果、検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度は、パルス加熱における駆動温度である濃度測定温度Tc(「第2測定温度」に相当 図4参照)を100℃以上350℃以下、より好ましくは120℃以上200℃以下とし、加熱開始からパルス加熱の加熱時間である200msが経過した時点の抵抗値から検知できることが分かった。
【0045】
一例として、図3に、濃度測定温度Tcが、150℃,200℃,300℃,400℃とした場合の、パルス加熱の開始から200msが経過した時点に測定された、空気の抵抗値とタバコ臭の原因ガスを含むガスの抵抗値との比(空気の抵抗値/原因ガスを含むガスの抵抗値)を感度として示す。図3において、Carは空気の抵抗値の測定結果であり、Ctはタバコ臭の原因ガスを含むガスの抵抗値の測定結果である。図3の横軸はパルス加熱の開始からの経過時間(ms)であり、縦軸は測定された抵抗値(Ω)を対数で示している。図3からわかるように、濃度測定温度Tcが150℃の場合に最も感度が大きくなり、濃度測定温度Tcとして150℃が最も適していることが分かる。
【0046】
濃度の検知は、まず、空気に対して、濃度測定温度Tcとして例えば150℃にパルス加熱を行い、200msが経過した時点に測定された抵抗値が、基準抵抗値としてあらかじめガス検出部13に設けられる記憶部16に格納される。また、様々な濃度のタバコ臭の原因ガスが含まれた検査対象ガスに対して、この濃度測定温度Tcにパルス加熱し、200msが経過した時点に測定された抵抗値が測定され、それぞれの抵抗値と基準抵抗値との比が濃度と関連付けられた濃度換算テーブルがあらかじめ用意される。濃度換算テーブルは、記憶部16に格納される。
【0047】
そして、ガス検出部13は、検査対象ガスに対して、この濃度測定温度Tcにパルス加熱し、200msが経過した時点に測定された抵抗値を測定し、この抵抗値と基準抵抗値との比と濃度換算テーブルとから、検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度を求める。
【0048】
〔タバコ臭の検知〕
以上の様に構成されたガス検知装置100における、タバコ臭の検知の際の動作例について、図1図3を参照しながら、図4図5を用いて説明する。なお、タバコ臭の検知は、検査対象ガス中においてガス検知装置100により検知され、例えば、検査対象ガスである呼気をガス検知装置100に吹きかけたり、ガス検知装置100が配置された空間内の空気を検査対象ガスとして行われる。
【0049】
まず、加熱制御部12は、臭い測定温度Tsが400℃、パルス期間tsが200msのパルス加熱を行う(図5のステップ#1)。
【0050】
ガス検出部13は、パルス加熱の開始から50ms間の検知期間Psにおける抵抗値の時間変化において、変曲点が2つあるか否かを判定する(図5のステップ#2)。変曲点は、抵抗値の曲線の曲率が符号を変える点である。抵抗値の曲線の曲率は、各時間における抵抗値の時間変化を二階微分することにより求められる。変曲点は、この二階分の符号変化する場合に変曲点であると判定される。
【0051】
変曲点が2つない場合(図5のステップ#2 No)、ガス検出部13はタバコ臭がないと判定して処理を終了する。この際、ガス検出部13は、図示しない報知部にタバコ臭が検知されなかったことを報知させても良い。
【0052】
変曲点が2つある場合(図5のステップ#2 Yes)、ガス検出部13はタバコ臭が検知されたと判定する(図5のステップ#3)。この際、ガス検出部13は、図示しない報知部にタバコ臭が検知されたことを報知させても良い。
【0053】
タバコ臭が検知されると、加熱制御部12は、臭い測定温度Tsの加熱が停止されてから、所定の停止期間Td、例えば5sを隔てて、濃度測定温度Tcが150℃、パルス期間tc(「加熱時間」に相当)が200msのパルス加熱を行う(図5のステップ#4)。
【0054】
次に、ガス検出部13は、パルス加熱の開始から200ms後、つまりパルス加熱の終了時点における、抵抗値を測定する(図5のステップ#5)。
【0055】
次に、ガス検出部13は、あらかじめ記憶部16に格納された、基準抵抗値および濃度換算テーブルを読み出す。そして、ガス検出部13は、測定された抵抗値と基準抵抗値との比を算出する(図5のステップ#6)。
【0056】
次に、ガス検出部13は、濃度換算テーブルを参照して、算出された比に対応する検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度を検知する(図5のステップ#7)。この際、ガス検出部13は、図示しない報知部にタバコ臭の原因ガスの濃度を報知させても良い。
【0057】
なお、検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度の検知は、抵抗値と基準抵抗値との比が濃度と関連付けられた濃度換算テーブルに従って、抵抗値と基準抵抗値との比から求める構成に限らない。例えば、種々の濃度の検査対象ガスに対して、濃度測定温度Tcが150℃の条件で、加熱の開始から200ms後に測定した抵抗値を測定することにより作成した、抵抗値と濃度とが関連付けられた濃度換算テーブルを用い、この濃度変換テーブルと測定された抵抗値から検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度が検知されても良い。この場合、抵抗値と基準抵抗値との比を算出する必要がなく、基準抵抗値を記憶する必要がない。
【0058】
そして、必要に応じて、休止時間Tp、例えば30sを隔てて、上記パルス加熱が繰り返される。
【0059】
このように、パルス加熱を行い、パルス加熱中の検知期間Psにおける抵抗値(電気的特性)の変曲点が2つあるか否かを判定するという簡単な方法により、タバコ臭の有無の検知を行うことができる。また、パルス加熱を行い、抵抗値(電気的特性)の感度から、あらかじめ作成した濃度換算テーブルを用いて、容易に検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度を検知することができる。
【0060】
〔別実施形態〕
(1)抵抗値に限らず他の電気的特性によりタバコ臭の検知が行われても良い。この場合、タバコ臭の検知に適切な電気的特性の時間変化の特徴によりタバコ臭の検知が行われる。これにより、状況に応じた適切な検知方法を採用することができる。
【0061】
(2)上記各実施形態において、変曲点の確認は、二階微分の符号が変化する点とする構成等に限らず、複数点の抵抗値の差分、抵抗値の微分値の差分、極値の有無等により行うこともできる。また、これらの抵抗値は時間変化に対する対数として求められても良い。これにより、状況に適した方法で変曲点を確認することができる。
【0062】
(3)上記各実施形態においては、タバコ臭の有無の検知、および検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度の検知の両方が行われたが、タバコ臭の有無の検知のみが行われる構成であっても良い。このような構成により、より容易に、少なくともタバコ臭の有無を検知することができる。
【0063】
(4)上記各実施形態において、タバコ臭の有無の検知および検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度の検知の少なくとも一方は、人工知能(AI)により機械学習された学習済みモデルを用いて行われても良い。学習済みモデルは、電気的特性の時間変化を機械学習し、電気的特性の時間変化から、タバコ臭の有無の検知および検査対象ガス中のタバコ臭の原因ガスの濃度の検知を行うためのモデルである。学習済みモデルを用いることにより、より容易起タバコ臭の検知を行うことができる。
【0064】
なお、上記の実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、タバコ臭の検知に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
6 ヒータ層(ヒータ部)
10 ガス検知層(ガス検知部)
12 加熱制御部
13 ガス検出部(臭い検知部)
100 ガス検知装置
Ps 検知期間
Tc 濃度測定温度(第2測定温度)
Ts 臭い測定温度(第1測定温度)
tc パルス期間(加熱時間)
図1
図2
図3
図4
図5