IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ノリタケカンパニーリミテドの特許一覧

<>
  • 特許-研磨パッド 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/32 20060101AFI20240906BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20240906BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B24D3/32
B24D11/00 E
H01L21/304 622F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021051301
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149241
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 将太
(72)【発明者】
【氏名】岸本 正俊
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 綾真
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-108464(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012468(WO,A1)
【文献】特開2008-173760(JP,A)
【文献】今村 健夫,一般資料,プラスチック・データブック,第1版,日本,株式会社 工業調査会,1999年12月01日,第12~13頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00 - 3/32
B24D 11/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスルホン系樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
初荷重を430g/cm 2 、最終荷重を1910g/cm 2 とし、前記初荷重で60秒間加圧した後の厚さt 0 を測定し、次に前記最終荷重の下で60秒間放置後の厚さt 1 を測定し、下記数式1から算出される圧縮率が0.5%以下であり、
数式1:圧縮率(%)=(t 0 -t 1 )/t 0 ×100
25°Cにおける弾性率と、100°Cにおける弾性率との弾性率比が1.5以下であり、
前記母材と前記気孔との体積比は0.6未満であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記圧縮率が0.17%以下であり、
前記弾性率比が1.09以下であり、
前記母材と前記気孔との体積比は0.58以下である請求項1記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
定盤とキャリヤとを備えたウェハ研磨装置が知られている。定盤は、第1軸心と直交する方向に延びる第1固定面を有し、第1軸心周りに回転される。キャリヤは、第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて第1固定面と対面する第2固定面を有し、第2軸心周りに回転される。
【0003】
このウェハ研磨装置によりSiC、GaN等の平板状のウェハを研磨する場合、研磨パッドが用いられる。定盤の第1固定面に研磨パッドが固定され、キャリヤの第2固定面に平板状のウェハが固定される。そして、研磨液の存在下で研磨パッドとウェハとを所定の面圧の下で当接しながら、定盤とキャリヤとを回転させる。
【0004】
研磨パッドが一般的な不織布や硬質ウレタンからなる場合、研磨粒子を含む研磨液が用いられる。また、研磨パッドが特許文献1~3に開示されているように、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有しているものである場合には、研磨粒子を含まない研磨液を採用できる。こうして、ウェハの研磨を行う。研磨液がアルカリ等の薬剤を含む場合には、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)工程でウェハが研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4266579号公報
【文献】特許第5511266号公報
【文献】特許第6636634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、加工後のウェハについて、SFQR(Site front least suares range)の要求レベルが上がっており、研磨工程では一層の高平坦化が求められている。従来の研磨パッドでは、この高平坦度を達成することができない。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、加工後のウェハがSFQRの要求レベルに沿った高平坦化を達成可能な研磨パッドを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の研磨パッドは、ポリスルホン系樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
初荷重を430g/cm 2 、最終荷重を1910g/cm 2 とし、前記初荷重で60秒間加圧した後の厚さt 0 を測定し、次に前記最終荷重の下で60秒間放置後の厚さt 1 を測定し、下記数式1から算出される圧縮率が0.5%以下であり、
数式1:圧縮率(%)=(t 0 -t 1 )/t 0 ×100
25°Cにおける弾性率と、100°Cにおける弾性率との弾性率比が1.5以下であり、
前記母材と前記気孔との体積比は0.6未満であることを特徴とする。
【0009】
発明者らの試験によれば、本発明の研磨パッドは、従来の研磨パッドよりも連続気孔が減っており、硬さが増している。また、本発明の研磨パッドは、従来の研磨パッドよりも弾性率比が小さく、研磨時に摩擦熱で変形し難い。そのため、本発明の研磨パッドは、加工時に逃げを生じ難い。
【0010】
したがって、本発明の研磨パッドによれば、加工後のウェハがSFQRの要求レベルに沿った高平坦化を達成することが可能となる。
【0011】
研磨パッドは、母材又は気孔内に保持された研磨粒子を有することが好ましい。発明者らはこの研磨パッドにおいて本発明の作用効果を確認している。この場合、研磨粒子を有さない研磨液を採用できるため、研磨液の再利用が容易であり、半導体デバイスの製造コストの低廉化を実現できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【0012】
母材はポリスルホン系樹脂からなることが好ましい。ポリスルホン系樹脂は100°C以下ではその弾性率がほとんど変化しないからである。
【0013】
母材と気孔との体積比は0.6未満であることが好ましい。母材と気孔との体積比が0.6以上であれば、気孔の割合が多く、全体の強度が落ちて圧縮率が大きくなるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研磨パッドによれば、加工後のウェハがSFQRの要求レベルに沿った高平坦化を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ウェハ研磨方法で用いたウェハ研磨装置の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
研磨パッドは以下の第1~3工程を備えた製造方法によって製造可能である。第1工程では、母材樹脂と、研磨粒子と、溶媒とを含むペーストを用意する。第2工程では、ペーストをシート状に成形して成形体を得る。第3工程では、成形体を置換液中に浸漬し、成形体中の溶媒を置換液で置換して無数の気孔を形成する。この際、成形体中の溶媒の割合が多いと気孔を生じやすく、溶媒の割合が少ないと気孔が減り、硬さを増すことが可能である。
【0017】
研磨パッドを製造するために用いる母材樹脂としては、ポリスルホン系樹脂であるポリエーテルサルフォン(PES)等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0018】
研磨パッドを製造するために用いる溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等を採用することができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。溶媒は、バインダ樹脂に応じて種々選択される。
【0019】
研磨パッドを製造したり、研磨液に含有され得る研磨粒子としては、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ダイヤモンド、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、酸化鉄等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0020】
研磨パッドを製造するために用いるペーストは、母材樹脂と研磨粒子と溶媒とを含む他、炭酸ナトリウム、ピペラジン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ微粒子を含んでいてもよい。また、ペーストは、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤、炭化水素系撥水剤及び金属化合物系撥水剤等の撥水剤を含んでもよい。さらに、ペーストは、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等の無機顔料、アゾ顔料、多環顔料等の有機顔料等の顔料を含んでもよい。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0021】
研磨パッドの製造方法において、溶媒と置換される置換液としては、油性の溶媒を採用した場合には、水道水等の水性の液体を採用することができる。
【0022】
研磨液を用いる場合、研磨液は純水であってもよく、油性であってもよく、酸性又はアルカリ性の薬品を含むものであってもよい。
【0023】
(実施例・比較例)
以下、本発明を具体化した実施例1と、比較例1~3とを説明する。
【0024】
まず、第1工程として、母材樹脂(PES(ポリエーテルサルフォン))と、研磨粒子(シリカ(SiO2))と、溶媒とを準備した。
【0025】
これらを所定の割合で混合し、実施例1及び比較例1のペーストを得た。各ペーストにより、実施例1及び比較例1の研磨パッド13を得た。混合割合は、成形体の樹脂及び気孔比が実施例1又は比較例1の研磨パッド13になるようにした。
【0026】
実施例1及び比較例1の研磨パッド13は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有している。実施例1及び比較例1の研磨パッド13における母材と気孔との体積比を測定した。
【0027】
比較例2、3の研磨パッドも用意した。比較例2の研磨パッドは、市販の不織布(ニッタ・ハース製 品番SUBA600)である。比較例3の研磨パッドは、硬質ウレタンからなる公知のものである(ウレタンパッドIC1000(ニッタ・ハース製))。
【0028】
実施例1の研磨パッド13及び比較例1~3の研磨パッドについて、定圧厚さ測定器(テックロック社製)を用い、圧縮率(%)を測定した。この際、初荷重で60秒間加圧した後の厚さt0を測定し、次に最終圧力の下で60秒間放置後の厚さt1を測定した。これらから、圧縮率を下記数式1により算出した。このとき、初荷重は430g/cm2、最終荷重は1910g/cm2とした。
【0029】
数式1:圧縮率(%)=(t0-t1)/t0×100
【0030】
さらに、実施例1の研磨パッド13及び比較例1~3の研磨パッドについて、以下の条件で動的粘弾性測定を行い、弾性率比として、25°Cにおける弾性率と、100°Cにおける弾性率との比を求めた。
測定装置:HITACHI社製 DMA7100
試験モード:引張
周波数:1Hz
温度範囲:20~140°C
昇温速度:5°C/min
【0031】
また、ウェハ研磨装置(Engis EJW-380)を用意し、実施例1及び比較例1~3の研磨パッドによってウェハ1の研磨を行った。
【0032】
ウェハ研磨装置は、図1に示すように、複数のキャリヤ5と、定盤7と、駆動装置9と、研磨液供給装置11とを備えている。図1には単一のキャリヤ5だけを図示しているが、ウェハ研磨装置は複数のキャリヤ5を有している。各キャリヤ5は水平な円板状をなしている。各キャリヤ5の下面には第2固定面5aが凹設されており、第2固定面5aにはウェハ1が固定されるようになっている。各キャリヤ5の上面にはキャリヤ回転軸5bが垂直に突設されている。各ウェハ1は、直径4inchの4H-SiC単結晶である。各ウェハ1のSi面である被研磨面1aは下方を向いている。
【0033】
定盤7は、全てのキャリヤ5を内包する水平な円板状をなしている。定盤7の下面には定盤回転軸7aが垂直に突設されている。定盤7の上面は第1固定面7bとされている。第1固定面7bには、各ウェハ1と対面するように円板状の研磨パッド41が接着剤によって固定されている。
【0034】
駆動装置9は、主駆動装置9aと、副駆動装置9bと、加圧装置9cとを有している。主駆動装置9aは定盤回転軸7aを第1軸心O1周りで所定速度で回転駆動する。副駆動装置9bは各キャリヤ回転軸5bを第2軸心O2周りで所定速度で回転駆動する。加圧装置9cは各キャリヤ回転軸5b及び副駆動装置9bを定盤7に向けて所定荷重で加圧する。
【0035】
研磨液供給装置11は定盤7の上方に設けられている。研磨液供給装置11は各ウェハ1と研磨パッド41との間に研磨液11aを介在させる。実施例1及び比較例1の研磨方法においては、過マンガン酸カリウム水溶液からなり、研磨粒子を含まない研磨液11aを用いた。比較例2、3の研磨方法においては、研磨粒子としてアルミナを含む市販の研磨液11a(DSC-201(フジミインコーポレーテッド製))を用いた。
【0036】
このウェハ研磨装置において、以下の条件で各ウェハ1を研磨した。
研磨液11aの流量:10mL/分
荷重:20kPa
定盤7の回転数:60rpm
キャリア5の回転数:60rpm
加工時間:60分
【0037】
そして、以下の条件でSFQRを測定した。
測定装置:TROPEL社 Flatmaster200
Egde excrusion:3mm
サイトの大きさ:10mm角
【0038】
【表1】
【0039】
これらの結果を表1に示す。表1より、実施例1の研磨パッド13は、比較例1の研磨パッドよりも連続気孔が減っており、硬さが増している。特に、実施例1の研磨パッド13は、母材と気孔との体積比が0.6未満である。このため、実施例1の研磨パッド13は、全体の強度が上って圧縮率が小さくなっている。また、実施例1の研磨パッド13は、比較例2、3の研磨パッドよりも圧縮率も小さく、これらよりも硬さが増している。また、実施例1の研磨パッド13は、比較例2、3の研磨パッドよりも弾性率比が小さく、研磨時に摩擦熱で変形し難い。そのため、実施例1の研磨パッド13は、加工時に逃げを生じ難いことがわかる。
【0040】
したがって、実施例1の研磨パッド13によれば、加工後のウェハ1がSFQRの要求レベルに沿った高平坦化を達成できることがわかる。
【0041】
また、実施例1の研磨パッド13は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有している。このため、研磨粒子を有さない研磨液11aを採用できるため、研磨液11aの再利用が容易であり、半導体デバイスの製造コストの低廉化を実現できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【0042】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は半導体製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
13…研磨パッド
図1