(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】マイクロカプセル農薬組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 57/16 20060101AFI20240906BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20240906BHJP
A01N 25/28 20060101ALI20240906BHJP
A01N 57/14 20060101ALI20240906BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A01N57/16 103C
A01N25/04 102
A01N25/28
A01N57/14 C
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2021072562
(22)【出願日】2021-04-22
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 孝典
(72)【発明者】
【氏名】村松 良則
(72)【発明者】
【氏名】米川 努
(72)【発明者】
【氏名】小林 武
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-049605(JP,A)
【文献】国際公開第2018/104118(WO,A1)
【文献】特表2020-515510(JP,A)
【文献】特開昭55-129146(JP,A)
【文献】特開平09-323908(JP,A)
【文献】国際公開第2014/003084(WO,A1)
【文献】特表2015-521585(JP,A)
【文献】特開2020-094048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃で水溶解度が1000ppm以下である農薬有効成分を含有するマイクロカプセル及び水相を含むマイクロカプセル農薬組成物であって、
マイクロカプセルの体積中位径が15~50μmであり、
下記式(I)により規定されるマイクロカプセルの膜含有率が1.0~5.0質量%であり、
マイクロカプセルの膜が、芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートの質量比が1.0:1.1~2.0の混合物であるポリイソシアネート組成物と、ポリアミン及び/又はポリオールの反応により調製されるポリウレア膜及び/又はポリウレタン膜で構成されたマイクロカプセルであり、
水相にリグニンスルホン酸塩を含んでいる、マイクロカプセル農薬組成物。
式(I) 膜含有率(%)=(膜質量(g)/マイクロカプセル全質量(g))×100
【請求項2】
マイクロカプセル農薬組成物中のリグニンスルホン酸塩の含有率が0.01~5質量%である、請求項1に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
【請求項3】
農薬有効成分が有機リン系殺虫剤である請求項1または2に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
【請求項4】
農薬有効成分が、O,O-ジエチル-O-2-イソプロピル-6-メチルピリミジン-4-イル-ホスホロチオエート(一般名:ダイアジノン)、又は(RS)-O-2,4-ジクロロフェニル=O-エチル=S-プロピル=ホスホロジチオアート(一般名:プロチオホス)である請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
【請求項5】
マイクロカプセルが農薬有効成分と芳香族系溶剤を含む混合物を内包し、前記芳香族系溶剤が混合物の10~50質量%で含有する請求項1~4に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
【請求項6】
マイクロカプセル農薬組成物の製造方法であって、
(1)農薬有効成分及びポリイソシアネート組成物を含む油相を調製する工程であって、前記ポリイソシアネート組成物が芳香族ポリイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートを質量比1.0:1.1~2.0で含む組成物であり、油相中におけるポリイソシアネート組成物の含有率が1.0~5.0質量%である工程、
(2)リグニンスルホン酸塩を含む水相を調製する工程、
(3)前記油相と前記水相を混合し、その混合物を分散してO/Wエマルジョンを調製する工程、
(4)ポリアミン及び/又はポリオールを加えて、前記ポリイソシアネート組成物と反応させてマイクロカプセルを調製する工程、
である、マイクロカプセル農薬組成物の製造方法。
【請求項7】
マイクロカプセル農薬組成物中のリグニンスルホン酸塩の含有率が0.01~5質量%である、請求項6に記載のマイクロカプセル農薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害生物を防除するマイクロカプセル農薬製剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界中で作物を加害する有害生物を防除する目的で、様々な農薬が使用されている。農薬の使用は作物の価値を高め、消費者へ安全な作物を持続的に提供することを可能にすることから、現代において無くてはならない製品である。近年、農薬散布による作業者への暴露が問題になっており、農林水産省から作業者暴露に関するガイドラインが法律として施行された。これにより農薬散布時の作業者暴露に新たな基準が設けられ、毒性が高い農薬によっては使用量を低減するか、あるいは使用できなくなる可能性がでてきた。このため、農家は作物に対して使用できる農薬が減少し、作物の品質や価値を守れなくなることが懸念されている。
【0003】
農薬の作業者暴露の対策として、農薬成分を内封したマイクロカプセル製剤を用いることが考えられる。マイクロカプセル製剤は有効成分が膜に包まれているため、散布時に作業者に暴露しても、有効成分との直接的な接触が避けられることから毒性が低く安全性が高いことが期待できる。また、有効成分の分解抑制効果がもたらされ、薬剤の残効性が延びて長期間の防除効力が期待でき、農家にとって省力化につながるため、非常に有用な農薬製剤である。
しかしながら、作業者安全性の確保と防除効力の安定的な発揮には、マイクロカプセル製剤の農薬有効成分の内封と放出のコントロールのための詳細な設計が必要である。
【0004】
特許文献1では、膜厚の異なる2種類のマイクロカプセルを混合することで、初期殺虫活性及び長期残効に優れたマイクロカプセル剤が提案されている。しかしながら、マイクロカプセル剤は界面重合法ではなくIn-Situ法で製造されており、膜の材質としては非常に硬いメラミン樹脂で構成されている。また、文献中の膜厚が薄いマイクロカプセル剤は初期残効に優れているが、散布後14日後でも30%以上の残効が確認されており、有効成分によっては残留が懸念される。また、農薬有効成分がピレスロイドのみに限られており、全ての有効成分で有効とは限らない。
特許文献2では、芳香族イソシアネートと非芳香族イソシアネートの混合比率を変えることで放出速度をコントロールすることが提案されている。しかしながら、油相中へのイソシアネート配合比率が多いため、膜厚が厚くなり、有効成分の残留が懸念される。
特許文献3~4では、マイクロカプセルに内包される農薬有効成分の溶出を、マイクロカプセルの組成を変えることなく希釈液に界面活性剤等を添加して制御する方法が提案されている。しかしながら、製剤の1000倍希釈液1Lに界面活性剤を0.1%添加しており、製剤と界面活性剤が同じ量であるため、製剤中の界面活性剤の添加率としては量が多すぎる。また、農薬散布時には農薬製剤同士の混合、及び界面活性剤主体の製剤である展着剤の使用が一般に行われるため、農薬を併用したときの溶出制御は不明瞭になり、有用ではない。また、農薬有効成分がピリプロキシフェンに限られており、全ての農薬有効成分に有効とは限らない。
【0005】
特許文献5には、農薬有効成分を含有する、ある特定の粒度帯の体積粒子径からなるマイクロカプセル水性懸濁状組成物をポンプで移送する際、または薬液噴霧機を用いて散布する際のように、マイクロカプセルが物理的な衝撃を受けるような場合であっても、該マイクロカプセルが破壊され難いと報告している。しかしながら、マイクロカプセルの強度は膜厚や膜組成により大きく影響されるものであり、使用するポンプや薬液噴霧器のノズル径及び散布方式によっても衝撃は異なることが予想される。
【0006】
マイクロカプセル製剤は、皮膜にて内封した農薬成分を外部因子による破裂や内部から有効成分の自己溶出によって対象有害生物に感作させることにより、所望の防除効果を発揮される農薬製剤である。マイクロカプセル製剤で速やかな初期効果を発揮させるためには、カプセル皮膜からの溶出をコントロールしたり、破裂させやすくするために最適な膜厚や膜組成を設計する必要があるが、膜厚が薄すぎる場合や内包物と膜組成の相性が悪い場合は、農薬成分の十分な内包率が得られなかったり、散布操作でカプセル皮膜が破裂する懸念がある。一方、残効性を持たせるためには、カプセル皮膜の膜厚を厚くしたり、膜質を硬くする必要があるが、作物によっては農薬の残留が問題になる。従って茎葉散布用マイクロカプセル製剤の製剤設計は、内包農薬の溶出機構の設計及び内包農薬の溶出速度制御、並びに内包農薬の適切な選択、等が重要である。特に、茎葉散布剤は初期効果を求められることが多いが、マイクロカプセル製剤は上記の理由から速やかな初期効果が発揮できず、効力が不足したり、有効成分が残留することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-59812号公報
【文献】特許第3613420号公報
【文献】特許第5202910号公報
【文献】特許第5223273号公報
【文献】特許第4882313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
農薬散布による作業者への暴露が問題になっており、農薬散布の施用者が、安全に散布できる害虫防除農薬が希求されている。加えて、農薬散布初期における十分な初期防除効力を発揮すると害虫防除農薬製剤が求められている。
本発明は、作業施用者の散布被曝の問題を軽減できるマイクロカプセル製剤として、農薬散布圧に耐えられ、且つ高い有効成分内包率を有する一方、散布後、速やかに有効成分を放出して初期防除効力を発揮できるマイクロカプセル製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、マイクロカプセルの膜材料において、芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートの質量比が1.0:1.1~2.0のイソシアネート混合物を用い、リグニンスルホン酸塩を水相中の分散剤として使用してO/Wエマルジョン分散工程を経て、体積中位径が15~50μmであり、膜質量がマイクロカプセルの全質量に占める割合の1.0~5.0質量%で調製されたマイクロカプセル農薬組成物が、高いカプセル内包率であり、速やかな放出性をするとともに所望の効果が達せられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]を要旨とする。
【0010】
[1] 20℃で水溶解度が1000ppm以下である農薬有効成分を含有するマイクロカプセル及び水相を含むマイクロカプセル農薬組成物であって、
マイクロカプセルの体積中位径が15~50μmであり、
下記式(I)により規定されるマイクロカプセルの膜含有率が1.0~5.0質量%であり、
マイクロカプセルの膜が、芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートの質量比が1.0:1.1~2.0の混合物であるポリイソシアネート組成物と、ポリアミン及び/又はポリオールの反応により調製されるポリウレア膜及び/又はポリウレタン膜で構成されたマイクロカプセルであり、
水相にリグニンスルホン酸塩を含んでいる、マイクロカプセル農薬組成物。
式(I) 膜含有率(%)=(膜質量(g)/マイクロカプセル全質量(g))×100
[2] マイクロカプセル農薬組成物中のリグニンスルホン酸塩の含有率が0.01~5質量%である、[1]に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
[3] 農薬有効成分が有機リン系殺虫剤である[1]または[2]に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
[4] 農薬有効成分が、O,O-ジエチル-O-2-イソプロピル-6-メチルピリミジン-4-イル-ホスホロチオエート(一般名:ダイアジノン)、又は(RS)-O-2,4-ジクロロフェニル=O-エチル=S-プロピル=ホスホロジチオアート(一般名:プロチオホス)である[1]~[3]のいずれか一項に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
[5] マイクロカプセルが農薬有効成分と芳香族系溶剤を含む混合物を内包し、前記芳香族系溶剤が混合物の10~50質量%で含有する[1]~[4]に記載のマイクロカプセル農薬組成物。
【0011】
[6] マイクロカプセル農薬組成物の製造方法であって、
(1)農薬有効成分及びポリイソシアネート組成物を含む油相を調製する工程であって、前記ポリイソシアネート組成物が芳香族ポリイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートを質量比1.0:1.1~2.0で含む組成物であり、油相中におけるポリイソシアネート組成物の含有率が1.0~5.0質量%である、工程、
(2)リグニンスルホン酸塩を含む水相を調製する工程、
(3)前記油相と前記水相を混合し、その混合物を分散してO/Wエマルジョンを調製する工程、
(4)ポリアミン及び/又はポリオールを加えて、前記ポリイソシアネート組成物と反応させてマイクロカプセルを調製する工程、
である、マイクロカプセル農薬組成物の製造方法。
[7] マイクロカプセル農薬組成物中のリグニンスルホン酸塩の含有率が0.01~5質量%である、[6]に記載のマイクロカプセル農薬組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、有効成分のカプセル内包率に優れ、散布作業においてもマイクロカプセル膜が保持され、農薬散布作業者への有効成分暴露の問題が回避できる。なお且つ、散布後のマイクロカプセルの速崩性に優れるものであり、これまでマイクロカプセル製剤の課題であった散布直後の初期効果を担保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るマイクロカプセル農薬組成物について説明する。
本発明において、マイクロカプセルに内包する農薬有効成分は、20℃で水溶解度が1000ppm以下の有害生物を防除できる化合物であれば、特に制限されず適用することができる。有害害虫を防除できる殺虫剤を適用することが好ましい。
殺虫剤の具体例としては、ダイアジノン、プロチオホス、シアノホス、フェニトロチオン、フェンチオン、ピリミホスメチル、イソキサチオン、クロルピリホス、クロルピリホスメチル、マラチオン、フェントエート、ジメトエート、ホサロン、メチダチオン、アセフェート、トリクロルホン、EPN、エチルチオメトン、プロフェノホス、ジクロルボス、プロペタンホス、ホスチアゼート、イミシアホス、カズサホス等の有機リン系殺虫剤。カルバリル、BPMC,MIPC,カルボスルファン、ベンフラカルブ、メソミル、オキサミル、チオジカルブ、アラニカルブ等のカーバメート系殺虫剤。ピレトリン、アレスリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シハロトリン、シフルトリン、トラロメトリン、フェンプロパトリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルバリネート、アクリナトリン、シクロプロトリン、テフルトリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、シフェノトリン、フェノトリン、プロパルスリン、レスメスリン、アルファーメスリン、フルサイスリネート、サイハロスリン、フルメトリン、フェンクルスリン、シラネオファン等のピレスロイド系殺虫剤。イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、アセタミプリド、チアクロプリド、ニテンピラム等のネオニコチノイド系殺虫剤。
【0014】
また、その他に、クロマフェノジド、スピノサド、スピネトラム、ジフルベンズロン、テフルベンズロン、ルフェヌロン、フルフェノクスロン、クロルフルアズロン、ノバルロン、テブフェノジド、メトキシフェノジド、シロマジン、ピリプロキシフェン、ブプロフェジン、ピメトロジン、ピリフルキナゾン、フロニカミド、ピリダリル、クロルフェナピル、トルフェンピラド、ジアフェンチウロン、メタフルミゾン、インドキサカルブ、メタアルデヒド、テトラジホン、プロパルギット、アミトラズ、フェノチオカルブ、ヘキシアゾチクス、ジエノクル、フェンピロキシメート、テブフェンピラド、ピリダベン、ピリミジフェン、クロフェンテジン、エトキサゾール、ブフェナゼート、アセキノシル、シエノピラフェン、ピフルブミド、フルアクリピリム、スピロジクロフェン、スピロテトラマト、スピロメシフェン、シフルメトフェン、D-D、DCIP、メチルイソチオシアネート、カーバムナトリウム塩、ネマデクチン、BT、フロメトキン、ヘキサフルムロン、ヒドラメチルノン、スルフルラミド、フルキサメタミド、エマメクチン、レピメクチン、アバメクチン、ミルベメクチンなどが挙げられる。
【0015】
農薬有効成分は、混合安定性に問題がない場合、上記の中から2種以上を使用した混合剤の態様であっても良い。
農薬有効成分としては、散布剤としてマイクロカプセル製剤化にする意義を考慮すると有機リン系殺虫剤が好ましい。ダイアジノン(化学名:O,O-ジエチル-O-2-イソプロピル-6-メチルピリミジン-4-イル-ホスホロチオエート)、プロチオホス((RS)-O-2,4-ジクロロフェニル=O-エチル=S-プロピル=ホスホロジチオアート)、又はフェントエート(PAP、S-α-エトキシカルボニルベンジル=O,O-ジメチル=ホスホロジチオアートが特に好ましく、ダイアジノン、プロチオホスが殊更好ましい。
本発明の組成物中における農薬有効成分の含有量としては0.1~50質量%が望ましく、10~50質量%であることが特に望ましい。
【0016】
本発明は、ポリウレア膜及び/又はポリウレタン膜で被覆したマイクロカプセルが適用される。当該マイクロカプセルは、特に制限されず、公知の技術によって調製したものを使用することができる。好ましいマイクロカプセルの調製方法は化学的調製方法であり、特に好ましくは、製造が容易で短時間でカプセル化が可能であり、粒径の制御が容易な方法であることから、界面重合法により調製されたマイクロカプセルが挙げられる。
【0017】
界面重合法によるマイクロカプセルとは、例えば、ポリイソシアネートとポリオールを油相‐水相の2相界面で重合させてポリウレタンからなる膜を形成する方法、ポリイソシアネートとポリアミンとを界面重合させてポリウレアからなる膜を形成する方法により調製される。本発明において、いずれの方法によってマイクロカプセルを調製するかは、有効成分の種類、使用目的あるいは用途などによって、適宜選択することができる。
以降、本願に係るマイクロカプセル農薬組成物について、界面重合法によって調製されるマイクロカプセルの製造方法に基づいて、より詳細に説明する。
【0018】
界面重合法では、まず農薬有効成分及び油溶性膜形成成分を含む油相を調製する。本願において、油溶性膜形成成分はポリイソシアネートであり、芳香族ポリイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートの混合物が用いられる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
これらポリイソシアネートは、その誘導体であっても良く、例えば、ダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレットジオン、オキサジアジントリオンなどや、これらポリイソシアネートの変性体、例えば、トリメチロールプロパンなどの低分子量のポリオールやポリエーテルポリオールなどの高分子量のポリオールを予め反応させることにより得られるポリオール変性ポリイソシアネートなども挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。
【0019】
ポリイソシアネートの配合割合は、油相100質量%に対して、1.0~5.0質量%の範囲において配合可能である。1.0~2.5質量%の範囲において配合することが好ましい。ポリイソシアネートの配合割合が多くなると、得られるマイクロカプセルの皮膜が厚くなりすぎる場合がある。一方、ポリイソシアネートの配合割合が少なくなると、マイクロカプセルの皮膜を形成することができなくなる場合がある。
本発明において、油相中のポリイソソシアネートの構成比は、芳香族ポリイソシアネート:脂肪族ポリイソシアネート=1.0:1.1~1:2.0である。より好ましくは、1.0:1.1~1.6である。芳香族ポリイソシアネートの比率が相対的に多くなると農薬有効成分の溶出が著しく遅延する。一方、脂肪族ポリイソシアネートの配合割合が多くなりすぎると農薬散布時の圧力にマイクロカプセルが耐えることができず、散布作業者への農薬有効成分の直接的なばく露が生じ得るため、安全性が担保できない恐れがある。
【0020】
油相は、前記ポリイソシアネートが常温液体であり、農薬有効成分がこれに溶解または分散し得る場合、または農薬有効成分が常温液体であり、前記ポリイソシアネートがこれに溶解または分散し得る場合は、これらを配合することにより調製することができる。若しくは、例えば、農薬有効成分及び前記ポリイソシアネートを、適当な有機溶剤を用いて溶解させることにより、油相を調製することができる。
【0021】
油相を調製する有機溶剤としては、農薬有効成分及び前記ポリイソシアネートを溶解または分散し得る非水混和性の有機溶剤であれば特に制限されず、有効成分の種類に応じて、適宜選択することができる。芳香族系有機溶剤を用いることが好ましく、例えば、アルキルベンゼン類、アルキルナフタレン類、アルキルフェノール類、フェニルキシリルエタンなどが挙げられる。石油留分より得られる種々の市販の有機溶媒を用いても良く、例えば、ソルベッソ100(エクソンモービル(株)製)ソルベッソ150(エクソンモービル(株)製)、ソルベッソ200(エクソンモービル(株)製)、ソルベッソ150ND(エクソンモービル(株)製)、ソルベッソ200ND(エクソンモービル(株)製)、スワゾール1000(丸善石油(株)製)、スワゾール1500(丸善石油(株)製)、スワゾール1800(丸善石油(株)製)、などが挙げられる。ソルベッソ150NDが特に好ましい。これら有機溶剤は、単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。
農薬有効成分と有機溶剤との配合割合は、例えば、油相の合計100質量%に対して、農薬有効成分が25~98.9質量%、好ましくは50~80質量%であり、有機溶媒が0.1~74質量%、好ましくは19~49質量%の割合であることが好ましい。
【0022】
本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、高い内包率と速やかな有効成分の放出を達成するために、マイクロカプセルの内包物が農薬有効成分と芳香族系溶剤の混合物であることが好ましい。農薬有効成分が25~99質量%、好ましくは50~95質量%であり、有機溶媒が1~75質量%、好ましくは5~50質量%の割合であることが好ましい。
【0023】
その他、油相に添加できる成分としては、安定化剤、界面活性剤、可塑剤、ゲル化剤等、油相中のポリイソシアネートに対して非反応性であり、その界面重合反応を阻害しないものを使用することができる。
安定化剤としては、例えばクエンチャー、ラジカル補足剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などが挙げられる。クエンチャーとしては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化脂肪酸オクチル、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化ヌカ脂肪酸メチル、エポキシ化ナタネ油等が挙げられ、K-800が特に好ましい。ラジカル補足材としては、ビタミンE、ビタミンC、ユビキノール、尿酸、フラボノイド、タンニン、セサミノール、クルクミンなどが挙げられる。紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等が挙げられる。酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。これらの安定化剤は二種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
安定化剤の割合は、油相100質量%に対して0~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0024】
界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンひまし油誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、高級脂肪酸グリセリンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アルキロールアミド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は二種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
界面活性剤の割合は、油相100質量%に対して0~10質量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
可塑剤としてはフタル酸エステル、アジピン酸エステル、ポリエステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、マレイン酸エステル等が挙げられる。これらの可塑剤は二種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
可塑剤の割合は、油相100質量%に対して0~10質量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
ゲル化剤としては、ワックス及び樹脂が挙げられ、硬化ひまし油、12-ヒドロキシステアリン酸、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、グリコール脂肪酸エステル、モンタンワックス、パラフィンワックス、キャンディラワックス、カルナバロウワックス、ライスワックス、牛脂硬化油、牛脂極度硬化油、大豆硬化油、みつろう、ラノリン、鯨ろう、セレシン、セラックなどの各種ワックスが挙げられる。これらのゲル化剤は二種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
ゲル化剤の割合は、油相100質量%に対して0~10質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
界面重合法によるマイクロカプセル調製は、上記の構成成分の混合物して調製された油相を水相と混合して、攪拌により油相微小滴を水相中に分散させた水中油滴(O/W)エマルジョンを調製し、その後、ポリイソシアネートとポリアミン及び/又はポリオールとを界面重合させる工程をとる。
水相は、前記油相と混和しない媒体を主成分として調製されるものであり、好ましくは水が使用される。この媒体に分散剤を配合することによって調製することができる。
【0028】
分散剤はマイクロカプセルを製造した後、マイクロカプセル分散液中で沈降凝集がないように分散系を安定化させる機能を担うものである。本発明は、リグニンスルホン酸塩を分散剤として用い、水相に混在させてマイクロカプセル調製することで、農薬有効成分の内包率が高く、且つ保存安定性に優れるマイクロカプセル農薬組成物を調製することができる。
用いられるリグニンスルホン酸塩としては、リグニンスルホン酸のナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
リグニンスルホン酸塩としては、重量平均分子量1000~20000であることが好ましい。より好ましくは、重量平均分子量1000~9000である。また、リグニンスルホン酸の官能基が、リグニンの基本構造であるフェニルプロパン1モル当たり、スルホン基が0.1~0.7モル、カルボキシル基が0.01~0.4モル、アルコール性OH基が0.2~0.5モル、フェノール性OH基が0.3~0.6モルのものであることが好ましい。
【0029】
リグニンスルホン酸塩は市販の添加剤を用いても良く、例えば、サンエキスP321(日本製紙(株)製、リグニンスルホン酸マグネシウム)、サンエキスP252(日本製紙(株)製、リグニンスルホン酸ナトリウム)、サンエキスP202(日本製紙(株)製、リグニンスルホン酸カルシウム)、サンエキスSCP(日本製紙(株)製、変性リグニンスルホン酸マグネシウム・カルシウム)、バニオールODP(日本製紙(株)製、変性リグニンスルホン酸ナトリウム)、バニレックスHW(日本製紙(株)製、高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウム)、バニレックスN(日本製紙(株)製、高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウム)、バニレックスRN(日本製紙(株)製、高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウム)、パールレックスNP(日本製紙(株)製、高純度高分子量リグニンスルホン酸ナトリウム)、パールレックスDP(日本製紙(株)製、高純度高分子量リグニンスルホン酸ナトリウム)、Greensperse CA(Boreegaard LignoTech社製、高純度リグニンスルホン酸カルシウム)、Borresperse CA(Boreegaard LignoTech社製、高純度リグニンスルホン酸カルシウム)、Greensperse NA(Borregaard LignoTech社製、高純度リグニンスルホン酸ナトリウム)、Borresperse NA(Boreegaard LignoTech社製、リグニンスルホン酸ナトリウム)、Borresperse AM 320(Boreegaard LignoTech社製、高純度リグニンスルホン酸アンモニウム)、Borresperse 3A(Boreegaard LignoTech社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム)、Ultrazine NA(Boreegaard LignoTech社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム)、Ufoxane 3A(Boreegaard LignoTech社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム)、Marasperse AG(Boreegaard LignoTech社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム)、Vanisperse CB(Boreegaard LignoTech社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム)、Greensperse S7(Boreegaard LignoTech社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム)、Greensperse S9(Boreegaard LignoTech社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム)等を挙げることができる。特にサンエキスP252が望ましい。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
リグニンスルホン酸塩の配合割合は、本発明のマイクロカプセル農薬組成物中に0.01~10質量%の使用が好ましく、より好ましくは0.01~5質量%の配合である。分散剤の濃度が大きいほど細かな体積中位径を得ることができる。
【0030】
分散剤として、リグニンスルホン酸塩と併せて、水溶性高分子分散剤を分散助剤として用いても良い。分散助剤は、O/Wの分散系の安定化を維持することができる。水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩などが挙げられる。ポリビニルアルコールがより好ましい。
水溶性高分子分散剤の配合割合は、マイクロカプセル農薬組成物中に0~10質量%の使用が好ましく、より好ましくは0.1~5質量%の使用が好ましく、さらに好ましくは0.1~1質量%の配合である。
【0031】
その他の水相に適用できる任意成分としては比重調整剤、消泡剤、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられ、油相と水相の分散を効率的に実施するために添加する。
比重調整剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の水溶性の塩が挙げられる。比重調整剤は、マイクロカプセル農薬組成物中に5質量%以下の配合で用いることが好ましい。
消泡剤としてはシリコーンエマルジョンが一般的に用いられ、特にアンチフォームE-20(花王(株)製)が好ましい。消泡剤の配合割合は、マイクロカプセル農薬組成物中に10質量%以下の使用が好ましく、より好ましくは5質量%以下の配合である。
pH調整剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム等の無機塩及び塩酸、硫酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、リン酸等の無機酸または有機酸が使用できる。本発明では、pH6~13とすることが好ましい。より好ましくはpH7~11である。
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンひまし油誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、高級脂肪酸グリセリンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アルキロールアミド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤、及びベタイン型界面活性剤等の両性界面活性剤等が挙げられる。また、これらの界面活性剤は二種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0032】
油相成分を水相成分に配合するには、油相成分を水相成分中に加えて、温度一定下、油相が微小滴になるまでヒスコトロン、ホモミキサー、デソルバー、コロイドミル、ホモジナイザー、超音波式攪拌機などの分散機によって攪拌し分散させる方法が挙げられる。この際、粒度を調製するための管理として分散機の機種、攪拌速度及び攪拌時間、水相及び油相の温度と水相のpHがあり、分散する有効成分によって最適なpHと温度は異なる。具体的には温度一定の下、分散機で水相を攪拌しながら油相を加えて、目的の体積中位径になるまで攪拌速度と攪拌時間を管理すればよい。また、油相を水相に分散したときの体積中位径が最終的な界面重合反応後の体積中位径に近い値となる。
撹拌機種としては、ヒスコトロン(マイクロテック・ニチオン(株)製)及びT.K.ホモミキサー(プライミクス(株) 製)などが挙げられる。撹拌速度としては、100~10000rpmの範囲で撹拌することが好ましく、1000~8000rpmがより好ましい。撹拌時間としては、0.1~30分の範囲で行うことが好ましく、0.5~15分の範囲がより好ましい。攪拌速度を速くすることにより、小さい体積中位径のマイクロカプセルを調製することができる。また、撹拌時間を長くすることによっても、小さい体積中位径のマイクロカプセルを調製することができる。
水相及び油相の温度は分散する有効成分の物性により最適な温度は異なるが、一般的には0.1~50℃の範囲が好ましく、1~30℃の範囲がより好ましい。
水相のpHは分散する有効成分の物性により最適なpHは異なるが、一般的には有効成分の安定性に寄与するpHが好ましい。本発明において、有機リン系殺虫剤を有効成分とする場合にはpH6~13とすることが好ましい。より好ましくはpH7~11である。
【0033】
界面重合法により本願に係るマイクロカプセルを調製する方法は、農薬有効成分、芳香族ポリイソシアネートおよび脂肪族ポリイソシアネートを含有する油相を、分散剤を含む水相中に分散後に、水溶性膜形成成分である硬化剤を滴下混合する方法が挙げられる。
水溶性膜形成成分としての硬化剤とは、ポリイソシアネートと反応して界面重合するポリアミン及び/又はポリオールである。すなわち、硬化剤としてポリアミンを使用した場合、ポリウレア膜のマイクロカプセルが調製される。一方、ポリオールを使用した場合、ポリウレタン膜のマイクロカプセルが調製されることになる。両剤を併用した場合は、ポリウレアとポリウレタンが共存した膜材質のマイクロカプセルが調製される。
【0034】
硬化剤として用いられるポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノトルエン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ピペラジンなどが挙げられ、単独またはこれら2種類以上の混合物を使用しても良い。エチレンジアミン、ジエチレントリアミンが特に好ましい。
【0035】
硬化剤として用いられるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられ、単独またはこれら2種類以上の混合物を使用しても良い。ジエチレングリコールまたはプロピレングリコールが特に好ましい。
【0036】
硬化剤は、そのまま、若しくはその水溶液として使用される。硬化剤を水溶液とするには、硬化剤の50重量%以下の濃度で使用することが好ましい。
硬化剤は、膜形成成分の反応性基が、ポリイソシアネートの反応性基に対してほぼ等しい当量(例えば、ポリイソシアネートとポリアミンとが用いられる場合では、イソシアネート基/アミノ基の当量比がほぼ1となる割合であり、0.8~1.5当量比が好ましい。)となるまで滴下し、当該界面重合に供せられる。
【0037】
具体的な製造方法としては、農薬有効成分とポリイソシアネートを含有する油相の微小油滴が前記水相成分中に分散したO/Wエマルジョンに、硬化剤を滴下することにより、硬化剤とポリイソシアネートとが油相成分微小油滴と水相成分との界面で反応し、界面重合反応によりマイクロカプセル膜が形成され、有効成分が内包されるマイクロカプセルを、前記水相中の分散液として得ることができる。
この界面重合反応を促進するために、反応温度を25~85℃ 、好ましくは40~80℃で、反応時間を30分~24時間、好ましくは1~12時間攪拌して反応させることが好ましい。
界面重合反応を促進する際に用いられる混合に用いられる撹拌機としては、ケミカルミキサー、スリーワンモーター等が挙げられる。
本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、硬化剤としてポリアミンを使用してポリウレア膜のマイクロカプセルであることが好ましい。
【0038】
このようにして得られるマイクロカプセル分散液に、必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤、浸透圧調節剤、pH調整剤、安定剤、着色剤、香料、界面活性剤などの公知の添加剤を適宜配合しても良い。
増粘剤としては、例えば、ローカストビーンガム、キサンタンガム等の天然多糖類、マグネシウムアルミニウムシリケート、ベントナイト等の鉱物質、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩等の半合成多糖類、ポリアクリル酸塩等の合成水溶性高分子が挙げられる。
凍結防止剤としては尿素、またはプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、などグリコール類が挙げられる。
防腐剤としてはプロクセルGXL(S)((商品名)、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、ロンザ・ジャパン(株)製)、2-メチルーイソチアゾリン-3-オン、ホルマリンなどが挙げられ、プロクセルGXL(S)が特に好ましい。
比重調節剤としては塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等の水溶性塩などが挙げられる。
浸透圧調節剤としてはマンニトール、グルコース、ソルビトールなどの糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの無機物が挙げられる・
pH調整剤としてはリン酸、酢酸、塩酸、クエン酸など酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど塩基類が挙げられる。
安定剤としてはBHT、酸化銅などが挙げられる。
着色剤としてローダミンB、黄色4号、青色1号、赤色2号などのタール色素、各種染料などが挙げられる。
香料としては、アセト酢酸エチル、アンスラニル酸メチル、ケイヒ酸エチル等のエステル類、カプロン酸、ケイ皮酸等の有機酸類、ゲラニオール、ケイ皮アルコール、シトラール、デシルアルコール等のアルコール類、バニリン、ピペロナール、ペリラアルデヒド、シンナムアルデヒド等のアルデヒド類、マルニトール、メチルβ―ナフチルケトン等のケトン類、メントール類などが挙げられる。
界面活性剤として分散安定化を目的とした各種分散剤など使用できる。
これらは単独で使っても、2つ以上を組み合わせて使用することも可能であるが、マイクロカプセル組成物に影響を与えないものが好ましく、増粘剤、防腐剤、グリコール類が特に好ましい。これらの添加剤は当該マイクロカプセル農薬組成物に対して0~30質量%の範囲内で使用することができる。
【0039】
本発明に係るマイクロカプセル製剤は、適用するマイクロカプセルの体積中位径が、有害生物の防除効力の発揮に大きく影響を及ぼすものである。ここでいう体積中位径とは体積基準での平均粒子径を表し、その集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブの50%となる点の粒子径をいう。
本発明のマイクロカプセル農薬組成物において、分散時及びマイクロカプセルの体積中位径は、例えば市販されているレーザー回折式粒度分布測定装置、具体的にはSALD2200((株)島津製作所 製)などを用いて、体積中位径の大きさとその分布状態を測定することにより求めることができる。
本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、体積中位径が15~50μmである。散布剤として用いられる農薬製剤は、散布時に使用するノズル径が細かいため、それに伴いマイクロカプセルは小さい体積中位径であることが望まれる。より好ましくは、体積中位径が15~45μmであり、更に好ましくは、20~30μmである。
【0040】
本発明のマイクロカプセル農薬組成物において、マイクロカプセルの膜質量含有率はマイクロカプセル全重量の1.0~5.0質量%である。マイクロカプセルの膜質量含有率は下記式(I)により算出される値である。
式(I) 膜質量含有率(%)=(膜質量(g)/マイクロカプセル全質量(g))×100
なお、式(I)において、マイクロカプセルの膜質量とは、マイクロカプセル農薬組成物中から濾過により水相を分離してマイクロカプセルのみを取り出し、さらに該マイクロカプセルから農薬有効成分、並びに有機溶剤等の任意成分を含む内包物を除去した後に残る残渣成分の質量である。また、マイクロカプセル全重量とは、マイクロカプセル農薬組成物中から濾過によりマイクロカプセルのみを取り出した際の質量である。
本発明において、マイクロカプセルの膜含有率(%)は1.0~5.0%であることが好ましい。
【0041】
本発明のマイクロカプセル農薬組成物において、該マイクロカプセルの膜厚は、40nm以上で100nm以下であることが好ましい。より好ましくは、50nm以上で90nm以下である。
マイクロカプセルの膜厚は下の近似式による計算方法にて算出した値である。
式(II) 膜厚=(膜物質質量/芯物質質量)×(芯物質密度/膜物質密度)×(体積中位径/6)
ここで、各質量及び密度は以下の数値を使用した。
膜物質質量=ポリイソシアネート質量+硬化剤質量(ポリイソシアネート中の全イソシアネートの反応に必要な硬化剤量)
芯物質質量=油相質量-ポリイソシアネート質量
芯物質密度=ポリイソシアネートを除く油相成分の密度を加重平均した密度
膜物質密度=ポリイソシアネート及び硬化剤の密度を加重平均した密度
【0042】
本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、通常、当該組成物の有効成分含量に対して10~10000倍に希釈され、茎葉散布、土壌混和、土壌灌注処理等で直接処理される。希釈液としては水を用いることが好ましい。または、希釈操作を行なわないで、マイクロカプセル調製に使用された水相成分である分散媒を除かないで、そのままマイクロカプセルスラリーとして土壌処理することも可能である。若しくは分散媒を除去してマイクロカプセル単体として土壌処理に用いることができる。若しくは、例えば、粉剤、粒剤など適宜公知の剤型に製剤化してもよい。
【0043】
本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、主に果樹、茶樹、野菜、花卉に発生する有害生物を防除する農薬として用いられる。
防除対象となる害虫としてはモモシンクイガ、ナシヒメシンクイ、リンゴハナゾウムシ、モンシロドクガ、リンゴフユシャク、リンゴワタムシ、クワコナカイガラムシ幼虫、ハマキムシ類、アブラムシ類、オオワタコナカイガラムシ類幼虫、ナシグンバイ、キンモンホソガ、アメリカシロヒトリ、シンクイムシ類、ウメシロカイガラムシ、ミドリヒメヨコバイ、キボシマルトビムシ、コナガ、キスジノミハムシ、アオムシ、アザミウマ類、ネギハモグリバエ、ネギコガ、ハダニ類、テントウムシダマシ、コガネムシ類幼虫、ハリガネムシ、シバオサゾウムシ幼虫、ナガシロシタバ、シバツトガ、スジキリヨトウ、ケラ、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、センチュウ類などが挙げられる。
【0044】
本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、農薬散布直後の初期効力と、その後の適切な残効性の両立を図ることができるものである。
マイクロカプセル製剤が有害生物に対して防除効果を発揮する作用機作としては、マイクロカプセルの物理的破壊により漏洩した農薬有効成分の、対象有害生物への接触や吸収による第1の機作、またはマイクロカプセルからの農薬有効成分の溶出による対象有害生物への接触や吸収による第2の機作が挙げられる。
害虫防除に関しては、害虫自体のサイズが大きい場合、対象害虫の運動や摂餌によるマイクロカプセルの破壊が可能であり、前記第1の作用機作による効果発現する。一方、害虫自体のサイズが小さい場合、マイクロカプセルから溶出した有効成分が微小害虫に接触し効果を発現する。
有効成分の安定性確保及び散布時の作業者への安全性の観点から、マイクロカプセル膜からの有効成分の溶出が抑制された製剤が望ましい。そこで、害虫防除有効成分を含有するマイクロカプセルは、散布直後の薬剤溶出を抑え、且つマイクロカプセルが光や乾燥により崩壊溶出して対象害虫の体内に取り込まれたり、体表面に付着したりしやすいよう、適切な体積中位径によるマイクロカプセル製剤とすることが効率的であり、斯様なマイクロカプセル製剤設計とすることが好ましい。
通常、マイクロカプセル製剤は残効性を長くするために、マイクロカプセルの膜厚を厚くしたり、膜を硬くすることで残効性を調整するが、残効性を長くすると活性成分の溶出性が低下するために初期効果が低下する。一方、膜厚を薄くしたり、柔らかくすると農薬有効成分の溶出性が大きくなり、有効成分の遊離成分含量が増大し、初期効果は確保されるものの、マイクロカプセルの強度が弱くなり安定性が低下し、製剤中のカプセル外有効成分量が増加したり、散布時の圧力でマイクロカプセルが壊れたりするという不具合が生じる。そこでマイクロカプセルの膜厚や硬度に適切に設定することでマイクロカプセルの安定性を高め、マイクロカプセルから溶出する有効成分量を増加させ、有害生物の接触量を増加させることにより、殺虫効果を高めるマイクロカプセル製剤設計をする必要がある。
本発明に係るマイクロカプセル農薬組成物は、分散剤としてリグニンスルホン酸塩を適用し、マイクロカプセル膜材として芳香族ポリイソシアネート:脂肪族ポリイソシアネート比が1.0:1.1~2.0の混合イソシアネート組成物を用いたポリウレア膜及び/又はポリウレタン膜のマイクロカプセル分散液とすることで、有効成分のカプセル内包率が97%以上で、散布圧力に耐性を備え、且つ散布後に有効成分溶出速度が速く初期効果を担保しつつ、散布作業者の薬剤暴露の問題を解決するマイクロカプセル農薬製剤を提供することができる。
【実施例】
【0045】
以下に製造例及び実施例により本発明を更に詳細に説明する。
ダイアジノン原体は日本化薬(株)製のもの(純度95.3%)を使用した。プロチオホス原体は市販されているトクチオン水和剤(アリスタライフサイエンス(株)製)を購入し、酢酸エチルで抽出し、濃縮後、精製したもの(純度94.4%)を使用した。
【0046】
調製したマイクロカプセルは以下の分析機器及び分析条件で体積中位径を測定した。
分析機器:レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD-2200、((株)島津製作所製)
測定方式:レーザー回折およびレーザー散乱法
測定範囲:0.03~1000μm
光源:半導体レーザー(波長680nm、出力3mW)
セル:フローセル方式
セル材質:石英ガラス製
ソフトウェア:WingSALD-2200
分析試料:調製したマイクロカプセルを有効成分が0.1~5重量%の濃度になるように水を添加し、分散して調製した。
【0047】
調製したマイクロカプセル組成物中のマイクロカプセル全質量および膜質量は以下の方法で測定および算出した。
調製したマイクロカプセル組成物0.5gを三角フラスコに量りとり、100mLの蒸留水で希釈した。希釈液をメンブランフィルター(材質、空孔サイズ1.0μm、直径47mm、ADVANTEC社製)でろ過し、残留物を蒸留水でよく洗浄した。その後、室温にて乾燥後に残留物量を測定し、その測定値をマイクロカプセル全質量(g)とした。
その後、ろ取したマイクロカプセルにアセトンを加えて、超音波またはホモジナイザーによる攪拌にてマイクロカプセルを完全に破壊した。そして、これをメンブランフィルター(材質、親水性PTFE、空孔サイズ1.0μm、直径47mm、ADVANTEC社製)にて濾過を行い、残留物をアセトンでよく洗浄した。残留物を乾燥させ、質量を測定し、その測定値をマイクロカプセル膜質量(g)とした。
以下の式にてマイクロカプセルの膜含有率(%)を算出した。
(式I) マイクロカプセルの膜含有率(%)=(マイクロカプセルの膜質量(g)/マイクロカプセル全質量(g))×100
【0048】
調製したマイクロカプセルにおける有効成分のカプセル内包率は、以下に示す分析方法により製剤中の全有効成分含有率、及びカプセル外の有効成分の遊離成分量を測定し、全有効成分量からカプセル外の有効成分の遊離成分量を控除してカプセル内有効成分量を算出し、これを製剤中の全有効成分量とカプセル内有効成分の割合で表すことにより、製剤中のカプセル内包率とした。
製剤中の全有効成分含有率の分析方法としては、マイクロカプセル組成物約1gを量りとり、内部標準物質及びアセトニトリル100mLを加えて、300回/分の速度で20分振とうし、上澄み1mLを0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、含量分析用の試料溶液とした。
試料溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析し、内標法により有効成分含量を測定し、有効成分含有率を求めた。
カプセル外有効成分の遊離成分量の分析方法は、マイクロカプセル組成物約0.5gをメスフラスコに量りとり、そこに水を加えて約400mLとした。量り取った試料量は記録した。300回/分の速度で10分振とうした後、さらに水を加えて正確に500mLとした。数回振とうして均一に混合した後、10mLを遠沈管に移し、遠心分離機にて遠心分離を3000rpmで1分間行った。上澄みを遊離成分量分析のための試料溶液とした。
試料溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析し、絶対検量法により有効成分の遊離成分量を求め、その後下記式(III)より有効成分のカプセル内包率を算出した。
式(III) カプセル内包率(%)=(((マイクロカプセル組成物試料量×有効成分含有率)―遊離成分量)/(マイクロカプセル組成物試料量×有効成分含有率))×100
【0049】
調製したマイクロカプセルの膜厚は以下の近似式による計算方法にて算出した。
式(II) 膜厚=(膜物質質量/芯物質質量)×(芯物質密度/膜物質密度)×(体積中位径/6)
ここで、各質量及び密度は以下の数値を使用した。
膜物質質量=ポリイソシアネート質量+硬化剤質量(ポリイソシアネート中の全イソシアネートの反応に必要な硬化剤量)
芯物質質量=油相質量-ポリイソシアネート質量
芯物質密度=ポリイソシアネートを除く油相成分の密度を加重平均した密度
膜物質密度=ポリイソシアネート及び硬化剤の密度を加重平均した密度
実施例の膜厚計算に以下の密度(比重)値を使用した。
ダイアジノン:1.117
プロチオホス:1.310
MR-400:1.240
MR-100:1.231
TMDI:1.020
ソルベッソ150ND:0.886
JXノルマルパラフィン:0.750
ジエチレントリアミン:0.955
エチレンジアミン:0.960
【0050】
実施例1
(2-イソプロピル-4-メチルピリミジル-6)-ジエチルチオフォスフェート(一般名:ダイアジノン、純度95.2%)31.6質量部に、油溶性膜形成成分としてMR-400((商品名)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、東ソー(株)製)0.18質量部、及びTMDI((商品名)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、エボニック・ジャパン(株)製)0.27質量部、芳香族系溶剤としてソルベッソ150ND(商品名、高沸点芳香族系溶剤)を10.0質量部加えて、均一に混合し油相成分を調製した。
別の容器に、PVA-217((商品名)、ポリビニルアルコール、クラレ(株)製)0.3質量部、サンエキスP-252((商品名)、リグニンスルホン酸塩、日本製紙(株)製)1.0質量部、塩化ナトリウム2.0質量部、水道水を40.0質量部入れ、水相成分を調製した。
300mLのセパラブルフラスコに油相成分と水相成分を入れ、ヒスコトロン(マイクロテック・ニチオン(株)製)を用い、2500rpmの回転数で4分間攪拌後、5000rpmで2分攪拌して油相成分を分散し、O/W型のエマルジョンを調製した。これに水溶性膜形成成分としてジエチレントリアミン((試薬)、ハンツマンジャパン(株)製)0.3質量部及び水道水0.68質量部の混合溶液を加え、攪拌下、60℃で3時間反応させ、マイクロカプセル含有液を調製した。
これに、沈降防止剤としてプロピレングリコール((商品名)、ADEKA(株)製)10質量部、ロードポール23((商品名)、キサンタンガム、ソルベイ日華(株)製)0.15質量部、セオラスRC591((商品名)、カルボキシメチルセルロース、旭化成(株)製)、0.25質量部、プロクセルGXL(S)((商品名)、殺菌剤、ロンザジャパン(株)製)を0.2質量部、水道水3.07質量部を加え均一に混合し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は23.3μmであった。カプセル内包率は99.3%、マイクロカプセルの膜含有率は1.6%、膜厚は54nmであった。
【0051】
実施例2
実施例1における油相のMR-400を0.23質量部に、TMDIを0.33質量部に変え、水溶性膜形成成分であるジエチレントリアミンを0.4質量部に、その水道水を0.8質量部に変え、沈降防止剤を含有する水道水を2.74質量部に変え、それ以外はすべて同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は24.3μmであった。カプセル内包率は99.6%、マイクロカプセルの膜含有率は2.3%、膜厚は70nmであった。
【0052】
実施例3
実施例1における油相のMR-400を0.21質量部に、TMDIを0.315質量部に、ソルベッソ150NDを15.0質量部に、沈降防止剤中のプロピレングリコールを5.0質量部に変え、その水道水を2.875質量部に変え、それ以外はすべて同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は22.4μmであった。カプセル内包率は99.3%、マイクロカプセルの膜含有率は1.8%、膜厚は53nmであった。
【0053】
実施例4
実施例3における水相のPVA-217を0質量部に、その水道水を40.3質量部に変え、それ以外はすべて同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は23.0μmであった。カプセル内包率は99.4%、マイクロカプセルの膜含有率は1.7%、膜厚は54nmであった。
【0054】
実施例5
実施例4における分散剤を含有する水相の水道水を42.3質量部に、塩化ナトリウムを0質量部に変え、それ以外はすべて同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は22.4μmであった。また、マイクロカプセルの膜厚の計算値は53nmであった。カプセル内包率は99.2%、マイクロカプセルの膜含有率は2.8%であった。
【0055】
実施例6
実施例3における油相のダイアジノンをプロチオホスに変更し、それ以外はすべて同様に操作し、プロチオホス含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は29.1μmであった。カプセル内包率は99.3%、マイクロカプセルの膜含有率は2.0%、膜厚は77nmであった。
【0056】
比較例1
(2-イソプロピル-4-メチルピリミジル-6)-ジエチルチオフォスフェート(一般名:ダイアジノン、純度95.2%)31.6質量部に、油溶性膜形成成分としてMR-400((商品名)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、東ソー(株)製)0.12質量部、及びTMDI((商品名)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、エボニック・ジャパン(株)製)0.31質量部、有機溶剤としてソルベッソ150ND(商品名)を10.0質量部加えて、均一に混合し油相成分を調製した。
別の容器に、PVA-217((商品名)、ポリビニルアルコール、クラレ(株)製)0.3質量部、サンエキスP-252((商品名)、リグニンスルホン酸塩、日本製紙(株)製)1.0質量部、塩化ナトリウム2.0質量部、水道水を40.0質量部入れ、水相成分を調製した。
300mLのセパラブルフラスコに油相成分と水相成分を入れ、ヒスコトロン(マイクロテック・ニチオン(株)製)を用い、2500rpmの回転数で4分間攪拌後、5000rpmで2分攪拌して油相成分を分散し、O/W型のエマルジョンを調製した。これに水溶性膜形成成分としてジエチレントリアミン((試薬)、ハンツマンジャパン(株)製)0.3質量部及び水道水0.7質量部の混合溶液を加え、攪拌下、60℃で3時間反応させ、マイクロカプセル含有液を調製した。
これに、沈降防止剤としてプロピレングリコール((商品名)、ADEKA(株)製)10質量部、ロードポール23((商品名)、キサンタンガム、ソルベイ日華(株)製)0.15質量部、セオラスRC591((商品名)、カルボキシメチルセルロース、旭化成(株)製)、0.25質量部、プロクセルGXL(S)((商品名)、殺菌剤、ロンザジャパン(株)製)を0.2質量部、水道水3.07質量部を加え均一に混合し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は24.1μmであった。カプセル内包率は98.8%、マイクロカプセルの膜含有率は1.4%、膜厚は55nmであった。
【0057】
比較例2
比較例1における油相のMR-400を0.21質量部に、TMDIを0.315質量部に、ソルベッソ150NDを15質量部に、水相におけるサンエキスP-252を0質量部に、水溶性膜形成成分を含有する水道水を0.8質量部に、沈降防止剤を含む水道水を2.875質量部に変え、それ以外は全て同様に操作した。
しかしながら、界面重合中にゲル化してしまい、マイクロカプセル組成物は得られなかった。
【0058】
比較例3
比較例1における油相のMR-400を0.21質量部に、TMDIを0.315質量部に、ソルベッソ150NDを15質量部に、水相におけるサンエキスP-252をモルウェットD-425((商品名)、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株))に、水溶性膜形成成分を含有する水道水を0.8質量部に、沈降防止剤を含む水道水を2.875質量部に変え、それ以外は全て同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は6.0μmであった。カプセル内包率は80.5%、マイクロカプセルの膜含有率は5.8%、膜厚は14nmであった。
【0059】
比較例4
比較例1における油相のMR-400を0.21質量部に、TMDIを0.315質量部に、ソルベッソ150NDを15質量部に、水相におけるサンエキスP-252をアグロサーフWG-2300((商品名)、アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩)に、水溶性膜形成成分を含有する水道水を0.8質量部に、沈降防止剤を含有する水道水を2.875質量部に変え、それ以外は全て同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は11.5μmであった。カプセル内包率は84.4%、マイクロカプセルの膜含有率は2.62%、膜厚は27nmであった。
【0060】
比較例5
比較例1における油相のMR-400を0.21質量部に、TMDIを0.315質量部に、ソルベッソ150NDを15質量部に、水相のサンエキスP-252をニューカルゲンWG-5((商品名)、ポリカルボン酸金属塩)に、水溶性膜形成成分を含有する水道水を0.8質量部に、沈降防止剤を含有する水道水を2.875質量部に変え、それ以外は全て同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は15.5μmであった。カプセル内包率は96.9%、マイクロカプセルの膜含有率は3.0%、膜厚は37nmであった。
【0061】
比較例6
比較例1における油相のMR-400を0.263質量部に、TMDIを0.263質量部に、ソルベッソ150NDを15質量部に、水溶性膜形成成分を含有する水道水を0.8質量部に、沈降防止剤を含有する水道水を2.875質量部に変え、それ以外は全て同様に操作し、ダイアジノン含量が30重量%のマイクロカプセル農薬組成物を含有する分散液を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は23.6μmであった。カプセル内包率は99.7%、マイクロカプセルの膜含有率は2.3%、膜厚は55nmであった。
【0062】
比較例7
比較例1の(2-イソプロピル-4-メチルピリミジル-6)-ジエチルチオフォスフェート(一般名:ダイアジノン)を27.1質量部に、油相のMR-400を1.0質量部に、及びTMDIを1.0質量部に、K-800((商品名)、エポキシ化大豆油)を2.0質量部とJXノルマルパラフィン((商品名)、炭化水素系溶剤、JXTGエネルギー(株)製)7.5質量部を追加し、ソルベッソ150NDを0.0質量部に変えた。水相の水道水を40.0質量部、サンエキスP-252を0.0質量部、水溶性膜形成剤のエチレンジアミンを0.3質量部追加し、水道水を0.8質量部に変更した。沈降防止剤のキサンタンガムを0.1質量部に、沈降防止剤を含有する水道水を13.75質量部に変更し、それ以外は全て同様に操作し、ダイアジノン含量が25重量%のマイクロカプセル農薬組成物を得た。
得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は40.0μmであった。カプセル内包率は99.9%、マイクロカプセルの膜含有率は7.7%、膜厚は450nmであった。
【0063】
実施例の製剤はいずれも99%以上の高いカプセル内包率を示した。リグニンスルホン酸塩を分散剤として適用することで分散時に高い分散安定性を維持していることから、カプセル化が速やかに安定して進行しカプセル膜が強固になったためと考えられる。一方、比較例のカプセル内包率は分散剤にリグニンスルホン酸塩を使用した比較例1と比較例6、膜厚の厚い比較例7を除いて全て97%未満であった。カプセル内包率の低いマイクロカプセル農薬組成物は、分散安定性が比較的悪いため、界面重合時にマイクロカプセル膜をうまく形成できない部分できたと考えられる。
【0064】
試験例2(散布圧試験)
実施例及び比較例の希釈液を調製し、動力噴霧器を使用して薬剤散布操作を実施し、希釈液中の散布前後のマイクロカプセル外の有効成分の遊離成分量を測定し、計算から製剤中のカプセル内包率を測定することで、マクロカプセルの耐散布圧性能を評価した。その結果を表1に示した。
散布圧試験は以下の方法で実施した。
水道水50Lに製剤50mLを希釈して散布用希釈液を調製後、2.0MPaの散布圧でポリフィルムに散布し、散布液を回収した。
(使用機器)
動力噴霧器:BIG M GS205
使用ノズル:D8扇形ノズル(ヤマホ(株)製)
(使用製剤)
実施例1、2、3、比較例1
【0065】
希釈液中のマイクロカプセル外の遊離成分量の分析方法としては、マイクロカプセル製剤1000倍希釈液約100mLを、孔径45μmのメンブランフィルターに通してマイクロカプセルをろ過し、試料溶液とした。別に有効成分約20ppmのアセトニトリル溶液を調製し、標準溶液とした。標準溶液及び試料溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析し、絶対検量線法により有効成分の遊離成分濃度を求め、その後下記式IV及び式IIIより有効成分のカプセル内包率を算出した。
【0066】
式(IV) 遊離成分量(mg)=標準溶液濃度(ppm)×(試料溶液のピーク面積/標準溶液のピーク面積)×希釈液量(L)
【0067】
【0068】
実施例の製剤は散布後でも高いカプセル内包率を示した。通常スピードスプレーヤー等の農薬散布では1.5MPa程度で散布されることが多いため、本実施例の製剤は散布後もカプセルが壊れることなく、作業者への安全性が確保される。
【0069】
試験例3(消失性試験)
シャーレに実施例1、2、3及び比較例6、7のマイクロカプセル農薬組成物製剤の200倍希釈液を2mL加え、乾燥後、温室にて放置し、初期値3、7日後の有効成分量を分析し、初期からの減衰率を計算した。その結果を表2に示した。
[表2]
【0070】
実施例の製剤は速やかに消失し、その後は時間とともに減衰が進み7日後には90%以上消失していることから、有効成分の初期効果が期待でき、作物への農薬の残留の懸念も少ないと考えられる。一方、比較例の製剤は7日後でも60%程度しか消失しないため、初期効果が期待できず、有効成分の残留が懸念される。
以上より、本発明のマイクロカプセル農薬組成物は、従来では不可能であった高いカプセル内包率と高い耐圧性と速やかな有効成分の放出を同時に可能にする。