(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021108229
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D-30165 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏次
(72)【発明者】
【氏名】徳田 将則
(72)【発明者】
【氏名】石田 正穂
(72)【発明者】
【氏名】福田 純也
(72)【発明者】
【氏名】宮▲迫▼ 賢一
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-008576(JP,A)
【文献】特開2006-343309(JP,A)
【文献】特開2009-151606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の少なくとも後側方に存在する物標を検出し、前記検出された物標の観測位置を含む情報を物標情報として取得する物標情報取得装置と、
前記物標が前記自車両に接近又は接触する可能性がある対象物標である場合に前記物標の存在を報知して警報する警報制御を実行可能な制御ユニットと、
を備えた車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記自車両が現在の地点まで走行してきた軌跡である走行軌跡を含む走行軌跡情報を記憶可能な記憶部を備え、
前記自車両の走行中においては、前記物標が対象物標であるか否かを、前記物標情報と、前記走行軌跡情報と、に基づいて判定し、
前記自車両の停車中においては、前記物標が対象物標であるか否かを、前記物標情報に基づいて判定し、前記走行軌跡情報を用いない、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記物標が対象物標であるか否かを、少なくとも物標の位置に基づいて判定し、
前記自車両の走行中においては、前記物標の位置を、前記物標情報に含まれる前記物標の観測位置と、前記走行軌跡情報と、に基づいて演算し、
前記自車両の停車中においては、前記物標の位置として前記物標の観測位置を用いる、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記自車両の走行中においては、前記自車両の後側方における所定領域に存在する物標又は前記自車両の後側方から接近する物標を対象物標として、その存在を報知して警報するブラインドスポットモニタ制御を前記警報制御として実行する、
ように構成された、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記自車両の停車中においては、前記自車両の乗員の安全な降車を阻害する可能性がある物標を対象物標として、その存在を報知して警報する降車支援制御を前記警報制御として実行する、
ように構成された、
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停車中における警報制御の不要作動及び不作動を抑制することが可能な車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の少なくとも後側方に存在する物標を検出可能な物標情報取得装置(例えば、レーダセンサ)を備えた車両制御装置が知られている(以下、車両制御装置が搭載された車両を「自車両」とも称する。)。物標情報取得装置は、物標の観測位置等を演算して物標情報として取得する。車両制御装置は、少なくとも物標情報に基づいて、様々な警報制御(物標の存在を報知して警報する制御)を実行するようになっている。その一例として、ブラインドスポットモニタ(BSM: Blind Spot Monitor)制御が挙げられる。BSM制御は、走行中に自車両の後側方における所定領域(特に、サイドミラーでは確認し難い死角領域)に存在する物標又は自車両の後側方から接近する物標が検出された場合に実行される警報制御である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
車両制御装置は、物標がBSM制御の対象となる物標であるか否かを、物標情報と、自車両の走行軌跡を含む情報(走行軌跡情報)と、に基づいて判定するように構成されている。一般に、自車両は道路形状に沿って走行するため、その走行軌跡は道路形状に良く一致している。物標は、自車両の走行挙動に類似した挙動で走行すると考えられる。このため、物標がBSM制御の対象となる物標であるか否かを判定するに際し、物標情報だけではなく走行軌跡情報にも基づいて判定を行うことにより、物標の位置を精度良く演算でき、結果としてBSM制御を適切に実行することができる。これは、BSM制御に限られず、走行中に実行される他の警報制御についても同様である。
【0005】
ここで、車両制御装置によって実行される警報制御は、BSM制御のような自車両の走行中に実行される制御に限られず、停車中に実行される制御も含む。その一例として、降車支援制御が挙げられる。降車支援制御は、停車中に自車両の乗員の安全な降車を阻害する可能性がある物標が検出された場合に実行される警報制御である。ここで、物標が降車支援制御の対象となる物標であるか否かを、物標情報と走行軌跡情報とに基づいて判定すると、物標の位置の演算精度が低下し、その結果、降車支援制御が不要な場面で当該制御が実行されたり(不要作動)、降車支援制御が必要な場面で当該制御が実行されなかったりする(不作動)事態が発生する可能性がある。これは、停車中においては、走行軌跡情報に含まれる走行軌跡が道路形状と大きく相違する可能性が高いためであると考えられる。即ち、例えば、自車両が道路を走行している状態から路肩に移動して停止状態に移行する場合、走行軌跡は、路肩に向かって緩やかに旋回する形状となり、道路形状と大きく相違する。このため、物標情報と走行軌跡情報とに基づいて上記判定を行うと、物標の位置に「道路形状と大きく異なる走行軌跡」が反映されるためであると考えられる。これは、降車支援制御に限られず、停車中に実行される他の警報制御についても同様である。
【0006】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、停車中における警報制御の不要作動及び不作動を抑制することが可能な車両制御装置を提供することにある。
【0007】
本発明による車両制御装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
自車両の少なくとも後側方に存在する物標を検出し、前記検出された物標の観測位置を含む情報を物標情報として取得する物標情報取得装置(12)と、
前記物標が前記自車両に接近又は接触する可能性がある対象物標である場合に前記物標の存在を報知して警報する警報制御を実行可能な制御ユニット(10)と、
を備える。
前記制御ユニット(10)は、
前記自車両が現在の地点まで走行してきた軌跡である走行軌跡(T)を含む走行軌跡情報を記憶可能な記憶部を備え、
前記自車両の走行中においては、前記物標が対象物標であるか否かを、前記物標情報と、前記走行軌跡情報と、に基づいて判定し、
前記自車両の停車中においては、前記物標が対象物標であるか否かを、前記物標情報に基づいて判定し、前記走行軌跡情報を用いない、
ように構成されている。
【0008】
自車両の停車中に記憶部に記憶される走行軌跡は、道路形状と大きく異なっている可能性が高い。このため、停車中においても走行中と同様に物標情報と走行軌跡情報とに基づいて物標が対象物標であるか否かを判定すると、物標の位置の演算精度が低下し、その結果、警報制御の不要作動及び不作動の問題が発生する可能性がある。そこで、本発明装置は、物標が対象物標であるか否かを、自車両の走行中においては物標情報と走行軌跡情報とに基づいて判定する一方で、自車両の停車中においては物標情報に基づいて判定し、走行軌跡情報を用いないように構成されている。この構成によれば、停車中において物標の位置精度が低下し難くなるため、警報制御の不要作動及び不作動を抑制できる。
【0009】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
前記物標が対象物標であるか否かを、少なくとも物標の位置に基づいて判定し、
前記自車両の走行中においては、前記物標の位置を、前記物標情報に含まれる前記物標の観測位置と、前記走行軌跡情報と、に基づいて演算し、
前記自車両の停車中においては、前記物標の位置として前記物標の観測位置を用いる、
ように構成されている。
【0010】
この構成によれば、停車中において、警報制御の不要作動及び不作動を抑制しながら、物標の位置を適切に取得することができる。
【0011】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
前記自車両の走行中においては、前記自車両の後側方における所定領域(B)に存在する物標又は前記自車両の後側方から接近する物標を対象物標として、その存在を報知して警報するブラインドスポットモニタ制御を前記警報制御として実行する、
ように構成されている。
【0012】
この構成によれば、ブラインドスポットモニタ制御を適切に実行することができる。
【0013】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
前記自車両の停車中においては、前記自車両の乗員の安全な降車を阻害する可能性がある物標を対象物標として、その存在を報知して警報する降車支援制御を前記警報制御として実行する、
ように構成されている。
【0014】
この構成によれば、降車支援制御を適切に実行することができる。
【0015】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両制御装置(本実施装置)の概略構成図である。
【
図2】本実施装置が備えるレーダセンサの立体物検出範囲を示す図である。
【
図3】ブラインドスポットモニタ制御及び当該制御が実行される場合における物標の位置の演算方法について説明するための図である。
【
図4】降車支援制御及び当該制御が実行される場合における物標の位置の演算方法について説明するための図である。
【
図5A】降車支援制御の不要作動について説明するための図である。
【
図5B】降車支援制御の不作動について説明するための図である。
【
図6】本実施装置の車両制御ECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図7】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図8】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(構成)
以下、本発明の実施形態に係る車両制御装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施装置は、車両制御ECU10、及び、これに接続された車速センサ11、レーダセンサ12、ドア開閉センサ13、サイドミラーインジケータ20、及び、ブザー21を備える。車両制御ECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。以下では、本実施装置が搭載された車両を「自車両」と称する。
【0018】
車両制御ECU10は、上記センサ11乃至13が発生又は出力する信号を所定の時間が経過する毎に取得し、取得した信号に基づいてサイドミラーインジケータ20又はブザー21を制御するように構成されている。以下では、車両制御ECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0019】
車速センサ11は、自車両の走行速度(以下、「車速」と称する。)に応じた信号を発生する。ECU10は、車速センサ11が発生した信号を取得し、当該信号に基づいて車速を演算する。ECU10は、車速がゼロではない場合、自車両が走行状態にある(走行中である)と判定し、車速がゼロの場合、自車両が停止状態にある(停車中である)と判定する。
【0020】
レーダセンサ12(物標情報取得装置)は、自車両の後方(真後ろ及び後側方)に存在する立体物(物標)に関する情報を取得する機能を有している。立体物は、車両、自転車、歩行者等の移動物である。
【0021】
図2に示すように、レーダセンサ12は、自車両Vの左後方角部に設けられた左レーダセンサ12Lと、自車両Vの右後方角部に設けられた右レーダセンサ12Rと、を含む。レーダセンサ12は、ミリ波帯の電波を自車両の周囲に照射する。具体的には、左レーダセンサ12Lは、自車両の左後方の左側領域RLを含む範囲に電波を照射し、右レーダセンサ12Rは、自車両の右後方の右側領域RRを含む範囲に電波を照射する。左側領域RL及び右側領域RRは、何れも自車両Vから後方に離間するにつれて車幅外側方向及び車幅内側方向に長くなる形状となっている。なお、
図2では、便宜上、領域RL及びRRの自車両Vに対する比率等は変更して図示されている。
【0022】
レーダセンサ12は、立体物が電波の照射範囲内に存在する場合、その立体物からの反射波を受信する。レーダセンサ12は、電波の照射タイミングと受信タイミングと等に基づいて、立体物の有無、及び、自車両と立体物との相対関係(自車両に対する立体物の観測位置(距離及び方位)、及び、自車両に対する立体物の相対速度等)を演算する。立体物の相対速度は、立体物の観測位置を時間微分することにより演算され得る。別言すれば、レーダセンサ12は、自車両の後方に存在する立体物を検出する。以下では、レーダセンサ12によって検出された立体物(即ち、領域RL又はRRに存在する立体物)を「物標」とも称する。レーダセンサ12は、物標に関するこれらの情報を物標情報としてECU10に出力する。
【0023】
なお、物標情報を取得するセンサはレーダセンサ12に限られない。例えば、レーダセンサ12に代えて、又は、加えて、レーザーレーダセンサ、超音波センサ、及び/又は、カメラセンサ等が用いられてもよい。
【0024】
図1に戻って説明を続ける。ドア開閉センサ13は、自車両が有する複数のドア(より詳細には、サイドドア)のそれぞれに設けられている。ドア開閉センサ13は、ドアの開閉状態を検出する。ドア開閉センサ13は、ドアが開状態にあることを検出した場合、開状態が検出されている期間中、当該ドアが開状態にあることを示す開信号を発生する。ドア開閉センサ13は、ドアが閉状態にあることを検出した場合、閉状態が検出されている期間中、当該ドアが閉状態にあることを示す閉信号を発生する。ECU10は、これらのドア開閉センサ13のそれぞれが開信号及び閉信号の何れを発生しているかを検出し、その検出結果に基づいて、そのドア開閉センサ13に対応するドアが開状態であるのか閉状態であるのかを検出する。
【0025】
サイドミラーインジケータ20は、自車両の左右のサイドミラーのそれぞれの所定の位置に設けられており、ECU10からの指令に基づいて互いに独立して点灯したり消灯したりするように構成されている。ブザー21は、メーターパネル(図示省略)に内蔵されており、ECU10からの指令に基づいて鳴動するように構成されている。
【0026】
(作動の詳細)
次に、ECU10の作動の詳細について説明する。ECU10は、レーダセンサ12から取得される物標情報に基づいて物標が検出されたと判定した場合、当該物標が自車両に接近又は接触する可能性がある対象物標であるか否かを判定し、物標が対象物標である場合には当該物標の存在を報知して警報する警報制御を実行可能に構成されている。本実施形態では、ECU10は、自車両の走行中においては警報制御としてブラインドスポットモニタ制御(BSM制御)を実行し、自車両の停車中においては警報制御として降車支援制御を実行する。
【0027】
ECU10は、物標が対象物標であるか否かを判定する際に依拠する情報を、自車両が走行中の場合と停車中の場合とで変更するように構成されている。即ち、走行中においては、物標が対象物標であるか否かを、物標情報と、走行軌跡情報(後述)と、に基づいて判定する一方で、停車中においては、物標が対象物標であるか否かを、物標情報に基づいて判定し、走行軌跡情報を用いないように構成されている。
【0028】
即ち、ECU10は、物標が対象物標であるか否かを少なくとも物標の位置に基づいて判定する(本実施形態では、BSM制御については物標の位置に基づいて判定し、降車支援制御については物標の位置及び移動方向に基づいて判定する(後述)。)が、自車両が走行中の場合と停車中の場合とで物標の位置の演算方法を変更する。以下、詳細に説明する。
【0029】
[走行中]
まず、自車両が走行中の場合について説明する。
図3は、自車両V及び他車両Vtaが紙面上方(矢印参照)に直進している様子を示す。他車両Vtaは、自車両Vの右後側方(後述する右後側方領域BR)を走行している。ECU10は、走行中に検出された物標が後側方領域B内に位置しているときに成立するBSM条件が成立している場合、当該物標は対象物標であると判定してBSM制御を実行する。本実施形態では、ECU10は、サイドミラーインジケータ20(厳密には、左右のサイドミラーインジケータのうち物標が検出された側のサイドミラーインジケータ20)を点灯させる処理をBSM制御として実行する。
【0030】
後側方領域Bは、自車両の後側方に拡がる所定領域であり、自車両の運転者がサイドミラーでは確認し難い死角領域を含んでいる。
図3に示すように、後側方領域Bは、自車両に対して左側に位置する左後側方領域BLと、自車両に対して右側に位置する右後側方領域BRと、から成る。左後側方領域BLは、左側領域RL(
図2参照)に含まれており、右後側方領域BRは、右側領域RR(
図2参照)に含まれている。領域BL及びBRは、互いに同一の大きさ及び形状を有する。本実施形態では、領域BL及び領域BRは矩形状を呈するが、形状はこれに限られず、例えば、楕円形状であってもよい。また、両者の大きさは異なっていてもよい。なお、
図3では、便宜上、領域BL及びBRの自車両Vに対する比率等は変更して図示されている。
【0031】
走行中においては、ECU10は、周知の位置推定手法を用いて物標の位置を演算する。本実施形態では、ECU10は、カルマンフィルタにより状態空間モデルの状態を推定することにより物標の位置を演算(推定)する。以下、この手法の概要を簡単に説明する。状態空間モデルは、状態方程式及び観測方程式を備える。この手法では、まず、状態方程式に基づいて、「一周期前の状態」から「現周期の状態」が推定される。次に、観測方程式に基づいて、「現周期の状態」から「物標の観測位置」が予測される(以下、この観測位置を、レーダセンサ12から取得された物標情報に含まれる物標の観測位置と区別するために、「予測観測位置」と称する。)。続いて、「現周期の状態」が、物標情報に含まれる物標の観測位置を用いて補正(フィルタリング)される。物標情報に含まれる物標の観測位置は、レーダセンサ12が受信した反射波に基づいて演算された観測位置である。このため、以下では、この観測位置を「実観測位置」と称する。「現周期の状態」は、「実観測位置」と「予測観測位置」との差分に基づいて補正される。これらの処理を繰り返すことにより、状態が補正されていき(即ち、状態の予測誤差の分散が小さくなっていき)、「予測観測位置」が精度良く演算される。「予測観測位置」を演算することが、物標の位置を演算することに相当する。
【0032】
この状態空間モデルは、走行軌跡情報を含むように構築されている。走行軌跡情報は、自車両が現在の地点まで走行してきた軌跡である走行軌跡を含む情報であり、本実施形態では、自車両の後端中央部の位置座標の経時的な推移を含む情報である。具体的には、ECU10は、自車両の後端中央部を原点とし、自車両の前後方向に延びるx軸と、車幅方向(左右方向)に延びるy軸と、を有するxy座標系(
図3では図示省略)を設定する。そして、自車両の後端中央部(即ち、原点)の過去の位置座標を自車両の移動量に基づいて補正していくことにより、後端中央部の位置座標の経時的な推移を走行軌跡として演算する。ECU10は、所定の距離に亘る走行軌跡を走行軌跡情報として自身のRAMに格納(記憶)し、走行中は、走行軌跡情報を常に更新する。
【0033】
状態空間モデルが走行軌跡情報を含むことにより、「予測観測位置」は自車両の走行軌跡が反映された値となる。自車両の後方にて検出された物標は、自車両と同一の道路(異なる車線を含む)を走行している可能性が高いため、自車両の走行挙動と類似した挙動で走行する可能性が高い。例えば、自車両が直線道路を直進しているときは物標も直進し、自車両がカーブ路に沿って緩やかに旋回しているときは物標も同方向に緩やかに旋回する可能性が高い。このため、走行中においては、走行軌跡情報を含んだ状態空間モデルを用いて演算された物標の予測観測位置を物標の位置として用いることにより、物標の位置を精度良く演算(推定)している。
【0034】
図3の例では、レーダセンサ12Rにより他車両Vtaが検出されている(即ち、物標情報には他車両Vtaの実観測位置が含まれている。)。本例では自車両Vは直進しているため、走行軌跡Tは直線状である。ECU10は、上述した位置推定手法で他車両Vtaの位置を演算する。即ち、物標情報に含まれる他車両Vtaの実観測位置と、直線状の走行軌跡Tを含む走行軌跡情報と、に基づいて他車両Vtの位置を演算する。このようにして演算された他車両Vtの位置は、実際の位置とよく一致しており、その結果、BSM条件が成立している。従って、ECU10は、他車両Vtは対象物標であると判定して、BSM制御を実行する。
【0035】
[停車中]
続いて、自車両が停車中の場合について説明する。
図4は、停車中の自車両Vの右後側方を他車両Vtbがx軸方向に直進している様子を示す。ECU10は、停車中に阻害物標(後述)が検出され、且つ、ドア(厳密には、阻害物標が検出された側のドア)が開状態であるときに成立する降車支援条件が成立している場合、当該物標は対象物標である(別言すれば、自車両の乗員の安全な降車を阻害する可能性がある)と判定して降車支援制御を実行する。本実施形態では、ECU10は、ブザー21を鳴動させる処理を降車支援制御として実行する。
【0036】
ECU10は、停車中に物標が検出されると、当該物標が自車両の側方付近を通過する可能性があるか否かを判定する。通過する可能性がある場合、物標が自車両に接触又は最接近するまでに要すると予測される予測時間(衝突予測時間(Time To Collision)。以下、「TTC」とも称する。)を演算する。TTCが所定の時間閾値TTCth以下である場合、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出する。
【0037】
図4を参照してより詳細に説明する。ECU10は、停車中に物標が検出されると、まず、その速度ベクトルAを演算し、その始点を物標の近接部npに設定する。近接部npは、物標の前端部のうちy軸方向において自車両Vに最も近接している部分である。ここで、停車中においては、ECU10は、物標の位置として物標の実観測位置(即ち、レーダセンサ12から取得された物標情報に含まれる物標の観測位置)を用いる。即ち、ECU10は、停車中においては物標の位置を決定する際に上述した位置推定手法を用いない(走行軌跡情報を用いない)。速度ベクトルAは、このようにして決定された物標の位置に基づいて設定される。なお、速度ベクトルAの向き及び大きさは、物標情報に含まれる物標の相対速度(自車両の停車中においては、物標の絶対速度に等しい)に基づいて演算され得る。即ち、速度ベクトルAは、現時点における物標の移動方向を表している。
【0038】
次に、ECU10は、速度ベクトルAの延長線が交差判定線Lと交差するか否かを判定する。交差判定線Lは、左側交差判定線LLと、右側交差判定線LRと、を含む。左側交差判定線LLは、自車両Vの左後方角部から車幅外側方向に延びており、右側交差判定線LRは、自車両Vの右後方角部から車幅外側方向に延びている。本実施形態では、自車両Vの左右の後方角部の中央は後端中央部(原点)と一致しているため、交差判定線Lは、y軸上に位置している。左右の交差判定線LL及びLRの長さは互いに同一(例えば、約1.3[m])であり、「自車両Vの乗員が降車している最中に物標がこれらの判定線LL、LR上の任意の位置を通過すると自車両Vのドア又は乗員と接触する可能性がある」程度の長さとなるように、実験又はシミュレーションにより予め設定されている。
【0039】
ECU10は、物標の速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差する(別言すれば、当該延長線とy軸との交点Pが交差判定線L上に位置している)場合、物標が自車両の側方付近を通過する可能性があると判定する。そして、「物標が交差判定線Lと交差するまでに要すると予測される時間(別言すれば、物標が交点Pに到達するまでに要すると予測される時間)」をTTCとして演算する。TTCは、「近接部npから交点Pまでの距離」を「物標の現時点の速度」で除算することにより演算され得る。
【0040】
物標が将来的に左側交差判定線LLと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が左側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を左側のドアに対する阻害物標として検出する。
一方、物標が将来的に右側交差判定線LRと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が右側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を右側のドアに対する阻害物標として検出する。
【0041】
他方、物標が将来的に左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差するものの、TTCがTTCthを超えている場合、ECU10は、当該物標は(現時点では)乗員の安全な降車を阻害する可能性はないと判定し、当該物標を阻害物標として検出しない。
これに対し、物標の速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れとも交差しない(別言すれば、当該延長線とy軸との交点Pが交差判定線L上に位置していない)場合、TTCは演算され得ず、従って、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出しない。
【0042】
図4の例では、交点Pは、右側交差判定線LR上に位置している(即ち、他車両Vtは、将来的に右側交差判定線LRと交差する。)。このため、ECU10は、他車両VtについてTTCを演算し、TTCがTTCth以下の場合は他車両Vtを右側のドアに対する阻害物標として検出し、TTCがTTCthを超えている場合は他車両Vtを阻害物標として検出しない。
【0043】
ECU10は、阻害物標が検出された場合、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいて、阻害物標が検出された側のドアが開状態であるか否かを判定する。そして、開状態の場合、降車支援条件が成立していると判定する。
図4の例では、他車両VtbがTTC≦TTCthを満たしており、且つ、右側のドアが開状態の場合、ECU10は、降車支援条件が成立していると判定する。
【0044】
このように、物標の位置の演算方法は、自車両が走行中の場合と停車中の場合とで異なっている。この構成によれば、降車支援制御(即ち、停車中における警報制御)の不要作動及び不作動を抑制することができる。以下、
図5A及び
図5Bを参照して具体的に説明する。
【0045】
図5Aは、路肩で停車している自車両Vの乗員が右側のドアを開放して降車しようとしている状況下において、他車両Vtcが自車両Vの右後側方をx軸方向に直進している様子を示す。自車両Vは、道路を直進している状態から路肩に移動して停止状態に移行する際は、路肩に向かって緩やかに旋回しながら停止する。このため、その走行軌跡Tは、
図5Aに示すような形状(即ち、直線形状から曲線形状に変化する形状)となる。以下では、走行軌跡Tのうち直線形状の部分を「直線部分」と称し、曲線形状の部分を「曲線部分」と称する。ECU10は、走行中においては常に走行軌跡情報を更新するように構成されているが、停車中においては、自車両Vの移動量がゼロであるため、走行軌跡情報の更新を停止する。即ち、ECU10は、停止直前の走行軌跡(本例では、走行軌跡T)を含む走行軌跡情報をそのRAMに格納している。
【0046】
他車両Vtcは、レーダセンサ12Rによって検出されている。このため、ECU10は、他車両Vtcについて降車支援条件が成立しているか否かを判定する。ここで、停車中においても走行中と同様の位置推定手法を用いて物標の位置を演算(推定)する場合を考える。この場合、状態空間モデルは、走行軌跡Tを含む走行軌跡情報を含むように構築されるが、
図5Aに示すように、この走行軌跡Tは自車両Vが路肩に移動するまでの経路を含む軌跡であるため、走行軌跡Tの直線部分の形状は自車両V(及び他車両Vtc)が走行してきた道路形状によく一致しているものの、走行軌跡Tの曲線部分の形状は当該道路形状とは全く異なっている。
【0047】
このため、他車両Vtcが走行軌跡Tの直線部分の付近を走行しているとき(状態S1参照)は、このような状態空間モデルを用いて他車両Vtcの位置を演算しても、予測観測位置を精度良く演算することができるが、他車両Vtcが走行軌跡Tの曲線部分の付近を走行しているとき(状態S2参照)は、このような状態空間モデルを用いて他車両Vtcの位置を演算すると、予測観測位置に「道路形状とは異なる形状を有する走行軌跡T」が反映されることにより、その精度は次第に(即ち、走行軌跡Tの道路形状からの逸脱度合が大きくなるにつれて)低下していく。具体的には、
図5Aに示すように、他車両Vtcが破線で示す位置にあると誤演算される。
【0048】
この場合、状態が実観測位置により大きく補正されることにより、走行軌跡Tが予測観測位置に反映される度合が次第に減少していくため、最終的には予測観測位置の演算精度は再び良好になっていく。しかしながら、予測観測位置の演算精度が低い期間においては、物標(本例では、他車両Vtc)の位置が誤演算される(典型的には、実際の位置よりも、走行軌跡Tに接近する方向に移動した位置にあると誤演算される)ことに起因して、実際には阻害物標には該当しない物標が阻害物標として誤検出されてしまい、その結果、不要な降車支援制御が実行される場合がある。
【0049】
図5Aの例では、状態S2においては、他車両Vtcは、実際には実線で示した位置に位置しているが、「走行軌跡Tを含む走行軌跡情報を含むように構築された状態空間モデル」を用いて位置演算が行われると、破線で示した位置に位置していると誤演算される。その結果、速度ベクトルAの延長線とy軸との交点Pが、実際には交差判定線L上に位置していないにも関わらず、右側交差判定線LR上に位置していると誤演算される。ここで、状態S2における他車両VtcについてTTC≦TTCthが成立していると仮定すると、他車両Vtcは阻害物標として誤検出される。上述したように、右側のドアは開状態にあるため、結果として降車支援条件が成立してしまい(別言すれば、実際には対象物標ではない物標が対象物標であると誤判定されてしまい)、不要な降車支援制御が実行されてしまう。
【0050】
物標の位置が誤演算されることに起因して発生するのは、降車支援制御の不要作動だけではない。
図5Bは、
図5Aと同様の状況下において、他車両Vtdが自車両Vの右後側方をx軸方向に直進している様子を示す。他車両Vtdは、レーダセンサ12Rによって検出されている。この例においても、ECU10は、直線部分と曲線部分とを有する走行軌跡Tを含む走行軌跡情報をそのRAMに格納している。
図5Bの例では、他車両Vtdは、実際には実線で示した位置に位置しているが、「走行軌跡Tを含む走行軌跡情報を含むように構築された状態空間モデル」を用いて位置演算が行われると、破線で示した位置に位置していると誤演算される。その結果、速度ベクトルAの延長線とy軸との交点Pが、実際には右側交差判定線LR上に位置しているにも関わらず、交差判定線L上には位置していないと誤演算される。ここで、他車両VtdについてTTC≦TTCthが成立していると仮定すると、他車両Vtdは実際には阻害物標であるにも関わらず、阻害物標として検出されないため、結果として降車支援条件が成立しなくなり(別言すれば、実際には対象物標である物標が対象物標ではないと誤判定されてしまい)、降車支援制御が実行されなくなってしまう。
【0051】
このように、停車中においても走行中と同様の位置推定手法を用いて物標の位置を演算すると、物標の位置精度が却って低下し、降車支援制御の不要作動及び不作動の問題が発生する。これに対し、本実施装置は、降車支援条件が成立するか否かを、走行中においては物標情報(より詳細には、物標の実観測位置)と走行軌跡情報とに基づいて判定する一方で、停車中においては物標情報(より詳細には、物標の実観測位置)に基づいて判定し、走行軌跡情報を用いないように構成されている。この構成によれば、停車中において物標の位置精度が低下し難くなるため、降車支援条件の不要作動及び不作動を抑制することができる。
【0052】
なお、上記の例では、自車両Vが道路の左側の路肩に停車する例を示したが、右側の路肩に停車する場合であっても同様である。
【0053】
(具体的作動)
続いて、ECU10の具体的作動について説明する。ECU10のCPUは、ECU10に電源が供給されている期間中(後述)、所定時間が経過する毎に
図6にフローチャートにより示したルーチンを実行し、判定結果に基づいて
図7又は
図8にフローチャートにより示したルーチンを実行するように構成されている。
【0054】
所定のタイミングになると、CPUは、
図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進み、車速センサ11から取得した車速に基づいて自車両が停止状態にあるか否かを判定する。自車両が走行状態にある場合、CPUは、ステップ610にて「No」と判定し、ステップ620に進む。
【0055】
CPUは、ステップ620に進むと、
図7のステップ700からBSM条件判定処理を開始してステップ710に進み、レーダセンサ12から取得した物標情報に基づいて物標が検出されたか否かを判定する。物標が検出されていない場合、CPUは、ステップ710にて「No」と判定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、物標が検出された場合、CPUは、ステップ710にて「Yes」と判定し、ステップ720に進む。
【0056】
ステップ720では、CPUは、ステップ710にて検出された物標が後側方領域B内に位置しているか否かを判定する。このとき、CPUは、物標の位置を、上述した位置推定手法(カルマンフィルタ)により演算する。即ち、物標の位置を、物標情報に含まれる物標の実観測位置と、RAMに格納されている走行軌跡情報と、に基づいて演算する。物標が後側方領域Bの外部に位置している場合、CPUは、ステップ720にて「No」と判定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、物標が後側方領域B内に位置している場合、CPUは、ステップ720にて「Yes」と判定し、ステップ730に進んでBSM条件が成立していると判定する。その後、CPUは、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0057】
CPUは、ステップ795に進むと、
図6のステップ630にて、
図7のルーチンの判定結果に基づいてBSM条件が成立しているか否かを判定する。BSM条件が成立していない場合(ステップ710又はステップ720にて「No」と判定された場合)、CPUは、ステップ630にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、CPUは、BSM制御を実行しない。一方、BSM条件が成立している場合(ステップ730)、CPUは、ステップ630にて「Yes」と判定し、ステップ640に進んでBSM制御を実行する。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0058】
これに対し、自車両が停止状態にある場合、CPUは、ステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ650に進む。CPUは、ステップ650に進むと、
図8のステップ800から降車支援条件判定処理を開始してステップ810に進み、物標情報に基づいて物標が検出されたか否かを判定する。物標が検出されていない場合、CPUは、ステップ810にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、物標が検出された場合、CPUは、ステップ810にて「Yes」と判定し、ステップ820に進む。
【0059】
ステップ820では、CPUは、ステップ810にて検出された物標の速度ベクトルAを物標情報に基づいて演算し、速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れかと交差しているか否かを判定する。このとき、CPUは、物標の位置として、物標情報に含まれる物標の実観測位置を用いる。即ち、物標の位置を演算するに際して走行軌跡情報は使用しない。
交差していない場合、CPUは、ステップ820にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、交差している場合、CPUは、ステップ820にて「Yes」と判定し、ステップ830に進む。
【0060】
ステップ830では、CPUは、検出された物標についてTTCを演算し、ステップ840に進む。
ステップ840では、CPUは、検出された物標についてTTC≦TTCthが成立しているか否かを判定する。TTC>TTCthである場合、CPUは、ステップ840にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、TTC≦TTCthである場合、CPUは、ステップ840にて「Yes」と判定し(即ち、物標は阻害物標であると判定し)、ステップ850に進む。
【0061】
ステップ850では、CPUは、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいてドア(阻害物標が検出された側のドア)が開状態であるか否かを判定する。ドアが閉状態の場合、CPUは、ステップ850にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、ドアが開状態の場合、CPUは、ステップ850にて「Yes」と判定し、ステップ860に進んで降車支援条件が成立していると判定する。その後、CPUは、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0062】
CPUは、ステップ895に進むと、
図6のステップ660にて、
図8のルーチンの判定結果に基づいて降車支援条件が成立しているか否かを判定する。降車支援条件が成立していない場合(ステップ810、820、840又は850の何れかにおいて「No」と判定された場合)、CPUは、ステップ660にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、CPUは、降車支援制御を実行しない。一方、降車支援条件が成立している場合(ステップ860)、CPUは、ステップ660にて「Yes」と判定し、ステップ670に進んで降車支援制御を実行する。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0063】
ECU10への電源供給は、自車両が停止してイグニッションスイッチがオフされた後も所定の条件が成立するまで継続される。この条件は、例えば、ドアがロックされた時点で成立するように構成されてもよいし、自車両が停止してから所定の停車時間が経過した時点で成立するように構成されてもよい。
【0064】
以上、本実施形態に係る車両制御装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態では位置推定手法としてカルマンフィルタが用いられたが、走行軌跡情報を含むように構築されたモデルを使う手法であれば、他の位置推定手法が用いられてもよい。
【0066】
また、BSM制御は、自車両の後側方から接近する物標が検出された場合にも実行されてもよい。
【0067】
更に、警報制御の種類はBSM制御又は降車支援制御に限られず、レーダセンサ12により検出された物標の存在を報知して警報する制御であれば、他の警報制御であってもよい。
【0068】
更に、上記実施形態では降車支援制御としてブザー21を鳴動させる処理が実行されたが、降車支援制御の処理内容はこれに限られない。例えば、以下の処理、即ち、阻害物標が検出された側のサイドミラーインジケータを点灯させる処理、メーターパネルに所定のマーク(例えば、阻害物標が左後方又は右後方の何れの方向から接近しているのかを明示するマーク)を表示させる処理、及び/又は、スピーカ(ナビゲーションシステムの構成要素)に所定のメッセージ(例えば、「接近車両にご注意下さい」とのメッセージ)を発話させる処理が、ブザー21を鳴動させる処理に代えて、又は、加えて、降車支援制御として実行されてもよい。
【0069】
更に、ドアの開放の度合いを制限するドア開放制限制御、又は、ドアをロックするドアロック制御が、ブザー21を鳴動させる処理に代えて、又は、加えて、降車支援制御として実行されてもよい。
【0070】
更に、上記実施形態では、物標は、TTC≦TTCthが成立した時点で阻害物標として検出されるが、この構成に限られない。例えば、物標についてTTC≦TTCthが所定の継続時間だけ継続した場合に当該物標が阻害物標として検出されるように構成されてもよい。また、降車支援条件は、「ドアが開状態である」代わりに、「ドアが閉状態から開状態に変化した」ときに成立するように構成されてもよい。或いは、ドアの開閉状態に基づいて降車意図を判定する代わりに、車内に設置されたカメラ(車内の乗員を撮像可能なカメラ)により撮像された画像データに基づいて乗員がドア操作部(典型的にはドアのインナーレバー)を操作している動作が検出されているか否かに基づいて降車意図を判定するように構成されてもよい。
【0071】
また、降車支援条件は、ドアが開状態であることを含んでいなくてもよい。即ち、停車中に阻害物標が検出された時点で降車支援条件が成立するように構成されてもよい。
【0072】
或いは、降車支援制御は、2段階で実行されてもよい。具体的には、降車支援制御は、2種類の制御、即ち、通常警報制御と軽度警報制御(通常警報制御よりも支援の程度が軽度な制御)を含む。軽度警報制御は、例えば、上述したサイドミラーインジケータ点灯処理を実行する制御であり、通常警報制御は、例えば、サイドミラーインジケータ点灯処理に加え、上述した「ブザー鳴動処理、メーターパネル上マーク表示処理、スピーカー発話処理」の少なくとも1つを実行する制御である。軽度警報制御は、停車中に阻害物標が検出されたものの、ドアが閉状態である場合に実行される。通常警報制御は、停車中に阻害物標が検出され且つドアが開状態の場合に実行される。
ドアが閉状態の場合、乗員が当該ドアから降車しようとしているか否かを判別できない。別言すれば、乗員に降車意図はあるものの現時点では当該ドアを開けていないだけという可能性、及び、乗員に降車意図はなく当該ドアは引き続き閉状態に維持されるという可能性、の両方が考えられる。このため、当該ドアが閉状態の場合は軽度警報制御を実行することにより、「降車意図がある乗員には前もって阻害物標の存在を報知しておくこと」と、「降車意図がない乗員には通常警報制御が実行されることに起因した煩わしさを与えないこと」と、を両立させることができる。
なお、通常警報制御として、上述した処理に代えて、又は、加えて、ドア開放制限制御又はドアロック制御が実行されてもよい。
【0073】
更に、上記実施形態では、交差判定線Lを導入し、物標のTTCに基づいて阻害物標を検出するように構成されているが、阻害物標の検出方法はこれに限られない。例えば、自車両の後方(典型的には、左後側方及び右後側方)に所定の大きさ及び形状を有する仮想的なエリア(より詳細には、レーダセンサ12の照射範囲内のエリア)を設定し、レーダセンサ12により検出された物標が当該エリア内に位置している場合に当該物標を阻害物標として検出するように構成されてもよい。この場合、上記エリアの形状は特に限定されず、例えば、台形形状又は長方形形状であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
10:車両制御ECU、11:車速センサ、12:レーダセンサ、13:ドア開閉センサ、20:サイドミラーインジケータ、21:ブザー