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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】容器入り食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20240906BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240906BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240906BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20240906BHJP
【FI】
A23L2/38 C
A23L7/10 A
A23L2/00 A
A23L23/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021146233
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2023039194
(43)【公開日】2023-03-20
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】595135774
【氏名又は名称】ダイドーグループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515253588
【氏名又は名称】三和罐詰 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】日野 康子
(72)【発明者】
【氏名】望月 真紀
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-261036(JP,A)
【文献】特開平07-079718(JP,A)
【文献】特開2016-086750(JP,A)
【文献】特開2004-016152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎米及び液状部分を含む食品を容器に内包してなる容器入り食品であって、
前記焙煎米は、下記の条件i)及びii):
i)原料米を直火焙煎して得られたものである、
ii)水分含有量が12.0質量%以下であり、かつかさ密度が145mL/100g以下である、
を満たし
前記容器は缶である、容器入り食品。
【請求項2】
前記焙煎米は、玄米または発芽玄米である、請求項1に記載の容器入り食品。
【請求項3】
前記焙煎米は、L値が35以上90以下である、請求項1または2に記載の容器入り食品。
【請求項4】
前記焙煎米は、前記食品の質量を100部とした場合に0.01部以上12部以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の容器入り食品。
【請求項5】
前記食品は飲料である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器入り食品。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の容器入り食品を製造する方法であって、
原料米を直火焙煎して焙煎米を得る工程と、
容器内に、前記焙煎米と液状部分を含む食品を充填して密封する工程と、
前記容器内の前記食品を加熱殺菌する工程と、
をこの順に有する、容器入り食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入り食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米は、栄養面、健康面、嗜好面から、世界中で広く食されている。米を原料として含む容器入り食品は、米を簡単に気軽に食することができるという利点がある。ドリンクタイプの容器入り食品は、米をより気軽に食することができるという利点がある。米を原料として含む容器入り食品における課題として、レトルト処理による米の煮くずれやレトルト処理による米の容器底への固着を抑制することが知られている。
【0003】
特開2004-129535号公報(特許文献1)には、熟成茶材から得られた水抽出物を含む調味液を用いることにより、加熱処理による米の煮くずれを抑制できることが記載されている。
【0004】
特開平7-79718号公報(特許文献2)には、5~25%の重量減少率となるように煎った米を用いることにより、加熱処理による米の糊化を抑制でき缶底への固着を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-129535号公報
【文献】特開平7-79718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のように、米を煎って重量を減少させることにより加熱処理による容器底への米の固着を抑制できるものの、煎ることにより米に割れが生じたり割れが生じやすくなったりし、食品の食感の低下を招くという問題があった。一方で、割れを少なくするために煎る時間を短くすると、加熱処理による容器底への米の固着を抑制するという効果が十分に発揮されないことになる。
本発明は、焙煎米を含む食品を容器に内包してなる容器入り食品において、加熱処理による容器底への米の固着を抑制しつつ、米の割れを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の容器入り食品及び容器入り食品の製造方法を提供する。
[1] 焙煎米及び液状部分を含む食品を容器に内包してなる容器入り食品であって、
前記焙煎米は、下記の条件i)及びii):
i)原料米を直火焙煎して得られたものである、
ii)水分含有量が12.0質量%以下であり、かつかさ密度が145mL/100g以下である、
の少なくとも一方を満たす、容器入り食品。
[2] 前記焙煎米は、玄米または発芽玄米である、[1]に記載の容器入り食品。
[3] 前記焙煎米は、L値が35以上90以下である、[1]または[2]に記載の容器入り食品。
[4] 前記焙煎米は、前記食品の質量を100部とした場合に0.01部以上12部以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の容器入り食品。
[5] 前記容器は缶である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の容器入り食品。
[6] 前記食品は飲料である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の容器入り食品。
[7] 原料米を直火焙煎して焙煎米を得る工程と、
容器内に、前記焙煎米と液状部分を含む食品を充填して密封する工程と、
前記容器内の前記食品を加熱殺菌する工程と、
をこの順に有する、容器入り食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の容器入り食品によると、容器底への米の固着が抑制され、かつ米の割れが抑制された容器入り食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】未焙煎米、直火焙煎米、及び熱風焙煎米の一例の写真を示す図である。
図2】米の短径、直径、及び厚みを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[容器入り食品]
本発明に係る容器入り食品は、焙煎米及び液状部分を含む食品を容器に内包してなる容器入り食品である。焙煎米は、下記の条件i)及びii):
i)原料米を直火焙煎して得られたものである、
ii)水分含有量が12.0質量%以下であり、かつかさ密度が145mL/100g以下である、
の少なくとも一方を満たす。このような焙煎米を用いることにより、レトルト処理による容器底への米の固着が抑制され、かつ米の割れが抑制された容器入り食品を提供することができる。
【0011】
<条件i>
条件iにおいて、焙煎米は原料米を直火焙煎して得られてものである。本発明者は、米の焙煎方法として、直火焙煎と熱風焙煎とを比較し、直火焙煎によると熱風焙煎では生じやすい米の割れを抑制できることを見出した。さらに、本発明者は、米を直火焙煎することにより、条件iiを満たす焙煎米を得られやすいことを見出した。
【0012】
焙煎は、通常、回転ドラムを回転させながら焙煎するシリンダータイプの焙煎機を用いて行われる。
【0013】
直火焙煎の一例を説明する。直火焙煎に用いられる焙煎機は、焙煎対象を入れる回転ドラムの胴体がパンチングメッシュより構成されている。熱源のバーナーはドラムの直下にあり、パンチングメッシュから入り込む対流熱(熱風)、加熱されたドラムからの伝導熱、釜全体からの輻射熱によって回転ドラム内の焙煎対象を加熱する。直火焙煎においては、パンチングメッシュから炎や熱風が最短距離で直接焙煎対象に当たる。
【0014】
直火焙煎の条件は、限定されることはなく、コーヒー豆を直火焙煎する際に通常採用される条件を採用することができる。直火焙煎の条件は、例えば、焙煎温度100~220℃で持続時間が5~60分である。本明細書でいうところの焙煎温度は、焙煎機釜内の温度を意味する。
【0015】
熱風焙煎の一例を説明する。熱風焙煎に用いられる焙煎機は、熱源のバーナーがドラム直下にはなくドラムとは切り離された外部にあり、外部のバーナーによる熱風をドラムに送り込み回転ドラム内の焙煎対象を加熱する。すなわち、熱風焙煎においては、直火焙煎のように、ドラムからの伝導熱の影響が小さく、熱風の温度や風量を調整することにより焙煎対象の加熱を調整する。
【0016】
直火焙煎と熱風焙煎の両者の特徴を取り込んだ半熱風焙煎の一例を説明する。半熱風焙煎では、直火焙煎とは異なり回転ドラムの胴体が鉄板となっている。熱源のバーナーはドラム直下にあるものの、ドラムに穴がないので、ドラムからドラム内の焙煎対象へ伝わる伝導熱が直火焙煎や熱風焙煎よりも多い。また、ドラム内に送り込まれる熱風によってもドラム内の焙煎対象は加熱される。
【0017】
<条件ii>
条件iiにおいて、焙煎米は水分含有量が12.0質量%以下であり、かつかさ密度が145mL/100gである。本発明者は、焙煎米の水分含有量が12.0質量%以下であることによりレトルト処理により生じる容器底への米の固着を抑制することができ、かつかさ密度が145mL/100g以下である場合に、米の割れを抑制できることを見出した。
【0018】
原料米の水分含有量は、通常、13.0質量%以上であるため、これを12.0質量%以下とするためには焙煎処理が有効である。しかしながら、本発明者は、熱風焙煎により得られる焙煎米は割れが生じていたり割れが生じやすかったりすることを知見した。この原因を探るべく鋭意・検討したところ、熱風焙煎により得られる焙煎米は膨化していることがわかった。膨化している焙煎米は割れが生じやすく、焙煎直後に割れていないとしても、調理の過程で割れが生じやすいことがわかった。一方、膨化を抑えるために、熱風焙煎の程度を抑えると、水分含有量の低下が十分ではなく、焙煎の目的の一つである容器底への米の固着を抑制するという課題を解決がむずかしくなることがわかった。そこで、本発明者は鋭意検討したところ、直火焙煎によると米の膨化を抑制でき、したがって焙煎やその後の調理の過程で米に割れが生じることを抑制できることがわかった。本発明者はさらに鋭意検討を重ね、米の膨化が抑制されていることを確認する指標として、かさ密度を用いることができることを見出し、米の割れの抑制に有効なかさ密度の数値範囲を見出した。
【0019】
条件iiを満たす焙煎方法として、直火焙煎が好ましいものの、米の膨化を抑制し条件iiを満たす焙煎米を得ることができるのであれば直火焙煎の限定されることはなく、例えば、半熱風焙煎等の焙煎方法であってもよい。
【0020】
<焙煎米>
焙煎米は、原料米を焙煎して得られたものである。原料米としては、稲の果実またはそれに由来する食品であれば限定されることはなく、好ましくは、白米(精白米)、玄米、または発芽玄米であり、好ましくは、これらの全形米である。原料米は、収穫、籾殻等の除去、洗浄、自然乾燥あるは通風乾燥等の工程を経た米であり、一般に流通している形態である。原料米の品種は、特に制限されないが、例えば、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、ななつぼし等が挙げられる。これらの米は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本明細書において「玄米」とは、稲の果実である籾から籾殻を除去した状態で、また精白されていない状態の米をいう。玄米は、多くの栄養素を含み、また焙煎米としたときの風香味に優れることから、本発明において好ましく用いられる。
【0022】
本明細書において「発芽玄米」とは、発芽状態にある玄米をいう。一例として、玄米を約1~2日程度、30℃~32℃前後のぬるま湯に浸し、1mmほどの芽が出た状態にすることで調製することができるが、この調製方法に限定されることはなく、市販品であってもよい。発芽玄米は、多くの栄養素を含み、また焙煎米としたときの風香味に優れることから、本発明において好ましく用いられる。
【0023】
本明細書において「全形米」とは、全形の米粒のみからなる全形米に限定されることはなく、長径、短径、及び厚みが全形米の70%以上の米も含む。削る、破砕する、等の処理がされていない米は、全形米に含まれる。
【0024】
焙煎米は、水分含有量が、好ましくは12.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以上11.0質量%以下である。かかる数値範囲の焙煎米によると、レトルト処理により米が容器底に固着することを抑制することができる。焙煎米の水分含有量は、焙煎条件を調整することにより調整することができる。焙煎米の水分含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
焙煎米は、かさ密度が、好ましくは145mL/100g以下であり、より好ましくは140mg/100g以下であり、さらに好ましくは135mg/100g以下である。焙煎米は、かさ密度が、例えば100mL/100g以上である。かかる数値範囲の焙煎米によると、焙煎米の膨化が抑制され、焙煎米の割れを抑制することができる。また、かかる数値範囲の焙煎米によると、焙煎米と液状部分とを含む食品において焙煎米が浮くことによる製造効率の低下を抑制することができる。製造効率低下の一例を挙げると、容器内に焙煎米を投入し、その後、ノズルを用いて液体原料を注入する場合に、焙煎米が浮きやすいとノズル詰まりの原因となり製造効率を低下させる。焙煎米のかさ密度は、焙煎方法を選択することにより調整することができ、例えば直火焙煎を選択することにより上記数値範囲に調整することができる。焙煎米のかさ密度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
焙煎米は、表面のL値(明度)が、好ましくは35以上90以下であり、より好ましくは40以上55以下である。焙煎米は、表面のL値が、原料米の表面のL値より小さく、その差は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上であり、例えば15以下である。かかる数値範囲の焙煎米によると、米粒の食感を向上させた食品とすることができる。また、かかる数値範囲の焙煎米は風香味に優れている。焙煎米のL値は、焙煎条件を調整することにより調整することができる。焙煎米のL値は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
<液状部分>
液状部分は、特に限定されることはなく、水、だし汁等の調味液、豆乳、牛乳等の乳類、野菜や果汁等の植物抽出液、等が挙げられ、これらに他の成分が溶解または分散したものであってもよい。液状部分に用いられる水に制限はなく、水道水、イオン交換水、蒸留水、ミネラルウオータ等を使用することができる。液状部分は、食品の一部を構成するだけでなく、投入後にレトルト処理に供される際に、焙煎米の炊飯液としても機能する。
【0028】
<その他の原料>
本発明の食品には、前述する材料の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、砂糖、塩、酢、醤油、味噌などの調味料、コショウ、唐辛子、にんにく、山椒、ハーブ等の香辛料、油分等の調味成分;保存剤、pH調整剤、抗酸化剤、アミノ酸、核酸、有機酸、甘味料、着色剤、安定剤、発色剤等の食品添加物;野菜、肉類、魚介類、卵類、キノコ類、豆類、ごま類、雑穀類等の具材が含まれていてもよい。
【0029】
<食品>
本発明の食品は、前述する材料を含むことにより調整される食品であれば限定されることはなく、粥類、雑炊、リゾット、クッパ、お茶漬け等を広く含み、また飲料を含む。
【0030】
本発明の食品は、原料基準で焙煎米の質量が、食品の質量を100部とした場合に好ましくは0.01部以上12部以下であり、さらに好ましくは0.1部以上10部以下であり、より好ましくは1部以上8部以下である。食品が飲料である場合に、焙煎米の質量が12部を超えると喫食時に容器内に焙煎米が残りやすくなり、一方0.01部未満であると喫食者が飲料中に焙煎米が存在することを認識することがむずかしくなる。
【0031】
<容器>
容器は、加熱殺菌に対応する耐熱性を備えた容器であれば限定されることはなく、缶、レトルト包装用の袋状物、ガラス瓶等である。内包する食品が飲料である場合であって、容器として缶が用いられる場合には、飲料用缶容器が用いられる。
【0032】
飲料用缶容器としては、半楕円形の飲み口が形成されるプルトップ部分を備えたイージーオープンエンド缶容器、スクリューキャップ等の開閉可能なキャップを備えたボトル缶容器等の各種の飲料用缶容器が挙げられる。飲料用缶容器の材質は、鉄鋼製(スチール缶)またはアルミニウム製(アルミ缶)のものが挙げられる。飲料用缶容器の内容量は、120mL以上500mL以下のものが好ましく用いられる。
【0033】
飲料用缶容器、小売店をはじめ自動販売機等において広く流通している形態であり、保存、物流、販売、さらには使用後の資源回収において利便性ある容器形態である。
【0034】
[製造方法]
本発明の容器入り食品の製造方法は、原料米を直火焙煎して焙煎米を得る工程(以下、「工程A」とも称する)と、容器内に、前記焙煎米と液状部分とを含む食品を充填して密封する工程(以下、「工程B」とも称する)と、前記容器内の前記食品を加熱殺菌する工程(以下、「工程C」とも称する)と、をこの順に有する。以下、各工程について説明する。
【0035】
<工程A>
工程Aでは、原料米を直火焙煎して焙煎米を得る。直火焙煎の方法は上述の通りである。工程Aで得られる焙煎米は、水分含量が好ましくは12.0質量%以下であり、かつかさ密度が好ましくは145mL/100g以下である。
【0036】
<工程B>
工程Bでは、容器内に、焙煎米及びその他の原料を投入する。液体原料の投入は、例えばノズルを用いて行うことができる。焙煎米を含む固体原料を先に投入した後に液体原料を投入してもよい。液体原料は、例えばノズルを用いて投入することができる。その後、容器を密封する。密封は、用いる容器に応じて常法により行うことができる。本発明においては、直火焙煎して得られた焙煎米を用いることにより、固体原料を投入した後に液体原料を投入しても焙煎米の浮きが生じにくく、ノズルの詰まり等による製造効率の低下を抑制することができる。
【0037】
<工程C>
工程Cでは、容器内の食品を加熱殺菌(レトルト処理)する。密封した容器を容器毎加熱することによって、殺菌と加熱調理とを同時に行うことができる。密封容器内の食品は加圧状態で加熱されるので、常圧での加熱の場合より煮込み等の調理が容易になる。殺菌を目的とする加熱は、F値が10以上、70以上100以下となる加熱条件が好ましい。本形態では、加熱温度は、好ましくは105℃以上、より好ましくは110℃以上140℃以下、さらに好ましくは125℃以上130℃以下である。加熱時間は、好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上60分以下である。加熱は、常法により行うことができ、例えば静置レトルト加熱の方法が挙げられる。
【0038】
加熱殺菌後、食品入り容器を冷却し、必要事項を印字して必要に応じて箱詰めする。このようにして、容器入り食品が製造される。容器入り食品は、ホットウオーマー等により温かい食品として販売されてもよく、常温、または冷蔵で販売されてもよい。
【0039】
本発明の製造方法により得られる容器入り食品は、容器内に投入する焙煎米として直火焙煎した焙煎米を用いることにより、容器底への米の固着が抑制され、かつ米の割れが抑制され、焙煎米の風香味が良好な食品を提供することができる。
【実施例
【0040】
1.焙煎方法の比較試験1
(1)焙煎米の調整
原料米として発芽玄米(ファンケル製)を用いて、直火焙煎による直火焙煎米と、熱風焙煎による熱風焙煎米を得た。直火焙煎は、コーヒー豆用の直火焙煎機を用いて、10kgの発芽玄米を20分直火焙煎し、直火焙煎米(以下、「直火焙煎米a」とする)を得た。このとき、焙煎釜内の焙煎温度は最高温度が172℃であった。熱風焙煎は、熱風焙煎機を用いて、2kgの発芽玄米を145秒熱風焙煎し、熱風焙煎米(以下、「熱風焙煎米a」とする)を得た。このとき、焙煎釜内の温度は180℃であった。
【0041】
<評価>
図1は、未焙煎米、直火焙煎米、及び熱風焙煎米の一例の写真を示す図である。表1は、このようにして得られた直火焙煎米と、熱風焙煎米と、未焙煎の発芽玄米(以下、「未焙煎米a」とする)と、について、それぞれ20個(n=20)の米粒について測定した、短径、長径、厚みの値を示す。図2は、ここでいう、短径、長径、厚みの意味を説明するための模式図である。長径は、米粒を上から見たときの最長部分の長さであり、短径は長径に垂直でかつ最長部分の長さであり、厚みは米粒の最も厚い部分の厚みである。
【0042】
【表1】
【0043】
直火焙煎米は厚みが増加しているものの短径は未焙煎米と同等であり、長径は減少傾向にあり、膨化はなく、割れも観察されなかった。長径の減少は、米の先端(胚芽の横)が焙煎工程により削れて丸くなったためと考えられた。熱風焙煎米は、短径、長径、厚み共に未焙煎米よりも増加して全体に膨化するとともに、割れが生じている米粒があった。
【0044】
(2)缶入り飲料の製造
固形原料として、実施例1では上記(1)における直火焙煎米aを用い、比較例1~4ではそれぞれ、上記(1)における未焙煎米a、熱風焙煎米a、及び表2に示す焙煎温度および焙煎時間で、熱風焙煎機を用いて得られた熱風焙煎米b、cを用いて、さらに、液体原料として調味料とイオン交換水とを用いて予め調整したチキンスープを用いて、次の方法により、内容量が185gの缶入り飲料(参鶏湯スープ)を製造した。容器として、缶(大和製罐株式会社製、190g缶SOT)を用いた。
【0045】
缶内に、固形原料を2.7g投入し、その後チキンスープを食品の合計重量が185gとなるようにノズルを用いて注入した。巻締により缶を密封した後、126℃、24分間、静置加熱蒸気殺菌してドリンクタイプの参鶏湯スープを得た。
【0046】
<固着の評価>
実施例1、比較例1~4の参鶏湯スープについて、缶底への米の固着状態を下記の基準で評価した。表2に評価結果を示す。
○:缶底に固着しない
×:缶底に固着する
【0047】
<製造工程における浮遊の評価>
実施例1、比較例1~4の参鶏湯スープの製造過程におけるチキンスープの注入時に、固形原料(米)の浮きがあったかを下記の基準で評価した。
○:注入の作業に影響する浮きはなかった
×:浮きがあり液体原料の注入の作業性が低下した
【0048】
<水分含有量、かさ密度、L値>
直火焙煎米a、未焙煎米a、熱風焙煎米a~cについて、下記の方法により水分値及びかさ密度を測定した。また、直火焙煎米a、未焙煎米aについて、下記の方法によりL値を測定した。表2にこれらの測定結果を示す。
【0049】
水分含有量は、赤外線水分計によって測定した。
かさ密度は、メスシリンダーによって測定した。
L値は、分光光度計によって測定した。
【0050】
【表2】
【0051】
2.配合割合の比較試験
(1)缶入り飲料の製造
実施例2~4の参鶏湯スープを、缶内に投入した固形原料(直火焙煎米a)の質量が実施例1の2.7gとは異なる点以外は、実施例1と同じ原料を用いて実施例1と同じ方法により製造した。表3に、缶内に投入した固形原料(直火焙煎米a)の質量、及び飲料全量を100部とした場合の部数を示す。
【0052】
<米の缶内残存率評価>
実施例2~4の参鶏湯スープの缶を開けて飲料をボールに注ぎ切った。ボール内に注がれた飲料中の焙煎米の質量(W1)と、缶内に残った焙煎米の質量(W2)を測定し、下記の式により、米の缶内残存率を算出した。飲料中の焙煎米はメッシュを用いて分離し膨潤状態のまま質量(W1)を測定した。缶内に残った焙煎米についても、膨潤状態のまま質量(W2)を測定した。
残存率(%)={W2/(W1+W2)}×100
表3に算出結果を示す。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例2~4は、米の残存率が30%以下であったため、缶の飲み口からの焙煎米の出やすさの点で十分に商品価値のあるものであると判断できる。実施例2~4で用いたチキンスープの粘度は高めであり(粘度:常温で30mPa・s)、粘度が低いほど缶の飲み口から焙煎米は出やすくなると推測されるので、飲料100部中、原料基準で焙煎米が12部以下であれば、缶の飲み口から焙煎米が出やすい飲料が得られると考察される。
【0055】
実施例1~4の参鶏湯スープは、飲料中において焙煎米の形状が全形で保持されており、米粒の食感をしっかり感じることができるものであったため、飲料100部中、原料基準で焙煎米が0.01部以上であれば喫食者は焙煎米の存在を認識できるものと考察される。
【0056】
3.焙煎方法の比較試験2
(1)実施例5の缶入り飲料の製造
固形原料として、上記の直火焙煎米aを用いて、さらに、液体原料として調味料とイオン交換水とを用いて予め調整したチキンスープを用いて、次の方法により、内容量が185gの缶入り飲料(参鶏湯スープ)を製造した。
【0057】
缶内に、固形原料を2.7g投入し、その後チキンスープを食品の合計重量が185gとなるようにノズルを用いて注入した。巻締により缶を密封した後、126℃、24分間、静置加熱蒸気殺菌してドリンクタイプの参鶏湯スープを得た。
【0058】
(2)実施例6の缶入り飲料の製造
固形原料として、上記の直火焙煎米aを用いて、さらに、液体原料として調味料とイオン交換水とを用いて予め調整したチキンスープを用いて、次の方法により、内容量が180gの缶入り飲料(参鶏湯スープ)を製造した。
【0059】
缶内に、固形原料を2.7g投入し、その後チキンスープを食品の合計重量が180gとなるようにノズルを用いて注入した。巻締により缶を密封した後、126℃、24分間、静置加熱蒸気殺菌してドリンクタイプの参鶏湯スープを得た。
【0060】
(3)比較例5の缶入り飲料の製造
固形原料として、上記の熱風焙煎米aを用いて、さらに、液体原料として調味料とイオン交換水とを用いて予め調整したチキンスープを用いて、次の方法により、内容量が170gの缶入り飲料(参鶏湯スープ)を製造した。
【0061】
缶内に、固形原料を2.7g投入し、その後チキンスープを食品の合計重量が170gとなるようにノズルを用いて注入した。巻締により缶を密封した後、126℃、24分間、静置加熱蒸気殺菌してドリンクタイプの参鶏湯スープを得た。
【0062】
<官能評価>
実施例5,6、比較例5の参鶏湯スープについて、評価者4名により、製造直後、2週間後、4週間後、6週間後、及び8週間後に試飲を行い、a)味、及びb)米の形状及び食感、について、下記の基準で評価を行った。また、評価者1名により、製造後6週間後、及び8週間後に試飲を行い、a)味、b)米の形状及び食感、について、下記の基準で評価を行った。
5:かなり良好
4:やや良好
3:良好
2:やや劣化
1:劣化
【0063】
上記官能評価において、製造直後の実施例5について、a)味、及びb)米の形状及び食感、について、「5」とした場合を基準とすることを統一した。また、製造後の実施例5,6、比較例5の保管温度は60℃とした。表4に評価結果を示す。製造直後、2週間後、及び4週間後の評価結果は評価者4名の平均値とし、6週間後及び8週間後の評価結果は評価者5名の評価結果とする。
【0064】
【表4】
図1
図2