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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】落下フィルム式管状蒸発器
(51)【国際特許分類】
   B01D 1/06 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B01D1/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021510063
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 EP2019072057
(87)【国際公開番号】W WO2020038849
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】PA201870537
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】517158429
【氏名又は名称】エスピーエックス フロウ テクノロジー デンマーク アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン イェンス ガーンリー
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン キム
(72)【発明者】
【氏名】ランダースレウ マルティン グラム
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-090567(JP,A)
【文献】特開昭58-143801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00- 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体供給物を濃縮する落下フィルム式管状蒸発器(1)であって、前記蒸発器が加熱媒体コンパートメント(31)と、第1の液体供給物コンパートメント(3)と、最終液体供給物コンパートメント(4)とを収容した容器(2)を有し、前記第1の液体供給物コンパートメントが第1の頂部管板(6)及び第1の底部管板(7)によって支持されている第1の複数の垂直管(5)と、前記液体供給物を頂端部のところで前記管に分配する入口(10)と、を有し、液体フィルムが前記管の内側上に形成されて前記第1の底部管板まで前記垂直管に沿って流下し、前記第1の液体供給物コンパートメントが前記部分的に濃縮された液体供給物が送り込まれる第1の底部コンパートメント(12)をさらに有し、
前記液体供給物の蒸気部分が、前記第1の底部コンパートメント(12)において前記部分的に濃縮された液体供給物から分離され、
機械的蒸気再圧縮及び/又は熱的蒸気再圧縮(35)が、前記液体供給物の前記蒸気部分の少なくとも一部を再圧縮して再圧縮蒸気部分を生成し、この再圧縮蒸気部分が前記加熱媒体コンパートメント(31)に導入され、
前記加熱媒体コンパートメントが前記液体供給物を加熱する加熱媒体のための入口(8)と、使用済み加熱媒体のための出口(9)と、を有する、落下フィルム式管状蒸発器において、
前記最終液体供給物コンパートメント(4)は、最後の頂部管板(14)及び最後の底部管板(15)によって支持されている最後の複数の垂直管(13)と、前記部分的に濃縮された液体供給物を前記管に頂端部のところで分配する最後の供給物入口(18)と、を有し、液体フィルムが前記管の内側上に形成されて前記最後の底部管板まで前記垂直管に沿って流下し、前記最液体供給物コンパートメントは、前記濃縮された液体供給物が送り込まれる最後の底部コンパートメント(20)と、前記濃縮された液体供給物のための出口(21)と、をさらに有し、
前記蒸発器は、前記頂部管板から前記容器の上方部分まで延びる仕切り板及び前記底部管板から前記容器の下方部分まで延びる仕切り板を有し、前記容器は、前記液体供給物を加熱するための加熱媒体のための複数の別々の入口(8,16)と、使用済み加熱媒体のための複数の別々の出口(9,17)と、を備えた2つ以上の加熱媒体コンパートメントからなり、液体供給物コンパートメント(3,4)は、各々が複数の管を有する2つ以上の連続的に連結された区分(22)に区分されている、落下フィルム式管状蒸発器。
【請求項2】
前記容器は、1つ又は2つ以上の中間液体供給物コンパートメントをさらに収容し、各中間液体供給物コンパートメントは、中間頂部管板及び中間底部管板によって支持されている中間の複数の垂直管及び前記管への頂端部のところでの前記液体供給物の分配のための入口を有し、液体フィルムが前記管の内側上に形成されて中間底部管板まで前記垂直管に沿って流下し、前記中間液体供給物コンパートメントは、前記部分的に濃縮された液体供給物が送り込まれる中間底部コンパートメントをさらに有する、請求項1記載の落下フィルム式管状蒸発器。
【請求項3】
前記容器は、前記液体供給物を加熱する加熱媒体のための別々の入口(8,16)及び使用済み加熱媒体のための別々の出口(9,17)を備えた2つ又は3つ以上の加熱媒体コンパートメントを有する、請求項1又は2記載の落下フィルム式管状蒸発器。
【請求項4】
前記蒸発器の前記容器は、少なくとも2つの蒸発効果を組み込むよう構成されている、請求項1~3のうちいずれか一に記載の落下フィルム式管状蒸発器。
【請求項5】
前記液体供給物コンパートメントは、各々が複数の管を有する2つ又は3つ以上の連続的に連結された区分に区分されている、請求項1~4のうちいずれか一に記載の落下フィルム式管状蒸発器。
【請求項6】
液体供給物を前記管に分配する分配板をさらに有する、請求項1~5のうちいずれか一に記載の落下フィルム式管状蒸発器。
【請求項7】
前記液体供給物コンパートメントは、1つのコンパートメントの前記部分的に濃縮された液体供給物を連続して位置する液体供給物コンパートメントの前記供給物入口に供給するよう構成された導管を介して互いに連結されている、請求項1~6のうちいずれか一に記載の落下フィルム式管状蒸発器。
【請求項8】
液体供給物を濃縮する方法であって、
a.容器内に設けられた第1の液体供給物コンパートメントの第1の複数の垂直管の頂端部に前記管の内面上におけるフィルムの形成のためにホエー又はミルクからなる液体供給物を供給するステップと、
b.前記管の外面を加熱媒体で加熱するステップと、
c.前記フィルムが前記管の底端部まで流下することができるようにしながら前記液体を部分的に蒸発させるステップと、
d.蒸気と部分的に濃縮された液体供給物の混合物を収集するステップと、
e.前記蒸気及び前記部分的に濃縮された液体供給物を互いに分離するステップと、
f.前記容器内に設けられた最終の液体供給物コンパートメントの最終の複数の垂直管の頂端部に前記管の前記内面上における内側フィルムの形成のために前記ステップeの前記分離された液体供給物を供給するステップと、
g.前記最終の液体供給物コンパートメントについて前記ステップb~前記ステップeを繰り返し実施するステップと、
h.前記濃縮された液体供給物を収集するステップと、
i.前記蒸気を再圧縮し、この再圧縮した蒸気を前記ステップbの前記加熱媒体として使用するステップと、を含み、
前記第1の複数の垂直管は、第1の頂部管板及び第1の底部管板によって支持され、前記最終の複数の垂直管は、最終の頂部管板及び最終の底部管板に支持され、
仕切り板が前記頂部管板から前記容器の上方部分まで延び、仕切り板が前記底部管板から前記容器の下方部分まで延びている、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容(本発明)は、落下フィルム式管状蒸発器及び液体供給物を濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最新の蒸発技術は、香料、アロマ、着色剤、及び栄養物を保存するよう設計されているが、これらは、高温への溶液の暴露によって悪影響を受ける場合がある。これは、幾つかの場合において、低い沸点を確保するために真空下における蒸発によって達成される。
【0003】
蒸発方法では、生成物の濃縮は、溶剤、一般的な水を沸騰させることによって達成される。回収された最終生成物は、所望の製品品質及び操業上の経済状況と一致した最適固形分を有するべきである。蒸発は、食品、化学薬品、医薬品、フルーツジュース、日用品、紙、パルプ、及びモルト飲料とグレーン飲料の両方を処理する際に大々的に用いられるユニット作業である。
【0004】
落下フィルム式蒸発方式は、低粘度製品、例えば日用品、フルーツジュース、植物エキス、血漿、多種多様な医療品、流出液、ならびに多くの他の有機製品及び無機製品の蒸発のために広く利用されている。幾つかの場合、蒸発は、液体‐粉末乾燥プロセスに先立って、液体成分の相当な減少を達成するために実施される。この結果、効率の高い乾燥プロセスがエネルギーコストを低くするとともに環境フットプリントを減少させた状態で得られる。
【0005】
一般的に、落下フィルム式蒸発方式により、滞留時間の短縮及び熱伝達の高効率化に起因するデリケートな成分に対する風味上の悪影響を最小限に抑えることができる。
【0006】
多くの医薬品、食品、及び日用品は、熱に極めて弱いので、最適品質は、処理時間及び処理温度が製品の濃縮中にできるだけ低く保たれたときに得られる。プロセス中の最も重要な部分は、製品が製品それ自体よりも高温の熱伝達表面と接触している短い時間の間に起こる。この熱に弱い利用形式のため、フィルム式蒸発器が2つの理由で実用であることが判明している。第1に、製品は、体積全体を占めるのではなく熱伝達表面上にのみ薄膜(薄いフィルム)を形成し、熱交換器内の滞留時間を大幅に減少させる。第2に、フィルム式蒸発器は、低い水蒸気‐製品温度差で、典型的には約6°F(3.5℃)で作動するのが良い。製品と加熱表面の両方が同一温度に近い状態で、局所化されたホットスポットは最小限に抑えられる。
【0007】
米国特許第3,412,778号明細書は、水平に穴あけされた板を備えた液体分配器(ディストリビュータ)を有する落下フィルム式管状蒸発器を開示している。
【0008】
米国特許第4,094,734号明細書は、分配器アームが段階的断面を備え、供給管が実質的に一定の粘度がヘッダ全体にわたって維持されるよう粘性溶液を圧送する際に通るラインの断面積に実質的に等しい全断面積を有する落下フィルム式管状蒸発器を開示している。
【0009】
米国特許第4,857,144号明細書は、垂直に取り付けられた細長い管を有する蒸発器を開示している。蒸発器は、頂部カバーの下側に設けられるとともに上側管板からほんの僅かに間隔を置いて配置された頂点を有する逆円錐形部材を有する。
【0010】
米国特許第4,925,526号明細書は、垂直管を有する落下フィルム式蒸発器を開示している。この蒸発器は、蒸発させるべき物質をこの物質が管に沿って流下して管の外面上にフィルムを形成するような仕方で外側管の上端部に分配する機構体を有する。
【0011】
国際公開第92/20419号パンフレットは、実質的にU字形の断面を有する複数の垂直の細長い互いに間隔を置いて配置された要素及び蒸発した液体及び蒸気を受け入れる内方に向いた垂直縁部を備えた落下フィルム式蒸発器を開示している。これら要素は、蒸気空間の壁から間隔を置いて位置した蒸気空間内で管の下方に位置しかつ円錐形底部を備えた円周方向壁内に配置されている。
【0012】
英国特許第154355(A)号明細書は、液体がフィルム内を循環する蒸発器において同一温度及び同一圧力下において連続した段をなして蒸発を行うことによる液体の濃縮に関する。
【0013】
米国特許第3875988(A)号明細書は、複数の薄膜流下型垂直熱交換管を有する多重効果蒸発器を開示しており、これら熱交換管の端部は、装置を種々の蒸発器チャンバに分割する仕切り板に連結されている。
【0014】
英国特許第2084885(A)号明細書は、コラム内で互いに上下に配置された1組の多重効果垂直フィルム式蒸発器内で薄膜の形態をした溶液の蒸発を行うことによって水性グリコール溶液の濃縮を行うことを開示している。
【0015】
欧州特許出願公開第2899163(A1)号明細書は、積み重ね型落下フィルム式蒸発器を開示している。
【0016】
米国特許第4424633(A)号明細書は、物品を加熱するとともに乾燥させる装置であって、供給された第1の液体の蒸気の凝縮熱によって物品を加熱する排気可能な乾燥チャンバ及び第1の液体の形態をした乾燥チャンバからの凝縮物及び第1の液体よりも沸点の高い第2の液体を受け入れる薄膜蒸発器を有する装置を開示している。
【0017】
日本国特開昭58‐109102(A)号公報は、各々が仕切り板を備えた液体供給ユニット及び液体排出部分を有する蒸発器を開示しており、液体排出部分の仕切り板は、中心に開口部を有する。
【0018】
米国特許出願公開第2006/260764(A1)号明細書は、外部スリーブを備えた落下フィルム式蒸発器を用いるトマトジュース濃縮のための設備を開示しており、外部スリーブは、トマトジュースが連続して循環する複数のセクタに分割された管の垂直管束を包囲している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許第3,412,778号明細書
【文献】米国特許第4,094,734号明細書
【文献】米国特許第4,857,144号明細書
【文献】米国特許第4,925,526号明細書
【文献】国際公開第92/20419号パンフレット
【文献】英国特許第154355(A)号明細書
【文献】米国特許第3875988(A)号明細書
【文献】英国特許第2084885(A)号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2899163(A1)号明細書
【文献】米国特許第4424633(A)号明細書
【文献】日本国特開昭58‐109102(A)号公報
【文献】米国特許出願公開第2006/260764(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
蒸発は、日用品、食品、及び化学業界において広く利用されている高エネルギーを大量に消費するプロセスである。したがって、経済的なエネルギー利用及びプロセス有効性の観点から蒸発に取り組むことが必要不可欠である。
【0021】
本発明の目的は、操業費、エネルギー消費量及び資本投資、例えばスペース、フットプリント、及び輸送(これらには限定されない)に関して最適化された蒸発システムを提供することにある。本発明の実施形態によれば、差別化蒸発基準の実現を可能にする幾つかの蒸発効果が単一の蒸発器ユニットに組み込まれる。本発明の目的は、独立形式の請求項に記載された特徴によって達成される。別の具体化形式が従属形式の請求項、発明の概要、本文、及び図から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、液体供給物を濃縮する落下フィルム式管状蒸発器であって、蒸発器が加熱媒体コンパートメントと、第1の液体供給物コンパートメントと、最終液体供給物コンパートメントを収容した容器と、を有し、第1の液体供給物コンパートメントが第1の頂部管板及び第1の底部管板によって支持されている第1の複数の垂直管と、液体供給物を頂端部のところで管に分配する入口と、を有し、液体フィルムが管の内側上に形成されて第1の底部管板まで垂直管に沿って流下し、第1の液体供給物コンパートメントが部分的に濃縮された液体供給物が送り込まれる第1の底部コンパートメントをさらに有し、
加熱媒体コンパートメントが液体供給物を加熱する加熱媒体のための入口と、使用済み加熱媒体のための出口と、を有する、落下フィルム式管状蒸発器において、
最終液体供給物コンパートメントは、最後の頂部管板及び最後の底部管板によって支持されている最後の複数の垂直管と、部分的に濃縮された液体供給物を管に頂端部のところで分配する最後の供給物入口と、を有し、液体フィルムが管の内側上に形成されて最後の底部管板まで垂直管に沿って流下し、最後の液体供給物コンパートメントは、濃縮された液体供給物が送り込まれる最後の底部コンパートメントと、濃縮された液体供給物のための出口と、をさらに有することを特徴とする落下フィルム式管状蒸発器に関する。
【0023】
最初の及び最終の液体供給物コンパートメントを設けた場合の作用効果は、差別化蒸発基準を達成することができるということにある。かくして、当初、次の液体供給物コンパートメント内で用いられる温度及び/又は圧力とは異なる温度及び/又は圧力を用いて蒸発作用を用いて液体供給物に蒸発作用を加えるのが良い。さらに、資本コスト投資及び設備床面積を減少させるには、多数の液体供給物コンパートメントを単一の容器中に統合する。
【0024】
本発明の一実施形態では、容器は、1つ又は2つ以上の中間液体供給物コンパートメントをさらに収容し、各中間液体供給物コンパートメントは、中間頂部管板及び中間底部管板によって支持されている中間の複数の垂直管及び管への頂端部のところでの液体供給物の分配のための入口を有し、液体フィルムが管の内側上に形成されて中間底部管板まで垂直管に沿って流下し、中間液体供給物コンパートメントは、部分的に濃縮された液体供給物が送り込まれる中間底部コンパートメントをさらに有する。
【0025】
製品及び/又はプロセス要求に応じて、容器内の中間液体供給物コンパートメントの個数、すなわち、カランドリア本体内の分割部の上限は存在しない。
【0026】
ある特定の実施形態では、容器は、液体供給物を加熱する加熱媒体のための別々の入口及び使用済み加熱媒体のための別々の出口を備えた2つ又は3つ以上の加熱媒体コンパートメントを有する。加熱媒体は、代表的には、水蒸気又は任意他の気体、好ましくは凝縮可能な気体、より好ましくは蒸発物の溶剤の気体形態である。しかしながら、本発明のある特定の実施形態では、加熱媒体は、液体、好ましくは水又は油である。
【0027】
2つ又は3つ以上の加熱媒体コンパートメント、例えば水蒸気コンパートメントを設けることにより、特定の要望に適した温度差を利用することができる。熱に弱い製品の場合、水蒸気コンパートメントとこれに対応した液体供給物コンパートメントの間の僅かな温度差が好ましい場合がある。さらに、各段において比較的僅かな温度差を用いる多数のステップで実施される蒸発は、大きな温度差を用いた単一の段よりもエネルギー効果が高い傾向がある。
【0028】
製品及び/又はプロセス条件が要求する場合には水蒸気側及び製品側において一致しない数のコンパートメントを使用することができる。本発明の実施形態では、製品側よりも水蒸気側に多くのコンパートメントを得ることが可能である。別の実施形態では、水蒸気側よりも製品側においてより多くのコンパートメントが用いられる。
【0029】
本発明の一観点では、蒸発器の容器は、少なくとも2つの蒸発効果を組み込むよう構成されている。換言すると、少なくとも2つの対をなす液体供給物コンパートメント及び水蒸気コンパートメントが設けられる。これらの作用効果は、加熱媒体(水蒸気)の温度及び液体供給物の沸点に関する差別化された蒸発基準の実現を可能にすることにあり、かくしてその結果として、単純化及びコスト、輸送、及び/又はフットプリントの減少が得られる。
【0030】
本発明の使用の一例として、ミルクを62℃の沸点において最高約40%までの乾燥物質まで濃縮することができ、他方、約50%乾燥物質への最終の蒸発が55℃で起こる。
【0031】
他の製品に関し、製品に対する熱の効果を制限するよう低温濃縮で低い温度が望ましいが、最終の濃縮は、製品中の成分が望ましくない時点で製品の析出又は結晶化を生じさせる場合のある臨界値を超える濃縮に達するのを阻止するために高い温度で行われる必要があるといえる。
【0032】
本発明の一観点では、蒸発器は、蒸気の少なくとも一部を水蒸気のための入口に再循環させるために機械的蒸気再圧縮及び/又は熱的蒸気再圧縮を採用するよう構成されている。エネルギー保存は、蒸発器システムの設計において1つの大きなパラメータである。蒸発器のデューティが大きければ大きいほど、エネルギーを保存する重要性がそれだけ一層高まる。多重効果蒸発では、一効果において蒸発から生じた水蒸気は、低い圧力に維持される第2の効果において液体を蒸発させるための熱を提供するために用いられる。幾つかの二重効果蒸発器では、1kgの水蒸気供給量ごとに液体供給物から約2kgの水蒸気を蒸発させることが可能である。効果の数を増大させると、水蒸気の経済性が高まる。幾つかの大きなデューティに関し、7つという多くの効果を利用することが経済的に実施可能である。
【0033】
落下フィルム式蒸発方式は、利用可能なエネルギー源、すなわち、水蒸気をほとんど必要としない又は全く必要としない機械的蒸気再圧縮(Mechanical Vapor Recompression:MVR)及び/又は次の効果のために加熱媒体として利用されるべき一効果から蒸気を再圧縮するための生蒸気を用いる熱的蒸気再圧縮(Thermal Vapor Recompression:TVR)に応じて2つの蒸気再圧縮技術を採用することができる。
【0034】
MVRは、電気エネルギーの十分な供給が行われる領域内で相当な操業費の節約をもたらす。MVR蒸発がいったん作動すると、追加の水蒸気がほとんど必要とされず又は全く必要とされない。MVRでは、高圧ファンが蒸気を高圧に再圧縮するために用いられ、その結果、温度の上昇が生じる。このことは、再圧縮蒸気を蒸発器加熱媒体として利用することができる一方で凝縮物が供給物の予熱にとって理想的であることを意味している。高圧力ファンは、電気モータ、又は気体もしくは水蒸気タービンによって電力供給可能である。MVR蒸発プロセスの次に、多くの場合、TVR又は強制循環蒸発器でそれ以上の濃縮が行われる。
【0035】
熱力学的に、水を蒸発させるための最も効率的な技術は、機械的蒸気熱的再圧縮を利用することである。このプロセスは、製品から蒸発した蒸気を利用し、蒸気を機械的に圧縮し、そして次に、水蒸気コンパートメント内で高圧の蒸気を用いる。
【0036】
蒸気圧縮は、ラジアル型ファン又は圧縮機によって実施される。ファンは、例えば1:1~1:2の比較的低い圧縮比をもたらし、その結果、大きな熱伝達表面積が得られるが、極めてエネルギー効率の高いシステムが得られる。高い圧縮比を遠心圧縮機で達成できるが、ファンは、その高い信頼性、低い保守費及び一般的に低いRPM作動に起因してこの種の機器の標準になっている。
【0037】
1つ又は2つ以上の効果にわたるTVRは、水蒸気ジェット圧縮機を用いて第1の効果のための加熱媒体として使用するために一効果から排出された蒸気の一部を圧縮することによってプロセスのコストパフォーマンスを高める。かくして、多重効果蒸発により、小さな温度差で液体供給物コンパートメントにわたって穏やかにかつ効果的に予熱するために蒸発器それ自体からの低位熱の再生が可能である。
【0038】
水蒸気が45psig(3barg)を超える圧力、好ましくは100psig(7barg)を超える圧力で利用可能な場合、TVRを使用することが可能な場合が多くなる。この作動では、液体供給物から蒸発した水蒸気の一部分は、水蒸気ジェットベンチュリによって再圧縮されて蒸発器の蒸気室に戻される。この種のシステムは、製品、水蒸気圧力、及びTVRが利用される効果の数に応じて2:1以上の経済性を提供することができる。TVRは、蒸発の経済性を高めるための比較的安価な技術である。
【0039】
適切には、本発明の蒸発器は、頂部板から容器の上方部分まで延びる仕切り板及び底部板から容器の下方部分まで延びる仕切り板を有する。これら仕切り板は、カランドリアを2つの液体供給物コンパートメントに分割する。容器をそれ以上の液体供給物コンパートメントに分割するためのそれ以上の仕切り板が設けられる場合がある。仕切り板の使用により、コンパートメントを得る単純ではあるが効果的なやり方を許容することができる。
【0040】
本発明の幾つかの実施形態では、液体供給物コンパートメントは、各々が複数の管を有する2つ又は3つ以上の連続的に連結された区分に区分されている。通常、管の本数は、液体が液体供給物から蒸発しているときに各区分内において下流側の方向に減少する。下流側の方向における管の本数の減少により、正確な湿潤速度が得られるようになる。各セグメント内では、部分的に濃縮された液体供給物を再循環させて加熱面の正確な湿潤を得てファウリング又はそれどころか流路の閉塞を回避することができる。
【0041】
全ての個々の管の湿潤速度は、製品ファウリングを阻止する上で重要な場合がある。液体分配の適当ではあるが排他的ではないやり方は、分配板が頂部プレート中に組み込まれた静的原理に基づいて又は幾つかの製品についてはスプレー分配によって行われる。これは、各管の内面上における薄膜の一定かつ均等な分布を保証する。かくして、本発明の一実施形態では、蒸発器は、供給液体を管に分配する分配板を有する。本発明の別の実施形態では、蒸発器は、液体供給物を管に分配するスプレーノズルを有する。
【0042】
液体を各管に広げることは、場合によっては、この時点でフラッシュ蒸気を発生させることによって一層高められる。
【0043】
本発明のある特定の観点では、液体供給物コンパートメントは、1つのコンパートメントの部分的に濃縮された液体供給物を連続して位置する液体供給物コンパートメントの供給物入口に供給するよう構成された導管を介して互いに連結されている。通常、ポンプが部分的に濃縮された液体の運搬を助ける。導管は、ある特定の構成例では、部分的に濃縮された供給液体が頂部プレート上方の位置で自由にされ又は瞬間蒸発される前に、部分的に濃縮された供給液体の温度を調節するために水蒸気コンパートメント内に設けられるのが良い。
【0044】
液体供給物と接触状態にある本発明のコンポーネントは、一般に、ステンレス鋼、例えば304又は316ステンレス鋼で作成される。しかしながら、製品に応じて他の金属も使用可能である。極めて高価な/特殊な構成材料、例えば904L、2205、ニッケル、ハステロイC、チタン、ポリマー、複合材料、及びさらに黒鉛、セラミックス、又はガラスが必要な場合がある。この一覧は、排他的ではなく、上述の構成材料の任意の組み合わせもまた、その構成において採用できる。
【0045】
本発明の一実施形態では、内部又は外部に位置する場合のある2つ又は3つ以上の蒸気液滴分離器又は内部及び外部蒸気液滴分離器の組み合わせを有する。液体と管から排出された蒸気の混合物についての所要の分離は、蒸発器本体の底部コンパートメント内で起こるが、蒸気・液滴分離器の作用効果は、蒸気内に含まれている液滴、例えば水滴を蒸気から分離するのを許容することである。このようにして得られた液滴を中間又は最終の液体製品に送ることができる。
【0046】
本発明はまた、液体供給物を濃縮する方法であって、
a.容器内に設けられた第1の液体供給物コンパートメントの第1の複数の垂直管の頂端部に管の内面上におけるフィルムの形成のために液体供給物を供給するステップと、
b.管の外面を加熱媒体で加熱するステップと、
c.フィルムが管の底端部まで流下することができるようにしながら液体を部分的に蒸発させるステップと、
d.蒸気と部分的に濃縮された液体供給物の混合物を収集するステップと、
e.蒸気及び部分的に濃縮された液体供給物を互いに分離するステップと、
f.容器内に設けられた最終の液体供給物コンパートメントの最終の複数の垂直管の頂端部に管の内面上における内側フィルムの形成のためにステップeの分離された液体供給物を供給するステップと、
g.最終の液体供給物コンパートメントについてステップb~ステップeを繰り返し実施するステップと、
h.濃縮された液体供給物を収集するステップと、を含むことを特徴とする方法に関する。
【0047】
好ましい一観点では、落下フィルム式管状フィルム蒸発器は、本発明の方法を実施するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】2つの液体供給物コンパートメント及び水蒸気コンパートメントを有する落下フィルム式管状蒸発器を開示する図である。
図2】2つの液体供給物コンパートメント及び2つの対応した水蒸気コンパートメントを有する落下フィルム式管状蒸発器を開示する図である。
図3】2つの液体供給物コンパートメント及び2つの対応した水蒸気コンパートメントを有する落下フィルム式管状蒸発器を開示する図であり、液体供給物コンパートメントが4つの区分及び2つの区分にそれぞれ区分されている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、本発明の落下フィルム式管状蒸発器の考えられる一実施形態の単純化された図である。蒸発器1は、水蒸気コンパートメント31、仕切り板33によって互いに分離された第1の液体供給物コンパートメント3と最終液体供給物コンパートメント4を収容した容器2を有し、第1の液体供給物コンパートメントは、第1の頂部管板6及び第1の底部管板7によって支持されている第1の複数の垂直管5、液体供給物を頂端部のところでこれら管に分配する入口10、及び第1の底部コンパートメント12を有する。水蒸気コンパートメントは、液体供給物を加熱する水蒸気8のための入口及び凝縮物のための出口9を有する。最終液体供給物コンパートメント4は、第1の頂部管板14及び最終底部管板15によって支持されている最終の複数の垂直管13、部分的に濃縮された液体供給物を頂端部のところでこれら管に分配する最終供給物入口18、濃縮液体供給物が送り込まれる最終底部コンパートメント20、及び濃縮液体供給物のための出口21を有する。
【0050】
最初に、液体供給物を第1の液体供給物コンパートメント3に供給し、ここで、液体供給物は互いに異なる種々の手段によって、第1の液体供給物コンパートメント3の複数の管5の頂端部に分配される。液体供給物は、これら管の内側上に液体フィルムを形成し、この液体フィルムは、垂直管に沿って第1の底部管板7まで流下する。各管への液体の広がりを高めるには、液体供給物にフラッシュ(瞬間蒸発)を及ぼすのが良く、それによりフラッシュ水蒸気が生じる。垂直管の内側上における液体フィルムの下降流れの間、液体フィルムは、水蒸気コンパートメント31内の水蒸気によって気泡になり、これが管の外側上に凝縮し、それにより潜熱が管壁を通って液体フィルムに放出される。液体フィルムの沸点は、管の内側にかかる圧力ならびに周りの水蒸気コンパートメント内の水蒸気を温度及び圧力で決まることになる。液体フィルムを蒸発させているとき、蒸気が管の中心を満たし、かくしてフィルムの下向き運動が加速され、その結果、フィルムが薄くなる。管からのその結果として生じる液体と蒸気の混合物が第1の底部コンパートメント12内に入り、ここで、液体が蒸気から分離される。
【0051】
このようにして得られた液体は、元の液体供給物の部分的濃縮形態であり、かかる液体は、いまや液体供給物として、部分的濃縮液体供給物のために別の沸点を用いる蒸発の第2のラウンドのために及びかくしてさらなる濃縮のために最終液体供給物コンパートメント4の頂部に供給されるのが良い。液体供給物の供給は、場合によってはポンプ32を用いて内部又は外部管類によって達成されるのが良い。一般に、循環式ポンプが適正な蒸発器液体流れを維持する上で必要である場合がある。本実施例では、最終液体供給物コンパートメント4は、第1の液体供給物コンパートメント3よりも少ない本数の垂直管を有し、その目的は、管の内側の最適湿潤を保証してかくしてフィルムがちぎれるのを回避し、その結果、蒸発中の液体フィルムの乾燥に起因したファウリングの発生を回避することにある。蒸発の第2のラウンド後、濃縮物を最終底部コンパートメント20から排出する。
【0052】
図2は、本発明の落下フィルム式管状蒸発器の考えられる一実施形態の単純化された図である。この図は、蒸発器の容器が2つの水蒸気コンパートメント及びMVR及び/又はTVR35を有する状態で図1の略図を示している。図1に示された水蒸気コンパートメントは、仕切り板34によって2つの水蒸気コンパートメントに分離されている。水蒸気コンパートメントの各々は、液体供給物を加熱する水蒸気のための別々の入口8,16及び凝縮のための別々の出口9,17を有する。これは、各水蒸気コンパートメント内における互いに異なる水蒸気温度及び/又は圧力を考慮に入れており、それにより蒸発の互いに異なる条件を2つの液体供給物コンパートメントの各々内において実現することができる。蒸発器は、2つの蒸気液滴分離器37をさらに有する。管から得られた液体と蒸気の混合物についての底部コンパートメント12/20内における分離後、蒸気は、この蒸気からの蒸気中に含まれている液滴の分離のために蒸気液滴分離器37に通される。このようにして得られた蒸気が蒸気液滴分離器を出てMVR内で圧縮され、水蒸気入口8及び第2の水蒸気コンパートメントの入口16に供給される。他方、得られた液滴は、底部コンパートメント12/20から排出された液体生成物に供給されるのが良い。
【0053】
図2に示されている蒸発の特定の使用にあたり、ミルクを62℃の沸点で約40%全固形分(TS)に濃縮され、次に55℃で約50%TSまで最終の蒸発が行われる。
【0054】
別の特定の使用にあたり、蒸発器は、非凝縮性乳漿(ホエー)浸透物の製造にあたって乳漿浸透物を濃縮するよう構成される。乳漿浸透物が世界の食料及び飲料業界において食品処方中の費用効果の良いミルク成分として広く用いられている。乳漿浸透物は、65℃の沸点で第1段階において、そして78℃の沸点において最終段階で濃縮可能である。
【0055】
図3は、本発明の落下フィルム式管状蒸発器の考えられる一実施形態の単純化された図である。図2に示された実施形態と比較して、第1の液体供給物コンパートメントの底部コンパートメントは、多くの区分36に区分されている。これら区分の各々は、同一区分22内の部分濃縮液体供給物を再循環させるか部分濃縮液体供給物を次の区分に送るかのいずれかのために管の頂部の入口に導管を介して連結されている。各区分内の管の本数は、一般的に言って、液体をさらに蒸発させているときに管の内面の十分な湿潤を保証するよう下流方向に減少する。
【0056】
種々の観点及び種々の具体化例を本明細書に記載した種々の実施形態と関連して説明した。しかしながら、開示した実施形態の他の変形例は、当業者であれば、図面、開示内容及び添付の特許請求の範囲の記載の検討からクレーム請求された発明を実施する際に理解して実施できる。原文特許請求の範囲の記載に関して、“comprising”(訳文では、「~を有する」としている場合がある)という用語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞“a”又は“an”は、複数を排除するものではない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲に記載された幾つかの構成要素の機能を実行することができる。ある特定の手段が相互に異なる従属形式の請求項において記載されているということだけでは、これら手段の組み合わせを利点が得られるように使用することができないということにはならない。コンピュータプログラムを適当な媒体、例えば他のハードウェアと一緒に又はその一部として提供される光学記憶媒体又はソリッドステート媒体上に記憶/分散させることができるが、これはまた、他の形態、例えばインターネット又は他のワイヤード又はワイヤレス通信システムを介して分散させることができる。
【0057】
特許請求の範囲に用いられている参照符号は、本発明の範囲を限定するものと解されてはならない。
図1
図2
図3