(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】単細胞紅藻の産業的利用のための最適化された方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240906BHJP
A23L 5/46 20160101ALI20240906BHJP
C12P 17/16 20060101ALI20240906BHJP
C12P 17/18 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C12N1/12 A
A23L5/46
C12P17/16
C12P17/18 A
(21)【出願番号】P 2021545670
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2020053081
(87)【国際公開番号】W WO2020161280
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2023-01-25
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513127711
【氏名又は名称】フェルメンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】カニャク、オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】アタネ、アクセル
(72)【発明者】
【氏名】デモル、ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ブロッセ-ヴァンサン、サンドラ
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/178334(WO,A2)
【文献】特開昭63-109787(JP,A)
【文献】特表2018-529343(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111092(WO,A1)
【文献】Process Biochemistry,1999年,Vol.34, Issue 8,p.795-801
【文献】Enzyme and Microbial Technology,2006年,Vol.38, Issues 1-2,p.168-175
【文献】BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING,1969年,Vol.11, Issue 1,p.37-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/12
A23L 5/46
C12P 17/16
C12P 17/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単細胞紅藻(URA)を培
養するための最適化された方法であって、
(a)前記URAを発酵培養する工程、
(a1)成熟期を実施する工程、
(b)バイオマスを回収する工程、および
(c)細胞を溶解する工
程を含み、
工程(a)において、URAを流加モードまたは連続モードでの発酵によって増殖させ、
工程(a)における発酵培養は、バイオマスおよび発酵ジュースを含む発酵マストを得るために実施され、
工程(a1)は、培養物が少なくとも30g/Lの乾物(DM)に達すると始動され、
工程(a1)において、URAを連続モードで成熟させる場合、成熟培養培地は、URAの低減された増殖速度を課す流速を有し、または、URAを流加モードもしくは連続モードで成熟させる場合、成熟培養培地は炭素源を含まず、
前記方法が、(c1)前記バイオマスを、粉砕の間50℃未満の温度に維持しつつ、粉砕することによって溶解する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
(d)溶解されたバイオマスからフィコシアニンおよび/またはポルフィリンを抽出する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d1)溶解されたバイオマスの総体積の3倍未満の総量の水で、連続的洗浄を行うことによって、溶解されたバイオマスからフィコシアニンを抽出する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
(b1)発酵ジュースからポルフィリンを抽出する工程
をさらに含むことを特徴とする、請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記URAが、Cyanidioschyzon、CyanidiumまたはGaldieria属に属することを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記URAが、Galdieria属かつsulphuraria種に属することを特徴とする、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記粉砕の温度が、47℃を超えないことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記粉砕の温度が、40℃を超えないことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記温度が、ミルジャケットの水冷却システムによって維持されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記温度が、20℃未満の温度まで事前に冷却されたバイオマスをミルに注入することによって維持されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フィコシアニンが、前記溶解されたバイオマスの洗浄溶液から回収されることを特徴とする、請求項
2または3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単細胞紅藻(URA)の培養方法であって、培養産物、すなわち得られたバイオマス、それから抽出されたフィコシアニンの双方、または他の培養産物、例えばポルフィリンもしくはタンパク質抽出物を安定化するための最適化された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類、特に、単細胞紅藻(URA)を培養する様々な方法が、産業用途または食品用途のための様々な産物を製造するために知られている。
【0003】
特に、タンパク質に富んだ食品サプリメントを製造するための、または食品着色料として有用なフィコシアニンを製造するための、spirulinaの培養および加工方法が挙げられる。
【0004】
また、同様の産物を得るためのURAの培養および加工方法、そして特に、特許出願WO2017/050917、WO2017/093345およびWO2018/178334に記載されるGaldieria sulphurariaの培養および加工方法が挙げられる。
【0005】
Galdieria sulphuraria等のURAを培養および加工するための産業的方法は、
図1に示される。
【0006】
しかしながら、これらの様々な方法は、URAの産生および加工の各工程において更なる改善が可能であることに留意すべきである。特に、これらの方法は、URA、例えばGaldieria sulphurariaを通常の培養条件下で培養した場合に、多量のグリコーゲンが蓄積され、グリコーゲンの量は、特にバイオマスの処理、特に細胞溶解の条件、バイオマスから得られる産物の単離の条件、およびこれらの単離された産物、特にフィコシアニンの品質に対して影響を及ぼすという事実を考慮して、改善することができる。
【0007】
特に、これらの様々な工程を最適化し、得られた産物をより良好に安定化することが重要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、URA、特に、Galdieria sulphurariaを培養および安定化するための最適化された方法であって、(a)URAを発酵培養する工程、(b)発酵ジュースからバイオマスを分離する工程、必要に応じて(c)細胞を溶解する工程、そして必要に応じて(d)溶解されたバイオマスから安定化可能な産物を抽出する工程を含み、前記方法が、下記工程のうち少なくとも1つ:
(c1)バイオマスを、粉砕の間50℃未満の温度に維持しつつ、粉砕することによって溶解する工程、および/または
(a1)培養培地中への制限された炭素源投入を行い、成熟期を伴う発酵培養を行う工程、および/または
(b1)発酵ジュースからポルフィリンを抽出する工程、および/または
(d1)溶解されたバイオマスの総体積の4倍未満の総量の水で、少なくとも2回の連続的洗浄を行うことによって、溶解されたバイオマスからフィコシアニンを抽出する工程
を含む、方法に関する。
【0009】
本発明はまた、本発明の方法によって得られた産物、特に、発酵ジュースから抽出されたポルフィリン、バイオマス、溶解されたバイオマス、単離されたタンパク質、および/またはフィコシアニンに関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】Galdieria sulphuraria培養物から様々な産物を製造するための方法の単純化されたダイアグラムを示す。
【
図2】グリセロールを用い、成熟期を伴う流加モードでのGaldieria sulphuraria株の増殖を示す。
【
図3】グリセロールを用い、成熟期を伴う流加培養の間のバイオマス組成のモニタリングを示す。
【
図4】ミルクパーミエートを用い、成熟期を伴う流加モードでのGaldieria sulphuraria株の増殖を示す。
【
図5】成熟期を伴う流加モードでのミルクパーミエートを用いた培養の間のバイオマス組成のモニタリングを示す。
【
図6】ポルフィリン産生を伴わない、グリセロールを用いて連続的に増殖させたGaldieria sulphuraria株の増殖モニタリングを示す。
【
図7】グリセロールを用いて連続的に増殖させたGaldieria sulphurariaの培養の間のバイオマス組成のモニタリングを示す。
【
図8】グルコースを用いた連続モードでのGaldieria sulphuraria株の増殖モニタリングを示す。
【
図9】グルコースを用いて連続的に増殖させたGaldieria sulphurariaの培養の間のバイオマス組成のモニタリングを示す。
【
図10】ミルクパーミエートを用いた連続モードでのGaldieria sulphuraria株の増殖モニタリングを示す。
【
図11】ミルクパーミエートを用いて連続的に増殖させたGaldieria sulphurariaの培養の間のバイオマス組成のモニタリングを示す。
【
図12】冷却を伴わないBertoli HHP粉砕データ(1200バール)を示す。
【
図13】冷却を伴うBertoli HHP粉砕データ(1200バール)を示す。
【
図14】異なるpHに調節した溶解物についての、50℃でのフィコシアニンの抵抗性を示す。
【
図15】ボールミルによる細胞溶解の比率に対するビーズ直径の影響を示す。
【
図16】異なる体積の水で連続洗浄した場合の、単回洗浄した場合と比較した、抽出されたフィコシアニンの量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による方法の種々の工程は、以下および実施例においてより詳細に説明される。
【0012】
本発明によれば、「安定化」とは、産業における使用のために有用な産物の単離を可能にする技術的工程を意味する。
【0013】
特に、本発明による方法は、以下の連続的な工程:
(a1)培養培地における炭素源の制限を含む成熟期を伴う発酵培養の工程、
(b1)必要に応じて、発酵ジュースからポルフィリンを抽出する工程、
(c1)必要に応じて、バイオマスを、粉砕の間50℃未満の温度に維持しつつ、粉砕することによって溶解する工程、および
(d1)必要に応じて、溶解されたバイオマスの総体積の4倍未満の総量の水で、少なくとも2回の連続的洗浄を行うことによって、溶解されたバイオマスからフィコシアニンを抽出する工程
を含む。
【0014】
より具体的には、本発明による方法は、以下の連続的な工程:
(a1)培養培地における炭素源の制限を含む成熟期を伴う発酵培養の工程、
(b1)発酵ジュースからポルフィリンを抽出する工程、
(c1)バイオマスを、粉砕の間50℃未満の温度に維持しつつ、粉砕することによって溶解する工程、および
(d1)溶解されたバイオマスの総体積の3倍未満の総量の水で、連続的洗浄を行うことによって、溶解されたバイオマスからフィコシアニンを抽出する工程
を含む。
【0015】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明の方法は、少なくとも下記工程:
(a1)培養培地における炭素源の供給を制限することによる成熟期を伴う発酵培養の工程、および
(b1)発酵ジュースからポルフィリンを抽出する工程
を含む。
【0016】
本発明の別の特定の実施形態によれば、本発明の方法は、少なくとも下記工程:
(c1)バイオマスを、粉砕の間50℃未満の温度に維持しつつ、粉砕することによって溶解する工程、および必要に応じて
(d1)溶解されたバイオマスの総体積の3倍未満の総量の水で、連続的洗浄を行うことによって、溶解されたバイオマスからフィコシアニンを抽出する工程
を含む。
【0017】
URA、特に、バイオマスおよびその副産物、タンパク質またはフィコシアニンの産生のために産業的に培養され得るURAは、当業者に周知である。特に、Cyanidiales目の藻類(または微細藻類)が挙げられる。Cyanidiales目は、CyanidiaceaeおよびGaldieriaceae科を含み、それら自身は、Cyanidioschyzon、CyanidiumおよびGaldieria属に下位分割され、これらには、とりわけ、Cyanidioschyzon merolae 10D、Cyanidioschyzon merolae DBV201、Cyanidium caldarum、Cyanidium daedalum、Cyanidium maximum、Cyanidium partitum、Cyanidium rumpens、Galdieria daedala、Galdieria maxima、Galdieria partitaおよびGaldieria sulphuraria種が属する。特に、Galdieria sulphuraria(Cyanidium caldariumとも呼ばれる)株UTEX 2919が挙げられる。
【0018】
また、フィコシアニンの公知の産生体、例えば、spirulinaの一般名の下に産業的に培養されるArthrospira属の糸状性シアノバクテリアが挙げられる。
【0019】
高いグリコーゲン含量を伴ってフィコシアニンを産生する微生物は、特に、上述の微生物、特に、Arthrospira、Spirulina、Synechococcus、Cyanidioschyzon、CyanidiumまたはGaldieria属の種、特に、Galdieria sulphurariaの中から同定されている。
【0020】
本発明はまた、本発明の方法によって得られた産物、特に、バイオマス、発酵ジュースから単離されたポルフィリン、溶解されたバイオマス、溶解されたバイオマスから単離されたタンパク質およびフィコシアニンに関する。
【0021】
微生物によって産生されるフィコシアニン(PC)には、c-フィコシアニン(C-PC)およびアロフィコシアニンが含まれる。本発明によれば、フィコシアニンは、単離されたC-PCおよびアロフィコシアニンまたはそれらの任意の割合での混合物、特に、C-PCとして定義される。
【0022】
URAの培養(a1)
従属栄養モードまたは混合栄養モードのいずれかで、流加モードまたは連続モードで、URA、特に、Galdieria sulphurariaを発酵槽培養することは、科学文献中に広く記載されている。
【0023】
産生されたバイオマスは、フィコシアニンおよびタンパク質だけでなく、グリコーゲンなどの貯蔵糖も含む。バイオマス中のグリコーゲン含量は、乾物の総質量に対して、20~50質量%のオーダーにある。最終バイオマス中のグリコーゲン含量が高いほど、フィコシアニン(PC)およびタンパク質の濃度は低くなる。URAによって、特に、Galdieriaにおいて産生されるグリコーゲンは、冷水に可溶性であり、したがって、PCを抽出する間、水相中に観察され、このことは、濾過の間の技術的課題、例えば、粘度の増加、濾過メンブレンの詰まり、圧力上昇、フィコシアニンを含むフラクション中でのグリコーゲンの蓄積、つまり純度が低下したフィコシアニンの取得をもたらす。本発明は、発酵を「操作する(piloting)」ことによって、グリコーゲンレベルを、20質量%/DMよりも低い値まで低減させることを可能にする。
【0024】
したがって、本発明は、培養培地における炭素源の供給を制限することを含む成熟期を伴う、上で定義したURAの発酵培養を含む、本発明によるバイオマスを産生するための方法に関する。
【0025】
発酵による培養は、細胞増殖を可能にする種々の栄養素を含む培養培地で実施される。当業者に周知のこれらの培養培地は、細胞増殖を可能にするのに適切な濃度で、炭素源、窒素源、リン源、多量元素、微量元素を含む。
【0026】
成熟工程は、特に、流加培養モードまたは連続培養モードで実施される。
【0027】
炭素源は、当業者に公知であり、URA、特に、Galdieria sulphurariaの培養のために使用され得る任意の炭素源、例えば、ポリオール、特に、グリセロール、糖、例えば、グルコースもしくはスクロースもしくはラクトース、またはラクトースを含む複合培地、例えば、ミルクパーミエート、血清パーミエート、バターミルクおよびそれらの混合物、特にミルクパーミエートであり得る。
【0028】
一部の炭素質基質、例えば、グルコースは、PC合成を強く阻害するが、他はそれほどでもないことが知られている。しかしながら、産業的PC産生方法の実現可能性のためには、多くの経済的パラメーター、特に原材料のコストを考慮に入れる必要がある。したがって、ラクトースを含むミルクパーミエートなどの炭素源の使用は、グリセロールほど高いPC収量を可能にするわけではないが、ミルクパーミエートは、リサイクルが困難な乳業の副産物であるので、それを使用する方法の全体的な経済性は有利なままである。本発明による方法の実施は、低いグリコーゲン含量を伴って高い細胞密度を得ることを可能にし、当該方法の終了時点でのPCの抽出を容易にするため、一層有利である。
【0029】
成熟後に得られたバイオマスは、以下の組成を有する:
【0030】
【0031】
これら2つの培養方法のための、炭素源を制限することによる成熟期の実施のための具体的な条件を以下に説明する。
【0032】
回分培養/流加培養
流加培養において、本発明による発酵培養方法は、少なくとも30g/L DMの培養培地中での細胞密度を得るために、上で定義した炭素源を含む培養培地中での細胞増殖の第1期を含む。当業者は、特に、特許出願WO2017/050917、WO2017/093345およびWO2018/178334に記載される先行技術の方法に関し、上記細胞密度を得るために適切な培養培地の組成、特に炭素源含量を決定する方法を知るであろう。
【0033】
所望の細胞密度が得られると、株を有機炭素基質から引き離すことからなる「成熟」期が実施される。
【0034】
本発明の特定の実施形態によれば、増殖期にある培養物が、少なくとも30g/L DM、好ましくは少なくとも80g/L DM、より優先的には少なくとも100g/Lの乾物に達すると、成熟期が始動される。
【0035】
流加期の間に、培養物には、少なくとも100g/Lの炭素基質、好ましくは少なくとも200g/Lの炭素基質、より優先的には少なくとも500g/Lの炭素基質を含む供給培地が供給される。流加期の間のグリコーゲンの蓄積を制限するために、当業者は、5g/L未満、好ましくは1g/L未満、より優先的には0.1g/L未満の発酵マスト中の炭素質基質含量を有することを可能にする供給速度を決定する方法を知るであろう。
【0036】
増殖期の後には成熟期が続く。この成熟期の間に、マスト1リットル当たりの乾燥質量における減少が、増殖の間に蓄積される貯蔵糖、特にグリコーゲンの消費に起因して、観察される。同時に、乾物1グラム当たりのフィコシアニンの量における増加が観察され得る。タンパク質含量についても同様である。この成熟方法は、低いグリコーゲン含量を有するバイオマスを得ることを可能にする。
【0037】
本発明の第1の実施形態によれば、培養物には、炭素源を含まない成熟供給培地が供給される。炭素源の非存在は、成熟供給培地が検出可能な微量の炭素源を含む場合にも観察されることが理解される。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、引き離しは完全である、即ち、細胞には、培養培地がもはや供給されず、細胞は、発酵マストの残留要素およびそれらの細胞貯蔵物を栄養とすることにより、自身の成熟を開始する。
【0039】
有利には、得られたバイオマスは、乾物の質量に対して20質量%(% DM)未満、好ましくは15% DM未満、より好ましくは10% DM未満のグリコーゲンを含む。
【0040】
成熟時間は、培養の温度に依存して、より長くまたは短くすることができる。温度が増殖に最適な温度に近づくにつれて、成熟期は短くなるであろう。
【0041】
増殖期および成熟期を同時に実施し、炭素源供給を介してより低い増殖速度を課し、そうして、株におけるグリコーゲンの蓄積を制限することによって、流加モードでの培養を実施することも可能である。この成熟のための増殖速度は、当業者が決定することができる、株の最大増殖速度に従って決定される。この増殖速度は、株の最大増殖速度の80%未満、優先的には株の最大増殖速度の70%未満、より優先的には株の最大増殖速度の50%未満でなければならない。
【0042】
流加モードでの本発明による方法は、少なくとも70g/L DMを含む発酵マスト(
図4)、および少なくとも10mg/g DMのPC、特にC-PC(
図5)、およびDMの少なくとも40%のタンパク質含量(
図5)を含む発酵マストを得ることを可能にする。
【0043】
連続培養
その著者らが検出の分析限界と考えている0.05g/L未満の検出レベルを有する基質制限を伴う連続的増殖は、Slothら、2006に既に記載されている。この場合、供給培地は、培養物に連続的に補給されるが、細胞によってほとんど即座に消費され、したがって、定量化不能である。上記文献における著者らの目的は、培地中の顕著なグルコース濃度に関連するPC合成の阻害を制限することであり、グルコースはPC合成を抑制することが知られている。これらの条件下でのPC含量は、非常に低く、約5g/L乾物のバイオマス含量で、約28mg/g乾物である。
【0044】
本発明の目的は、流加培養に比べてバイオマスおよびPC生産性を増加させるために、連続培養を実施することである。本発明の方法によって、65~70g/Lまたはそれより多くの乾燥質量、および25mg/g DMと90mg/g DMとの間のまたはそれより多くのPC含量に到達することが可能となる。
【0045】
本発明の第1の実施形態によれば、成熟期は、栄養素の補給なしに、連続培養から得られるマストの一部をタンクに移すことによって実施される。上記流加培養モードを用いた場合と同様、グリコーゲン含量における減少と、フィコシアニンおよびタンパク質含量における増加が同時に得られる。
【0046】
当業者は、公知のパラメーター、例えば、バイオマスが栄養素の供給なしに維持される温度に従って、また所望の目的に従って、成熟に必要な時間を決定する方法を知るであろう。この成熟時間は、少なくとも12時間、優先的には少なくとも48時間、より優先的には少なくとも72時間であろう。
【0047】
増殖工程および成熟工程は、供給培地の流速により低減された増殖速度を課すことによって、同時に実施され得る。有利には、増殖速度は、0.06時間-1未満、優先的には0.03時間-1未満、より優先的には0.015時間-1未満である。
【0048】
有利には、増殖速度は、株の最大増殖速度の80%未満、優先的には株の最大増殖速度の60%未満、より優先的には株の最大増殖速度の40%未満である。
図7では、400時間の培養後、増殖速度は、最大増殖速度の80%未満の値まで低下し、それによって、最初に課された増殖速度と比べて、バイオマス中のPCおよびタンパク質含量は増加し、グリコーゲン含量は減少する。
【0049】
炭素源含量は、少なくとも65g/L、または少なくとも70g/L、より具体的には少なくとも80g/Lの乾物含量が得られることを確実にする。
【0050】
成熟を別に又は同時に行い、このようにして得られたバイオマスは、20%未満、有利には15%未満、またはさらには10%未満のグリコーゲン含量を有する。得られたバイオマスは、DMの少なくとも45%、有利には少なくとも50%のタンパク質含量を有する。
【0051】
フィコシアニン、特にC-PC含量は、少なくとも20mg/g DM、有利には25~50mg/g DMになる。ある特定の炭素源、例えば、ポリオールを用いると、50mg/g DMを超えるC-PC含量が達成可能である。
【0052】
発酵マストにおけるポルフィリン産生(b.1)
いくつかの研究により、フィコシアニンおよびクロロフィル合成経路におけるいくつかの重要な工程が光によって誘発され、他の工程は培地中の有機基質の存在下で抑制されることが示されている(Foleyら、1982;Brownら、1982;Troxlerら、1989;RhieおよびBeale、1994;Stadnichuckら、1998)。文献によれば、従属栄養培養は、増殖培地中へのコプロポルフィリンの排出をもたらし、またコプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリノーゲンIXへの遷移の間、細胞における色素(フィコシアノビリンおよびクロロフィル)含量の低減を引き起こす。混合栄養条件下では、光は、光合成色素の生合成および環境中へのポルフィリンの排出の双方を誘導する。1つの型のポルフィリンから別の型のポルフィリンへの遷移は、時には、自発的反応によって行われ、したがって、増殖培地中にいくつかの形態のポルフィリンを観察することが可能である(Brownら、1982;Stadnichuckら、1998)。
【0053】
文献中に記載された事項とは対照的に、本発明による方法の実施は、有機炭素の供給源、特に、グルコース、グリセロール、ラクトースまたはスクロースが培地中に存在する限り、ポルフィリン排出をもたらさない。ポルフィリンは、流加培養および連続培養の双方において、成熟期(培地中に有機炭素がない)の間にのみ検出される。有機基質が成熟期の後に培地に添加されると、細胞によるポルフィリンの再消費、および発酵ジュースにおけるこれらのポルフィリンの検出不能なレベルへの戻りが観察され得る。
【0054】
本発明によれば、成熟期の後に、上で定義した、低いグリコーゲン含量を有し、タンパク質およびPCに富んだバイオマスを含む発酵マスト、ならびにポルフィリンを含むジュースが得られる。
【0055】
URA、特に、Galdieria sulphurariaによって産生されるこれらのポルフィリンは、例えば線形動物に対する治療のために使用され得る天然のキレート剤である(US2006/0206946)。一部の分子、例えば、プロトポルフィリンIXは、光線療法によるがん治療のために、医療分野でも価値を有し得る(Huangら、2015)。
【0056】
したがって、本発明は、発酵ジュースを回収する工程およびこのジュースからポルフィリンを抽出する工程を含む方法に関する。
【0057】
発酵ジュースは、通常のバイオマス分離法のいずれによっても、特に、当業者に周知の遠心分離(プレート遠心機またはセディカンタ(sedicanter))によって、または濾過(プレートフィルター、フィルタープレス、セラミックまたは有機タンジェンシャル濾過)によって回収される。
【0058】
ポルフィリンは、クロマトグラフィー(アフィニティまたはサイズ排除クロマトグラフィー)などの通常の方法によって抽出され得る。
【0059】
抽出されたポルフィリンは、精製され、次いで、さらなる使用、特に治療における使用のためにパッケージされ得る。
【0060】
バイオマスの粉砕(c.1)
バイオマスからフィコシアニンおよび/またはタンパク質を抽出するために、所望の産物を放出する細胞溶解を実施することが必要である。URA、特に、Galdieria sulphurariaは、実施条件が所望のフィコシアニンを分解するようなものでない限り、通常の方法による溶解を困難なものとする、非常に高い抵抗性を有する細胞壁を有する。
【0061】
回収された産物、フィコシアニンおよび/またはタンパク質の収量は、バイオマス中の産物の含量だけでなく、このバイオマスから最大限を抽出する能力にも依存する。この抽出能は、細胞溶解の効率、およびフィコシアニンの実質的な分解をもたらさない条件で細胞溶解を実施することに依存するであろう。
【0062】
粉砕は、2つの主要な事項:粉砕速度、および機械的摩擦によって生成される熱に基づく。フィコシアニンの場合、フィコシアニンは熱感受性分子であるため、上記熱の制御はさらに一層重要である。実施例7に記載の条件下で、Bertoli型高圧ホモジナイザーを用いて試験を実施した。高圧ホモジナイザーを用いる粉砕は、一貫した溶解率を達成するために、マルチパスを必要とする。Galdieria sulphurariaバイオマスのパスは、3回の連続的パスにもかかわらず、40%を超える溶解率は得られなかった。各パスで、バイオマスが凡そ70℃の温度を有し、緑褐色の色を有する状態に達するまで、温度の増加が観察され、この時点で、フィコシアニンの大部分が分解された。
【0063】
したがって、本発明は、URA細胞、特に、Galdieria sulphurariaを溶解するための方法であって、URAバイオマスを、粉砕の間50℃未満の温度に維持しつつ、ボールミルで粉砕することによって溶解を実施することを特徴とする方法に関する。
【0064】
本発明の特徴は、粉砕チャンバーの内側において、バイオマスの温度を、粉砕の間、50℃を超えない、優先的には47℃を超えない、より優先的には40℃以下になるように調節することにある。この温度制御は、ミルジャケットの水冷却システムによって、または20℃未満の温度まで事前に冷却されたバイオマスをミルに注入することによって実施され得る。
【0065】
本発明において、粉砕工程は、バイオマスを得る方法(発酵モードおよび単離)にかかわらず、バイオマスに適用され得る。粉砕工程は、上記本発明による培養方法によって得られる、低いグリコーゲン含量のバイオマスにとって特に適切かつ好ましい。
【0066】
本発明はまた、このようにして得られた溶解されたバイオマスに関する。
【0067】
本発明者らは、本発明により粉砕されたバイオマスが、未粉砕のバイオマスよりも良好なタンパク質消化性を示すことを見出した。消化性におけるこの改善は、in vitro消化性試験によって実証されている(BoisenおよびFernandez、1995)。
【0068】
【0069】
したがって、本発明は、本発明による粉砕方法によって得られる粉砕されたURAバイオマス、特に、Galdieria sulphurariaバイオマスに関する。
【0070】
本発明は、特に、以下に記載される組成を有するGaldieria sulphurariaの粉砕されたバイオマスに関する。
【0071】
【0072】
アミノ酸組成を、以下の表に示す。
【0073】
【0074】
脂質組成は、以下の通りである:
【0075】
【0076】
本発明はまた、ヒトまたは動物消費のための食品サプリメントまたは食品としての、上記粉砕されたバイオマスの使用に関する。
【0077】
フィコシアニンの抽出(d1)
本発明はまた、溶解されたURA細胞、特に、Galdieria sulphurariaのバイオマスからフィコシアニンを抽出するための方法であって、溶解されたバイオマスの総体積の4倍未満、好ましくは2~3倍、より優先的には約3倍に相当する量の水での連続的洗浄を含むことを特徴とする方法に関する。
【0078】
この溶解されたバイオマスは、フィコシアニンを含む、細胞溶解後に可溶化された種々の細胞抽出物を含む水溶液中の、不溶性細胞残渣の懸濁物を含む。溶解されたバイオマスは、有利には、少なくとも2%の、優先的には少なくとも5%の、より優先的には少なくとも7%の乾物を含む。
【0079】
抽出に必要な水の総体積(Vw)は、処理される溶解されたバイオマスの体積(Vb)の関数として計算され、最大でVbの4倍に相当する(Vw/Vbは4以下である)。無論、本発明をより大きい総体積の水で実施することは可能であるが、フィコシアニンを回収するためにその後処理される水の体積に起因する、より大きい総体積の水を用いる方法の経済性はあまり価値がない。
【0080】
次いで、この総体積の水は、バイオマスに対する連続的パスによってフィコシアニンを抽出するために使用されるいくつかのフラクションへと分割され、フラクションの数(n)は、少なくとも2、好ましくは少なくとも3である。当業者は、本発明の方法の実施の全ての経済的パラメーター、例えば、設備の固定化の原価およびバイオマスの取り扱いの繰り返し(反復)を考慮に入れながら、3よりも多くのフラクションの水を用いた抽出を実施することを計画することができる。好ましくは、フラクションの数は、3である。
【0081】
本発明の第1の実施形態によれば、各フラクションは、互いに異なる体積を有する。本発明の別の実施形態によれば、全てのフラクションが、Vw/nと等しい同じ体積を有する。
【0082】
当業者は、自身が実施するフィコシアニン調製方法を最適化するために、フラクションの数および各フラクションの体積を決定する方法を知るであろう。
【0083】
ペレット化した不溶性成分の連続的洗浄が、適切な量のフィコシアニンをバイオマスから抽出するために必要とされる。数回の洗浄後、ペレット中のC-PCおよびAPCの割合は逆転する。小さい体積の水を連続的に用いてフィコシアニンを抽出する方が、大きい体積の同量の水を一度に用いて抽出するよりも良いことが、
図16から明らかである(
図16)。
【0084】
図のy軸上に、左から出発して、等体積の水の3つのフラクションを用いて行われた3回の連続的抽出に対応する3つのブロックS1、S2およびS3があり、水の総体積Vwは、最初のブロックについては、バイオマスの体積Vbの1倍であり(1/2連続希釈)、第2のブロックについては2倍であり(1/3連続希釈)、第3のブロックについては3倍である(1/4連続希釈)。バーS1は、1回目の抽出によって抽出されたPC値を与える。バーS2は、1回目および2回目の抽出によって抽出されたPCの累積値を与える。バーS3は、連続的に使用した3つのフラクションについての累積値を与える。次いで、5×~12×の異なる体積の水を用いた5つの単回抽出試験がある。
【0085】
図16から、1回目の抽出における水のより大きい初期体積が、ある特定の限度(5×~12×)まで、より良い結果を与えることが理解できる。連続抽出方法を使用して、実際の向上が、抽出効率、および使用される水の低減の点で、見られ得る。例えば、3回の連続抽出は、単回の抽出よりも良い結果を与え、使用される水の総量を少なくとも2倍低減させる。
【0086】
フィコシアニンを含む、各連続的抽出物から回収された洗浄水は、フィコシアニンを回収するために別々に処理することができ、または回収前に集めることができる。
【0087】
本発明による抽出方法は、バイオマス産生のために使用される培養方法および細胞溶解のために使用される方法にかかわらず、URA、特に、Galdieria sulphurariaの任意の溶解されたバイオマスにとって適切である。優先的には、本発明による抽出方法は、上記本発明による方法によって得られる低いグリコーゲン含量を有するバイオマスおよび/または上記本発明による粉砕方法によって溶解されたバイオマスにとって特に適切である。
【0088】
得られたフィコシアニン溶液は、通常、フィコシアニンを単離するために処理される。水溶液からフィコシアニンを回収するための方法は、当業者に周知である。特に、特許出願WO2018/178334に記載される酸沈殿が挙げられる。
【0089】
初期溶液のpHを、フィコシアニンがあまり可溶性でないpH値の範囲(不安定性範囲とも呼ばれる)内の選択された値に調整すること、および溶液中のフィコシアニンを濃縮してフィコシアニンの沈殿を促進させ、沈殿したフィコシアニンを回収することからなる選択的沈殿によっても、フィコシアニンを単離することができる。不安定性範囲は、Galdieria sulphurariaによって産生される酸抵抗性フィコシアニンについて、特に、pH4.4~5.5である。無論、当業者は、簡易な実験によって、他のURAによって産生される他のフィコシアニンについての不安定性範囲を決定する方法を知るであろう。このような方法は、特に、2019年1月11日出願の特許出願FR1900278に記載されている。
【0090】
フィコシアニンの回収前に、水溶液はまた、グリコーゲンの酵素的分解によってそのグリコーゲン含量を低下させるために処理され得る。既に低い含量である、フィコシアニンの沈殿に伴い取り除かれる可能性が高い微量のこれらの多糖は、溶解され、さらに一層可溶性である低分子量多糖になると、さらに一層低減される。また、濃縮工程がタンジェンシャル濾過によって実施される場合、低分子量多糖は、溶液中の他の小分子と共に排除され、このことは、さらにより高いフィコシアニン含量を有する溶液を得ることに有利に働く。特に、グリコーゲンの酵素的溶解は、室温で、5以下、好ましくは約4.5のpHで実施される。これらの温度およびpH条件は、酵素的反応の間にフィコシアニンを保護するために特に適切である。酸性pHおよび室温条件下で活性な酵素は、α1-4グルクロニダーゼ、α1-4グルコシダーゼ(またはアルファ-グルコシダーゼ)活性を有することが知られている酵素から選択される。特に、ペクチンを分解することが公知のペクチナーゼ、特に、糸状性真菌、例えば、Aspergillusから抽出されたペクチナーゼ、より具体的には、Aspergillus aculeatusから抽出されたペクチナーゼ、例えば、Novozymes社から名称Pectinex(登録商標)の下で市販される酵素が挙げられる。グリコーゲンの酵素的溶解は、α1-4グルクロニダーゼまたはα1-4グルコシダーゼに加えて、α1-6グルコシダーゼを用いても実施され得る。上に示されるpHおよび温度条件下で活性なα1-6グルコシダーゼもまた、当業者に公知である。特に、これらは、プルランのα1-6グリコシド結合を加水分解することが公知の、特に、デンプンの分岐を除去することが公知のプルラナーゼである。これらは、一般に、細菌から、特にBacillus属から抽出された酵素である。US6,074,854、US5,817,498およびWO2009/075682は、Bacillus deramificansまたはBacillus acidopullulyticusから抽出されたプルラナーゼを記載している。市販のプルラナーゼは、特に、名称「Promozyme D2」(Novozymes)、「Novozym 26062」(Novozymes)および「Optimax L 1000」(DuPont-Genencor)の下でも公知である。プルラナーゼ/アルファ-アミラーゼ混合物は、先行技術に記載されているが、特に、デンプンからグルコースシロップを産生することに関してのものであることに留意されたい(US2017/159090)。当業者は、処理される溶液中の初期グリコーゲン含量、使用される酵素の量、および産生されたフィコシアニンに求められる純度に応じて、グリコーゲンの量を最良に低減させる適切な反応条件を決定する方法を知るであろう。このような方法は、特に、2019年1月11日出願の特許出願FR1900278に記載されている。
【0091】
回収されたフィコシアニンは、その後、透析濾過などの当業者に公知の方法によって精製され得る。
【0092】
本発明による抽出方法によって得られたフィコシアニンは、少なくとも2の、好ましくは少なくとも3の、またはさらには4よりも高い純度指数を有する。この純度指数は、Moonら(2014)によって記載される方法を用いた吸光度測定によって測定される。
【0093】
有利には、得られたフィコシアニンは、6よりも低い、有利には4よりも低い、好ましくは3よりも低い、より優先的には2.5よりも低い、さらにより優先的には1よりも低いグリコーゲン/フィコシアニン比(乾燥重量に基づく)を有するフィコシアニンである。
【0094】
本発明はまた、得られたフィコシアニンの着色料としての、特に食品着色料としての使用に関する。本発明はまた、本発明による抽出方法によって得られたフィコシアニンを含む固体または液体の食料、特に、飲料に関する。
【0095】
洗浄後に残留する固体残渣もまた回収される。これは、ヒトまたは動物消費のための食品サプリメントまたは食品の調製のためにも使用され得る、タンパク質に富んだバイオマス残渣である。
【0096】
特定の実施形態によれば、溶解されたバイオマスを洗浄することは、バイオマス懸濁物を5以下のpHに酸性化することを含む。フィコシアニン抽出後に得られた残留バイオマスは、乾物に基づいて少なくとも60%のタンパク質、および乾物に基づいて20%未満の総糖含量、および/または乾物に基づいて10%未満のグリコーゲン含量、および/または乾物に基づいて少なくとも5%の脂肪含量を含む。タンパク質が富化されたバイオマスを回収するための方法は、特に、2018年9月5日出願の特許出願FR1857950に記載されている。
【実施例】
【0097】
材料および方法
株
Cyanidium caldariumとも呼ばれるGaldieria sulphuraria UTEX#2919
【0098】
流加モードでの増殖条件
培養を、専用の液体ハンドラーおよびコンピューターステーションによる監視を備える、1~2Lの有効体積を有するバイオリアクター中で実施する。培養物のpHを、塩基(アンモニア溶液 14%NH3 w/w)および/または酸(4N硫酸溶液)を添加することによって調節する。培養温度を37℃に設定する。撹拌を、2つの撹拌スピンドル:スパージャー上の撹拌シャフトの下端に位置付けられた6枚の垂直羽を有する1つのRushtonタービン、および撹拌シャフト上に配置された1つのHTPG2三枚羽プロペラによって実施する。液相中の溶存酸素の圧力を、撹拌シャフトの回転速度(250~1800rpm)、空気および/または酸素の流れによって、培養の間中、培地中で調節する。監視自動装置中で統合された調節パラメーターは、温度、圧力および培地の組成の同一の条件で、空気による飽和値の5%と30%との間に含まれるように、液相中の溶存酸素の分圧を維持することを可能にする。培養時間は、50時間と300時間との間に含まれた。
【0099】
連続モードの培養条件
培養を、専用の液体ハンドラーおよびコンピューターステーションによる監視を備える、1~2Lの有効体積を有するリアクター中で実施する。培養物のpHを、塩基(アンモニア溶液 14%(w NH3/w)および/または酸(4N硫酸溶液)を添加することによって調節する。培養温度を37℃に設定する。撹拌を、2つの撹拌スピンドル:スパージャー上の撹拌シャフトの下端に位置付けられた6枚の垂直羽を有する1つのRushtonタービン、および撹拌シャフト上に配置された1つのHTPG2三枚羽プロペラによって実施する。液相中の溶存酸素の圧力を、撹拌シャフトの回転速度(250~1800rpm)、空気および/または酸素の流れによって、培養の間中、培地中で調節する。監視自動装置中で統合された調節パラメーターは、温度、圧力および培地の組成の同一の条件で、空気による飽和値の5%と30%との間に含まれるように、液相中の溶存酸素の分圧を維持することを可能にする。培養時間は、50時間と300時間との間であった。連続発酵槽の供給速度を、炭素源が培養培地中で検出されないように調整した。
【0100】
供給培地
流加モードまたは連続モードの供給培地のために、炭素源の量を、流加の終了時の標的乾燥重量、または連続培養については100g/Lの乾燥重量になるように調整する。培地の全ての他の要素を、実施例中に記載されるスターター培地に使用される割合で添加する。
【0101】
培養モニタリング
増殖を、乾燥質量を測定する(GF/Fフィルター、Whatmanを用いた濾過、次いで、計量前に、105℃で、最低24時間、オーブン中で乾燥させる)ことによってモニタリングする。
【0102】
ポルフィリンの測定
有機酸の測定を、H2SO4アイソクラチックモード(5mM)でのHPLC(Shimatsu)、およびRI(屈折率)検出によって実施した。
【0103】
PCの測定
乾物1グラム当たりのフィコシアニン含量の評価を、Moonおよび共同研究者[Moonら、Korean J.Chem.Eng.、2014、1~6]によって記載される方法を使用して、異なる培養時間で実施した。
【0104】
グリコーゲンの測定
乾物1グラム当たりのグリコーゲン含量の評価を、Martinez-Garciaおよび共同研究者[Martinez-Garciaら、Int J Biol Macromol.2016;89:12~8]によって記載される抽出方法を使用して、異なる培養時間で実施した。
【0105】
実施例1:グリセロールを用い、成熟期を伴う流加発酵
培養培地
スターター:30g/Lグリセロール、8g/L(NH4)2SO4、250mg/L KH2PO4、716mg/L MgSO4、44mg/L CaCl2,2H2O、0.2843849g/L K2SO4、0.07g/L FeSO4,7H2O、0.01236g/L Na2EDTA、0.00657g/L ZnSO4,7H2O、0.0004385g/L CoCl2,6H2O、0.00728g/L MnCl2,4H2O、0.005976g/L(NH4)6Mo7O24,4H2O、0.005976g/L CuSO4,5H2O、0.00016g/L NaVO3、0.01144g/L H3BO3、0.00068g/L Na2SeO3。
【0106】
【0107】
実施例2:グルコースを用い、成熟期を伴う流加発酵
培養培地
スターター:30g/Lグルコース、8g/L(NH4)2SO4、250mg/L KH2PO4、716mg/L MgSO4、44mg/L CaCl2,2H2O、0.2843849g/L K2SO4、0.07g/L FeSO4,7H2O、0.01236g/L Na2EDTA、0.00657g/L ZnSO4,7H2O、0.0004385g/L CoCl2,6H2O、0.00728g/L MnCl2,4H2O、0.005976g/L (NH4)6Mo7O24,4H2O、0.005976g/L CuSO4,5H2O、0.00016g/L NaVO3、0.01144g/L H3BO3、0.00068g/L Na2SeO3。
【0108】
【0109】
実施例3:スクロースを用い、成熟期を伴う流加発酵
培養培地
スターター:30g/Lスクロース、8g/L(NH4)2SO4、250mg/L KH2PO4、716mg/L MgSO4、44mg/L CaCl2,2H2O、0.2843849g/L K2SO4、0.07g/L FeSO4,7H2O、0.01236g/L Na2EDTA、0.00657g/L ZnSO4,7H2O、0.0004385g/L CoCl2,6H2O、0.00728g/L MnCl2,4H2O、0.005976g/L(NH4)6Mo7O24,4H2O、0.005976g/L CuSO4,5H2O、0.00016g/L NaVO3、0.01144g/L H3BO3、0.00068g/L Na2SeO3。
【0110】
【0111】
実施例4:ミルクパーミエートを用い、成熟期を伴う流加発酵
培養培地
スターター:30g/Lミルクパーミエート、8g/L(NH4)2SO4、716mg/L MgSO4、0.07g/L FeSO4,7H20、0.01236g/L Na2EDTA、0.00657g/L ZnSO4,7H2O、0.0004385g/L CoCl2,6H2O、0.00728g/L MnCl2,4H2O、0.005976g/L(NH4)6Mo7O24,4H2O、0.005976g/L CuSO4,5H2O、0.00016g/L NaVO3、0.01144g/L H3BO3、0.00068g/L Na2SeO3。
【0112】
【0113】
実施例5:グリセロールを用いたGaldieria株の連続培養
培養培地
スターター:スターター:30g/Lグリセロール、8g/L(NH4)2SO4、250mg/L KH2PO4、716mg/L MgSO4、44mg/L CaCl2,2H2O、0.2843849g/L K2SO4、0.07g/L FeSO4,7H20、0.01236g/L Na2EDTA、0.00657g/L ZnSO4,7H2O、0.0004385g/L CoCl2,6H2O、0.00728g/L MnCl2,4H2O、0.005976g/L(NH4)6Mo7O24,4H2O、0.005976g/L CuSO4,5H2O、0.00016g/L NaVO3、0.01144g/L H3BO3、0.00068g/L Na2SeO3。
【0114】
【0115】
実施例6:ミルクパーミエートを用いたGaldieria株の連続培養
培養培地
スターター:スターター:30g/Lミルクパーミエート、8g/L(NH4)2SO4、716mg/L MgSO4、0.2843849g/L K2SO4、0.07g/L FeSO4,7H2O、0.01236g/L Na2EDTA、0.00657g/L ZnSO4,7H2O、0.0004385g/L CoCl2,6H2O、0.00728g/L MnCl2,4H2O、0.005976g/L(NH4)6Mo7O24,4H2O、0.005976g/L CuSO4,5H2O、0.00016g/L NaVO3、0.01144g/L H3BO3、0.00068g/L Na2SeO3。
【0116】
【0117】
実施例7:バイオマスの冷却を伴わないHHPミリング
手順
連続培養から得られたバイオマスを、連続的遠心分離によって洗浄し、次いで、1.4×1010細胞/mLの濃度に濃縮する。次いで、1Lの体積のバイオマスを、16℃まで冷却し、その後、Bertoli Atomoホモジナイザーを用い、1200バールで、3回の連続的ホモジナイゼーションを、その間冷却を伴わずに、受けさせる。各パスについて、バイオマスの温度、Malassez細胞を用いた計数による細胞溶解、およびバイオマス中のフィコシアニンの濃度をモニタリングする。
【0118】
3回の連続的ホモジナイゼーションについての測定された粉砕温度は、それぞれ、46.7℃、57.6℃および67℃である。
【0119】
未溶解の細胞のパーセンテージおよびフィコシアニン含量は、
図12に与えられる。
【0120】
実施例8:バイオマスの冷却を伴うHHPミリング
手順
連続培養から得られたバイオマスを、連続的遠心分離によって洗浄し、次いで、2×1010細胞/mLの濃度に濃縮する。次いで、1Lの体積のバイオマスを、16℃まで冷却し、その後、Bertoli Atomoホモジナイザーを用い、1200バールで、3回の連続的ホモジナイゼーションを受けさせる。各ホモジナイゼーションの間に、バイオマスの温度を、16℃に戻す。同じ方法で、バイオマスの温度、Malassez細胞を用いた計数による細胞溶解、およびバイオマス中のフィコシアニンの濃度をモニタリングする。
【0121】
ミリング工程の開始時および終了時に測定したバイオマス温度は、以下の通りである。
【0122】
【0123】
未溶解の細胞のパーセンテージおよびフィコシアニン含量は、
図13に与えられる。
【0124】
粉砕されたバイオマスのpHが酸性になるほど、フィコシアニンが熱による分解に対して感受性になることも見出された。したがって、熱の放出が伴う場合、粉砕方法にかかわらず、バイオマスを粉砕する前に細胞のpHを5と7との間に調節することが好ましい。
【0125】
実施例9:バイオマス中のフィコシアニンの熱感受性
手順
連続培養から得られたバイオマスを、連続的遠心分離によって洗浄し、150mg/gの乾物に濃縮し、その後、色素の保護および90%の溶解率を可能にする条件下で、ボールミル(WAB、multilab)によって粉砕する。溶解物サンプルを、pH2.4~6に調節し、0から120分までの反応速度(kinetics)を、50~70℃の範囲の異なる温度で測定する。各時間について、フィコシアニンの定量化を実施する。
【0126】
【0127】
実施例10:粉砕および温度制御に対するビーズサイズの影響
手順
Galdieria sulphuraria細胞を、20000gで5分間遠心分離し、次いで、10mM Tris-Cl緩衝液(pH7)中に再懸濁する。2mLのSafelock Eppendorfチューブの体積の1/3の細胞アリコートを、上記懸濁物で充填し、別の1/3を、試験する直径を有するセラミックビーズ(Netzsch 0.8mm;0.6mm;0.3mm;Plus 0.2mm;Nano 0.2mm;Plus 0.1mm;および0.05mm)で充填する。チューブを、TissueLyser II装置(Qiagen)中に配置し、30Hzで2分間振盪する。溶解率を、ビーズを含まない対照チューブと比較して、Malassez細胞計数によって計算する。
【0128】
【0129】
ビーズの直径は、粉砕効率に大きく影響することが理解できる。ビーズ直径が減少するにつれて、溶解率は、0.2mmの直径を有するビーズについての最適条件に達するまで、増加する。この直径よりも下では、溶解効率は、0.05mmの直径を有するビーズについての最低率に達するまで、再度減少する。
【0130】
粉砕時間が増加する場合、100%に近い粉砕速度が、より大きいビーズで達成され得る。しかし、粉砕時間を増加させると、課されたボールミル供給速度では、粉砕チャンバー内の温度上昇をもたらす。この温度増加は、溶解されたバイオマスのフィコシアニン含量を犠牲にする。
【0131】
実施例11:粉砕速度に対するチャンバー充填率の影響
手順
細胞を、WAB社製のMultilabモデルボールミル中で粉砕する。粉砕チャンバーに、50%および65%で、直径0.8mmのセラミックビーズを充填する。65%の充填率は最大充填率である。粉砕モジュール速度および流速は、両方の場合において同一である。ミリング出口における溶解率を、未だミリングされていない投入バイオマスと比較し、Malassez細胞における計数によって計算する。
【0132】
チャンバーが、製造業者が推奨するその最大充填率、即ち65%にある場合、最良の溶解率が得られることが理解できる。充填率が65%よりも低い場合、溶解率は減少する。
【0133】
実施例12:粉砕速度および温度制御に対する細胞濃度の影響
手順
細胞を、WAB社製のMultilabモデルボールミル中で粉砕する。粉砕チャンバーに、65%の比率で、直径0.8mmのセラミックビーズを充填する。粉砕モジュール速度および流速は、全ての場合において同一である。ミリング出口における溶解率を、未だミリングされていない投入バイオマスと比較し、Malassez細胞計数によって計算する。
【0134】
同じ粉砕パラメーター(粉砕モジュール速度、供給速度、チャンバー充填率、ビーズ直径)について、得られた溶解率は、粉砕される産物中の細胞濃度(10%、20%または30%乾物のバイオマス)を問わず、等価であったことが理解できる。しかし、投入産物の乾燥質量が高くなるほど、ミルを離れる溶解物の温度が高くなることに留意すべきである。投入乾燥質量を増加させることによってミリング工程の生産性を増加させるために、溶解物温度を45℃未満に維持するように適応された冷却能を提供することもまた必要である。
【0135】
実施例13:産業的ボールミル上での流速の推定
材料および方法
株:Galdieria sulphuraria(Cyanidium caldariumとも呼ばれる)UTEX#2919
手順
細胞を、WAB社製のMultilabモデルボールミル中で粉砕する。粉砕チャンバー(600mL)に、65%の比率で、直径0.8mmのセラミックビーズを充填する。粉砕モジュールの速度および供給速度は、両方の場合において同一である。ミル出口における溶解率を、未だミリングされていない入口のバイオマスと比較し、Malassez細胞計数によって計算する。95~100%の粉砕速度のために、これらの条件下で適用される流速は、1時間当たり1リットルと2リットルとの間である。これらの流速の外挿は、実施例10で得られた結果を使用して行った。
【0136】
【0137】
参考文献
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