(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-05
(45)【発行日】2024-09-13
(54)【発明の名称】インクジェット3D印刷用チオール-エン印刷可能樹脂
(51)【国際特許分類】
B29C 64/112 20170101AFI20240906BHJP
C08L 81/00 20060101ALI20240906BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240906BHJP
C08G 18/67 20060101ALI20240906BHJP
C08G 18/87 20060101ALI20240906BHJP
C08G 75/045 20160101ALI20240906BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240906BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240906BHJP
【FI】
B29C64/112
C08L81/00
C08K5/00
C08G18/67
C08G18/87
C08G75/045
B33Y70/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2021546202
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2019056705
(87)【国際公開番号】W WO2020081791
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-06
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521165035
【氏名又は名称】インクビット, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】INKBIT, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】エリソン, グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ウェンチョウ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ヤン
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0291357(US,A1)
【文献】特開2017-210539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0376453(US,A1)
【文献】国際公開第2018/159758(WO,A1)
【文献】特開2016-020429(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0009932(US,A1)
【文献】特表2016-536434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
C08G 18/00 - 18/87
C08G 71/00 - 71/04
C08G 75/00 - 75/32
C08G 79/00 - 79/14
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
C09D 11/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D印刷に適した組成物であって、
3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)と、
下記の群から選択される一種又は複数種のアルケンモノマー:
【化1】
とを含む、組成物。
【請求項2】
前記アルケンモノマーは、
【化2】
からなる群から一種又は複数種選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アルケンモノマーは、
【化3】
である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記アルケンモノマーは、
【化4】
である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルケンモノマーは、
【化5】
である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記アルケンモノマーは、
【化6】
である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記アルケンモノマーは、
【化7】
である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルケンモノマーは、
【化8】
である請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
重合開始剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物からなる硬化物。
【請求項11】
紫外光または可視光の照射による硬化物である、請求項10に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月17日に出願された米国仮特許出願第62/746,730号明細書の利益を主張するものであり、当該明細書を参照によりここに援用する。
【0002】
本発明は、全体として、3Dインクジェット印刷に関し、より詳細には、3Dインクジェットプリンタに使用される印刷可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
付加製造は、材料を選択的に付加することによって物体の製作を可能にする一連の方法である。典型的な付加製造プロセスは、デジタル模型(例えば、光造形用ファイル(STL)を使用して記述される)を一連の層にスライスすることによって機能する。この層は、底面側から上面側に向かって層を1層ずつ堆積させる製作装置に送信される。付加製造は、自動車、航空宇宙産業、医療器具、医薬品、及び産業用工作機械(industrial tooling)を含む幅広い市場で急速に人気が高まっている。
【0004】
付加製造プロセスが成長したことにより、この種のプロセスが、熱溶融積層法(登録商標)(FDM(登録商標))等の押出方式、光造形法(SLA)及びマルチジェット(multijet)/ポリジェット(polyjet)等の光重合方式、選択的レーザー焼結(SLS)又は結合剤噴射等の粉末床溶融方式、並びに薄膜積層法(LOM)等の積層方式を含む様々な形で商業化された。しかしながら、こうした成長及び急速な進展にも拘らず、付加製造には、この種のプロセスと併用することができる材料等に制限がある。材料の種類は限られており、また、材料の性能によって、結果として得られる物体の有効性及び品質が制限される。
【0005】
インクジェット3D印刷は、印刷ヘッドが液状の印刷可能樹脂の液滴を堆積させる、付加製造の一方法である。印刷ヘッドは、通常、ガントリー機構に装着されており、それにより、最大造形容積(build volume)内の異なる位置に印刷可能樹脂を堆積させることが可能になる。また、静止していてもよい印刷ヘッドに対し、造型プラットフォームを移動させることもできる。液状の印刷可能樹脂は、UV又は可視光を照射することにより硬化する。
【0006】
複数種の基本材料を含む物体を造形するために、1つの系内で複数の印刷ヘッドを使用することができる。例えば、光学的、機械的、熱的、及び電磁気的性質が異なる材料を使用することができる。これらの材料を組み合わせて幅広い性質を有する複合材料を得ることができる。
【0007】
UV硬化装置は、インクジェットを用いた付加製造装置の典型的な部分的機構の1つである。UV照射は、重合反応を光開始することにより印刷可能樹脂を固化させる手段を提供する。UV照射はLEDアレイ及び水銀又はキセノンアークランプ等の様々な異なる機構を用いて供給することができる。UV硬化は、通常、各層を印刷する度に、又は層内の各材料を堆積させた後に適用される。UV硬化装置はプリンタに対し固定することができ、又は物体に対し独立に移動させることができる。
【0008】
別法として、印刷可能樹脂の固化は、熱的条件を変化させることにより達成することができる。例えば、液体材料は、温度が低下するに従い固化する。この種類に含まれる様々な異なる印刷可能樹脂、例えばロウを使用することができる。UVにより相変化する印刷可能樹脂及び熱により相変化する印刷可能樹脂を組み合わせて物体を製造することもできる。
【0009】
インクジェット方式を用いて製造を行う場合、3D印刷される物体に構造支持体が必要となる場合がある。例えば、オーバーハングを有する殆どの物体は支持構造を必要とする。通常、これらの支持構造用として追加の印刷データが生成される。インクジェットによる付加製造においては、通常、支持材料として別個の印刷可能樹脂が指定される。この印刷可能樹脂も同様に印刷ヘッドを用いて堆積され、固化される。支持材料は、印刷完了後に容易に取り除くことができることが望ましい。水若しくは他の溶媒に可溶なUV硬化性材料、又は溶融させて除去することができるロウをベースとする材料等、可能性のある支持材料は多くある。
【0010】
印刷プロセスが完了したら、通常、部品は後処理に付される。例えば、支持材料を除去することが必要な場合もある。部品の機械的又は熱的性質を向上するための後処理が必要なこともある。これは、熱処理及び/又は追加のUV曝露を含み得る。
【0011】
インクジェット印刷に適した印刷可能樹脂は特定の要求値を満たす必要がある。重要な要件として、次に示すものが挙げられる:1)粘度は、通常、運転条件下で3~15cpsの範囲内となる必要がある;2)表面張力は、通常、20~45mN/mの間となるべきである;3)熱的安定性に関しては、印刷可能樹脂は、印刷ヘッド、印刷可能樹脂容器、又は供給系内で固化すべきではない;4)配合物の安定性については、印刷可能樹脂の異なる成分は妥当な長い時間に亘り分離すべきではない。印刷可能樹脂は、通常、印刷を行うための要求値を満たすように最適化される。
【0012】
更に、印刷ヘッドを駆動するための波形を最適化し、それぞれの印刷可能樹脂に適合させなければならない。更に、印刷プロセスの多くの異なるパラメータ、例えば、印刷ヘッド及び印刷可能樹脂の予備加熱を、個々の印刷可能樹脂に適合させることが必要である。
【0013】
多くの場合、印刷可能樹脂は添加剤を含むことができる。これらの添加剤としては、印刷可能樹脂中に分散又は溶解した染料、又は顔料、又は顔料及び染料の混合物の形態にある着色剤が挙げられる。界面活性剤はまた、ジェット吐出性能又は印刷性能を向上することを目的として、印刷可能樹脂の表面張力を調整するために使用することもできる。更に、硬化した樹脂の機械的、熱的、又は光学的特徴を向上させるために、他の種類の粒子又は添加剤を使用することもできる。
【0014】
利用可能な最新のインクジェット3Dプリンタ用光硬化性印刷可能樹脂は、(メタ)アクリレートの化学的性質に基づくものである。(メタ)アクリレートは、幅広いモノマー及びオリゴマーが入手可能であり、安価であり、且つ硬化速度が速いことから、広く普及している。軟質エラストマーから硬質で脆い材料まで多岐に亘る樹脂がこの用途に利用可能である。しかしながら、アクリレート系材料は、高剛性、耐熱性、又は寸法安定性が要求される用途には適していないことが多い。
【0015】
アクリル系光硬化型樹脂はラジカルを媒介とする連鎖成長機構を介して硬化する。そのため、アクリル系光硬化型樹脂は、低い硬化度でゲル化することになる。完全硬化に到達させることは難しく、硬化度が高くなるに従い顕著な収縮及び反りが生じる。このことは、伸長性の高い材料を得るために必要な、官能基価がより低いアクリル系モノマーを使用した場合は、一層深刻になる。強靭な弾性材料を作製するために、アクリレート官能基を有する高分子量オリゴマーを使用することができるが、その代償として、未硬化樹脂の粘度が大幅に上昇する。つまり、3D印刷システムで加工することができ、それでも依然として、非常に高い転化率で硬化して強靭且つ非常に伸長性の高い材料となるアクリル系光硬化型樹脂を配合することは、非常に難易度が高い。
【0016】
チオール-エンの化学反応は、チオールが不飽和炭素-炭素結合に付加する、よく知られている反応スキームである。この反応は、歯科用セメントや埋め込み型医療器具等の用途に使用される光硬化型樹脂を開発するために用いられてきた。重合は、ラジカル条件又は塩基性条件下で起こり得るが、ラジカル反応は速度が数桁速い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
容易に入手可能なアリルモノマーよりも高い強度を有する印刷可能材料が必要とされている。本発明はこの要求に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
チオール-エンはよく知られているが、様々な理由から、ジェット吐出インクにおける使用は知られていない。チオール-エン樹脂は逐次重合機構を介して硬化し、アクリル系光硬化型樹脂よりも酸素阻害に対する感度が非常に低い。この逐次重合は、連鎖成長反応と比較して、ゲル化点の到達を遅らせる。酸素に対する感受性がより低いことと相俟って、チオール-エン光硬化型樹脂は、アクリル系光硬化型樹脂と比較して、高い転化率で硬化する一方で、収縮及び反りが非常に小さい。それにより、ポリマーの架橋密度もより精密に制御され、低粘度で高い伸長性及び弾性を有する樹脂を得ることが可能になる。しかしながら、チオール-エンをベースとする材料を、アクリル系光硬化型樹脂等の、より一般的な3Dインクジェットプリンタ用光硬化型印刷可能樹脂と単に置き換えるだけでは、3Dプリンタ用として有用なジェット吐出インクは得られないのが普通であろう。インクジェット印刷用チオール-エン樹脂には、他の光硬化型樹脂を用いる3D印刷方法よりも低い粘度が必要とされるため、特定の組成を慎重に配合すること及びその反応特性によって初めて、UVインクジェット3D印刷空間に好適且つ有用なチオール-エン樹脂が認識されるであろう。
【0019】
印刷可能樹脂の3D堆積に使用するのに適した市販のチオール及びアルケンモノマー及びオリゴマーには様々なものがある。チオールモノマーの主要な供給業者の1つがBruno Bock Thiochemicals(Eicholzer ストリート 23,21436 Marschacht,Germany)であり、幅広いチオール官能性材料を製造している。光硬化型樹脂に有用なモノマーの例は、グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)[GDMP]、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)[TMPMP]、及びペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)[PETMP]である。他のモノマー、例えば、Arkema Inc.(900 First Avenue,King of Prussia,PA,USA)製の3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール[DODT]もモノマーとして適している。これらのモノマーにかかるコストはアクリル系モノマー及びオリゴマーの価格と競合できる。
【0020】
チオールと重合させることができる好適なアルケンモノマーには、例えば、アクリレート、ビニル化合物、アリル化合物、及びノルボルネン等、多くの種類がある。重合動力学、安定性、及び特性は、樹脂中に使用されるアルケンモノマーの具体的な種類に基づき幅広く変化する。一般に、混合樹脂の安定性はアルケンの電子不足と反比例する。ビニル化合物等の高度に電子不足なアルケンは、チオールと一緒に用いると、より電子過剰なアリルモノマーよりも安定性が低くなる。ポリマーの均一性についても同様の関連性がある。それは、電子不足のアルケンは、チオールと化学量論的に反応するのではなく、硬化時に単独重合する傾向がより高くなるためである。したがって、チオールと一緒に用いる場合、アリル官能性モノマーはより高い安定性を示す傾向にあり、それと同時に、高い反応速度及び硬化の均質性を維持する。ホスホン酸及びラジカル阻害剤を用いて安定化させた樹脂は、アクリル系樹脂と同程度のポットライフを有することができる。
【0021】
3Dインクジェット配合物、即ち、長期間安定であり、粘度が比較的低く、且つ望ましい重合様式で重合する組成物が得られるように組成物の材料を慎重に選択することによって、3D印刷に適したインクを得ることができる。更に、エラストマー材料は、一般に、3D印刷には使用されてこなかった。しかしながら、米国特許第10,456,984号明細書及び米国特許出願公開第2016/0167306号明細書(両者を参照によりここに援用する)に記載されているもの等のフィードバック手法には、上に述べた特性が望ましい場合もあり、こうした特性によって達成可能となる場合もある。
【0022】
本発明の一態様は、3D印刷に好適な組成物である。一実施形態において、組成物は、1種又は複数種のチオールモノマー、1種又は複数種のアルケンモノマーを含む光硬化型樹脂と、重合開始剤と、を含む。他の実施形態において、チオールモノマーは:グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)[GDMP];トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)[TMPMP];ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)[PETMP]、及び3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール[DODT]からなる群から選択される。更なる他の実施形態において、アルケンモノマーは:イソシアネート部分及びヒドロキシル又はアミン官能性アリル部分から合成された、アリル官能性ウレタン/尿素モノマーを含む。更なる他の実施形態において、ヒドロキシル又はアミン官能性アリル部分は、2-アリルオキシエタノール、アリルアルコール、及びアリルアミンを含む。更なる他の実施形態において、イソシアネート部分は:イソホロンジイソシアネート(IDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、及びジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(HMDI)からなる群から選択される。
【0023】
本発明の構造及び機能は、添付の図面を併用することにより、本明細書の記載から最も良く理解することができる。図面は必ずしも縮尺通りに描かれておらず、概して例示を原則として強調されている。図面は全ての態様において例示的なものと見なすべきであり、本発明を制限することを意図しておらず、その範囲は特許請求の範囲によってのみ定義される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】イソホロンジイソシアネートのジ(2-アリルオキシエチルカルバメート)エステルの合成反応を図示したものである。
【
図2】市販のアリルモノマー及び合成されたアリルウレタンモノマーを用いて生成したチオール-エン印刷可能樹脂の引張応力-歪み挙動のグラフである。
【
図3】様々な合成アリルウレタンモノマーの粘度-温度特性のグラフである。
【
図4】アリルウレタンモノマーを利用したチオール-エン印刷可能樹脂の70℃における粘度の18時間に亘るグラフである。
【
図5A】アリルウレタン/尿素モノマーの好ましい実施形態を図示したものである。HDI及びTMHDIを、アリルオキシエタノール、アリルアルコール、又はアリルアミンと反応させたものである。
【
図5B】アリルウレタン/尿素モノマーの好ましい実施形態を図示したものである。HDI及びTMHDIを、アリルオキシエタノール、アリルアルコール、又はアリルアミンと反応させたものである。
【
図5C】アリルウレタン/尿素モノマーの好ましい実施形態を図示したものである。HDI及びTMHDIを、アリルオキシエタノール、アリルアルコール、又はアリルアミンと反応させたものである。
【
図5D】アリルウレタン/尿素モノマーの好ましい実施形態を図示したものである。HDI及びTMHDIを、アリルオキシエタノール、アリルアルコール、又はアリルアミンと反応させたものである。
【
図5E】アリルウレタン/尿素モノマーの好ましい実施形態を図示したものである。HDI及びTMHDIを、アリルオキシエタノール、アリルアルコール、又はアリルアミンと反応させたものである。
【
図5F】アリルウレタン/尿素モノマーの好ましい実施形態を図示したものである。HDI及びTMHDIを、アリルオキシエタノール、アリルアルコール、又はアリルアミンと反応させたものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
概して、本発明は、硬化後に高い強度を示すアリルウレタンを含む新規な3D印刷可能材料の組成物に関する。
【0026】
以下により詳細に説明するように、基本的に2種の官能基を有するように組成物を配合し、その結果として、連鎖延長剤として作用する材料を得た(この材料を架橋するために少量の三官能性モノマーを添加した)。こうすることにより、この材料の高分子鎖はより長くなり、他の高分子鎖と結合しない。この特徴は、より高い剛性を有することよりも寧ろ、より高い伸長性を有することが所望されるエラストマー材料に特に重要である。この種の組成物により、粘度が比較的低く、望ましい重合特性を有し、硬化特性がより良好であり、且つより長い期間に亘り向上した安定性を示す材料が得られるであろう。
【0027】
ウレタン結合はプロトン供与体及び受容体の両方を含むため、水素結合の度合いが高くなる。アクリル系光硬化型樹脂にウレタン結合を組み込むことは、硬化後の樹脂内の水素結合の度合いを増加させることにより強靭性を向上させる手法である。したがって、ウレタン結合を含むモノマー又はオリゴマーを合成することが、チオール-エン光硬化型樹脂の強靭性を高める方法の1つとなる。
【0028】
一実施形態において、アリル官能性ウレタンモノマーは、化学量論的に均衡した、二官能性イソシアネートモノマー(これらに限定されるものではないが、イソホロンジイソシアネート(IDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(HMDI)、又はN,N’,N”-トリス(6-イソシアナトヘキシル)イソシアヌレート等)と、ヒドロキシル又はアミン官能性アリルモノマー(これらに限定されるものではないが、2-アリルオキシエタノール、アリルアルコール、アリルアミン等)とを、好適な触媒(これらに限定されるものではないが、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)等)の存在下又は非存在下において反応させることにより合成される。この反応は加熱により加速させることができるが、温度が70℃を超えると望ましくない副生成物が生成するリスクが生じる。IDIと2-アリルオキシエタノールとの代表的な反応生成物を
図1に示す。
【0029】
この種のアリルウレタンは、市販のアリルモノマー及びオリゴマーを用いて作製された印刷可能樹脂と比較して、チオール-エン樹脂の引張強さ及び破断伸度(maximum elongation without breaking)を大幅に改善することが示される。市販のアリルモノマー及び上に示した通りに合成したアリルウレタンモノマーを含む硬化後のチオール-エン樹脂の一軸引張試験を
図2に示す。アリルウレタン材料の引張強さは市販のアリル材料と比較して約10倍高く、伸びは5倍高い。
【0030】
インクジェット印刷に使用される印刷可能樹脂は、粘度が特定の要求値を満たすことが必要である。印刷可能樹脂の粘度は、合成されたアリルモノマーの配合及び構造に大きく依存する。未硬化のアリルモノマーの粘度の温度依存性を
図3に示す。粘度は、モノマーの立体障害が小さくなるに従い低下するが、障害が小さ過ぎるモノマーは低温で結晶化しやすい。これまでに粘度が測定されたモノマーで30cP未満の粘度を示すものは存在しなかったが、チオール及び/又はアルケンモノマーと混合することにより、ジェット吐出可能な範囲の粘度を有する樹脂を得ることは可能である。粘度が70℃で10cPの範囲にあるTMHDI-DAを含む印刷可能樹脂の実施形態を
図4に示す。粘度は70℃で1日間に亘りこの範囲を維持する。
【0031】
3種の異なるアルコール官能性又はアミン官能性アリルモノマーと反応させた、イソシアネート官能性モノマーであるトリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)の粘度測定値を次の表1に示す。
【0032】
【0033】
トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)に替えてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を用いた同種の付加物は固体であり、印刷を行うためには十分に加熱された供給系が必要となるであろう。
【0034】
表2に、グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)(GDMP)、トリメチルヘキサメチレンジ(2-アリルオキシエチルカルバメート)(TMHDI-DA)、トリメチロールプロパンジアリルエーテル(TMPDAE)、及びトリアリルシアヌレート(TAC)を含む印刷可能樹脂の組成物の実施形態を示す。
【0035】
【0036】
表3に、表2に示すグリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)(GDMP)、トリメチルヘキサメチレンジ(2-アリルオキシエチルカルバメート)(TMHDI-DA)、トリメチロールプロパンジアリルエーテル(TMPDAE)、及びトリアリルシアヌレート(TAC)を含む印刷可能樹脂の組成物の、機械特性、適用可能な規格、及び実施した測定の一覧を示す。
【0037】
【0038】
表4に、TMHDI-アリルアルコール付加物を用いたチオール-エンエラストマーを含む印刷可能樹脂の組成物の実施形態を示す。
【0039】
【0040】
表5に、表4に示すTMHDI-アリルアルコール付加物を用いたチオール-エンエラストマーの印刷可能樹脂の組成物の、機械特性、適用可能な規格、及び実施した測定の一覧を示す。
【0041】
【0042】
開示される組成物は、現行の先行技術と比較して多くの利点、例えば:(1)引張強さの向上、(2)破断伸度の向上、(3)酸素阻害の受けにくさ、(4)収縮及び反りの低さ、並びに(5)高いモノマー転化率、を有する。これらの特性は、3D印刷された機能性部品、特に、医療用途に使用するための材料を考えた場合、非常に望ましい。
【0043】
図5A~5Fを参照すると、光硬化型樹脂が:グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)[GDMP];トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)[TMPMP];ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)[PETMP]、及び3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール[DODT]からなる群から選択されるチオールモノマーを含む他の実施形態が可能である。更に、他の実施形態において、アリル官能性ウレタンモノマーは:イソホロンジイソシアネート(IDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、及びジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(HMDI)からなる群から選択される二官能性イソシアネートモノマーと、2-アリルオキシエタノール、アリルアルコール、及びアリルアミンからなる群から選択されるヒドロキシル又はアミン官能性アリルモノマーと、から合成される。
【0044】
多くの実施について説明してきた。それでも尚、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な修正が可能であることが理解されるであろう。例えば、上に示した材料の様々な形態を、ステップの順序を再編成し、追加し、又は除いて使用することができる。したがって、後述の特許請求の範囲内の他の実施も可能である。
【0045】
本明細書に示す実施例は、本開示の可能性のある具体的な実施を例示することを意図している。実施例は、主として、本発明を当業者に説明する目的を意図している。実施例の1つ又は複数の特定の態様は、必ずしも本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0046】
図面及び本発明の説明は、本発明を明確に理解することに関わる構成要素を説明するために簡素化しており、その一方で、他の構成要素は、明確化を目的として除いている。しかしながら当業者は、この種の集中的な議論は本開示をより良好に理解することの助けにならないことを認識することができ、したがって、この種の構成要素のより詳細な説明は本明細書において提供しない。
【0047】
特段の指定がない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用する長さ、幅、深さ、又は他の寸法等を表す全ての数は、全ての例において、提示された通りの正確な値及び「約」という語で修飾された値の両方を示すことを理解されたい。本明細書において用いられる「約」という語は、公称値から±10%の変動があることを指す。したがって、そうでないことが指示されていない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載する数値パラメータは、取得しようとしている所望の性状に応じて変化し得る近似値である。最低でも、各数値パラメータの解釈は、少なくとも、報告されている有効桁数に照らし、通常の丸め法を適用することにより行うべきであるが、これは特許請求の範囲への均等論の適用を制限することを意図するものではない。特定の値が20%変動することもある。
【0048】
本発明は、その趣旨又は必須の特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具体化することもできる。したがって上述の実施形態は、あらゆる点において、本明細書に記載する本発明を制限するものではなく、例示的なものであると見なすべきである。したがって本発明の範囲は、上述の記載ではなく、添付の特許請求の範囲によって表され、特許請求の範囲と均等な意味及び範囲内にあるあらゆる変更は、その中に包含されることが意図されている。
【0049】
当業者は、ここに記載した技術の範囲から逸脱することなく様々な修正及び変更が可能であることを理解するであろう。そのような修正及び変更は、記載した実施形態の範囲に包含されることが意図されている。また、一実施形態に包含される特徴は、他の実施形態と交換可能であること;及び、ここに述べたある実施形態からの1つ又は複数の特徴は、他に述べられた実施形態と任意の組合せで包含することができることを当業者は理解するであろう。